ランタノイド等の希土類元素を用いた希土類磁石は永久磁石とも称され、その用途は、ハードディスクやMRIを構成するモータのほか、ハイブリッド車や電気自動車等の駆動用モータなどに用いられている。
この希土類磁石の磁石性能の指標として残留磁化(残留磁束密度)と保磁力を挙げることができるが、モータの小型化や高電流密度化による発熱量の増大に対し、使用される希土類磁石にも耐熱性に対する要求は一層高まっており、高温使用下で磁石の磁気特性を如何に保持できるかが当該技術分野での重要な研究課題の一つとなっている。
希土類磁石の製造方法の一例を概説すると、たとえばNd-Fe-B系の金属溶湯を急冷凝固して得られた微粉末を加圧成形しながら成形体とし、この成形体に磁気的異方性を付与するべく熱間塑性加工を施して希土類磁石(配向磁石)を製造する方法が一般に適用されている。
上記熱間塑性加工は、塑性加工型を構成する側面型と下面型、側面型内で摺動自在な上面可動型(パンチ、ポンチとも言う)から構成されるキャビティに成形体を配し、加熱しながら上面型でたとえば1秒程度かそれ以下の短時間押圧し、所定の加工率となるまで押圧する据え込み加工が一般に適用されている。この熱間塑性加工によって成形体に磁気的異方性を付与できる一方で、据え込み加工の際に上面型による押圧によって成形体が側方に変形しようとした際に、成形体が上面可動型と下面型から該変形の方向と逆向きのせん断摩擦力を受けることが知られている。このことを図16を参照して詳細に説明する。
図16aは据え込み加工前の上面型と下面型で挟まれた成形体の解析モデルを示しており(モデルは、コンピュータにて有限要素解析を実行するに当たり、成形体を多数の要素セルの集合体としたもの)、図16bは加工率50%の据え込み加工後の解析モデルの変形の状態を示している。なお、図示する解析モデルは、成形体の左右で解析結果が同じになることから右側断面のみをモデル化したものである。
図16aで示すように上面可動型にて成形体を押圧すると、図16bで示すように何等の拘束も受けていない成形体の自由端面が側方へ変形する。この側方への変形の際に、成形体の上面と下面はそれぞれ、上面可動型と下面型から側方への変形方向とは逆方向のせん断摩擦力を受ける。その結果、成形体の中心領域はその周囲の領域に比して塑性変形が進行して高歪み領域となり、これに起因して結晶組織の配向乱れが生じ、残留磁化の低下を齎すとともに、材料歩留まりの悪化による製造コスト増といった課題に繋がる。
ここで、特許文献1には、鍛造合金をカプセルに挿入し、高温で型鍛造をおこなって磁気的異方性を付与する希土類磁石の製造方法において、熱間鍛造を2種類以上の型を使用して多段階でおこなう方法が開示されている。この製造方法を適用することにより、熱間鍛造時に磁石が割れるといった課題を解消することはできるものの、上記する課題、すなわち、成形体の中心領域がその周囲の領域に比して塑性変形が進行して高歪み領域となり、これに起因して結晶組織の配向乱れが生じ、残留磁化の低下を齎すとともに、材料歩留まりの悪化による製造コスト増に繋がるといった課題を解消するには至らない。
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、成形体に据え込み加工である熱間塑性加工を施して配向磁石である希土類磁石を製造するに当たり、成形体の側方変形の際に塑性加工型を構成する上面可動型や下面型から作用するせん断摩擦力による結晶組織の配向乱れが解消され、高い配向度に起因した残留磁化の高い希土類磁石を高い製品歩留りの下で製造することのできる希土類磁石の製造方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成すべく、本発明による希土類磁石の製造方法は、希土類磁石材料となる粉末を加圧成形して、柱状の成形体を製造する第1のステップ、前記成形体が収容されるキャビティを備えた塑性加工型を用意し、前記キャビティに成形体を収容し、成形体を押圧しながら異方性を与える熱間塑性加工を施して配向磁石である希土類磁石を製造する第2のステップからなり、前記第2のステップは異種構造の第1、第2の塑性加工型を使用してさらに2つのステップから構成されており、最初のステップAでは、ここで使用される第1の塑性加工型が、少なくとも3つの側面から構成される第1の側面型と、第1の下面型と、第1の側面型内を上下方向に摺動する第1の上面可動型と、第1の側面型内に配設されて該第1の側面型とともに成形体が収容されるキャビティを形成する第1の縦型とから構成され、第1の上面可動型と第1の側面型の少なくとも1つの側面においてはいずれもキャビティに対向する面がテーパー面となっており、少なくとも第1の縦型と第1の側面型の残りの側面はいずれも、キャビティに対向する面が平坦面となっており、上面可動型を摺動させて所定の第1の加工率になるまで成形体を押圧し、成形体の少なくとも一つの側面と上面をテーパー面に成形して配向磁石前駆体を製造するものであり、次のステップBでは、ここで使用される第2の塑性加工型が、少なくとも3つの側面から構成される第2の側面型と、第2の下面型と、第2の側面型内を上下方向に摺動する第2の上面可動型と、第2の側面型内に配設されて該第2の側面型とともに配向磁石前駆体が収容されるキャビティを形成する第2の縦型とから構成され、第2の縦型と第2の側面型と第2の上面可動型と第2の下面型はいずれも、キャビティに対向する面が平坦面となっており、第2の上面可動型を摺動させて所定の第2の加工率になるまで配向磁石前駆体を押圧して配向磁石を製造するものである。
本発明の希土類磁石の製造方法は、据え込み加工に際して上面可動型による一度の押圧によって所望の加工率まで熱間塑性加工を実行することに代わり、所望の加工率に達する前に複数の段階に分けて熱間塑性加工を実行する、閉塞鍛造方法である。そして、最初のステップ(ステップA)において、少なくとも第1の側面型の一部と第1の上面可動型がテーパー面を備えた第1の塑性加工型を使用して成形体の少なくとも一つの側面と上面をいずれもテーパー面に成形し、所定の第1の加工率になるまで成形体を押圧して配向磁石前駆体を製造する。このことによって、塑性加工型から作用するせん断摩擦力を低減することができ、かつ第1の縦型にて成形体の側方変形を抑制することで、磁化容易方向へ歪みが導入されるように成形体の端部を変形させることができる。第1の側面型の少なくとも1つの側面と第1の上面可動型の備えたテーパー面で成形体を押圧することでせん断摩擦力が低減する結果、据え込み加工の際に成形体が流れ易くなる。そして、成形体が所定の加工率(磁気的異方性化に必要な加工率)に達する前に第1の縦型にて成形体を側面から拘束した状態で第1の上面可動型と第1の下面型で挟むようにして成形体を押圧することで、成形体の端部の配向が矯正される。
なお、第1の側面型内に第1の縦型を配設することにより、成形体が収容されるキャビティが自動的に形成されることに加えて、第1の縦型の配設位置によって、ステップAにおける加工率の調整が可能となる。
そして、次のステップBでは、テーパー面を有していない、すなわち平坦面のみを有する第2の側面型と第2の下面型と第2の上面可動型と第2の縦型とからなる別途の第2の塑性加工型を使用することにより、第2の縦型と第2の上面可動型の平坦面にて配向磁石前駆体に形成されたテーパー面のテーパー先端から順次押圧して変形させることができる。そのため、配向磁石前駆体の端部を集中的に配向させることができ、結果として、結晶組織の配向乱れが生じない、もしくは配向乱れが少ない配向磁石である希土類磁石を製造することができる。
なお、第2の側面型内に第2の縦型を配設することによっても、配向磁石前駆体が収容されるキャビティが自動的に形成されることに加えて、第2の縦型の配設位置によって、ステップBにおける加工率の調整が可能となる。
ステップAで使用される第1の塑性加工型に関し、少なくとも3つの側面から構成される第1の側面型の少なくとも1つの側面および第1の上面可動型が、それらのキャビティに対向する面、より詳細には成形体が収容されるキャビティに対向する面がテーパー面(傾斜面)であり、その他の型の面、すなわち、第1の側面型の残りの側面や第1の縦型それぞれのキャビティに対向する面が平坦面となっている。これに対し、ステップBで使用される第2の塑性加工型では、第2の側面型の全ての側面(少なくとも3つの側面)、第2の下面型、第2の上面可動型、第2の縦型それぞれのキャビティに対向する面は全て平坦面となっている。
ここで、第1の塑性加工型を構成する少なくとも3つの側面(平面視コの字状を構成する3つの側面、もしくは平面視矩形状を構成する4つの側面から)のうち、第1の縦型と対向しない1組の2つの左右の側面がテーパー面を備えている実施の形態であってもよい。
また、第1の下面型の前記キャビティに対向する面がテーパー面となっている実施の形態であってもよい。
また、第1の下面型が第1の側面型内を上下方向に摺動自在となっており、ステップAでは、第1の上面可動型が下方に摺動し、第1の下面型が上方に摺動して成形体を押圧し、第2の下面型が第2の側面型内を上下方向に摺動自在となっており、ステップBでは、第2の上面可動型が下方に摺動し、第2の下面型が上方に摺動して配向磁石前駆体を押圧する実施の形態であってもよい。
ステップAでは、所定の第1の加工率(たとえば40%程度)になるまで据え込み加工をおこなって配向磁石前駆体を製造し、ステップBでは、歪みの導入が難しい配向磁石前駆体の端部を効果的に押圧しながら、所定の第2の加工率(たとえば60%程度)になるまで据え込み加工をおこなって配向磁石を製造する。
なお、本発明者等によれば、第1の塑性加工型における第1の側面型のテーパー面の角度と第1の上面可動型のテーパー面の角度がともに12度以上の範囲にある場合に、高い製品歩留りを実現できることが特定されている。したがって、第1の塑性加工型における第1の側面型と第1の上面可動型それぞれのテーパー面の角度をともに12〜20度程度に設定するのがよい。なお、第1の下面型もテーパー面を具備する場合は、このテーパー面の角度も12〜20度程度に設定するのがよい。
ここで、本発明の製造方法が製造対象とする希土類磁石には、組織を構成する主相(結晶)の粒径が200nm以下程度のナノ結晶磁石は勿論のこと、粒径が300nm以上のもの、さらには粒径が1μm以上の焼結磁石や樹脂バインダーで結晶粒が結合されたボンド磁石などが包含される。
第1のステップでは、液体急冷にて微細な結晶粒である急冷薄帯(急冷リボン)を製作し、これを粗粉砕等して希土類磁石用の磁粉を製作し、この磁粉をたとえばダイス内に充填してパンチで加圧しながら焼結してバルク化を図ることで等方性の成形体が得られる。
この成形体は、たとえばナノ結晶組織のRE-Fe-B系の主相(RE:Nd、Prの少なくとも一種で、より具体的にはNd、Pr、Nd-Prのいずれか一種もしくは二種以上)と、該主相の周りにあるRE-X合金(X:金属元素)の粒界相からなる金属組織を有している。
以上の説明から理解できるように、本発明の希土類磁石の製造方法によれば、成形体を塑性加工型に収容して熱間塑性加工をおこなうに当たり、この熱間塑性加工を異種構造の第1、第2の塑性加工型を使用してなる2つのステップから実行し、最初のステップAにおいては、テーパー面を有する第1の塑性加工型を使用して成形体を塑性加工して配向磁石前駆体を製造し、次のステップBにおいては、キャビティに対向する面が平坦面のみからなる第2の塑性加工型を使用して配向磁石前駆体を塑性加工して配向磁石を製造するものである。この製造方法により、成形体の側方変形の際に第1の塑性加工型から受けるせん断摩擦力を低減してこれに起因した結晶組織の配向乱れを解消することができ、第2の塑性加工型では配向磁石前駆体の端部を集中的に配向させながら配向磁石である希土類磁石を製造することができる。その結果、高い配向度に起因した残留磁化の高い希土類磁石を、高い製品歩留まりの下で製造することが可能となる。
以下、図面を参照して本発明の希土類磁石の製造方法の実施の形態を説明する。なお、図示する製造方法が製造対象とする配向磁石はナノ結晶磁石(粒径が300nm程度かそれ以下)からなる場合を説明したものであるが、本発明の製造方法が対象とする配向磁石はナノ結晶磁石に限定されるものではなく、粒径が300nm以上のものや、1μm以上の焼結磁石、さらには樹脂バインダーで結晶粒がバインドされたボンド磁石などを包含するものである。また、図示する第1、第2の塑性加工型はいずれも4つの側面を有しているが、ともに3つの側面を有した平面視コの字状の形態であってもよい。
(希土類磁石の製造方法の実施の形態)
図1a、bはその順で本発明の希土類磁石の製造方法の第1のステップを説明した模式図であり、図2は第1のステップで製造された成形体のミクロ構造を説明した図である。また、図3,5はそれぞれ、第2のステップのステップAで使用する第1の塑性加工型の実施の形態1、実施の形態2を説明した模式図であり、図4,6はそれぞれ、第2のステップのステップBで使用する第2の塑性加工型の実施の形態1、実施の形態2を説明した模式図である。また、図7は第2のステップのステップAにおいて、加工前の塑性加工型と成形体を示した図であって、図7aは横断面図、図7bは縦断面図であり、図8は第2のステップのステップAにおいて、加工後の塑性加工型と配向磁石前駆体を示した図であって、図8aは横断面図であり、図8bは縦断面図である。さらに、図9は第2のステップのステップBにおいて、加工前の塑性加工型と配向磁石前駆体を示した図であって、図9aは横断面図、図9bは縦断面図であり、図10は第2のステップのステップBにおいて、加工後の塑性加工型と配向磁石を示した図であって、図10aは横断面図、図10bは縦断面図である。
図1aで示すように、たとえば50kPa以下に減圧したArガス雰囲気の不図示の炉中で、単ロールによるメルトスピニング法により、合金インゴットを高周波溶解し、希土類磁石を与える組成の溶湯を銅ロールRに噴射して急冷薄帯B(急冷リボン)を製作し、これを粗粉砕する。
粗粉砕された急冷薄帯のうち、最大寸法が200nm程度かそれ以下の寸法の急冷薄帯Bを選別し、これを図1bで示すように超硬ダイスDとこの中空内を摺動する超硬パンチPで画成されたキャビティ内に充填する。そして、超硬パンチPで加圧しながら(X方向)加圧方向に電流を流して通電加熱することにより、ナノ結晶組織のNd-Fe-B系の主相(50nm〜200nm程度の結晶粒径)と、主相の周りにあるNd-X合金(X:金属元素)の粒界相からなる柱状の成形体Sを製作する(第1のステップ)。
ここで、粒界相を構成するNd-X合金は、Ndと、Co、Fe、Ga等のうちの少なくとも1種以上の合金からなり、たとえば、Nd-Co、Nd-Fe、Nd-Ga、Nd-Co-Fe、Nd-Co-Fe-Gaのうちのいずれか一種、もしくはこれらの二種以上が混在したものであって、Ndリッチな状態となっている。
図2で示すように、成形体Sはナノ結晶粒MP(主相)間を粒界相BPが充満する等方性の結晶組織を呈している。
第1のステップで柱状の成形体Sが製造されたら、第2のステップでは、成形体Sを押圧しながら異方性を与える熱間塑性加工を施して配向磁石である希土類磁石を製造する。ここで、第2のステップで実施される熱間塑性加工は2段階の据え込み加工で実施する。以下、まず、図3を参照して最初の据え込み加工(ステップA)で使用される第1の塑性加工型10(実施の形態1)を説明し、次いで図4を参照して次の据え込み加工(ステップB)で使用される第2の塑性加工型20(実施の形態1)を説明する。また、図5,6を参照して、他の実施の形態の第1の塑性加工型10A,第2の塑性加工型20Aを説明する。そして、実施の形態1にかかる第1の塑性加工型10、第2の塑性加工型20を使用してなる各ステップA,Bにおける塑性加工の具体的内容について説明する。
まず、図3を参照して第2のステップのステップAで使用する第1の塑性加工型10の構成を説明する。図示する塑性加工型10は、4つの側面から構成され、そのうちの1つの側面1’がテーパー面1aを備えた側面である第1の側面型1と、第1の側面型1に固定された第1の下面型2と、第1の側面型1内を上下方向(Y方向)に摺動する第1の上面可動型3と、第1の側面型1内に配設されて成形体Sが収容されるキャビティCaを形成する第1の縦型4とから構成されている。なお、図示例では、第1の上面可動型3を摺動するモータやピストン機構などのアクチュエータの図示を省略している。
第1の上面可動型3と第1の側面型1の1つの側面1’においてはいずれも、キャビティCaに対向する面がテーパー面3a,1aとなっており、第1の縦型4と第1の側面型1の残りの3つの側面と第1の下面型2はいずれも、キャビティCaに対向する面が平坦面となっている。
第1の上面可動型3のテーパー面3aの角度θ1と、第1の側面型1の1つの側面1’のテーパー面1aの角度θ2は、後述する検証結果より、12度以上の範囲が高い製品歩留りを実現できる観点から好ましいことが特定されている。
第1の側面型1内における第1の縦型4の配設位置を調整することにより、ステップAで第1の上面可動型3を摺動させて成形体を加圧した際の加工率を調整することができる。なお、「加工率」とは、高さh1のワークを高さ方向で潰して高さh2のワークを成形した際に、(1−h2/h1)×100(%)で表すことができる。
次に、図4を参照して第2のステップのステップBで使用する第2の塑性加工型20の構成を説明する。図示する塑性加工型20は、4つの側面から構成された第2の側面型1Aと、第2の側面型1Aに固定された第2の下面型2Aと、第2の側面型1A内を上下方向に摺動する第2の上面可動型3Aと、第2の側面型1A内に配設されて配向磁石前駆体が収容されるキャビティCaを形成する第2の縦型4Aとから構成されている。なお、図示する第2の塑性加工型20においても、第2の上面可動型3Aを摺動するアクチュエータの図示を省略している。
第2の縦型4Aと第2の側面型1Aと第2の上面可動型3Aと第2の下面型2Aはいずれも、キャビティCaに対向する面が平坦面となっている。
次に、図5を参照して、第2のステップのステップAで使用する他の実施の形態の第1の塑性加工型10Aの構成を説明する。図示する塑性加工型10Aは、4つの側面のうち、第1の縦型4Bと対向しない左右2つの側面1’がテーパー面1aを備えた側面である第1の側面型1Bと、第1の側面型1B内を上下方向(Y方向)に摺動するとともに、キャビティCaに対向する面がテーパー面3aである第1の上面可動型3Bと、第1の側面型1B内を上下方向に摺動する(Y方向)とともに、キャビティCaに対向する面がテーパー面2aである第1の下型面2Bと、第1の側面型1B内に配設されて成形体Sが収容されるキャビティCaを形成する第1の縦型4Bとから構成されている。ここで、第1の下型面2Bのテーパー面2aの角度θ1も12度以上の範囲が好ましい。なお、図示例では、第1の上面可動型3B、第1の下面型2Bを摺動するモータやピストン機構などのアクチュエータの図示を省略している。
第1の塑性加工型10Aを使用する場合は、第1の上面可動型3Bを下方に、第1の下面型2Bを上方にそれぞれ摺動させて成形体の押圧を上下から実行する。
次に、図6を参照して、第2のステップのステップBで使用する他の実施の形態の第2の塑性加工型20Aの構成を説明する。図示する塑性加工型20Aは、4つの側面から構成された第2の側面型1Aと、第2の側面型1A内を上下方向(Y方向)に摺動する第2の下面型2Cと、第2の側面型1A内を上下方向に摺動する第2の上面可動型3Aと、第2の側面型1A内に配設されて配向磁石前駆体が収容されるキャビティCaを形成する第2の縦型4Aとから構成されている。なお、図示する第2の塑性加工型20Aにおいても、第2の上面可動型3A、第2の下面型2Cをそれぞれ摺動するアクチュエータの図示を省略している。
第2の塑性加工型20Aを使用する場合は、第2の上面可動型3Aを下方に、第2の下面型2Cを上方にそれぞれ摺動させて配向磁石前駆体の押圧を上下から実行する。
次に、図7〜10を参照して、第2のステップにおけるステップA,ステップBによる成形体から配向磁石を成形するまでの製造内容を説明する。なお、ここでは、図3,4で示す第1の塑性加工型10、第2の塑性加工型20を使用することとする。
図7a,bで示すように、ステップAにおいて、まず第1の塑性加工型10のキャビティCa内に成形体Sを収容する。この初期段階では、成形体Sは2つのテーパー面1a,3aをはじめとして、他の平坦面から何らの拘束も受けない無拘束状態である。
次に、図8a,bで示すように、第1の縦型4の位置を固定した状態で、第1の上面可動型3を下方に摺動することにより(Y1方向)、成形体Sは塑性流動して変形しながらも、第1の縦型4によって側方への変形が抑制された状態で加圧され、上面と1つの側面にテーパー面を備えた配向磁石前駆体S’が成形される。
このステップAでは、第1の側面型1の一部と第1の上面可動型3がテーパー面1a,3aを備えた第1の塑性加工型10を使用することで、成形体Sの一つの側面と上面にテーパー面を成形し、所定の第1の加工率(たとえば60%程度)になるまで押圧して配向磁石前駆体S’が製造される。このことによって、塑性加工型10から作用するせん断摩擦力を低減することができ、かつ第1の縦型4にて成形体Sの側方変形を抑制することで、磁化容易方向へ歪みが導入されるように成形体Sの端部を変形させることができる。第1の側面型1の1つの側面1’と第1の上面可動型3の備えたテーパー面1a,3aで成形体を押圧することによってせん断摩擦力が低減し、結果として、据え込み加工の際に成形体Sが流れ易くなる。そして、成形体Sが所定の加工率(磁気的異方性化に必要な加工率)に達する前に第1の縦型4にて成形体を側面から拘束した状態で第1の上面可動型3と第1の下面型2で挟むようにして成形体Sを押圧することで、成形体の端部の配向が矯正されて配向磁石前駆体S’が製造される。
次に、図9a、bで示すように、ステップBにおいて、第2の塑性加工型20のキャビティCa内に配向磁石前駆体S’を収容する。この初期段階においても、配向磁石前駆体S’はいずれの型の平坦面から何らの拘束も受けない無拘束状態である。
次に、図10a,bで示すように、第2の縦型4Aの位置を固定した状態で、第2の上面可動型3Aを下方に摺動することにより(Y1方向)、配向磁石前駆体S’は塑性流動して変形しながらも、第2の縦型4Aによって側方への変形が抑制された状態で加圧され、全ての面が平坦面からなる立方体形状の配向磁石Cが成形される。
このステップBでは、キャビティCaに対向する面が平坦面のみを有する第2の塑性加工型20を使用することで、第2の縦型4Aと第2の上面可動型3Aの平坦面にて配向磁石前駆体S’に形成されたテーパー面のテーパー先端から順次押圧して変形させることができる。その結果、配向磁石前駆体S’の端部を集中的に配向させることができ、結晶組織の配向乱れが生じない、もしくは配向乱れが少ない配向磁石Cである希土類磁石を製造することができる。
ステップA,Bの2段階の熱間塑性加工によって製造された配向磁石Cは、図11で示すようにナノ結晶粒MPが扁平形状をなし、異方軸とほぼ平行な界面は湾曲したり屈曲していて、磁気的異方性に優れた配向磁石Cとなっている。
なお、第2のステップにて製造された配向磁石に対し、Nd-Cu合金、Nd-Al合金、Pr-Cu合金、Pr-Al合金等の改質合金を粒界拡散し、保磁力が一層高められた希土類磁石としてもよい。Nd-Cu合金の共晶点は520℃程度、Pr-Cu合金の共晶点は480℃程度、Nd-Al合金の共晶点は640℃程度、Pr-Al合金の共晶点は650℃程度であり、いずれもナノ結晶磁石を構成する結晶粒の粗大化を齎す700℃〜1000℃を大きく下回っていることから、希土類磁石がナノ結晶磁石の場合に特に好適である。
[側面型の一つの側面と上面可動型のテーパー角度と製品歩留りに関する実験とその結果]
本発明者等は、側面型の1つの側面と上面可動型のテーパー角度と製品歩留りに関する実験をおこなった。この実験では、第2のステップのステップAの加工率を40%、ステップBの加工率を80%としたケースと、ステップAの加工率を60%、ステップBの加工率を80%としたケースの2ケースにおいて、それぞれのテーパー面の角度θ1及びθ2をともに、3度、6度、9度、12度、15度、20度で変化させた際の製品歩留りを検証したものである。なお、この製品歩留りとは、最終的に得られる配向磁石において、75%以上の加工歪みが配向磁石全体のどの程度の割合で入っているかを示したものである。実験結果を図12に示す。
同図より、2つのケースともに、テーパー面の角度が12度で変曲点を迎え、それ以上で93%〜95%の高い歩留りでサチュレートしていることが分かる。この実験の結果、側面型の側面と上面可動型のテーパー角度は、12度以上の範囲に規定することとした。なお、以上の解析結果は、上下・左右・前後が対称でも同じなので、1/8対称モデルで解析している。
[据え込み加工後の歪み分布を検証した解析とその結果]
本発明者等は、2段階の据え込み加工にて成形体を加工率80%にて配向磁石を製造するに当たり、テーパー面を具備しない2種類の塑性加工型を使用した場合(比較例)と、図3〜8で説明した最初のステップAにおいてテーパー面を具備する塑性加工型を使用した場合(実施例)とで、加工率40%のステップAと次の加工率60%のステップBにおける歪み分布を検証した。図13は、上段が比較例のステップA,ステップBの場合の歪み分布を示しており、下段が実施例(テーパー面の角度が15度)のステップA,ステップBの場合の歪み分布を示している。また、図14は比較例における磁粉の状態を観察した写真図と結晶粒の状態を模擬した図であり、図15は実施例のステップA,ステップBにおける結晶粒の状態を模擬した図である。
図13より、比較例では、塑性加工型から受けるせん断摩擦力によって、塑性加工時の材料流れの向きが変わり、成形体の端部に容易磁化方向の歪みが入らず、結果として製品歩留りが低下する。
これに対し、実施例では、ステップAにおいてテーパー面を有する側面型と上面可動型にて成形体を加工することから、材料が流れ易くなる。さらに、ステップAで成形された配向磁石前駆体にテーパー面が形成されることで、次のステップBにおける加工の際に、歪みの入り難い配向磁石前駆体の端部をテーパー先端から逐次加工することにより、せん断摩擦の影響を可及的に少なくしながら、磁化容易方向へ歪みを導入することができる。そのため、製造された配向磁石の製品歩留りを向上させることができる。
一方、図14には、比較例の配向磁石の端部の結晶粒の状態と、実際にこの方法で製造された比較例の配向磁石の端部の磁粉を撮像した写真図を示している。同図より、配向磁石の端部の磁粉の向きはせん断摩擦力の影響を大きく受けており、配向度が低くなっていることが分かる。
これに対して、図15には、実施例のステップA,Bにて製造される配向磁石前駆体、配向磁石それぞれの結晶粒の状態を示している。
同図より、ステップAではテーパー面によって成形体に作用するせん断摩擦力が低減する結果、製造される配向磁石前駆体の端部の配向乱れが緩和されている。これに加えて、次のステップBでは、上面可動型の平坦面で配向磁石前駆体のテーパー面の頂部から徐々に加圧することから、上面可動型と配向磁石前駆体との接触面積が低減し、このことによってもせん断摩擦力が低減される。これらの結果、ステップA,ステップBを通して成形体や配向磁石前駆体が塑性加工型から受けるせん断摩擦力が大きく低減され、図示するように端部の配向度が高い配向磁石が製造される。
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。たとえば、図3では、下面型がテーパー面を具備していないが、図3を上下対称とすることで、下面型もテーパー面を具備する図5のような形態であってもよい。同様に、図示していないが、図3を左右に対称として、第1の縦型が左右にある形態であってもよい。さらに、図3,4の形態を図面の紙面上前後に対称としてもよい。すなわち、図3,4のような形態を単独で使用してもよいし、これを上下、左右、あるいは前後対称にすれば、図3,4の形態は1/2対称モデルを示すものとなり、さらに、対称面を複数組み合わせれば、図3,4の形態は1/4対称モデル、1/8対称モデルの位置付けとなる。