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JP6478464B2 - 多能性幹細胞から脳血管内皮細胞を製造する方法 - Google Patents
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多能性幹細胞から脳血管内皮細胞を製造する方法 Download PDF

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Description

本発明は、多能性幹細胞から脳血管内皮細胞を製造する方法に関する。
脳には血液脳関門(blood brain barrier:BBB)が存在している。その中心構成成分である脳毛細血管内皮細胞は強固なタイトジャンクションを形成し、さらに特異的トランスポーターを発現している。BBBにより、薬剤等の物質の脳細胞への透過は厳しく制限されている(非特許文献1)。BBBによる物質透過の制限のため、アルツハイマー等の中枢神経疾患の多くでは薬剤の貢献度は著しく低く、十分な治療満足度が得られていない。難治性中枢神経疾患に対して、優れた脳移行性を発揮し十分な薬効を発揮する治療薬を開発するには、BBBの機能解明が必須である。
従来より、BBBの機能解明ならびに創薬研究への応用を目指して、ラット等の実験動物由来の血管内皮細胞を用いて、in vitro BBBモデルが構築されてきた。しかし、実験動物を用いたモデルではヒトの薬物の輸送機能を精度良く反映できないため、中枢神経疾患治療薬のヒト臨床試験における成功率が依然として低い。ヒトの生体内のBBB機能を反映し得る、ヒト脳血管内皮細胞を用いたin vitro BBBモデルの開発が望まれるが、ヒト毛細脳血管内皮細胞の大量入手は困難であるため創薬研究への応用が制限されているのが現状である。ヒト脳血管内皮細胞として不死化細胞株が樹立されているが、初代脳血管内皮細胞に比べて、種々のタイトジャンクション形成タンパク質の発現が低いことが問題視されている(非特許文献2)。
BBBは脳毛細血管内皮細胞とアストロサイト等の周辺の細胞から構成されている。最近、マウスES細胞由来の血管内皮細胞を、マウスの腎臓組織または肝臓組織に移植したところ、それぞれ腎臓特異的な血管内皮細胞、肝臓特異的な血管内皮細胞に分化誘導されたことが報告されている(非特許文献3)。また、ヒトiPS細胞をin vitroで培養したところ、内皮細胞と神経細胞が同時に分化し、BBB様の内皮細胞を得ることができたという報告がある(非特許文献4)。しかしながら、脳血管内皮細胞を確実にかつ効率よく分化誘導する方法はいまだ確立されていない。
Naik P, Cucullo L., J Pharm Sci. 2012 Apr;101(4):1337-54 Nicolazzo JA, Charman SA, Charman WN. J Pharm Pharmacol. 2006 Mar;58(3):281-93 Nolan DJ, Ginsberg M, Israely E, Palikuqi B, Poulos MG, James D, Ding BS, Schachterle W, Liu Y, Rosenwaks Z, Butler JM, Xiang J, Rafii A, Shido K, Rabbany SY, Elemento O, Rafii S., Dev Cell. 2013 Jul 29;26(2):204-19 Lippmann ES, Azarin SM, Kay JE, Nessler RA, Wilson HK, Al-Ahmad A, Palecek SP, Shusta EV., Nat Biotechnol. 2012 Aug;30(8):783-91
本発明は、ヒトのBBBの輸送機能を精度良く反映し得る脳血管内皮細胞を、確実かつ効率よく得る方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、無限増殖能を有する多能性幹細胞から、脳血管内皮細胞を製造する方法において、多能性幹細胞から分化誘導されたCD34発現細胞を培養し、得られた細胞を脳由来細胞を培養した培地に接触させて培養することにより、BBBを構成する脳血管内皮細胞の機能を有する脳血管内皮細胞を確実かつ効率よく分化誘導し得ることに着目し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.以下の1)および2)の工程を含む、多能性幹細胞から脳血管内皮細胞を製造する方法:
1)多能性幹細胞から分化誘導されたCD34発現細胞を培養する工程;および
2)前記工程1)で培養した細胞を、脳由来細胞を培養した培地に接触させて、培養する工程。
2.工程2)における脳由来細胞が、血液脳関門を構成する細胞から選択される少なくとも1種の細胞である、前項1に記載の製造方法。
3.工程2)の培養期間が、1日〜10日間である、前項1または2に記載の製造方法。
4.工程2)が、以下のa)またはb)の工程である、前項1〜3のいずれか1に記載の製造方法:
a)前記工程1)で培養した細胞を、脳由来細胞と共培養する工程;または
b)前記工程1)で培養した細胞を、脳由来細胞を培養した培地を添加した培地中にて培養する工程。
5.工程1)のCD34発現細胞を培養する液性因子を含む培地が、水溶性ウシ視床下部抽出物、FGF、およびヘパリンを含む培地である、前項1〜4のいずれか1に記載の製造方法。
6.工程1)が、骨形成タンパク質4(bone morphogenetic protein;BMP4)、アクチビンA、および血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)を用いた培養により、多能性幹細胞からCD34発現細胞を分化誘導することを含む、前項1〜5のいずれか1に記載の製造方法。
7.工程1)における培養期間が、1日〜25日間である、前項6に記載の製造方法。
8.脳血管内皮細胞が、タイトジャンクション関連遺伝子を発現しており、かつ、機能的な特異的トランスポーターを発現している、前項1〜7のいずれか1に記載の製造方法。
9.前項1〜8のいずれか1に記載の製造方法により得られた脳血管内皮細胞。
10.前項1〜8のいずれか1に記載の製造方法により得られた脳血管細胞を用いる、血液脳関門の解析方法。
本発明により得られた脳血管内皮細胞は、強い接着性を有しており、タイトジャンクション関連遺伝子が良好に発現しており、物質の透過性が低く、かつ、脳血管内皮細胞特異的なトランスポーターが発現し、かつ機能しているものである。すなわち本発明により得られた脳血管内皮細胞は、脳特異的に存在する血管内皮細胞としての機能を有するものである。本発明によれば、かかる優れた機能を有する脳血管内皮細胞を、確実かつ効率よく、多能性幹細胞から分化誘導することができ、多量に脳血管内皮細胞を入手することができる。
本発明の工程1)について、具体的な培養方法を例示する。(実施例1) 本発明の工程1)により得られた細胞の特性を解析した結果(a:形態、b:血管内皮マーカーの発現、c:アセチル化LDL取り込み能、d:管腔形成能)を示す図である。(実施例1) 本発明の工程2)について、具体的な培養方法を例示する図である。上段が工程a)、下段が工程b)を示す。(実施例2および3) 本発明により得られた脳血管内皮細胞の、電気抵抗を測定した結果(a)と物質透過性を確認した結果(b)を示す図である。(実験例1) 本発明により得られた脳血管内皮細胞の、タイトジャンクション関連遺伝子の発現解析結果を示す図である。(実験例1) 本発明により得られた脳血管内皮細胞の、トランスポーターの発現解析結果(a)とトランスポーターの排出機能を確認した結果(b)を示す図である。(実験例1) 本発明により得られた脳血管内皮細胞の、電気抵抗を測定した結果(a)と物質透過性を確認した結果(b)を示す図である。(実験例2) 本発明により得られた脳血管内皮細胞の、タイトジャンクション関連遺伝子の発現解析結果を示す図である。(実験例2) 本発明により得られた脳血管内皮細胞の、トランスポーターの発現解析結果(a)とトランスポーターの排出機能を確認した結果(b)を示す図である。(実験例2)
本発明は、以下に説明する工程1)および工程2)を含む、多能性幹細胞から脳血管内皮細胞を製造する方法に関する。脳血管内皮細胞とは、脳特異的な性質および/または機能を有している血管内皮細胞である。本発明の製造方法においては、多能性幹細胞から中胚葉細胞を経て、組織または臓器特異性を獲得していない血管内皮細胞を分化誘導し、その後脳血管内皮細胞を分化誘導する。本明細書においては、組織または臓器特異性を獲得していない血管内皮細胞を、単に「血管内皮細胞」と称し、「脳血管内皮細胞」とは区別することとする。
本発明において、「多能性幹細胞」とは身体を構成する全ての種類の細胞に分化出来る幹細胞であり、ES細胞またはiPS細胞等が例示される。本発明における多能性幹細胞は特に好適には、ヒト由来細胞であり、ヒトES細胞またはヒトiPS細胞をいう。「多能性幹細胞」は、本明細書中で用いられる場合、自分自身を複製する自己複製能と多分化能を共に有する細胞を意味する。「多能性(pluripotency)」とは、「多分化能」と互換可能に使用され、細胞の有する性質をいい、様々な組織や器官に属する細胞に分化し得る能力をいう。このように用語「多能性」は、複数の種類の細胞に分化し得る能力をいい、全ての種類の細胞に分化し得る能力を意味する用語「全能性(totipotency)」の概念を包含するが、明確に区別する場合は、全能性と多能性は区別することができる。
ES細胞とは、一般的には胚盤胞期胚の内部にある内部細胞塊(inner cell mass)と呼ばれる細胞集塊をin vitro培養に移し、未分化幹細胞集団として単離した多能性幹細胞である。ES細胞は、M.J.Evans & M.H.Kaufman (Nature, 292, 154, 1981)に続いて、G.R.Martin (Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 78, 7634, 1981)によりマウスで多分化能を有する細胞株として樹立された。ヒト由来ES細胞についても、既に多くの株が樹立されており、ES Cell International社、Wisconsin Alumni Research Foundation、National Stem Cell Bank (NSCB)等から入手することが可能である。ES細胞は、一般に初期胚を培養することにより樹立されるが、体細胞の核を核移植した初期胚からもES細胞を作製することが可能である。また、異種動物の卵細胞、または脱核した卵細胞を複数に分割した細胞小胞(cytoplasts, ooplastoids)に、所望の動物の細胞核を移植して胚盤胞期胚様の細胞構造体を作製し、それを基にES細胞を作製する方法もある。また、単為発生胚を胚盤胞期と同等の段階まで発生させ、そこからES細胞を作製する試みや、ES細胞と体細胞を融合させることにより、体細胞核の遺伝情報を有したES細胞を作る方法も報告されている。本発明で使用されるES細胞は、上記のような自体公知の方法により作製されたES細胞、または今後開発される新たな方法により作製されるES細胞であってもよい。
また、iPS細胞とは、体細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより、卵子、胚やES細胞を利用せずに分化細胞の初期化を誘導し、ES細胞と同様な多能性や増殖能を有する誘導多能性幹細胞をいい、2006年にマウスの線維芽細胞から世界で初めて作られた。さらに、マウスiPS細胞の樹立に用いた4遺伝子のヒト相同遺伝子であるOCT3/4、SOX2、KLF4、C-MYCを、ヒト由来線維芽細胞に導入してヒトiPS細胞の樹立に成功したことが報告されている(Cell 131: 861-872, 2007)。本発明で使用されるiPS細胞は、上記のような自体公知の方法により作製されたiPS細胞、または今後開発される新たな方法により作製されるiPS細胞であってもよい。
ES細胞またはiPS細胞等の多能性幹細胞の培養方法は特に限定されず、自体公知の方法によることができる。ES細胞の未分化性および多能性を維持可能な培地や分化誘導に適した培地として、自体公知の培地、または今後開発される新たな培地を用いることができる。具体的には、DMEMおよび/またはDMEM/F12などの市販のほ乳類細胞用基礎培地に、血清またはknock-out serum replacement (KSR)、並びにLIF(白血病阻止因子)やbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)などを加えたもの、市販の霊長類ES細胞用培地、霊長類ES細胞増殖用基礎培地hESF-GRO、霊長類ES細胞分化誘導用基礎培地hESF-DIF、霊長類ES細胞増殖用培地CSTI-7等を用いることができる。また、培地には、ES細胞またはiPS細胞等の多能性幹細胞の培養に適する自体公知の添加物、例えば、N2サプリメント、B27サプリメント、インシュリン、bFGF、アクチビンA、ヘパリン、ROCKインヒビターやGSK-3インヒビターなどの各種インヒビター等から選択される1種または複数種の添加物を適当な濃度で添加することができる。培地およびその添加物は、使用する細胞、分化状態等により適宜選択し、使用することができる。例えば、Tiss. Cult. Res. Commun., 27: 139-147 (2008) に記載の方法によることができる。
本発明の脳血管内皮細胞の製造方法には、以下の工程1)および2)が含まれる。
1)多能性幹細胞から分化誘導されたCD34発現細胞を培養する工程。
2)前記工程1)で培養した細胞を、脳由来細胞を培養した培地に接触させて、培養する工程。
本発明においては、工程1)により、臓器または組織特異的な機能を有する血管内皮細胞に分化する前の血管内皮細胞を分化誘導することができ、工程2)により、工程1)にて得た細胞を脳特異的な機能を有する脳血管内皮細胞に分化誘導することができる。
本発明の工程1)は、多能性幹細胞から分化誘導されたCD34発現細胞を培養する工程である。CD34発現細胞は、多能性幹細胞から分化誘導されたものであればいかなるものであってもよいが、好ましくは、多能性幹細胞を中胚葉誘導因子や造血因子等の液性因子を含む培地で培養することにより、多能性幹細胞から分化誘導することができる。本発明の工程1)は、多能性幹細胞を液性因子を含む培地で培養する工程、および培養後の細胞集団からCD34発現細胞を単離する工程を含んでいてもよい。多能性幹細胞を液性因子を含む培地で培養することにより、中胚葉細胞が分化誘導される。中胚葉細胞は、心筋細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、血液細胞などに分化する細胞である。多能性幹細胞から分化誘導された中胚葉細胞からの各細胞系列へのコミットメントの仕組みは、明らかにはなっていない。本発明においては、CD34発現細胞を単離して培養することにより、血管内皮細胞を効率的に分化誘導することができる。本発明において、多能性幹細胞を液性因子を含む培地で培養する工程、および、培養後の細胞集団から単離したCD34発現細胞を培養する工程を含めて、工程1)の培養期間が1〜25日間であることが好ましい。
本発明において液性因子としては、造血幹細胞や血液細胞前駆細胞等の血液細胞の自己複製、増幅および分化の少なくとも1つを調節するサイトカインや増殖因子などのいわゆる造血因子、あるいは中胚葉組織を誘導する作用を有するタンパク質である中胚葉誘導因子であれば特に限定されずいずれも使用できる。液性因子としては、骨形成タンパク質4(bone morphogenetic protein4;BMP4)、アクチンビンA、および塩基性線維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor;bFGF(FGF2とも称する))などの中胚葉誘導因子、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)、トロンボポイエチン(thrombopoietin;TPO)などの血小板増殖因子、幹細胞因子(stem cell factor;SCF)、 FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FMS-like tyrosinekinase 3 Ligand;Flt3L)、インターロイキン−6/可溶性インターロイキン−6受容体複合体(IL-6/sIL-6R)、およびノッチリガンド(以下、Notchリガンドと称する)などの造血因子を例示できる。液性因子は、単独で使用してもよいし、複数を同時に使用してもよい。本発明における多能性幹細胞からCD34発現細胞を分化誘導するための培養工程においては、BMP4、アクチビンA、およびVEGFを用いることが好ましい。また上記液性因子は、ヒト由来であることが好ましい。
工程1)についてより詳細に説明をすると、複数の工程により多能性幹細胞を培養することにより、多能性幹細胞からCD34発現細胞を分化誘導することができる。複数の工程とは例えば、以下のi)〜iv)の工程を例示することができる。
i)多能性幹細胞を、BMP4、アクチビンAおよびRhoキナーゼ阻害剤を含む培地中で培養する工程。
ii)前記工程i)で培養した細胞を、BMP4およびVEGFを含む培地中で培養する工程。
iii) 前記工程ii)で培養した細胞を、BMP4、VEGF、およびTGFファミリー阻害剤を含む培地中で培養する工程。
iv)前記工程iii)で培養した細胞を、VEGE、FGF2、およびTGFファミリー阻害剤を含む培地で培養する工程。
本発明において、Rhoキナーゼ阻害剤は、ROCK(Rho-associated coiled-coil forming kinase/Rho結合キナーゼ)阻害剤であり、多能性幹細胞の培養において分散による細胞死の抑制を阻害する作用を発揮する化合物からなる薬剤が好ましい。Rhoキナーゼ阻害剤として、Y-27632と称される低分子化合物〔(R)-(+)-trans-N-(4-ピリジル)-4-(1-アミノエチル)-シクロヘキサンカルボキシアミド・2HCl・H2O〕を好ましく例示できる。
本発明において、TGFファミリー阻害剤はTGF-β阻害剤を用いることが好ましい。TGF-β阻害剤は、TGF-βの作用を阻害する効果を有する化合物からなる薬剤を意味し、好ましくはTGF-β受容体阻害剤である。TGF-β受容体阻害剤は、TGF-β受容体および/またはTGF-βシグナル伝達経路に作用してTGF-βの作用を阻害する化合物からなる薬剤を意味する。TGF-β阻害剤として、SB431542と称されるTGF-β受容体阻害剤である低分子化合物4-[4-(3,4-メチレンジオキシフェニル)-5-(2-ピリジル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンズアミドを好ましく例示できる。
液性因子の適当な濃度は、多能性幹細胞の種類および使用量によるが、例えばアクチビンAは1 ng/ml〜10 ng/ml、BMP4は1 ng/ml〜30 ng/ml、FGF2は0.5 ng/ml〜20 ng/ml、VEGFは1 ng/ml〜100 ng/ml(例えば、工程iii)では1〜20 ng/mL、工程iv)では10〜100 ng/ml)であり得る。好ましくは、アクチビンAは2 ng/ml、BMP4は20 ng/ml、FGF2は2 ng/ml、VEGFは工程iii)では5 ng/mL、工程iv)では20 ng/mlであることが適当である。またTGFファミリー阻害剤の適当な濃度は、多能性幹細胞の種類および使用量によるが、1 〜10 μMであり、好ましくは5 μMである。Rhoキナーゼ阻害剤の適当な濃度は、多能性幹細胞の種類および使用量によるが、1〜20 μMであり、好ましくは10 μMである。
本発明の多能性幹細胞を培養する工程において、培養開始時(例えば、工程i)の培養開始時)の多能性幹細胞数は、CD34発現細胞への分化誘導が可能である限り特に限定されないが、総細胞数として約1×106個〜1×107個を使用すればよい。培養温度は約30〜40℃、好ましくは37℃である。培養時の二酸化炭素濃度は約1〜10%、好ましくは約5%が適当である。
本発明の工程1)において、多能性幹細胞からCD34発現細胞を分化誘導するための培養工程(例えば工程i)〜iv))の培養期間は特に限定されないが、好ましくは0.5日間から15日間である。培養期間中、培養液は1日〜2日に1回新たな培養液と交換することが好ましい。
また多能性幹細胞からCD34発現細胞を分化誘導するための培養工程(例えば工程i)〜iv))では、細胞を接着条件ではなく浮遊させて培養することが好ましい。浮遊条件で培養するための培養器具としては、自体公知のものを用いることができるが、例えば市販のLipdureコートプレートやペトリ皿を用いればよい。
本発明におけるCD34発現細胞は、上記多能性幹細胞を液性因子を含む培地で培養して得られた細胞集団から、単離して得ることが好ましい。すなわち、本発明の工程1)は、CD34発現細胞を単離する工程、具体的には以下のv)の工程を含んでいることが好ましい。
v)多能性幹細胞を液性因子を用いて培養して得られた細胞集団から、CD34発現細胞を単離する工程。
多能性幹細胞を液性因子を用いて培養して得られた細胞集団は、CD34発現細胞、CD34発現細胞以外の細胞、培地、培地に添加した種々の因子などを含む培養物であってもよい。多能性幹細胞を液性因子を用いて培養して得られた細胞集団は、上記工程i)〜iv)により得られた細胞集団であることが好ましい。
CD34は細胞表面糖タンパク質であり、造血系細胞や内皮性の前駆細胞のマーカーとしても知られている。CD34発現細胞は血液細胞と内皮細胞への分化能を持つ。CD34発現細胞は、多能性幹細胞を培養して得られる細胞集団について、CD34の発現を確認し、CD34が発現している細胞を単離して得られた細胞集団(CD34+細胞)を意味する。CD34の発現の解析は、蛍光標識された抗CD34抗体を作用させて染色し、その後フローサイトメーターにて蛍光強度を測定することにより解析することが可能である。この際、蛍光標識されたコントロール抗体を作用させた細胞をネガティブコントロールとして使用し、当該ネガティブコントロール細胞の蛍光強度をバックグラウンドとすることができる。ネガティブコントロール細胞と同程度の蛍光強度を示す細胞をCD34が発現していない細胞(CD34-細胞)とし、CD34発現細胞はCD34が発現していない細胞よりCD34の蛍光強度が高い細胞である。CD34発現細胞の単離は、CD34の発現解析の結果に基づいて自体公知の手法により行うことができるが、フローサイトメトリー法(FACS)などの自体公知の方法によっても濃縮または単離することができる。あるいは、CD34分子を認識する抗体と反応性を有する細胞を回収するために、CD34抗体をビオチンや磁気ビーズで標識し、分離したい細胞群と反応させ、その後それぞれアビジンビーズや磁石でCD34発現細胞を回収したり、抗CD34抗体をコートした培養器具に細胞を入れ、抗CD34抗体と反応しない細胞を除去した後、CD34発現細胞を回収したりすることにより、CD34発現細胞を単離することもできる。
多能性幹細胞から単離されたCD34発現細胞を、培養することにより血管内皮細胞を効率よく分化誘導することができる。CD34発現細胞の培養は、以下の工程vi)により行うことができる。
vi)CD34発現細胞を、水溶性ウシ視床下部抽出物、FGF2、ヘパリンを含む培地で培養する工程。
工程vi)において、CD34発現細胞は、上記iv)の工程により単離して得られた細胞であることが好ましい。
水溶性ウシ視床下部抽出物は、ECGS(内皮細胞増殖サプリメント)と称されるものである。ECGSは、内皮細胞や数種類の細胞に対して分裂促進効果を持ち、特に低血清や無血清条件下での細胞培養に使用されるものであり、哺乳類由来の血管内皮細胞の増殖促進因子を含有するウシ神経組織からの抽出物である。ECGSとしては例えば、Sigma社から市販されているものを使用することができる。
工程vi)において用いられる因子の適当な濃度は、CD34発現細胞の種類および使用量によるが、例えばECGSは10〜300 ng/ml、FGF2は1 ng/ml〜30 ng/ml、ヘパリンは10 ng/ml〜200 ng/mlであり得る。好ましくは、ECGSは100〜200 ng/ml、FGF2は10 ng/ml、ヘパリンは100 ng/mlであることが適当である。
本発明のCD34発現細胞を培養する工程において、CD34発現細胞の密度は特に限定されないが、約5×104個〜40×104個/cm2が 例示される。培養温度は約30〜40℃、好ましくは37℃である。培養時の二酸化炭素濃度は約1〜10%、好ましくは約5%が適当である。
本発明のCD34発現細胞を培養する工程において、培養期間は特に限定されないが、好ましくは0.5日間から10日間である。培養期間中、培養液は1日〜2日に1回新たな培養液と交換することが好ましい。
またCD34発現細胞の培養工程では、細胞を浮遊条件ではなく接着させて培養することが好ましい。接着条件で培養するための培養器具としては自体公知のものを使用することができるが、例えば、Fibronectinでコーティングしたプレート等を用いればよい。
CD34発現細胞を培養することにより得られた細胞が、血管内皮細胞であるかを確認するためには、形態の観察や、血管内皮マーカーの発現、アセチル化LDLの取り込み能、管腔形成能を確認することにより行うことができる。これらの項目は、自体公知の方法により確認することができるが、例えば後述する実施例に記載の方法により確認することができる。血管内皮マーカーとしては、CD31、von Willebrand Factor(vWF)が例示される。
工程2)においては、上記工程1)にてCD34発現細胞を培養して得られた細胞を、脳由来細胞を培養した培地に接触させて培養することにより、脳血管内皮細胞を分化誘導する。脳由来細胞は、いかなる細胞であってもよく、神経細胞および非神経細胞のいずれであってもよい。また脳由来細胞は、ヒト由来、マウスやラット等の哺乳動物由来の細胞を使用することができる。脳由来細胞は血液脳関門を構成する細胞であることが好ましい。また脳由来細胞は、正常細胞でも脳腫瘍細胞(例えば神経膠腫細胞)でもよいが、例えば、ラットグリオーマ株であるC6細胞などが例示される。脳由来細胞を培養した培地とは、脳由来細胞を含んでいてもよいし、脳由来細胞を含んでいなくてもよい。すなわち、工程2)は以下の工程a)またはb)により行うことができる。
a)前記工程1)で培養した細胞を、脳由来細胞と共培養する工程。
b)前記工程1)で培養した細胞を、脳由来細胞を培養した培地を添加した培地中にて培養する工程。
工程a)においては、工程1)で得た細胞と、脳由来細胞とを接触した状態で共培養してもよいし、非接触の状態で共培養してもよい。共培養とは、工程1)で得た細胞と脳由来細胞とが一つの培地(培養液)中で存在している状態を意味し、これにより工程1)で得た細胞を、脳由来細胞を培養した培地に接触させて培養することができる。本発明の共培養は、好ましくは非接触の状態で培養する。非接触とは、工程1)の細胞と、脳由来細胞とを支持体により、培地中で距離を隔てて別々に存在し、互いに直接的に触れ合っていない状態、又は微孔性の支持膜を介してその表面側と裏面側にそれぞれ隔てて層状に存在する状態等、直接細胞同士が接触していない状態を意味する。
本発明において共培養するための支持体は、工程1)にて得た細胞を培養容器中にて支持するためのものであり、例えば支持膜と支持具から構成される。支持体は工程1)の細胞を担持し、かつ支持膜を培養容器に固定するための部材であり、具体的にはシルクハット形状をしたセルカルチャーインサートと呼ばれるものが例示される。支持膜は、微孔性のものが好ましく、孔の大きさは、細胞が通過できない大きさの孔であるが、培地等が通過できる大きさであることが好ましい。膜の素材は、脳由来細胞の維持・生存を妨げるものではなく、工程1)で得た細胞の維持・生存・分化誘導を妨げるものでなければ、いかなる素材であってもよい。
本発明の上記工程a)において、工程1)で得た細胞の密度は、脳血管内皮細胞への分化誘導が可能である限り特に限定されないが、約1×105個〜1×106個/cm2が例示される。また脳由来細胞の濃度は、特に限定されないが、約1×104個〜3×104個/cm2が例示される。培養温度は約30〜40℃、好ましくは37℃である。培養時の二酸化炭素濃度は約1〜10%、好ましくは約5%が適当である。
また工程b)においては、予め脳由来細胞を培養した培地を回収し、脳由来細胞を除去した後、当該培地を工程1)で培養した細胞の培地に添加することにより、工程1)で得た細胞を、脳由来細胞を培養した培地に接触させて培養することができる。
脳由来細胞の濃度は、特に限定されないが、約0.5×104個〜3×104個/cm2が例示される。培養温度は約30〜40℃、好ましくは37℃である。培養時の二酸化炭素濃度は約1〜10%、好ましくは約5%が適当である。また培地は脳由来細胞の生存・維持を妨げず、工程1)にて得た細胞の維持・生存・分化誘導を妨げるものであれば、いかなるものであってもよい。好ましくは工程1)の細胞の培養に用いる培地と同種の培地を用いて、脳由来細胞を培養すればよい。脳由来細胞の培養時間は、特に制限されないが、脳由来細胞から必要な液性因子が放出される程度の間培養を行うことが好ましく、例えば12〜48時間培養することが好ましい。
工程b)における、工程1)で得た細胞の培養培地への、脳由来細胞を培養した培地の添加量は特に制限されないが、培養培地の50 v/v%〜100 v/v%で添加することが好ましい。培養培地を100 v/v%添加するとは、工程1)で得た細胞の培養培地を、工程b)において、脳由来細胞を培養した培地で置換することを意味する。また工程b)において、工程1)で得た細胞の密度は、脳血管内皮細胞への分化誘導が可能である限り特に限定されないが、約1×105個〜1×106個/cm2が例示される。培養温度は約30〜40℃、好ましくは37℃である。培養時の二酸化炭素濃度は約1〜10%、好ましくは約5%が適当である。
工程a)およびb)のいずれであっても、適当な培養期間は脳血液内皮細胞を分化誘導し得る期間であれば特に限定されず、好ましくは1日間〜10日間である。また工程a)および工程b)において脳血管内皮細胞を分化誘導するためには、上記工程1)にて説明した液性因子を含む培地を用いることが好ましく、上記工程iv)にて説明した水溶性ウシ視床下部抽出物、FGF2、ヘパリンを含む培地を用いて、接着培養することがより好ましい。接着培養には、自体公知の培養容器を用いることができるが、例えばFibronectinでコーティングしたプレート等の容器を用いればよい。
本発明において、脳血管内皮細胞は、生体内のBBBを構成する脳血管内皮細胞と同様に、良好な接着性と物質輸送の調節能を有するものである。接着性は、電気抵抗を測定およびタイトジャンクション関連遺伝子の発現を解析することにより確認することができる。タイトジャンクション関連遺伝子としては、Claudin-5、Occludin、ZO-1が例示される。物質輸送の調節能は、標識されたデキストランを用いた物質透過性解析および脳血管内皮細胞に特異的に発現するトランスポーターの発現、当該トランスポーターの物質輸送機能を解析することにより確認することができる。当該トランスポーターとしては、MDR-1、BCRP、MRP-4、Glut1が例示される。接着性と物質輸送の調節能は、自体公知の手法により確認することができるが、例えば後述する実験例に記載の方法により確認することができる。分化誘導された脳血管内皮細胞は、細胞を含む培養物の状態であってもよい。
本発明の工程1)および工程2)に使用する培養培地は、通常の細胞培養用、特にほ乳動物細胞培養用の培地であれば特に限定されない。培養培地は、血清由来のウイルスやプリオンの混入を防ぐなどの目的で、無血清培地を使用してもよいし、血清含有培地を使用してもよい。中胚葉細胞の培養に適した培養培地を用いることが適当である。具体的には、無血清完全合成培地であるmTeSR(Stemcell Technologies社製)やStemPro34培地(Life Technologies社製)、血清を含む培地であるMEMα(Sigma社製)を例示できる。また、培地には、工程1)および工程2)にて示した各種因子以外にも添加物を添加してもよく、添加物としては例えばアスコルビン酸やモノチオグリセロール(MTG)等が例示される。
本発明は、本発明の工程1)および工程2)を含む製造方法により得られた脳血管内皮細胞にも及ぶ。
また本発明は、本発明の製造方法により得られた脳血管内皮細胞を用いる、血液脳関門の解析方法にも及ぶ。本発明の血液脳関門の解析方法としては、例えば、後述する実験例1,2に記載の、電気抵抗の測定、タイトジャンクション関連遺伝子の発現量の解析、物質透過性解析、各種トランスポーターの発現量解析、トランスポーターの機能評価などが例示される。タイトジャンクション関連遺伝子としては、Claudin-5、Occuldin、ZO-1が挙げられる。またトランスポーター遺伝子としては、MDR-1、BCRP、MRP-4、Glut1が挙げられる。
本発明の理解を深めるために、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではないことは、いうまでもない。
(実施例1)多能性幹細胞から血管内皮細胞への分化誘導
ヒトiPS細胞は、201B7(京都大学山中伸弥教授よりご供与:Cell. 2007 Nov 30;131(5):861-872.)を用いた。培養方法を、図1を参照しながら、以下の(1)および(2)にて説明する。
(1)多能性幹細胞からCD34発現細胞の分化誘導
ヒトiPS細胞を用いて、Blood. 2013 Jan 17;121(3):447-458の手法を多少改変した手法により分化誘導を行った。まず細胞をAccutase(MILLIPORE社製)を用いて単一細胞懸濁液とした。2×104個の単一細胞を96ウェルのLipidureコートプレート(Thermo Scientific社製)の1ウェルに播種して、分化誘導を行った。培養液は培養日数に応じて組成を変化させた。Stempro34培地(Life Technologies社製)に50 μg/mlのアスコルビン酸(Sigma社製)と450μMのMTG(Sigma社製)を添加した培地を分化誘導用基本培地として用いた。培養開始0日目〜2日目までは分化誘導用基本培地に、20 ng/ml ヒトBMP4(hBMP4)(R&D Systems社製)、2 ng/mlヒトアクチビンA(R&D Systems社製)、10 μM Rhoキナーゼ阻害剤 Y27632を添加したものを用いた。培養開始2日目に、培地を20 ng/ml hBMP4(R&D Systems社製)、5 ng/ml ヒトVEGF(hVEGF)(Peprotech社製)を添加した分化誘導用基本培地で置換した。培養開始4日目に20 ng/ml hBMP4、5 ng/ml hVEGF、5 μM SB431542(Wako社製)を添加した分化誘導用基本培地に置換して、さらに培養を行った。培養開始6日目に、20 ng/ml hVEGF、2 ng/ml FGF2(片山化学社製)、5 μM SB431542(Wako社製)を添加した分化誘導用基本培地に置換して、さらに培養を9日目まで行った。なお培養開始6〜9日目までは、ペトリ皿を用いて培養を行った。
(2)CD34発現細胞の培養
培養9日目のヒトiPS細胞由来細胞を、0.25% トリプシン-EDTA(Life Technologies社製)で37℃、二酸化炭素濃度5%で処理し、単一細胞懸濁液とした。単一細胞に解離しきれなかった細胞塊をメッシュで取り除いた後、CD34発現を指標とした細胞単離を行った。
具体的には、上記調製した単一細胞懸濁液に、蛍光標識された抗ヒトCD34抗体(Biolegend社製)を添加して、細胞の染色を行った。その後フローサイトメーター(FACS Aria、BD Bioscience社製、またはSH800、Sony社製)にて蛍光強度を測定して、CD34+細胞を検出して単離した。なお、ネガティブコントロールとしては、蛍光標識されたコントロール抗体を作用させた細胞を用いた。コントロール抗体はいかなる抗原とも反応しないため、コントロール抗体を作用させた細胞の蛍光強度をバックグラウンドとした。蛍光標識された抗ヒトCD34抗体を作用させた細胞の解析においては、ネガティブコントロールの細胞と同程度の蛍光強度を示す細胞集団をCD34-細胞として単離し、それより発現が高い細胞集団をCD34+細胞として単離した。
単離したCD34発現細胞を、100 μg/ml ECGS(Sigma社製)、10 ng/mlMのFGF2(片山化学社製)、100 μg/ml ヘパリン(Sigma社製)を添加した分化誘導用基本培地により、さらに4日間培養を行った。CD34細胞は、Fibronectin(BD Bioscience社製)を20μ/cm2でコーティングしたプレートを用いて、接着培養を行った。
(3)分化誘導した細胞の特性解析
単離したCD34発現細胞を上記(2)に従って培養した後、顕微鏡にて形態を観察し、血管内皮細胞が分化誘導されているかを確認した。
また培養した細胞について、抗CD31抗体(Dako社製)あるいは抗von Willebrand Factor(vWF)抗体(Dako社製)を反応させ、その後、各々Alexa488(緑色)あるいはAlexa594(赤色)標識した2次抗体(Life Technologies社製)用いて免疫抗体染色を行うことにより、血管内皮細胞マーカータンパク質の発現を確認した。
培養した細胞について、アセチル化LDL取り込み能とマトリゲル中での管腔形成能を調べることにより、血管内皮細胞としての機能を検証した。アセチル化LDLの取り込み能の解析は以下のように行った。CD34発現細胞を接着培養した後、培地を10 μg/ml Alexa Fluor 488 acetylated LDL(Life Technologies社製)を含む培地で置換し、37℃、4時間培養した。その後、細胞内に取り込まれたアセチル化LDLを蛍光顕微鏡にて観察した。
マトリゲル中での管腔形成能の解析は以下のように行った。48 wellプレートに100 μlのマトリゲル(BD Bioscience社製)溶液を加えて37℃、1時間静置することにより、プレートをコーティングした。CD34発現細胞を接着培養した後、0.25 % trypsin-EDTAにて回収し、10 ng/ml VEGFを含む培地に懸濁し、1×105個/ウェルの細胞数で播種した。37℃、16時間培養後に顕微鏡下で細胞を観察した。
単離したCD34発現細胞を接着培養し、得られた細胞の特性解析を行った結果を図2に示す。図2bにおいては、CD31の染色およびvWFの染色を示す代表的な部分を矢印で示している。図2cにおいては、アセチル化LDLの蛍光(緑色)を示す代表的な部分を矢印で示している。
接着培養4日目における細胞形態を観察したところ、CD34発現細胞から血管内皮細胞様の形態を示す均一の細胞が増殖していた(図2a)。また、これらの細胞は血管内皮細胞のマーカー分子であるCD31やvWFを発現していることも明らかとなった(図2b)。さらにCD34発現細胞を培養して得られた細胞は、アセチル化LDLの取り込み能(図2c)やマトリゲル中での管腔形成能を有していることも示された(図2d)。以上の結果から、本培養法によりヒトiPS細胞から機能的な血管内皮細胞が誘導可能であることが示された。
(実施例2)血管内皮細胞から脳血管内皮細胞への分化誘導1
実施例1にて分化誘導した血管内皮細胞を、ラットグリオーマ株C6細胞と共培養した(図3上段参照)。まず、実施例1にて分化誘導した細胞5×104個を、実施例1(2)にて使用したのと同様の、ECGS、FGF2、ヘパリン、アスコルビン酸、MTGを含むStempro34培地(Life Technologies社製)に再懸濁し、Fibronectinをコートしたインサート(コーニング社製)に播種した。インサート上の細胞がコンフルエントになった時に、予めラットC6細胞との共培養を開始した。ラットC6細胞5×103個を播種したプレート(コーニング社製)に、インサート上の細胞とラットC6細胞が接触しないようにインサートを設置した。なお、プレート側の培地は、実施例1に記載の分化誘導用基本培地であるアスコルビン酸とMTGを含むStempro34培地を用いた。インサート上の細胞は、ディッシュの培養液中に、浸漬するようにした。
(実験例1)分化誘導した脳血管内皮細胞の機能の確認
実施例2において、共培養を開始した0、3、5、7日後のインサート上の細胞について、Millicell ERS-2(Millipore社製)を用いて電気抵抗(TEER)を測定した。測定方法は、Millicell ERS-2の取扱い説明書に記載の方法に従って行った。TEERは以下の計算式に従い算出した。TEER(Ω・cm2)= R sample(Ω)×Membrane area(cm2
また、実施例2における共培養を開始した5日後のインサート上の細胞について、RNAを抽出し定法に従ってcDNAを合成した。その後、Stepone PlusリアルタイムPCRシステム(Life Technologeis社製)を用いてタイトジャンクション関連遺伝子(Claudin-5、Occludin、ZO-1)の発現を解析した。
さらに、実施例2における共培養開始5日後のインサート上の細胞について、物質透過性を解析した。物質透過性の解析は以下のように行った。0.1 % FBS/内皮細胞基本培地(EBM-PRF、無血清、フェノールレッド不含 ; Lonza社製)で、Fluoresceinで標識したdextran(FD ; 分子量3000 ; Life Technologies)を100 μg/mlに調製した。インサート内の培地を100 μg/mlのFD溶液にて置換し、プレート側の培地をFD不含の0.1 %FBS EBM-PRFにて置換した。15時間培養後、プレート側の培地を懸濁した後に回収し、インサートからプレート側へ移行したFD量を蛍光強度計を用いて測定した(励起波長 ; 494 nm、蛍光波長 ; 521 nm)。FD溶液の段階希釈により検量線を作成して濃度を算出した。そして、得られた濃度を用いて透過係数(P sample)を算出した。透過係数の計算式は下記に従った(BMC Neurosci. 14, 59, 2013.、Front Psychiatry 3, 47, 2012)。
・インサートからプレート側へ通過したFD容積の算出: V =(AA×VA)/AL
・見かけ上の透過係数の算出: P =(dV/dt)/S
・各サンプルの透過係数の算出: 1/P sample = 1/P total - 1/P non
(AA : ある時間におけるプレート側のFD濃度、AL : インサート内のFD初濃度、VA : プレート側のwellの培地の容積、S : インサートのメンブレン面積、P sample : サンプルの透過係数、P total : サンプルの測定値から得られる見かけ上の透過係数、P non : 無細胞時の透過係数)
実施例2における共培養を開始して5日目の細胞について、脳血管内皮細胞に特異的に発現する各種トランスポーター遺伝子(MDR-1、BCRP、MRP-4、Glut1)の発現を、タイトジャンクション関連遺伝子の発現解析と同様にして、RT-PCR法にて解析した。
また、排出トランスポーターであるMDR-1の機能解析を以下の手順で行った。実施例2の共培養開始後5日目の細胞について、5 μM cyclospolin A(CSA:Wako社製)または10 μM MK571(Sigma社製)を37℃で1時間作用させた。その後、PBSを用いてインサート上の細胞を洗浄し、10 μM Rhodamin123(Sigma社製)を添加し、遮光で37℃、1時間作用させた。その後、プレート側の培地を懸濁して回収し、移行したローダミンを検出した(励起波長:485 nm、蛍光波長:530 nm)。阻害剤を作用させていない共培養後の細胞のRhodamin 123の移行量を1として各群の値を補正した。また、本実験の培地は全てEBM-PRFを用いた。
なお、コントロールとして、実施例1の細胞の代わりに正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を脳由来細胞なしで単培養、または脳由来細胞と共培養し、上記と同様にして各解析を行った。
電気抵抗と物質透過性を確認した結果を図4に、タイトジャンクション関連遺伝子の発現を解析した結果を図5に、トランスポーター遺伝子の発現とMDR-1の排出機能を解析した結果を図6に示す。
脳由来細胞と共培養した本発明の細胞は、脳由来細胞なしで単培養した場合と比較して、電気抵抗が有意に上昇しており、タイトジャンクション関連遺伝子の発現も上昇していることが明らかとなった。さらに、デキストランの透過量は有意に低下していたことから、共培養した細胞が強固なタイトジャンクションを形成していることが示された。
一方、脳由来細胞と共培養したHUVECでは、脳由来細胞なしで単培養したHUVECと比較して、電気抵抗の上昇、タイトジャンクション関連遺伝子の上昇、デキストランの透過量の低下は見られなかった。
加えて、共培養した細胞はトランスポーター遺伝子の発現が上昇していることも観察された。また、排出トランスポーターMDR-1の基質であるRhodamin123、そしてMDR-1の阻害剤であるCSAを用いて、MDR-1の機能を解析したところ、共培養開始後5日目の細胞にCSAを作用させた場合、Rhodamin123のプレート側への移行量が有意に上昇していたことから、脳由来細胞と共培養した血管内皮細胞は、機能的なMDR-1を発現していることが示された。なお、Rhodamin123は排出トランスポーターMRP-1の基質ではないことが知られているため、MRP-1の阻害剤MK571を作用させた場合にはローダミンの移行量に変化はみとめられなかった。
以上の結果より、ヒトiPS細胞から誘導した血管内皮細胞は、脳由来細胞と共培養することにより、タイトジャンクションを形成し、かつ機能的な排出トランスポーターを発現する脳血管内皮細胞へ成熟化しているものと考えられた。
(実施例3)血管内皮細胞から脳血管内皮細胞への分化誘導2
実施例1にて分化誘導した血管内皮細胞を、ラットC6細胞を培養した培地を用いて培養した(図3下段参照)。まず、実施例1にて分化誘導した細胞5×104個を、実施例2と同様に、ECGS、FGF2、ヘパリン、アスコルビン酸、MTGを含むStempro34培地(Life Technologies社製)に再懸濁し、インサート上に播種した。別途、実施例1の分化誘導用基本培地であるアスコルビン酸とMTGを含むStempro34培地を用いて、ラットC6細胞を24時間培養し、その後培養上清をフィルトレーションして回収し、C6細胞コンディショナルミディウム(C6 CM)とした。インサート上の血管内皮細胞がコンフルエント(約1〜1.5×105個)になった時に、プレート側の培地をC6 CM 0.7mlと置換し、培養を行った。インサート側の培地(実施例1(2)で使用したのと同様のECGSやFGF2等の液性因子を含む培地)およびプレート側の培地(C6 CM)は2日おきに置換して培養した。
(実験例2)
実施例3において、培養を開始した0、3、5、7日後の細胞について、実験例1と同様にして、電気抵抗(TEER)を測定した。
また、培養開始5日後の細胞について、タイトジャンクション関連遺伝子の発現と物質透過性を解析した。
さらに、脳血管内皮細胞に特異的に発現する各種トランスポーター遺伝子(MDR-1、BCRP、MRP-4、Glut1)の発現を解析するとともに、MDR-1についてはトランスポーターとしての機能についても解析した。
これらの解析は、実験例1と同様の手法により行った。
電気抵抗を測定した結果と、物質透過性を確認した結果を図7に、タイトジャンクション関連遺伝子の発現を解析した結果を図8に、トランスポーター遺伝子の発現を解析した結果を図9に示す。
C6 CMを添加して培養した細胞は、脳由来細胞と共培養した細胞と同程度に電気抵抗が上昇し、さらに物質の透過性が低下していることが明らかとなった。さらに、トランスポーター遺伝子の発現量も、脳由来細胞と共培養したときと同様に上昇していた。また、C6 CMを用いて培養した細胞が発現するMDR-1は排出トランスポーターとして機能していることも確認できた。したがって、C6 CMを用いることにより脳血管内皮細胞を誘導できていることが示された。
本発明により得られた脳血管内皮細胞は、電気抵抗値を測定したところ強い接着性を有しており、各種タイトジャンクション関連遺伝子が良好に発現しており、物質の透過性が低く、かつ各種トランスポーターが発現し、かつ機能しているものである。すなわち本発明により得られた脳血管内皮細胞は、ヒトのBBBの輸送機能を精度良く反映する機能を有するものである。本発明により得られた脳血管内皮細胞は、中枢神経疾患治療薬のヒト臨床試験に利用可能であり、有用である。

Claims (9)

  1. 以下の1)および2)の工程を含む、ヒト多能性幹細胞からヒト脳血管内皮細胞を製造する方法:
    1)ヒト多能性幹細胞から分化誘導されたCD34発現ヒト細胞を培養する工程;および
    2)前記工程1)で培養したヒト細胞を、ラットグリオーマ株C6細胞を培養した培地に接触させて、培養する工程。
  2. 工程2)の培養期間が、1日〜10日間である、請求項1に記載のヒト脳血管内皮細胞を製造する方法。
  3. 工程2)が、以下のa)またはb)の工程である、請求項1または2に記載のヒト脳血管内皮細胞を製造する方法:
    a)前記工程1)で培養したヒト細胞を、ラットグリオーマ株C6細胞と共培養する工程;または
    b)前記工程1)で培養したヒト細胞を、ラットグリオーマ株C6株細胞を培養した培地を添加した培地中にて培養する工程。
  4. 工程1)のCD34発現ヒト細胞を培養する液性因子を含む培地が、水溶性ウシ視床下部抽出物、FGF、およびヘパリンを含む培地である、請求項1〜3のいずれか1に記載のヒト脳血管内皮細胞を製造する方法。
  5. 工程1)が、骨形成タンパク質4(bone morphogenetic protein;BMP4)、アクチビンA、および血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)を用いた培養により、ヒト多能性幹細胞からCD34発現ヒト細胞を分化誘導することを含む、請求項1〜4のいずれか1に記載のヒト脳血管内皮細胞を製造する方法。
  6. 工程1)における培養期間が、1日〜25日間である、請求項5に記載のヒト脳血管内皮細胞を製造する方法。
  7. ヒト脳血管内皮細胞が、タイトジャンクション関連遺伝子を発現しており、かつ、機能的な特異的トランスポーターを発現している、請求項1〜6のいずれか1に記載のヒト脳血管内皮細胞を製造する方法。
  8. 請求項1〜7のいずれか1に記載の製造方法により得られたヒト脳血管内皮細胞。
  9. 請求項1〜7のいずれか1に記載の製造方法により得られたヒト脳血管内皮細胞を用いる、血液脳関門の解析方法。
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