JP6544656B2 - 低酸素処理により機能賦活した細胞シートの製造方法 - Google Patents
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Description
とりわけ心血管の慢性的な梗塞によって引き起こされる陳旧性心筋梗塞は、自覚症状が少なく心筋細胞の壊死と心臓の菲薄化・瘢痕化が広範囲に生じ重篤な心不全(慢性心不全)を導くことから、効果的な治療法の早期確立が望まれる。
しかし、こうした移植細胞では、梗塞心に対して生着率が低く、血管成長因子の産生能も十分でない、といった問題点が指摘されており、より高い心筋再生誘導効果を得るには、これらの課題をクリアし、移植細胞の持つ特性を最大限引き出す方法論の確立が必要であった。
(1) 以下の(a)〜(c)の工程を含む細胞シートを製造する方法。
(a)培養基材上で細胞を培養し、該細胞由来の細胞シートを形成させる工程、
(b)該細胞シートを、所定の温度及び低酸素条件にて、所定の期間培養する工程、
(c)該条件にて培養後、該細胞シートを培養基材から剥離する工程
(2) 前記細胞が、Cardiosphere由来細胞であることを特徴とする(1)に記載の方法。
(3) 前記低酸素条件が、酸素濃度0%〜8%であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 前記所定の温度が、30℃〜36℃であることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 前記培養期間が、12時間〜72時間であることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の方法。
(6) (1)乃至(5)のいずれかに記載の方法により製造した細胞シート。
従って、本発明により、心筋梗塞に代表される虚血性心疾患の治療に用いることのできる移植用生物材料として、より有益な細胞シートを取得することができる。
(a)培養基材上で細胞を培養し、該細胞由来の細胞シートを形成させる工程、
(b)該細胞シートを、所定の温度及び低酸素条件にて、所定の期間培養する工程、
(c)該条件にて培養後、該細胞シートを培養基材から剥離する工程
本発明において、「細胞シート」とは、細胞同士がシート状に結合した細胞の培養物の総称であり、該細胞シートは、1つの細胞層からなるものでも、2以上の細胞層からなるものであってもよい。
また、細胞シートを形成すべく、最初に播種する細胞密度は、細胞培養において通常実施される条件であればよく、特に限定はしないが、状態の良好な細胞シートを製造する為には、細胞播種時にほぼコンフルエントな状態であることが好ましく、例えば、2×105細胞/cm2〜3×105細胞/cm2程度の範囲である。また、細胞シート形成後の細胞の状態は、健康な状態であれば特に限定はしないが、好ましくは、コンフルエントな状態となっていてもよい。
また、「培養基材」の培養表面は、温度変化等によってその物性が変化する材料(温度応答性材料)で作製されているか、あるいは、該温度応答性材料によって培養基材の培養表面が層状に被覆されていてもよい。
更に、本培養基材の培養表面上には、細胞接着性成分および/または細胞接着阻害性成分が存在していてもよい。細胞接着性成分としては、細胞培養技術において、培養表面に細胞を接着させるために通常使用される成分であればいかなるものでもよく、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、カドヘリン、ゼラチン、フィブリノゲン、フィブリン、ポリLリジン、ヒアルロン酸、多血小板血漿、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。細胞接着阻害性成分も、細胞培養技術において、培養表面への細胞の接着を阻害させるために通常使用される成分であればいかなるものでもよく、例えば、アルブミンやグロブリンなどが挙げられる。これらの成分で細胞培養基材の培養表面上を被覆する場合、各成分によって、培養表面を被覆するために使用する溶液の濃度が異なるため、予備的な実験等、当業者であれば容易に検討できる方法によって、各成分の被覆のために適当な溶液濃度を決定することができる。
また、本細胞シートの形成に用いる細胞は1種類のみであってもよいが、2種類以上の細胞を用いてもよい。
さらに、培地に対し、必要に応じて適当な添加物を加えて使用してもよい。添加物としては、例えば、L型アミノ酸類(例としては、L−アルギニン、L−シスチン、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−セリン、L−トリオニン、L−トリプトファン、L−チロシンなど)、ビタミン類(例えば、葉酸、リボフラビン、チアミンなど)、D−グルコース、その他、ウシ胎児血清、ウマ血清などの動物血清などを含んでもよい。また、緩衝剤(例えば、PBS、HEPES、MES、HANK’Sなど)を適宜培地に加えてもよい。さらに、培養する細胞の特性に応じて、適宜、細胞成長因子などを添加してもよい。
例としては、CDCを培養し、細胞シートに形成させる際に用いる培地はIMDMであってもよく、添加物としてウシ胎児血清(10%)およびL−グルタミン(1mM)を用いてもよい。
発明者らは、繊維芽細胞の懸濁液において、O2濃度を0、1、2、3、又は5%とした低酸素プレコンディショニング処理を行った場合に、O2濃度0、1、2、3、又は5%のいずれの場合でも同等のVEGF産生を示すことを確認している。このことより、本発明に係る細胞シートの製造方法においても、低酸素プレコンディショニング処理におけるO2濃度として0〜8%であれば、後記の実施例にて示しているO2濃度2%の場合と同様のVEGF産生効果があると考えられる。
従って、例えば、成体心臓から調製したCDCを用いて形成した細胞シート(CDCシート)においては、低酸素条件は、O2濃度が0%〜8%、好ましくは0.1%〜5%、更に好ましくは2%である。
温度条件については、例えば、培養温度が30℃〜36℃、好ましくは32℃〜34℃、更に好ましくは33℃であり、そして、処理期間は、例えば12時間〜72時間であり、好ましくは24時間でもよい。
また、前記処理期間経過後、細胞シートは、すぐに(c)の工程に移行してもよく、一定期間通常の培養条件に戻してから(c)の工程に移行してもよい。該条件は、細胞シートごとに設定することが出来、一定期間通常の培養条件に戻す場合の一定期間についても、特に限定はしないが、例えば、前記CDCシートにおいては、1時間〜12時間であってもよく、好ましくは1時間〜6時間であり、更に好ましくは1時間〜2時間であってもよい。
温度応答性材料で表面を被覆した細胞培養基材を使用した場合には、容器の温度を、例えば、0〜30℃程度に下げたのちに、上記、細胞の剥離、回収を実施してもよい。
心臓を対象とする場合の疾患としては、特に限定はしないが、狭心症や心筋梗塞などに代表される虚血性心疾患、拡張型心筋症などが挙げられ、好ましくは心筋梗塞、さらに好ましくは、心筋梗塞の中でも発症から30日以上経過している、いわゆる陳旧性心筋梗塞 (Old Myocardial Infarction:OMI) である。
なお、本発明には、本発明の方法によって製造される細胞シートを用いた、疾患の治療又は予防方法も含まれる。ここで、対象となる疾患は、該細胞シートを移植することによって治療又は予防が可能となるものであればよく、特に限定はしないが、例えば、狭心症や心筋梗塞などに代表される虚血性心疾患、拡張型心筋症などが挙げられ、好ましくは心筋梗塞、さらに好ましくは陳旧性心筋梗塞である。
成体心臓由来のcardiosphere由来細胞(CDC)を調製し、細胞シートに成形した。
成体心臓の右心房からバイオプシーにより心臓組織片を採取し、0.5mm角程度に細切後に、フィブロネクチンでコーティングした培養皿に心臓組織片を静置した。静置後2〜3週間の間に2日に一度の培地交換(10% FBS/1mM L−グルタミンを含むIMDM)を行い、心臓組織片から培養皿に心臓組織由来細胞(Explant−derived cell:EDC)が培養皿上に這い出てくるのを確認した。EDCがサブコンフルエントに達した時点で細胞をトリプシン処理により培養皿から剥離し、Cardiosphere形成培地中での浮遊培養へ移行した。尚、Cardiosphere形成培地の組成は、35% IMDMと65% DMEM/F12を基本培地とし、3.5%ウシ胎児血清、1mM L−グルタミン、0.1mM メルカプトエタノール、1ユニット/mL トロンビン、1% B―27、80ng/mL bFGF、25ng/mL EGF、4ng/mL Cardiotrophin−1で構成される。浮遊培養24時間以内に微小なCardiosphereが形成され、48時間後の培地交換を経て96時間培養した。回収したCardiosphereをファイブロネクチンでコーティングした培養皿に播種し、再び接着培養を行い一週間培養した。接着したCardiosphereから這い出てきた細胞がCardiosphere−derived cell(Cardiosphere由来細胞;CDC)である。尚、CDCを得る際に用いた培地は、10% FBS/1mM L−グルタミンを含むIMDMであり、二日に一度の培地交換を行った。
調製した成体心臓由来のCDCは、心筋幹細胞マーカーであるc−Kitを発現し、培養皿に播種後には血管平滑筋細胞マーカー(αSMA)や血管内皮細胞マーカー(CD31)を発現しており(図1)、血管平滑筋細胞や血管内皮細胞への分化能を有することが確認された。上記の方法に従い、CDC由来の細胞シート(CDCシート)を成形した。
CDCシートに、所定の温度及び低酸素条件にて、所定の期間培養する処理(低酸素プレコンディショニング)を施した。
温度応答性培養皿(セルシード社)を用いて作製したCDCシートは、33℃、O2濃度2%、CO2濃度5%の低酸素条件下で、24時間培養した。
前記低酸素プレコンディショニングによる細胞シートへのダメージの有無を明らかにするために、アポトーシス(細胞死)の指標であるカスパーゼ7(Caspase 7)の発現解析を行った。
CDCシートを24時間、O2濃度2%、CO2濃度5%、33℃の条件(低酸素プレコンディショニング条件)もしくは24時間、O2濃度20%、CO2濃度5%、37℃の条件(通常培養条件)で培養したのち、RIPAバッファーに溶解しWestern Blot法によるカスパーゼ7タンパク質発現解析を行った。一次抗体にはCell Signaling Technology社の抗Caspase 7抗体(#9492:1000倍に希釈)を用いた。
アポトーシスが誘導されると細胞内に消化酵素により、プロ型が切断された切断型(Cleaved)カスパーゼ7が検出されるが、低酸素プレコンディショニング条件に晒したCDCシートでは、通常条件でのCDCシートと同様に、切断型は認められなかった(図2)。このことは、低酸素プレコンディショニングによって細胞シートにダメージは生じてないことを示している。
上記方法にてマウスより調製した細胞シートに低酸素プレコンディショニング処理を施すことで、該シートの血管内皮細胞増殖因子(VEGF)及び肝細胞増殖因子(HGF)産生能に如何なる影響を及ぼすか確認するべく、該処理の有無によるCDCシートでのVEGF及びHGF産生量を測定した。
低酸素プレコンディショニングを施したCDCシートの培養上清を回収し、Enzyme−Linked Immunosorbent Assay(ELISA)(R&Dシステムズ社)により、CDCシートより分泌されたVEGFおよびHGF濃度を測定した。各群ともに測定に用いたサンプル数は、n=6である。
通常の条件(37℃、O2濃度20%、CO2濃度5%)で24時間培養した群(Normo Sheet)に対し、低酸素プレコンディショニング処理した群(Hypo Sheet)では、VEGF、HGF共に有意に産生が促進されていた(図3)。特にVEGFにおいては、実に23倍以上の大幅な増加が認められた。
マウスのみならず、実施例1に係る方法によりヒトから調製した細胞シートにおいても、低酸素プレコンディショニング処理を施すことで、該シートのVEGF産生能が亢進されるかを確認した。
低酸素プレコンディショニング(33℃、O2濃度2%、CO2濃度5%にて24時間培養)を施したヒトCDCシートの培養上清を回収、実施例4と同様に、ELISA(R&Dシステムズ社)により、CDCシートより分泌されたVEGF濃度を測定し、通常の条件(37℃、O2濃度20%、CO2濃度5%で24時間培養)処理群のVEGF濃度と比較した。
マウスCDCシートと同様に、通常の条件で培養した群(Normo Sheet)に対し、低酸素プレコンディショニング処理した群(Hypo Sheet)では、VEGFが2倍以上増加していた(図4)。
このことから、従来知られている低酸素プレコンディショニングによる培養細胞への機能増強効果を、単なる培養細胞ではなく、細胞シートに用いることにより、当業者の予想を大きく上回る効果を示すことが出来た。
低酸素プレコンディショニングによって、細胞シートの血管新生効果の亢進が誘導されるか否かについてヒト血管内皮培養細胞を用いたin vitro実験系により検証した。
ヒトCDCシートを33℃、O2濃度2%、CO2濃度5%の条件もしくは37℃、O2濃度20%、CO2濃度5%の条件で24時間培養した後、培養上清を回収し、それぞれの培養上清でヒト臍帯血管内皮細胞(HUVEC: Lonza社から購入)を培養することで血管形成が促進されるか否かを検証した。
具体的には、HUVECをCDCシートの培養上清で12時間培養し、形成された血管様チューブ構造物(図5A)の1視野当たりの数をカウントした。
低酸素プレコンディショニング処理したCDCシート培養上清中で培養下HUVECにおいてチューブ形成が有意に亢進しており、低酸素曝露により細胞シートの血管新生因子発現が増加したことが示唆される(図5B)。低酸素プレコンディショニングによりCDCシートのVEGFおよびHGF発現が亢進することから(実施例4及び実施例5)、該血管因子群の産生増加がHUVECの血管形成能に影響を与えたと推察される。
実施例4にて示した、CDCシートへの低酸素プレコンディショニング処理によるVEGFの発現増加が、いかなるシグナル伝達経路を介して生じたかを明らかとするために、パスウェイ解析を行った(図6左図)。
低酸素プレコンディショニングを施したCDCシートは、Radio−Immunoprecipitation Assay(RIPA)バッファーに溶解し、R&Dシステムズ社のHuman Phospho−Kinase Antibody Array(登録商標)をもちいて43種類のキナーゼタンパク質のリン酸化状態を比較した(パスウェイ解析)。アッセイは本キット添付のマニュアルに従って行い、メンブレンに固定した各キナーゼタンパク質のスポットの濃さをImageJソフトウェアで数値化した後に通常の条件で培養した群と比較した。
リン酸化が5倍以上増加したタンパク質と1/2に減少したタンパク質で分けると、EGFR、Akt、HSP60パスウェイが促進され、Stat5パスウェイで抑制が認められた(図6右図)。この中で、Aktシグナル伝達経路はVFGFの直接の制御因子として知られていることから、低酸素プレコンディショニングによってCDCシートで生じたVEGF発現増加は、Aktシグナル伝達経路の亢進によって生じたものと推察される。
実施例7において、低酸素プレコンディショニング刺激によりCDCシート内の複数のシグナル伝達経路が活性化されることを示した。そのうちのAktを介したシグナル伝達経路に注目し、低酸素プレコンディショニング刺激のメディエーターとして実際に機能しているか否かを検証した。
ヒトCDCシートを33℃、O2濃度2%、CO2濃度5%の条件(低酸素条件)もしくは37℃、O2濃度20%、CO2濃度5%の条件(通常条件)で24時間培養したのち、RIPAバッファーに溶解しWestern Blot法によりリン酸化Akt(pAkt)発現を比較したところ、通常条件群(Normo)に対して、低酸素条件群(Hypo)においてAktのリン酸化亢進が生じていることが確認された(図7)。この結果は、先に行ったPhospho−Kinase Antibody Arrayのデータを裏付けるものである(実施例7)。一次抗体にはCell Signaling Technology社の抗pAkt抗体(#4060:1000倍に希釈)および抗Akt抗体(#9272:1000倍に希釈)を用いた。
更に、Aktのリン酸化制御因子PI3Kの阻害剤(LY294002;Cell Signaling Technology:#9901:10マイクロM)を培地に添加した状態で、ヒトCDCシートを上記低酸素プレコンディショニング条件(Hypoxia又はHypo)に曝露し、その後、細胞及び培養上清を回収、リン酸化Akt発現およびVEGF産生を確認したところ、LY294002添加群では低酸素プレコンディショニング刺激によるAktリン酸化およびVEGF産生亢進がいずれも抑制され、通常培養条件(Normoxia又はNormo)レベルに留まった(図8AおよびB)。この結果は、低酸素プレコンディショニングがPI3K/Aktシグナル伝達経路を介してCDCシートのVEGF産生亢進を促していることを示唆している。
低酸素プレコンディショニングによるCDCシートの筋線維芽細胞増殖抑制効果について、培養細胞株を用いて検証した。
まず、筋線維芽細胞株SmcMF(Kawasaki et al., World J Gastroenterol.19:2629−2637)を培養皿に播種し10%FBS/DMEM中で培養した(35,000細胞/ウェル)。培養開始24時間後に、低酸素条件(Hypo;33℃、O2濃度2%、CO2濃度5%)もしくは通常条件(Normo;37℃、O2濃度20%、CO2濃度5%)で24時間培養したCDCシートからそれぞれ回収した培養上清を、該10%FBS/DMEMと置換し、SmcMFを更に24時間培養した。該培養細胞に対し、4%パラホルムアルデヒドによる固定後に抗リン酸化ヒストンH3抗体(抗pHH3抗体;Cell Signaling Technology社:#9701:200倍に希釈)による免疫蛍光染色及びDAPI染色を実施し、増殖中のSmcMF細胞数を計測した(図9A)。具体的には、蛍光染色画像(図9B)から「抗pHH3抗体陽性細胞数/DAPI陽性細胞数x100」を算出し、これをpHH3+cells(%)とした。低酸素条件で処理したCDCシート由来の培養上清中で、SmcMFの増殖が有意に抑制されていたことから(図9C)、何らかの筋線維芽細胞増殖抑制因子の発現亢進が推察される。
筋線維芽細胞の抑制効果を有する因子の一つとして、エンドグリンが知られている。そこで、CDCシートに対する低酸素プレコンディショニング処理により、該処理を施したCDCシートにおいて、エンドグリンの発現量が変動するか検討したところ、エンドグリンの発現亢進が生じることが確認された(図10)。具体的には、低酸素条件(Hypoxia;33℃、O2濃度2%、CO2濃度5%)もしくは通常条件(Normoxia;37℃、O2濃度20%、CO2濃度5%)にて24時間、CDCシートを処理した後、該CDCシートより細胞抽出液を調製した。その後、該抽出液に発現しているエンドグリン及びアクチンについて、それぞれWestern Blotを行い(図10A)、該Western Blot像におけるエンドグリン/アクチンのデンシトメトリー比を、Relative Endoglin Expressionとして表示したところ(図10B)、通常条件(Normo)に対し、低酸素条件(Hypo)において有意なエンドグリンの発現亢進が認められた。
このことから、低酸素プレコンディショニング刺激したCDCシートが、エンドグリンの発現増加を介して線維化を抑制する可能性が考えられ、生理的現象としては、該シートによる瘢痕形成の抑制・縮小といった効果が期待される。
上記CDCシートの移植により、心機能が改善するかを明らかにするために、まずは、マウス陳旧性心不全モデル(oMI)を作成し、冠動脈左前下行枝(LAD)結紮後4週間での左室駆出率(LVEF)および左室内径短縮率(LVFS)を測定した。
マウス(C57BL/6;オス;10週齢)を麻酔下で開胸した後に冠動脈左前下行枝を8―0ポリプロピレン縫合糸で結紮し、30日後の心エコー検査において左室駆出率がおよそ30%まで低下したもの(正常値はおよそ70%)をマウスoMIモデルとして移植実験に用いた。このモデルマウスの梗塞部に通常条件下で培養したCDCシートを移植し、4週間後に心エコー検査によりLVEFおよびLVFSを測定した。LVEF(%)は、(左室拡張期末期容積―左室収縮末期容積)÷左室拡張末期容積×100、LVFS(%)は、(左室拡張末期径―左室収縮末期径)÷左室拡張末期径×100、でそれぞれ算出した。左室容積と左室径は心エコー測定時にMモードにより計測した。
oMI群でのLVEF及びLVFSの数値が、擬似手術群(Sham Operation群;Sham)に比して有意に低下していることを確認した(図11)。
マウスCDCシートに対して、移植24時間前に低酸素プレコンディショニング処理を行う群と行わない群(通常培養群)を作成し、該CDCシート群を、前記マウス陳旧性心不全モデル(oMI)に移植して、両群間でのLVEFおよびLVFSの差異を検討した。
マウス(C57BL/6;オス;10週齢)を麻酔下で開胸した後に冠動脈左前下行枝を8―0ポリプロピレン縫合糸で結紮し、30日後の心エコー検査において左室駆出率がおよそ30%まで低下したもの(正常値はおよそ70%)をマウスoMIモデルとして移植実験に用いた。このモデルマウスの梗塞部に低酸素プレコンディショニングを24時間施したCDCシートを移植し、4週間後に心エコー検査によりLVEFおよびLVFSを測定した。LVEF(%)は、(左室拡張期末期容積―左室収縮末期容積)÷左室拡張末期容積×100、LVFS(%)は、(左室拡張末期径―左室収縮末期径)÷左室拡張末期径×100、でそれぞれ算出した。左室容積と左室径は心エコー測定時にMモードにより計測した。
低酸素プレコンディショニング処理及び未処理CDCシートをoMIに移植し、4週間後にLVEFおよびLVFSを測定し、それぞれの移植前からの回復率(ΔLVEFおよびΔLVFS)を比較したところ(図12左図:ΔLVEF、右図:ΔLVFS)、いずれも低酸素プレコンディショニング処理群において有意な回復率の亢進が認められた。
以上より、低酸素プレコンディショニング未処理のCDCシートに比べて、該処理を施したCDCシートにて有意な心機能回復が確認され、低酸素プレコンディショニング処理によるCDCシートの機能増強(VEGF及びHGF発現増加)は、慢性の虚血性心疾患治療に極めて有効であることが示唆された。
実施例13においてCDCシート移植により不全心の心機能が回復することが示されたが、どのようなメカニズムで心機能が改善したかは明らかではない。そこで、シートを移植した不全心における組織学的な解析を行った。
低酸素プレコンディショニング処理(33℃、O2濃度2%、CO2濃度5%にて24時間培養)及び通常培養(37℃、O2濃度20%、CO2濃度5%にて24時間培養)を行った細胞シートを移植し、該移植の4週間後に左心室前壁厚(梗塞部)を比較したところ、細胞シート非移植群に対して、細胞シート移植群(通常培養群)において前壁厚の有意な肥厚が認められた(図13A)。低酸素プレコンディショニング処理群と通常培養群との間に有意差は生じていなかったが、低酸素プレコンディショニング処理群にてより高値となる傾向は認められた(図13A)。
このことより、細胞シート移植、特に低酸素プレコンディショニング処理したものによって、梗塞心のリモデリングが生じていることが示唆される。なお、左心室前壁厚は、エコー測定に使用している小動物用超音波高解像度イメージングシステムVevo770(VisualSonics社製)により算出した。
すなわち、該事象は、低酸素プレコンディショニング処理したCDC細胞シートが、梗塞心における血管新生を促進していることを示唆している。
このことは、低酸素プレコンディショニングによりCDCシートの瘢痕縮小効果が促進されたことを示唆しており、先に示した左室前壁厚の肥厚が、血管新生亢進や瘢痕縮小による心筋リモデリングにより生じたことを推察させる。
HIF−1alphaは酸素濃度の主要なセンシング分子として知られ、通常酸素濃度下では合成後に直ちに分解されるが、低酸素条件下では分解が抑制され、下流の低酸素応答分子群が活性化する。また、血管新生因子であるVEGFは、HIF−1alphaの主要な下流標的分子として知られている。そこで、CDCシートの低酸素応答性を確認する為に、HIF−1alpha発現に対するWestern Blot解析を行った。
ヒトCDCシートを33℃、O2濃度2%、CO2濃度5%の条件(低酸素プレコンディショニング処理)もしくは37℃、O2濃度20%、CO2濃度5%の条件(通常培養)で24時間培養したのち、Western Blot法によりHIF−1alphaの発現解析をしたところ、低酸素プレコンディショニング処理したCDCシート(Hypo)でのみHIF−1alphaが検出され、通常培養でのCDCシート(Normo)では認められなかった。このことから、前者でのみ低酸素応答が生じていることが確認された(図14)。一次抗体には、Cell Signaling Technology社の抗HIF−1alpha抗体(#3716:1000倍に希釈)を用いた。
ヒトCDCシートの培養上清中における、細胞外基質分解酵素マトリックスメタロプロテアーゼ2(MMP−2)および/又はマトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP−3)の有無及び存在する場合の濃度をELISA法により検出した。培養上清中のMMP濃度測定には、R&D systems社製 Quantikine MMP−3 immunoassay kit(DMP3G0)及び Quantikine Human MMP−2 immunoassay kit(DMP2F0)ELISAキットを用いた。
CDCシートにおいては、MMP−3は発現しておらず、MMP−2が特異的に発現していることが明らかとなった(図15)。このことより、該分解酵素が、CDCシートにおける、梗塞心に形成された瘢痕組織を消化する機能を担っている可能性が示唆された。
Claims (3)
- 以下の(a)〜(c)の工程を含む、梗塞心移植用細胞シートを製造する方法。
(a)培養基材上でCardiosphere由来細胞を培養し、該細胞由来の細胞シートを形成させる工程、
(b)該細胞シートを30℃〜36℃及び酸素濃度0%〜8%の条件にて、12時間〜72時間培養する工程、
(c)該条件にて培養後、該細胞シートを培養基材から剥離する工程 - 前記工程(a)の培養温度が36〜40℃であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 請求項1又は7に記載の方法により製造した梗塞心移植用の細胞シート。
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