以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るマイクロ波装置の第1実施形態の概略構成図を示す。
図1において、このマイクロ波装置100は、マイクロ波発生器10と、導波管20と、空胴共振器30と、制御機器40と、アンテナ50と、流通管60(図2参照)とを備え、マイクロ波発生器10を同軸ケーブル等を介して導波管20に接続し、この導波管20及びアンテナ50を空胴共振器30に組み付け、制御器40で制御するように構成されている。
上記マイクロ波発生器10は、マイクロ波を発生するものであり、例えば、可変周波数発振器11と可変増幅器12とを備えて構成される。可変周波数発振器11は、マイクロ波を出力するものであり、例えば、固体素子を用いて、ISM周波数帯である2.4GHz〜2.5GHzの範囲内の所定の周波数で出力する。可変増幅器12は、マイクロ波のパワーを可変増幅するものである。可変周波数発振器11の周波数と可変増幅器12のパワーは、制御器40によって制御される。
上記導波管20は、マイクロ波発生器10から出力されたマイクロ波を導波させて空胴共振器30へ導入するものである。具体的には、マイクロ波発生器10からのマイクロ波は、同軸ケーブルでつながったアイソレータ13、方向性結合器14を介して同軸導波管変換器21に送られる。そして、同軸導波管変換器21を経て導波管20により導波されたマイクロ波は、後述するアイリス31を通って、空胴共振器30内へ導入される。
上記空胴共振器30は、マイクロ波発生器10からのマイクロ波を導入して共振させる空胴としての照射室32を有し、マイクロ波の共振により照射室32内にシングルモードの電界を発生させるものである。具体的には、空胴共振器30は、図2(A)〜図2(C)に示すように、上壁33、底壁34及び側壁35,36,37,38を含んで構成される。この上壁33及び底壁34は互いに対向しそれぞれ正方形である。側壁35,36,37,38はそれぞれ長方形であり、その短辺側が上壁33及び底壁34の各辺にボルト等(図示省略)で固定される。このようにして上壁33、底壁34及び側壁35,36,37,38を組み立てて形成された筐体内に四角柱状(正四角柱状)の空胴の照射室32が形成される。本実施形態の場合、導波管20側の側壁35は、図2(B)及び図2(C)に示すように、導波管20を接続するために、導波管20のフランジ22に対応させて面積が広げられている。
上記アイリス31は、照射室32にマイクロ波を導入する結合スリットであり、図2(B)に示すように、照射室側面を形成する側壁35の中央部位に、矩形開口として開けられる。この矩形開口は、長方形で、その長軸が、照射室32の上面及び底面の中心どうし、すなわち上壁33及び底壁34の中心どうしを結んだ中心軸Cと平行に伸延する。
上記四角柱状空胴の照射室32にアイリス31を介して導入されたマイクロ波は、共振時、中心軸Cと平行な方向にシングルモードの電界を発生する。厳密に言えば、空胴共振器30内に何も入っていなければ、TM110モードの電磁界が励起される。したがって、おおよそTM110モードの電磁界分布に従った分布の電磁界が照射室32に発生することになる。例えば、加熱等において一般的に用いられる周波数2.45GHzのマイクロ波の場合において、照射室32内に何も無いときにシングルモードの電界を発生させるには、側壁35と側壁37との間の距離L、側壁36と側壁38との間の距離L(図2(C)参照)は、それぞれ、86.5mmで設計する。しかし実際には、照射室32内には誘電体となる液体が存在するので、その影響を受けて照射室32の共振周波数は下がる。そこで、側壁間の上記距離Lは、空のときの寸法(本例では86.5m)より小さく設計し、照射室32内に液体が有って共振周波数が下がったときに共振できる値とするのがよい。なお、Lの誤差は±数%程度許容される。また、照射室32において上壁33と底壁34との間の距離H(図2(A)参照)、つまり四角柱の高さは、適宜、必要な長さで設計すればよい。
アイリス31は、照射室32に励起される電磁界を、予定したシングルモード(TM110)のみとすることに関与する。図2(B)に示すアイリス31においては、その長辺(側縁)においてマイクロ波による電流が中心軸Cと平行な方向に流れ、この電流に起因して、中心軸Cを囲繞する磁界と中心軸Cに平行な電界が発生する。アイリス31の幅(中心軸Cと直交する方向)は、シミュレーション及び実験により最適値を求めることができる。空胴共振器30はTEモードを発生する可能性があるが、TEモードが発生すると想定外の現象が起き得るので、TEモードは極力抑制する必要がある。図2の導波管20及びアイリス31の関係においては、中心軸Cに関し構造的対称性が保たれる限り、図中の横方向の電界が存在しないので、TEモードを抑制することが可能である。
また、上壁33及び底壁34の中央部位には、照射室32内に導入されたマイクロ波を外部へ逃がすことなく流通管60の両端を支持する筒状部材39,39’がそれぞれ配置されている。例えば、図3に示すように、上壁33側の筒状部材39は、円筒部39aとフランジ部39bとを含んで構成され、底壁34側の筒状部材39’は、円筒部39a’とフランジ部39b’とを含んで構成される。各円筒部39a,39a’は、例えば、高さが50mm程度、筒内径が22mm程度(流通管60のサイズに応じて適宜設計)で形成され、その一端側にフランジ部39b,39b’が周設されており、上壁33及び底壁34の外面に設けられた凹部にフランジ部39b,39b’が受容され、六角穴付ボルト等により締め付け固定される。各円筒部39a,39a’の他端側は、流通管60の端部側にそれぞれ取り付けられた蓋部材60a,60a’により閉塞される。この蓋部材60a,60a’は、流通管60に固定されており、流通管60と一緒に円筒部空洞共振器30から取り外せるように構成されている。筒状部材39,39’の筒内部39c,39c’は、上壁33、底壁34の上記凹部の中央に設けられた貫通孔を介して照射室32と連通する。筒状部材39,39’は、その中心軸が照射室32の中心軸Cとほぼ一致するように位置決めされる。蓋部材60a,60a’はその中央に流通管60の外径に相応する直径の貫通孔が開けられており、この貫通孔に流通管60の端部を嵌挿して外側へそれぞれ突出させている。筒状部材39,39’は、照射室32の中心軸Cと、下流側蛇管62の螺旋中心及び流通管60の後述する直管部61の軸線C’とがほぼ一致するように、蓋部材60a,60a’を介して、流通管60を位置決めして、流通管60の両端を支持すると共に、照射室32から外部へのマイクロ波漏洩を防止する。
図1に戻って、上記制御器40は、マイクロ波発生器10を制御するものである。例えば、制御部40には、中心軸方向へ離間設置された2本のアンテナ50(例えばループ形のアンテナ)により検知された電界又は磁界の強度の検知結果が入力されると共に、液体の温度の計測結果が入力され、これらの入力にしたがってマイクロ波発生器10を制御する。2つのアンテナ出力の一方は観測用に、他方は制御用に利用される。例えば、空胴共振器30の下側のアンテナが制御用に、上側のアンテナが観測用に利用される。なお、アンテナ50は、少なくとも制御用のものがあればよい。
より具体的には、制御器40は、マイクロ波照射開始の操作が行われると、マイクロ波発生器10によりマイクロ波出力を開始させ、周波数制御過程を実行する。周波数制御過程は、例えば、下側のアンテナ50による検知結果に従って、マイクロ波発生器10から出力されるマイクロ波の周波数を、照射室32の共振周波数に同調させる制御過程である。制御器40は、可変周波数発振器11の周波数を掃引しつつアンテナ50による検出結果から同調周波数を判断する。このとき、制御部40は、アンテナ50による検出に支障ない範囲で最低限の微弱パワーで増幅するように可変増幅器12に指令するとよい。照射室32へ導入するマイクロ波の出力パワーを弱くすることで、周波数制御過程の実行中に液体へ与え得る影響を抑制することができる。制御器40は、周波数制御過程による同調に続いて、マイクロ波のパワーを制御するパワー制御過程を実行する。パワー制御過程は、マイクロ波照射開始前にオペレーターにより液体の種類や後述する反応開始温度等に基づいて設定された条件に従ってマイクロ波発生器10の可変増幅器12を制御し、マイクロ波のパワーを制御する過程である。パワー制御過程において制御器40は、アンテナ50による検知結果(又は被処理物の温度計測結果)にしたがって、マイクロ波発生器10から出力されるマイクロ波のパワーを調整する。アンテナ50の検知結果及び温度計測結果の両方を使用して、パワー制御過程におけるパワー調整の正確性を向上させてもよい。
制御器40は、例えば、マイクロ波の照射開始にあたって最初に周波数制御過程を実行した後、パワー制御過程を実行し、このパワー制御過程実行中に一定の間隔で周波数制御過程を割り込ませて実行する。そして、その周波数制御過程において制御器40は、可変増幅器12を制御して上述の微弱パワーでマイクロ波を出力させつつ、可変周波数発振器11を制御して周波数の同調を図る。
次に、空胴共振器30の照射室32内に配置される流通管60について、図3を参照して詳述する。
まず、流通管60の基本構成について説明する。流通管60は、加熱処理対象の液体を流通させるものであり、液体の温度を第1温度まで上昇させるための加熱用管部と、この加熱用管部の下流側に設けられ、加熱用管部を流通した液体の温度を、第1温度から当該第1温度より高い第2温度の範囲内に維持するための温度維持用管部とを含んで構成されている。この第1温度とは、生成対象の物質を得るための化学反応の開始温度(以下、「反応開始温度」という)であり、第2温度とは、有害な副反応が生じるおそれのない温度、つまり、生成対象とは別の物質が生成されるおそれがない上限の温度である。
具体的には、マイクロ波の共振により空胴共振器30(照射室32)内に発生するシングルモードの電界の方向と加熱用管部における液体の流動方向F1とのなす角度は、電界の方向と温度維持用管部における液体の流動方向F2とのなす角度より小さくなるように構成されている。前述したように、電界は照射室32の中心軸Cと略平行な方向に発生しているため、電界の方向と流動方向(F1,F2)とのなす角度は、中心軸Cと流動方向(F1,F2)とのなす角度θで表せる。この角度θは、厳密にいうと、中心軸Cと流動方向(F1,F2)とのなす小さい方の角度(つまり劣角)である。より具体的には、本実施形態においては、流通管60は、例えば石英ガラス製で形成され、加熱用管部としての直管部61と、温度維持用管部としての下流側蛇管部62とを含んで構成される。
上記直管部61は、下流側蛇管部62の上流側に配設され電界の方向(つまり中心軸C)と略平行な方向に伸延する直管であり、一端側が筒状部材39’に蓋部材60a’を介して支持され、他端側が下流側蛇管部62に接続する。この直管部61における流れ方向F1と、中心軸Cは略平行であるため、上記角度は略ゼロである。したがって、直管部61における上記角度は、下流側蛇管部62における流れ方向F2と中心軸Cとのなす角度θ(劣角)より小さい。このように、本実施形態における流通管60は、加熱用管部を直管とし、温度維持用管部を蛇管とすることにより、電界の方向と加熱用管部における液体の流動方向F1とのなす角度を、電界の方向と温度維持用管部における液体の流動方向F2とのなす角度より小さくなるように構成している。
また、本実施形態の場合、直管部61は、前述したように筒状部材39’及び蓋部材60a’を利用して、直管の軸線C’を中心軸Cとほぼ一致するように位置決めされる。直管部61の内径は、例えば、3mm〜5mm程度である。この直管部61の内径及び直管部61の照射室32内でマイクロ波が照射される部分の長さは、液体の種類、照射室32の大きさ、反応開始温度及び液体の流速等に応じて適宜設計される。
上記下流側蛇管部62は、直管部61の下流側に配設され、直管部61から螺旋状に伸延する蛇管からなるものであり、例えば、その螺旋中心を直管部61の軸線C’と一致させこの軸線C’回りに螺旋状に巻回されている。この下流側蛇管部62は、一端側が直管部61に接続され、他端側が筒状部材39に蓋部材60aを介して支持される直管と接続する。この下流側蛇管部62における上記角度θは、直管部61における角度より大きい。なお、螺旋中心と軸線C’とは必ずしも一致させなくてもよい。この変形例については、後述の図9において詳述する。
また、本実施形態の場合、下流側蛇管部62は、前述したように筒状部材39を利用して、螺旋中心(軸線C’)を中心軸Cとほぼ一致するように位置決めされる。下流側蛇管部62の他端側(筒状部材39側)は、例えば、図3に示すように、流通管60を照射室32に設置したときに、当該他端側の端部(巻終わり部)が筒状部材39の筒内部39cに位置するように配置される。下流側蛇管部62の内径は、例えば、3mm〜5mm程度であり、直管部61の内径と合わせてもよいし異ならせてもよい。流通管60の製造コストを考慮すると、直管部61と下流側蛇管部62の内径及び外径は合わせた方がよい。下流側蛇管部62の巻外径Dは、例えば、φ20mm程度である。下流側蛇管部62の螺旋の巻ピッチは下流側蛇管部62の上記角度θと巻外径Dにより定まり、本実施形態においては、一定の巻ピッチで巻回されている。例えば、下流側蛇管部62の電界方向(中心軸C)の長さ(つまり、全長)及び巻外径Dが同じ場合、角度θを大きくすると、全体の巻き数が増えて液体の流動長が長くなるため、液体の照射室32内での滞留時間が増え、反対に角度θを小さくすると、全体の巻き数が減って流動長が短くなるため、滞留時間が減る。また、これら下流側蛇管部62の内径、巻外径、角度θ及び全長は、液体の種類、照射室32の大きさ、反応開始温度及び液体の流速等に応じて適宜設計される。
ここで、図4を参照して、液体の流動方向と電界の方向との関係について説明する。
図4(A)は、直管部61内を流れる液体の流動方向F1が電界の方向(中心軸C)と略平行であることを表し、図4(B)は、下流側蛇管部62内を流れる液体の流動方向F2が中心軸Cを横切ることを表している。流通管60を流れる液体は、誘電体と見なせるので、図4(A)の場合は誘電体境界が電界と平行であり、図4(B)の場合は誘電体境界が電界を横切ることになる。したがって、電界と誘電体境界が平行な場合、誘電体の内外で電界の強さが同じになる。そして、誘電体境界の方向が、電界の方向に対して、平行な状態(図4(A))から直交する状態に変化するにつれて、誘電体の中の電界の強さは弱まる。したがって、流動方向と電界の方向とのなす角度(劣角)θが大きいほど誘電体内の電界の強度は弱まる。言い換えると、電界の方向と直交する方向に対する蛇管の螺旋の傾斜角が小さいほど誘電体内の電界の強度は弱まる。
また、誘電体が吸収するマイクロ波電力(単位時間当りのエネルギー)は次式で与えられる。
PL=(1/2)・∫Vωε0εr″E2dv
式中、ωは角周波数、ε0は真空の誘電率で8.854×10−12(Coulomb/m)である。比誘電率(複素数)εrは、εr=εr′−jεr″で定義される。
図4(B)において、説明を簡略化するため、液体を水とし、角度θを90°とした場合、水のεr′は80(常温)、εr″は10程度であるから、図4(A)の場合に比べて電界が1/80(1/εr′)になる。
すなわち、流通管60に液体を流したとすると、中心軸Cに沿って液体が流れる図4(A)の場合は、液体へのマイクロ波の吸収が非常に多いが、中心軸Cを螺旋状に取り巻いて液体が流れる図4(B)の場合は、液体へのマイクロ波の吸収は大幅に減少する。つまり、角度θが90°から0°に近づくにつれ、液体へのマイクロ波の吸収は多くなるという特性がある。また、角度θが90°から0°に近づくにつれ、空胴共振器30の共振周波数を低下させる作用が強まる。
次に、本実施形態のマイクロ波装置100の動作について概略説明する。なお、説明の簡略化のため、制御部40による周波数制御及びパワー制御は完了しているものとし、照射室32内にはマイクロ波が導入されて電界が中心軸Cと略平行な方向に発生しているものとして説明する。
流通管60に液体が所定の流速で流入され始めると、直管部61により液体を中心軸Cに沿って下流側蛇管部62側へ流動させる。このとき、電界は液体の流動方向と略平行であるため、直管部61内の液体にはマイクロ波が十分に吸収される。これにより、液体を所定の昇温速度で加熱させ、液体の温度が直管部61における下流側端部近辺で反応開始温度(第1温度)に達するように昇温させる。反応開始温度まで昇温された液体は、続いて下流側蛇管部62内を流動する。このとき、電界は下流側蛇管部62を横切るため、電界の方向と流動方向とのなす角度θに応じて液体内の電界の強度は弱まり、液体へのマイクロ波の吸収は直管部61における吸収よりも減少する。そして、下流側蛇管部62を流動中、液体の温度は、下流側蛇管部62内を流動する液体におけるマイクロ波からの吸熱と、液体から下流側蛇管部62及び空胴共振器30への熱伝導による放熱とのバランス等により、第1温度以上第2温度以下の温度範囲内に所定の時間の間、維持される。これにより、目的とする化学反応処理を行い生成対象の物質を流通管60から流出させる。なお、上記所定の時間は、生成対象の物質に応じて適宜定められる。
かかる構成のマイクロ波装置100によれば、マイクロ波を共振させる空胴共振器30内に配設する流通管60は、液体の温度を第1温度まで上昇させるための加熱用管部と、当該加熱用管部を流通した液体の温度を、第1温度から当該第1温度より高い第2温度の範囲内に維持するための温度維持用管部とを含む構成としたので、加熱用(昇温用)の流通管構造と温度維持用の流通管構造を別々に構築することができる。例えば、温度維持用管部の構造は従来と同じ蛇管構造の下流側蛇管部62とし、加熱用管部の構造は従来よりも急速な加熱が可能である直管構造の直管部61とすることで、流速が増大しても反応開始温度に到達する箇所が流通管の出口側に移動することを抑制することができる。これにより、単位時間当たりの処理量を上げても、液体の温度を所定の温度範囲で維持する時間が短くなることを抑制することができ、十分な収率を得ることができる。
また、本実施形態において、流通管60は、蛇管の一端側の直管を他端側の直管より長く形成するだけでよいため、加熱用管部と温度維持用管部とを組み合わせた流通管60を容易に形成することができる。そして、本実施形態において、照射室32の中心軸Cは、電界の方向に一致し且つ電界が最も強い所であるから、この中心軸Cに直管部61の軸線C’をほぼ一致させて、直管部61を設置することで、直管部61において最も効率良く液体を昇温させることができる。なお、必要な電界の強度が得られる場合は、軸線C’は必ずしも中心軸Cに一致させなくてもよい。また、本実施形態において、下流側蛇管部62は、一定の巻ピッチで巻回される例を示したが、これに限らず、例えば、下流側に向かうにつれて巻ピッチが小さくなるように形成してもよい。つまり、この場合、電界の方向と温度維持用管部における液体の流動方向F2とのなす角度θは、液体流動の下流側に向かうにつれて大きくなるように設定される。この変形例においては、下流側蛇管部62において、液体へのマイクロ波の吸収量を下流側に向かうにつれて減少させることができる。
図5は、本発明の第2実施形態に係るマイクロ波装置100の空胴共振器30断面図を示す。なお、第1実施形態と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
本実施形態において、流通管60の加熱用管部及び温度維持用管部は、それぞれ蛇管からなる。具体的には、加熱用管部は、図5に示すように、その螺旋中心を中心軸Cと一致させこの中心軸C回りに螺旋状に巻回される上流側蛇管部61’からなる。温度維持用管部は、上流側蛇管部61’の下流側に配設され、その螺旋中心を上流側蛇管部61’の螺旋中心(つまり中心軸C)と一致させこの中心軸C回りに螺旋状に巻回される下流側蛇管部62’からなる。流通管60は、例えば、第1実施形態の下流側蛇管部62を上記下流側蛇管部62’として利用し、第1実施形態の直管部61に替って上流側蛇管部61’を下流側蛇管部62’(62)に接続して構成される。なお、上流側蛇管部の螺旋中心と下流側蛇管部の螺旋中心とは必ずしも一致させなくてもよい。
上流側蛇管部61’は、電界の方向と直交する方向に対する螺旋の傾斜角が下流側蛇管部62’における傾斜角より大きくなるように形成されている。このように、本実施形態における流通管60は、各蛇管61’,62’の螺旋の傾斜角を上流側と下流側とで異ならせ、上流側は粗い所定の巻ピッチの蛇管(上流側蛇管部61’)とし、下流側は細かい所定の巻ピッチの蛇管(下流側蛇管部62’)とすることにより、電界の方向と加熱用管部における液体の流動方向F1’とのなす角度θ1を、電界の方向と温度維持用管部における液体の流動方向F2とのなす角度θ2より小さくなるように構成している。
上流側蛇管部61’の内径は、例えば、3mm〜5mm程度であり、下流側蛇管部62’(下流側蛇管部62)の内径と合わせてもよいし異ならせてもよい。流通管60の製造コストを考慮すると、上流側蛇管部61’と下流側蛇管部62’の内径及び外径は合わせた方がよい。また、上流側蛇管部61’の巻外径は、例えば、下流側蛇管部62’(下流側蛇管部62)の巻外径Dと合わせて、φ20mm程度である。なお、上流側蛇管部61’及び下流側蛇管部62’の内径、巻外径、角度及び全長(電界方向の長さ)は、それぞれ液体の種類、照射室32の大きさ、反応開始温度及び液体の流速等に応じて適宜設計される。
かかる構成のマイクロ波装置100によれば、第1実施形態と同様に、単位時間当たりの処理量を上げても、液体の温度を所定の温度範囲で維持する時間が短くなることを抑制することができ、十分な収率を得ることができる。
なお、第2実施形態において、上流側蛇管部61’及び下流側蛇管部62’は、図5に示したようにそれぞれ一定の巻ピッチで巻回される場合で説明したが、これに限らず、各蛇管部61’,62’を、下流側に向かうにつれて巻ピッチが小さくなるようにそれぞれ形成してもよい。また、各蛇管部61’,62’の一方の巻ピッチは一定にして、他方の巻ピッチは流出側に向かうにつれて小さくなるようにしてもよい。つまり、加熱用管部及び温度維持用管部の少なくとも一方の前記角度(θ1、θ2)は、下流側に向かうにつれて大きくなるように設定されるようにしてもよい。この変形例の場合、上流側蛇管部61’と下流側蛇管部62’の境界部(接続部分)におけるそれぞれの巻ピッチは、図5のように異ならせてもよいし、一致するようにしてもよい。
図6は、本発明の第3実施形態に係るマイクロ波装置100の空胴共振器30断面図を示す。なお、第1実施形態と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
本実施形態において、流通管60の加熱用管部は、電界の方向(中心軸C)と略平行な方向に伸延する第1直管63からなる。そして、流通管60の温度維持用管部は、第1直管63から伸延し当該第1直管63の径より大きな径の直管であり、その内部に液体の流れを乱す阻害物64aを収容した第2直管64からなる。
具体的には、流通管60は、第1実施形態の直管部61を上記第1直管63として利用し、第1実施形態の下流側蛇管部62に替って第2直管64を第1直管63(直管部61)に接続して構成される。
ここで、第2直管部64の断面積が第1直管部63の断面積より小さいと、第2直管64内の液体の流速が第1直管63内の流速より高くなってしまう。その結果、温度維持用管部としての第2直管64内での滞留時間が短くなってしまう。したがって、第2直管64の内径は、内部に阻害物64aを収容したときに流体が流通可能な有効断面積が、第1直管部63の断面積と略一致、又は、第1直管部63の断面積より大きくなるように設定する。第2直管64は、例えば、第1直管63(直管部61)の軸線C’及び中心軸Cと一致させて伸延し、一端側が第1直管63と接続され、他端側は開口して形成されている。上記阻害物64aは、上記他端側の開口から投入される。阻害物64aが投入された後、第2直管部64の他端側の開口は比誘電率の低い蓋材64bにより閉塞される。上壁33側の筒状部材39に蓋部材60aを介して支持される直管64cは、蓋部材60aの中央部に形成された貫通孔に嵌挿される。
上記阻害物64aは、例えば、同一材料の多数の粒体(球体として示したが、球体以外もあり得る)であり、この粒体により流通管60内に流れる液体の流れが乱される。この粒体は、第1直管63及び上壁33側の筒状部材39に蓋部材60aを介して支持される直管64cの内径より大きなサイズで形成されているため、第2直管64内に収容支持される。
また、阻害物64aは、流通させる液体より低い比誘電率を有する材料から形成され、マイクロ波吸収の少ない(又は吸収の無い)材料、例えば、アルミナ(酸化アルミニウム)、フッ素樹脂、石英やホウケイ酸ガラスから形成されている。なお、阻害物64aには化学反応のための触媒を担持させてもよい。
第2直管64内に何も無ければ、この第2直管64内を流通する液体の流れは層流となるが、この阻害物64aが存在することにより、第2直管64内に乱流が生じる。これにより、液体の撹拌作用が生じ、液体の化学反応が促進される。さらに、阻害物64aの比誘電率は、液体の比誘電率と異ならせているため、第2直管64内の電界分布が一様ではなくなると共に、電界の強さが平均的に減少する。液体へのマイクロ波の吸収は電界の強さの2乗に比例するため、第2直管64内のマイクロ波の吸収は、第1直管63内のマイクロ波の吸収に比べて小さくなる。一方、第1直管63内には阻害物が収容されていないため、電界の分布が乱されることなくかつ、電界の方向と平行に伸延しているため、マイクロ波の吸収は大きい。
かかる構成のマイクロ波装置100によれば、加熱用管部は、電界の方向と略平行な方向に伸延する第1直管63(直管部61)からなり、温度維持用管部は、第1直管63から伸延し第1直管63の径より大きな径の直管であり、その内部に液体より低い比誘電率を有して液体の流れを乱す阻害物64aを収容した第2直管64からなる、という構成としたので、阻害物64aにより第2直管64内の電界の強さを、第1直管63内の電界の強さより小さくすることができる。これにより、第1及び第2実施形態と同様に、加熱用管部では液体を急速に昇温させることができ、温度維持用管部では液体の温度を第1温度以上第2温度以下の温度範囲内に所定の時間の間、維持させることができる。したがって、第1及び第2実施形態と同様に、単位時間当たりの処理量を上げても、液体の温度を所定の温度範囲で維持する時間が短くなることを抑制することができ、十分な収率を得ることができる。
また、上記第1〜第3実施形態では、図3、図5及び図6に示したように、底壁34側の筒状部材39’の筒内径は、上壁33側の筒状部材39の筒内径と同じ寸法にした場合で説明したが、これに限らず、上壁33側の筒状部材39の筒内径より小さい寸法にしてもよい。例えば、底壁34側の筒状部材39’の筒内径を、筒状部材39’内に挿通される直管を嵌挿可能な径まで小さくすることができる。この場合、蓋部材60a’は不要であり、筒状部材39’の筒内面に流通管60の端部が直接支持される。
図7は、照射室32内に発生する電界をシミュレーションした一例である。照射室32内に第1実施形態の流通管60を配置させた場合のシミュレーション結果を図7(A)及び図7(C)に示し、上述したように底壁34側の筒状部材39’の筒内径を下流側蛇管部62側より小さくした場合を図7(B)及び図7(D)に示す。なお、計算の簡略化のため、シミュレーションにおいては、流通管60自体の比誘電率は無視できるほど小さいものとし、下流側蛇管部62の巻き数は4として計算した。図7(A)及び図7(B)は液体がアセトニトリル(比誘電率=37.5(常温))の場合で、図7(C)及び図7(D)は液体がエタノール(比誘電率=24.5(常温))の場合のシミュレーション結果である。図7において、横軸が中心軸Cの方向の距離、縦軸が中心軸Cから半径方向(中心軸に直交する方向)への距離であり、○印は下流側蛇管部62の蛇管断面を表す。
図7中、おおよそ横方向に表された線が電気力線で、電界の包絡線であり、電界はこの線に沿っている。電気力線や電界は液体(○印)の近傍で僅かながら乱れるが、ほぼ中心軸Cに平行な直線になる。すなわち、照射室32内に発生する電界の方向は、中心軸Cに略平行である。図7に示すように、筒状部材39’の内径が小さい(図7(B)及び図7(D))ほど、直管部61に電界を集中させることができる。また、比誘電率が大きい(図7(A)及び図7(B))ほど、直管部61に電界を集中させることができる。したがって、底壁34側の筒状部材39’の内径が小さく、液体の比誘電率が大きいほど、直管部61内の液体をより急速に加熱させることができる。
ところで、流通管60に流通させる液体は、1種類ではなく様々である。したがって、例えば、ISM帯域の共振周波数で所定の液体を加熱処理したあと、比誘電率の異なる別の種類の液体を加熱処理する場合もある。例えば、初めの液体より比誘電率の大きい液体(例えば水)を流通管60に流通させる場合、空胴共振器30の共振周波数は初めの共振周波数より低くなって、ISM帯域の周波数帯の下限を超えて外れてしまうことがある。一方、初めの液体より比誘電率が小さい液体(例えばトルエン)を流通管60に流通させる場合、逆に、空胴共振器30の共振周波数は初めの共振周波数より高くなって、ISM帯域の周波数帯の上限を超えて外れてしまうことがある。また、空胴共振器30のインピーダンスと導波管20のインピーダンス等との整合が不適切な場合、マイクロ波の反射が多くなりマイクロ波の吸収効率が悪くなる。これらの場合に、好適な第1〜第3実施形態の変形例を、以下に説明する。
上記第1〜第3実施形態では、流通管60は、筒状部材39,39’に蓋部材60,60’を介して位置決め支持された場合で説明したが、これに限らず、空胴共振器30内における位置を調整可能に構成してもよい。具体的には、図示省略するが、空胴共振器30内における流通管60の位置を調整可能な位置調整手段を更に備えて構成する。
図8は、空胴共振器30内における流通管60の位置調整を説明するための概念図であり、一例として第1実施形態の流通管60の場合を示す。流通管60は、位置調整手段(図示省略)により、例えば、直管部61の軸線C’(中心軸C)に沿う軸方向及び軸線C’と直交する方向(以下、「径方向」という)に移動調整可能な状態で支持されている。
ここで、流通管60が軸方向に移動すると、直管部61と下流側蛇管部62との境界部Z(つまり、加熱用管部と温度維持用管部の境界部)の位置が空胴共振器30内で上下する。ここで、直管部61は下流側蛇管部62と比べて空胴共振器30の共振周波数を低下させる作用が強い。このため、図8において、境界部Zの位置が上側に移動して、空胴共振器30内における直管部61の占める割合(構成比率)が増えた場合、空胴共振器30の共振周波数は低くなり、逆に境界部Zの位置が下側に移動して、空胴共振器30内における直管部61の占める割合が減る場合、空胴共振器30の共振周波数は高くなる。
したがって、流通管60の空胴共振器30内における軸方向の位置を調整可能に構成することにより、流通させる液体の種類、つまり、比誘電率に応じて、空胴共振器30の共振周波数をISM帯域内に入るように調整することができる。なお、前述したように、マイクロ波は、固体素子を用いた可変周波数発振器11から出力する構成としたが、上記のように、共振周波数を調整可能に構成した場合は、マイクロ波の発振器はこれに限らない。この場合、マイクロ波の周波数を広範囲に掃引させる必要がないため、マイクロ波の発振器は、電子レンジで用いられるマグネトロン等の周波数の掃引幅の狭いものを用いることもできる。
また、図8に示すように、空胴共振器30内における流通管60の径方向の位置及び軸方向の位置を調整可能に構成することにより、空胴共振器30のインピーダンスを調整することもできる。これにより、インピーダンスを調整して、マイクロ波の反射波が少なくなるようにすることができる。例えば、図8に示すように、軸線C’及び螺旋中心が中心軸Cに対して平行のまま流通管60全体を径方向にも平行移動できるように位置調整手段を構成して、流通管60の径方向の位置調整を行う。この場合、上壁側の筒状部材39及び底壁側の筒状部材39’は、流通管60の軸方向の移動及び上記平行移動が可能なように流通管60を支持するように構成する。
なお、図8に示すように、下流側蛇管部62の直管部61との接続箇所と、下流側蛇管部62の上壁33側の直管との接続箇所を、中心軸Cと合わせた場合で説明したが、これに限らず、中心軸Cに対して偏心させてもよい。例えば、図9に示すように、下流側蛇管部62の直管部61との接続箇所と、下流側蛇管部62の上壁33側の直管との接続箇所を、中心軸Cに対して蛇管の巻外径に応じて偏心させた軸線C’’上にそれぞれ設定してもよい。つまり、下流側蛇管部62の螺旋中心は中心軸Cに合わせ、直管部61及び上壁33側の直管は中心軸Cに対して偏心させた軸線C’’に沿って伸延させる。この場合、流通管60の径方向の位置調整は、図9に示すように、流通管60を軸線C’’回りに回転させることにより行うとよい。これにより、流通管60を平行移動させることなく径方向の位置調整を行うことができるため、流通管60の両端部を支持する各筒状部材39、39’の構造を簡素化することができる。また、流通管60の径方向の位置調整を両端部の回転により行う構成とした場合、前述した筒状部材39’の筒内径を直管部61を嵌挿可能な径まで小さくするという構成を採用することができる。また、流通管60の位置を調整可能に構成した本変形例は、第1実施形態の流通管60を例にして説明したが、流通管60は、第2及び第3実施形態に示した構成のものであってもよい。
図10は、空胴共振器30内における加熱用管部(直管部61)と温度維持用管部(下流側蛇管部62)の構成比率を変えた場合の、共振周波数の測定結果の一例を示している。空胴共振器30(照射室32)の高さH(図2参照)は50mm、照射室32の幅方向の寸法L(図2参照)は79mm、直管部61及び下流側蛇管部62の管外径は6mm、内径は3.6mm、下流側蛇管部62の巻外径は20mm、巻ピッチは12.5mmとし、下流側蛇管部62の巻き数は1巻から4巻の4種類の場合で測定した。この測定結果より、流通管60の全体の長さを一定にして、全体に占める直管部61の長さの割合を高くするほど、共振周波数は低くなり、直管部61の長さの割合を低くするほど、共振周波数は高くなることが分かる。このため、空胴共振器30内における加熱用管部と温度維持用管部の構成比率を変えた流通管60を複数用意しておき、空胴共振器30に着脱可能に装着できるようして、空胴共振器30内における流通管60の位置を調整可能に構成することで、共振周波数の調整することもできる。この場合、上記位置調整手段を備える必要はない。
上記第1〜第3実施形態及びこれらの変形例では、空胴共振器30は、図2に示したように、四角柱状空胴の照射室32を備えて構成された場合で説明したが、これに限らず、図示省略するが、円柱状空胴の照射室を備えて構成するようにしてもよい。図2の照射室32の寸法Lがこの円柱状空胴の照射室の直径に相当する。この場合、照射室が円柱状空胴なので、空胴共振器内に何も入っていなければTM010モードの電磁界が励起される。共振するマイクロ波の周波数を2,450MHzとする場合、照射室内に何も無いときの直径Lは93.7mmである。なお、第1実施形態と同様にLについての±数%程度の誤差が許容される。
また、第1〜第3実施形態及びこれらの変形例における流通管60は、本発明に係る流通管でもある。これら実施形態の流通管60によれば、液体の温度を第1温度まで上昇させるための加熱用管部と、当該加熱用管部を流通した液体の温度を、第1温度から当該第1温度より高い第2温度の範囲内に維持するための温度維持用管部とを含む構成としたので、加熱用の流通管構造と温度維持用の流通管構造を別々に構築することができる。したがって、加熱用と温度維持用の流通管構造を適宜構築して、マイクロ波装置100の照射室32内に配設すれば、単位時間当たりの処理量を上げても十分な収率を得ることが可能な流通管を提供することができる。