従来から、キャップの側面から天面に設けたスコア部(弱体化部)を引き裂いて開栓するようにした、易開栓性のキャップであるリングプル型キャップは、飲料容器、特に瓶のキャップとして広く利用されており、近年では、アルミニウム製ボトル缶のキャップとしても使用され、その使用量が増加している。また、このリングプル型キャップにおいて、それを開栓するには、プル部分を持ち上げて、凹溝形状にプレス加工(スコア加工)されたスコア部において、切る必要があるために、ネジ式のPPキャップに比べて、それを開栓したことが分かり易く、内容物への異物混入に対して、安全性が高いことが特徴とされており、更に、従来の王冠に比べて、開栓時に道具(栓抜き)を必要としないことも、その使用量の拡大に寄与している。
ところで、環境問題が重要視されてきている近年においては、容器用素材の軽量化や、それがリサイクル出来ることが重要視されてきており、上記のリングプル型キャップにあっても、その薄肉軽量化が望まれているのであるが、かかるリングプル型キャップの開栓の特徴は、そのスコア(溝)部による引き裂きによるものであるところから、キャップ素材を薄肉化すると、このスコア部の残厚(スコア直下の素材の厚み)が薄くなり過ぎ、そのために、搬送時の衝撃等で不意に開栓してしまい、容器としての性能が満たされなくなる問題を惹起する。一方、スコア部の残厚が厚くなると、その開栓のために大きな力が必要とされて、開き難くなるのであり、そして、その開き難い状態において、力任せに開栓を行なえば、スコア部で手指等を切ったり、開栓と同時に内容物が零れたりして、開栓者に危険を及ぼす恐れも生じることとなる。また、スコア部の溝深さが浅くなると、脱線して開栓することが出来ない場合もあるところから、スコア残厚とスコア深さには適性値があり、そして、それらのバランスを考慮すると、材料を単純に薄くするだけでは、解決し難いのである。
また、このリングプル型キャップに対する通常の開栓動作では、リングプルに指を掛けて、(1)キャップの裾部を引き裂いて、内圧を解放(この時点では、キャップは容器にしっかりと固定されている)せしめ、(2)その後、天面のスコア部を引き裂いて、容器からキャップが外れるようにされるのであるが、更に、このリングプル型キャップに対する要求特性の一つに、そのような開栓動作の初期に、内圧で蓋が飛んでしまう問題に係る「耐ブローオフ性」がある。このブローオフという現象は、キャップ裾部を引き裂いて初期の内圧が解放される前に、キャップが容器口部から勢い良く外れて(飛んで)しまい、指等を怪我する問題であって、その原因として、前記(1)の動作をしたときに、キャップ裾部の容器への拘束力が弱いか、或いは、内圧が解放される前に、スコア部が天面まで一気に引き裂かれて、裾部の拘束力が弱ることの何れかで、発生するのである。而して、キャップ素材を薄くする、換言すれば軽量化すると、素材の剛性が低下し、キャップ裾部の容器への拘束力が減少するようになるのであり、また、開栓時のスコアからの脱線を避けるために、スコア残厚を薄くする必要があるが、それらは、何れも、耐ブローオフ性を低下させることとなるところから、リングプル型キャップの薄肉化が困難とされているのが現状である。
ここにおいて、リングプル型キャップに用いられている板状素材において、現在の板厚は、0.2〜0.3mmが主流となっているのであるが、先に触れた環境負荷低減の観点から、その板厚を0.2mm以下とすることが、求められている他、そのようなリングプル型キャップは、リサイクル出来ることも、環境負荷低減の観点からは重要であり、アルミボトルや飲料缶等と一緒にリサイクルすることが出来ることが良いと考えられる。
而して、アルミボトルやアルミニウム缶は、一般に、そのボデー材として、A3004合金が使用され、また、エンド材やタブ材では、A5082合金やA5182合金が使用されており、それら合金は、AlにMnやMg、場合によってはCuが添加され、不純物としてSiやFe、Zn等が含まれた合金組成を有しているのである。これに対して、リングプル型キャップに用いられるアルミニウム合金板素材としては、従来より、A5052合金又はA3105合金が使用されているところ、後者のA3105合金は、引き裂き性に優れるものの、材料強度が低いために、炭酸飲料等の内圧の高いキャップのように、強度を必要とするものには不向きであったのである。このため、現在のリングプル型キャップの素材の材質には、Mg添加量の多い、高強度化が可能なA5052合金が用いられているのであるが、このリングプル型キャップ用のA5052合金には、Mgの他にも、Crが添加されているのが、その特徴となっている。しかし、Crは、強度増加の他に、結晶粒サイズの微細化に効果があるものの、前記したアルミニウム缶と併せたリサイクルが出来ないという問題を内在している。
また、リングプル型キャップを得るには、塗装した板材を絞り成形(浅絞り)することによる加工が施されることとなるが、そのような絞り成形によって生じた耳(口端部の周方向高さ分布)が大きいと、キャップ成形後の搬送時にガイド等に引っ掛かる等のトラブルが発生し易くなるために、その耳形状の制御が必要となるところ、前述の如く、キャップの薄肉軽量化のために、それを与える板素材を薄肉化すると、熱間圧延条件(圧下率、温度)や冷間圧延の圧下率が変化することとなるために、適正な耳形状を得ることが難しくなるという問題を内在している。
そこで、特開平9−291331号公報(特許文献1)においては、キャップ材の薄肉化に伴ない、開栓性及びシーミング特性が優れたリングプル型キャップ用アルミニウム合金板及びその製造方法を提供することが目的とされて、そこでは、開栓性及びシーミング特性に着眼して、その開栓性には、金属間化合物分布の制御、またシーミング性には、材料の耳形状が重要であるとして、圧延45°方向の4つの山(耳)を発生せしめることが良いとされ、更にその素材の製造方法として、Mg,Mn,Fe,Si及びAlからなるAl合金鋳塊を均質化処理した後、熱間圧延を施し、更に、中間焼鈍を含んだ冷間圧延工程にて、リングプル型キャップに適した強度に調整する必要があることが、明らかにされている。しかしながら、そのようなリングプル型キャップを与える板状素材の製造工程において、その冷間圧延の途中に、中間焼鈍を採用することは、環境面、特にCO2 削減の観点からして望ましくなく、そのために、中間焼鈍を採用しない工程によって、リングプル型キャップを与えるアルミニウム合金板状素材を得る手法の開発が、要請されているのである。
ここにおいて、本発明は、リングプル型キャップの薄肉軽量化に際して惹起されるブローオフや引き裂き性の問題に加えて、リサイクル性等の問題の解消を図るべく、先ず、リングプル型キャップの板状素材となるアルミニウム(Al)合金板を与えるAl合金が、所定量のMg,Mn,Fe,Si及びCuを含む合金組成にて、構成されるようにしたのである。
そして、そのような本発明に従うアルミニウム合金板を与えるAl合金において、その合金成分の一つであるMg(マグネシウム)は、成形性を維持しながら、キャップとしての強度を得るために必須の成分であって、その含有量は、2.2〜2.8質量%に維持される必要がある。これにより、キャップとしての強度、成形性及び開栓性を、良好に保持することが出来るのである。リングプル型キャップを薄肉化するためには、Mg量は、少なくとも2.2質量%以上添加しないと、キャップとしての強度、即ち打栓(シーミング)後の内容物による内圧に対する耐圧性や、開栓時の耐ブローオフ性が劣るようになるからであり、また、このMg量が2.8質量%を超えるようになると、強度が高くなり過ぎて、キャップの成形性が劣るようになることに加えて、加工硬化性も増加して、打栓後のキャップ裾部のスプリングバックが大きくなり、開栓時の耐ブローオフ性が劣ることとなるからである。なお、更なる薄肉化を考慮すると、強度を高めにすることが望ましいところから、かかるMg量の好ましい範囲は、2.5〜2.8質量%である。
また、Mn(マンガン)は、キャップとしての強度を得るために必要な成分であることに加えて、Fe等の元素と共に金属間化合物を形成し、熱間圧延後の再結晶粒を細かくする効果がある。そして、熱間圧延板における再結晶粒を細かくすることにより、その後の冷間圧延した板において、異方性が緩和されることとなり、以て、カップを絞り成形した際に形成される6つの山(圧延方向に対して0°と180°の方向に位置する2つの山、及び45°の方向に位置する4つの山)が均一となり、キャップ成形後の搬送のトラブルを効果的に抑制することが出来ると共に、キャップの開栓性が有利に向上せしめられ得るのであり、また、上記の金属間化合物の形成により、開栓時の亀裂の起点や伝播経路となるために、開栓初期のブローオフ及びその後の天面部の開栓性が向上せしめられ得ることとなる。しかも、従来のCr添加から、Mn添加に変えることにより、ボトル缶等で使われるボデー材(3000系合金)とのリサイクルも可能となるのである。
そして、このようなMnの添加による効果を得るためには、その含有量が0.20質量%以上となるように添加する必要がある。また、このMn含有量が0.50質量%を超えるようになると、鋳造時に、Fe等の元素と共に巨大な金属間化合物を形成して、成形時の割れの起点になる恐れが生じると共に、強度が高くなり過ぎて、開栓性が低下する等の問題を惹起する。なお、更なる薄肉化を考慮すると、強度も高めにする必要があるところから、かかるMn量の好ましい範囲は、0.35〜0.50質量%である。
さらに、Fe(鉄)は、Mn等と共に金属間化合物を形成し、熱間圧延後の再結晶粒を細かくする効果があると共に、開栓性を向上させる効果があり、そのために、0.20〜0.40質量%の範囲内の含有量となるように調整される。このFe量が0.20質量%未満では、前述の効果が得られ難くなる他、地金の純度を高める必要があり、リサイクル材を使用することが出来なくなるために、環境負荷が大きくなる問題を惹起する。一方、Fe量が0.40質量%を超えるようになると、巨大な化合物が生成し、成形時の割れや開栓性の低下を招く等の問題を惹起する。なお、更なる薄肉化により、スコアレシジュアル(スコア部の残厚)が薄くなることにより、誤開栓等の問題が発生することとなるところから、かかるFe量の好ましい範囲は、0.20〜0.35質量%である。
更にまた、Si(ケイ素)は、基本的には不純物元素であるが、リサイクル材の使用を促進するために、0.10質量%以上の含有量であることが好ましく、一方、その含有量が0.20質量%を超えるようになると、Mgとの金属間化合物の形成や、MnやFeとの金属間化合物の形成により、MgやMnの固溶量を低減させ、強度が得られなくなる問題を惹起する。
加えて、Cu(銅)は、キャップとしての強度を得るために必要な合金成分であって、Cu含有量が0.01質量%未満では、その効果は得られず、また0.15質量%を超えるようになると、強度が高くなり過ぎて、成形性が低下するようになるところから、Cu含有量は、0.01〜0.15質量%の範囲内とする必要がある。
そして、本発明に従うAl合金は、上記した必須の合金成分の他にも、必要に応じて、Ti(チタン)が、0.01〜0.10質量%の範囲において、更に含有せしめられることとなる。このTiは、製造時にAl合金鋳塊のミクロ偏析を軽減させ、金属間化合物を細かく分散させることにより、結晶粒を細かくすることが出来る効果を有し、組織を均一にすることが出来る特徴を有している。そして、この効果を得るために、かかるTiは、0.01質量%以上で含有せしめられることが好ましいのであり、またこのTiが過剰に添加されると、Al−Ti化合物が介在物として残存してしまうようになるところから、0.10質量%以下の含有量となるように調整されることが好ましいのである。
なお、本発明に従うAl合金は、上記した各合金成分の他、残部がAlと不可避的不純物からなるものである。この不可避的不純物は、目的とするAl合金の調製に際して、必然的に混入するものであって、公知の不純物割合において存在するように、その含有量が制御されることとなる。例えば、そのような不可避的不純物として、ZnやCr等の含有も考えられるが、それぞれ、0.10質量%以下であれば、強度や開栓性、耐ブローオフ性等を損なうものではないところから、それら成分の含有も許容され、また、その範囲内であれば、リサイクル性も損なわれることはないのである。
そして、かくの如き合金組成を有するAl合金からなる、本発明に従うリングプル型キャップ用アルミニウム合金板は、キャップの容器への拘束力を維持するために、キャップの絞り成形時に生じる耳形状のバランスを測るべく、絞り成形された成形カップの開口部に発生する耳の耳率が、2%〜5%の範囲内となるように、制御されている。なお、この耳率は、打栓後の容器との拘束力(耐圧性や耐ブローオフ性)に影響するだけでなく、キャップ成形後の搬送トラブルによる生産性の低下にも関係があるために、重要な特性となっているのである。この絞り加工時に発生する耳は、耳の低い位置に比べて素材が伸ばされているために、周方向で薄くなるところから、耳(耳率)が大きいほど、周方向の壁厚分布は大きくなり、容器へのキャップの拘束力が低下することとなるのであり、そのために、耳率は5%以下とする必要がある。また、本発明に従って、中間焼鈍を施さない工程を採用して、目的とするAl合金板を製造する際、かかる耳率が小さくなり過ぎると、熱間圧延板における再結晶状態での耳形状である、圧延方向に対して0°方向と90°方向の4山のうち、特に、0°方向と180°方向の2山が大きくなり、キャップの壁部板厚分布が大きくなって、容器へのキャップの拘束力が低下するようになるところから、かかる耳率は、2%以上とする必要があるのである。
ここで、本発明において用いられるところの「耳率」は、被試験材であるAl合金板から切り出した、直径:55mmの真円形状のブランクを、絞り比:1.67にてカップ状に絞り成形して得られる、成形カップの開口部に発生する耳の耳率として求められるものであって、以下の計算式にて定義されるものである。なお、以下の計算式において、角度は、前記ブランクの中心を通る圧延方向の直線が、ブランクの周縁と交わる一方の交点を0°として、かかるブランクの周縁における部位の角度を示すものであり、また、そこにおいて、各角度における山高さとは、それぞれの角度の部位において生じた山部の、成形カップの底部の底面からの高さを意味し、更に、各角度の谷高さとは、ブランクの各角度位置において生じた谷部の、成形カップの底部の底面からの高さを意味している。
耳率(%)={(45°,135°,225°,315°の山高さ平均)−(90° ,270°の谷高さの平均)}÷[{(45°,135°,225°, 315°の山高さ平均)+(90°,270°の谷高さの平均)}÷2 ]×100
また、本発明に従うAl合金板にあっては、その結晶粒組織も重要であって、そのために、板面における結晶粒サイズが、圧延方向に対して、幅が30〜100μmの範囲内にあり、且つ長さ/幅の比が8以上となるように、構成されている。けだし、結晶粒組織のサイズは、絞り加工性のみならず、開栓性にも大きく影響することとなるからであり、そこで、板面における結晶粒の圧延方向に対して直角な方向となる幅が100μmを超えるようになると、絞り成形時に肌荒れを起こして、外観不良となる問題が惹起され、また、その幅が30μmよりも狭くなると、結晶粒界の増加により、開栓時のスコア引き裂き力が増加し、開栓性が低下することに加えて、成分(特に、MnやFeの増加)や製造工程(特に、均質化熱処理から熱間圧延条件)を更に制御する必要が生じ、生産性を阻害するようになるために、好ましくないのである。このため、そのような結晶粒サイズは、圧延方向に対して、幅が30〜100μmとなるように、制御されることとなるのである。
しかも、そのような板面における結晶粒サイズにおいて、圧延方向における結晶粒の長さ/幅の比も、開栓性に重要なファクターとなっている。けだし、リングプル型キャップに設けられるスコアは、板素材の圧延方向に対して垂直に位置せしめられるものであるところ、かかるスコアを引き裂くことからなる開栓動作に必要な引き裂き力は、伸長した組織に対して垂直に引き裂いた方が、並行に引き裂いた時よりも低下することとなるからである。そして、圧延方向に対する結晶粒の長さ/幅の比を8以上とすることにより、かかる引き裂き性の向上、換言すれば引き裂き力の低減が、効果的に図られ得るのである。なお、そのような長さ/幅の比は、冷間圧延率とそれに伴なう強度や耳率に影響されるため、その上限は、一般的に、12程度とされることとなる。
さらに、本発明に従うリングプル型キャップ用Al合金板にあっては、それから得られるリングプル型キャップが、塗装後に成形され、そして容器に打栓されることとなるために、塗装後の強度が重要であり、特に、薄肉化、例えば0.20mm以下の板素材となると、キャップの耐圧性の低下が問題となるために、その高強度化が必要となるのであり、そのために、塗装焼付け作業を想定した190℃×10分の熱処理後において、その圧延方向の引張強さが、280〜320MPaとなるように、制御される必要がある。なお、かかる引張強さが280MPa未満となると、耐圧性不足となり、キャップとしての目的が充分に達成し難くなる問題があり、また、320MPaを超えるようになると、絞り加工時に皺が発生して、キャップとしての密閉性能が得られず、また開栓力も増加して、開栓性が低下するようになるのである。
ところで、上述の如き本発明に従うリングプル型キャップ用Al合金板を製造するに際しては、先ず、常法に従って鋳造して、前述せる如き合金組成のAl合金からなる鋳塊を得、そしてその得られたAl合金鋳塊に対して、所定の均質化処理、熱間粗圧延、熱間仕上げ圧延、冷却、冷間圧延、及び安定化熱処理が、施されることとなる。
ここにおいて、本発明に従うリングプル型キャップ用Al合金板の製造に際して採用される均質化処理においては、半連続鋳造(DC鋳造)等の公知の鋳造方法によって鋳造して得られた、スラブ厚が450〜600mm程度の、本発明に従う合金組成を有するAl合金鋳塊を用い、その加熱昇温過程における、少なくとも400〜460℃の温度域を、30℃/時間以上の昇温速度で昇温せしめ、そして、460〜540℃の温度域で2〜24時間保持することにより、目的とする均質化処理が実施されることとなる。そして、このような均質化処理により、熱間圧延板の再結晶時に形成される再結晶集合組織であるCube方位の成長を抑制するのに有効な析出物の大きさと分布にすることが出来るのである。ここで、そのような析出物は、Al−Mn系及びAl−Mn−Si系のものであり、480℃付近で最も多く析出するものであるが、そのような化合物は、母相との界面エネルギーが他の金属間化合物と比べて高く、且つ微細な球状に析出することで、Cube方位粒への成長の抑制に効果があるものである。
特に、そのような400〜460℃の温度領域における昇温速度は、上記した金属間化合物の析出挙動に大きく影響し、それが30℃/時間よりも低くなると、その温度域における保持時間が長くなり、析出物サイズが0.5μm以下と微細なままとなってしまい、熱間圧延終了時に完全な再結晶組織が得られず、そのために、キャップ材の強度が過度に高くなり、また耳率も大きくなる問題を惹起する。なお、この昇温速度の上限としては、技術的な見地から、一般に、200℃/時間程度とされることとなる。
そして、均質化処理は、かかる昇温工程の後、460〜540℃の温度域に保持することにより、行なわれることとなるが、その保持温度が460℃未満では、拡散速度が遅くなるために、化合物サイズが0.5μm以下と微細になり過ぎ、熱間圧延終了時に完全な再結晶組織が得られなくなる問題が生じるのであり、また、保持温度が540℃を超えるようになると、平衡状態で存在する化合物の量が減少するために、析出量が不充分となる問題があり、加えて、母相との界面エネルギーが比較的低く、析出物サイズが大きくなり易く、熱間圧延後のCube方位への成長抑制効果が低下する問題がある。更に、460〜540℃の温度域での保持時間が、2時間未満となると、上記の析出量が不充分となり、また、24時間を超える場合には、析出物が粗大化するようになることから、熱間圧延後のCube方位への成長抑制効果が低下することに加えて、その長時間化は、製造エネルギーも多大に要するため、環境負荷の観点からも望ましくないのである。なお、再結晶した熱間圧延板において、Cube方位が多く集積すると、0°方向や90°方向の4山の耳率が大きくなり、冷間圧延後にも適正な耳率を得ることが困難となるのである。
また、上記の均質化処理の後に実施される熱間粗圧延では、パス毎の圧下率が5〜35%、圧延温度が460〜540℃の範囲で、15分以内において、粗圧延が行なわれるようにされる。なお、この粗圧延は、公知の圧延機を用いて実施可能であるが、有利には、リバース式の粗圧延機で行なわれることが望ましい。ところで、この熱間粗圧延工程において、圧延温度が540℃を超える場合には、圧延ロールに素材が凝着し、素材表面の悪化を招く恐れがある。熱間圧延中では、金属間化合物の析出サイトが逐次導入されることとなるために、短時間でも密に析出することが出来るが、圧延温度が460℃未満となると、前記した均質化処理温度が460℃未満の場合と同様に、化合物が微細に析出するようになり、熱間圧延終了後に完全な再結晶組織を得ることが出来なくなる。更に、圧下率が5%未満となると、加工発熱量が少なくなるために、圧延温度が460℃を下回る可能性があり、一方、35%を超えるようになると、加工発熱量が大きくなり、540℃を超える恐れが生じる。そして、このような熱間粗圧延操作は、15分以内に終了させる必要があり、それよりも長くなると、上記と同様に析出物が微細に析出する時間が増加するため、熱間圧延後に完全な再結晶組織を得ることが出来ない等の問題を惹起する。なお、このような熱間粗圧延によって、厚さが22〜32mm程度の熱間粗圧延板が製造されるのである。
次いで、かかる熱間粗圧延に続いて実施される熱間仕上げ圧延では、公知の各種の熱間圧延機、有利には、3スタンド以上のタンデム式熱間圧延機を用いて、終了温度が300〜350℃となるようにして、実施されることとなる。この熱間仕上げ圧延において、その終了温度が300℃よりも低くなると、充分な再結晶組織が得られず、製品板の45°耳が大きくなり過ぎて、キャップ製造時の搬送トラブルになる他、口端部のうねりが大きくなるために、キャップとしての密閉性能が得られなくなる問題があり、一方、350℃を超えるようになると、圧延素材の一部が圧延ロールに凝着し、熱間圧延板の面質の低下を招く恐れがある。なお、この熱間仕上げ圧延において、圧下率としては、一般に、88〜94%程度が採用されることとなる。この圧下率が低くなり過ぎると、熱間仕上げ圧延中に蓄積されるひずみ量が少なく、圧延終了後の再結晶が不充分となるのであり、また、圧下率が高くなり過ぎると、スタンド毎の圧下量が増し、圧延素材の一部が圧延ロールに凝着し、得られる熱間圧延板の面質の低下を招く恐れがあるからである。そして、このような熱間仕上げ圧延によって、厚さが1.8〜2.8mm程度の熱間圧延板が形成されるのである。
そして、本発明にあっては、かくの如き熱間仕上げ圧延の施された直後の板を、その熱間圧延終了温度の熱い状態から、冷却速度:20℃/時間以下において、50℃以下の常温付近にまで冷却せしめる冷却工程が採用され、これによって、熱間圧延板における再結晶が充分に進行せしめられて、本発明の目的とする耳率特性が有利に実現されるように、構成されるのである。なお、そのような冷却速度での冷却工程に先立って、前記熱間仕上げ圧延直後の板を、300℃以上の温度で1時間以上保持する保持工程を採用し、そしてこの保持工程を経た熱間圧延板を上述の如く冷却するようにすれば、かかる熱間圧延板の再結晶を、更に充分に行なうことが出来、また、その耳率特性の向上も、より一層有利に図り得ることとなる。なお、このような保持工程における保持温度や保持時間の上限は、そのような保持による作用乃至は効果を考慮して、適宜に選定されることとなるが、一般に、保持温度の上限としては、350℃程度、また保持時間の上限としては、5時間程度が、その目処とされることとなる。
次いで、かかる冷却処理が施されてなる板材には、更に、冷間圧延が施されて、目的とする板厚のAl合金板とされるのであるが、その際の冷間圧延は、通常のAl板材の冷間圧延に際して採用されている中間焼鈍が何等採用されることはなく、圧下率が86〜93%となるようにして、実施されることとなる。このように、焼鈍することなく、冷間圧延を実施することにより、CO2 の削減が図られ、環境負荷の低減に有利に寄与し得ることとなるのである。そして、このような冷間圧延によって、一般に、厚さが0.25mm以下のAl合金板が、有利に製造され得るのである。
なお、この冷間圧延において、その圧下率が86%よりも低くなると、キャップとしての強度が得られ難く、また、圧延方向に対して0°方向や180°方向における耳を充分に小さくすることが出来ず、且つ45°方向における耳が小さくなるため、キャップ成形後の搬送時に不安定となり、生産性が低下する問題があり、更に、打栓後にキャップ口端部のうねりが大きくなるために、キャップとしての密閉性能が充分に確保され得ない等の問題を生じる。また、製品板が薄い場合にあっては、熱間圧延の工程で得られる熱間圧延板を薄くする必要があるが、その場合に、熱間圧延後の冷却速度が速くなり、充分な再結晶組織を得ることが困難となるのである。一方、その圧下率が93%を超えるようになると、得られる板材の加工硬化が著しくなり、そのために、成形性や耐ブローオフ性が劣ることとなる問題があり、また、所望の耳率が得られず、生産性も劣ることとなる。
その後、この冷間圧延されたAl合金板には、180〜240℃×1〜5時間の安定化熱処理が施される。この安定化熱処理では、冷間圧延によって蓄積されたひずみを緩和して、板面のひずみ分布を均一と為し、塗装焼付け時のウィケットマークの発生を防止するために行なわれるものである。そして、この安定化熱処理温度が高いほど、その効果は得られるものの、240℃を超えると、材料強度が低下するようになるため、キャップの強度が得られなくなる問題を惹起する。一方、180℃未満の処理温度では、ひずみの緩和が惹起され難く、充分な安定化熱処理を施すことが困難となるのである。また、処理時間が1時間未満となると、上記の処理効果を得ることが困難となるのであり、更に、5時間を超えるようになると、材料強度の低下等を招くことに加えて、環境負荷の観点からしても、望ましくはないのである。
かくの如くして、本発明に従うAl合金板が得られることとなるのであるが、そのようなAl合金板にあっては、前述の如き耳率、結晶粒サイズ及び引張強さを備えて、リングプル型キャップ用の板材として、好適に用いられ得るものとなっているのであり、また、そのような特性を備えることによって、その板厚の薄肉化が有利に図られ得て、ブローオフすることなく、開栓性に優れ、且つリサイクル性にも優れた特性を発揮せしめつつ、環境負荷の効果的な低減を図り得るのである。
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
−実施例1−
先ず、下記表1に示される各種合金組成のAl合金(合金No.1〜16)を、それぞれ溶製した後、通常の半連続鋳造法(DC鋳造法)に従って、厚みが500mmの各種の角型鋳塊(スラブ)に造塊した。そして、この得られた各種鋳塊を、その圧延面となる面と、その幅方向の両面とを、それぞれ15mmずつ面削した後、均質化処理を実施した。この均質化処理において、それぞれの鋳塊の加熱昇温に際して、400〜460℃の領域における昇温速度が35〜45℃/時間となるように調整して、500℃まで加熱し、そして、6時間保持することにより、それぞれの均質化処理を実施した。
次いで、この均質化処理された各種鋳塊の熱間粗圧延を、リバース式圧延機を用いて行ない、パス毎の圧延率が8〜30%となるようにして、圧延開始から13分以内で完了するように実施した。なお、この熱間粗圧延中の材料温度は、466〜493℃であった。更に、引き続き、熱間仕上げ圧延を、4スタンドのタンデム式圧延機を用いて行ない、その圧延終了温度が320〜345℃となるようにして、板厚が2.3mmの熱間圧延板を得た。そして、この熱間圧延板を、熱間圧延後の熱い状態から、冷却速度が15〜20℃/時間となるようにして、50℃以下の温度にまで冷却した。
その後、かくして得られた各熱間圧延板に対して、圧下率:91%で、冷間圧延を実施して、板厚が0.20mmの冷間圧延板をそれぞれ得た。なお、この冷間圧延中において、何等の中間焼鈍処理も実施されることはなかった。更に、かくして得られた各種冷間圧延板を、バッチ炉にて、180℃×2時間の安定化熱処理を施し、下記表1に示される合金No.1〜16に係る16種のAl合金板を得た。
そして、かくして得られた16種のAl合金板を試料として用いて、それぞれ、オイルバスにて190℃×10分の熱処理を実施した後、放冷し、更に、その得られた16種の試料について、耳率の測定、結晶粒組織の観察、引張強さの測定及び引き裂き試験を、以下の如くして行ない、その得られた結果を、下記表2に併せ示した。
−耳率の測定−
各試料から、直径:55mmの真円形状の試験用ブランクをそれぞれ切り出し、そしてそのブランクを、パンチ径:33mmφ、パンチ肩R:1.5mmの金型を用いて、絞り比:1.67でカップ状に絞り成形し、その開口部に発生する耳の高さ分布を測定して、下記の式にて、耳率を算出した。なお、下式における角度は、圧延方向に対する角度であり、山高さ及び谷高さは、それぞれ、成形されたカップの底部の底面からの山部の高さ及び谷部の高さを示している。そして、得られた耳率が2〜5%の範囲を合格とし、それ以外の場合には不合格とした。
耳率(%)={(45°,135°,225°,315°の山高さ平均)−(90° ,270°の谷高さの平均)}÷[{(45°,135°,225°, 315°の山高さ平均)+(90°,270°の谷高さの平均)}÷2 ]×100
−結晶粒組織の観察−
各試料の板面を電解研磨して、結晶粒を観察した。結晶粒の圧延方向及びその幅方向の寸法は、JIS H 0501の切断法に準拠して行なった。即ち、0.7mm×0.9mmの視野の組織を100倍に拡大した結晶粒組織写真を用いて、圧延方向/幅方向の視野全体に線分を引いて、完全に切られる結晶粒数をそれぞれ数えて、その切断長さの平均値(mm)を求めた。そして、この平均値の測定を、1枚の上記結晶粒組織写真上(1視野)の3箇所で線分を引いて、それぞれ行ない、更に、異なる5箇所の部分の結晶粒組織写真(5視野)で、同様に行なった。そして、合計15の上記平均値の平均を、結晶粒の圧延方向に対する幅、長さとした。その結果、得られた結晶粒サイズが30〜100μmの範囲、長さ/幅の比が8以上を合格とし、それ以外を不合格とした。
−引張強さの測定−
各試料から、圧延方向に対して0°の角度を為す方向に、JIS Z 2201の5号試験片を採取して、JIS Z 2241に準拠して引張試験を行ない、その引張強さを測定した。そして、引張強さが280〜320MPaの範囲内のものを合格とし、それ以外のものを不合格とした。
−引き裂き試験−
開栓性の評価の代替として、平板での引き裂き試験を実施した。各材料から、50mm×30mmの試験片を切り出し、その際、長手となる方が圧延方向となるものと、圧延方向とは直角な方向となるものの2種類の試験片を得た。また、それぞれの試験片には、図1(a)に示される如く、幅:1mm、長さ:25mm、先端R:1.0mmのスリットを加工すると共に、そのスリットの先端からはスコア(溝)を加工し、その残厚は120μmとした。
そして、それぞれの試験片についての引き裂き試験は、引張試験機を用い、図1(b)に示される矢印の方向に引き裂き、このスコア引き裂き時の最大荷重で、その引き裂き力を評価した。この得られた引き裂き力に関し、スコアが圧延方向に対して平行な場合において7.8Nを超える場合に、また、圧延方向と直角な方向の場合には6.9Nを超える場合には、不合格とした。
かかる表2には、耳率、結晶粒サイズ、引張強さ及び引き裂き力を評価した結果、そのうちの何れもが合格である場合には、総合判定において○とする一方、それら評価結果の少なくとも何れか一つが不合格である場合には、総合判定においては×として、その結果が併せて示されているが、本発明に従う合金組成を有する合金No.1〜6より得られたAl合金板は、何れも、総合判定が○となり、リングプル型キャップ用の素材として、有利に用いられ得ることが明らかとなった。これに対して、本発明の範囲外の合金組成を有する合金No.7〜16に係るAl合金板にあっては、何れも、少なくとも一つの評価において不合格となり、リングプル型キャップ用素材としては不充分な特性を有するものであることが明らかとなった。
−実施例2−
実施例1における合金No.2に係る合金組成を有するAl合金鋳塊を用いて、下記表3に示される製造工程A〜Tの各種の条件下において、実施例1と同様にして、面削、均質化処理、熱間粗圧延、熱間仕上げ圧延、冷却、冷間圧延及び安定化熱処理を実施し、それぞれの製造工程に対応する、Al合金板材からなる20種類の供試材A〜Tを得た。なお、製造工程B,C及びDにおいては、熱間仕上げ圧延の後、所定の冷却速度での冷却に先立ち、それぞれの熱間仕上げ圧延材を、保持炉において330℃×2時間の保持を行ない、その後、それぞれの冷却速度において、室温まで冷却せしめた。
次いで、このようにした得られた各製造工程に対応する供試材A〜Tに対して、それぞれ、オイルバスにて190℃×10分の熱処理を施した後、放冷し、そして、実施例1と同様にして、耳率の測定、結晶粒組織の観察、引張強さの測定及び引き裂き試験を実施して、その結果を、下記表4に併せて示した。また、それら試験結果に対する総合判定を、実施例1と同様な基準に加えて、製造条件に基づく板材品質を考慮して行ない、その結果を、下記表4に併せ示した。
かかる表4の結果から明らかなように、本発明に従う製造工程A〜Dにおいて得られた供試材A〜Dにあっては、何れも、耳率、結晶粒サイズ、引張強さ及び引き裂き力が望ましいものとなり、以て、薄肉化しても、ブローオフすることなく、開栓性に優れたリングプル型キャップを与えるAl合金板であるものと認められ、また、それらは、Crを含まない合金組成のAl合金(No.2)からなるものであるために、そのリサイクル性にも優れていることが認められるのである。
これに対して、本発明とは異なる製造条件を採用する製造工程E〜Tに対応する供試材E〜Tにあっては、その製造工程において、また、その物性や品質において、少なからぬ問題を内在するものであった。例えば、供試材K,M及びOにあっては、その何れもが、耳率、結晶粒サイズ、引張強さ及び引き裂き力の何れにおいても合格するものであり、本発明に従うリングプル型キャップ用アルミニウム合金板として用いられ得るものではあるが、その製造工程において、ロールへのアルミ凝着が惹起され、そのために、板面荒れが生じて、品質の低下したものとなったため、総合判定においては、×との評価が為されている。また、供試材E〜Jにあっては、Al−Mn−Si系析出物が微細となったり、大きくなったりして、熱間圧延後の再結晶組織が不良となったり、或いは、熱間圧延後のCube方位の成長抑制効果が低減したりする問題が生じ、その結果、耳率が低くなって、容器へのキャップの拘束力が低下したり、或いは、引き裂き力が大きくなって、開栓性を悪化せしめる等の問題を惹起するものであることが認められる。同様に、供試材N,Pにおいても、熱間圧延後の再結晶が不充分となって、引き裂き力に問題を有するものであった。更に、供試材L,Q,R,Tにおいても、引き裂き力が大きくなって、大きな開栓力が必要となり、その開栓性を悪化せしめる問題があり、加えて、供試材Sにあっては、引張強さが低いために、耐圧性に不足し、キャップとしての密閉性能を欠如する問題を有しているのである。