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JP5760506B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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JP5760506B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、トランスなどの鉄心材料に用いる鉄損特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
方向性電磁鋼板は、主にトランスの鉄心として使用される材料である。鉄心材料の鉄損、磁歪はトランスの鉄損、騒音に強い影響を与えることが知られており、方向性電磁鋼板の低鉄損化、低磁歪化に関する研究が活発に行われている。低鉄損化を達成する手段として、磁区細分化処理が挙げられる。これらは例えばレーザー照射(特許文献1参照)、プラズマ照射(特許文献2参照)、電子ビーム照射(特許文献3参照)により局部微小ひずみを導入して磁区を細分化し、鉄損を低下させるという方法である。本発明は磁区細分化処理として電子ビーム照射を用いるものである。電子ビーム照射は高真空を利用しなければならないというハンディを抱えているものの、ビームを細く絞ることが可能、ビームの走査が容易、ビームの侵入深さが深い、さらにはビームのエネルギー効率が良いなど数々の利点を備えている。
次に、一般的な方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
約3%のSiとインヒビター成分(AlNやMnSeなど)を含むスラブを熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を行い、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を行う。得られた冷延板に対して脱炭焼鈍を施し、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布し、コイルフォームで仕上げ焼鈍を行い、フォルステライト(Mg2SiO4)質被膜を形成する。このフォルステライト質被膜は、脱炭焼鈍で鋼板表面に形成されたSiO2と焼鈍分離剤中のMgOが仕上げ焼鈍中に反応して形成されるものである。フォルステライトは、鋼よりも熱膨張係数が小さいため、高温で形成された後、室温に冷却される際に、地鉄に引張応力を与える(以下、被膜が地鉄に与える引張応力を被膜張力という)。被膜張力は、方向性電磁鋼板の鉄損を低下させ、磁歪を小さくするという重要な役割がある。
他方、仕上げ焼鈍は、コイルフォームで実施されるため、巻きぐせを矯正するための平坦化焼鈍が必要となる。平坦化焼鈍においては、リン酸塩とコロイダルシリカを原料とするガラス質コーティングを同時に焼付けるのが一般的である。このガラス質コーティングも熱膨張係数が低く、鋼板に引張応力を与える役割がある。平坦化焼鈍の目的は鋼板を塑性変形させて形状を矯正することであるが、塑性変形が大きすぎると、鋼に転位が導入され、鉄損や磁歪特性が劣化することが知られている。例えば、特許文献4には、平坦化焼鈍における鋼板の塑性伸びを0.03〜0.15%とし、冷却過程の温度勾配を1.5℃/cm以内とすることで鉄損を改善する技術が提案されている。
特公昭57−2252号公報 特開昭62−96617号公報 特開昭63−186826号公報 特開平7−305115号公報
丸山・中島、P170、高温強度の材料科学、内田老鶴圃
しかしながら、従来の方法で電子ビームを照射し、磁区細分化を施した材料は、レーザー等で磁区細分化した材料と同等の鉄損を示すものの、実際にトランスを作製すると期待したほどの特性が得られないという問題があった。すなわち、電子ビームを照射し磁区細分化を施した材料には、機器鉄損を素材鉄損で割った値、いわゆるビルディングファクターが大きいという問題があった。
また、鋼板の塑性伸び量を低下させるために炉内張力を低くすると、鋼板が蛇行しやすくなり、安定した通板が難しいといった問題があった。さらに、塑性伸び量を低下させるために焼鈍温度を低くした場合には、ガラス質コーティングの特性が劣化するという問題があり、実際には、平坦化焼鈍条件を調整して、鋼板の塑性伸び量を調整することは困難であった。
すなわち、平坦化焼鈍に関する従来技術は、得られた材料の磁気特性が重視されており、その他の特性の劣化、特に、トランスを作製した際の鉄損特性には、特に考慮が払われていなかった。また、磁区細分化処理との組み合わせについても検討されてはいなかった。
本発明は、上記した現状に鑑み開発されたもので、電子ビーム照射を用いて、平坦化焼鈍後に磁区細分化処理を施す方向性電磁鋼板の製造方法において、トランスを作製した際に優れた鉄損特性を有する方向性電磁鋼板を得る方法を提供することを目的とする。
以下、本発明の完成に至った実験について説明する。
発明者らは、工場の製造ラインにおいて、様々な製造条件で方向性電磁鋼板を作製し、得られた鋼板に対し、電子ビーム照射による磁区細分化処理を施した。磁区細分化処理済みの鋼板を用いてトランスを作製し、トランスの鉄損や騒音を調査し、素材鋼板の鉄損特性との相関を調べた。その結果、鉄損や騒音特性の悪いトランスの鉄心材料は、フォルステライト質被膜の被膜張力が低い傾向があるということが明らかとなった。
ここに、本発明における、フォルステライト質被膜の被膜張力:σFの測定方法について説明する。圧延方向:280mm、圧延直角方向:30mmの試験片を準備し、まず煮沸アルカリ水溶液によって両面のガラス質コーティングを除去する。次に、酸を用いてエッチングし、片面のフォルステライト質被膜を除去する。最後に、鋼板の反り量を測定し、反り量を次式(1)で被膜張力に換算する。
Figure 0005760506

なお、Eは圧延方向のヤング率、dは板厚、aは片面被膜による反り量、νは圧延方向に応力を加えた場合のポアソン比、lは固定端と反り量を測定する位置の長さを意味する。本発明では、Eとして純鉄の弾性定数:132GPa、νとして0.37の値を用いた。
まず、上記フォルステライト質被膜張力測定に、SEM観察や腐食試験等を組み合わせて、トランス特性が劣っていた鋼板のフォルステライト質被膜を、詳細に調査した。その結果、トランス特性が劣っている鋼板のフォルステライト被膜には、極微細なクラックが多く存在していることが判明した。また、一部のトランスは、フォルステライト質被膜の被膜張力が低いにもかかわらず、優れた鉄損特性が得られるものがあったが、そのような鋼板には、上記したクラックがほとんど認められなかった。
従って、電子ビーム照射材のトランス特性は、被膜張力よりも、むしろフォルステライト質被膜の損傷具合のほうに強い影響を受けていることが分かった。
ここに、被膜に生じたクラックによってトランスの特性が劣化する理由は明らかでないが、トランス作製の際に加わる様々な応力によって、フォルステライト質被膜の破壊が進み、実際のトランスでは、被膜張力の効果がほとんど失われてしまうのではないかと推測される。また、電子ビーム照射による磁区細分化処理を行った場合は、フォルステライト質被膜に与えるダメージが特に大きく、このような破壊を促進する要因になっていると考えられる。
さらに、発明者らは実験室の小型設備で様々な実験を行い、フォルステライト質被膜のクラックがいかなる条件で形成されるのかを調査した。ところが、実験室で作製した方向性電磁鋼板のフォルステライト質被膜には、ほとんどクラックが発生しなかった。そこで、発明者らは、実験室と工場の製造工程の差異について考察し、平坦化焼鈍の有無に注目した。すなわち、平坦化焼鈍によってフォルステライト質被膜が破壊されているのではないかという着想を得たのである。
そこで、フォルステライト被膜を有する方向性電磁鋼板で300mm×30mmの大きさのサンプルを準備し、小型の実験炉で引張応力をかけながら、820℃で1minの焼鈍を行ったところ、フォルステライト質被膜の被膜張力が大きく低下する結果が得られた。また、焼鈍後のサンプルの被膜を調査したところ、多くのクラックが形成されていることを確認した。以上の知見を得た発明者らは、再度検討を行い、平坦化焼鈍におけるフォルステライト質被膜の被膜張力減少量を低く抑えることによって、優れたトランス特性が得られることを見出したのである(図1参照)。図1より、フォルステライト質被膜の被膜張力の減少量は、被膜の損傷の度合いを表すパラメータとして極めて有用であることが分かる。
さらに、発明者らは、平坦化焼鈍の条件を変更して、フォルステライト質被膜の被膜張力の低下を抑える条件を検討した。
その結果、地鉄の塑性伸びが小さいほど、被膜張力の低下が抑えられることが分かった(図2参照)。これは、フォルステライト質被膜がセラミック質であるため、鋼板の塑性変形に追従できずにクラックが導入されるからと考えられる。また、塑性伸びが同一の場合は、平坦化焼鈍の温度が高いほど、被膜張力の低下が押さえられることが分かった(図3参照)。これは、高温ほどフォルステライト被膜が塑性変形しやすくなるために、クラックが導入され難くなるからと考えられる。さらに、平坦化焼鈍の冷却速度を下げることで、被膜張力の低下が押さえられることが分かった(図4参照)。これは、冷却の際に生じる熱衝撃が緩和されるためだと考えられる。
発明者らは、上記の知見から、さらに詳細な検討を行った。しかしながら、地鉄の塑性伸びを抑えるために平坦化焼鈍の張力を低下させると、鋼板が蛇行し易くなり、安定した通板が困難であることが分かった。そこで、発明者らは、塑性伸びを抑えるため、鋼板の高温強度に注目した。すなわち、鋼板の高温強度を高めることにより、平坦化焼鈍の張力を高めたまま、鋼板の塑性伸びを抑制できるのではないかと考えたのである。検討の結果、図5に示すように、Snを微量に添加することにより、平坦化焼鈍における鋼板の塑性伸びが大幅に抑制されることが分かった。また、Sb, MoやWも同じ効果を有することが分かった。すなわち、上記元素のいずれかを微量に添加することにより、フォルステライト質被膜の破壊を、効果的に抑制することができるのである。
上記技術の優れた点は、平坦化焼鈍温度を高めても、または炉内張力を高くしたとしても、鋼板の塑性変形を抑止し、フォルステライト被膜の破壊を抑制できることにある。
上記の元素は、鉄中のミスフィットパラメータの大きい元素であり、特に高温強度を増加させる効果が大きいことが知られている(非特許文献1)。これらの元素は鉄中に固溶し、コットレル雰囲気を形成して、転位運動に対する抵抗になると考えられる。ただし、これらの元素は高温強度に対する影響が大きいため、製鋼段階で添加すると、鋳込みや熱延の際の表面欠陥が発生する原因となりやすい。そこで、表面欠陥の発生を避けるために、製鋼段階では多量に添加せずに、焼鈍分離剤にSn, Sb, MoおよびW化合物を添加して、仕上げ焼鈍中に焼鈍分離剤から地鉄に拡散させて、含有量を調整することが好ましい。
以上の知見をもって、本発明は完成したのである。
すなわち、フォルステライトの損傷を抑えるためには、平坦化焼鈍における、鋼板の塑性伸びを抑え、均熱温度を高め、冷却速度を低くすることが重要であるとの知見である。
また、鋼中にSn, Sb, MoおよびWの少なくもいずれかを添加することでもフォルステライトの損傷が抑えられ、平坦化焼鈍の張力を過度に低下させる必要がなくなる。なお、Sn, Sb, MoおよびWは仕上げ焼鈍の副剤から供給されることが好ましいのは上述したとおりである。
本発明は上記知見に立脚するものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.Si:2.0〜4.5質量%を含む方向性電磁鋼板用スラブを素材として、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を行ったのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間冷延を行い、ついで一次再結晶焼鈍後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍を施してフォルステライト質被膜を形成し、その後平坦化焼鈍を施し、さらに電子ビーム照射による磁区細分化処理を行う一連の方向性電磁鋼板の製造方法であって、
上記平坦化焼鈍を施すに際し、
(a) 焼鈍時の均熱温度を820〜950℃の範囲とし
(b) 均熱温度からの冷却過程における冷却速度を少なくとも800〜600℃の間、100℃/s以下とし、
(c) 地鉄の塑性伸び量を0.03〜0.15%の範囲と
し、上記平坦化焼鈍処理の前後におけるフォルステライト質被膜の、下記式(1)で求めた被膜張力:σ F の減少量を60%以下に抑制することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。

Figure 0005760506
なお、Eは圧延方向のヤング率(純鉄の弾性定数:132GPa)、dは板厚、aは片面被膜による反り量、νは圧延方向に応力を加えた場合のポアソン比(0.37)、lは固定端と反り量を測定する位置の長さを意味する。
.前記平坦化焼鈍処理前の地鉄中に、Sn, Sb, MoおよびWから選んだ1種または2種以上が合計で0.02〜0.5質量%含有していることを特徴とする前記1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
.焼鈍分離剤中にSn化合物、Sb化合物、Mo化合物およびW化合物から選んだ1種もしくは2種以上を添加して、前記地鉄に含有させることを特徴とする前記に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
本発明によれば、電子ビームを用いた磁区細分化による鉄損低減効果が、トランスを作製した場合であっても、効果的に維持されるため、変圧器において優れた鉄損特性(ビルディングファクター)や騒音特性を発現する方向性電磁鋼板を得ることができる。
フォルステライト質被膜の被膜張力減少量とトランス鉄損との関係を示したグラフである。 地鉄の塑性伸び量とフォルステライト質被膜の被膜張力減少量との関係を示したグラフである。 平坦化焼鈍の均熱温度とフォルステライト質被膜の被膜張力減少量との関係を示したグラフである。 平坦化焼鈍の均熱温度からの冷却速度とフォルステライト質被膜の被膜張力減少量との関係を示したグラフである。 Sn量と地鉄の塑性伸び量との関係を示したグラフである。
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明に用いる方向性電磁鋼板用スラブの成分組成は、二次再結晶が生じる成分組成であればよい。
また、インヒビターを利用する場合、例えばAlN系インヒビターを利用する場合であればAlおよびNを、またMnS・MnSe系インヒビターを利用する場合であればMnとSeおよび/またはSを適量含有させればよい。勿論、両インヒビターを併用してもよい。この場合におけるAl、N、SおよびSeの好適含有量はそれぞれ、質量%で、Al:0.01〜0.065%、N:0.005〜0.012%、S:0.005〜0.03%、Se:0.005〜0.03%である。
さらに、本発明は、Al、N、S、Seの含有量を制限した、いわゆるインヒビターレスの方向性電磁鋼板にも適用することができる。
この場合には、Al、N、SおよびSe量はそれぞれ、質量ppmで、Al:100ppm以下、N:50ppm以下、S:50ppm以下、Se:50ppm以下に抑制することが好ましい。
本発明に供して好適な方向性電磁鋼板用スラブの、基本成分および任意添加成分について具体的に述べると次のとおりである。なお、以下、鋼板成分においての%およびppm表示は、特に断らない限り、質量%および質量ppmを意味する。
C:0.08%以下
Cは、α−γ変態で熱延板組織の改善のために添加をするが、0.08%を超えると製造工程中に磁気時効の起こらない50ppm以下までCを低減することが困難になるため、0.08%以下とすることが好ましい。なお、下限に関しては、Cを含まない素材でも二次再結晶が可能であるので特に設ける必要はない。
Si:2.0〜4.5%
Siは、鋼の比抵抗を高め、渦電流損を低減させる上で重要な成分である。含有量が2.0 %に満たないと最終仕上げ焼鈍中にα−γ変態によって結晶方位が損なわれ、4.5%を超えると冷間圧延が困難になるため、2.0 〜4.5 wt%とする。より好ましくは2.5〜3.5%である。
Mn:0.005〜1.0%
Mnは、熱間加工性を良好にする上で必要な元素であるが、含有量が0.005%未満ではその添加効果に乏しく、一方1.0%を超えると製品板の磁束密度が低下するため、Mn量は0.005〜1.0%の範囲とすることが好ましい。
本発明では、上記の基本成分以外に、高温強化元素として、Sn, Sb, MoおよびWから選んだ1種または2種以上を合計:0.02〜0.5%の範囲で添加することが、フォルステライト質被膜の損傷を抑制するために有利であるのは前述したとおりである。
ここに、0.02%に満たないと、高温強度を増加させる効果が得られず、一方、0.5%を超えると、コストが増加する上に鋼板が脆化し割れやすくなるからである。従って、本発明では、上記元素の含有量を、1種または2種以上の合計で0.02〜0.5%の範囲とする。より好ましくは0.04〜0.3%の範囲である。さらに好ましくは0.06〜0.2%の範囲である。
さらに、本発明では、磁気特性改善成分として、次に述べる元素を適宜含有させることができる。
Ni:0.03〜1.50%、Cu:0.03〜3.0%、P:0.03〜0.50%およびCr:0.03〜1.50%のうちから選んだ少なくとも1種
Niは、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させるために有用な元素である。しかしながら、含有量が0.03%未満では磁気特性の向上効果が小さく、一方1.5%を超えると二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化する。そのため、Ni量は0.03〜1.5%の範囲とするのが好ましい。
また、Cu、PおよびCrはそれぞれ磁気特性の向上に有用な元素であるが、いずれも上記した各成分の下限に満たないと、磁気特性の向上効果が小さく、一方、上記した各成分の上限量を超えると、二次再結晶粒の発達が阻害されるため、それぞれ上記の範囲で含有させることが好ましい。なお、Cuは、前述したインヒビター成分として用いることもできる。
なお、上記成分以外の残部は、製造工程において混入する不可避的不純物およびFeである。
次に、本発明が対象とする方向性電磁鋼板の製造条件について述べる。公知の製鋼プロセスで、上記成分組成に調整した溶鋼を、連続鋳造法あるいは造塊法で鋳造し、必要に応じて分塊工程を挟んでスラブを得る。続いて、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を行ったのち、1回ないし中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚の冷延板とする。得られた冷延板に一次再結晶焼鈍を施したのち、二次再結晶とフォルステライト被膜の形成を行なう。ここで被膜形成の際には、MgOを主体とした焼鈍分離剤を塗布し、コイルフォームで焼鈍を施す。
このとき、前述したように、製鋼段階もしくは焼鈍分離剤にSn化合物、Sb化合物、Mo化合物およびW化合物から選んだ1種もしくは2種以上を添加し、平坦化焼鈍の時点で地鉄がSn, Sb, MoおよびWから選んだ1種または2種以上の合計を0.02〜0.5%含むように調整することは、フォルステライト被膜の損傷を抑制する観点から有利である。
仕上げ焼鈍後、コイルの巻きぐせを矯正するため、平坦化焼鈍を実施する。本発明では、この平坦化焼鈍を以下の条件とすることが重要である。
すなわち、
(a) 焼鈍時の均熱温度、
(b) 均熱温度からの冷却過程における冷却速度および
(c) 地鉄の塑性伸び量
の各条件をそれぞれ調整し、上記平坦化焼鈍処理の前後におけるフォルステライト質被膜の被膜張力の減少量を60%以下に抑制することである。
また、上記した各条件の好適範囲は、次のとおりである。
均熱温度:820〜950℃
平坦化焼鈍の均熱温度を高めることにより、被膜の損傷を防ぐことができる。820℃に満たないと被膜損傷を防ぐことができず、一方950℃を超えると鋼板の塑性変形を制御することが難しくなるため、820〜950℃が好ましい。より好ましくは840〜930℃である。さらに好ましくは860〜910℃である。
冷却速度:100℃/s以下
本発明では、均熱温度からの冷却過程における冷却速度を制御することが重要である。すなわち、均熱温度からの冷却過程でも、特に800〜600℃間の冷却速度を遅くすることにより、被膜の損傷を防ぐことができる。ここに、100℃/sを超えると被膜損傷を防ぐことが難しくなるため、100℃/s以下が好ましい。より好ましくは80℃/s以下である。さらに好ましくは60℃/s以下である。
地鉄の塑性伸び量:0.03〜0.15%
地鉄の塑性伸び量を低くすることにより、被膜の損傷を防ぐことができる。0.03%に満たないと形状矯正することができず、0.15%を超えると被膜損傷が著しくなるため、0.03〜0.15%が好ましい。より好ましくは0.03〜0.12%である。さらに好ましくは0.03〜0.08%である。
フォルステライト質被膜の被膜張力減少量:60%以下
本発明において、被膜張力の減少量は、フォルステライト質被膜の損傷の度合いを表す指標であり、前述した、平坦化焼鈍の(a)〜(c)の3条件を組み合わせて、上記指標を60%以下とすることが、本発明でもっとも重要な点である。
というのは、被膜張力の減少量が60%を超えると、トランスの特性が大幅に劣化するためである。好ましくは40%以下である。より好ましくは20%以下である。なお、前述したような従来技術においては、鋼に導入される転位を少なくするために、塑性伸びを少なくすることが試みられていた。しかしながら、単純に塑性伸びを少なくするだけでは、本発明のように、フォルステライト質被膜の破壊を効果的に防ぐことができない。従って、単純に塑性伸びを少なくするだけでは、電子ビーム照射材により作製されたトランスの鉄損特性等を改善することはできない。
なお、本発明において、上述した工程や製造条件以外については、平坦化焼鈍後に電子ビームを用いて磁区細分化処理を施す、従来公知の方向性電磁鋼板の製造方法を適用することができる。
(実施例1)
C:0.05〜0.07%、Si:3.1〜3.3%、Mn:0.06〜0.09%、Se:0.012〜0.016%、sol. Al:0.025〜0.027%、N:0.0075〜0.0090%を含有し、かつ表1に示す成分組成、および残部はFeおよび不可避不純物からなるスラブを素材として、該スラブを、1380℃で1時間加熱後、熱間圧延して板厚:2.4mmの熱延板とした。この熱延板に1000℃、1minの熱延板焼鈍を施して、酸洗し、1回目の冷間圧延後、1050℃の温度で中間焼鈍を施した。ついで、2回目の冷間圧延を220℃の温度の温間圧延とし、板厚:0.26mmに仕上げた。この冷延板に、湿水素雰囲気中、830℃の脱炭焼鈍を施したのち、質量比でMgO:TiO2=95:5となるように混合した焼鈍分離剤を塗布してから、1180℃、5時間の仕上げ焼鈍を施した。
ついで、表1に示す条件で平坦化焼鈍を行い、その後、試料を圧延方向(走行方向)に移動させながら、圧延方向に7mm間隔で、圧延方向と直交する方向で線状に電子ビームの走査を行い、磁区細分化処理を施した。電子銃の加速電圧は38kV、電流密度は3.5mAで、偏光コイルから試料までの距離は300mmとした。かくして得られた製品板で1200kVAの3相3脚トランスを作製した。
各平坦化焼鈍の条件に対し、フォルステライト被膜張力とその減少率、および素材とトランスの鉄損W17/50についてそれぞれ測定した。その結果を表1に併記する。なお、被膜張力は、前掲式(1)を用いて求めた。
Figure 0005760506
同表に示したとおり、フォルステライト質被膜の被膜張力の減少率が本発明の範囲を外れているNo.6〜8はトランスの鉄損が悪く、ビルディングファクターに劣っている。これに対し、本発明の条件に従うNo.1〜5、9〜14は、いずれも優れたトランス鉄損が得られており、ビルディングファクターも良好である。
(実施例2)
C:0.053%、Si:3.16%、Mn:0.06%、Se:0.015%、sol. Al:0.025%、N:0.0078%、および表2に示す微量成分を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなるスラブを素材として、該スラブを、1380℃で1時間加熱後、熱間圧延して板厚:2.4mmの熱延板とした。この熱延板に1000℃、1minの熱延板焼鈍を施し、酸洗して、1回目の冷間圧延後、1050℃の温度で中間焼鈍を施し、ついで2回目の冷間圧延を、220℃の温度の温間圧延として板厚:0.26mmに仕上げた。この冷延板に、湿水素雰囲気中、830℃の脱炭焼鈍を施した。さらに、表2に示す成分の焼鈍分離剤を塗布してから、1180℃、5時間の仕上げ焼鈍を施した。
仕上げ焼鈍後、200mm×30mmの大きさのサンプルを1000m当たり1個採取し、湿式分析により微量成分の分析を行った。
続いて、850℃、1minの平坦化焼鈍を行った。その際、炉内張力(ライン張力)を12MPaとして焼鈍を実施し、800〜600℃の冷却速度を80℃/sとして冷却した。なお、その際の地鉄の塑性伸び量は、No.1が0.21%、その他が0.10%以下であった。
その後、試料を圧延方向(走行方向)に移動させながら、圧延方向に5mm間隔で、圧延方向と直交する方向で線状に電子ビームの走査を行い、磁区細分化処理を施した。電子銃の加速電圧は40kV、電流密度は3mAで、偏光コイルから試料までの距離は400mmとした。かくして得られた製品板で1200kVAの3相3脚トランスを作製した。
各平坦化焼鈍の条件に対し、フォルステライト被膜張力とその減少率、および素材とトランスの鉄損W17/50並びに騒音特性についてそれぞれ測定した。その結果を表2に併記する。なお、被膜張力の測定要領は実施例1と同じにした。
Figure 0005760506
同表に示したとおり、本発明の範囲を外れているNo.1は、トランスの鉄損が悪く、またビルディングファクターにも劣っている。これに対し、本発明の条件に従うNo.2〜9は、いずれも優れたトランス鉄損が得られており、ビルディングファクターも良好である。また、優れた騒音特性も得られている。

Claims (3)

  1. Si:2.0〜4.5質量%を含む方向性電磁鋼板用スラブを素材として、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を行ったのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間冷延を行い、ついで一次再結晶焼鈍後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍を施してフォルステライト質被膜を形成し、その後平坦化焼鈍を施し、さらに電子ビーム照射による磁区細分化処理を行う一連の方向性電磁鋼板の製造方法であって、
    上記平坦化焼鈍を施すに際し、
    (a) 焼鈍時の均熱温度を820〜950℃の範囲とし
    (b) 均熱温度からの冷却過程における冷却速度を少なくとも800〜600℃の間、100℃/s以下とし、
    (c) 地鉄の塑性伸び量を0.03〜0.15%の範囲と
    し、上記平坦化焼鈍処理の前後におけるフォルステライト質被膜の、下記式(1)で求めた被膜張力:σ F の減少量を60%以下に抑制することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。

    Figure 0005760506
    なお、Eは圧延方向のヤング率(純鉄の弾性定数:132GPa)、dは板厚、aは片面被膜による反り量、νは圧延方向に応力を加えた場合のポアソン比(0.37)、lは固定端と反り量を測定する位置の長さを意味する。
  2. 前記平坦化焼鈍処理前の地鉄中に、Sn, Sb, MoおよびWから選んだ1種または2種以上が合計で0.02〜0.5質量%含有していることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  3. 焼鈍分離剤中にSn化合物、Sb化合物、Mo化合物およびW化合物から選んだ1種もしくは2種以上を添加して、前記地鉄に含有させることを特徴とする請求項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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