この発明で対象とすることのできる車両における駆動装置の制御システムの構成例を図5に模式的に示している。なお、図5では、電気的な接続関係を破線で示している。図6には、駆動力源とした駆動用モータ1,2を二つ設けた車両Veを示している。これらのモータ1,2は、従来知られたハイブリッド車両や電気自動車に駆動力源として設けられているモータと同様に構成することができ、例えば、永久磁石形の同期電動機である。一方のモータ(以下、第1モータと記す)1は、車両Veの前輪3L,3Rにトルクを伝達するものであって、車両Veの前方に設けられている。また、他方のモータ(以下、第2モータと記す)2は、車両Veの後輪4L,4Rにトルクを伝達するものであって、車両Veの後方に設けられている。なお、いずれのモータ1,2も、車幅方向における中央部に配置されている。
上記第1モータモータ6が、第1差動機構5に連結されている。具体1には、図6に示すように第1差動機構5が連結されている。この第1差動機構5は、遊星歯車機構を主体として構成することができ、第1モータ1の出力トルクを、左右の駆動輪3L,3Rに伝達するように構成されている。また、そのように左右の駆動輪3L,3Rに伝達する際におけるトルクの分配率を制御するための第1差動用的には、第1差動機構5のいずれかの回転要素に第1差動用モータ6からトルクを入力することができるように構成されており、第1差動用モータ6から第1差動機構5にトルクを入力することにより、一方の駆動輪3L(3R)に伝達されるトルクの分配率が増大し、他方の駆動輪3R(3L)に伝達されるトルクの分配率が、一方の駆動輪3L(3R)に伝達されるトルクの分配率の増大と同じ数値、減少するように構成されている。すなわち、第1差動機構5と第1差動用モータ6とによりトルクベクタリング装置を構成している。トルクの分配率とは、駆動用モータ1の出力トルクに対する一方の車輪3R(3L)に伝達されるトルクの割合である。
さらに、第1モータ1から第1差動機構5に到るトルクの伝達経路における第1差動機構5よりも第1モータ1側に設けられた回転部材、または第1差動機構5の入力要素と接触することにより、摩擦力を発生させて制動トルクを作用させる第1ブレーキ機構7が設けられている。図6に示す例では、第1モータ1の出力軸8の端部にプレート部材9が連結されており、そのプレート部材9に制動トルクを作用させるように第1ブレーキ機構7が設けられている。この第1ブレーキ機構7は、電磁アクチュエータに通電することにより制動トルクを発生させるように構成されており、図6に示す例では、ブレーキディスク10にコイル11を設け、そのコイル11に通電することによる電磁力により、ブレーキロータとして機能するプレート部材9に、ブレーキディスク10が引き付けられて接触するように構成されている。
上記のように第1ブレーキ機構7を設けることにより、第1ブレーキ機構7で発生した制動トルクは第1差動機構5を介して左右の駆動輪3L,3Rに伝達される。また、制動時に、第1差動用モータ6を制御すれば、左右の駆動輪3L,3Rに作用する制動トルクの分配率を制御することができる。
一方、駐車時には電源がオフされるため、上記の第1ブレーキ機構7は、制動トルクを作用させ続けることができない。そのため、非通電時に制動トルクを作用させることができるように構成された第1パーキングロック機構12が設けられている。図6に示す第1パーキングロック機構12は、ブレーキディスク10を、プレート部材9に向けて押圧する押圧部材13と、通電されることによりブレーキディスク10とプレート部材9とが接触するように押圧部材13を移動させ、非通電時にその押圧部材13の位置が変化することを防止するように構成された電磁アクチュエータ14とにより構成することができる。
このように構成された第1パーキングロック機構12では、通電時における押圧部材13の移動量に応じてブレーキディスク10とプレート部材9との接触圧を制御すること、すなわち、制動トルクを制御することができることになり、その状態で非通電とすることで、その制動トルクを維持することができる。したがって、第1ブレーキ機構7に代えて第1パーキングロック機構12を制御しても第1ブレーキ機構7と同様に制動トルクを制御することができる。すなわち、第1パーキング機構12を第1ブレーキ機構7のバックアップとしても機能させることができる。
上述した第1モータ1および第1差動用モータ6ならびに第1ブレーキ機構7には、従来知られたハイブリッド車両や電気自動車に搭載された蓄電装置と同様に、バッテリーやキャパシタなどにより構成された高電圧の蓄電装置15が電気的に接続され、その蓄電装置15から電力が供給されるように構成されている。また、蓄電装置15には、第1モータ1により発電された電力が供給されるように構成されている。この蓄電装置15と各モータ1,6またはコイル11との間には、直流電流と交流電流とを切替えるとともに、各モータ1,6またはコイル11に供給される電流値やその周波数を制御することができる第1インバータ16が設けられている。
上記のように第1モータ1により前輪3L,3Rを駆動する構成、および第1ブレーキ機構7により前輪3L,3Rに制動トルクを作用させる構成と同様に、第2モータ2により後輪4L,4Rを駆動するとともに、第2モータ2から第2差動機構17に到るトルクの伝達経路上に設けられた回転部材に制動トルクを作用させる第2ブレーキ機構18が設けられ、その第2ブレーキ機構18により後輪4L,4Rに制動トルクを作用させるように構成されている。また、第2ブレーキ機構18へ電力を供給する電気系統がフェールした場合であっても、バックアップとして制動トルクを作用させることができるように、第1パーキングロック機構12と同様に構成された、第2パーキングロック機構19が設けられている。すなわち、前輪3L,3Rを駆動または制動させる構成と、後輪4L,4Rを駆動または制動させる構成とは同一である。したがって、後輪4L,4Rを駆動または制動させる構成の説明を省略する。
上述した第1モータ1、第2モータ2、第1差動用モータ6、第2差動機構17におけるトルクの分配率を制御する第2差動用モータ20、第1ブレーキ機構7、第2ブレーキ機構18を、一括して制御するための第1電子制御装置(以下、第1ECUと記す)21が設けられている。この第1ECU21は、従来知られている車両に搭載された電子制御装置と同様にマイクロコンピュータを主体として構成されており、この発明の実施例における「コントローラ」に相当する。その第1ECU21の構成を説明するためのブロック図を図7に示している。
この第1ECU21には、車両Veの姿勢に関連するデータや、運転者による操作部の操作状態などの信号が入力され、その入力される信号、および予め記憶されている演算式またはマップなどに基づいて、第1インバータ16や、蓄電装置15と各モータ2,20または第2ブレーキ機構18との間に配置され、直流電流と交流電流とを切替えるとともに、各モータ2,20または第2ブレーキ機構18に供給される電流値やその周波数を制御することができる第2インバータ22に制御信号を出力するように構成されている。なお、第1ECU21から第1インバータ16や第2インバータ22に出力する制御信号を求める際には、従来知られたアンチロックシステム(ABS)、トラクションコントロール(TRC)、エレクトロニックスラビリティコントロール(ESC)、ダイナミックヨーレートコントロール(DYC)などを考慮して求めている。
上記第1ECU21に入力される操作状態の信号の一例としては、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ23、ブレーキペダルの踏み込み力を検出する第1ブレーキペダルセンサ24、ブレーキペダルの踏み込み量を検出する第2ブレーキペダルセンサ25、ステアリングの操舵角を検出する操舵角センサ26、ステアリングの操舵トルクを検出するトルクセンサ27からの信号であり、車両Veの姿勢に関連するデータの信号の一例としては、車両Veの前後加速度を検出する第1Gセンサ28、車両Veの横加速度を検出する第2Gセンサ29、車両Veのヨーレートを検出するヨーレートセンサ30、各車輪3L,3R,4L,4Rの周速を検出する車輪速センサ31,32,33,34からの信号である。
なお、第1ECU21を作動させるためや、第1インバータ16に搭載されている図示しないトランジスタを制御するための電力を供給するために、第1補機バッテリ35が設けられている。この第1補機バッテリ35は、蓄電装置15よりも低電圧である。
上述したように第1パーキングロック機構12は、第1ブレーキ機構7のバックアップとしても機能するため、上記第1ECU21と第1補機バッテリ35との電気系統にフェールが生じた場合、または蓄電装置15と第1インバータ16との電気系統にフェールが生じた場合などにも、各パーキングロック機構12,19を制御することができるように、第1ECU21とは別に他の電子制御装置(以下、第2ECUと記す)36が設けられている。この第2ECU36も第1ECU21と同様にマイクロコンピュータを主体として構成されている。この第2ECU36の構成を説明するためのブロック図を図8に示している。この第2ECU36には、車両Veの姿勢に関連するデータや、運転者による操作部の操作状態などの信号が入力され、その入力される信号、および予め記憶されている演算式またはマップなどに基づいて各パーキングロック機構12,19を作動させることを許可するか否かを判断するとともに、各パーキングロック機構12,19の制御量を演算などにより定め、その定められた制御量に基づいて、各パーキングロック機構12,19に制御信号を出力するように構成されている。
上記第2ECU36に入力される操作状態の信号の一例としては、第1ブレーキペダルセンサ24、第2ブレーキペダルセンサ25、各ブレーキ機構7,18に通電されている電流値を検出する図示しないセンサからの信号であり、車両Veの姿勢に関連するデータの信号の一例としては、車輪速センサ31,32,33,34からの信号である。また、各パーキングロック機構12,19を作動させることの許可は、所定の時間以上停車していること、電磁アクチュエータ14を作動させるためのスイッチが運転者などによりオンされていること、停車中でかつイグニッションがオフされていること、少なくともいずれか一方のブレーキ機構7(18)が作動することができないことなどのいずれか一つが成立していることで判定することができる。さらに、ブレーキペダルの踏み込み力や踏み込み量と、各車輪3L,3R,4L,4Rの車輪速とから各パーキングロック機構12,19による制動トルクを定め、その制動トルクを得られるように、電磁アクチュエータ14および第2パーキングロック機構19を制御するための図示しない電磁アクチュエータへ電流を出力するように構成されている。そして、第2ECU36を作動させるためや、各パーキングロック機構12,19を制御するための電力を供給するために、第2補機バッテリ37が設けられている。なお、第1ECU21からの信号を第2ECU36が受けることができ、第1ECU21がフェールした場合などには、第2ECU36が作動することを許可するように構成することができる。
つぎに、各駆動用のモータ1,2、各差動用モータ6,20、各ブレーキ機構7,18に通電する電流値を定めるための制御例について説明する。図2は、その制御例を説明するためのフローチャートであり、第1ECU21で実行される。
図2に示す例では、先ず、入力1次処理として、各センサ23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34から入力された信号を読み込む(ステップS1)。ついで、いずれかの車輪速3L(3R,4L,4R)、または四輪の各車輪速の平均速度と前後加速度Gとから、車速Vを推定するなどの入力2次処理を行う(ステップS2)。
つぎに、運転者が要求するトルクに基づいて各車輪に作用させるトルクを算出する(ステップS3)。このステップS3で算出するトルクは車両Veを加速させる駆動トルク、および車両Veを減速させる制動トルクの両方を含み、ブレーキペダルの踏み込み量が予め定められた閾値より大きい場合には制動トルクTi reqとして算出し、ブレーキペダルの踏み込み量が閾値以下である場合には、駆動トルクとして算出する。上記制動トルクTi reqは、ブレーキペダルの踏み込み量やブレーキ踏み込み力等から求めることができる要求トルクを車輪の数で除算して算出することができる。また、駆動トルクは、アクセルペダルの操作量などに基づいて求めることができる要求トルクを車輪の数で除算して算出することができる。
ついで、旋回走行時などにおける走行安定性を向上させるために、左右輪のトルクの分配率を考慮して、上記ステップS3で算出した値を補正する(ステップS4)。具体的には、上記のように運転者による要求トルクを算出した後に、車両Veの右側の駆動輪(前輪3Rと後輪4Rとから出力するトルクの和)に伝達するべきトルクと、車両Veの左側の駆動輪(前輪3Lと後輪4Lとから出力するトルクの和)に伝達するべきトルクとを算出(加算)する。これは、上述したように旋回走行時などにおける走行安定性を向上させるためであって、従来知られているアンチロックシステム(ABS)、トラクションコントロール(TRC)、エレクトロニックスラビリティコントロール(ESC)、ダイナミックヨーレートコントロール(DYC)を考慮した制御であり、車両Veの姿勢に関連するデータ、より具体的には、ヨーレートセンサ30により検出された実際のヨーレートに基づいて車両Veの右側の駆動輪に伝達するべきトルクと、車両Veの左側の駆動輪に伝達するべきトルクを算出する。
このステップS4は、走行安定性を向上させるために一方側の駆動輪3R,4R(3L,4L)に伝達するトルクを増大させ、他方側の駆動輪3L,4L(3R,4R)に伝達するトルクを減少させる量を求めるためであり、その増大量と減少量とが同一となるように定めている。これは、上述したように図5,6に示す差動機構5は、一方の駆動輪3R(3L)に伝達するトルクの分配率を増大させるように差動用モータ6を制御した場合には、他方の駆動輪3L(3R)に伝達するトルクの分配率が同じ数値、減少するように構成されているためである。
つぎに、運転者が駆動トルクもしくは制動トルクを要求しているか否かを判断する(ステップS5)。具体的には、運転車が要求している目標トルクTreqが正か否かの判断を行う。これを数式で表すと以下のように示すことができる。
Treq>0
ステップS5で、運転者が駆動トルクを要求していることにより肯定的に判断された場合には、各車輪3L,3R,4L,4Rに伝達するべきトルクを算出する(ステップS6)。なお、このステップS6ではステップS4で算出されたトルクが採用される。
一方、ステップS5で否定的に判断された場合には、図1に示すフローチャートに基づいて、各車輪3L,3R,4L,4Rに伝達するべきトルクを算出する(ステップS7)。
図1には、制動時における各車輪の制動トルクの目標値を定める制御例を示している。先ず、前回の制動モードが通常モードであったかスリップ制御モードであったかの判断を行う(ステップS100)。通常モードとは、各車輪のいずれもがスリップしていない状態もしくは許容できる程度のスリップ状態で実行されるモードをいい、一方、スリップ制御モードとは、各車輪のうち少なくともいずれかの車輪と路面とのスリップ率が所定値以上の場合に実行されるモードである。なお。制動開始時には通常モードが設定される。
ついで、上記のステップS100で肯定的に判断された場合、すなわち通常モードの場合には各車輪の仕事率Piを演算する。具体的には、目標仕事率Pi reqと実際の仕事率(実仕事率)Pi wとを演算する(ステップS101)。その演算方法は以下の式から求めることができる。先ず、目標仕事率Pi reqは、
Pi req=Ti req×(V/rtire)
により算出することができる。一方、実際の仕事率Pi wは、
Pi w=Ti w×(Vi w/rtire)
により算出することができる。なお、Pi reqは、各車輪の運転者の要求する仕事率を示し、Ti reqは、各車輪の運転者の要求する制動トルクを示し、Vは車速を示し、rtireは、車輪の有効半径を示している。またPi wは、各車輪の実際の仕事率を示し、Ti wは、各車輪の実際の制動トルクを示し、Vi wは、実際の各車輪の周速を示し、車速Vで車輪の有効半径rtirを除算したもの、すなわちV/rtireは車輪速を示している。さらに、ここでは、便宜上、一つの式を示しているものの、実際には、各車輪3L,3R,4L,4R毎に上式でスリップ率を演算する。以下の説明では、便宜上、各車輪3L,3R,4L,4R毎に演算する式を一つのみ示し、その演算に用いられるパラメータに、「i」を付して示す。そして上述したTi reqがこの発明の実施例における「各車輪の目標制動トルク」に相当する。
ついで、ステップS101で求めた目標仕事率Pi reqと実際の仕事率Pi wとの偏差Pi devを以下の式から演算する(ステップS102)。
Pi dev=Pi req−Pi w
偏差Pi devの変化率ならびに実際の車輪の仕事率Pi wの変化率に基づいて各車輪にスリップが発生しているか否かの判断を行う(ステップS103)。具体的には、上記で求めた偏差Pi devの変化率が正の値であり、かつ実際の仕事率Pi wの変化率が負の値であり、さらに偏差Pi devが予め定められた閾値Paより大きい値であるか否かの判断を行う。これを簡略化して数式で表すと以下のように示すことができる。
(dPi dev/dt>0)&(dPi w/dt<0)&(Pi dev>Pa)
なお、この数式のうちいずれかの条件を満たさない場合はスリップは発生していないと判断される。したがって、このステップS103で否定的に判断された場合には、ステップS104に進む。なお、いずれかの車輪が少なくともスリップしている場合にはこのステップS103の判断は肯定的に判断される。
そして、このステップS104では実行トルクTi pが演算される(演算A)。すなわち、この実行トルクTi pは、上記のステップS103のスリップ判定によりスリップしていないと判断されているため、各車輪に実行する制御トルクTi pと各車輪における運転者の要求する制動トルクTi reqとが一致する。これを簡略化して数式で表すと以下のように示すことができる。
Ti p=Ti req
この場合、通常の制御が実行され、引き続き通常の制御モードが設定される(ステップS105)。そして、上記の制御モードが設定されたらこのルーチンを一旦終了する。
一方、上記のステップS103のスリップ判定により肯定的に判断された場合には、ステップS104と同様に実行トルクTi pが演算Bにより演算される(ステップS106)。この実行トルクの演算Bは上記のステップS104で演算した実行トルクTi pと異なり、スリップが発生しているため、スリップ状態を収束するようにトルクが演算される。つまり、要求トルクTi reqから予め定められたトルクTaが減算される。これを簡略化して数式で表すと以下のように示すことができる。
Ti p=Ti req−Ta
この場合、前回のルーチンの通常モードからスリップ制御モードに制御モードが切り替える(ステップS107)。
つぎに、上述したステップS100で前回の制御モードがスリップ制御モードと判断された場合のフローについて説明する。これは例えば、上述したステップS107で通常モードからスリップ制御モードに切り替わった場合などに、このフローに沿って制御が実行される。具体的には、スリップ制御モードが設定されており、ステップS100で否定的に判断された場合には、ステップS101と同様に目標仕事率Pi reqsと実際の仕事率Pi wとの各仕事率を演算する(ステップS108)。各仕事率は以下の式により表すことができる。先ず目標仕事率Pi reqsは、
Pi reqs=Ti pp×(V/rtire)
により演算することができる。一方、実際の仕事率Pi wは、
Pi w=Ti w×(Vi w/rtire)
により演算することができる。なお、Pi reqsは、スリップ制御時の各車輪の目標仕事率を示し、Ti ppは、前回のルーチンの各車輪の実行制動トルクを示し、またこのTi ppがこの発明の実施例における「各車輪の目標制動トルク」に相当する。他の記号は、上述した式と同様の符号を付しているため説明を省略する。
ついで、上記のステップS108で求めた各仕事率からこれらの値の偏差、すなわちスリップ制御時の各車輪の仕事率の偏差Pi devsを演算する(ステップS109)。これは、ステップS102と同様の演算処理であり、ステップS108で求めた目標仕事率Pi reqsから実際の仕事率Pi wを減算して求めることができる。簡略化して数式で表すと以下のように示すことができる。
Pi devs=Pi reqs−Pi w
ついで、上記で求めたスリップ時の仕事率の偏差Pi devsならびに車速Vと車輪の速度Vi wとからスリップが収束しているか否かの判断を行う(ステップS110)。具体的には、上記の偏差Pi devsの絶対値が予め定めれた閾値Pbより小さく、かつスリップ率が予め定められたスリップ率の閾値λaより小さいか否かの判断を行う。簡略化して数式で表すと以下のように示すことができる。
|Pi devs|<Pb & (V−Vi w)/V<λa
なお、この数式のうちいずれかの条件を満たさない場合はスリップは収束していないと判断され、また、いずれかの車輪が少なくともスリップしている場合にはこのステップS110の判断は否定的に判断される。。したがって、このステップS110で否定的に判断された場合には、ステップS111に進む。
この場合、ステップS111では実行トルクが演算Cにより演算される。また、ここでの実行トルクは、前回の収束制御(例えば、ステップS106)での実行トルクと同様に、予め定められたトルクを減算して求める。具体的には、前回のルーチンの各車輪の実行制動トルクTi ppから予め定められたトルクTbを減算する。これを簡略化して数式で表すと以下のように示すことができる。なお、トルクTbは上述したトルクTaと同一の値でもよい。
Ti p=Ti pp−Tb
この場合、前回のルーチンのスリップ制御モードが継続される(ステップS112)。
一方、ステップS110のスリップ収束判定で肯定的に判断された場合には、ステップS113に進む。つまり、ステップS110の演算により全ての条件を満たすと判断された場合にはスリップが収束されたこととなる。したがって、ステップS110で肯定的に判断された場合にはトルクの増大制御を行う(ステップS113)。具体的には、前回のルーチンの各車輪の実行制動トルクTi ppからトルクTcを加算する。これを簡略化して数式で表すと以下のように示すことができる。
Ti p=Ti pp+Tc
なお、この増大トルクは急激にトルクを増大すると車輪をロックするおそれがあるため、徐々にトルクを増大する。具体的には、トルクの増大を行う継続時間が通常の制御モードに復帰できるための時間tD以上になったか否かの判断を行う(ステップS114)。このステップS114のtDは、例えば道路もしくは路面環境が低μ路から高μ路に切り替わり、トルクを増大させてもスリップしない程度の時間の長さなどに定められている。したがって、ステップS114で否定的に判断、すなわち通常モードに復帰するためのトルクの増大の継続時間がtD未満と判断された場合には、スリップ制御モードが引き続き継続される(ステップS115)。これとは反対に、通常モードに復帰するためのトルクの増大の継続時間がtD以上と判断された場合には、スリップ制御モードから通常モードに移行する(ステップS116)。
上述したように駆動時には、ステップS6で各車輪3L,3R,4L,4Rに伝達するべきトルクを算出する。同様に制動時には、ステップS7および図1のフローチャートにより実行すべきトルクを算出する。
具体的には、ステップ6およびステップS7で算出された実行トルクTi pに基づいて、各駆動用モータ1,2および各差動用モータ6,20ならびにブレーキ機構12,18へ通電する電流値I*m,I*s,I*bを定める。まず、駆動時には、ステップS6で算出された実行トルクTi pから各駆動用モータ1,2へ通電する電流値IM、および各差動用モータ6,20へ通電するICを以下の式に基づいて算出する(ステップS8)。
T* trc=(T*R p+T*L p/γtrc)
T* diff=(T*R p−T*L p/γdiff)
上式における「T* trc」は、駆動用モータの目標トルクを示し、「T* diff」は、差動用モータの目標トルクを示している、また「γtrc」は制動部および駆動部の減速比を示し、「γdiff」は差動部の減速比を示している。さらに、「*」は、前輪および後輪のそれぞれについての値を示している。すなわち、IMは、右前輪3Rと左前輪3Lとについて算出された実行トルクを加算し、その実行トルクに図示しない変換定数を積算して、第1モータ1へ通電する電流値を求めるとともに、右後輪4Rと左後輪4Lとについて算出された実行トルクを加算し、その実行トルクに変換定数を積算して、第2モータ2へ通電する電流値を求める。また、ICは、右前輪3Rについて算出された実行トルクと左前輪3Lとについて算出された実行トルクとを減算し、その値に変換定数を積算して、第1モータ1へ通電する電流値を求めるとともに、右後輪4Rについて算出された実行トルクと左後輪4Lについて算出された実行トルクとを減算し、その値に変換定数を積算して、第2モータ2へ通電する電流値を求める。そして、ステップS8により算出された電流値IM,ICを各駆動用モータ1,2および各差動用モータ6,20に出力する(ステップS12)。
一方、運転者が減速を意図している場合であって、ステップS5で否定的に判断され、ステップS7で各車輪3L,3R,4L,4Rに伝達するための実行トルク(制動トルク)を算出した場合には、ついで、全ての車輪3L,3R,4L,4Rに伝達するための実行トルクを加算して、駆動時と同様にステップS8の演算式を用いて全制動トルクTtrcを算出する。そして、その算出された全制動トルクTtrcが、第1モータ1および第2モータ2で回生可能か否かが判断される(ステップS9)。すなわち、各モータ1,2が回生制御することにより生じる制動トルクにより全制動トルクTtrcを受け持つことができるか否かが判断される。これは、各駆動用モータ1.2により制動トルクを各車輪に作用させることができるため、主に各駆動用モータ1,2で制動トルクを各車輪に発生させることができるためである。したがって、各駆動用モータ1,2ならびに各ブレーキ機構7,18がこの発明の実施例における「制動装置」に相当する。
そのステップS9では、以下の式が成立するか否かが判断される。
Ttrc<Ttrcmax
なお、上式におけるTtrcmaxは、各モータ1,2の特性などに基づいて予め定められている回生トルクの最大値であり、この発明の実施例における「限界トルク」に相当する。
各モータ1,2で全制動トルクTtrcを回生することができ、ステップS9で肯定的に判断された場合には、ステップS7で算出された実行トルクTi pに変換係数を積算して各駆動用モータ1,2および各差動用モータ6,20へ通電する電流値IM,ICを算出する(ステップS10)。なお、IMは、駆動用モータの電流値を示し、Icは、差動用モータの電流値を示している。
一方、全制動トルクTtrcを各駆動用モータ1,2で回生することができず、ステップS9で否定的に判断された場合には、まず、回生可能な範囲で各駆動用モータ1,2を回生制御し、余剰の制動トルクをブレーキ機構7,18で生じさせるように電流制御を行う(ステップS11)。なお、その際における各差動用モータ6,20へ通電する電流値I*s bは、ステップ10と同様に算出する。具体的には、ステップS7で算出された実行トルクTi pに変換係数を積算して各駆動用モータ1,2へ通電する電流値IM、各差動用モータ6,20へ通電する電流値IC、各ブレーキ機構12,18へ通電する電流値IBを算出する。なお、上式における「BEF」は、摩擦ブレーキ係数を示している。
そして、ステップS11により算出された電流値IM,IC,IBを各駆動用モータ1,2および各差動用モータ6,20ならびにブレーキ機構12,18に出力する(ステップS12)。
図3は、図1および図2のフローチャートを実行したときの制御モード、トルクの増大制御の演算方法(A,B,C,D)、各仕事率Pi、各トルクTi、ならびに制御モードの遷移条件の変化の一例を示すタイムチャートである。また図4は、スリップ率と仕事率Pi wとの関係、スリップ率と実行トルクTi wとの関係を説明する図である。以下、具体的に説明する。
先ず、図3に示すように、t0時点では制御モードは通常モードである。したがって、
目標仕事率Pi reqと実際の仕事Pi wとの偏差Pi devは許容範囲程度であり、また実行トルクTi pは通常制御、つまり演算Aにより算出される。
ついで、上記のt0時点から仕事率の偏差Pi devsが拡がり始める。すなわち、少なくともいずれかの車輪がスリップし始めていると判断できる。具体的にはステップS103の演算式で求めたように、偏差Pi devの変化率が正の値であり、かつ実際の仕事率Pi wの変化率が負の値であり、さらに偏差Pi devがスリップ判定における仕事率の偏差の閾値Paより大きい値であるか否かの判断が成立してスリップが発生したと判断できる。したがって、実行トルクTi pは演算Bにより要求トルクから減算され、また制御モードは通常モードからスリップ制御モードへと移行する(t1時点)。
ついでt2時点では、t1時点からスリップ制御モードが引き続き継続されている。一方、上記の減算トルクの制御によりスリップ率が小さくなることに伴い車輪速Vi wが速くなり、それに伴って一時的に仕事率Pi wおよび実行トルクTi wが増大している。これは図4に示すように、t1時点からスリップし始め、c地点からb地点へと推移する。しかし、未だ上記のステップS110の演算式に示した条件のうちのスリップ収束判定のλaの条件を満たさず、スリップが収束されていないと判断されている。したがって、実行トルクTi pは演算Cにより算出され、更に減算される。
ついで、t3時点では、スリップ時の目標仕事率Pi rcqsと実際の仕事率Pi wとの偏差Pi devsが許容範囲となり、上記のステップS110のスリップ判定の条件が成立してスリップが収束し始める。したがって、実行トルクTi pは演算Dにより算出され増算、つまりトルクの増大制御が実行される。なお、このようにスリップが収束し始めているので図4に示す関係はb地点からa地点と推移する。
ついで、t3’時点では、ステップS114の通常制御に復帰するためのトルクの増大制御が1ルーチン毎に実行される。そして、t3時点からt4時点にかけて通常制御に復帰可能な時間tD以上となり、t4時点で通常の制御モードに移行する。つまり、低μ路から高μ路に切り替わり仕事率ならびにトルクが目標値に近似する。
このように、図1および図2に示すフローチャートならびに図3に示すタイムチャートでは、各車輪を制動する際に、目標仕事率Pi req(Pi reqs)と実際の仕事率Pi wとの偏差から車輪のスリップ状態の判定している。そのため、スリップ状態を正確かつ迅速に検知することができる。また、上記の判定されたスリップ状態に基づいて制動トルクを制御しているため、制動トルクを精度よく制御することができる。したがって、精度よく制動トルクを制御できるため車両の走行安定性を向上させることができ、さらには制動距離が長くなることを抑制することができる。また、このように制動トルクを制御することにより最大摩擦力に近いところで制動もしくは制御することができる。
なお、この発明の実施例における車両は、図6に示す四輪駆動車に限らず、前輪3L,3Rまたは後輪4L,4Rのいずれか一方を駆動輪とした二輪駆動車であってもよい。また、二輪駆動車の場合には、非駆動輪となる左右の車輪が差動機構を介して連結されていてもよく、その差動機構に更にブレーキ機構を内蔵した構成としてもよい。