従来から、基材テープ上に塗膜を設けた転写テープを繰出部から繰出し、転写押圧部で転写テープを押圧して塗膜を被転写面へ転写した後、基材テープを巻き取る塗膜転写具が使用されている。このような塗膜転写具では、基材テープの巻取り長さが転写テープの繰出し長さより長くなるように、転写テープを繰出す繰出コアと基材テープを巻き取る巻取コアを連動回転させ、転写テープTに適度な張力をかけることによって、転写テープTがたるまないようにしている。繰出コアと巻取コアをベルトで連動回転させるベルト駆動式の塗膜転写具では、ベルトによって巻取コアと繰出コアを連動回転させるとともに、ベルトと巻取コア間に生じるスリップによって、転写テープにかけられる張力を逃がしている。ベルトと巻取コアがスリップするときのトルクを「スリップトルク」と呼ぶ。また、転写テープが使用されておらず、繰出コアの繰出側パンケーキ外径が大きい状態を「使用初期」と呼び、転写テープが使用されて繰出コアの繰出側パンケーキ外径が小さくなった状態を「使用終期」と呼ぶ。
「使用初期」の転写テープの張力は、「使用終期」に比べて小さい。転写テープに適度な張力がかけられていると、転写直後の塗膜の切れが良いが、転写テープの張力が小さく転写ヘッド部分において転写テープがたるむと、塗膜の切れが悪くなり、良好な転写が行えない。そのため、塗膜転写具では、「使用初期」においても、転写テープの張力が小さくなりすぎて転写テープがたるむことがないように、スリップトルクを設計する必要がある。
一方、「使用終期」では、塗膜転写具の転写テープに大きな張力がかかる。転写テープの張力が大きくなりすぎると、塗膜を被転写面に転写する際、転写ヘッドを被転写面に強く押して転写作業をする必要があり、塗膜の転写不良が発生しやすくなる。そのため、塗膜転写具では、「使用終期」においては、転写テープの張力が大きくなりすぎて転写不良が発生しないように、スリップトルクを設計する必要がある。
このように、塗膜転写具のスリップトルクの設定は、「使用初期」と「使用終期」で相反する要求を満足する必要があり、良好な設定範囲が非常に小さく、設定が困難なものとなっていた。また、長尺の転写テープを収納すると、転写テープを巻き付けた繰出側パンケーキ外径の「使用初期」と「使用終期」間での径変化が大きく、「使用初期」と「使用終期」での転写テープの張力変化が大きくなるため、長尺の転写テープを収納した塗膜転写具を提供することができなかった。
このような問題を解決するために、転写ヘッドに加えられた押圧力により、繰出コアと巻取コアの軸間距離を短くする塗膜転写具が特許文献1と特許文献2により提案されている。両コアの軸間距離が短くなるとベルトの張力が低下するため、これらの塗膜転写具では、塗膜を転写する際に転写ヘッドを押圧することによって、転写テープの張力を緩和して、従来の塗膜転写具よりも軽い押圧操作で転写することができる。
しかしながら、特許文献1と特許文献2の塗膜転写具では、繰出コアと巻取コアの軸間距離を短くするために、繰出コア又は巻取コアが移動するので、次の(ア)、(イ)、及び(ウ)に示すような問題があった。
(ア)コアの移動により、転写テープが走行する繰出コアから巻取コアまでのテープルート長さが変化するため、転写テープがたるんで走行不良を起こすことがあった。
(イ)コアが移動時に傾くことがあり、基材テープが巻取コアで巻き乱れて、走行不良を起こすことがあった。
(ウ)転写ヘッドの押圧によって転写テープの張力を小さくしているので、転写ヘッドを強く押圧し過ぎると、転写テープの張力が小さくなり過ぎて、転写テープが走行不良となることがあった。また、転写ヘッドを被転写面から離すと転写テープの張力は小さい状態で維持されないので、繰出側パンケーキ外径が小さくなるにつれて、転写ヘッドの押圧開始時の転写テープの張力が大きくなる。このため、転写開始時の転写ヘッドの押圧力が小さいと、転写テープの張力を小さくすることができず、転写テープを繰出側パンケーキから繰出すことができないことがあった。したがって、長尺の転写テープを収納した塗膜転写具における「使用初期」と「使用終期」との転写テープの張力変化を小さくするという点では十分なものではなかった。
特許文献3では、繰出コアと巻取コアの間に、弾性部材の変形によってベルトの張力を自動的に調整する可動部材を設け、可動部材が転写テープの張力に応じて移動することによって、ベルトにかかる張力を減少させる塗膜転写具が開示されている。
しかしながら、特許文献3の塗膜転写具でも、塗膜を転写しようとするたびに、転写テープの張力によって可動部材を移動させ、ベルトにかかる張力を小さくしているので、転写ヘッドを被転写面から離すと、転写テープの張力は小さい状態で維持されないことがある。したがって、特許文献3の塗膜転写具でも、繰出側パンケーキ外径が小さくなるにつれて、転写ヘッドの押圧開始時の転写テープの張力が大きくなり、長尺の転写テープを収納した塗膜転写具における「使用初期」と「使用終期」との転写テープの張力変化を小さくするという点では十分なものではなかった。
また、廃棄材料を極力少なくするために、転写テープを必要最小限の部品とともに交換カセットとし、連動回転機構などの非交換部分からなる本体カセットに装着する交換式の塗膜転写具が、従来から特許文献4などで開示されている。長尺の転写テープを収納した塗膜転写具をこのような交換式とすることができれば、廃棄材料が少なく経済性に優れた塗膜転写具を提供することができる。しかしながら、交換式の塗膜転写具に長尺の転写テープを収納するためには、交換カセットを交換するたびに、繰り返し「使用初期」と「使用終期」の転写テープの張力変化を小さくできる機構を設ける必要がある。従来の塗膜転写具にこのような機構を設けようとすると、交換カセットの構造が複雑となり、交換部品を少なくすることができず、さらには交換カセットを容易に交換することができなかった。
図1に、本発明の第1実施形態の塗膜転写具Aを示す。塗膜転写具Aは、基材テープ上に塗膜を設けた転写テープを繰出部から繰出し、転写押圧部で転写テープを押圧して塗膜を被転写面へ転写した後、基材テープを巻き取ることや、基材テープの巻取り長さが転写テープの繰出し長さより長くなるように、転写テープを繰出す繰出コアと基材テープを巻き取る巻取コアを連動回転させ、転写テープに適度な張力をかけることによって、転写テープがたるまないようにしていることは、従来の塗膜転写具と同様である。
塗膜転写具Aは、本体カセット1と交換カセット2で構成されており、交換カセット2の転写テープTの塗膜を使い終えると、新たな交換カセット2を本体カセット1に装着して、繰り返し本体カセット1を使用することができる。
塗膜転写具Aでは、交換カセット2は、繰出コア23に転写テープTを巻きつけた繰出側パンケーキと巻取コア25、転写ヘッド24、及びこれらを保持する交換ケース21、交換カバー22の必要最小限の部品で構成されており、繰出コア23と巻取コア25を連動回転させる連動回転機構は本体カセット1に設けられている。なお、塗膜転写具Aでは、交換カセット2に転写ヘッド24を設けているが、交換カセット2を本体カセット1へ容易に装着可能であれば、転写ヘッドを本体カセット1に設けてもよい。
塗膜転写具Aでは、交換カセット2が本体カセット1に装着されていない状態では、繰出コア23は回転しない。図1(c1)に示すように、交換カセット2の交換カバー22には、繰出コア23を保持する長穴223が設けられている。長穴223は、巻取コア25が装着される穴225に向かう方向が長くなっている。図1(h)に示すように、長穴223の周りには、長穴223の一部が切り欠かれ、弾性変形可能で先端に3角形状の突起226がある弾性片221が設けられている。弾性片221は長穴223の長手方向側部の2箇所に設けられ、3角形状の突起226は長穴223を挟み込むように向き合っている。一方、繰出コア23の端部には、外周1周に連続して、3角歯231が設けられている。繰出コア23を交換カセット2に装着すると、3角歯231と3角形状の突起226が噛み合って、繰出コア23が回転しないようになるとともに、繰出コア23は穴225から遠い側の長穴223の長手方向端部に固定される。
図1(c3)に示すように、交換ケース21にも繰出コア23を保持する長穴213が設けられる。長穴213は、交換ケース21の巻取コア25が装着される穴215に向かう方向が長くなっている。長穴213、223ともに巻取コア25に向かう方向が長い長穴であるので、3角歯231と3角形状の突起226が噛み合っていない状態では、繰出コア23が回転可能、かつ、巻取コア25に対して遠近方向に移動可能となる。しかしながら、交換カセット2が本体カセット1に装着されるまでは、3角歯231と3角形状の突起226とが噛み合っているので、繰出コア23は、長穴213、223内の巻取コア25から最も遠い位置に固定されるとともに、回転しない。塗膜転写具Aでは、3角形状の突起226及び3角歯231を交換カバー22側にのみ設けている。しかしながら、交換カセット2を本体カセット1に装着することで、繰出コア23を回転可能かつ長穴213,223内の長手方向に移動可能とすることができるのであれば、3角形状の突起及び3角歯を交換ケース21側のみ、または交換ケース21と交換カバー22の両方に設けてもよい。
塗膜転写具Aでは、巻取コア25は塗膜を転写後の基材テープT1を巻き取る方向の反対方向へは回転しない。図1(c1)、(i)に示すように、交換カセット2の交換カバー22には、巻取コア25を保持する穴225が設けられている。穴225の周りには、穴225の一部が切り欠かれ、弾性変形可能で先端に3角形状の突起である変形ツメ227がある弾性変形可能な弾性片228が設けられている。一方、巻取コア25の端部には、外周1周に連続して、逆転防止ツメ251が設けられている。巻取コア25を交換カセット2に装着すると、逆転防止ツメ251と変形ツメ227が噛み合う。繰出コア23側の3角歯231と3角形状の突起226は、単に噛み合って、繰出コア23の回転と移動が防止できればよいので、特に方向性を設ける必要はないが、逆転防止ツメ251と変形ツメ227には、方向性が設けられる。逆転防止ツメ251と変形ツメ227に設けられた方向性によって、巻取コア25は塗膜を転写後の基材テープT1を巻き取る方向の反対方向へは回転しない。図1(i)に示すように、逆転防止ツメ251と変形ツメ227の形状は、巻取コア25が基材テープT1を巻き取る方向の反対方向へ回転する場合には、逆転防止ツメ251と変形ツメ227が強く噛み合い、巻取コア25の回転を防止する。一方、巻取コア25が基材テープT1を巻き取る方向へ回転する場合には、変形ツメ227の斜面が逆転防止ツメ251の斜面に沿ってすべりながら、弾性片228が弾性変形することによって、変形ツメ227が逆転防止ツメ251を乗り越えることができるものとなっている。したがって、巻取コア25は基材テープT1を巻取る方向へは回転可能であるが、基材テープT1を巻き取る方向の反対方向へ回転することができない。このように、巻取コア25から基材テープT1が巻き戻されることがなく、前記のように、交換カセット2が本体カセット1に装着されていない状態では繰出コア23の3角歯231と3角形状の突起226が噛み合って、繰出コア23は回転しない。よって、交換カセット2が本体カセット1に装着されていない状態では、転写テープTは一定の張力で張った状態で維持される。
図1(a)、(b)に示すように、本体カセット1は、ヒンジ19で連結された本体ケース11と本体カバー12、交換カセット2が装着されると繰出コア23とともに回転する繰出プーリー13、同様に巻取コア25とともに回転する巻取プーリー15、繰出プーリー13と巻取プーリー15の溝に掛けまわされ、繰出プーリー13と巻取プーリー15を連動回転させるベルトであるOリング16、及び、繰出プーリー13を回転可能に保持し巻取プーリー15に対して遠近方向にスライド移動可能なスライダー17から構成されている。
スライダー17のスライド方向側方にはラチェット歯171が連続して複数設けられている。図1(d)、(m)に示すように、本体カセット1に交換カセット2が装着されていない状態では、本体ケース11に一体に設けられた係合ツメ18はラチェット歯171と噛み合っていないが、本体カセット1に交換カセット2が装着されると図1(g)に示す交換ケース21に設けられた凸部211が、図1(o)に示すように係合ツメ18を弾性変形させることによって、係合ツメ18とラチェット歯171が噛み合う。係合ツメ18を弾性変形させることによって、係合ツメ18とラチェット歯171が噛み合うので、本体カセット1から交換カセット2を取り外すと、再び、係合ツメ18とラチェット歯171とは噛み合わない状態に戻る。塗膜転写具Aでは、係合ツメ18を本体ケース11に一体に設けたが、係合ツメ18を本体ケース11とは、別部品としてもよい。係合ツメ18を本体ケース11と別部品とする場合には、係合ツメ18自身の弾性力に代えて、金属製のコイルスプリングや板バネなどで、係合ツメ18をスライダー17から遠ざかる方向に引張り又は押圧してもよい。金属製のコイルスプリングや板バネを使用することで、本体カセットの耐久性を向上することができ、より多くの交換カセットに対して、本体カセットを繰り返し使用することができる。
塗膜転写具Aでは、本体ケース11と本体カバー12をヒンジ19部分で分離する別々の部品としている。しかしながら、本体カセット1の本体ケース11と本体カバー12はヒンジを含めて一体の部品としてもよい。経済性を考慮すると、一体成型したプラスチック成型品とすることが好ましい。
図1(d)、(e)に示すように、本体カバー12の側壁にはフック121が設けられており、一方本体ケース11の側壁には受け部111が設けられている。ヒンジ19部分を折り曲げることによって、本体カバー12を本体ケース11に覆い被らせると、フック121が一旦弾性変形した後に、受け部111に噛みこんで、本体ケース11と本体カバー12が閉じた状態で固定される。本体カバー12の内壁には2箇所の突起122が設けられている。本体ケース11に交換カセットが装着された状態で、本体カバー12を閉じると、図1(n)に示すように、突起122が交換カセット2の弾性変形可能な2箇所の弾性片221と接触して押圧し、弾性片221が弾性変形する。突起122の押圧により、弾性片221はそれぞれ3角歯231から遠ざかる方向に弾性変形して、繰出コア23は交換カバー22に対して回転可能となる。
交換カセット2を本体カセット1に装着すると、凸部211は係合ツメ18と接触して押圧し、係合ツメ18が移動してスライダー17側部に設けられたラチェット歯171と噛み合う。ラチェット歯171と係合ツメ18の形状は、図1(d)、(m)に示すように、スライダー17が巻取プーリー15から遠ざかる方向へ移動する場合には、ラチェット歯171と係合ツメ18が強く噛み合い、スライダー17の移動を防止し、スライダー17が巻取プーリー15へ近づく方向へ移動する場合には、係合ツメ18の斜面がラチェット歯171の斜面に沿ってすべりながら、係合ツメ18が弾性変形することによって、係合ツメ18がラチェット歯171を乗り越えることができるものとなっている。このため、交換カセット2が装着された状態では、スライダー17は本体カセット1内において、巻取プーリー15方向へは移動可能であるが、巻取プーリー15から遠ざかる方向へは移動できない。
塗膜転写具Aでは、ラチェット歯171と係合ツメ18は、それぞれ、スライダー17、本体ケース11と同材質の樹脂材料で一体成型した成型品としている。しかしながら、ラチェット歯171と係合ツメ18は本体カセット1に設けられ、繰り返し使用されるため、耐久性が不足するおそれがある。耐久性が不足する場合には、ラチェット歯171と係合ツメ18を金属材料で製作することが好ましい。ラチェット歯171と係合ツメ18を金属製とする場合には、金属で製作したラチェット歯171と係合ツメ18を、それぞれスライダー17本体ケース11を形成する金型内にインサートした状態で、成型品を成型することによって、スライダー17,本体ケース11を製作することができる。
繰出コア23から繰り出された転写テープTは、巻取コア25がある転写ヘッド24方向へ走行する。繰出プーリー13は、巻取プーリー15に対して遠近方向にスライド移動可能なスライダー17上に回転可能に保持されているので、転写テープTの張力によって繰出プーリー13は、巻取プーリー15方向に移動可能となっている。また、本体カバー12が閉じられると、図1(n)に示すように、本体カバー12の突起122が、交換カセット2の弾性変形可能な弾性片221と接触して押圧し、弾性片221が3角歯231から遠ざかる方向に弾性変形する。この結果、繰出コア23は交換カバー22に対して回転可能、かつ、交換カバー22の長穴223の長手方向、すなわち、巻取プーリー15方向に移動可能となる。
このように、交換カセット2が本体カセット1に装着されて、本体カバー12が閉じられると、繰出プーリー13、繰出コア23ともに、巻取プーリー15方向に移動可能となる。したがって、塗膜転写具Aが使用されて、転写テープTが繰出コア23から繰出されると、転写テープTの張力によって繰出コア23とともに繰出プーリー13が巻取コア15方向へ移動する。
繰出プーリー13が巻取プーリー15方向へ移動すると、Oリング16の周長が短くなり、Oリング16の張力が小さくなる。Oリング16の張力が小さくなることにより、Oリング16と巻取プーリー15とがすべることによって発生するスリップトルクが小さくなり、転写テープTが繰出コア23から引き出される張力も小さくなる。
一般的に塗膜転写具では、繰出コアと巻取コアを連動回転手段で連動回転させて、繰出コアから繰り出される転写テープよりも巻き取られる塗膜転写後の基材テープが長くなるように、繰出コアと巻取コアの回転比を設定して、転写テープと基材テープをたるむことなく走行させている。このような塗膜転写具では、転写テープを使用するに従って、繰出コアに巻きつけられた繰出側パンケーキの外径が小さくなる。一方、繰出コアに負荷されるブレーキは、巻取コアと連動回転手段とのスリップにより発生しているため、繰出側パンケーキ外径とは関係なくほとんど変化しない。このため、転写テープの張力は繰出側パンケーキの外径が小さくなるに連れて大きくなる。
これに対して、塗膜転写具Aでは、転写テープTの張力が大きくなることによって繰出プーリー13を移動させ、繰出プーリー13と巻取プーリー15間の距離を狭めて、転写テープTの張力を小さくしている。このようにすることにより、塗膜転写具Aでは、長尺の転写テープTを収納しても、「使用初期」から「使用終期」までの転写テープTの張力変化が少なく、「使用初期」から「使用終期」までの軽い力で塗膜を転写することができ、操作性が良い。
さらに、塗膜転写具Aのスライダー17は、交換カセット2が装着された状態では、本体カセット1内を巻取プーリー15方向へは移動可能であるが、巻取プーリー15から遠ざかる方向へは移動できない。したがって、塗膜転写具Aでは、塗膜転写後に転写ヘッド24を被転写面から持ち上げても、繰出プーリー13は巻取プーリー15から遠ざからず、転写テープTの張力は小さくなった状態が維持される。この結果、塗膜転写具Aでは、塗膜転写再開時においても転写ヘッドの押圧力を大きくする必要がなく、さらに操作性がよい。
本体ケース11にはレール部112が設けられている。レール部112の形状は図1(o)に示すようなL字形状であり、スライダー17を挟んで左右対称のL字形状が2対設けられている。レール部112が設けられているので、スライダー17は、巻取プーリー15に対する遠近方向以外には動かないようになっている。また、スライダー17には、弾性部172が設けられている。弾性部172はスライダー17に一体に設けられた樹脂バネである。スライダー17を本体ケース11のレール部112に装着すると、弾性部172は少し弾性変形した状態となり、弾性部172の弾性力によって、スライダー17は巻取プーリー15から遠ざかる方向へ押圧された状態となる。
弾性部172を設ける主な目的は、交換カセット2の転写テープTの塗膜を使い終え、新たな交換カセット2を装着する時に、スライダー17の位置を初期状態、すなわち、繰出プーリー13が巻取プーリー15から遠ざかった位置に押し戻すことである。交換カセット2の転写テープTの塗膜を使い終え、交換カセット2を本体カセット1から取り外すと、交換ケース2の外壁に設けられた凸部211が係合ツメ18を押圧しなくなり、係合ツメ18は係合ツメ18自身の弾性力によってスライダー17から遠ざかる方向に押し戻され、ラチェット歯171と係合ツメ18は噛み合わない状態となる。このため、スライダー17は巻取プーリー15から遠ざかる方向へ移動可能となり、弾性部172の弾性力により、スライダー17の位置を初期状態、すなわち、繰出プーリー13が巻取プーリー15から遠ざかった位置に押し戻す。繰出プーリー13が押し戻されることによって、繰出プーリー13と巻取プーリー15間の軸間距離が、新たに装着する交換カセット2の繰出コア23と巻取コア25の軸間距離と同じになるので、新たな交換カセット2の本体カセット1への装着が容易となり、新たな交換カセット2を装着した塗膜転写具Aも、操作性のよい交換式の塗膜転写具とすることができる。しかも、塗膜転写具Aでは、連動回転機構やスライダー17を本体カセットに設けたので、交換時に廃棄する交換部品を増やすことなく、操作性のよい交換式の塗膜転写具とすることができる。
弾性部172を設ける他の目的は、転写テープTの張力の調整と、外部からの衝撃による繰出プーリー13の巻取プーリー15方向への移動の防止が挙げられる。
塗膜転写具Aでは、転写テープTの張力は転写テープTの張力自身と繰出側パンケーキの外径によって変化する。転写テープTの張力によってスライダー17とともに繰出プーリー13が移動すると、繰出プーリー13と巻取プーリー15の軸間距離が短くなることによって、Oリング16の張力が小さくなり、転写テープTの張力が小さくなる。一方、転写テープTが繰出されることによって、繰出側パンケーキの外径が小さくなると、転写テープTの張力は大きくなる。本発明の主な課題は、「使用初期」から「使用終期」までの転写テープTの張力変化を小さくすることである。したがって、転写テープTの張力によってOリング16の張力が小さくなる効果と、繰出側パンケーキの外径が小さくなる効果が打ち消し合って、転写テープTの張力が変化しないことが、本発明の理想である。
塗膜転写具Aでは、転写テープTの張力が作用する方向と、繰出プーリー13から見て巻取プーリー15のある方向が略一致しているため、転写テープTの張力によって、繰出プーリー13が移動しやすい。したがって、塗膜転写具Aに弾性部172を設けなければ、転写テープTの張力によってOリング16の張力が小さくなる効果の方が、繰出側パンケーキの外径が小さくなる効果よりも大きくなりやすい。このため、塗膜転写具Aでは、転写テープTの張力によってOリング16の張力が小さくなり過ぎることを防止するために、弾性部172が設けられている。
また、塗膜転写具に加えられる衝撃などによって、繰出プーリー13が巻取プーリー15方向に移動すると、繰出側パンケーキの外径が変わっていないにも関わらず、転写テープTの張力が小さくなる。したがって、転写テープTの張力が小さくなり過ぎて、転写テープTがたるむなどの走行不良となるおそれがある。弾性部172が設けられていると、常にスライダー17を巻取プーリー15から遠ざかる方向へ押圧しているので、塗膜転写具に加えられる衝撃などによって、繰出プーリー13が巻取プーリー15方向へ移動することを防止できる。
塗膜転写具Aでは、弾性部172をスライダー17に一体に設けた樹脂バネとしたが、弾性部を別部材としてもよい。別部材の弾性部としては、金属製のコイルスプリングや板バネが例示される。弾性力を高い精度で設定する必要がある場合には、コイルスプリングを使用することが好ましい。
本体ケース11には、スライダー17の巻取プーリー15方向への移動を制限する前部ストッパ113と、スライダー17の巻取プーリー15の反対方向への移動を制限する後部ストッパ117を設けることが好ましい。前部ストッパ113は、繰出プーリー13が巻取プーリー15方向へ移動し過ぎて、転写テープTが走行不良となることを防止するために設けられる。前部ストッパ113によって、転写テープTの張力が「使用終期」における適性値を下回るような位置にまで、繰出プ−リー13が移動しないようになっている。一方、後部ストッパ117は、繰出プーリー13が巻取プーリー15の反対方向へ移動し過ぎず、「使用初期」において転写テープTの張力が適正な値となる位置に設けられている。但し、Oリング16の張力と弾性部172の弾性力がつりあって、交換カセット2を取り外した場合に、繰出プーリー13が「使用初期」において転写テープTの張力が適正な値となる位置に留まるのであれば、後部ストッパ117は、必ずしも設ける必要はない。
また、本発明の塗膜転写具Aの巻取コア25には、巻き取った基材テープT1が逆戻りしてたるまないように、逆転防止機構を設けることが好ましい。ベルト(Oリング16)で繰出部と巻取部を連動している塗膜転写具では、転写テープTの塗膜を、転写ヘッド24を介して被転写面に転写している時は、繰出コア23から転写テープTが繰り出されて繰出コア23が回転し、その回転が繰出プーリー13と巻取プーリー15間に掛け回されたOリング16を繰出プーリー13側から巻取プーリー15側に向けて押し出す。このため、繰出プーリー13側から巻取プーリー15側に向かうOリング16は外方向に膨らんでたるむ。一方、逆側の巻取プーリー15から繰出プーリー13側に向かうOリング16は、繰出プーリー13の回転に引っ張られて引き延ばされながら巻取プーリー15を回転させることになる。この状態で、塗膜転写具を被転写面から離すと、Oリング16はゴム製なので、自身の弾性力で元の長さに戻り、繰出プーリー13と巻取プーリー15を転写テープTが引き出される方向とは逆方向に回転させて、転写テープTを巻取コア25側から繰出コア23側へ引き戻すことになる。そのため、転写ヘッド24で転写し終わった基材テープT1は繰出コア23側に引き戻され、転写ヘッド24の塗膜転写位置の転写テープTには塗膜が無い状態になる。このため、次に塗膜転写具で塗膜を転写しようとしても、塗膜転写位置には塗膜がないので転写できないという問題が生じる。巻取部に逆転防止機構を設けると、Oリング16の弾性力による巻取プーリー15及び巻取コア25の逆方向への回転が防止できるので、転写テープTが繰出コア23側に引き戻されることを防止でき、次に塗膜転写具で塗膜を転写しようとした場合に、塗膜転写位置の転写テープTに塗膜がないという問題が解消できる。
本発明の塗膜転写具Aにおいては、巻取部の逆転防止機構は、次の点でさらに重要な役割を果たしている。本発明の塗膜転写具Aでは、転写テープTの張力を利用して、繰出プーリー13を移動させることにより、Oリング16の張力を小さくして、転写テープTの張力が大きくなり過ぎないようにしている。Oリング16の弾性力により転写テープTが繰出コア23側に引き戻されると、転写テープTの張力が瞬間的に小さくなり、転写テープTの張力による繰出プーリー13の移動が不安定になる。転写テープTの張力による繰出プーリー13の移動が不安定になると、転写テープTの張力が不安定になって、意図した張力にできないことがある。このように、本発明の塗膜転写具Aでは、巻取部の逆転防止機構は、転写テープTの張力を安定させる役割も果たしている。
塗膜転写具Aの巻取部の逆転防止機構は、図1(c1)、(i)に示すように、交換カバー22に設けられた変形ツメ227と巻取コア25に設けられた逆転防止ツメ251で構成されている。
塗膜転写具Aでは、繰出コア23の回転中心Lと巻取コア25の回転中心Mと転写ヘッド24の塗膜転写位置Nを、L、M、Nの順で略一直線上に設けるように配置している。L、M、Nの順で略一直線上に設けると、繰出コア23の回転中心Lから見た巻取コア25の回転中心Mの方向と転写テープTが張力により繰出コア23を引く方向がおおよそ同方向であり、また、繰出コア23に転写テープTを巻き付けた繰出側パンケーキや巻取コア25を、交換ケース21内に無駄なスペースを設けずに効率よく収納できる。したがって、L、M、Nをこの順で略一直線上に設けると、転写テープTの張力により繰出コア23と巻取コア25との軸間距離を確実に短くすることができるとともに、塗膜転写具を小型でコンパクトなものとすることができる。
本発明の塗膜転写具は、必ずしもL、M、Nをこの順で略一直線上に配置する必要はなく、転写テープTの張力で繰出コア23を巻取コア25方向へ移動することによって、「使用初期」から「使用終期」の間の転写テープTの張力の変化を小さくすることができるものであれば、L,M及びNを任意の配置とすることができる。例えば、本発明の塗膜転写具は、図5に示す本発明の第3実施形態である塗膜転写具Dのように、L,M、Nを配置してもよい。
図5(a)は塗膜転写具Dの「使用初期」を表している。図5(a)において、繰出コア23の回転中心Lから見た巻取コア25の回転中心Mの方向と、転写テープTの張力が繰出コア23を引く方向が一致しているが、塗膜転写具Dが使用され繰出側パンケーキの外径が小さくなると、繰出コア23の回転中心Lから見た巻取コア25の回転中心Mの方向と、転写テープTの張力が繰出コア23を引く方向が一致しなくなる。しかしながら、塗膜転写具Dでは、図5(b)に示す「使用終期」においても、繰出コア23の回転中心Lと巻取コア25の回転中心Mを結んだ線分LMと、転写テープTが成す角度は小さい。言い換えると、塗膜転写具Dの「使用終期」では、転写テープTに作用する張力自体と、転写テープTに作用する張力の線分LMに平行な分力のなす角度(図5(b)中の角W)は小さい。よって、転写テープTの張力の線分LMに平行な分力は、転写テープTの張力自体と比べて大きな差は無く、この線分LMに平行な分力でも、繰出コア23と巻取コア25との軸間距離を確実に短くすることができる。
角度Wが大きくなると、転写テープTの張力の線分LMに平行な分力が小さくなるため、繰出コア23と巻取コア25との軸間距離を短くすることができなくなる。したがって、角度Wは「使用初期」から「使用終期」を通じて45度以下が好ましく、30度以下がより好ましい。この角度が45度を超えると、繰出コア23に作用する転写テープTの張力の線分LMに平行な分力が小さくなりすぎて、転写テープTの張力によって巻取コア25と繰出コア23間との軸間距離を短くして、転写テープTの張力を小さくする効果が減少し、「使用初期」から「使用終期」までの転写テープTの張力の変化を小さくすることができなくなる。
図2に、本発明の第2実施形態の塗膜転写具Bを示す。塗膜転写具Bは、逆移動防止機構の構成が異なる以外は、塗膜転写具Aと同様である。
図2(b)、(c3)、(g)に示すように、塗膜転写具Bの交換ケース21の外壁には、ラチェット歯28が設けられている。一方、スライダー17には先端に係合ツメ173を有する弾性変形可能な弾性片が設けられている。
図2(g)に示すように、本体カセット1に交換カセット2を装着すると、ラチェット歯28と係合ツメ173が噛み合う。
係合ツメ173とラチェット歯28の形状は、図2(g)に示すように、スライダー17が巻取プーリー15から遠ざかる方向へ移動する場合には、係合ツメ173とラッチェット歯28が強く噛み合ってスライダー17の移動を防止し、スライダー17が巻取プーリー15へ近づく方向へ移動する場合には、係合ツメ173の斜面がラチェット歯28の斜面に沿ってすべりながら、係合ツメ173が設けられた弾性片全体が弾性変形することによって、係合ツメ173がラチェット歯28を乗り越えることができるものとなっている。このため、交換カセット2が装着された状態では、スライダー17は本体カセット1内を、巻取プーリー15方向へは移動可能であるが、巻取プーリー15から遠ざかる方向へは移動できない。
幅6mmの両面離型処理をしたPETフィルム上に、長さ10.2mに亘って修正テープ用の塗膜を塗布した転写テープを図1の繰出コア23に巻き付けて繰出側パンケーキを準備した。この繰出側パンケーキを図1の塗膜転写具に収納した塗膜転写具A1を準備した。塗膜転写具A1のスライダー17の弾性部172は、バネ定数が0.1N/mmであり、スライダー17が弾性部172に押圧されて、スライダー17が後部ストッパ117と接触した初期状態にセットすると、弾性部172は1.3Nでスライダー17を巻取プーリー15の反対方向へ付勢する。
実施例2として、実施例1の塗膜転写具A1とスライダー17の弾性部172のみが異なる塗膜転写具A2を準備した。塗膜転写具A2のスライダー17の弾性部172は、バネ定数が0.1N/mmであり、前記初期状態にセットすると、弾性部172は1.7Nでスライダー17を巻取プーリー15の反対方向へ付勢する。
実施例3として、図2に示す塗膜転写具を用いた以外は、実施例1の塗膜転写具と同様の塗膜転写具B1を準備した。
比較例1として、スライダー17が無く、繰出プーリー13が前記初期状態の位置で本体カセット1に直接、回転可能に軸支されている以外は、塗膜転写具A1と同様の図3に示す塗膜転写具C1を準備した。
実施例1、2、3及び、比較例1の塗膜転写具を使用し、以下の方法により各々の転写押圧力を評価した。被転写体(PPC用紙)を台座付き電子天秤の台座上に置き、図4に示す角度で塗膜転写具の転写ヘッドを被転写体(PPC用紙)に押圧し、塗膜が転写できる最小の転写押圧力(電子天秤が示す荷重値)を測定した。この測定における、塗膜転写具の転写スピードは2cm/秒とした。転写押圧力の測定は、繰出側パンケーキに長さ10.2mの修正塗膜が巻かれている初期状態から開始し、修正塗膜を1m消費するたびに測定した。
評価結果は表1に示す通りであった。実施例1、2、3の塗膜転写具は比較例1の塗膜転写具に比べ、転写テープの全長において、転写押圧力の変化が小さく操作性がよかった。