以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態のエンジン1の制御装置の概略構成図である。エンジン1は図示しない車両に搭載されている。
図1においてエンジン1の燃焼室21には吸気通路23と排気通路24とが開口され、吸気通路23の燃焼室21への開口端に吸気弁25が、排気通路24の燃焼室21への開口端に排気弁26が設けられている。
吸気通路23にはモータ等のアクチュエータ30により開度が制御されるスロットル弁29(スロットル弁装置)を備える。また、実際のスロットル弁開度を検出するスロットルセンサ31が設けられている。
吸気通路23の吸気ポートに燃料噴射弁33を、燃焼室21の天井に点火プラグ34を備える。エアフローメータ38により検出される吸入空気量に基づいて目標空燃比の得られる燃料噴射量が算出され、この噴射量の燃料が所定の時期に燃料噴射弁33から噴射供給され、燃焼室21内に形成される混合気に対して所定の時期に点火プラグ34によって着火される。燃料噴射弁33を燃焼室21に臨んで設けている場合であってよい。
エンジン1にはエンジンの圧縮比を連続的に変化させることが可能な圧縮比可変機構を備える。なお、圧縮比可変機構を備えるこのエンジンは、本出願人が先に提案しており、例えば特開2001−227367号公報等によって公知となっている。従って、圧縮比可変機構の概要のみを図2を参照して説明する。
図2において、クランクシャフト2には、エンジン本体の一部を構成するシリンダブロック1内の主軸受(図示しない)に回転可能に支持されるクランクジャーナル3が気筒毎に設けられている。各クランクジャーナル3は、その軸心Oがクランクシャフト2の軸心(回転中心)と一致しており、クランクシャフト2の回転軸部を構成している。
また、クランクシャフト2は、クランクピン4と、クランクアーム4aと、カウンターウェイト4bとを有している。上記クランクピン4は軸心Oから偏心して気筒毎に設けられている。上記クランクアーム4aはクランクピン4をクランクジャーナル3へ連結する。上記カウンターウェイト4bは軸心Oに対してクランクピン4と反対側に配置され、主としてピストン運動の回転1次振動成分を低減する。クランクアーム4aとカウンターウェイト4bとは、この実施形態では一体的に形成されている。
そして、気筒毎に形成されたシリンダ10に摺動可能に嵌合するピストン9と、上記のクランクピン4とが、複数のリンク部材、すなわちアッパーリンク6とロアーリンク5とにより機械的に連携されている。アッパーリンク6の上端側は、ピストン9に固定的に設けられたピストンピン8に、軸心Oc周りに相対回転可能に外嵌している。また、アッパーリンク6の下端側とロアーリンク5の、ほぼ二等分された一方の本体5aとは、両者を挿通する連結ピン7によって、軸心Od周りに相対回転可能に連結されている。
ロアーリンク5は、クランクピン4を狭持するように、2つの本体5a、5bを取付けて構成されており、この狭持部分でクランクピン4と軸心Oe周りに相対回転可能に装着されている。ほぼ2等分された他方のロアーリンク本体5bと制御リンク(サードリンク)11の上端側とは、両者を挿通する連結ピン12によって軸心Of周りに相対回転可能に連結されている。
この制御リンク11の下端側は、シリンダブロック1に回動可能に支持される、偏心カム部14を有する制御軸13に、その軸心Ob周りに揺動可能に外嵌,支持されている。すなわち、制御軸13の外周には偏心カム部14が回転可能に設けられており、偏心カム部14の軸心Oaは、制御軸13の軸心Obに対して所定量偏心している。この偏心カム部14は、ウォームギア15を介して圧縮比制御アクチュエータ16によって、エンジンの運転状態に応じて回動制御されるとともに、任意の回動位置で保持されるようになっている。アクチュエータ16としては電動機を使用することが好ましい。高温条件での動作が必要な場合は電動機をSRM(Switched Reluctance Motor)とし、電動機負荷として高トルクが必要な場合はIPM(Interior Permanent Magnet)モータとすることが好ましい。
このような構成により、クランクシャフト2の回転に伴って、クランクピン4,ロアーリンク5,アッパーリンク6及びピストンピン8を介してピストン9がシリンダ10内を昇降する。ロアーリンク5に連結する制御リンク11は、下端側の揺動軸心Obを支点として揺動する。
また、上記の圧縮比制御アクチュエータ16により偏心カム部14を回動制御することにより、制御リンク11の揺動軸心となる制御軸13の軸心Obが偏心カム部14の軸心Oa周りに回転し、つまり制御リンク11の揺動中心位置Obが機関本体(及びクランクシャフト回転中心O)に対して移動する。これにより、ピストン9の行程が変化して、エンジンの各気筒の圧縮比が可変制御される。参考として、図3に、ピストン上死点位置における3つのリンク6、5、11の姿勢を模式的に示すと、図3左側は高圧縮比位置での、図3右側は低圧縮比位置での各リンク姿勢である。
この圧縮比可変機構の最大の特徴は制御軸13の角位置制御により、ピストン9の上死点位置(燃焼室容積)を変えられる点にあり、いわゆる圧縮比可変機構としての機能を発揮する。本実施形態では、複リンク式圧縮比可変機構で説明しているが、圧縮比可変機構は複リンク式に限られるものでない。例えば吸気弁の閉時期を変更することにより実圧縮比を変化させることが可能である。
一般的に圧縮比を上げるとエンジンの熱効率が向上することが知られている。その一方で、圧縮比を上げすぎるとノッキングが発生するため、特に高負荷領域ではあまり圧縮比を上げることができない。そのため、圧縮比可変機構を有するエンジン1においては、図12に示したように低負荷側で要求圧縮比を大きく、高負荷側で要求圧縮比を小さく設定することで、ノッキングを発生させずに燃料消費量を向上させている。
図1に戻り、エンジン1にはさらに、電動アシストターボ過給機45を備える。電動アシストターボ過給機45は、排気タービン46、コンプレッサ47、これらを同軸で連結するシャフト48、モータジェネレータ49から構成される。モータジェネレータ49はエンジンコントローラ35からの信号で駆動される。
例えば、低速走行状態からの加速時にモータジェネレータ49をモータとして駆動し、排気タービン46を駆動する。これによって、加速初期のエンジンの排気エネルギーが少ない状態でも、モータ駆動により排気タービン回転速度を上昇させることで、吸気コンプレッサ47により十分な過給を行わせることができる。これによって、ターボラグといわれる秒単位の過給遅れが解消し、アクセル開度(アクセルペダル操作量)に対するエンジン出力の応答性が向上する。
排気タービン46をバイパスする通路51に常閉のウェイストゲートバルブ52が設けられている。このウェイストゲートバルブ52は設定過給圧以上となったときに排気をバイパスして逃し、過給圧が設定過給圧以上とならないようにするものである。スロットル弁29上流の吸気通路23に実際の過給圧を検出する過給圧センサ39が設けられている。
このように圧縮比可変機構を有するエンジン1に対して、さらに電動アシストターボ過給機45が設けられるときには、要求圧縮比の求め方を次のように自然吸気のエンジンと異ならせている。すなわち、アクセル開度APOとエンジン回転速度Neとに応じて自然吸気時の目標吸入空気量tQacが図4に示したように定まっているので、大気圧Paと実過給圧rPbとの比でこの自然吸気時の目標吸入空気量tQacを補正する。つまり、次の式により過給時の目標吸入空気量である過給圧補正目標吸入空気量tQac hを算出している。
tQac h=tQac×Pa/rPb …(1)
ターボ過給機45を備えておらず、自然吸気の状態では(1)式右辺の分数であるPa/rPbの値が1となり、過給圧補正目標吸入空気量tQac hは目標吸入空気量tQacと一致する。一方、ターボ過給機45が働く過給時には大気圧Paよりも実過給圧rPbが大きくなるため、(1)式右辺の分数であるPa/rPbの値が1より小さな正の値となり、過給圧補正目標吸入空気量tQac hは目標吸入空気量tQacよりも小さくなる。このように、過給時に過給圧補正目標吸入空気量tQac hを目標吸入空気量tQacよりも小さくしているのは、自然吸気時よりも過給時のほうが吸気の圧力が大気圧よりも高い分だけ多く吸入空気が燃焼室21に入り過ぎるためである。つまり目標吸入空気量tQacを超える吸入空気量が燃焼室21に流入すると、その分燃焼室21内の圧力及び温度が上昇してノッキングが生じないとも限らない。そこで、過給時には自然吸気時に適合している目標吸入空気量tQacよりも小さな吸入空気量(tQac h)とすることによって、過給時の実質の吸入空気量を自然吸気時の実質の吸入空気量と同じにする。これによってノッキングが生じないようにしているのである。
エンジンコントローラ35には、アクセル開度センサ36からのアクセル開度APO、エンジン回転速度センサ37からの回転速度Ne、エアフローメータ38からの吸入空気量Qaの信号が入力される。エンジンコントローラ35では、これらの信号に基づいて、目標スロットル弁開度、要求圧縮比、燃料噴射量、点火時期指令値をそれぞれ算出する。そして、算出した目標スロットル弁開度が得られるようにスロットル弁29のアクチュエータ30を駆動すると共に、算出した要求圧縮比が得られるように圧縮比制御アクチュエータ16を駆動する。また、算出した燃料噴射量及び点火時期指令値が得られるように燃料噴射弁33及び点火プラグ34を制御する。
エンジンコントローラ35が行う上記点火時期指令値の算出について簡単に説明する。図5のフローは点火時期指令値を算出するためのもので、所定のクランク角位置毎に実行する。ここで、所定のクランク角位置としては、点火時期より少し進角側の位置を予め定めておく。
ステップ1ではエンジンの負荷とエンジン回転速度Neから図6を内容とするマップを検索することにより、MBTの得られる基本点火時期ADV0[degCA(BTDC)]を算出する。図6にはADV0の内容を記載していないが、公知の例であってよい。
ステップ2ではノックセンサ40により検出されるノックレベルとスライスレベルを比較する。ノックレベルがスライスレベルを超えていれば、ノッキングが生じていると判断し、ステップ3に進む。
ステップ3では、フィードバック量FBの前回値である「FBz」に所定値a[degCA]を加算した値を今回のフィードバック量FB[degCA]とする、つまり次式により点火時期のフィードバック量FB[degCA]を算出する。
FB=FBz+a …(2)
ただし、a:所定値(正の値)、
FBz:FBの前回値、
ステップ7では基本点火時期ADV0からフィードバック量FBを差し引いて、つまり次式により点火時期指令値ADV[degCA(BTDC)]を算出する。
ADV=ADV0−FB …(3)
(3)式の点火時期指令値ADVは圧縮上死点から進角側に計測した値であるので、基本点火時期ADV0からフィードバック量FBを差し引くことは、基本点火時期ADV0からフィードバック量FBだけ遅角側に補正することを意味する。上記(3)式のフィードバック量FBの前回値である「FBz」の初期値はゼロである。
今仮にノッキングが生じる前にはフィードバック量FBがゼロであったとすると、ノッキングが生じたタイミングでFBに所定値aが入れられる。つまり、ノッキングが生じたタイミング直後の点火タイミングでは基本点火時期ADV0より所定値aだけ遅角された点火時期が点火時期指令値となるわけである。
今回に基本点火時期が所定値aだけ遅角されると、次回にはノッキングは生じない。このときにはステップ2でノックレベルがスライスレベル未満となるので、ステップ4に進む。
ステップ4では、フィードバック量FBの前回値である「FBz」から所定値b[degCA](b<a)を差し引いた値を今回のフィードバック量FB[degCA]とする、つまり次式によりフィードバック量FBを算出する。
FB=FBz−b …(4)
ただし、b:所定値(正の値)、
FBz:FBの前回値、
ノッキングが生じたタイミング直後の点火タイミングの次のタイミングでは基本点火時期ADV0よりa−bだけ遅角された値が点火時期指令値ADVとなるわけである。同様にして、フィードバック量FBは、点火タイミングを迎えるたびに、a−2b、a−3b、a−4b、…、と小さくなる。このため、ステップ5でフィードバック量FBが負の値となったタイミングでステップ6に進んでフィードバック量FBにゼロを入れる。フィードバック量FBにゼロを入れたタイミングで点火時期指令値ADVが基本点火時期ADV0に戻る。
さて、圧縮比可変機構を備えるエンジン1を搭載し電動アシストターボ過給機45を追加した車両で、アクセルペダルを踏み込んで低負荷状態から高負荷状態への加速を行った場合に、ノッキングが新たに発生することが考えられる。これを図7のタイミングチャートを参照して説明する。
図7はアクセル開度を所定値APO1から所定値APO2へとステップ変化させた場合の変化をモデルで示している。ここで、変化する対象としては、実過給圧、点火時期、実圧縮比、実エンジントルクを採っている。
ここでは、エンジンの負荷状態を低負荷状態、中負荷状態、高負荷状態の大きく3つに分け、本実施形態では特に低負荷状態から高負荷状態への加速(以下、単に「加速」ともいう。)を扱う。この加速としては、例えば一般道から高速道路の料金所を抜けて、高速道路上の本線を走行している車両の流れに合流するべく、車両を加速する場合を挙げることができる。特に低負荷状態から高負荷状態への加速を扱うのは次の理由からである。すなわち、ターボ過給機45の駆動で実過給圧が加速前の低負荷状態から加速後の高負荷状態となるまでの応答時間と、圧縮比制御アクチュエータ16の駆動で実圧縮比が加速前の低負荷状態から加速後の高負荷状態となるまでの応答時間とが大きく乖離するためである。
図7では、現行エンジンの場合を一点鎖線で、比較例のエンジンの場合を破線で、本発明の第1実施形態のエンジンの場合を実線で示している。以下、現行エンジン、比較例のエンジン、第1実施形態のエンジンの順に説明する。
まず、現行エンジンは、圧縮比可変機構と、モータジェネレータを有していない通常のターボ過給機を備えるエンジンであるとする。
現行エンジンでは、車両の常用域(市街地や高速道路を巡航する場合)においてエンジン1の圧縮比が相対的に高くなる側に制御し、熱効率を高めることによって燃費を向上させる。一方、高出力域(急加速や登坂走行)になると、過給を行うため、圧縮比が相対的に低くなる側に切換え、ノッキングを回避しつつエンジンの出力が向上するようにしている。
このため、低負荷状態から高負荷状態への加速を行おうとアクセル開度をステップ変化させたとき、図7第2段目に一点鎖線で示したように、t4のタイミングで実過給圧が所定値B1から高くなる側に変化し、t8のタイミングで所定値B2に到達している。なお、図7第2段目には実過給圧の変化を示しているが、低負荷状態での実過給圧と低負荷状態での要求過給圧とは一致し、高負荷状態での実過給圧と高負荷状態での要求過給圧も一致しているものとする。
一方、t4のタイミングでアクセル開度を所定値APO1から所定値APO2へとステップ変化させたとき、図7第4段目に一点鎖線で示したように、t4のタイミングで実圧縮比が所定値V1から直線的に低下し、t9のタイミングで所定値V2に到達している。なお、図7第4段目には実圧縮比の変化を示しているが、低負荷状態での実圧縮比と低負荷状態での要求圧縮比とは一致し、高負荷状態での実圧縮比と高負荷状態での要求圧縮比も一致しているものとする。
この場合に大事なことは、実過給圧が所定値B2に到達するタイミングがt8、実圧縮比が所定値V2に到達するタイミングがt9であり、ほぼ同時期(t8とt9)になっている点である。
ここで、過給機の駆動で実過給圧が加速前の低負荷状態の所定値B1から加速後の高負荷状態の所定値B2となるまでの応答期間(この応答時間を以下「実過給圧の応答時間」ともいう。)Tb1は、現行エンジン及び通常のターボ過給機の仕様により定まる。また、圧縮比制御アクチュエータ16の駆動で実圧縮比が加速前の低負荷状態の所定値V1から加速後の高負荷状態の所定値V2となるまでの応答期間(この応答時間を以下「実圧縮比の応答時間」ともいう。)Tc1は圧縮比可変機構の仕様により定まる。ここで、実圧縮比の応答期間Tc1、つまり実圧縮比の低下速度(直線の傾き)を決めるものは、大きくは次の3つである。すなわち、圧縮比制御アクチュエータ16の仕様、ギヤ比、リンク比である。
なお、点火時期は、図7第3段目に一点鎖線で示したように、t4のタイミングで所定値ADV01から直線的に遅角側に向かい、t8のタイミングで所定値ADV02に到達している。
現行エンジンでは、通常のターボ過給機の作動に伴う実過給圧の応答期間Tb1と、実圧縮比の応答期間Tc1とがほぼ一致しており、ノッキングを発生させることなく、理想的なレベルでエンジントルクを上昇させている(図7最下段の一点鎖線参照)。このように現行エンジンに問題はないのであるが、最近の傾向として、ダウンサイジングコンセプトが進行している。
ここで、ダウンサイズコンセプトとは、自動車においてターボ過給機やスーパーチャージャなどの過給機を使うことにより、現行エンジンと同等の動力性能を確保したまま、排気量を小型化し、巡航時の燃費を向上させるエンジン設計コンセプトのことである。このコンセプトのもとでは、ターボ過給機の応答を高めるため電動アシストターボ過給機を搭載することが考えられる。そこで、現行エンジンの通常のターボ過給機に代えて、図1に示したように電動アシストターボ過給機45を設けたエンジンを比較例のエンジンであるとする。すなわち、比較例のエンジンは、圧縮比可変機構と電動アシストターボ過給機45を備えるエンジンである。
比較例のエンジンでは、通常のターボ過給機に生じるターボラグをなくすため、加速の開始時にモータジェネレータ49をモータとして駆動することで、加速開始タイミングより排気タービン46を回転させて、過給を強制的に行わせることができる。これによって、実過給圧の上昇の程度が現行エンジンの通常のターボ過給機の場合より大きくなるので、図7第2段目に破線で示したように、t6のタイミングで早くも所定値B2に到達する。
しかしながら、比較例のエンジンでも実圧縮比の応答時間Tc1は現行エンジンの場合と変わらない(図7第4段目の破線参照)。実圧縮比の応答時間Tc1は変わらないのに、実過給圧の応答時間Tb2が現行エンジンの場合の実過給圧の応答時間Tb1より短くなると、次のような問題が生じる。すなわち、比較例のエンジンでは実圧縮比が所定値V2にまで低下していない状態で現行エンジンの場合より空気が余計に入った分だけ燃焼室21での燃焼状態が良くなって、自己着火に伴うノッキングが生じるのである。
この場合、ノッキングの回避のため、エンジンコントローラ35では、ノックセンサ40に基づく点火時期のフィードバック制御を行うこととなる。すなわち、図7第3段目に破線で示したように、ノッキングが生じたt5のタイミングで基本点火時期ADV0よりフィードバック量FB(=所定値a)だけリタードした値を点火時期指令値ADVとすることでノッキングを回避する。その後は、所定値b(b<a)ずつ減少するフィードバック量FBで徐々に点火時期を進角させる。これによって、点火時期指令値ADVはt7のタイミングで高負荷状態での基本点火時期である所定値ADV02に戻る。
比較例のエンジンでは、このようにしてノッキングが回避される一方で、ノッキングの発生を受けて点火時期がリタードされることで、燃焼室21内での燃焼効率が悪化する。これによって、図7最下段に破線で示したように、エンジントルクは所定値Tor1から上昇して最終的には所定値Tor2に到達するものの、加速直後にエンジントルクが一時的に低下する。加速直後にエンジントルクが一旦上昇したところからエンジントルクが一時的に低下すると、車両にヘジテーションが生じて、運転性が悪くなるのである。
まとめると、比較例のエンジンでノッキングが生じた理由は次の通りである。すなわち、実過給圧の応答時間Tb2が現行エンジンの場合の実過給圧の応答時間Tb1より短くなったのに対して、実圧縮比の応答時間Tc1は現行エンジンの場合と変わらない。このため、実圧縮比が実過給圧の変化に追従できず、実過給圧に見合った実圧縮比まで十分に低下しない点にあった。
そこで本発明の発明者は、次のように発想した。すなわち、車両がこれから向かう道路で加速が行われることを、加速が行われる前に予測できれば、加速の手前で実圧縮比を予め低下させておくことで、予測した加速が行われるタイミングより実圧縮比を遅れなく低下させる。これなら、実過給圧に見合った実圧縮比まで十分に低下させることが可能となり、ノッキングの発生を抑制することができる。以下、上記車両がこれから向かう道路を、単に「これから向かう道路」という。これを受けて、本発明の第1実施形態では、実過給圧の応答時間が実圧縮比の応答時間より短い場合に、走路情報取得手段を利用し、これから向かう道路(これから向かう走路)で低負荷状態から高負荷状態への加速が行われるか否かを予測する。ここで、上記の走路情報取得手段は車両が走行する予定の走路の情報を取得するものである。そして、これから向かう道路で低負荷状態から高負荷状態への加速が行われることを予測したとき、圧縮比制御アクチュエータ16を駆動して、加速を予測したときの実圧縮比より実圧縮比を予め低下させる。
予測した加速が行われるタイミングよりも手前で実圧縮比を予め低下させる処理(以下、「加速前圧縮比低下処理」という。)を、図7を参照して説明する。ここで、本実施形態のエンジンは、比較例のエンジンと同じ、つまり圧縮比可変機構と電動アシストターボ過給機45を備えるエンジンである。ただし、圧縮比の制御方法が比較例のエンジンと本実施形態のエンジンとで異なることとなる。
図7において、実過給圧が所定値B2にほぼ到達するt6のタイミングで、実圧縮比が所定値V2に低下していれば、ノッキングは生じない。つまり、図7第4段目に実線で示したように、実圧縮比が所定値V2に到達するタイミングを比較例のエンジンの場合の到達タイミング(t9)より進めてt6のタイミングとする必要があるわけである。
ここで、実圧縮比の低下速度、つまり直線の傾きを−Δ1[/s](Δ1>0)とおくと、傾きΔ1を用いて、予測した加速が開始される(行われる)タイミング(t4)での圧縮比V3[無名数]を次式で求めることができる。
V3=V2+Δ1・(Tc1−Tb2) …(5)
ただし、Tc1:実圧縮比の応答時間[s]、
Tb2:実過給圧の応答時間[s]、
次に、所定値V1から予測した加速が開始されるタイミングでの圧縮比V3まで実圧縮比を低下させるに必要な時間Tc2[s]を、傾きΔ1を用いて次式で求めることができる。
Tc2=(V1−V3)/Δ1 …(6)
ただし、本実施形態では、余裕代Tyo[s]を設けているため、所定値V1から予測した加速が開始されるタイミングでの圧縮比V3まで実圧縮比を低下させるに必要な時間Tc3[s]を次式で求めることができる。
Tc3=(V1−V3)/Δ1+Tyo …(7)
t4の予測した加速が開始されるタイミングより必要時間Tc3の前のt2のタイミング以前にt4からの加速を予測できていれば、t2のタイミングより実圧縮比を予測した加速が開始されるタイミングでの圧縮比V3へと低下させることが可能となる。これによって、t4の予測した加速が開始されるタイミング直前に実圧縮比は予測した加速が開始されるタイミングでの圧縮比V3まで低下している。言い換えると、t4で予測通りに加速が行われたとき、実過給圧が所定値B2に到達するt6のタイミングと同じタイミングで実圧縮比を所定値V2まで低下させることができることとなった。
圧縮比可変機構によって実圧縮比の低下速度(つまり直線の傾き)が実際にはばらつく。上記の余裕代Tyoは、この実圧縮比の低下速度のバラツキを吸収させるためのものである。すなわち、余裕代Tyoを設けることで、実圧縮比の低下速度のバラツキがあっても、t4のタイミングの直前に確実に実圧縮比を予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3と一致させることができる。
本実施形態では、上記のように、実過給圧が所定値B2に到達するt6のタイミングと同じタイミングで実圧縮比を所定値V2まで低下させることができることから、ノッキングが生じることはない。このため、点火時期は図7第3段目に実線で示したように、t4のタイミングから直線的に遅角側に移動し、t6のタイミングで所定値ADV02に到達している。このように、ノッキングを回避できることとなると、図7最下段に実線で示したように実過給圧の上昇の程度に応じてエンジントルクが発生するのであり、これによって速やかな加速を実現することができる。
次に、t2のタイミング以前にt4のタイミングから加速が行われることを予測するため、本実施形態では、走路情報取得手段の一例としてのITS(高度道路交通システム:Intelligent Transportation System)を利用する。ここで、ITSとは、IT(Information Technology)を利用して交通の輸送効率や快適性の向上に寄与する一連のシステムを指す総称である。このITSに含まれるシステムに、高度化されたカーナビゲーションシステムがある。
ここで、高度化されたカーナビゲーションシステムとして、VICS(Vehicle Information and Communication System)対応のカーナビゲーションシステムがある。このVICSは、交通渋滞・規制情報・駐車場の満空状態等を、カーナビゲーションシステムを介してドライバーにリアルタイムで提供するものである。その運営主体としてVICSセンターが設立され、電波ビーコン、光ビーコン及びFM多重放送の3メディアでVICSサービスを提供している。
これについて具体的に説明すると、図8は上記ITS60の概略構成図である。ITS60は、ナビーゲーションシステム50、日本道路交通情報センター61、VICSセンター62、光ビーコン64、電波ビーコン63、FM多重放送65で構成される。このうち、車両に搭載されるナビゲーションシステム50は、GPSアンテナ53、GPSレシーバ54、方位センサ55、車速センサ56、ナビゲーションコントローラ57、ディスプレイ58、地図データ59から構成されている。
ここで、GPSアンテナ53及びGPSレシーバ54は人工衛星からの電波を受けて車両のいる場所(自車位置)を知るためのものである。自車位置は、基本的に衛星からの位置情報で知ることができる。しかしながら、衛星からの信号だけでは誤差があること、トンネルを走行中には衛星からの位置信号を受信できないことから、方位センサ55、車速センサ56を設けている。方位センサ55は車両の向かう方向を知るためのものである。車速センサ56は車両の移動距離を知るためのものである。地図データ59には道路勾配や高速道路であるか否かの情報が格納されている。
ナビゲーションコントローラ57では、GPSレシーバ54やセンサ55,56からの情報と地図データ59を照らし合わせ、例えば自車位置をディスプレイ58上のマップに表示させる。
さらに、ナビゲーションコントローラ57とエンジンコントローラ35とをCAN通信71で接続しておくことで、エンジンコントーラ35からナビゲーションコントローラ57に車両の加速情報を提供させる。そして、ナビゲーションコントローラ57に加速が行われた道路(走路)と前記加速が行われたときのアクセル開度及びエンジン回転速度から構成される加速履歴を保存させておく。例えばほぼ同じ道路を車両で走行して勤務地と自宅とを往復しているとした場合に、通勤に用いられる複数の各道路(高速道路を含む)のうちでどの道路で加速を行ったか否か、あるいは各道路の距離が長い場合にはどの区間で加速を行ったか否かのデータを加速履歴として保存させておくのである。また、加速の際はどのくらいのアクセル開度であったかをそのときのエンジン回転速度と合わせて加速履歴として保存させておく。
一般道や高速道路の渋滞、事故、工事、主な駐車場等の各種の情報は日本道路交通情報センター61で収集され、各種の情報がVICSセンター62に伝達される。VICSセンター62では各種の情報を編集・処理した後、その編集・処理した情報を電波ビーコン63、光ビーコン64、FM多重放送65に送る。ここで、上記の電波ビーコン63は、主に高速道路に接地されており、電波を媒体として利用し設置された場所に必要な情報を提供する。上記の光ビーコン64は、主に一般道に設置されており、光(近赤外線)を媒体として利用し設置された場所に必要な情報を提供する。上記のFM多重放送65はFM放送(NHK)に情報を多重化して提供するもので、各地の放送局のエリア内全てにおいてその情報を利用することができる。
上記のように一般道を走行した後に料金所を通過し高速道路上の本線を走行する車両の流れに合流するべく車両を加速する場合が、通勤のため繰り返されていれば、今日の通勤時の車両の挙動は、ナビゲーションコントローラ57が予め知り得る。例えば図7においてt1からt2までの期間において、これから向かう道路で加速が行われるか否かをナビゲーションコントローラ57に保存されている加速履歴に基づいて、予測させる。そして、t4から加速が行われると予測したとき、t2からの加速前圧縮比低下処理を行わせるのである。
ナビゲーションコントローラ57と協調しつつエンジンコントローラ35で行われるこの制御を、フローチャートを参照してさらに説明する。図9のフローチャートは、予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3、実圧縮比を所定値V1から予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3まで低下させるに必要な時間Tc3を算出するためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
ステップ11では、V3及びTc3算出済みフラグ(始動時にゼロに初期設定)をみる。ここでは、V3及びTc3算出済みフラグ=0であるとしてステップ12以降に進む。
ステップ12では、低負荷状態から高負荷状態への加速(図9では「高負荷になる加速シーン」で略記。)が行われるか否かをナビゲーションコントローラ57に問い合わせる。ナビゲーションコントローラ57では、この問い合わせを受けると、ナビゲーションコントローラ57に保存されている加速履歴に基づいて、低負荷状態から高負荷状態への加速が行われるか否かを予測する。そして、この予測した結果をエンジンコントローラ35に返す。ナビゲーションコントローラ57によって低負荷状態から高負荷状態への加速が予測されないときにはそのまま今回の処理を終了する。
ステップ12でナビゲーションコントローラ57によって低負荷状態から高負荷状態への加速が予測されるときにはステップ13に進む。例えば、ドライバーが毎日の通勤で渋滞のない高速道路を使っている場合には、高速道路の料金所に入る手前でナビゲーションコントローラ57が低負荷状態から高負荷状態への加速が行われ得ることを予測するので、ステップ12からステップ13に進む。
しかしながら、毎日の通勤で高速道路を使っている場合であっても、通勤で使っている高速道路が渋滞していることがあり得る。この場合、通勤で使っている高速道路が渋滞しているか否かは、ナビゲーションコントローラ57に保存されている加速履歴からはわからない。高速道路が渋滞している場合にも、低負荷状態から高負荷状態への加速が予測されるものとして、高速道路の料金所に入る手前で実圧縮比を低下させてしまったのでは、料金所を過ぎて高速道路の本線に合流するまでの期間で燃費を返って悪くしてしまう。この場合には、実圧縮比を低下させたことが無駄に終わるのである。
そこで、ステップ13では、ナビゲーションコントローラ57にVICSセンター62(ITS60)からもたらされる道路交通情報(走路情報)からこれから向かう高速道路で渋滞があるか否かを問い合わせる。ナビゲーションコントローラ57では、この問い合わせを受けると、VICSセンターからの情報に基づいて、これから向かう高速道路で渋滞があるか否かを確かめる。そして、確かめた情報をエンジンコントローラ35に返す。ナビゲーションコントローラ57より、これから向かう高速道路で渋滞があるとの情報を得たときには、これから向かう高速道路で加速は行われないと判断し、そのまま今回の処理を終了する。
一方、ステップ13においてナビゲーションコントローラ57より、これから向かう高速道路で渋滞はないとの情報を得たときにはステップ14以降に進む。ステップ14〜22は予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3及び実圧縮比を所定値V1から予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3まで低下させるに必要な時間Tc3を算出する部分である。
まず、ステップ14では、現在(今回)の負荷状態、つまり低負荷状態にあるときの実圧縮比を所定値V1[無名数]として算出する。低負荷状態にあるときの実圧縮比は、エンジンコントローラ35が圧縮比制御アクチュエータ16に出している指令値から知り得る。
ステップ15では、現在(今回)の負荷状態、つまり低負荷状態にあるときの実過給圧を所定値B1[MPa]として算出する。この低負荷状態にあるときの実過給圧は、過給圧センサ39により検出する。
ステップ16では、予測した加速が行われたときのアクセル開度APOri[無名数]及びエンジン回転速度Neri[rpm]をナビゲーションコントローラ57に問い合わせる。ナビゲーションコントローラ57では、この問い合わせを受けると、ナビゲーションコントローラ57に保存されている加速履歴から、高速道路の本線への合流のための加速が行われたときのアクセル開度APOri及びエンジン回転速度Neriを読み出す。そして、その読み出したアクセル開度APOri及びエンジン回転速度Neriをエンジンコントローラ35に送る。エンジンコントローラ35では、送られてきたアクセル開度APOri及びエンジン回転速度Neriから図10を内容とするマップを検索することにより、要求エンジントルクTor2[Nm]を算出する。この要求エンジントルクTor2は、これから高速道路の本線への合流のため、加速履歴にある加速と同じ加速を行ったとしたときに得られるであろうエンジントルクである。
例えば、読み出したアクセル開度APOriが所定値APOri1、読み出したエンジン回転速度Neriが所定値Neri1であったとする。このときには、図10に示したようにこれら2つの値APOri1、Neri1が交わる点の要求エンジントルクTor21[Nm]を算出するのである。
なお、本実施形態の要求エンジントルクのマップ値はナビゲーションコントローラ57に保存されている加速履歴に基づいて更新(学習)されている。これについては図11を参照して説明する。図11において左上に示した要求エンジントルクのマップ特性が初期特性であるとする。初期特性とは、車両の工場出荷時に適合されている特性のことである。初期特性の要求エンジントルクを「基本要求エンジントルク」とする。
ドライバーによってアクセルペダルの踏み方が相違する。燃費重視を心がけているドライバーであれば、アクセルペダルを大きく踏み込まない運転をするよう心がける。
加速を行ったときのアクセル開度がそのときのエンジン回転速度と共に、加速履歴としてナビゲーションコントローラ57に格納されるのであるが、このようにアクセルペダルを大きく踏み込まない運転を心がけていれば、加速を行ったときのアクセル開度は相対的に小さなものとなる。この点を受けて要求エンジントルクのマップ特性は図11右上に示したマップ特性へと移行していく。すなわち、図11右上に示した特性では、実線で示す等エンジントルク線が初期特性より高負荷側に移動している。参考のため初期特性を破線で示す。実線で示す同特性によれば、同じアクセル開度APOと同じエンジン回転速度Neのとき、基本要求エンジントルクよりも要求エンジントルクが低下する。このようにエンジントルクを出さないように努力することで、燃費が徐々に良くなってゆくのである。
一方、出力重視のドライバーであれば、アクセルペダルを大きく踏み込む運転を頻繁にする。アクセルペダルを大きく踏み込む運転を頻繁にしていれば、加速を行ったときのアクセル開度は相対的に大きなものとなり、これが加速履歴のデータとして格納されている。この点を受けて要求エンジントルクのマップ特性は図11左下に示したマップ特性に移行していく。すなわち、図11左下に示した特性では、実線で示す等エンジントルク線が初期特性より低負荷側に移動している。参考のため初期特性を破線で示す。実線で示す同特性によれば、同じアクセル開度APOと同じエンジン回転速度Neのとき、基本要求エンジントルクよりも要求エンジントルクが上昇する。このようにアクセルペダルを大きく踏み込む運転を頻繁にしていれば、同じだけアクセルペダルを踏み込んでも出力されるエンジントルクが徐々に大きくなってゆくのである。
このように、ドライバーの実行した加速の履歴である加速履歴に応じて基本要求エンジントルクを補正することで、要求エンジントルクの特性がドライバーの意思に応じたものとなってゆく。
図9のフローに戻る。ステップ17では、ステップ16で得た要求エンジントルクTor2と、ナビゲーションコントローラ57から送られてきているエンジン回転速度Neriから、図12を内容とするマップを検索することにより、要求圧縮比を算出する。算出した要求圧縮比の値は所定値V2[無名数]に入れる。
ステップ18ではステップ16で得た要求エンジントルクTor2と、読み出したエンジン回転速度Neriから、図13を内容とするマップを検索することにより、要求過給圧を算出する。算出した要求過給圧の値は所定値B2[MPa]に入れる。
これら所定値V2及びB2は、これから高速道路の本線への合流のため、加速履歴にある加速と同じ加速を行ったとしたときに得られるであろう、加速後の高負荷状態での圧縮比及び過給圧である。
例えば、算出した要求エンジントルクが所定値Tor21、ナビゲーションコントローラ57から送られてきているエンジン回転速度Neriが所定値Neri1であったとする。このときには、図12に示したようにこれら2つの値Tor21、Neri1が交わる点の要求圧縮比V21[無名数]を算出するのである。同様に、図13に示したようにこれら2つの値Tor21、Neri1が交わる点の要求過給圧B21[MPa]を算出する。
ステップ19では、ステップ15で得た所定値B1とステップ18で得た所定値B2と、ターボ過給機45の仕様に基づいて、実過給圧の応答時間Tb2[s]を算出する。例えば、ターボ過給機45の仕様から実過給圧の上昇の傾きを所定値Δ2(正の値)で近似すれば、次式により実過給圧の応答時間Tb2[s]を算出することができる。
Tb2=(B2−B1)/Δ2 …(8)
ステップ20では、ステップ14で得た所定値V1とステップ17で得た所定値V2と圧縮比可変機構の仕様に基づいて、実圧縮比の応答時間Tc1[s]を算出する。例えば、圧縮比可変機構の仕様から圧縮比の低下速度を−Δ1(所定値Δ1>0)とすれば、次式により実圧縮比の応答時間Tc1[s]を算出することができる。
Tc1=(V1−V2)/Δ1 …(9)
ステップ21では、実圧縮比の応答時間Tc1、実過給圧の応答時間Tb2、所定値V2、所定値Δ1から、次式により予測した加速が行われるタイミング(t4)での圧縮比V3[無名数]を算出する。
V3=V2+Δ1・(Tc1−Tb2) …(10)
ステップ22では、実圧縮比を所定値V1から予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3まで低下させるに必要な時間Tc3[s]を次式により算出する。
Tc3=(V1−V3)/Δ1+Tyo …(11)
ただし、Tyo:余裕代、
上記余裕代Tyoは適合により定める。
これで実圧縮比を所定値V1から予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3まで低下させるに必要な時間Tc3及び予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3を算出し終わったので、ステップ23ではV3&Tc3済みフラグ=1とする。これによって、次回以降はステップ11からステップ12に進むことができない。
このようにして図9のフローで求めた予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3及び実圧縮比を所定値V1から予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3まで低下させるに必要な時間Tc3はメモリに記憶しておく。これら2つの値V3,Tc3は加速前圧縮比低下処理で用いられる。
次に、図14のフローは加速前圧縮比低下処理を行わせるためのもので、図9のフローに続けて、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
ステップ31では加速前圧縮比低下処理完了フラグ(図14では「前処理完了フラグ」で略記。)をみる。加速前圧縮比低下処理完了フラグはエンジンの始動時にゼロに初期設定している。ここでは、加速前圧縮比低下処理完了フラグ=0であるとしてステップ32以降に進む。
ステップ32,33の操作は図9のステップ12,13の操作と同じである。すなわち、ナビゲーションコントローラ57によって低負荷状態から高負荷状態への加速が予測され、かつナビゲーションコントローラ57よりこれから向かう高速道路で渋滞がないとの情報を得たときに、ステップ34に進む。
ステップ34では加速前圧縮比低下処理開始フラグ(図14では「前処理開始フラグ」で略記。)をみる。加速前圧縮比低下処理開始フラグはエンジン始動時にゼロに初期設定している。ここでは、加速前圧縮比低下処理開始フラグ=0であるとしてステップ35に進む。ステップ35では加速開始より実圧縮比を所定値V1から予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3まで低下させるに必要な時間Tc3(図9のフローにより算出済み)だけ前のタイミングであるか否かをみる。加速開始より実圧縮比を所定値V1から予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3まで低下させるに必要な時間Tc3だけ前のタイミングにまだなっていなければ、そのまま今回の処理を終了する。
ステップ35で加速開始より実圧縮比を所定値V1から予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3まで低下させるに必要な時間Tc3だけ前のタイミングになったときには、加速前圧縮比低下処理を開始するため、ステップ36に進み、加速前圧縮比低下処理開始フラグ=1とする。
ステップ37では、圧縮比が低下する側に圧縮比制御アクチュエータ16を駆動し、実圧縮比を所定値V1から低下させる。
ステップ36で加速前圧縮比低下処理開始フラグ=1としたことから、次回以降はステップ34からステップ38に進む。ステップ38では現在(今回)の実圧縮比Vと予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3(図9のフローにより算出済み)を比較する。今回の実圧縮比Vは、エンジンコントローラ35が圧縮比制御アクチュエータ16に出している指令値から知り得る。今回の実圧縮比Vが、予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3未満になっていなれければ、ステップ36,37に進み、ステップ36,37の操作を実行する。ステップ38で今回の実圧縮比Vが、予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3未満になっていない限り、ステップ36,37の操作を繰り返す。
やがて、ステップ38で今回の実圧縮比Vが予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3未満となれば、今回の実圧縮比Vが予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3に到達したと判断し、ステップ39に進み圧縮比制御アクチュエータ16の駆動を停止する。
これで加速前圧縮比低下処理を完了するので、ステップ40では加速前圧縮比低下処理完了フラグ=1とする。ステップ41では、次回の低負荷状態から高負荷状態への加速に備えるため、加速前圧縮比低下処理開始フラグ=0としておく。この加速前圧縮比低下処理完了フラグ=1としたことで、次回以降はステップ31からステップ32に進むことができない。
次に、図15のフローは加速処理を行わせるためのもので、図14のフローに続けて、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
ステップ51では加速フラグ(エンジン始動時にゼロに初期設定)をみる。ここでは加速フラグ=0であるとしてステップ52に進む。
ステップ52では、アクセルセンサ36により検出されるアクセル開度に基づいて、低負荷状態から高負荷状態への加速であるか否かをみる。低負荷状態から高負荷状態への加速でないときには、そのまま今回の処理を終了する。
一方、アクセル開度が、例えば図7最上段に示したように所定値APO1から所定値APO2(APO2>APO1)へと変化したときには、低負荷状態から高負荷状態への加速であると判断し、ステップ53に進む。ステップ53では、所定値APO2とエンジン回転速度Neから図16を内容とするマップを検索することにより、要求過給圧を算出する。図7と対応づけると、要求過給圧は、図7第2段目に示す、加速後の高負荷状態での過給圧である所定値B2を求めるものである。図16に示したように、要求過給圧はアクセル開度APOが大きくなるほど大きくなる値である。上記の所定値APO2はアクセルセンサ36により検出する。
ステップ54ではタイマを起動する(タイマ値t=0)。このタイマは、加速開始からの経過時間を計測するためのものである。
ステップ55では、モータジェネレータ49に通電して駆動し、排気タービン46を回転させる(ターボ過給機45を強制的に働かせる)。
ステップ56では加速フラグ=1とする。ステップ57では、実圧縮比が低下する側に圧縮比制御アクチュエータ16を駆動する。この場合に、図14に示した加速前圧縮比低下処理によって、加速直前の実圧縮比は予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3に落ち着いているはずである。このため、加速開始タイミングより、圧縮比制御アクチュエータ16は、圧縮比V3からさらに実圧縮比を低下させることとなる。
ステップ56で加速フラグ=1としたことより、次回以降は、ステップ51よりステップ58に進む。ステップ58では、過給圧センサ39により検出される実過給圧Boost[MPa]と、ステップ53で得ている要求過給圧[MPa]を比較する。実過給圧Boostが要求過給圧未満であるときにはステップ59に進む。
ステップ59ではタイマ値tと一定時間を比較する。ここで、一定時間はモータジェネレータ49に通電する時間で、予め定めておく。タイマ値tが一定時間未満であればステップ55,56,57に進み、ステップ55,56,57の操作を実行する。実過給圧Boostが要求過給圧未満であり、かつタイマ値tが一定時間未満である限り、ステップ55,56,57の操作を繰り返す。
やがて、ステップ59でタイマ値tが一定時間以上となったときには、ステップ60に進み、モータジェネレータ49への通電を停止して、モータジェネレータ49を非駆動としたあと、ステップ56,57の操作を実行する。これは、加速開始より一定時間が経過すれば、モータジェネレータ49で排気タービン46を強制的に駆動しなくても、増大した排気エネルギーで排気タービン46が自発的に回転するので、モータジェネレータ49を駆動する必要がないためである。
タイマ値tが一定時間以上となった後に、ステップ58で実過給圧Boostが要求過給圧未満である限り、ステップ60,56,57の操作を繰り返す。
やがて、ステップ58で実過給圧Boostが要求過給圧(図7でいう所定値B2)となれば、実圧縮比は加速後の高負荷状態での値(図7でいう所定値V2)にまで低下しているはずである。このときには、これ以上実圧縮比を低下させることは不要であると判断し、ステップ61に進んで圧縮比制御アクチュエータ16を非駆動とする。ステップ62ではモータジェネレータ49の非駆動を続ける。
ステップ63〜65は加速終了後の後処理である。ステップ63,64では圧縮比V3と必要な時間Tc3にゼロを入れ、V3及びTc3算出済みフラグ=0とする。ステップ65では、次回の加速に備えて加速前圧縮比低下処理完了フラグ=0とする。
図17は、圧縮比可変機構と電動アシストターボ過給機45を備える本実施形態のエンジンを搭載した車両を3つの試験モードで走行させた場合に、圧縮比がどのように変化するのかをシミュレーションして得たデータを要求圧縮比の特性上にまとめたものである。図17には黒丸、白抜き丸、四角の3種類の点で試験モードの違いを示してある。
図17において、破線で囲った領域に含まれる点は低負荷状態から中負荷状態への加速によって遷移する先の圧縮比である。言い換えると、破線で囲った領域は一般道だけを走行する場合に遷移する先の圧縮比が落ち着く領域で、低エンジントルク側に位置している。一点鎖線で囲った領域に含まれる点は低負荷状態から高負荷状態への加速によって遷移する先の圧縮比である。言い換えると、一点鎖線で囲った領域は高速道路の走行を含んでいる場合に遷移する先の圧縮比が落ち着く領域で、高エンジントルク側に位置している。低負荷状態から中負荷状態への加速と低負荷状態から高負荷状態への加速とで遷移する先の圧縮比に違いが生じ、特に低負荷状態から高負荷状態への加速によって遷移する先の圧縮比が大きく低下(変化)している。このように、低負荷状態から高負荷状態への加速によって遷移する先の圧縮比が大きく低下する場合、つまり高速道路の走行を含んでいる場合に、本発明の適用があるわけである。
ここで本実施形態の作用効果を説明する。
本実施形態では、圧縮比可変機構と、圧縮比制御アクチュエータ16と、要求圧縮比設定手段(35)と、アクチュエータ制御手段(35)と、ターボ過給機45と、走路情報取得手段と、加速予測手段(57)と、加速前圧縮比低下処理手段(35)とを備える。上記圧縮比可変機構はエンジンの圧縮比を変更可能である。上記要求圧縮比設定手段(35)はエンジンの運転条件に応じ低負荷側で相対的に高い圧縮比となり、高負荷側で相対的に低い圧縮比となるように要求圧縮比を設定する。上記アクチュエータ制御手段(35)は前記設定された要求圧縮比となるように圧縮比制御アクチュエータ16(圧縮比可変機構のアクチュエータ)を制御する。上記ターボ過給機45(過給機)は吸入空気を過給する。上記走路情報取得手段は車両が走行予定の走路の情報を取得する。上記加速予測手段(57)は実過給圧の応答時間が、実圧縮比の応答時間より短い場合に、走路情報取得手段を利用し、これから向かう道路(これから向かう走路)で低負荷状態から高負荷状態への加速が行われるか否かを予測する。上記加速前圧縮比低下処理手段(35)はこれから向かう道路で低負荷状態から高負荷状態への加速が行われることを予測したとき、圧縮比制御アクチュエータ16を駆動して加速を予測したときの圧縮比より圧縮比を予め低下させる。これによって、ターボ過給機の駆動で過給圧が加速前の状態から加速後の状態となるまでの応答時間が、圧縮比制御アクチュエータの駆動で圧縮比が加速前の状態から加速後の状態となるまでの応答時間より短い場合であっても、ノッキングを回避することができる。
本実施形態では、上記走路情報取得手段ITS60はITを利用して交通の輸送効率や快適性の向上に寄与するシステムである。ITS60はVICS(登録商標)対応のナビゲーションシステム50を含み、ナビゲーションシステム50は加速が行われた道路(加速が行われた走路)と加速が行われたときのアクセル開度及びエンジン回転速度から構成される加速履歴を保存する。加速予測手段が、自車位置と加速履歴に基づいて、これらから向かう道路(これから向かう走路)で加速が行われるか否かを予測する。これによって、車両にナビゲーションシステム50を含むITS60が既設であれば、コストアップの上昇を抑えることができる。
本実施形態では、前記加速前圧縮比低下手段が、圧縮比算出手段(35)と、必要時間手段(35)と、アクチュエータ駆動開始手段(35)とを備える。上記圧縮比算出手段(35)はこれから向かう道路(これから向かう走路)で予測した加速が行われるとき、過給圧が前記加速後の状態となるタイミングと、圧縮比が前記加速後の状態となるタイミングとが同時期となるように予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3を算出する。上記必要時間手段(35)は予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3と予め定まる圧縮比の低下速度に基づいて、圧縮比を予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3まで低下させるに必要な時間Tc2を算出する。上記アクチュエータ駆動開始手段(35)は予測した加速が行われるタイミングより算出した必要時間Tc2の前に圧縮比が低下する側への圧縮比制御アクチュエータ16(アクチュエータ)の駆動を開始する。これによって、遅れることなく圧縮比制御アクチュエータ16を圧縮比が低下する側に駆動することができる。
本実施形態では、必要な時間Tc3に余裕代Tyoを含ませる。これによって、圧縮比の低下速度を定めている圧縮比可変機構に製作バラツキがあっても、予測した加速が行われるタイミングでの圧縮比V3を確実に得ることができる。
これから向かう道路(これから向かう走路)で渋滞がある場合にも、低負荷状態から高負荷状態への加速が行われるとして、圧縮比を予め低下させることは無駄である。本実施形態ではITS60からもたらされる道路交通情報(走路情報)から、これから向かう道路で渋滞がある場合に、加速前圧縮比低下処理手段の作動を停止する。これによって、無駄な圧縮比の低下がなくなるので、平均的に高い熱効率を維持することが可能となり、燃費を向上できる。
本実施形態では、基本点火時期算出手段(35)と、ノックセンサ40と、点火時期フィードバック制御手段(35)とを有する。上記基本点火時期算出手段(35)はMBTの得られる基本点火時期を算出する。上記点火時期フィードバック制御手段(35)はノックセンサ40によりノッキングが生じたとき点火時期を一定量(a)だけ遅角し、その後に一定量(b)ずつ進角側に戻す。これによって、実過給圧の応答時間Tb2が実圧縮比の応答時間Tc1より短い場合であっても、最適な点火時期であるMBTを得ることができる。
実施形態では、排気のエネルギーを利用して吸入空気を過給すると共に、加速時にはモータジェネレータ49をモータとして用いて排気タービン46を回転させるターボ過給機45の場合で説明したが、この場合に限られるものでない。スーパーチャージャの場合にも本発明の適用がある。