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JP6531365B2 - 納豆菌発酵物およびその製造方法 - Google Patents
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Description

本発明は、納豆菌発酵物およびその製造方法に関する。
納豆は原料である大豆の栄養成分に加え、納豆菌の発酵作用により優れた栄養価を持つ日本の伝統的な食品である。昨今の健康ブームでも度々、その高い栄養価と独特の風味が取り上げられ根強い人気を有している。
大豆以外の豆類を大豆の代わりに納豆菌で醗酵させたものは既にいくつか報告されている。特許文献1(特開平1-010955)ではエンドウ豆を、特許文献2(特開平1-039959)ではアズキ,インゲン,ソラ豆を原料とした所謂雑豆を使用した納豆菌発酵物の製造方法が開示されている。
納豆は栄養価が高いにも関わらず低カロリーな食品だと思われがちだが、脂質含有量は約10%であり、100gあたりのカロリーはおよそ200kcalに及ぶ。これは同重量のインゲン豆や小豆の煮豆の4割も高い数値である。(非特許文献1)
雑豆を分類すると、大豆に対して遺伝的に近い豆として、インゲン豆,小豆(ササゲ豆)等がある一方、エンドウ豆,レンズ豆,ヒヨコ豆などは離れており、落花生は更に遠いことが知られている(非特許文献2)。
ルーピンはマメ科の一種であり、和名ではその植物の葉の形状からハウチワマメと呼ばれている。家禽類の飼料に使用されるほか、主に観賞用途で栽培されている。地中海地域で僅かに食用とされている。大豆に比して油分が少なく、繊維含量が高い特徴を有する。大豆の食物繊維15.9%に比べ(非特許文献1)、ルーピン豆の食物繊維含量は約46%となる(非特許文献3)。
特開平1- 010955号公報 特開平1- 039959号公報
五訂食品成分表2010 本表編,34〜38頁,女子栄養大学出版部,2009年 Gepts et al., Plant Physiol. Vol. 137, 2005,pp1228-1235 Australian Sweet Lupin -A very healthy asset-, Department of Agriculture and Food Government of Western Australia, December 2008 Page8-9 J. C. Kim, J. R. Pluske, B. P. Mullan et al., CAB Reviews:Perspectives in Agriculture, Veterinary Science, Nutrition and Natural Resources 2007 2, No. 003
昨今の健康ブームでは体に良いものを摂取するだけでなく、なるべくカロリーが高い食品の摂取を避ける傾向があり、低カロリーの納豆も望まれている。上記特許文献1,2では脂質含有量の少ない雑豆を用いて納豆菌による発酵を行っているものの、文献中にあるように完成した食品は納豆とは風味や食感が異なったものになっている。また、大豆以外の豆を用いて納豆菌発酵物を調製するに際し、元々の外皮が大豆より硬い場合は、外皮を残すと食感が悪化することが想定されるが、その対策について開示された従来技術は見出していない。
そこで、脂質含量の少ない低カロリーな雑豆を用いて、好ましくは外皮を残したまま、納豆類似物を得ることを目的とした。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねる中で、大豆とは遺伝子的に近い(図1・非特許文献2)一般的な雑豆(インゲン豆,ササゲ豆(小豆)等)、やや近い雑豆(豌豆,レンズ豆,ヒヨコ豆等))を数多く検討したが、これらでは納豆様の風味食感の発酵物を得ることができなかった。落花生は上記雑豆より遺伝的に大豆より遠縁であるが、これより遺伝的に更に遠縁であり、日本はもちろん世界的にも十分な食履歴もないルーピン(Lupinus)の種子を用いることで、意外にも大豆から作った納豆の様な食品が出来ることを偶然にも見出し、本発明を完成させた。
すなわち、この発明は、
(1)ルーピン(Lupinus)の種子を用いた納豆菌発酵物、
(2)ルーピン種子がアオバナルーピン(Lupinus angstifolius)である、請求項1記載の納豆菌発酵物、
(3)キレート剤水溶液の存在下でルーピン種子を蒸煮する、(1)または(2)記載の納豆菌発酵物の製造方法、
(4)キレート剤水溶液の濃度が0.05〜10重量%である、(3)記載の製造方法、
(5)キレート剤がリン酸,クエン酸,ヘキサメタリン酸,フィチン酸,シュウ酸,エチレンジアミン4酢酸およびそれらの塩類から選ばれる1種以上である、請求項3記載の製造方法、
(6)キレート剤がクエン酸ナトリウムおよびヘキサメタリン酸ナトリウムから選ばれる1種以上である、(5)記載の製造方法、

である。
本発明によれば、ルーピンの種子を用いることで、脂質含量が少なく低カロリーでありながら、納豆と対比しても遜色のない納豆菌発酵物を調製できる。
大豆に対する、各雑豆類の遺伝的な相対位置を示す図である。(非特許文献2のFig1から引用)
(ルーピン)
本発明で用いるルーピン(Lupinus)とは、前述したハウチワマメであり、キバナルーピン(Lupinus luteus),シロバナルーピン(Lupinus albus)など多くの品種が存在するが、これらは本発明に使用することができる。アオバナルーピン(Lupinus angstifolius)を原料として調製した納豆菌発酵物は、その風味,食感等が、大豆納豆に非常に近く、本発明に好ましく使用することができる。ルーピン種子は、丸豆でも良いし、脱皮処理した豆でも良い。また、破砕した「ひき割り」豆でも良い。皮を残したまま調製すると、食物繊維含量を高くできるために、特に好ましい。
(納豆菌)
本発明で用いる納豆菌とは、日本で納豆の生産に一般的に使用される菌である。典型的にはBacillus subtilis var. nattoであるが、大豆を発酵した際に納豆の風味を醸す菌であれば、本発明に使用することができる。納豆菌発酵物とは、上記納豆菌が主たる菌として発酵した物を指す。
(浸漬)
納豆菌発酵物の作製方法は、通常の納豆の作製と同様に行うことができる。豆または、必要により水洗いして夾雑物を除去した豆について、これを水に浸漬し、一定時間、好ましくは一晩程度吸水させる。浸漬用の水は、使用する豆の乾燥重量の3倍以上が好ましく、5倍以上が更に好ましい。最適浸漬時間は温度によっても変化するが、水温25℃では8時間以上、水温15℃では18時間以上が好ましい。水温が低い程浸漬に必要な時間は長くなる。浸漬後の豆は、吸水により乾燥時の数倍に膨潤する場合が多い。また、後述する蒸煮工程で、蒸煮温度が高温の場合は、浸漬と蒸煮を同時に行うこともできる。
(蒸煮)
膨潤した豆は、その後に蒸煮を行う。本発明の蒸煮とは、加熱水で煮ても、蒸気で蒸しても、湿熱下の加圧環境で100℃を超える加熱を行っても良い。他にも、湿熱下で加熱する方法であれば、本発明は実施可能である。
蒸煮の際、必要に応じて加水することができるし、前述した豆の膨潤工程で用いた浸漬水を、そのまま使用した蒸煮を行うこともできる。また、加圧加熱の場合、豆の膨潤工程を経ることなく、浸漬開始と同時に蒸煮を行っても、本発明を実施することが出来る。蒸煮の装置としては、大気圧に解放された鍋や、密閉された圧力釜等が挙げられるが、調理時間が短くなることから、圧力釜が特に優れている。また蒸煮時間は温度や圧力等により異なるが、沸騰水で1〜12時間程度、121℃で5〜30分間程度が例示できる。浸漬を兼ねる場合は、更に加熱時間が長くなり、121℃でも15分〜2時間程度が目安となる。概ね豆が指で潰せるくらいまで行うことが適切である。
(発酵)
蒸煮後の豆に納豆菌を植菌する。植菌は納豆菌の培養物を、小分けした豆に振り掛けるのが一般的であるが、小分けせず植菌しても発酵に影響はなく、実施可能である。 納豆菌植菌後は一定の温度と湿度を維持することが好ましい。温度は20〜60℃が好ましく、30〜50℃が更に好ましく、35〜45℃が最も好ましい。温度が低いと発酵が遅く、温度が高いと却って発酵が不良となる場合がある。湿度については、豆表面の乾燥を抑える程度の保湿環境が必要である。上部に小穴を開けた容器を用いたり、穴があけられたアルミホイルやラップを被せて発酵を進めることが好ましい。
発酵時間は植菌の状態や温度,湿度によっても異なるが、8〜36時間が好ましく、16〜24時間が更に好ましい。上記温度,時間で発酵した後に、数時間〜数日間冷蔵保存して熟成を進めることにより、風味を更に向上させることもできる。
(キレート剤)
本発明品のうち、外皮を残して発酵した納豆菌発酵物は、外皮に由来する食感がやや硬い傾向にある。その際キレート剤を併用することで、外皮の性状を著しく改良することができる。ここで用いるキレート剤とは、キレート能を有し、食品に使用できる分子である。具体的には、リン酸、クエン酸,ヘキサメタリン酸,フィチン酸,シュウ酸,エチレンジアミン4酢酸およびその塩類等が挙げられ、これらから選ばれる1種以上のキレート剤を用いることができる。これらの中でもクエン酸ナトリウムおよびヘキサメタリン酸ナトリウムから選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
これらキレート剤は、豆の浸漬水に加えても良いし、豆を蒸煮する際の外液に加えても良い。何れにせよ、豆の蒸煮加熱時にキレート剤が豆中に存在していることが重要である。キレート剤の使用量は、豆の蒸煮時の環境として、浸漬液等の外液のキレート剤濃度が0.01〜10重量%であることが好ましく、0.1〜5重量%であることがより好ましく、0.5〜2重量%であると更に好ましい。濃度が低いと外皮への軟化効果が弱くなり、濃度が高いと、味への影響が大きくなる。
(使用用途)
本発明の納豆菌発酵物は、そのまま食しても、寿司等に巻いても、他の食材と混ぜて使用しても、更にそれらを加熱や冷却しても良い。納豆を通常使用している用途に、広く使用することが可能である一方、油分やカロリーが低く、繊維含量が著しく高いため、健康に関心の高い層には特に適切である。
以下に本発明の実施例を示し本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、%及び部は重量基準を意味する。
○実施例1(脱皮豆による納豆菌発酵物の調製)
<原料>
実施例の原料としてオーストラリア産のルーピン豆(アオバナルーピン)を、コントロールの原料として大豆(北海道産)を、それぞれ用いた。これらを脱皮し半割れ豆とした後、使用する前日に水洗いして夾雑物を除去したあと、新しい水に浸漬し一晩静置し、充分吸水させた。
<納豆菌液の作製>
1パック分の市販納豆に2倍量の熱湯を加えてよく撹拌した後、豆を除去したものを納豆菌液とした。
<蒸煮>
ルーピン豆および大豆は、吸水後の豆重量の5倍等量の蒸留水に豆を浸漬した状態でオートクレーブ(名称:HICLAVE HG-50、株式会社平山製作所社製)で121℃,15分間加圧加熱することで蒸煮した。
<発酵>
蒸煮後ざるにあけて軽く水分を切った豆を、熱いうちにトレーに移し、厚さ1〜2cmになるよう均した。そこに予め作製した納豆菌液を吸水後の豆重量に対して10重量%を滴下し、スパテラで全体を良くかき混ぜた。トレー上部を3cm間隔で竹串で穴をあけたアルミホイルで覆い、42℃に設定された恒温水槽に20時間浮かべ、豆を発酵させた。
ルーピン豆を実施例1、大豆をコントロールとして以下に対比した。舌触りは口中での滑らかさを、歯切れは硬さがムラなく均一なものかを、風味は発酵臭を含む納豆独自の味および香りを、それぞれ大豆と比較して、ほぼ同等である:3点/かなり近い:2点/やや違和感がある:1点/全く異なる:0点とし、パネラー5人が協議して各項目が0〜3点の何れかになるように評価した。尚、以降の実施例、比較例で発酵した豆類の何れも、糸引き状態については大豆と大差ないものだった。
○表1 脱皮ルーピン豆および脱皮大豆による発酵物
Figure 0006531365
※脂質は乾燥種子中の含有量
※合計5点以上で且つ、各項目それぞれが1点以上を合格とした。
結果を表1に示す。脱皮ルーピン豆で調製した納豆菌発酵物の舌触り、歯切れ、風味の何れも、脱皮大豆から作製した半割れ納豆と全く遜色がないものだった。また、脂質含量はルーピン豆で大豆の1/3しかなく、低カロリー、低脂質の、非常に好ましいものだった。
○実施例2、比較例1〜5(未脱皮豆による納豆菌発酵物の調製)
実施例1で使用したルーピン豆および大豆に加え、豌豆,インゲン豆,小豆(以上、北海道産),レンズ豆,ヒヨコ豆(以上、米国産)について、外皮を脱皮することなく、実施例1と同様の方法にて納豆菌発酵物を調製した。(実施例2、比較例2〜比較例7)
結果を表2に示した。評価は実施例1と同様に行った。
○表2 未脱皮のルーピン豆および他の豆による発酵物
Figure 0006531365
*脂質含量:大豆、豌豆、レンズ豆、ヒヨコ豆、インゲン豆、小豆については、非特許文献1(五訂食品成分表2010 本表編,34〜38頁,女子栄養大学出版部,2009年)に記載の値を示した。
ルーピン豆については、非特許文献4(CAB Reviews:Perspectives in Agriculture, Veterinary Science, Nutrition and Natural Resources 2007 2, No. 003)のTable1に記載のLupinus angustifolius(アオバナルーピン)の値を示した。
ルーピン豆以外の豆を用いた比較例1〜5は舌触り、風味共に大豆と全く異なり、納豆の類似物としては、受け入れられないものであった。また、未脱皮のルーピン豆を使用した実施例2はその脱皮物を使用した実施例1に比較すると、外皮がやや硬くムラのある食感であった。
○実施例3〜12(キレート剤による効果)
未脱皮ルーピン豆を使用した発酵物の食感改良について、キレート剤の効果を検討した。
蒸留水にヘキサメタリン酸ナトリウム(米山化学工業株式会社製)を必要量溶解させ、0.1,0.5,1.0,2.0,5.0,10.0重量%の、各濃度のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を調製した。同様に、1.0,2.0重量%の各濃度のクエン酸ナトリウム(クエン酸三ナトリウム(2水和物)、キシダ化学株式会社製)水溶液を調製した。更に、1重量%のクエン酸水溶液(クエン酸(1水和物)、キシダ化学株式会社製),フィチン酸水溶液(50%フィチン酸溶液、東京化成工業株式会社製)を調製した。 実施例2で用いた未脱皮のルーピン豆を用いて、実施例1に従って納豆菌発酵物を調製した。但し、浸漬時および蒸煮時の外液に、上記キレート剤水溶液を使用した(実施例3〜12)。評価は実施例1と同様に行い、結果を表3に示した。
○表3 各種キレート剤の効果
Figure 0006531365
ヘキサメタリン酸ナトリウム溶液を用いて蒸煮することにより、舌触り,歯切れ,風味の何れも向上した。特に0.5重量%〜2重量%では、非常に良好な発酵物を得ることができた。但し、溶液濃度が10重量%では風味がやや悪化した。また、クエン酸やフィチン酸等の、他のキレート剤やその塩類であればヘキサメタリン酸ナトリウムと同様の働きをすることが確認された。特に、クエン酸ナトリウムまたはヘキサメタリン酸ナトリウムを使用することで、大豆から作製した納豆とほぼ同等の発酵物が出来た。
○実施例13(前浸漬処理しない調製法)
実施例2で使用した脱皮していないルーピンの乾燥豆について、2重量%クエン酸三ナトリウム溶液の5倍量を添加し、オートクレーブで121℃,60分間蒸煮した。得られた蒸煮ルーピン豆について、実施例1と同様に納豆菌発酵物を調製した。発酵物は、一晩の浸漬を行った実施例10と同様の風味食感を示すものだった。
以上より、納豆の風味や食感等を維持しながらも油分およびカロリーを低減させ、さらに食物繊維を豊富に含む納豆菌発酵物を提供することが可能になった。

Claims (4)

  1. リン酸,クエン酸,ヘキサメタリン酸,フィチン酸,シュウ酸,エチレンジアミン4酢酸およびそれらの塩類から選ばれる1種以上のキレート剤水溶液の存在下で外皮を残したルーピン種子を蒸煮する、ルーピン(Lupinus)の種子を用いた納豆菌発酵物の製造方法であって、該キレート剤水溶液の濃度が0.05〜10重量%である、ルーピン(Lupinus)の種子を用いた納豆菌発酵物の製造方法。
  2. キレート剤がクエン酸ナトリウムおよびヘキサメタリン酸ナトリウムから選ばれる1種以上である、請求項1記載の納豆菌発酵物の製造方法。
  3. ルーピン種子がアオバナルーピン(Lupinus angstifolius)である、請求項1または2記載の納豆菌発酵物の製造方法。
  4. リン酸,クエン酸,ヘキサメタリン酸,フィチン酸,シュウ酸,エチレンジアミン4酢酸およびそれらの塩類から選ばれる1種以上のキレート剤水溶液の存在下で外皮を残したルーピン種子を蒸煮する、ルーピン(Lupinus)の種子を用いた納豆菌発酵物の製造方法であって、該キレート剤水溶液の濃度が0.05〜10重量%である、ルーピン(Lupinus)の種子を用いた納豆菌発酵物の製造方法。但し、発酵したルーピン豆をペースト状または粉末状にする態様を除く。
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