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JP6598396B2 - ホウ素アミノ酸製剤 - Google Patents
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JP6598396B2 - ホウ素アミノ酸製剤 - Google Patents

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Description

本発明はホウ素アミノ酸製剤に係り、特にヒト(人)や動物のがん等へのホウ素アミノ酸の集積技術に関する。
近年、国民の2人に1人ががんになると言われており、がん治療対策は緊急の課題となっている。また、獣医学領域をはじめ様々な分野で、動物(特に、犬や猫)の放射線照射によるがん治療について関心が高まっている。
がん治療の一つとして、放射線治療の一例であるホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)がある(特許文献1)。
ホウ素中性子捕捉療法は、がん細胞に取り込まれ易いホウ素-10(10B)を含んだホウ素アミノ酸を静脈注射や点滴等によりがん患者に投与してがん細胞に集積させた後、がん細胞へ中性子線を照射することによりがん治療を行うものである。ホウ素の同位体は、ホウ素-10とホウ素-11の2種類が存在し、ホウ素-11が天然のホウ素の約80%を占めているが、ホウ素-10の方が中性子の吸収でα線・リチウム原子核に分裂し易く、少ない投与量及び少ない中性子照射で効果を奏する。
ホウ素-10が取り込まれたがん細胞に中性子線を照射することにより、中性子線とホウ素-10との核反応で生じたα線・リチウム原子核ががん細胞だけを選択的に破壊することによりがんを治療する。
ホウ素中性子捕捉療法は、学術や技術の多分野で構成されているが、ホウ素中性子捕捉療法に使用する優秀なホウ素アミノ酸製剤の開発が最も重要となる技術といえる。
ホウ素中性子捕捉療法において、ホウ素アミノ酸は、ホウ素原子ががん患者のがん細胞に移行し、ホウ素中性子捕捉療法における治療有効濃度以上でがん細胞に集積し易いことが治療効果を高める上で要求される。
したがって、ホウ素アミノ酸製剤はがんに選択的に且つ確実に取り込まれることが重要である。ちなみにがんへのホウ素アミノ酸の治療有効濃度は、10B濃度として20ppm以上、好ましくは40ppm以上が好ましいとされている。
これまで、多様なホウ素アミノ酸製剤が開発され評価されてきたが、臨床研究に実用化されてきたホウ素アミノ酸製剤は1987年頃からの第一世代のp-ボロノフェニルアラニン(以下、BPAという)である。
このBPAには、フェニルアラニン部分が天然のフェニルアラニンと同じ型の立体配置であるL体(左型)のBPA(L-BPA)と、L体のBPAとは光学異性の関係にあるD体(右型)のBPA(D-BPA)と、L-BPAとD-BPAとが等分に混合したラセミ体(L体50%、D体50%)の3種類がある。
上記した3種類のBPAのうち、人間の身体の構成要素であるアミノ酸がL体であり、生体機構への親和性のあるL体のBPAが細胞組織に最も取り込まれ易いとされている。
図7は、L-BPAとD-BPAとについて生体機構への親和性を比較したものであり、マウス正常臓器(脳、血液、膵臓)への投与後時間に対する相対取込量PSL(輝尽発光)/mmをグラフ化したものである。グラフから分かるようにL-BPAは、D-BPAに比べて臓器への高い集積性を有することが分かる。
一方、図7に見られるように、L-BPAの臓器への高い集積に比べてD-BPAの集積は極めて低い。このことから、D-BPAは上記した治療有効濃度には達しないと考えられ、ホウ素中性子捕捉療法には適さないとされており、従来、D-BPAはホウ素中性子捕捉療法から除外されていた。
このため、従来のホウ素アミノ酸製剤は、主としてL体のBPAを使用している(例えば特許文献2)。
このような背景から、主としてL体のホウ素アミノ酸製剤の組成等について改良が行われてきた(例えば、特許文献2、特許文献3)。一方、D体のホウ素アミノ酸は、その性質の実態が明らかでなかったために、これに注目した体内動態(吸収、分布、代謝、排泄)の制御法(体内動態制御法)の開発は行われてこなかった。
ここで、体内動態制御を具体的に説明すると、がんへの集積性改善、がんと周辺正常組織とのコントラスト改良、一定時間の体内対流性と速やかな尿中排泄性の何れかを指す。これらは、代謝安定性、血中pH領域での溶解性などに影響される。
特開2016−159107号公報 特開2008−100925号公報 特開2009―051766号公報
しかしながら、従来のL体のホウ素アミノ酸製剤は、体内動態制御の改善、特にがんへの集積性改善とがんと周辺正常組織とのホウ素集積量のコントラスト改良の点で未だ不十分なままであった。
即ち、L体のBPAを被験体であるがん患者に投与すると、天然の栄養素であるL体のアミノ酸と同様に正常組織にも取り込まれるため、がんと周辺正常組織とのホウ素集積量のコントラストが悪くなる。そのため、中性子線が周辺正常組織に照射されると正常組織にも多く分布するホウ素の核反応による被ばくが大きいという問題がある。
このような背景から、BPA投与によるがんと周辺正常組織とのホウ素集積量のコントラストを従来よりも改良して正常組織の被ばくをできるだけ少なくするホウ素アミノ酸製剤が要望されている。このコントラスト改良においては、ホウ素中性子捕捉療法による治療有効濃度までがんに対するBPA濃度を高められることが大前提となる。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、がんへの高い集積選択性が可能となるので、ホウ素中性子捕捉療法の投与液として用いればがんと周辺正常組織とのホウ素集積量のコントラストを従来よりも改良でき、正常組織の被ばくを従来よりも少なくすることが可能なホウ素アミノ酸製剤を提供することを目的とする。
前記目的を達成するために、L体のホウ素アミノとD体のホウ素アミノ酸のうち、D体が60%以上であることを特徴とする。
本発明の好ましい態様として、D体が100%である。また、ホウ素アミノ酸はp-ボロノフェニルアラニンであることが好ましい。
本発明は、ホウ素アミノ酸製剤はホウ素中性子捕捉療法において被験体にホウ素アミノ酸を投与する投与液として使用されることが好ましい。
本発明のホウ素アミノ酸製剤によれば、BPAのがんへの高い集積選択性が可能となる。
したがって、本発明のホウ素アミノ酸製剤をホウ素中性子捕捉療法に使用すれば、BPA投与によるがんと周辺正常組織とのコントラストを従来よりも顕著に改良できるので、正常組織の被ばくを従来よりも少なくすることができる。
14C標識体のL-BPAとD-BPAの合成方法を説明する説明図 BPA投与によるがんと周辺正常組織とのホウ素集積量のコントラストを示すオートラジオグラムオートラジオグラム(画像写真) BPA集積相対比試験の試験結果を示す表図 BPA治療有効濃度試験の試験結果を示す表図 L-BPAとD-BPAの集積性試験の試験結果を示すグラフ 図5のグラフを基にホウ素アミノ酸製剤におけるD体の比率を検討する表図 L-BPAとD-BPAのマウス正常臓器への集積性を調べたグラフ
以下添付図面に従って、本発明に係るホウ素アミノ酸製剤の好ましい実施の形態について詳述する。
[本発明の構成]
本発明のホウ素アミノ酸製剤は、L体のホウ素アミノとD体のホウ素アミノ酸のうち、D体が60%以上(好ましくはD体が100%)であることを主たる発明とする。
また、本発明のホウ素アミノ酸製剤は、ホウ素中性子捕捉療法において被験体にホウ素アミノ酸を投与する投与液として使用されることが好ましい。
[本発明の経緯]
本発明者は、従来、細胞への集積性がL体のp-ボロノフェニルアラニン(p-phenylalanine:以下、L-BPAという)よりも極めて低く、ホウ素中性子捕捉療法には適さないと定説になっていたD体のp-ボロノフェニルアラニン(p-phenylalanine:以下、D-BPAという)について見直しを行った結果、次の知見を得た。
(1)D-BPAは、人間の身体の構成要素であるL体のアミノ酸構造と異なるD体であるため、正常組織への生理的集積性が小さく血中から速やかに消失するが、がんには徐々に集積されていく。これにより、がんと正常組織とにおけるD-BPAの集積相対比(がん/正常組織)を顕著に高めることができる。なお、ここで、がんには、腫瘍(癌、肉腫)、悪性黒色腫などが含まれる。
(2)中性子捕捉療法における治療有効濃度(10B濃度として20ppm以上、好ましくは40ppm以上)で見たときに、D-BPAは投与持続時間が20分を超えると、L-BPAと略同等のがんへの治療有効濃度に達する。
(3)上記(1)及び(2)のD-BPAの特性により、画像や映像等におけるがんと周辺正常組織とのホウ素集積量のコントラストを顕著に改良できる。これにより、ホウ素中性子捕捉療法の際に、がんと周辺正常組織とを明瞭に判別できるので、正常組織の被ばくを従来よりも顕著に低減できる。
なお、本実施の形態では、以下にホウ素アミノ酸として、主として使用されているBPAの例で説明するが、BPA以外のアミノ酸構造を有するホウ素アミノ酸についても適用できると考えられる。
次に上記知見に至った試験及びその結果を以下に説明する。
(A)コントラスト試験
14C標識体を有する14C-D-BPAと14C-L-BPAとをがんを有するマウスにそれぞれ投与したときに、がんと周辺正常組織とのホウ素集積量のコントラストをオートラジオグラム(画像写真)により対比した。
(B)集積相対比試験
14C標識体を有しないD-BPAと14C-L-BPAとをがんを有するマウスにそれぞれ投与したときに、がんと正常組織へのホウ素量を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP法)で分析し、がんと正常組織とにおけるBPAの集積相対比(がん/正常組織)を調べた。
(C)がんへの治療有効濃度試験
14C標識体を有しないD-BPAとL-BPAとをがんを有するマウスにそれぞれ投与したときに、がんへのホウ素量を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP法)で分析した。そして、投与時間とがんへの集積濃度を対比し、D-BPAがL-BPAと同様にホウ素中性子捕捉療法によるがんへの治療有効濃度まで集積されるかを調べた。合わせて、がんが存在する脳のBPA濃度、及びBPAをがんへ運ぶ血液のBPA濃度を調べた。
[プロトコール]
(がん細胞の培養)
試験に供するがん(がん細胞)の培養方法としては、75cm(t75)のフラスコ12個にそれぞれ、10%のウシ胎児血清とL-glutamine(3.5mM)を含む細胞培養液DMEM〔(Dulbecco's Modified Eagle's Medium(Sigma-Aldrich))を20mL入れた。そして、がんとしてマウス神経膠腫GL261細胞株を細胞培養液の入ったそれぞれのフラスコに8.0×10cellsずつ播種し、温度37℃、pH7.4、CO濃度5%の培養条件下のインキュベータで4日間培養した。
(担がんマウスの作成)
上記培養後に、0.15mLのリン酸緩衝溶液に懸濁したマウス神経膠腫GL261細胞(1.02×10個細胞/匹)を、KSN-slc雄性マウスの5〜6週齢に皮下移植し、試験に供する担がんマウスを得た。そして、担がんマウスのがん直径が0.5〜1.0cm程度になったところで試験を行った。担がんマウスの飼育における餌や水は、通常のSPFの環境で行った。
[コントラスト試験]
(試験方法)
14C-L-BPA及び14C-D-BPAの合成>
図1は、14C-L-BPA及び14C-D-BPAの合成経路を示すものである。なお、図1では、[14C]L-phenylalanine(1)を出発物質とし、2,3,4,5のナンバーで示す化合物を経て目的とする14C-L-BPA又は14C-D-BPAが合成されていることを示す。
下記の合成経路の説明において、ナンバーの2,3,4,5を化合物名と一緒に記載する場合には、化合物名(2)のようにナンバーにカッコを付けて記載する。
本実施の形態において、14C-L-BPA及び14C-D-BPAの合成は、下記の文献の合成方法に従い、保護基を一部変更して行った。
文献…Malan,C.; Morin,C.J.Org.Chem.,1998,63,801
前準備として、[14C]KCNからStrecker法により合成した[14C]DL-phenylalanineを、酒石酸を使用して光学分割し、L体のBPAを合成するための出発原料である図1の[14C]L-phenylalanine(1)を得た。
次に、図1に示すように、得られた[14C]L-phenylalanine(1)をヨード化し、[14C]4-iodo-L-phenylalanine(2)を合成した。そして、カルボキシル基及びアミノ基をそれぞれ保護して化合物(3)を得た後、ピナコールボランとのカップリングによりボロン酸エステル(4)に変換した。また、変換したボロン酸エステル(4)を脱保護することでボロン酸(5)を得た。
最後に、酸性条件下でカルボキシル基及びアミノ基の脱保護を行い、目的とする[14C]L-BPAを作成した。
また、出発原料として光学分割した一方の、[14C]D-phenylalanineを用いることによって、上記と同様の合成方法により[14C]D-BPAを合成した。
<14C-BPA投与液の作成>
14C-L-BPA及び14C-D-BPAのそれぞれについて、生理食塩水を用いて放射能濃度が185kBq/100μLになるようにして、L-BPAとD-BPAとの2種類の14C-BPA投与液を作成した。
<14C-BPA投与液の投与及びオートラジオグラムの取得>
上記の複数の担がんマウスのうち、一方群の担がんマウスに14C-L-BPA投与液を尾静脈から100μL/匹を投与し、他方群の担がんマウスに14C-D-BPA投与液を尾静脈から100μL/匹投与した。
投与30分後に直ちに、それぞれの担がんマウスにセボフルラン過剰吸引させて安楽死させてから臓器を摘出し、摘出した臓器についてオートラジオグラフにより測定を行った。
オートラジオグラフィー(autoradiography)は、放射線写真法やオートラジオグラフ法とも呼ばれ、細胞組織に分布している放射性物質から放出されるベータ線粒子やガンマ線から オートラジオグラム(画像写真)を作成する方法である。生物学においては、放射性物質が特定の組織に滞留することを確認する方法として用いられる。
(試験結果)
図2の(A)は、14C-L-BPA投与液を担がんマウスに投与したときの臓器についてオートラジオグラフィーにより測定を行ったオートラジオグラム(画像写真)である。また、(B)は、14C-D-BPA投与液を担がんマウスに投与したときの臓器についてオートラジオグラフィーにより測定を行ったオートラジオグラム(画像写真)である。
図2の(A)と(B)において、矢印で指し示す部分が、担がんマウスに移植したがん(腫瘍)の部分である。
図2の(A)と(B)との画像写真比較から分かるように、14C-L-BPA投与液を担がんマウスに投与した場合に比べて、14C-D-BPA投与液を担がんマウスに投与した場合の方ががんと周辺正常組織とのホウ素集積量のコントラストが顕著に高い((著しく改良された)結果となった。
このことから、L-BPAはがん及び正常組織の両方に集積される特性があるが、D-BPAはがんに極めて選択的に集積される特性があることが分かる。
次に、集積相対比試験及び治療有効濃度試験について説明する。
[集積相対比試験及び治療有効濃度試験]
L-BPA(コールド化合物)とD-BPA(コールド化合物)のそれぞれのホウ素アミノ酸の投与液を担がんマウスに投与して、がん(腫瘍)と脳実質(正常組織)とへの集積相対比、及び各臓器(がん、脳、血液)におけるBPA濃度と投与持続時間(以下、「投与時間」という)との関係を調べた。
ここでコールド化合物とは、14C標識体を有しない化合物を言う。なお、後記する投与後時間は、投与終了後からの時間を言い、投与持続時間(投与時間)とは区別する。
また、がんと脳実質(正常組織)とへのBPAの集積相対比とは、脳実質へのBPAの集積濃度を1としたときのがんへのBPAの集積濃度の比で示される。また、がんへの治療有効濃度は、上述の通り、10B濃度として20ppm以上とした。
(試験方法)
<ホウ素アミノ酸製剤の作成>
L-BPA(コールド化合物)又はD-BPA(コールド化合物)に、糖を加えてホウ素アミノ酸製剤を作成した。本実施の形態では、糖としてD体のフルクトースを使用した。従来から、D体のフルクトースはホウ素アミノ酸製剤の水に対する溶解度を上げることができることで知られている。
コールド化合物のL-BPA及びD-BPAについては、次に示すMerck社の市販薬剤を使用した。
・L-BPA…4-Borono-L-phenylalanine(カタログ番号17755-250MG)
・D-BPA…4-Borono-D-phenylalanine(カタログ番号68047-250MG)
このホウ素アミノ酸製剤の投与液の担がんマウスに投与する成分最終濃度は、L-BPA及びD-BPAともに、糖5.41W/V%、BPA2.51W/V%に調整した。
<投与液の投与>
上記の如く得られたそれぞれのBPA投与液を20μL/分の投与速度で担がんマウスの尾静脈から10分間、20分間、30分間で持続投与した。
<ホウ素分析>
投与後直ちに、それぞれの担がんマウスにセボフルランを過剰吸引させて安楽死させてから臓器を摘出した。摘出した臓器について、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP法)によりホウ素分析を行い、がん(腫瘍)と脳実質(正常組織)とへの集積相対比、及び各臓器(がん(腫瘍)、脳、血液)のBPA濃度と投与持続時間との関係を調べた。
なお、脳実質とは、海馬および側・後頭葉大 脳皮質、前脳大脳皮質、並びに視床からなる群から選択される少なくとも1つ部位の実質であり得る。
(集積相対比の試験結果)
集積相対比試験では、投与後時間が30分、60分、120分における集積相対比(図3では単に相対比と表示)を調べた。
図3から分かるように、投与後のいずれの時間においても、L-BPAのホウ素アミノ酸製剤よりもD-BPAのホウ素アミノ酸製剤の方が集積相対比(がん(腫瘍)/脳実質)が、当該治療法の達成目標とされてきた10倍を大きく上回る20倍を超え、顕著に高めることができた。このことは、コントラスト試験の画像に示す結果とも一致する。
このことから、L-BPAはがん及び正常組織の両方に集積される傾向にあるが、D-BPAは正常組織に集積され難い一方、がんに想定以上に集積され易いことが分かる。
(治療有効濃度の試験結果)
図4の(A)はL-BPAのホウ素アミノ酸製剤の投与液を投与した場合であり、(B)はD-BPAのホウ素アミノ酸製剤の投与液を投与した場合である。
なお、治療有効濃度試験では、投与時間が10分、20分、30分における各臓器の複数サンプル(表のサンプル数参照)のホウ素濃度を測定し、平均値と広がり幅とで表示した。
図4の(A)と(B)との対比から分かるように、D-BPAのホウ素アミノ酸製剤はL-BPAのホウ素アミノ酸製剤に比べてがん(腫瘍)へ集積されるホウ素濃度は若干低いものの、投与後20分では治療有効濃度の20ppm(10Bとして)に略達し、投与後30分であれば確実に治療有効濃度に達することができる。
このことから、従来、治療有効濃度には達しないと考えられ、ホウ素中性子捕捉療法には適さないとされていたD-BPAのホウ素アミノ酸製剤は、十分に治療有効濃度に達することができることが分かった。
また、がん(腫瘍)を有する脳とBPAを運搬する血液について投与時間10分、20分、30分における集積濃度の上昇について見ると、いずれの投与時間においても脳及び血液ともに、D-BPAのホウ素アミノ酸製剤はL-BPAのホウ素アミノ酸製剤に比べて小さい。このことは、D-BPAのホウ素アミノ酸製剤はL-BPAのホウ素アミノ酸製剤に比べて脳や血液等の正常組織からは排出され易いことが考えられ、正常組織へのホウ素の集積を小さくできることが分かる。
このことから、L体のホウ素アミノ酸はがん以外の正常組織にも高い集積性を示す一方、D体のホウ素アミノ酸はがんに対して極めて選択的な集積性を示す。
以上のコントラスト試験、集積相対比試験、及び治療有効濃度試験の試験結果から、D-BPAは、L-BPAと略同等の治療有効濃度を具備し、且つL-BPAを用いたホウ素中性子捕捉療法に比べてがんと正常組織とのホウ素集積量のコントラストを顕著に改良できることが分かった。
したがって、ホウ素中性子捕捉療法において、がんと周辺正常組織とのホウ素集積量のコントラストを最大にするには、ホウ素アミノ酸はD体が100%であることが理想的である。しかし、D-BPA100%のホウ素アミノ酸を単離することは、ホウ素アミノ酸製剤の製造コストアップにつながる。
そこで、本発明者は、がん細胞にL-BPAとD-BPAとを等量投与したときの取込時間(投与後時間と同じ)と細胞への取込率とを調べ、取込時間を考慮した場合のホウ素アミノ酸製剤におけるD体とL体の好ましい比率を検討した。
(D)14C-L-BPAと14C-D-BPAのがん細胞への取込性試験
14C標識体のL-BPAとD-BPAとをがん細胞に等量投与したときに、細胞内への取込性(取り込まれ易さ)を、取込率と取込時間との関係で調べた。
(試験方法)
上記のがん細胞の培養で使用した細胞培養液のDMEMをディッシュ(シャーレ)から取り除いた。そして、37℃、pH7.4のCa2+を含むリン酸緩衝液(PBS)2mLの条件下で10分間インキュベートした。
次に、そのディッシュ(シャーレ)からリン酸緩衝液を除去し、放射能18.5kBqの14C-L-BPA又は14C-D-BPAを含むリン酸緩衝液2mLの存在下で0分間、5分間、10分間、15分間、30分間、45分間、60分間、90分間、120分間インキュベートした。即ち、取込時間を0分間、5分間、10分間、15分間、30分間、45分間、60分間、90分間、120分間とした。
その後、それぞれの取込時間が経過したディッシュ(シャーレ)から放射能を含むリン酸緩衝液を除去し、4℃のリン酸緩衝液で細胞表面を2回洗浄し、1N-NaOHの2mLを加え、24時間置いて細胞を溶解して測定サンプルとした。
これにより、同じ放射能18.5kBqを有する14C-L-BPAと14C-D-BPAとのそれぞれについて、取込時間が異なる9個ずつ合計18個の測定サンプルを得た。
そして、18個の測定サンプルについて、液体シンチレーションカウンタにより、測定サンプル200μLの放射線量を計測した。
即ち、同じ放射能18.5kBqを有する14C-L-BPAと14C-D-BPAとをそれぞれ培養細胞に接触させて放射能量の経時変化を見ることで、L体とD体のがん細胞への取込率と取込時間との関係を調べた。
(試験結果)
図5は、横軸の取込時間(投与後時間と同じ)に対する14C-BPAの細胞への取込率を縦軸し示して、取込時間に対する取込率をグラフ化したものである。図5のグラフにおいて、菱形(◆)のプロットが14C-L-BPAであり、四角(■)のプロットが14C-D-BPAである。また、縦軸の取込率は、14C-BPAの投与量全体を100としたときの各取込時間における取込量を比率(%)で示したものである。また、取込時間は分で示した。図6は、各取込時間における14C-L-BPA又は14C-D-BPAの取込率の具体的数値を示したものである。
図5に示すように、14C--BPAのがん細胞への取込率の推移は、取込時間5分で最大値近傍まで上昇し、取込時間15分で最大値となった後、次第に減少する。一方、14C-D-BPAのがん細胞への取込率の推移は、取込時間120分まで緩やかに上昇し続ける。
図5のグラフから分かるように、14C-L-BPAはがん細胞への取込速度は速いが、一度がん細胞内に取り込まれた14C-L-BPAは時間の経過とともにがん細胞外へ流出していく性質があることが分かる。一方、14C-D-BPAは、がん細胞への取込速度は遅いが、一度がん細胞内に取り込まれた14C-D-BPAは時間が経過してもがん細胞外へ流出せずにがん細胞内に集積していく性質があることが分かる。
図6の表から分かるように、取込時間5分における14C-L-BPAの取込率は15.933%であるのに対して、14C-D-BPAの取込率は1.555%となる。即ち、取込時間5分では、14C-L-BPAは14C-D-BPAの10.246倍の集積速度比(L/D)でがん細胞に取り込まれる。換言すると、取込時間5分では、14C-D-BPAは14C-L-BPAの1/10.246の集積速度であり、がん細胞内集積効果が小さい。
したがって、取込時間5分の取込率で見た場合、14C-D-BPAが14C-L-BPAと同等以上のがん細胞内集積効果を得るには、14C-D-BPAは14C-L-BPAの10.246倍以上の濃度を必要とする。即ち、取込時間5分で従来のL-BPA単独なホウ素アミノ酸製剤と同等以上のがん細胞内集積効果を有するホウ素アミノ酸製剤を得るには、L体とD体のBPAのうちD体の比率が0.9111(91.11%)以上なければならないことが分かる。
ただし、図5から分かるように、一度がん細胞内に集積した14C-D-BPAは、14C-L-BPAと異なってがん細胞外へ流出し難く取込時間の経過とともに取込率が増加するので、取込速度の遅さを取込時間で補うことも可能である。この場合、ホウ素中性子捕捉療法において、ホウ素アミノ酸製剤の投与液の被験体への投与時間及び投与後の中性子の放射時間を考慮すると、120分以上の取込時間は実用上考え難い。したがって、取込時間120分、好ましくは60分でのD体の比率を計算すると、59.55%(取込時間120分)、68.5%(取込時間60分)となる。
即ち、従来からホウ素中性子捕捉療法に使用されていたL-BPAのホウ素アミノ酸製剤と同等以上のがん細胞内集積効果を有し、且つがんと正常組織とのホウ素集積量のコントラストを改良した実用的なホウ素アミノ酸製剤を得るには、59.55%(取込時間120分)以上、きりのよい数値として60%以上のD体の比率を有することが好ましいと言える。
ちなみに、ラセミ体(L体50%、D体50%)の場合には、上述の実用的な取込時間120分以内では効果的ながん細胞内集積効果を得ることができないと考えられる。
[本発明の効果のまとめ]
(I)本発明のホウ素アミノ酸製剤をホウ素中性子捕捉療法の投与液として用いることによって、正常組織へのホウ素の集積を小さくでき、がんと正常組織とのホウ素集積量のコントラストが従来よりも顕著に明確になる。これにより、ホウ素中性子捕捉療法による中性子線を略がんにのみ照射することが可能となるので、中性子線による正常組織への被ばくを顕著に小さくすることができる。
(II)本発明のホウ素アミノ酸製剤は、正常組織へのホウ素の集積を小さくできるので、その分、従来よりもBPAの投与量を少なくでき、BPA薬剤のコスト削減になる。
(III)D-BPAはL-BPAに比べて代謝されにくく、代謝により多種類の代謝物が生成されるL-BPAに比べて体内分布が非常に単純で薬物動態を把握し易い。これにより、D-BPAはL-BPAよりも治療効果を予測し易い。
なお、マウス以外の他の動物やヒト(人)への応用の際には、例えば11C標識D-BPAや18F標識D-BPAを用いた陽電子断層撮影などにより体内分布を画像化し、ホウ素10を用いた製剤がその適用予定の個体でがんに集積され得るかを事前に診断するとよい。

Claims (2)

  1. ホウ素中性子捕捉療法に使用するためのホウ素アミノ酸製剤であって、
    ホウ素アミノ酸としてp-ボロノフェニルアラニンを含み、
    前記p-ボロノフェニルアラニンは、体とD体のうち、D体が60%以上であり、
    被験体の静脈に持続投与して用いられることを特徴とするホウ素アミノ酸製剤。
  2. 前記D体が100%である請求項1に記載のホウ素アミノ酸製剤。
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