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JP5452017B2 - 新規チオラン化合物およびその用途 - Google Patents
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Description

本発明は、ネギ香を有する新規チオラン化合物に関する。また本発明は、当該チオラン化合物の用途、特に香料など、主として食品添加物としての用途を提供する。
従来から、飲食物に嗜好性の高い、または、食欲をそそる風味を与えるネギ香料についての種々検討がなされている。なかでも、西洋料理や和風料理、または香ばしい香りのスナック菓子等に用いることができる香りが求められている。具体的にはタマネギ、ネギ、アサツキ、またはニンニクなどのネギ類野菜特有のネギ香を有する香料が求められている。香り付けに広く用いられるためには、新鮮な香りを保有することが必要であり、逆に、ネギ類野菜特有のしつこさや違和感を与える強い匂い、および酸味や収れん味などの呈味は不要である。
従来、ネギ類野菜から見出された香気成分(例えば、スルフィド類)は、水蒸気蒸留方法、有機溶剤抽出方法、または合成法によって得られている(例えば、非特許文献1参照)。これらの香気成分を含む香料の食品への添加濃度は、香料全体(製剤)としておよそ1,000ppmを目安とし、スルフィド類の添加濃度が、中華料理や西洋料理については10ppm〜16ppm、スナック菓子等には2〜3ppmの範囲になるように使用されている(例えば、非特許文献2参照)。
ネギ類野菜の香気成分は、S-1-プロペニルシステインスルフォキシドを出発物質とし、アリイナーゼによる酵素反応で生成する成分であることが知られている(例えば、非特許文献3〜4参照)。
また、S-1-プロペニルシステインスルフォキシドにアリイナーゼを作用させた分解物である1−プロペニルスルフェン酸を経由して催涙性物質が発生することが報告されている(たとえば、非特許文献5参照)。最近の研究では、タマネギ特有の香りを保持強調するために、S-1-プロペニルシステインスルフォキシドにアリイナーゼを作用させて生成したスルフェン酸を異性化し、催涙性成分を生成させる新規の酵素が報告されている(例えば、特許文献1参照)。また、遺伝子工学的手法により、この催涙性物質を得る方法も報告されている(例えば、特許文献2参照)。一方、遺伝子工学的手法により、催涙性成分を含まない成分を得る方法も報告されている(例えば、特許文献3参照)。
催涙成分またはその中間体となる香気成分、または当該香気成分が変化して生成されるチオスルフィネート、ビススルフィン(bissulfine)、ツバイベラン(zweibelane)およびセパエン類の香りの閾値は0.1〜0.5ppm付近であり、加熱することでより濃厚な甘い香りに変化することから、加熱フレーバーとして知られている(例えば、非特許文献6〜7参照)。
タマネギなどのネギ科の植物には、スルフィド類、メルカプタン、チオール、ジチオラン、チオフェンなどの香りを発する含硫化合物が含まれているが、主にジプロピルやプロピルプロペニルジスルフィドがタマネギの特有香の主成分であり、3,4-ジメチルチオフェンが調理タマネギの香りや辛味に寄与していると報告されている(たとえば、非特許文献8参照)。
また、生のタマネギの香気成分については、ヘッドスペース法とGC-MS等を組み合わせることによって従来から広く研究され、数多くのスルフィド類が報告されている。しかしながら、これらのスルフィド類は、前駆体であるチオスルフィネートがガスクロマトグラフィー中で分解して生成する二次産物で、タマネギの代表的な香気成分はチオスルフィネートであることがBlockらによって報告されている(例えば、非特許文献9〜10参照)。
その他、タマネギなどから抽出される含硫化合物として、チオスルフィネート、アホエン、ジチインなどの化合物が報告されている(たとえば、非特許文献11参照)。しかし、これらの香気成分は、ネギ科植物であるタマネギに由来する成分でありながら、ネギ科植物固有の香り(ネギ香)を有していない。
特許第3330305号公報 特許第4053878号公報 WO2003/074707号公報 日本香料工業会編:天然香料基原物質の解説,食品化学新聞社,p.276(1999) 特許庁公報;周知・慣用技術集(平成12(2000)年1月14日発行 SpareC.G. and Virtanen, A.I., Acta.Chem. Scand,,17,641, 1963 Virtanen, A.I., et al. Suom. Kemistil., B. 34.72,1961 Block,E., et al., J.Am.Chem.Soc., 11, 2200, 1979 日本香料協会、季刊No.216, pp112, 平成14(2002)年12月発行 Boelens, et al; J. Agric. Food Chem., 19(3), 984-991 (1971) T.V.MIKHAILOVA, A.I.GREN, L.E.VYSOTSKAJA, T.A.MISHARINA, S.V.TVITT and R.V.GOLOVYNYA, Die Nahrung, 29, 7, 671-680(1985) E. Block, S. Naganathan, et al., J. Agric.Food Chem., 40, 2418(1992) E. Block, D. Putman, et al., J. Agric. Food Chem., 40, 2431(1992) B.TOKARSKA and K.KARAWOWSKA, Nahrung, 27, 5, 443-447(1983)
本発明は、ネギ科植物の独特な香り(ネギ香)のうち、特にフレッシュ感を伴った香りを有する新規チオラン化合物を提供することを目的とする。また本発明は当該化合物を有効成分とする香料組成物、及び当該香料組成物を用いることによって調製されるネギ野菜風味を有する飲食品を提供することを目的とする。
発明者らは、上記課題を解決すべく、天然物から有効成分を探索していたところ、ネギ科植物のタマネギ(Allium cepa LINNE)の鱗茎(可食部)から、下式で示される化合物:
Figure 0005452017
を見出し、当該化合物が文献未報告の新規な含硫化合物であり、その特性についても、これまで全く報告されていない化合物であることを見出した。また、当該化合物は、従来の異味あるタマネギ特有のスルフィド類の香りではなく、ネギ科植物特有の甘い香り、並びにタマネギをカットしたときに生じるフレッシュな香りを有しており、香料として、特にネギ科野菜特有の香りを向上させ、良好な風味を有するための食用香料として、野菜加工品や飲食品に利用できることを確認した。
すなわち、本発明は以下の態様を有する新規化合物、およびその応用に関する。
I.新規チオラン化合物
(I-1)下式で示されるチオラン化合物:
Figure 0005452017
(I-2)5-ヒドロキシ-3,4-ジメチル-2-[(E)-1-プロペニルスルフィニル]スルファニルチオランである、(I-1)記載のチオラン化合物。
(I-3)2R, 3S, 4S, 5R体である、(I-1)または(I-2)に記載するチオラン化合物。
II.香料組成物
(II-1)単離された(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載するチオラン化合物を含有する香料組成物。
(II-2)単離された(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載するチオラン化合物を、ネギ香を有する唯一の香料成分として含む(II-1)に記載する香料組成物。
(II-3)単離された(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載するチオラン化合物を、唯一の含硫化合物として含む(II-1)または(II-2)に記載する香料組成物。
III.付香製品およびその調製方法
(III-1)(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載するチオラン化合物、または(II-1)乃至(II-3)のいずれかに記載する香料組成物を、外添して調製される付香製品。
(III-2)新鮮なネギ風味を有するか、または新鮮なネギ風味が増強されてなる、(III-1)に記載する付香製品。
(III-3)付香製品が飲食品である、(III-1)または(III-2)に記載する付香製品。
(III-4)対象製品に、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載するチオラン化合物、または(II-1)乃至(II-3)のいずれかに記載する香料組成物を外添する工程を有する、新鮮なネギ風味を有するか又は新鮮なネギ風味が増強されてなる付香製品の製造方法。
IV.ネギ風味の付与方法、増強方法
(IV-1)対象製品に、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載するチオラン化合物、または(II-1)乃至(II-3)のいずれかに記載する香料組成物を外添することを特徴とする、対象製品に対して新鮮なネギ風味を付与するか、又は飲食品のネギ風味を増強する方法。
(IV-2)付香製品が飲食品である、(IV-1)に記載する方法。
I.新規チオラン化合物
本発明が提供する下式で示されるチオラン化合物:
Figure 0005452017
すなわち、5-ヒドロキシ-3,4-ジメチル-2-[(E)-1-プロペニルスルフィニル]スルファニルチオランは、これまで報告されていない文献未収載の新規化合物(以下、「セパチオラン」という)である。
本発明のセパチオランは、好ましくは下式で示される2R, 3S, 4S, 5R-セパチオランである。
Figure 0005452017
当該セパチオランの理化学的性質は、実施例2に記載する通りである、また当該セパチオランは実施例7に記載するように、1ppbの濃度で甘いストロベリー様のフルーツ感のある香りを発揮し、10ppb以上の濃度でネギやタマネギなどのネギ科植物をカットしたときに感知されるフレッシュな特徴香を発揮するという香り特性を備えている。この意味で、セパチオランがネギ香を発揮する閾値は10ppbということができる。また、セパチオランはタマネギなどのネギ科植物特有の刺激臭や催涙性などといった刺激性がないという特性を備えている。
セパチオランは、実施例10に示すように、ネギ科植物に含まれるスルフィド類に由来する異味ある香り(好き嫌いや良し悪しのある香り)とは異なって、万人に広く受け入れられる嗜好性の高いネギ香気成分として有用であり、飲食物にネギ風味を付与したり、飲食物のネギ風味を向上させるための香料成分として好適に使用することができる。
本発明にかかるセパチオランは、実施例1に詳細するように、タマネギ磨砕物からヘキサン、酢酸エチル、アセトンなどの非水系の有機溶媒を用いて抽出あるいは蒸留して得られる精油成分から、カラムクロマトグラフィーなどを用いた精製工程を経ることによって調製することができる。
なお、タマネギ以外にも、同様にネギ科植物であるにんにく、リーキ、ラッキョウ、ニラ、アサギ、およびワケギや、ユリ科植物であるユリ、アマドコロ、アマナ、エンレイソウ、オモト、カタクリ、キダチアロエ、コバイケイソウ、コヤブラン、ジャノヒゲ、スズラン、バイケイソウ、ハナスゲ、およびイヌサフランなどの植物を用い、実施例1に記載する方法を参考にして、調製することもできる。また、本発明のセパチオランは、1-プロペニルスルフェン酸を出発原料にして生成する物質であるため、1-プロペニルスルフェン酸を植物生理学的に生成する植物も、上記ネギ科植物やユリ科植物も同様にセパチオランの調製に使用することができる。かかる植物としては、レタス、サラダ菜、キャベツ、白菜、セロリ、ダイコンなどのアブラナ科植物を挙げることができる(E.Block, S.Naganathan, D. Putman and S-H. Zhao, Allium Chemistry, J.Agric. Food Chem., 40, 2418-2430(1992))。
また本発明にかかるセパチオランは、上記植物から抽出単離して調製されるほか、その構造式や実施例3の記載に従って化学的に合成することもできる。
II.香料組成物
本発明にかかる香料組成物は、前述するようにネギ科植物等から単離されたセパチオランを含有するか、または合成されたセパチオランを含有することを特徴とする。好ましい香料組成物は、上記セパチオランを、ネギ香を有する唯一の香料成分として含む香料組成物である。また好ましくは、上記セパチオランを、唯一の含硫化合物として含むことを特徴とする香料組成物である。
前述するようにセパチオランは、1ppbの濃度で甘いストロベリー様のフルーツ感のある香りを発揮し、10ppb以上の濃度でネギやタマネギなどのネギ科植物をカットしたときに感知されるフレッシュな特徴香を発揮する。
このため本発明に係る香料組成物は、飲食品など、香りを付与する対象の製品(以下、「対象製品」という)に対して、最終製品(香りを付けた製品、以下「付香製品」という)中のセパチオランの濃度が10-3〜104ppm、好ましくは10-2〜103ppm、より好ましくは10-1〜102ppmの範囲になるように用いることができる。なお、本発明の香料組成物は、付香製品に添加した場合に当該付香製品中のセパチオラン濃度が上記の範囲になるようにセパチオランを含むものであればよく、その濃度を特に制限するものではないが、セパチオランの濃度として、10-3〜104ppm、好ましくは10-2〜103ppm、より好ましくは10-1〜102ppmの範囲とするには、香料の濃度はそれぞれ10-2〜105ppm、好ましくは10-1〜104ppmppm、より好ましくは1〜103ppmを例示することができる。
また実施例5および6に示すように、セパチオランのアセチル化物やエステル化物も、セパチオランと同様にフレッシュなネギ香を備えている。よって、本発明の香料組成物には、セパチオランと組み合わせて、かかるアセチル化セパチオランまたは/およびエステル化セパチオランを含むことができる。
本発明に係る香料組成物は、セパチオランを、ネギ香を有する唯一の香料成分として含むものであるか、またはセパチオランを、唯一の含硫化合物として含むものである。この限りにおいて、他の香気成分を含有していてもよいし、また含硫化合物以外の化合物を含んでいてもよい。
当該香料組成物は、固形状、半固形状、分散液状、乳液状、または溶液状の形態を有することができる。好ましくは分散液状、乳液状または溶液状である。
溶液の調製は、少なくともセパチオランをエタノール等の低級アルコールまたはプロピレングリコール等のグリコール類に溶解することによって行うことができる。
たとえば、乳液状の製剤の場合、ガティガム17gとアラビアガム15gを水630gに溶解し、予めガティガム・アラビアガム混合水溶液を調製し、これにセパチオランと中鎖トリグリセライド(オクタン酸・デカン酸トリグリセリド)130gを室温でよく混合し、調製した混合水溶液を添加し、攪拌混合する。これをホモジナイザーで乳化(圧力4.4MPa)し、乳化香料製剤を調製し、乳液状の製剤を得る方法、ここで得られた乳液を凍結乾燥(-40℃、0.1mmHg減圧状態で凍結し、真空乾燥後常圧に戻した後に粉砕)して粉末状態の製剤を得る方法など、方法は任意に設定することができる。
かかる本発明の香料組成物は、好適には飲食品などの対象製品に添加して用いることができ、斯くして、セパチオランの香り特性に基づいて、タマネギなどのネギ科植物をカットしたときに生じるフレッシュ感(新鮮な香り)に加えて、ネギ科植物が有する独特のネギ香を、当該対象製品に付与することができる。また対象製品に添加して用いることにより、当該対象製品が有するネギ香やフレッシュ感を増強することができる。
III.付香製品およびその調製方法
本発明が対象とする付香製品は、前述する本発明のセパチオランまたは本発明の香料組成物を外添して調製されるものであり、セパチオランの香りに基づいて、タマネギなどのネギ科植物をカットしたときに生じるフレッシュ感(新鮮な香り)およびネギ科植物が有する独特のネギ香を有するか、または当該フレッシュ感およびネギ香が添加前と比べて増強されてなることを特徴とする。
本発明のセパチオランまたは香料組成物の対象製品への添加量としては、付香製品中のセパチオランの濃度が、10-3〜104ppmの範囲になるような割合を挙げることができる。付香製品中のセパチオランの濃度が10-4ppm未満であれば、他のいかなる成分との相乗効果によってしても上記フレッシュ感(新鮮な香り)を得ることはできず、また、付香製品中のセパチオランの濃度が104ppm を大きく越えると不快臭が生じる傾向にあり、好ましくない。付香製品中のセパチオランの濃度は、好ましくは10-2〜103ppm、より好ましくは10-1〜102ppmの範囲である。
本発明が対象とする付香製品は、好ましくは、経口摂取が可能な製品、または口腔内若しくは口腔近辺で使用される製品である。具体的には、液状、半固形状又は固形状の食品、経口医薬品、化粧品、医薬部外品の他、動物、家畜および家禽への飼料を挙げることができる。好ましくは、タマネギなどのネギ科植物をカットしたときに生じるフレッシュ感(新鮮な香り)およびネギ科植物が有する独特のネギ香を付与するのが好ましい製品であり、より好ましくは飲食品である。
かかる飲食品としては、例えば、スープ、ラーメンスープ、ソース、ドレッシング、パスタソース、トマトソース、カレールー、シチュー、ハム、ソーセージ、ハンバーグ、コロッケ、やきとり、タンシチュー、焼き豚やショウガ焼きやステーキなどの各種畜肉製品、うなぎ蒲焼き、カレー、ハヤシライス、スパゲッテイー、ボルシチ、サワークラフト、ムニエル、バーベキュー、ピザ、パン、クッキー、ケーキ、米菓、スナック菓子、焼き菓子、生菓子、チョコレート、ガム、キャンデー、ミントテイー等のハーブティー、果汁飲料、スポーツ飲料、清涼飲料水などの各種飲料などが挙げられるが、これらに限定されない。経口医薬品としては、例えば、滋養強壮栄養補給剤等が挙げられる。化粧品及び医薬部外品としては、例えば、歯磨き、薬用歯磨き、マウスウォッシュ、口内清涼剤、リップクリーム等が挙げられる。また、飼料としては、種豚飼育用配合飼料等の飼料、ペットフード等が挙げられる。
かかる付香製品は、その製造工程において、原材料の一つとして、本発明のセパチオランを添加するか、または本発明の香料組成物を添加することによって調製することができる。斯くして調製される付香製品は、ネギ科植物をカットしたときに生じるフレッシュ感(新鮮な香り)、およびネギ科植物が有する独特のネギ香を有する。また、本発明のセパチオランや香料組成物を添加しないものに比べて、上記フレッシュ感(新鮮な香り)およびネギ香が増強されてなる。また、本発明のセパチオラン、または本発明の香料組成物を添加することにより、対象製品に、天然のタマネギに近い香気が付与できるため、安価にタマネギ風味を有する付香製品、特に飲食品を製造することができる。
IV.対象製品への香り付与および増強方法
前述するように、対象製品に、本発明のセパチオランまたは本発明の香料組成物を外添することにより、当該対象製品は、セパチオランの香りに基づいて、タマネギなどのネギ科植物をカットしたときに生じるフレッシュ感(新鮮な香り)およびネギ科植物が有する独特のネギ香を有するようになるか、または当該フレッシュ感およびネギ香が添加前と比べて増強される。ゆえに、本発明は、対象製品に本発明のセパチオランまたは本発明の香料組成物を外添することを特徴とする、対象製品に新鮮なネギ風味を付与するか、当該ネギ風味を増強する方法に関する。
ここでいう対象製品は、好ましくは、前述するように経口摂取が可能な製品、または口腔内若しくは口腔近辺で使用される製品である。具体的には、液状、半固形状又は固形状の飲食品、経口医薬品、化粧品、医薬部外品の他、動物、家畜および家禽への飼料を挙げることができる。好ましくは、タマネギなどのネギ科植物をカットしたときに生じるフレッシュ感(新鮮な香り)およびネギ科植物が有する独特のネギ香を付与するのが好ましい製品であり、より好ましくは飲食品である。飲食品、経口医薬品、化粧品、医薬部外品、および飼料の具体的な例示は前述の通りである。
本発明のセパチオランまたは香料組成物の対象製品への添加量としては、添加後のセパチオランの濃度が、10-3〜104ppmの範囲になるような割合を挙げることができる。付香製品中のセパチオランの濃度が10-4ppm(0.1ppb)未満であれば、他のいかなる成分との相乗効果によってしても上記フレッシュ感(新鮮な香り)を得ることはできず、また、付香製品中のセパチオランの濃度が104ppm を大きく越えると不快臭が生じる傾向にあり、好ましくない。添加後の製品中のセパチオランの濃度は、好ましくは10-2〜103ppm、より好ましくは10-1〜102ppmの範囲である。
以下、本発明を、実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、下記に記載する「%」および「部」は特に言及しない限り、それぞれ「重量%」および「重量部」を意味するものとする。また、各処方中*を付記した製品は三栄源エフ・エフ・アイ(株)の製品であることを意味する。また、※を付記した商標は、三栄源エフ・エフ・アイ(株)の登録商標であることを意味する。
実施例1 セパチオランの単離同定
(1)タマネギからのセパチオランの分離抽出
タマネギ(北海道産北見産、スーパー北もみじ)の可食部2.4kgに等量のイオン交換水を加えて、ミキサーで磨砕し、2重のガーゼでろ過してタマネギ搾汁液3kgを得た。このタマネギ搾汁液3000gにジクロロメタン3000mlを添加し、次に分液ロートにて激しく振とうし、遠心分離2,500rpm、10分間(10℃)で分離してジクロロメタン層を採取した。次に得られたジクロロメタン層をエバポレータで濃縮し、濃縮液(重量3g)を得た。
(2)タマネギからのセパチオランの分離精製
(2-1)得られたタマネギ濃縮液(3g)を、順相カラム(Develosil 30-5(10mm x 250mm、5μm)、野村化学)を用いた分取HPLCで分画した。移動相は、2-プロパノールとヘキサンを用い、2-プロパノールの組成をインジェクションから5分間は3容量%に維持し、その後、2-プロパノールを一定の比率で増加させ、インジェクションから50分後に2-プロパノールの割合が35容量%となるようにした。流速は2.8 ml/min、カラム温度は25℃とし、紫外吸収波長254nmで検出した。この分取クロマトグラムを図1に示す。
図1に示す分取クロマトグラムにおいて、保持時間19分付近のピーク(図1に、Pと記載)を採取した(分画した画分の重量は、約0.1g)。
(2-2)上記で得られた画分Pを、順相カラム(Develosil 30-5(10mm x 250mm、5μm)、野村化学)を用い、25容量%酢酸エチル/ヘキサン溶液を溶離液とした分取HPLCで精製した。流速は2.8ml/min、カラム温度は25℃とし、アイソクラティック条件で溶出し、紫外吸収波長210nmで検出した。この分取クロマトグラムを図2に示す。保持時間28分付近のピーク(図2に、P-1と記載)を採取した(分画した画分の重量は、約0.01g)。
(2-3)上記で得られた画分P-1を、順相カラム(Develosil 30-5(10mm x 250mm、5μm)、野村化学)を用い、上記と同様に、25容量%酢酸エチル/ヘキサン溶液を溶離液とした分取HPLCで精製した。流速は2.8ml/min、カラム温度は25℃とし、アイソクラティック条件で溶出し、紫外吸収波長210nmで検出した。この分取クロマトグラムを図3に示す。保持時間28分付近のピーク(図3に、P-1-1と記載)を採取した(分画した画分の重量は、約0.005g)。
実施例2 P-1-1化合物(セパチオラン)の構造決定
下記に示す方法で、実施例1で分取したピークP-1-1の化合物(以下、「P-1-1化合物」ともいう)を同定し、構造決定を行った。
(1)赤外吸収スペクトル解析
ピークP-1-1を採取した画分(画分P-1-1)(図3)を赤外吸収スペクトル分析(IR分析)に供した。具体的には、画分P-1-1から溶媒を留去した試料(以下、「P-1-1試料」という)をKBrと混合し、ディスク状に成形して定法に従ってIR分析を行った。なお、IR分析には、パーキンエルマー社製フーリエ変換赤外分光装置(Perkin Elmer Spectrum One FT-IR Spectrophotometer)を用いた。その結果を図4に示す。
IR(KBr)v max (cm-1):3392(s, OH), 2930(s, OH), 1720(m)、1628(m、C=C),1452(s), 1379(m), 1034 ( s, S=O), 996(s),948。
得られたIRスペクトルにおいて、3392cm-1に強い吸収が観測されたことから、水素結合する水酸基の存在が確認された。また、1034 cm-1に観測される強い吸収は、Bayerらがチオスルフィネートで観測したS=Oの吸収波数(1050cm-1)と合致しており、P-1-1化合物の構造にはS=O基が含まれていることが推定できた(TH.Bayer, W.Breu, O.SeliNgmann, V.Wray and H.Wagner, Phytochemistry, 28,9,2373-2377(1989))。
(2)紫外・可視吸収スペクトル解析
前記分取HPLCで得られたP-1-1試料を紫外可視吸収スペクトル分析に供した。その結果、271nmに吸収極大を有し、そのモル吸光係数は3.63L/mol.cmであった。
この極大吸収は、1-Propenyl sulfenyl sulfanyl基(1-Propenyl S(O)S)を有する(E)-1-Propenyl Sulfinothioic acid(alkenyl S(O)S-Propenyl-(E)、λmax 268nm、溶出液2-Propanol/hexane)や、(E)-1-Propenyl sulfinothioic acid S-n-propyl ester(n-Propyl-S(O)S-Propenyl-(E)、λmax 268nm)と近似した値である。このことから、P-1-1化合物の構造が1-Propenyl-S(O)S基を含むことが示唆された(E.Block, S.Nagarathan, D.Putman and S.-H.Zhao,J.Agric.Food Chem., 40, 2418-2430(1992))。
なお、1-プロペニル基にスルフォキシドが近接しない(E)-1-Propenyl sulfinothioic acid n-Propyl esterは極大吸収が254nmとなり、短波長側にシフトすることから、P-1-1化合物の構造には、1-Propenyl-SS(O)基は含まれていないことが強く示唆された。また、タマネギからの見出されるセパエンの場合、極大吸収が230nmと報告されていることから、P-1-1化合物はセパエンとは分子構造が異なることが示唆された(TH.Bayer, W.Breu, O.Seligmann, V.Wray and H.Wagner, Phytochem., 28, 2373-2377(1989))。さらに、にんにくに由来するアホエンでは、極大吸収が210nmと240nmで報告されていることから、P-1-1化合物はアホエンやジチインとも分子構造が異なることが示唆された(L.D.Lawson, Z.Y.Wang and B.G.Hughes, Planta Med., 57, 363-370(1991))。
(3)比旋光度測定
前記で得られたP-1-1化合物試料を2ml容量のメスフラスコに移し、窒素ガスにて乾固後、重量を計量し、試料重量0.9mgを2ml容量のメスフラスコに定容し、その旋光度を旋光度計(日本分光社製、DIP-1000)で測定した。その結果、[α] D 25°-27.6(0.045w/v%、メタノール)の値を得た。
(4)ガスクロマトグラフ-質量分析
前記で得られたP-1-1試料をガスクロマトグラフ-質量分析に供した。具体的には、ガスクロマトグラフ-質量分析(GC/MS)は、飛行時間型GC/MS装置GCT Premier (Waters)により、GC注入口温度を250℃としスプリットレスで、DB-5ms(30m x 0.25mm、層厚0.25μm)をカラムとして用いて行った。カラム温度は、40℃で2分間保持し、1分間あたり15℃の速度で温度を上昇させ、250℃まで昇温させた。イオン化は、電子イオン化(EI)法で行った。イオン化電圧を70eV、イオン化電流を200μA、イオン源温度を250℃とした。
分析の結果、保持時間 10.44分に観測されたピークのマススペクトルはm/z 162.0176 に基準ピークを与えた(図5)。主要なイオン次の通りであった。
m/z (実測値) [組成式、計算値],(相対強度, %): 162.0176 [C6H10OS2, 162.0173] (100), 105.9912 [C3H6S2, 105.9911] (35.55), 85.0122 [C4H5S, 85.0112] (11.16), 72.0033 [C3H4O, 72.0034] (17.59), 71.0496 [C4H7O, 71.0497] (28.04), 70.9958 [C3H3O, 70.9955] (11.57)。
(5)高分解質量分析
前記で得られたP-1-1試料を高分解-質量分析に供した。試料を白金製のプローブに直接塗布して上述の装置を用い脱離化学イオン化(DCI)で測定を行った。反応ガスとしてメタンを用い、イオン化電流を 200μA、イオン源温度を200℃、インターフェイス温度を200℃に設定した。その結果、強度は小さいが、m/z 252.0313に [M]+と考えられるピークが観測された。主要なイオンは次の通りであった。
m/z (実測値) [組成式、計算値],(相対強度, %):252.0313 ( [C9H16O2S3] 252.0312, (14.08), 163.0246 ([C6H11OS2],163.0251 (100)),162.0178 ([C6H10OS2], 162.0173 (17.15)), 145.0150 ([C6H9S2], 145.0146 (22.08)), 131.0527 ([C6H11OS], 131.0531 (73.05)), 129.0382 ([C6H9OS], 129.0374 (12.83)), 113.0429 ([C6H9S], 113.0425 (33.42)), 101.0429 ([C5H9O], 101.0425 (23.32)), 97.0661 ([C6H9O], 97.0653 (15.10)), 90.0145 ([C3H6OS], 90.0139 (18.02)), 74.0194 ([C3H6S], 74.0190 (16.89)), 73.0115 ([C3H5S], 73.0112 (15.21))。
EI条件では、[M]+に相当するm/z 252にイオンは検出できなかったが、DCIでm/z 200以上の領域を拡大して分析した結果、m/z 252.0313([C9H16O2S3], 計算値252.0312)にイオンを確認した。かかるMS分析から得られたフラグメント情報を図6にまとめる。
(6)分子量の確認及び精密質量分析
P-1-1化合物の分子量と質量を分析した。
具体的には、P-1-1化合物試料を、50容量%メタノール水溶液で希釈し、四重極イオントラップ型(QIT)MS(LCQclassic、サーモエレクトロンフィッシャー製)により、ESIでイオン化し正イオンモードで検出した。精密質量分析は、P-1-1試料を50容量%メタノール水溶液に溶解し、フーリエ変換サイクロトロン共鳴質量分析装置(FT-ICRMS、ApexII 70e、Brucker Daltonics社製)でESIにより正イオンモードで行った。
その結果、P-1-1化合物試料のQITMSはm/z 275に強度の大きいピークを与えた。試料溶液にヨウ化セシウム(CsI)水溶液を添加すると、ピークはm/z 385にシフトした。このシフト量はセシウムとナトリウムの質量差に相当することから、m/z 275及びm/z 385に観測されたピークはそれぞれ、[M+Na]+、[M+Cs]+であると考えられた。ESI-FTICRMSでもm/z 275.0205に基準ピークが観測された。このイオンについて、元素の個数を、炭素1〜50、水素10〜50、酸素0〜10、硫黄0〜3、ナトリウム0〜1に設定し、組成式を求めた。C9H16O2S3Na (275.02046)が観測値と最も近いものと算出された。この組成はP-1-1化合物のナトリウム付加イオンに相当することが明らかになった。
(7)核磁気共鳴(NMR)スペクトル解析
実施例1で単離されたP-1-1化合物について、NMRスペクトル(1H、13C、DQF-COCY、HSQC、HMBC、)による構造解析を行った。NMRスペクトルは、CDCl3中、291Kで、(貴社の装置)およびBruker Avance 800装置を用いて測定した。
NMRスペクトル(HMBCデータ)(図7)から、P-1-1化合物はチオランとしての閉環構造を有する含硫化合物であることが判明した。
1H-NMRにおいて、2.00 ppm (dd, J =6.8, 1.5 Hz)、6.63 ppm(dq, J =15.0, 6.8 Hz)および6.55 ppm(dq, J =6.8, 1.5 Hz)のシグナルが観測され、プロペニル基の存在が示唆された。さらに6.63 ppmとδ6.55 ppmのプロトン間の結合定数が15.0 Hzであることから、その二重結合の幾何異性はEと判定した。また、ダブレットのメチル基のシグナルが 2本、さらにメチン基のシグナルが4本観測され、DQF-COSYの結果から分画P-1-1(試料)は部分構造X-CH-CH(CH3)-CH(CH3)-CH-Yを有することが推測された。
なお、1-プロペニル基と上記部分構造との間にはHMBC実験でも相関ピークが観察されず、離れた位置にあることが特定できた。また、部分構造A-CH(B)-CH(CH3)-CH(CH3)-CH(X)-YのA, Bに結合した炭素上の水素からX, Yに結合した炭素、またX, Yに結合した炭素上の水素からA, Bに結合した炭素へのHMBC相関ピークが検出でき、MS解析で得られた組成式[C9H16O2S3]と1H、13Cの化学シフト値を考慮すると、上記の部分構造のA, B, X, Y原子は、イオウ、酸素いずれかで、さらにA, B原子のいずかはX, Y原子のいずれかと共通で、この部分構造はヘテロ環であることが特定できた。
5,6-dimethyl-2-oxa-3,7-dithiabicyclo[2,2,1]heptaneをthiophenolと反応させると、3,4-ジメチルチオラン誘導体が生成することが報告されている( E.Block, T Bayer, S.Naganathan, and S.-H.Zhao, J.Am.Chem.Soc., 118, 2799-2810(1996))。P-1-1化合物においては、このチオフェノールの部分の代わりに1-プロペニルスルフィニル基が結合している。チオフェノールの結合したチオラン誘導体のイオウと酸素に結合した炭素上のプロトン(O-CH-S)の化学シフト値が5.29ppm、二つのイオウに結合している炭素上のプロトンの化学シフト値は4.61ppmであった。P-1-1化合物におけるA-CH(B)-および-CH(X)-Yの1H-NMRの化学シフト、δ5.22、4.43はこれらに近似しており、P-1-1化合物は、酸素ではなく、イオウを含むヘテロ環チオラン構造を有する可能性が示され、このことからS-CH(S)-CH(CH3)-CH(CH3)-CH(O)-Sの両端のSが共通の構造であることが特定できた。
さらに、上記の組成式[C9H16O2S3]からすると、1-プロペニル基は酸素かイオウに結合していなければならないが、P-1-1化合物の=CH-の1H-NMRおよび13C-NMRにおける化学シフト値からすると、P-1-1化合物の1-プロペニル基はイオウに結合していることが確定された。また、酸素の一つがチオラン環に結合しているとすると、1-プロペニル基のチオラン環への結合は、CH3-CH=CH-S-S(O)-の形での結合と、CH3-CH=CH-S(O)-S-での結合の二つの可能性が存在するが、UV、1H-NMRおよび13C-NMRのデータから、CH3-CH=CH-S(O)-S-での形で結合していることが判明した。
またP-1-1化合物を、無水酢酸とピリジン存在下でアセチル化したところ、IRスペクトルの吸収は、2925(s)、1740(s)、1634(w)、1454(s)、1375(s)、1230(vs)、1020(s)cm-1となり、アセチル基の吸収が1740cm-1と1230cm-1に現れ、OH基に由来する吸収(3400cm-1付近)が消えた。このことからP-1-1化合物は遊離のOHを有することが示唆された。
(8)P-1-1化合物(セパチオラン)の構造決定
以上のことから、たまねぎの抽出物から単離したP-1-1化合物は、下式で示される5-ヒドロキシ-3,4-ジメチル-2-[(E)-1-プロペニルスルフィニル]スルファニルチオラン(以下、セパチオランと称する)であることが判明した。
Figure 0005452017
また、1H NMRにおけるスピン結合定数やNOEデータ、実施例3にある生成経路に関する情報、及び実施例4にあるPC-GAMESS RHF/STO3Gのデータ解析結果から、P-1-1化合物は立体構造的には、下式で示される2R, 3S, 4S, 5R-セパチオランであることが判明した。
Figure 0005452017
この理化学的性質は以下の通りである。
(1)微淡黄色油状物質
(2)UV(メタノール)λmax, 271nm nm (ε):(モル吸光係数 3.63L/mol.cm)
(3)IR赤外線吸収スペクトル
IR(KBr)vmax 3392、2930、1628(C=C) 、1452、1379、1034 ( s, S=O )、996(s)、 948 cm-1
(4)比旋光度 [α] D 25°-27.6(濃度0.045w/v%、メタノール)
(5)質量分析(DCI法)
[M]+ : 252.0131[C9H16O2S3](14.08、DCI)
(6)NMR。
Figure 0005452017
Figure 0005452017
図8に、セパチオランの立体異性体の構造を、dihedral angle(上切角)とともに示す。なお、セパチオランにおいては、S=OのSに関してもR, Sの立体異性があり、立体異性体の数は32個となる。
実施例3 セパチオランの生成
タマネギ中に存在するS-アルキルシステインスルホキシドからアリイナーゼによる酵素反応でスルフェン酸が生じ、チオスルフィネートを経由してビシクロスルテンが得られることは、Blockら( E.Block, T.Bayer, S.Naganathan and S.-H.Zhao, J.Am. Chem. Soc., 118, 2799-2810 (1996), E.Block, H.Gulati, D.Putman, D.Sha, N.You and S.-H.Zhao, J.Agric.Food Chem., 45, 4414-4422 (1997))によって報告されている。
特に出発物質のアルキル基の二重結合がトランス(E)体である場合、環状化を経過して、(E)体からシス(Z)体に可逆的に変化することも報告されている(E.Block, S.Naganathan, D.Putman and S.-H.Zhao, Pure&Appl.Chem., 65, 625-632(1993) )。
チオスルフィネート(E,E)体の環化によりビシクロスルテンが生成する場合、(E,Z)体と(Z,E)体の生成割合は、4:1である。一方、チオスルフィネート(E,Z)から得られるビシクロスルテンでは、(E,E)体と(Z,Z)体の割合は12:1と報告されている(E.Block, T.Bayer, S.Naganathan and S.-H.Zhao, J.Am.Chem.Soc., 118, 2799-2810(1996) )。
このビシクロスルテンが、存在するスルフェン酸と反応して、セパチオランが生成する。
チオスルフィネートが(Z,Z)の場合とチオスルフィネート(Z,E)の場合で、出発物質の構造が異なったとき、合成反応経路でビシクロスルテンの生成が報告されている。ただし、温度設定を低温条件にしていないと生成が起こらないことから、ビシクロスルテン(Z,Z)体を出発物質としたセパチオランの形成は困難である。
以上のことから、セパチオランの生成反応に寄与する主要な成分はビシクロスルテンの(E,Z)体であることがわかった。すなわち、図9に示すように、本発明のセパチオランは、スルフェン酸同士が反応して、チオスルフィネートを生成した後、このチオスルフィネートが閉環して、ビシクロスルテンに変化する。生成したビシクロスルテンに別のスルフェン酸が反応することにより生成することが判明した。ゆえに、この生成機構に従って合成することにより、効率よく、本発明のセパチオランを調製することができる。
チオスルフィネートからセパチオランが生成する際の中間体であるビシクロスルテンにおいて、二つのSに夾まれた架橋位のCの立体配置、及びSとOに夾まれた架橋位のCの立体配置がともにRであることから、この経路を経て生成するセパチオランの2位と5位の立体配置はともにRとなる。
実施例4 セパチオランのコンピュータによる立体構造解析
上記で得られたセパチオランを、コンピュータ解析(半経験的、非経験的分子軌道法による解析)し、その原子間距離および立体構造を求めた。結果を図10−1〜図10−3に示す。
実施例5 アセチル化セパチオランの製造
(1)セパチオランのアセチル化
実施例1で単離精製したセパチオランをピリジンと無水酢酸を用い、冷蔵庫(4℃)で2日間保存し、次いで定法にしたがってアセチル化した。
Figure 0005452017
具体的には、実施例1で単離精製したセパチオラン(P-1-1試料)5mgにピリジン4滴と無水酢酸1滴を添加し、冷蔵庫(4℃)で2日間保管した。次に、保存したピリジン酢酸反応液に水1mlを添加し、室温で約10分間放置し、過剰の無水酢酸を酢酸に分解した。さらに5%希硫酸で酸性化し、pH2以下に調整した。
その後、この中にジエチルエーテルを1ml添加し、ジエチルエーテル中にアセチル化した試料を転層させた。ジエチルエーテル層に1%炭酸ナトリウム水溶液を添加し、水溶液を弱アルカリ性とし、ジエチルエーテル中に残留する酢酸を除去した。その後、ジエチルエーテルを留去し、容器内に残留したアセチル化物を得た。得られたアセチル化物は、良好な新鮮感のあるタマネギの香りを有した化合物であった。
(2)アセチル化セパチオランの赤外スペクトル分析
上記で得られたセパチオランのアセチル化物をIR分析に供した。得られた、IR分析の結果を以下に示す。
IR (KBr) vmax:2925、1740(-O-CO-)、1634、1453、1374、1230、1020cm-1
その結果、セパチオランの構造式に含まれるOH基の吸収スペクトルが消失し、アセチル基に由来する1740、1430、1230cm-1が見出され、P-1-1化合物中のOH基がアセチル化していることが確認できた。また、アセチル化した試料は、チオランのフラグメントm/z 163にアセチル基が結合したフラグメントのm/z 211がみいだされた。と同時に、アセチル基のm/z 43が検出された。このことからも、P-1-1化合物にはOH基があり、そのOH基がアセチル化したものと判断された。
実施例6 エステル化セパチオランの製造
(1)セパチオランのエステル化
実施例1で単離精製したセパチオランを、n-カプロイルクロライドを用いてエステル化した。
Figure 0005452017
(式中、Rは炭素数5のアルキル基を示す。)
具体的には、セパチオラン1mgを25%酢酸エチル/へキサンに溶解し、ピリジン5滴とn-カプロイルクロライド1滴を混合し、冷蔵庫(4℃)で2日間保管した。保存した反応混合物に水1mlを添加し、室温で約10分間放置した。
その後、ジエチルエーテルを5ml添加し、ジエチルエーテル中にアセチル化した試料を転層させた。水層を除去した後、さらに水2mlを添加し、洗浄し、水層を除去した。
次にジエチルエーテル層に1%希硫酸2mlを加えて(pH2)洗浄し、ピリジンを除去した。 ジエチルエーテル層に2%炭酸ナトリウム水溶液2mlを添加し、水溶液を弱アルカリ性とし、ジエチルエーテル中に残留するカプロン酸を除去した。 水を添加し、中性になるまで洗浄し、水層を除去した。 ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを添加して脱水した。
その後、ジエチルエーテルを留去し、容器内に残留したセパチオランカプロン酸エステルを得た。得られたセパチオランカプロン酸エステル化物は、ネギの香りを有した化合物であった。
実施例7 セパチオランの閾値付近の風味
実施例1で得られたセパチオラン0.0001部を1000ml容量のビーカーに入れ、25℃の水1000部を添加し100ppb溶液を調製した。次にそれを水で順次希釈して10分の1溶液(0.00001部(10ppb))、100分の1溶液(0.000001部(1ppb))をそれぞれ調製した。得られたセパチオラン水溶液を用いて、専門パネラー4名による官能試験によって閾値を評価した(極限法)。
その結果、1ppbで、甘いストロベリー様のフルーツ感のある香りが得られ、10ppb以上の濃度で、ネギやタマネギなどのネギ野菜にみられるフレッシュな特徴香が得られた。なお、催涙性のある特徴は見出されなかった。
実施例8 タマネギ香料の調製
以下の処方により、タマネギ香料を調製した。
(処方)
エタノール 50部
プロピレングリコール 30部
セパチオラン(実施例1) 0.005部
水にて合計 100部とする。
実施例9 タマネギ風味の清涼飲料水の調製
実施例8で調製したタマネギ香料(セパチオラン濃度が50ppmに調製したもの)1gにエタノール99gを添加混合し(セパチオランの濃度0.5ppm)、さらに、このエタノール溶液1部を水99部に添加混合して、タマネギ風味の清涼飲料水(セパチラン0.05ppm最終濃度)を調製した。
実施例10 セパチオランの嗜好性評価
実施例8で調製したタマネギ香料(本発明区)と、実施例8で調製したタマネギ香料のセパチオランを、タマネギに含まれる代表的な香り成分であるジメチルトリスルフィドに代えて調製したジメチルトリスルフィド香料(対照区)をそれぞれ用いて、実施例9の方法に従って清涼飲料水を調製した。
調製した各清涼飲料水について、専門パネラー8名による官能評価を行った。評価は、下記表に記載する3つの基準について行い、その嗜好性が望ましいかを(よい、悪い)で評価した。
Figure 0005452017
上記表に示すように、対照区の香料と比較して、本発明の香料(本発明区)は、タマネギのトップノートが強調されており、カット時のフレッシュで、甘く嗜好の優れた香気を有していた。ネギ科の野菜は、好き嫌いや良し悪しがはっきりしやすいが、セパチオランの添加により、ネギ科の野菜を含む飲食物の嗜好性を向上させることができることが確認できた。
[処方例]
実施例8で調製したタマネギ香料を、各種の代表的な食品に利用した。以下、その食品応用例を示す。
処方例1 ラーメンスープ
実施例1で単離精製したセパチオランを含有する香料(実施例8:本発明品)を、下記処方のラーメンスープに添加し、常法によりラーメンスープを調製し、官能評価を行った。
<処方>
1.調味料(サンライク※ポークベース*) 9.0部
2.調味料(サンライク※チキンエンハンサー*) 2.5部
3.調味料(サンライク※アミノベース*) 0.6部
4.粉末醤油 28.0部
5.食塩 20.0部
6.L-グルタミン酸ナトリウム 15.0部
7.核酸調味料 0.5部
8.クエン酸三ナトリウム 0.1部
9.オニオン末 2.0部
10.ガーリック末 1.5部
11.ブラックペッパー末 0.2部
12.ホワイトペッパー末 0.2部
13.乳糖 7.6部
14.デキストリン 7.3部
15.コーンサラダ油 3.4部
16.タマネギ香料(実施例8)(セパチオランの割合として) 0.005部
(最終製品中、セパチオランを250ppb(10-1ppmオーダー)含む)
17.水 残 部
合 計 100.0部。
具体的には、上記成分のうち、成分1〜14と16を混合し、これに成分15,17を練りこみ、これを20メッシュのふるいに通してラーメンスープを調製した。
セパチオランを含有する香料を添加したラーメンスープは、タマネギをカットした時の新鮮な香気を有し、嗜好性に優れた良好なものであった。
処方例2 ハンバーグソース
実施例8で調製した香料組成物を、下記処方のハンバーグソースに添加し、常法によりハンバーグソースを調製し、官能評価を行った。
<処方>
1.果糖ぶどう糖液糖 25.0部
2.濃口醤油 22.0部
3.魚醤 5.0部
4.みりん 5.0部
5.料理酒 3.0部
6.醸造酢(酸度10%) 2.0部
7.生ガーリックペースト 0.2部
8.生ジンジャーペースト 0.2部
9.調味料(サンライク※和牛風味*) 0.3部
10.調味料(サンライク※テイストベース※*) 0.3部
11.調味料(サンライク※ソテ-ドオニオン*) 0.1部
12.加工でんぷん 2.5部
13.増粘剤(ビストップ※TAR-S*) 0.8部
14.カラメル 0.3部
15.香料(ローストビーフフレーバー) 0.1部
16.タマネギ香料(実施例8)(セパチオランの割合として) 0.1部
(最終製品中、セパチオランを5ppm(100ppmオーダー)含む)
17.水 33.1部
合 計 100.0部。
成分17に成分12と13を加え、80℃で10分間加熱攪拌した。これに残りの成分を全て加えた後、攪拌溶解した。
実施例1で得られたセパチオランを含有する香料組成物(実施例8)を添加したハンバーグソースは、カット時のタマネギの香気を有しており、嗜好性に優れた良好なものであった。
処方例3 ドレッシング(サウザンアイランドドレッシング)
実施例8で得られた香料組成物を、下記処方のドレッシングに添加し、常法によりドレッシングを調製し、官能評価を行った。
<処方>
1 コーンサラダ油 35.0部
2 醸造酢(酸度10%) 10.0部
3 トマトペースト 4.0部
4 レモン透明果汁(ストレート) 3.0部
5 ウスターソース 0.35部
6 卵黄 4.0部
7 食塩 2.0部
8 甘味料(サンスイート※SU100*) 0.1部
9 調味料(サンライク※アミノベース*) 0.3部
10 オニオンパウダー 0.15部
11 ガーリックパウダー 0.1部
12.タマネギ香料(実施例8)(セパチオランの割合として) 0.1部
(最終製品中、セパチオランを5ppm含む)
13 増粘剤(サンエ-ス※*) 0.3部
14 ピクルス(みじん切り) 5.0部
15 水 35.6部
全量 100.0部。
成分15に成分13を加え、80℃で10分間加熱攪拌した。これに成分2〜5および7〜12を加え、攪拌溶解した。60℃まで冷却した後、成分6を加えて攪拌した。これに成分1を少しずつ加え、ホモミキサーで攪拌した。これに成分14を加えて、混合した。斯くして調製されたドレッシングのpHは3.4であった。
本実施例で得られたセパチオランを含有する香料組成物を添加したドレッシングは、カット時のタマネギの香気を有し、甘い嗜好性の高い、良好なものであった。
処方例4 パスタソース(カルボナーラ)
実施例8で得られた香料組成物を、下記処方のパスタソースに添加し、常法によりパスタソ-スを調製し、官能評価を行った。
処方
1 牛乳 30.0部
2 生クリーム 5.0部
3 無塩バター 4.0部
4 卵黄 3.0部
5 チーズパウダー 3.0部
6 食塩 0.8部
7 L-グルタミン酸ナトリウム 0.1部
8 調味料(サンライク※ソテードオニオン*) 0.3部
9 調味料(サンライク※テイストベース※*) 0.2部
10 調味料(サンライク※ブイヨンベース*) 0.1部
11 実施例1のエステル化物(実施例6の処方で調製したエステル化した本発明品、100ppm) 0.3部
(最終処方で0.300ppm=10-1オーダー)
12 メースパウダー 0.05部
13 セロリーシードパウダー 0.04部
14 焼成小麦粉 3.0部
15 加工でんぷん 2.0部
16 ベーコンオイル(BF-600) 0.06部
17 バターオイル(クックドバターオイル) 0.05部
18 水 48.0部
全量 100部とする。
成分18に成分1、2および5〜15を加え、加熱攪拌した。50℃位までなったら、成分4および3の順番に添加し、加熱攪拌した。加熱攪拌を継続し80℃位になったら、さらに10分間攪拌溶解した。これに成分16と17を加え、攪拌溶解した。このように調製したパスタソース130gを、みじん切りした玉ねぎ14g、1cmにカットしたベーコンとともにアルミパウチに充填後、レトルト殺菌した。
実施例1で得られたセパチオランを含有する香料組成物(実施例8)を添加したパスタソースは、カット時のネギ類の香気を有し、嗜好性の高い、味のよい良好なものであった。
本発明の従来の香料にはない香り立ちを有することにより、タマネギなどネギ科植物を利用する食品に幅広く適用して、好ましい香りを有する食品を製造することができる。
本発明の化合物を含むタマネギ抽出搾汁液の分取HPLCクロマトグラムを示す。 本発明の化合物を含むタマネギ抽出搾汁濃縮液の分取HPLCクロマトグラムを示す。 本発明の化合物を精製した分取HPLCクロマトグラムを示す。 本発明の化合物の赤外線吸収スペクトルを示す。 本発明の化合物の質量分析スペクトルを示す。 本発明の化合物から見出されたフラグメント情報を示す。 本発明の化合物のNMRスペクトルを示す。 本発明の化合物の立体異性体の構造を示す。 本発明の化合物の生成機構を示す。 本発明の化合物のコンピューター解析の結果(原子間距離および立体構造)を示す。 本発明の化合物のコンピューター解析の結果(原子間距離および立体構造)を示す(図10−1の続き)。 本発明の化合物のコンピューター解析の結果(原子間距離および立体構造)を示す(図10−1および10−2の続き)。

Claims (7)

  1. 下式で示される、2R, 3S, 4S, 5R体のチオラン化合物:
    Figure 0005452017
  2. 単離された請求項1に記載するチオラン化合物を、ネギ香を有する唯一の香料成分として含む香料組成物。
  3. 単離された請求項1に記載するチオラン化合物または請求項に記載する香料組成物を外添して調製される付香製品。
  4. 新鮮なネギ風味を有するか、または新鮮なネギ風味が増強されてなる、請求項に記載する付香製品。
  5. 付香製品が飲食品である、請求項またはに記載する付香製品。
  6. 対象製品に請求項1に記載するチオラン化合物または請求項に記載する香料組成物を外添する工程を有する、新鮮なネギ風味を有するか又は新鮮なネギ風味が増強されてなる付香製品の製造方法。
  7. 対象製品に請求項1に記載するチオラン化合物または請求項に記載する香料組成物を外添することを特徴とする、対象製品に対して新鮮なネギ風味を付与するか又は増強する方法。
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