以下、本発明の実施形態に係る発光素子について、図面を参照しながら説明する。なお、各図面が示す部材のサイズや位置関係等は、説明の便宜上誇張していることがある。さらに、以下の説明において、同一の名称および符号については原則として同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。
[発光素子の構造]
本発明の実施形態に係る発光素子1の構造について、図1〜図3を参照しながら説明する。発光素子(光線指向型発光素子)1は、電圧を印加することで自発光する半導体素子である。発光素子1は、例えばLEDのように概ね平坦な表面を有する固体発光素子が挙げられる。発光素子1は、図1に示すように、半導体発光層10と、n型半導体層20と、p型半導体層30と、が積層された構造を有している。
なお、図1では図示を省略しているが、半導体発光層10を発光させるための電極は、例えば一般的なLED素子と同様に、n型半導体層20とp型半導体層30との間に段差を設け、当該段差から引き出された部分にオーミックコンタクトを形成するように設けることができる。但し、電極の構造は特に限定されず、例えばn型半導体層20の下面またはp型半導体層30の上面にp電極を設け、n型半導体層20またはp型半導体層30の側面にn電極を設ける構成としても構わない。電極の材料としては一般的な金属電極を使用することができる。また、発光素子1は、n型半導体層20の下に図示しない基板を備えた構成であっても構わない。
半導体発光層10は、n型半導体層20とp型半導体層30とから注入される電子および正孔の再結合によって生成されるエネルギーを光として放出する層である。半導体発光層10は、n型半導体層20とp型半導体層30との接合部にIn等の不純物が添加されることで形成され、例えばInGaNの量子井戸層として形成される。半導体発光層10は、図1に示すように、n型半導体層20とp型半導体層30との間に形成されており、ここでは矩形状に形成されている。なお、半導体発光層10の厚さは特に限定されない。
n型半導体層20は、半導体発光層10に対して電子を注入する層である。n型半導体層20は、例えば下から順に、n型GaN層と、n型GaN/InGaN障壁層とが積層されて形成される。n型半導体層20は、図1に示すように、半導体発光層10の下部に形成されており、ここでは矩形状に形成されている。なお、n型半導体層20の厚さは特に限定されない。
p型半導体層30は、半導体発光層10に対して正孔を注入する層である。p型半導体層30は、例えば下から順に、p型GaN/InGaN障壁層と、p型GaN層とが積層されて形成される。p型半導体層30は、図1に示すように、半導体発光層10の上部に形成されており、ここでは矩形状に形成されている。そして、このp型半導体層30上には、図1に示すように、複数の誘電体柱状部41,42が形成されている。なお、p型半導体層30の厚さは特に限定されない。
誘電体柱状部41,42は、光線を形成するとともに、当該光線の方向を制御するものである。誘電体柱状部41,42は、ここでは図1に示すように、p型半導体層30上に6本形成されている。また、誘電体柱状部41,42は、図1に示すように、それぞれ円柱状に形成されている。
誘電体柱状部41,42は、半導体発光層10から発生した光の導波路として機能する。ここで、例えばLEDは、一般的に10〜50μm程度の可干渉長を持っているため、前記したような微小な空間において異なる経路長を経た光は、干渉効果による空間分布を形成する。従って、誘電体柱状部41,42内部を伝播した光は、誘電体柱状部41,42の最上面である放射面41a,42a(図2(b)参照)から素子表面と垂直な方向、すなわち図1における上方向に放射された後、光の干渉効果によって干渉し、素子表面の重心O(図2(a)参照)から前記した素子表面と垂直な方向に、1本の光線が生成される。なお、ここでの素子表面とは、具体的には図1に示すp型半導体層30の上面のことを意味している。
誘電体柱状部41,42は、前記したn型半導体層20およびp型半導体層30よりも小さい誘電率(比誘電率)を有する透明誘電体から構成される。誘電体柱状部41,42は、より具体的には空気の誘電率(=約1)よりも高く、n型半導体層20およびp型半導体層30を構成する発光材料(例えばGaN)の誘電率よりも低い誘電率を有している。なお、この関係は屈折率(誘電率の平方根)の場合も同様であり、誘電体柱状部41,42は、空気の屈折率(=約1)よりも高く、n型半導体層20およびp型半導体層30を構成する発光材料(例えばGaN)の屈折率よりも低い屈折率を有している。誘電体柱状部41,42は、n型半導体層20およびp型半導体層30が例えばGaNから構成される場合は、当該GaNよりも誘電率および屈折率の低いSiO2,SiO,SiN,MgF2,ZrO2等の透明誘電体で形成される。但し、透明誘電体はこれらに限定されず、例えば熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂等の樹脂材料も用いることができる。
誘電体柱状部41,42は、ここでは図1に示すように、3本ごとに異なる高さに形成されている。すなわち、誘電体柱状部41,42は、図1に示すように、3本の誘電体柱状部42の高さが、その他の3本の誘電体柱状部41の高さと異なるように形成され、ここでは誘電体柱状部42の高さが誘電体柱状部41の高さよりも低くなるように形成されている。また、図1に示すように、3本の誘電体柱状部41はそれぞれ高さが等しく、3本の誘電体柱状部42はそれぞれ高さが等しい。また、図1に示すように、6本の誘電体柱状部41,42のうち、高さの高い3本の誘電体柱状部41は、p型半導体層30上にそれぞれ隣接して配置されているとともに、高さの低い3本の誘電体柱状部41も、p型半導体層30上にそれぞれ隣接して配置されている。
なお、ここでは、高さの高い3本の誘電体柱状部41によって構成される柱のグループのことを「第1柱群」と定義し、高さの低い3本の誘電体柱状部42によって構成される柱のグループのことを「第2柱群」と定義することとする。この場合、第1柱群および第2柱群は、図1に示すように、それぞれ3本の誘電体柱状部41および3本の誘電体柱状部42で構成される。
このように、発光素子1は、誘電体柱状部41,42のうちの3本の誘電体柱状部42を他の3本の誘電体柱状部41とは異なる高さとすることで、当該高さの差に応じて光線の方向(方位角)を制御することができる。なお、誘電体柱状部41,42の高さが全て同じ場合(高さの差がない場合)は、誘電体柱状部41,42によって形成される光線は、素子表面と垂直な方向に放射される。ここで、誘電体柱状部41,42による光線の方向制御の詳細については後記する。
誘電体柱状部41,42は、例えば集束イオンビーム(FIB: Focused Ion Beam)、フォトリソグラフィーや電子線リソグラフィーとエッチングとの組み合わせ等の公知の技術を用いてp型半導体層30上に形成することができる。
なお、発光素子1として、例えば誘電体柱状部41,42の代わりに、p型半導体層30またはn型半導体層20を結晶成長あるいはエッチングすることで、p型半導体層30上またはn型半導体層20上にこれらと同じ半導体材料(例えばGaN等)で構成された柱状構造物を形成することも考えられる。しかし、この場合は、結晶成長条件の厳密な制御が必要であったり、半導体材料に応じて適用可能な加工方法が限定されたり、さらには半導体への物理的・化学的なダメージにも配慮しなくてはならないため、製造が容易ではない。また、柱状構造物を構成するGaN等の半導体材料が不透明な材料であるため、発光素子1から取り出すことができる光量が十分ではないという欠点がある。一方、図1に示すように、誘電体柱状部41,42をGaN等の半導体材料よりも加工がはるかに容易なSiO2等の透明誘電体で形成することで、発光素子1単体で光線を形成して放射方向を制御できる指向性発光素子1の製造が容易となるとともに、当該発光素子1の出力も増強することができる。
またその他にも、発光素子1として、例えばp型半導体層30上に誘電体柱状部41,42と同じ透明誘電体からなる透明誘電体層(p型半導体層30と同じ面積)を設けることも考えられる。しかし、この場合は、誘電体柱状部41,42の製造方法がエッチングに限定されるため、製造が容易ではない。一方、図1に示すように、誘電体柱状部41,42のみをSiO2等の透明誘電体で形成することで、後記するように、エッチング以外の方法によっても誘電体柱状部41,42を製造することができる。
誘電体柱状部41,42は、図2(a)に示すように、平面視でそれぞれ円形状に形成され、p型半導体層30上にそれぞれ同じ断面積で形成されている。また、p型半導体層30の上面の面積に対する誘電体柱状部41,42の断面積の割合等は特に限定されない。誘電体柱状部41,42は、図2(a)に示すように、それぞれの直径が等しくなるように形成されており、具体的には自由空間(空気中)における光の波長程度に設定されている。なお、以下の説明では、前記した自由空間中における光の波長のことを「外部波長λ0」として説明する。
誘電体柱状部41,42は、図2(a)に示すように、それぞれの柱の中心軸が同じ円周C上に等間隔で位置するように、環状に配置されている。言い換えれば、誘電体柱状部41,42は、図2(a)に示すように、当該誘電体柱状部41,42が作る重心Oを中心とする円周C上にそれぞれ隣接して配置されている。また、この円周Cは、図2(a)に示すように、半径がλ0(あるいは直径が2λ0)に設定されている。そして、この円周C上において重心Oの点対称に配置された誘電体柱状部41,42は、図2(a)に示すように、それぞれの柱の中心軸を結ぶ距離が2λ0に設定されている。このように発光素子1は、誘電体柱状部41,42が円周上に等間隔で配置されることで、誘電体柱状部41,42の放射面41a,42aから光が放射された際に、光線として形成される光以外の余分な光(迷光)が特定箇所に固まって妨害となることがないため、形成される光線の品質を向上させることができる。
第1柱群を構成する誘電体柱状部41の高さと第2柱群を構成する誘電体柱状部42の高さとは、それぞれ誘電体柱状部41,42の内部を伝播する光の波長程度、あるいはその数倍の高さに設定される。なお、以下の説明では、誘電体柱状部41の高さを「H」とし、誘電体柱状部41と誘電体柱状部42との高さの差を「d」とし、誘電体柱状部42の高さを「H−d」とし、誘電体柱状部41,42の内部を伝播する光の波長のことを「内部波長λ1」として説明する。この内部波長λ1と前記した外部波長λ0とは、誘電体柱状部41,42の屈折率をnとした場合、「λ1=λ0/n」の関係がある。
ここで、誘電体柱状部41の高さHに対する柱の高さの差dの割合(=d/H)を「δ」とした場合、誘電体柱状部41と誘電体柱状部42との高さの差dは、d=δHで表わすことができる。なお、以下の説明では、誘電体柱状部41と誘電体柱状部42との高さの差dを「柱高低差δH」として説明し、誘電体柱状部41の高さHに対する柱の高さの差dの割合δを「柱高低差割合δ」として説明する。
第1柱群を構成する誘電体柱状部41と第2柱群を構成する誘電体柱状部42との高さの差である柱高低差δHは、前記した内部波長λ1を基準に調整され、具体的には当該内部波長λ1以下に設定される。これにより、発光素子1は、各誘電体柱状部41,42の放射面41a,42aの位置が離れすぎることがないため、それぞれの放射面41a,42aから放射される光を干渉しやすくし、迷光の発生を抑制することができ、形成された光線の放射方向をより制御しやすくすることができる。
ここで、後記するように、柱高低差割合δ(または柱高低差δH)の値を大きくすると、素子表面と垂直な方向に対する光線の成す角θ1(以下、方位角θ1という)が増加する。以下、柱高低差δHと方位角θ1との関係について、図3を参照(適宜図2(b)を参照)しながら説明する。
図3は、図1に示す発光素子1から、p型半導体層30および誘電体柱状部41,42だけを抜き出して模式的に示したものである。また、図3における光路Aは、誘電体柱状部41内の光の伝播路を示しており、光路Bは、誘電体柱状部42内の光の伝播路を示している。図3に示すように、光路A,Bを通る光は、高度h1(誘電体柱状部42の高さH−d)までは同じ媒質の中を進むため同位相のままであるが、高度h1から高度h2(誘電体柱状部41の高さH)の間は媒質が異なる。従って、高度h2の地点における光路Aを通る光の位相θ2+αと、高度h2の地点における光路Bを通る光の位相θ2+βとは、以下の式(1)および式(2)に示すように、それぞれ異なる値となる。
θ2+α=θ2+2πδH/(λ0/n) ・・・式(1)
θ2+β=θ2+2πδH/λ0 ・・・式(2)
また、高度h2から高度h3の間は自由空間であるため、上端(h2)から中心軸にいたる光路の長さと媒質は等しく、前記した位相θ2+αと位相θ2+βとの位相差Ψ(=(θ2+α)−(θ2+β))は、以下の式(3)で示すように保存されることになる。
Ψ=(2πδH/λ0)(n−1) ・・・式(3)
従って、以下の式(4)に示すように、誘電体柱状部41および誘電体柱状部42の柱高低差δHを調整することで、誘電体柱状部41および誘電体柱状部42の位相差Ψを制御できることがわかる。そして、このように誘電体柱状部41の放射面41aおよび誘電体柱状部42の放射面42aからそれぞれ放射された光には、図3の高度h2の地点において位相差Ψがあるため、これらの光が互いに干渉すると、前記した位相差Ψに応じて、素子表面と垂直な方向に対して所定角度θ1だけ傾いた方向に1本の光線が生成されることになる。従って、誘電体柱状部41および誘電体柱状部42の柱高低差δHを調整して位相差Ψを制御することで、光線を所望の方位角θ1の方向に放射することができる。なお、図3に示すように、誘電体柱状部41よりも誘電体柱状部42の方が柱高低差δHだけ低い場合は、この1本の光線は誘電体柱状部42側に所定角度θ1だけ傾いて放射される。また、柱高低差δHにおけるHは固定値であるため、柱高低差割合δを調整すれば、誘電体柱状部41および誘電体柱状部42の位相差Ψを制御することができる。
δH=(Ψ/2π){1/(n−1)}λ0 ・・・式(4)
そして、誘電体柱状部41を通る光は、誘電体柱状部42を通る光に比べて遅延するため、両者が混合されると、それら2つの光の波面とは全く異なる波面をもつ波が生成される。すなわち、誘電体柱状部41,42の放射面41a,42aから放射される光の波面は互いに干渉し、これら2つの誘電体柱状部41,42の放射面41a,42aの相対的な位置(3次元空間の位置)によって決定される方位に、光が放射されることになる。
続いて、3次元空間の位置r1にある波源としての誘電体柱状部41と、3次元空間の位置r2にある波源としての誘電体柱状部42から放射された光の干渉について説明する。位置r1にある波源と、位置r2にある波源とからそれぞれ放射された光によって、3次元空間の位置rに時刻tにおいて合成される光の強度I(r)は、以下の式(5)で与えられる。
前記した式(5)において、光の干渉を表す第3項が存在するために、半導体発光層10で生成された光が、2つの波源からそれぞれ放射された後に重畳されて、波面を変えて波の進行方向を変えることが可能となる。式(5)では、式(6)のγの実部を利用する。γは、式(6)で示すように、0から1までの値をとり、2つの波源から放射された光が時間的・空間的にどのくらい相関を持っているのかを示している。よって、γは、次の式(7)〜式(9)のように場合分けすることができる。
式(7)の場合を完全コヒーレント、式(8)の場合をインコヒーレント、式(9)の場合を部分的なコヒーレントと呼ぶ。ここでは、発光素子1として、LEDの光源を使用しているため、部分的なコヒーレントになっている。従って、図3の発光素子1においては、光の強度において、前記式(5)の第3項の寄与が大きいため、光の進行方向を大きく曲げることができる。
なお、図3では、簡単のため、高さの異なる2本の誘電体柱状部41,42から放射される光の干渉による光線の方向について説明したが、波源として6本の誘電体柱状部41,42がある場合についても、前記式(5)を拡張することが可能である。例えば、6本の誘電体柱状部41,42のうちの2本の柱の組み合わせごと(合計15の組み合わせ)に前記式(5)を適用し、これら15の組み合わせを加算することで、波源として6つの誘電体柱状部41,42がある場合についての関係式を求めることができる。
以上のような構成を備える発光素子1は、6本の誘電体柱状部41,42の放射面41a,42aから放射された光が干渉することで光線を形成することができるとともに、6本の誘電体柱状部41,42のうちの3本の高さを相違させることで、高さの低い3本の誘電体柱状部42内部を伝播する光が、高さの高い3本の誘電体柱状部41内部を伝播する光よりも柱先端の放射面42aに早く到達して空気中を早く進む。そのため、発光素子1は、高さの異なる誘電体柱状部41,42を進む光の間に位相差Ψを設けることができ、当該位相差Ψに応じた方向に光線を放射することができる。従って、発光素子1によれば、6本の誘電体柱状部41,42を設けることで、発光素子1単体で光線を形成することができ、6本の誘電体柱状部41,42のうちの3本の柱の高さを相違させることで、形成した光線の方位角θ1を制御することができる。
また、発光素子1は、半導体材料よりも加工が容易な透明誘電体によって柱状構造物(誘電体柱状部41,42)を形成することで、例えば当該柱状構造物を半導体材料で形成する場合のように柱状構造物を結晶成長させる必要がないため、結晶成長条件等の厳密な制御が不要となるとともに、当該柱状構造物を半導体材料で形成する場合のように適用可能な加工方法が限定されることもない。そして、発光素子1は、柱状構造物を透明誘電体によって形成することで、当該柱状構造物を不透明な材料で形成した場合と比較して、当該柱状構造物による光の吸収を抑えることができるため、発光素子1から取り出すことができる光量を増大させることができる。
さらに、発光素子1は、柱状構造物のみを透明誘電体で形成することで、半導体発光層10から放射された光がn型半導体層20上またはp型半導体層30上における誘電体柱状部41,42以外の部分から出射されにくくなるとともに、柱上端の透過率が、柱状構造物とn型半導体層20またはp型半導体層30との界面よりも高いため、背景雑音(迷光)を低下させることができる。従って、発光素子1によれば、誘電体柱状部41,42を透明誘電体によって形成することで、当該発光素子1を容易に製造することができるとともに、当該発光素子1の出力も増強することができる。
[発光素子の動作]
以下、発光素子1の動作について、図1を参照(適宜図3も参照)しながら説明する。発光素子1は、図示しない電極を介して半導体発光層10に電流が供給されると、半導体発光層10において、n型半導体層20およびp型半導体層30から注入される電子および正孔の再結合によって生成されるエネルギーが光として放出される。このように半導体発光層10で生成された光はp型半導体層30上の誘電体柱状部41,42を伝播し、それぞれの放射面41a,42a(図3参照)から外部へと放射される。
ここで、誘電体柱状部41,42は、図3に示すように、誘電体柱状部42の高さがその他の誘電体柱状部41の高さと比較して、柱高低差δHだけ低くなるように構成されている。そのため、誘電体柱状部41の放射面41aおよび誘電体柱状部42の放射面42aからそれぞれ放射された光には、図3の高度h2の地点において位相差Ψが生じることになり、これらの光が互いに干渉すると、前記した位相差Ψに応じて、素子表面と垂直な方向に対して所定角度θ1傾いた方向に1本の光線が生成される。このように、発光素子1によれば、6本の誘電体柱状部41,42を設け、当該6本の誘電体柱状部41,42のうちの3本の高さを相違させることで、発光素子1単体で光線を形成するとともに、当該光線の方位角θ1を制御することができる。
[発光素子の製造方法]
以下、本発明の実施形態に係る発光素子1の製造方法の一例について、図4および図5を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、図1に示す発光素子1を2次元状に複数並べ、かつ、p電極およびn電極を設けた発光素子1の素子群の製造方法について説明する。
まず、図4(a)に示すように、気相成膜法(CVD法)等を用いて、基板50上に発光素子層80とSiO2等からなる透明誘電体層40aとを順番に形成する。また、図4(a)に示すように、発光点、すなわち発光素子層80の上部以外の位置にn電極72を形成する。なお、ここでは図示は省略したが、発光素子層80は、具体的には図1に示した半導体発光層10、n型半導体層20およびp型半導体層30からなる層のことである。この発光素子層80は、例えば分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、有機金属化学気相成長(MOCVD)法等の成膜方法によってn型半導体層20およびp型半導体層30を積層し、その接合部にIn等の不純物を添加して半導体発光層10を形成することで作成することができる。
次に、図4(b)に示すように、透明誘電体層40a上にフォトレジスト110を形成する。このフォトレジスト110は、例えば透明誘電体層40aの前面にフォトレジストを塗布後、フォトマスクで皮膜し、紫外線を照射して現像することで形成することができる。次に、図4(c)に示すように、HF,KOHを用いたウェットエッチング、SF6、CHF3ガスプラズマを用いたプラズマエッチングによって、透明誘電体層40aをエッチングする。
次に、図4(d)に示すように、発光素子層80上およびフォトレジスト110上にアルミニウム、銅等を蒸着し、p電極71を形成する。次に、図4(e)に示すように、透明誘電体層40a上のフォトレジスト110と、当該フォトレジスト110上の余分な金属膜を除去する。次に、図4(f)に示すように、集束イオンビーム(FIB)等を用いて、透明誘電体層40aをエッチングし、誘電体柱状部41,42を形成し、図1に示す発光素子1が複数並べられた素子群を作成する。なお、図1に示す発光素子1のように誘電体柱状部41と誘電体柱状部42の高さを変える場合は、図4(f)の工程において、誘電体柱状部42のみをさらにエッチングすればよい。
発光素子1は、図4に示す方法以外にも、図5に示す方法によっても製造することができる。この場合、まずバッファ層90を介してGaN等からなる発光素子層80が形成されたサファイア基板100を用意する。そして、図5(a)に示すように、レーザーリフトオフ法、ケミカルリフトオフ法またはボイド形成剥離法等を用いて、サファイア基板100およびバッファ層90を剥離する。次に、図5(b)に示すように、発光素子層80上(ここでは下面)に、マスクを用いた金属蒸着法等によってn電極72を1本以上形成する。なお、その際、n電極72上にSn等の融着層を設けても構わない。
次に、図5(c)に示すように、n電極72が設けられた発光素子層80を基板50上に配置し、表面活性化接合法等によって、両者を接合する。なお、表面活性化接合法では、具体的にはArプラズマ等によって発光素子層80の表面を活性化させて基板50と圧着を行う。但し、前記した図5(b)の工程において、n電極72上にSn等の融着層を設けた場合は、この工程では加熱のみを行って発光素子層80と基板50とを接合する。
次に、図5(d)に示すように、n電極72と直交する方向に、当該n電極72と交差するように、多数のp電極71を形成する。次に、図5(e)に示すように、p電極71上に熱可塑性樹脂または光硬化性樹脂からなるレジスト剤120を塗布する。なお、レジスト剤120が熱可塑性樹脂からなる場合は、塗布後に加熱する。次に、図5(f)に示すように、柱状構造物の転写パターンが形成されたナノスタンパ130をレジスト剤120に押しつけて紫外線を照射し、誘電体柱状部41,42を作成する。なお、レジスト剤120が熱可塑性樹脂からなる場合は、ナノスタンパ130をレジスト剤120に押しつけた後に冷却し、誘電体柱状部41,42を作成する。次に、図5(g)に示すように、ナノスタンパ130を剥離し、図1に示す発光素子1が複数並べられた素子群を作成する。なお、図1に示す発光素子1のように誘電体柱状部41と誘電体柱状部42の高さを変える場合は、図5(f)の工程において、深さの異なる2種類の柱状構造物の転写パターンが形成されたナノスタンパ130を用いればよい。
以下、本発明の実施例について図6〜図8を参照しながら説明する。
<第1の実験例>
第1の実験例では、FDTD(Finite-Difference Time-Domain)法によるシミュレーションによって、発光素子1の誘電体柱状部41,42による光線の形成と、当該光線の方位角θ1制御について評価を行った。本実験例では、実施例および比較例の発光素子を用意し、それぞれGaNにInを添加した縦6000nm×横6000nmのサイズのLEDを用いた。
(実施例の発光素子)
実施例の発光素子1は、図6(a)に示すように、p型半導体層30上に6本の誘電体柱状部41,42を形成した。なお、図6(a)は、発光素子1の断面図であるため、誘電体柱状部41,42はここでは2本のみ図示している。また、発光素子1は、図6(a)に示すように、p型半導体層30の厚さを405nmとすることで、半導体発光層10の上面が誘電体柱状部41,42の底面から、外部波長λ0に相当する405nmの深さに位置するように構成した。
また、誘電体柱状部41の高さHは、図6(a)に示すように、発光スペクトルの中心波長(外部波長λ0=405nm)をSiO2の屈折率(=1.5)で割ることで、当該SiO2中における内部波長λ1を算出し、その2波長分に相当する540nmとした。このように、発光素子1は、誘電体柱状部41,42を誘電体であるSiO2で形成することを想定している。なお、以下の説明では、誘電体柱状部41を「導波柱41」として説明し、誘電体柱状部42を「制御柱42」として説明する。
(比較例の発光素子)
比較例の発光素子101は、図6(b)に示すように、p型半導体層30上に透明誘電体層40を積層し、透明誘電体層40上に6本の誘電体柱状部41A,42Aを一体的に形成した。なお、図6(b)は、発光素子101の断面図であるため、誘電体柱状部41A,42Aはここでは2本のみ図示している。また、発光素子101は、図6(b)に示すように、p型半導体層30の厚さを130nmとし、透明誘電体層40の厚さを275nmとすることで、半導体発光層10の上面が誘電体柱状部41A,42Aの底面から、外部波長λ0に相当する405nmの深さに位置するように構成した。
また、誘電体柱状部41Aの高さHは、図6(b)に示すように、発光スペクトルの中心波長(外部波長λ0=405nm)をSiO2の屈折率(=1.5)で割ることで、当該SiO2中における内部波長λ1を算出し、その2波長分に相当する540nmとした。このように、発光素子101は、透明誘電体層40および誘電体柱状部41A,42Aを誘電体であるSiO2で形成することを想定している。なお、以下の説明では、誘電体柱状部41Aを「導波柱41A」として説明し、誘電体柱状部42Aを「制御柱42A」として説明する。
本実験例では、まず実施例および比較例のそれぞれについて、発光素子1,101表面と平行な縦6000nm×横6000nmのサイズの正方形領域をベースとして、当該発光素子1,101表面から上方3000nmの領域を対象に、導波柱41,41Aおよび制御柱42,42Aの柱高低差割合δを変化させ、ビーム形状を観察した。また、本実験例の評価にあたっては、発光素子1,101の計算領域上端(3000nm地点)に到達する光の強度分布を積算し、強度が最も強い点を光線中心とした。
図7は、柱高低差割合δを変化させた場合のビームの強度分布を示しており、赤は到達した光が強い領域(0.4W/m2)を、青は光が到達しない領域(0.0W/m2)をそれぞれ示している。本実験例では、到達した光が最も強い領域(メインビーム)の形に加えて、メインビーム以外に光が到達している領域(サイドビーム)の有無からビーム形状を評価し、具体的にはメインビーム近傍以外に黄色で示される強度約50%の領域(0.2W/m2)が観察されたらサイドビームが大きすぎて使えない(不合格)と判定した。なお、図7では、合格と判定されたビームの強度分布を破線で囲って示している。
図7を参照すると、比較例、実施例ともに、δ=0.0〜0.5の場合は合格と判定されたが、比較例においてはδ=0.6の場合は黄色の領域yが観察されたため、不合格と判定された。これは、実施例と比べて比較例のほうが黄色の領域yがより早く発生する、すなわち実施例と比べて比較例のほうが、サイドビームが大きくなりやすいことを示している。ビームの形状については、実施例と比較例とで同等の形状であることがわかる。但し、図7に示すように、黄色の領域yが観察されたδ=0.6の時点に着目すると、比較例のほうが実施例よりも黄色の領域yが大きい。
図8は、導波柱41,41Aおよび制御柱42,42Aが配置された領域の重心O(図2(a)参照)を通る、発光素子1,101表面に対する法線からのメインビームの方位角θ1を示したものである。図8に示すグラフの縦軸は光線の方位角θ1であり、横軸は柱高低差割合δである。図8に示すグラフでは、具体的には、サイドビームの強度が黄色(強度約50%)となった場合にメインビームに匹敵する強度のサイドビームが出現してビームが崩れたと判断し、当該ビームが崩れるまでの柱高低差割合δをプロットした。
図8を参照すると、比較例の最大の方位角θ1は約7.5度(δ=0.5)であり、実施例の最大の方位角θ1は約10.5度(δ=0.6)であることがわかる。従って、導波柱41および制御柱42のみを透明誘電体で形成した実施例(図6(a)参照)のほうが、透明誘電体層40上に同じ透明誘電体からなる導波柱41Aおよび制御柱42Aを形成した比較例(図6(b)参照)よりも大きな方位角θ1を得られることがわかる。
このように、本実験例では、柱状構造物を透明誘電体で形成することで、良好なビームを得ることができるとともに、柱状構造物だけを透明誘電体で形成することで、より大きな方位角θ1を得られることが確認できた。
以上、本発明に係る発光素子1について、発明を実施するための形態により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
例えば、前記した発光素子1は、図1に示すように、半導体発光層10が矩形状に形成されているが、当該半導体発光層10を誘電体柱状部41,42の直下のみに形成しても構わない。
また、前記した発光素子1は、図1に示すように、誘電体柱状部41,42が断面円形状かつ円柱状に形成されていたが、当該誘電体柱状部41,42は断面多角形かつ多角柱状に形成されても構わない。
また、前記した発光素子1は、図1に示すように、下からn型半導体層20、半導体発光層10、p型半導体層30の順に積層されていたが、n型半導体層20とp型半導体層30の順序は入れ替えても構わない。
また、前記した発光素子1は、図1に示すように、第1柱群を構成する3本の誘電体柱状部(導波柱)41と、第2柱群を構成する3本の誘電体柱状部(制御柱)42の合計6本の柱状構造物を備えていたが、柱状構造物の数をこれよりも少なくしても構わない。すなわち、発光素子1は、それぞれ同じ高さを有する少なくとも1本の誘電体柱状部41によって第1柱群を構成し、当該第1柱群を構成する誘電体柱状部41とは高さが異なり、かつ、それぞれ同じ高さを有する少なくとも1本の誘電体柱状部42によって第2柱群を構成すればよい。なお、この場合、第1柱群には、誘電体柱状部41が1本のみの態様も含まれており、第2柱群には、誘電体柱状部42が1本のみの態様も含まれている。
また、前記した発光素子1は、複数の誘電体柱状部41,42がn型半導体層20上またはp型半導体層30上に3〜6本まとめて環状に配置され、第2柱群が、複数の誘電体柱状部41,42の総数の半数以下の誘電体柱状部42から構成されたものしても構わない。このような構成であっても、発光素子1は、当該発光素子単体で光線を形成することができるとともに、形成した光線の方位角を制御することができる。
また、前記した発光素子1は、複数の誘電体柱状部41,42がn型半導体層20上またはp型半導体層30上に3本まとめて環状に配置され、第1柱群が、2本の誘電体柱状部41から構成され、第2柱群が、1本の誘電体柱状部42から構成されたものとしても構わない。このような構成であっても、発光素子1は、当該発光素子単体で光線を形成することができ、第1柱群を構成する誘電体柱状部41と第2柱群を構成する誘電体柱状部42の高さを相違させることで、形成した光線の方位角を制御することができる。
また、発光素子1は、図9(a)および図9(b)に示すように、基板BD上に多数並べることにより、IP方式のディスプレイであるIP立体ディスプレイDSPを提供することが可能である。図示は省略するが、IP立体ディスプレイDSPに対応したIP立体撮影装置がレンズ板を介して図9(b)に示す円柱や立方体等の被写体を予め撮影しておくことが、立体を表示(再生)するための前提となる。これにより、図9(b)に示すように、IP立体ディスプレイDSPの各発光素子1が要素画像を空間上に投影し、それらが集積されて、被写体の再生像(立体像)として、例えば円柱や立方体が表示される。
IP立体ディスプレイDSPの画素に対応した1つ1つの発光素子1において、柱高低差δHは画素ごとに予め決定されており、当該画素から放射する光線の方向を規定するように設定される。図9(b)にて、例えば円柱や立方体を終点とする太い矢印が光線の方向を示している。また、IP立体ディスプレイDSPにおいて、画面に向かって一番左側の列に並べられた発光素子1と、画面に向かって一番右側の列に並べられた発光素子1とは、誘電体柱状部41,42の配置が対称になっている。
また、IP立体ディスプレイDSPにおいて、画面に向かって一番上の列に並べられた発光素子1と、画面に向かって一番下側の列に並べられた発光素子1とは、誘電体柱状部41,42の配置が対称になっている。さらに、その他の画面領域に並べられた発光素子1も場所に応じた配置で配置されている。よって、素子単位の画素構造(発光素子1)の中の6つの波源からそれぞれ放射された光によって、当該画素において強度変調が可能となる。なお、画素の位置によっては、方位角θ1=0度とするために誘電体柱状部41,42の高さを等しくすべき位置もある。
このような微細構造を有する発光素子1を多数個並べた表示素子(FPD)は、従来技術においてレンズ板と発光面とを接合させた装置と同じ働きを有するようになる。このようにして作成したIP立体ディスプレイDSPにおいては、立体表示の解像度は、発光素子1の精細度にのみ依存し、光学系の解像度不足による映像ボケが生じない。また、発光素子1を用いたIP表示における視域角は、素子表面と垂直な方向に対する放射光の光線成す角θ2の最大値にのみ依存し、解像度と視域角とを独立に改善することが可能である。
なお、発光素子1は、前記したように、要素レンズの代わりに基板BD上に多数並べることでIP立体ディスプレイDSPを提供することが可能であるが、その際に発光素子1自体を基板BDに対して傾斜させて配置することで、方位角θ1をより広範囲に制御することができる。
また、発光素子1は、光線の形成と放射方向の制御を必要とするデバイス一般にも応用することが可能であり、例えばプロジェクター用光源、空間光インターコネクションに用いる接続器、拡散板を必要としない照明用光源等にも利用することができる。