(発明が解決しようとする課題)
焼入れ時に起きるワークの変形のうち、曲げ部分の曲げ角度等の変形は、従来の型によるワークの拘束によって矯正することができる。しかしながら、ワークに形成された凹凸形状の寸法が加熱により変化した場合、従来の型によるワークの拘束では、変化した寸法を元の寸法に戻すことができない。例えばワークに形成されている凹部が焼入れ時の加熱により拡がった場合、ワークを型で拘束しても、拡がった凹部を元に戻すことはできない。その反対に、ワークの凹部が焼入れ時の加熱により縮んだ場合、ワークを拘束する型にワークを入れることができないことも起こり得る。つまり、従来の焼入れ装置によれば、ワークの形状の変形は矯正することができるが、ワークの寸法、特にワークに形成されている凹凸形状の寸法の変化までは矯正することができない。このような凹凸形状は、型からの締め付け荷重によって寸法が変化しない部分を有するのが一般的である。例えば、型の上下動作によりワークを締め付ける場合、上下方向に開口する凹部の径や凹部を形成するの2つの内壁面間の距離等は、上下方向からの締め付け荷重によって変化しない。したがって、このような部分の寸法は、従来の方法では矯正することができない。
本発明は、凹凸形状が形成されたワークを焼入れする際に凹凸形状の寸法の変化、特に凹部の径や凸部の径の変化を矯正することができる焼入れ装置を提供することを目的とする。
(課題を解決するための手段)
本発明は、一方面および一方面とは異なる方向を向いた他方面を有するとともに一方面に凹凸形状が形成されたワークを拘束しながら冷却することにより、ワークを焼入れする焼入れ装置であって、加熱されたワークを保持する第1型部と、第1型部に形成され、第1型部に保持されたワークの一方面に形成されている凹凸形状を構成する段差面の少なくとも一部に対面する基準壁面と、第1型部に形成され、第1型部に保持されたワークの一方面に形成されている凹凸形状を構成する頂面に向かって突出されるとともに、先端側から基端側に向かうにつれて基準壁面に近づくように基準壁面に対して傾斜した傾斜面を持つ突起部と、突起部がその先端から頂面に食い込むように、第1型部に保持されたワークを基準壁面に平行な方向に加圧する第2型部と、を備える、焼入れ装置を提供する。
ここで、上記「凹凸形状」は、ワークの一方面に凹部または凸部が1つ以上形成されている形状を意味する。また、「段差面」は、凹部の深さ方向あるいは凸部の高さ方向に沿った壁面を意味する。また、「頂面」は、段差面の端部に接続された凹部の開口面あるいは凸部の先端面を意味する。
本発明によれば、加熱されたワークが第1型部に保持されたときに、ワークの一方面に形成されている凹凸形状を構成する段差面が第1型部の基準壁面に対面する。また、ワークの一方面に形成されている凹凸形状を構成する頂面に突起部が対面する。この状態で第2型部によってワークが加圧された場合、第1型部の突起部がその先端からワークの一方面に形成されている頂面に食い込む。突起部には、その先端側から基端側に向かうにつれて基準壁面に近づくように基準壁面に対して傾斜した傾斜面が形成されているので、突起部がワーク内を進入する際に突起部により押しのけられた部分が傾斜面に沿って基準壁面に近づくように流動する。このような材料流動によってワークの凹凸形状の寸法を変化させることができる。また、流動した材料が基準壁面に密着することによりワークの凹凸形状の段差面の位置が定められるので、基準壁面の位置を所望位置に定めておくことにより、凹凸形状の寸法を目標の寸法に矯正することができる。
そして、ワークの凹凸形状の寸法を目標の寸法に矯正した後に、ワークを第1型部と第2型部とで拘束したまま、例えば冷却水によりワークを急冷させることによりワークの焼入れが完了される。これによりワークの強度が増加する。このように、本発明によれば、凹凸形状が形成されたワークを焼入れする際に凹凸形状の寸法の変化を矯正することができる焼入れ装置を提供することができる。
また、前記基準壁面は、ワークの凹凸形状を構成する2つの段差面である第1段差面と第2段差面にそれぞれ対面するように形成された第1基準壁面および第2基準壁面を有する。また、前記突起部は、ワークの凹凸形状を構成する頂面のうち第1段差面に連続して形成される頂面に向かって突出されるとともに、先端から基端に向かうにつれて第1基準壁面に近づくように第1基準壁面に対して傾斜した第1傾斜面を持つ第1突起部と、ワークの凹凸形状を構成する頂面のうち第2段差面に連続して形成される頂面に向かって突出されるとともに、先端から基端に向かうにつれて第2基準壁面に近づくように第2基準壁面に対して傾斜した第2傾斜面を持つ第2突起部と、を有する。さらに、前記第1突起部は、ワークが第2型部により加圧されたときにワークの頂面に第1突起部が食い込むことによってワークの第1段差面が第1基準壁面に密着するようなワークの材料流動が起きる程度に第1基準壁面の近傍に設けられており、前記第2突起部は、ワークが第2型部により加圧されたときにワークの頂面に第2突起部が食い込むことによってワークの第2段差面が第2基準壁面に密着するようなワークの材料流動が起きる程度に第2基準壁面の近傍に設けられている。
これによれば、第1型部に保持されたワークが第2型部で加圧された場合に、ワークの頂面に第1突起部が食い込むことにより起きる材料流動によって第1段差面が第1基準壁面に密着するとともに、ワークの頂面に第2突起部が食い込むことにより起きる材料流動によって第2段差面が第2基準壁面に密着する。このため第1段差面と第2段差面との間の距離が、第1基準壁面と第2基準壁面との間の距離に矯正される。したがって、第1基準壁面と第2基準壁面との間の距離を第1段差面と第2段差面との間の正規の距離に設定しておくことにより、本発明の焼入れ装置を用いてワークを冷却する際に、第1段差面と第2段差面との間の距離、例えば凹部の径の寸法や凸部の径の寸法を精度よく矯正することができる。
また、前記第1型部は、第1型部に保持されたワークが第2型部に加圧されたときに、ワークの頂面に接触して頂面を支持する支持面を有するのがよい。そして、突起部が支持面に形成されているとよい。
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る焼入れ装置により焼入れされるワーク(熱処理対象物)の斜視図である。本実施形態で示すワークは車両シートのリクライナ機構に使用される回転部材である。このワークWは、表面(一方面)W1および表面W1と反対方向を向いた裏面(他方面)W2を有する円板形状を呈し、車両シートに組み付けられたときに回転することができるように構成される。また、ワークWの表面W1には、中央に貫通孔W3が設けられた円形の底壁W4と、底壁W4の周縁から立設されたリング状の外周壁W5と、底壁W4から立設された複数のガイド部W6とが形成される。複数のガイド部W6は底壁W4の円周方向に沿って離間して設けられる。図1からわかるように、各ガイド部W6は底壁W4からワークWの回転軸方向に突出するように凸状に形成される。
図2はワークWの表面W1をワークWの回転軸方向から見た概略正面図である。図2に示すように、ワークWの底壁W4に形成されたガイド部W6の個数は本実施形態では3個であり、これらのガイド部W6が円周方向に等間隔に形成される。ガイド部W6の個数は本実施形態に示す個数に限られない。また、複数のガイド部W6は等間隔に形成されていなくてもよい。各ガイド部W6は、正面から見て、円弧状の内周壁部W61と、円弧状の外周壁部W62と、第1側壁部W63と、第2側壁部W64とを有する略扇形状を呈する。第1側壁部W63は内周壁部W61の一方端と外周壁部W62の一方端とを接続し、第2側壁部W64は内周壁部W61の他方端と外周壁部W62の他方端とを接続する。内周壁部W61、外周壁部W62、第1側壁部W63および第2側壁部W64は、それぞれ、底壁W4から図2の紙面の手前方向(高さ方向)に向かって延びている。そして、これらの各壁部の先端縁が、扇型状の頂面W65により接続される。つまり、ガイド部W6は、内周壁部W61、外周壁部W62、第1側壁部W63、第2側壁部W64、および頂面W65により形成される。頂面W65は底壁W4と平行に形成される。頂面W65は、凸状のガイド部W6の先端面を構成する。
それぞれのガイド部W6は、内周壁部W61がワークWの径内方に向き外周壁部W62がワークWの径外方に向くように底壁W4内に設けられる。また、隣接する2つのガイド部W6,W6の一方の第1側壁部W63が他方の第2側壁部W64に対面する。したがって、隣接する2つのガイド部W6,W6の一方の第1側壁部W63と他方の第2側壁部W64との間に所定の隙間(図2において隙間G)が形成される。この隙間には、図示しないポールと呼ばれる部材がワークWの径方向に移動可能に配設される。この隙間の寸法精度は、ポールを精度良くガイドする必要性や、隙間内でのポールのガタつきを抑える必要性があることから、比較的厳しく管理される。例えば、この隙間の寸法公差は0〜30μmである。なお、この隙間の寸法は、例えば23mmである。
図3は図2のA−A断面図である。図3からわかるように、ワークWの表面W1は、底壁W4から複数のガイド部W6および外周壁W5が立設していることによって複雑な凹凸形状を呈する。図3には隣接する2つのガイド部(第1ガイド部W6aおよび第2ガイド部W6b)が示されている。第1ガイド部W6aと第2ガイド部W6bとの間に位置する底壁W4、この底壁W4から立設された第1ガイド部W6aの第1側壁部W63a、第1側壁部W63aに連続して形成され第1側壁部W63aの先端縁から底壁W4と平行な方向に延設された頂面W65a、底壁W4から立設された第2ガイド部W6bの第2側壁部W64b、第2側壁部W64bに連続して形成され第2側壁部W64bの先端縁から底壁W4と平行な方向に延設された頂面W65b、によって、表面W1の凹凸形状の一部が形成される。
第1ガイド部W6aの第1側壁部W63aと第2ガイド部W6bの第2側壁部W64bが対面しており、これらの隙間G内に上述したようにポールが配設される。この隙間Gの寸法が厳しく管理される。第1ガイド部W6aの第1側壁部W63aは凸状の第1ガイド部W6aの高さ方向に沿って形成され、第2ガイド部W6bの第2側壁部W64bは凸状の第2ガイド部W6bの高さ方向に沿って形成される。すなわち、第1側壁部W63aおよび第2側壁部W64bは、ワークWの回転軸方向に平行に形成される。第1側壁部W63aおよび第2側壁部W64bが、ワークWの表面W1に形成された凹凸形状の段差面を構成する。なお、段差面は、第1側壁部W63a、第2側壁部W64b以外にも、例えばガイド部W6の内周壁部W61や外周壁部W62によっても構成される。したがって、図3に示す段差面は、全ての段差面の一部を表しているにすぎない。
本実施形態において、ワークWは、ファインブランキングにより、金属板から成形される。成形されたワークWは次いで熱処理(焼入れ)に供される。熱処理工程では、まず高周波加熱によりワークWを構成する金属材料がオーステナイト化する程度の温度まで加熱される。その後、マルテンサイト変態領域(Ms点以下)の温度まで急冷される。このような焼入れによりワークWの硬度が増加される。
図4は、高周波加熱されたワークWを冷却して焼入れを完了させるための焼入れ装置の概略断面図である。この焼入れ装置1は、第1型部10と第2型部20とを備える。第1型部10および第2型部20は、金属製もしくはセラミックス製であるのがよい。特に、第1型部10および第2型部20は、熱伝導率が低く、且つ耐熱性の高い材質で形成されているのがよい。第1型部10および第2型部20は、それぞれ拘束面11、21を有する。第1型部10の拘束面11上にワークWが載置されることにより、ワークWが第1型部10に保持される。ワークWを保持した状態の第1型部10に第2型部20を近づけて、それぞれの拘束面11、21間にワークを挟み込んで加圧することにより、ワークWが焼入れ装置1内で拘束される。
図5は第1型部10を示す図であり、図5(a)が斜視図、図5(b)が拘束面11を表す正面図である。また、図6は第2型部20を示す図であり、図6(a)が斜視図、図6(b)が拘束面21を表す正面図である。図5に示すように、第1型部10の拘束面11は、ワークWの表面W1の凹凸形状に適合するような複雑形状を呈する。また、図6に示すように、第2型部20の拘束面21は、ワークWの裏面W2の形状に適合するような複雑形状を呈する。さらに、第1型部10の拘束面11および第2型部20の拘束面21には、これらの型部10,20に拘束されたワークに冷却水を供給するための複数の冷却通路の開口31や、供給された冷却水をワークWに接触させるための空間が、形成される。
図7は、本実施形態の説明に必要な第1型部10の主要な構成を簡単に示す概略正面図である。図7に示すように、第1型部10の拘束面11は、これにワークWが載置されたときにワークWの底壁W4に対面する保持面12と、保持面12に形成された複数の保持凹部13とを有する。複数の保持凹部13の保持面12への開口形状および位置は、第1型部10にワークWが保持されたときに各ガイド部W6が入り込むことができるように設計される。したがって、保持凹部13は、その中にガイド部W6が入りこんだときに、ガイド部W6の内周壁部W61に対面する内側壁部131、外周壁部W62に対面する外側壁部132、第1側壁部W63(段差面)に対面する第1基準壁面133、および、第2側壁部W64(段差面)に対面する第2基準壁面134を有する。
図8は図7のB−B概略断面図である。図8は、隣接する保持凹部(第1保持凹部13a,第2保持凹部13b)間の断面形状を表す。図8に示すように、第1保持凹部13aの開口端と第2保持凹部13bの開口端が保持面12により接続される。また、保持面12の一方端部(図8において左端部)から、第1保持凹部13aの側壁を構成する第1基準壁面133aが鉛直下方に延び、保持面12の他方端部(図8において右端部)から、第2保持凹部13bの側壁を構成する第2基準壁面134bが鉛直下方に延びる。第1基準壁面133aおよび第2基準壁面134bの鉛直下方に沿った長さがワークWのガイド部W6の高さに等しくなるように、両基準壁面133a、134bが形成される。また、第1基準壁面133aと第2基準壁面134bとの間の距離Sが、ワークWに設けられる隣接するガイド部W6,W6間の正規の寸法に等しくなるように、両規準壁面133a、134bが形成される。
第1基準壁面133aの図8における下方端から第1支持面141aが形成され、第2基準壁面134bの図8における下方端から第2支持面142bが形成される。第1支持面141a、第2支持面142bは、それぞれ両規準壁面133a、134bの下端から保持面12に平行な方向(図8において水平方向)に延設される。そして、第1支持面141aに第1突起部151が形成され、第2支持面142bに第2突起部152が形成される。
第1突起部151は第1支持面141aから図8において上方に突出するように形成され、第2突起部152は第2支持面142bから図8において上方に突出するように形成される。第1突起部151は、図8において上方を向いた先端面151aと、先端面151aの一方端(図8において右側端)から斜め下方に延びるように形成されて第1基準壁面133a側を向いた第1傾斜面151bを有する。第2突起部152は、図8において上方を向いた先端面152aと、先端面152aの一方端(図8において左側端)から斜め下方に延びるように形成されて第2基準壁面134b側を向いた第2傾斜面152bを有する。
第1傾斜面151bは、第1突起部151の先端側から基端側に向かうにつれて(つまり図8の上方から下方に向かうにつれて)、第1基準壁面133aに近づくように、第1基準壁面133aに対して傾斜している。第2傾斜面152bは、第2突起部152の先端側から基端側に向かうにつれて(つまり図8の上方から下方に向かうにつれて)、第2基準壁面134bに近づくように、第2基準壁面134bに対して傾斜している。
第1突起部151の先端面151aの他方端(図8において左側端)から第1鉛直壁面161が下方に延設されている。同様に、第2突起部152の先端面152aの他方端(図8において右側端)から第2鉛直壁面162が下方に延設されている。第1基準壁面133aから第1突起部151の先端面151aの他方端までの距離、および、第2基準壁面134bから第2突起部152の先端面152aの他方端までの距離は、本実施形態においては、それぞれ1.1mmにされる。
次に、本実施形態に係る焼入れ装置1によるワークWの焼入れ方法について説明する。なお、焼入れする前に、ファインブランキングによってワークWが成形される。
次いで、成形されたワークWの温度がオーステナイト化温度領域に達するまで、ワークWを高周波加熱する。なお、加熱完了後におけるワークWの隙間Gの寸法が、隙間Gの正規の寸法よりも0.5mm〜1.0mm程度大きくなるように、ファインブランキングによってワークWが成形されている。次いで、加熱直後のワークWを第1型部10で保持する。このとき、ワークWの表面W1が第1型部10の拘束面11上に載置されるように(つまりワークWの表面W1が第1型部10の拘束面11に対面するように)、ワークWを第1型部10で保持する。また、ワークWの各ガイド部W6が第1型部10の各保持凹部13に入り込むように、ワークWを第1型部10の拘束面11上に載置する。
図9は、第1型部10によるワークWの保持状態(載置状態)を示す部分断面概略図である。図9に示すように、ワークWの底壁W4が、第1型部10の保持面12に対面する。また、ワークWのガイド部W6のうちの隣接するガイド部(第1ガイド部W6a、第2ガイド部W6b)が、第1型部10の保持凹部(第1保持凹部13a、第2保持凹部13b)に入り込む。このとき第1ガイド部W6aの第1側壁部W63aが第1保持凹部13aの側壁を形成する第1基準壁面133aに対面し、第2ガイド部W6bの第2側壁部W64bが第2保持凹部13bの側壁を形成する第2基準壁面134bに対面する。ここで、上述したように、第1ガイド部W6aの第1側壁部W63aと第2ガイド部W6bの第2側壁部W64bとの間の距離(隙間G)は、正規の設定寸法よりも1mm程度大きく形成されている。したがって、図9からわかるように、第1型部10にワークWを保持した状態では、第1ガイド部W6aの第1側壁部W63aと第1基準壁面133aとの間、および、第2ガイド部W6bの第2側壁部W64bと第2基準壁面134との間、には、それぞれ微小の隙間が設けられる。
また、第1型部10の第1突起部151の先端面151aが第1ガイド部W6aの頂面W65aのうち第1側壁部W63aに近い部分に対面接触し、第1型部10の第2突起部152の先端面152aが第2ガイド部W6bの頂面W65bのうち第2側壁部W64bに近い部分に対面接触する。すなわち、ワークWが第1型部10に保持された状態では、第1突起部151および第2突起部152は、ワークWの表面W1に形成されている凹凸形状を構成する頂面(頂面W65a,W65b)に向かって突出されている。すなわち、ワークWは、第1突起部151および第2突起部152に載せられた状態で、第1型部10に保持される。
ワークWを図9に示すように第1型部10に保持させた後に、第2型部20をワークWの裏面W2側から被せる。これによりワークWが第1型部10と第2型部20に挟まれる。この状態では、第1型部10の拘束面11と第2型部20の拘束面21がワークWを挟んで対面する。その後、第2型部20によってワークWを第1型部10に押し付ける方向に加圧する。図10は、第1型部10に載置されたワークWを第2型部20により加圧した状態を示す断面図である。
図10に示すように、第2型部20は、ワークWの裏面W2のうち、ガイド部W6(第1ガイド部W6a、第2ガイド部W6b)の頂面W65(頂面W65a,W65b)の背面部分に接触するように、ワークWにその裏面W2側から被せられる。その状態で第2型部20がワークWを図10において下方に加圧する。この加圧方向(すなわち型締め方向)は、第1型部10に形成された第1基準壁面133aおよび第2基準壁面134bに平行な方向であり、且つ、第1型部10に載置されたワークWの頂面(頂面W65a,W65b)に垂直な方向である。このように第2型部20がワークWを加圧すると、第1型部10の第1支持面141aがワークWの頂面W65aのうち第1側壁部W63a寄りの端部に接触してワークWを支持するとともに、第1型部10の第2支持面142bがワークWの頂面W65bの第2側壁部W64b寄りの端部に接触してワークWを支持する。また、このような加圧によって、ワークWが、その回転軸方向に移動不能となるように第1型部10と第2型部20とにより拘束される。ただし、図10に示すように、ワークWの全面が拘束されているわけではなく、拘束されていない部分も多く存在する。拘束されていない部分には空間が接する。
また、第2型部20によるワークWの加圧によって、ワークWの頂面W65aに対面していた第1突起部151がその先端面151a側から頂面W65aに食い込み、ワークWの頂面W65bに対面していた第2突起部152がその先端面152a側から頂面W65bに食い込む。
第1突起部151がその先端面151a側からワークWの頂面W65aに食い込んでワークWの内部に進入した場合、第1突起部151に押し除けられた部分を構成する材料が流動する。ここで、第1突起部151に形成されている第1傾斜面151bは、第1突起部151の先端側から基端側に向かうにつれて第1基準壁面133aに近づくように傾斜している。一方、加圧時におけるワークWに対する第1突起部151の進行方向は、第1基準壁面133aに平行な方向である。つまり、第1傾斜面151bは、第1突起部151の進行方向に対して傾斜している。このため加圧によって第1突起部151がワークW内に進入するにつれて、第1傾斜面151bに押しのけられた材料が第1傾斜面151bに沿って流れることにより第1基準壁面133aに近づく。すなわち、第1突起部151が頂面W65aからワークW内部に進入する際に、第1傾斜面151bの存在によって第1基準壁面133aに向かう方向への材料流動が喚起される。斯かる材料流動によって、最終的には図10に示すように、ワークWの第1側壁部W63aが第1基準壁面133aに密着する。
すなわち、ワークWが第2型部20により加圧されたときにワークWの頂面W65aに第1突起部151が食い込むことによってワークWの第1側壁部W63aが第1基準壁面133aに密着するようなワークWの材料流動が起きる程度に、第1傾斜面151bを有する第1突起部151が第1基準壁面133aの近傍に設けられている。
同様に、第2突起部152がその先端面152a側からワークWの頂面W65bに食い込んでワークWの内部に進入した場合、第2突起部152に押し除けられた部分を構成する材料が流動する。ここで、第2突起部152に形成されている第2傾斜面152bは、第2突起部152の先端側から基端側に向かうにつれて第2基準壁面134bに近づくように傾斜している。一方、加圧時におけるワークWに対する第2突起部152の進行方向は、第2基準壁面134bに平行な方向である。つまり、第2傾斜面152bは、第2突起部152の進行方向に対して傾斜している。このため加圧によって第2突起部152がワークW内に進入するにつれて、第2傾斜面152bに押しのけられた材料が第2傾斜面152bに沿って流れることにより第2基準壁面134に近づく。すなわち、第2突起部152が頂面W65bからワークW内部に進入する際に、第2傾斜面152bの存在によって第2基準壁面134bに向かう方向への材料流動が喚起される。斯かる材料流動によって、最終的には図10に示すように、ワークWの第2側壁部W64bが第2基準壁面134bに密着する。
すなわち、ワークWが第2型部20により加圧されたときにワークWの頂面W65bに第2突起部152が食い込むことによって、ワークWの第2側壁部W64bが第2基準壁面134bに密着するようなワークWの材料流動が起きる程度に、第2傾斜面152bを有する第2突起部152が第2基準壁面134bの近傍に設けられている。
このようにして、ワークWに形成された隣接する2つのガイド部W6のうち第1ガイド部W6aの第1側壁部W63aが第1基準壁面133aに密着し第2ガイド部W6bの第2側壁部W64bが第2基準壁面134bに密着する。よって、隣接するガイド部W6a,W6bの間の距離が、第1型部10に形成されている第1基準壁面133aと第2基準壁面134bとの間の距離Sに一致する。上述のように距離Sは、隣接するガイド部W6,W6の第1側壁部W63と第2側壁部W64との間の隙間Gの正規の寸法に設定されている。したがって、本実施形態の焼入れ装置1によって、ワークWの凹凸形状の寸法、特に隙間Gの寸法が矯正される。
第1型部10と第2型部20とに拘束された状態で凹凸形状の寸法が矯正されたワークWは、第1型部10と第2型部20で拘束されたまま冷却される。この場合において、図10に示すように、ワークWの各ガイド部W6a,W6bの頂面W65a、W65b、および、裏面W2のうち底壁W4の背面部分には、空間が存在する。この空間内に冷却通路を通じて冷却水が供給される。冷却水による冷熱でワークWがマルテンサイド開始(Ms)点以下の温度まで急冷されることによってワークWが焼入れされる。このようにしてワークWの焼入れが完了してワークWの硬度が増加する。
また、本実施形態の焼入れ装置1を用いることにより、ワークWの凹凸形状の寸法が矯正されるとともに、寸法のバラツキを小さくすることもできる。図11は、ワークWを拘束せず且つ凹凸形状を矯正せずに焼入れした場合(グラフA)、ワークWを上型と下型とで拘束(クランプ)しているが凹凸形状を矯正せずに焼入れした場合(グラフB)、および、本実施形態の焼入れ装置1を使用し、ワークWを拘束し且つ凹凸形状を矯正した状態で焼入れした場合(グラフC)、の各場合における、隙間Gのバラツキを示すグラフである。図11の縦軸は、グラフAにおけるバラツキ(分散α)を1とした場合における、バラツキの相対値である。
図11からわかるように、本実施形態の焼入れ装置1を用いた場合(グラフC)とグラフAとを比較すると、グラフCの場合のバラツキはグラフAの場合のバラツキの1/4程度である。また、本実施形態の焼入れ装置1を用いた場合(グラフC)とグラフBとを比較すると、グラフCの場合のバラツキはグラフBの場合のバラツキの1/3程度である。これらのことから、本実施形態によれば、ワークWの凹凸形状の寸法のバラツキを極めて小さくすることもできる。
以上のように、本実施形態の焼入れ装置1は、表面W1(一方面)および表面W1とは異なる方向を向いた裏面W2(他方面)を有するとともに表面W1に凹凸形状が形成されたワークWを拘束しながら冷却することにより、ワークWを焼入れする焼入れ装置1であって、この焼入れ装置1は、加熱されたワークWを保持する第1型部10と、第1型部10に形成され、第1型部10に保持されたワークWの表面W1に形成されている凹凸形状を構成する段差面の少なくとも一部である第1側壁部W63aおよび第2側壁部W64bに対面する基準壁面(第1基準壁面133a、第2基準壁面134b)と、第1型部10に形成され、第1型部10に保持されたワークWの表面W1に形成されている凹凸形状を構成する頂面に向かって突出されるとともに、先端側から基端側に向かうにつれて基準壁面に近づくように基準壁面に対して傾斜した傾斜面(第1傾斜面151b、第2傾斜面152b)を持つ突起部(第1突起部151、第2突起部152)と、突起部がその先端から頂面に食い込むように、第1型部10に保持されたワークWを基準壁面に平行な方向に加圧する第2型部20と、を備える。
本実施形態によれば、加熱されたワークWが第1型部10に保持されたときに、ワークWの表面W1に形成されている凹凸形状を構成する段差面である第1側壁部W63aおよび第2側壁部W64bが第1型部10の基準壁面(第1基準壁面133a、第2基準壁面134b)に対面する。また、ワークWの表面W1に形成されている凹凸形状を構成する頂面W65a、W65bに突起部(第1突起部151、第2突起部152)が対面する。この状態で第2型部20によってワークWが加圧された場合、突起部がその先端からワークの頂面に食い込む。突起部には傾斜面(第1傾斜面151b、第2傾斜面152b)が形成されているので、突起部がワークW内を進入する際に突起部により押しのけられた部分が傾斜面に沿って基準壁面に近づくように流動する。このような材料流動によってワークWの凹凸形状の寸法を矯正することができる。特に、型による加圧方向に平行な2面間の距離を矯正することができる。また、焼入れ後のワークの凹凸形状の寸法のバラツキをも小さくすることができる。
また、第1型部10は、ワークの凹凸形状を構成する2つの段差面である第1側壁部W63a(第1段差面)と第2側壁部W64b(第2段差面)にそれぞれ対面するように形成された第1基準壁面133aおよび第2基準壁面134bを有する。そして、突起部は、ワークWの凹凸形状を構成する頂面のうち第1側壁部W63aに連続して形成される頂面W65aに向かって突出されるとともに、先端から基端に向かうにつれて第1基準壁面133aに近づくように第1基準壁面133aに対して傾斜した第1傾斜面151bを持つ第1突起部151と、ワークWの凹凸形状を構成する頂面のうち第2側壁部W64bに連続して形成される頂面W65bに向かって突出されるとともに、先端から基端に向かうにつれて第2基準壁面134bに近づくように第2基準壁面134bに対して傾斜した第2傾斜面152bを有する第2突起部152と、を有する。
このため、第1型部10に保持されたワークWが第2型部20で加圧された場合に、ワークWの頂面W65aに第1突起部151が食い込むことにより起きる材料流動によって第1側壁部W63aが第1基準壁面133aに密着するとともに、ワークWの頂面W65bに第2突起部152が食い込むことにより起きる材料流動によって第2側壁部W64bが第2基準壁面134bに密着する。これにより第1側壁部W63aと第2側壁部W64bとの間の距離が、第1基準壁面133aと第2基準壁面134bとの間の距離に矯正される。したがって、第1側壁部W63aと第2側壁部W64bとの間の正規の距離を第1基準壁面133aと第2基準壁面134bとの間の距離に設定しておくことにより、焼入れ装置1を用いてワークWを冷却する際に、ワークWに形成された凹凸形状の寸法、特に、焼入れ時における型による加圧方向に平行な2面間の距離を精度よく矯正することができる。
また、焼入れ(急冷)時には、ワークWの表面W1側が第1型部10に対面し裏面W2側が第2型部20に対面した状態で、ワークWが第1型部10と第2型部20とにより拘束(クランプ)されている。このため、ワークWの高さ方向(ワークWの回転軸方向)の変形(歪み)もこの焼入れ装置1内で矯正することができ、これによりワークWの平面度を確保することができる。
また、焼入れ(急冷)時にはワークWが第1型部10および第2型部20により拘束されているが、図10に示すようにワークWが型に接していない部分(つまり空間に接している部分)が多く存在し、その空間に冷却水を供給することで、ワークWを確実に急冷することができる。その結果、焼入れ後におけるワークWの硬度(強度)を確保することができる。
また、焼入れと同時にワークWの形状を矯正および成形してワークWの寸法精度を確保しているので、その後の寸法検査工程や、寸法矯正工程を廃止することができる。このため、製造工程の短縮を図ることができ、ひいては製造コストを低減することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態においては、ワークWの第1側壁部W63aと第2側壁部W64bとの隙間の寸法、すなわち凹部の寸法を矯正する例について説明したが、1つの段差面の位置を矯正するように焼入れ装置を構成してもよい。また、例えば複数の凹部を跨ぐように設けられている2つの段差面との間の寸法を矯正するように焼入れ装置を構成してもよい。さらに、凸部の寸法を矯正するように焼入れ装置を構成してもよい。凸部の寸法を矯正する場合、第1型部10を例えば図12に示すように構成すればよい。図12に示す第1型部10は、ワークWを保持したときに、ワークWの凸部Tの側壁を構成する段差面D1,D2にそれぞれ対面する第1基準壁面133および第2基準壁面134と、ワークWの凸部Tの頂面Cに対面する底面135と、底面135に設けられた第1突起部151および第2突起部152を備える。第1突起部151は段差面D1の近傍に設けられる。第1突起部151は第1基準壁面133側を向いた第1傾斜面151bを有する。第1傾斜面151bは、第1突起部151の先端から基端に向かうにつれて第1基準壁面133に近づくように第1基準壁面133に対して傾斜している。一方、第2突起部152は段差面D2の近傍に設けられる。第2突起部152は第2基準壁面134側を向いた第2傾斜面152bを有する。第2傾斜面152bは、第2突起部152の先端から基端に向かうにつれて第2基準壁面134に近づくように第2基準壁面134に対して傾斜している。
そして、第1型部10に保持されたワークWを図示しない第2型部で加圧することにより、ワークWの凸部Tの頂面Cに第1突起部151および第2突起部152を食い込ませる。第1突起部151のワークW内への進入により材料流動が起きて段差面D1が第1基準壁面133に密着し、第2突起部152のワークW内への進入により材料流動が起きて段差面D2が第2基準壁面134に密着する。これにより段差面D1とD2との間の長さ、すなわち凸部の幅の寸法を矯正することができる。
また、上記実施形態は、車両シートのリクライナ機構に用いられる回転部材をワークWとして用いた例を説明したが、凹凸形状がある面に形成されているワークであれば、本発明を適用することができる。また、上記実施形態で説明した突起部(第1突起部151、第2突起部152)は、図7に示す方向から見たときに、基準壁面(第1基準壁面133、第2基準壁面134)に沿って連続的に形成されていてもよいし、基準壁面に対して部分的に(例えば間歇的に)形成されていてもよい。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、変形可能である。