図1は、この発明の一実施の形態による車両の要部を示すブロック図である。図1において、この車両は、エンジン1、トルクコンバータ2、自動変速機3、出力軸4、油圧制御装置5、電子制御装置10、および複数のセンサ20〜26を備える。
エンジン1は、走行用の駆動源であり、たとえば気筒内噴射される燃料の燃焼により駆動力を発生するガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどの内燃機関である。エンジン1の吸気配管には、エンジン1の吸入空気量を調節してエンジン1のエンジン回転数を変化させる電子スロットル弁が設けられている。エンジン1は、電子制御装置10によって制御される。
トルクコンバータ2は、流体を介して動力伝達を行なう流体式動力伝達装置である。トルクコンバータ2は、エンジン1のクランク軸に連結されたポンプ翼車と、タービン軸を介して自動変速機3の入力軸に連結されたタービン翼車と、一方向クラッチにより一方向の回転が阻止されているステータ翼車を備えており、ポンプ翼車とタービン翼車との間で流体を介して動力伝達を行なう。ポンプ翼車とタービン翼車との間には、これらを直結するためのロックアップクラッチが設けられている。ロックアップクラッチは、油圧制御装置5によって制御される。
自動変速機3は、複数のギヤ段(たとえば6段)のいずれかが選択される多段段式変速機であり、入力軸の回転を変速して出力軸4に伝達させる。自動変速機3は、サンギヤ、キャリア、およびリングギア同士、またはそれらとトランスミッションケースとの係合状態に応じて、第1段から第6段の6つの前進ギヤ段と1つの後進ギヤ段とのうちのいずれかのギヤ段を成立させるためのクラッチおよびブレーキを備えている。サンギヤ、キャリア、およびリングギアの各々は回転要素と呼ばれ、クラッチおよびブレーキの各々は係合要素と呼ばれる。
油圧制御装置5は、電子制御装置10によって制御される複数のソレノイドを含み、自動変速機3の係合要素の伝達トルク容量を立ち上げて自動変速機3のギヤ段を変速させる。
ペダル開度センサ20は、アクセルペダルの開度を示すペダル開度信号を出力する。車速センサ21は、車両の速度を示す車速信号を出力する。エンジン回転数センサ22は、エンジン1の回転数を示すエンジン回転数信号を出力する。前後Gセンサ23は、車両の前後G(前後加速度)を示す前後G信号を出力する。横Gセンサ24は、車両の横G(横加速度)を示す横G信号を出力する。ATF(Automatic transmission fluid:自動変速機油)温度センサ25は、自動変速機3内に充填されたATFの温度を示すATF温度信号を出力する。エンジン水温センサ26は、エンジン1の冷却水の温度を示すエンジン水温信号を出力する。
電子制御装置10は、これらのセンサ20〜26の出力信号などに基づいて、自動変速機3の変速制御、トルクコンバータ2のロックアップクラッチの係合制御、エンジン1の出力制御などを実行する。電子制御装置10は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などのメモリ、入出力インタフェースを備えたマイクロコンピュータなどで構成され、CPUがROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行なうことで上記の制御を実行する。
電子制御装置10は、高応答制御許可判定部11、目標ギヤ段算出部12、目標ギヤ段実現部13、およびエンジン制御部14を含む。高応答制御許可判定部11は、ATF温度センサ25およびエンジン水温センサ26の出力信号などに基づいて、エンジン1と自動変速機3の高応答制御の実行が可能か否かを判定し、判定結果に基づいて高応答制御を許可する信号または高応答制御を不許可とする信号を目標ギヤ段算出部12、目標ギヤ段実現部13、および油圧制御装置5に出力する。目標ギヤ段算出部12、目標ギヤ段実現部13、および油圧制御装置5は、自動変速機3を制御する変速制御部を構成する。
図2は、高応答制御許可判定部11の動作を示すフローチャートである。図2において、高応答制御許可判定部11は、ステップS1においてATF温度センサ25からのATF温度信号に基づいてATF温度が所定温度To(℃)以上であるか否かを判別し、To以上である場合はステップS2に進み、To以上でない場合は高応答制御が可能でないと判定し、ステップS5において高応答制御を不許可とし、ステップS1に戻る。ATF温度がToよりも低い場合は、ATFの粘度が高く、自動変速機3を高精度で高速に制御することができない恐れがあるので、高応答制御を不許可としている。
ステップS2では、エンジン水温センサ26からのエンジン水温信号に基づいてエンジン水温が所定温度Tw(℃)以上であるか否かを判別し、Tw以上である場合はステップS3に進み、Tw以上でない場合は高応答制御が可能でないと判定し、ステップS5において高応答制御を不許可とし、ステップS1に戻る。エンジン水温がTwよりも低い場合は、エンジン1の暖機が不十分であり、エンジン1を高精度で高速に制御することができない恐れがあるので、高応答制御を不許可としている。
ステップS3では、イグニッションスイッチ(IG)がオンされた後における自動変速機3のギア段の変速履歴があるか否かを判別し、変速履歴がある場合は高応答制御が可能であると判定し、ステップS4で高応答性制御を許可する。高応答制御が許可されると、自動変速機3の変速時にブリッピングが実行され、変速時における伝達トルク容量の上昇率が大きく設定される。
また、ステップS3において自動変速機3のギア段の変速履歴がない場合は高応答制御が可能でないと判定し、ステップS5で高応答制御を不許可とする。イグニッションスイッチがオンされてから自動変速機3のギア段がまだ1回も変速されていない場合は、自動変速機3内にATFが十分に充填されておらず、ギア段の変速を高精度に高速に行なうことができない恐れがあるので、高応答制御を不許可としている。高応答制御が不許可とされると、自動変速機3の変速時にブリッピングが実行されず、変速時における伝達トルク容量の上昇率が小さな値に設定される。
目標ギヤ段算出部12は、ペダル開度センサ20、車速センサ21、前後Gセンサ23および横Gセンサ24の出力信号、高応答制御許可判定部11の判定結果などに基づいて最終目標ギヤ段GSTを算出する。
図3は、目標ギヤ段算出部12の基本動作を示すフローチャートである。ステップS11において目標ギヤ段算出部12は、ペダル開度センサ20によって検出されたペダル開度Acc[%]と、車速センサ21によって検出された車速V[km/h]と、たとえば図4に示すようなアップシフト線(実線)とダウンシフト線(破線)とを有する予め定められた関係(変速マップ)とに基づいて、自動変速機3の基本目標ギヤ段GSTBを算出する。たとえば、ペダル開度Accが一定である場合において、車速Vが上昇してアップシフト線を横切ると基本目標ギヤ段GSTBが1段アップされ、車速Vが低下してダウンシフト線を横切ると基本目標ギヤ段GSTBが1段ダウンされる。
ステップS12において目標ギヤ段算出部12は、前後Gセンサ23および横Gセンサ24の出力信号と、高応答制御許可判定部11の判定結果とに基づいて上限ギヤ段GSLを算出する。上限ギヤ段GSLは、ダウン減速してコーナーを旋回した後に再加速するときのギヤ段である。上限ギヤ段GSLの算出方法については、後で詳細に説明する。
次に目標ギヤ段算出部12は、ステップS13において基本目標ギヤ段GSTBが上限ギヤ段GSL以上の高速段か否かを判別し、高速段でない場合はステップS14において基本目標ギヤ段GSTBを最終目標ギヤ段GSTLとし、高速段である場合はステップS15において上限ギヤ段GSLを最終目標ギヤ段GSTLとする。ステップS16において目標ギヤ段算出部12は、最終目標ギヤ段GSTLを目標ギヤ段実現部13に出力し、ステップS11に戻る。
目標ギヤ段実現部13は、目標ギヤ段算出部12で算出された最終目標ギヤ段GSTLをソレノイドパターンに変換して油圧制御装置5に出力する。また、目標ギヤ段実現部13は、高応答制御許可判定部11によって高応答制御が許可されている場合は、ソレノイドパターンを出力するときに、ブリッピングの実行を指令するブリッピング指令信号をエンジン制御部14に出力する。
図5は、目標ギヤ段実現部13の動作を示すフローチャートである。図5において目標ギヤ段実現部13は、ステップS21において最終目標ギヤ段GSTLが更新されるまで待機し、更新された場合はステップS22において最終目標ギヤ段GSTLをソレノイドパターンに変換する。
ステップS23では、高応答制御許可判定部11によって高応答制御が許可されているか否かを判定し、許可されていない場合はステップS24においてソレノイドパターンを油圧制御装置5に出力し、ステップS21に戻る。油圧制御装置5は、目標ギヤ段実現部13から与えられたソレノイドパターンに従って自動変速機3のギヤ段を最終目標ギヤ段GSTLに変速させる。このとき油圧制御装置5は、高応答制御が許可されていないので、自動変速機3の係合要素の伝達トルク容量を比較的小さな上昇率で持ち上げてギヤ段を比較的長い時間で変速させる。
また、ステップS23で高応答制御が許可されていると判別した場合は、ステップS25においてソレノイドパターンを油圧制御装置5に出力するとともにブリッピング指令信号をエンジン制御部14に出力する。油圧制御装置5は、目標ギヤ段実現部13から与えられたソレノイドパターンに従って自動変速機3のギヤ段を最終目標ギヤ段GSTLに変速させる。このとき油圧制御装置5は、高応答制御が許可されているので、自動変速機3の係合要素の伝達トルク容量を比較的大きな上昇率で持ち上げてギヤ段を比較的短い時間で変速させる。また、エンジン制御部14は、ブリッピング指令信号に応答してエンジン1を制御し、ギヤ段の変速時にブリッピングを実行させる。
エンジン制御部14は、エンジン1の駆動を制御する。具体的には、エンジン制御部14は、ペダル開度(アクセル操作量)Accをパラメータとして車速Vと目標駆動力Ftとの予め実験的または設計的に求められて記憶された(すなわち予め定められた)不図示の関係(駆動力マップ)と、実際のペダル開度Accおよび車速Vとに基づいて、車両に対する運転者の駆動要求量(すなわちドライバ要求量)としての目標駆動力Ftを算出する。
この駆動力マップは、たとえば車速Vが小さい程またペダル開度Accが大きい程目標駆動力Ftが大きくなるように設定されている。エンジン制御部14は、伝達損失、補機負荷、自動変速機3のギヤ段などを考慮して、その目標駆動力Ftが得られるエンジン1の出力トルク(エンジントルク)Teとなるように、スロットルアクチュエータにより電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射装置による燃料噴射量や噴射時期を制御し、点火装置による点火時期を制御する。
またエンジン制御部14は、目標ギヤ段実現部13からのブリッピング指令信号に応答して、変速時にエンジン1の回転数と自動変速機3の入力軸の回転数とが同期するようにエンジン1の回転数を上昇させるブリッピングを行なう。
次に、目標ギヤ段算出部12における上限ギヤ段GSLの算出方法について、より詳細に説明する。目標ギヤ段算出部12は、たとえば図4の変速マップに従って自動変速機3のギヤ段(ギヤ比も同意)を決定することに加え、車両の減速中の加速度(すなわち減速度(減速Gともいう))に基づいて自動変速機3のギヤ段を決定する機能を有している。つまり、目標ギヤ段算出部12は、再加速時の駆動要求量(再加速要求量という)を実現するための自動変速機3のギヤ段を減速Gに基づいて決定する機能を有している。
具体的には、コーナ進入時の減速Gに基づいて、コーナを抜けた後の立ち上がりにおける運転者の加速意図に合った自動変速機3のギヤ段を決定する。コーナ進入時の減速Gと再加速要求量(たとえば再加速時のアクセルペダルの踏み込み量)とは相関関係があり、その減速Gが大きい程、再加速要求量が大きくなることが実験的検証により見出されている。
図6(a)〜(c)は、コーナにおける車両の加速度の変化を示す図である。図6(a)〜(c)において、コーナへの進入からそのコーナを抜けて立ち上がるまでの走行は、大きく4つに分けることができる。すなわち、コーナへの進入に備えて減速する区間[1]、コーナ進入後からコーナ頂点までの区間[2]、コーナ頂点からコーナ出口までの区間[3]、コーナ出口から再加速する区間[4]の4つに分けることができる。
図6(a)〜(c)において、区間[1]のコーナ進入時では、専ら前後Gが減速Gとなり、区間[2]および区間[3]のコーナ旋回時では、前後Gと左右Gとの合成加速度(合成Gという)が減速Gとなり、区間[4]のコーナ立ち上がり時では、専ら前後Gが加速度となる。
図6(a)〜(c)の例では、区間[1]の前後Gのピーク値はコーナ進入まで更新されている。このため本実施の形態では、前後Gがピーク値となったときの減速G(合成G)(以下、ピークGという)に基づいて再加速要求量を求める。つまり、前後Gのピーク値が更新される毎に、減速Gに基づいて再加速要求量を逐次求める。
ピークGに基づいて求められた再加速要求量は、たとえば駆動要求量の絶対値で表わしても良いが、車種毎の適合を考えると、たとえばそのときの車速Vにおいて発生させることが可能な最大駆動力に対する、コーナ立ち上がりの際に推測される再加速時の目標駆動力Ftの割合(駆動力要求割合DRr[%]と称す)で表わすことが好適である。目標ギヤ段算出部12は、この駆動力要求割合DRrを実現することができる自動変速機3のギヤ段を求める。
たとえば、目標ギヤ段算出部12は、この駆動力要求割合DRrを実現することができる自動変速機3のギヤ段のうちの最高車速側のギヤ段(最ハイギヤ段)を求める。図7は、各ギヤ段(たとえば第1速ギヤ段−第4速ギヤ段)毎に実現することができる車両駆動力(車両加速度)と車速Vとの予め定められた関係(ギヤ段毎駆動力マップ)上に駆動力要求割合DRrを示す図である。図7において、たとえば、ある車速Vにおいて駆動力要求割合DRrが点Aの状態である場合、目標ギヤ段算出部12は、その駆動力要求割合DRrを実現することができる第1速ギヤ段1stおよび第2速ギヤ段2ndのうちの最ハイギヤ段である第2速ギヤ段2ndをコーナ立上がり時の自動変速機3のギヤ段として選択する。
図8は、減速時のダウンシフト制御を示すフローチャートである。図8のステップS31において、目標ギヤ段算出部12は、開始条件が成立するまで待機する。開始条件とは、減速時のダウンシフト制御を開始するための条件であり、具体的には車両が減速時であるか否かを判定する。車両が減速時であるか否かは、前後Gセンサ23からの前後G信号を所定のしきい値と比較することで判定し、前後G信号が減速(減速G)であることを示しており、かつ、その大きさが所定のしきい値以上であって有意の値を示している場合に減速時であると判定する。
ステップS31において開始条件が成立すると判定した場合、目標ギヤ段算出部12はステップS32において、前後Gセンサ23で検出された前後G信号と、横Gセンサ24で検出された横G信号とに基づいて、前後Gと横Gを合成してなる合成Gを逐次算出し、ステップS33において合成Gが極小値であるか否かを判別する。合成Gが極小値でない場合は、目標ギヤ段算出部12は、ステップS34において合成Gから再加速時の駆動力要求割合DRrを算出する。
すなわち、目標ギヤ段算出部12は、予め定められた合成Gと再加速時の駆動力要求割合との関係を規定するマップにアクセスして、算出された合成Gに対応する再加速時の駆動力要求割合DRrを算出する。再加速時の駆動力は、減速して旋回部(カーブ)に進入し、その後に加速して旋回部を脱出する際の再加速に必要な駆動力である。再加速時の駆動力要求割合DRrは、そのときの最大駆動力を100とした場合の百分率で示され、合成Gが大きくなるほど再加速時の駆動力要求割合DRrは大きくなるように予め設定される。具体的な対応関係は任意であるが、たとえば合成Gに対してリニアな関係となるように規定することもできる。予め設定された関係を規定するマップは、電子制御装置10のメモリに予め記憶させておく。
次に、目標ギヤ段算出部12は、ステップS35においてその駆動力要求割合DRrを実現することが可能な逐次最ハイギヤ段GShnを算出し、ステップS38に進む。駆動力要求割合DRrとこれを実現できるギヤ段との関係も予めマップで規定されてメモリに記憶されており、目標ギヤ段算出部12は、このマップにアクセスすることで、算出した駆動力要求割合DRrを実現できる最も高いギヤ段を逐次最ハイギヤ段GShnとして算出する。
たとえば、算出した駆動力要求割合が60%であり、これを実現できるギヤ段が1段〜4段である場合、目標ギヤ段算出部12は、最も高いギヤ段として4段を算出する。また、算出した駆動力要求割合が80%であり、これを実現できるギヤ段が1段〜3段である場合、目標ギヤ段算出部12は、最も高いギヤ段として3段を算出する。
また、目標ギヤ段算出部12は、ステップS33において合成Gが極小値であると判別した場合は、ステップS36において合成Gの極小値から再加速時の駆動力要求割合DRrを算出し、ステップS37においてその駆動力要求割合DRrを実現することが可能な最ハイギヤ段GShを算出し、ステップS38に進む。
目標ギヤ段算出部12は、ステップS38において更新条件(1)〜(5)のうちのいずれかの更新条件が成立しているか否かを判別し、成立した更新条件に応じて目標ギヤ段GStを更新する。
更新条件(1)は、高応答制御が不許可であり、かつ合成Gが極小値を更新した場合に成立する。減速Gが極小値である場合は、ドライバがブレーキペダルを緩めたので、再加速のための変速を開始する必要がある。この更新条件(1)が成立する場合は、目標ギヤ段GStを最ハイギヤ段GShに更新する。
更新条件(2)は、高応答制御が不許可であり、かつ横Gが所定のしきい値を超えた場合に成立する。横Gが所定のしきい値を超えた場合は、車両が旋回を開始したと判定される。減速Gが極小値をとらないまま旋回を開始してしまう場合もあり得るので、減速Gが極小値をとらないと変速が開始されないものとすると、ギヤ段がそのまま保持されて再加速が困難となるからである。この更新条件(2)が成立する場合は、目標ギヤ段GStは逐次最ハイギヤ段GShnに更新される。
更新条件(3)は、高応答制御が不許可であり、かつ中継ギヤ段を経由しなければならない場合に成立する。自動変速機3によっては、ダウンシフトするためには構造上経由しなければならない中継ギヤ段が存在する。この更新条件(3)が成立する場合は、目標ギヤ段GStは逐次最ハイギヤ段GShnに更新される。
更新条件(4)は、高応答制御が不許可であり、かつ車速Vが低下した場合に成立する。図9は、各ギヤ段(たとえば第1速ギヤ段−第5速ギヤ段)毎に実現することができる車両駆動力(車両加速度)と車速Vとの予め定められた関係(ギヤ段毎駆動力マップ)上に駆動力要求割合DRrを示す図である。図9中の破線は、駆動力要求割合DRrが60%の場合を示している。ステップS34で駆動力要求割合DRrが60%と算出された場合、DRr=60%を実現できる逐次最ハイギヤ段GShnは車速Vに応じて変化する。そこで、車両駆動力を示す曲線(実線)と駆動力要求割合DRrを示す曲線(破線)との交点に車速Vが低下した場合、更新条件(4)が成立したとして、目標ギヤ段GStを逐次最ハイギヤ段GShnに更新する。これら(1)〜(4)の条件は、単独で、あるいは互いに組合せて用いることができる。
図8に戻って、更新条件(5)は、逐次変速条件が成立する場合に成立する。逐次変速条件が成立する場合とは、高応答制御が許可され、かつ逐次最ハイギヤ段GShnが前回の目標ギヤ段GStよりも小さい場合である。ブリッピングを伴うダウンシフト変速では、ギヤ段を一括変速するよりもギヤ段を1段ずつ順番に変速する方が変速時間を短縮できる。この更新条件(5)が成立する場合は、目標ギヤ段GStは逐次最ハイギヤ段GShnに更新される。
ステップS38の終了後はステップS39において目標ギヤ段算出部12は、目標ギヤ段GStが更新されたか否かを判別し、更新されなかった場合はステップS31に戻り、更新された場合はステップS40に進む。ステップS40では、目標ギヤ段GStはダウン方向に更新されたか否かを判別し、ダウン方向に更新された場合はステップS41で上限ギヤ段GSLを目標ギヤ段GStで更新する。ダウン方向に更新されなかった場合はステップS43で、保持していた上限ギヤ段GSLを解除してステップS31に戻る。
次に目標ギヤ段算出部12は、ステップS42において終了条件が成立しているか否かを判別する。この終了条件は、ステップS31における開始条件と対をなす条件である。具体的には、目標ギヤ段算出部12は、車両の減速が終了して加速しているか否かを前後Gセンサ23からの前後G信号を用いて判定する。終了条件が成立していない場合、目標ギヤ段算出部12は、ステップS44で上限ギヤ段GSLをそのまま保持し、ステップS45で旋回走行が行なわれているか否かを判定する。
旋回走行が行なわれているか否かの判定は、横Gセンサ24からの横G信号を用いて行なわれる。そして、旋回走行が行なわれている場合にはステップS44に戻り、保持している上限ギヤ段GSLを引き続き保持して旋回終了後の再加速に備える。また、旋回走行が終了した場合には、ステップS32に戻る。また、ステップS42において終了条件が成立している場合、すなわり減速が終了して再加速に移行した場合には、ステップS43で、保持していた上限ギヤ段GSLを解除し、ステップS31に戻る。次に、更新条件(1)〜(5)について、それぞれ詳細に説明する。
<更新条件(1)>
図10(a)〜(d)は、更新条件(1)が成立する場合のダウンシフト動作を示すタイムチャートである。図10(a)は、前後Gセンサ23によって検出される前後Gの時間変化を示している。車両が加速している場合は前後Gは正の値になり、車両が減速している場合は前後Gは負の値になる。ある時点から車両が減速を開始し、あるタイミングにおいて前後Gが極小値となるものとする。前後Gが極小値となるタイミングでドライバがブレーキペダルを緩めたものとする。
図10(b)は、図10(a)に示した前後Gから算出された再加速時の駆動力要求割合DRrを実現することができる逐次最ハイギヤ段GShnの時間変化を示している。減速度が大きくなるほどギア段GShnは低速側にシフトしていく。たとえば、5段で走行中に減速を開始するものとすると減速度が順次増大するとともに、これに応じてギヤ段GShnも5段→4段→3段→2段と低速側にシフトしていく。
図10(c)は、比較例の自動変速機のダウンシフト動作を示している。この比較例では、算出された目標ギヤ段となるように、その都度、自動変速機3がダウンシフトされる。順次算出される目標ギヤ段に応じて自動変速機3のギヤ段が第1変速、第2変速、第3変速と変速制御される。第1変速は5段から4段のダウンシフト、第2変速は4段から3段のダウンシフト、第3変速は3段から2段のダウンシフトである。変速時にブリッピングを行なわないので、各変速には比較的長い時間を要する。また、その都度ダウンシフトすると、1つの変速が終了するまで次の変速が不可となるから最終的に全ての変速が終了するまでに時間を要してしまう。
図10(d)は、本実施の形態の自動変速機3のダウンシフト動作を示している。本実施の形態では、前後Gに応じてその都度、目標ギヤ段GStを算出し、前後Gが極小値となったタイミングで一括して現在のギヤ段から最終目標ギヤ段GStに変速制御する。たとえば、順番変速では、5段→4段→3段→2段となるべきところ、図10(d)では前後Gが極小となるタイミングで5段→2段と一括変速する。このように本実施の形態では、高応答制御が許可されていない場合は、順番変速を行なうと変速時間が長くなるので、前後Gが極小となるタイミングで5段→2段と一括変速する。
<更新条件(2)>
図11(a)〜(c)は、更新条件(2)が成立する場合のダウンシフト動作を示すタイムチャートである。図11(a)は、前後Gセンサ23によって検出される前後Gと、横Gセンサ24によって検出される横Gとの時間変化を示している。ある時点から車両が減速を開始し、順次減速度が増大するものとする。つまり、図10(a)のように極小値をとらないものとする。車両は、ある時点から旋回を開始し、横Gは、あるタイミングにおいて所定のしきい値を超えるものとする。
図11(b)は、図10(b)と同様に、図11(a)に示す前後Gから求めた再加速時の駆動力要求割合DRrを実現することができる逐次最ハイギヤ段GShnの時間変化を示している。逐次最ハイギヤ段GShnは、前後Gに応じてその都度算出される。減速度が大きくなるほどギヤ段GShnは低速側にシフトしていく。たとえば、5段で走行中に減速を開始するものとすると減速度が順次増大するとともに、これに応じてギヤ段GShnも5段→4段→3段→2段と低速側にシフトしていく。
図11(c)は、横Gが所定のしきい値を超えたタイミングにおいて一括して現在のギヤ段から目標ギヤ段GStに変速する様子を示している。更新条件(1)では前後Gが極小となるタイミングにおいて一括変速しているが、図11(a)に示すように前後Gが極小値をとらずに単調に減速度が増大するケースでは、前後Gが極小となるタイミングで一括変速するものとすると、いつまでも変速が実行されないことになる。そこで、更新条件(2)では、横Gが所定のしきい値を超えたタイミングで一括変速する。これにより、たとえ前後Gが極小値とならなくてもギヤ段を一括変速によりダウンシフトできる。
<更新条件(3)>
図12(a)〜(c)は、更新条件(3)が成立する場合のダウンシフト動作を示すタイムチャートである。図12(a)は、前後Gセンサ23によって検出される前後Gの時間変化を示している。前後Gは、図10(a)と同様に変化し、あるタイミングにおいて極小値となるものとする。図12(b)は、図12(a)に示した前後Gから算出された再加速時の駆動力要求割合DRrを実現することができる逐次最ハイギヤ段GShnの時間変化を示している。逐次最ハイギヤ段GShnは、図10(b)と同様に変化し、5段→4段→3段→2段と低速側にシフトしていくものとする。
図12(c)は、比較例の自動変速機のダウンシフト動作を示している。この比較例では、前後Gが極小値をとるタイミングで現在のギヤ段から目標ギヤ段まで変速する際に、自動変速機3の構造上、中継ギヤ段を経由して変速する。たとえば、5段から2段に一括変速すべきところ、自動変速機3の構造上、4段を経由しなければ2段に変速できない場合、5段からまず4段に変速し、その後に4段から2段に変速する。この場合、中継ギヤ段を経由しなければならず、一種の順番変速と同様に変速遅延が生じてしまう。すなわち、5段から4段に変速が終了してから2段に変速するため、最終的に2段に変速するまでに時間を要してしまう。
図12(d)は、本実施の形態の自動変速機3のダウンシフト動作を示している。本実施の形態では、その都度算出される目標ギヤ段が中継ギヤ段に一致するタイミング(更新要件(3)が成立したタイミング)において一旦中継ギヤ段にダウンシフトし、その後、前後Gが極小となるタイミング(更新要件(1)が成立したタイミング)で一括変速する。予め中継ギヤ段にダウンシフトしているため、前後Gが極小となるタイミングで中継ギヤ段を経由することなく一括して目標ギヤ段GStまで変速できる。たとえば、5段から予め中継ギヤ段の4段に変速しておき、前後G信号100が極小となるタイミングで4段から2段に一括変速する。これにより、順番変速による変速遅延を防止できる。
<更新条件(4)>
図13(a)〜(c)は、更新条件(4)が成立する場合のダウンシフト動作を示すタイムチャートである。図13(a)は、前後Gセンサ23によって検出される前後Gの時間変化を示している。前後Gは、図10(a)と同様に変化し、あるタイミングにおいて極小値となるものとする。図13(b)は、図13(a)に示した前後Gから算出された再加速時の駆動力要求割合DRrを実現することができる逐次最ハイギヤ段GShnの時間変化を示している。逐次最ハイギヤ段GShnは、図10(b)と同様に変化し、5段→4段→3段→2段と低速側にシフトしていくものとする。
図13(c)は、自動変速機3のダウンシフト動作を示している。逐次最ハイギヤ段GShnが4段である場合において、ある時刻t0に車速Vが図9の車速V4よりも低下したものとする。この時点t0(更新要件(4)が成立したタイミング)において一旦、4段にダウンシフトし、その後、前後Gが極小となるタイミング(更新要件(1)が成立したタイミング)で4段から2段に一括変速する。これにより、順番変速による変速遅延を防止できる。
なお、更新条件(1)〜(4)のうちのいずれか1つの更新条件を単独で用いることもできるし、それらのうちの2つ、3つ、または4つの更新条件を組み合わせて用いることもできる。
<更新条件(5)>
図14(a)〜(c)は、更新条件(5)が成立する場合のダウンシフト動作を示すタイムチャートである。図14(a)は、前後Gセンサ23によって検出される前後Gの時間変化を示している。前後Gは、図10(a)と同様に変化し、あるタイミングにおいて極小値となるものとする。図13(b)は、図13(a)に示した前後Gから算出された再加速時の駆動力要求割合DRrを実現することができる逐次最ハイギヤ段GShnの時間変化を示している。逐次最ハイギヤ段GShnは、図10(b)と同様に変化し、5段→4段→3段→2段と低速側にシフトしていくものとする。
上記更新条件(1)〜(4)では、高応答制御が許可されず、変速時にブリッピングが実行されないが、本更新条件(5)では、高応答制御が許可され、ブリッピングが実行される。上述したように、ブリッピングを実行する場合は、自動変速機3の係合要素の伝達トルク容量の上昇率を上げても減速感を出さずに変速することができ、変速時間を短縮することができる。ブリッピングを伴うダウン変速では、変速時間はエンジンの吹上量に依存する。また、自動変速機3のギヤ段を一括変速する方法ではブリッピング時におけるエンジンの吹上量が大きいのに対し、自動変速機3のギヤ段を1段ずつ順番に変速する方法ではブリッピング時におけるエンジンの吹上量が小さい。このため、ブリッピングを伴うダウン変速では、ギヤ段を一括変速すると、ギヤ段を1段ずつ順番に変速するよりも変速時間が長くなる。
そこで、本実施の形態では図14(c)に示すように、高応答制御が許可されて変速時にブリッピングが実行される場合は、逐次最ハイギヤ段GShnが低速側にシフトされる毎に目標ギヤ段GStも低速側にシフトされ、その都度、自動変速機3のギヤ段がダウンシフトする。これにより、図14(d)に示すように、前後Gが極小値になったときに一括変速するよりも、迅速にダウンシフトすることができる。
図15(a)〜(c)は、更新条件(5)が成立した場合のダウンシフト動作を示すタイムチャートである。図15(a)はエンジン1の電子スロットルの開度を示し、図15(b)は自動変速機3の開放側クラッチ圧を示し、図15(c)は自動変速機3の係合側クラッチ圧を示している。まず時刻t0において自動変速機3の開放側クラッチ(たとえば5段用クラッチ)の圧力が所定圧力から0に向かって徐々に下げられる。時刻t1で開放側クラッチが解放されると、エンジン1の電子スロットルが予め定められた時間だけ予め定められた開度で開けられ、エンジン1の回転数が上げられる(ブリッピング)。次に、自動変速機3の係合側クラッチ(たとえば4段用クラッチ)の圧力が0から所定圧力に向かって徐々に上げられる。時刻t2で係合側クラッチが係合されると、ダウンシフトが終了する。
以上のように、本実施の形態では、自動変速機3の目標ギヤ段GStを逐次算出し、高応答制御が可能でない場合は減速度が極小値となるタイミングで自動変速機3のギヤ段を目標ギヤ段GStに一括変速させ、高応答制御が可能である場合は自動変速機のギヤ段を目標ギヤ段GStに逐次変速させるので、変速時間の短縮化を図ることができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。