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JP5625464B2 - 耐久性に優れたコンクリート柱 - Google Patents
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JP5625464B2 - 耐久性に優れたコンクリート柱 - Google Patents

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Description

本発明は、コンクリート損傷時に内部鋼材の耐腐食性に優れたコンクリート柱に関するものである。
架空電力線や柱上変圧器を支える電力支持物にはコンクリート柱が一般的に使用されている。コンクリート柱内部には、コンクリート柱に圧縮応力(プレストレス)を付与するための緊張鋼材と、緊張鋼材に沿って配置される非緊張鋼材とが配筋されている。これらのコンクリート柱は遠心成型法で製造されるため、水セメント比が通常のコンクリート構造物よりも小さく、通常の屋外環境では中性化などの経年劣化をほとんど生じない。また、コンクリート柱内部の鋼材はコンクリートによりアルカリ環境に保持されるため腐食が生じにくく、長期間健全な状態が保持される。
電力支持物であるコンクリート柱は、通常供用時で想定される電力線や装柱機材からの荷重(許容荷重)に耐えうるように設計された上で建柱され、一定期間毎の巡視点検によりひび割れなどの状態を管理しながら使用される。
しかし、管理者に無許可でケーブルなどを設置され設計外の負荷を受けたり、自動車の衝突や台風などの自然災害などの想定外の荷重を受けて、コンクリート柱にひび割れが入る場合がある。ひび割れの状態によってはひびを介して雨水が侵入し鋼材の腐食劣化を生じ、腐食劣化が進行すると鋼材破断の要因となり得る。
コンクリート柱の損傷は、通常は巡視点検などの監視により発見され、補修や建て替えが行われる。巡視点検のサイクルは、鋼材腐食の進行速度等を考慮して設定される。例えばコンクリート損傷時の鋼材腐食の進行が速いと、巡視点検のサイクルを短縮する(頻度を高める)必要がある。このため、コンクリート損傷時の鋼材腐食の進行を大幅に遅らせる技術は、巡視点検の負荷軽減や突発的な自然災害に対する耐久性向上、さらにはコンクリート柱の長寿命化に大きな寄与が期待できる。
コンクリート柱の鋼材腐食による破断は、腐食部を起点として割れや減肉を生じ負荷応力に耐えられなくなることで生じる。コンクリート柱が災害などにより受けた損傷状態によっては、設計上の応力を主に負担する緊張鋼材だけでなく、非緊張鋼材にも応力が作用して、両方の鋼材が破断する場合がある。特に、高強度鋼材に高い応力が負荷された状態では、鋼材が脆化する腐食が生じ腐食部を起点として脆性破断を生じる可能性のあることが知られている(非特許文献1参照)。
このような対策として、樹脂で被覆した鋼材を用いて鋼材腐食を抑制する手法が開示されている(特許文献1〜3参照)。また、材料にクロムを含有させた耐食性の優れたステンレス製鋼材を用いて腐食を抑制する手法が開示されている(非特許文献2参照)。さらに、表面軟質化処理を施した鋼材を用いて脆化を伴う腐食破断を抑制する手法が開示されている(特許文献4参照)。
特開平7−54441号公報 特開平4−212570号公報 特開昭62−267420号公報 WO2009/123227号公報
南雲道彦著、「水素脆化の基礎」、内田老鶴圃、2008年12月発行 白濱昭二ら、「2相ステンレスPC鋼材の基礎的諸特性およびこれを用いたプレストレストコンクリート部材の曲げ載荷特性に関する研究」、Journal of the Society of Materials Science, Japan 48(10)、1999年10月発行、pp.1199-1206
しかし、特許文献1〜3に記載の樹脂被覆による鋼材の腐食抑制方法では、樹脂はコンクリート柱の損傷時に疵がつき内部の鋼材が露出する恐れがある。また、非特許文献2に記載のステンレス鋼を用いた方法では、ステンレスはコンクリート柱を連続生産する際、加工性が現行の鋼材と異なるため鋼材の直線性が得られにくい。さらに、樹脂やステンレスなど高価な素材を用いるとコンクリート柱の製造コストが増加する。
特許文献4に記載の表面軟化処理を行う方法でも、表面軟質化を施した鋼材は軟質層が腐食により消失すると鋼材の腐食破断を生じる可能性がある。
そこで、本発明は、コンクリート柱に設計想定外のひび割れが入り、ひびを介して雨水が侵入する状態に鋼材がさらされても鋼材の腐食劣化の進展や鋼材の破断を著しく抑制することが可能な耐久性に優れたコンクリート柱を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために本発明者らは、まずコンクリート柱にひび割れを導入した状態でコンクリート内の鋼材の腐食速度を調査した。その結果、鋼材のかぶり厚tが15mm以上を有していれば、コンクリート内の腐食環境が通常の管理基準を超えるひび割れ部であっても、鋼材の腐食速度を年間20μm程度に抑制できることを見出した。また、コンクリート柱製造後の鋼材に観察される表面疵は深さが20μm程度であることを確認した。
これらの知見より、鋼材表面に一定厚さの腐食代を付与することにより鋼材の腐食破断をある程度抑制できることを見出した。腐食代部分の鋼材の材質は、低硬度の軟化層にすると腐食箇所を起点とした割れなどを生じにくいため効果的である。腐食代の厚さとしては、初期に20μm程度の疵があり、巡視点検期間を最長10年として巡視期間の間に腐食が進行し、その後コンクリート柱の建て替えに要する期間を1年とすれば約250μmの厚さが目安となる。
また、コンクリート柱には電線などの付属物を取り付た状態での風圧を考慮した設計荷重が規定されているが、設計荷重に対して一定量以上の鋼材を有していれば、ひび割れが生じてもひび割れ幅の増大を抑制できることを見出した。
更に、コンクリート柱の曲げ耐久試験を行い、想定を超える損傷時には非緊張鋼材にも応力がかかり、その際、非緊張鋼材が腐食破断しなければ、緊張鋼材への応力集中や腐食に伴う脆性破断の可能性を低減できることを見出した。
以上から、コンクリート柱に使用する緊張鋼材あるいは、緊張鋼材と非緊張鋼材について、腐食を起点とした脆性割れに耐性がある鋼材を使用することでコンクリート柱の耐久性を向上できることを知見した。特に鋼材表層に250μm程度の一定厚さに管理された低硬度軟化層の腐食代を設けると同時に、コンクリート柱の設計荷重に応じた鋼材量を確保することにより、コンクリート柱に予期せぬ損傷が発生してひび割れが生じても、鋼材が腐食してから破断に至るまでに10年以上の時間を担保でき、安全に建て替えが可能となることを知見し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は次の通りである。
本発明に係わる耐久性に優れたコンクリート柱は、緊張鋼材がかぶり厚15mm以上35mm以下となるように配筋され遠心成型で製造されるコンクリート柱であって、緊張鋼材の中心部の平均硬度である中心硬度HVと表層付近の硬度である表層硬度HVとの差(HV−HV)から求められる硬度差HVが、ビッカース硬度で80超過200以下であり、かつ緊張鋼材の硬度が次式で表される軟化開始硬度HVとなる軟化開始位置から表層までの距離で規定される軟化層厚dが、250μm以上1000μm未満であることを特徴とする。
HV=HV−HV×α・・・・・・・(1)
ここで、αは硬度低下率(0.1≦α<0.2)
また、前記コンクリート柱には前記緊張鋼材に沿って非緊張鋼材もかぶり厚15mm以上35mm以下となるように配筋され、前記非緊張鋼材の前記硬度差HVもビッカース硬度で80超過200以下あり、かつ前記非緊張鋼材の前記軟化層厚dも250μm以上1000μm未満であることが好ましい。
また、前記緊張鋼材の中心部分と硬度が略同一の母材部分が、引張強度の略70%を負荷したFIP試験で破断時間が80時間以上となる焼戻しマルテンサイト組織を有し、前記緊張鋼材をJISZ2201の2号試験片で引張試験を行った場合の引張強度が1420N/mm2以上1800 N/mm2未満であることが好ましい。
また、前記非緊張鋼材の中心部分と硬度が略同一の母材部分が、引張強度の略40%を負荷したFIP試験で破断時間が80時間以上となる焼戻しマルテンサイト組織を有し、前記非緊張鋼材をJISZ2201の2号試験片で引張試験を行った場合の引張強度が1250N/mm2以上1800 N/mm2未満であることが好ましい。
さらに、前記コンクリート柱の地際断面の鋼材総面積S(mm2)が、風圧荷重を考慮した前記コンクリート柱の設計荷重L(N)として、Sが9L以上20L以下の応力を負担できる面積であることが好ましい。
本発明によれば、コンクリート柱に自動車の衝突や台風などの自然災害により設計想定外のひび割れが入り、ひびを介して雨水が侵入する状態に鋼材がさらされても鋼材の腐食劣化の進展や鋼材の破断を著しく抑制することが可能となる。
本発明の実施形態に係わるコンクリート柱に作用する荷重のイメージ図である。 本発明の実施形態に係わるコンクリート柱の概要図である。 本発明の実施形態に係わる鋼材の表層から中心部までの硬度分布のイメージ図である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。
図1は、本発明の実施形態に係わるコンクリート柱に作用する荷重のイメージ図である。本実施形態ではコンクリート柱1として、通常の送電、配電用に用いられるプレストレストコンクリートポールを例にして説明する。
コンクリート柱1は下端部が地中に固定されている。設計荷重として、上部の電力線装架位置には電力線からの荷重Tが点荷重として作用し、全長にわたり風荷重Lが分布荷重として作用する。さらに想定外の荷重も作用する場合もある。例えば、図1には、車両等の衝突荷重が電柱下部に点荷重として作用する場合を図示している。
コンクリート柱1には、通常想定される設計荷重に対して所定の安全率で曲げ耐力を有するように、十分な量の鋼材が配置されている。しかし、想定外の荷重が付加されると、図1に示すように曲げモーメントが最大となる地際でひび割れが発生する場合がある。
図2は、本発明の実施形態に係わるコンクリート柱の概要図である。図2(a)はコンクリート柱1の外観図であり、図2(b)は、コンクリート柱内に埋設される鋼材の組立図である。 図2(a)に示すコンクリート柱1では、ポール下端から上端の方へ行くに従って漸次直径が小さくなるように全長に沿った所定値のテーパーが設けられている。なお、コンクリート柱1はこれに限定されず、本発明はテーパーが無い柱にも適用することができる。
図2(b)に示すように、コンクリート柱内には、籠状に組み立てられた鋼材が埋設されている。これらの籠状鋼材2は、周方向に略均等位置に配置した複数の緊張鋼材3と、緊張鋼材3に沿って配置した複数の非緊張鋼材4と、周方向位置に固定するためのフープ筋5とが組み合わさっている。
緊張鋼材3は、柱全長にわたって配置されている。緊張鋼材が所定位置に組み上げられた後、プレストレスが与えられ、その後、コンクリートが遠心成型される。コンクリートが凝結した後に緊張鋼材3のストレスを開放することでコンクリートに対してプレストレスが与えられてコンクリート柱1を補強する。
緊張鋼材3はプレストレスをコンクリート柱1に導入するだけでなく、コンクリート柱の曲げ耐力を確保するための主筋としても機能する。緊張鋼材の配置本数は導入されるプレストレスや確保すべき曲げ耐力の大きさに応じて適宜設定すれば良い。図中では簡略化のため緊張鋼材を4本配置しているが、これ以上(例えば8本)配置しても良い。
非緊張鋼材4は、柱の長手方向の一部区間に配置されている。図中では、特にテーパーによりコンクリート柱1の下部の緊張鋼材3の周方向間隔が開くため、その間を埋めて補強するために下部に配置されている。また、図中では簡略化のため緊張鋼材の周方向略中間位置に非緊張鋼材を4本配置しているが、緊張鋼材の本数に合わせてこれ以上(例えば8本)配置しても良い。
非緊張鋼材4にはプレストレスは与えられず、設計上も曲げ耐力の算定に考慮されない場合が多い。しかし、想定外の荷重が作用する場合には非緊張鋼材にも応力が作用するため、実質的には非緊張鋼材4により曲げ耐力が増加する。
ここで、緊張鋼材3のコンクリート表層からのかぶり厚tは、15mm以上35mm以下であることが好ましい。かぶり厚tが15mm未満ではひびが入った際に鋼材の腐食の進行が速いが、かぶり厚tが15mm以上では腐食の進行が遅く(腐食速度で20μm/年以下)、腐食抑制効果が認められるためである。また、かぶり厚tを35mm以下とすることで製造にかかるコストの増大を抑制し、経済的にコンクリート柱を製造できる。なお、非緊張鋼材4による曲げ耐力の増加を期待する場合には、非緊張鋼材4のかぶり厚tも同様に規定するのが好ましい。
さらに、本実施形態では鋼材のかぶり厚tだけでなく、鋼材断面の硬度分布にも特徴を持たせることで、鋼材の脆性破断に対する性能を向上させている。詳細には鋼材表面に低硬度の軟化層を設け、軟化層と鋼材中心との硬度差を所定値以上にすることで鋼材の脆性破断を抑制し、さらに、軟化層の厚さを所定値以上にすることで腐食代としての機能も持たせている。
鋼材断面の硬度分布の特徴について図3を用いて説明する。図3は、本発明の実施形態に係わる鋼材の表層から中心部までの硬度分布のイメージ図である。横軸は鋼材表面からの距離dであり、鋼材表面(d=0)から鋼材中心Cまでを表している。縦軸はビッカース硬度Hvである。
まず、軟化層と鋼材中心との硬度差について説明する。本実施形態で対象とする緊張鋼材3は、緊張鋼材3の中心部Cの平均硬度である中心硬度HVと表層付近Aの硬度である表層硬度HVとの差(HV−HV)から求められる硬度差HVが、ビッカース硬度Hvで80超過200以下であることを特徴とする。
硬度差HVがビッカース硬度Hvで80を超過していれば、作用する応力レベルが高い場合にも腐食部の脆化を防止し、鋼材の脆性割れを抑制する効果が母材に対して期待できるためである。また、同200以下であれば、鋼材製造にかかるコストが過大とならず、経済的にコンクリート柱を製造できるためである。
つぎに、軟化層の厚さについて説明する。本実施形態で対象とする緊張鋼材3は、緊張鋼材3の硬度が(1)式で表される軟化開始硬度HVとなる軟化開始位置Bから表層までの距離で規定される軟化層厚dが、250μm以上1000μm未満であることを特徴とする。
(数1)
HV=HV−HV×α・・・・・・・(1)
ここで、αは硬度低下率(0.1≦α<0.2)
硬度が低い軟化層の部分は、鋼材の腐食代として機能する。低硬度部は、腐食しても腐食箇所を起点とした割れなどを生じにくいため腐食代として有効なためである。
腐食代の厚さは、表面疵や巡視点検期間に進行する腐食厚を考慮して設定する。表面疵については、コンクリート柱製造後の鋼材に観察される表面疵深さを確認したところ、20μm程度であることが判明した。
また、巡視点検期間に進行する腐食厚は、巡視点検期間に緊張鋼材3の腐食速度を乗じて算定することができる。ここで、巡視点検期間とは、コンクリート柱1を巡視点検する間隔のことである。通常は3〜5年の期間であるが、点検費用を削減するためこの期間をさらに延伸(例えば10年まで延伸)するのが好ましい。
緊張鋼材3の腐食速度は、かぶり厚tを15mm以上に規定すれば、コンクリート内の腐食環境が通常の管理基準を超えるひび割れ部であっても、年間20μm程度である(詳細は実施例で説明)。表面に20μmの疵が入った部分において10年間の巡視点検期間と1年間の建て替え期間を考慮した場合、下記の通り所要最低腐食代は240μmとなる。
所要最低腐食代
=表面疵+巡視点検最長期間(10年間)に進行する腐食厚
+建て替え期間(1年間)に進行する腐食厚
=20+200+20
=240μm
よって、腐食代として機能する軟化層厚dを250μm以上に規定することで、最大10年間の巡視点検期間でも保守管理可能となり、点検費用を大幅に削減することができる。また、同1000μm未満と規定すること、鋼材製造にかかるコストが過大とならず、経済的にコンクリート柱を製造できる。
ここで、軟化層厚dを求める際に用いる軟化開始硬度HVは、(1)式の通り、中心硬度HVと、硬度差HVに硬度低下率α(0.1以上0.2未満)を乗じた値との差から求められる。硬度低下率αを0.1以上とすることで、鋼材中心部の硬度のバラツキの影響を受けずに、純粋に軟化開始した位置を特定できる。また、同0.2未満とすることで、軟化層として評価できる範囲を過小評価せずに適切に考慮できる。
表層位置Aは、鋼材表層から所定深さの位置のことを指す。所定深さは、鋼材表層の被覆、汚れなどによる影響を排除できるように適宜設定すればよく、一般に30μm程度に設定すればよい。
鋼材表層に軟化層を設ける処理方法は、特に限定されず、公知の方法を適宜選択して採用すればよい。なかでも、特許文献4に記載の表面軟質化処理方法が好ましい。特許文献4の表面軟質化処理方法では、焼入れ工程後の焼戻し工程において、加熱手段として高周波誘導加熱を行う。高周波誘導加熱による焼戻しでは鋼材自体が発熱するが、この発熱部の深さは、焼戻加熱コイルのコイルターン数と周波数、入力電気エネルギー、加熱温度、加熱時間、放冷時間の組合せにより調節することができる。つまり、軟化層の硬度や厚さを一定範囲で制御しながら軟化層を形成することができる点が本実施形態に適している。
対象とする鋼材には緊張鋼材3と非緊張鋼材4の両方が含まれる。ここでは代表的に緊張鋼材3を対象として説明したが、非緊張鋼材4を曲げ耐力補強用の補強筋として扱う場合には、非緊張鋼材4に対しても緊張鋼材3と同様の硬度分布を規定するのが好ましい。緊張鋼材のみならず非緊張鋼材にも鋼材の腐食による脆性割れに耐性のある鋼材を適用することで、管理基準を大幅に超えるひび割れがコンクリートに生じた場合にも、鋼材破断によるコンクリート柱の性能劣化を大幅に遅延することが可能となる。
緊張鋼材3の水素脆化試験としてFIP (Federation Internationale de la Precontrainte) 試験が知られている。この試験は50℃,20%チオシアン酸アンモニウム水溶液中で,鋼材に一定荷重を負荷し破断までの時間を評価する。
緊張鋼材3は、その中心部分と硬度が略同一の母材部分が、引張強度の略70%を負荷したFIP試験で破断時間が80時間以上となる焼戻しマルテンサイト組織を有することが好ましい。一方、非緊張鋼材4は、同じくその中心部分と硬度が略同一の母材部分が、引張強度の略40%を負荷したFIP試験で破断時間が80時間以上となる焼戻しマルテンサイト組織を有することが好ましい。FIP試験値を満足する焼戻しマルテンサイト組織を規定することにより、材料面から腐食部からの脆性割れを抑制することができる。
緊張鋼材3は、JISZ2201の2号試験片で引張試験を行った場合の引張強度が1420N/mm2以上1800 N/mm2未満であることが好ましい。非緊張鋼材4は、引張強度が1250N/mm2以上1800 N/mm2未満であることが好ましい。引張強度を一定値以上に規定することにより、従来実施されてきた一般的なコンクリート柱の設計に対応しながら、鋼材に作用する応力レベルを引張強度に対して一定割合以下に抑制することができ、脆性破断のリスクをより低減できる。さらに、強度が1800N/mm2を超えると腐食を起点とした脆化破断の可能性が高くなることから、引張強度を1800N/mm2未満とすることでも脆性破断のリスクを低減できる。
なお、緊張鋼材3よりも非緊張鋼材4のFIP試験時の荷重レベルや引張強度を低減した。これは、それぞれの鋼材に設計上作用し得る応力レベルを考慮したものである。特に、プレストレスがかからない非緊張鋼材4は緊張鋼材3のような高強度は要求されない点を反映している。
さらに、コンクリート柱1の地際断面の非緊張鋼材4と緊張鋼材3の総面積S(mm2)が、風荷重を考慮したコンクリート柱1の設計荷重L(N)として、総面積Sが9L以上20L以下の応力を負担できる面積であることが好ましい。総面積Sが9L以上であれば、コンクリートにひび割れが発生してもひび割れ幅の増大を抑制できる。同20L以上では鋼材量の増加に伴う効果が飽和するため、総面積Sの上限値を20Lと定めることで、高価な鋼材を不必要に多量に使用することを防止し、コンクリート柱1のコストの増大を抑制できる。
以上説明の通り、本実施形態のコンクリート柱1によれば、自動車の衝突や台風などの自然災害により設計想定外のひび割れが入り、ひびを介して雨水が侵入する状態に鋼材がさらされても鋼材の腐食劣化の進展や鋼材の破断を著しく抑制するができ、コンクリート柱の耐久性を高めることができる。
〔腐食速度試験〕
遠心成型したコンクリート柱に幅0.1mmと0.5mmのひび割れを導入し、実環境で暴露試験を行い、コンクリートをはつって鋼材表面からの腐食速度を測定した。なお、ひび割れ幅0.5mmは通常の管理基準を超える範囲から設定した。
検討に使用した鋼材の組成は、C:0.4%、Si:1.8%、Mn:0.6%、P:0.01%、S:0.05%、Ti:0.03%、B:0.001%、および、C:0.2%、Si:1.3%、Mn:0.7%、P:0.02%、S:0.03%、Ti:0.03%である。
実施例11〜16は、特許文献4に記載の方法で熱処理を行って軟化層を設けた鋼材をかぶり厚t15mm〜35mmの位置に配置した。比較例11〜12は、市販のJISG3137(細径異形PC鋼棒)に該当する鋼材(上記熱処理は実施せず)をかぶり厚t10mmの位置に配置した。結果を表1に記す。
かぶり厚t10mmの条件では、ひび割れ幅が0.1mmでは鋼材腐食は殆ど認められないが(比較例11参照)、通常の管理基準を大幅に超える0.5mmという大きなひび割れ幅の場合は40μm/年というかなりの速さで腐食が進む(比較例12参照)。一方、かぶり厚tは15mm以上では、ひび割れ幅が0.5mmでも腐食速度は20μm/年以下であり、腐食の抑制効果が認められる(実施例12参照)。
〔緊張鋼材用試験〕
緊張鋼材の評価試験として、硬度評価試験、母材材質評価試験、脆性化評価試験を行った。硬度評価試験では、表層硬度HV、中心硬度HV、硬度差HVおよび軟化層厚dについて測定(算定)した。表層硬度HVを求める表層付近は表層Aから30μm位置とし、軟化層厚dを求めるための硬度低下率αは0.15とした。なお、軟化層厚dについては、10年周期の巡視点検期間で保守管理可能な250μm以上の場合を○、250μm未満の場合を×と評価した。
母材材質評価試験では、母材引張強度の70%荷重負荷時のFIP試験を行い、破断時間が80時間以上を○、80時間未満を×と評価した。脆性化評価試験では、緊張鋼材に0.5%NaClを付着させ湿潤状態で引張強度の70%の負荷応力かけて500時間経時後の腐食部からの割れの発生有無を観察した。割れ有を×、割れ無を○と評価した。緊張鋼材用試験の結果を表2に示す。
比較例21、22は脆性化評価試験の結果が×となり、緊張力が作用している条件では鋼材が脆性化すると評価された。比較例21では母材材質評価試験の結果が×となっている。また、比較例22では母材材質評価試験の結果は○であったが、硬度差HVが40と他のケースよりも小さい。よって、母材部のFIP試験での破断時間が80時間未満の鋼材、または硬度差HVが一定値未満の鋼材は、鋼材が脆性化しやすいと判断される。
比較例23では、母材材質評価試験および脆性化評価試験の結果は○であったが、軟化層厚dが規定値(250μm)を下回っており×と評価された。
〔非緊張鋼材用試験〕
非緊張鋼材の評価試験として、硬度評価試験、母材材質評価試験、脆性化評価試験を行った。母材材質評価試験は、母材引張強度の40%荷重負荷時のFIP試験を行った。
脆性化評価試験では、非緊張鋼材に0.5%NaClを付着させ湿潤状態で本実施形態の下限荷重1250N/mm2の60%の負荷応力かけて500時間経時後の腐食部からの割れの発生有無を観察した。その他の条件は緊張鋼材用試験と同様とした。非緊張鋼材用試験の結果を表3に示す。
表3の結果は表2に示す緊張鋼材用試験の結果と同様となった。なお、比較例33は硬度差HVが60であっても脆性化評価試験の結果が×となっている。実施例32等から硬度差HVが90あれば脆性化評価試験の結果が○となることから、鋼材の脆性化を抑制するためには硬度差HVが少なくとも80程度必要であると考えられる。
〔コンクリート柱の曲げ耐久試験〕
緊張鋼材および非緊張鋼材を配筋したコンクリート柱を、地際から約2m位置に約0.5mmのひび割れが発生するように柱頂部に水平方向の荷重を付与した状態で実環境に3年間保持した。なお、実施例42では緊張鋼材のみを配筋したコンクリート柱を用いた。
荷重を保持したコンクリート柱について、緊張鋼材および非緊張鋼材の脆性化評価と、コンクリート柱の傾斜評価を行った。表4にコンクリート柱内の緊張鋼材と非緊張鋼材の評価結果を、表5にコンクリート柱の曲げ耐久性評価結果を示す。
表4において、緊張鋼材の引張強度評価では、1420N/mm2以上1800 N/mm2未満を○、その他を×とし、非緊張鋼材の引張強度評価では、1250N/mm2以上1800 N/mm2未満を○、その他を×とそれぞれ評価した。緊張鋼材材質評価もしくは非緊張鋼材材質評価では、FIP試験において、引張強度の70%もしくは40%の荷重条件で定荷重試験を行い、破断時間が80時間以上となる焼き戻しマルテンサイト組織を○、マルテンサイト系組織で破断時間が80時間未満を×とした。緊張鋼材および非緊張鋼材の硬度分布評価では、硬度差HVが80以上かつ軟化層厚dが250μm以上を○、その他を×とした。鋼材量評価では、コンクリート柱の地際部の鋼材総断面積S(mm2)、
コンクリート柱の設計荷重L(N)として、S/Lが9以上を○、9未満を×とした。
表5において、緊張鋼材および非緊張鋼材の脆性化評価では、荷重を3年間保持した後で、ひび割れ部での鋼材の破断無を○、破断あるいは腐食部からの割れの進展有を×とした。コンクリート柱の傾斜評価では、荷重を3年間保持した後で、ひび割れ部を起点とした傾きが垂直方向に対して30°未満を○、30°以上を×とした。

表5より比較例41〜43では緊張鋼材および非緊張鋼材のいずれも脆性化して破断や割れが生じており、コンクリート柱の傾斜角度が30°以上となった。これらのケースでは表4より緊張鋼材と非緊張鋼材の両方が鋼材評価(引張強度、材質、硬度分布のいずれかの評価)を満たしておらず、この影響で鋼材の脆性化やコンクリート柱の傾斜が生じたものと想定される。
また、表5より比較例44でもコンクリート柱の傾斜角度が30°以上となった。このケースでは表4より緊張鋼材と非緊張鋼材はそれぞれ鋼材評価を満たしたが、鋼材量が不足しており、この影響でコンクリート柱の傾斜が生じたものと想定される。
一方、表5より実施例41、42では、緊張鋼材および非緊張鋼材の両方とも(実施例42では緊張鋼材が)脆性化せず、コンクリート柱も傾斜しなかった。これらのケースでは表4より鋼材に関して全ての評価を満たしている。
また、表5より実施例43,44では、非緊張鋼材が脆性化しているものの、コンクリート柱の傾斜は一定範囲(10°〜15°)に収まっている。表4より、これらのケースでは非緊張鋼材の鋼材評価を満たしていないが、緊張鋼材の鋼材評価は満たしている。
従って、実施例43,44のように少なくとも緊張鋼材の鋼材評価を満たしていればコンクリート柱の傾斜を一定範囲に抑制でき、所要の耐久性を確保できる。また、実施例41,42のように緊張鋼材および非緊張鋼材の両方の鋼材評価を満たしていれば、コンクリート柱が傾斜せずさらに耐久性を向上させることができる。
1 コンクリート柱
2 籠状鋼材
3 緊張鋼材
4 非緊張鋼材
5 フープ筋

Claims (5)

  1. 緊張鋼材がかぶり厚15mm以上35mm以下となるように配筋され遠心成型で製造されるコンクリート柱であって、
    緊張鋼材の中心部の平均硬度である中心硬度HVcと表層付近の硬度である表層硬度HVfとの差(HVc−HVf)から求められる硬度差HVdが、ビッカース硬度で80超過200以下であり、
    かつ緊張鋼材の硬度が次式で表される軟化開始硬度HVsとなる軟化開始位置から表層までの距離で規定される軟化層厚dwが、250μm以上1000μm未満であることを特徴とする耐久性に優れたコンクリート柱。
    HVs=HVc−HVd×α・・・・・・・(1)
    ここで、αは硬度低下率(0.1≦α<0.2)
  2. 前記コンクリート柱には前記緊張鋼材に沿って非緊張鋼材もかぶり厚15mm以上35mm以下となるように配筋され、
    前記非緊張鋼材の前記硬度差HVdもビッカース硬度で80超過200以下あり、
    かつ前記非緊張鋼材の前記軟化層厚dwも250μm以上1000μm未満であることを特徴とする請求項1に記載の耐久性に優れたコンクリート柱。
  3. 前記緊張鋼材の中心部分と硬度が略同一の母材部分が、引張強度の略70%を負荷したFIP試験で破断時間が80時間以上となる焼戻しマルテンサイト組織を有し、
    前記緊張鋼材をJISZ2201の2号試験片で引張試験を行った場合の引張強度が1420N/mm2以上1800 N/mm2未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の耐久性に優れたコンクリート柱。
  4. 前記非緊張鋼材の中心部分と硬度が略同一の母材部分が、引張強度の略40%を負荷したFIP試験で破断時間が80時間以上となる焼戻しマルテンサイト組織を有し、
    前記非緊張鋼材をJISZ2201の2号試験片で引張試験を行った場合の引張強度が1250N/mm2以上1800 N/mm2未満であることを特徴とする請求項2または3に記載の耐久性に優れたコンクリート柱。
  5. 前記コンクリート柱の地際断面の鋼材総面積S(mm2)が、風圧荷重を考慮した前記コンクリート柱の設計荷重L(N)として、Sが9L以上20L以下の応力を負担できる面積であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の耐久性に優れたコンクリート柱。
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