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JP5850503B2 - 筋ジストロフィーを処置するための組成物 - Google Patents
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JP5850503B2 - 筋ジストロフィーを処置するための組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、筋ジストロフィーを処置するための組成物に関する。
筋ジストロフィーは、骨格筋の変性および壊死が生じる疾患であり、臨床的には進行性の筋萎縮および筋力低下を呈する遺伝性の疾患である。筋ジストロフィーでは、筋細胞膜タンパク質の欠損および/または変異に起因して細胞膜が破壊され、次いで、筋細胞が崩壊して壊死する。筋ジストロフィーは種々のタイプが知られているが、いずれのタイプにおいても筋細胞の壊死によって特徴付けられる(非特許文献1参照)。
筋ジストロフィーを有する患者では、血中のCK、LDH、GOT、GPT、アルドラーゼなどの筋細胞由来の酵素についての測定値が高い。筋ジストロフィーの患者では、筋細胞の細胞膜の安定化に関わるジストロフィンが欠損している。ジストロフィン以外の筋細胞膜タンパク質は、ジストロフィン結合蛋白質と総称され、ジストログリカン複合体(α、β)、サルコグリカン複合体(α、β、γ、δ)、シントロフィン複合体などが知られており、これらのタンパク質における変異もまた筋ジストロフィーにおいて観察される。
日本国公開特許公報「特開2007−326872号公報(2007年12月20日公開)」 日本国公開特許公報「特開2006−298876号公報(2006年11月2日公開)」 日本国公表特許公報「特表2008−528510号公報(2008年7月31日公表)」
Gregory Q. Wallace and Elizabeth M. McNally "Mechanisms of Muscle Degeneration, Regeneration, and Repair in the Muscular Dystrophies" Annu. Rev. Physiol. 71: 37−57 (2009) Masaya Tanno et al. "Induction of Manganese Superoxide Dismutase by Nuclear Translocation and Activation of SIRT1 Promotes Cell Survival in Chronic Heart Failure" The Journal Of Biological Chemistry 285: 8375−8382 (2010)
筋ジストロフィーは、ジストロフィンやサルコグリカンの原因タンパク質の異常によって生じ得る。近年、筋芽細胞の移植または注入、あるいは原因遺伝子の導入などの遺伝子治療が試みられている。しかしながら、筋ジストロフィーの有効な治療法は見出されていない。
上記の課題を解決するために、本発明に係る組成物は、SIRT1活性化因子を有効成分として含んでいることを特徴としている。SIRT1活性化因子とは、Sir2ファミリータンパク質(すなわち、サーチュインタンパク質)を活性化する能力を有する因子である。NAD依存性ヒストン脱アセチル化酵素であるSir2ファミリータンパク質は、酵母および線虫において寿命延長作用を有しており、Sir2ファミリータンパク質の1つであるSIRT1は、高等動物において、神経幹細胞、心筋細胞などに発現している。
本発明に係る組成物において、SIRT1活性化因子は、ポリフェノールであることが好ましく、フラボン、スティルベン、フラバノン、イソフラボン、カテキン、カルコン、タンニンおよびアントシアニンからなる群より選択される化合物、またはその誘導体であることがより好ましく、レスベラトロール(RSV)、ブテイン、ピセアタンノール、イソリキリチゲニン、フィセチン、ルテオリン、テトラヒドロキシフラボンおよびケルセチンからなる群より選択される化合物、またはその誘導体であることがさらに好ましく、RSV、またはその誘導体であることが最も好ましい。
上記構成を採用することによって、本発明は、筋ジストロフィーを処置することができる。また、本発明を用いれば、筋ジストロフィーにおける骨格筋の線維化状態を劇的に改善することができる。すなわち、本発明は、筋ジストロフィーにおける骨格筋の線維化を抑制するために用いられることが好ましい。
本発明に係る組成物は、SIRT1を核内移行させる因子をさらに含んでいてもよい。本発明に係る組成物において、SIRT1を核内移行させる因子は、細胞内cGMPを増加させる因子であることが好ましく、cGMPの非水解性アナログ、またはホスホジエステラーゼ5(PDE−5)の酵素活性を阻害する因子がより好ましく、CPT−cGMPまたはタダラフィル(Tad)がさらに好ましい。
本発明に係るキットは、SIRT1活性化因子を備えていることを特徴としている。上記構成を採用することによって、本発明は、筋ジストロフィーを処置することができる。本発明に係るキットは、SIRT1を核内移行させる因子をさらに備えていてもよい。また、本発明に係るキットは、筋ジストロフィーにおける骨格筋の線維化を抑制するために用いられることが好ましい。
本発明を用いれば、筋ジストロフィーを処置することができ、特に、筋ジストロフィーにおける骨格筋の線維化状態を劇的に改善する。
マウス骨格筋における線維化を示す免疫染色像、ならびに線維化の程度をフィブロネクチンおよび筋線維の断面積にて示したグラフである。 マウス骨格筋における線維化の程度を、フィブロネクチンmRNAの発現量にて示したグラフである。 骨格筋細胞(C2C12細胞)におけるSIRT1の細胞内局在を示す免疫染色像、および核画分におけるSIRT1の相対値を示すグラフである。 骨格筋細胞(C2C12細胞)におけるSIRT1の細胞内局在を示すウエスタンブロット、および核画分または細胞質画分におけるSIRT1の相対値を示すグラフである。 C2C12細胞に対する、SIRT1についてのRT−PCRおよびイムノブロッティングの結果を示す図である。コントロールとしてGAPDHを用いた。 マウス骨格筋におけるSIRT1の免疫染色像(左)、およびその結果を数値化したグラフである。 RSV、ならびに、RSV配糖体である3−O−β−D−グリコシド(3G−RSV)および4’−O−β−D−グリコシド(4’G−RSV)の構造を示す図である。 1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(DPPH)を用いた、RSV、3G−RSVおよび4’G−RSVのラジカル消去活性を示す図である。 RSV、3G−RSVおよび4’G−RSVによるヒストンH3脱アセチル化を示す図である。上段に、実験スキームを示し、中段に、ヒストンH3脱アセチル化を示すWestern Blottingの結果を示し、下段に、ヒストンH3脱アセチル化を定量化した結果を示す。
〔1〕筋ジストロフィーを処置するための有効成分としてのSIRT1活性化因子
本発明は、細胞レベルおよび動物レベルでの実験系を用いて、SIRT1の活性化が筋ジストロフィーの処置に有効であることを見出して完成されたものである。すなわち、本発明は、筋ジストロフィーを処置するための、SIRT1活性化因子を用いる技術を提供する。本発明は、本発明者ら独自の新知見に基づいて完成されたものであり、従来の技術水準からは容易になし得なかった画期的な発明である。
本発明者らはこれまでに心不全に関する研究を行っている。酸化ストレスは、慢性心不全における主要な役割を担い、NAD依存性ヒストン/タンパク質デアセチラーゼ(SIRT1)は、核内に発現されている場合に酸化ストレス条件下での細胞の生存(抗アポトーシス作用)を促進する。また、本発明者らは、心臓におけるSIRT1の機能的役割、および心不全に対する治療におけるSIRT1の利用を検討し、SIRT1を活性化することが知られているレスベラトロール(RSV)が、酸化ストレスに起因するアポトーシスを抑制するとともに、心不全モデルであるTO−2ハムスターの心不全を抑制し得ることを見出している(非特許文献2参照)。このように、SIRT1を活性化することによって抗アポトーシス効果が得られることが、よく知られている。
特許文献1には、SIRT1のデアセチラーゼ活性を増加させる作用物質を用いて、真核細胞内のp53の活性を阻害し、アポトーシスから細胞を保護する方法、および寿命を延長させる方法が開示されている。特許文献2には、サーチュインの活性化を用いた、眼疾患の治療に関する技術が開示されており、サーチュインの活性化が、細胞死の予防、老化の予防、細胞死の治療、延命、寿命延長、癌発生の予防に利用可能であることも記載されている。特許文献3には、サーチュインの活性化を用いた、紅潮または体重増加を処置する技術が開示されている。
上述したように、筋ジストロフィーは、壊死(ネクローシス)によって特徴付けられる疾患である。ネクローシスがアポトーシスと同じ「細胞死」であるとはいえ、その発生機序が大きく異なることは周知である。特許文献1には、サーチュイン活性化化合物を、細胞死に関係する慢性疾患などの治療のために投与することができる旨が示唆されており、細胞死の観点から、筋ジストロフィーを例示されている。しかし、アポトーシスによって特徴付けられる疾患の改善に有効である物質が、壊死(ネクローシス)によって特徴付けられる疾患の状態改善に有効であるなどということは、技術常識でも技術水準でもない。よって、筋ジストロフィーが細胞死に関係する慢性疾患の例として特許文献1に挙げられているに過ぎず、抗アポトーシス技術の適用対象として特許文献1に挙げられているのではないことを、当業者は十分理解している。同様の理由により、当業者は、特許文献2に記載の細胞死がネクローシスではなくアポトーシスであることを、十分理解している。
活性化されたSIRT1が筋ジストロフィーの改善に有効であることは、当業者が容易に予測し得ることではない。特に、筋ジストロフィーのモデルマウスにおいて観察される骨格筋の線維化状態が劇的に改善されることは、格別顕著な効果である。
本発明者らは、ポリフェノールの1つのRSVが、SIRT1を活性化することによってスーパーオキシドディスムターゼ(MnSOD)を誘導して、細胞の酸化ストレス耐性を向上させ、その結果、遺伝的に心不全を生じるTO−2ハムスターの寿命を優位に延長させることを見出している。すなわち、1つの局面において、「SIRT1活性化因子」は、ポリフェノールであり得、フラボン、スティルベン、フラバノン、イソフラボン、カテキン、カルコン、タンニンおよびアントシアニンからなる群より選択される化合物、またはその誘導体であり得る。好ましくは、「SIRT1活性化因子」は、RSV、ブテイン、ピセアタンノール、イソリキリチゲニン、フィセチン、ルテオリン、テトラヒドロキシフラボンおよびケルセチンからなる群より選択される化合物、またはその誘導体であり、より好ましくは、RSV、またはその誘導体である。RSVの誘導体としては、グリコシド配糖体が好ましく、より好ましくは、RSVの3−O−β−D−グリコシド(3G−RSV)および4’−O−β−D−グリコシド(4’G−RSV)が挙げられ、4’−O−β−D−グリコシド(4’G−RSV)が最も好ましい。
なお、他の局面において、SIRT1活性化因子は、天然から分離されたものであっても合成されたものであってもよく、以下に示すSRT1460、SRT1720およびSRT2183、
ならびにSIRT1活性化因子3(2−アミノ−N−シクロペンチル−1−(3−メトキシプロピル)−1H−ピロロ[2,3−b]キノキサリン−3−カルボキサミド)(Nature 450(29): 712−716 (2007)およびJournal of Biomolecular Screening 11(8): 959−967 (2006)参照)、さらには特許文献1においてスクリーニングされたサーチュイン活性化剤もまた、SIRT1活性化因子に包含される。
当業者は、NADおよびSir2ファミリータンパク質(例えば、SIRT1)を含む酵素反応系を用いたスクリーニング法によって、SIRT1活性化因子を容易に取得し得る。
本発明者らは、SIRT1が核と細胞質との間を移動することによってその活性が調節されることなどを見出している。すなわち、さらなる局面において、「SIRT1活性化因子」は、SIRT1を核内移行させる因子であり得る。本明細書中にて使用される場合、SIRT1を核内移行させる因子は、Sir2ファミリータンパク質(すなわち、サーチュインタンパク質)を細胞質から核内へ移行させる能力を有する因子が意図される。後述する実施例にて示すように、細胞内cGMPを増加させると骨格筋細胞におけるSIRT1の核内移行が増強されて、SIRT1の活性化が促進される。すなわち、一実施形態において、SIRT1を核内移行させる因子は、細胞内cGMPを増加させる因子であり得る。細胞内cGMPを増加させる因子としては、cGMPの非水解性アナログ(例えば、CPT−cGMP)、ホスホジエステラーゼ5(PDE−5)の酵素活性を阻害する因子(例えば、タダラフィル(Tad))が挙げられるが、これらに限定されない。なお、Tadは、生体内でcGMPを分解するホスホジエステラーゼ5(PDE−5)の酵素活性を阻害し、これにより、NO作動性神経に作用して血管を拡張させて、血流量を増加させる。Tadは、勃起不全の治療薬(Cialis(登録商標))としてもよく知られている。
また、当業者は、培養細胞におけるSIRT1の核内移行を検出する系を用いたスクリーニング法によって、SIRT1活性化因子を容易に取得し得る。
本発明において、SIRT1活性化因子は単独で用いられても複数組み合わせて用いられてもよい。複数組み合わせて用いられる場合、SIRT1活性化因子の少なくとも1つがSIRT1を核内移行させる因子であってもよい。
〔2〕有効成分の利用
(1)組成物
本発明は、筋ジストロフィーを処置するための有効成分を含有する組成物を提供する。本明細書中にて使用される場合、用語「処置」は、症状の軽減または排除が意図され、治療的(発症後)に行われ得るものだけでなく、予防的(発症前)に行われ得るものもまた包含される。「筋ジストロフィーを処置するための有効成分」は、上述したSIRT1活性化因子が意図され、本明細書中にて「有効成分」と省略され得る。
本発明に係る組成物中に使用されるキャリアおよび賦形剤は、薬学的に受容可能なものであれば特に限定されない。本明細書中にて使用される場合、「薬学的に受容可能なキャリア」は、組成物を受容した個体において有害な抗体の産生をそれ自体は誘導しない任意のキャリアが意図される。このようなキャリアは当業者に周知である。また、薬学的に受容可能な賦形剤については、当該分野において公知であり、例えば、REMINGTON‘S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Merck Pub.Co., N.J.1991)に十分に記載されている。さらに、本発明に係る組成物は、水、生理食塩水、グリセロール、またはエタノールのような1つ以上の成分をさらに含み得る。さらに、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝化物質、安定化剤、抗酸化剤などのような補助物質が、本発明に係る組成物中に存在し得る。
本発明に係る組成物は、経口投与に好ましい錠剤、カプセルなどの形態として調製され得る。また、本発明に係る組成物は、液体溶液もしくは懸濁液、または注射のための液体ビヒクル中の溶液もしくは懸濁液のために適切な固体形態、あるいは局所的に塗布されるクリームとしてとして調製され得る。そして、本発明に係る組成物の直接送達は、一般に、経口、注射(皮下、皮内、腹腔内、管腔内、胃内、腸内、静脈内または筋肉内)、または塗布により達成される。経口送達の場合、本発明に係る組成物は、タブレット状、顆粒状、カプセル状などの経口的に摂取可能な形状であり得、所望の作用を発現させる量の有効成分が含有されていれば、その形状が特に限定されない。
本発明に係る組成物は、製薬分野における公知の方法により製造することができる。本発明に係る組成物における有効成分の含有量は、投与形態、投与方法などを考慮し、当該組成物を用いて後述の投与量範囲で有効成分を投与できるような量であれば特に限定されない。また、本発明に係る組成物の投与量は、その製剤形態、投与方法、使用目的、および投与対象である患者の年齢、体重、症状によって適宜設定される。投与は、所望の投与量範囲内において、1日内において単回で、または数回に分けて行われてもよい。
(2)キット
本発明はまた、筋ジストロフィーを処置するための有効成分を備えているキットを提供する。本明細書中にて使用される場合、用語「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)を備えた包装が意図される。好ましくは、上記材料を使用するための指示書を備えている。本明細書中にてキットの局面において使用される場合、「備えた(備えている)」は、キットを構成する個々の容器のいずれかの中に内包されている状態が意図される。また、本発明に係るキットは、複数の異なる組成物を1つに梱包した包装であってもよく、容器中に内包された溶液形態の組成物を梱包していてもよい。本発明に係るキットは、異なる2つ以上の物質を同一の容器に混合して備えても別々の容器に備えてもよい。「指示書」は、紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD−ROMなどのような電子媒体に付されてもよい。本発明に係るキットは、上述した組成物を構成するためにもちいられてもよく、上述した組成物に含まれる物質を別々に備えていても、上述した組成物とさらなる成分とを別々に備えていてもよい。
(3)筋ジストロフィーを処置する方法
本発明はさらに、筋ジストロフィーを処置するための方法を提供する。本発明に係る方法は、筋ジストロフィーを処置するための有効成分を被験体に投与する工程を包含する。本発明に係る方法における有効成分の適用は、上述した組成物およびキットの使用形態に準じればよいことを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中にて参考として援用される。
本発明は、以下の実施例によってさらに詳細に説明されるが、これに限定されるべきではない。
〔材料および方法〕
C57BL10マウス(C57BL/10−ScN Jic)およびMdxマウス(C57BL/10−mdx Jic)を、株式会社ホクドーより購入した。マウスから単離した大腿二頭筋を液体窒素で凍結した後に、クリオスタットを用いて切片化した。得られた切片を、4%パラホルムアルデヒドを含む中性リン酸ナトリウム緩衝液で固定し、次いで、定法に従ってヒツジ抗フィブロネクチン抗体(AHP08,UK−Serotec Ltd)、およびAlexa Fluor488標識したロバ抗ヒツジIgG抗体(Invitrogen社)を用いて免疫染色し、さらにアクチンをAlexa Fluor594ラベルファロイジンで染色した。染色した切片を、コンフォーカル顕微鏡(Radiance 2100MP BioRad社)を用いて観察した(図1上)。得られた画像をAdobe Photoshop CS3で解析した。コントロールマウスのフィブロネクチン染色像の、1画像あたり蛍光ピクセル数の平均を100として、他の画像の蛍光ピクセル数を表した。筋の横断径は、ファロイジンで染色された部分のピクセル数をAdobe Photoshop Cs3によって解析した。各群に3匹のマウスを用い、一匹のマウス標本について8つの視野を撮影し、合計24視野の平均をグラフに表示した(図1下)。上グラフについて、*,未処置Mdxコントロール群と比較(p<0.05);#,RSV投与Mdx群と比較(p<0.001);+,未処置コントロールマウス群と比較(有意差なし)。下グラフについて、*,未処置Mdxコントロール群と比較(p<0.05);&,未処置コントロールマウス群と比較(p<0.05),#,RSV投与Mdx群と比較(有意差なし);+,未処置コントロールマウス群と比較(有意差なし)。
C57BL10マウス(C57BL/10−ScN Jic)およびMdxマウス(C57BL/10−mdx Jic)より単離した大腿二頭筋から、RNeasy(Quiagen社)を用いてRNAを分離した。得られたRNAから逆転写酵素(Invitrogen社)を用いて変換したcDNAに対して、定量的PCR(Applied Biosystems社)を行うことによって、フィブロネクチンmRNA量を定量した。コントロールとして用いたβ−アクチンmRNA量に対する割合を、未処置のコントロールマウスのデータを100として表示した(図2)。それぞれの群に用いたマウスの数は、未処置コントロールマウス群、RSV+Tad投与コントロールマウス群、および未処置Mdxマウス群はn=3、Tad投与Mdxマウス群はn=5、RSV+Tad投与Mdxマウス群はn=6である。*,未処置Mdxコントロール群と比較(p<0.05)。
C2C12細胞(国立長寿医療研究センター研究所 古山達雄博士(現 香川県立保健医療大学)より供与された。)を、コラーゲン(Koken社)でコートしたガラス板(マツナミ社)上に散布し、次いで培養した。100nM タダラフィル(Toronto Research Chemicals社)または100μM CPT(8−CPT−cGMP,ナトリウム塩(8−(4−クロロフェニルチオ)グアノシン−3’,5’−サイクリックモノホルフェート) Biaffin GmbH & Co KG.社)を培地に添加し、28時間後に4%パラホルムアルデヒドを含む中性リン酸ナトリウム緩衝液を用いて細胞を固定した。コントロールを含め、細胞を、固定24時間前に15μMアンチマイシンA(Sigma社)で処理した。固定した細胞に対して、ウサギ抗マウスSIRT1抗体(Sakamoto et al. FEBS Lett.556,281−286,2004)およびAlexa Fluor488標識したヒツジ抗ウサギ抗体(Invitrogen社)を用いた免疫染色と、ヘキスト33342(Dojindo社)による核染色を行った。染色後の細胞を、コンフォーカル顕微鏡(Radiance 2100MP BioRad社)を用いて観察した(図3上)。得られた画像をAdobe Photoshop CS3を用いて解析した。核領域に存在するAlexa Fluor488蛍光ピクセル数の平均について、コントロール細胞の値を100%として表示した。各実験について8視野からデータを集め、3回同じ実験を繰り返し、合計24視野分からの平均値をそれぞれの棒グラフに表した(図3下)。**,コントロール群と比較(p<0.01)。
コントロールC2C12細胞および100nMタダラフィル(Tad)を28時間作用させた細胞について、核分画と細胞質とを分画するキット(ProteoExtract, Calbiochem社)を用いて、各画分を得た。コントロール細胞およびTad処理細胞において、分画24時間前に15μMアンチマイシンA(Sigma社)を作用させ、核内に存在するSIRT1量を増加させた。各画分について、抗SIRT1抗体(Sakamoto et al.)、抗ラミンA/C抗体(Cell Signaling社)、および抗GAPDH抗体(Sigma社)を用いたウエスタンブトット法によって、タンパク質をウエスタンブロットによって検討した(図4上)。画像を、NIH Imageを用いて定量化した。3回の別々の実験を行い、定量化したデータをグラフに表した(図4下)。**,コントロール群と比較(p<0.01)。*,コントロール群と比較(p<0.05)。
C2C12細胞に、100nM タダラフィル(Tad)または100μM CPTを24時間作用させた後に、定法に従ってRNAを分離した。得られたRNAからcDNAに変換し、PCR法を用いてSIRT1とGAPDHを増幅させ、1%アガロースゲルにて電気泳動を行い、ゲルをエチジウムブロマイドで染色した(図5上)。また、細胞のタンパク質を、抗SIRT1抗体(Sakamoto et al.)と抗GAPDH抗体(Sigma社)を用いたウエスタンブトット法で調べた(図5下)。同様の検討を合計3回行い、TadまたはCPTの処理によってSIRT1のmRNA量およびタンパク質量が変化しないことを確認した。
Tad(70mg/kg粉末飼料)を7日間経口投与したddYマウス(三協ラボサービス(株))、およびコントロールマウスを、麻酔後に4%パラホルムアルデヒドを含む中性リン酸ナトリウム緩衝液で全身還流固定した。固定したマウスから大腿二頭筋を収集した。分離した骨格筋を、同じパラホルムアルデヒド溶液で再度一晩固定した。組織をシュクロース溶液(和光純薬)で脱水した後に凍結し、次いでクリオスタットを用いて切片を作製した。SIRT1抗体による免疫染色、およびヘキスト33342による核染色を行った切片を、コンフォーカル顕微鏡で観察した(図6上)。コントロール群およびTad投与群の各3匹についてそれぞれ6視野を撮影し、SIRT1が核に優位に存在している細胞の数の、全体の細胞数に占める割合の平均を、グラフで表した(図6下)。***,コントロール群と比較(p<0.001)。
〔結果〕
〔1:筋ジストロフィーマウスにおける骨格筋の線維化に対するRSVの効果〕
コントロールマウス(C57BL10)、および筋ジストロフィーのモデルマウスであるドゥシャンヌ筋ジストロフィ(Mdx)マウスから収集した骨格筋をフィブロネクチン染色し、骨格筋にて生じている線維化を観察した(図1)。未処置のMdxマウスでは、線維化された、白くスカスカの、特徴的な筋肉が観察された。RSV(4g/kg粉末飼料)を32週間にわたって経口投与したMdxマウス(Mdx+RSV)では、骨格筋の線維化が抑制されていた。RSV(4g/kg飼料)とTad(70mg/kg飼料)とを併用して32週間にわたって経口投与したMdxマウス(Mdx+RSV+Tad)では、骨格筋の線維化がさらに抑制されており、筋線維の横断径も正常化していた。ただし、筋量においては、RSVによる効果をTadが増強させることはなかった。なお、コントロールマウスでは、未処置のものも、RSVおよびTadを投与したものも、骨格筋の線維化が生じていなかった。上段には、アクチンとフィブロネクチンとの二重染色像を示し、下段には、コントロールに対する、フィブロネクチン染色の割合および骨格筋の断面積の割合を示した。グラフにおいて、1は未処置のコントロールマウス、2はRSVおよびTadで処置したコントロールマウス、3は未処置のMdxマウス、4はRSV投与したMdxマウス、5はRSVとTadとを投与したMdxマウスを示す。
このように、RSVはMdxマウス骨格筋の線維化を抑制し、筋量を増加させる。そして、TadのRSVとの併用は、RSVによる線維化抑制効果をさらに増強するが、RSVによる筋量増加効果には影響しないといえる。
さらに、未処置のMdxマウス、RSV投与したMdxマウス、およびRSVとTadとを投与したMdxマウスから収集した骨格筋におけるフィブロネクチンmRNAの発現量を調べた。RSVを、単独もしくはTadと併用によって、粉末状にした食餌に混合してMdxマウスに32週間投与し、続いて、大腿二頭筋のフィブロネクチンmRNAの発現量を定量PCR法で検討した(図2)。図は、βアクチンmRNAに対する割合を示すグラフであり、グラフにおいて、1は未処置のコントロールマウス、2はRSVおよびTadで処置したコントロールマウス、3は未処置のMdxマウス、4はRSV投与したMdxマウス、5はRSVとTadとを投与したMdxマウスを示す。示されるように、RSV単独およびRSVとTadとの併用はいずれもフィブロネクチンmRNAレベルを減少させた。1、2、4および5におけるmRNAレベルは、3におけるmRNAレベルと有意に差があった(p<0.05)。
このように、RSVは、タンパク質レベルだけではなくmRNAレベルにおいても、Mdxマウス骨格筋の線維化を抑制する。上述したように、RSVはSIRT1を活性化することが知られている。すなわち、SIRT1が活性化されることによって、Mdxマウス骨格筋の線維化が抑制されたといえる。また、TadのRSVとの併用は、RSVによる線維化抑制効果をさらに増強する。
〔2:骨格筋細胞におけるSIRT1の活性化〕
上述したように、SIRT1は、心筋細胞において細胞質から核内へ移行した後にその活性を示すことが知られている。骨格筋細胞においてもまた、SIRT1が細胞質から核内へ移行して活性化している可能性がある。そこで、骨格筋細胞におけるSIRT1の局在およびその変化を調べた。
図3に示すように、骨格筋細胞(C2C12細胞)においても、SIRT1は細胞質にて発現していることがわかった。そして、Tadを用いて細胞を前処理することによって核内でのSIRT1の発現が増加した。上述したように、Tadは、生体内でcGMPを分解するホスホジエステラーゼ5(PDE−5)の酵素活性を阻害する。そこで、cGMPキナーゼを活性化させるcGMPアナログであるCPT−cGMP(CPT)を用いて、同様に細胞を前処理したところ、Tadの場合と同様に、核内でのSIRT1の発現が増加した。図には、SIRT1抗体を用いた免疫染色像(上)、および核内のSIRT1の相対値(下)を示した。
さらに、イムノブロッティング法を用いて、図3に示した免疫染色の結果を検証した(図4)。図には、細胞分画法で分画した細胞質画分と核画分とに対するウエスタンブロットの結果(上)、および核画分または細胞質画分におけるSIRT1の相対値(下)を示した。核画分については、ラミニンを核タンパク質のコントロールとして、細胞質画分については、GAPDHを細胞質タンパク質のコントロールとして用いた。示されるように、C2C12細胞に対してTadを前処理しておくことによって細胞質でのSIRT1の発現は有意に減少し、逆に、核でのSIRT1の発現が有意に増加したことがわかる。
これらのことから、細胞内cGMPを増加させると、骨格筋細胞におけるSIRT1の核での発現が増強されるといえる。ただし、TadまたはCPTを前処理しても、細胞全体におけるSIRT1の総発現量(mRNAおよびタンパク質の両方)には変化がない(図5)。これにより、細胞内cGMPを増加させると骨格筋細胞におけるSIRT1の核内移行が増強されており、SIRT1の活性化が促進されているということがわかった。
〔3:マウス骨格筋におけるSIRT1の活性化〕
培養細胞において観察された、TadによるSIRT1の核内移行が、マウス生体内にて生じるか否かを確認した。Tad(70mg/kg粉末飼料)を1週間ddyマウスに経口投与した後に、マウスから骨格筋を収集し、SIRT1による免疫染色を行った(図6)。Aには、骨格筋におけるSIRT1の免疫染色像(左)およびその結果を数値化したグラフを示す。示されるように、マウス骨格筋においても、SIRT1の核での発現量が、コントロールマウスと比較してTad投与マウスにおいて優位に増加していた。これにより、細胞内cGMPを増加させると骨格筋細胞におけるSIRT1の核内移行が増強されており、SIRT1の活性化が促進されているということがわかった。
〔4:RSV配糖体の抗酸化活性〕
RSV、ならびにRSV配糖体である3−O−β−D−グリコシド(3G−RSV)および4’−O−β−D−グリコシド(4’G−RSV)の構造を図7に示す。RSVおよびRSV配糖体のラジカル消去活性(抗酸化活性)を調べた。
RSV配糖体を以下のように調製した。Murashige−Skoog(MS)基本培地に、3%スクロース、2,4−dichlorophenoxyacetic acidを最終濃度1ppmで添加した液体培地(100mL)に、新鮮重量20gの植物培養細胞を移し、120rpmにて25℃で4日間振盪培養した。その後、DMSO(100μL)に溶解した40μmol RSV(東京化成)を液体培地に添加し、同一条件下にて2日間培養した。
培養後、ナイロンメッシュで培地と培養細胞とを濾別し、濾液を水飽和n−ブタノールで分配抽出し、細胞をホモジナイズした後にメタノールで静置抽出した。それぞれの有機相を減圧下にて濃縮し、メタノールで5.0mLに調製したものをサンプルとした。
得られたサンプルを逆相HPLCにて分析し、変換物を確認した。この変換物を分取HPLCで単離・精製し、LC/MSおよびNMRを用いて構造解析を行って、3G−RSVおよび4’G−RSVであることを確認した。
図8に、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(DPPH)を用いた、RSV、3G−RSVおよび4’G−RSVのラジカル消去活性を示す。DPPHは、517nmに特異的な吸収波長を有している。抗酸化物質によってラジカルが奪われると、517nmの吸収が減少する。この反応を用いて、ラジカルの消去率を測定し、測定値に基づいて50%阻害濃度(IC50)を算出し、抗酸化活性を比較した。DDPHをメタノールに溶解し、0.15mMに調整した。RSVおよびRSV配糖体の二倍段階希釈(1/2〜1/512)の希釈系列サンプルを作製し、これらのサンプルとDDPH溶液とを500μLずつ混合/撹拌し、暗所にて室温で30分間反応させた後に、517nmにおける吸収を測定した。
図8に示すように、RSV、3G−RSVおよび4’G−RSVのIC50は、それぞれ79μM、110μMおよび250μMであった。このように、3G−RSVはRSVに匹敵する高いラジカル消去活性を示すが、4’G−RSVのラジカル消去活性はこれらよりもかなり低いことがわかった。
〔5:RSV配糖体のヒストンH3脱アセチル化活性〕
RSV配糖体がRSVと同様にヒストンH3脱アセチル化活性を有しているか否かを調べた。
マウス由来の筋肉芽細胞であるC2C12細胞を、10% FBS(MP Biomedicals Inc)および1% antibiotic−antimycotic mixed stock solution(Nacalai Tesque)を含む高グルコースのDMEM培地(Wako)を用いて、37℃、5%COの環境下にて培養した。
Western Blottingのために、培養したC2C12細胞を、最終濃度100μMのRSVおよびRSV配糖体の存在下にて18時間培養し、100μMアンチマイシン(AA)を添加して6時間培養することによって、酸化ストレスを細胞に与えた。引き続く手順は定法に従った。用いた抗体は以下のとおりである:Monoclonal Anti- GAPDH Clone GAPDH-71.1 (SIGMA)、Anti-Histone H3 Acetylated (1-20) Rabbit pAb (Calbiochem)、Histone H3 antibody-ChIP Grade (ab1791) (Abcam)。
図9に示されるように、コントロール群(図中AA)に対して、3G−RSV処置群においてはヒストンH3脱アセチル化の促進作用が確認できなかったが、RSV処置群において、アセチル化ヒストンH3の有意な減少が観察され、4’G−RSV処置群では、RSV処置群よりも優れたヒストンH3脱アセチル化活性が観察された。このように、4’G−RSVが3G−RSVと比較してヒストンH3脱アセチル化を有意に促進することがわかった。
上述したように、SIRT1活性化因子は、NAD依存性ヒストン脱アセチル化酵素であるSir2ファミリータンパク質(すなわち、サーチュインタンパク質)を活性化する能力を有する因子であり、生体内においてサーチュインタンパク質が活性化されると、ヒストンH3の脱アセチル化が引き起こされる。RSVは、抗酸化物質としても知られているが、RSVと同程度の抗酸化活性を有する3G−RSVによって、ヒストンH3の脱アセチル化は引き起こされない。これらのことは、本実施例にて実証した筋ジストロフィーの治療効果があくまでもRSVのSIRT1活性化因子としての機能に基づくものであり、抗酸化物質としての機能に基づくものではないことを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。そして、本実施例にてSIRT1活性化因子としてRSVを用いて本発明を説明しているが、本発明に利用可能なSIRT1活性化因子はRSVに限定されないことを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明を用いれば、筋ジストロフィーを処置することができ、特に、筋ジストロフィーにおける骨格筋の線維化状態を劇的に改善することができる。このように優れたツールを提供する本発明は、医学、薬学の分野において利用可能であり、医薬品、生化学試薬の開発に大いに寄与することができる。

Claims (2)

  1. レスベラトロールまたはその4’−O−β−D−グリコシド(4’G−RSV)を有効成分として含んでいる、筋ジストロフィーにおける骨格筋の線維化を改善するための組成物。
  2. CPT−cGMPまたはタダラフィルをさらに含んでいる、請求項1に記載の組成物。
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