以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。
以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
図1は、本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷装置の全体斜視図である。図2は、図1に示すインクジェット印刷装置の概略構成を示す正面図である。図3は、図1に示すインクジェット印刷装置のインクジェットヘッドの斜視図である。図4は、図3のA−A線に沿った断面図である。図5は、図1に示すインクジェット印刷装置のメンテナンス部の斜視図である。図6は、メンテナンス部の側面図である。図7は、図1に示すインクジェット印刷装置の制御ブロック図である。なお、以下の説明において、図1の矢印で示す上下左右前後を上下左右前後方向とする。
図1、図2、図7に示すように、本実施の形態に係るインクジェット印刷装置1は、シャトルベースユニット2と、フラットベッドユニット3と、シャトルユニット4と、制御部5とを備える。
シャトルベースユニット2は、シャトルユニット4を支持するとともに、前後方向(副走査方向)にシャトルユニット4を移動させる。シャトルベースユニット2は、架台部11と、副走査駆動モータ12とを備える。
架台部11は、シャトルユニット4を支持する。架台部11は、矩形枠状に形成されている。架台部11の左右の枠上には、前後方向に延びる副走査駆動ガイド13A,13Bがそれぞれ形成されている。副走査駆動ガイド13A,13Bは、シャトルユニット4を前後方向に移動するようガイドする。
副走査駆動モータ12は、シャトルユニット4を前後方向に移動させる。
フラットベッドユニット3は、建材や化粧パネル等の基材からなる印刷媒体15を保持する。フラットベッドユニット3は、シャトルベースユニット2の架台部11の内側に配置されている。フラットベッドユニット3は、印刷媒体15が載置される水平面である媒体載置面3aを有する。フラットベッドユニット3は、油圧駆動機構等からなる昇降機構により、媒体載置面3aの高さを調整できるようになっている。
シャトルユニット4は、印刷媒体15に画像を印刷する。シャトルユニット4は、筐体21と、主走査駆動ガイド22と、主走査駆動モータ23と、ヘッド昇降ガイド24と、ヘッド昇降モータ25と、ヘッドユニット26と、メンテナンス部27とを備える。
筐体21は、ヘッドユニット26等の各部を収納する。筐体21は、フラットベッドユニット3を左右方向に跨ぐ門型に形成されている。筐体21は、シャトルベースユニット2の架台部11に支持され、副走査駆動ガイド13A,13Bに沿って移動可能になっている。
主走査駆動ガイド22は、ヘッドユニット26を左右方向(主走査方向)に移動するようガイドする。主走査駆動ガイド22は、左右方向に延びる長尺状に形成されている。
主走査駆動モータ23は、ヘッドユニット26を左右方向に移動させる。
ヘッド昇降ガイド24は、ヘッドユニット26を上下方向に移動するようガイドする。ヘッド昇降ガイド24は、上下方向に細長い形状に形成されている。ヘッド昇降ガイド24は、ヘッドユニット26とともに主走査駆動ガイド22に沿って左右方向に移動可能に構成されている。
ヘッド昇降モータ25は、ヘッドユニット26を昇降させる。
ヘッドユニット26は、主走査駆動ガイド22に沿って左右方向に移動しつつ、印刷媒体15へインクを吐出して画像を印刷する。ヘッドユニット26は、4つのインクジェットヘッド31を備える。
インクジェットヘッド31は、印刷媒体15へインクを吐出する。4つのインクジェットヘッド31は、左右方向に並列して配置されている。4つのインクジェットヘッド31は、それぞれ異なる色(例えば、シアン、ブラック、マゼンタ、イエロー)のインクを吐出する。図3、図4に示すように、インクジェットヘッド31は、ノズルプレート36と、ノズルガード37とを有する。
ノズルプレート36は、インクを吐出するノズル38が形成された部材である。ノズルプレート36は、インクジェットヘッド31の下端に設けられている。ノズルプレート36は、矩形の板状に形成されている。ノズルプレート36の表面(下面)であるノズル面36aに、複数のノズル38が開口している。複数のノズル38は、前後方向に沿って配置され、ノズル列39を形成している。ノズル38は、インクジェットヘッド31内のインク室(図示せず)に連通されている。ノズル面36a上には、撥インク膜(図示せず)が形成されている。
ノズルガード37は、インクジェットヘッド31のノズル面36aを保護する。ノズルガード37は、インクジェットヘッド31の下端に設置されている。ノズルガード37は、ノズル面36aを覆う矩形状の底板41と、底板41の周縁に立設された側壁42とを有する。底板41には、ノズル列39を露出させるための開口部46が形成されている。開口部46は、前後方向に細長い矩形状に形成されており、ノズル列39とともにノズル面36aの一部を露出させている。
メンテナンス部27は、インクジェットヘッド31のノズル面36aおよびノズルガード37をクリーニングする。メンテナンス部27は、筐体21の左端部の内部に配置されている。メンテナンス部27は、4つのワイパ51と、4つのワイパ固定部52と、ワイパ駆動部53と、4つのワイプ液槽54とを備える。
ワイパ51は、ワイプ液槽54のワイプ液により濡らされ、ノズルガード37をワイプするとともに、開口部46により露出したノズル面36aを、ワイプ液を介して非接触でワイプする。ワイパ51は、弾性変形可能なゴム等の材料からなり、矩形の板状に形成されている。
ワイパ固定部52は、ワイパ51を後述するワイパ駆動ベルト56に固定する。
ワイパ駆動部53は、ワイパ51を移動させる。ワイパ駆動部53は、4本のワイパ駆動ベルト56と、駆動ローラ57と、従動ローラ58,59とを備える。
ワイパ駆動ベルト56は、駆動ローラ57および従動ローラ58,59に掛け渡された環状のベルトである。それぞれのワイパ駆動ベルト56に、ワイパ固定部52を介してワイパ51が取り付けられている。ワイパ駆動ベルト56は、図5において矢印で示す方向(左側から見て反時計回り方向)に回転し、ワイパ51を移動させる。これにより、駆動ローラ57と従動ローラ58との間で張られたワイパ駆動ベルト56の水平区間において、ワイパ51が、前側から後側へ向かって移動しつつ、ノズルガード37をワイプする。
駆動ローラ57は、ワイパ駆動ベルト56を回転させる。駆動ローラ57は、図示しないモータにより回転駆動される。
従動ローラ58,59は、駆動ローラ57とともに4本のワイパ駆動ベルト56を支持する。従動ローラ58,59は、ワイパ駆動ベルト56を介して駆動ローラ57に従動回転する。従動ローラ58は、駆動ローラ57と同じ高さで、駆動ローラ57の後方に配置されている。従動ローラ59は、前後方向における駆動ローラ57と従動ローラ58との中間位置の下方に配置されている。
ワイプ液槽54は、ワイパ51に付着させるワイプ液を保持する。ワイプ液槽54は、ワイパ駆動ベルト56の下方に配置されている。これにより、ワイパ駆動ベルト56の回転によりワイパ51が従動ローラ59付近を通過する際に、ワイパ51がワイプ液槽54内のワイプ液に接触し、ワイパ51にワイプ液が付着するようになっている。
ワイプ液は、インクを溶解させる機能を有するものである。このワイプ液としては、例えば、水および界面活性剤を含む水性溶媒を用いることができる。
界面活性剤としては、例えば、脂肪酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、α−スルホ脂肪酸エステルナトリウム、アルキル燐酸エステルナトリウム等のアニオン性界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム、等のカチオン性界面活性剤;ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、等のノニオン性界面活性剤;アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム、アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド、等の両性界面活性剤を用いることができる。また、高分子系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、およびアセチレングリコール系界面活性剤等も用いることができる。これらのなかでもポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いることが好ましく、そのHLB値は11〜17、アルキル基の炭素数は8〜15、エチレンオキサイドの付加モル数は6〜25であることがより好ましい。
ワイプ液には、さらに増粘剤を含むことが好ましい。増粘剤としては、水溶性高分子系増粘剤、粘土鉱物系増粘剤を用いることができる。水溶性高分子系増粘剤としては、天然高分子、半合成高分子、合成高分子を用いることができる。天然高分子としては、例えば、アラビアガム、カラギーナン、グアガム、ローカストビーンガム、ペクチン、トラガントガム、コーンスターチ、コンニャクマンナン、寒天等の植物系天然高分子;プルラン、キサンタンガム、デキストリン等の微生物系天然高分子;ゼラチン、カゼイン、にかわ等の動物系天然高分子、を用いることができる。半合成高分子としては、例えば、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系半合成高分子;ヒドロキシエチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、シクロデキストリン等のデンプン系半合成高分子;アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール等のアルギン酸系半合成高分子;ヒアルロン酸ナトリウム、を用いることができる。合成高分子としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリN− ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド等のビニル系合成高分子;ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、ポリウレタンを用いることができる。粘土鉱物系の増粘剤としては、例えば、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト等のスメクタイト系粘土鉱物を用いることができる。これらのなかでも、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いることが好ましい。
さらに、ワイプ液には、上記の成分に加え、任意に、水溶性有機溶剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤等を適宜含むことができる。ワイプ液の粘度は、インクジェットヘッド31が吐出するインクの粘度より低く、インクの粘度の半分以下であることが好ましい。
ワイプ液槽54には、不織布61と、ヒータ(請求項の加温部に相当)62とが設置されている。
不織布61は、ワイパ51に付着した異物を除去する。ワイパ51がワイプ液槽54を通過する際に、ワイパ51が不織布61に接触することで、ワイパ51に付着した異物が除去されるようになっている。
ヒータ62は、ワイプ液槽54内のワイプ液の粘度を調整するために、ワイプ液に加温するものである。
制御部5は、インクジェット印刷装置1全体の動作を制御する。制御部5は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク等を備えて構成される。
制御部5は、メンテナンス部27によるインクジェットヘッド31のクリーニング時において、ノズル面36aにおけるワイプ液とインクとの混合液の撥水速度に応じて、ワイパ51のワイプ速度を制御する。ここで、ノズル面36aにおける混合液の撥水速度は、後述のように、混合液がワイパ51に追随してノズル面36a上を移動する際の混合液の後端の移動速度である。
次に、インクジェット印刷装置1における印刷動作について説明する。
インクジェット印刷装置1において、印刷動作の開始前の待機状態では、シャトルユニット4は、待機位置に配置されている。シャトルユニット4の待機位置は、図1において実線で示すシャトルユニット4の位置であり、シャトルベースユニット2の架台部11の後端部にある。
印刷ジョブが入力されると、制御部5は、副走査駆動モータ12を制御してシャトルユニット4を待機位置から印刷処理開始位置へ移動させる。シャトルユニット4の印刷処理開始位置は、図1において二点鎖線で示すシャトルユニット4の位置であり、シャトルベースユニット2の架台部11の前端部にある。なお、印刷ジョブの入力に先立ち、印刷媒体15がフラットベッドユニット3の媒体載置面3a上に載置されている。
次いで、制御部5は、主走査駆動モータ23を制御してヘッドユニット26を主走査方向に移動させつつ、印刷ジョブに基づきインクジェットヘッド31を制御してノズル38からインクを吐出させることで、1パス分の印刷を行う。次いで、制御部5は、副走査駆動モータ12を制御してシャトルユニット4を次のパスの印刷位置まで後方向に移動させる。制御部5は、この1パス分の印刷とシャトルユニット4の移動とを交互に繰り返すことにより、印刷媒体15に画像を形成する。
1枚分の印刷が終了すると、制御部5は、副走査駆動モータ12を制御してシャトルユニット4を待機位置へ配置する。これにより、印刷動作が終了となる。
次に、インクジェット印刷装置1におけるインクジェットヘッド31のクリーニング動作について説明する。
クリーニング動作において、まず、制御部5は、ワイパ駆動部53によりワイパ51を移動させてワイプ液槽54を通過させることで、ワイパ51を洗浄するとともに、ワイプ液をワイパ51に付着させる。
次いで、制御部5は、主走査駆動モータ23を制御してヘッドユニット26をホームポジションからメンテナンス部27の上方へ移動させる。この後、制御部5は、ヘッド昇降モータ25を制御してヘッドユニット26をクリーニング位置まで下降させる。ここで、ヘッドユニット26をホームポジションは、図2に示すヘッドユニット26の位置であり、筐体21の右端部の内部にある。ヘッドユニット26のクリーニング位置は、ワイパ51によりノズルガード37をワイプするためのヘッドユニット26の位置である。
ヘッドユニット26のクリーニング位置への移動が完了した時点において、ワイパ51は、ノズルガード37の前端よりも前側にある。また、ワイパ51の先端(上端)は、ノズルガード37の下面よりも高い位置にある。
次いで、制御部5は、ワイパ駆動部53により後方向へのワイパ51の移動を開始させる。ここで、制御部5は、ノズル面36aにおけるワイプ液とインクとの混合液の撥水速度に応じて予め設定されたワイプ速度でワイパ51を移動させるようワイパ駆動部53を制御する。
ワイパ51が移動を開始した後、ノズルガード32に接触すると、ワイパ51はノズルガード32に押圧されて弾性変形する。そして、後方向への移動とともに、ワイパ51の上端部がノズルガード37の下面を摺動(ワイプ)する。
ワイパ51がノズルガード37の開口部46を通過する際は、図8に示すように、ワイパ51の左右方向における中央部分は、ノズルガード37にもノズル面36aにも非接触となる。しかし、ワイパ51はワイプ液で濡れているため、ノズル面36aに非接触でも、ワイプ液を介してノズル面36aをワイプしつつ移動する。
ここで、ノズルガード37およびノズル面36aには、インクジェットヘッド31がインクを吐出した際にインクミストとなったインクが付着している。このため、ワイパ51がノズルガード37をワイプする際、ワイプ液とインクとが混合された混合液66が形成される。
ワイパ51がノズルガード37の開口部46を通過する際、ノズルガード37の厚みによりワイパ51とノズル面36aとが一定の距離保つため、図9に示すように、混合液66が一定の厚さにならされる。そして、混合液66は、ワイパ51の進行方向への流れと、ノズル面36aの撥水性とにより、ワイパ51に追随して移動する。これにより、ノズル面36aがクリーニングされる。
ワイパ51がノズルガード37の後端より後側へ達すると、制御部5は、ワイパ51の移動を終了させる。これにより、インクジェットヘッド31のクリーニング動作が終了となる。
次に、ワイプ液の粘度およびワイプ速度について説明する。
ワイパ51がノズルガード37の開口部46を通過する際、図10に示すように、速度分布が直線的に変化するクエット流れが混合液66に形成される。このとき、下記の式(1)で表されるような、せん断力τと速度勾配との比例関係が成り立つ。
τ=μ×U/h …(1)
ここで、μは混合液66の粘性係数である。Uはワイパ51の移動速度(ワイプ速度)である。hは混合液66の厚さ(ノズルガード37の厚さ)である。
式(1)から分かるように、混合液66の粘度が高いほどせん断力が大きくなる。このため、混合液66の粘度が高いほど、ワイプ中に混合液66がせん断力によりちぎれて混合液66の液滴がノズル面36a上に残りやすくなる。混合液66の液滴がノズル面36a上に残ると、その液滴がノズル38からのインク吐出の妨げとなり、インクの不吐出や飛行曲がりが発生するおそれがある。
このため、混合液66の粘度は低いほど好ましく、そのためには、ワイプ液の粘度は低いほど好ましい。具体的には、ワイプ液の粘度は、インクの粘度よりも低い。これにより、混合液66の粘度をインクの粘度よりも低くすることができ、混合液66の液滴がノズル面36a上に残ることを抑制できる。混合液66の液滴がノズル面36a上に残らないようにするためには、ワイプ液の粘度がインクの粘度の半分以下であることが好ましい。
また、式(1)から分かるように、ワイプ速度が速いほどせん断力が大きくなる。このため、ワイプ速度が速いほど、ワイプ中に混合液66がちぎれて混合液66の液滴がノズル面36a上に残りやすくなる。
このため、ワイプ中に混合液66がちぎれて混合液66の液滴がノズル面36a上に残ることを抑えるためには、ワイプ速度は遅いほど好ましい。
一方、ワイプ速度が遅すぎると、混合液66がノズル38内に引き込まれるおそれがある。この混合液66がノズル38内に引き込まれる現象について、図11を参照して説明する。
図11に示すように、インクジェットヘッド31内には負圧が生成されており、ノズル38には負圧がかかっている。通常の状態では、ノズル38内のインクにはメニスカスが形成されており、メニスカス表面の表面張力とノズル38にかかる負圧との間でバランスが保たれている。
図11における前側の2つのノズル38のように、ノズル38の開口部が混合液66によって覆われると、ノズル38内のメニスカスがなくなり、ノズル38内のインクと混合液66とが連通状態となる。これにより、混合液66には負圧によりノズル38内に引き込まれる方向の力が働く。これに対し、混合液66の表面張力が、ノズル38内に引き込まれる方向の力に対する抵抗力として働く。このため、ノズル38の開口部が混合液66に覆われても、混合液66は、すぐにはノズル38内に引き込まれない。
ただし、ワイプ速度が遅く、ノズル面36a上に混合液66が滞留する時間が長くなると、混合液66が負圧によりノズル38内に引き込まれて浸入するおそれがある。混合液66がノズル38内に浸入すると、ノズル38におけるインクの不吐出や飛行曲がりが発生するおそれがある。そのため、吐出回復のために、空吐出を行う必要がある。
混合液66がノズル38内に浸入することを抑えるためには、ノズル面36a上に混合液66が滞留する時間が長くなりすぎない程度に、ワイプ速度を速くする必要がある。
具体的には、ワイプ速度をノズル面36aにおける混合液66の撥水速度以上とすることで、混合液66がノズル38内に浸入することを抑えることができる。ここで、ノズル面36aにおける混合液66の撥水速度は、混合液66がワイパ51に追随してノズル面36a上を移動する際の混合液66の後端66a(図9参照)の移動速度である。ノズル面36aにおける混合液66の撥水速度は、実物のインクジェットヘッド31、インク、ワイプ液、およびワイパ51を用いて、ワイプ速度をさまざまな速度に調整しつつ計測されるものである。
ワイプ速度が混合液66の撥水速度以上の場合、混合液66の後端66aは撥水速度でノズル面36a上を移動する。これにより、ノズル面36a上に混合液66が滞留する時間が抑えられるので、混合液66がノズル38内に浸入することを抑えることができる。これに対し、ワイプ速度が混合液66の撥水速度より遅い速度の場合、混合液66も撥水速度より遅いワイプ速度と同じ速度で移動することになる。このため、ワイプ速度が遅いほど、ノズル面36a上に混合液66が滞留する時間が長くなり、混合液66がノズル38内に浸入しやすくなる。
一方、前述のように、ワイプ速度が速いほど、ワイプ中に混合液66がちぎれて混合液66の液滴がノズル面36a上に残りやすくなるため、ワイプ速度は、ワイプ液単体の撥水速度以下とすることが好ましい。ここで、ノズル面36a上における液体の撥水速度は、液体の粘度が低いほど速くなる。本実施の形態では、ワイプ液の粘度がインクの粘度よりも低いため、ワイプ液単体の撥水速度は、混合液66の撥水速度よりも速い。
上記説明したことから、インクジェット印刷装置1では、ワイパ51によるワイプ速度を、ノズル面36aにおける混合液66の撥水速度に応じて設定している。より具体的には、ワイプ速度を、ノズル面36aにおける混合液66の撥水速度以上で、ワイプ液単体の撥水速度以下の速度としている。
次に、インクジェット印刷装置1におけるインクジェットヘッド31のクリーニングの実験結果について、図12を参照して説明する。
図12に示すように、この実験では、粘度がそれぞれ4mPa・s,10mPa・s,50mPa・sである3種類のワイプ液を用いた。また、それぞれの粘度のワイプ液に対して、20mm/s,50mm/s,80mm/sのワイプ速度でインクジェットヘッド31のワイプを行った。粘度が4mPa・sのワイプ液については、10mm/sでもワイプを行った。そして、クリーニング後のインクジェットヘッド31による印刷物を評価した。
印刷物の評価において、ノズル抜け(ノズル38からのインクの不吐出)が見つからず、良好な印刷物を「A」と評価した。空吐出で改善する程度の数のノズル抜けがある印刷物を「B」と評価した。空吐出でも改善しないほどにノズル抜けが多数発生している印刷物を「C」と評価した。「−」は、ノズル面36aにワイプ液が接触していない場所があり、ノズル面36aのクリーニングができていないため評価対象外であることを示す。
なお、図12におけるワイパ形状欄に記載のフラット形状は、本実施の形態のワイパ51の形状であり、図5に示すように、上辺が水平な直線状となっている形状である。
ここで、この実験におけるインクの粘度は、10mPa・sである。すなわち、4mPa・sのワイプ液の粘度は、インクの粘度より低く、インクの粘度の半分以下である。10mPa・sのワイプ液の粘度は、インクの粘度と同等である。50mPa・sのワイプ液の粘度は、インクの粘度より大きい。
図12に示すように、粘度が10mPa・sのワイプ液および50mPa・sのワイプ液では、20mm/s,50mm/sのワイプ速度において、良好な印刷物が得られなかった。10mPa・s,50mPa・sでは高粘度のため、ワイプ液とインクとの混合液がせん断力によりちぎれてノズル面36a上に残ったからである。なお、80mm/sのワイプ速度では高速のため、混合液がノズル面36aに十分に接触しない状態でワイパ51が移動し、ノズル面36aのクリーニングができていなかった。
粘度が4mPa・sのワイプ液では、20mm/s,50mm/sのワイプ速度において、良好な印刷物が得られた。10mm/sのワイプ速度においては、良好な印刷物が得られなかった。80mm/sのワイプ速度では、上述の10mPa・s,50mPa・sの場合と同様に、ノズル面36aのクリーニングができていなかった。
ここで、4mPa・sのワイプ液とインクとの混合液の撥水速度は、15mm/sである。また、4mPa・sのワイプ液単体の撥水速度は、50mm/sである。したがって、ワイプ液の粘度がインクの粘度より低い場合において、ワイプ速度がノズル面36aにおける混合液の撥水速度以上で、ワイプ液単体の撥水速度以下の速度である場合に、良好な印刷物が得られることが確認された。
粘度が4mPa・sのワイプ液の場合において、10mm/sのワイプ速度で良好な印刷物が得られなかったのは、ワイプ速度が遅すぎることで、混合液がノズル38内に浸入したためである。
次に、比較例として、本実施の形態とは異なり、凸形状のワイパを用いてインクジェットヘッド31のクリーニングを行った場合の実験結果を、図13に示す。
凸形状のワイパは、左右方向における中央部分が、左側部分および右側部分より突出した形状のワイパである。この凸形状のワイパは、突出した中央部分がノズルガード37の開口部46に挿入され、ノズル面36aに接触してワイプするものである。
図13に示すように、凸形状のワイパでは、ワイプ液の粘度が4mPa・sで、ワイプ速度が20mm/sでも50mm/sでも、良好な印刷結果は得られなかった。凸形状のワイパでは、ワイパの中央部分がノズル面36aに接触してワイプすることで、ワイプ液がノズル38内に押し込まれたためである。
ところで、上述のように、インクジェット印刷装置1では、インクより粘度が低いワイプ液を使用するが、環境温度変化等により、ワイプ液槽54のワイプ液の粘度が上昇することがある。
そこで、ワイプ液の粘度が上昇したと判断される場合において、制御部5は、ヒータ62を駆動させてワイプ液槽54のワイプ液に加温することで、ワイプ液の粘度を低下させる。
具体的には、制御部5は、図示しない温度センサにより検出される環境温度が規定温度未満になった場合、ヒータ62を駆動させてワイプ液槽54のワイプ液に加温することで、ワイプ液の粘度を低下させる。
また、時間経過に伴い、揮発によりワイプ液槽54のワイプ液の粘度が上昇することがある。そこで、制御部5は、規定期間ごとに、ヒータ62を駆動させてワイプ液槽54のワイプ液の粘度を低下させるようにしてもよい。
また、インクジェットヘッド31をワイプしたワイパ51がワイプ液槽54のワイプ液に浸かることで、ワイプ液にインクが混ざり、ワイプ液槽54のワイプ液の粘度が上昇することがある。そこで、制御部5は、クリーニングを規定回数行うごとに、ヒータ62を駆動させてワイプ液槽54のワイプ液の粘度を低下させるようにしてもよい。
以上説明したように、インクジェット印刷装置1では、ワイパ51は、ノズルガード37の開口部46により露出したノズル面36aを、非接触でワイプ液を介してワイプする。これにより、ワイパがワイプ液をノズル38内に押し込むことが回避される。また、制御部5は、ノズル面36aにおけるワイプ液とインクとの混合液の撥水速度に応じて、ワイパ51によるワイプ速度を制御する。これにより、ノズル面36a上に混合液が滞留する時間を抑え、混合液がノズル38内に浸入することを抑えることが可能になる。このため、インクジェットヘッド31のクリーニング後の空吐出を省略し、インクの無駄を低減することが可能になる。
具体的には、制御部5は、ワイプ速度を、ノズル面36aにおける混合液66の撥水速度以上で、ワイプ液単体の撥水速度以下の速度としている。これにより、ノズル面36a上に混合液が滞留する時間を抑え、混合液がノズル38内に浸入することを抑えるとともに、ワイプ中に混合液がせん断力によりちぎれてノズル面36a上に残ることを抑えることができる。この結果、インクジェットヘッド31のクリーニング後の空吐出を省略してインクの無駄を低減できるとともに、空吐出によっても改善しないインクの吐出不良を低減し、印刷画質の低下を抑えることができる。
また、インクジェット印刷装置1では、ワイプ液槽54にヒータ62を備えたので、ワイプ液の粘度が低下した場合に、粘度を上昇させるよう調整できる。これにより、環境温度の変化等によるワイプ液の粘度の上昇によりワイプ中に混合液がせん断力によりちぎれてノズル面36a上に残ることを低減することが可能になる。
本発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。