圧縮機のスクロールは、端板と壁体の繋ぎ部分の隅部に運転時に応力集中が発生して疲労によるクラックが発生しやすい。従って、疲労によるクラックの発生が顕著である上記所望箇所に圧縮側の残留応力を負荷させ、疲労強度の向上を測ることが望ましい。その残留応力の負荷手段としては、ピーニングなどがあるが、通常のショットピーニングなどでは上記所望箇所にはピーニング用の鋼球などがあたらないためスクロールへの適用は適さない。また、ショットピーニングに対してウォータージェットによるキャビテーション気泡は、上記所望箇所のような狭い箇所にも届きやすいのでスクロールへの適用はショットピーニングなどよりも向いている。
しかし、ウォータージェットによるキャビテーション気泡が向いているとはいっても、スクロールは、端板に壁体が立設された形状であり、特許文献2に示す試験片のような板状ではないため、上記所望箇所にキャビテーション気泡を衝突させ難く、当該所望箇所に圧縮残留応力を発生させることが困難であるという問題があった。
本発明は上述した課題を解決するものであり、スクロールの所望箇所にキャビテーション気泡を適宜衝突させることのできる圧縮機用スクロールの製造方法、製造装置、およびクラックの発生が防止された圧縮機用スクロールおよびスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
上述の目的を達成するために、本発明の圧縮機用スクロールの製造方法は、第一端板の一側面に渦巻き状の第一壁体が設けられた第一スクロールと、第二端板の一側面に渦巻き状の第二壁体が設けられて当該第二壁体を前記第一スクロールの前記第一壁体に対してかみ合わせた状態で自転を阻止されつつ公転旋回可能に支持される第二スクロールと、を有し、各前記端板の各前記一側面の高さを各前記壁体に沿う渦の中心部側で高くし外終端側で低くした段差部、および各前記壁体の高さを渦の中心部側で低くし外終端側で高くして各前記スクロールで相互の前記段差部に係合する段付部が形成された圧縮機用スクロールの製造方法であって、水中にて、ウォータージェットを噴射することで形成されるキャビテーション気泡を前記スクロールにおける前記端板の前記一側面に向けて噴射させ、当該キャビテーション気泡の中心を前記端板における前記壁体の渦巻き状の中心から離隔させた状態で、前記キャビテーション気泡の外周部分に前記段差部および前記段付部を位置させるウォータージェットピーニング工程を含むことを特徴とする。
この圧縮機用スクロールの製造方法によれば、キャビテーション気泡の中心を端板における壁体の渦巻き状の中心から離隔させた状態で、キャビテーション気泡の範囲の外周部分に段差部および段付部を位置させると、キャビテーション気泡の中心の位置が、壁体による渦巻き状の通路において段差部および段付部近傍の壁体の接合する隅部に至り直線上の位置となり、キャビテーション気泡を含む液体流の流れが壁体により妨害されないため、隅部にキャビテーション気泡を衝突させることができる。つまり、スクロールの所望箇所にキャビテーション気泡を適宜衝突させることができ、当該所望箇所に圧縮残留応力を発生させ、クラックの発生を防止することができる。
また、本発明の圧縮機用スクロールの製造方法では、前記ウォータージェットピーニング工程は、前記キャビテーション気泡と前記スクロールとの前記位置を含み、前記段差部と前記段付部とを直線で結ぶ仮想線に交差するように、前記キャビテーション気泡と前記スクロールとを相対移動させることを特徴とする。
この圧縮機用スクロールの製造方法によれば、スクロールの所望箇所(隅部)にキャビテーション気泡を適宜衝突させることができ、当該所望箇所に圧縮残留応力を発生させ、クラックの発生を防止することができる。
また、本発明の圧縮機用スクロールの製造方法では、前記ウォータージェットピーニング工程は、前記キャビテーション気泡と前記スクロールとの前記位置において、前記キャビテーション気泡と前記スクロールとの相対移動を所定時間停止することを特徴とする。
この圧縮機用スクロールの製造方法によれば、スクロールの所望箇所(隅部)にキャビテーション気泡を十分に衝突させることができ、当該所望箇所に圧縮残留応力を発生させ、クラックの発生を防止することができる。
また、本発明の圧縮機用スクロールの製造方法では、前記スクロールに表面処理を実施する以前に、前記ウォータージェットピーニング工程を行うことを特徴とする。
この圧縮機用スクロールの製造方法によれば、スクロールに表面処理を実施する以前に、ウォータージェットピーニング工程を行うことで、キャビテーション気泡の衝突による圧縮残留応力の発生を助勢し、クラックの発生を防止する効果を顕著に得ることができる。
また、本発明の圧縮機用スクロールの製造方法では、前記キャビテーション気泡を発生させる水中に洗浄液を混入することを特徴とする。
この圧縮機用スクロールの製造方法によれば、ウォータージェットピーニング工程と同時に洗浄液によるスクロールの洗浄を行うことができる。
上述の目的を達成するために、本発明の圧縮機用スクロールの製造装置は、第一端板の一側面に渦巻き状の第一壁体が設けられた第一スクロールと、第二端板の一側面に渦巻き状の第二壁体が設けられて当該第二壁体を前記第一スクロールの前記第一壁体に対してかみ合わせた状態で自転を阻止されつつ公転旋回可能に支持される第二スクロールと、を有し、各前記端板の各前記一側面の高さを各前記壁体に沿う渦の中心部側で高くし外終端側で低くした段差部、および各前記壁体の高さを渦の中心部側で低くし外終端側で高くして各前記スクロールで相互の前記段差部に係合する段付部が形成された圧縮機用スクロールの製造装置であって、水が満たされる容器と、前記容器内に前記スクロールを位置決めして配置する位置決手段と、前記容器内の水中に配置されて前記スクロールに向けてウォータージェットを噴射するノズルを有するウォータージェット噴射手段と、を備え、前記ウォータージェット噴射手段のウォータージェットにより前記容器の水中にて生じるキャビテーション気泡を、前記位置決手段により位置決めされた前記スクロールの前記一側面に向けて噴射させ、当該キャビテーション気泡の中心を前記端板における前記壁体の渦巻き状の中心から離隔させた状態で、前記キャビテーション気泡の外周部分に前記段差部および前記段付部を位置させることを特徴とする。
この圧縮機用スクロールの製造装置によれば、上述した圧縮機用スクロールの製造方法におけるウォータージェットピーニング工程を実施できる。
また、本発明の圧縮機用スクロールの製造装置では、前記位置決手段は、前記スクロールにおける前記端板に係合して前記スクロールを固定する固定機構を有することを特徴とする。
この圧縮機用スクロールの製造装置によれば、固定機構によりスクロールを固定することで、キャビテーション気泡がスクロールに衝突する際にスクロールを保持し、所望箇所(隅部)にキャビテーション気泡を適宜衝突させることができ、当該所望箇所に圧縮残留応力を発生させ、クラックの発生を防止することができる。
また、本発明の圧縮機用スクロールの製造装置では、前記位置決手段は、前記キャビテーション気泡と前記スクロールとの前記位置を含み、前記段差部と前記段付部とを直線で結ぶ仮想線に交差するように、前記スクロールを移動させる移動機構を有することを特徴とする。
この圧縮機用スクロールの製造装置によれば、スクロールの所望箇所(隅部)にキャビテーション気泡を適宜衝突させることができ、当該所望箇所に圧縮残留応力を発生させ、クラックの発生を防止することができる。
また、本発明の圧縮機用スクロールの製造装置では、前記移動機構は、前記固定機構を複数有して複数の前記スクロールを移動させることを特徴とする。
この圧縮機用スクロールの製造装置によれば、複数のスクロールの所望箇所(隅部)に、順次キャビテーション気泡を適宜衝突させることができる。この結果、上述した圧縮機用スクロールの製造方法におけるウォータージェットピーニング工程を効率的に実施できる。
また、本発明の圧縮機用スクロールの製造装置では、前記ウォータージェット噴射手段は、前記キャビテーション気泡が前記スクロールに対して旋回するように前記ノズルを旋回移動させる旋回機構を有することを特徴とする。
この圧縮機用スクロールの製造装置によれば、端板と壁体との内角部である所望箇所(隅部)に対してキャビテーション気泡が直接衝突するため、スクロールの所望箇所にキャビテーション気泡を十分に衝突させることができる。
上述の目的を達成するために、本発明の圧縮機用スクロールは、上述した圧縮機用スクロールの製造装置を用いて作成されたことを特徴とする。
この圧縮機用スクロールによれば、クラックの発生が防止され、当該クラックに基づく故障の発生を低減することができる。
上述の目的を達成するために、本発明のスクロール圧縮機は、上述した圧縮機用スクロールが適用されたことを特徴とする。
このスクロール圧縮機によれば、スクロールにおけるクラックの発生が防止され、当該クラックに基づく故障の発生を低減することができる。
本発明によれば、スクロールの所望箇所にキャビテーション気泡を適宜衝突させることができる。
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
図1は、本実施形態に係るスクロール圧縮機の一例をあらわす断面図、図2は、本実施形態に係る固定スクロールおよび旋回スクロールの斜視図、図3は、本実施形態に係る固定スクロールの正面図、図4は、本実施形態に係る旋回スクロールの正面図である。
図1に示すスクロール圧縮機10は、主として車両用空調装置の冷媒を圧縮するために用いられる。このスクロール圧縮機10は、ハウジング11の内部に、第一スクロールとしての固定スクロール12および第二スクロールとしての旋回スクロール13からなるスクロール圧縮機構が配設される。
ハウジング11は、ハウジング本体11Aと蓋体11Bとで構成されている。ハウジング本体11Aは、筒状の大径部11Aaと小径部11Abとが一体に形成された中空形状である。ハウジング本体11Aの大径部11Aa側は、その開口端部にお椀型の蓋体11Bが嵌合した状態で、複数のボルト20により固定されて閉塞される。ハウジング本体11Aの小径部11Ab側は、駆動軸14が挿通され、軸シール11Dにより駆動軸14との間が封止される。このようにして、ハウジング11は、スクロール圧縮機構全体を包む密閉容器として構成される。
固定スクロール12は、図2に示すように、円盤形状をなす端板(ディスク)12Aと、この端板12Aの一側面に立設して渦巻き状に形成された壁体(ラップ)12Bと、を有している。
固定スクロール12は、図2および図3に示すように、端板12Aにおいて壁体12Bを立設した一側面に、壁体12Bの渦の方向に沿って中心部側で高く外終端側で低くなるように段差部12Aaが形成されている。また、固定スクロール12は、壁体12Bにおいて渦の中心部側で低く外終端側で高くなるように段付部12Baが形成されている。さらに、固定スクロール12は、壁体12Bの端縁に溝が形成され、当該溝にチップシール12Bbが設けられる。なお、本実施形態において、固定スクロール12は、図3に示すように、端板12Aにおいて後述する圧縮室S1における過大圧縮を防止するためのバイパス孔12Abが形成されている。
旋回スクロール13は、図2に示すように、固定スクロール12と同様に、円盤形状をなす端板(ディスク)13Aと、この端板13Aの一側面に立設して渦巻き状に形成された壁体(ラップ)13Bと、を有している。
旋回スクロール13は、図2および図4に示すように、固定スクロール12と同様に、端板13Aにおいて壁体13Bを立設した一側面に、壁体13Bの渦の方向に沿って中心部側で高く外終端側で低くなるように段差部13Aaが形成されている。また、旋回スクロール13は、壁体13Bにおいて渦の中心部側で低く外終端側で高くなるように段付部13Baが形成されている。さらに、旋回スクロール13は、壁体13Bの端縁に溝が形成され、当該溝にチップシール13Bbが設けられる。
これら、固定スクロール12および旋回スクロール13は、図1に示すように、ハウジング本体11Aの大径部11Aa内に配設され、相互の端板12A,13Aの一側面を対向し壁体12B,13Bが180°だけ位相をずらして噛み合うように組み合わされて先端が端板12A,13Aの一側面に接触した状態で、端板12A,13Aおよび壁体12B,13Bで区画された空間に圧縮室S1が形成される。この際、固定スクロール12および旋回スクロール13は、相互に組み合わされた状態で、相互の段差部12Aa,13Aaと段付部12Ba,13Baとが係合することになる。また、図1に示すように、ハウジング本体11A内において、固定スクロール12および旋回スクロール13の各壁体12B,13Bが組み合わされた外周に、圧縮室S1に通じる吸入室S3が形成される。そして、ハウジング本体11Aは、冷媒ガスを吸入する吸入口11Acが形成され、この吸入口11Acが吸入室S3に開口している。
また、固定スクロール12は、図1に示すように、端板12Aの他側面の外周部が蓋体11Bの内周面に密着、かつ嵌合した状態で、複数のボルト21により蓋体11Bに対して複数箇所で固定される。このようにして、固定スクロール12の端板12Aの他側に、ハウジング11の蓋体11Bとの間の空間である吐出室S2が区画される。固定スクロール12は、端板12Aにおいて壁体12Bの渦巻き状の中央となる位置に、圧縮室S1および吐出室S2に通じるように貫通して形成された吐出ポート12Cが設けられている。また、固定スクロール12は、端板12Aに、所定の大きさ以上の圧力が作用した場合にのみ吐出ポート12Cを開くように板バネにより形成された吐出弁12Dが設けられている。
また、旋回スクロール13は、端板13Aの他側面がハウジング本体11A内における大径部11Aaと小径部11Abとの境となる壁面11Adに当接することで、駆動軸14の延在方向である軸方向への移動が規制される。
駆動軸14は、上述したように、ハウジング本体11Aの小径部11Abに挿通されている。駆動軸14は、図1に示すように、小径部11Ab内において、一端部14Aが軸受22により支持され、中央部に形成された大径の円盤部14Bが軸受23により支持されて、回転自在に設けられている。また、駆動軸14は、その他端部において、駆動軸14の回転中心に対して偏心した偏心軸14Cが円盤部14Bに一体に設けられている。この偏心軸14Cは、駆動軸14の回転に伴って旋回移動する。
偏心軸14Cは、その外周部にバランスブッシュ24が嵌合されている。バランスブッシュ24は、偏心軸14Cと一体に旋回移動する。また、バランスブッシュ24は、旋回スクロール13に生じるアンバランス量を打ち消すためのバランスウェイト24Aが一体に設けられている。バランスブッシュ24の偏心軸14Cに嵌合された部分は、円柱形状に形成され、その外周部に円環状のドライブブッシュ25が装着されている。
その一方で、旋回スクロール13は、端板13Aの他側の中央部に突出するボス13Cが設けられている。ボス13Cには、壁体12Bの渦巻き状の中央となる位置に中心を有する円形状の凹部13Dが形成されている。そして、この旋回スクロール13の凹部13Dに、軸受26を介して相対回転可能にドライブブッシュ25が挿入されている。また、旋回スクロール13は、端板13Aの他側の外周部に円形状の自転規制凹部13Eが形成されている。自転規制凹部13Eは、凹部13Dを中心として複数設けられている。この自転規制凹部13Eは、ハウジング本体11Aに固定された自転防止ピン11Aeが挿入されている。自転防止ピン11Aeが自転規制凹部13Eに挿入することで、旋回スクロール13の自転が阻止される。
また、駆動軸14は、駆動部15により回転を駆動される。駆動部15は、ハウジング本体11Aの小径部11Abの外周部に装着された軸受27により回転自在に支持されたプーリ15Aを有する。また、駆動部15は、駆動軸14の一端部14Aに対してナット28により固定された回転板15Bを有する。回転板15Bは、その外周部に支持リング15Cが連結されている。そして、この支持リング15Cにプーリ15Aの端面が固定されている。また、プーリ15Aは、その内部に電磁クラッチ15Dが設けられている。このプーリ15Aは、図示しない駆動ベルトを介して駆動源(例えば、エンジン)からの回転が伝達される。
このように構成されたスクロール圧縮機10は、電磁クラッチ15Dが解除されている状態で、駆動源の回転が駆動部15のプーリ15Aに伝達され駆動軸14が回転する。この駆動軸14の回転により、偏心軸14Cが偏心して回転移動する。そして、偏心軸14Cの回転移動が、バランスブッシュ24およびドライブブッシュ25を介して旋回スクロール13に伝達される。旋回スクロール13は、自転規制凹部13Eと自転防止ピン11Aeとの係合により自転が阻止されながら公転旋回する。これにより、冷媒ガスが吸入口11Acからハウジング11内の吸入室S3に吸い込まれ、この吸入室S3の冷媒ガスが圧縮室S1に吸い込まれる。そして、旋回スクロール13が旋回を続けると、これに伴って圧縮室S1が各スクロール12,13の中央に向かって次第に狭められ、容積が減少することで内部の冷媒ガスが圧縮されながら各スクロール12,13の中央部に流動し、やがて吐出ポート12Cに至り、吐出弁12Dが圧縮室S1と吐出室S2との差圧により開閉する。即ち、圧縮室S1の冷媒ガスが圧縮されてその圧力が吐出室S2の圧力よりも高くなることで、この冷媒ガスが吐出弁12Dを押し開いて吐出室S2に流出する。その後、高圧の冷媒ガスは、吐出室S2から蓋体11Bに形成された吐出口(図示せず)を経てハウジング11の外部に吐き出され、車両に搭載された空調機に導入される。
以下、本実施形態の圧縮機用スクロールの製造方法および製造装置について説明する。図5は、本実施形態に係る圧縮機用スクロールの製造方法をあらわす概略図である。図6は、本実施形態に係る圧縮機用スクロールの製造装置をあらわす概略側面図である。なお、以下の説明において、圧縮機用スクロールとは、上述した固定スクロール12および旋回スクロール13を含んでおり、以下では、単にスクロールという。また、以下の説明では、便宜上、スクロールとして図5および図6に旋回スクロール13を図示して説明する。
本実施形態の圧縮機用スクロールの製造方法および製造装置は、スクロール13の端板13Aと壁体13Bとの隅部におけるクラック発生を改善するため、当該隅部に対し、水中にてウォータージェットの噴出によりキャビテーション現象によって発生するキャビテーション気泡を含む液体流を衝突させることで、キャビテーション気泡の崩壊により生じる衝撃力によって金属材料に圧縮残留応力を発生させる。
ここで、クラックが顕著に表れやすい部分であって、圧縮残留応力を発生させたい所望箇所は、図5に示すように、段付部13Baが設けられている付近の渦の壁体13B付け根の隅部A、および段差部13Aaが設けられている付近の渦の壁体13B付け根の各隅部Bがある。この隅部A,Bは応力集中をしやすい形状となっている。また、特にこの隅部Bは隅部と隅部が合流する部分になり特に応力集中しやすい。そのため隅部A,Bにキャビテーション気泡を衝突させることが望まれる。
そこで、本実施形態の圧縮機用スクロールの製造方法では、図5に示すように、ウォータージェットピーニング工程として、スクロール13における端板13Aの一側面に向けてキャビテーション気泡Cを噴射させ、当該キャビテーション気泡Cの中心Pを端板13Aにおける壁体13Bの渦巻き状の中心Oから離隔させた状態で、キャビテーション気泡Cの範囲(図5中二点鎖線で示す円の範囲)の外周部分に段差部13Aaおよび段付部13Baを位置させる。キャビテーション気泡Cの中心Pの位置は、図5に示すように、壁体13Bによる渦巻き状の通路において隅部A,Bが直線上に位置するP1や、壁体13Bによる渦巻き状の通路において隅部Bが直線上に位置するP2や、壁体13Bによる渦巻き状の通路において隅部Bが直線上に位置するP3がある。
例えば、キャビテーション気泡Cの中心Pを端板13Aにおける壁体13Bの渦巻き状の中心O上に位置させた場合、壁体13Bによる渦巻き状の通路において隅部A,Bが直線上に位置しないことから、キャビテーション気泡Cを含む液体流の流れが壁体13Bにより妨害されて乱れるため、隅部A,Bにキャビテーション気泡Cが衝突し難くなっているものと考えられる。
これに対し、本実施形態の圧縮機用スクロールの製造方法によれば、上述したように、キャビテーション気泡Cの中心Pを端板13Aにおける壁体13Bの渦巻き状の中心Oから離隔させた状態で、キャビテーション気泡Cの範囲の外周部分に段差部13Aaおよび段付部13Baを位置させると、キャビテーション気泡Cの中心Pの位置が、壁体13Bによる渦巻き状の通路において段差部13Aaおよび段付部13Ba近傍の壁体13Bの隅部A,Bに至り直線上の位置P1,P2,P3となり、キャビテーション気泡Cを含む液体流の流れが壁体13Bにより妨害されないため、隅部A,Bにキャビテーション気泡Cを衝突させることができる。つまり、スクロール13の所望箇所にキャビテーション気泡Cを適宜衝突させることができ、当該所望箇所に圧縮残留応力を発生させ、クラックの発生を防止することができる。
また、本実施形態の圧縮機用スクロールの製造方法では、図5に示すように、ウォータージェットピーニング工程は、キャビテーション気泡Cとスクロール13との前記位置P1,P2,P3を含み、段差部13Aaと段付部13Baとを直線で結ぶ仮想線Lに交差するように、キャビテーション気泡Cとスクロール13とを相対移動させる。移動に関しては、キャビテーション気泡Cや、スクロール13や、キャビテーション気泡Cおよびスクロール13を移動させる。
この圧縮機用スクロールの製造方法によれば、スクロール13の所望箇所(隅部A,B)にキャビテーション気泡Cを適宜衝突させることができ、当該所望箇所に圧縮残留応力を発生させ、クラックの発生を防止することができる。
また、本実施形態の圧縮機用スクロールの製造方法では、ウォータージェットピーニング工程は、キャビテーション気泡Cとスクロール13との前記位置P1,P2,P3において、キャビテーション気泡Cとスクロール13との相対移動を所定時間停止する。
この圧縮機用スクロールの製造方法によれば、スクロール13の所望箇所(隅部A,B)にキャビテーション気泡Cを十分に衝突させることができ、当該所望箇所に圧縮残留応力を発生させ、クラックの発生を防止することができる。なお、所定時間とは、所望箇所に圧縮残留応力を発生させる所要時間である。
また、本実施形態の圧縮機用スクロールの製造方法では、スクロール13に表面処理を実施する以前に、ウォータージェットピーニング工程を行う。
表面処理は、例えば、スクロール13がアルミニウム合金で形成される場合に、その耐食性および耐摩耗性の向上を図るために表面をアルマイトでコーティングするアルマイト処理がある。この表面処理を実施すると、キャビテーション気泡Cの衝突による圧縮残留応力の発生が抑えられ、クラックの発生を防止する効果が低下するおそれがある。従って、この圧縮機用スクロールの製造方法によれば、スクロール13に表面処理を実施する以前に、ウォータージェットピーニング工程を行うことで、キャビテーション気泡Cの衝突による圧縮残留応力の発生を助勢し、クラックの発生を防止する効果を顕著に得ることができる。
また、本実施形態の圧縮機用スクロールの製造方法では、キャビテーション気泡Cを発生させる水中に洗浄液を混入する。
この圧縮機用スクロールの製造方法によれば、ウォータージェットピーニング工程と同時に洗浄液によるスクロール13の洗浄を行うことができる。
ここで、上述した圧縮機用スクロールの製造方法を実施するための圧縮機用スクロールの製造装置について説明する。
本実施形態の圧縮機用スクロールの製造装置1は、図6に示すように、水が満たされる容器2と、容器2内にスクロール13を位置決めして配置する位置決手段3と、容器2内の水中に配置されてスクロール13に向けてウォータージェットJを噴射するノズル4Aを有するウォータージェット噴射手段4と、を備える。
容器2は、ノズル4Aから噴射されたウォータージェットJにより生じるキャビテーション気泡Cが、位置決手段3により位置決めされたスクロール13に対して、上述したウォータージェットピーニング工程を実施できる水深が得られるものである。
位置決手段3は、上述したウォータージェットピーニング工程を実施できるように、容器2内でスクロール13を位置決めして配置するものである。位置決手段3は、例えば、スクロール13における端板13Aの他側面に当接する当接部3Aと、スクロール13における端板13Aの周縁の複数箇所(例えば、3箇所)に係合するチャック部3Bと、を有する。
ウォータージェット噴射手段4は、ノズル4Aと、ノズル4Aを支持するノズル支持部4Bと、ノズル4Aに高圧水を供給する高圧水ポンプ4Cと、を有する。
そして、この圧縮機用スクロールの製造装置1は、ウォータージェット噴射手段4のウォータージェットJにより容器2の水中にて生じるキャビテーション気泡Cを、位置決手段3により位置決めされたスクロール13の一側面に向けて噴射させ、図5に示すように、当該キャビテーション気泡Cの中心Pを端板13Aにおける壁体13Bの渦巻き状の中心Oから離隔させた状態で、キャビテーション気泡Cの外周部分に段差部13Aaおよび段付部13Baを位置させる。
このような圧縮機用スクロールの製造装置1によれば、上述した圧縮機用スクロールの製造方法におけるウォータージェットピーニング工程を実施できる。
また、本実施形態の圧縮機用スクロールの製造装置1では、位置決手段3は、スクロール13における端板13Aに係合してスクロール13を固定する固定機構である当接部3Aおよびチャック部3Bを有する。
この圧縮機用スクロールの製造装置1によれば、固定機構によりスクロール13を固定することで、キャビテーション気泡Cがスクロール13に衝突する際にスクロール13を保持し、所望箇所(隅部A,B)にキャビテーション気泡Cを適宜衝突させることができ、当該所望箇所に圧縮残留応力を発生させ、クラックの発生を防止することができる。
また、本実施形態の圧縮機用スクロールの製造装置1では、位置決手段3は、図5および図6に示すように、キャビテーション気泡Cとスクロール13との前記位置P1,P2,P3を含み、段差部13Aaと段付部13Baとを直線で結ぶ仮想線Lに交差するように、スクロール13を移動させる移動機構3Cを有する。
移動機構3Cは、固定機構(当接部3Aおよびチャック部3B)を支持した状態で平行移動させるもので、例えば、ベルトコンベアが好ましい。
この圧縮機用スクロールの製造装置1によれば、スクロール13の所望箇所(隅部A,B)にキャビテーション気泡Cを適宜衝突させることができ、当該所望箇所に圧縮残留応力を発生させ、クラックの発生を防止することができる。
また、本実施形態の圧縮機用スクロールの製造装置1では、移動機構3Cは、固定機構を複数有して複数のスクロール13を移動させる。
この圧縮機用スクロールの製造装置1によれば、複数のスクロール13の所望箇所(隅部A,B)に、順次キャビテーション気泡Cを適宜衝突させることができる。この結果、上述した圧縮機用スクロールの製造方法におけるウォータージェットピーニング工程を効率的に実施できる。
また、本実施形態の圧縮機用スクロールの製造装置1では、ウォータージェット噴射手段4は、キャビテーション気泡Cがスクロール13に対して旋回するようにノズル4Aを旋回移動させる旋回機構4Dを有する。
旋回機構4Dは、ノズル支持部4Bに設けられており、ノズル4AによるウォータージェットJの噴射方向を図6に示す鉛直線Vに対して傾け、かつ鉛直な軸を中心に回転させるものである。このようにすることで、端板13Aと壁体13Bとの内角部である所望箇所(隅部A,B)に対してキャビテーション気泡Cが直接衝突するため、スクロール13の所望箇所にキャビテーション気泡Cを十分に衝突させることができる。