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JP6504982B2 - イオンフィルター及びその製造方法 - Google Patents
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Description

本発明は、ガス電子増幅器を備えたガス検出器に用いられるイオンフィルター及びその製造方法に関する。
放射線検出器の一つとしてガス検出器が知られている。このガス検出器において、そのガス電子増幅部にガス電子増幅器を用いたガス検出器が知られている(特許文献1)。
特開2007−234485号公報
この種のガス検出器は、検出対象の放射線を入射させ、放射線とガスとの光電効果によりガス原子から飛び出した電子を、多数の貫通孔を備えたガス電子増幅器を用いて電子なだれ効果により増幅させ、その電気信号を検出する。
電子を増幅させる際には、増幅した電子と同数の陽イオンが発生する。発生した陽イオンはガス電子増幅器に設けられた貫通孔内部の電場の影響により、電子の移動方向とは逆方向に進行する。
また、質量が相対的に大きい陽イオンの移動速度は、電子の移動速度よりも遅いため、ガス検出器の内部にガス電子増幅器の形状に依存した形状(ガス電子増幅器として電子増幅フォイルを用いる場合には、電子増幅フォイルの形状である平板状の形状)に集まって留まり、電場を生成する場合がある。
陽イオンによって形成された電場は、ガス検出器が測定する電子の移動方向を変化させる。
このように、陽イオンによって形成された電場は、ガス電子増幅器が用いられたガス検出器の位置分解能を低下させるという、いわゆる陽イオン問題を生じさせる。
この陽イオン問題に関し、従来は、ガス電子増幅器の上流側にワイヤー電極を設置し、ワイヤー電極から発生した電場によって、陽イオンの進行を防止する手法が知られている。しかし、高磁場下で使用される場合には、ワイヤー電極の近傍にはE×B effectが発生し、移動する電子の軌道がワイヤー電極の近傍で歪むという別の問題が生じる。また、陽イオンの進行を防止する際に、E×B effectによって電子の移動までもが妨げられると、位置分解能が低下するという問題がある。
上記課題に対応するため、陽イオンの進行を防止するイオンフィルターを、ガス電子増幅器の上流側に配置することが提案されている。このイオンフィルターは、移動する電子の軌道に与える影響を抑制しつつ、陽イオンの進行を防ぐ機能を備える。
ところで、粒子の性質を測定する国際リニアコライダー(ILC:International Linear Collider)実験においてはILD(International Large Detector)が用いられる。ILDは複数の測定器から構成される。このため、ILDにおいて、測定の対象となる粒子は、各測定器を通過する度に多重クーロン散乱の影響を受ける。このような多重クーロン散乱の影響を低減させるためには、各測定器の物質量を低減することが必要である。
ILDを構成する測定器の一つとして、ガス検出器を用いることがある。ガス検出器の内部のガス電子増幅部にはガス電子増幅器が設けられる。ガス電子増幅器の設置に伴い、前述した陽イオン問題に対応するために、イオンフィルターが併設される。
ILDを構成する測定器の一つであるガス検出器の内部に、イオンフィルターを配置すると、イオンフィルターの分だけガス検出器(測定器)の物質量が大きくなる。
このため、イオンフィルターが設けられたガス検出器を備えるILDにおいて、各測定器を通過する際に粒子が受ける多重クーロン散乱の影響は、イオンフィルターが設けられていないガス検出器を備えるILDにおけるその影響よりも、大きくなる傾向があるという問題がある。
本発明が解決しようとする課題は、ガス検出器の内部に配置されるイオンフィルターを提供するにあたり、イオンフィルターが設けられたガス検出器を備えるILDにおいて、各測定器を通過する粒子が受ける多重クーロン散乱の影響を抑制することである。
図1は、本発明の実施形態の3次元飛跡検出器(TPC:Time Projection Chamber)の構成図である。 図2Aは、本発明の実施形態のイオンフィルターの一例を模式的に示す斜視図である。 図2Bは、本発明の実施形態のイオンフィルターの一例を模式的に示す平面図である。 図2Cは、図2Bに示すIIC−IIC線に沿う断面の第1の例を模式的に示す断面図である。 図2Dは、図2Cに破線で示すIID領域の拡大図である。 図3(A)〜(E)は、本実施形態のイオンフィルターの製造方法を説明するための図である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、本発明に係るイオンフィルターを、ILD(International Large Detector)測定器を構成する測定器の一つである中央飛跡検出器に適用した場合を例にして説明する。本実施形態のILD測定器は、少なくとも中央飛跡検出器を備える。本実施形態では、中央飛跡検出器として、ガス検出器を用いることができる。さらに具体的に、本実施形態では、ガス検出器を用いた中央飛跡検出器として、TPC(Time Projection Chamber)100を用いる。本実施形態のTPCは、所定の高磁場下において荷電粒子を含む放射線の飛跡を測定し、放射線の飛跡から粒子の位置や運動量を測定する。本実施形態のILDには中央飛跡検出器が必要であり、その中央飛跡検出器にガス検出器が適用される。そのガス検出器の電子増幅部においてはGEM(ガス増幅フォイル)が採用され、併せて、イオンフィルターが設置される。
本実施形態のILD測定器は、バーテックス(Vartex)検出器、TPC(Time Projection Chamber)、カロリーメータ、ミューオン検出器の四つの測定器を含む。
図1は本実施形態におけるガス検出器を用いた中央飛跡検出器の一例としてのTPC(Time Projection Chamber)100の構成図である。図1に示すように、本実施形態のTPC(Time Projection Chamber)100は、イオンフィルター1と、ガス電子増幅器2と、検出電極3と、計測器4と、電極5と、ドリフト領域DRとなる空間と、チャンバCBとを備える。ドリフト領域DRはチャンバCB内に形成される。本実施形態のTPC(Time Projection Chamber)100では、検出用ガスで満たされたチャンバ内に荷電粒子を入射させると、荷電粒子がガス中を通過するときに起きるガス原子との光電効果により、チャンバ内のガス分子がイオン化される。荷電粒子によりイオン化されたガス分子が電子を放出する。TPC(Time Projection Chamber)100は、チャンバ内のガス分子がイオン化されたときに生じる電子に起因する電気信号を検出する。ドリフト領域DRに入射した放射線(荷電粒子を含む、以下同じ)の飛跡に沿って、チャンバ内のガス分子のイオン化、つまり電子の放出が起きる。ガス検出器は、電子の位置を遂次検出することにより、荷電粒子の二次元の飛跡を追跡する。言い換えると、荷電粒子がチャンバ内に入射したときに起きた放射線とガスとの光電効果により一次電子が発生し、この一次電子が電場によってガス電子増幅器2(例えば電子増幅フォイル)に到達すると増幅されて二次電子を放出する。ガス検出器は、二次電子の位置を遂次検出することにより、放射線の飛跡を追跡する。また、本実施形態のTPC100は、放射線とガスとの光電効果によりガス原子から飛び出した一次電子をドリフトさせるドリフト領域を備え、放射線の飛跡の二次元の位置のみならず、三次元の位置を測定する。
さらに、本実施形態のTPCは、ドリフト領域DRにおける粒子のドリフト時間を用いてZ軸方向を含む三次元の飛跡を計算する。つまり、本実施形態のTPCは、三次元飛跡検出機能を備えたガス検出器である。
本実施形態のガス電子増幅器2は、荷電粒子を含む放射線とガス分子との光電効果によりガス分子をイオン化したときに生じた電子を、高電場において電子なだれ効果により増幅させる。このように電子を増幅させることにより、ガス原子をイオン化したときに生じた電子に起因する電気信号を正確に検出できる。検出電極3は、電気信号を検出する。検出電極3は、検出した電気信号を計測器4に出力する。
計測器4は、検出電極3から検出信号を用いて、入射した荷電粒子の飛跡(経時的な位置変化)を測定する。つまり、TPC100内を通過する荷電粒子の通過位置を測定する。計測器4は、TPC100に入射した荷電粒子の飛跡の測定結果を外部に出力する。TPC100に入射した荷電粒子の位置の計測データは、国際リニアコライダー(ILC:International Linear Collider)実験に用いられる。ILC実験では、TPC100などのガス検出器を含む複数の測定器から得られる測定値を総合して、観測対象となる粒子の存在を確認し、または観測対象となる粒子の性質を計測する。
本実施形態のガス検出器を用いたTPC100は、チャンバCBを備える。チャンバCBは、ガス電子増幅器2と、イオンフィルター1と、検出電極3と、電極5と、を備える。チャンバCBは、その内部に荷電粒子が移動する空間であるドリフト領域DRを有する。図示しない一又は複数の電源は、これらに電力を供給する。本実施形態のTPC100は、計測器4を備える。本実施形態のTPC100は、少なくとも、ガス電子増幅器2と、イオンフィルター1と、検出電極3とを備える。
各構成について、以下に説明する。
チャンバCBは、検出用ガスで満たされる空間を形成する。チャンバCBに充填される検出用ガスとしては、一般に、希ガスとクエンチャーガスとの組合せが使用される。希ガスとしては、例えば、He、Ne、Ar、Xeなどを含む。クエンチャーガスとしては、例えば、CO、CH、C、CF、C10などを含む。特に限定されないが、希ガス中に混合するクエンチャーガスの混合比率は5〜30%とすることが好ましい。
電極5は、チャンバCB内に電界を形成する。放射線とガスとの光電効果によりガス分子をイオン化したときに生じた電子は、この電界の中を、アノードとして機能する検出電極3側へドリフト移動する。
ガス電子増幅器2は、電子を増幅させるMPGD(Micro Pattern Gas Detector)の一種である。
本実施形態において用いられるガス電子増幅器2としての電子増幅フォイルは、シート状の絶縁性基材の両主面が銅などの導電層が形成され、多数の貫通孔を有する。ガス電子増幅器2の貫通孔は、絶縁性基材の主面に対して略垂直方向に延在する。絶縁性基材の両主面に形成された導電層に数百Vの電位差を与えることで、貫通孔の内部には高電場が形成される。この貫通孔内部に電子が入ると、急激に加速される。加速した電子は、周囲のガス分子を電離させ、貫通孔内部において電子が雪崩式に増幅される(電子なだれ効果)。なお、一般に、ガス電子増幅器2は、GEM:Gas Electron Multiplierとも呼ばれる。
特に限定されないが、ガス電子増幅器2(電子増幅フォイル)の厚さは、百μm程度である。一例ではあるが、貫通孔30の直径は70[μm]程度、貫通孔30の間隔であるピッチは140[μm]程度のものが知られている。ガス電子増幅器2の貫通孔30の開口率は、23%程度である。ガス電子増幅器2を構成する絶縁性基材の材料としては、例えば、ポリイミドや液晶ポリマーなどの高分子ポリマー材料を用いることができる。ガス電子増幅器2を構成する導電層の材料としては、例えば、銅、アルミニウム、金、又はボロンなどを用いることができる。ガス電子増幅器2の導電層は、導電性材料を絶縁性材料にスパッタ蒸着して形成してもよいし、めっき処理により形成してもよいし、ラミネート処理により形成してもよい。
検出電極3は、電子なだれ効果により増倍された電子を検出し、検出信号を計測器4に送出する。計測器4は取得した信号に基づいて各種の検出データを演算する。特に限定されないが、検出データは、荷電粒子の飛跡の測定、荷電粒子の位置や運動量の測定などに用いられる。
チャンバCB内において、放射線とガスとの光電効果によりガス分子をイオン化したときに生じた電子eは、矢印で示す方向Dに沿ってドリフト移動する。その方向Dは、電極5から検出電極3へ向かう電子の移動方向Eに沿う方向である。電子の移動方向Eにおいて、電極5が配置された一方側が上流側であり、検出電極3が配置された他方側が下流側である。
続いて、本実施形態のイオンフィルター1について説明する。
先述したように、ガスの電離により電子数が増幅される際に、同数の陽イオンが生成される。この陽イオンのうち、ガス電子増幅器2の貫通孔の中央を通過し、ドリフト領域DRに移動(フィードバック)するものがある。
陽イオンのドリフト速度は遅いため、陽イオンが例えば平板状の一群として長時間に渡ってドリフト領域DRに滞在し、ドリフト領域DRに局所的にイオン密度の高い場所を形成してしまう。これにより、ドリフト領域DRの電場が歪められる。チャンバ内に磁場が存在する場合、ドリフトする電子にE×B effectを与えられると、位置分解能が低下する場合がある。
特に、本実施形態のTPC100は、放射線の飛跡の三次元の位置を測定するために、電子の進行方向Eに沿って相対的に長いドリフト領域を備える。このため、ドリフト領域に逆流した陽イオンによってドリフト領域DRの電場が歪められ、位置分解能が低下する傾向がある。
本実施形態のイオンフィルター1は、電子増幅に伴い発生した陽イオンがドリフト領域DR側(電子の移動方向Eとは逆方向)に移動しないように捕集する機能を有する。
本実施形態のイオンフィルター1は、絶縁性基材と、その絶縁性基材の一方主面に形成された第1導電層と、その絶縁性基材の他方主面に形成された第2導電層と、その絶縁性基材の厚さ方向に沿って形成された複数の貫通孔と、を有する。
図2A,図2B,図2C及び図2Dは、本実施形態のイオンフィルター1の一例を模式的に示す図である。
図2Aは、本実施形態のイオンフィルター1の斜視図であり、図2Bは、本実施形態のイオンフィルター1の平面図である。各図に示すように、本実施形態のイオンフィルター1は貫通孔30を備える。隣り合う貫通孔30の間にはリム20が形成される。貫通孔30はリム20に囲われている。リム20が貫通孔30の内壁を構成する。貫通孔30は、イオンフィルター1の主面に沿う開口部31を形成する。
本実施形態のイオンフィルター1は、フィードバックしてくる陽イオンを捕集し、ドリフト領域DRへ移動しないように機能するが、その一方で、電子の移動を妨げてはならないという制約がある。このため、イオンフィルター1として利用するためには、貫通孔30の開口率が高く、かつ厚さが薄い構造であることが求められる。
特に限定されないが、本実施形態のイオンフィルター1において、貫通孔30の開口率は65%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上である。本実施形態において、貫通孔30の開口率とは、絶縁性基材の主面に沿う所定の単位面積に対し、貫通孔30が形成する開口部31の総面積の割合である。開口率を算出するための単位面積は任意に定義できる。開口部31は、イオンフィルターの主面に沿う、絶縁性基材及び導電層の無い二次元領域である。本実施形態の貫通孔30の開口部31の形状は略六角形である。本実施形態のイオンフィルター1は、いわゆるハニカム構造を有する。
また、本実施形態の貫通孔30を構成するリム20とリム20の間隔は140[μm]以上〜300[μm]以下である。また、リム20の幅(貫通孔30の内壁間の距離)は、50[μm]以下、好ましくは40[μm]以下である。
発明者らが行ったシミュレーションによれば、電子の移動を妨げないようにするため、つまり、イオンフィルター1として機能するためには、イオンフィルター1の貫通孔30の開口部31の開口率は70%以上であることが望ましいということがわかった。また、発明者らが行ったシミュレーションによれば、電子の移動を妨げないようにするため、イオンフィルター1の絶縁性基材11の厚さが25[μm]以下であることが望ましいということがわかった。本発明の本実施形態では、これらの条件を満たすイオンフィルター1を提供する。
ちなみに、本実施形態のイオンフィルター1は、電子を増幅するガス電子増幅器2の上流側(電極5側,ドリフト領域DR側)に、ガス電子増幅器2とは別の部材として配置される。本実施形態のイオンフィルター1は、電子増幅に伴い発生した陽イオンを捕集するという、ガス電子増幅器2とは異なる目的において用いられ、ガス電子増幅器2とは異なる機能を奏するものである。
本実施形態では、イオンフィルター1を、電子の移動方向Eにおいて、ガス電子増幅器2よりも上流側(電極5が設けられた側,ドリフト領域DRが設けられた側)に配置する。つまり、イオンフィルター1は、ガス電子増幅器2と電極5との間に配置する。イオンフィルター1をこのように配置することにより、ガス電子増幅器2において発生する陽イオン群を、イオンフィルター1で捕集し、フィードバックする陽イオンがドリフト領域DRの全体に影響を与えることを防止する。これにより、ドリフト電子が陽イオン群の影響を受けにくくすることができる。
本実施形態のイオンフィルター1は、TPC100が備えるガス電子増幅器2に併設される。ガス電子増幅器2は、電子を増幅させるものであれば、平板状の電子増幅フォイルであってもよいし、異なる構造であってもよい。
図2Cは、本実施形態のイオンフィルター1の、図2Bに示すIIC−IIC線に沿う断面の一例を示す図である。
図2Cに示すように、本実施形態のイオンフィルター1は、絶縁性基材11の一方主面に形成された第1導電層パターン12と、他方主面に形成された第2導電層パターン13とを備える。第1導電層パターン12と第2導電層パターン13は、予め設定された電位に印加される。第1導電層パターン12の第1厚さth1と、他方主面に形成された第2導電層パターン13の第2厚さth2とは、同じ厚さでもよいし、異なる厚さとしてもよい。
特に限定されないが、第1導電層パターン12の第1厚さth1は、8[μm]〜15[μm]であり、好ましくは、10[μm]であり、好ましくは12[μm]以下である。第2導電層パターン13の第2厚さth2は8[μm]〜15[μm]であり、好ましくは12[μm]以下である。本実施形態の第1導電層パターン12及び第2導電層パターン13の厚さは、10[μm]である。
図2Dは、本実施形態のイオンフィルター1の、図2Cに破線で囲むIID領域を拡大して示す図である。
図2Dに示すように、本実施形態のイオンフィルター1の絶縁性基材11は、その内部に一部又は複数の空孔(void)11aを有する。空孔11aの内部には、絶縁性基材11を構成する材料(物質)は存在しない。本実施形態の絶縁性基材11の空孔11aの内部には、チャンバCBに充填される検出用ガス、空気その他の気体が存在する。絶縁性基材11の空孔11aは、気体との界面を構成する内壁11bを有する。内壁11bにより包囲された空間、すなわち空孔11aの内部には気体が存在する。
ところで、国際リニアコライダー(ILC:International Linear Collider)実験のように、複数の測定器から得られる測定値を総合して、一つの粒子の性質を測定する場合にその測定精度を向上させるためには、測定対象となる粒子が各測定器を通過する際に受ける多重クーロン散乱の影響を低減する必要がある。
この多重クーロン散乱の散乱角は、下記式(数1)で表わされる。
また、その反応断面積は、下記式(数2)で表わされる。
つまり、多重クーロン散乱の影響を小さくするためには、各測定器を構成する各部品において、原子番号の小さい物質の材料を用いる、または各測定器自体の物質量(物質の使用量)を低く設計することが必要である。
国際リニアコライダー(ILC:International Linear Collider)実験に用いられる粒子衝突点測定器は、TPC100などの複数の測定器を有する。具体的に、粒子衝突点測定器が備える測定器としては、バーテックス検出器、TPC100、カロリーメータ、ミューオン検出器(ミュー粒子検出器)が配置される。各測定器は、ガス検出の測定原理を用いるものであってもよいし、他の測定原理を用いるものであってもよい。本実施形態のTPC100は、ガス検出の測定原理を用いる。
バーテックス検出器は、粒子発生点に最も近い位置、つまり、最も中央側に設置される。バーテックス検出器の外側にTPC100が設置される。本実施形態のTPC100は、ガス検出器を用いる。TPC100の外側に一または複数のカロリーメータが設置される。カロリーメータの外側にミューオン検出器(ミュー粒子検出器)が設置される。測定器群の配置は特に限定されず、観測対象となる粒子に応じて変更してもよい。
このように、本実施形態のガス電子増幅器2と、イオンフィルター1とを備えるTPC1001は、粒子発生点に対して、二番目に近い位置に配置される。観測対象となる粒子は、粒子発生点から外側に向かって移動するので、複数の測定器のうち、内側に配置された測定器において生じた多重クーロン散乱は、外側に配置された測定器の測定結果に影響を与える。
多重クーロン散乱の影響を低減させるためには、特に、粒子衝突点測定器の測定器群のうち相対的に内側に配置されたTPC100などのガス検出器の物質量を低減させることが求められる。
本実施形態では、TPC100が備えるイオンフィルター1の一構成である絶縁性基材11の内部に空孔11aを形成する。イオンフィルター1の物質量を低減させることにより、TPC100の物質量を低減させることができる。これにより、TPC100(ガス検出器)よりも外側(粒子発生点から離隔する方向側)に設置されたカロリーメータ、ミューオン検出器などの各測定器を通過する観測対象となる粒子が受ける多重クーロン散乱の影響を低減させることができる。
上記考え方に従えば、イオンフィルター1の理想的な構造は、所定のパターンが形成された2枚の導電層を、それらの間に何も配置することなく、所定の間隔(10〜30[μm])を一様に保ちつつ、対向配置させる構造である。
しかしながら、TPC100に用いられるイオンフィルター1の有感面積は170[mm] × 220[mm]であり、導電層の厚さが8[μm]〜15[μm]程度である。さらに、イオンフィルター1の導電層には、ハニカムパターンの開口部31が形成されている。このような薄く、剛性の無い形態の導電層を、所定の間隔(10〜30[μm])を保った状態で支持することは極めて困難である。しかも、イオンフィルター1として機能させるためには、2枚の導電層のパターンの位置、つまり開口部31の位置を一致させる必要がある。幅が50[μm]以下のリムの位置を一致させた一対の導電層を、所定間隔を保った状態で支持することは、さらに困難である。
一対の導電層を所定の間隔を一様に保ちつつ、導電層のパターンの位置を一致させた状態で対向配置させた構造体を実現するためには、一対の導電層の間隔に応じた絶縁性基材を導電層の間に設ける必要がある。このように導電層を支持するために絶縁性基材を配置した場合には、絶縁性基材の分だけ物質量は増加する。すなわち、この絶縁性基材の分だけ多重クーロン散乱の影響が大きくなる。
この問題に対し、本実施形態では、イオンフィルター1の内部に一又は複数の空孔11aを形成し、空孔11aの分だけ物質量を低減させる。これにより、空孔11aにより内包される体積に応じた量だけ、絶縁性基材11の物質量を低減させたイオンフィルター1を提供できる。これにより、第1導電層パターン12,第2導電層パターン13を所定位置に支持しつつ、多重クーロン散乱の影響を抑制させることができるイオンフィルター1を提供できる。
本実施形態のイオンフィルター1の絶縁性基材11の厚さは、10[μm]以上、30[μm]以下とすることが好ましく、さらに12[μm]以上、25[μm]以下とすることが好ましい。本実施形態の絶縁性基材11の厚さは12.5[μm]である。
本実施形態のイオンフィルター1において、第1導電層パターン12は、銅、ニッケル、金、タングステン、亜鉛、アルミニウム、クロム、スズ、及びコバルトの物質からなる群のうち、何れか一種以上の物質を含む材料から形成される。第2導電層パターン13は、銅、ニッケル、金、タングステン、亜鉛、アルミニウム、クロム、及びコバルトの物質からなる群のうち、何れか一種以上の物質を含む材料から形成される。
特に限定されないが、本実施形態のイオンフィルター1において、第1導電層パターン12と第2導電層パターン13は、いずれも銅を主に含む材料で形成される。銅は加工しやすく、本実施形態のように細いリム20と開口率の高いパターンの作製に適しており、入手が容易である。
特に限定されないが、第1導電層パターン12の厚さは、8[μm]〜15[μm]であり、好ましくは12[μm]以下であり、さらに好ましくは10[μm]以下である。第2導電層パターン13の厚さは、8[μm]〜15[μm]であり、好ましくは12[μm]以下であり、好ましくは10[μm]以下である。本実施形態の第1導電層パターン12及び第2導電層パターン13の厚さは、10[μm]である。
次に、図3に基づいて、本実施形態のイオンフィルター1の製造方法について説明する。図3においては、製造工程が分かりやすいように、端面図にて表現した。
まず、図3(A)に示すように、絶縁性基材11Aの一方主面(図中上側面)に第1導電層12Aが形成され、その他方主面(図中下側面)に第2導電層13Aが形成された基材10Aを準備する。本実施形態では、絶縁性基材11Aの厚さが12[μm]以上〜25[μm]以下の基材10Aを用いる。本実施形態では、第1導電層12Aの厚さth1´は約12[μm]以下とすることが好ましく、第2導電層13Aの厚さth2´も約12[μm]以下とすることが好ましい。特に限定されないが、本実施形態における第1導電層12Aの厚さth1´は、第2導電層13Aの厚さth2´と等しい。特に限定されないが、本実施形態では、第1導電層12Aの厚さth1´が約10[μm]であり、第2導電層13Aの厚さth2´も約10[μm]である基材10Aを用いる。
なお、図3(A)において示す絶縁性基材11Aは、イオンフィルター1の絶縁性基材11に対応し、第1導電層12Aはイオンフィルター1の第1導電層パターン12に対応し、第2導電層13Aはイオンフィルター1の第2導電層パターン13に対応する。
図3(B)に示すように、既知のフォトリソグラフィ技術を用いて、第1導電層12Aの所定領域を除去して所定パターンの第1導電層パターン12を形成する。本実施形態において所定パターンは、ハニカムパターンである。本実施形態において、第1導電層パターン12の線幅を、15[μm]以上〜45[μm]以下に形成することが好ましい。本実施形態における第1導電層パターン12の線幅は30[μm]以下である。
次に、第1導電層パターン12が形成された基材10Aの絶縁性基材11Aの内部に水分を含ませる。絶縁性基材11Aの内部に水分を含ませる手法は特に限定されないが、本実施形態では、図3(C)に示すように、所定時間以上の時間にわたり、基材10Aを恒湿槽300の庫内に静置することにより、絶縁性基材11Aの内部に水分を含ませる。恒湿槽300は、密閉空間である槽内の環境を一定温度及び一定湿度に保つ機能を備える。
特に限定されないが、本実施形態では、恒湿槽300の庫内の湿度が標準温湿状態における湿度よりも高くなるように庫内環境を管理し、管理された環境下(庫内)に基材10Aを置くことにより、絶縁性基材11Aの内部に水分を含ませる。標準温湿状態は、ISO 554-1976(Standard atmospheres for conditioning and/or testing-Specifications)、又はIEC Publication 160-1963(Standard atmospheric conditions for test purposes)の定義に従う。具体的に本実施形態における標準温湿状態は、温度23℃、相対湿度50%とした。つまり、本実施形態では、恒湿槽300の庫内の温度を23℃としたときに、相対湿度を50%よりも高く設定する。
また、特に限定されないが、本実施形態では、恒湿槽300の庫内の温度が23℃〜28℃であり、かつ相対湿度RHが80%RH以上85%RH以下となるように管理した。ここで相対湿度RHは、所定の温度における飽和水蒸気量を100としたときの、実測された水蒸気量の比率(パーセント)である。そして、基材10Aを恒湿槽300の庫内に入れた状態で24時間に渡って放置した。24時間後、恒湿槽300の庫内から取り出された基材10Aの重量は、恒湿槽300の庫内に入れる前の重量よりも重くなった。これにより、基材10Aの絶縁性基材11Aの内部に水分を含ませることができたことを確認した。
基材10Aの絶縁性基材11Aの内部に水分を含ませる手法として、水を霧化して基材10Aに吹き付けてもよいし、水を溜めた槽内に基材10Aを浸漬してもよい。
基材10A絶縁性基材11Aの内部に水分を含ませた後に、絶縁性基材11Aのうち所定領域に対応する部分を除去する。図3(D)に示すように、第1導電層パターン12が形成された一方主面(図中上側面)から波長が500[nm]以下のUV−YAGレーザーを基材10Aに照射する。例えば、第三高調波(波長355[nm])のUV−YAGレーザーを基材10Aに照射する。一方主面側から照射されるレーザーに対し、先に形成された所定のハニカムパターンの第1導電層パターン12がマスクとなり、所定領域に対応する領域(本例では六角形の領域)の絶縁性基材11Aのみが除去される。
基材10Aに水を含ませ、水を含ませた基材10Aにレーザーを照射すると、レーザー照射時に発生する熱により、絶縁性基材11A内部の水が突沸する。この突沸の現象により絶縁性基材11Aの内部に空孔(void)11aが生じる。この結果、絶縁性基材11Aの内部に空孔11aを形成することができる。
続いて、プラズマデスミヤ処理などのデスミヤ処理を実施する。デスミヤ処理の手法は、絶縁性基材11Aの除去の手法に応じて、出願時に知られた手法を適宜に用いる。
最後に、絶縁性基材11Aの所定領域が除去された基材10A(図3(D))の両面側からエッチング液を作用させる。本実施形態において用いられるエッチング液は、硫酸と過酸化水素との混合液である。エッチング液は、基材10Aの他方主面側に形成された第2導電層13Aの一方主面側から作用するとともに、第2導電層13Aの他方主面側からも作用する。つまり、絶縁性基材11Aの所定領域が除去された基材10Aにおいて、第2導電層13Aの所定領域に対応する部分は、その両面からエッチングされる。このため、第2導電層13Aの所定領域に対応する部分のエッチング速度は、所定領域以外に対応する部分のエッチング速度の約2倍となる。第2導電層13Aのうち所定領域に対応する領域が除去されるタイミングにおいて、第2導電層13Aのうち所定領域以外に対応する領域は残る。
その結果、図3(E)に示すように、第2導電層13Aのうちの所定領域に対応する領域だけが除去された、第2導電層パターン13が形成される。一方主面側から他方主面側まで貫通した貫通孔30を形成できる。これにより、所定パターン(例えばハニカムパターン)を構成するイオンフィルター1を得ることができる。本実施形態において、第2導電層パターン13の線幅を、15[μm]以上〜45[μm]以下に形成することが好ましい。本実施形態における第2導電層パターン13の線幅は30[μm]以下である。先に説明した図2Dは、図3Eに示す破線IIDに示す部分の拡大図でもある。
一例ではあるが、図3(A)に示す第1導電層12Aの厚さth1´が約12.0[μm]であり、第2導電層13Aの厚さth2´が約12.0[μm]の基材10Aを用いて本実施形態のイオンフィルター1を作製したところ、第1導電層パターン12の厚さth1が10[μm]、第2導電層パターン13の厚さth2が10[μm]のイオンフィルター1を作製した。
開口率が75%以上を占める貫通孔30及びその貫通孔30を形成するリム20を、薄いシートに形成するのは容易ではない。本願出願時におけるフォトリソグラフィ技術においてエッチングパターンのずれの原因となる露光精度は+/−10[μm]程度である。また、基材10Aの絶縁性基材11Aの所定領域を正確にエッチングすることは困難であり、例えば、ポリイミドのエッチング処理においては傾斜が生じてしまう。このように、基材10Aの第1導電層12A及び第2導電層13Aの同じxy位置に同じ形状のパターンを形成し、z方向に沿う貫通孔を形成することは難しい。しかも、第1導電層12A及び第2導電層13Aの開口率を75%以上であるためには、リム20の幅が40[μm]以下であることが求められる。このように、多くの条件を満たすイオンフィルター1を形成することは容易ではなかった。
既知のフォトリソグラフィ技術では基材10Aの一方主面側のみからエッチング処理を行う。本実施形態の製造方法によれば、基材10Aの両主面側から同時にエッチング処理を行うことにより、他方主面側の第2導電層13Aの所定領域のみを除去して貫通孔30を形成する。既知のフォトリソグラフィ技術を用いないので、露光精度の限界により生じるエッチングパターンのずれという問題が生じない。これにより、本実施形態に係る、貫通孔30が形成されたイオンフィルター1を作製できる。この製造方法によれば、貫通孔30の開口率を70%以上にすることができる。また、他方主面側の第2導電層13Aをエッチングする際に、パターン形成のためのレジストを形成する工程を省くことができる。
発明者らのシミュレーションによれば、本実施形態のイオンフィルター1を備えるTPC100をILD(International Large Detector)に配置した場合において、ILDにおいてTPC100よりも外側(粒子発生点から離隔する方向)に配置されたカロリーメータ、及びミューオン検出器などの他の測定器において、測定精度が向上することが確認された。このように、ILDの一測定器であるTPC100に、物質量を低減させたイオンフィルター1を用いることにより、測定器を通過する粒子(観測対象)が受ける多重クーロン散乱の影響を低減させることができる。
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
100…ガス検出器、TPC
1…イオンフィルター
11…絶縁性基材
12…第1導電層パターン
12A…第1導電層
13…第2導電層パターン
13A…第2導電層
20…リム
30…貫通孔
2…ガス電子増幅器,電子増幅フォイル
3…検出電極
4…計測器
5…電極
300…恒湿槽
CB…チャンバ
DR…ドリフト領域
E…電子の移動方向

Claims (6)

  1. ガス電子増幅器を備えるガス検出器に用いられるイオンフィルターであって、
    絶縁性基材と、
    前記絶縁性基材の一方主面に形成された第1導電層パターンと、
    前記絶縁性基材の他方主面に形成された第2導電層パターンと、
    前記絶縁性基材の厚さ方向に沿って形成された複数の貫通孔と、を有し、
    前記絶縁性基材は、当該絶縁性基材の内部に一又は複数の空孔を有するイオンフィルター。
  2. 前記絶縁性基材の主面に沿う所定の単位面積に対する、前記貫通孔により形成される開口部の総面積の割合である、前記貫通孔の開口率は70%以上である請求項1に記載のイオンフィルター。
  3. 前記第1導電層パターンの線幅及び前記第2導電層パターンの線幅は、40μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオンフィルター。
  4. 絶縁性基材と、前記絶縁性基材の一方主面に形成された第1導電層と、前記絶縁性基材の他方主面に形成された第2導電層と、を備えた基材を準備する工程と、
    前記基材の前記第1導電層の所定領域を除去して所定パターンの第1導電層パターンを形成する工程と、
    前記絶縁性基材の内部に水分を含ませる工程と、
    前記一方主面側からレーザーを照射することにより、前記絶縁性基材の前記所定領域に対応する領域を除去する工程と、
    前記所定領域が除去された前記基材の少なくとも一方主面側からエッチング液を作用させて、前記他方主面に形成された導電層のうち前記所定領域に対応する領域を除去する工程と、を有するイオンフィルターの製造方法。
  5. 前記絶縁性基材の内部に水分を含ませる工程は、湿度が標準温湿状態における湿度よりも高くなるように管理された環境下に前記基材を置く工程である、請求項4に記載のイオンフィルターの製造方法。
  6. 前記絶縁性基材の内部に水分を含ませる工程は、相対湿度が80%RH以上、85%RH以下に管理された恒湿槽の庫内に、前記基材を所定時間以上、静置する処理である、請求項4又は5に記載のイオンフィルターの製造方法。
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