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JP6544656B2 - 低酸素処理により機能賦活した細胞シートの製造方法 - Google Patents
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JP6544656B2 - 低酸素処理により機能賦活した細胞シートの製造方法 - Google Patents

低酸素処理により機能賦活した細胞シートの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、低酸素処理により機能賦活した細胞シートの製造方法、および該製造方法によって製造された細胞シートに関する。
高齢化社会を迎え、わが国の心不全患者数は潜在的な患者を含めると約160万人に上り、さらにその中で、心筋梗塞を含む虚血性心疾患患者の占める割合は約半数の80万人に達する(非特許文献1)。
とりわけ心血管の慢性的な梗塞によって引き起こされる陳旧性心筋梗塞は、自覚症状が少なく心筋細胞の壊死と心臓の菲薄化・瘢痕化が広範囲に生じ重篤な心不全(慢性心不全)を導くことから、効果的な治療法の早期確立が望まれる。
細胞移植療法は様々な疾患や組織損傷に対する有効な治療手段として注目されており、動物実験では心筋梗塞に対する治療効果も認められている(非特許文献2)。特に間葉系幹細胞やCardiosphere由来細胞(CDC)は、種々の血管成長因子(VEGFなど)を産生し、移植後に血管新生や心機能回復を誘導できることから、心不全治療における有望な細胞種と考えられている(非特許文献3)。
しかし、こうした移植細胞では、梗塞心に対して生着率が低く、血管成長因子の産生能も十分でない、といった問題点が指摘されており、より高い心筋再生誘導効果を得るには、これらの課題をクリアし、移植細胞の持つ特性を最大限引き出す方法論の確立が必要であった。
近年、移植用の生物材料として、所望の細胞をシート状に培養した細胞シートの開発が進められている。細胞シートは、所望の細胞を大量に、損傷部位に定着させることができ、更には、レシピエント組織の特性に合わせて、適度に組織化させた細胞集団を移植することも可能とする、大変有用な治療用材料である。
該細胞シートは、循環器系外科領域においても、標的部位での細胞生着率を向上させる技術として研究され、特に心臓分野では梗塞心における高い生着性とそれに伴う心筋再生誘導の促進が報告されている(非特許文献4、5)。
しかしながら、通常の培養細胞にかわり、細胞シートを心筋梗塞などの疾患治療に用いたとしても、梗塞心の十分な機能改善を実現するためには、更なる細胞機能の増強が望まれており、具体的には、移植細胞の生存率や血管新生効果の向上が必要である。このように、細胞シートの移植については、これまで様々な報告はあるものの、該細胞シートの機能において、その移植用生物材料としての治療効果をより亢進する条件については、未だ十分には解明されておらず、生体組織の損傷を治療するために用いる上で、より良い細胞シートを製造する方法に関し、改善すべき問題が残されている。
厚生労働省HP: http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/08/index.html Ptaszek et al. 2012, Lancet, Vol.379 pp.933−942 Gnecchi et al. 2012, Vascular Pharmacology, Vol.57, pp.48−55 Miyahara et al. Nature Medicine Vol.12, pp.459−465 Alshammary et al. 2013, Surg Today. Vol.43 pp.970−976
本発明は、生体組織の損傷を治療するために用いる上で、より有効な細胞シートを製造する方法を提供する。特に、心筋梗塞における梗塞心において、該細胞シートを移植することにより、梗塞心の十分な機能改善を実現する細胞シートの製造方法を提供する。
発明者らは、細胞シートの製造方法につき鋭意研究を行った結果、一旦、培養基材上で細胞を培養し、細胞シートを形成させた後、該シートを、低温及び低酸素条件にて、所定の期間培養し(低酸素プレコンディショニング)、その後、該シートを培養基材から剥離することで得られる細胞シートは、該プレコンディショニング処理を行わないものに比べ、血管新生に重要な働きを果たす血管成長因子の産生量が大幅に増加していることを見出した。更に、発明者らは、該処理を施した細胞シートを、陳旧性心筋梗塞モデルマウスの不全心に移植したところ、未処理の細胞シートによる移植に比べ、有意な心機能(左室駆出率及び左室内径短縮率)の改善を見出すことにより、本発明を完成させた。
従って、本発明は以下の(1)〜(6)である。
(1) 以下の(a)〜(c)の工程を含む細胞シートを製造する方法。
(a)培養基材上で細胞を培養し、該細胞由来の細胞シートを形成させる工程、
(b)該細胞シートを、所定の温度及び低酸素条件にて、所定の期間培養する工程、
(c)該条件にて培養後、該細胞シートを培養基材から剥離する工程
(2) 前記細胞が、Cardiosphere由来細胞であることを特徴とする(1)に記載の方法。
(3) 前記低酸素条件が、酸素濃度0%〜8%であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 前記所定の温度が、30℃〜36℃であることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 前記培養期間が、12時間〜72時間であることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の方法。
(6) (1)乃至(5)のいずれかに記載の方法により製造した細胞シート。
本発明の方法によれば、血管新生に重要な働きを果たす血管成長因子の産生量が大幅に増加し、これを心筋梗塞モデルマウスに移植することで、有意な心機能(左室駆出率及び左室内径短縮率)の改善を可能とする細胞シートを製造することができる。
従って、本発明により、心筋梗塞に代表される虚血性心疾患の治療に用いることのできる移植用生物材料として、より有益な細胞シートを取得することができる。
cardiosphere由来細胞(CDC)シート作成の流れ。心臓組織片から心臓組織由来細胞(Explant−derived cell:EDC)を調製し、該EDCがサブコンフルエントに達した時点で細胞を培養皿から剥離して、浮遊培養に移行することで、微小なCardiosphereを得た。該Cardiosphereを培養皿に播種し、再び接着培養を行うことで、接着したCardiosphereから這い出てきた細胞をCardiosphere−derived cell(Cardiosphere由来細胞;CDC)とし、該CDC由来の細胞シート(CDC sheet;CDCシート)を成形した。 通常培養(Normoxia)及び低酸素プレコンディショニング処理(Hypoxia)を施したCDCシートにおけるカスパーゼ7に対するウェスタンブロット解析。 通常培養(Normo sheet)に対する低酸素プレコンディショニング処理(Hypo sheet)を施したマウスCDCシートにおける血管内皮細胞増殖因子(mVEGF)及び肝細胞増殖因子(mHGF)の産生促進。 通常培養(Normo sheet)に対する低酸素プレコンディショニング処理(Hypo sheet)を施したヒトCDCシートにおける血管内皮細胞増殖因子(hVEGF)の産生促進。 ヒト臍帯由来血管内皮細胞(HUVEC)のチューブ形成に対する、通常培養(Normo)及び低酸素プレコンディショニング処理(Hypo)を施したCDCシート培養上清の影響。A;培養上清処理開始12時間後の培養細胞像。血管様チューブ構造物の形成が認められる。B:Normo群及びHypo群における、1視野当たりに形成された血管様チューブ構造物の数。 低酸素プレコンディショニングによるCDCシートでのAktシグナル伝達経路の亢進。 通常培養(Normo)に対する、低酸素プレコンディショニング刺激(Hypo)によるCDCシート内のリン酸化Aktの増加。 PI3K阻害剤LY294002添加による、低酸素プレコンディショニング処理(Hypoxia又はHypo)を施したCDCシート内でのリン酸化Aktの減少(A)および培養上清中のヒトVEGF(hVEGF)産生亢進の抑制(B)。いずれも通常培養(Normoxia又はNormo)レベルに留まっている。 A;マウス筋線維芽細胞株SmcMFに対する、ヒトCDCシート培養上清の処理及びリン酸化ヒストンH3(pHH3)に対する免疫蛍光染色のスケジュール。B;通常培養(Normo)又は低酸素プレコンディショニング処理(Hypo)CDCシート培養上清により処理したSmcMFの、pHH3に対する免疫蛍光染色像及びDAPI染色像。C;Normo又はHypo処理CDCシート培養上清により処理したSmcMFにおける、増殖中の筋線維芽細胞率(視野あたりのpHH3陽性細胞/総細胞数(%))。 通常培養(Normoxia又はNormo)に対する、低酸素プレコンディショニング刺激(Hypoxia又はHypo)による、CDCシートにおける抑制性液性因子エンドグリン(Endoglin)の発現促進。 マウス慢性心不全モデル(oMI)での左室駆出率(LVEF)及び左室内径短縮率(LVFS)の低下。左図;oMI作成(冠動脈左前下行枝(LAD)結紮(ligation))、心エコーによるモデル形成確認(check)及びサンプリングのスケジュール。右図;LAD ligation 4週間後における擬似手術群(Sham Operation群;Sham)及びマウス慢性心不全モデル群(oMI)での左室駆出率(LVEF)および左室内径短縮率(LVFS)の比較。 機能増強したCDCシート移植による、マウス慢性心不全モデルでの左室駆出率(LVEF)及び左室内径短縮率(LVFS)の回復。マウスCDCシートに対して、移植24時間前に低酸素プレコンディショニング処理を行う群(Hypo Sheet群)と行わない群(通常培養群;Normo Sheet群)を作成し、該CDCシート群を、マウス慢性心不全モデル(oMI)に移植して、両群間でのLVEFおよびLVFSそれぞれの移植前からの回復率(ΔLVEFおよびΔLVFS)を比較した。 A:通常培養(Normo)及び低酸素プレコンディショニング処理(Hypo)を施したCDCシートの、マウス心筋梗塞モデル梗塞心への移植群及び非移植群(対照群;Control)での移植4週間後における左室前壁厚(梗塞部心筋層の厚さ)の測定。B;梗塞心の梗塞部(IFA:Infarcted Area)と非梗塞部との境界部分(ボーダーゾーン)における、対照群(Control;CDCシート非移植群)、Normo又はHypo処理CDCシート移植群(それぞれNormo Sheet及びHypo Sheet)での免疫蛍光染色像(Lectin及びcTnT)及びDAPI染色像及び血管内皮細胞総面積/ボーダーゾーン(%)の比較。C;正常心臓(Sham群)、梗塞心(Control群;CDCシート非移植群)、通常培養したCDCシートを移植した梗塞心(Normo群)、低酸素プレコンディショニング処理したCDCシートを移植した梗塞心(Hypo群)におけるマッソントリクローム染色像及び梗塞面積(梗塞部面積/心臓全体の断面積)の比較。 通常培養(Normo)及び低酸素プレコンディショニング処理(Hypo)を行ったCDCシートにおける、HIF−1alpha発現に対するWestern Blot解析。 ヒトCDCシート培養上清における、細胞外基質分解酵素マトリックスメタロプロテアーゼ2(MMP−2)およびマトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP−3)濃度のELISAによる定量。
本発明は、以下の(a)〜(c)の工程を含む細胞シートを製造する方法である。
(a)培養基材上で細胞を培養し、該細胞由来の細胞シートを形成させる工程、
(b)該細胞シートを、所定の温度及び低酸素条件にて、所定の期間培養する工程、
(c)該条件にて培養後、該細胞シートを培養基材から剥離する工程
本発明において、「細胞シート」とは、細胞同士がシート状に結合した細胞の培養物の総称であり、該細胞シートは、1つの細胞層からなるものでも、2以上の細胞層からなるものであってもよい。
まず(a)の工程は、培養基材上で細胞培養を行うことで、該細胞由来の細胞シートの形成が可能であれば、いかなる方法を用いてもよく、用いられる細胞それぞれに適した、当該技術分野において通常実施される条件等で行うことができる。例えば、培養温度は30〜40℃、好ましくは36〜38℃、CO濃度は0〜10%、好ましくは4〜6%、O濃度は大気中酸素濃度(およそ20%)の条件を挙げることができるが、この条件は限定されるものではなく、培養する細胞の特性に応じて、適宜、培養温度、CO濃度、O濃度を選択することができる。例えば、成体心臓から調製したCDCを用いて形成した細胞シート(CDCシート)における培養温度は37℃、CO濃度は5%、O濃度は大気中酸素濃度(およそ20%)であってもよい。培養時間は、所望の細胞シートが形成されるために必要な時間であれば、特に限定されるものではなく、例えば、10時間〜240時間程度であってもよく、好ましくは、12時間〜168時間程度の培養時間であり、特に、CDCシートにおいては、特に限定はしないが、48時間〜96時間であってもよい。
また、細胞シートを形成すべく、最初に播種する細胞密度は、細胞培養において通常実施される条件であればよく、特に限定はしないが、状態の良好な細胞シートを製造する為には、細胞播種時にほぼコンフルエントな状態であることが好ましく、例えば、2×10細胞/cm〜3×10細胞/cm程度の範囲である。また、細胞シート形成後の細胞の状態は、健康な状態であれば特に限定はしないが、好ましくは、コンフルエントな状態となっていてもよい。
ここで、「培養基材」とは細胞がその表面上で細胞シートを形成し得るものであればいかなるものであってもよく、少なくとも、細胞が接着し得るような平坦な部分を具備し、典型的には、細胞培養皿、細胞培養ボトル(又はフラスコ)であり、市販される培養用ディッシュなどが使用可能であり、材質も特に限定されない。培養基材の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。
また、「培養基材」の培養表面は、温度変化等によってその物性が変化する材料(温度応答性材料)で作製されているか、あるいは、該温度応答性材料によって培養基材の培養表面が層状に被覆されていてもよい。
更に、本培養基材の培養表面上には、細胞接着性成分および/または細胞接着阻害性成分が存在していてもよい。細胞接着性成分としては、細胞培養技術において、培養表面に細胞を接着させるために通常使用される成分であればいかなるものでもよく、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、カドヘリン、ゼラチン、フィブリノゲン、フィブリン、ポリLリジン、ヒアルロン酸、多血小板血漿、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。細胞接着阻害性成分も、細胞培養技術において、培養表面への細胞の接着を阻害させるために通常使用される成分であればいかなるものでもよく、例えば、アルブミンやグロブリンなどが挙げられる。これらの成分で細胞培養基材の培養表面上を被覆する場合、各成分によって、培養表面を被覆するために使用する溶液の濃度が異なるため、予備的な実験等、当業者であれば容易に検討できる方法によって、各成分の被覆のために適当な溶液濃度を決定することができる。
本発明の細胞シートの形成に用いられる「細胞」として、いかなる動物種、組織由来の細胞であっても使用することができる。かかる細胞の例としては、限定されずに、筋芽細胞、心筋細胞、cardiosphere由来細胞(cardiosphere derived stem cell:CDC)、間葉系幹細胞、線維芽細胞、造血幹細胞、腸管幹細胞、毛包幹細胞、乳腺幹細胞、神経幹細胞、内皮幹細胞、嗅粘膜幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞、滑膜細胞、上皮細胞(例えば、角膜上皮細胞、口腔粘膜上皮細胞)、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、歯根膜細胞、皮膚細胞などが挙げられ、好ましくは、間葉系幹細胞又はCDCである。
ここで、CDCに係るcardiosphereとは、小片に分離した心筋生検標本を培養し、その周囲に生じた増殖細胞を浮遊培養することで得られる3次元細胞塊であり、該細胞塊を分散した後、回収した細胞がCDCである。CDCは、少量の心臓組織から単離することの出来る、心筋分化効率のきわめて高い組織幹細胞であるため、心筋梗塞に代表される虚血性心疾患の治療に用いうる移植用生物材料としては好適である。
本発明の細胞シートの形成に用いられる「細胞」は、対象から採取した組織または生体液から所望の細胞を単離する工程、単離した細胞を増殖させる工程、増殖させた細胞を特定の細胞に分化させる工程を経て製造したものでも、既に株化された市販の細胞株であっても良い。
また、本細胞シートの形成に用いる細胞は1種類のみであってもよいが、2種類以上の細胞を用いてもよい。
本発明のシート状細胞培養物の製造方法において使用される培地は、培養する細胞に適した培地を適宜選択して使用することができる。例えば、一般的に使用可能な培地として、MEM、DMEM、F12、IMEM、IMDM、RPMI−1640、Neurobasalなどを挙げることができる。これらの培地は市販のものを購入して使用してもよい。また、これらの培地は単独で用いても、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
さらに、培地に対し、必要に応じて適当な添加物を加えて使用してもよい。添加物としては、例えば、L型アミノ酸類(例としては、L−アルギニン、L−シスチン、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−セリン、L−トリオニン、L−トリプトファン、L−チロシンなど)、ビタミン類(例えば、葉酸、リボフラビン、チアミンなど)、D−グルコース、その他、ウシ胎児血清、ウマ血清などの動物血清などを含んでもよい。また、緩衝剤(例えば、PBS、HEPES、MES、HANK’Sなど)を適宜培地に加えてもよい。さらに、培養する細胞の特性に応じて、適宜、細胞成長因子などを添加してもよい。
例としては、CDCを培養し、細胞シートに形成させる際に用いる培地はIMDMであってもよく、添加物としてウシ胎児血清(10%)およびL−グルタミン(1mM)を用いてもよい。
(b)の工程は、上記の細胞シートを、所定の温度及び低酸素条件にて、所定の期間培養する工程である。ここで低酸素条件とは、大気中酸素濃度(およそ20%)を下回る酸素濃度条件である。また、該所定の温度及び低酸素条件及び処理期間とは、細胞シートが由来する細胞によって異なり、予備的な実験等、当業者であれば容易に検討できる方法によって、細胞シートごとに適当な条件を決定することができる。
発明者らは、繊維芽細胞の懸濁液において、O濃度を0、1、2、3、又は5%とした低酸素プレコンディショニング処理を行った場合に、O濃度0、1、2、3、又は5%のいずれの場合でも同等のVEGF産生を示すことを確認している。このことより、本発明に係る細胞シートの製造方法においても、低酸素プレコンディショニング処理におけるO濃度として0〜8%であれば、後記の実施例にて示しているO濃度2%の場合と同様のVEGF産生効果があると考えられる。
従って、例えば、成体心臓から調製したCDCを用いて形成した細胞シート(CDCシート)においては、低酸素条件は、O濃度が0%〜8%、好ましくは0.1%〜5%、更に好ましくは2%である。
温度条件については、例えば、培養温度が30℃〜36℃、好ましくは32℃〜34℃、更に好ましくは33℃であり、そして、処理期間は、例えば12時間〜72時間であり、好ましくは24時間でもよい。
また、前記処理期間経過後、細胞シートは、すぐに(c)の工程に移行してもよく、一定期間通常の培養条件に戻してから(c)の工程に移行してもよい。該条件は、細胞シートごとに設定することが出来、一定期間通常の培養条件に戻す場合の一定期間についても、特に限定はしないが、例えば、前記CDCシートにおいては、1時間〜12時間であってもよく、好ましくは1時間〜6時間であり、更に好ましくは1時間〜2時間であってもよい。
(c)の工程は、前記条件にて培養後、細胞シートを培養基材から剥離する工程である。細胞シートの培養基材部からの剥離は、シート状の構造が破損されないような方法で実施することができ、例えば、シート状細胞培養物を直接ピンセットなどによって摘み、培養表面から剥離させる、あるいは、ピペッティングにより細胞を培養表面との間を剥離する等、物理的な手法を用いてもよい。あるいは、シート状構造に破損が生じない限り、トリプシン、コラゲナーゼなどの酵素処理等を行ってもよく、細胞の性質に応じて適切な方法を選択することができる。あるいは、細胞シート上面に、PVDF膜、ニトロセルロース膜のような、細胞に親和性を有する基材を被せて、細胞を膜に写し取ることによって細胞を剥離、回収することもできる。
温度応答性材料で表面を被覆した細胞培養基材を使用した場合には、容器の温度を、例えば、0〜30℃程度に下げたのちに、上記、細胞の剥離、回収を実施してもよい。
本発明には、本発明の方法によって製造される細胞シートも含まれる。該細胞シートは、低温及び低酸素条件にて、所定の期間培養することにより、機能の増強がなされることから、移植用生物材料として優れた治療効果を期待することができる。即ち、本発明により製造された細胞シートは、動物の、いずれかの組織、器官、臓器等における機能不調を改善する目的で、該組織等に移植を行う為の生物材料として使用することが出来る。ここで「動物」とは、特に限定はしないが、移植により機能改善がなされることが期待される動物が望ましく、具体的には、ヒトの他、イヌ、ネコ、ウサギなどのペット動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜動物などのことである。
更に、本発明により製造された細胞シートを移植する組織、器官、臓器等については、特に限定はしないが、心臓、脳、肺、腎臓、肝臓、膵臓、小腸、骨髄、角膜、皮膚、骨格筋などが挙げられ、好ましくは、心臓である。
心臓を対象とする場合の疾患としては、特に限定はしないが、狭心症や心筋梗塞などに代表される虚血性心疾患、拡張型心筋症などが挙げられ、好ましくは心筋梗塞、さらに好ましくは、心筋梗塞の中でも発症から30日以上経過している、いわゆる陳旧性心筋梗塞 (Old Myocardial Infarction:OMI) である。
なお、本発明には、本発明の方法によって製造される細胞シートを用いた、疾患の治療又は予防方法も含まれる。ここで、対象となる疾患は、該細胞シートを移植することによって治療又は予防が可能となるものであればよく、特に限定はしないが、例えば、狭心症や心筋梗塞などに代表される虚血性心疾患、拡張型心筋症などが挙げられ、好ましくは心筋梗塞、さらに好ましくは陳旧性心筋梗塞である。
前記心臓を対象とする疾患の治療又は予防を目的とした移植用生物材料としての細胞シートを製造する場合、特に限定はしないが、好ましくは、間葉系幹細胞やCDCより細胞シートを形成することが出来る。特に、該疾患の罹患している患者自身から、間葉系幹細胞やCDCを採取し、自己幹細胞シートの形成に供する場合、拒絶反応の抑制により、心臓における移植細胞の生着率は向上するため、該細胞シートに、本発明に係る低酸素プレコンディショニングを施すことで機能増強させた細胞シートを移植用生物材料として用いることで、更に高い生着性、血管新生の亢進、瘢痕の減少、瘢痕形成の抑制・縮小及び心機能回復が期待される。
以下に実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
実施例1
成体心臓由来のcardiosphere由来細胞(CDC)を調製し、細胞シートに成形した。
成体心臓の右心房からバイオプシーにより心臓組織片を採取し、0.5mm角程度に細切後に、フィブロネクチンでコーティングした培養皿に心臓組織片を静置した。静置後2〜3週間の間に2日に一度の培地交換(10% FBS/1mM L−グルタミンを含むIMDM)を行い、心臓組織片から培養皿に心臓組織由来細胞(Explant−derived cell:EDC)が培養皿上に這い出てくるのを確認した。EDCがサブコンフルエントに達した時点で細胞をトリプシン処理により培養皿から剥離し、Cardiosphere形成培地中での浮遊培養へ移行した。尚、Cardiosphere形成培地の組成は、35% IMDMと65% DMEM/F12を基本培地とし、3.5%ウシ胎児血清、1mM L−グルタミン、0.1mM メルカプトエタノール、1ユニット/mL トロンビン、1% B―27、80ng/mL bFGF、25ng/mL EGF、4ng/mL Cardiotrophin−1で構成される。浮遊培養24時間以内に微小なCardiosphereが形成され、48時間後の培地交換を経て96時間培養した。回収したCardiosphereをファイブロネクチンでコーティングした培養皿に播種し、再び接着培養を行い一週間培養した。接着したCardiosphereから這い出てきた細胞がCardiosphere−derived cell(Cardiosphere由来細胞;CDC)である。尚、CDCを得る際に用いた培地は、10% FBS/1mM L−グルタミンを含むIMDMであり、二日に一度の培地交換を行った。
調製した成体心臓由来のCDCは、心筋幹細胞マーカーであるc−Kitを発現し、培養皿に播種後には血管平滑筋細胞マーカー(αSMA)や血管内皮細胞マーカー(CD31)を発現しており(図1)、血管平滑筋細胞や血管内皮細胞への分化能を有することが確認された。上記の方法に従い、CDC由来の細胞シート(CDCシート)を成形した。
実施例2
CDCシートに、所定の温度及び低酸素条件にて、所定の期間培養する処理(低酸素プレコンディショニング)を施した。
温度応答性培養皿(セルシード社)を用いて作製したCDCシートは、33℃、O濃度2%、CO濃度5%の低酸素条件下で、24時間培養した。
実施例3
前記低酸素プレコンディショニングによる細胞シートへのダメージの有無を明らかにするために、アポトーシス(細胞死)の指標であるカスパーゼ7(Caspase 7)の発現解析を行った。
CDCシートを24時間、O濃度2%、CO濃度5%、33℃の条件(低酸素プレコンディショニング条件)もしくは24時間、O濃度20%、CO濃度5%、37℃の条件(通常培養条件)で培養したのち、RIPAバッファーに溶解しWestern Blot法によるカスパーゼ7タンパク質発現解析を行った。一次抗体にはCell Signaling Technology社の抗Caspase 7抗体(#9492:1000倍に希釈)を用いた。
アポトーシスが誘導されると細胞内に消化酵素により、プロ型が切断された切断型(Cleaved)カスパーゼ7が検出されるが、低酸素プレコンディショニング条件に晒したCDCシートでは、通常条件でのCDCシートと同様に、切断型は認められなかった(図2)。このことは、低酸素プレコンディショニングによって細胞シートにダメージは生じてないことを示している。
実施例4
上記方法にてマウスより調製した細胞シートに低酸素プレコンディショニング処理を施すことで、該シートの血管内皮細胞増殖因子(VEGF)及び肝細胞増殖因子(HGF)産生能に如何なる影響を及ぼすか確認するべく、該処理の有無によるCDCシートでのVEGF及びHGF産生量を測定した。
低酸素プレコンディショニングを施したCDCシートの培養上清を回収し、Enzyme−Linked Immunosorbent Assay(ELISA)(R&Dシステムズ社)により、CDCシートより分泌されたVEGFおよびHGF濃度を測定した。各群ともに測定に用いたサンプル数は、n=6である。
通常の条件(37℃、O濃度20%、CO濃度5%)で24時間培養した群(Normo Sheet)に対し、低酸素プレコンディショニング処理した群(Hypo Sheet)では、VEGF、HGF共に有意に産生が促進されていた(図3)。特にVEGFにおいては、実に23倍以上の大幅な増加が認められた。
実施例5
マウスのみならず、実施例1に係る方法によりヒトから調製した細胞シートにおいても、低酸素プレコンディショニング処理を施すことで、該シートのVEGF産生能が亢進されるかを確認した。
低酸素プレコンディショニング(33℃、O濃度2%、CO濃度5%にて24時間培養)を施したヒトCDCシートの培養上清を回収、実施例4と同様に、ELISA(R&Dシステムズ社)により、CDCシートより分泌されたVEGF濃度を測定し、通常の条件(37℃、O濃度20%、CO濃度5%で24時間培養)処理群のVEGF濃度と比較した。
マウスCDCシートと同様に、通常の条件で培養した群(Normo Sheet)に対し、低酸素プレコンディショニング処理した群(Hypo Sheet)では、VEGFが2倍以上増加していた(図4)。
これまで発明者らは、VEGFを産生する、様々な細胞種(但し細胞シートを成形していない)に対して、低酸素プレコンディショニング処理の効果を検討しており、例えば、細胞シート形成していないヒト末梢血単核球培養細胞においては、該処理により有意なVEGF産生亢進は認められたものの、その増加量は約1.3倍程度に留まっており(Kudo et al. 2014, Biochem. Biophys. Res. Commun. Vol.444 pp.370−375)、本実施例で認められたような大幅な産生量の増加は確認されていない。
このことから、従来知られている低酸素プレコンディショニングによる培養細胞への機能増強効果を、単なる培養細胞ではなく、細胞シートに用いることにより、当業者の予想を大きく上回る効果を示すことが出来た。
実施例6
低酸素プレコンディショニングによって、細胞シートの血管新生効果の亢進が誘導されるか否かについてヒト血管内皮培養細胞を用いたin vitro実験系により検証した。
ヒトCDCシートを33℃、O濃度2%、CO濃度5%の条件もしくは37℃、O濃度20%、CO濃度5%の条件で24時間培養した後、培養上清を回収し、それぞれの培養上清でヒト臍帯血管内皮細胞(HUVEC: Lonza社から購入)を培養することで血管形成が促進されるか否かを検証した。
具体的には、HUVECをCDCシートの培養上清で12時間培養し、形成された血管様チューブ構造物(図5A)の1視野当たりの数をカウントした。
低酸素プレコンディショニング処理したCDCシート培養上清中で培養下HUVECにおいてチューブ形成が有意に亢進しており、低酸素曝露により細胞シートの血管新生因子発現が増加したことが示唆される(図5B)。低酸素プレコンディショニングによりCDCシートのVEGFおよびHGF発現が亢進することから(実施例4及び実施例5)、該血管因子群の産生増加がHUVECの血管形成能に影響を与えたと推察される。
実施例7
実施例4にて示した、CDCシートへの低酸素プレコンディショニング処理によるVEGFの発現増加が、いかなるシグナル伝達経路を介して生じたかを明らかとするために、パスウェイ解析を行った(図6左図)。
低酸素プレコンディショニングを施したCDCシートは、Radio−Immunoprecipitation Assay(RIPA)バッファーに溶解し、R&Dシステムズ社のHuman Phospho−Kinase Antibody Array(登録商標)をもちいて43種類のキナーゼタンパク質のリン酸化状態を比較した(パスウェイ解析)。アッセイは本キット添付のマニュアルに従って行い、メンブレンに固定した各キナーゼタンパク質のスポットの濃さをImageJソフトウェアで数値化した後に通常の条件で培養した群と比較した。
リン酸化が5倍以上増加したタンパク質と1/2に減少したタンパク質で分けると、EGFR、Akt、HSP60パスウェイが促進され、Stat5パスウェイで抑制が認められた(図6右図)。この中で、Aktシグナル伝達経路はVFGFの直接の制御因子として知られていることから、低酸素プレコンディショニングによってCDCシートで生じたVEGF発現増加は、Aktシグナル伝達経路の亢進によって生じたものと推察される。
実施例8
実施例7において、低酸素プレコンディショニング刺激によりCDCシート内の複数のシグナル伝達経路が活性化されることを示した。そのうちのAktを介したシグナル伝達経路に注目し、低酸素プレコンディショニング刺激のメディエーターとして実際に機能しているか否かを検証した。
ヒトCDCシートを33℃、O濃度2%、CO濃度5%の条件(低酸素条件)もしくは37℃、O濃度20%、CO濃度5%の条件(通常条件)で24時間培養したのち、RIPAバッファーに溶解しWestern Blot法によりリン酸化Akt(pAkt)発現を比較したところ、通常条件群(Normo)に対して、低酸素条件群(Hypo)においてAktのリン酸化亢進が生じていることが確認された(図7)。この結果は、先に行ったPhospho−Kinase Antibody Arrayのデータを裏付けるものである(実施例7)。一次抗体にはCell Signaling Technology社の抗pAkt抗体(#4060:1000倍に希釈)および抗Akt抗体(#9272:1000倍に希釈)を用いた。
実施例9
更に、Aktのリン酸化制御因子PI3Kの阻害剤(LY294002;Cell Signaling Technology:#9901:10マイクロM)を培地に添加した状態で、ヒトCDCシートを上記低酸素プレコンディショニング条件(Hypoxia又はHypo)に曝露し、その後、細胞及び培養上清を回収、リン酸化Akt発現およびVEGF産生を確認したところ、LY294002添加群では低酸素プレコンディショニング刺激によるAktリン酸化およびVEGF産生亢進がいずれも抑制され、通常培養条件(Normoxia又はNormo)レベルに留まった(図8AおよびB)。この結果は、低酸素プレコンディショニングがPI3K/Aktシグナル伝達経路を介してCDCシートのVEGF産生亢進を促していることを示唆している。
実施例10
低酸素プレコンディショニングによるCDCシートの筋線維芽細胞増殖抑制効果について、培養細胞株を用いて検証した。
まず、筋線維芽細胞株SmcMF(Kawasaki et al., World J Gastroenterol.19:2629−2637)を培養皿に播種し10%FBS/DMEM中で培養した(35,000細胞/ウェル)。培養開始24時間後に、低酸素条件(Hypo;33℃、O濃度2%、CO濃度5%)もしくは通常条件(Normo;37℃、O濃度20%、CO濃度5%)で24時間培養したCDCシートからそれぞれ回収した培養上清を、該10%FBS/DMEMと置換し、SmcMFを更に24時間培養した。該培養細胞に対し、4%パラホルムアルデヒドによる固定後に抗リン酸化ヒストンH3抗体(抗pHH3抗体;Cell Signaling Technology社:#9701:200倍に希釈)による免疫蛍光染色及びDAPI染色を実施し、増殖中のSmcMF細胞数を計測した(図9A)。具体的には、蛍光染色画像(図9B)から「抗pHH3抗体陽性細胞数/DAPI陽性細胞数x100」を算出し、これをpHH3+cells(%)とした。低酸素条件で処理したCDCシート由来の培養上清中で、SmcMFの増殖が有意に抑制されていたことから(図9C)、何らかの筋線維芽細胞増殖抑制因子の発現亢進が推察される。
実施例11
筋線維芽細胞の抑制効果を有する因子の一つとして、エンドグリンが知られている。そこで、CDCシートに対する低酸素プレコンディショニング処理により、該処理を施したCDCシートにおいて、エンドグリンの発現量が変動するか検討したところ、エンドグリンの発現亢進が生じることが確認された(図10)。具体的には、低酸素条件(Hypoxia;33℃、O濃度2%、CO濃度5%)もしくは通常条件(Normoxia;37℃、O濃度20%、CO濃度5%)にて24時間、CDCシートを処理した後、該CDCシートより細胞抽出液を調製した。その後、該抽出液に発現しているエンドグリン及びアクチンについて、それぞれWestern Blotを行い(図10A)、該Western Blot像におけるエンドグリン/アクチンのデンシトメトリー比を、Relative Endoglin Expressionとして表示したところ(図10B)、通常条件(Normo)に対し、低酸素条件(Hypo)において有意なエンドグリンの発現亢進が認められた。
このことから、低酸素プレコンディショニング刺激したCDCシートが、エンドグリンの発現増加を介して線維化を抑制する可能性が考えられ、生理的現象としては、該シートによる瘢痕形成の抑制・縮小といった効果が期待される。
実施例12
上記CDCシートの移植により、心機能が改善するかを明らかにするために、まずは、マウス陳旧性心不全モデル(oMI)を作成し、冠動脈左前下行枝(LAD)結紮後4週間での左室駆出率(LVEF)および左室内径短縮率(LVFS)を測定した。
マウス(C57BL/6;オス;10週齢)を麻酔下で開胸した後に冠動脈左前下行枝を8―0ポリプロピレン縫合糸で結紮し、30日後の心エコー検査において左室駆出率がおよそ30%まで低下したもの(正常値はおよそ70%)をマウスoMIモデルとして移植実験に用いた。このモデルマウスの梗塞部に通常条件下で培養したCDCシートを移植し、4週間後に心エコー検査によりLVEFおよびLVFSを測定した。LVEF(%)は、(左室拡張期末期容積―左室収縮末期容積)÷左室拡張末期容積×100、LVFS(%)は、(左室拡張末期径―左室収縮末期径)÷左室拡張末期径×100、でそれぞれ算出した。左室容積と左室径は心エコー測定時にMモードにより計測した。
oMI群でのLVEF及びLVFSの数値が、擬似手術群(Sham Operation群;Sham)に比して有意に低下していることを確認した(図11)。
実施例13
マウスCDCシートに対して、移植24時間前に低酸素プレコンディショニング処理を行う群と行わない群(通常培養群)を作成し、該CDCシート群を、前記マウス陳旧性心不全モデル(oMI)に移植して、両群間でのLVEFおよびLVFSの差異を検討した。
マウス(C57BL/6;オス;10週齢)を麻酔下で開胸した後に冠動脈左前下行枝を8―0ポリプロピレン縫合糸で結紮し、30日後の心エコー検査において左室駆出率がおよそ30%まで低下したもの(正常値はおよそ70%)をマウスoMIモデルとして移植実験に用いた。このモデルマウスの梗塞部に低酸素プレコンディショニングを24時間施したCDCシートを移植し、4週間後に心エコー検査によりLVEFおよびLVFSを測定した。LVEF(%)は、(左室拡張期末期容積―左室収縮末期容積)÷左室拡張末期容積×100、LVFS(%)は、(左室拡張末期径―左室収縮末期径)÷左室拡張末期径×100、でそれぞれ算出した。左室容積と左室径は心エコー測定時にMモードにより計測した。
低酸素プレコンディショニング処理及び未処理CDCシートをoMIに移植し、4週間後にLVEFおよびLVFSを測定し、それぞれの移植前からの回復率(ΔLVEFおよびΔLVFS)を比較したところ(図12左図:ΔLVEF、右図:ΔLVFS)、いずれも低酸素プレコンディショニング処理群において有意な回復率の亢進が認められた。
以上より、低酸素プレコンディショニング未処理のCDCシートに比べて、該処理を施したCDCシートにて有意な心機能回復が確認され、低酸素プレコンディショニング処理によるCDCシートの機能増強(VEGF及びHGF発現増加)は、慢性の虚血性心疾患治療に極めて有効であることが示唆された。
実施例14
実施例13においてCDCシート移植により不全心の心機能が回復することが示されたが、どのようなメカニズムで心機能が改善したかは明らかではない。そこで、シートを移植した不全心における組織学的な解析を行った。
低酸素プレコンディショニング処理(33℃、O濃度2%、CO濃度5%にて24時間培養)及び通常培養(37℃、O濃度20%、CO濃度5%にて24時間培養)を行った細胞シートを移植し、該移植の4週間後に左心室前壁厚(梗塞部)を比較したところ、細胞シート非移植群に対して、細胞シート移植群(通常培養群)において前壁厚の有意な肥厚が認められた(図13A)。低酸素プレコンディショニング処理群と通常培養群との間に有意差は生じていなかったが、低酸素プレコンディショニング処理群にてより高値となる傾向は認められた(図13A)。
このことより、細胞シート移植、特に低酸素プレコンディショニング処理したものによって、梗塞心のリモデリングが生じていることが示唆される。なお、左心室前壁厚は、エコー測定に使用している小動物用超音波高解像度イメージングシステムVevo770(VisualSonics社製)により算出した。
また、梗塞部と非梗塞部との境目部分(ボーダーゾーン)での血管新生に対する、細胞シート移植の効果について、血管内皮細胞(Lectin;Vector Laboratories:DL−1174:200倍に希釈)および心筋細胞(cTnT:Abcam;ab10214:100倍に希釈)に対する免疫蛍光染色後の「ボーダーゾーンにおける血管内皮細胞総面積(%)」(ボーダーゾーン一視野に対するレクチン陽性血管内皮細胞の占有総面積の比率を、BZ−IIアナライザー(株式会社キーエンス製)を用いて算出)を指標に検討したところ、通常培養のCDC細胞シート移植群に対し、低酸素プレコンディショニング処理したCDC細胞シート移植群で、該指標について有意な増加を認めた(図13B)。
すなわち、該事象は、低酸素プレコンディショニング処理したCDC細胞シートが、梗塞心における血管新生を促進していることを示唆している。
更に、不全心における梗塞部面積をマッソントリクローム染色により可視化し、正常心臓(Sham群)、梗塞心(Control群)、通常培養したCDCシートを移植した梗塞心(Normo群)、低酸素プレコンディショニング処理したCDCシートを移植した梗塞心(Hypo群)との間で「Infarcted Area;梗塞面積(%)」(BZ−IIアナライザーを用いて、梗塞部面積/心臓全体の断面積を算出)を比較したところ、Hypo群において有意な梗塞面積の縮小を認めた(図13C)。
このことは、低酸素プレコンディショニングによりCDCシートの瘢痕縮小効果が促進されたことを示唆しており、先に示した左室前壁厚の肥厚が、血管新生亢進や瘢痕縮小による心筋リモデリングにより生じたことを推察させる。
実施例15
HIF−1alphaは酸素濃度の主要なセンシング分子として知られ、通常酸素濃度下では合成後に直ちに分解されるが、低酸素条件下では分解が抑制され、下流の低酸素応答分子群が活性化する。また、血管新生因子であるVEGFは、HIF−1alphaの主要な下流標的分子として知られている。そこで、CDCシートの低酸素応答性を確認する為に、HIF−1alpha発現に対するWestern Blot解析を行った。
ヒトCDCシートを33℃、O濃度2%、CO濃度5%の条件(低酸素プレコンディショニング処理)もしくは37℃、O濃度20%、CO濃度5%の条件(通常培養)で24時間培養したのち、Western Blot法によりHIF−1alphaの発現解析をしたところ、低酸素プレコンディショニング処理したCDCシート(Hypo)でのみHIF−1alphaが検出され、通常培養でのCDCシート(Normo)では認められなかった。このことから、前者でのみ低酸素応答が生じていることが確認された(図14)。一次抗体には、Cell Signaling Technology社の抗HIF−1alpha抗体(#3716:1000倍に希釈)を用いた。
実施例16
ヒトCDCシートの培養上清中における、細胞外基質分解酵素マトリックスメタロプロテアーゼ2(MMP−2)および/又はマトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP−3)の有無及び存在する場合の濃度をELISA法により検出した。培養上清中のMMP濃度測定には、R&D systems社製 Quantikine MMP−3 immunoassay kit(DMP3G0)及び Quantikine Human MMP−2 immunoassay kit(DMP2F0)ELISAキットを用いた。
CDCシートにおいては、MMP−3は発現しておらず、MMP−2が特異的に発現していることが明らかとなった(図15)。このことより、該分解酵素が、CDCシートにおける、梗塞心に形成された瘢痕組織を消化する機能を担っている可能性が示唆された。
本発明は、低酸素プレコンディショニング処理を施すことで、機能増強した細胞シートを製造する方法を提供することから、移植に関連する医療分野における利用性が高く、特に、低酸素プレコンディショニングを処理した間葉系幹細胞やCDC由来の細胞シートは、慢性の虚血性心疾患治療に極めて有効であり、該医療分野の発展にも貢献するものである。

Claims (3)

  1. 以下の(a)〜(c)の工程を含む、梗塞心移植用細胞シートを製造する方法。
    (a)培養基材上でCardiosphere由来細胞を培養し、該細胞由来の細胞シートを形成させる工程、
    (b)該細胞シートを30℃〜36℃及び酸素濃度0%〜8%の条件にて、12時間〜72時間培養する工程、
    (c)該条件にて培養後、該細胞シートを培養基材から剥離する工程
  2. 前記工程(a)の培養温度が36〜40℃であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 請求項1又は7に記載の方法により製造した梗塞心移植用の細胞シート。
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