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JP6879540B2 - 高温酸化TiO2の自己組織化層状組織を利用した複合層状構造体 - Google Patents
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JP6879540B2 - 高温酸化TiO2の自己組織化層状組織を利用した複合層状構造体 - Google Patents

高温酸化TiO2の自己組織化層状組織を利用した複合層状構造体 Download PDF

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Description

本発明は、Ti表面に形成されたTiOからなる層状組織を備え、白色の審美性を発揮すると共に剥離強度が向上した複合層状構造体に関する。
齲蝕や歯周病などの歯科疾患による健全歯の欠損を補綴する歯科補綴や、歯列矯正においては、レジン、セラミクス、金属等で構成される歯科用デバイスが使用されることが多い。これらの主たる目的は当然の事ながら、咬合や発語等の口腔機能の回復あるいは改善であるが、近年におけるユーザーの美意識の向上、即ち審美性に係る「見た目」の改善または回復も重要とされる。
例えば、メタルボンドポーセレンクラウンは特に目立ちやすい前歯で使用される人工歯冠であるが、強度や靭性、加工性に優れる金属を支台歯として、その上に、歯と色が近く耐摩耗性に優れる陶材を焼付けて欠損部を補綴するものである。陶材は、隣接する健全歯と色調をあわせるため、何層にも透明度や色調の異なるものを焼付けて作製される。すなわち、メタルボンドポーセレンクラウンは見えないところは金属製、見えるところは審美性の高いセラミクス製という複合材料であるが、焼付界面の剥離が実用上の問題として挙げられる。また、レジンで被覆するレジン前装冠もあるが、先のメタルボンドポーセレンクラウンと同様に界面強度に加えレジンの耐久性の低さが問題となる。
近年の審美性重視の流れから、ここ数年で先に述べた人工歯では、支台歯もセラミクス製にしたオールセラミクスクラウンも台頭してきている。また、連結冠(ブリッジ)は、ファイバーコアなどレジンと無機材料との複合材等がある。このような人工歯冠の非金属化は、優れたレジン(樹脂材料)や無機−有機ハイブリット材料が開発されたお陰であるが、機械的性質や耐久性はまだ金属には及ばない。クラウンやインレー等の人工歯冠以外の歯科用デバイスでも、義歯床やインプラント、ブラケットや矯正アーチワイヤ等、靭性や弾性、強度等の他の素材に比べて金属が秀でる機械的性質を利用せざるを得ない部材は多い。
一方で、患者のQOLへの関心の高まりに伴い、安全性や欠損機能回復だけでなく外観の回復、すなわち歯科材料の審美性向上への要求はますます高まっていることから、金属と遜色の無い強度や靭性を持ち、尚且つ金属色を白色で被覆した材料の登場が望まれている。
本発明者らは、Tiや生体用β型Ti合金であるTi−29Nb−13Ta−4.6Zr(Ti:Nb:Ta:Zr=53.4:29:13:4.6)やTi−36Nb−2Ta−3Zr−0.3O(Ti:Nb:Ta:Zr:O=58.7:36:2:3:0.3)合金において、高温酸化処理により生成する白色被膜による金属表面の白色化に成功している。その製造法は既に出願を行っている(例えば、特許文献1参照。)。
これら先行技術は主にTi−29Nb−13Ta−4.6Zr合金等のTi合金を白色化する技術であり、歯科材料としての用途を想定している。Ti−29Nb−13Ta−4.6Zr及びTi−36Nb−2Ta−3Zr−0.3O等の白色酸化膜は、緻密で基板のTi合金と密着性は高く、その密着強度は70MPa以上である。
一方、工業用純Ti等のいわゆる純Tiでは、高温酸化によってルチル型TiOで構成される酸化被膜を金属表面が形成される。このルチル型TiOは、L*a*b*表色系で算出したその明度L*は、70〜85と日本人の歯冠色と同程度かそれ以上である。Ti酸化物の高温相であるルチル型TiOは、「チタンホワイト」と呼ばれる白色顔料として塗料や化粧品成分として従来より使用されている。また、食品添加物の一つとしても既に利用されていることから、TiO自体の安全性は高い。さらに、ルチル型TiOは、細胞毒性試験においても、生体安全性の高い基板のTi−29Nb−13Ta−4.6Zrと同程度の安全性を持つ。
特開2013−147439号公報
しかしながら、TiOは、Ti酸化物の中でも最も脆い酸化物である。例えば、被膜剥離試験においても形成されたTiO膜内での凝集破壊が容易に起こり、コーティング層としては強度が不十分である。なお、上記のTi−29Nb−13Ta−4.6ZrやTi−36Nb−2Ta−3Zr−0.3Oの白色酸化被膜の剥離強度が最大70MPa程度を示す。一方、TiO白色酸化膜の剥離強度は高々2〜3MPa程度であり、標準的な接着材の被膜強度30MPaの1/10しかない。
このため、Ti基板の上に形成されたTiO酸化膜は、低い剥離強度しかなく、そのままでは歯科用材料等として使用できなかった。
本発明の目的は、生体安全性に優れるTi基板及びTiO膜をベースとし、白色性に優れ、高い剥離強度を有する複合層状構造体を提供することである。
本発明に係る複合層状構造体は、Ti基板と、
前記Ti基板の表面に設けられた2層のTiO層と前記2層のTiO層を接続するTiOの骨格と前記2層のTiO層の間の前記TiOの骨格以外の間隙を占めるSiO層とが積層された積層体と、
を含む。
本発明に係る複合層状構造体によれば、生体安全性に優れるTi基板及びTiO膜をベースとし、白色性に優れ、高い剥離強度を有する。
実施の形態1に係る複合層状構造体の断面構造を模式的に示す概略断面図である。 複合層状構造体を構成する積層体の膜厚と明度L*との関係を示すグラフである。 TiO膜のパイ皮状構造体と実施例1に係る複合層状構造体のL*a*b*表色系におけるL*値、a*値、b*値を示す棒グラフである。 実施例1に係る複合層状構造体、実施例2におけるSiO層にAuコロイドを含有させた複合層状構造体、及び、TiO膜のパイ皮状構造体のそれぞれの各波長の分光反射率を示すグラフである。 実施例1に係る複合層状構造体及びTiO膜のパイ皮状構造体の剥離強度を示す棒グラフである。 実施例1に係る複合層状構造体における剥離試験後の表面の剥離状態を示す概略図である。 (a)は、実施例1に係る複合層状構造体の断面構造を示すSEM画像であり、(b)は、(a)と同じ箇所のTiの含まれる箇所を白色で示すSEM−EDS画像であり、(c)は、(a)と同じ箇所のSiの含まれる箇所を白色で示すSEM−EDS画像である。 TiO単相材、実施例1の複合層状構造体、複合層状構造体の作製過程で得られる乾燥シリカゲル体と、シリカゲル体の加熱処理後の試料についてのXPSによるO 1sスペクトルを示す図である。 TiO層のX線回折パターンである。 低温乾燥によるシリカゲル乾燥体のX線回折パターンである。 高温加熱後の実施例1に係る複合層状構造体のX線回折パターンである。 Ti基板上に形成されたTiO膜のパイ皮状構造体の断面構造を模式的に示す概略断面図である。 Ti基板上に形成されたTiO膜のパイ皮状構造体の断面構造を示すSEM画像である。 図11のTiO膜のパイ皮状構造体の空隙層間の連結孔(ビア)を示すSEM画像である。 Ti基板の高温酸化時の保持時間とTiO膜のパイ皮状構造体の膜厚との関係を示すグラフである。 Ti基板の表裏面にTiO膜のパイ皮状構造体を形成した場合の表面及び裏面のL*a*b*表色系におけるL*値、a*値、b*値を示す棒グラフである。 Ti基板上に形成されたTiO膜のパイ皮状構造体について剥離試験後の表面の剥離状態を示す概略図である。 実施例3の途中の高温酸化過程において、Ti基板上に形成されたTiO膜のパイ皮状構造体を有する高温酸化被膜の表面を示す写真である。 図16の酸化皮膜に塩化金酸水溶液含浸処理を10回行った後、真空含浸処理を行ってSiOゲルを複合化したAu含有複合層状構造体の表面を示す写真である。 図16のTiO膜のパイ皮状構造体を有する高温酸化被膜の表面と、塩化金酸水溶液含浸処理を1回又は10回(n=10)行った後、真空含浸処理を行ってSiOゲルを複合化したAu含有複合層状構造体の表面とについての分光測色結果を示すグラフである。 Au添加TiO/SiO複合層状構造体(n=10)について、最表面とについてのXPSによるAu 4fスペクトルを示すグラフである。 Au添加TiO/SiO複合層状構造体(n=10)について、研磨により表面層を除いた被膜表面についてのXPSによるAu 4fスペクトルを示すグラフである。 実施例4に係るAg含有の複合層状構造体の表面の写真である。 Ag濃度0.04mol%の場合のAg含有のTiO/SiO複合層状構造体の表面のXPSによるAg 3dスペクトルを示すグラフである。 Ag濃度0.4mol%の場合のAg含有のTiO/SiO複合層状構造体の表面のXPSによるAg 3dスペクトルを示すグラフである。 試料がチタン板(CP Ti)の場合の寒天培地の表面の様子を示す写真である。 試料が実施例1のTiO/SiO複合層状構造体の場合の寒天培地の表面の様子を示す写真である。 試料が実施例4のAg含有のTiO/SiO複合層状構造体の場合の寒天培地の表面の様子を示す写真である。
(発明に至った経過)
Ti基板上には陽極酸化によってルチル構造のTiO被膜が形成される。このTiO被膜は、ナノポーラスをもつカラム構造を持つ事が知られており、TiO相の高い生体安全性や光触媒機能から、光触媒利用に関する研究や医療材料への応用を目的とした研究が報告されている。元来TiOは、「チタンホワイト」の名で白色顔料に使用され、化粧品の成分でもあり、また食品添加物にも指定されている人体に安全な材料である。また、高い可視光反射特性と紫外域波長吸収性を持ち、アナターゼ構造と同様にルチル構造も光触媒機能を示すなどの優れた性質を持つ。
本発明者は、Ti基板表面にTi酸化物を付着させることで、金属に白色の審美性を付与する研究を行ってきた。具体的には、Ti基板を約850℃以上の温度で酸素存在下にて熱処理を施すと陽極酸化同様に表面にルチル型TiOが成長する。これまでの研究でTi基板の高温酸化被膜を数十μm厚まで肥厚化することにより、図10に示すように、自己組織化によって2〜3μm間隔のTiO層と空隙層とが積層されたパイ皮状構造を形成することを見出している。このTiO酸化膜は、日本人の上顎中切歯の歯冠色に近い明度(白色)を呈するため、Ti製歯科材料の表面被覆層への利用を試みている。
しかし、このTiO膜は、図10に示すように、自己組織化によって0.5〜3μm間隔のTiO層2と空隙層3によるパイ皮状構造体7を形成する。TiOは、Ti酸化物の中でも最も脆い酸化物である。さらにこのパイ皮状構造体7には空隙層3があることから、被膜剥離試験においても膜内での凝集破壊が容易に起こり、コーティング層としては強度が不十分である。このTiO白色酸化膜の剥離強度は2〜3MPa程度であり、標準的な接着材の被膜強度(約20〜30MPa)の1/10しかない。この場合、剥離は主にパイ皮状構造体7の中でも脆弱な空隙層3で生じる。そのため、TiO酸化膜の剥離は主にこの空隙層3で起こり、従来の技術ではTiO白色酸化膜が剥がれやすく剥離強度が著しく乏しいという課題があった。
本発明者は、真空下におけるゾル・ゲル法によって、TiO膜のパイ皮状構造体の空隙層にSiOをハイブリッド化(複合化)することを試みた。ハイブリッド化によって、TiO膜のパイ皮状構造体の空隙層にシリカゾルが入り込む。その後、乾燥させてシリカゲル化させ、高温加熱して結晶化させた。これによって、TiO膜のパイ皮状構造体全体の剥離強度が著しく向上し、Ti基板からTiO−SiO複合層状構造体からなる白色酸化膜が剥がれにくくなるという新たな知見を得た。更に、空隙層にSiOの充填を行った場合、TiO膜の明度(白さ)は維持されるか、僅かに増加することを見出した。
以上によって本発明に至ったものである。
第1の態様に係る複合層状構造体は、Ti基板と、
前記Ti基板の表面に設けられた2層のTiO層と前記2層のTiO層を接続するTiOの骨格と前記2層のTiO層の間の前記TiOの骨格以外の間隙を占めるSiO層とが積層された積層体と、
を含む。
上記構成によれば、生体安全性に優れるTi基板及びTiO膜をベースとし、白色性に優れ、高い剥離強度を有する。
第2の態様に係る複合層状構造体は、上記第1の態様において、前記積層体の前記TiO層の厚さは、0.5μm〜5μmの範囲であってもよい。
第3の態様に係る複合層状構造体は、上記第1又は第2の態様において、前記積層体の前記SiO層の厚さは、0.2μm〜5μmの範囲であってもよい。
第4の態様に係る複合層状構造体は、上記第1から第3のいずれかの態様において、前記積層体は、前記2層のTiO層と前記TiOの骨格と前記SiO層とが複数組にわたって積層されていてもよい。
第5の態様に係る複合層状構造体は、上記第1から第4のいずれかの態様において、前記積層体の厚さは、10μm以上であってもよい。
第6の態様に係る複合層状構造体は、上記第1から第5のいずれかの態様において、L*a*b*表色系における明度L*値は、70以上であってもよい。
第7の態様に係る複合層状構造体は、上記第1から第6のいずれかの態様において、前記積層体の前記SiO層は、Auコロイド又はAgイオンを含んでもよい。
第8の態様に係る複合層状構造体の製造方法は、Ti基板を酸化雰囲気下で800℃以上の温度で加熱して、Ti基板の上に、2層のTiO層と前記2層のTiO層を接続するTiOの骨格と前記2層のTiO層の間の前記TiOの骨格以外の空隙層とが積層されたパイ皮状構造体を形成する加熱酸化処理工程と、
真空含浸ゾルゲル法によってシリカ前駆体のSi含有アルコキシドを加水分解と縮重合によってゾル化させると共に、得られたシリカゾルを前記パイ皮状構造体の前記空隙層に含浸させると共に、前記シリカゾルの少なくとも一部をシリカゲル化させる、真空含浸工程と、
前記シリカゲルを乾燥させる乾燥工程と、
前記シリカゲルを結晶化温度以上の温度で加熱して結晶化させる加熱工程と、
を含む。
上記構成によれば、真空含浸ゾルゲル法によってTiO膜のパイ皮状構造体の空隙層にシリカゾルを真空含浸させると共に、乾燥させてシリカゲル化させ、加熱してシリカゲルを結晶化させている。これによって、TiO膜のパイ皮状構造体の空隙層にSiO層を形成して補強することができ、TiO単相材に比べて4倍以上の剥離強度を持つ被膜を得ることができる。
第9の態様に係る複合層状構造体の製造方法は、上記第8の態様において、前記真空含浸工程の前に、前記パイ皮状構造体にAuコロイド溶液または塩化金水溶液を真空含浸させる金含浸工程を含んでもよい。
第10の態様に係る複合層状構造体の製造方法は、上記第8又は第9の態様において、前記真空含浸工程において、前記シリカ前駆体に硝酸銀を加えてもよい。
以下、実施の形態に係る複合層状構造体及びその製造方法について、添付図面を参照しながら説明する。なお、図面において実質的に同一の部材については同一の符号を付している。
(実施の形態1)
<複合層状構造体>
図1は、実施の形態1に係る複合層状構造体の断面構造を模式的に示す概略断面図である。この複合層状構造体10は、Ti基板1と、Ti基板1の表面に設けられた2層のTiO層2と2層のTiO層2を接続するTiOの骨格6と2層のTiO層2の間のTiOの骨格6以外の間隙を占めるSiO層4とが積層された積層体8と、を含む。この複合層状構造体10では、図10に示すTi基板1上に高温酸化反応で形成されたTiO膜のパイ皮状構造体7の2層のTiO層2の間の空隙層3にSiO層4を充填して補強していることを特徴とする。この積層体8は、TiO層とSiO層とが単に交互に積層された超格子構造等とは異なり、SiO層4がTiOの骨格6と共に存在する。また、積層体8は、2層のTiO層2とTiOの骨格6とSiO層4とが複数組にわたって積層されていてもよい。この場合、積層体8の層に垂直な方向にわたって複数のSiO層が互いに接続されている。これによって、この複合層状構造体10の積層体8では、後述する実施例1に示すように、元のTiO膜のパイ皮状構造体7に比べて剥離強度が4倍以上、好ましくは10倍以上と大幅に改善されている。また複合層状構造体10の積層体8の硬度も向上している。
なお、SiO層は、結晶化している場合に限られず、非結晶(アモルファス)部分を含んでもよい。
図2は、複合層状構造体10を構成する積層体8の膜厚と明度L*との関係を示すグラフである。
図2に示すように、積層体8の厚さがおよそ10μm以上で明度L*が70以上となることがわかる。なお、積層体8の厚さが100μmに至るまで明度L*はおよそ80を示す。明度L*が70以上であるので、基板の金属色を被覆し、表面色を灰色から白色に出来る。
以下にこの複合層状構造体10を構成する構成要素について説明する。
<Ti基板>
Ti基板1は、純度98%以上のTi基板であればよい。さらに、工業用純Tiからなるものであってもよい。例えば、Commercially Pure(CP) Ti Grade 2であってもよい。なお、JIS規格(JIS H4650)1種、2種、3種、4種のいずれの純TiからなるTi基板であってもよい。
<TiO層>
このTiO層2は、Ti基板1を酸化雰囲気下で800℃以上の温度で加熱することによってTi基板1の表面に形成される。工業的には好ましくは800℃〜1200℃の温度範囲で加熱することが好ましい。また、加熱時間は、例えば10分以上加熱すればよい。なお、効率等を考慮すると工業的には24時間以下の時間範囲で加熱することが好ましい。つまり、このTiO層2は、上記の高温酸化処理によってTi基板1上に形成されるTiO膜のパイ皮状構造体7を構成している(図10)。Ti基板上に熱処理によって自己組織化されるTiO被膜は、その熱処理条件によってTiO層厚さと空隙層の厚さをそれぞれ制御が可能である。TiO層2の厚さは、0.1μm〜5μmの範囲が好ましく、0.5μm〜5μmの範囲がさらに好ましい。0.1μm未満の厚さのTiO層は、多層に積層しにくく、充分な白色度が得られない。一方、1層の厚さが5μmを越えて肥厚化させる場合、結晶粒が大きくなることにより、ゾルの進入経路となる上下の空隙層を繋ぐTiO層内の連結孔(ビア)数も減少することから、真空含浸ゾルゲル法による空隙層へのSiOの充填が不十分となり、ハイブリッド化による十分な強度が得られなくなり剥離強度が低下する。
また、TiO膜のパイ皮状構造体7では、図10に示すように、TiO層2は、空隙層3によって離間している。一方、この複合層状構造体10では、図1に示すように、TiO層2は、SiO層4を介して離間している。なお、各TiO層2はTiOの骨格6で接続されている。
<SiO層>
SiO層4は、Ti基板1上に形成されたTiO膜のパイ皮状構造体7の空隙層3に真空含浸法によって充填されたSi含有の有機化合物をシリカゲル(SiOゲル)化し、次いで、結晶化することによって形成される。なお、SiO層4は、結晶化されたものに限られず、非結晶(アモルファス)部分を含んでもよい。SiO層の厚さは空隙層間隔で決まる。上述の様に、空隙間隔はTiO被膜作製時の熱処理条件によって制御が可能である。SiO層4の厚さは、0.2μm〜5μmの範囲であってもよい。SiO層の厚さが薄すぎると、SiO層のハイブリッド化(複合化)による補強効果が得られず、厚すぎる場合は、複合層状構造体の骨格となるTiO自己組織膜自体の強度が低下する。また、各SiO層4は、ビア(連結孔)5によって接続されている。
<添加物について>
なお、酸化膜の色調は、酸化物自身の色と被膜の厚みで決まる。TiO酸化膜は、後述のように高い明度L*とわずかな黄色味+b*を有する。そこで、被膜の肥厚化により明度(L*)と黄色味(+b*)を増加させることが出来る。一方、酸化物色自体は赤味(+a*)を殆ど持たず、肥厚化によっては赤みを制御出来ない。歯冠色により近づけるためには、何らかの手法で被膜の色に赤味を持たせる事が必要である。例えば、後述する実施例2で示すように、TiO/SiO複合層状構造体において、SiO層への金属錯体等の色素添加によりTiO単相では不可能であった赤味を持たせることができる。色調のバリエーションが増えることで、歯科材料としての高い審美性への要求に答えることも可能となる。更には、SiO層へのフッ素イオン添加による齲蝕防止、銀イオン添加による抗菌性の付与など、機能性向上による付加価値化が期待できる。
<複合層状構造体の製造方法>
実施の形態1に係る複合層状構造体の製造方法について説明する。
(1)まず、Ti基板を用意する。具体的には、例えば、工業用Ti基板を用意する。なお、表面を研磨して面性状を一様としてもよい。さらに、超音波洗浄等の後、乾燥させて、試験片表面の汚染を排除してもよい。
(2)次に、Ti基板を酸化雰囲気下で800℃以上の温度で加熱する。工業的には好ましくは800℃〜1200℃の温度範囲が好ましい。また、加熱時間は、例えば10分以上加熱してもよい。なお、効率等を考慮すると工業的には24時間以下の時間範囲で加熱することが好ましい。酸化雰囲気としては、酸素含有雰囲気、例えば、大気中であってもよい。また、具体的には、例えば、熱処理炉を用い、大気中でTi基板を加熱保持した後に炉冷してもよい。これによってTi基板上にTiO層と空隙層とが積層されたTiO膜のパイ皮状構造体を形成できる。
(3)次いで、真空含浸ゾルゲル法によってシリカ前駆体自体、又は、シリカ前駆体から加水分解・縮重合を経て得られるシリカゾルをTiO膜のパイ皮状構造体内の空隙層に真空含浸させる。真空含浸ゾルゲル法では、例えば、絶対圧力で200hPa以下としてもよい。例えば、シリカ前駆体としてTEOSを用い、酸触媒にHClを用いてもよい。なお、真空含浸の際に縮重合がさらに進行して、シリカゾルの一部がシリカゲルに変化してもよい。あるいは、シリカゾルの全部がシリカゲルに変化してもよい。
(4)その後、必要に応じて乾燥工程を行ってもよい。例えば、40℃〜100℃で低温乾燥を行って、空隙層に真空含浸させた上記シリカゾルをシリカゲルとすることができる。なお、上記温度範囲は例示であって、さらに低温での乾燥を行ってもよい。また、乾燥の雰囲気は、真空雰囲気であってもよい。上記真空含浸時にシリカゾルからシリカゲルへの変化が完了していた場合も乾燥工程によって、シリカゲルを乾燥させることができる。この乾燥工程によって、例えば、溶媒、副生成物等を除去することができる。
(5)次いで、必要に応じて二酸化ケイ素(SiO)の結晶化温度(573℃)以上の温度で加熱工程を行ってもよい。この加熱によって、シリカゲルを結晶化させることができる。
なお、上記工程のうち、(4)乾燥工程及び/又は(5)加熱工程は、必須の工程ではなく、任意に行えばよい。
以上の工程によって、Ti基板1と、その上に形成されたTiO層2と上下2層のTiO層2を接続するTiOの骨格6と上下2層のTiO層2の間のTiOの骨格以外の間隙を占めるSiO層4とが積層された積層体8と、を含む複合層状構造体10を得ることができる。
(TiO膜のパイ皮状構造体)
図10は、Ti基板1上に形成されたTiO膜のパイ皮状構造体7の断面構造を模式的に示す概略断面図である。図11は、Ti基板1上に形成されたTiO膜のパイ皮状構造体7の断面構造を示すSEM画像である。図12は、図11のTiO膜のパイ皮状構造体7の空隙層間の連結孔(ビア)を示すSEM画像である。図13は、Ti基板の高温酸化時の保持時間とTiO膜のパイ皮状構造体の膜厚との関係を示すグラフである。
Ti基板1上の高温酸化被膜を数十μm厚まで肥厚化することにより、自己組織化によって0.5〜3μm間隔のTiO層2と空隙層3によるパイ皮状構造7を形成する。また、このTiO酸化膜は、歯冠色に近い明度(白色)を呈する。このTiO膜のパイ皮状構造体7は、TiO層2と、上下2層のTiO層の間の空隙層3とが積層されて構成されている。また、上下2層のTiO層は、TiOの骨格6で接続されている。また、図12に示されるように、TiO層2は、数μm径の結晶で構成されており、各TiO層2には、その上下の空隙層3を繋ぐ直径数百nm程度の連結孔(ビア)5が多数存在する。つまり、各空隙層3は、ビア5で接続されている。なお、図10の概略断面図では、TiO層2は、面に垂直方向にわたってほぼ同じ厚さとして示している。一方、図11に示すように、実際にはTi基板1の表面から内部に向かって酸化反応が進行するため、表面側のTiO層2が比較的厚く、Ti基板に近い深部のTiO層2が比較的薄くなる。また、図13に示すように、高温酸化時の保持時間が長くなるにつれてTiO膜のパイ皮状構造体の膜厚は厚くなる。膜厚の増加速度は徐々に緩くなるが、180分余りで厚さ200μmに達することがわかる。
図14は、Ti基板の表裏面にTiO膜のパイ皮状構造体を形成した場合の表面及び裏面のL*a*b*表色系におけるL*値、a*値、b*値を示す棒グラフである。
図14に示すように、表裏面のTiO膜のパイ皮状構造体は、明度L*値が80前後と高い。一方、赤−緑色を示すa*値がほぼゼロであり、青−黄色を示すb*値が約8前後であるので、肉眼ではわずかに黄色がかった白色に見える。
図15は、Ti基板上に形成されたTiO膜のパイ皮状構造体について剥離試験後の表面12の剥離状態を示す概略図である。
図15に示すように、剥離試験後の表面12は白色を呈する。つまり、剥離はTiO膜のパイ皮状構造体7の主に空隙層3で生じるため、剥離面12にはTiO層2の白色酸化膜が残留することがわかる。
(真空含浸ゾルゲル法)
真空含浸ゾルゲル法では、ゾルゲル法の面では、例えば、TEOS(オルトケイ酸テトラエチル)などのSi含有アルコキシド(シリカ前駆体)を用いる。また、酸性条件又は塩基性条件で、加水分解・重縮合反応を行わせて、アルコールを脱離させてシリカゾル(SiO(シリカ、二酸化ケイ素))を合成する。一方、真空含浸の面では、シリカ前駆体であるSi含有アルコキシド又はその加水分解後のシリカゾル等をTiO膜のパイ皮状構造体の空隙層に真空含浸させる。真空含浸は、雰囲気を減圧することによって行えばよい。上記雰囲気の絶対圧力は、例えば200hPa以下であればよい。さらに低真空雰囲気であってもよい。なお、真空含浸中に、さらに縮重合が進行してシリカゾルの一部がシリカゲルに変化してもよい。あるいは、シリカゾルの全部がシリカゲルに変化してもよい。
(シリカ前駆体)
ゾルゲル法によってSiO層(シリカ)を形成するためのシリカ前駆体としては、例えば、TEOS等のSi含有アルコキシドを用いることができる。なお、シリカ前駆体としては、ゾルゲル法によってシリカを生成するものであればよく、Si含有アルコキシドに限定するものではない。
(触媒)
ゾルゲル法における触媒としては、酸性触媒又は塩基性触媒のいずれであってもよい。酸性触媒としては、例えば、塩酸(HCl)、硝酸、硫酸、酢酸等を使用できる。塩基性触媒としては、例えば、アンモニア(NH)、エチルアミン、ピリジン等を使用できる。
なお、TiO層のパイ皮状構造の空隙層に真空含浸させるにあたって、使用する触媒としては塩酸(HCl)が好ましい。触媒として塩酸を用いることによってゾルゲル反応が比較的ゆっくりと進行するため、空隙層に含浸された後にSiOのゾルゲル反応を進行させることができるものと考えられる。
(実施例1)
(1)まず、Commercially Pure Ti、Grade 2(以下、「CP Ti」という。)を厚さ1mmにファインカッターで切断した。その後、エメリー紙を用いて#4000まで研磨して面性状を一様とした。さらに、試験片をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥させて、付着物による試験片表面の汚染を排除した。以上によってTi基板を用意した。
(2)次に、熱処理炉を用い、大気中で1000℃(1273K)で30分間(1.8ks)にわたってTi基板を保持した後に炉冷した。これによって、図10に示すようなTi基板1上にTiO層2と空隙層3とが積層されたTiO膜のパイ皮状構造体7を形成した。
(3)次いで、真空含浸ゾルゲル法によってシリカ前駆体から加水分解を経て得られるシリカゾルをTiO膜のパイ皮状構造体内の空隙層に真空含浸させた。真空含浸ゾルゲル法では、例えば、シリカ前駆体としてTEOSを用い、酸触媒としてHClを用いた。具体的には、TEOS(42g)に純水(10g)、エタノール(10g)、酸触媒としてHClを添加し、撹拌しながら真空中でTiO膜のパイ皮状構造体内の空隙層にシリカゾルを真空含浸させた。
(4)その後、60℃(333K)でおよそ一晩にわたって低温乾燥を行った。これによって空隙層に真空含浸させた上記シリカゾルをシリカゲル化させた。
(5)次いで、600℃で100分(6.0ks)にわたって高温加熱を行った。これによって残留する水分や有機物を除去した。
以上の工程によって、実施例1の複合層状構造体を得た。
(実施例2)
実施例2では、真空含浸ゾルゲル法において、シリカ前駆体にAuコロイドを含有させた以外は実施例1と同様にして複合層状構造体を得た。
(分光測色計による酸化被膜色の測定)
色調の定量評価をするため、分光測色計を用いて表面酸化被膜の測色を行って、L*a*b*表色系で数値化した。ここで、L*は明度であり、a*は赤−緑の色相に対応し、b*は黄−青の色相に対応している。測色計は、コニカミノルタ製のCM−5を用いた。
図3は、TiO膜のパイ皮状構造体と実施例1に係る複合層状構造体のL*a*b*表色系におけるL*値、a*値、b*値を示す棒グラフである。
図3に示すように、実施例1に係る複合層状構造体は、明度L*値が80前後と高い。一方、赤−緑色を示すa*値がほぼゼロであり、青−黄色を示すb*値が約8前後であるので、肉眼ではわずかに黄色がかった白色に見える。これによって、Ti製歯科材料の表面被覆層として有用であることがわかる。
また、実施例1に係る複合層状構造体は、TiO膜のパイ皮状構造体と比べて、白さを示す明度L*は、ハイブリッド化により僅かに上昇傾向を示すが、少なくともネガティブな影響を及ぼさない。a*値、b*値もほとんど変化せず、各波長でも反射率もほぼ同じであることがわかる。従って、TiO被膜本来の色調を大きく変化させること無く、被膜の剥離強度の向上が可能となった。
図4は、実施例1に係る複合層状構造体、実施例2におけるSiO層にAuコロイドを含有させた複合層状構造体、及び、TiO膜のパイ皮状構造体のそれぞれの各波長の分光反射率を示すグラフである。
図4に示すように、TiO膜のパイ皮状構造体の空隙層にSiO層を導入することにより、近紫外域では反射率が増加し、また、可視光域の反射率はわずかに増加するか、TiO膜のパイ皮状構造体の場合とほぼ同様である。なお、実施例2に示すように、SiO層にAuコロイドを含有させた場合には、λ=400nmからの反射率の立ち上がりがより低波長側から開始し、全波長に渡り反射率が上昇した。つまり、この複合層状構造体において、シリカゾル中への色素添加による着色や、フッ素イオン添加による齲蝕防止、銀イオン添加による抗菌性の付与など、機能性の付与も可能となる。
(密着性試験による剥離強度測定)
密着性測定には、密着性試験機Quad Group Inc.製のROMULUS(商品名)を用いた。酸化被膜表面と上部形状φ2.7mmのスタッドピンをエポキシ系接着剤(150℃(423K)で60分(3.6ks)保持)で固定した。その後、円筒形状の支持台に試験片をのせ、スタッドピンに荷重(10.5kgf/s)を鉛直下方向に加えた。そして、酸化被膜が剥離した際の荷重を接着面積で除し、酸化被膜密着強度を算出した。
図5は、実施例1に係る複合層状構造体及びTiO膜のパイ皮状構造体の剥離強度を示す棒グラフである。図6は、実施例1に係る複合層状構造体における剥離試験後の表面の剥離状態を示す概略図である。
図5に示すように、実施例1に係る複合層状構造体の剥離強度は、TiO膜のパイ皮状構造体の約15倍程度まで上昇した。また、図6に示すように、剥離試験後の剥離面11は、白色ではなく金属色を呈している。つまり、TiO層とSiO層とが積層した積層体内の剥離ではなく、積層体とTi基板との界面での剥離が確認された。更に、複合層状構造体の硬さはTiO単相のHv=604から、ハイブリッド化によりHv=658に上昇した。
(断面観察と元素マッピング)
図7(a)は、実施例1に係る複合層状構造体の断面構造を示すSEM画像である。図7(b)は、図7(a)と同じ箇所のTiの含まれる箇所を白色で示すSEM−EDS画像である。図7(c)は、図7(a)と同じ箇所のSiの含まれる箇所を白色で示すSEM−EDS画像である。
図7(a)のSEM画像では、Ti基板の表面に垂直な方向を90°傾けて水平にして示している。つまり、紙面の左側から右側に向かってTiO層及びSiO層が積層されている様子を示している。図7(a)では、TiO層が厚く、SiO層が薄く積層されていることがわかる。図7(b)のSEM−EDS画像では、Tiの含まれる箇所が白色で示されており、図7(a)と対応していることがわかる。図7(c)のSEM−EDS画像では、Siの含まれる箇所が白色で示されており、TiO層間の空隙層に、SiO層が導入されているのが元素マッピングから確認された。
(シリカゲル乾燥体の状態)
真空含浸ゾルゲル法で複合層状構造体を作製した際、同時に得られるシリカゲル乾燥体は、その時点でゲルの透明度は高い。また、この複合層状構造体の作製時に用いるシリカゲル乾燥体と、従来の手法で得られるシリカゲル乾燥体の光学顕微鏡像を対比すると、真空含浸ゾルゲル法で得られた乾燥シリカゲル体の方が、従来法で得られる乾燥シリカゲル体に比べてボイドが少ない。従って、同様にボイドなどの欠陥の少ないシリカゲルがTiO層間に導入されていると考えられる。つまり、SiO層の結晶化後も初期欠陥が少なく、TiO単相材に比べて複合層状構造体の剥離強度が向上したと考えられる。
(X線光電子分光法(XPS)による表面分析)
図8は、TiO単相材、実施例1の複合層状構造体、複合層状構造体の作製過程で得られる乾燥シリカゲル体と、シリカゲル体の加熱処理後の試料についてのXPSによるO 1sスペクトルを示す図である。なお、TiO単相材のダブルピークはいずれもTiOに起因するものである。
図8に示すように、実施例1の複合層状構造体は、真空含浸ゾルゲル法による生成物はSiOであることがわかる。
(X線回折(線源:Cu)によるSiOの結晶性評価)
図9Aは、TiO層のX線回折パターンである。図9Bは、低温乾燥による乾燥シリカゲル体のX線回折パターンである。図9Cは、高温加熱後の実施例1に係る複合層状構造体のX線回折パターンである。
図9Aに示すように、TiO単相材は、ルチル(Rutile)構造のTiOを示すスペクトルのピーク(「R」及び面指数を付して示す)が現れている。図9Bに示すように、乾燥シリカゲル体では結晶性の低さを示すブロードなピークが得られた。一方、図9Cに示すように、実施例1に係る複合層状構造体では、TiO層のシャープなピーク(「R」及び面指数を付して示す)と、SiO層の結晶に対応すると考えられるピーク(「S」及び面指数を付して示す:(110)S及び(01−2)S)がそれぞれ現れており、600℃での加熱によって一部結晶化したSiO層が形成されていることが確認された。
(実施の形態2)
実施の形態2に係る複合層状構造体の製造方法は、実施の形態1に係る複合層状構造体の製造方法と対比すると、シリカゲルの真空含浸工程の前に、TiO膜のパイ皮状構造体にAuコロイド溶液または塩化金水溶液を真空含浸させる金含浸工程を含む点で相違する。それ以外の工程については実施の形態1と実質的に同様であるので説明を省略する。
TiO/SiO複合層状構造体の色調は、酸化物自身の色と被膜の厚みで決まる。この場合、被膜の肥厚化により明度(L*)と黄色味(+b*)を増加させることは出来るが、酸化物色自体が赤味(+a*)を殆ど持たず、肥厚化による制御が出来ない。歯冠色により近づけるためには、何らかの手法で被膜の色に赤味を持たせる事が必要であった。本発明者は、複合皮膜の作製過程においてSiOゲルに可視光波長域でも赤を発色させる長波長側(λ=620nm〜750nm)の反射率を上昇させる添加剤を加える事で、赤味成分の付加が可能になると考えた。また、同様の技術を用いることにより、薬剤徐放性や抗菌性などの機能性を持たせる事も可能と考えた。
実施の形態2では、上記のように金含浸工程を含むので、TiO/SiO多層構造体を出発材料として、SiO層への金属錯体等の色素添加により、TiO単相では不可能であった赤味を持たせる事も可能となる。また、色調のバリエーションが増えることで、歯科材料としての高い審美性への要求に答えることも可能となる。更には、SiO層へのフッ素イオン添加による齲蝕防止、銀イオン添加による抗菌性の付与など、機能性向上による付加価値化が期待できる。
(実施例3)
実施例3は、赤味を持つAu含有TiO/SiO複合層状構造体及びその製造方法に関する。
(被膜作製)
(1)まず、パイ皮状構造を持つTiO被膜を作製する。なお、この被膜作製のうち、高温酸化過程及び真空含浸過程は実施例1と実質的に同様である。Commercially Pure Titanium,Grade 2 (以下「CP Ti」)を厚さ1mmにファインカッターで切断した。その後、面性状を一様とするため、エメリー紙を用いて#4000まで研磨した。さらに、付着物による試験片表面の汚染を排除するために、試験片をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥させた。以上によってTi基板を用意した。
(2)次に、熱処理炉を用い、Ti基板を大気中で1000℃(1273K)で30分間(1.8ks)にわたって保持した後に炉冷して、表面酸化処理を行った。これによって、Ti基板1上にTiO層2と空隙層3とが積層されたTiO膜のパイ皮状構造体を形成した。図16は、実施例3の途中の高温酸化過程において、Ti基板上に形成されたTiO膜のパイ皮状構造体を有する高温酸化被膜の表面を示す写真である。図16はモノクロ写真であるが、高温酸化被膜は白色であることがわかる。
(3)続いて、TiO被膜へのAuコロイド含浸を行った。先のTiO被膜を0.0825重量%のテトラクロロ金(III)酸4水和物(HAuCl・4HO)水溶液中に浸漬し、真空含浸を1回(n=1)または10回(n=10)行った後、30℃に保持した恒温器中で24時間乾燥させた。この過程で、被膜は白色からピンク色に変化した。
(4)次いで、乾燥させた被膜の空隙層に真空含浸ゾルゲル法でSiOゲルを導入した。真空含浸ゾルゲル法によるSiO作製は、主剤にTEOSを用いて加水分解により行った。具体的には、TEOS(42g)に、純水(10g)、エタノール(10g)を添加し、撹拌しながらゾルを真空中でTiO膜内に浸漬させた。
(5)その後、60℃(333K)でおよそ一晩にわたって低温乾燥を行った。これによって空隙層に真空含浸させた上記シリカゾルをシリカゲル化させた。
(6)次いで、600℃で100分(6.0ks)にわたって高温乾燥を行った。これによって空隙層のシリカゲルを結晶化させた。
以上の工程によって、実施例3のAu含有の複合層状構造体を得た。
図17は、図16の酸化皮膜に塩化金酸水溶液含浸処理を10回(n=10)行った後、真空含浸処理を行ってSiOゲルを複合化したAu含有複合層状構造体の表面を示す写真である。塩化金酸水溶液含浸処理を10回(n=10)行ったAu含有複合層状構造体によれば、可視光長波長側の反射率を高める効果を持つAuコロイドの含有により、表面色のピンク色の着色が確認された。
(分光測色計による酸化被膜色の測定)
色調の定量評価をするため、分光測色計を用いて表面酸化被膜の測色を行って、L*a*b*表色系で数値化した。ここで、L*は明度であり、a*は赤−緑の色相に対応し、b*は黄−青の色相に対応している。測色計は、コニカミノルタ製のCM−5を用いた。
図18は、図16のTiO膜のパイ皮状構造体を有する高温酸化被膜(Oxidation only)の表面と、塩化金酸水溶液含浸処理を1回(n=1)又は10回(n=10)行った後、真空含浸処理を行ってSiOゲルを複合化したAu含有複合層状構造体の表面とについての分光測色結果を示すグラフである。
TiO膜のパイ皮状構造体を有する高温酸化被膜(Oxidation only)の表面は、L*が90.56、a*が−0.35、b*が10.68であった。塩化金酸水溶液含浸処理を1回行ったAu含有複合層状構造体(n=1)は、L*が89.22、a*が0.44、b*が9.16であった。塩化金酸水溶液含浸処理を10回行ったAu含有複合層状構造体(n=10)は、L*が65.58、a*が6.22、b*が2.59であった。
図18に示すように、Au添加により、白さを示すL*と黄色味を示すb*の値が減少し、a*は複合化前は負の値(緑)であったが、n=1で正の値(赤)に増加し、n=10ではa*=6程度まで増加し、即ち赤味が増した。これは、テトラクロロ金(III)酸4水和物(HAuCl・4HO)がTiO被膜中に浸漬した後、金コロイドに変化し、いわゆる金赤と呼ばれる赤色を発色したものと考えられる。
(X線光電子分光法による表面分析)
Au添加TiO/SiO複合層状構造被膜(n=10)について、最表面と、研磨により表面層を除いた被膜表面について、XPSによるAu 4fスペクトルを測定し状態分析を行った。
図19は、Au添加TiO/SiO複合層状構造被膜(n=10)について、最表面とについてのXPSによるAu 4fスペクトルを示すグラフである。図20は、研磨により表面層を除いた被膜表面についてのXPSによるAu 4fスペクトルを示すグラフである。
図19及び図20に示すように、被膜表面と研磨面共に金属状態のAuが検出された。最表面のスペクトル強度が高い事から、Auは被膜内部より表面により多く存在するが、真空含浸により被膜内部にもAuが充填されていることが確認された。
(実施例4)
実施例4は、Ag含有TiO/SiO複合層状構造体及びその製造方法に関する。
(被膜作製)
(1)まず、パイ皮状構造を持つTiO被膜を作製する。なお、この被膜作製のうち、高温酸化過程及び真空含浸過程は実施例1と実質的に同様である。Commercially Pure Titanium,Grade 2(以下、「CP Ti」)を厚さ1mmにファインカッターで切断した。その後、面性状を一様とするため、エメリー紙を用いて#4000まで研磨した。さらに、付着物による試験片表面の汚染を排除するために、試験片をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥させた。以上によってTi基板を用意した。
(2)次に、熱処理炉を用い、Ti基板を大気中で1000℃(1273K)で30分間(1.8ks)にわたって保持した後に炉冷して、表面酸化処理を行った。
(3)得られたTiO被膜を用い、真空含浸ゾルゲル法によりAg含有TiO/SiO複合層状構造体被膜の作製を行った。主剤にTEOSを用いて加水分解により行った。具体的には、主剤TEOS(42g)に、純水(10g)、エタノール(10g)、硝酸銀(濃度:0.4mol%、0.2mol%、0.04mol%)を添加し、撹拌しながらゾルを真空中でTiO膜内に浸漬させた。なお、Ag塩は、主剤TEOS又は水のいずれに添加してもよい。
(5)その後、60℃(333K)でおよそ一晩にわたって低温乾燥を行った。これによって空隙層に真空含浸させた上記シリカゾルをシリカゲル化させた。
(6)次いで、600℃で100分(6.0ks)にわたって高温乾燥を行った。これによって空隙層のシリカゲルを結晶化させた。
以上の工程によって、実施例4のAg含有の複合層状構造体を得た。
図21は、得られたAg含有の複合層状構造体の表面の写真である。図21に示すように、表面には、酸化銀の形成によると思われる薄い灰茶の着色が確認された。
(X線光電子分光法による表面分析)
Ag含有のTiO/SiO複合層状構造体の表面について、XPSによるAg 3dスペクトルを測定し状態分析を行った。図22は、Ag濃度0.04mol%の場合のAg含有のTiO/SiO複合層状構造体の表面のXPSによるAg 3dスペクトルを示すグラフである。図23は、Ag濃度0.4mol%の場合のAg含有のTiO/SiO複合層状構造体の表面のXPSによるAg 3dスペクトルを示すグラフである。
図22及び図23に示されるように、被膜中に存在するAgは、いずれも金属状態で存在し、その含有量は添加Ag量に依存することが確認された。
(抗菌性評価)
Ag含有のTiO/SiO複合層状構造体の抗菌性を評価した。抗菌性評価は、抗菌製品技術協議会で定める方法に準拠して、シェーク法によって行った。このシェーク法は、平滑な表面が確保できない材料に有効とされている。シェーク法では、表面積32±5cmの試料と、菌液10mlとを滅菌コップ(フラスコ)内に入れ、温度35℃で24±1時間振とう培養し、その後、寒天培地で40〜48時間培養後の生菌数を測定する。
試料としては、チタン板(CP Ti)と、実施例1のTiO/SiO複合層状構造体と、実施例4のAg含有のTiO/SiO複合層状構造体と、の3種を用いた。また、試験試料数として、チタン板は2個、実施例1のTiO/SiO複合層状構造体は3個、実施例4のAg含有のTiO/SiO複合層状構造体は3個を用いた。試験菌種は、菌名が大腸菌であり、菌株がATCC 25922であった。また、播種菌数は、1×10 CFU・mL−1であった。
図24Aは、試料がチタン板(CP Ti)の場合の寒天培地の表面の様子を示す写真である。図24Bは、試料が実施例1のTiO/SiO複合層状構造体の場合の寒天培地の表面の様子を示す写真である。図24Cは、試料が実施例4のAg含有のTiO/SiO複合層状構造体の場合の寒天培地の表面の様子を示す写真である。
試料がチタン板(CP Ti)の場合、生菌数は0.9×10 CFU・mL−1であり、標準偏差が0.11 CFU・mL−1であった。また、試料が実施例1のTiO/SiO複合層状構造体の場合、生菌数は1.44×10 CFU・mL−1であり、標準偏差が0.04 CFU・mL−1であった。また、試料が実施例4のAg含有のTiO/SiO複合層状構造体の場合、いずれの試料も生菌数が0 CFU・mL−1であり、標準偏差が0 CFU・mL−1であった。
以上の結果から、実施例4のAg含有のTiO/SiO複合層状構造体の優れた抗菌性を確認することができた。
歯科医療分野では、近年では貴金属相場の不安定さや、より自然さを求める患者の要望の高まり、レジンやセラミクスの高機能化に伴い、金属から非金属の需要が伸びている。しかし、先の特性では未だ金属に利があり、以前より歯科医療従事者の間では、金属の優れた機械的性質と寸法安定性に、さらに審美性を兼ね備えた「白い金属」が切望されている。本発明により、Tiにおいてその「白い金属」を現実にし、患者だけでなく、歯科医師や技工士にとっても、従来材より高い満足と操作性を提供する技術となる。
特に本発明がターゲットとしているのは、アバットメントやレジン前装冠や陶材焼付け鋳造冠の支台歯オペークである。これらは、加齢に伴う歯肉退縮による金属コアの露出や、歯肉辺縁部のブラックマージン出現が兼ねてから問題視されており、本技術によりこれら部材の金属面の露出を抑えることで、上述の問題の低減ないしは解決が可能と期待され、それにより患者の心理的負担を減じる事が出来る。本発明により、白色の複合層状構造体被膜に赤味を含めた色の制御が可能になることで、隣接する健全歯との色差が目立ちやすい前歯への適用も期待出来る。また、粘膜部を覆うTi製義歯床への適用も期待できる。
また、抗菌性の付与により、表面へのバイオフィルム形成抑制効果が期待され、補綴物表面の安定性の維持を可能とし、ひいては治療成績の向上をもたらす。またメンテナンス性の向上により、歯科医師や衛生士の負担も軽減される。
更に、歯科補綴物の作製は、これまでの技工士による総手作業から、近年はCAD/CAMや3Dプリンターを用いたオートメーション化へとシフトしている。本技術は、プロセス自体比較的簡便であり、それらのオートメーションプロセスにポストプロセスとして組み込むことが可能である。そうなれば、作製時間短縮やコスト削減だけでなく、より優れた機能も備える高付加価値の補綴物の提供が可能になる。
なお、本開示においては、前述した様々な実施の形態及び/又は実施例のうちの任意の実施の形態及び/又は実施例を適宜組み合わせることを含むものであり、それぞれの実施の形態及び/又は実施例が有する効果を奏することができる。
本発明に係る複合層状構造体によれば、元のTiO膜のパイ皮状構造体に比べて剥離強度及び硬度が大幅に改善されている。そこで、歯科治療・矯正の領域において、単に耐久性等の機能面のみならず、近年特にニーズの高い審美性領域において、「白く輝く健康な歯」を実現するために極めて有効な可能性を秘めている。
1 Ti基板
2 TiO
3 空隙層
4 SiO
5 ビア
6 TiO柱状部(骨格)
7 パイ皮状構造体
8 積層体
10 複合層状構造体

Claims (10)

  1. Ti基板と、
    前記Ti基板の表面に設けられた2層のTiO層と前記2層のTiO層を接続するTiOの骨格と前記2層のTiO層の間の前記TiOの骨格以外の間隙とが積層されたパイ皮状構造体と、前記間隙を占めるSiO層とが積層された積層体と、
    を含む、複合層状構造体。
  2. 前記積層体の前記TiO層の厚さは、0.5μm〜5μmの範囲である、請求項1に記載の複合層状構造体。
  3. 前記積層体の前記SiO層の厚さは、0.2μm〜5μmの範囲である、請求項1又は2に記載の複合層状構造体。
  4. 前記積層体は、前記2層のTiO層と前記TiOの骨格と前記SiO層とが複数組にわたって積層されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の複合層状構造体。
  5. 前記積層体の厚さは、10μm以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載の複合層状構造体。
  6. L*a*b*表色系における明度L*値は、70以上である、請求項1から5のいずれか一項に記載の複合層状構造体。
  7. 前記積層体の前記SiO層は、Auコロイド又はAgイオンを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の複合層状構造体。
  8. Ti基板を酸化雰囲気下で800℃以上の温度で加熱して、Ti基板の上に、2層のTiO層と前記2層のTiO層を接続するTiOの骨格と前記2層のTiO層の間の前記TiOの骨格以外の空隙層とが積層されたパイ皮状構造体を形成する加熱酸化処理工程と、
    真空含浸ゾルゲル法によってシリカ前駆体のSi含有アルコキシドを加水分解と縮重合によってゾル化させると共に、得られたシリカゾルを前記パイ皮状構造体の前記空隙層に含浸させると共に、前記シリカゾルの少なくとも一部をシリカゲル化させる、真空含浸工程と、
    前記シリカゲルを乾燥させる乾燥工程と、
    前記シリカゲルを結晶化温度以上の温度で加熱して結晶化させる加熱工程と、
    を含む、複合層状構造体の製造方法。
  9. 前記真空含浸工程の前に、前記パイ皮状構造体にAuコロイド溶液または塩化金水溶液を真空含浸させる金含浸工程を含む、請求項8に記載の複合層状構造体の製造方法。
  10. 前記真空含浸工程において、前記シリカ前駆体に硝酸銀を加える、請求項8又は9に記載の複合層状構造体の製造方法。
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