以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本発明の一態様を示すものであって、本発明の範囲内で任意に変更可能である。各図において同じ符号を付したものは同一の部材を示しており、適宜説明が省略されている。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置である。
図示するように、インクジェット式記録装置Iにおいて、複数のインクジェット式記録ヘッドを有するインクジェット式記録ヘッドユニット(ヘッドユニット)IIでは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A,2Bが着脱可能に設けられている。ヘッドユニットIIを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられており、例えばそれぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとされている。
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車及びタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達され、ヘッドユニットIIを搭載したキャリッジ3が、キャリッジ軸5に沿って移動されるようになっている。一方、装置本体4には搬送手段としての搬送ローラー8が設けられており、紙等の記録媒体である記録シートSが搬送ローラー8により搬送されるようになっている。尚、記録シートSを搬送する搬送手段は、搬送ローラーに限られずベルトやドラム等であってもよい。
次に、このようなインクジェット式記録装置Iに搭載されるインクジェット式記録ヘッド1の一例について図2〜図3を参照して説明する。図2は、本実施形態に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。また、図3(a)は流路形成基板の圧電素子側の平面図であり、図3(b)は図3(a)のA−A′線に準ずる断面図である。
図示するように、流路形成基板10には圧力発生室12が形成されている。そして、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が、同じ色のインクを吐出する複数のノズル開口21が並設される方向に沿って並設されている。以降、この方向を圧力発生室12の並設方向、又は第1の方向Xと称し、第1の方向Xと直交する方向を第2の方向Yと称する。
流路形成基板10の圧力発生室12の第2の方向Yの一端部側には、圧力発生室12の片側を第1の方向Xから絞ることで開口面積を小さくしたインク供給路13と、第1の方向Xにおいて圧力発生室12と略同じ幅を有する連通路14と、が複数の隔壁11によって区画されている。連通路14の外側(第2の方向Yの圧力発生室12とは反対側)には、各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100の一部を構成する連通部15が形成されている。すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12、インク供給路13、連通路14及び連通部15からなる液体流路が形成されている。
流路形成基板10の一方面側、すなわち圧力発生室12等の液体流路が開口する面には、各圧力発生室12に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって接合されている。ノズルプレート20には、第1の方向Xにノズル開口21が並設されている。
流路形成基板10の一方面側に対向する他方面側には振動板50が形成されている。振動板50は、例えば流路形成基板10上に設けられた弾性膜51と、弾性膜51上に設けられた絶縁体膜52と、により構成できる。ただし、前記の例に制限されず、流路形成基板10の一部を薄く加工して弾性膜として使用することも可能である。
絶縁体膜52上には、例えばチタンからなる密着層を介して、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80と、で構成される圧電素子300が形成されている。ただし、密着層は省略することが可能である。
圧電体層70うち少なくとも一部の層は、電圧印加時に主として変位特性に寄与するメイン層70mとされており、特に本実施形態の圧電体層70は、詳しくは後述するが、第1電極60側に形成された下地層70aと、下地層70a上に設けられたメイン層70mと、を具備するように構成されている。ただ、下地層70aは省略可能であり、圧電体層70全体がメイン層70mとなるように構成することもできる。
本実施形態では、圧電素子300と該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板50とを合わせてアクチュエーター装置(アクチュエーター)と称する。また、振動板50及び第1電極60が振動板として作用するが、これに制限されない。弾性膜51及び絶縁体膜52の何れか一方又は両方を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。流路形成基板10上に第1電極60を直接設ける場合には、第1電極60及びインクが導通しないように、第1電極60を絶縁性の保護膜等で保護することが好ましい。
このような圧電素子300では、一般的には何れか一方の電極が共通電極とされ、他方の電極が圧力発生室12毎のパターニングにより個別電極とされる。本実施形態では、第1電極60が個別電極とされ、第2電極80が共通電極とされているが、駆動回路120や接続配線121の都合でこれを逆にしても支障はない。本実施形態では、第2電極80を複数の圧力発生室12に亘って連続して形成することで共通電極とされている。
第2電極80は、圧電体層70の第1電極60とは反対面側に設けられている。上記の第1電極60やこの第2電極80の材料は、導電性を有する材料であれば特に限定されず、白金(Pt)、イリジウム(Ir)等の貴金属が好適に用いられる。
圧電素子300が設けられた流路形成基板10上、すなわち、振動板50、第1電極60及びリード電極90上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成するマニホールド部32を有する保護基板30が接着剤35により接合されている。マニホールド部32は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上記のように流路形成基板10の連通部15と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100が構成されている。また、流路形成基板10の連通部15を圧力発生室12毎に複数に分割して、マニホールド部32のみをマニホールドとしてもよい。更に、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10及び保護基板30の間に介在する弾性膜51及び絶縁体膜52に、マニホールド及び各圧力発生室12を連通するインク供給路13を設けるようにしてもよい。
保護基板30には、圧電素子300に対向する領域に、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部31が設けられている。尚、圧電素子保持部31は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、該空間は密封されていても密封されていなくてもよい。保護基板30上には、信号処理部として機能する駆動回路120が固定されている。駆動回路120は、例えば回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができ、プリンターコントローラー(図1に示す200)に接続されている。駆動回路120及びリード電極90は、貫通孔33を挿通させたボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続することができる。
また、保護基板30上には、封止膜41及び固定板42からなるコンプライアンス基板40が接合されている。封止膜41は、剛性が低い材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部32の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料で構成できる。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
ここで、本実施形態に係る圧電素子について、図4〜5を用いて説明する。このうち図4は、いわゆる90°ドメイン回転等について説明する図であり、図5は、圧電体層70が、第1電極60側に形成された下地層70aと、下地層70a上に設けられたメイン層70mと、を具備する本実施形態の態様について説明する図である。
本実施形態の圧電素子300は、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80と、が順次積層されており、圧電体層70を構成する結晶は正方晶の結晶構造を有し、この結晶は流路形成基板10に{100}配向しており、この結晶の格子内には、積層方向に対して垂直な(100)面及び(001)面を有する各領域が混在するものである。尚、積層方向は、圧電素子300の厚み方向とも言い換えることができ、上記の第1の方向X及び第2の方向Yの何れにも垂直な方向に相当する。
圧電体層70のうち、少なくとも一部の層を構成するメイン層70mは、擬立方晶であるPb(M’1/3,Nb2/3)O3と、正方晶であるPbM’’O3と、が固溶した正方晶セラミックスを含む、下記の一般式(1)で表される複合酸化物からなるものとして構成とされている。
[式3]
xPb(Mg,Nb)O3−(1−x)PbTiO3・・・(1)
このようなペロブスカイト型構造、すなわち、ABO3型構造では、Aサイトに酸素が12配位しており、また、Bサイトに酸素が6配位して8面体(オクタヘドロン)をつくっている。一般式(2)においては、AサイトにPbが、BサイトにNb、M’及びM’’が位置し、M’としてMg,Mn,Fe,Ni,Co,Zn等の+2価を取りえる金属種が用いられ、M’’としてTi,Zr等の+4価を取りえる金属種が用いられる。ここでは、M’としてMgが、M’’としてTiが用いられている。
つまり本実施形態では、メイン層70mは、ニオブ酸マグネシウム酸鉛(Pb(Mg,Nb)O3;PMN)と、チタン酸鉛(PbTiO3;PT)と、が固溶した正方晶セラミックスを含み、更にABO3構造の化学量論より鉛が過剰に存在する下記の一般式(3)で表される複合酸化物からなる構成とされている。これにより、圧電定数の更なる向上が図られる。
[式4]
xPb(M’1/3,Nb2/3)O3−(1−x)PbTiO3・・・(2)
xPb1+α(Mg1/3,Nb2/3)O3−(1−x)Pb1+αTiO3・・・(3)
(0.20≦x≦0.60が好ましく、0.30≦x≦0.45がより好ましい)
式中の記述は化学量論に基づく組成表記であり、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合や元素の一部欠損等による不可避な組成のずれは勿論、元素の一部置換等も許容される。例えば、化学量論比を1とすると、0.85〜1.20の範囲内のものは許容される。M’やM’’の金属種は単独に限られず、複数種類が用いられても構わない。
図4に示すように、メイン層70mでは、積層方向(圧電素子300の厚み方向)に対して垂直な(100)面及び(001)面を有するドメイン71が結晶格子内に混在しており、電場Eの印加により正方晶のa軸成分及びb軸成分がc軸成分に90°回転し、これにより圧電特性が発揮されるようになっている。特に、本実施形態では、圧電材料の結晶の結晶子径D(002)が20nm以下、特に15nm以下とされており、焼成界面を介して配置され薄膜を構成する各柱状粒内に、強誘電体性のドメイン71(いわゆるナノドメイン)が形成されている。これにより、効率よく90°ドメイン回転を起こすことができるため、圧電体層70の圧電定数を更に向上させることができる。
ちなみに、このような90°ドメイン回転を利用して変位を生じさせるメイン層70mを具備する圧電体層70とは別に、90°ドメイン回転を伴わない圧電体層も知られている。しかし、かかる圧電体層は、90°ドメイン回転のような角度関係で変位していないため、両者は根本的に異なったものである。
また、本実施形態のメイン層70mとは別の、強誘電体性のドメイン内の電気双極子モーメントの誘起によって圧電特性を発揮する圧電体層(例えばPZT)は、結晶構造が変化するモルフォトロピック相境界付近で圧電定数が極めて大きくなる性質を利用して所定の組成比を実現するようにするすることが多い。一方、本実施形態のような90°ドメイン回転を利用するメイン層70mにおいて、特に上記の組成比から外れる範囲では、上記のPZTをも凌駕する変位が得られるようになることが、後述する実施例において確かめられている。
その上、本実施形態の圧電体層70は、図5に示すように、第1電極60側に、この圧電体層70のメイン層70mを構成する複合酸化物のc軸と1%未満の格子整合性を有し、かつ該複合酸化物のa軸及びb軸と1%以上の格子不整合を有する下地層70aを具備するように構成されている。これによれば、圧電材料の配向制御が容易となり、また、正方晶である圧電材料のc軸成分を安定化させることができるため、圧電体層の圧電定数を更に向上させることができる。
下地層70aは、正方晶である圧電体層70の複合酸化物と組成が異なるABO3型結晶構造を具備するものとすることができ、ここではPZTが採用されている。PZTによれば、例えば上記の一般式(2)で表される構造の圧電体層70に、これよりも高い比誘電率を有する化合物が接する構造を容易に実現でき、圧電体層の更なる向上を図りやすくなる。
正方晶である圧電体層70のメイン層70mを構成する複合酸化物のc軸成分とPZTとの格子不整合率は、好ましくは0.1%以下とすることができ、該複合酸化物のa軸成分及びb軸成分とPZTとの格子不整合率は、好ましくは1.5%以上とすることができる。これにより、圧電体層の更なる向上を図ることができる。
下地層70aの厚みは、圧電体層70やメイン層70mに要求される厚みを考慮して適宜定めることが可能である。図5においては、下地層70aは、メイン層70m及び第1電極60の間に形成されているが、メイン層70mの第1電極60側に下地層70aが存在する構造とされる限りは前記の例に制限されず、下地層の総数も限定されない。例えば、メイン層70m及び下地層70aを交互に積層するような構成とされても構わない。これによれば、メイン層70m及び下地層70aの接触面積を増加させることができる。
次に、本実施形態の圧電素子の製造方法の一例について、かかる圧電素子が搭載されるインクジェット式記録ヘッドの製造方法の一例とあわせて、図6〜図7を参照して説明する。
まず、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に振動板50を形成する。本実施形態では、振動板50は、流路形成基板用ウェハー110を熱酸化することによって形成した二酸化シリコン(弾性膜51)と、スパッタリング法で成膜後、熱酸化することによって形成した酸化ジルコニウム(絶縁体膜52)と、の積層からなる振動板50を形成した。本実施形態では、振動板50上に更に密着層(図示せず)を形成するようにしているが、密着層は省略が可能である。
次いで、図6(a)に示すように、振動板50上の密着層の全面に第1電極60を形成する。この第1電極60は、例えば、スパッタリング法やPVD法(物理蒸着法)、レーザーアブレーション法などの気相成膜、スピンコート法などの液相成膜などにより形成することができる。次に、第1電極60上に、下地層70aを形成する。下地層70aの形成方法は限定されないが、例えば、金属錯体を含む溶液を塗布乾燥し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる下地層を得るMOD(Metal−Organic Decomposition)法やゾル−ゲル法等の化学溶液法を用いて下地層を製造できる。その他、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、パルス・レーザー・デポジション法(PLD法)、CVD法、エアロゾル・デポジション法など、液相法でも固相法でも下地層70aを製造することもできる。尚、必要に応じ下地層70aは省略することもできる。
次に、図6(b)に示すように、第1電極60を、下地層70aと同時にパターニングする(第1電極パターン)。ここでのパターニングは、例えば、反応性イオンエッチング(RIE)、イオンミリング等のドライエッチングにより行うことができる。尚、必要に応じて第1電極60のみをパターニングした後に、下地層70aを形成もしくは省略してもよい。また、第1電極60及び下地層70aのパターニングを行わず、後述するメイン層70mと同時に一括パターニングを行っても良い。
次に、メイン層70mを積層形成する。メイン層70mの形成方法は限定されないが、例えば、金属錯体を含む溶液を塗布乾燥し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層(圧電体膜)を得るMOD法やゾル−ゲル法等の化学溶液法を用いて圧電体層を製造できる。その他、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、PLD法、CVD法、エアロゾル・デポジション法など、液相法でも固相法でもメイン層70mを製造することもできる。
メイン層70mを化学溶液法で形成する場合の具体的な形成手順例は、以下のとおりである。すなわち、金属錯体を含むMOD溶液やゾルからなり、メイン層70mを形成するための前駆体溶液を作成する。そして、この前駆体溶液を、第1電極60上に、スピンコート法などを用いて塗布して前駆体膜74を形成する(塗布工程)。この前駆体膜を所定温度に加熱して一定時間乾燥させ(乾燥工程)、更に乾燥した前駆体膜を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。前駆体膜を所定温度に加熱して保持することによって結晶化させ、図6(c)に示すメイン層70mを形成する(焼成工程)。
上記の塗布工程において塗布する溶液は、焼成によりPb、Mg、Nb及びTiを含む複合酸化物層前駆体膜を形成しうる金属錯体を混合し、当該混合物を有機溶媒に溶解又は分散させたものである。Pbを含む金属錯体としては、酢酸鉛等が挙げられる。Mgを含む金属錯体としては、酢酸マグネシウム等が挙げられる。Nbを含む金属錯体としては、ニオブペンタ−n−ブトキシド等が挙げられる。Tiを含む金属錯体としては、例えばチタニウムテトラ−i−プロポキシド等が挙げられる。
メイン層70mを形成した後は、図6(d)に示すように、メイン層70m上に白金等からなる第2電極80をスパッタリング法等で形成し、各圧力発生室12に対向する領域に圧電体層70及び第2電極80を同時にパターニングして、必要に応じて更に白金膜を作製するとともにパターニングし(第2電極パターン)、これにより、第1電極60と圧電体層70と第2電極80とからなる圧電素子300を形成する。
後は、図7(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接合した後に、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚さに薄くする。そして、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110上に、マスク膜53を新たに形成し、所定形状にパターニングする。流路形成基板用ウェハー110をマスク膜53を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、図7(c)に示すように、圧電素子300に対応する圧力発生室12等を形成する。
その後は、常法に従い、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面のマスク膜53を除去した後にノズル開口が穿設されたノズルプレートを接合するとともに、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図2に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、記録ヘッドとする。
以上、本実施形態の圧電素子の製造方法の一例について、記録ヘッドの製造方法の一例とあわせて説明したが、圧電素子300の製造後、第1電極60及び第2電極80の間にバイポーラーの振動波形からなる電場を印加するようにしてもよい(Wake−up処理)。電場は例えば40V以上、好ましくは45V以上が好適であり、振動波形は三角波とすることができる。これにより、圧電材料における(001)配向成分の割合を高めることができる。このような効果は、チタン酸鉛の含有比が高いほど大きい。
一般的に、正方晶構造の圧電体では、c軸a軸長比(c/a)に起因する内部応力を緩和するため、図8(a)に示すような90°ドメインを形成する。この時、外場の影響を受けない理想状態では、図中の符号Cで示すCドメイン(面直方向に分極を持つドメイン)と、図中の符号Aで示すAドメイン(面内方向に分極を持つドメイン)の存在確率は1:1である。
一方、本実施形態では圧電体層70、特にメイン層70mを、前駆体溶液を塗布することによる塗布法によって形成した。このため、前駆体溶液からの溶媒及び配位子の分解/脱離に伴う膜体積の収縮と、基板と前駆体膜との熱膨張係数差から、前駆体膜に引っ張り応力が加わり、応力が無い状態と比較して基板面内に引き伸ばされた構造となっている。即ち、本実施形態ではAドメインが形成しやすい外場が存在しており、本来安定な90°ドメインを形成できず、図8(b)に示すように内部応力的にエネルギーが高い準安定なAドメインとして一定数存在している。
一方、Wake−up処理によってドメインの再配列が起こり、内部応力的に安定な状態へと推移しやすくなると考えられる。但し、外場による引っ張り応力の影響はWake−up処理後も存在するため、理想的な1:1の存在確立とならず、図8(c)に示すようにWake−up処理後もAドメインが多い存在比となる。このような変化は、例えばX線によるピーク強度に基づいて確かめることができる。加えて、チタン酸鉛側ではc/aが大きくなる、即ち内部応力が大きくなるため、Wake−up処理後のCドメインの存在比率は大きくなる。
(実施形態2)
以下、本発明の実施形態2について、上記の実施形態1と異なる部分を中心に詳述する。本発明の第2の実施の形態に係る圧電素子は、流路形成基板10に、第1電極60と、少なくともPb、Nb及びTiを含むペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる圧電体層70と、第2電極80と、が順次積層されており、圧電体層70は、第1電極60側に形成された下地層70aと、下地層70a上に設けられたメイン層70mと、を具備し、圧電体層70全体のショートモードにおけるヤング率が、下地層70aのショートモードにおけるヤング率の25%未満であるものである。
実施形態1では、圧電体層70のメイン層70mを所定の複合酸化物により構成することにより該メイン層70mの圧電定数の向上を図ることに着目したが、圧電体層70全体の剛性が低ければ圧電体層70それ自体によって変位が妨げられることも抑制できるため、圧電体層70全体のヤング率を低下させることができれば圧電特性の向上に有利である。すなわち、本実施形態は、圧電体層全体の剛性が低いものとされた圧電素子を得て、これにより、圧電特性の向上を図るものである。
図9は、本実施形態の圧電素子300Aの拡大断面図である。圧電素子300Aのうち、特にメイン層70mは実施形態1と同様の複合酸化物から構成することができ、この場合、上記の実施形態1による90°ドメイン回転を利用したメイン層70mの圧電定数の向上効果も得られるようになり、圧電特性の向上を更に図ることができる。メイン層70mに限られず、下地層70aについても実施形態1と同様の構成とすることができ、実施形態1における好ましい態様を本実施形態でも採用することで、優れた効果が同様に得られるようになっている。
本実施形態では、下地層70a上に更に下地層70bを設け、この上に第1電極60を積層して圧電素子300Aを構成しているが、実施形態1と同様に、本実施形態でも下地層の層数は限定されない。複数の下地層70a,70bを設ける場合、各層は互いに隣接していなくてもよく、本発明の範囲において他の層が介在していてもよい。例えば、成膜時においてメイン層70mの配向方位を制御するためにチタン等からなる結晶種層を設ける場合、その後の過程でこの結晶種層成分が拡散して該結晶種層が見かけ上消失することが多いが、このような結晶種層成分に起因する層が残存し介在するようになっていていてもよい。更には、メイン層70m及び下地層70a、70bを交互に積層するような構成となっていてもよい。
図10(a)〜(b)は、本実施形態における圧電特性とヤング率との関係を示す概念図である。
図10(a)に示すように、ショートモードにおけるヤング率が小さくなるほど圧電特性の向上に有利である。ショートモードにおけるヤング率は、圧電基本式(圧電定数d=定数K33×(誘電率ε×弾性コンプライアンスS)1/2)にて弾性コンプライアンス(ヤング率の逆数)として用いられる所謂ヤング率である。この圧電基本式からも、圧電体層全体のヤング率が低くなれば弾性コンプライアンスが大きくなり、その結果、圧電定数が大きくなることが分かる。
ショートモードにおけるヤング率は、圧電効果による圧電体層70全体の電気−機械変換能力が加味された値であり、すなわち、圧力誘起による90°ドメイン回転が起こることによる機械エネルギーの一部が電気エネルギーに変換される状態にて得られる値である。更に言い換えれば、ショートモードにおけるヤング率は、付与された機械エネルギーが、圧電体層全体の弾性変形(機械エネルギー)と圧電効果(電気エネルギー)とに変換される場合にて得られる値である。このようなショートモードにおけるヤング率は、例えば、圧電アクチュエーターの形状、圧電アクチュエーターを構成する各種部材のヤング率、圧電素子や振動板との共振周波数等を利用して算出することができる。
ショートモードにおけるヤング率を求めるための各種パラメーターは、それぞれ公知の方法により取得できる。例えば、圧電アクチュエーターの形状に基づくパラメーターはSEM観察により取得でき、共振周波数に基づくパラメーターは、隣接する振動板のセグメントでの変位量を観察することにより取得できる。ヤング率や該ヤング率を得るための各種パラメーターは、実際に測定された値に対して良い一致性を示すのであれば計算により求めるようにしてもよい。
上記のように本実施形態では、圧電体層70全体のショートモードにおけるヤング率が、下地層70aのショートモードにおけるヤング率の25%未満である。ここでの下地層70aは、実施形態1と同様にPZTから構成されたものであり、従って、本実施形態は、圧電体層70全体のショートモードにおけるヤング率が、PZT層のショートモードにおけるヤング率の25%未満であるとも言うことができる。従来、優れた圧電特性が発揮されるものとしてPZTからなる圧電体層がよく知られているが、このような従来の圧電体層(PZT層)に比べても、本実施形態の圧電体層70はショートモードにおけるヤング率を所定値以下に抑えることができ、圧電特性に有利なのである。
そして、本実施形態の圧電素子300Aは、圧電体層70全体のショートモードにおけるヤング率が、圧電体層70全体のオープンモードにおけるヤング率の50%以下である。オープンモードにおけるヤング率は、上記のショートモードにおけるヤング率とは異なり、電気−機械変換能力が加味されない値であり、すなわち、機械エネルギーが電気エネルギーに変換されない状態にて得られる値である。更に言い換えれば、オープンモードにおけるヤング率は、付与された機械エネルギーが、圧電体層全体の弾性変形(機械エネルギー)のみに変換される場合の値である。
図10(b)に示すように、圧電体層70全体のオープンモードに対するショートモードにおけるヤング率の比(ショートモードにおけるヤング率/オープンモードにおけるヤング率)が小さいほど、圧電特性の向上に有利である。オープンモードに対してショートモードにおけるヤング率が小さい分、付与された機械エネルギーが圧電効果(電気エネルギー)に分配される状況において大きな変位が得られる、つまり、それだけ電気−機械変換能力に優れると言えるためである。
オープンモードにおけるヤング率は、例えば実施例に示すように、ナノインデンター測定により求めることができる。実際に測定された値に対して良い一致性を示し、計算により求めることが可能であるならば、オープンモードにおけるヤング率も計算により求めるようにしてもよい。
以下、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
<PZT前駆体溶液(下地層70a用前駆体溶液)の調製>
容器に酢酸及び水を量り取り、次いで酢酸鉛、ジルコニウムブトキシド、チタニウムテトラ−i−プロポキシド、及びポリエチレングリコールを量り取って、これらを90℃で加熱撹拌を行うことで前駆体溶液を作製した。
<PMN―PT前駆体溶液(メイン層70m用前駆体溶液)の調製>
次いで、容器に2−ブトキシエタノールとジメチルアミノエタノールを量り取り混合溶液を作製した。乾燥窒素を充填したグローブボックス中でチタニウムテトラ−i−プロポキシドとニオブペンタ−n−ブトキシドとを量り取り、上記の混合溶液に混合した。その後、室温にて十分撹拌した後に、大気下で酢酸マグネシウム及び酢酸鉛をそれぞれ量り取り、室温にて混合/撹拌を行うことで、PMN−PT前駆体溶液を作製した。尚、チタニウム−i−プロポキシド、ニオブペンタ−n−ブトキシド、酢酸マグネシウム、及び酢酸鉛は、一般式(3)で表される組成に従い、x及びαを表1に示す割合となるように調製した。
<圧電アクチュエーターの作製>
6inchシリコン基板を熱酸化することで基板上に二酸化シリコン膜を形成した。次に、スパッター法にてジルコニウム膜を作製し、熱酸化させることで酸化ジルコニウム膜(絶縁体膜52)を作製した。絶縁体膜52上にスパッター法にてチタン、白金、イリジウム、チタンの順番で作製することで、第1電極60を作製した。
上記のPZT前駆体溶液をスピンコート法で塗布した後、140℃及び370℃で乾燥/脱脂を行うことで脱脂膜を作製した。脱脂膜に対しRTA(Rapid Thermal Annealing)装置を使用し737℃で加熱処理を行うことで、PZTからなるセラミックス膜(下地層70a)を作製した。上記の下地層70a上にフォトリソグラフィーにより所定の形状のパターンを形成し、ドライエッチングにより下地層70a及び第1電極60をパターニングした(第1電極パターン)。
次に、下地層70a上に上記のPMN−PT前駆体溶液をスピンコート法で塗布した後、180℃及び350℃で乾燥/脱脂を行うことで脱脂膜を作製した。この脱脂膜をRTAにて750℃で加熱処理することで、PMN−PTからなるセラミックス膜(前駆体膜74)を作製した。このセラミックス膜を作製する工程を6回繰り返すことで、セラミックス膜(下地層70a)上に、6層のセラミックス膜(前駆体膜74)からなるメイン層70mを作製し、これらの下地層70a及びメイン層70mを具備する圧電体層70を得た。
そして、圧電体層70上にメタルマスクを固定し、スパッター法にて白金膜を作製した。次に、メタルマスクをはずし、RTAを使用し650℃で電極の焼付け処理を行うことで第2電極を作製した。次に、フォトリソグラフィーにより所定の形状のパターンを形成し、ドライエッチングにより第2電極80、及び下地層70a及び圧電体層70をパターニングした(第2電極パターン)。以上の工程により、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80が順次積層された圧電素子300を作製した。
(実施例2〜6)
実施例1と同様のプロセスにより、一般式(3)で表される組成のx及びαを表1に示す割合となるようにして、実施例2〜6の圧電素子300を作製した。
(比較例1)
第1電極の構成を下記に変更した以外は実施例1と同様に作製することで比較例1を作製した。すなわち、第1電極について、6inchシリコン基板上を熱酸化することで二酸化シリコン膜を形成した。次に、原子層化学気相成長法(Atomic−Layer Chemical vapor deposition;ALCVD法)にて酸化アルミニウム膜を作製した。この酸化アルミニウム膜上にスパッター法にて白金を作製することで第1電極を作製した。
(比較例2)
第1電極60までは実施例1と同様に作製し、PZT前駆体溶液を用いてセラミックス膜(下地層70a)を作製するための工程を8回行うことにより、計8層からなるPZT圧電体層を形成した。
(評価内容1)
<走査型電子顕微鏡観察>
実施例1〜6及び比較例1〜2の膜厚を、破断面の走査電子顕微鏡(SEM)により観察した。いずれも柱状結晶であり、実施例1〜6と比較例1〜2とで膜厚以外は大きな差は見られなかった。SEM観察により測定した膜厚を表1に示す。尚、表1の実施例1〜6における「膜厚」の数値には下地層70aの膜厚130nmが含まれている。
<P−V loop測定>
実施例1〜6及び比較例1〜2について、東陽テクニカ社製「FCE−1A」を用い、φ=500μmの電極パターンを使用し、室温で周波数1kHzの三角波を印加して、分極量(μC cm−2)と電界(V)の関係(P−V loop)を求めた。図11(a)に、実施例1を±20Vで測定したP−V loop(破線:wake−up処理前)と、AC±45Vのwake−up処理を行った後に±20Vで測定したP−V loop(実線:wake−up処理後)と、を示す。同様に、図11(b)に実施例3の測定結果を示す。実施例1及び3によれば、wake−up処理によりP−V loopが変化し、xの組成が小さいほど分極量が大きく変化した。これは、90°ドメインの内部成分が活性化されたことによりc軸成分の割合が増加したことに起因している。
表1に、実施例1〜6及び比較例1〜2のwake−up処理後のヒステリシスから求めた残留分極量(Pr)を示す。表1に示すように、PbTiO3の割合の増加に従い残留分極量は単調に増加することが明らかとなった。
<2次元検出器を使用したX線回折測定>
実施例1〜6及び比較例1〜2の結晶構造及び配向性を、Bruker AXS社製「D8 Discover」、線源はCuKα、検出器は2次元検出器(GADDS)を使用し、2次元マッピング画像及び回折パターンを測定した。画像として検出できる範囲は装置構成による制限から、(100)ピークが検出される2θ=22.5°相当でφ=±30°、(110)ピークが検出される2θ=32.5°相当でφ=±32°、(111)ピークが検出される2θ=40°相当でφ=±26°である。
図12に、第2電極80の作製前に測定した実施例1〜6のX線回折パターンを示す。図示するように、実施例1〜6では基板由来のピークとABO3構造起因のピークのみが観測され、異相は観測されなかった。なお、図中、実施例6のみSiに起因するピークが観測されているが、これは使用したSi基板の面方位に起因するものであり、特性には影響を及ぼさないことが確認されている。比較例1〜2も同様にABO3構造であり異相は観測されなかった。
加えて、実施例1は{100}配向しており、且つc軸である(001)面の回折パターンとa軸及びb軸である(100)面の回折パターンが分離した状態で明瞭に観測された。このことから、実施例1〜6は正方晶であることが明らかとなった。また、比較例1については{111}配向、比較例2については{100}配向であった。
図13に、実施例1のwake−up処理前後、すなわちAC±45Vの印加前後でのX線回折パターンを示す。図示するように、wake−up処理により(200)面のピーク強度が低下し、(002)面のピーク強度が増加することが明らかとなった。これは、wake−up処理により(200)配向していた成分が90°反転を起こし、電界印加停止後も(002)配向のまま維持されるためである。このことから、作製時に(200)配向とされたドメインが、wake−up処理により可動化されることが明らかとなった。
<結晶子径の組成依存性>
ここで、XRDの回折パターンの線幅(半値全幅:FWHM)から結晶子径を評価できることが知られている。シェラーの式は、D=Kλ/Bcosθで表される。このうち、Dは結晶子サイズ、Kはシェラー定数、λはX線の波長(CuKα=1.5418Å)、BはFWHMから装置固有の線幅を引いた試料の線幅、θはブラッグ角(回折角2θの半分)である。
本明細書ではKは体積加重平均厚さで定義したK=0.63661を、装置固有の線幅はシリコン標準試料をXRD装置で測定した線幅Bsi=0.19918を使用した。
図14(a)にシェラーの式を使用し、回折パターンから求めた(200)面と(002)面との結晶子径の組成依存性を、図14(b)に(200)面の結晶子径D(200)と(002)面の結晶子径D(002)の比(D(200)/D(002))の組成依存性を示す。図14(a)に示すように、実施例1〜6において(002)面の結晶子径は(200)面の結晶子径よりも小さく、かつ15nm以下であった。一方、図14(b)に示すように、(200)面の結晶子径は(002)面の結晶子径の3〜16倍のサイズであった。
<下地層との格子整合性>
圧電体層70のメイン層70mにおける配向制御は下地層70aとの格子整合性が重要であることが知られている。表2に下地層70aであるPZTの(200)ピークと、メイン層70mであるPMN−PTの(002)及び(200)ピークの格子不整合率を示す。尚、格子不整合率は、ブラッグの条件である、2dsinθ=nλに基づきd値を求め、そのd値の差分の絶対値として求めた。
表2に示すように、PMN−PTの(002)成分における格子不整合率は0.01〜0.09%と非常に良好な格子整合性を有していた。一方、(200)成分は1.15〜2.31%と格子不整合を有していた。このことから、下地層70aであるPZTを{100}配向制御層として機能させることで、格子整合性の良い(002)成分を持つPMN−PTを作製することができることが分かった。
<DBLI測定>
実施例1〜6及び比較例1〜2について、アグザクト社製の変位測定装置(DBLI)を用い、ユニポーラモードで電界誘起歪量―電圧の関係を求めた。測定温度は室温(25℃)、電極パターンはφ=500μm、波形は三角波、周波数は周波数1kHzで測定を行った。
図15にDBLIで求めた電界誘起歪定数(d33 *)の組成依存性を示す。図示するように、実施例1〜6のいずれも比較例1の62pm V−1よりも高い100pm V−1を超える良好な圧電性を示すことが明らかなとなった。このことから、{100}配向したPMN−PTにおいて高い圧電性を示すことが明らかとなった。更に、実施例2(x=0.30)、実施例3(x=0.40)、実施例4(x=0.45)において、比較例2であるPZTのd33 *=142pm V−1を超える非常に高い圧電性を示すことが明らかとなった。
このように、{100}配向したPMN−PTが特異的に高い圧電性を示す理由は、90°ドメインの回転に起因する。上記のように、PMN−PTは1.026〜1.015という比較的大きなc/aを有し、かつwake−up処理により(100)成分と(001)成分との比率が変化することからわかるように電界応答を示すことが明らかとなっている。このような電界応答は、(100)成分の分極軸が電場と直交していることに起因している。一方、比較例1のように{111}配向した場合、分極軸が電場から傾いており、(100)成分と(001)成分とで角度が近くなっている。このため、電場から受ける影響が小さく、90°ドメイン回転が起こりづらくなり、結果として電界誘起歪定数も小さくなる。
以上より、圧電体層70を構成する結晶は正方晶の構造を有し、この結晶は基板に{100}配向しており、この結晶の格子内には、積層方向に対して垂直な(100)面及び(001)面を有する各領域が混在する実施例1〜6の圧電素子300によれば、圧電定数を向上させることができ、圧電特性に優れたものとなることが分かった。
(実施例7)
2層からなる下地層を作製した以外は、実施例1と同様のプロセスにより、実施例7の圧電素子300Aを作製した。すなわち、第1電極パターン上に、スパッター法にてチタン膜を形成し、このチタン膜上に下地層70aを作製した手順と同様の手順にて、PZTからなるセラミックス膜(下地層70b)を作製した。そして、セラミックス膜(下地層70a,70b)上に9層のセラミックス膜(前駆体膜74)からなるメイン層70mを作製し、これらの下地層70a,70b及びメイン層70mを具備する圧電体層70を得て圧電素子300Aを構成し、これを有する圧電アクチュエーターを作製した。
(比較例3)
圧電体層70の全体をPZTとした以外は実施例7と同様のプロセスにて、圧電素子を有する圧電アクチュエーターを作製した。
(評価内容2)
<形状観察>
実施例7及び比較例3における加工形状についてSEMを用い測定した。その結果、実施例7及び比較例3は、両者で特性に影響を及ぼし得る特異な形状の有意差は観測されなかった。尚、後述するヤング率計算では、ここでのSEM観察により得られた形状の実測値を用いた。
<振動板変位>
実施例7及び比較例3の圧電アクチュエーターについて、Polytec社製NLV−2500を用い、室温(25℃)における振動板変位を測定した。測定条件は周波数1kHzの台形波、電位差は25Vで測定した。その結果、実施例7の振動板変位量は519nm、比較例3の振動板変位量は391nmであった。この結果、実施例7では比較例3と比較して33%の変位量の向上が確認された。
<共振周波数の測定>
実施例7の圧電アクチュエーターについて、ヒューレットパッカード社製「4294A」を用い、室温(25℃)におけるインピーダンスの周波数依存性を測定した。印加電圧は5±0.5V、測定周波数は1MHz〜4MHzの範囲で測定を行った。
図16に実施例7におけるインピーダンスの周波数依存性を示す。図16に示すように、実施例7の圧電アクチュエーターでは、約1.95MHz及び約2.27MHzに振動板の共振及び反共振に由来するインピーダンスの変化が観測された。
<共振モードの同定>
実施例7の圧電アクチュエーターについて、Polytec社製NLV−2500を用い、室温(25℃)における共振状態での振動板の共振モードの同定を行った。入力波は5±0.5VのSin波を使用し、電圧を印加した振動板(ONセグメント)及びその隣接の振動板(隣接セグメント)の任意の場所で変位量及び位相を測定した。
図17に共振モードの同定のための模式図を示す。複数の空間が形成された基板上に振動板が設けられ、各々の空間に対応するように振動板上に圧電素子が配されており、所定のONセグメントS1を対象として圧電素子に電圧を印加したときの隣接セグメントS2,S3の両方で変位の位相や変位量(特に、共振に由来する変位量のピーク)を観察するものである。かかる図はあくまで模式的なものであり、実際には、実施例7と同様に構成した圧電アクチュエーターを用いて共振モードを同定している。このような手法による測定の結果、実施例7の圧電アクチュエーターでは、約1.93MHz及び約2.25MHzで、ONセグメントS1及び隣接セグメントS2,S3の両方で共振に由来する変位量のピークが観測された。加えて、位相の測定より、1.93MHzはONセグメントと隣接セグメントが逆位相で動く共振状態(逆位相モード)、2.25MHzはONセグメントと隣接セグメントが同位相で動く共振状態(同位相モード)であることが明らかとなった。
加えて、上記逆位相モード及び同位相モードは、インピーダンスの周波数依存性で観測されたインピーダンス変化と良い一致を示すことから、同一の状態を観測していることがわかる。
尚、比較例3の圧電アクチュエーターについても同様に測定したところ、約3.10MHzで同位相モードであることが確認された。
<圧電体層のヤング率計算>
まず、SEM観察から求めた圧電アクチュエーター形状の実測値及び各種部材(SiO2,ZrO2,Ti,Pt,Ir,PZT)のヤング率とポアソン比から、同位相モードの共振周波数を計算した。尚、計算は2次元で行い、ONセグメント及び隣接セグメントの変形を考慮して計算した。
図18(a)〜(b)に、アクチュエーター設計値で振動モード計算を行った結果を示す。図18(a)〜(b)に示すように、実際の駆動時に観測された同位相モードと逆位相モードが計算でも再現できた。次に、SEM観察より求めた形状から比較例3の圧電アクチュエーターについて共振周波数解析を行った。その結果、同一モードの共振周波数は3.080MHzであり、実測値である3.10MHzと非常に良い一致性を示した。このことから、本計算に用いた計算パラメーター及び計算手法は妥当であるといえる。
次に、実施例7について、圧電アクチュエーター形状の実測値、各種部材のヤング率とポアソン比、及び共振周波数の実測値から圧電体層70全体(PMN−PTからなるメイン層70m及びPZTからなる下地層70a,70b)のヤング率を算出した。尚、ヤング率の算出に当たりポアソン比の影響は軽微であることから、ポアソン比はPZTと同様の値を使用した。
その結果、圧電体層70全体のヤング率は、PZTの24%と非常に低い値であった。尚ここでいうヤング率は圧電性を加味したショートモードのヤング率である。
<オープンモードにおけるヤング率測定>
オープンモードのヤング率測定のため、CSIRO社製UMIS−2000を用い、ナノインデンテーター測定を行った。その結果、比較例3の圧電アクチュエーターでは、ショートモードのヤング率は、オープンモードのヤング率の61%であった。
一方、実施例7の圧電アクチュエーターでは、ショートモードのヤング率がオープンモードのヤング率の50%以下、具体的には14%となった。これは、実施例7に係る圧電体層70全体のうち、PMN−PTからなるメイン層70mでは圧力誘起により90°ドメイン回転が起こり、それにより機械エネルギーの大半が電気エネルギーに変換され、ショートモードにおけるヤング率が大幅に低下するためである。一方、オープンモードでは電荷が外部に放出されないため、電気機械変換が起きず、ショートモードでの測定に見られるような圧電効果に起因するヤング率の低下は起こらない。
以上、実施例7に例示されるような、圧電体層全体のショートモードにおけるヤング率が下地層のショートモードにおけるヤング率の25%未満である圧電素子は、圧電体層全体の剛性が低いものとされるので、圧電定数の向上により圧電特性の向上を図ることができるものと言える。
(他の実施形態)
以上、本発明の圧電素子や、圧電素子が搭載される液体噴射ヘッド及び液体噴射装置の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上記のものに限定されるものではない。例えば、上記の実施形態では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
上記の実施形態のほか、本発明の圧電素子と、圧電素子により発信される超音波、及び圧電素子により受信される超音波の少なくとも一方に基づく信号を利用して検出対象を測定する制御手段と、を具備することで超音波測定装置を構成することもできる。
このような超音波測定装置は、超音波を発信した時点から、その発信した超音波が測定対象物に反射されて戻ってくるエコー信号を受信する時点までの時間に基づいて、測定対象物の位置、形状及び速度等に関する情報を得るものであり、超音波を発生するための素子や、エコー信号を検知するためのそしとして圧電素子が用いられることがある。このような超音波発生素子やエコー信号検知素子として、圧電定数の向上が図られた本発明の圧電素子が用いられれば、超音波発生効率やエコー信号検地効率が高められた超音波測定装置を提供できる。
そのほか、上記の実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
また、本発明の圧電素子は、液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子に限定されず、その他のデバイスにも用いることができる。その他のデバイスとしては、例えば、超音波発信器等の超音波デバイス、超音波モーター、温度−電気変換器、圧力−電気変換器、強誘電体トランジスター、圧電トランス、赤外線等の有害光線の遮断フィルター、量子ドット形成によるフォトニック結晶効果を使用した光学フィルター、薄膜の光干渉を利用した光学フィルター等のフィルターなどが挙げられる。また、センサーとして用いられる圧電素子、強誘電体メモリーとして用いられる圧電素子にも本発明は適用可能である。圧電素子が用いられるセンサーとしては、例えば、赤外線センサー、超音波センサー、感熱センサー、圧力センサー、焦電センサー、及びジャイロセンサー(角速度センサー)等が挙げられる。
その他、本発明の圧電素子300は強誘電体素子として好適に用いることもできる。好適に用いることができる強誘電体素子としては、強誘電体トランジスター(FeFET)、強誘電体演算回路(FeLogic)及び強誘電体キャパシター等が挙げられる。さらに本実施形態の圧電素子300は、良好な焦電特性を示すことから、焦電素子に好適に用いることができる。好適に用いることができる焦電素子としては、温度検出器、生体検出器、赤外線検出器、テラヘルツ検出器及び熱−電気変換器等が挙げられる。
以上、本発明について説明したが、特に上記の実施形態によれば、90°ドメイン回転に起因する変位を利用することで、高い電気−機械変換能力、高感度な応力検出能力、高感度な振動検出能力、及び振動発電能力を有する圧電素子を構成でき、また、圧電体層全体の剛性が低いものとされた圧電素子を構成することができる。その上、90°ドメイン回転に起因する変位を利用し、また、圧電体層全体の剛性が低いものとすることで、高密度な液体噴射ヘッド、多様な液滴サイズコントロールが可能な液体噴射ヘッド、及び高粘度液体に対応可能な液体噴射ヘッドを構成することができる。さらに、90°ドメイン回転に起因する変位を利用し、また、圧電体層全体の剛性が低いものとすることで、高出力な超音波発信機、高ダイナミックレンジな超音波発信機、小型高集積化された超音波発信機、低発熱な超音波発信機、及び低消費電力な超音波発信機を構成することができる。そして、90°ドメイン回転に起因する変位を利用し、また、圧電体層全体の剛性が低いものとすることで、高感度な超音波検出器、高S/N比の超音波検出器、深部の検出が可能な超音波検出器、及び低消費電力な超音波検出器を構成することができる。