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JP5887903B2 - 溶接性に優れた高強度熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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溶接性に優れた高強度熱延鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、自動車用部材の使途に有用な、引張強さ(TS):850MPa以上の高強度と優れた溶接性を兼ね備えた高強度熱延鋼板およびその製造方法に関する。
近年地球環境保全の観点から、CO2排出量の規制を目的として自動車業界全体で自動車の燃費改善が指向されている。自動車の燃費改善には、使用部材の薄肉化による軽量化が最も有効であるため、自動車部品用素材としての高強度熱延鋼板の使用量が増加しつつある。一方、鋼板を素材とする自動車部品の多くは、プレス加工やバーリング加工等によって成形した部品を溶接して組み立てられる。そのため、自動車部品用鋼板には、高強度に加えて優れた溶接性を有することも要求される。
しかしながら、引張強さが850MPa以上の超高強度鋼板では、通常、高強度化のために必要な合金元素を多く含有するため、溶接性が著しく低下する問題がある。したがって、高強度熱延鋼板を自動車部品等に適用するうえでは、溶接性を兼ね備えた高強度熱延鋼板の開発が必須となり、現在までに様々な技術が提案されている。
例えば、特許文献1では、鋼板組成を質量%でC:0.01〜0.1%、Si:0.01〜2%、Mn:0.05〜3%、P≦0.1%、S≦0.03%、Al:0.005〜1%、N:0.0005〜0.005%、Ti:0.05〜0.5%を含み、さらに0<C−(12/48Ti−12/14N−12/32S)≦0.05%、さらに、Mo+Cr≧0.2%、かつCr≦0.5%、Mo≦0.5%、を満たす範囲でC、S、N、Tiを含有し残部がFe及び不可避的不純物からなる組成とし、鋼板組織をフェライト、またはフェライトおよびベイナイトからなる組織とする技術が提案されている。そして、引用文献1で提案された技術によると、鋼板に複合添加したCrとMoが、鋼板溶接時にC等の元素とクラスタリングもしくは析出することで、鋼板溶接熱影響部の軟化を抑制できるとされている。
また、特許文献2では、溶融亜鉛めっき系鋼板の基板となる鋼板の組成を重量%で、C:0.01〜0.1%、Si≦0.3%、Mn:0.2〜2.0%、P≦0.04%、S≦0.02%、Al≦0.1%、N≦0.006%、Ti:0.03〜0.2%を含み、かつMo≦0.5%およびW≦1.0%のうち1種以上を含み、残部が実質的にFeであり、重量%で、4.8C+4.2Si+0.4Mn+2Ti≦2.5を満足する組成とし、上記鋼板の組織を実質的にフェライト単相とし、更に原子比で(Mo+W)/(Ti+Mo+W)≧0.2を満たす範囲で、Tiと、MoおよびWのうち1種以上とを含む10nm未満、好ましくは5nm以下の析出物が分散した組織とする技術が提案されている。そして、特許文献2で提案された技術によると、転位密度が低いフェライト単相組織を微細析出物で強化すると、強度−伸びバランスおよび強度−伸びフランジ性バランスに優れた高張力熱延鋼板が得られるとされている。また、特許文献2で提案された技術によると、上記微細析出物をTiと、WおよびMoのうち1種以上とを含む炭化物とし、更に該炭化物中のTi、Mo、Wを原子比で(Mo+W)/(Ti+Mo+W)≧0.2とすることで、加熱に対して粗大化し難い炭化物が得られ、スポット溶接初期の中温域で鋼の強度を高く維持するとともに、スポット溶接時の溶接金属のブローホールを低減できるとされている。
特開2004−218077号公報 特開2003−321736号公報
しかしながら、特許文献1で提案された技術では、引張強さ:850MPa以上の高強度鋼板を得ようとする場合、鋼板組織をフェライトおよびベイナイトからなる組織にするとともに、鋼板中に固溶強化元素であるMnおよびSiを多量に添加することが必要となる。そして、このように低温変態相(ベイナイト)を含む鋼板を溶接すると、溶接熱により加熱→冷却という熱履歴を経た溶接熱影響部のうち加熱後の冷却速度が緩やかな領域では、低温変態相が焼き戻されて軟化してしまう。また、固溶強化元素であるC、Si、Mnの含有量が多いと、上記焼き戻しによる軟化量は著しく大きくなる。したがって、特許文献1で提案された技術では、引張強さ:850MPa以上の高強度と優れた溶接性を兼ね備えた高強度熱延鋼板を得ることができない。
一方、特許文献2で提案された技術によると、鋼板組織を実質的にフェライト単相とした場合であっても、微細な炭化物やクラスターを析出させることで引張強さが850MPa以上である高強度熱延鋼板とすることができる。しかしながら、その実施例が示すように、特許文献2で提案された技術により引張強さ:850MPa以上の鋼板強度を確保しようとする場合には、析出させる炭化物等を2〜3nm程度にまで微細化させる必要がある。そして、このように5nm未満の大きさの炭化物やクラスターは、溶接熱影響部での温度や保持温度に非常に敏感であるため、溶接熱履歴を経ることで粗大化してしまい、安定して溶接熱影響部の軟化を抑制することは極めて難しい。すなわち、低温変態相を利用せず微細な炭化物を利用した高強度熱延鋼板であっても、鋼板の成分設計が炭化物の熱安定性を考慮しない成分設計であると、溶接熱履歴を経ることで溶接熱影響部の炭化物が粗大化し、溶接熱影響部に軟化が生じる問題があった。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、優れた溶接性、すなわち溶接熱影響部の軟化現象を抑制可能な引張強さ:850MPa以上の高強度熱延鋼板を提供することを目的とする。
上記課題を解決すべく、本発明者らは、熱延鋼板の高強度化と溶接性、特に熱延鋼板を溶接する際に形成される溶接熱影響部の強度変動に及ぼす各種要因について鋭意検討した。その結果、以下(1)〜(7)の知見を得た。
(1)溶接熱影響部の軟化を低減するうえでは、熱延鋼板の組織を、焼き戻しの影響を受けないフェライト単相とすることが有効であること。
(2)低温変態相生成を回避し、実質的にフェライト単相組織である熱延鋼板を得るには、焼き入れ性元素であるMnの含有量を0.5%未満とする必要があること。
(3)実質的にフェライト単相組織であり、しかも固溶強化元素であるMnの含有量を0.5%未満にまで低減された熱延鋼板について、その引張強さを850MPa以上とするためには、Ti炭化物、V炭化物およびTiとVの複合炭化物による析出強化を採用し、これらの微細な炭化物を鋼板のマトリックスであるフェライト粒内に多く析出させる必要があること。
(4)炭化物による析出強化を採用するに際し、溶接性にも優れた高強度鋼板を得るには、鋼中への溶解量の小さいTiを最大限利用したうえで、溶解量の大きいVを効果的に複合添加することが重要であること。
(5)フェライト粒内に析出した微細な炭化物は、鋼板強度の向上に極めて有効であるものの、溶接熱影響部に存在する微細な炭化物は、溶接熱履歴を経ることで溶解、粗大化するため、溶接熱影響部における軟化域発生の要因となること。
(6)溶接熱影響部での軟化域の抑制、すなわち炭化物の溶解、粗大化の抑制には、熱延鋼板に所定量のBを含有させることが有効であること。
(7)Mn含有量が0.5%未満であり且つマトリックスが実質的にフェライト単相組織である熱延鋼板について、フェライト粒内に炭化物を析出させて引張強さを850MPa以上にするとともに、溶接熱影響部における炭化物の溶解、粗大化を抑制するには、上記炭化物の平均粒子径を5nm以上20nm以下とすることが有効であること。
なお、Bの含有により溶接熱影響部における炭化物の溶解、粗大化が抑制されるメカニズムは必ずしも明らかではないが、偏析しやすい元素であるBが炭化物とマトリックス界面に偏析することで、炭化物粗大化の駆動力である界面エネルギーが低下し、炭化物の熱安定性が向上することが推察される。
本発明は上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は次のとおりである。
[1] 質量%で、
C :0.055%以上0.11%以下、 Si:0.4%以下、
Mn:0.5%未満、 P :0.02%以下、
S :0.01%以下、 Al:0.1%以下、
N :0.01%以下、 B :0.0005%以上0.005%以下、
Ti:0.05%以上0.25%以下、 V :0.01%以上0.5%以下
を、C、TiおよびVが下記(1)を満足するように含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト相の面積率が95%以上であり、該フェライト相の結晶粒内の炭化物平均粒子径が5nm以上20nm以下である組織を有し、引張強さが850MPa以上であることを特徴とする、溶接性に優れた高強度熱延鋼板。

0.8 ≦ ([C]/12)/([Ti]/48+0.7×[V]/51) ≦ 1.5 ・・・ (1)
([C]、[Ti]、[V]:各元素の含有量(質量%))
[2] 前記[1]において、前記組成に加えてさらに、質量%でNb:0.01%以上0.2%以下を、前記(1)式に代えて下記(2)式を満足するように含有することを特徴とする、溶接性に優れた高強度熱延鋼板。

0.8 ≦ ([C]/12)/([Ti]/48+0.7×[V]/51+[Nb]/93) ≦ 1.5 ・・・ (2)
([C]、[Ti]、[V]、[Nb]:各元素の含有量(質量%))
[3] 前記[1]または[2]において、前記組成に加えてさらに、質量%でCr:0.1%以下、Ni:0.05%以下、W :0.05%以下、Mo:0.05%以下のいずれか1種以上を含有することを特徴とする、溶接性に優れた高強度熱延鋼板。
[4] 前記[1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%でCa、Zr、Co、Hf、Sn、Sb、As、Mg、Zn、Cu、Pb、REMのいずれか1種以上を合計で1%以下含有することを特徴とする、溶接性に優れた高強度熱延鋼板。
[5] 前記[1]ないし[4]のいずれかにおいて、鋼板表面にめっき層を有することを特徴とする、溶接性に優れた高強度熱延鋼板。
[6] 質量%で、
C :0.055%以上0.11%以下、 Si:0.4%以下、
Mn:0.5%未満、 P :0.02%以下、
S :0.01%以下、 Al:0.1%以下、
N :0.01%以下、 B :0.0005%以上0.005%以下、
Ti:0.05%以上0.25%以下、 V :0.01%以上0.5%以下
を、C、TiおよびVが下記(1)を満足するように含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素材を、1100℃以上1350℃以下の温度に加熱し、仕上げ圧延温度を820℃以上とする熱間圧延を施し、熱間圧延終了後3秒以内に強制冷却を開始し、20℃/s以上の冷却速度で700℃以上800℃以下の温度域まで冷却したのち冷却を停止し、2s以上25s以下の間放冷し、再度20℃/s以上の冷却速度で冷却し、550℃以上700℃以下の巻取り温度でコイル状に巻き取ることを特徴とする、溶接性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。

0.8 ≦ ([C]/12)/([Ti]/48+0.7×[V]/51) ≦ 1.5 ・・・ (1)
([C]、[Ti]、[V]:各元素の含有量(質量%))
[7] 前記[6]において、前記組成に加えてさらに、質量%でNb:0.01%以上0.2%以下を、前記(1)式に代えて下記(2)式を満足するように含有することを特徴とする、溶接性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。

0.8 ≦ ([C]/12)/([Ti]/48+0.7×[V]/51+[Nb]/93) ≦ 1.5 ・・・ (2)
([C]、[Ti]、[V]、[Nb]:各元素の含有量(質量%))
[8] 前記[6]または[7]において、前記組成に加えてさらに、質量%でCr:0.1%以下、Ni:0.05%以下、W :0.05%以下、Mo:0.05%以下のいずれか1種以上を含有することを特徴とする、溶接性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
[9] 前記[6]ないし[8]のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%でCa、Zr、Co、Hf、Sn、Sb、As、Mg、Zn、Cu、Pb、REMのいずれか1種以上を合計で1%以下含有することを特徴とする、溶接性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
[10] 前記[6]ないし[9]のいずれかにおいて、更にめっき処理を施して表面にめっき層を形成することを特徴とする、溶接性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
本発明によれば、焼き戻しによる影響の大きい低温変態相を活用せず、実質的にフェライト単相のマトリックスに微細な炭化物を析出させた鋼板組織とし、焼入性の高いMnの含有量を低減するとともに所定量のBを添加して炭化物の熱安定性を向上させることで溶接熱影響部の軟化を減じせしめ、溶接性に優れた引張強さ850MPa以上の高強度熱延鋼板を得ることができる。そのため、本発明によると、熱延鋼板の高強度化に伴って困難となる溶接による接合が可能となり、自動車部材生産の簡便化、自動車車体の軽量化に対する効果が著しい。
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明鋼板の組織および炭化物の限定理由について説明する。
本発明の熱延鋼板は、フェライト相の面積率が95%以上であり、該フェライト相の結晶粒内の炭化物平均粒子径が5nm以上20nm以下である組織を有する。
フェライト相の面積率:95%以上
低温変態相は、溶接熱影響部の強度低下を招来する。溶接部近傍では溶接時に急速加熱→冷却という熱履歴を経ることで溶接熱影響部が形成されるが、低温変態相を含む鋼板を溶接すると、溶接熱影響部のうち急速加熱後の冷却速度が緩やかな領域の低温変態相が焼き戻されて軟化するためである。以上の理由により、本発明では、溶接熱影響部の軟化を抑制する目的で、熱延鋼板のマトリックスをフェライト単相とすることが好ましい。また、フェライト単相とすることは、鋼板の加工性を確保する観点からも好ましい。但し、熱延鋼板のマトリックスが完全にフェライト単相でなくても実質的にフェライト単相、具体的にはフェライト相の面積率が95%以上であれば上記した溶接熱影響部の軟化を効果的に抑制することができる。したがって、フェライト相の面積率は95%以上とする。好ましくは98%以上である。
なお、本発明の熱延鋼板において、マトリックスに含有され得るフェライト相以外の組織としては、セメンタイト、パーライト、ベイナイト相、マルテンサイト相等が挙げられる。これらの組織が、多量にマトリックス中に存在すると、上記のように溶接熱影響部で軟化する。そのため、これらの組織は極力低減することが好ましいが、マトリックス組織全体に対する合計面積率が5%以下であれば許容される。好ましくは2%以下である。
フェライト相の結晶粒内の炭化物
上記のとおり、本発明の熱延鋼板では、低温変態相を抑制する目的で焼き入れ元素であり且つ固溶強化元素でもあるMnの含有量を低減するため、固溶強化による鋼板強度の向上化は期待できない。そこで、本発明の熱延鋼板では、強度を確保する上でフェライト相の結晶粒内に炭化物を微細析出させることが必須となる。本発明においてフェライト相の結晶粒内に炭化物を微細析出させる炭化物としては、Ti炭化物、V炭化物およびTiとVの複合炭化物、或いはこれら炭化物中にNbやMo、Wを含むものが挙げられる。なお、これらの炭化物の多くは、熱延鋼板製造工程における仕上げ圧延終了後の冷却過程で、オーステナイト→フェライト変態と同時に相界面析出する炭化物である。
フェライト結晶粒内の炭化物平均粒子径:5nm以上20nm以下
本発明の熱延鋼板は、上記の炭化物をマトリックスであるフェライト相の結晶粒内に微細に分散させることで強化を図っている。ここで、炭化物が粗大化すると、転位の運動を阻害する炭化物数が減じることから、鋼板の高強度化には、炭化物が微細化であるほど好ましい。引張強さ850MPa以上の高強度熱延鋼板を得るには、炭化物の平均粒子径を20nm以下とする必要がある。好ましくは15nm以下である。一方、極度に微細な炭化物は、溶接時、高温に晒されたときに溶解し易い。特に、5nm未満の炭化物は、後述するBによる熱安定性の向上効果が小さいため、炭化物平均粒子径の下限を5nmとする。
次に、本発明熱延鋼板の成分組成の限定理由について説明する。なお、以下の成分組成を表す%は、特に断らない限り質量%(mass%)を意味するものとする。
C :0.055%以上0.11%以下
Cは、TiやV、或いは更にNbやMo、Wと結合し、炭化物として鋼板中に微細分散する。すなわちCは、微細な炭化物を形成してフェライト組織を著しく強化させる元素であり、熱延鋼板を強化する上で必須の元素である。引張強さ850MPa以上の高強度鋼板を得るには、C含有量を少なくとも0.055%以上とする必要がある。一方、C含有量が0.11%を超えると、炭化物として析出しないC量が多くなる結果、低温変態相が生じ、溶接熱影響部での焼き戻し軟化を招き、溶接性が劣化する。したがって、C含有量は0.055%以上0.11%以下とする。好ましくは0.06%以上0.10%以下である。
Si:0.4%以下
Siは、フェライト形成元素であり、溶接時にオーステナイト域まで加熱された鋼板が冷却する際、高温でオーステナイトとフェライトの二相分離を促進させる。このように高温で変態(二相分離)する場合、鋼板中の元素の拡散速度が速いため、CやMnといった低温変態相を生成させる元素が未変態のオーステナイト中に濃縮してしまい、結果として溶接熱影響部に低温変態相が生成し易くなる。このような観点から、溶接部(溶接熱影響部)における低温変態相の生成を抑制する目的で、Si含有量を0.4%以下とする。好ましくは0.2%以下である。なお、Si含有量は不純物レベルまで低減してもよい。
Mn:0.5%未満
Mn含有量は、本発明において重要な要件のひとつである。先述のとおり、本発明では、フェライト粒内に析出させる炭化物の熱安定性を高める目的で鋼板に所定量のBを含有させることを必須とするが、Bは焼き入れ性向上効果が極めて高い元素であり、低温変態相の生成を促進する元素でもある。そこで、鋼板組織を実質的にフェライト単相組織とする本発明では、焼き入れ性元素であるMnの含有量を低減させる必要があり、0.5%%未満とする。好ましくは0.4%以下である。但し、Mn含有量が極端に少なくなると、熱延後のフェライト変態点が上昇し、これに伴い炭化物が過度に粗大化することが懸念されるため、Mn含有量は0.1%以上とすることが好ましく、0.2%以上とすることがより好ましい。
P:0.02%以下
Pは、粒界に偏析して溶接部の粒界脆化を促進させるため、著しく溶接性を低下させる有害な元素である。そのため、本発明では、可能な限り低減することが望ましいが、0.02%までの含有は許容できるため、P含有量は0.02%以下とする。好ましくは0.015%以下である。
S :0.01%以下
Sは、鋼中で介在物を生成し、溶接部でミクロボイド生成の原因となり、延性低下を招く有害な元素である。そのため、本発明では、S含有量を可能な限り低減することが好ましいが、0.01%までは許容できるため、S含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.005%以下である。
Al:0.1%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素である。このような効果を得るためには0.02%以上含有することが望ましいが、Al含有量が0.1%を超えると粗大なAl2O3などの介在物を形成して溶接部における強度低下の要因となるため、Al含有量は0.1%以下とする。好ましくは0.08%以下である。
N :0.01%以下
Nは、溶接熱影響部に破壊の基点となる窒化物を形成し、溶接継手強度を低下させる有害な元素である。そのため、本発明ではN含有量を可能な限り低減することが好ましいが0.01%までは許容できるため、0.01%以下とする。好ましくは0.008%以下である。
B :0.0005%以上0.005%以下
Bは、本発明において重要な元素である。先述のとおり本発明では、フェライト結晶粒内に微細な炭化物を析出させることで所望の熱延鋼板強度(引張強さ:850MPa以上)を確保するが、鋼板の溶接熱影響部では炭化物が溶解または粗大化して強度低下が生じ易い。この溶接熱影響部における炭化物の溶解や粗大化を抑制するうえでは、Bを含有させることが有効である。B含有量が0.0005%未満では、上記効果が十分に発現しない。一方、Bは焼き入れ性向上効果を有する元素であるため、B含有量が0.005%を超えると低温変態相が生成し易くなってしまう。したがって、B含有量は0.0005%以上0.005%以下とする。好ましくは0.0008%以上0.002%以下である。
Ti:0.05%以上0.25%以下
Tiは、Cと結合して微細な炭化物を形成し、鋼板の高強度化に寄与する元素である。引張強さ850MPa以上の熱延鋼板強度を得るには、Ti含有量を0.05%以上とする必要がある。一方、Ti含有量が0.25%を超えると、炭化物が粗大化して溶接継手強度が低下する。したがって、Ti含有量は0.05%以上0.25%以下とする。好ましくは0.05%以上0.20%以下である。
なお、鋼板強度は炭化物の析出量に比例するという観点から、Ti含有量の8割以上を炭化物として析出させて固溶Tiを抑制することが好ましい。
V :0.01%以上0.5%以下
Vは、Tiと同様、Cと炭化物を形成して鋼板の高強度化に寄与する元素である。また、Vは、Tiと結合し微細な複合炭化物を形成するため、鋼板の高強度化に有効である。所望の熱延鋼板強度(引張強さ:850MPa以上)を確保するためには、V含有量を0.01%以上とする必要がある。一方、Vは、鋼中の溶解度が高いため、V含有量が過剰になると完全に析出しきれず固溶分として鋼中に残存する。そして、V含有量が0.5%を超えると、鋼板の溶接時、溶接熱履歴を受けた部分で固溶Vが粗大な炭化物を形成し、溶接熱影響部の強度低下を招来する。したがって、V含有量は0.01%以上0.5%以下とする。好ましくは0.01%以上0.40%以下である。
なお、本発明において、炭化物による析出強化を採用するに際し、溶接性にも優れた高強度鋼板を得るには、鋼中への溶解量の小さいTiを最大限利用したうえで、溶解量の大きいVを効果的に複合添加することが好ましい。固溶分として残存したTiおよびVは、溶接性を低下させる要因になる。このため、TiとVの炭化物の析出を促進し、固溶のTiおよびVを可能な限り減少させることが好ましい。Vは微細なTi炭化物を核として析出しやすい状態となるため、本発明では、析出促進の目的でTiとVを複合的に添加することが重要である。
本発明の熱延鋼板は、C、TiおよびVを、上記した範囲で且つ(1)式を満足するように含有する。
0.8 ≦ ([C]/12)/([Ti]/48+0.7×[V]/51) ≦ 1.5 ・・・ (1)
([C]、[Ti]、[V]:各元素の含有量(質量%))
上記(1)式は、熱延鋼板の組織(マトリックス)を実質的にフェライト単相組織とし、且つ熱延鋼板の引張強さを850MPa以上とするために満足すべき要件であり、本発明において重要な指標である。
溶接熱影響部の硬度差(前記した溶接熱影響部における軟化現象)は、鋼中に存在する固溶C量と相関が強い。鋼中に含まれるCのほぼ全量を、炭化物形成元素であるTi およびVと結合させて強化に寄与する微細な炭化物として析出させることで、溶接熱影響部軟化の原因となる低温変態相の生成が回避できる。ここで、炭化物形成元素であるTiとVの合計含有量(原子%)に対するC含有量(原子%)が過剰になると、炭化物として析出しない固溶Cが多くなる。そして、低温変態相の生成を抑制することができず、溶接熱影響部に軟化域が生じ、溶接性が低下する。一方、TiとVの合計含有量(原子%)に対するC含有量(原子%)が少なくなると、TiおよびVと結合するCが不足し、所望の熱延鋼板強度(引張強さ:850MPa以上)とするために必要となる炭化物析出量を確保することができなくなる。
そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、([C]/12)/([Ti]/48+0.7×[V]/51)が0.8を下回ると炭化物形成元素が炭化物として十分に析出せず850MPa以上の引張強さが得られなくなる一方、1.5を超えると微細な炭化物として析出しない固溶Cが過剰となることに起因した溶接熱影響部の軟化現象が発生することを知見した。
したがって、本発明では、([C]/12)/([Ti]/48+0.7×[V]/51)を0.8以上1.5以下とする。好ましくは0.9以上1.4以下である。
以上が、本発明における基本組成であるが、上記した基本組成に加えてさらにNb:0.01%以上0.2%以下を、上記(1)式に代えて下記(2)式を満足するように含有してもよい。
0.8 ≦ ([C]/12)/([Ti]/48+0.7×[V]/51+[Nb]/93) ≦ 1.5 ・・・ (2)
([C]、[Ti]、[V]、[Nb]:各元素の含有量(質量%))
Nb:0.01%以上0.2%以下
Nbは、熱間圧延時にオーステナイトの再結晶を阻害することで、熱間圧延に続く冷却・巻取り工程においてオーステナイト→フェライト変態後のフェライト粒を細粒化するとともに、変態後にはフェライト粒内に微細な炭化物を形成することで熱延鋼板の高強度化に寄与する元素である。このような効果を得るには、Nb含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Nb含有量が0.2%を超えると、熱延鋼板を製造する際、熱間圧延前の鋼素材の加熱時に粗大なNb炭化物が完全に溶解せず、最終的に得られる熱延鋼板に粗大なNb炭化物が残存する場合がある。そして、この粗大なNb炭化物は鋼板強度の低下を招き、鋼板の引張強さを850MPa以上とすることが困難となる。したがって、Nb含有量は0.01%以上0.2%以下とすることが好ましい。また、0.01以上0.15以下とすることがより好ましい。
0.8 ≦ ([C]/12)/([Ti]/48+0.7×[V]/51+[Nb]/93) ≦ 1.5 ・・・ (2)
([C]、[Ti]、[V]、[Nb]:各元素の含有量(質量%))
先述のとおり、炭化物形成元素の合計含有量(原子%)に対するC含有量(原子%)が過剰になると、炭化物として析出しない固溶Cが多くなる結果、低温変態相が生成することに起因して溶接熱影響部に軟化域が生じ、溶接性が低下する。一方、炭化物形成元素の合計含有量(原子%)に対するC含有量(原子%)が少なくなると、炭化物形成元素と結合するCが不足し、所望の熱延鋼板強度(引張強さ:850MPa以上)とするために必要となる炭化物析出量を確保することができなくなる。そこで、Nbを含有する場合には、前記(1)式に代えて(2)式を満足することとする。
([C]/12)/([Ti]/48+0.7×[V]/51+[Nb]/93)が0.8を下回ると炭化物形成元素が炭化物として十分に析出せず850MPa以上の引張強さが得られなくなる一方、1.5を超えると微細な炭化物として析出しない固溶Cが過剰となることに起因した溶接熱影響部の軟化現象が発生する。したがって、本発明では、([C]/12)/([Ti]/48+0.7×[V]/51+[Nb]/93)を0.8以上1.5以下とする。好ましくは0.9以上1.4以下である。
更に、引張強さ850MPa以上の熱延鋼板を得るには、炭化物を十分に析出させる必要があるため、炭化物形成元素であるTi、V或いは更にNbを、式(3)を満足するように含有させることが望ましい。
[Ti]/48+0.7×[V]/51+[Nb]/93≧0.0031 … (3)
([Ti]、[V]、[Nb]:各元素の含有量(質量%))
ここで、(3)式左辺の値を算出するに際し、鋼板がNbを含有しない場合には[Nb]をゼロとして算出するものとする。
なお、上記(1)〜(3)式においてVの係数である0.7は、添加したVの70%が析出し、30%が固溶して残存することを意味する。Vは、Tiと比べて析出するための駆動力が小さいことから、不可避的に固溶分として残存する割合が約30%となる。
また、上記した基本組成に加えて更にCr:0.1%以下、Ni:0.05%以下、W :0.05%以下、Mo:0.05%以下のいずれか1種以上を含有してもよい。
Cr:0.1%以下
Crは、炭化物を構成し、更なる溶接継手強度ならびに鋼板強度の上昇に有効な元素である。しかし、Cr含有量が0.1%を超えると、粒界が鋭敏化して溶接性が低下する。したがって、Cr含有量は0.1%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.05%以下である。
Ni:0.05%以下
Niは、溶接部の靱性を向上させる効果を有する。しかし、Ni含有量が0.05%を超えると、低温変態相が生成するため溶接熱影響部での軟化が生じ、溶接性が低下する。したがって、Ni含有量は0.05%以下とすることが好ましい。
W :0.05%以下
Wは、熱安定性が良好な炭化物、すなわち、溶接熱履歴を受けても溶解、粗大化し難い炭化物を形成するため、溶接性の向上に有効な元素である。しかし、W含有量が0.05%を超えると、低温変態相が生成するため溶接熱影響部での軟化が生じ、溶接性が低下する。したがって、W含有量は0.05%以下とすることが好ましい。
Mo:0.05%以下
Moも、Wと同様に熱安定性が良好な炭化物を形成するため、溶接性の向上に有効な元素である。しかし、Mo含有量が0.05%を超えると、低温変態相が生成するため溶接熱影響部での軟化が生じ、溶接性が低下する。したがって、Mo含有量は0.05%以下とすることが好ましい。
また、上記した基本組成に加えて更にCa、Zr、Co、Hf、Sn、Sb、As、Mg、Zn、Cu、Pb、REMのいずれか1種以上を合計で1%以下含有してもよい。なお、溶接部の靱性の観点からは、これらの元素の含有量を合計で0.5%以下とすることが好ましい。上記以外の成分は、Feおよび不可避的不純物である。
引張強さ:850MPa以上
自動車車体の軽量化には、鋼板強度は大きい方が望ましい。また、溶接熱影響部における軟化量の小さい鋼板の引張強さが850MPa以上になると、自動車車体軽量化効果の他に溶接部の耐疲労性や引張強さが格段に改善されるため、一層望ましい。これらの要望に対し本発明は、上記のように炭化物を微細に分散させて強化する粒子分散強化を最大限活用する設計を行うとともに、溶接熱影響部における軟化現象を抑制する手段が講じられている。
具体的には、熱延鋼板中に、炭化物形成元素であるTi、V或いは更にNbを、Cに対して所定の比率で含有させることで850MPa以上の引張強さを確保するに十分な炭化物を微細析出させる。また、熱延鋼板のマトリックスを実質的にフェライト単相組織とし、炭化物平均粒子径を5nm以上20nm以下とし、更に炭化物粗大化抑制効果を有するBを所定量含有させることで、溶接熱影響部における軟化現象を抑制している。これにより、溶接性に優れた(すなわち、溶接熱影響部における強度低下量の少ない)引張強さ850MPa以上の熱延鋼板が得られる。
本発明の熱延鋼板は、後述する巻取り温度の上限である700℃までの加熱処理を施しても材質変動が小さい。そのため、鋼板に耐食性を付与する目的で、本発明の熱延鋼板にめっき処理を施し、その表面にめっき層を具えることができる。めっき処理における加熱温度は700℃以下でも可能であることから、本発明の熱延鋼板にめっき処理を施しても前記した本発明の効果を損なうことはない。めっき層の種類は特に問わず、電気めっき層、無電解めっき層のいずれも適用可能である。また、めっき層の合金成分も特に問わず、溶融亜鉛めっき層、合金化溶融亜鉛めっき層などが好適な例として挙げられるが、勿論、これらに限定されず従前公知のものがいずれも適用可能である。
次に、本発明の熱延鋼板の製造方法について説明する。
本発明は、上記した組成の鋼素材(鋼スラブ)を加熱し、熱間圧延を施し、仕上げ圧延終了後、冷却し、巻き取り、熱延鋼板とする。この際、前記加熱の加熱温度を1100℃以上1350℃以下とし、前記熱間圧延の仕上げ圧延温度を820℃以上とし、熱間圧延終了後(仕上げ圧延終了後)3秒以内に強制冷却を開始し、20℃/s以上の冷却速度で700℃以上800℃以下の温度域まで冷却したのち冷却を停止し、2s以上25s以下の間放冷し、再度20℃/s以上の冷却速度で冷却し、550℃以上700℃以下の巻取り温度でコイル状に巻き取ることを特徴とする。
本発明において、鋼の溶製方法は特に限定されず、転炉、電気炉等、公知の溶製方法を採用することができる。また、真空脱ガス炉にて2次精錬を行ってもよい。その後、生産性や品質上の問題から連続鋳造法によりスラブ(鋼素材)とするのが好ましいが、造塊−分塊圧延法、薄スラブ連鋳法等、公知の鋳造方法でスラブとしても良い。なお、本発明においては、Mnを削減したことから700℃以上の絞り性が良好であるため、連続鋳造による製造が容易となる。
鋼素材の加熱温度:1100℃以上1350℃以下
上記の如く得られた鋼素材に、粗圧延および仕上げ圧延を施すが、本発明においては、粗圧延に先立ち鋼素材を加熱して実質的に均質なオーステナイト相とし、粗大な炭化物を溶解する必要がある。鋼素材の加熱温度が1100℃を下回ると、粗大な炭化物が溶解しないため、熱間圧延終了後の冷却・巻取り工程で微細分散する炭化物の量が減じることとなり、最終的に得られる熱延鋼板の強度が著しく低下する。一方、上記加熱温度が1350℃を上回ると、スケールが噛み込み、鋼板表面性状を悪化させる。
以上の理由により、鋼素材の加熱温度は1100℃以上1350℃以下とする。好ましくは1150℃以上1300℃以下である。但し、鋼素材に熱間圧延を施すに際し、鋳造後の鋼素材が1100℃以上1350℃以下の温度域にある場合、或いは鋼素材中の炭化物が溶解している場合には、鋼素材を加熱することなく直送圧延してもよい。なお、粗圧延条件については特に限定されない。
仕上げ圧延温度:820℃以上
仕上げ圧延温度が820℃を下回ると、仕上げ圧延中にフェライト変態が開始し、フェライト粒が伸展された組織となるうえ、部分的にフェライト粒の粒成長が進行した混粒組織となるため、鋼板強度が著しく低下する。したがって、仕上げ圧延温度は820℃以上とする必要がある。好ましくは850℃以上である。仕上げ圧延温度の上限は特に定める必要はないが、熱間圧延前の加熱温度、圧延通板速度、鋼板板厚などにより自ずと決定される。このため実質的には仕上げ圧延温度の上限は980℃である。
仕上げ圧延終了後、強制冷却を開始するまでの時間:3s以内
仕上げ圧延終了後の鋼板を高温に長時間保持すると、炭化物がひずみ誘起析出し、該炭化物が不均一に析出、成長しコイル面内の強度ばらつきの原因となる。このような強度ばらつきは安定した溶接継手強度が得られない原因となるので、本発明では、ひずみ誘起析出を抑制する目的で熱間圧延終了後速やかに強制冷却を開始する必要があり、仕上げ圧延終了後、少なくとも3s以内に冷却を開始する。好ましくは2s以内である。
平均冷却速度:20℃/s以上
上記のとおり、仕上げ圧延終了後の鋼板の高温に維持される時間が長いほど、ひずみ誘起析出による炭化物の粗大化が進行し易くなり、上記のように強度ばらつきの原因となる。そのため、仕上げ圧延後は急冷する必要があり、上記問題を回避するには20℃/s以上の平均冷却速度で冷却する必要がある。好ましくは30℃/s以上である。但し、仕上げ圧延終了後の冷却速度が過剰に大きくなると、次工程での冷却停止温度が700℃未満となり炭化物が過度に微細化することが懸念されるため、150℃/s以下とすることが好ましい。
冷却停止温度:700℃以上800℃以下
先述のとおり本発明では、最終的に得られる熱延鋼板のマトリックス中に析出する炭化物の平均粒子径を5nm以上20nm以下とする必要がある。ここで、仕上げ圧延終了後の鋼板を上記した平均冷却速度:20℃/s以上で700℃未満にまで強制冷却すると、析出する炭化物の平均粒子径が極端に小さくなり、最終的に得られる熱延鋼板のマトリックス中に析出する炭化物の平均粒子径を5nm以上とすることが困難になる。一方、上記の強制冷却を800℃超の温度範囲で停止すると、析出する炭化物の平均粒子径が大きくなり過ぎてしまい、最終的に得られる熱延鋼板のマトリックス中に析出する炭化物の平均粒子径を20nm以下とすることが困難になる。したがって、上記強制冷却の停止温度は700℃以上800℃以下とする。好ましくは700℃以上750℃以下である。
放冷時間:2s以上25s以下
本発明では、上記の如く700℃以上800℃以下の温度域で強制冷却を停止したのち放冷することで、所定の平均粒子径(5nm以上20nm以下)を有する炭化物の析出を促進する。ここで、放冷時間が2s未満では炭化物が十分に析出されない一方、放冷時間が25sを超えると炭化物が過度に粗大化する。したがって、放冷時間は2s以上25s以下とする。好ましくは2s以上15s以下である。なお、放冷中の鋼板温度は、700℃以上800℃以下に保持することが好ましい。
再冷却の平均冷却速度:20℃/s以上
本発明では、上記の放冷により得られた炭化物の状態を維持する必要がある。ここで、上記放冷後の平均冷却速度が20℃/s未満であると、放冷によって得られた炭化物が粗大化し、最終的に得られる熱延鋼板のマトリックス中に析出する炭化物の平均粒子径を20nm以下とすることが困難となる。したがって、上記放冷後の平均冷却速度は20℃/s以上とする。好ましくは30℃/s以上である。但し、上記放冷後の平均冷却速度が150℃/sを超えると、後述する所望の巻取り温度に制御することが困難となるおそれがあるため、150℃/s以下とすることが好ましい。
巻取り温度:550℃以上700℃以下
巻取り温度が550℃未満では、低温変態相が生成し、溶接熱影響部で軟化が生じる。一方、巻取り温度が700℃を超えると、炭化物が粗大化し、熱延鋼板強度および溶接継手強度が低下する。そのため、巻取り温度は550℃以上700℃以下とする。好ましくは580℃以上680℃以下である。
以上により、本発明では、マトリックスが実質的にフェライト単相であり、該フェライトの結晶粒内に平均粒子径が5nm以上20nm以下である炭化物が十分に析出した組織を有し、引張強さが850MPa以上であり且つ溶接性に優れた高強度熱延鋼板が得られる。なお、熱間圧延後巻き取り後の熱延鋼板は、表面にスケールが付着した状態であっても、酸洗を行うことによりスケールを除去した状態であっても、その特性が変わることはなく、いずれの状態においても前記した優れた特性を発現する。
本発明では、巻き取り後の熱延鋼板にめっき処理を施して、熱延鋼板表面にめっき層を形成してもよい。なお、本発明の熱延鋼板は、約700℃以下の温度域であれば炭化物の状態が変わることはなく、約700℃以下の加熱処理を施しても材質変動が小さい。そのため、めっき層を形成する場合には、焼鈍温度を700℃以下とした連続めっきラインを通板させることができる。めっき処理の種類は特に問わず、電気めっき処理、無電解めっき処理のいずれも適用可能である。例えば、めっき処理として溶融亜鉛めっき処理を施して溶融亜鉛めっき層を形成することができる。或いは更に、上記溶融亜鉛めっき処理後、合金化処理を施して合金化溶融亜鉛めっき層を形成してもよい。また、溶融めっきには亜鉛の他に、アルミもしくはアルミ合金等、その他の金属や合金をめっきすることもできる。
表1に示す組成を有する肉厚250mmのスラブ(鋼素材)に、表2に示す熱延条件の熱間圧延を施し板厚2.0mmの熱延鋼板とした。なお、表2に記載の冷却速度は、仕上げ圧延温度から放冷開始温度までの平均冷却速度である。また、表2に記載の再冷却速度は、放冷終了温度から巻取り温度までの平均冷却速度である。
更に、得られた熱延鋼板の一部(鋼板No.8,10,13)に対しては、焼鈍温度700℃の連続溶融亜鉛めっきラインに通板し、その後、460℃のめっき浴(めっき組成:Zn-0.13mass%Al)に浸漬し、次いで520℃で合金化処理を施してめっき材(GA材)とした。めっきは鋼板の表裏面の両方に形成され、めっき付着量は片面当たり45g/m2とした。
Figure 0005887903
Figure 0005887903
上記により得られた熱延鋼板(熱延鋼板およびGA材)から試験片を採取し、組織観察および引張試験を行い、フェライト相の面積率、フェライト相以外の組織の種類および面積率、フェライト相の結晶粒内に析出した炭化物の平均粒子径、降伏強度、引張強さ、伸びを求めた。また、上記により得られた熱延鋼板同士を溶接して溶接サンプルを作成し、溶接後の熱延鋼板から試験片を採取して硬さ試験を行い、母材および溶接熱影響部の硬さを求めた。更に、上記溶接後の熱延鋼板からから試験片を採取して引張試験を行い、引張強さを求めるとともに試験片の破断位置を観察した。試験方法は次のとおりである。
(i)組織観察
フェライト相の面積率は以下の手法により評価した。圧延方向に平行な断面の板厚中心部について、5%ナイタールによる腐食現出組織を走査型光学顕微鏡で400倍に拡大して10視野分撮影した。フェライト相は、粒内に腐食痕が観察されず粒界が滑らかな曲線で観察される組織である。フェライト相の面積率は画像解析によりフェライト相とベイナイトやマルテンサイト等のフェライト相以外を分離し、観察視野に対するフェライト相の面積率によって求めた。このとき、線状の形態として観察される粒界はフェライト相の一部として計上した。
フェライト相の結晶粒内の炭化物の平均粒子径は、得られた熱延鋼板の板厚中央部から薄膜法によってサンプルを作製し、透過型電子顕微鏡(倍率:120,000倍)で観察を行い、100点以上の析出物について得られた析出物粒子径の平均によって求めた。この析出物粒子径を算出する上で、粒子径が1.0μm以上の粗大なセメンタイトや窒化物は含まないものとした。
(ii)引張試験
得られた熱延鋼板から圧延方向と垂直方向にJIS13号B引張試験片を作製し、JIS Z 2241(2011)の規定に準拠した引張試験を5回行い、平均の降伏強度(YS)、引張強さ(TS0)、全伸び(El)を求めた。引張試験のクロスヘッドスピードは10mm/minとした。
(iii)溶接サンプルの硬さ試験
得られた熱延鋼板を用いてアーク溶接を行い、溶接サンプルを作成した。上記アーク溶接は、直径1.2mmのMGS-80のワイヤーを用いた炭酸ガスアーク溶接とした。上記アーク溶接の溶接条件は、溶接速度:80cm/min、溶接電流:220A、溶接電圧:25V、板隙:1mmの突き合わせ溶接とした。溶接後、ビード部断面を切り出し、その断面の板厚中央部について、0.5mm間隔で試験荷重1kgfのビッカース硬さ試験を行った。ビッカース硬さ試験により、母材の硬さHV0と溶接熱影響部での最小硬さHV1とを求め、両者の差(HV0−HV1)を求めた。
(iv)溶接サンプルの引張試験
上記(iii)の溶接サンプルから、JIS13号B引張試験を作製し、上記(ii)と同じ条件で引張試験を行い、溶接性の評価を行った。JIS13号B引張試験の作製は、溶接サンプルの溶接ビード部が試験片評点間距離中央部の試験片幅方向に横切る条件とした。
溶接性の評価は、溶接サンプルの引張強さTS1と上記(ii)で測定された引張強さTS0(溶接前の試験片の引張強さ)の差TS0−TS1が20MPa以下であり、且つ引張試験後引張試験片の破断位置が母材であったものを溶接性良好(○)とした。一方、溶接サンプルの引張強さTS1と上記(ii)で測定された引張強さTS0(溶接前の試験片の引張強さ)の差TS0−TS1が20MPaを超えるもの、或いは引張試験後引張試験片の破断位置が溶接熱影響部であったものを溶接性不良(×)とした。
得られた結果を表3に示す。
Figure 0005887903
表3に示すとおり、本発明の条件を満足する発明例によると、引張強さが850MPa以上の高強度を有するとともに溶接性に優れた熱延鋼板が得られている。一方、本発明の条件を満足しない比較例は、所望の鋼板強度が得られていないか、溶接性に劣っていた。また、溶接性が不良であった比較例については、母材の硬さHV0と溶接熱影響部での最小硬さHV1との差(HV0−HV1)が大きく、それに伴って溶接による引張強さの低下量(TS0−TS1)も増加する傾向にある。軟化域が生じた水準での引張試験の破断位置は熱影響部であった。これは、軟化域で低温変態相の焼き戻し、あるいは炭化物の粗大化が生じたためである。

Claims (10)

  1. 質量%で、
    C :0.055%以上0.11%以下、 Si:0.4%以下、
    Mn:0.5%未満、 P :0.02%以下、
    S :0.01%以下、 Al:0.1%以下、
    N :0.01%以下、 B :0.0005%以上0.005%以下、
    Ti:0.05%以上0.25%以下、 V :0.01%以上0.5%以下
    を、C、TiおよびVが下記(1)を満足するように含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト相の面積率が95%以上であり、該フェライト相の結晶粒内の炭化物平均粒子径が5nm以上20nm以下である組織を有し、引張強さが850MPa以上であることを特徴とする、溶接性に優れた高強度熱延鋼板。

    0.8 ≦ ([C]/12)/([Ti]/48+0.7×[V]/51) ≦ 1.5 ・・・ (1)
    ([C]、[Ti]、[V]:各元素の含有量(質量%))
  2. 前記組成に加えてさらに、質量%でNb:0.01%以上0.2%以下を、前記(1)式に代えて下記(2)式を満足するように含有することを特徴とする、請求項1に記載の溶接性に優れた高強度熱延鋼板。

    0.8 ≦ ([C]/12)/([Ti]/48+0.7×[V]/51+[Nb]/93) ≦ 1.5 ・・・ (2)
    ([C]、[Ti]、[V]、[Nb]:各元素の含有量(質量%))
  3. 前記組成に加えてさらに、質量%でCr:0.1%以下、Ni:0.05%以下、W :0.05%以下、Mo:0.05%以下のいずれか1種以上を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の溶接性に優れた高強度熱延鋼板。
  4. 前記組成に加えてさらに、質量%でCa、Zr、Co、Hf、Sn、Sb、As、Mg、Zn、Cu、Pb、REMのいずれか1種以上を合計で1%以下含有することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の溶接性に優れた高強度熱延鋼板。
  5. 鋼板表面にめっき層を有することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の溶接性に優れた高強度熱延鋼板。
  6. 質量%で、
    C :0.055%以上0.11%以下、 Si:0.4%以下、
    Mn:0.5%未満、 P :0.02%以下、
    S :0.01%以下、 Al:0.1%以下、
    N :0.01%以下、 B :0.0005%以上0.005%以下、
    Ti:0.05%以上0.25%以下、 V :0.01%以上0.5%以下
    を、C、TiおよびVが下記(1)を満足するように含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素材を、1100℃以上1350℃以下の温度に加熱し、仕上げ圧延温度を820℃以上とする熱間圧延を施し、熱間圧延終了後3秒以内に強制冷却を開始し、20℃/s以上の冷却速度で700℃以上800℃以下の温度域まで冷却したのち冷却を停止し、2s以上25s以下の間放冷し、再度20℃/s以上の冷却速度で冷却し、550℃以上700℃以下の巻取り温度でコイル状に巻き取り、フェライト相の面積率が95%以上であり、該フェライト相の結晶粒内の炭化物平均粒子径が5nm以上20nm以下である組織を有し、引張強さが850MPa以上である熱延鋼板とすることを特徴とする、溶接性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。

    0.8 ≦ ([C]/12)/([Ti]/48+0.7×[V]/51) ≦ 1.5 ・・・ (1)
    ([C]、[Ti]、[V]:各元素の含有量(質量%))
  7. 前記組成に加えてさらに、質量%でNb:0.01%以上0.2%以下を、前記(1)式に代えて下記(2)式を満足するように含有することを特徴とする、請求項6に記載の溶接性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。

    0.8 ≦ ([C]/12)/([Ti]/48+0.7×[V]/51+[Nb]/93) ≦ 1.5 ・・・ (2)
    ([C]、[Ti]、[V]、[Nb]:各元素の含有量(質量%))
  8. 前記組成に加えてさらに、質量%でCr:0.1%以下、Ni:0.05%以下、W :0.05%以下、Mo:0.05%以下のいずれか1種以上を含有することを特徴とする、請求項6または7に記載の溶接性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
  9. 前記組成に加えてさらに、質量%でCa、Zr、Co、Hf、Sn、Sb、As、Mg、Zn、Cu、Pb、REMのいずれか1種以上を合計で1%以下含有することを特徴とする、請求項6ないし8のいずれかに記載の溶接性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
  10. 更に、めっき処理を施して表面にめっき層を形成することを特徴とする、請求項6なし9のいずれかに記載の溶接性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
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