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JP5750806B2 - 土壌が有する白紋羽病抑止活性の評価方法 - Google Patents
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土壌が有する白紋羽病抑止活性の評価方法 Download PDF

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Description

本発明は、土壌が有する白紋羽病抑止活性を評価する方法、および、土壌が有する白紋羽病抑止活性の評価キットに関する。
果樹類における白紋羽病は、子嚢菌類に属する白紋羽病菌(Rosellinia属に属する100種類以上の種のうち、R.necatrix、R.compacta)よって引き起こされる。
白紋羽病菌は土壌伝染性があり、果樹の根の表面に白色の菌叢と樹皮下に菌糸束を形成する。特に、根を腐敗させる病徴を示す。そのため、白紋羽病の罹病部の観察は容易でなく、地上部に症状が確認された時には、果樹そのものが枯死する場合が多い。当該特徴により、白紋羽病は果樹生産に甚大な被害を与えている。そのため、果樹類の生産現場から確実な防除方法の開発が望まれている。
従来、植物病原性を示す糸状菌類の病害を防除する方法としては、農薬等の化学物質によって行われてきた。しかし、農薬等の使用による化学物質による環境汚染を引き起こす問題から、環境負荷低減を目指した技術である生物を利用する防除方法が注目されてきた。
特に、土壌にもともと生存する白紋羽病に対する拮抗微生物を用いた生物防除方法は、環境負荷低減の点で特に有用な技術である。例えば、バチルス(Bacillus)属等の細菌類(特許文献1〜3等 参照)、トリコデルマ(Trichoderma)属菌などの糸状菌類(特許文献4,5等 参照)、エノキタケ(キノコ類)の菌糸(特許文献6等 参照)等に、白紋羽病に対する拮抗作用(致死作用、増殖阻害作用等)があることが報告されている。
そこで、果樹や園芸植物の栽培現場において、このような拮抗微生物が栽培土壌中にどの程度存在するかを予め知ることができれば、白紋羽病の発病リスクを判定できると期待される。
しかし、従来行われてきた白紋羽病に対する拮抗作用の評価系は、ある特定の微生物に注目し、当該微生物が白紋羽病菌の増殖阻害、植物感染時の発病抑止の影響を与えるかを、個別に行って評価するものであった(特許文献1〜6等 参照)。即ち、土壌全体が有する白紋羽病に対する抑止活性を評価できる技術ではなかった。
また、土壌が有する病害の抑止性を評価する手法が1例報告されている(特許文献7 参照)。当該方法では、寒天培地上に対象とする土壌病原菌を培養し、その上に(1)対象とする土壌(検体), 又は, (2)対象とする土壌を滅菌したもの(対照), を海砂で希釈混合して重層して培養し、(1)と(2)での病原菌の成育度の比較することによって、土壌が有する病原菌の生育阻害程度を評価している。
しかしながら、当該方法は、対照との比較によって生育抑止率という数値の算出が必須とする技術である。そのため、評価系での原理上、白紋羽病菌の生長が停止しただけなのか、白紋羽病菌が死滅しているのかを判定することが不可能であった。
また、当該方法を白紋羽病菌に対する評価に応用した場合、算出値のばらつきが大きく、検出感度の点で大きな問題が認められた。
さらに、当該方法を実施する際には、土壌と海砂との混合率の決定等の条件検討が必要であり、加えて、培地の作成や培養等の専門的な機器等を備えた設備(実験室等)も必要となり、生産現場において実施できる技術とは認めらなかった。
特開2002-284615号公報(好熱性細菌を含む白紋羽病防除剤) 特開2003-289854号公報(Bacillus mojavensisに属する細菌を含むカビ防除剤) 特開2005-206496号公報(白紋羽病防除剤) 特許第3213112号明細書(白紋羽病防除剤) 特開2006-199601号公報(微生物資材) 特開2009-292741号公報(土壌病害防除微生物資材) 特許第3051920号明細書(土壌の病害抑止性の評価方法) 特開2007-129996号公報(白紋羽罹病樹の治療方法)
土と微生物 Vol.65 No.2 (2011年10月), p145(日本土壌微生物学会一般講演要旨)
本発明では、上記課題を解決し、果樹類の栽培現場でも実施が可能な簡便な手法により、土壌が有する白紋羽病に対する抑止活性を確実に(極めて高い感度で)評価できる方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、白紋羽病菌の菌叢で覆われた木片について、(A)当該菌叢の一部のみを死滅させる処理を行い、次いで(B)当該死滅菌叢と生存菌叢の両方を評価対象土壌に接触させて培養し、(C)木片上の死滅域を計測して、(D)評価することによって、対象土壌が有する白紋羽病に対する抑止活性を、極めて簡便に且つ高い感度で評価できることを見出した。
なお、本発明の方法における最大の技術的特徴は、前記(C)の土壌接触において、菌叢の死菌体が評価対象土壌中の拮抗微生物を特異的に誘引し、急速な増殖を促すことにより、土壌に含まれる拮抗微生物の白紋羽病菌に対する作用(致死作用、増殖阻害作用)の‘感度を大幅に増幅して’検出できることを見出した点にある。
また、本発明の方法では、前記(C)で計測した死滅域が、前記(A)の処理で死滅させた領域よりも拡大していた, 又は, 変わらない場合は、評価対象土壌が有する白紋羽病菌に対する抑止活性(拮抗微生物の拮抗作用)が強いと、即座に評価することができる。
従って、本発明の評価系では、原理的に比較対照の土壌を調製することなく、評価対象土壌の白紋羽病抑止活性を評価することが可能となる。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
即ち、〔請求項1〕に係る本発明は、以下(A)〜(D)に記載の工程を順に行うことを特徴とする、土壌が有する白紋羽病抑止活性を評価する方法に関する。
(A) 木片上の全部又は一部が、培養した白紋羽病菌の菌叢によって覆われた木片について、当該菌叢の一部を死滅させる工程。
(B) 前記死滅させた菌叢, 及び, 生存している菌叢の一部又は全部を土壌と接触させて、7〜120日間培養する工程。
(C) 前記木片上における白紋羽病菌の菌叢の死滅域の長さ又は面積を計測する工程。
(D) 前記計測した値を基にして、評価対象の土壌が有する白紋羽病抑止活性を評価する工程。
また、〔請求項2〕に係る本発明は、前記(A)工程において死滅させた菌叢の死菌体が、評価対象土壌中の白紋羽病菌に対する拮抗微生物を誘引し, 且つ, 当該拮抗微生物の急速な増殖を促す性質を有するものである、請求項1に記載の評価方法に関する。
また、〔請求項3〕に係る本発明は、前記(A)工程で培養された白紋羽病菌が、非病原性の菌株及び/又は低病原性の菌株である、請求項1又は2に記載の評価方法に関する。
また、〔請求項4〕に係る本発明は、前記(A)工程における菌叢の一部分を死滅させる処理が、35℃以上の温水への接触によって行うものである、請求項1〜3のいずれかに記載の評価方法に関する。
また、〔請求項5〕に係る本発明は、前記木片が、長軸状の木片である、請求項1〜4のいずれかに記載の評価方法に関する。
また、〔請求項6〕に係る本発明は、前記(A)工程における菌叢の一部を死滅させる処理が、;菌叢で覆われた長軸状の木片の先端から5mm以上の領域の菌叢、;を死滅させる処理である、請求項5に記載の評価方法に関する。
また、〔請求項7〕に係る本発明は、前記(B)工程における土壌接触処理が、;前記死滅させた菌叢, 及び, 死滅させた菌叢と生存している菌叢の境界部分から5mm以上の領域の生存している菌叢、;を埋土する処理である、請求項5又は6に記載の評価方法に関する。
また、〔請求項8〕に係る本発明は、以下(a)に記載の構成物品を1つ以上含み、且つ、以下(b)に記載の構成物品を含むことを特徴とする、土壌が有する白紋羽病抑止活性の評価キットに関する。
(a) 請求項1〜7のいずれかに記載の(A)工程及び/又は(B)工程で用いる、ガラス, ポリエチレン, ポリエチレンテレフタレート, ポリスチレン, 又はポリプロピレンで形成されてなる、上部が開口した容器。
(b) 3〜40cmの長さであり、且つ、長軸状の木片の全部, 又は, 先端から1cm以上の部分が、非病原性又は低病原性の白紋羽病菌である、NITE P-269株及び/又はFERM P-18142株の菌叢で覆われた長軸状の木片。
また、〔請求項9〕に係る本発明は、上記(a)の容器が、透明又は半透明である上部が開口した容器であり、且つ、上記(b)の木片の代わりに以下(c)に記載の構成物品を含むことを特徴とする、請求項8に記載の評価キットに関する。
(c) 上記(b)に記載の特徴を有する同じ長さの長軸状の木片を、;2〜100本下方向に固着させた板状物、;を備えてなる蓋部であり、;前記(a)に記載の容器の上部開口部と接続した際に、前記長軸状の木片の下部先端部が、前記容器(a)の底部と接触することなく、前記(a)の容器の内部を密封することが可能な蓋部。

・果樹類栽培現場での有用性
本発明により、果樹類の栽培現場でも実施が可能な極めて簡便な手法であり, 且つ, 極めて高い感度で、土壌が有する白紋羽病抑止活性(拮抗微生物の拮抗作用)を評価することが可能となる。
これにより本発明では、果樹の栽培前に、土壌の白紋羽病の発病リスクを判定することを可能とする。
また、本発明の方法では、木片上に培養する白紋羽病菌として、非病原性の菌株を採用することにより、直接野外の土壌に対して評価を行なうことが可能となる。
従って、本発明の方法として最も簡便な態様としては、前記所定の木片を評価対象土壌に指し、所定期間経過後に抜いて、死滅菌叢域を目視するだけで、評価対象土壌の白紋羽病抑止活性を評価することが可能となる。
また、本発明では、前記評価方法を簡便かつ確実に実施することを可能とする評価キット、を提供することを可能とする。
・温水治療効果の予測および持続性の確認
「温水治療」とは、白紋羽病菌が通常の土壌微生物よりも大幅に低い致死温度であることを利用し、土壌の地表面に40℃程度の温水点滴処理を行う土壌改良技術を指す(特許文献8等 参照)。当該技術は、白紋羽病の治療・防除効果が高く且つ環境負荷の小さい技術として、注目を集める技術である。
温水治療の成否は、土壌中の拮抗微生物の作用の強さ(種類や密度等)に大きく依存すると考えられる。
従って、本発明の評価方法にて予め対象土壌中の微生物の拮抗作用(土壌が有する白紋羽病抑止活性)の強さを評価することにより、温水治療を施行する際の効果を予測することが可能となる。
また、当該温水治療では、温水によって死滅した白紋羽病菌の死菌体が、拮抗微生物を誘引し、温水処理後の土壌中に新たな白紋羽病菌の侵入を妨げられることによって、大きな治療効果が奏される(非特許文献1:本願において特許法第30条第1項の規定の適用を受ける発表 参照)。
従って、本発明の評価方法にて温水治療施行後の土壌の微生物の拮抗作用(土壌が有する白紋羽病抑止活性)の強さを評価することにより、温水治療の効果の持続性を評価することが可能となる。
本発明の土壌が有する白紋羽病抑止活性の評価を可能とする、評価キットの模式図である。(A):簡易版キット。(B):精密測定版キット。 実施例1における土壌が有する白紋羽病抑止活性を評価する方法において、各処理段階での状態を撮影した写真像図である。 (1):爪楊枝上での白紋羽病菌の培養処理。(2):爪楊枝先端での白紋羽病菌の一部死滅処理。(3) :供試土壌との接触処理。(4):白紋羽病菌の菌叢死滅域の計測。 なお、(1),(3),(4)における上部・下部プラントボックスの間には、バラフィルムでのシールを施した。 (A):実施例1(4)の計測において、爪楊枝上の白紋羽病菌の菌叢死滅域と生存域の境界線(黒線)付近を示す模式図である。 (B):試験区1-1における土壌接触処理後の菌叢死滅域と生存域の境界線(黒線)付近を撮影した写真像図である。 実施例1(4)の計測において、爪楊枝の先端部を実体顕微鏡で拡大撮影した写真像図である。 (A):試験区1-1(一部死滅処理あり+供試土壌中に拮抗微生物あり)。(B):試験区1-2(一部死滅処理あり+供試土壌中に拮抗微生物なし)。(C):試験区1-3(一部死滅処理なし+供試土壌中に拮抗微生物あり)。 実施例2において、白紋羽病の罹病根周辺土壌(試験区2-1)又はナシ樹木間の健全土壌(試験区2-2)を供試して、白紋羽病菌の菌叢死滅域(mm)を計測した結果である。 実施例3において用いた器具や処理段階の状態を撮影した写真像図である。(A):白紋羽病菌(非病原性であるNITE P-269株)を培養したナシ枝チップ(種菌)。(B):割り箸上の白紋羽病菌の培養処理。(C):供試土壌との接触処理。 実施例3(4)の計測において、土壌接触処理後の割り箸全体を撮影した写真像図である。(A):試験区3-1(罹病根周辺の土壌)。(B):試験区3-2(ナシ樹木間の健全土壌)。(C):試験区3-3(前記健全土壌を55℃で3日間熱処理した土壌)。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、土壌が有する白紋羽病抑止活性を評価する方法に関する。詳しくは、白紋羽病菌の菌叢で覆われた木片について、(A)当該菌叢の一部のみを死滅させる処理を行い、次いで(B)当該死滅菌叢と生存菌叢の両方を評価対象土壌に接触させて培養し、(C)木片上の死滅域を計測して、(D)評価することによって、対象土壌が有する白紋羽病に対する抑止活性、を評価する方法に関する。
〔菌叢で覆われた木片〕
本発明の評価方法では、‘白紋羽病菌菌叢で覆われた木片’を用いることを特徴とする技術である。
ここで、木片とは、長軸状、板状、球状等いかなる形状のものを用いることができるが、長軸状(棒状、柱状、串状、長板状等)の木片を用いることが好ましい。
材質としては、如何なるものでも良いが、例えばカバノキ、アスペン等を挙げることができる。また、おが屑等を固めた集合材を用いることもできる。
なお、抗菌性物質が多く含まれているものなどは適さないので、使用する前に培養可能かを確認することが望ましい。
また、木片の表面状態や材質は、同一の評価に用いる木材全部で均一なものを用いることが望ましい。表面の凹凸具合や材質が均一でない場合、菌叢死滅域の増減を正確に測定できなくなる可能性があり望ましくない。
長軸状の木片を用いた場合の長さとしては、目視にて菌叢死滅域の増減を確認できる長さであれば良い。具体的には、3cm以上、好ましくは5cm以上、特に好ましくは10cm以上のものを用いることが望ましい。
また、長さの上限としては操作性に適した長さであれば良く、例えば40cm以下、好ましくは30cm以下、さらには25cm以下のものが望ましい。
このような木片として具体的には、爪楊枝、割り箸、串焼き用の串、竹ひご等を挙げることができる。
白紋羽病菌菌叢で覆われた木片を調製するためには、滅菌処理(例えば高温加圧処理、煮沸処理等)した木片に、白紋羽病菌の種菌(図6(A)参照)を接種して、室温(具体的には10〜30℃)にて、2〜90日間、特には3〜60日間、さらには4〜40日間、放置することによって培養することが可能である。
なお、当該培養は、一般家庭にあるビニール袋、蓋が可能なバケツ、クリアケース、プラケース等を用いて行うことも可能である。
当該木片への菌叢の培養は、木片上の表面全部(全体)が菌叢で覆われる迄行うことが望ましいが、一部分が菌叢で覆われているものでも、菌叢死滅域の増減の確認が可能な程度の領域が覆われていれば、本発明で用いることが可能である。
例えば、長軸状の木片の場合、先端から少なくとも1cm以上、好ましくは2cm以上、さらには3cm以上、さらには4cm以上、さらには5cm以上、さらには6cm以上、さらには8cm以上、さらには10cm以上、さらには15cm以上、が覆われている木片を挙げることができる。
また、ここで培養に用いる白紋羽病菌としては、Rosellinia necatrix又はRosellinia compactに属し、通常の増殖能を有する菌株であれば如何なるものを用いることが可能である。好ましくは非病原性及び/又は低病原性の菌株を用いることが好適である。
ここで、非病原性の菌株として具体的には、NITE P-269株(W450株)を挙げることができる。また、低病原性の菌株として具体的には、FERM P-18142株(W370株)を挙げることができる。
なお、野外への白紋羽病菌のリークを鑑みると、非病原性の菌株を用いることがより望ましい。
当該白紋羽病菌菌叢で覆われた木片は、本発明の評価方法を実施する時期の前(最短で2日前)から培養を開始することで、調製が可能である。
また、当該培養済みの木片を調製した後、低温(例えば0〜4℃)に保管しておくことで、約3ヶ月間(好ましくは2ヶ月間)の適時使用が可能となる。
〔一部死滅処理〕
本発明では、上記調製した白紋羽病菌菌叢で覆われた木片について、菌叢の一部を死滅させる処理を行うことを特徴とするものである。
ここで、一部死滅処理は、木片上の菌叢の一部のみを死滅させる処理を指し、全部を死滅させるものではない。
仮に本工程を行わなかった場合、次工程の土壌接触処理で拮抗微生物の誘引及び増殖促進が起こらず、感度良く評価を行なうことができない。
また、仮に菌叢全部を死滅させた場合、当然ながら本発明の評価を行なうことができない。
一部死滅処理を行う手段としては、次工程である土壌接触処理における拮抗微生物の誘引及び増殖を妨げる処理(例えば、次亜塩素酸NA処理等の薬品処理)でなければ、如何なる手段を採用することが可能であるが、具体的には、加熱処理を採用することができる。
ここで加熱処理としては、温水との接触処理、ホットプレートやヒートブロック等の個体相との接触処理、バーナーやアルコールランプ等の炎で直接菌叢を炙る処理、などを挙げることができる。
なお、本発明においては、死菌させた死菌体に水分が含まれている方が、次工程の土壌接触処理での拮抗微生物の増殖促進の点で(測定値の検出感度の点で)好適である。
そのため、加熱処理後の死菌体が乾燥状態となる場合には、水分を含ませる処理をすることが好適である。
従って、本発明における加熱処理として最も好適な手段としては、温水との接触処理を採用することが望ましい。死菌体に水分が含まれる状態になるからである。
また、温水処理は浸漬や噴霧によって行うことが可能であるが、特に浸漬による態様を採用することで、長軸状木片の先端から所定範囲の菌叢のみを、ピンポイントで死滅させることが可能となる。
加熱処理(温水処理)の温度としては、35℃以上を挙げることができるが、確実に短時間に死滅させるためには、40℃以上、さらには45℃以上、さらには50℃以上、さらには60℃以上、特には70℃以上を挙げることができる。
例えば、45℃の温水浸漬の場合は30分間の処理にて、70℃の温水浸漬の場合は20秒間の処理にて、浸漬した部分の白紋羽病菌の菌叢を死滅させることができる。
なお、当該処理によって死滅させる菌叢領域(菌叢死滅領域)としては、菌叢で覆われた長軸状の木片の先端から少なくとも5mmの領域(目視での死滅領域の増減の判断が可能な領域)、を死滅させることを要する。
なお、好ましくは、先端から1〜15cm、特には2〜10cm、さらには3〜8cmを、死滅させることが、死滅領域の増減の判断する上で望ましい。
また、当該一部死滅処理は、死滅させた菌叢と生存菌叢の境界部分から5mm以上の領域の菌叢が生存するように行うことが望ましい。
好ましくは、当該領域が1〜15cm、特には2〜10cm、さらには3〜8cmを生存させることが、死滅領域の増減を判断する上で望ましい。
〔土壌接触処理〕
本発明は、上記工程によって死滅させた菌叢と生存菌叢の両方を、評価対象である供試土壌に接触させて培養する処理を行うことを特徴とする技術である。
当該土壌接触処理では、上記処理にて死滅した死菌体によって、土壌中の拮抗微生物を特異的に誘引し、誘引された拮抗微生物が死菌体を餌にして木片上で急速に増殖させるために行う処理である。
当該処理により、本発明では、土壌に含まれる拮抗微生物の白紋羽病菌に対する作用(致死作用、増殖阻害作用)の感度を大幅に増幅して検出することが可能となる。
なお、当該土壌接触処理は、バケツ、ビニール袋、クリアケース、プラケース、水槽、植木鉢、プランター等を用いて行うことも可能である。
ここで、拮抗微生物としては、白紋羽病菌に対して致死作用や増殖阻害作用を有する微生物全般を指すものである。
例えば、バチルス(Bacillus)属等の細菌類、トリコデルマ(Trichoderma)属菌などの糸状菌類、エノキタケ(キノコ類)の菌糸、等を挙げることができる。
当該処理における供試土壌接触の態様は、前記死滅させた菌叢, 及び, 生存している菌叢の一部又は全部を土壌と接触させること、によって行うものである。
具体的には、(i)長軸状木片に形成された菌叢死滅領域の全領域に加えて、(ii)死滅させた菌叢と生存菌叢の境界部分から所定の領域の生存菌叢を、一緒に土壌接触させる態様を挙げることができる(例えば、図2(3), 図6(C) 参照)。
また、当該土壌接触は、具体的には、埋土や土壌中への挿入によって行う。
なお、当該処理は、死滅させた菌叢と生存菌叢の境界部分から少なくとも5mmの領域(目視での死滅領域の増減の判断が可能な領域)を土壌接触させて行うことが望ましい。
特には、当該領域が1〜15cm、特には2〜10cm、さらには3〜8cmとすると、死滅領域の増減を判断する上で好適である。
土壌接触を行う期間としては、土壌中の拮抗微生物の作用が検出できる期間であれば良いが、例えば、7〜120日間、好ましくは14〜90日間、さらには21〜60日間を挙げることができる。
また、当該処理の温度としては、室温(具体的には10〜30℃、好ましくは20〜28℃)で行うことが望ましい。なお、白紋羽病菌は致死温度が低く高温に弱いため、33℃以下で行うことが望ましい。
〔菌叢死滅域の計測〕
本発明の方法では、上記土壌接触処理を行った後に木片を回収し、白紋羽病菌の菌叢死滅域の計測を行うことを要する。
土壌接触処理後の木片での菌叢死滅域は、供試土壌中に含まれる拮抗微生物の作用(拮抗力)の強弱の違いによって、当該領域が増加又は減少して観察される。
供試土壌中の拮抗微生物が多い場合には、拮抗微生物の白紋羽病菌に対する致死作用・増殖阻害作用(拮抗力)が高い。そのため、白紋羽病菌の生存菌叢の減少により、菌叢死滅域が拡大して観察される。
一方、供試土壌中の拮抗微生物が少ない場合には、拮抗微生物の白紋羽病菌に対する致死作用・増殖阻害作用(拮抗力)が低い。そのため、白紋羽病菌の菌叢の増殖により菌叢死滅域が減少して観察される。
測定対象としては、木片上の菌叢死滅域の面積や、木片の一端からの距離等を挙げることができる。
具体的には、長軸状の木片の場合、「一部死滅処理を行った側の先端」から「死滅域と生存域の境界線」までの距離を測ることが好適である(図3の符号33 参照)。
ここで、菌叢死滅域と生存菌叢の領域の境界としては、木片表面の土壌を取り除き、目視, ルーペ, 実体顕微鏡で直接観察することができる。
ここで、当該境界は、木片上の菌叢等を水等で洗い流し、木片上に沈着している黒線を指標としても判定可能である。
なお、当該黒線は、土壌接触処理において白紋羽病菌が拮抗微生物に対する防御のために分泌するメラニン成分であり、拮抗微生物と接する部分で形成される。また、目視にて明瞭に観察が可能な線である。
そのため、果樹栽培現場での実施を考慮すると、当該黒線を指標とする態様が簡便であり好適と認められる。
土壌接触処理後の白紋羽病菌の菌叢死滅域には、白紋羽病菌の死菌体によって誘引された拮抗微生物が増殖してコロニーや菌叢が形成された状態となる。
拮抗微生物が全く存在しない土壌を供試した場合は、当然であるが、拮抗微生物のコロニーや菌叢は形成されない。
なお、評価のバラツキを減少させるため、一つ供試土壌に対して木片3個(長軸状の場合は3本)以上、好ましくは4個(4本)以上、さらには5個(5本)以上、を用いて計測することが望ましい。
〔土壌が有する白紋羽病抑止活性の評価〕
本発明では、上記菌叢死滅域の計測値を基にして、供試土壌が有する白紋羽病抑止活性を評価することが可能である。なお、原理的には、対照土壌の測定値との比較を行うことなく、当該評価をすることが可能である。
例えば、(i) 土壌接触処理後の菌叢死滅域が、当該処理前の領域よりも‘拡大’している場合、土壌に含まれる拮抗微生物全体の作用が高い状態にある。従って、この場合、土壌の白紋羽病抑止活性が‘高い’と評価することができる。
また、(ii) 土壌接触処理後の菌叢死滅域と当該処理前の領域が‘同じ’である場合、土壌に含まれる拮抗微生物全体の作用により、白紋羽病菌の増殖が抑えられている状態である。即ち、この場合も、土壌の白紋羽病抑止活性は‘高い’と評価することができる。
一方、(iii) 土壌接触処理後の菌叢死滅域が、当該処理前の領域よりも‘減少’している場合、土壌に含まれる拮抗微生物全体の作用が低い状態にある。従って、この場合、土壌の白紋羽病抑止活性が‘低い’と評価することができる。
また、本発明では、各供試土壌間や対照土壌(例えば、熱処理等を行って人為的に拮抗微生物を死滅させた土壌等)との比較を行うことで、より詳細な活性度合いを評価することが可能となる。
この場合、前記測定により死滅域が減少している場合であっても、減少の度合いを比較することによって、当該活性の相対的な強さを評価することが可能となる。
本発明の方法で評価は、特に果樹や花卉の栽培における土壌の評価において、好適に用いることができる。
具体的には、リンゴ、ナシ、ブドウ、ビワ、イチジク、キウイフルーツ、モモ、ウメ、オウトウ、アンズ、スモモ、カキ、カンキツ、クリ、クワ、チャ、サクラ、カシ、ナラ、ポプラ、カエデ、ツバキ、ツツジ、バラ、キク、オモト、シャクヤクなど、を栽培する際の土壌を評価できる点で有効な技術となる。
また、本発明の方法で評価が可能な土壌が有する抑止活性としては、Rosellinia necatrix又はRosellinia compactに属する菌が引き起こす植物病(白紋羽病)であれば、如何なる病気の抑制活性の評価でも可能である。
〔評価キット〕
本発明における上記評価方法は、農家等に一般的に常備されている一般的器具類を用いて実施可能な技術であるが、より簡便で正確な評価を行なうためには、以下のような構成物品を含む評価キットでの態様が好適である。
・簡易測定版
本発明の上記評価を簡便に行うキットとして、最少単位の構成物品からなる態様としては、(a)上部が開口した容器と、(b)白紋羽病菌菌叢で覆われた長軸状の木片、を含むキットを挙げることができる。例えば、当該簡易版キットの一態様を図1(A)に示す。
ここで、(a)の‘上部開口容器(図1の符号2)’としては、具体的には、ガラス, ポリエチレン, ポリエチレンテレフタレート, ポリスチレン, 又はポリプロピレンで形成されてなる容器であり、好ましくは透明又は半透明の容器を挙げることができる。
当該容器は、容器中にお湯を入れることで上記一部死滅処理を行うことを可能とする容器である。また、お湯を棄てた後、供試土壌を入れることで、そのまま土壌接触処理を行うことも可能となる。
また、当該容器をキットに複数個梱包させることで、上記各処理で専用に用いる容器とすることもできる。
また、(b)の‘白紋羽病菌菌叢で覆われた長軸状の木片(図1の符号3,4)’としては、3〜40cmの長さであり、且つ、長軸状の木片の全部, 又は, 先端から1cm以上の部分が、白紋羽病菌の菌叢で覆われた長軸状の木片、を指すものである。
ここで、木片(図1の符号3)の長さや材質等, 菌叢の覆われ程度等, の好適な態様については、上記段落の記載した態様を採用することができる。
また、ここで白紋羽病菌(図1の符号4)としては、非病原性又は低病原性の白紋羽病菌である、NITE P-269株及び/又はFERM P-18142株を指すものである。
なお、当該(b)の木片は、評価のバラツキを減少させるため、一つ供試土壌に対して3本(好ましくはそれ以上)を用いることが望ましいので、キット中には測定回数に応じた多数の木片を梱包することが望ましい。
・精密測定版
本発明の評価キットの別の態様としては、上記(b)の木片の代わりに、(c)白紋羽病菌菌叢で覆われた長軸状の木片を備えた蓋部、を梱包する態様を挙げることができる。例えば、当該精密測定版キットの一態様を図1(B)に示す。
ここで、(c)の‘蓋部(図1の符号6)’としては、上記(b)に記載の特徴を有する同じ長さの長軸状の木片を、;2〜100本下方向に固着させた板状物(図1の符号5)、;を備えてなる蓋部であり、;前記(a)に記載の容器の上部開口部と接続した際に、前記長軸状の木片の下部先端部が、前記容器(a)の底部と接触することなく、前記(a)の容器の内部を密封することが可能な蓋部、を指すものである。
当該態様では、蓋部に同じ長さ複数の木片が装着された態様となる。そのため、装着された全ての長軸状木片において、一部死滅させる領域や土壌に接触させる領域を、同じ長さに揃えることが極めて容易となる。従って、当該態様は、多検体処理に適した態様となる。
なお、長軸状木片の本数としては、評価のバラツキを減少させるため、3本以上であることが好ましいが、さらには4本以上、さらには5本以上、さらには9本以上とすることが好適である。
本数の上限としては、となり合う木片どうしの菌叢が接触しない間隔であれば、特に制限はないが、例えば、100本以下、特に81本以下、64本以下を挙げることができる。
なお、各木片は、等間隔に配置すること望ましい。
蓋部分の材質としては、特に制限はないが、具体的には、ガラス, ポリエチレン, ポリエチレンテレフタレート, ポリスチレン, 又はポリプロピレンを挙げることができる。
また、(a)容器との接続部分には、パッキンやO-リングをかませたり、パラフィルムで覆う態様とすることも可能である。
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
〔実施例1〕『土壌が有する白紋羽病抑止活性を評価する方法』
土壌が有する白紋羽病抑止活性の評価方法を確立するため、以下の各処理条件の組合せが異なる試験を行った(試験区1-1〜1-3)。
(1) 「爪楊枝上での白紋羽病菌の培養」
プラントボックスの底面に径2.5mmのドリル穴を1cm間隔で25個(=縦5個×横5個)空け、オートクレーブ滅菌した‘上部プラントボックス’を作成した。
また、爪楊枝(カバノキ材)を蒸留水中でオートクレーブ滅菌したものを準備した。
一方、別途に滅菌プラントボックス内にPDA寒天培地(50ml)を作成し‘下部プラントボックス’とした。そして、当該培地上に、白紋羽病菌を培養した5mm角PDA寒天培地(接種源)を4個等間隔に置き、蓋をして23℃で約4日間培養した。なお、白紋羽病菌としては、Rosellinia necatrix W563株を用いた。
培養後、クリーンベンチ内にて下部プラントボックスの蓋を開け、滅菌操作にて上部プラントボックスを重ねた。次いで、前記上記プラントボックスの底面のドリル穴のそれぞれに前記爪楊枝(25本)を、下部プラントボックス内の白紋羽病菌の菌叢に先端が触れるまで差し込んだ。
そして、上部と下部プラントボックスの接続部分、上部プラントボックスの蓋部分をパラフィルムでシールし、乾燥とプラントボックスの不慮の分断防止を図った。
その後、23℃で3週間培養することで、菌叢が爪楊枝全体を覆うまで白紋羽病菌を培養した。培養後の状態を撮影した写真像を図2(1)に示した。
なお、当該実施例において、蓋をした上部プラントボックスに爪楊枝を装着したものが、図1における蓋部6に相当する。また、下部プラントボックスが上部開口容器2に相当する。
(2) 「白紋羽病菌の一部死滅処理」
新たな滅菌プラントボックスに滅菌蒸留水100ml程度を入れた後、湯煎して45℃の温水が入ったプラントボックスを準備した。
上記(1)で培養したプラントボックス(試験区1-1,1-2のみ)を回収し、クリーンベンチ内にて上部プラントボックスを下部プラントボックスから取り外した。この時、上部プラントボックスの底面には、白紋羽病菌の菌叢で覆われた爪楊枝が差し込まれた(装着された)状態になっている。
取り外した上部プラントボックスを、温水の入った一部死滅処理用プラントボックスに重ね、培養後の爪楊枝の「先端から約1cm」が温水に浸るようにした。そして、下部プラントボックスを湯煎して温水を45℃に維持し、30分間放置(白紋羽病菌の一部死滅処理)を行った。
当該処理によって、試験区1-1,1-2の爪楊枝は、先端から1cm迄の菌叢は死滅し、これより上側の菌叢のみが生存した状態となった。
当該処理後、上部プラントボックスを外して死滅処理プラントボックス内の温水を廃棄し、再度上部プラントボックスを重ね、そのまま10分程度放置し冷ました。当該状態を撮影した写真像を図2(2)に示した。
なお、当該処理を行わなかった試験区1-3では、菌叢で覆われたままの状態となっていた。
(3) 「供試土壌との接触処理」
新たなプラントボックスに、評価対象である各供試土壌を200ml程度入れたプラントボックスを準備した。各供試土壌は、野外で採取した後、篩(4mm目)で石等を除去したものを使用した。
土壌としては、オートクレーブ滅菌後にTrichoderma harzianum(白紋羽病菌の拮抗微生物である糸状菌)を均一に混和した土壌(試験区1-1,1-3)と、オートクレーブ滅菌しただけの土壌(試験区1-2)を用意した。
試験区1-1〜1-3の全てのプラントボックスについて、クリーンベンチ内にて上部プラントボックスを分離し、各供試土壌を入れた土壌接触処理用プラントボックスに重ね、爪楊枝の「先端から3cm」を土壌に挿入した。
そして、23℃の培養器内で1ヶ月間放置した(土壌接触処理)。当該処理の状態を撮影した写真像を図2(3)に示した。
(4) 「白紋羽病菌の菌叢死滅域の計測」
滅菌濾紙(径5cm)2〜3枚と滅菌蒸留水4〜5mlを入れた新たな滅菌プラントボックスを準備した。なお、蒸留水は、プラントボックス内の乾燥を防ぐために入れた。
上記(3)の処理を経たプラントボックスを回収し、上部プラントボックスを取り外した。なお、爪楊枝表面に土壌が付着しているので、ピンセット等で表面の土壌を取り除いた。
これを濾紙と蒸留水が入ったプラントボックスに重ね、23℃で2日間放置した。当該処理の状態を撮影した写真像を図2(4)に示した。
その後、実験室内にて再び上部プラントボックスを取り外し、実体顕微鏡下で培養爪楊枝(周縁に位置する16本)の先端部分を観察し、「白紋羽病菌の菌叢死滅域(mm)」(爪楊枝の先端から白紋羽病菌の菌叢が死滅している領域の長さ)を計測した(図3の符号32 参照)。
計測の結果を表1に示した。なお、中央部の9本の爪楊枝については、生育状況のバラツキが大きいため計測に用いなかった。
また、計測後さらに5日放置した爪楊枝の先端の顕微鏡像を図4(A)〜(C)に示した。
(5) 「計測結果および評価の有効性」
・評価系の有効性について
試験区1-1,1-2の計測値の比較から、供試土壌中の拮抗微生物の存在の有無によって、白紋羽病菌の菌叢死滅域(mm)の増減挙動が、全く異なることが示された。
具体的には、拮抗微生物が存在する土壌(試験区1-1)を供試した場合、当該菌叢死滅域(mm)が、先端から1cm(一部死滅させた領域)よりも大幅に(先端から3cmに)拡大していることが示された(図4(A) 参照)。これは、上記(3)の処理において、土壌中の拮抗微生物が有する白紋羽病菌に対する致死作用や増殖阻害作用によって、死滅域が拡大したものと推測される。
一方、拮抗微生物が存在しない土壌(試験区1-2)を供試した場合、当該菌叢死滅域(mm)が、完全に消滅していることが示された(図4(B))。これは、上記(3)の処理で土壌中に白紋羽病菌の生育を妨げる微生物が全く存在しないため、白紋羽病菌が再び生育したためと認められる。
これらの結果から、本実施例における一連の処理を行うことで、「供試土壌が有する白紋羽病菌に対する拮抗微生物の活性の強さ(即ち、土壌が有する白紋羽病抑止活性の強さ)」を評価できることが示された。
例えば、一部死滅させた領域(本実施例では先端から1cm)よりも死滅域が拡大した場合、および、1cmから変わらない場合は、供試土壌中に存在する拮抗微生物の活性が極めて強いと評価できる。
一方、一部死滅させた領域(本実施例では先端から1cm)よりも死滅域が減少した場合でも、供試土壌間の比較によって、拮抗微生物活性の相対的な強さを評価できる。
・一部死滅処理の効果について
上記一連の処理のうち、温水による白紋羽病菌の一部死滅処理(上記(2)の処理)を行わなかった場合(試験区1-3:対照)では、土壌中に拮抗微生物が存在しているにも関わらず、白紋羽病菌がほとんど減少しなかった(図4(C))。
即ち、当該一部死滅処理を行わない場合、検出感度が極めて低くなることが示された。
このことから、本発明の評価方法では、一部死滅処理によって死んだ白紋羽病菌の死菌体を、土壌中の拮抗微生物を接触させることが必須であることが明らかになった。
また、本発明の評価方法の原理は、白紋羽病の死菌体が餌として拮抗微生物を爪楊枝に特異的に集め、急速な増殖を促すことにより、土壌中の拮抗微生物活性を検出する感度が大幅に増幅されて奏されるものと推測された。
・黒線について
なお、土壌接触処理後の菌叢死滅域と生存域の境界線は、黒線(白紋羽病菌が拮抗微生物に対する防御のために分泌したメラニン成分)として観察されるため、当該黒線を指標にしても計測を行うことが可能であることが示された(図3の符号33 参照)。
〔実施例2〕『土壌が有する白紋羽病抑止活性の評価』
実施例1で確立した評価方法を用いて、野外土壌における白紋羽病抑止活性の評価を実際に行った。
白紋羽病が発生したナシ圃場において罹病根周辺の土壌(試験区2-1)、又は、ナシ樹木間の健全土壌(試験区2-2)を、供試土壌として供したことを除いては、実施例1(1)〜(4)に記載の方法と同様にして、白紋羽病菌の菌叢死滅域(mm)を計測した。
なお、各土壌試料のサンプリングは異なる場所にて3回ずつ行い、それぞれについて当該計測を行った。計測結果を図5に示した。
その結果、白紋羽病の罹病根周辺の土壌(試験区2-1)を供して計測した場合、ナシ樹木間の健全土壌(試験区2-2)を供した場合と比べて、爪楊枝上の白紋羽病菌の菌叢死滅域(mm)が大幅に長くなることが示された。
これは、罹病根周辺の土壌では、白紋羽病菌に対する拮抗微生物の生息密度が大幅に高まっているためと推測された。
このことから、白紋羽病の罹病根周辺土壌は、健全土壌と比べて、白紋羽病菌に対する拮抗微生物の活性が高いこと(即ち、白紋羽病抑止活性が高いこと)が示された。
〔実施例3〕『汎用器具を用いた態様』
果樹生産現場においても利用しやすい技術とするため、実施例1で確立した白紋羽病抑止活性の評価方法が、一般農家に常備されているような市販の器具等を用いても実施可能かを検討した。
(1) 「割り箸上での白紋羽病菌の培養」
2つに割った割り箸(アスペン材, 長さ20cm)30本を、沸騰した水道水が入った鍋を用いて10〜15分間煮沸滅菌した。その後、鍋に蓋をしたまま放置し、お湯の温度を40℃以下にした。
新たな割り箸を用いて、‘煮沸滅菌した割り箸’を鍋内から取り出し、速やかに市販の透明ビニール袋(40×30cm)に入れた。
一方、白紋羽病菌(非病原性であるNITE P-269株)を培養したナシ枝チップ(図6(A) 参照)を50mL分採り、新たな割り箸を用いて細かく崩して前記ビニール袋に入れた。そして、先に入れておいた煮沸滅菌した割り箸に満遍無くまぶした。
ビニール袋内に多くの空気が入るようにして袋口を閉じ、23℃の培養器内で1ヶ月放置することで、菌叢が割り箸全体を覆うまで白紋羽病菌を培養した。当該状態を撮影した写真像を図6(B)に示した。
(2) 「白紋羽病菌の一部死滅処理」
白紋羽病菌を培養した割り箸の一方の先端5cmを70℃のお湯に20秒間浸漬することによって、先端から5cm迄の菌叢を死滅させた。
(3) 「供試土壌との接触処理」
市販のバケツ(5L)に、供試土壌を深さ約10cm程度まで入れた。なお、各供試土壌は、野外で採取した後、篩(4mm目)を用いて石などを除いた。
土壌としては、罹病根周辺の土壌(試験区3-1:拮抗微生物が多く存在する土壌), ナシ樹木間の健全土壌(試験区3-2), 前記健全土壌を55℃で3日間熱処理した土壌(試験区3-3:拮抗微生物を人為的に減らした土壌)、を用意した。
これらのバケツの中に、前記(2)の処理をした割り箸をバケツの底まで挿し込み、先端から10cmが土壌に挿入された状態とした。当該状態を撮影した写真像を図6(C)に示した。
そして、土が乾燥しないように蓋をして、20℃程度の暗所で1ヶ月放置した。
(4) 「白紋羽病菌の菌叢死滅域の計測」
土壌から割り箸を抜き取り、割り箸に付いた土等を水道水中で強くこすりながら洗浄した。
そして、割り箸の先端から10cmの間に形成された黒線(菌叢死滅域と生存域の境界線)の位置を観察し(図7の符号33 参照)、先端からの距離を測定した。結果を表2及び図7に示した。
(5) 「計測結果および評価の有効性」
その結果、罹病周辺部土壌(試験区3-1:拮抗微生物が多く存在する土壌)を供試した場合、菌叢死滅域は、最初に一部死滅させた領域(先端から5cm)よりも約1.5〜2.5cm拡大したことが観察された(図7(A) 参照)。
また、通常の健全土壌(試験区3-2)を供試した場合は、菌叢死滅域は、最初に一部死滅させた領域(先端から5cm)よりも約0.1〜0.5cm拡大することが観察された(図7(B) 参照)。
一方、熱処理した土壌(試験区3-3:拮抗微生物を人為的に減らした土壌)を供試した場合、菌叢死滅域は、最初に一部死滅させた領域(先端から5cm)よりも約3.0〜5.0cm減少することが観察された(図7(C) 参照)。
このことから、割り箸, バケツ, ビニール袋等の農家で常備されている器具を用いた場合でも、実施例1の培養ケースを用いた場合と同様に、供試土壌の白紋羽病抑止活性が評価できるがことが示された。
また、黒線を指標とすることで、より容易に測定及び評価が可能であることが示された。
本発明は、リンゴやナシなど白紋羽病の発生する果樹園等の生産現場において、対象となる土壌が有する白紋羽病抑止活性を極めて簡便に評価する有用な技術として、広く普及することが期待される。
また、当該技術の普及にあたっては、より簡便に本発明の実施を可能とするため、簡易評価キットを開発して、製品化して利用されることが期待される。
また、これまで、白紋羽病に対する土壌改良技術として、温水治療に関する技術開発が進めてられてきたが、本発明によって、温水治療を施行する際の効果の予測が可能となった。これにより、温水治療の効果が確実に得られるようにすることが可能となった。
また、温水治療施行後の効果を確認することも可能となったため、当該効果の持続性を把握し、白紋羽病の再発を予防することが可能になった。
従って、本発明により、温水治療(白紋羽病の治療・防除効果が高く且つ環境負荷の小さい技術)が、果樹生産現場へ広く普及することに貢献することが期待される。
1: 土壌が有する白紋羽病抑止活性の評価キット
2: 上部開口容器
3: 長軸状の木片
4: 白紋羽病菌の菌叢
5: 板状物
6: 蓋部
30: 一部死滅処理後の培養爪楊枝
31: 土壌接触処理後の培養爪楊枝
32: 白紋羽病菌の菌叢死滅域
33: 菌叢死滅域と生存域の境界線(黒線)
34: 白紋羽病菌の菌叢生存域

Claims (9)

  1. 以下(A)〜(D)に記載の工程を順に行うことを特徴とする、土壌が有する白紋羽病抑止活性を評価する方法。
    (A) 木片上の全部又は一部が、培養した白紋羽病菌の菌叢によって覆われた木片について、当該菌叢の一部を死滅させる工程。
    (B) 前記死滅させた菌叢, 及び, 生存している菌叢の一部又は全部を土壌と接触させて、7〜120日間培養する工程。
    (C) 前記木片上における白紋羽病菌の菌叢の死滅域の長さ又は面積を計測する工程。
    (D) 前記計測した値を基にして、評価対象の土壌が有する白紋羽病抑止活性を評価する工程。
  2. 前記(A)工程において死滅させた菌叢の死菌体が、評価対象土壌中の白紋羽病菌に対する拮抗微生物を誘引し, 且つ, 当該拮抗微生物の急速な増殖を促す性質を有するものである、請求項1に記載の評価方法。
  3. 前記(A)工程で培養された白紋羽病菌が、非病原性の菌株及び/又は低病原性の菌株である、請求項1又は2に記載の評価方法。
  4. 前記(A)工程における菌叢の一部分を死滅させる処理が、35℃以上の温水への接触によって行うものである、請求項1〜3のいずれかに記載の評価方法。
  5. 前記木片が、長軸状の木片である、請求項1〜4のいずれかに記載の評価方法。
  6. 前記(A)工程における菌叢の一部を死滅させる処理が、;菌叢で覆われた長軸状の木片の先端から5mm以上の領域の菌叢、;を死滅させる処理である、請求項5に記載の評価方法。
  7. 前記(B)工程における土壌接触処理が、;前記死滅させた菌叢, 及び, 死滅させた菌叢と生存している菌叢の境界部分から5mm以上の領域の生存している菌叢、;を埋土する処理である、請求項5又は6に記載の評価方法。
  8. 以下(a)に記載の構成物品を1つ以上含み、且つ、以下(b)に記載の構成物品を含むことを特徴とする、土壌が有する白紋羽病抑止活性の評価キット。
    (a) 請求項1〜7のいずれかに記載の(A)工程及び/又は(B)工程で用いる、ガラス, ポリエチレン, ポリエチレンテレフタレート, ポリスチレン, 又はポリプロピレンで形成されてなる、上部が開口した容器。
    (b) 3〜40cmの長さであり、且つ、長軸状の木片の全部, 又は, 先端から1cm以上の部分が、非病原性又は低病原性の白紋羽病菌である、NITE P-269株及び/又はFERM P-18142株の菌叢で覆われた長軸状の木片。
  9. 上記(a)の容器が、透明又は半透明である上部が開口した容器であり、且つ、上記(b)の木片の代わりに以下(c)に記載の構成物品を含むことを特徴とする、請求項8に記載の評価キット。
    (c) 上記(b)に記載の特徴を有する同じ長さの長軸状の木片を、;2〜100本下方向に固着させた板状物、;を備えてなる蓋部であり、;前記(a)に記載の容器の上部開口部と接続した際に、前記長軸状の木片の下部先端部が、前記容器(a)の底部と接触することなく、前記(a)の容器の内部を密封することが可能な蓋部。
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