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JP5633767B2 - 低弾性チタン合金 - Google Patents
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Description

本発明は、人工骨や人工歯根といったインプラント材料として、生体為害性がなく、資源豊富な金属元素からなり、かつ、ヤング率の極めて小さい低弾性チタン合金に関するものである。
高齢化社会の到来と医療の発達に伴い、人工骨や人工歯根といったインプラント材料の需要が今後さらに増加するものと予測されている。
チタンは、耐食性に優れ、軽くて強度が高く、しかもアレルギーを引き起こさないなど生体適応性が良好である。このような点から、チタンおよびチタン合金は、従来の耐食用機械部品や航空機部品のような用途に加えて、肌に直接触れる装身具や人工骨、インプラント材料などの医療用具にもその用途が拡大されつつある。
チタン合金は、その室温における金属組織を構成する相の結晶構造からα(稠密六方晶:hcp)型、β(体心立方晶:bcc)型、およびα+β型に大別される。工業用純チタンやAlなどを少量添加した合金はα型であり、高強度合金としてよく知られ航空機などに使用されるTi−6mass%Al−4mass%V合金はα+β型であり、このα+β型よりさらにβ相を安定させる元素(β安定化元素)を増加した合金がβ型である。
このうちβ型チタン合金は、高い伸びと、優れた冷間加工性を有するとともに、組成によっては低弾性を示す等の理由からインプラント材料として有望な材料として考えられている(非特許文献1を参照)。従来の生体用のβ型チタン合金には、Tiと開放型β安定化元素(Nb、Ta、V、Mo、W等)とを主成分としたチタン合金が提案されている(特許文献1及び2を参照)。しかしながら、NbやTa等の開放型β安定化元素は、高価であると共に資源量も少ない金属元素であり、廉価な量産向きのインプラント材料には適用が困難な材料になっている。例えば、特許文献1のチタン合金では、上記Nb及びTaを合計で20mass%〜60mass%含ませる必要がある。また、特許文献2では、主成分のNbを25mass%〜40mass%(例示された試験結果では35mass%)程度含ませる必要がある。
また、インプラント材料へチタン合金を適応させるには、力学物性、特に低い弾性率、を備えている必要がある。これは、人骨のヤング率が10〜30GPaであるのに対し、金属の中でも弾性率が低いとされている純Tiのヤング率は約110GPaであり、このように骨との弾性率が大きく異なると、人骨とインプラント材料との界面に発生する弾性ひずみに起因して骨が破壊したり、インプラント材料のみに負荷をかけた場合には、骨が十分に機能しないために骨吸収が起こったりするといった恐れがある。
加えて、インプラント材料は、長期にわたって生体内で安定的に使用可能な接着性(例えば骨との接着性)と、生体組織が治療・修復された後に容易に摘出・回収可能な剥離性との、相反する特性を適宜発揮することが望まれている。Tiは生体への適応性は高いが、骨との接着性が強く、この点から弊害が指摘される場合もある。これに対し、Ti同様生体為害性のないZrは生体への接着性は弱いとされており、Tiの一部をZrで代替えすることによって、適度な接着性を備えたインプラント材料となる可能性があり、そのようなインプラント材料もまた求められている。
治療を受ける患者の体型や症例、あるいは適用部位によって、インプラント材料の弾性率(さらには強度および接着性)の最適範囲は異なってくるものであり、いわゆるカスタムメイドなインプラント材料が求められている。従って、(1)低弾性合金、(2)人体への安全性、(3)廉価で資源量豊富、(4)適度な強度と接着性、の全ての機能を満足する元素および組成で構成されたチタン合金であることが望ましい。
そこで、本発明者は、β安定化元素に開放型β安定化元素を用いずに廉価で資源量も多い共析型β安定化元素であるCrに着目し、Sn等を添加したTi−Cr系のチタン合金の研究を進めてきた。そして非特許文献2に開示されているように、Ti−Cr系のチタン合金でも、Ti−Nb系と同様に準安定β相が低弾性を示すこと等を明らかにしてきた。
特開平10−219375号公報 特開2006−274319号公報
エックス・タン(X.TANG),(ティー・アーメッド)T.AHMED,(エイチ・ジェイ・ラック)H.J.RACK,「Ti−Nb−Ta合金及びTi−Nb−Ta−Zr合金の相変態」(Phase transformations in Ti−Nb−Ta and Ti−Nb−Ta−Zr alloys),ジャーナル・オブ・マテリアルズ・サイエンス(JOURNAL OF MATERIALS SCIENCE),クリューワー・アカデミック・パブリッシャーズ(Kluwer Academic Publishers),35(2000),p.1805−1811 村山 洋之介(Y.Murayama) 他5名、「Ti−Cr系合金の力学物性と相安定性」(Mechanical Properties and Phase Stability of Ti−Cr System Alloys)、ティー・エム・エス(TMS: The Minerals,Metals & Materials Society)、2009年2月、第3巻、p.263−270
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、生体への毒性が無くかつ廉価で資源豊富な金属元素からなり、インプラント材料としての強度も十分あり、かつ、低弾性な人骨に近いヤング率を有した低弾性チタン合金を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記低弾性チタン合金においてヤング率が極小となる最適な金属組成や組成範囲を提供することを目的とする。
また、本発明は、接着性を考慮し、Tiの一部をZrで高組成範囲まで代替えした低弾性インプラント材料、あるいは治療デバイスを提供することを目的とする。
本発明のチタン合金は、Ti−Cr−Sn三元系合金、Ti−Cr−Sn−Zr四元系合金、またはTi−Cr−Al三元系合金であり、ヤング率が70GPa未満の低弾性となるために具体的には以下の合金組成を有するものである。
(本発明の形態1:Ti−Cr−Sn系合金の好適な合金組成)
1.質量%で、Crを4.0%以上7.0%以下、Snを2.0%以上10.0%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなるチタン合金。
2.質量%で、Crを2.0%以上4.0%未満、Snを5.0%以上10.0%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなるチタン合金。
3.質量%で、Crを7.0%より大きく9.0%以下、Snを5.0%以上10.0%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなるチタン合金。
(本発明の形態2:Ti−Cr−Sn−Zr系合金の好適な合金組成)
4.質量%で、Crを4.0%以上7.0%以下、Snを5.0%以上10.0%以下、Zrを40%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなるチタン合金。
5.質量%で、Crを3.0%以上4.0%未満、Snを5.0%以上10.0%以下、Zrを5.0%より大きく40%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなるチタン合金。
6.質量%で、Crを1.0%以上3.0%未満、Snを5.0%以上10.0%以下、Zrを25%以上40%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなるチタン合金。
7.質量%で、Crを7.0%より大きく9.0%以下、Snを5.0%以上10.0%以下、Zrを25%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなるチタン合金。
(本発明の形態3:Ti−Cr−Al系合金の好適な合金組成)
8.質量%で、Crを7.0%以上12%以下、Alを2%以上7%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなるチタン合金。
本発明の上記形態1又は3によれば、元素がTi−Cr−Sn又はTi−Cr−Alで構成されているため、Ti−Nb系のチタン合金と比較すると、構成元素が生体への毒性を持たないということのみならず、廉価でかつ資源埋蔵量の豊富な金属元素(Snはやや低いがそれでもNbの約2倍)からなる低弾性チタン合金を提供することができる。また、β安定化元素であるCrの添加量は、先述のTi−Nb系のチタン合金におけるNbの添加量に比べて、大幅に少量で済ますことができる。
本発明の上記形態2によれば、元素がTi−Cr−Sn−Zrで構成されているため、Ti−Nb系のチタン合金と比較すると、構成元素が生体への毒性を持たないということのみならず、資源埋蔵量の豊富な金属元素からなる低弾性の合金を提供することができる。なお、Zrは必ずしも廉価とは言えないが、本発明ではZr元素の添加量は少なくもできるため、Ti−Nb系に比べ廉価であるといえる。
本発明によれば、弾性率が極小となる最適な金属組成や組成範囲を備えたチタン合金を提供することができる。
さらに、本発明の上記形態2によれば、本発明のTi−Cr−Sn−Zrで構成されたチタン合金において、Ti及びCrは骨組織への接着性の良い元素とされており、Zrは接着性の低い元素とされている。これらの元素の組成量を適宜制御することにより適度な接着性を持った合金を得る可能性があり、体型や症例および適用部位にあったカスタムメイドな治療デバイスやインプラント材料を提供することができる。これらの低弾性合金においては、Zr添加量を多量(10mass%以上)に含ませることもでき、例えばZrを40mass%程度含んでいても、十分に低いヤング率を保持することができる。
Ti−Cr−Snのチタン合金において、図1(a)はCr添加量及びSn添加量がヤング率に与える影響を示した図であり、図1(b)はCr添加量及びSn添加量がヤング率に与える影響をTi−Cr−Sn三元系の組成図上に示した図である。 Ti−Cr−Snチタン合金β相の(110)面に垂直に電子線を透過させたときの、透過型電子顕微鏡(TEM)によるディフラクションパターンと、それに対応する模式図とを示した図である。 Ti−Cr−6mass%Sn−Zrチタン合金において、図3(a)は、Cr添加量及びZr添加量がヤング率に与える影響を示した図であり、図3(b)は、Cr添加量及びZr添加量がヤング率に与える影響をTi−Cr−Zr三元系の組成図上(6mass%Sn固定)に示した図である。 Ti−Cr−Alチタン合金において、Cr添加量及びAl添加量がヤング率に与える影響を示した図である。
次に、本発明に係るチタン合金の組成及び組織制御の理由及びその製造方法について具体的に説明する。なお、本明細書では、合金組成は特にことわりがない限り、「mass%」、つまり「質量%」で表示するものとする。また、図、表中において、例えば、Ti−8Cr−6Sn−10Zrと表記された場合には、Ti、Cr、Sn、及びZrが含有されたチタン合金であり、Cr含有量が8質量%、Sn含有量が6質量%、Zr含有量が10質量%、残りがTi及び不可避的不純物の含有量であることを示す。
本発明に係るチタン合金は、添加されるCr量によって準安定β相の等軸組織又はマルテンサイト組織を有する。なお、チタンの結晶構造は温度によって変わり、高温では体心立方晶と呼ばれる結晶構造になる。このチタンの体心立方晶はβ相とも呼ばれ、上述の通りβ相だけからなるチタンをβ型チタン合金と呼ぶ。純チタンに一定量以上のβ安定化元素を添加し、高温から急冷することによって、室温でもβ相だけからなる合金となる。このようなβ型チタン合金は本来室温では存在し得ないことから、準安定βチタン合金と呼ばれる。
また、β安定化元素量が一定量に達しない場合は、高温からの急冷によってマルテンサイト組織が得られる。すなわち、β安定化元素の量によって、マルテンサイト変態温度は変化し、マルテンサイト変態温度が室温近傍となる組成前後の組成で、合金の組織はマルテンサイト組織から準安定β相組織へと移行する。
本発明のチタン合金では、Ti−Cr−Sn三元系合金およびTi−Cr−Al三元系合金では、Cr添加量8mass%未満のものはすべてマルテンサイト組織を示し、Cr添加量8mass%以上のものは準安定β相組織であった。すなわち、マルテンサイト組織から準安定β相組織への移行組成近傍組成で極めて低いヤング率を示す合金が得られた。
Ti−Cr−Sn−Zr四元系合金では、Cr添加量8mass%以上のものはすべて準安定β相組織であったが、Cr添加量8mass%未満のものは、Zr添加量によって異なり、Zr添加量が多くなるとマルテンサイト組織から準安定β相組織へと移行する。Ti−Cr−Sn−Zr四元系合金においても、マルテンサイト組織から準安定β相組織への移行組成の近傍で極めて低いヤング率を示す合金が得られた。
本発明に係るチタン合金は、β安定化元素として通常含まれる開放型β安定化元素(Nb、V、Ta、W)を含有せず、Cr及びSn(又はAl)を含有する。また、本発明に係るチタン合金は、さらにZrを含有してもよい。
ここでCrは、共析型β安定化元素と呼ばれるもので、Tiと金属間化合物を形成する。なお、上記先行技術においてチタン合金の主成分として利用された開放型β安定化元素は、Tiと金属間化合物を形成しない点で相異する。共析型β安定化元素は、高温相からの急冷によって準安定β相を得る上で、開放型β安定化元素に比べると、はるかに少ない合金添加量でβ相を得ることができるようになる。
また、Tiにβ安定化元素を添加すると次第にマルテンサイト温度は低下するが、先に述べたように、マルテンサイト変態温度が室温近傍になるとβ単相材が得られるようになる。例えば、マルテンサイト変態開始温度が200℃となる組成を比較してみると、開放型β安定化元素であるV、Nb、Ta、Mo、Wなどはそれぞれ、Tiに対して、14mass%、33.3mass%、47.2mass%、12.6mass%の添加量が必要であるのに対し、共析型β安定化元素であるCrおよびFeは、6.5mass%、3.8mass%の添加量で済む。すなわち、共析型β安定化元素の方が、β安定化元素としての能力は高く、少ない添加量で同じ効果を生むともいえる。
なお、Crは、NbやTaと同様に生体に対して毒性が無いだけでなく、非常に廉価で資源埋蔵量の豊富な金属元素である。
Sn、Al、Zrも生体に対する毒性がないとされているが、上述のCrなどの元素と共に含有させることにより、ω相の生成を抑制し、弾性率のより一層の低下をもたらすことが期待される。なお、ω相とは、β安定化元素をある組成範囲で添加したチタン合金を高温から急冷する際に生成される硬くて脆い金属間化合物のことをいい、このω相の生成により弾性率は上昇する。
本発明のチタン合金の製造は、チタン合金分野にて通常用いられる非消耗電極式または消耗電極式の真空またはアルゴンアーク溶解法、電子ビーム溶解法、プラズマ溶解法等を用いて行えばよい。得られた鋳塊は、熱間鍛造、熱間圧延等の一般的に用いられる方法で、所要形状に成形加工する。
本実施例では、低弾性の(1)Ti−Cr−Sn合金、(2)Ti−Cr−Sn−Zr合金、(3)Ti−Cr−Al合金の三種類の製造例を示す。供試合金組成及び試験結果(ヤング率及び引張強度)の詳細は表1から表3に記載する。ここで、表1は三元系チタン合金(Ti−Cr−Sn)の合金組成及び試験結果の詳細を示し、表2は四元系チタン合金(Ti−Cr−6Sn−Zr)の合金組成及び試験結果の詳細を示し、表3は別の三元系チタン合金(Ti−Cr−Al)の合金組成及び試験結果の詳細を示す。
なお、各表中には「判定」の欄を設けており、ヤング率の結果が70GPa以上である合金組成については「×」印を付し、「区分」の欄において「比較例」とした。一方、ヤング率の結果が60GPa以上70GPa未満である合金組成については「○」印を付し、ヤング率の結果が60GPa未満である合金組成については「◎」印を付し、これらの合金組成は「区分」の欄において「発明例」とした。
供試合金の製造にあたっては、いずれも99%以上の純度の金属素材(Ti,Cr,Sn,Al,Zr)を、所望の組成となるように秤量し、タングステン電極を用いた非消耗式のアルゴンアーク溶解法によって約30グラムのボタンインゴットを作製した。このボタンインゴットを800℃にて約80%熱間圧延し、板厚1.5〜2mmの板とした。この板から、引張試験用の試験片を切り出し、この試験片を石英管中に真空封入し、真空中にて950℃まで加熱後、2時間保持し、その後、氷水中に投入して焼き入れを行った。このような熱処理を溶体化処理と呼ぶ。
この溶体化処理材を用いて、引張試験を行い弾性率、引張強度、及び伸びを測定した。ヤング率は、引張試験片の表面にひずみゲージを貼り、二段階又は三段階の一定荷重時におけるひずみと応力との関係から算出した。このとき、あらかじめ測定した応力−ひずみ曲線から一定荷重時の応力が降伏強度を超えないように注意した。また、ヤング率の算出に当たっては、少なくとも一本の引張試験片に対し3回以上ひずみゲージを張り替えて行うとともに、二本以上の試験片を用いて測定を行うことで再現性を確認した。
評価結果を上記表1から表3及び図1から図4にまとめて示す。
Ti−Cr−Sn三元系チタン合金において、図1(a)はCr添加量及びSn添加量がヤング率に与える影響を示した図である。この図1(a)より、Sn添加量を増加させたチタン合金ほど、Crの添加範囲に亘って全般的にヤング率が低下することがわかる。また、Snが添加されたどのチタン合金においても、Cr添加量が3.5〜8mass%の範囲で最も小さく、5mass%Cr付近で極小点が存在していることがわかる。なお、Snの添加量を増加させると、ヤング率が顕著に低下していくことがわかる。これは、後述するようにSnの添加がω相の生成を効果的に抑制しているからである。
図1(b)はCr添加量及びSn添加量がヤング率に与える影響をTi−Cr−Sn三元系の組成図上に示した図である。この図1(b)は図1(a)で示した試験結果と同じデータを用いて示したものであり、Sn添加量が下辺の軸に示され、Cr添加量が左斜め辺の軸に示され、Cr添加量とSn添加量とを有するチタン合金のヤング率は、これらの軸上に付されたCr値とSn値との交点に示されている。このTi−Cr−Sn三元系の組成図上に示したヤング率の図により、質量%で、Crを5mass%前後(4mass%〜6mass%)、Snを3mass%以上9mass%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなるチタン合金を作製すれば、55GPa未満の極めて低いヤング率のチタン合金を得ることができることがわかる。
図2は、Ti−Cr−Snチタン合金β相の(110)面に垂直に電子線を透過させたときの、透過型電子顕微鏡(TEM)によるディフラクションパターンと、それに対応する模式図とを示した図である。なお、TEMによるディフラクションパターンでは、結晶構造に応じたスポットのパターンを観察することができる。β相中にω相が混在した合金では、β相の(110)面に垂直に電子線を透過させると、図2中の夫々のTEM画像に部分的に挿入した模式図(対角線が付された入れ子状の二個の長方形)で示されるように、大きな長方形の各コーナーの位置にβ相の結晶に由来するスポット(外側の各コーナー点;図2中「βスポット」と表記)が、この大きな長方形の内側に存在する小さな長方形の各コーナーの位置にω相に由来するスポット(内側の各コーナー点;図2中「ωスポット」と表記)が現れる。このような模式図で示したスポットの相構成が、図2のディフラクションパターンにて整然と並んでいることがわかる。
図2に示すディフラクションパターンの画像は左から、Ti−8Cr、Ti−8Cr−3Sn、Ti−8Cr−6Sn、及びTi−8Cr−9Snの4種類で、Sn量のみが零から9mass%まで変化している。これらの図を比較すると、ω相を示すωスポットの強度が、Sn添加量が増加するとともに弱くなっているのがわかる(Ti−8Cr−6Sn及びTi−8Cr−9Snの画像では、ωスポットを殆ど認識することはできない)。すなわち、ω相の生成するTi−Cr合金にSnを添加すると、ω相の生成が抑制されることがわかる。従って、チタン合金においてSn添加量をある程度大きくすることによって、ω相生成を抑制し、ひいては合金のヤング率を低下させることができることがわかる。
図3(a)は、Ti−Cr−6mass%Sn−Zrチタン合金において、Cr添加量及びZr添加量がヤング率に与える影響を示した図である。なお、図3(a)では、Cr及びZrの影響のみを評価したかったため、Sn添加量は一定量の6mass%に固定されている。すなわち、表2の弾性率の結果を主にプロットしている。
この図3(a)において、Cr添加量が小さいチタン合金(2mass%Cr、図中では丸印)を用いた場合には、Zr添加量を増加させる程、ヤング率が急激に下降していくことがわかる。特にZr添加量を30mass%以上にするとヤング率は60GPa未満になることがわかる。Cr添加量が3.5mass%(図中では四角印)又は5mass%(図中では菱形印)の場合には、Zrの添加量全範囲に亘ってヤング率は45〜70GPaの範囲で増減を繰り返す。そして、Cr添加量が大きい合金(8mass%Cr、図中では三角印)では、逆にZr添加量を増加させるとヤング率が徐々に上昇することがわかる。例えばZr添加量が30mass%以上になるとヤング率は70GPa以上の値になってしまうため、Zr添加量を25mass%以下(さらに好適には20mass%以下)に設定することが好ましい。
図3(b)は、Ti−Cr−6mass%Sn−Zrチタン合金において、Cr添加量及びZr添加量がヤング率に与える影響を、Ti−Cr−Zr三元系の組成図上(6mass%Sn固定)に示した図である。図3(b)は図1(b)と同様な方法で描画されている。このTi−Cr−Zr三元系の組成図上に示したヤング率の図により、70GPa未満の低ヤング率のチタン合金を作製するためには、Crが2mass%前後の場合には、Zrを30mass%以上40mass%以下となる範囲で含有することが好ましいことがわかる。また、Crが3.5mass%前後の場合には、Zrを10mass%以上40mass%以下となる範囲で含有することが好ましい。また、Crが5.0mass%前後の場合には、Zrを40mass%以下となる範囲で含有することが好ましい。さらに、Crが8.0mass%前後の場合には、Zrを20mass%以下となる範囲で含有することが好ましいことがわかる。
図4は、Ti−Cr−Alチタン合金において、Cr添加量及びAl添加量がヤング率に与える影響を示した図である。この図4より、Al添加量が3mass%又は6mass%のチタン合金は、Cr添加量が8mass%付近で極小点が存在していることがわかる。なお、Alの添加量が著しく少ない場合(1.5mass%)と著しく多い場合(9.0mass%)には、ヤング率の低減効果が発揮されていないことがわかる。以上の結果より、Crが8mass%前後及び11mass%前後の場合には、Alを3mass%以上6%以下となる範囲で含有することが好ましい。
なお、強度の測定結果については表1から表3に示す通りであり、本発明のチタン合金の引張強度は約700〜約1100MPaの範囲であり、比較例の強度と同様に十分高い値を示している。
以上説明した表1から表3及び図1から図4より、本発明のチタン合金、Ti−Cr−Sn系合金、Ti−Cr−Sn−Zr系合金、またはTi−Cr−Al系合金は組成によりヤング率が70GPa未満となり、以下の合金組成からなるチタン合金が好ましいことがわかる。
(Ti−Cr−Sn系合金の好適な合金組成)
1.質量%で、Crを4.0%以上7.0%以下、Snを2.0%以上10.0%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなるチタン合金。
2.質量%で、Crを2.0%以上4.0%未満、Snを5.0%以上10.0%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなるチタン合金。
3.質量%で、Crを7.0%より大きく9.0%以下、Snを5.0%以上10.0%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなるチタン合金。
(Ti−Cr−Sn−Zr系合金の好適な合金組成)
4.質量%で、Crを4.0%以上7.0%以下、Snを5.0%以上10.0%以下、Zrを40%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなるチタン合金。
5.質量%で、Crを3.0%以上4.0%未満、Snを5.0%以上10.0%以下、Zrを5.0%より大きく40%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなるチタン合金。
6.質量%で、Crを1.0%以上3.0%未満、Snを5.0%以上10.0%以下、Zrを25%以上40%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなるチタン合金。
7.質量%で、Crを7.0%より大きく9.0%以下、Snを5.0%以上10.0%以下、Zrを25%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなるチタン合金。
(Ti−Cr−Al系合金の好適な合金組成)
8.質量%で、Crを7.0%以上12%以下、Alを2%以上7%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなるチタン合金。
本発明の低弾性チタン合金は、生体への毒性が無く資源埋蔵量の豊富な金属元素から構成されるインプラント材料に採用可能な有望な合金材料であり、産業上の利用可能性を有する。特に、Ti−Cr−Sn三元系合金、Ti−Cr−Al三元系合金、Zr添加量の少ないTi−Cr−Sn−Zr合金は、Ti−Nb系低弾性チタン合金に比べはるかに廉価なものとなる。また、骨組織への接着性が異なるとされるTiとZrの組成比を大幅に変えたTi−Cr−Sn−Zr四元系合金の低弾性化にも成功しており、これらの元素の組成量を適宜制御した低弾性チタン合金を作製することにより、体型や症例、さらに適用部位に最適なカスタムメイドな治療デバイスやインプラント材料を提供することができると考えられる。

Claims (3)

  1. 質量%で、Crを4.0%以上6.0%以下、Snを5.0%以上9.0%以下、Zrを0%より大きく40%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなる生体インプラント用の低弾性チタン合金であって、
    前記チタン合金が生体の骨に適用され、かつ、
    前記チタン合金のヤング率が60GPa未満であることを特徴とする生体インプラント用の低弾性チタン合金。
  2. 質量%で、Crを3.0%以上4.0%未満、Snを5.0%以上9.0%以下、Zrを10%以上30%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなる生体インプラント用の低弾性チタン合金であって、
    前記チタン合金が生体の骨に適用され、かつ、
    前記チタン合金のヤング率が60GPa未満であることを特徴とする生体インプラント用の低弾性チタン合金。
  3. 質量%で、Crを1.0%以上3.0%未満、Snを5.0%以上9.0%以下、Zrを30%以上40%以下となる範囲で含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなる生体インプラント用の低弾性チタン合金であって、
    前記チタン合金が生体の骨に適用され、かつ、
    前記チタン合金のヤング率が60GPa未満であることを特徴とする生体インプラント用の低弾性チタン合金。
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