<第1実施形態>
初めに、本発明の第1実施形態に係るタイミング信号生成装置20について説明する。図1は、第1実施形態のタイミング信号生成装置20の概略的な構成を示すブロック図である。
図1に示すタイミング信号生成装置20は、後述するGNSSアンテナ1で受信した衛星50,50,・・・からの衛星信号を解析し、当該衛星信号に含まれる軌道情報及び時刻情報に基づいて、GNSS基準時刻に同期したタイミング信号を生成することができる。
本実施形態のタイミング信号生成装置20は、例えば小型の無線基地局設備を搭載したドローンに備えられている。このドローンは地震や津波等の災害が発生して、交通網が遮断され、人が立ち入れなくなった村や建造物等と通信を行うために利用される。このドローンは通常の基地局設備と同等の機能を有しており、携帯電話の利用等の際に中継基地局として用いられる。
このドローンは衛星信号を受信するための受信機、アンテナ、及び内部に方位情報や速度情報等を得るための各種センサを保有しており、利用者が予め指定した場所へ自動飛行、及び滞空することが可能である。なお、受信機及びアンテナは、タイミング信号生成装置20の一部を構成している。このとき、滞空した状態で静止を維持しているドローンは、固定点にアンテナを設置している状態と同様に扱うことができるため、衛星信号の受信も固定点測位を行うことが可能である。そのため利用者が事前に設定した設定位置にて測位を実施することができ、固定点での測位を実施する通常の基地局と同等の精度のタイミング信号を生成することができる。このタイミング信号は、基地局として必要な基準信号として用いることが可能である。
図1に示すように、このタイミング信号生成装置20は、GNSSアンテナ1を備える。また、タイミング信号生成装置20は、信号復調部2、コード位相取得部3、搬送波周波数取得部4、設定位置受信部5、カルマンフィルタ部6、タイミング信号生成部8、クロック誤差評価部11及び評価出力部12等を備えている。
具体的には、上記のタイミング信号生成装置20は公知のコンピュータとして構成され、CPU、ROM、RAM、及び発振回路等を備えている。また、上記のROM等には、本発明のタイミング信号生成方法を実現するためのプログラムが記憶されている。そして、上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、タイミング信号生成装置20を、信号復調部2、コード位相取得部3、搬送波周波数取得部4、設定位置受信部5、カルマンフィルタ部6、タイミング信号生成部8、クロック誤差評価部11、評価出力部12等として動作させることができる。
GNSSアンテナ1は、GNSSを構成する衛星50,50,・・・から送信される所定の周波数帯の衛星信号を受信するアンテナである。ここで、衛星としては、例えば、GPS、ガリレオ、及びGLONASS等において運用される人工衛星が考えられるが、例えば準天頂衛星等を含めてもよい。
信号復調部2は、GNSSアンテナ1で受信した衛星信号から軌道情報及び時刻情報を取り出す。この情報の取得は、衛星50,50,・・・のそれぞれに特有の擬似ランダム雑音コード(PRNコード)によりコード変調されている衛星信号を復調することにより行われる。得られた軌道情報や時刻情報は、カルマンフィルタ部6に出力される。また、信号復調部2は、信号の復調の過程で再現されたPRNコードをコード位相取得部3に出力するとともに、再現された搬送波を搬送波周波数取得部4に出力する。
コード位相取得部3は、タイミング信号生成装置20の内部時計(例えば、水晶時計)のタイミングに基づいてレプリカPRNコードを生成するとともに、このレプリカPRNコードと、信号復調部2から入力されたPRNコードと、の時間的なズレ(チップ時間)を求めることにより、衛星信号のコード位相を取得する。コード位相取得部3は、得られたコード位相をカルマンフィルタ部6に出力する。
搬送波周波数取得部4は、信号復調部2から入力された搬送波の周波数を計測することにより取得する。搬送波周波数取得部4は、得られた搬送波周波数をカルマンフィルタ部6に出力する。
設定位置受信部5は、タイミング信号生成装置20の利用者(ユーザ)が、設置を計画するGNSSアンテナ1の位置(受信点)を当該タイミング信号生成装置20に設定した場合に、その位置を受信する。言い換えれば、設定位置受信部5は、ユーザがタイミング信号生成装置20に入力した受信点の位置を受信する。以下では、この位置を「設定位置」と称する場合がある。受信点の位置の設定は、タイミング信号生成装置20が備える図示しないキー及びダイアル等の入力部を操作したり、外部のコンピュータがタイミング信号生成装置20と通信して指示したりすることで行うことができる。また、上記の設定位置は、例えば地図から読み取ったり、或いは測量を行ったりすることでも得ることができる。
このように、本実施形態のタイミング信号生成装置20では、意図している受信点の位置(受信点のあるべき位置)を、事前に外部から与えることができるようになっている。設定位置受信部5は、受信した設定位置を、カルマンフィルタ部6、クロック誤差評価部11及び評価出力部12に出力する。
ただし、前記設定位置は、必ずしも事前に外部から与えられる位置であるとは限らず、例えばこれに代えて、タイミング信号生成装置20の内部で生成される位置であってもよい。また、必ずしも設定位置受信部5で受信された位置とは限らず、その都度生成される位置であってもよい。
カルマンフィルタ部6は、設定位置受信部5が受信した設定位置がGNSSアンテナ1の位置を正しく表していると仮定してカルマンフィルタ処理を実行することにより、タイミング信号生成装置20の内部時計が有するクロックバイアス及びクロックドリフトを推定する。これ以降、クロックバイアスを「バイアス」、クロックドリフトを「ドリフト」と記述する場合がある。
本実施形態において、バイアスとは、衛星50が備える原子時計と、タイミング信号生成装置20が備える内部時計と、の時間的なズレを意味する。ドリフトとは、上記の時間的なズレの変化率を意味する。バイアス及びドリフトは、何れも内部時計の誤差(クロック誤差)の一種であるということができる。
カルマンフィルタ部6においては、前記バイアス及びドリフトだけでなく、受信点の位置及び移動速度についても推定が行われる。カルマンフィルタ部6は、カルマンフィルタ処理を反復して行い、原則として、その都度得られた値によって、バイアス及びドリフトの推定値が更新される。ただし、カルマンフィルタ処理によって新しく得られたバイアス及びドリフトの値が所定程度確からしくないとクロック誤差評価部11によって判定された場合、バイアス及びドリフトの推定値は更新されないか、或いは、バイアスのみ前回求めたドリフトの値に処理の時間間隔を乗算して求められた値を加算して更新する。本実施形態においてカルマンフィルタ処理は1秒毎に行われるが、処理の時間間隔は任意である。カルマンフィルタ部6が行う処理の詳細については後述する。
タイミング信号生成部8は、カルマンフィルタ部6から入力されたクロック誤差を用いてタイミング信号を生成する。具体的に説明すると、本実施形態のタイミング信号生成部8は、カルマンフィルタ部6で得られたクロック誤差(後述のバイアス及びドリフト)に基づいて、タイミング信号生成装置20が備える水晶時計のタイミングに対してオフセット処理等を行うことにより、GNSS基準時刻と同期した1秒周期信号(1PPS:One Pulse per Second)を出力する。本実施形態では、上記の1PPS信号がタイミング信号に該当する。
クロック誤差評価部11は、カルマンフィルタ処理によって新しく得られたバイアス及びドリフトの値が所定程度確からしいか否かを、カルマンフィルタ部6でバイアス及びドリフトとともに推定される受信点の位置が設定位置からどれだけ乖離しているか等を基準にして評価する。なお、この評価の詳細は後述する。クロック誤差評価部11は、この評価結果をカルマンフィルタ部6に出力する。
評価出力部12は、タイミング信号生成部8が出力する上記のタイミング信号がどれほど正しいと考えられるかを示す指標を、クロック誤差評価部11が行うクロック誤差の評価とほぼ同様の方法によって求め、例えばディスプレイ等に出力したり、通信をしたりすることで、外部に通知する。
次に、カルマンフィルタ部6の構成について詳細に説明する。
本実施形態において、カルマンフィルタ部6は、受信点の位置X,Y,Zと、受信点の移動速度ΔX,ΔY,ΔZと、内部時計のバイアスBと、内部時計のドリフトDと、を含むように定義されたベクトルである状態ベクトルxを出力可能に構成されている。
このカルマンフィルタにおいて、状態ベクトルxに関する状態空間モデルは、次の式(1)及び式(2)により表される。
ここで、添え字kは時刻を表す。式(1)において、Aは、1つ前の時刻の状態から現在の状態を得るための状態遷移行列である。Bは、システム雑音のモデルを表す行列であり、vは、システム雑音ベクトルである。式(2)において、yは、実際の観測値を示す観測値ベクトルである。Cは、観測値ベクトルyと状態ベクトルxとの間の入出力関係を示す伝達行列である。wは、観測雑音ベクトルである。
カルマンフィルタ部6は、予測部16と、フィルタリング部17と、を備える。
予測部16は、カルマンフィルタ処理において予測ステップを実現するものである。カルマンフィルタ処理は上述したとおり反復して行われるが、予測部16は、前回の処理においてフィルタリング部17が出力した状態ベクトルx
k-1に基づいて、今回の処理で出力されるだろう状態ベクトルx
kを予測する。カルマンフィルタは周知であるので詳細は省略するが、上記の状態ベクトルの今回の予測値は、以下の式(3)で表される。
ここで、xの上に付されたハット記号は、その値が真の値とは異なることを強調して示すものである。上付きの−記号は、その値が予測値であることを意味している。
次に、予測部16は、今回の処理において出力される状態ベクトルx
kの真の値からの誤差分散P
kを、前回の処理において得られた誤差分散P
k-1を用いて予測する。上記の誤差分散の今回の予測値は、以下の式(4)で表される。
ここで、Qは、式(1)で示したシステム雑音ベクトルvの分散を表す行列である。
フィルタリング部17は、カルマンフィルタ処理においてフィルタリングステップを実現するものである。最初に、フィルタリング部17は、カルマンフィルタ部6が出力する推定値の真の値に対する誤差(推定誤差)に関し、平均2乗誤差が最小となるように最適化された重みを示すカルマンゲインG
kを以下の式(5)に基づいて求める。
ここで、Rは、式(2)で示した観測雑音ベクトルwの分散を表す行列である。
続いて、フィルタリング部17は、前回の処理で出力された状態ベクトルx
kから予測した今回の処理での観測値の予測値Cx
- kと、実際の観測値y
kと、を用いて、今回の処理での状態ベクトルx
kの真の値を推定する。実際には、以下の式(6)に基づいて計算を行う。
最後に、フィルタリング部17は、今回の処理で得られた状態ベクトルx
kの真の値に対する誤差分散P
kを、以下の式(7)に基づいて求める。
以上で1回のカルマンフィルタ処理が終了し、時刻kに1が加算されて、予測部16による予測ステップに戻る。このように、カルマンフィルタ部6は、予測ステップとフィルタリングステップとを交互に反復して、フィルタリングステップが行われる毎に、真の値として推定した状態ベクトルを出力する。
次に、上記のフィルタリング部17に入力される観測値について説明する。本実施形態において、観測値は2種類あり、1つは疑似距離、もう1つはレンジレートである。
疑似距離の観測について説明する。カルマンフィルタ部6は、コード位相取得部3で取得したコード位相(チップ時間)に光速を乗じた距離と、搬送波周波数取得部4で取得した周波数から得られる衛星と受信点との相対速度に更新時間を乗じて得られた距離と、を加算することによって、擬似距離の観測値を算出する。
次に、疑似距離の観測値の予測について説明する。今回の処理の時点での疑似距離の観測値は、前回の処理の時点での衛星−受信点間の距離に対し、前回の処理から今回の処理までの間に衛星及び受信点が移動した距離に応じた調整を行い、その上で、タイミング信号生成装置20の内部時計の有するバイアスに応じた値を加算することで、予測することができる。前回の処理の時点での衛星−受信点間の距離は、前回の処理で出力された状態ベクトルに含まれる受信点の位置と、軌道情報により得られた衛星の位置と、により求めることができる。前回の処理から今回の処理までの間に衛星が移動した距離は、軌道情報により求めることができ、受信点が移動した距離は、前回の処理で出力された状態ベクトルに含まれる受信点の移動速度により予測することができる。更に、今回の処理の時点での内部時計のバイアスは、前回の処理で出力された状態ベクトルに含まれるバイアス及びドリフトを用いて求めることができる。以上を用いて、カルマンフィルタ部6は、疑似距離の観測値を予測する予測値を算出する。
こうして得られた疑似距離の観測値及びその予測値は、フィルタリング部17の計算(上記の式(6))において用いられる。
レンジレートの観測について説明する。レンジレートは衛星−受信点間の距離の変化率であるから、搬送波のドップラーシフトを計測することにより得られる。そこで、カルマンフィルタ部6は、搬送波周波数取得部4で取得した周波数から得られる衛星と受信点との相対速度に、公知の補正量を加算することによって、レンジレートの観測値を算出する。
次に、レンジレートの観測値の予測について説明する。今回の処理の時点でのレンジレートの観測値は、今回の処理の時点での衛星の速度及び受信点の速度に基づいて衛星−受信点間の距離の変化率を求め、得られた変化率に、タイミング信号生成装置20の内部時計の有するドリフトに応じた値を加算することで、予測することができる。今回の処理の時点での衛星の速度は、軌道情報により求めることができ、受信点の速度は、前回の処理で出力された状態ベクトルに含まれる受信点の移動速度をそのまま用いることができる。更に、今回の処理の時点での内部時計のドリフトは、前回の処理で出力された状態ベクトルに含まれるドリフトをそのまま用いることができる。以上を用いて、カルマンフィルタ部6は、レンジレートの観測値を予測する予測値を算出する。
こうして得られたレンジレートの観測値及びその予測値は、疑似距離の観測値及びその予測値と同様に、フィルタリング部17の計算(上記の式(6))において用いられる。
疑似距離及びレンジレートは例えば1秒毎に観測され、観測値は予測値とともに、フィルタリング部17にその都度入力される。
次に、クロック誤差評価部11について説明する。
前述のとおり、ドローンが事前に設定された位置に滞空した状態で静止している場合、固定点にGNSSアンテナ1を設置している状態と同様に扱うことができる。そこでカルマンフィルタ部6は、受信点が、設定位置受信部5が受信した設定位置において静止していると仮定してカルマンフィルタ処理を実行する。
カルマンフィルタ部6で行われるカルマンフィルタ処理は、受信点の位置X,Y,Zと、受信点の移動速度ΔX,ΔY,ΔZと、内部時計のバイアスBと、内部時計のドリフトDと、を含む状態ベクトルxをフィルタリング部17が出力するように設計されている。
ここで、上述の仮定が真であるならば、フィルタリング部17が出力する受信点の位置X,Y,Zは上述の設定位置をほぼ維持し、また、移動速度ΔX,ΔY,ΔZはゼロ又は小さい値となるはずである。このことから、フィルタリング部17が出力する受信点の位置が設定位置から殆ど変化せず、かつ、移動速度がゼロ又は小さい値である場合には、先の仮定は正しく、同時に出力されるクロック誤差(バイアスB及びドリフトD)もその小ささに応じて良い状態、又は、所定以上確からしいと言うことができる。
一方で、フィルタリング部17が出力する受信点の位置が設定位置から大きく変化している場合、又は、移動速度が大きい場合には、先の仮定が真ではなかった可能性が高い。或いは、マルチパス等による大きな観測誤差が含まれていた可能性が高い。従って、この場合は、同時に出力されるクロック誤差(バイアスB及びドリフトD)の確からしさはその大きさに応じて悪い状態であると言うことができる。
そこで、クロック誤差評価部11は、フィルタリング部17が出力する受信点の位置及び移動速度を監視する。
クロック誤差評価部11は、受信点の位置が設定位置から所定距離以上変化せず、かつ、移動速度が所定速度未満である場合には、カルマンフィルタ部6に状態ベクトルの更新を行わせる。この結果、カルマンフィルタ部6は、更新後の状態ベクトルを次回のカルマンフィルタ処理で用いるとともに、更新後の状態ベクトルに含まれるクロック誤差B,Dをタイミング信号生成部8に出力する。
一方、クロック誤差評価部11は、受信点の位置が設定位置から所定距離以上変化し、又は、移動速度が所定速度以上である場合には、カルマンフィルタ部6に状態ベクトルの更新を行わせないか、従前の状態ベクトルに含まれるドリフトDを用いてバイアスBのみ更新する。この結果、カルマンフィルタ部6では、今回の更新の影響を直接受けない状態ベクトルが次回のカルマンフィルタ処理で用いられる。また、カルマンフィルタ部6がタイミング信号生成部8に出力するクロック誤差B,Dは、今回の更新の影響を直接受けない状態ベクトルの値を適応する。
このように、本実施形態のクロック誤差評価部11は、受信点が設定位置で静止していることを前提にして、カルマンフィルタ部6のフィルタリング部17が出力するクロック誤差B,Dが所定以上確からしいか否かを、同時に出力される受信点の位置及び移動速度を用いて評価することができる。この評価結果に基づいて、カルマンフィルタ部6がタイミング信号生成部8に出力するクロック誤差B,Dの更新方法が切り換えられることで、タイミング信号生成部8が出力するタイミング信号の精度を全体として向上させることができる。
また、本実施形態において、評価出力部12は、カルマンフィルタ部6がタイミング信号生成部8に出力するクロック誤差B,Dの基となった状態ベクトルについて、受信点の位置の設定位置からの乖離の大きさ、及び、受信点の移動速度の大きさに基づいて、タイミング信号生成部8が出力するタイミング信号の正しさの度合いを評価し、この結果を外部に出力することができる。評価の表現の方法は様々であるが、例えば、高、中、低、等の複数の段階で表示することが考えられる。本実施形態ではタイミング信号生成装置20はドローンに備えられているので、タイミング信号の正しさの評価結果は、ユーザの操作する操作装置等にドローンから無線で送信され、当該操作装置において表示されることが好ましい。これにより、ユーザは、現在算出されているタイミング信号の精度を把握することができ、必要に応じて、ドローンを移動させたり、タイミングの算出を中断又は停止させたりすることができる。
次に、図2を参照して、カルマンフィルタ部6等により行われる処理を説明する。図2は、上記の第1実施形態におけるタイミング信号生成方法を実現するための処理を示すフローチャートである。
ドローンが所定の位置で停止しながら滞空飛行している状態において処理が開始され、最初に、カルマンフィルタ部6において状態ベクトルの初期化が行われる(ステップS101)。状態ベクトルの初期値のうち、受信点の位置X,Y,Zには、設定位置受信部5が受信した設定位置がそのまま用いられ、受信点の移動速度ΔX,ΔY,ΔZはゼロとされる。
次に、予測部16は、1つ前の時刻の状態ベクトルを用いて、カルマンフィルタ処理の予測ステップを実行する(ステップS102)。
続いて、フィルタリング部17は、疑似距離及びレンジレートの観測値を入力して、カルマンフィルタ処理のフィルタリングステップを実行する(ステップS103)。これにより、新しい状態ベクトルが得られる。
次に、クロック誤差評価部11は、ステップS103で得られた新しい状態ベクトルに含まれる受信点の位置X,Y,Zと、受信点の移動速度ΔX,ΔY,ΔZと、に基づいて、受信点が上述の設定位置から移動しているか否かを判定する(ステップS104)。
受信点の位置の移動が小さかった場合、今回の状態ベクトルの推定(クロック誤差B,Dの推定を含む)は確からしいと考えられる。そこで、この場合、カルマンフィルタ部6は、状態ベクトルを、ステップS103で得られた新しい状態ベクトルで更新する(ステップS105)。一方、受信点の位置が大きく移動していた場合、ステップS105の処理は行われず(即ち、ステップS103で得られた状態ベクトルは用いられず)、従前の状態ベクトルにおいて、ドリフトDを用いてバイアスBのみ更新する(ステップS106)。
状態ベクトルがどのように更新された場合でも、カルマンフィルタ部6は、状態ベクトルに含まれているクロック誤差B,Dをタイミング信号生成部8に出力する(ステップS107)。
更に、評価出力部12は、状態ベクトルに含まれる受信点の位置X,Y,Zと、受信点の移動速度ΔX,ΔY,ΔZと、に基づいて、ステップS107で出力されるクロック誤差B,Dの確からしさ(言い換えれば、タイミング信号生成部8が生成するタイミング信号の正しさ)を評価して出力する(ステップS108)。その後、処理はステップS102に戻る。
次に、GNSSアンテナ1が複数の衛星信号を受信する場合について説明する。
今までは、説明の便宜上、GNSSアンテナ1で1つの衛星50からの信号を受信する場合を述べたが、実際には、GNSSアンテナ1が複数の衛星50,50,・・・からの信号を受信することが一般的である。この場合、カルマンフィルタ部6は、それぞれの衛星50について状態ベクトルを用意し、同時並行的にカルマンフィルタ処理を行う。この結果、衛星信号を受信した衛星の数だけ状態ベクトルを得ることができる。
ただし、この場合、図2のステップS107で、複数ある中からどの状態ベクトルのクロック誤差B,Dを選択してタイミング信号生成部8に出力するか否かが問題になる。
この選択の基準として、疑似距離の観測値と予測値の残差を用いることが考えられる。簡単に説明すると、疑似距離の観測値と、当該観測値を予測した予測値と、を求めることは先に説明したが、疑似距離の観測値と予測値との残差(以下、観測予測残差と呼ぶことがある。)がゼロに最も近かった状態ベクトルを選択するものである。
この選択の基準はある程度有効であるが、内部時計のクロック誤差の推定精度が良くない場合、何らかの事情(例えば、マルチパス)で生じた観測誤差が内部時計の時間的なズレによる誤差を偶然相殺する形になって疑似距離の観測予測残差が小さくなった衛星が選択されるおそれがあり、タイミング信号の精度の低下を招いてしまう。
この点、本実施形態のカルマンフィルタ部6は、上記の疑似距離の観測予測残差に加えて、クロック誤差評価部11による評価結果を加味した複合的な観点で、クロック誤差B,Dをタイミング信号生成部8に出力する状態ベクトルを選択するように構成されている。具体的な選択の方法としては様々であるが、例えば、疑似距離の観測予測残差が小さくなる程小さくなるように疑似距離残差スコアを定め、クロック誤差評価部11による評価結果が良い程小さくなるようにクロック誤差評価スコアを定め、両スコアの合計値がゼロに最も近い状態ベクトルを選択することが考えられる。これにより、より適切な衛星を実質的に選択することができるので、タイミング信号の精度を向上させることができる。
以上に説明したように、本実施形態のタイミング信号生成装置20は、設定位置受信部5と、カルマンフィルタ部6と、タイミング信号生成部8と、クロック誤差評価部11と、を備える。設定位置受信部5は、衛星50からの信号を受信するGNSSアンテナ1の位置(受信点の位置)が内部又は外部から設定された場合に、当該設定された位置である設定位置を受信する。カルマンフィルタ部6は、衛星50からGNSSアンテナ1で受信した電波を観測して得られる観測値に基づいてカルマンフィルタ処理を行う。前記処理によって得られる状態ベクトルは、内部時計のクロック誤差B,Dと、受信点の位置X,Y,Z及び移動速度ΔX,ΔY,ΔZと、を含む。タイミング信号生成部8は、カルマンフィルタ部6で推定された状態ベクトルに含まれるクロック誤差B,Dに基づいてタイミング信号を生成する。クロック誤差評価部11は、カルマンフィルタ部6で推定された状態ベクトルにおいて、受信点の位置が設定位置から移動した距離(どの程度移動しているか)に基づいて、当該状態ベクトルに含まれるクロック誤差B,Dの確からしさを評価する。
また、本実施形態のタイミング信号生成装置20においては、以下のようにしてタイミング信号が生成される。衛星からの信号を受信するGNSSアンテナ1の位置(受信点の位置)が内部又は外部から設定された場合に、当該設定された位置である設定位置を受信する。衛星50からGNSSアンテナ1で受信した電波を観測して得られる観測値に基づいてカルマンフィルタ処理を行う。前記処理によって得られる状態ベクトルは、内部時計のクロック誤差B,Dと、受信点の位置X,Y,Z及び移動速度ΔX,ΔY,ΔZと、を含む。前記処理によって推定された状態ベクトルに含まれるクロック誤差B,Dに基づいてタイミング信号を生成する。また、カルマンフィルタ処理によって推定された状態ベクトルにおいて、受信点の位置が設定位置から移動した距離(どの程度移動しているか)に基づいて、当該状態ベクトルに含まれるクロック誤差B,Dの確からしさを評価する。
これにより、タイミング信号の生成のために求められた前記状態ベクトルに含まれる内部時計のクロック誤差B,Dの信頼性を自己評価することが可能となる。この結果、タイミング信号の精度を向上させることができる。
また、本実施形態のタイミング信号生成装置20においては、カルマンフィルタ部6が推定した状態ベクトルに含まれるクロック誤差B,Dが所定以上確からしいとクロック誤差評価部11が判定した場合に、カルマンフィルタ部6がタイミング信号生成部に出力するクロック誤差B,Dの更新が行われる。
これにより、確からしいクロック誤差B,Dの算出結果に基づいてタイミング信号生成部8がタイミング信号を生成するので、継続的に高精度のタイミングを得ることができる。
また、本実施形態のタイミング信号生成装置20は、評価出力部12を備える。評価出力部12は、カルマンフィルタ部6がタイミング信号生成部8に出力するクロック誤差B,Dの根拠となった状態ベクトルにおいて受信点の位置が設定位置から移動した距離に基づいて、タイミング信号生成部8が出力するタイミング信号の正しさを評価し、その結果を出力する。
これにより、利用者がタイミング信号の精度を容易に知ることができる。
また、本実施形態のタイミング信号生成装置20において、カルマンフィルタ部6は、複数の衛星50,50,・・・からGNSSアンテナ1で受信した信号のそれぞれについてカルマンフィルタ処理を行う。クロック誤差評価部11は、それぞれの衛星からの信号に関してカルマンフィルタ部6が推定した状態ベクトルについて、クロック誤差B,Dの確からしさを評価する。カルマンフィルタ部6は、クロック誤差評価部11の評価結果を用いて、どの衛星からの信号について求めたクロック誤差B,Dをタイミング信号生成部8に出力するかを選択する。
これにより、複数の衛星からの信号を受信した場合に、より適切な衛星からの信号に基づくクロック誤差B,Dに基づいてタイミング信号を生成することができる。
また、本実施形態において、ドローンはタイミング信号生成装置20を備える。
これにより、電子機器としてのドローンにおいて、クロック誤差B,Dを考慮して生成された高精度のタイミング信号を得ることができ、ドローンを正確なタイミングで動作させることができる。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係るタイミング信号生成装置について説明する。図3は、第2実施形態に係るタイミング信号生成方法を実現するための処理を示すフローチャートである。なお、本実施形態の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
第2実施形態のカルマンフィルタ部6では、図3のフローチャートに示す処理が行われる。この処理は、ステップS204及びステップS205を除いて、図2に示す第1実施形態の処理と同様である。
ステップS201からステップS203までの処理は、第1実施形態のステップS101からステップS103までの処理と対応しているので、説明を省略する。
ステップS204で、クロック誤差評価部11は、ステップS203で得られた新しい状態ベクトルに含まれる受信点の位置X,Y,Zと、受信点の移動速度ΔX,ΔY,ΔZと、に基づいて、クロック誤差B,Dの確からしさを定量的に評価し、この評価結果に応じて、状態ベクトルを更新する重みを計算する。この重みは0以上1以下の値とされ、新しい更新ベクトルにおいて受信点が上述の設定位置から大きく移動している程(言い換えれば、クロック誤差B,Dが疑わしい程)、小さくなるように計算される。
ステップS205で、カルマンフィルタ部6は、ステップS203で得られた新しい状態ベクトルと、従前の状態ベクトルとの差分を求め、この差分に、ステップS204で得られた重みを乗じ、これに従前の状態ベクトルを加算することで、状態ベクトルを更新する。これにより、受信点があまり移動していなかった場合は、ステップS203で得られた新しい状態ベクトルの影響が強められ、受信点が大きく移動していた場合は、新しい状態ベクトルの影響が弱められるように、状態ベクトルが更新されることになる。なお、上述のとおり状態ベクトルにはクロック誤差B,Dが含まれるので、状態ベクトルの更新はクロック誤差B,Dの更新を意味する。
ステップS206及びステップS207の処理は、第1実施形態のステップS107及びステップS108の処理と対応しているので、説明を省略する。
このような構成によっても、タイミング信号生成部8に対して全体的に確からしいクロック誤差B,Dを出力することで、高精度なタイミング信号を得ることができる。
以上に説明したように、本実施形態のタイミング信号生成装置においては、前記クロック誤差評価部11が評価した前記クロック誤差の確からしさに応じて重み付けを行い、この重みを、カルマンフィルタ部6がタイミング信号生成部に出力するクロック誤差B,Dの更新に用いる。
これにより、得られたクロック誤差B,Dが確からしい場合は更新時の影響を強め、そうでない場合は更新時の影響を弱めることにより、高精度のタイミングを柔軟に得ることができる。
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
上記の実施形態では擬似距離及びレンジレートの観測が行われているが、何れか一方を省略してもよい。また、ドップラーシフトによりレンジレートの観測値を求めることに代えて、疑似距離の変化によりレンジレートの観測値を求めてもよい。
カルマンフィルタ処理における状態ベクトルの表現は上記に限定されず、例えば、受信点の位置及び移動速度のうち何れか一方が省略されてもよい。また、内部時計のドリフトが状態ベクトルの表現から省略されてもよい。
カルマンフィルタ処理等で用いられる軌道情報は、衛星信号から直接取得することに代えて、別の情報源から取得してもよい。例えば、電源投入直後に短時間で測位可能な状態にするホットスタートのために不揮発性の記憶部に記憶される軌道情報を用いてもよい。例えば、タイミング信号生成装置をインターネットに接続可能に構成し、軌道情報を、インターネットから取得したいわゆるGNSSアシスト情報に基づいて取得してもよい。
1PPS信号に代えて、これより短い又は長い間隔の信号がタイミング信号として用いられてもよい。また、タイミング信号は、任意の形態のパルスとして構わない。
本発明のタイミング信号生成装置は、災害用のドローンに限らず、正確なタイミングで動作することが必要な様々な電子機器に用いることができる。電子機器としては、例えば、無線通信機器等が考えられる。また、静止させた状態で使用するのであれば、移動可能な電子機器(例えば、車載の電子機器)にこのタイミング信号生成装置を備えるように構成してもよい。
上記の実施形態において、GNSSアンテナ1はタイミング信号生成装置20に対して取外し不能に取り付けられているが、これに代えて、タイミング信号生成装置20に電気的に接続された外部アンテナを用いることもできる。