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JP6450676B2 - 蜂のシルク蛋白質の水溶液とその製造方法 - Google Patents
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JP6450676B2 - 蜂のシルク蛋白質の水溶液とその製造方法 - Google Patents

蜂のシルク蛋白質の水溶液とその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、蜂のシルク蛋白質の水溶液とその製造方法に関する。
昆虫が作る繭は繊維状蛋白質を豊富に含んでおり、その特有の性質から、衣料用、医療用、化粧品用等の分野で研究が行われている。例えば、蚕の繭は、衣料用の天然繊維として一般的に利用されている。また、繭に含まれているシルク蛋白質は、医療用の生体材料として研究されている。例えば、特許文献1には、再生医療用の細胞足場材料の原料として、蚕のシルク蛋白質を利用したことが記載されている。
また、蜂のシルク蛋白質は、蚕のシルク蛋白質とはアミノ酸組成や性質が異なることから、医療等に利用するための新しい素材として研究されている(例えば、特許文献2)。蜂の巣は、一般的に大部分が廃棄されているため、資源の有効利用の観点からも、蜂のシルク蛋白質の研究は重要である。
特許文献2には、蜂の巣由来のシルク蛋白質の抽出方法に関する技術が記載されている。具体的には、 (1)蜂の巣を、無機塩を含む水溶液(無機塩水溶液)中に溶解することで、巣に含まれるシルク蛋白質を溶解したこと、(2)その溶解液を蒸留水で透析し、無機塩を除去したこと、(3)透析によって透析膜内のシルク蛋白質が固化したこと、(4)その固化成分をフィルターで除去したこと、(5)固化成分を除去後の透析内液をシャーレに流延し、乾燥後、シャーレ表面から一部を無理やり剥がすことによってフィルム片を得たこと、が記載されている。
特許文献3には、蜂のシルク蛋白質を含む蛋白質フィルムの製造方法に関する技術が記載されている。具体的には、(1)蜂の巣から取り出した繭を、無機塩水溶液中に溶解することで、繭に含まれるシルク蛋白質を溶解したこと、(2)その溶解液を蒸留水で透析し、無機塩を除去したこと、(3)透析によって透析膜内のシルク蛋白質がゲル化したこと、(4)ゲルを含んだ状態の透析膜を圧縮乾燥し、フィルムを作成したこと、が記載されている。
WO2011/021712 特開2006-045076 特開2008-173312
本願発明者らは、上述の特許文献2及び3に関して、以下に記載する点に改善の余地があると考えた。
特許文献2にはフィルム片を得たことが記載されているが、透析工程でシルク蛋白質が固化していた。そのため、最終的にフィルム片に残っているシルク蛋白質は、一部の種類のシルク蛋白質に限られていた。従って、十分な力学物性、又は柔軟性を有するフィルム片を得ることができなかった。また、特許文献2の方法では、固化成分をフィルターで除去する工程が必要なため、操作性の面でも改善の余地を有していた。
一方で、仮に透析で無機塩を除去しなかった場合には、シルク蛋白質の溶解液を乾燥固化して固体状素材を作製したときに、無機塩が素材内に残留してしまう。そうすると、固体状素材の透明性の低下や、力学物性の低下の原因となる。
なお、特許文献2には、無機塩水溶液に代えてハロゲン化有機溶媒を用い、透析をせずにフィルムを作成した例も記載されている。しかしながら、ハロゲン化有機溶媒はいずれも高価であり、且つフィルムに残留する成分は有害である。また、成形過程で発生する気体や廃液が人体や環境に及ぼす影響が大きいという問題がある。特許文献2には、ハロゲン化有機溶媒を溶媒置換で水に置換したことも記載されているが、このときシルク蛋白質は沈殿しておりフィルムはできていない。
また上記特許文献3のフィルムの作成方法では、特許文献2のように水溶液を用いるのではなく、透析チューブ内のゲルを用いている。そのため、製造できるフィルムの大きさ及び形状が、透析チューブの形状やサイズに依存してしまうという点に改善の余地を有していた。
なお、蚕のシルク蛋白質の場合には、蒸留水で透析しても固化しない。即ち、上記の固化の問題は蜂のシルク蛋白質に特有の問題といえる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、フィルムの原料等の各種用途に使用可能で、蜂のシルク蛋白質を豊富に含む高品質な水溶液を提供することを目的とする。又は、その水溶液の生産方法を提供することを目的とする。又は、その水溶液を硬化して得られる、蜂のシルク蛋白質を豊富に含む硬化材料を提供すること等を目的とする。
本発明の一態様によれば、シルク蛋白質を含有する透析済水溶液の生産方法であって、透析内液として蜂のシルク蛋白質を含有する無機塩水溶液を用い、透析外液としてpH9.0以上の水溶液を用いて透析する工程を含む、生産方法が提供される。この生産方法において、透析内液は透析後でも水溶液状態を維持できる。またこの生産方法によって、透析内液の無機塩濃度を低減させることができる。そのため、この生産方法を用いれば、フィルムの原料等の各種用途に使用可能で、蜂のシルク蛋白質を豊富に含む高品質な水溶液を得ることができる。またこの水溶液を、例えばシャーレ等の型枠に入れて硬化させることで、力学物性、透明性、又は柔軟性に優れた、蜂のシルク蛋白質を含む硬化材料を得ることができる。なお、特に良質な硬化材料を作成する観点からは、この生産方法で用いるpH9.0以上の水溶液は、揮発性塩基物質を含有する水溶液であることが好ましい。
また本発明の一態様によれば、上記生産方法を経て得られる、透析済水溶液が提供される。また本発明の一態様によれば、上記透析済水溶液を硬化させる工程を経て得られる、硬化材料が提供される。また本発明の一態様によれば、硬化材料の生産方法であって、透析内液として蜂のシルク蛋白質を含有する無機塩水溶液を用い、透析外液としてpH9.0以上の水溶液を用いて透析する工程と、上記透析工程後の透析内液を透析膜から回収する工程と、回収後の透析内液を硬化させる工程と、を含む、生産方法が提供される。また本発明の一態様によれば、蜂のシルク蛋白質を0.1wt%以上、揮発性塩基物質を0.0001N〜14.8N含み、20℃以下の透析済水溶液が提供される。また本発明の一態様によれば、蜂のシルク蛋白質を3〜6mol/Lの塩化カルシウム水溶液に溶解させる工程を含む、シルク蛋白質水溶液の生産方法が提供される。
本発明によれば、蜂のシルク蛋白質を豊富に含む高品質の水溶液を得ることができる。又は、本発明によれば、力学物性、透明性、又は柔軟性に優れた、蜂のシルク蛋白質を含む硬化材料を得ることができる。
図1は、ホーネットシルク蛋白質が溶解したLiBr水溶液を、pH6〜11の水溶液で透析した場合の、透析膜内の状態を観察した結果を表した図である。 図2は、水溶液のアンモニア濃度とpHの関係を調べた結果を表した図である。 図3は、熱重量分析法(TG)で測定した透析済水溶液のホーネットシルク蛋白質の濃度を、仕込み濃度(9MLiBr水溶液1mL当たりに溶解させた繭の重量(mg))に対してプロットした図である。 図4は、ホーネットシルク蛋白質が溶解したLiBr水溶液を5℃のアンモニア水で透析して、透析後も水溶液状態が維持された場合の透析後の水溶液のホーネットシルク濃度(wt%)を、透析に用いたアンモニア水の濃度(N)に対してプロットした図である。図中のLとSは、それぞれ、透析後に水溶液状態が維持した領域と透析後に固化した領域を示している。 図5は、ホーネットシルク蛋白質が溶解したLiBr水溶液を0.01N、0.1N、又は0.5Nのアンモニア水で透析して、透析後も水溶液状態が維持された場合の透析後の水溶液のホーネットシルク濃度(wt%)を、透析中の温度(℃)に対してプロットした図である。 図6は、ホーネットシルク蛋白質が溶解したLiBr水溶液を5℃〜37℃の純水で透析して得られた蛋白質の電気泳動パターンを示した図である。図中のMはマーカー、Cはキイロスズメバチの繭の泳動パターンを比較のために示した。 図7は、ホーネットシルク蛋白質が溶解したLiBr水溶液を0.05N又は0.01Nで透析して得られた蛋白質の電気泳動パターンを示した図である。 図8は、透析済水溶液が固化するまでの時間を調べた図である。 図9は、CD測定の結果を表した図である。 図10は、透析済水溶液をシャーレに注いで乾燥させているところの写真である。 図11は、透析済水溶液を乾燥後、シャーレから剥がして得られたフィルムの写真である。 図12は、フィルムの固体NMRスペクトルを示した図である。 図13は、キャストフィルムのFT-IRスペクトルを示した図である。 図14は、複数種類の乾燥温度でフィルム作成を試みた結果を表した図である。 図15は、フィルムを折り曲げたときの写真である。 図16は、テスト信号周波数100Hz、1kHz、及び10kHzでの電気容量値(pF)を、フィルムの厚さ(mm)に対して、それぞれプロットした図である。 図17は、繭をLiBr水溶液に溶かした後、Na2CO3でpH調製した水溶液で透析後、乾燥させたときの結果を表した写真である。 図18は、繭をLiBr水溶液に溶かした後、ジエチルアミンで調製した水溶液で透析後、乾燥工程を経て得られたフィルムの写真である。 図19は、繭を塩化カルシウム水溶液に溶かした後、アンモニア水で透析、乾燥工程を経て得られたフィルムの写真である。 図20は、オオスズメバチの繭20mgを50、60及び70℃の塩化カルシウム水溶液10mLに浸して、振とうさせた時の、塩化カルシウムの濃度と、振とうしてから30分後および60分後の溶解率(%)をプロットした図である。 図21は、4.5M及び3.6Mの塩化カルシウム水溶液10mLに、オオスズメバチの繭20mgを浸して、20〜70℃範囲の各温度にて振とうさせた時の、振とう後30分後、および60分後の溶解率を、温度に対してプロットした図である。 図22は、オオスズメバチの繭20mgを4.5M及び3.6Mの塩化カルシウム水溶液10mLに浸して、20℃、30 ℃および50℃にて振とうさせた時の、溶解率の変化を振とう時間に対してプロットした図である。 図23は、クロスズメバチの繭をLiBr水溶液に溶かした後、アンモニア水で透析、乾燥工程を経て得られたフィルムの写真である。 図24は、絹フィブロイン水溶液をアンモニア水で透析後、乾燥工程を経て得られたフィルムの写真である。 図25は、ステンレスシャーレの表面をフッ素加工した型枠を使用して作製したフィルムの写真である。 図26は、フィルムをLiBr水溶液に溶解させた後、得られたホーネットシルク蛋白質が溶解しているLiBr水溶液の粘度を測定した結果を表した図である。 図27は、フィルムをLiBr水溶液に溶解させた後、再生成したフィルムの写真である。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑を避けるために、適宜説明を省略する。
(1)シルク蛋白質を含有する透析済水溶液の生産方法
本発明の一実施形態は、シルク蛋白質を含有する透析済水溶液の生産方法である。この生産方法は、例えば、透析内液として蜂のシルク蛋白質を含有する無機塩水溶液を用い、透析外液として高pHの水溶液を用いて透析する工程を含む、生産方法である。この生産方法において、透析内液は透析後でも水溶液状態を維持できる。またこの生産方法によって、透析内液の無機塩濃度を低減させることができる。そのため、この生産方法によれば、透析後の透析内液から、フィルムの原料等の各種用途に使用可能で、蜂のシルク蛋白質を豊富に含む高品質な水溶液を得ることができる。
この方法で得られる透析済水溶液を硬化させることで、力学物性、透明性、又は柔軟性に優れた硬化材料を得ることができる。又は、この方法で得られる透析済水溶液を硬化させることで、αへリックス構造を有する硬化材料を得ることができる。硬化材料としては、例えば、フィルム、繊維、不織布、スポンジ、チューブ、又はブロックが挙げられる。また、透析済水溶液及び硬化材料は、例えば、医療用製品、化粧品、電子機器、又は繊維製品用として使用することができる。なお、特に良質な硬化材料を作成する観点からは、この生産方法で用いる高pHの水溶液は、揮発性塩基物質を含有する水溶液であることが好ましい。
シルク蛋白質を含有する透析済水溶液の生産方法は、さらに、透析後の透析内液を、透析膜から回収する工程を含んでいてもよい。透析内液を透析膜から回収する工程は、例えば、透析チューブ内、又は透析膜を有する容器内から透析内液を回収する工程を含んでいてもよい。なお、回収することは、取り出すことを含む。また、シルク蛋白質を含有する透析済水溶液の生産方法は、さらに、蜂の巣から繭を回収する工程、繭を無機塩水溶液に溶解する工程、又は繭が溶解した無機塩水溶液から不溶成分を除去する工程を含んでいてもよい。
この生産方法で得られる透析済水溶液は、例えば、蜂のシルク蛋白質を0.1wt%以上、揮発性塩基物質を0.0001N〜14.8N含み、20℃以下の透析済水溶液である。透析済水溶液の保存期間は、例えば、0.5、1、2、3、4、5、10、14、15、20、25、30、40、又は50日以下、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
シルク蛋白質を含有する透析済水溶液の生産方法は、透析内液としてシルク蛋白質を含有する無機塩水溶液を用い、透析外液として高pHの水溶液を用いて透析する工程、を含む生産方法であってもよい。この生産方法を経て得られる透析済水溶液は、長期間保存した後であっても、水溶液状態を維持することが可能である。例えば、後述する実施例では、蜂又は蚕のシルク蛋白質を含有する透析済水溶液は、1カ月程度経過後も水溶液状態を維持していることが実証されている。そのため、上記透析済水溶液を、長期間保存後、硬化させることで、硬化材料を得ることができる。長期間は、例えば、15、20、25、30、又は35日以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
(2)シルク蛋白質を含有する硬化材料の生産方法
本発明の一実施形態は、シルク蛋白質を含有する硬化材料の生産方法である。この生産方法は、例えば、透析内液として蜂のシルク蛋白質を含有する無機塩水溶液を用い、透析外液としてpH9.0以上の水溶液を用いて透析する工程を含む、生産方法である。この生産方法は、さらに上記透析工程後の透析内液を透析膜から回収する工程と、回収後の透析内液を硬化させる工程とを含んでいてもよい。この生産方法を経て得られる硬化材料は、力学物性、透明性、又は、柔軟性に優れている。又は、この生産方法を経て得られる硬化材料は、αへリックス構造を有している。
シルク蛋白質を含有する透析済水溶液又は硬化材料の生産方法は、さらに、蜂の巣又は繭を、無機塩水溶液中に溶解する工程を含んでいてもよい。またさらに、蜂の巣又は繭を溶解させた後の無機塩水溶液をフィルターで処理する工程を含んでいてもよい。これにより、蜂の巣又は繭にシルク以外の物質が付着していたとしても、それらを除くことができる。
透析済水溶液を硬化させる工程は、透析済水溶液を乾燥させる工程を含んでいてもよい。又は、透析済水溶液を型枠に流し込んで乾燥させる工程を含んでいてもよい。型枠は、例えば、シャーレ等の容器、又は凹状部を有する器材を使用してもよい。型枠は、フィルムを剥がしやすくする観点からは、フッ素加工をした型枠が好ましい。フッ素加工を施す器材は、フッ素加工時の熱に強い観点、及び任意の形状の型枠を作製しやすい観点からは、金属素材であることが好ましい。金属素材としては、例えば、ステンレスであってもよい。また、型枠は、フィルムを剥がしやすくする観点からは、ガラスシャーレ以外のシャーレ(例えば、ポリスチレンシャーレ、テフロンシャーレ、ステンレスシャーレ等)が好ましい。
上記乾燥温度は、力学物性又は柔軟性に優れた硬化材料を作成する観点からは、29℃未満が好ましく、28℃以下が好ましく、27℃以下がより好ましい。この温度は、例えば、0、5、10、15、20、25、27、29、30、35、36、又は40℃であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
上記乾燥の時間は、力学物性又は柔軟性に優れた硬化材料を作成する観点からは、72時間以内が好ましく、48時間以内がより好ましい。この時間は、硬化材料が力学物性又は柔軟性を十分に有していれば、例えば、24、36、48、60、72、84、96、又は120時間であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
上記硬化材料は、フィルムであってもよい。フィルムの厚さは、力学物性を上げる観点からは、5μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましい。この厚さは、例えば、1、5、10、30、50、100、150、200、300、1000、又は5000μm以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。フィルムのヤング率は、例えば、2.0、2.4、2.8、3.5、又は4.0GPa以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。フィルムの引張り強度は、例えば、55、60、65、68、70、75、80、又は85MPa以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。フィルムの破断伸びは、例えば、2.5、3.0、3.4、3.8、4.0、5.0、又は6.0%以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。フィルムは、フィルム状の固形物又はゲルを含む。
上記硬化材料は、さらに溶解して使用することができる。この場合の実施形態は、上記硬化材料を無機塩水溶液に溶解させる工程と、透析内液として硬化材料が溶解した無機塩水溶液を用い、透析外液としてpH9.0以上の水溶液を用いて透析する工程と、を含む、生産方法である。この方法によれば、後述する実施例で実証されているように、フィルムの原料等の各種用途に使用可能で、蜂のシルク蛋白質を豊富に含む高品質な水溶液を得ることができる。そして、この水溶液を硬化させれば、再度硬化材料を得ることができる。
(3)シルク蛋白質を含有する水溶液の安定性を向上させる方法
本発明の一実施形態は、シルク蛋白質を含有するpH9.0未満の水溶液の安定性を向上させる方法である。この方法は、例えば、シルク蛋白質を含有するpH9.0未満の水溶液に対して、pH9.0以上の水溶液を用いて透析する工程を含む、方法である。この方法によれば、透析済水溶液の安定性を向上させることができるため、長期間保存後でも、シルク蛋白質を含有する透析済水溶液を医療用製品用等の用途に使用することができる。なお、安定性を向上させることは、固化を抑制することを含む。
(4)透析条件
透析外液のpHは、シルク蛋白質の固化をより抑制する観点からは、9.0以上が好ましく、pH10.0以上がより好ましい。pHは、例えば、9.0、9.5、10、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5、13.0、13.5、又は14以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
透析を行うときの温度は、シルク蛋白質の固化をより抑制する観点からは、28℃以下が好ましい。また、シルク蛋白質の分子量の低下を抑制する観点からは、20℃以下が好ましく、15℃以下がより好ましく、5.5℃以下がさらに好ましい。また、透析効率を上げる観点、又はランニングコストを下げる観点からは、2℃以上が好ましく、4℃以上がより好ましい。透析温度は、透析内液及び透析外液が凍結しない温度であれば特に限定されない。透析温度は、例えば、-5、0、1、2、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、8、9、10、12、15、20、25、28、30、35、38、又は40℃以下、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
透析の回数は、力学物性、透明性、又は柔軟性に優れた硬化材料を作成する観点からは、4回以上が好ましい。この回数は、例えば、1、2、3、4、5、6、又は10回であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。透析膜は、例えば、セルロース膜又は合成高分子系膜であってもよい。透析膜の分画分子量は、例えば、500、1000、5000、10000、12000、14000、16000、18000、20000、50000、又は100000であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
透析済水溶液は、透析前の透析内液に比べて、透析前の透析内液に含まれていた無機塩の濃度が低減された水溶液であってもよい。透析は、透析済水溶液中の、透析前の透析内液に含まれていた無機塩の濃度が、透析前の透析内液に比べて低減されるように行われることが好ましい。透析前の透析外液の無機塩濃度が、透析前の透析内液の無機塩濃度よりも低い場合、透析内液の無機塩濃度を低減できる。透析によって透析内液から除去される無機塩量は、例えば、70、80、90、95、97、99、又は100%以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
透析時の成分濃度、pH、又は温度等を上記の透析条件の中から適宜調整することで、透析内液が水溶液状態を維持するように透析することができる。シルク蛋白質を豊富に含む高品質な透析済水溶液を得るための最も好ましい透析条件は、透析内液に2〜3wt%のシルク蛋白質を含有する水溶液、透析外液に0.1〜0.5Nのアンモニア水を用い、4〜5.5℃の温度で透析を行う条件である。また、透析済水溶液から安定的にフィルムを作成するための最も好ましい条件は、乾燥温度を27℃以下に設定し、透析済水溶液を2日以内で乾燥させる条件である。なお、透析済水溶液を高品質と評価するための指標としては、例えば、シルク蛋白質濃度が高いこと、長期間保存可能なこと、シルク蛋白質が分解されにくい状態にあること、有害性が低いこと、硬化材料化したときに力学物性、柔軟性、もしくは透明性に優れていること、硬化材料化したときにαへリックス構造を有していること、硬化材料化したときに揮発性塩基物質が残留しにくい状態にあること、又は再利用ができること等が挙げられる。
(5)透析内液
透析前の上記透析内液のシルク蛋白質の濃度は、シルク蛋白質の透析中の固化をより抑制する観点からは、140mg/mL以下が好ましく52mg/mL以下がより好ましい。また、シルク蛋白質をより豊富に含み、且つ力学物性又は柔軟性に優れた硬化材料を作成する観点からは、15mg/mL以上が好ましく、35mg/mL 以上がより好ましい。このように、透析内液中のシルク蛋白質濃度が高ければ、硬化材料作成時の乾燥時間を節約できるという効果がある。そして、乾燥時間を節約できれば乾燥時間中の蛋白質の変性が抑えられるため、所望の物性のフィルムをより効率的に得ることができる。また、乾燥時間を節約できれば、手間が減り、硬化材料の生産性が向上する。透析内液のシルク蛋白質の濃度は、例えば、1、3、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、又は180 mg/mLであってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
透析後の透析内液、又は透析済水溶液中のシルク蛋白質の濃度は、シルク蛋白質の固化をより抑制する観点からは、6.5wt%以下が好ましく、3.0wt%以下がより好ましい。また、シルク蛋白質をより豊富に含み、且つ力学物性又は柔軟性に優れた硬化材料を作成する観点からは、1.0wt%以上が好ましく、2.0wt%以上がより好ましい。このように、透析内液中のシルク蛋白質濃度が高ければ、硬化材料作成時の乾燥時間を節約できるという効果がある。そして、乾燥時間を節約できれば乾燥時間中の蛋白質の変性が抑えられるため、所望の物性のフィルムをより効率的に得ることができる。また、乾燥時間を節約できれば、手間が減り、硬化材料の生産性が向上する。この濃度は、例えば、0.1、0.5、0.75、1.0、1.25、1.5、2.0、2.5、2.75、3.0、3.25、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.25、6.5、7.0、8.0、9.0、又は10.0wt%であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
透析内液の液量は、例えば、0.1、0.5、1、2、5、10、20、100、500、又は1000mLであってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。透析内液のpHは、例えば、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、又は9.0未満、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
(6)透析外液
透析外液は、力学物性、透明性、又は柔軟性に優れた硬化材料を得る観点からは、揮発性塩基物質を含む水溶液であることが好ましい。揮発性塩基物質としては、例えば、アミノ基を有する揮発性化合物であってもよい。アミノ基を有する揮発性化合物は、例えば、アンモニア、ジエチルアミン、又はトリメチルアミン等を挙げることができる。揮発性塩基物質は、幅広い透析条件下でシルク蛋白質の固化を抑制可能な観点からは、アンモニアが好ましい。ジエチルアミンを用いる場合には、フィルムを得るための乾燥過程で腐食の防止措置を取ることが好ましい。トリエチルアミンは、18.7℃以下では水に溶けにくい。そのため、トリエチルアミンを用いた場合には、20℃以上の高温で透析やキャストを行うことが好ましい。透析外液のpHは、揮発性塩基物質の濃度を調整することによって、調整してもよい。なお「揮発性」は、気化しやすい性質を含む。即ち揮発性は、気化性を含む。塩基物質を含む水溶液が硬化した際に、硬化材料にその塩基物質が残存しないとき、揮発性とみなしてもよい。仮に揮発性塩基物質が硬化材料中に微量に残存した場合の残存率は低いほど好ましく、例えば、例えば、0.5、0.1、0.01、0.001、又は0%であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
透析外液中の揮発性塩基物質の濃度は、シルク蛋白質の固化をより抑制する観点からは、0.0001N超が好ましく、0.01以上がより好ましく、0.1N以上がさらに好ましい。この濃度は、例えば、0.0001、0.0005、0.001、0.005、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.0、5.0、7.0、8.0、10.0、12.0、又は14.8Nであってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。揮発性塩基物質にアンモニアを使用する場合、アンモニア水の濃度が高くなりすぎるとアンモニア臭がきつくなり、人体への影響が起きたり、環境、コストの面で問題となる場合がある。これらの観点からは、アンモニアの濃度は、14.8N未満が好ましく、12.0N以下がより好ましい。なお、揮発性塩基物質を透析により透析外液から透析内液へ移動させるには、透析前の透析外液の揮発性塩基物質の濃度を、透析前の透析内液の揮発性塩基物質の濃度よりも高く設定する。また、透析前の透析外液のpHを、透析前の透析内液のpHよりも高く設定してもよい。
透析外液の液量は、例えば、5、10、20、100、500、1000、5000、10000、又は50000mLであってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。透析効率を上げる観点からは、透析外液の液量は透析内液の液量よりも大きいことが好ましい。
(7)シルク蛋白質
本発明の一実施形態においてシルク蛋白質は、例えば、繭に含まれている蛋白質である。繭は、例えば、巣から得ることができる。例えば蜂の幼虫は、蛹になる前に巣穴の内側から吐糸してキャップ上の繭を作る。こうして作られるキャップ上の繭を、蜂の巣の内部から得ることができる。蜂のシルク蛋白質は、例えば、繊維状蛋白質であってもよい。また蜂のシルク蛋白質は、例えば、蜂の繭から抽出した蛋白質、又はその蛋白質をコードする遺伝子を有する遺伝子組換え生物から得られた蛋白質(即ち、組換え蛋白質)を含む。蜂のシルク蛋白質は、例えば、Silk1、2、3、4、5、又は6等のフィブロインを含んでいてもよい。蜂がキイロスズメバチの場合、シルク蛋白質は、例えば、VsSilk1、2、3、4、5、又は6等のフィブロインを含んでいてもよい。蜂の繭から抽出したシルク蛋白質に代えて、蜂のシルク蛋白質の遺伝子をホストに遺伝子組換え技術によって導入することで得られた蛋白質を用いても、上記と同様の透析条件で透析済水溶液を得ることが可能である。組換え蛋白質は、例えば、蜂の繭から抽出した蛋白質をコードする遺伝子(例えば、フィブロインをコードする遺伝子)を、遺伝子組換え技術によってホストに導入する工程、前記遺伝子を発現させて、組換え蛋白質を産生する工程、及び上記ホストから上記組換え蛋白質を抽出する工程、を含む生産方法によって得てもよい。上記ホストは、例えば、真正細菌宿主(例えば、大腸菌等)、古細菌宿主、又は真核宿主(例えば、酵母、植物、動物(例えば、ヤギ等)等)であってもよい。また組換え蛋白質は、繭を構成している蛋白質の1種以上と90%以上のアミノ酸の相同性を有する蛋白質であってもよい。上記90%以上は、例えば、95%以上、98%以上、又は100%であってもよい。上記相同性は、NCBIのBLASTによって測定された値で表すことができる。BLASTでアミノ酸配列を比較するときのアルゴリズムには、Blastpをデフォルト設定で使用できる。測定結果はPositives又はIdentitiesとして数値化されるが、本発明の一実施形態では好ましくはIdentitiesを採用する。
シルク蛋白質は、例えば、蜂目、チョウ目、又はクモ目に分類される生物のシルク蛋白質であってもよい。蜂目において、その下位の分類である科は特に限定されず、例えば、ハナバチ科、スズメバチ科、アリ科を挙げることができる。またスズメバチ科において、その下位の分類である亜科は特に限定されず、例えば、スズメバチ亜科、アシナガバチ亜科を挙げることができる。さらにスズメバチ亜科において、その下位の分類である属は特に限定されず、例えば、スズメバチ属、クロスズメバチ属、ホオナガスズメバチ属、又はヤミスズメバチ属(Provespa)を挙げることができる。スズメバチ属としては、例えば、キイロスズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)、オオスズメバチ、コガタスズメバチ、モンスズメバチ、ヒメスズメバチ、チャイロスズメバチ、ツマグロスズメバチを挙げることができる。その中でもキイロスズメバチのシルク蛋白質は比較的容易に調達可能である。クロスズメバチ属としては、例えば、クロスズメバチ、シダクロスズメバチを挙げることができる。なお、本発明の一実施形態において「蜂」は、蜂目に分類される生物であってもよい。本発明の一実施形態において「蜂のシルク蛋白質」は、例えば、ハナバチ科、スズメバチ科、又はアリ科の生物のシルク蛋白質を含む。本発明の一実施形態において「スズメバチ」は、スズメバチ亜科に分類される生物であってもよい。本発明の一実施形態において「ホーネットシルク」は、スズメバチ亜科に分類される生物の繭を構成する繊維状物質であってもよい。本発明の一実施形態において「ホーネットシルク蛋白質」は、スズメバチ亜科に分類される生物のシルク蛋白質であってもよい。なお、スズメバチと同様に社会性蜂に分類される生物(有剣類(蜜蜂、マルハナバチ、アシナガバチ、クロスズメバチ、アリ))のシルクは、ホーネットシルクと類似の蛋白質構成を有しているので、透析工程において、ホーネットシルクと同様の挙動を示すと考えられる。
チョウ目において、その下位の分類である科は特に限定されず、例えば、カイコガ科、カレハガ科、オビガ科、イボタガ科、ヤママユガ科を挙げることができる。その中でもカイコガ科のカイコガのシルク蛋白質は比較的容易に調達可能である。またカイコガ科において、その下位の分類である亜科は特に限定されず、例えば、カイコガ亜科を挙げることができる。またカイコガ亜科において、その下位の分類である属は特に限定されず、例えば、カイコガ属を挙げることができる。カイコガ属としては、例えば、カイコガ(Bombyx mori)、クワコを挙げることができる。なお、本発明の一実施形態において「蚕」は、カイコガ科に分類される生物であってもよい。また蚕は、例えば、遺伝子組換え蚕、家蚕、セリシン蚕であってもよい。
(8)無機塩水溶液
本発明の一実施形態において無機塩水溶液は、例えば、弱酸性塩、中性塩の水溶液であってもよい。また無機塩水溶液は、ハロゲン化物を溶媒に溶解した水溶液であってもよい。ハロゲン化物は、例えば、ハロゲン化リチウム、又はハロゲン化カルシウムであってもよい。また無機塩水溶液は、例えば、臭化リチウム、塩化カルシウム、銅エチレンジアミン、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸リチウム、又は硝酸マグネシウム等を溶媒に溶解した水溶液であってもよい。溶媒は、例えば、蒸留水又は緩衝液であってもよい。無機塩水溶液は、シルク蛋白質をより効率的に溶解させる観点からは、臭化リチウム又は塩化カルシウムを水に溶解した水溶液が好ましい。無機塩水溶液の塩の濃度は特に限定されないが、例えば、0.5、1、2、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、又は12mol/Lであってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この濃度は、シルク蛋白質の溶解速度が向上する観点からは、2mol/L以上が好ましく、4mol/L以上がより好ましい。後述の実施例1では無機塩水溶液として9M LiBr水溶液を用いたが、7.2MのLiBr水溶液も同様の溶解性を示すことを本願発明者は確認している。上記の無機塩水溶液中にシルク蛋白質を溶解する工程において、温度はシルク蛋白質が溶解する温度であればよく、例えば、5、10、15、20、25、30、35、37、40、45、50、60、70、又は80℃以下、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この溶解工程の温度は、シルク蛋白質の分子分解を特に抑制できる観点からは40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、25℃以下がさらに好ましい。溶解時間は、例えば、2、5、10、15、20、25、30、60、120、200、500、1000分以上、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。また、シルク蛋白質を塩化カルシウム水溶液に溶解する場合、シルク蛋白質の溶解速度が特に早く、シルク蛋白質の飽和溶解量が特に大きいという観点からは、塩化カルシウム濃度は3〜6 mol/Lが好ましく、4〜5 mol/Lがより好ましい。また、シルク蛋白質を塩化カルシウム水溶液に溶解する場合、シルク蛋白質の溶解速度の早さ、溶解量の多さ、分解の抑制に関する総合的な観点からは、溶解工程の温度は15〜40℃が好ましく、20〜35℃がより好ましく、25〜33℃がさらに好ましい。
本発明の一実施形態は、蜂のシルク蛋白質を3〜6mol/Lの塩化カルシウム水溶液に溶解させる工程を含む、シルク蛋白質水溶液の生産方法である。この生産方法は、シルク蛋白質の溶解速度が速いため、シルク蛋白質水溶液を特に効率的に生産できる。また、シルク蛋白質の飽和溶解量が大きいため、特に高濃度のシルク蛋白質水溶液を生産できる。また、低温下でもシルク蛋白質水溶液を生産できるため、シルク蛋白質の分解を特に抑制することができる。また、この生産方法を経て得られたシルク蛋白質水溶液を透析し、透析済水溶液を調製する工程と、その透析済水溶液を硬化させる工程と、を経て、硬化材料を生産できる。
(9)用途
本発明の一実施形態に係る透析済水溶液及び硬化材料は、天然材料であり、生体親和性が高いため、医療品製品や化粧品の原料として特に好適に使用できる。また、有機溶媒を使用せずに生産できる点からも、医療品製品や化粧品の原料に適しているといえる。例えば、透析済水溶液を人体の外表面に塗る水溶液として使用できる。特に、スズメバチのシルク蛋白質の高次構造は、ケラチンの高次構造と類似していることから、ケラチン部位(ケラチンでできている部位)の修復や保護剤として好適に使用できる。ケラチン部位としては、例えば、爪、又は毛髪を挙げることができる。そのため、透析済水溶液は爪の損傷部位の修復や保護剤として使用できる。硬化材料を医療用製品用として使用する場合、例えば、医療用のフィルム、細胞足場材料、人工角膜材料等として使用できる。また透析済水溶液は、例えば、パーマ液として使用できる。このパーマ液は、毛髪の保護剤として機能する。
本発明の一実施形態に係る硬化材料は、絶縁性、低比誘電率性などの電気特性を有している。これらの電気特性は高電圧下でも発揮できる。また硬化材料は、曲げや引張りに対する強度も有し、さらに高温(例えば、200℃近くの高温)にも耐えられ、フィルムの厚さを10μm程度まで制御可能である。本発明の一実施形態に係る硬化材料は、これらのような性質を有していることから、例えば、電子機器の中で使われる絶縁フィルムとして好適に使用できる。
本発明の一実施形態に係る透析済水溶液は、エレクトロスピニング法等の方法を用いて繊維製品にすることができる。繊維製品の形態としては、例えば、不織布を挙げることができる。この不織布は、例えば、フィルター、又は細胞足場材等として使用することができる。エレクトロスピニングにおいて、透析済水溶液とポリエチレンオキシド等の溶液との混合割合は、例えば、透析済水溶液がポリエチレンオキシド等の溶液に対して1.2、1.5、2、3、4、5、又は10倍量の固形分を含む比率であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
本発明の一実施形態に係る透析済水溶液は、透析温度、透析外液のpH、又はシルク蛋白質濃度によってはゾルもしくはゲルになってもよい。このときに得られるゾルやゲルは透明性が高く、純水で透析したときに得られる白濁したゾルやゲルとは異なっている。この透明性の高いゾルやゲルは、例えば、ジェル状化粧品用として使用できる。
(10)用語の説明
本発明の一実施形態において「用」は、専用又は兼用として使用されるものに対して使用してもよい。本発明の一実施形態において「材料」は、例えば、製品又は中間体の構成要素、原料、又は成分として用いられる物質であってもよい。この材料は、1種又は2種以上の物質を含んでいてもよい。この材料の形状、材質は特に限定されない。本発明の一実施形態において「硬化」は、水溶液の水分が蒸発又は気化して、固形状又は半固形状の状態になる現象を含む。この硬化は、固化、固形化、又は半固形化の現象を含む。この硬化は、水分の蒸発又は気化に伴う現象であってもよく、高分子成分の架橋に伴う現象であってもよい。また固化は、ゲル化又はゾル化を含む。本発明の一実施形態において「硬化材料」は、水溶液状態でなければ、硬度は特に限定されず、例えば、固形状、ゲル状、又はゾル状であってもよい。本発明の一実施形態において「透析済水溶液」は、透析操作を経た後の水溶液を含む。透析済水溶液は、例えば、透析工程後の透析内液を透析膜から回収した後の水溶液であってもよい。このとき、透析時間、透析後の透析内液の成分濃度、又は透析済水溶液が収容される容器は特に限定されない。透析済水溶液は、水溶液状態であればよく、その粘度(15℃)は、例えば、100、50、25、10、5、1、又は0.1cp以下、又はそれらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
なお、本明細書において「又は」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。また、上記実施形態に記載の構成を組み合わせて採用することもできる。
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<試験例1>透析外液として純水を用いた場合
キイロスズメバチの繭62.5mgを2.5mlの9M LiBr水溶液に37℃で20分間以内で溶解した後、透析膜に流し込んだ。透析膜にはエーディア(株)製の透析用セルロースチューブ(透析膜 8/32, 平面幅 10mm)を使用した。透析外液には500mlの純水を使用した。透析温度は5℃に設定し、1日1回の頻度で外液を交換し、合計で4回交換した。その結果、透析内液はゲル化した。
透析後に水溶液状態が維持されていたか、もしくは固化(ゲル化もしくはゾル化)したかの判断は、透析チューブ内にあらかじめ封入しておいた3個のビーズの落下挙動で判断した。すなわち、透析チューブを上下反転させて、透析チューブ内をビーズが落下移動すれば溶液状態、落下せずに透析チューブ上方にとどまる場合には固化と判断した。ビーズはニッカトー製のYTZボールを用いた。
さらに、固化したものに対して、ゲル化と判断するかゾル化と判断するかについては、以下のように行った。チューブから出した時に、円柱状の構造を維持したまま取り出せた場合はゲルと判断、筒状の形状が維持されず、流動性がある場合にゾルと判断した。
<実施例1>透析外液として揮発性塩基物質を含む水溶液を用いた場合
キイロスズメバチの繭62.5mgを2.5mlの9M LiBr水溶液に37℃で20分間以内で溶解した後、透析膜に流し込んだ。透析膜にはエーディア(株)製の透析用セルロースチューブ(透析膜 8/32, 平面幅 10mm)を使用した。透析外液には500mlの0.1N アンモニア水を使用した。透析温度は5℃に設定し、1日1回の頻度で外液を交換し、合計で4回交換した。その結果、透析内液は水溶液状態を維持した。
<実施例2>pHの検討
透析外液のpHが、透析過程におけるホーネットシルク蛋白質の固化に与える影響を検討するために、様々な種類の緩衝液およびアンモニア水でpH6からpH11の範囲の水溶液を調製し、これらを外液として透析を行った。
62.5mgのキイロスズメバチの繭を2.5mlの9M LiBr水溶液に37℃で20〜30分間以内で溶解した後、透析膜に流し込んだ。透析膜にはエーディア(株)製の透析用セルロースチューブ(透析膜 8/32, 平面幅 10mm)を使用した。透析外液は500mlで、透析温度は5℃〜37℃の間で固定し、1日1回の頻度で外液を交換し、合計で4回交換した。使用した透析外液の種類と調製法は以下の通りである。
リン酸緩衝液は0.2Mリン酸二水素ナトリウムと0.2Mリン酸水素二ナトリウムを混合して調製した。トリス−塩酸緩衝液は0.1Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンと0.1M塩酸を混合して調製した。グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液は0.1Mグリシンと0.1M水酸化ナトリウムを混合して調製した。炭酸−重炭酸緩衝液は0.1M炭酸ナトリウムと0.1M重炭酸ナトリウムを混合して調製した。いずれの緩衝液も、最終濃度は0.1mol/Lとした。さらに、0.1Nアンモニア水を調製した。これらの緩衝液およびアンモニア水を透析外液として透析を行った。
検討の結果を図1に示す。図中には、透析後も水溶液状態を維持した場合(○)、固化した場合(ゲル;●,ゾル;■)に分けて示した。その結果、透析温度が30℃未満で、pHが9.0以上のときに水溶液が得られた。但し、pH9〜10では、緩衝液の種類によっては固化する場合があり、炭酸−重炭酸緩衝液系では水溶液が得られるが、グリシン−水酸化ナトリウム系では固化していた。緩衝液の種類に拘わらず水溶液が得られるのはpH10を超えてからであった。
<実施例3>アンモニア濃度及びシルク蛋白質濃度の検討
アンモニア水の濃度を変えることによって、透析外液の状態がどのように変化するかをあらかじめ把握するため、アンモニア濃度とpHの関係を調べた(図2)。この図から、透析外液のpHはアンモニア濃度に依存し、実施した0.0001N〜0.7Nの範囲ではpH8.5〜pH11.6の範囲で変化した。透析外液中のアンモニア濃度変化、およびアンモニア濃度変化に伴うpH変化が溶解中のホーネットシルク蛋白質の安定性に寄与するものと思われる。
様々なホーネットシルク蛋白質濃度の溶液を調製する場合、繭をある量はかり取り、それを臭化リチウム水溶液に溶かして透析するが、このとき透析中に透析チューブ内の圧力が増し、外液がチューブ内に侵入するため、透析後のチューブ内部の溶液中のシルク蛋白質濃度は透析前の濃度よりも低くなる。このため、透析終了後に、改めて溶液のホーネットシルク蛋白質濃度を再測定することが好ましい。この再測定には熱重量分析法(TG法)を使って濃度を決定した(TG法とは水溶液を加熱して水分を全て蒸発させた時の重さ変化を計測することで、水溶液の全重量に占めるシルクの重量の割合(重量%)を求める方法)。
透析後にTG法によって決定したホーネットシルク蛋白質の「透析後の濃度(wt%)」を、透析前に9M臭化リチウム水溶液1mLに溶かしたキイロスズメバチ繭の量(mg)「仕込み濃度(mg/mL)」に対してプロットした(図3)。この図から、仕込み濃度(mg/mL)と透析後の溶液濃度(wt%)との間には直線関係があることがわかる。この直線関係を利用することによって、透析後にある濃度の水溶液を得るために必要とされる仕込み濃度についておおよそ見当を付けることができる。本実施例では、透析チューブとして、エーディア株式会社(旧三光純薬)製の透析膜(8/32)を使用した。使用前の透析膜の平面幅は10mm、直径は6mmであった。また、この図のプロットデータは透析温度5℃で得たものであり、透析後の状態が水溶液であるかゲルかに拘わらずプロットした。
以上の予備検討を行った後、透析温度一定(5℃)のもとで、「透析外液のアンモニア水濃度」と「溶解しているホーネットシルク蛋白質の濃度」が透析後の水溶液の状態に与える影響について検討を行った。
9M LiBr水溶液1mL当たりに、3mg〜150mgのホーネットシルク蛋白質を溶解した透析前水溶液を調製し、5℃で透析を行い、実施例2と同様のビーズの落下挙動から固化の有無を観察した。透析後も水溶液が維持されたサンプルに対してTG測定を行い、濃度を決定し、透析に用いたアンモニア水濃度に対してプロットした結果を図4に示す。
水溶液が得られる領域と、透析中に固化(ゾル化又はゲル化)してしまう領域とは図中の点線を境界にしていることがわかる。点線で区切ったL側は水溶液が得られる領域、S側は透析中に固化する領域となる。領域Lの条件で調製することによって、ホーネットシルク蛋白質の水溶液を得ることができる。
この図から、アンモニア水濃度の向上に伴って、水溶液が得られるホーネットシルク蛋白質の濃度幅が広がることがわかる。なお、アンモニア水濃度が0.0001Nでは実験を行ったすべての濃度範囲で水溶液を得ることはできなかった。ホーネットシルク蛋白質濃度が140mg以下(透析後は6.44wt%以下)のときは、いずれのアンモニア水濃度のときも、透析内液は水溶液状態を維持していた。本検討では、アンモニア濃度を0.5Nまでしか行っていないが、さらに濃度を上昇させれば、ホーネットシルク蛋白質水溶液の濃度限界も上昇すると考えられる。ちなみに、市販アンモニア水の濃度は28%であり、14.8Nに相当することから、市販アンモニア水を使えば14.8Nまで上昇させることができる。
<実施例4>温度、アンモニア濃度、及びシルク蛋白質濃度の検討
透析外液のアンモニア水の濃度一定のもとで、「溶解しているホーネットシルク蛋白質の濃度」と「透析温度」が透析後の水溶液の状態に与える影響について検討を行った。
9M 臭化リチウム水溶液1mLに対してキイロスズメバチの繭を3mg〜150mgの範囲で溶解した濃度の異なる様々なサンプルを調製した。この臭化リチウム水溶液を、アンモニア濃度が異なる3種類の透析外液、および5℃〜37℃の異なる透析温度の条件下で透析を行った。透析中に固化することなく、透析後も水溶液状態を維持したサンプルについてTG測定を行って濃度を決定した。決定した各サンプルの濃度を、透析中に設定していた温度に対してプロットした結果を図5に示す。
水溶液が得られる領域と、透析中に固化(ゾル化又はゲル化)してしまう領域は図中の点線を境界にしていることがわかる。点線で区切ったL側は水溶液が得られる領域、S側は透析中に固化してしまう領域となる。この図から、ホーネットシルクの水溶液が得られる「ホーネットシルク蛋白質濃度」、「透析温度」、「透析外液アンモニア水濃度」の関係がわかる。L領域内の条件で調製すれば水溶液が得られることを示唆している。
この図ではアンモニア水濃度を0.01〜0.5Nの範囲で検討を行っている。0.01Nよりも低い濃度では、0.0005Nでも透析温度5℃で水溶液が得られた。一方、0.5Nよりも高い濃度では、濃度上昇に伴って水溶液の安定化領域は拡大し、さらに高濃度ホーネットシルク蛋白質水溶液が得られる。市販アンモニア水は濃度28%であり、14.8Nに相当する。よって、透析に用いるアンモニア水の濃度は、市販アンモニア水を用いれば0.0005N〜14.8Nまでの範囲で任意に設定することが可能である。しかし、実際には、アンモニア水の濃度が高くなりすぎるとアンモニア臭がきつくなり、人体への影響のみならず、環境、コストの面で問題となる場合がある。
<実施例5>分子量の低下の検討
タンパク質は高アルカリ性水溶液中で加水分解することが知られている。加水分解による分子量の低下は、乾燥(キャスト)後に得られるフィルムの力学物性を低下させる原因になる。そこで、アンモニア水透析による分子量低下の有無を調べるために、電気泳動測定を行った。比較のために純水で透析した場合の透析後のホーネットシルク蛋白質(ゲル状態)についても、再度臭化リチウム水溶液に溶解した後に電気泳動を行った。
(1)純水で透析した場合
50mgのキイロスズメバチの繭を2mlの9M LiBr水溶液に室温で溶解し、5℃から37℃の純水中で透析を行った。透析外液は500mlで、1日1回の頻度で外液を交換し、合計で4回交換した。透析の途中で溶液はゲル化した。透析後のゲルを-30℃で凍結後、凍結乾燥を行い、得られた乾燥試料について電気泳動を行った。その結果を図6に示す(pure water 5〜37)。比較のために、キイロスズメバチの繭をそのまま電気泳動した結果も示す(図6中の(C))。
図6中の(C)には、繭を構成する4種類の主要タンパク質のバンドが明瞭に現れている。同様に、純水透析した後の試料も4種類の主要構成タンパク質のバンドが明瞭に観察されているが、主要タンパク質以外に由来するバンドも複数観察されている。このことは、純水中で透析する過程で、ある程度の分解が進行したことと、繭を溶解する時に、繭に付着している巣盤に含まれるタンパク質も一部溶解したことによると考えられる。透析温度で比較すると、温度の上昇に伴って低分子側のバンドの濃さが増加しているように見える。このことから、低分子側のバンドは繭付着成分ではなく、繭分解成分に由来すると考えられる。しかし、透析温度による違いは小さく、分解の程度は小さいことを示唆している。
(2)アンモニア水で透析した場合
アンモニア水で透析した場合の透析温度による透析後のタンパク質の電気泳動パターンの違いを、各アンモニア水濃度に対して測定した結果を図7に示す。
いずれの結果も、透析温度が低いほど分解が抑制されていた。但し、アンモニア濃度が高い0.5Nにて、37℃で透析した時のタンパク質の分解が著しい。この結果から、透析をアンモニア水中で行う場合には透析温度がタンパク質分子鎖に与える影響は大きくなるが、低温で行うことにより分解を抑制できることがわかる。さらに、高温下での透析では、アンモニア水の濃度を小さくするほど、分解を抑制できる。
特に、20℃以下で透析した結果は、いずれのアンモニア濃度で透析した結果も、ほとんど分子鎖の分解が起こっていないことが分かる。分子鎖が分解すると、後に述べる水溶液を乾燥して得られるフィルムの物性の著しい低下を招くことになる。以上の結果から本実施例で作製される水溶液は、透析温度が20℃以下において得られる、分子鎖の分解がほとんど起こっていない水溶液が好ましいといえる。
<実施例6>長期安定性の検討
(1)長期安定性とアンモニア濃度の検討
以上の実施例で得られた水溶液の長期安定性を検討するために、透析後から固化するまでの期間を調べた。
まず、9M LiBr水溶液1mL当たりに、キイロスズメバチの繭6.7〜150mg(具体的には、それぞれ6.7、16.7、25.0、37.5、45.8、54.6、58.3、72.9、87.5、100、110、120、125、130、140、150mg)を溶解した透析前水溶液を調製し、透析5℃で透析を行った。また、透析外液には0.0005、0.001、0.005、0.01、0.05、0.1、0.5Nの7種類のアンモニア水を使用した。透析は1日1回の頻度で外液を交換し、合計で4回交換した。
次に、透析後の水溶液(透析内液)を、5℃冷蔵庫内に放置し、固化するまでの時間を調べた。その結果を図8に示す。図中には、1日超2日以内に固化(<2d)、2日超14日以内に固化(<14d)、14日超1カ月以内に固化(<1m)、1カ月経過しても水溶液を維持(>1m)に区分して示している。
アンモニア濃度が高いほど水溶液の安定性は向上し、0.05N以上では得られた水溶液のほぼ全濃度範囲で、1カ月以上の間、水溶液として安定して維持できることがわかった。保持温度を5℃よりも高い温度で検討したところ、保持温度の上昇に伴って固化までの時間が短くなる傾向が観察された。すなわち、保持温度が高いほど水溶液の安定時間は短くなる。保持温度20℃では、アンモニア濃度0.05N以上、ホーネットシルク濃度2wt%以下でのみ水溶液を1カ月以上維持することができた。さらに保持温度が高くなると、いかなる条件であっても1カ月以上水溶液を維持できることはできなかった。
<実施例7>水溶液中でのホーネットシルク蛋白質の分子構造
次に、アンモニア水透析で得られた水溶液中でのホーネットシルク蛋白質の分子構造を調べるために、CD測定を試みた(図9)。0.1Nアンモニア水で透析したホーネットシルク蛋白質濃度が0.1wt%の水溶液を分解能0.2nm, バンド幅1.0nm、感度50mdegの条件で測定した。この結果から、ホーネットシルク蛋白質は水溶液中でαヘリックス構造を形成していることがわかった。
<実施例8>遺伝子組換え生物が生産したホーネットシルク蛋白質の場合
キイロスズメバチの繭を構成する主要蛋白質の遺伝子(Vssilk 1、accession no. AB537885)を単離するために、GAGATCTGGGCCATCAAGGTTGTCTG(配列番号1)とGGTCGACTTAGGCGCTGCTACTACTC(配列番号2)の2種類をプライマーにして、キイロスズメバチの絹糸腺のcDNA(Sezutsu et al. (2007): Biosci. Biotechnol. Biochem., 71, 2725-2734.)に対するPCRを行った。PCR産物はpGEM T-Easyベクター(Promega)でクローニングを行い、続いて、発現ベクターpTrcHis(Invitorogen)のBglIIサイトとEcoRIサイトの間にサブクローニングした。発現用宿主細胞にはBL21大腸菌株を用い、150 mg/mLのアンピシリンが添加されたLB培地中で温度37℃で生育させ、細胞濃度が0.5 - 0.7 OD600に達したところでIPTGを0.5mM加えて誘導し、さらに5時間培養を続けた。培養終了後、封入体(inclusion body)をQIAexpressionistプロトコールに従って処理を行い、固化した蛋白質生成物を9M LiBr水溶液で溶かし出した。得られた9M LiBr蛋白質水溶液を電気泳動で調べたところ、キイロスズメバチの繭の主要蛋白質であるVssilk 1が高い純度で溶解した水溶液であることが分かった。
得られた9M LiB蛋白質水溶液を室温で水で透析したところ、蛋白質の沈殿が生じた。一方、0.05Nアンモニア水で室温透析した場合には、水透析の場合と比べて析出する蛋白質量は著しく少なかった。透析後の水溶液を遠心(12000rpm、4℃、10分間)し、上清を10倍に希釈して280nm吸光度測定を行ったところ、水透析の吸光度 0.065に対して、0.05Nアンモニア水透析では0.242となり、3.7倍の濃度差が認められた。この結果は、遺伝子組換え大腸菌が生産したホーネットシルク蛋白質においても、アンモニア水中で透析することで透析中の固化が抑制され、シルク水溶液が得られることを意味している。
<実施例9>フィルムの作製
キイロスズメバチの巣から繭の周辺部分を取り出した。繭に付着した巣材(木くずを固めて作られている)部分を極力取り除いた後、その1.5gを30mLの9M LiBr水溶液に溶解した。溶解は37℃で30分間高速振とうして行った。溶解後、遠心(10kG、20分)して不溶成分(大部分は巣材の木くず)を分離した後、濾過してろ液を回収した。ろ液を透析膜(和光純薬セルロースチューブ、サイズ24)に入れて、0.1Nアンモニア水中で透析した。アンモニア水は、28%アンモニア水(ナカライテスク製、試薬特級)を14.8Nアンモニア水として希釈して使用した。透析は5℃の定温庫内で行い、透析外液(アンモニア水)は1L以上使用して、常時攪拌しながら透析した。透析外液を1日に1回以上交換して、電導度が200〜300程度以下まで低下して一定になるまで外液交換を繰り返した(4回以上の交換を行った)。
透析中に不溶物(透析前の濾過で除ききれなかった成分など)が沈殿するので、再度、フィルター濾過を行った。得られた水溶液の粘度は3.33cp(15℃)で濃度は3.38wt%であった。この水溶液を底面が平らな容器(東洋器材科学株式会社製、角1号シャーレ(235mm×85mm×16mm)ポリスチレン製)に28mL流し込み、20℃の恒温室内で乾燥(キャスト)した。乾燥は2日間程度以内で乾燥できるように、送風するなどして乾燥速度を調節した(図10、11)。フィルムの厚さは30±5μmであった。この条件で得られたフィルムを幅3mm、長さ30mmの短冊状に切り出して、力学物性を測定した。結果を表1に示す。
上記の物性値は、Yinら(Biomacromolecules, 11, 2890, 2010)によって報告された6%絹フィブロイン水溶液を乾燥して得られたキャストフィルムの力学物性(ヤング率2.7GPa、引張り強度80MPa、破断伸び5%)と同程度である。
上述のように、キャストによってフィルムを得るためには、底面が平らな容器を用いることが好ましい。この容器をどのような材質のものにするかによってフィルムの剥がしやすさは異なる。ポリスチレン(例えば東洋器材科学株式会社の角1号シャーレ、栄研化学株式会社製の滅菌2号角シャーレ、滅菌MMシャーレなど)シャーレ、テフロンシャーレ、もしくは表面をテフロンコーティングした容器は剥がしやすく好都合である。
図12には、作製したキャストフィルムの固体NMRスペクトルを示す。αヘリックスに由来するピークが大きく現れており、αヘリックス主体の構造を有していることがわかる。αヘリックス構造主体のホーネットシルクフィルムが得られたことは特許文献2で示されているHFIP溶液からキャストして作製したフィルムと同様である。
図13には、作製したキャストフィルムのFT-IRスペクトルを示す。アミドIバンド領域には1638cm-1をトップとするピークが現れている。典型的なαヘリックスのアミドIバンド(1645cm-1付近)よりも10cm-1ほど低波長側にシフトしていることから、αヘリックス分子鎖は超二次構造(コイルドコイル構造)を形成していると考えられる(Heimburg et al., Biochemistry, 1990)。
<実施例10>フィルム製造の条件
「乾燥温度」をパラメータにして、フィルムが作製できる条件を検討した(図14)。ここで、「フィルムができた」とは、シャーレから1枚の連続したフィルムとしてはがし、取り出すことができた場合を指す。また、「フィルムができなかった時」とは、乾燥が終了した時点でシャーレ上のホーネットシルクフィルムがひび割れていたり、シャーレからホーネットシルクフィルムをはがす過程で割れたり、砕けたり、裂けたりした場合を指す。なお、フィルムができない時はシャーレにホーネットシルクフィルムが付着してはがれない場合が多い。
以下では、フィルムができる「乾燥温度」について検討した結果を以下に述べる。1.5gのキイロスズメバチ繭を30mLの9M臭化リチウム水溶液に溶解し、0.1Nアンモニア水にて透析して得たホーネットシルク蛋白質濃度2.44wt%の水溶液を角シャーレ(栄研化学株式会社製2号角シャーレ)に30mL注いで、20〜36℃の温度範囲にて乾燥(キャスト)してフィルムを作製した。乾燥後、フィルムができた場合を○印、できなかった場合を×印にして以下の表2にまとめた。本実験では、すべて2日以内に乾燥してフィルムを得た。
この結果から、27℃と29℃の間を境目として、それ以下の温度ではフィルムができることがわかった。フィルムができる27℃以下で乾燥した場合であっても、乾燥時間が長時間になるとフィルムができなくなる頻度が増加した。上記の実験では2日間以内で乾燥させたが、2日を超える日数で乾燥させた場合には割れやすくなる。乾燥時間はできるだけ短いことが望ましい。ただし、急激な乾燥はフィルム形状の悪化の原因となる。2日間以内で乾燥するぐらいが適当であった。
従って、フィルムの作成においては「乾燥温度」と「乾燥時間」を適宜調整することが好ましい。フィルムができる特に好ましい条件は、ホーネットシルク蛋白質が溶解しているアンモニア水溶液を27℃以下で、2日以内で乾燥させた場合である。なお、「乾燥時間」に関して、フィルム加工時のクラックやひび割れを防ぐ上で、水分の蒸発速度の制御が大切である。
フィルムができる条件にてフィルムを作製した時には、指やピンセットで筋が付く程度まで完全に折り曲げても割れないフィルムが作製できた(図15)。ただし、湿度やフィルムの厚さなどによっては、折り曲げて割れる場合が時々あるので、厳密には「折り曲げても割れないフィルム」というよりは、「折り曲げても割れにくいフィルム」といえる。一方、フィルムができない条件で作製されたホーネットシルクフィルムは、折り曲げ試験を行うと、すべてのサンプルが割れた。図15は、1cm幅のフィルムを折り曲げて、ピンセットでしっかりと折り目を付けたところ(上)。折り目を付けたピンセットを離したところ(中)。折り目を付けたフィルムの両端を広げたところ(下)の様子を写したものである。この図に示したように、柔軟性があるフィルムが作製できる条件では、折り曲げて筋がついても割れないフィルムを作製することができる。
<実施例11>フィルムの電気物性
実施例9の手順で得られたホーネットシルク蛋白質のキャストフィルムについて、電気容量Cを測定した。2cm×2cm角の銅板を2枚用意し、この銅板でフィルムを挟んで電気容量を測定した。測定にはカスタム製LCRメーター(ELC-133A)を用いた。100Hz、1kHzおよび10kHzの3種類のテスト信号周波数に対して電気容量値(pF)を測定した。
図16には、テスト信号周波数100Hz、1kHz、及び10kHzでの電気容量値(pF)を、フィルムの厚さ(mm)に対して、それぞれ、◇(菱形)、□(四角)および△(三角)印でプロットした。ホーネットシルク蛋白質のキャストフィルムは、厚さが異なる複数のフィルムについて、乾燥する前と後で測定した。乾燥は真空乾燥器にて行った。
ホーネットシルクフィルムの電気容量は乾燥前後で大きく変わり、乾燥することによって電気容量が低下(絶縁性能が向上)したことがわかる。さらにフィルム中の残存水分を除くことによって電気容量が低下することが予想される。比較のために同条件で測定した汎用フィルムと比較しても、ホーネットシルクフィルムの電気容量は低いことがわかり、優れた電気絶縁体であると言える。
<実施例12>アンモニア水以外のアルカリ溶液を使用した場合のフィルム
炭酸ナトリウムNa2CO3で調製したpH11の水溶液を透析外液として、5℃で透析して得られたホーネットシルク蛋白質水溶液(1.5g/10mlのオオスズメバチ繭)を直径55mmφの円形シャーレ(栄研シャーレAG2000)に2mL注いで乾燥(キャスト)したところ、図17のような白濁物質が得られた。この物質は脆く、割れやすいため、シャーレから取り出す過程でひび割れた。白濁の原因は乾燥によって炭酸ナトリウムが析出したためである。乾燥によって塩がホーネットシルク硬化体中で析出すると、ホーネットシルク硬化体は脆く割れやすくなり、フィルムが得られなかったと考えられる。以上の結果から、用いる塩基物質としては、アンモニアのような揮発性物質を用いることが、フィルムを得るためには重要であることがわかる。
<実施例13>、揮発性塩基物質を含有する水溶液を使用した場合のフィルム
アンモニアと同様に、揮発性の塩基であるジエチルアミンを加えた水を透析外液にして透析を行った。ジエチルアミン0.1N水溶液を調製したところpH 11.7の水溶液が得られた。この塩基性水溶液を透析外液として、キイロスズメバチ繭の9M臭化リチウム水溶液を透析した。透析温度は5℃とした。透析後も水溶液が維持され、均一な水溶液が得られた。水溶液の濃度をTG測定にて決定したところ、6.39%であった。得られた水溶液4mlを直径5.5mmφの円形シャーレ(栄研化学株式会社製滅菌MMシャーレ)に注いで乾燥させたところ、図18のような透明で柔軟性のあるフィルムが得られた。
<実施例14>臭化リチウム以外の無機塩で繭を溶かした場合のフィルム
(1)フィルム作製
塩化カルシウム水溶液に繭を溶かした場合についても検討した。塩化カルシウム(Nacalai tesque, 試薬特級)15gを20mlの水に溶かして、5.4M塩化カルシウム水溶液を調整した。この5.4M塩化カルシウム水溶液を65℃に昇温して、攪拌しながら600mgのキイロスズメバチ繭を加えて溶解した。繭は3分以内でほとんど全てが溶解したので、加熱をやめて流水で冷やした後、繭に付着していた不溶物(巣材の木くずなど)をフィルターろ過(桐山製作所製、桐山ロート(φ60) No.5Aろ紙)で取除いた。ろ液を透析チューブの中に注いで5℃で透析を行ったところ、透析外液のアンモニア水を0.5N、0.1N、0.05Nのいずれで行った結果も固化することなく均一な水溶液が得られた。0.1N透析で得られた水溶液のシルク濃度は1wt%であった。なお、アンモニアを使用せずに、純水で塩化カルシウム水溶液を透析した場合には、ホーネットシルク蛋白質は透析中に固化して白色ゲルとなり、水溶液は得られなかった。よって、塩化カルシウム水溶液でキイロスズメバチ繭を溶解させた場合においても、アンモニア水で透析することで水溶液が得られることがわかった。
この1wt%水溶液を直径55mmφの円形シャーレ(栄研シャーレAG2000)に注いで20℃にて乾燥(キャスト)したところ、柔軟なフィルムを得ることができた(図19)。
(2)溶解性試験
塩化カルシウム水溶液への繭の溶解性を検討した。図20は、オオスズメバチの繭20mgを50, 60 および70℃の塩化カルシウム水溶液10mLに浸して、振とうさせた時の、塩化カルシウムの濃度と、振とうしてから30分後および60分後の溶解率(%)をプロットした図である。溶解率は、UV装置で測定した波長280nmの紫外線の吸光度から算出した。この図から、50℃〜70℃の温度範囲では、30分振とうと60分振とうで溶解率に差がないことがわかる。このことは、30分以内の振とうで平衡溶解状態に達したことを示唆している。また、この図から、平衡溶解状態での繭の溶解率(%)は、塩化カルシウムの濃度に依存することがわかる。繭は、塩化カルシウム濃度が3.0M〜6.0Mの濃度範囲で溶解し易く、塩化カルシウム濃度が4〜5Mでは繭が完全に溶解するが、その前後では飽和溶解濃度が減少した。
図21は、4.5M及び3.6Mの塩化カルシウム水溶液10mLに、オオスズメバチの繭20mgを浸して、20〜70℃範囲の各温度にて振とうさせた時の、振とう後30分後、及び60分後の溶解率を、温度に対してプロットした図である。塩化カルシウム濃度4.5Mでの結果から、振とう時の温度が高くなるほど、30分後と60分後の溶解率の差が小さくなり、50℃以上ではほぼ一致することがわかる。この結果から、振とう温度によって繭の溶解速度が異なることが分ったので、次に、50℃以下を中心に、溶解率と振とう時間との関係を各振とう温度に対してプロットした(図22)。
図22は、オオスズメバチの繭20mgを4.5Mおよび3.6Mの塩化カルシウム水溶液10mLに浸して、20℃、30 ℃および50℃にて振とうさせた時の、溶解率の変化を振とう時間に対してプロットした図である。4.5Mの塩化カルシウムに50℃で振とうさせた場合は、30分以内に溶解率100%に達するが、30℃、20℃と温度が低くなるに従って溶解率100%に達するまでの時間は長くなる。しかし、20℃であっても、長時間振とうすることによって、全ての繭を溶解できることがわかる。一方、3.6Mの塩化カルシウム水溶液に30℃で振とうさせた場合には、4.5Mの塩化カルシウム水溶液に同温度の30℃で振とうさせた場合よりも、平衡溶解状態に達するまでの時間が長い、すなわち溶解速度が遅い。さらに、3.6Mの塩化カルシウム水溶液に30℃で振とうさせた場合には、溶解率は100%に到達せず、55%付近で平衡になった。
以上の結果から、ホーネットシルク繭は、4〜5M濃度の塩化カルシウム水溶液に溶解させるのが良い。この場合、特に高濃度の繭を溶解できる。また、溶解温度については、溶解温度が上昇するほど短時間で溶解させることができるが、温度の上昇による分子の分解が問題になることがある。分子分解を防ぐ観点からは、なるべく低温で溶解させるのが好ましいが、溶解温度の低下に伴って溶解速度が減少するため、溶解にかかる時間が長くなる。一方で、溶解時間が短い方が、分子分解を抑制する観点からは好ましい。以上を考慮すると、30℃程度で溶解させるのが最も好ましい。
<実施例15>スズメバチの繭以外を使用した場合のフィルム
(1)クロスズメバチ
クロスズメバチはVespulaに属し、スズメバチ亜科(Vespa)とは科を異にしているが、構成タンパク質の幾つかは高い相同性を示している。クロスズメバチも9M臭化リチウム水溶液に可溶で、その後、脱塩のための透析を純水中で行うと、透析の過程で固化(沈殿、ゲル化もしくはゾル化)する。そこで、クロスズメバチ繭の臭化リチウム水溶液を0.1N、又は0.5Nアンモニア水を外液にして透析を試みた。
繭を270〜300mgはかり取って、3mLの9M 臭化リチウム水溶液に溶解したところ多くの不溶物が残った。クロスズメバチ繭のすべてのタンパク質成分が9M臭化リチウム水溶液に溶解することは電気泳動とNMRで確認しているので、不溶物は繭タンパク質以外の夾雑物であると考えられる。クロスズメバチは繭が小さいため、繭だけの採集が難しく、巣材などの夾雑物が繭に多く付着している。遠心分離を行って不溶物を除去した後、溶液を5℃の0.5Nアンモニア水中で透析を行ったところ、透析中に固化することなく水溶液が得られた。水溶液の濃度は4.0〜4.4wt%であった。
同様に繭を150mgはかり取って、3mLの9M 臭化リチウム水溶液に溶解し、不溶物を除去した後に、0.1Nアンモニア水中にて5℃で透析を行ったところ2.8wt%の水溶液が得られた。以上の結果から、クロスズメバチの繭においても、水溶液が得られることがわかった。
次に、0.5Nアンモニア水で透析して得られた4.0〜4.4wt%の水溶液を直径55mmφの円形シャーレ(栄研シャーレAG2000)に4mL注いで5℃雰囲気下で乾燥(キャスト)したところ、柔軟なフィルムを得ることができた(図23)。
(2)絹フィブロイン
蚕が作る絹フィブロインおよびセリシンは、臭化リチウム水溶液に溶解させた後、純水で透析した場合でも、透析中に固化することなく水溶液が得られる。このため、フィブロイン水溶液を得るための目的としては、アンモニア水透析を行う必要はないが、フィブロインの場合でも、アンモニア水で透析することによって水溶液が得られる。例えば、3gの精錬絹フィブロインを20mlの9M LiBr水溶液に溶かし、0.5Nのアンモニア水で透析したところ、透明な水溶液が得られた。0.1N アンモニア水で透析した場合も同様に、水溶液が得られた。
純水で透析した絹フィブロイン水溶液は、低温(5℃)中であっても、長時間(1か月程度)放置すると固化して白色のゲルになるが、0.5Nもしくは0.1N アンモニア水で透析して得た絹フィブロイン水溶液は、1か月以上の間、低温(5℃)中に保存しても固化することはなく、水溶液を維持した。よって、フィブロイン水溶液に対しても、アンモニア水溶液を用いることによって安定性を向上させる効果があるといえる。得られたフィブロインのアンモニア水溶液を20℃でキャストすると、図24のような透明で柔軟性があるフィルムが得られた。
<実施例16>フッ素加工した型枠を使用した場合のフィルム
ステンレスシャーレ((株)山田製作所製、75mmφ)の表面にフッ素樹脂コーティングを行った。これにより、ステンレスシャーレの内側面は灰色になった。このシャーレに実施例9と同様の条件で作製した水溶液を注いてキャストしたところ、図25のような透明で柔軟性があるフィルムが得られた。
<実施例17>フィルムの再利用について(キャストフィルムの溶液挙動)
上記実施例に記載の方法で作製したキャストフィルムの再利用について検討を行った。
コガタスズメバチの繭を9M臭化リチウム水溶液に溶解後、0.1Nアンモニア水にて透析した水溶液から得られたキャストフィルムを、再び9M臭化リチウム水溶液に溶解して、得られたホーネットシルク蛋白質が溶解している臭化リチウム水溶液の粘度を測定した。比較のために、キイロスズメバチ、オオスズメバチ、又はコガタスズメバチの繭を9M臭化リチウム水溶液に溶解した状態での粘度も測定した。結果を図26に示す。
9M臭化リチウム水溶液に溶かしたシルク蛋白質量に対する粘度の値は、繭と再生フィルムでほとんど同じであることがわかる。一般に、分子量が低下すると粘度が低下することが知られている。粘度がほとんど変わらなかったという結果は、キャストフィルムを再溶解した場合でも、繭を直接溶解した場合と同様の溶液が得られることを示唆している。
得られたキャストフィルムを再溶解して得た臭化リチウム水溶液を0.1Nアンモニア水で5℃にて透析したところ、同様の水溶液が得られた。さらに、この水溶液をシャーレ上に流延して乾燥させたところ、柔軟性のあるフィルムが得られた。よって、本件発明法では、キャストフィルムの再利用が可能である(図27)。
<実施例18>繊維化
上記実施例に記載の方法によって均一な水溶液が得られたことから、紡糸のための紡糸原液としても使用することが可能になった。例えば、上記の方法で作製した5.4wt%のホーネットシルク蛋白質が溶解しているアンモニア水溶液に、分子量90万のポリエチレンオキシドの5wt%溶液を容量比で3:1、2:1、1:1の割合で混合して、サイズ27Gのニードルから加電圧15kVにて電気紡糸(電界紡糸)を行ったところ、3:1および2:1の溶液からは直径数百ナノメートルの均一なナノファイバーが得られた。1:1の系では、繊維中に泡が入り、均一な繊維が得られなかった。
<実施例19>
上記実施例3〜7、9〜11、13、14、16、18のうちキイロスズメバチを用いて行った実験について、キイロスズメバチを、コガタスズメバチ、オオスズメバチ、ヒメスズメバチ、モンスズメバチ、又はクロスズメバチに代えてほぼ同様の実験を行った。その結果、キイロスズメバチを用いて行った場合と、ほぼ同様の結果が得られた。また、複数の種のスズメバチの繭を混ぜても、透析済水溶液及びフィルムを作ることができた。
<考察>
以上の結果、ホーネットシルク蛋白質が溶解した無機塩水溶液を高pHの水溶液で透析した場合、透析内液が水溶液状態を維持できることが明らかになった。さらに、透析条件として、透析外液のpHが9以上、透析外液のアンモニア濃度が0.0001N超、透析温度が20℃以下、又は透析内液のホーネットシルク蛋白質濃度が140mg/mL以下(透析後は約6.5wt%以下)のときに、特に透析内液が安定的に水溶液状態を維持でき、且つ透析内液中のホーネットシルク蛋白質の分解を抑制できることがわかった。
また、得られた透析済水溶液を用いて、十分な力学物性、透明性、柔軟性を有しており、且つαへリックス構造を有しているフィルムを作成することができた。さらに、透析時の透析外液に揮発性塩基物質を含む水溶液を用いると、特に良質のフィルムを作成できることがわかった。
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。

Claims (24)

  1. シルク蛋白質を含有する透析済水溶液の生産方法であって、
    透析内液として蜂のシルク蛋白質を含有する無機塩水溶液を用い、透析外液としてpH10.0超の水溶液、又はpH9.0以上のアンモニア水もしくは炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液を用いて、透析外液がアンモニア水の場合は28℃以下、pH10.0以上の炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液の場合は28℃以下、それら以外の水溶液の場合は20℃以下で透析する工程を含む、生産方法。
  2. 前記透析外液は、揮発性塩基物質を含有する水溶液である、請求項1に記載の生産方法。
  3. 前記透析外液は、前記揮発性塩基物質を0.0001N超含有する、請求項2に記載の生産方法。
  4. 前記透析は、20℃以下で行う、請求項3に記載の生産方法。
  5. 透析前の前記透析内液のシルク蛋白質濃度が、140mg/mL以下である、請求項4に記載の生産方法。
  6. 前記透析は、前記透析済水溶液のシルク蛋白質濃度が6.5wt%以下になるように透析する、請求項4に記載の生産方法。
  7. 前記透析は、前記透析内液が水溶液状態を維持するように透析する、請求項1〜6いずれかに記載の生産方法。
  8. 蜂のシルク蛋白質を3〜6mol/Lの塩化カルシウム水溶液に溶解させる工程をさらに含む、請求項1〜7いずれかに記載の生産方法。
  9. 請求項1〜8いずれかに記載の生産方法を経て得られる、透析済水溶液。
  10. 医療用製品、化粧品、電子機器、又は繊維製品用の、請求項9に記載の透析済水溶液。
  11. 請求項1〜8いずれかに記載の生産方法を経て得られる透析済水溶液を硬化させる工程を含む、硬化材料の生産方法。
  12. 前記硬化材料がフィルムであり、前記透析外液は揮発性塩基物質を含有する水溶液である、請求項11に記載の生産方法。
  13. 請求項9又は10に記載の透析済水溶液を硬化させる工程を経て得られる、硬化材料。
  14. フィルムであり、前記透析外液は揮発性塩基物質を含有する水溶液である、請求項13に記載の硬化材料。
  15. 前記透析外液は揮発性塩基物質を含有する水溶液であり、医療用製品、化粧品、電子機器、又は繊維製品用の、請求項13又は14に記載の硬化材料。
  16. シルク蛋白質を含有する透析済水溶液の生産方法であって、
    請求項13〜15いずれかに記載の硬化材料を無機塩水溶液に溶解させる工程と、
    透析内液として前記硬化材料が溶解した無機塩水溶液を用い、透析外液としてpH10.0超の水溶液、又はpH9.0以上のアンモニア水もしくは炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液を用いて、透析外液がアンモニア水の場合は28℃以下、pH10.0以上の炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液の場合は28℃以下、それら以外の水溶液の場合は20℃以下で透析する工程と、を含む、生産方法。
  17. シルク蛋白質を含有する透析済水溶液の生産方法であって、
    透析内液として蜂のシルク蛋白質を含有する無機塩水溶液を用い、透析外液としてpH10.0超の水溶液、又はpH9.0以上のアンモニア水もしくは炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液を用いて、透析外液がアンモニア水の場合は28℃以下、pH10.0以上の炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液の場合は28℃以下、それら以外の水溶液の場合は20℃以下で透析し、透析済水溶液を得る工程と、
    前記透析済水溶液を硬化させ、硬化材料を得る工程と、
    前記硬化材料を無機塩水溶液に溶解させる工程と、
    透析内液として前記硬化材料が溶解した無機塩水溶液を用い、透析外液としてpH10.0超の水溶液、又はpH9.0以上のアンモニア水もしくは炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液を用いて、透析外液がアンモニア水の場合は28℃以下、pH10.0以上の炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液の場合は28℃以下、それら以外の水溶液の場合は20℃以下で透析する工程と、を含む、生産方法。
  18. 請求項16又は17に記載の生産方法を経て得られる、透析済水溶液。
  19. 請求項16又は17に記載の生産方法を経て得られる透析済水溶液を硬化させる工程を含む、硬化材料の生産方法。
  20. 請求項18に記載の透析済水溶液を硬化させる工程を経て得られる、硬化材料。
  21. シルク蛋白質を含有する硬化材料の生産方法であって、
    透析内液として蜂のシルク蛋白質を含有する無機塩水溶液を用い、透析外液としてpH10.0超の水溶液、又はpH9.0以上のアンモニア水もしくは炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液を用いて、透析外液がアンモニア水の場合は28℃以下、pH10.0以上の炭酸−重炭酸緩衝液系の水溶液の場合は28℃以下、それら以外の水溶液の場合は20℃以下で透析する工程と、
    前記透析工程後の透析内液を透析膜から回収する工程と、
    回収後の透析内液を硬化させる工程と、
    を含む、生産方法。
  22. 蜂のシルク蛋白質を0.1wt%以上、揮発性塩基物質を0.0001N〜14.8N含み、20℃以下の透析済水溶液。
  23. 請求項22に記載の透析済水溶液を硬化させる工程を含む、硬化材料の生産方法。
  24. 請求項22に記載の透析済水溶液を硬化させる工程を経て得られる、硬化材料。
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