JP6450676B2 - 蜂のシルク蛋白質の水溶液とその製造方法 - Google Patents
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Description
特許文献2にはフィルム片を得たことが記載されているが、透析工程でシルク蛋白質が固化していた。そのため、最終的にフィルム片に残っているシルク蛋白質は、一部の種類のシルク蛋白質に限られていた。従って、十分な力学物性、又は柔軟性を有するフィルム片を得ることができなかった。また、特許文献2の方法では、固化成分をフィルターで除去する工程が必要なため、操作性の面でも改善の余地を有していた。
本発明の一実施形態は、シルク蛋白質を含有する透析済水溶液の生産方法である。この生産方法は、例えば、透析内液として蜂のシルク蛋白質を含有する無機塩水溶液を用い、透析外液として高pHの水溶液を用いて透析する工程を含む、生産方法である。この生産方法において、透析内液は透析後でも水溶液状態を維持できる。またこの生産方法によって、透析内液の無機塩濃度を低減させることができる。そのため、この生産方法によれば、透析後の透析内液から、フィルムの原料等の各種用途に使用可能で、蜂のシルク蛋白質を豊富に含む高品質な水溶液を得ることができる。
本発明の一実施形態は、シルク蛋白質を含有する硬化材料の生産方法である。この生産方法は、例えば、透析内液として蜂のシルク蛋白質を含有する無機塩水溶液を用い、透析外液としてpH9.0以上の水溶液を用いて透析する工程を含む、生産方法である。この生産方法は、さらに上記透析工程後の透析内液を透析膜から回収する工程と、回収後の透析内液を硬化させる工程とを含んでいてもよい。この生産方法を経て得られる硬化材料は、力学物性、透明性、又は、柔軟性に優れている。又は、この生産方法を経て得られる硬化材料は、αへリックス構造を有している。
本発明の一実施形態は、シルク蛋白質を含有するpH9.0未満の水溶液の安定性を向上させる方法である。この方法は、例えば、シルク蛋白質を含有するpH9.0未満の水溶液に対して、pH9.0以上の水溶液を用いて透析する工程を含む、方法である。この方法によれば、透析済水溶液の安定性を向上させることができるため、長期間保存後でも、シルク蛋白質を含有する透析済水溶液を医療用製品用等の用途に使用することができる。なお、安定性を向上させることは、固化を抑制することを含む。
透析外液のpHは、シルク蛋白質の固化をより抑制する観点からは、9.0以上が好ましく、pH10.0以上がより好ましい。pHは、例えば、9.0、9.5、10、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5、13.0、13.5、又は14以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
透析前の上記透析内液のシルク蛋白質の濃度は、シルク蛋白質の透析中の固化をより抑制する観点からは、140mg/mL以下が好ましく52mg/mL以下がより好ましい。また、シルク蛋白質をより豊富に含み、且つ力学物性又は柔軟性に優れた硬化材料を作成する観点からは、15mg/mL以上が好ましく、35mg/mL 以上がより好ましい。このように、透析内液中のシルク蛋白質濃度が高ければ、硬化材料作成時の乾燥時間を節約できるという効果がある。そして、乾燥時間を節約できれば乾燥時間中の蛋白質の変性が抑えられるため、所望の物性のフィルムをより効率的に得ることができる。また、乾燥時間を節約できれば、手間が減り、硬化材料の生産性が向上する。透析内液のシルク蛋白質の濃度は、例えば、1、3、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、又は180 mg/mLであってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
透析外液は、力学物性、透明性、又は柔軟性に優れた硬化材料を得る観点からは、揮発性塩基物質を含む水溶液であることが好ましい。揮発性塩基物質としては、例えば、アミノ基を有する揮発性化合物であってもよい。アミノ基を有する揮発性化合物は、例えば、アンモニア、ジエチルアミン、又はトリメチルアミン等を挙げることができる。揮発性塩基物質は、幅広い透析条件下でシルク蛋白質の固化を抑制可能な観点からは、アンモニアが好ましい。ジエチルアミンを用いる場合には、フィルムを得るための乾燥過程で腐食の防止措置を取ることが好ましい。トリエチルアミンは、18.7℃以下では水に溶けにくい。そのため、トリエチルアミンを用いた場合には、20℃以上の高温で透析やキャストを行うことが好ましい。透析外液のpHは、揮発性塩基物質の濃度を調整することによって、調整してもよい。なお「揮発性」は、気化しやすい性質を含む。即ち揮発性は、気化性を含む。塩基物質を含む水溶液が硬化した際に、硬化材料にその塩基物質が残存しないとき、揮発性とみなしてもよい。仮に揮発性塩基物質が硬化材料中に微量に残存した場合の残存率は低いほど好ましく、例えば、例えば、0.5、0.1、0.01、0.001、又は0%であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
本発明の一実施形態においてシルク蛋白質は、例えば、繭に含まれている蛋白質である。繭は、例えば、巣から得ることができる。例えば蜂の幼虫は、蛹になる前に巣穴の内側から吐糸してキャップ上の繭を作る。こうして作られるキャップ上の繭を、蜂の巣の内部から得ることができる。蜂のシルク蛋白質は、例えば、繊維状蛋白質であってもよい。また蜂のシルク蛋白質は、例えば、蜂の繭から抽出した蛋白質、又はその蛋白質をコードする遺伝子を有する遺伝子組換え生物から得られた蛋白質(即ち、組換え蛋白質)を含む。蜂のシルク蛋白質は、例えば、Silk1、2、3、4、5、又は6等のフィブロインを含んでいてもよい。蜂がキイロスズメバチの場合、シルク蛋白質は、例えば、VsSilk1、2、3、4、5、又は6等のフィブロインを含んでいてもよい。蜂の繭から抽出したシルク蛋白質に代えて、蜂のシルク蛋白質の遺伝子をホストに遺伝子組換え技術によって導入することで得られた蛋白質を用いても、上記と同様の透析条件で透析済水溶液を得ることが可能である。組換え蛋白質は、例えば、蜂の繭から抽出した蛋白質をコードする遺伝子(例えば、フィブロインをコードする遺伝子)を、遺伝子組換え技術によってホストに導入する工程、前記遺伝子を発現させて、組換え蛋白質を産生する工程、及び上記ホストから上記組換え蛋白質を抽出する工程、を含む生産方法によって得てもよい。上記ホストは、例えば、真正細菌宿主(例えば、大腸菌等)、古細菌宿主、又は真核宿主(例えば、酵母、植物、動物(例えば、ヤギ等)等)であってもよい。また組換え蛋白質は、繭を構成している蛋白質の1種以上と90%以上のアミノ酸の相同性を有する蛋白質であってもよい。上記90%以上は、例えば、95%以上、98%以上、又は100%であってもよい。上記相同性は、NCBIのBLASTによって測定された値で表すことができる。BLASTでアミノ酸配列を比較するときのアルゴリズムには、Blastpをデフォルト設定で使用できる。測定結果はPositives又はIdentitiesとして数値化されるが、本発明の一実施形態では好ましくはIdentitiesを採用する。
本発明の一実施形態において無機塩水溶液は、例えば、弱酸性塩、中性塩の水溶液であってもよい。また無機塩水溶液は、ハロゲン化物を溶媒に溶解した水溶液であってもよい。ハロゲン化物は、例えば、ハロゲン化リチウム、又はハロゲン化カルシウムであってもよい。また無機塩水溶液は、例えば、臭化リチウム、塩化カルシウム、銅エチレンジアミン、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸リチウム、又は硝酸マグネシウム等を溶媒に溶解した水溶液であってもよい。溶媒は、例えば、蒸留水又は緩衝液であってもよい。無機塩水溶液は、シルク蛋白質をより効率的に溶解させる観点からは、臭化リチウム又は塩化カルシウムを水に溶解した水溶液が好ましい。無機塩水溶液の塩の濃度は特に限定されないが、例えば、0.5、1、2、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、又は12mol/Lであってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この濃度は、シルク蛋白質の溶解速度が向上する観点からは、2mol/L以上が好ましく、4mol/L以上がより好ましい。後述の実施例1では無機塩水溶液として9M LiBr水溶液を用いたが、7.2MのLiBr水溶液も同様の溶解性を示すことを本願発明者は確認している。上記の無機塩水溶液中にシルク蛋白質を溶解する工程において、温度はシルク蛋白質が溶解する温度であればよく、例えば、5、10、15、20、25、30、35、37、40、45、50、60、70、又は80℃以下、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この溶解工程の温度は、シルク蛋白質の分子分解を特に抑制できる観点からは40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、25℃以下がさらに好ましい。溶解時間は、例えば、2、5、10、15、20、25、30、60、120、200、500、1000分以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。また、シルク蛋白質を塩化カルシウム水溶液に溶解する場合、シルク蛋白質の溶解速度が特に早く、シルク蛋白質の飽和溶解量が特に大きいという観点からは、塩化カルシウム濃度は3〜6 mol/Lが好ましく、4〜5 mol/Lがより好ましい。また、シルク蛋白質を塩化カルシウム水溶液に溶解する場合、シルク蛋白質の溶解速度の早さ、溶解量の多さ、分解の抑制に関する総合的な観点からは、溶解工程の温度は15〜40℃が好ましく、20〜35℃がより好ましく、25〜33℃がさらに好ましい。
本発明の一実施形態に係る透析済水溶液及び硬化材料は、天然材料であり、生体親和性が高いため、医療品製品や化粧品の原料として特に好適に使用できる。また、有機溶媒を使用せずに生産できる点からも、医療品製品や化粧品の原料に適しているといえる。例えば、透析済水溶液を人体の外表面に塗る水溶液として使用できる。特に、スズメバチのシルク蛋白質の高次構造は、ケラチンの高次構造と類似していることから、ケラチン部位(ケラチンでできている部位)の修復や保護剤として好適に使用できる。ケラチン部位としては、例えば、爪、又は毛髪を挙げることができる。そのため、透析済水溶液は爪の損傷部位の修復や保護剤として使用できる。硬化材料を医療用製品用として使用する場合、例えば、医療用のフィルム、細胞足場材料、人工角膜材料等として使用できる。また透析済水溶液は、例えば、パーマ液として使用できる。このパーマ液は、毛髪の保護剤として機能する。
本発明の一実施形態において「用」は、専用又は兼用として使用されるものに対して使用してもよい。本発明の一実施形態において「材料」は、例えば、製品又は中間体の構成要素、原料、又は成分として用いられる物質であってもよい。この材料は、1種又は2種以上の物質を含んでいてもよい。この材料の形状、材質は特に限定されない。本発明の一実施形態において「硬化」は、水溶液の水分が蒸発又は気化して、固形状又は半固形状の状態になる現象を含む。この硬化は、固化、固形化、又は半固形化の現象を含む。この硬化は、水分の蒸発又は気化に伴う現象であってもよく、高分子成分の架橋に伴う現象であってもよい。また固化は、ゲル化又はゾル化を含む。本発明の一実施形態において「硬化材料」は、水溶液状態でなければ、硬度は特に限定されず、例えば、固形状、ゲル状、又はゾル状であってもよい。本発明の一実施形態において「透析済水溶液」は、透析操作を経た後の水溶液を含む。透析済水溶液は、例えば、透析工程後の透析内液を透析膜から回収した後の水溶液であってもよい。このとき、透析時間、透析後の透析内液の成分濃度、又は透析済水溶液が収容される容器は特に限定されない。透析済水溶液は、水溶液状態であればよく、その粘度(15℃)は、例えば、100、50、25、10、5、1、又は0.1cp以下、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
キイロスズメバチの繭62.5mgを2.5mlの9M LiBr水溶液に37℃で20分間以内で溶解した後、透析膜に流し込んだ。透析膜にはエーディア(株)製の透析用セルロースチューブ(透析膜 8/32, 平面幅 10mm)を使用した。透析外液には500mlの純水を使用した。透析温度は5℃に設定し、1日1回の頻度で外液を交換し、合計で4回交換した。その結果、透析内液はゲル化した。
キイロスズメバチの繭62.5mgを2.5mlの9M LiBr水溶液に37℃で20分間以内で溶解した後、透析膜に流し込んだ。透析膜にはエーディア(株)製の透析用セルロースチューブ(透析膜 8/32, 平面幅 10mm)を使用した。透析外液には500mlの0.1N アンモニア水を使用した。透析温度は5℃に設定し、1日1回の頻度で外液を交換し、合計で4回交換した。その結果、透析内液は水溶液状態を維持した。
透析外液のpHが、透析過程におけるホーネットシルク蛋白質の固化に与える影響を検討するために、様々な種類の緩衝液およびアンモニア水でpH6からpH11の範囲の水溶液を調製し、これらを外液として透析を行った。
アンモニア水の濃度を変えることによって、透析外液の状態がどのように変化するかをあらかじめ把握するため、アンモニア濃度とpHの関係を調べた(図2)。この図から、透析外液のpHはアンモニア濃度に依存し、実施した0.0001N〜0.7Nの範囲ではpH8.5〜pH11.6の範囲で変化した。透析外液中のアンモニア濃度変化、およびアンモニア濃度変化に伴うpH変化が溶解中のホーネットシルク蛋白質の安定性に寄与するものと思われる。
9M LiBr水溶液1mL当たりに、3mg〜150mgのホーネットシルク蛋白質を溶解した透析前水溶液を調製し、5℃で透析を行い、実施例2と同様のビーズの落下挙動から固化の有無を観察した。透析後も水溶液が維持されたサンプルに対してTG測定を行い、濃度を決定し、透析に用いたアンモニア水濃度に対してプロットした結果を図4に示す。
透析外液のアンモニア水の濃度一定のもとで、「溶解しているホーネットシルク蛋白質の濃度」と「透析温度」が透析後の水溶液の状態に与える影響について検討を行った。
9M 臭化リチウム水溶液1mLに対してキイロスズメバチの繭を3mg〜150mgの範囲で溶解した濃度の異なる様々なサンプルを調製した。この臭化リチウム水溶液を、アンモニア濃度が異なる3種類の透析外液、および5℃〜37℃の異なる透析温度の条件下で透析を行った。透析中に固化することなく、透析後も水溶液状態を維持したサンプルについてTG測定を行って濃度を決定した。決定した各サンプルの濃度を、透析中に設定していた温度に対してプロットした結果を図5に示す。
タンパク質は高アルカリ性水溶液中で加水分解することが知られている。加水分解による分子量の低下は、乾燥(キャスト)後に得られるフィルムの力学物性を低下させる原因になる。そこで、アンモニア水透析による分子量低下の有無を調べるために、電気泳動測定を行った。比較のために純水で透析した場合の透析後のホーネットシルク蛋白質(ゲル状態)についても、再度臭化リチウム水溶液に溶解した後に電気泳動を行った。
50mgのキイロスズメバチの繭を2mlの9M LiBr水溶液に室温で溶解し、5℃から37℃の純水中で透析を行った。透析外液は500mlで、1日1回の頻度で外液を交換し、合計で4回交換した。透析の途中で溶液はゲル化した。透析後のゲルを-30℃で凍結後、凍結乾燥を行い、得られた乾燥試料について電気泳動を行った。その結果を図6に示す(pure water 5〜37)。比較のために、キイロスズメバチの繭をそのまま電気泳動した結果も示す(図6中の(C))。
アンモニア水で透析した場合の透析温度による透析後のタンパク質の電気泳動パターンの違いを、各アンモニア水濃度に対して測定した結果を図7に示す。
(1)長期安定性とアンモニア濃度の検討
以上の実施例で得られた水溶液の長期安定性を検討するために、透析後から固化するまでの期間を調べた。
まず、9M LiBr水溶液1mL当たりに、キイロスズメバチの繭6.7〜150mg(具体的には、それぞれ6.7、16.7、25.0、37.5、45.8、54.6、58.3、72.9、87.5、100、110、120、125、130、140、150mg)を溶解した透析前水溶液を調製し、透析5℃で透析を行った。また、透析外液には0.0005、0.001、0.005、0.01、0.05、0.1、0.5Nの7種類のアンモニア水を使用した。透析は1日1回の頻度で外液を交換し、合計で4回交換した。
次に、アンモニア水透析で得られた水溶液中でのホーネットシルク蛋白質の分子構造を調べるために、CD測定を試みた(図9)。0.1Nアンモニア水で透析したホーネットシルク蛋白質濃度が0.1wt%の水溶液を分解能0.2nm, バンド幅1.0nm、感度50mdegの条件で測定した。この結果から、ホーネットシルク蛋白質は水溶液中でαヘリックス構造を形成していることがわかった。
キイロスズメバチの繭を構成する主要蛋白質の遺伝子(Vssilk 1、accession no. AB537885)を単離するために、GAGATCTGGGCCATCAAGGTTGTCTG(配列番号1)とGGTCGACTTAGGCGCTGCTACTACTC(配列番号2)の2種類をプライマーにして、キイロスズメバチの絹糸腺のcDNA(Sezutsu et al. (2007): Biosci. Biotechnol. Biochem., 71, 2725-2734.)に対するPCRを行った。PCR産物はpGEM T-Easyベクター(Promega)でクローニングを行い、続いて、発現ベクターpTrcHis(Invitorogen)のBglIIサイトとEcoRIサイトの間にサブクローニングした。発現用宿主細胞にはBL21大腸菌株を用い、150 mg/mLのアンピシリンが添加されたLB培地中で温度37℃で生育させ、細胞濃度が0.5 - 0.7 OD600に達したところでIPTGを0.5mM加えて誘導し、さらに5時間培養を続けた。培養終了後、封入体(inclusion body)をQIAexpressionistプロトコールに従って処理を行い、固化した蛋白質生成物を9M LiBr水溶液で溶かし出した。得られた9M LiBr蛋白質水溶液を電気泳動で調べたところ、キイロスズメバチの繭の主要蛋白質であるVssilk 1が高い純度で溶解した水溶液であることが分かった。
キイロスズメバチの巣から繭の周辺部分を取り出した。繭に付着した巣材(木くずを固めて作られている)部分を極力取り除いた後、その1.5gを30mLの9M LiBr水溶液に溶解した。溶解は37℃で30分間高速振とうして行った。溶解後、遠心(10kG、20分)して不溶成分(大部分は巣材の木くず)を分離した後、濾過してろ液を回収した。ろ液を透析膜(和光純薬セルロースチューブ、サイズ24)に入れて、0.1Nアンモニア水中で透析した。アンモニア水は、28%アンモニア水(ナカライテスク製、試薬特級)を14.8Nアンモニア水として希釈して使用した。透析は5℃の定温庫内で行い、透析外液(アンモニア水)は1L以上使用して、常時攪拌しながら透析した。透析外液を1日に1回以上交換して、電導度が200〜300程度以下まで低下して一定になるまで外液交換を繰り返した(4回以上の交換を行った)。
「乾燥温度」をパラメータにして、フィルムが作製できる条件を検討した(図14)。ここで、「フィルムができた」とは、シャーレから1枚の連続したフィルムとしてはがし、取り出すことができた場合を指す。また、「フィルムができなかった時」とは、乾燥が終了した時点でシャーレ上のホーネットシルクフィルムがひび割れていたり、シャーレからホーネットシルクフィルムをはがす過程で割れたり、砕けたり、裂けたりした場合を指す。なお、フィルムができない時はシャーレにホーネットシルクフィルムが付着してはがれない場合が多い。
実施例9の手順で得られたホーネットシルク蛋白質のキャストフィルムについて、電気容量Cを測定した。2cm×2cm角の銅板を2枚用意し、この銅板でフィルムを挟んで電気容量を測定した。測定にはカスタム製LCRメーター(ELC-133A)を用いた。100Hz、1kHzおよび10kHzの3種類のテスト信号周波数に対して電気容量値(pF)を測定した。
炭酸ナトリウムNa2CO3で調製したpH11の水溶液を透析外液として、5℃で透析して得られたホーネットシルク蛋白質水溶液(1.5g/10mlのオオスズメバチ繭)を直径55mmφの円形シャーレ(栄研シャーレAG2000)に2mL注いで乾燥(キャスト)したところ、図17のような白濁物質が得られた。この物質は脆く、割れやすいため、シャーレから取り出す過程でひび割れた。白濁の原因は乾燥によって炭酸ナトリウムが析出したためである。乾燥によって塩がホーネットシルク硬化体中で析出すると、ホーネットシルク硬化体は脆く割れやすくなり、フィルムが得られなかったと考えられる。以上の結果から、用いる塩基物質としては、アンモニアのような揮発性物質を用いることが、フィルムを得るためには重要であることがわかる。
アンモニアと同様に、揮発性の塩基であるジエチルアミンを加えた水を透析外液にして透析を行った。ジエチルアミン0.1N水溶液を調製したところpH 11.7の水溶液が得られた。この塩基性水溶液を透析外液として、キイロスズメバチ繭の9M臭化リチウム水溶液を透析した。透析温度は5℃とした。透析後も水溶液が維持され、均一な水溶液が得られた。水溶液の濃度をTG測定にて決定したところ、6.39%であった。得られた水溶液4mlを直径5.5mmφの円形シャーレ(栄研化学株式会社製滅菌MMシャーレ)に注いで乾燥させたところ、図18のような透明で柔軟性のあるフィルムが得られた。
(1)フィルム作製
塩化カルシウム水溶液に繭を溶かした場合についても検討した。塩化カルシウム(Nacalai tesque, 試薬特級)15gを20mlの水に溶かして、5.4M塩化カルシウム水溶液を調整した。この5.4M塩化カルシウム水溶液を65℃に昇温して、攪拌しながら600mgのキイロスズメバチ繭を加えて溶解した。繭は3分以内でほとんど全てが溶解したので、加熱をやめて流水で冷やした後、繭に付着していた不溶物(巣材の木くずなど)をフィルターろ過(桐山製作所製、桐山ロート(φ60) No.5Aろ紙)で取除いた。ろ液を透析チューブの中に注いで5℃で透析を行ったところ、透析外液のアンモニア水を0.5N、0.1N、0.05Nのいずれで行った結果も固化することなく均一な水溶液が得られた。0.1N透析で得られた水溶液のシルク濃度は1wt%であった。なお、アンモニアを使用せずに、純水で塩化カルシウム水溶液を透析した場合には、ホーネットシルク蛋白質は透析中に固化して白色ゲルとなり、水溶液は得られなかった。よって、塩化カルシウム水溶液でキイロスズメバチ繭を溶解させた場合においても、アンモニア水で透析することで水溶液が得られることがわかった。
塩化カルシウム水溶液への繭の溶解性を検討した。図20は、オオスズメバチの繭20mgを50, 60 および70℃の塩化カルシウム水溶液10mLに浸して、振とうさせた時の、塩化カルシウムの濃度と、振とうしてから30分後および60分後の溶解率(%)をプロットした図である。溶解率は、UV装置で測定した波長280nmの紫外線の吸光度から算出した。この図から、50℃〜70℃の温度範囲では、30分振とうと60分振とうで溶解率に差がないことがわかる。このことは、30分以内の振とうで平衡溶解状態に達したことを示唆している。また、この図から、平衡溶解状態での繭の溶解率(%)は、塩化カルシウムの濃度に依存することがわかる。繭は、塩化カルシウム濃度が3.0M〜6.0Mの濃度範囲で溶解し易く、塩化カルシウム濃度が4〜5Mでは繭が完全に溶解するが、その前後では飽和溶解濃度が減少した。
(1)クロスズメバチ
クロスズメバチはVespulaに属し、スズメバチ亜科(Vespa)とは科を異にしているが、構成タンパク質の幾つかは高い相同性を示している。クロスズメバチも9M臭化リチウム水溶液に可溶で、その後、脱塩のための透析を純水中で行うと、透析の過程で固化(沈殿、ゲル化もしくはゾル化)する。そこで、クロスズメバチ繭の臭化リチウム水溶液を0.1N、又は0.5Nアンモニア水を外液にして透析を試みた。
蚕が作る絹フィブロインおよびセリシンは、臭化リチウム水溶液に溶解させた後、純水で透析した場合でも、透析中に固化することなく水溶液が得られる。このため、フィブロイン水溶液を得るための目的としては、アンモニア水透析を行う必要はないが、フィブロインの場合でも、アンモニア水で透析することによって水溶液が得られる。例えば、3gの精錬絹フィブロインを20mlの9M LiBr水溶液に溶かし、0.5Nのアンモニア水で透析したところ、透明な水溶液が得られた。0.1N アンモニア水で透析した場合も同様に、水溶液が得られた。
ステンレスシャーレ((株)山田製作所製、75mmφ)の表面にフッ素樹脂コーティングを行った。これにより、ステンレスシャーレの内側面は灰色になった。このシャーレに実施例9と同様の条件で作製した水溶液を注いてキャストしたところ、図25のような透明で柔軟性があるフィルムが得られた。
上記実施例に記載の方法で作製したキャストフィルムの再利用について検討を行った。
コガタスズメバチの繭を9M臭化リチウム水溶液に溶解後、0.1Nアンモニア水にて透析した水溶液から得られたキャストフィルムを、再び9M臭化リチウム水溶液に溶解して、得られたホーネットシルク蛋白質が溶解している臭化リチウム水溶液の粘度を測定した。比較のために、キイロスズメバチ、オオスズメバチ、又はコガタスズメバチの繭を9M臭化リチウム水溶液に溶解した状態での粘度も測定した。結果を図26に示す。
上記実施例に記載の方法によって均一な水溶液が得られたことから、紡糸のための紡糸原液としても使用することが可能になった。例えば、上記の方法で作製した5.4wt%のホーネットシルク蛋白質が溶解しているアンモニア水溶液に、分子量90万のポリエチレンオキシドの5wt%溶液を容量比で3:1、2:1、1:1の割合で混合して、サイズ27Gのニードルから加電圧15kVにて電気紡糸(電界紡糸)を行ったところ、3:1および2:1の溶液からは直径数百ナノメートルの均一なナノファイバーが得られた。1:1の系では、繊維中に泡が入り、均一な繊維が得られなかった。
上記実施例3〜7、9〜11、13、14、16、18のうちキイロスズメバチを用いて行った実験について、キイロスズメバチを、コガタスズメバチ、オオスズメバチ、ヒメスズメバチ、モンスズメバチ、又はクロスズメバチに代えてほぼ同様の実験を行った。その結果、キイロスズメバチを用いて行った場合と、ほぼ同様の結果が得られた。また、複数の種のスズメバチの繭を混ぜても、透析済水溶液及びフィルムを作ることができた。
以上の結果、ホーネットシルク蛋白質が溶解した無機塩水溶液を高pHの水溶液で透析した場合、透析内液が水溶液状態を維持できることが明らかになった。さらに、透析条件として、透析外液のpHが9以上、透析外液のアンモニア濃度が0.0001N超、透析温度が20℃以下、又は透析内液のホーネットシルク蛋白質濃度が140mg/mL以下(透析後は約6.5wt%以下)のときに、特に透析内液が安定的に水溶液状態を維持でき、且つ透析内液中のホーネットシルク蛋白質の分解を抑制できることがわかった。
Claims (24)
- シルク蛋白質を含有する透析済水溶液の生産方法であって、
透析内液として蜂のシルク蛋白質を含有する無機塩水溶液を用い、透析外液としてpH10.0超の水溶液、又はpH9.0以上のアンモニア水もしくは炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液を用いて、透析外液がアンモニア水の場合は28℃以下、pH10.0以上の炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液の場合は28℃以下、それら以外の水溶液の場合は20℃以下で透析する工程を含む、生産方法。 - 前記透析外液は、揮発性塩基物質を含有する水溶液である、請求項1に記載の生産方法。
- 前記透析外液は、前記揮発性塩基物質を0.0001N超含有する、請求項2に記載の生産方法。
- 前記透析は、20℃以下で行う、請求項3に記載の生産方法。
- 透析前の前記透析内液のシルク蛋白質濃度が、140mg/mL以下である、請求項4に記載の生産方法。
- 前記透析は、前記透析済水溶液のシルク蛋白質濃度が6.5wt%以下になるように透析する、請求項4に記載の生産方法。
- 前記透析は、前記透析内液が水溶液状態を維持するように透析する、請求項1〜6いずれかに記載の生産方法。
- 蜂のシルク蛋白質を3〜6mol/Lの塩化カルシウム水溶液に溶解させる工程をさらに含む、請求項1〜7いずれかに記載の生産方法。
- 請求項1〜8いずれかに記載の生産方法を経て得られる、透析済水溶液。
- 医療用製品、化粧品、電子機器、又は繊維製品用の、請求項9に記載の透析済水溶液。
- 請求項1〜8いずれかに記載の生産方法を経て得られる透析済水溶液を硬化させる工程を含む、硬化材料の生産方法。
- 前記硬化材料がフィルムであり、前記透析外液は揮発性塩基物質を含有する水溶液である、請求項11に記載の生産方法。
- 請求項9又は10に記載の透析済水溶液を硬化させる工程を経て得られる、硬化材料。
- フィルムであり、前記透析外液は揮発性塩基物質を含有する水溶液である、請求項13に記載の硬化材料。
- 前記透析外液は揮発性塩基物質を含有する水溶液であり、医療用製品、化粧品、電子機器、又は繊維製品用の、請求項13又は14に記載の硬化材料。
- シルク蛋白質を含有する透析済水溶液の生産方法であって、
請求項13〜15いずれかに記載の硬化材料を無機塩水溶液に溶解させる工程と、
透析内液として前記硬化材料が溶解した無機塩水溶液を用い、透析外液としてpH10.0超の水溶液、又はpH9.0以上のアンモニア水もしくは炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液を用いて、透析外液がアンモニア水の場合は28℃以下、pH10.0以上の炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液の場合は28℃以下、それら以外の水溶液の場合は20℃以下で透析する工程と、を含む、生産方法。 - シルク蛋白質を含有する透析済水溶液の生産方法であって、
透析内液として蜂のシルク蛋白質を含有する無機塩水溶液を用い、透析外液としてpH10.0超の水溶液、又はpH9.0以上のアンモニア水もしくは炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液を用いて、透析外液がアンモニア水の場合は28℃以下、pH10.0以上の炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液の場合は28℃以下、それら以外の水溶液の場合は20℃以下で透析し、透析済水溶液を得る工程と、
前記透析済水溶液を硬化させ、硬化材料を得る工程と、
前記硬化材料を無機塩水溶液に溶解させる工程と、
透析内液として前記硬化材料が溶解した無機塩水溶液を用い、透析外液としてpH10.0超の水溶液、又はpH9.0以上のアンモニア水もしくは炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液を用いて、透析外液がアンモニア水の場合は28℃以下、pH10.0以上の炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液の場合は28℃以下、それら以外の水溶液の場合は20℃以下で透析する工程と、を含む、生産方法。 - 請求項16又は17に記載の生産方法を経て得られる、透析済水溶液。
- 請求項16又は17に記載の生産方法を経て得られる透析済水溶液を硬化させる工程を含む、硬化材料の生産方法。
- 請求項18に記載の透析済水溶液を硬化させる工程を経て得られる、硬化材料。
- シルク蛋白質を含有する硬化材料の生産方法であって、
透析内液として蜂のシルク蛋白質を含有する無機塩水溶液を用い、透析外液としてpH10.0超の水溶液、又はpH9.0以上のアンモニア水もしくは炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液を用いて、透析外液がアンモニア水の場合は28℃以下、pH10.0以上の炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液の場合は28℃以下、それら以外の水溶液の場合は20℃以下で透析する工程と、
前記透析工程後の透析内液を透析膜から回収する工程と、
回収後の透析内液を硬化させる工程と、
を含む、生産方法。 - 蜂のシルク蛋白質を0.1wt%以上、揮発性塩基物質を0.0001N〜14.8N含み、20℃以下の透析済水溶液。
- 請求項22に記載の透析済水溶液を硬化させる工程を含む、硬化材料の生産方法。
- 請求項22に記載の透析済水溶液を硬化させる工程を経て得られる、硬化材料。
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