以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、植物の生殖器官、具体的には雌蕊及びその近傍器官に特異的な遺伝子発現を誘導可能なプロモーターに関する。本発明のプロモーターは、組織及び時期特異的なプロモーター活性を有し、具体的には雌蕊を含む植物生殖器官に特異的なプロモーター活性を示す。本発明のプロモーターは、開花前後、具体的には花芽成熟期~果実肥大期初期(花芽成熟期、開花期、及び果実肥大期初期)に遺伝子発現を誘導することができる。本発明において「花芽成熟期」とは、個々の花について、花芽の形態(花弁、雌蕊、雄蕊等)が形成された後であって開花前の、花芽の成熟(生理的発達)が進行する時期を指す。「開花期」とは、個々の花について、つぼみが開き始めた時点から、着果して果実の肥大を開始するまでの時期を指す。「果実肥大期初期」とは、個々の花及び果実について、開花及び着果後、果実の肥大の初期段階(果実発達初期)を指し、本発明においては果実肥大期の最初の1/3の期間を言う。果実肥大期初期は、例えば、トマトにおいては典型例でおおむね開花後10日までを指すが、栽培条件や品種により変動し得る。ここで、単為結果の誘導には、着果時期の植物生殖器官において単為結果誘導性遺伝子が発現することが重要である。「着果時期」とは、個々の花について受粉による着果が可能な時期を指し、トマトの場合、以下に限定するものではないが、典型的には開花からその5日後(開花の120時間後)までである。本発明のプロモーターは、花芽成熟期~果実肥大期初期の植物生殖器官、特に着果時期の植物生殖器官において遺伝子発現を誘導することができる点で優れている。本発明に係るプロモーターは、雌蕊(葯など)、特に着果時期の雌蕊(子房、胚珠、胎座など)において、プロモーター活性を示すことができる。
より具体的には、本発明に係るプロモーターは、配列番号1又は2で示される塩基配列に対して80%以上の同一性を有する塩基配列からなるプロモーターDNAである。好ましい実施形態では、この本発明に係るプロモーターは、植物生殖器官に特異的なプロモーターDNAであり、特に雌蕊を含む植物生殖器官においてプロモーター活性を示す。本発明に係るプロモーターは、好ましくは、花芽成熟期~果実肥大期初期においてプロモーター活性を示すことができる。
本発明において「配列番号1又は2で示される塩基配列に対して80%以上の同一性を有する塩基配列」は、配列番号1又は2で示される塩基配列に対してアラインメントした場合に配列番号1又は2の全長配列と比較してその全長配列が80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上(例えば99.5%以上又は99.9%以上、100%以下)の同一性を有する塩基配列を指す。なお塩基配列のアラインメントは、例えば多重整列プログラムClustal W(Thompson, J.D. et al, (1994) Nucleic Acids Res. 22, p.4673-4680;日本DNAデータバンク(DDBJ)や欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)のウェブサイト等から利用できる)をデフォルト設定で用いて行うことができるが、手作業で行ってもよい。
あるいは本発明に係るプロモーターは、配列番号1又は2で示される塩基配列において例えば1~50個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個の塩基が欠失、置換及び/又は付加された塩基配列からなる、植物生殖器官に特異的なプロモーターDNAであってもよい。
本発明において「植物生殖器官」又は「生殖器官」は、花及びそれに含まれる器官等(例えば、雄蕊並びにそれに含まれる葯及び花粉等、雌蕊及びそれに含まれる子房(胚珠、胎座などを含む)等、また花弁、萼など)並びに果実(例えば果肉)を指す。本発明に係る植物生殖器官に特異的なプロモーターは、果実類植物において、栄養器官と比較して、植物生殖器官において顕著に強いプロモーター活性を有する。本発明に係る植物生殖器官に特異的なプロモーターは、植物生殖器官において、他の植物組織(例えば葉、茎、根などの栄養器官)と比較して、典型的には2倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは100倍以上高い遺伝子発現量をもたらす。本発明のプロモーターは、植物生殖器官(例えば雌蕊)において強力なプロモーター活性を有する一方、栄養器官では殆ど又は全くプロモーター活性を有しないことが好ましく、また花芽成熟期~果実肥大期初期以外の時期の生殖器官でも殆ど又は全くプロモーター活性を有しないことが好ましい。なお「植物生殖器官に特異的なプロモーター」は、全ての生殖器官においてプロモーター活性を有するものに限定されず、少なくとも一部の生殖器官においてプロモーター活性を有するものを包含する。
本発明に係るプロモーターは、雌蕊においてプロモーター活性を有することが好ましい。本発明に係るプロモーターはまた、雌蕊に加えてその近傍の生殖器官においてもプロモーター活性を有することが好ましい。一実施形態では、本発明に係るプロモーター、例えば、配列番号1で示される塩基配列に対して80%以上の同一性を有する塩基配列からなる、植物生殖器官に特異的なプロモーターは、雌蕊においてプロモーター活性を示すことが好ましく、雌蕊(とりわけ子房)、果実(特に肥大期初期の果実、例えば果肉)、及び雄蕊(例えば花粉や葯)においてプロモーター活性を有することがさらに好ましい。配列番号1で示される塩基配列に対して80%以上の同一性を有する塩基配列からなるプロモーターは、花芽成熟期~果実肥大期初期の植物生殖器官に特異的にプロモーター活性を示すことが好ましい。一実施形態では、本発明に係るプロモーター、例えば、配列番号2で示される塩基配列に対して80%以上の同一性を有する塩基配列からなる、植物生殖器官に特異的なプロモーターは、雌蕊においてプロモーター活性を示すことが好ましく、雌蕊(とりわけ子房)、雄蕊(例えば葯又は花粉)、花弁、及び萼においてプロモーター活性を有することがさらに好ましい。配列番号2で示される塩基配列に対して80%以上の同一性を有する塩基配列からなるプロモーターは、花芽成熟期~果実肥大期初期の植物生殖器官に特異的にプロモーター活性を示すことが好ましく、主として花芽成熟期及び開花期に植物生殖器官におけるプロモーター活性を示すことが好ましい。本発明において「プロモーター活性」とは、その制御下にある(典型的には当該プロモーターのすぐ下流に配置されている)遺伝子の発現を誘導できる能力を意味する。「遺伝子の発現を誘導する」とは、目的の遺伝子からの転写産物(mRNA)生成を誘発することを意味する。
本発明に係るプロモーターは、雌蕊やその近傍器官を含む生殖器官に特異的に強力なプロモーター活性を有するが、典型例では、トマトの雌蕊やその近傍器官を含む生殖器官特異的に強力なプロモーター活性を有する。本発明に係るプロモーターが活性を示すトマトは、後述するような任意のトマト系統・品種又はそれらの派生株であってよく、限定するものではないが、例えば、トマト品種のマイクロトムやマネーメーカーが挙げられる。
本発明に係る特に好ましいプロモーターは、配列番号1又は2で示される塩基配列からなるDNAである。この配列番号1及び2で示される塩基配列のそれぞれからなるDNAは、いずれもトマト由来のプロモーターであり、開花前後(着果時期を含む、花芽成熟期~果実肥大期初期)の雌蕊及びその近傍器官(生殖器官)において強力に遺伝子発現を誘導することができる。
本発明に係るプロモーターは、合成核酸であってもよいし、植物から単離した核酸であってもよい。本発明に係るプロモーターは、被子植物、例えば果実類植物由来であってもよく、好ましい例としてナス科(例えばトマト)植物由来であってもよい。由来となるトマトとしては、限定するものではないが、例えば、トマト品種のマイクロトムやマネーメーカーが挙げられる。本発明に係るプロモーターは、人工塩基を含む核酸であってもよい。
本発明に係るプロモーターは、例えば後述の実施例のようにトマト等の任意の果実類植物のゲノムを鋳型としたPCR増幅により単離することもできるし、それらゲノムの制限酵素処理断片に対して当該プロモーターDNA又はその一部をプローブとしてハイブリダイズさせることにより取得することもできる。得られたプロモーターDNAは、常法により抽出及び精製することが好ましい。またプロモーターの塩基配列情報(例えば配列番号1又は2)に基づいて設計し化学合成したDNA断片をつなぎ合わせることにより本発明に係るプロモーターを構築することもできる。
本発明に係るプロモーターはまた、いったん得られたプロモーターDNAの塩基配列を部位特異的突然変異誘発法等の変異導入法を用いて改変することにより作製してもよい。変異導入には、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。これらの変異導入は、例えば市販の部位特異的突然変異誘発キット(以下に限定するものではないが、例えばLA PCR in vitro Mutagenesis Kit、PrimeSTAR(R) Mutagenesis Basal Kit、TransformerTM Site-Directed Mutagenesis Kit(いずれもTAKARA BIO INC.社製))などを用いて当業者であれば容易に行うことができる。
得られたプロモーターDNAについては、目的のプロモーターを取得できたかどうかを確認するため、塩基配列決定を行うことが好ましい。塩基配列決定はマキサム-ギルバート法、ジデオキシ法、次世代シークエンシング法(NGS)等の任意の手法により行うことができるが、通常は自動塩基配列決定装置を用いて行えばよい。
本発明では、本発明に係るプロモーターを任意のベクターに組み込むことにより、植物生殖器官に特異的な発現ベクターを作製することができる。したがって本発明は、本発明に係るプロモーターを含むベクター、特に発現ベクターも提供する。
本発明はまた、本発明に係るプロモーターDNAとその制御下に配置された発現対象の遺伝子とを含む、DNA構築物も提供する。そのようなDNA構築物は、典型的には、本発明に係るプロモーターDNAとその下流に連結された遺伝子とを含むDNA構築物である。本発明において「DNA構築物」とは、2以上の機能単位(遺伝子、プロモーター、ターミネーター、LB、RBなど)を含む、自律複製能を有しないDNA、例えば、遺伝子発現カセットやT-DNAをいう。本発明に係るDNA構築物は、プロモーターDNAとその制御下に配置された遺伝子に加えて、ターミネーター、LB、RB、制限酵素部位等をさらに含んでもよい。T-DNAは5'末端のRB配列と3'末端のLB配列に挟まれたDNAであり、アグロバクテリウム媒介形質転換法により植物ゲノムに組み込むことができる。本発明は、本発明に係るプロモーターDNAとその制御下に配置された遺伝子とを含むDNA構築物を含む発現ベクターも提供する。本発明に係るプロモーターは、各種ターミネーター(限定するものではないが、植物ターミネーターがより好ましい)と組み合わせて発現ベクター又はDNA構築物中で用いてもよい。本発明に係る発現ベクター及びDNA構築物は、インバーテッドリピート配列を含んでいてもよい。
本発明に係るプロモーター又はDNA構築物を組み込むベクターは、宿主細胞中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA、ウイルスベクター(レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター等)等が挙げられる。本発明に係るプロモーター又はDNA構築物を組み込むベクターは、好ましくは植物発現用ベクターである。植物発現用ベクターとしては、アグロバクテリウム媒介形質転換法を用いて植物を形質転換する場合には、アグロバクテリウムと他の宿主細胞(大腸菌など)の両方で複製可能なバイナリーベクターなどの、アグロバクテリウム媒介形質転換法に適した発現ベクターを用いることが好ましい。本発明で用いるベクターは、RNAiコンストラクト作製用ベクター(例えば、RNAiコンストラクト作製用Gateway(R)バイナリーベクター)であってもよい。そのような植物発現用ベクターとしては、例えば、pBI101、pBI121、pBIN19、pSMAB704、pCAMBIA、pGreen、pBI-sense, antisense等が挙げられる。
本発明に係るプロモーター又はDNA構築物を含む発現ベクターは常法により作製することができる。例えば、既存の植物発現用ベクター中のプロモーターを、本発明に係るプロモーターで置換することによって、本発明に係るプロモーター又はDNA構築物を含む発現ベクターを作製してもよい。あるいは、例えば、そのプロモーターを含むDNA断片(例えばDNA構築物)の末端を適当な制限酵素で切断し、ベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入し連結することにより、ベクター中に本発明に係るプロモーターを組み込むこともできる。本発明に係る発現ベクターは、本発明に係るプロモーター又はDNA構築物をGateway(R)クローニング法によりベクターに組み込むことによって作製してもよい。
本発明に係るDNA構築物及び発現ベクターは、目的の遺伝子にコードされる遺伝子産物(RNAやタンパク質)を植物生殖器官(例えば雌蕊や子房)に特異的に発現させるためのツールとして好適に使用できる。本発明に係るDNA構築物及び発現ベクターは、植物生殖器官に特異的な遺伝子発現誘導用のものであってよい。本発明に係る発現ベクターは、本発明に係るプロモーターの制御下に発現対象の遺伝子を含み得る。本発明に係る発現ベクターは、典型的には、本発明に係るプロモーターDNAの下流に連結された発現対象の遺伝子(外来遺伝子)を含んでもよい。
本発明に係る発現ベクター又はDNA構築物に含まれる発現対象の遺伝子は特に限定されず、転移RNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)、核内小分子RNA(snRNA)、核小体低分子RNA(snoRNA)、shRNA(短鎖ヘアピンRNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、ガイドRNA(gRNA)などの非翻訳RNAをコードする遺伝子であってもよいし、任意のタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。発現対象の遺伝子は、2種以上のタンパク質の融合タンパク質をコードする遺伝子であってもよい。発現対象の遺伝子は、一個でもよいし、2個以上でもよい。本発明に係る発現ベクターは植物生殖器官、例えば雌蕊における遺伝子発現を誘導することから、発現対象の遺伝子は、好ましくは、生殖器官(例えば雌蕊、子房、果実、雄蕊、花粉、葯、花弁、萼等)での発現、蓄積、及び/又は生産が望まれる遺伝子産物(RNA又はタンパク質)をコードする核酸である。
本発明における発現対象の遺伝子は、任意の生物(例えば、植物、動物、真菌若しくは細菌)又はウイルスに由来するものであってよく、また人工的に作製したものであってもよい。本発明に係る発現対象の遺伝子は、宿主植物と同じ植物系統又は同じ植物種の別の系統から取得した遺伝子であっても、他の種に由来する遺伝子であってもよく、いずれの場合も外来遺伝子の範囲に含まれる。本発明において「(発現対象の)遺伝子」は、天然に生じる遺伝子に限定されず、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、又はRNAをコードする任意の核酸を意味する。
本発明で用いる発現対象の遺伝子は、例えば、リコピン(リコペン)、β-カロテン、α-カロテン、ルテイン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、β-クリプトキサンチン等のカロテノイドの生合成に関与するカロテノイド合成酵素(フィトエン合成酵素、フィトエン不飽和化酵素、ζ-カロテン不飽和化酵素、カロテンイソメラーゼ、リコペンβ-シクラーゼ、リコペンε-シクラーゼ、β-カロテン水酸化酵素、α-カロテン水酸化酵素、ε-カロテン水酸化酵素、ゼイノキサンチン水酸化酵素、カロテノイドオキシゲナーゼ、カロテノイド水酸化酵素など)、ビタミン合成酵素(L-グロノラクトン(L-GulL)酸化酵素、アルドノラクトナーゼ、L-ガラクトノラクトン(L-GalL)脱水素酵素、L-ガラクトース脱水素酵素、リボフラビン合成酵素など)、アミノ酸合成酵素(グルタミン合成酵素、グルタミン酸合成酵素、アミノ基転移酵素、GABA合成酵素(グルタミン酸デカルボキシラーゼ)、アミノ酸ラセマーゼなど)、ポリフェノール合成酵素(ポリケタイド合成酵素、クルクミン合成酵素など)等の、栄養成分の合成に関与するペプチド又はタンパク質をコードする遺伝子であってよい。
本発明で用いる発現対象の遺伝子はまた、例えば、種々のヒト又は家畜用ワクチン抗原、サイトカイン(例えば、インターフェロン、インターロイキン等)、酵素(例えば人工ヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、アミログリコシダーゼ、アミラーゼ、インベルターゼ、イソアミラーゼ、プロテアーゼ、パパイン、ペプシン、レンニン、セルラーゼ、ペクチナーゼ、リパーゼ、ラクターゼ、グルコースオキシダーゼ、リゾチーム、グルコースイソメラーゼ、キモトリプシン、トリプシン、チトクローム、セアプローゼ、セラチオペプチダーゼ、ヒアルロニダーゼ、ブロメライン、ウロキナーゼ、ヘモコアグラーゼ、サーモライシン、ウレアーゼ等)、ホルモンタンパク質(例えばインスリン、グルカゴン、セクレチン、ガストリン、コレシストキニン、オキシトシン、バソプレッシン、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチン、黄体形成ホルモン、濾胞刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、ソマトスタチン等)、オピオイドペプチド(エンドルフィン、エンケファリン、ダイノルフィン等)、血液凝固因子(フィブリノーゲン、プロトロンビン等)、プロテアーゼインヒビター(SSI等)等の薬理活性を有する任意のペプチド又はタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
本発明で用いる発現対象の遺伝子はまた、RNA干渉を誘導するためのRNAi構築物をコードするものであってよい。RNAi構築物は、ヘアピンループを有し二本鎖RNAを形成可能なインバーテッドリピート配列を含む、長鎖二本鎖RNAやshRNA(small hairpin RNA)などの干渉RNAであってもよい。長鎖二本鎖RNAやshRNAは細胞内でDicerにより切断され、siRNAを生成することができる。本発明において、RNAi構築物は、遺伝子を導入する対象植物の生殖器官(例えば雌蕊)、典型的には花芽成熟期~果実肥大期初期(例えば着果時期)の生殖器官において発現する遺伝子の配列の少なくとも一部と相同な配列を有することが好ましい。
一実施形態では、本発明で用いる発現対象の遺伝子は、単為結果誘導性遺伝子であることが好ましい。単為結果誘導性遺伝子については後述する。
本発明に係る発現ベクター又はDNA構築物は、ベクターが細胞内に保持されていることを示す選択マーカー遺伝子やレポーター遺伝子、制限酵素部位又はマルチクローニングサイト、ベクター内に簡単に正しい向きで遺伝子を挿入するためのポリリンカー、ポリA付加配列、分泌シグナル配列、精製用のヒスチジンタグ配列、追加のプロモーター等の有用な配列を必要に応じてさらに含んでもよい。選択マーカー遺伝子としては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子(CAT遺伝子)等が挙げられる。
本発明では、本発明に係る発現ベクター又はDNA構築物を宿主細胞に導入することにより形質転換体(形質転換細胞、形質転換植物など)を作製することができる。本発明に係る発現ベクターを宿主細胞へ導入し、その発現ベクターが形質転換体において染色体外(細胞質など)で維持されるようにしてもよい。あるいは、本発明に係る発現ベクター又はDNA構築物を、宿主細胞(好ましくは、植物細胞)へ導入し、プロモーター及びその制御下の発現対象の遺伝子を含むDNA(例えばT-DNAなどのDNA構築物)を、宿主細胞のゲノム中に組み込んでもよい。宿主細胞には、大腸菌、枯草菌、アグロバクテリウム等の細菌、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、植物細胞等のいずれを使用してもよい。本発明においては、植物細胞、特に被子植物細胞、より好ましくは果実類植物の細胞、さらに好ましくはナス科植物、特に好ましくはトマトの細胞を宿主細胞として使用することができる。宿主細胞は、任意の組織由来であってよく、葉や果実由来の細胞であってもよい。本発明は、本発明に係る発現ベクター又はDNA構築物を含む形質転換細胞も提供する。
本発明では、本発明に係る発現ベクター又はDNA構築物を植物に導入することにより形質転換植物を作製することができる。
本発明に係る発現ベクター又はDNA構築物を導入する植物としては、特に限定されないが、被子植物が好ましく、果実類植物がより好ましい。具体的には、限定するものではないが、例えば、トマト(Solanum lycopersicum)、リンゴ(Malus)、バナナ(Musa)、洋ナシ(Pyrus communis)、イチゴ(Fragaria L.)、メロン(Cucumis melo)、キウイフルーツ(Actinidia deliciosa)、モモ(Amygdalus persica)、ブルーベリー(Vaccinium myrtillus)、ブドウ(Vitis)、またグレープフルーツ(Citrus X paradisi)、オレンジ(Citrus sinensis)、温州みかん(Citrus unshiu)などのカンキツ類(Citrus)等の植物が挙げられる。
本発明ではナス科[トマト(Solanum lycopersicum)、ナス(Solanum melongena)、ピーマン(Capsicum annuum var. grossum)、特にトマト植物に本発明に係る発現ベクター又はDNA構築物を導入することがより好ましい。好ましいトマト植物としては、以下に限定するものではないが、ソラナム・リコペルシカム(Solanum lycopersicum)、ソラナム・セラシフォルメ(Solanum cerasiforme; Lycopersicon cerasiformeとも称される)、ソラナム・ピムピネリフォリウム(Solanum pimpinellifolium; Lycopersicon pimpinellifoliumとも称される)、ソラナム・チーズマニイ(Solanum cheesmanii; Lycopersicon cheesmaniiとも称される)、ソラナム・パルビフロルム(Solanum parviflorum; Lycopersicon parviflorumとも称される)、ソラナム・クミエレウスキィ(Solanum chmielewskii; Lycopersicon chmielewskiiとも称される)、ソラナム・ヒルストゥム(Solanum hirsutum; Lycopersicon hirsutumとも称される)、ソラナム・ペンネリィ(Solanum Lycopersicon pennelliiとも称される)、ソラナム・ペルビアヌム(Solanum pennellii; Lycopersicon peruvianumとも称される)、ソラナム・チレンセ(Solanum chilense; Lycopersicon chilenseとも称される)、ソラナム・リコペルシコイデス(Solanum lycopersicoides)及びソラナム・ハブロカイネス(Solanum habrochaites)等に属するトマト系統・品種又はそれらの派生株が挙げられるが、これらに限定されない。トマトの一例である野生型トマト品種マイクロトム(Solanum lycopersicum cv. Micro-Tom)(Scott JW, Harbaugh BK (1989) Micro-Tom A miniature dwarf tomato. Florida Agr. Expt. Sta. Circ. 370, p.1-6)を用いることもできる。マイクロトムは市販されており、またTomato Genetics Resource Center(TGRC)(米国)からアクセッション番号LA3911の下で入手することもできる。野生型トマト品種マイクロトムは、矮性(約10~20 cm)であり、葉や果実が小さく、従来トマト品種との交雑も可能である。野生型トマト品種マイクロトムについては全ゲノム配列が決定されている(Kobayashi M, et al., (2014)Plant Cell Physiol. 2014 Feb;55(2):445-454)。
なお本明細書において派生株とは、元の植物と他の植物系統・品種との1回以上の交配を経て又は変異誘発若しくは変異導入を経て得られた子孫植物を指す。
本発明に係る発現ベクター又はDNA構築物を植物に導入する方法としては、植物の形質転換に一般的に用いられる方法、例えばアグロバクテリウム媒介形質転換法、ウィスカー法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール(PEG)法、マイクロインジェクション法、プロトプラスト融合法等を用いることができる。植物形質転換法の詳細は、田部井 豊 編、形質転換プロトコール[植物編]、(2012)化学同人」などの一般的な教科書の記載や、Sun, H.J., et al., (2006) A highly efficient transformation protocol for Micro-Tom, a model cultivar of tomato functional genomics. Plant Cell Physiol. 47, 426-431等の文献を参照すればよい。
アグロバクテリウム法を用いる場合は、アグロバクテリウム法に適したベクターを用いて作製した本発明に係る発現ベクターを、適当なアグロバクテリウム、例えばアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)にエレクトロポレーション法などにより導入し、得られた組換えアグロバクテリウムを植物の細胞、カルス、又は子葉切片等に常法により感染させればよい。好適なアグロバクテリウムとしては、限定するものではないが、GV2260、GV3101、C58、C58C1Rif(R)、EHA101、EHA105、AGL1、LBA4404等の株を利用することができる。組換えアグロバクテリウムの感染により、発現ベクター又はDNA構築物に含まれるT-DNAを、植物細胞のゲノムに組み込むことができる。
パーティクルガン法やエレクトロポレーション法では、本発明に係る発現ベクターやDNA構築物を直接、植物細胞内に導入することができる。本発明に係る発現ベクターやDNA構築物の細胞への導入には、植物の細胞、カルス、葉や子葉などに由来する組織切片、又はプロトプラストを用いてもよい(Christou P, et al., Bio/technology (1991) 9: 957-962)。例えばパーティクルガン法では、核酸送達装置(例えばPDS-1000(BIO-RAD社)等)を製造業者の説明書に従って使用して、本発明に係る発現ベクター又はDNA構築物をまぶした金属粒子をこのような試料に打ち込むことにより、植物細胞内に導入させ、形質転換植物細胞を得ることができる。操作条件は、例えば450~2000psi程度の圧力、4~12cm程度の距離で行うことができる。
次いで、本発明に係る発現ベクター又はDNA構築物を導入して得られた形質転換植物細胞(子葉切片等の組織を包含する)から、植物体を再生することができる。形質転換植物細胞を、例えば従来知られている植物組織培養法に従って選択培地で培養し、生存したカルスを再分化培地(適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライド等)を含む)で培養することにより、本発明に係る発現ベクター又はDNA構築物を導入した形質転換細胞から植物体を再生させればよい。このようにして形質転換植物を取得できる。本発明は、このような形質転換植物の作製方法も提供する。
本発明に係る発現ベクター又はDNA構築物の導入により、本発明に係るプロモーター及びその制御下にある遺伝子が細胞又は植物中に確実に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、ウェスタンブロット法等を利用して行うことができる。例えば、形質転換体の細胞、器官又は組織(例えば、形質転換植物の葉)から抽出したDNA又はゲノムDNAについて、本発明に係る発現ベクター又はDNA構築物中のプロモーターや組み込んだ発現対象の遺伝子に特異的なプライマーを用いてPCR増幅を行えばよい。その増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を明瞭なバンドとして検出することにより、目的のプライマーや遺伝子の導入を確認することができる。あるいは、マイクロプレート等の固相にPCR増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応等により増幅産物を確認することもできる。増幅産物について塩基配列決定することにより導入の確認を行ってもよい。作製した形質転換体について、導入した発現対象の遺伝子の遺伝子産物について活性を確認することも好ましい。
好ましい実施形態では、植物において本発明に係るプロモーターを遺伝子発現誘導に用いることにより、発現対象の遺伝子の発現が生殖器官(例えば雌蕊、又は葯などの雄蕊)特異的に強力に誘導され、その遺伝子産物(干渉RNA、mRNA、rRNA等のRNA、及び/又はタンパク質)が高度に生産される。本発明では、本発明に係るプロモーターにより、少なくとも一部の生殖器官において、組織及び時期特異的遺伝子発現が誘導される。本発明に係る形質転換植物では、葉、茎、根等の栄養組織では、本発明に係るプロモーターの制御下にある発現対象の遺伝子の発現が実質的に又は全く誘導されないことが好ましい。例えば、本発明に係る形質転換トマトでも、葉、茎、根等の栄養組織において、本発明に係るプロモーターの制御下にある遺伝子の発現は実質的に又は全く誘導されないことが好ましい。
したがって本発明は、本発明に係る発現ベクター又はDNA構築物を植物細胞に導入し、得られた形質転換細胞から植物体を再生し、開花させることを含む、植物生殖器官(特に雌蕊)に特異的な遺伝子発現を誘導する方法も提供する。本発明の方法は、少なくとも一部の生殖器官において、組織及び時期特異的遺伝子発現を誘導するものであってもよい。好ましい実施形態では、配列番号1で示される塩基配列からなるプロモーター又はその上記変異配列(例えば塩基配列に対して80%以上の同一性を有する塩基配列)からなるプロモーターを植物における遺伝子発現誘導に用いる場合、雌蕊、及び雄蕊に特異的な発現が誘導される。好ましい別の実施形態では、配列番号2で示される塩基配列からなるプロモーター又はその上記変異配列(例えば塩基配列に対して80%以上の同一性を有する塩基配列)からなるプロモーターを植物における遺伝子発現誘導に用いる場合、雌蕊、並びに雄蕊、花弁、萼を含む近傍器官に特異的な発現が誘導される。
本発明では、単為結果誘導性遺伝子を本発明に係るプロモーターの制御下に含む発現ベクター又はDNA構築物を植物に導入することにより、生殖細胞、好ましくは花芽成熟期~果実肥大期初期の生殖器官特異的に単為結果誘導性遺伝子の発現を誘導し、その結果、単為結果を誘導することができる。単為結果誘導性遺伝子とは、果実類植物において単為結果を誘導する機能を有する遺伝子である。単為結果誘導性遺伝子は、核酸又はポリヌクレオチドであり、好ましくはDNAである。単為結果誘導性遺伝子は、タンパク質又はRNAi構築物などのRNAをコードするものであってよい。単為結果誘導性遺伝子は、例えば、着果を抑制するための遺伝子の機能を抑制するものであってよい。単為結果誘導性遺伝子の好ましい例は、IAA9(Indole acetic acid 9)遺伝子の機能を抑制する遺伝子である。単為結果誘導性遺伝子の別の例として、IAA9以外のIAAファミリー遺伝子の機能を抑制する遺伝子、DELLA遺伝子の機能を抑制する遺伝子、SlETR1(Solanum lycopersicum ETHYLEN RECEPTOR 1; Solyc12g011330)遺伝子の機能を抑制する遺伝子、SlARF7 (Solanum lycopersicum AUXIN RESPONSE FACTOR 7; Solyc07g042260)遺伝子の機能を抑制する遺伝子、SlAGL6 (Solanum lycopersicum AGAMOUS LIKE 6; Solyc01g093960) 遺伝子の機能を抑制する遺伝子、SlAGL11 (Solanum lycopersicum AGAMOUS LIKE 11; Solyc11g028020) 遺伝子の機能を抑制する遺伝子、SlVAS1-like (Solanum lycopersicum VAS1 like; Solyc03g120450) 遺伝子の機能を抑制する遺伝子なども挙げられる。
目的の遺伝子の機能を抑制する単為結果誘導性遺伝子は、目的の遺伝子の発現を抑制することができるRNA構築物をコードするものであってよい。そのようなRNA構築物は、目的の遺伝子に対する長鎖二本鎖RNAやshRNA、siRNA、miRNAなどの干渉RNAであってよい。好ましい実施形態では、IAA9遺伝子の機能を抑制する遺伝子は、IAA9遺伝子の発現を抑制するRNA構築物をコードするものである。IAA9遺伝子の塩基配列(CDS配列)の例を配列番号23に、その塩基配列にコードされるIAA9タンパク質のアミノ酸配列を配列番号24に示す。IAA9遺伝子は、例えば、配列番号23で示される塩基配列からなる遺伝子又はその相同遺伝子であってよい。IAA9遺伝子は、配列番号23で示される塩基配列に対して典型的には80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%、例えば99.5%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であってよい。本発明のIAA9遺伝子はまた、例えば配列番号24で示されるアミノ酸配列に対して典型的には90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上、例えば99.5%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子であってよい。IAA9遺伝子は、オーキシンシグナル伝達経路において負の調節因子として働く、転写抑制活性を有するタンパク質をコードする。IAA9遺伝子の発現を抑制するRNA構築物をコードする遺伝子は、配列番号22で示される塩基配列からなるDNA及びその相補配列からなるDNAを含むものであってもよいし、配列番号22で示される塩基配列の部分配列からなるDNA及びその相補配列からなるDNAを含むものであってもよい。このようなRNA構築物をコードする遺伝子は、配列番号22で示される塩基配列の連続した15塩基以上、例えば15~30塩基の塩基配列及びその相補配列を含むものであってもよい。RNA構築物をコードする遺伝子はまた、配列番号22で示される塩基配列の連続した30~715塩基の塩基配列及びその相補配列を含むものであってもよい。
本発明において「単為結果」とは、植物において、受粉及び受精が起こらない場合に、種子形成を伴わずに子房や花托等が肥大し、無種子の果実を生じることをいう。本発明において「単為結果性」とは、受粉及び受精が起こらない場合に、植物ホルモン処理や特定の物理的刺激などの人為的な単為結果誘導処理を必要とせずに、植物が単為結果を生じる性質(能力)をいう。
本発明に係るプロモーターの制御下に含む発現ベクター又はDNA構築物を導入した形質転換植物は、受粉しない場合に単為結果性を示すとともに、受粉させた場合には有種子果(種子の入った果実)を形成できることが好ましい。
本発明に係るプロモーターの制御下に含む発現ベクター又はDNA構築物を導入した形質転換植物は、好ましい実施形態では、生殖器官で組織及び時期を限定した遺伝子発現を引き起こすことにより、遺伝子導入や遺伝子改変による望ましくない表現型の変化を抑制することができる。好ましい例では、本発明に係る形質転換植物では、野生型と比較して、栄養組織の表現型(例えば、草型、葉型、葉枚数、花房数など)の変化を抑制することができる。
一方、好ましい実施形態では、本発明に係るプロモーターの制御下に含む発現ベクター又はDNA構築物を導入した形質転換植物は、野生型と比較して、増加した糖度及び/又は酸度を有する果実を形成することができる。
本発明は、単為結果誘導性遺伝子を本発明に係るプロモーターの制御下に含む発現ベクター又はDNA構築物を植物細胞に導入し、得られた形質転換細胞から植物体を再生し、生育させて単為結果を確認することを含む、単為結果性の形質転換植物の作製方法も提供する。単為結果の確認は、無種子果実の形成を観察することによって行うことができる。本発明に係る単為結果性の形質転換植物の作製方法は、得られた形質転換植物を自家交配し、子孫植物を得るステップを含んでもよい。自家交配によって得られた子孫植物のゲノム中に導入された核酸、すなわち本発明に係るプロモーターとその制御下にある単為結果誘導性遺伝子の存在を常法により確認し、ホモ接合体を選択してもよい。
本発明はまた、上記の外来遺伝子を本発明に係るプロモーターの制御下に含む発現ベクター又はDNA構築物を植物細胞に導入し、得られた形質転換細胞から植物体を再生し、開花及び着果させ、前記DNA構築物又は発現ベクター中の遺伝子に由来する遺伝子産物又はその活性により生成された産物(有機化合物)を、果実から取得することを含む、有機化合物の組換え生産方法も提供する。この方法により、植物の果実において、様々な遺伝子産物又はその活性により生成された産物(有機化合物)を合成・蓄積させ、製造することができる。DNA構築物又は発現ベクター中の遺伝子に由来する遺伝子産物は、当該遺伝子がコードするタンパク質(例えば、酵素)、ポリぺプチド(ペプチドも含む)、又はRNAである。遺伝子産物の活性により生成される産物(有機化合物)は、例えば、適切な基質から、当該遺伝子産物(例えば、酵素)の活性に基づく反応により、好ましくは果実中で生産される。遺伝子産物又はその活性により生成された産物(有機化合物)の果実からの取得は、化合物の様々な分離方法や単離精製方法(例えば、遠心分離、クロマトグラフィーなど)を用いて行うことができる。
本発明において用いるDNAの調製、PCR、ベクター中へのライゲーション、細胞の形質転換、DNA塩基配列決定、プライマーの合成、突然変異誘発、タンパク質の抽出などの分子生物学的・生化学的実験操作は、基本的には通常の実験書の記載に従って行うことができる。そのような実験書としては、例えば、Molecular Cloning: A laboratory manual (Third Edition) (2001) Eds., Sambrook, J. & Russell, DW. Cold Spring Harbor Laboratory Pressや、Molecular Cloning: A laboratory manual (Fourth Edition), (2012) Eds., Michael R. Green & Sambrook, J., Cold Spring Harbor Laboratory Pressを挙げることができる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]RNA-seqデータからの候補遺伝子の選抜
トマト(Solanum lycopersicum)品種マイクロトム(Micro-Tom)の様々な組織のRNAシークエンシング(RNA-seq)データを取得し、それを比較して、栄養組織では発現せず、雌蕊特異的発現を示す候補遺伝子を選抜した。まず、マイクロトムの様々な組織や発達段階のサンプル(100mg以下)を採取し、RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen, USA)を用いてトータルRNAを抽出した。サンプルとしては、2~2.5mmのつぼみの雌蕊;3~4mmのつぼみの雌蕊及び雄蕊;開花1日前のつぼみの雌蕊及び雄蕊;開花日の花の雌蕊、雄蕊、萼片及び花弁;開花5日後の花の雌蕊;直径5mmの子房;緑熟期果実の果肉;赤熟期果実の果肉;播種の一週間後の実生の根、胚軸及び子葉;播種の3週間後の植物体の本葉を用いた。
なお「緑熟期果実」とは、緑熟期にある比較的未熟な果実を指す。農業分野では、果実の肥大が完了した時期を緑熟期と呼ぶ。緑熟期の果実は、一般的には緑色、緑白色又は黄白色であり、まだ色づいていない。緑熟期以降、果実が熟していく期間を追熟期といい、この時期に果実の甘味や芳香が増し、果肉が柔らかくなるなどの変化が起こる。トマトでは、緑熟期及びブレーカー期(黄色果実)を経て(樹上で又は収穫後に)追熟させて得られる完熟した完熟果実(完熟果)は、赤熟期果実(赤熟果)と呼ばれる。同様に色づき成熟した他の果実類の完熟果実も赤熟期果実又は熟果と呼ばれる。
得られたトータルRNAサンプルについて、DNA-free RNA KitTM(Zymo Research, USA)を用いてゲノムDNA(gDNA)の除去を行った。得られたRNA溶液について、マイクロプレートリーダーSafire(Tecan, Switzerland)を使用し、OD260値を測定しRNA量を算出した。続いて、TruSeq RNA Sample Prep Kit v2(Illumina)を用いてcDNAライブラリーを作製した。
次に、次世代シークエンサーIllumina Genome Analyzer IIx system及びIllumina HiSeq 2000を用い、片側36塩基又は100塩基のシークエンシングによるRNA-seqを実施した。獲得したリードデータからDenovoアセンブラABySS 1.2.6を用いてコンティグを作成した。雌蕊と他の器官の組織の間で、獲得された300塩基以上のコンティグを比較し、雌蕊特異的に確認されるコンティグを選抜した。続いて、BLASTサーチにより、選抜したコンティグをコードするトマトの遺伝子を特定した。選抜された候補遺伝子は、Solyc03g007780及びSolyc02g067760であった。
なおSolyc03g007780遺伝子及びSolyc02g067760遺伝子は、トマト品種マイクロトム(Micro-Tom)から単離されたものである。
[実施例2]トータルRNA抽出及びRT-qPCR発現解析
実施例1で選抜した候補遺伝子について、RT-PCR発現解析を行った。まず、実施例1と同様の方法で、異なる発達段階の栄養器官又は生殖器官(葉、茎、根、花の器官、肥大期果実、緑熟期果実、ブレーカー期果実及び赤熟期果実)のサンプルからmRNAを抽出した。サンプルとしては、具体的には、7日目の子葉、茎、及び根;30日目の植物体の葉、茎及び根;1mmの花芽;2mmの花芽;2mmのつぼみの雄蕊;3~4mmのつぼみの雄蕊;5~6mmのつぼみの雄蕊;開花1日前のつぼみの雄蕊;開花日の花の雄蕊;開花1日後の花の雄蕊;開花2日後の花の雄蕊;5~6mmのつぼみの花弁;開花1日前のつぼみの花弁;開花日の花弁;開花1日後の花弁;開花2日後の花弁;3~4mmのつぼみの萼片;5~6mmのつぼみの萼片;開花1日前のつぼみの萼片;開花日の花の萼片;開花1日後の花の萼片;開花2日後の花の萼片;開花3日後の花の萼片;開花4日後の萼片;2mmのつぼみの子房;3~4mmのつぼみの子房;5~6mmのつぼみの子房;開花1日前のつぼみの子房;開花日の花の子房;開花1日後の花の子房;開花2日後、3日後、4日後、6日後、12日後、18日後、24日後、30日後、36日後、及び42日後の果実を用いた。1mmの花芽は開花12日前、2mmの花芽(つぼみ)は開花9日前、3~4mmのつぼみは開花5日前、5~6mmのつぼみは開花3日前に相当する。開花2日後~24日後の果実が肥大期果実(開花2日後~6日後の果実は肥大期初期果実)、開花30日後の果実が緑熟期果実、開花36日後の果実がブレーカー期果実、開花42日後の果実が赤熟期果実に相当した。
抽出したRNA溶液をDNase処理した後、常法によりcDNAを合成した。具体的には、2μgのDNase処理済みトータルRNAからSuperScript(R) VILOTM MasterMix(Life Technologies, USA)を用いて、逆転写反応によりファーストストランドcDNAを作製した。
続いて、作製したファーストストランドcDNAを鋳型として、各遺伝子を増幅する定量PCRを行った。各遺伝子の増幅に使用したプライマーセット及び推定増幅サイズを表1に示す。
対照(リファレンス遺伝子)として、SAND遺伝子を増幅する定量PCRも行った。PCR反応は総量25μlで行った。PCR反応液組成は、プライマーセットの各プライマー(10μM) 1μl、cDNA 3 μl、SYBR Premix Ex Taq(TAKARA) 12.5μl、及び滅菌水 7.5μlとした。PCR反応は、94℃で30秒の熱変性の後、94℃で5秒の変性、60℃で30秒のアニーリング及び伸長を1サイクルとして40サイクル行う熱サイクル条件で実施した。遺伝子Solyc03g007780及びSolyc02g067760のそれぞれの発現量(mRNA相対量)を図1に示した。
図1から分かるように、2つの遺伝子Solyc03g007780及びSolyc02g067760の発現パターンには多少の違いがみられるが、いずれも雌蕊(子房など)で発現が認められた。Solyc03g007780遺伝子は、開花前後の子房及び果実で特に強く発現していた。一方、Solyc02g067760遺伝子は、開花前後の雌蕊組織に加えてその近傍器官(雄蕊、花弁、萼)で強く発現していた。概ね開花3日前から開花6日後までの間でRNAレベルでの発現が観察されたが、この時期は花芽成熟期~果実肥大期初期に該当する。いずれの遺伝子についても、生殖器官以外の器官ではRNAレベルの発現は認められなかった。すなわち遺伝子Solyc03g007780及びSolyc02g067760は、雌蕊及びその近傍器官(生殖器官)において組織及び時期特異的に発現することが示された。
選抜された2つの遺伝子Solyc03g007780及びSolyc02g067760を、以下の実施例において、プロモーターを取得するための候補遺伝子として用いた。
[実施例3]BLAST解析
選抜された候補遺伝子の機能を調べる目的で、NCBI(National Center for Biotechnology Information, U.S.A.)のBLASTNプログラムを用いて配列解析を行った。
このBLAST解析の結果、Solyc03g007780では、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)やイネ(Oryza sativa)において相同な配列を有する遺伝子が発見されなかった一方で、タバコ類(Nicotiana attenuate; GenBankアクセッション番号OIT38151, Nicotiana tabacum; GenBankアクセッション番号AAB18190)で高い相同性を示し保存されたシステイン残基を有するタンパク質をコードする遺伝子が発見された。またSolyc03g007780によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列の解析からシステインリッチペプチド様の遺伝子であることが示された。
Solyc02g067760は、GenBankアクセッション番号XM_004233282で示されるトマト遺伝子(Solanum lycopersicum myb-related protein 305-like)に対する相同性を示した。Solyc02g067760遺伝子はまた、GenBankアクセッション番号EU374207に示されたペチュニアの遺伝子(Petunia x hybrida EMISSION OF BENZENOID II (PhEOBII))、及びGenBankアクセッション番号XM_019369866で示されるタバコ類の遺伝子(Nicotiana attenuata myb-related protein 305-like)との相同性を有し、それらの遺伝子ホモログである可能性が示唆された。他にはトウガラシ(Capsicum annuum; GenBankアクセッション番号XM_016703603)、アサガオ(Ipomoea nil; GenBankアクセッション番号XM_019305811)、ワタ類(Gossypium hirsutum; GenBankアクセッション番号XM_016857435)、キュウリ(Cucumis sativus; GenBankアクセッション番号XM_004141047)、テンサイ(Beta vulgaris; GenBankアクセッション番号XM_010679560)、インゲンマメ(Phaseolus vulgaris; GenBankアクセッション番号XM_007150957)メロン(Cucumis melo; GenBankアクセッション番号XM_008445303)、タンジン(Salvia miltiorrhiza; GenBankアクセッション番号KF059392)、ナデシコ類(Silene littorea; GenBankアクセッション番号KT954912)、オレンジ(Citrus sinensis; GenBankアクセッション番号XM_006470245)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana; GenBankアクセッション番号NM_123399)等でもSolyc02g067760と相同性の高いタンパク質をコードする遺伝子が見つかった。
[実施例4]プロモーターの単離
プロモーター解析を行うため、2つの遺伝子Solyc03g007780及びSolyc02g067760のそれぞれから、以下のようにしてプロモーター領域の単離を試みた。
(1)ゲノムDNAの抽出
ゲノムDNA(gDNA)は、トマト(品種マイクロトム)の葉から抽出した。具体的には、まず約100mgの葉を液体窒素下で冷やしたエッペンドルフチューブ内で破砕し、粉状にした。この粉末サンプルから、Maxwell(R) 16 System DNA Purification Kit(Promega, USA)及びMaxwell(R) 16 Instrument(Promega, USA)を使用してgDNAを抽出した。得られたDNA抽出物について、ナノドロップ2000c(Thermo Fisher, USA)を使用し、OD260値を測定し、ゲノムDNA量を算出した。
(2)プロモーターの単離及び塩基配列決定
プロモーター領域をクローニングするため、上記(1)で調製した栽培品種マイクロトムのゲノムDNAを鋳型として、各遺伝子の上流配列をターゲットとしたプライマーセット及びフェデリティーの高いKOD Plus Neo(TOYOBO, Japan)を使用したPCRにより、翻訳開始点から約2 kb上流域を増幅した。この増幅に使用したプライマーは、Solyc03g007780については、5'側に制限酵素BlnI(AvrII)の認識配列5'-CCTAGG-3'を付加したプライマーpro007780-F-1(5'-CCTAGGACGGAGTGTGCCACATAAGAC-3';配列番号9)及び3'側に制限酵素XhoIの認識配列5'-CTCGAG-3'と制限酵素SalIの認識配列5'-GTCGAC-3'を付加したプライマーpro007780-R-1(5'-GTCGACCTCGAGAGCTTTTTTTTTTTCCCTTCTCAC-3';配列番号10)である。またSolyc02g067760について増幅に使用したプライマーは、5'側に制限酵素SalIの認識配列5'-GTCGAC-3'と制限酵素BlnI(AvrII)の認識配列5'-CCTAGG-3'を付加したプライマーpro067760-F-1(5'-GTCGACCCTAGGGTTCCTAGCTTTGACACACAAGAG-3';配列番号11)及び3’側に制限酵素XhoIの認識配列5'-CTCGAG-3'と制限酵素BamHIの認識配列5'-GGATCC-3'を付加したプライマーpro067760-R-1(5'-GGATCCCTCGAGGTAGAGAGAGGAAGATGAGAGA-3';配列番号12)である。PCR反応は総量50 μlで行った。その反応液組成は、プライマーセットの各プライマー(10 μM)1 μl、ゲノムDNA 1 μl(30 ng)、10x PCRバッファー 5 μl、dNTPs 5 μl、MgCl2 3 μl、KOD-Plus-ポリメラーゼ酵素1 μl、及び滅菌水33 μlとした。PCR反応は、98℃で5分の熱変性の後、98℃で30秒の変性、60℃で30秒のアニーリング、68℃で1分の伸長を1サイクルとして28サイクル、最後に68℃で3分の伸長を行う熱サイクル条件で実施した。
反応後のPCR産物をSYBR Safe DNA Gel Stain(Invitrogen, USA)を添加したアガロースゲル電気泳動により分画し、目的サイズのDNA断片をアガロースゲルから切り出し、Wizard(R) SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega, USA)を使用し精製した。精製したDNAに10x PCRバッファー、0.2mM dATP、及びrTaqを加えて72℃で10分反応させることでDNA断片の両端にデオキシリボアデノシン(dA)を付加した。dAを付加したDNA断片を、TAクローニングによりpCR2.1ベクター(Invitrogen, USA)へサブクローニングした。なおpCR2.1ベクターはアンピシリン耐性遺伝子及びカナマイシン耐性遺伝子を選択マーカーとして含んでいる。得られたプラスミドベクター内にクローン化されたDNA断片の塩基配列を常法により決定した。作製したプラスミドベクターをそれぞれpCR2.1-pro007780ベクター及びpCR2.1-pro067760ベクターと名付けた。配列が確認されたpCR2.1-pro007780ベクターから、制限酵素HindIII及びSalIを用いてプロモーターを切り出し、同じ酵素で直鎖化したpBI101 GUSベクターにT4 DNAリガーゼ(Invitrogen, USA)を用いて導入した。またpCR2.1-pro067760ベクターから制限酵素SalI及びBamHIを用いてプロモーターを切り出し、同じ酵素で直鎖化したpBI101 GUSベクターにT4 DNAリガーゼを用いて導入した。作製したプラスミドベクターをそれぞれpBI101-pro007780ベクター及びpBI101-pro067760ベクターと名付けた。
これらのベクター中にクローン化したSolyc03g007780及びSolyc02g067760に由来するプロモーター領域の塩基配列を、配列番号1(Solyc03g007780のプロモーター配列)及び配列番号2(Solyc02g067760のプロモーター配列)に示す。
pBI101-pro007780ベクター及びpBI101-pro067760ベクター、並びに後述の実施例5で対照として使用したCaMV由来35Sプロモーターの制御下にGUS遺伝子を含む発現ベクターpBI121中の、T-DNAの構造を図2に模式的に示す。
[実施例5]プロモーター領域の活性評価
実施例2で雌蕊を含む生殖器官特異的に発現が確認された遺伝子Solyc03g007780及びSolyc02g067760の各プロモーターについて、GUS遺伝子発現活性を利用して活性評価を行った。まず、実施例4で作製した、pBI101ベクターのGUS遺伝子上流に各プロモーターが挿入されたpBI101-pro007780ベクター及びpBI101-pro067760ベクターを、エレクトロポレーションによりアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)GV2260株に導入した。次いで、組換えアグロバクテリウムを、抗生物質カナマイシンを50 mg/Lで添加したLB寒天培地上で選抜した。
得られた組換えアグロバクテリウムを用いて、Sunら(Plant Physiol., 114:1547-1556, 2006)の方法により、マイクロトムの形質転換体を作製した。また対照として、35Sプロモーターの制御下にGUS遺伝子を含む発現ベクターpBI121を導入した組換えアグロバクテリウムを用いて、同様にマイクロトムの形質転換体を作製した。より具体的に説明すると、まず、組換えアグロバクテリウムを、抗生物質カナマイシンを50 mg/Lで添加したLB培地中で一晩振とう培養した。この培養液を3000 rpmで10分間、室温で遠心し、上清を除去した。集菌したペレットを洗浄した後、アセトシリンゴン200 μMとメルカプトエタノール10 μMを添加したMS液体焙地にOD600値が0.1になる濃度で懸濁した。このアグロバクテリウム菌液に、無菌播種後7日目の無菌マイクロトム子葉の切片を浸漬させた。これによりアグロバクテリウムを感染させたトマト子葉切片を、1.5 mg/Lゼアチンを添加したMS培地で3日間共存培養した。その後、培養切片を、1 mg/Lゼアチン、100 mg/Lカナマイシンを添加した選抜MS培地に移し、2週間毎に培地を交換しながら培養し、続いて、伸びたシュートを50 mg/Lカナマイシンを添加した発根MS培地に移し、根を形成させた。
発根MS培地で根を形成した再分化個体の葉から、実施例4に記載した方法に従ってゲノムDNAを抽出した。このゲノムDNAを鋳型にして、PCRによりGUS遺伝子を増幅した。使用したプライマーは、GUS-F(5'-CCGGGTGAAGGTTATCTCTATG-3';配列番号13)及びGUS-R(5'-CATGACGACCAAAGCCAGTA-3';配列番号14)である。PCR反応は総量50 μlで行った。その反応液組成は、各プライマー(10μM)1μl、ゲノムDNA 1 μl、10x PCRバッファー5 μl、2.5mM dNTPs 4.0 μl、ポリメラーゼ酵素Ex-Taq(5U/μl)0.4 μl、及び滅菌水38.6μlとした(10x PCRバッファー、dNTPs、ポリメラーゼ酵素はTAKARA Taq Hot Start Versionのものを使用)。PCR反応は、95℃で3分の熱変性の後、94℃で30秒の変性、60℃で30秒のアニーリング、72℃で1分の伸長を1サイクルとして35サイクル、最後に72℃で5分の伸長行う熱サイクル条件で実施した。得られたPCR産物10 μlをアガロースゲルで電気泳動し、増幅産物を確認し、GUS遺伝子の増幅が確認された再分化個体を形質転換体として選抜した。
さらに、後述の実施例で生育調査に用いるために、NPTIIプロープを用いたサザンブロッティング解析により、組換え構築物が1コピー導入された系統を選択した。NPTIIプローブはDIG DNA Labeling Kit(Roche、Switzerland)とNTPII増幅用プライマーセット(配列番号20及び配列番号21のプライマー)を用いて合成した。
このようにして作製した形質転換体当代については、さらにGUS染色によるプロモーターの組織別発現誘導活性の解析を行った。このGUS染色に基づく発現解析は、X-Gluc(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-グルクロン酸)を基質として用いるJeffersonらの方法(EMBO J., 6:3901-3907, 1987)に若干の変更を加えて行った。具体的には、染色のバックグラウンドを減らすために、反応液の50 mM リン酸バッファー(pH 7.0)を100 mM リン酸バッファー(pH 8.0)に変更した反応液(1 mM X-Gluc、0.5 mM フェリシアン化カリウム、0.5 mM フェロシアン化カリウム、100 mM リン酸バッファー(pH8.0))を使用した。赤熟期果実では上記反応液を用いてもバックグラウンドのシグナルが検出されたことから、さらにバックグラウンドを減らすべく、赤熟期果実についてはKosugiらの方法(Plant Sci., 70:133-140, 1990)に従って終濃度で20%のメタノールを加えた上記反応液を用いた染色も行った。染色は、上記反応液に形質転換トマトから採取した各組織を浸し、15分間減圧して染色液を組織に浸透させ、37℃で、一晩(16時間)、又は6時間(20%メタノールを加えた反応液のみ)インキュベートすることにより行った。インキュベート後、70%エタノールでサンプルを洗浄することにより反応を停止させた。
その結果の例を図3及び図4に示す。Solyc03g007780及びSolyc02g067760由来のプロモーターは形質転換植物において活性を示した。Solyc03g007780及びSolyc02g067760由来プロモーターを用いた形質転換体の栄養器官(葉、根)では、GUS染色が全く観察されず、3-4mmのつぼみについてもGUS染色は肉眼では観察されなかった(図3)。Solyc03g007780由来プロモーターを用いた場合、生殖器官特異的にGUS染色が観察され、特に花の雌蕊で強いGUS染色が観察された(図3)。図4には、Solyc03g007780由来プロモーターを用いた発現誘導の結果として、開花日の雄蕊(花粉)、並びに開花日から開花4日後までの子房内の胚珠や胚珠付近の胎座及び子房壁でGUS染色が示されている。一方、Solyc02g067760由来プロモーターを用いた場合、生殖器官特異的にGUS染色が観察され、特に雌蕊(子房)及びその近傍器官(雄蕊、花弁、及び萼)で強いGUS染色が観察された(図3、4)。図4には、Solyc02g067760由来プロモーターを用いた発現誘導の結果として、開花日の花粉を含む雄蕊全体及び開花日~開花4日後の子房全体でGUS染色が示されている。対照的に、35Sプロモーターを用いた場合には、試験した全ての組織でGUS染色が観察された。野生型(WT)ではGUS染色は観察されなかった。この結果は、実施例2のRT-qPCR発現解析の結果を裏付けるものであった。
したがって、2つの遺伝子Solyc03g007780及びSolyc02g067760由来のプロモーターは、雌蕊を含む生殖器官特異的に遺伝子発現を誘導し、強いプロモーター活性を有していることが示された。
従来の植物プロモーターE8は果実の発達後期(追熟期)でのみ機能することが知られている。しかし、以上の結果から、E8プロモーターとは異なり、Solyc03g007780及びSolyc02g067760由来のプロモーターは、雌蕊、特に子房又は果実や、雄蕊などの植物生殖器官において着果時期を含む花芽成熟期~果実肥大期初期に機能できることが明らかとなった。
[実施例6]単離プロモーターを利用したトマト形質転換植物の作製
オーキシンシグナル伝達関連遺伝子であるIAA9(Indole acetic acid 9)は、単為結果性遺伝子であり、そのダウンレギュレーションが単為結果をもたらすことが知られている。本実施例では、実施例4で単離されたSolyc03g007780及びSolyc02g067760由来の各プロモーターの制御下で、IAA9遺伝子の発現を抑制することができるRNAi構築物を発現させ、その効果を調べた。
まず、RNAi用のGateway(R)バイナリーベクターであるpBI-sense, antisense-GW(INPLANTA INOVATIONS, Japan)に、Solyc03g007780及びSolyc02g067760由来のプロモーター領域を含むDNA断片を以下のようにして導入した。実施例4で作製したpBI101-pro007780ベクター及びpBI101-pro067760ベクターから、Solyc03g007780及びSolyc02g067760由来のプロモーター領域を、BlnI及びXhoIを用いた制限酵素処理により切り出し、切り出したDNA断片を、35Sプロモーターを除去したpBI-sense, antisenseベクターのGATEWAYカセット上流にライゲーション反応により組み込んだ。
続いて、IAA9をターゲットとするDNA断片を、以下の方法によりGateway(R)用エントリーベクターpCR8/GW/TOPOベクターへ導入した。初めにトマト(Solanum lycopersicum)IAA9(SlIAA9)の715bpのDNA断片(配列番号22)をPCR反応により増幅した。PCR増幅にはプライマーSlIAA9-F-1(5'-TGGCCACCCATTCGATCTTTTAG-3'; 配列番号15)及びSlIAA9-R-1(5'-ACAAACTCCAATATCAAACGG-3'; 配列番号16)を用いた。反応は総量50 μlで行い、その反応液組成は、プライマーセットの各プライマー(10 μM)1 μl、トマト子房由来のcDNA 2 μl、10x PCRバッファー 5 μl、dNTPs 5 μl、MgCl2 3 μl、KOD-Plus-Neoポリメラーゼ酵素1 μl、及び滅菌水32 μlとした。PCR反応は、98℃で5分の熱変性の後、98℃で30秒の変性、60℃で30秒のアニーリング、68℃で1分の伸長を1サイクルとして28サイクル、最後に68℃で3分の伸長行う熱サイクル条件で実施した。反応後のPCR産物をSYBR Safe DNA Gel Stain(Invitrogen, USA)を添加したアガロースゲル電気泳動により分離し、目的サイズのDNA断片をアガロースゲルから切り出し、Wizard(R) SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega, USA)を使用し精製した。精製したDNAサンプルに10x PCRバッファー、0.2mM dATP、及びrTaqを加えて72℃で10分反応させることでDNA断片の両端にdAを付加した。dAを付加したDNA断片を、pCR(R)8/GW/TOPO(R) Vector Kit(Invitrogen, USA)を用い、TAクローニングによりpCR8/GW/TOPOベクターへ導入した。
次に、pCR8/GW/TOPOベクター中にクローニングした、SlIAA9をターゲットとするDNA断片を、上記で作製したSolyc03g007780及びSolyc02g067760の各プロモーターを導入したpBI-sense, antisenseベクターへ、LRクロナーゼTM(Invitrogen, USA)を用いたLR反応により導入した。得られたベクターを組織及び時期特異的SlIAA9発現抑制用ベクターとして後述のとおり使用した。図5にこのベクター中のT-DNAの構造を模式的に示す。
作製したSlIAA9発現抑制用ベクターをエレクトロポレーションによりアグロバクテリウム・ツメファシエンスGV2260株に導入し、組換えアグロバクテリウムを、抗生物質カナマイシンを50 mg/Lで添加したLB寒天培地上で選抜した。
得られた組換えアグロバクテリウムを用いて、Sunら(Plant Physiol., 114:1547-1556, 2006)の方法により、マイクロトムの形質転換体を作製した。具体的には、まず、組換えアグロバクテリウムを、抗生物質カナマイシンを50 mg/Lで添加したLB培地中で一晩振とう培養した。この培養液を3000 rpmで10分間、室温で遠心し、上清を除去した。集菌したペレットを洗浄した後、アセトシリンゴン200 μMとメルカプトエタノール10 μMを添加したMS液体焙地にOD600値が0.1になる濃度で懸濁した。このアグロバクテリウム菌液に、無菌播種後7日目の無菌マイクロトム子葉の切片を浸漬させた。これによりアグロバクテリウムを感染させたトマト子葉切片を、1.5 mg/Lゼアチンを添加したMS培地で3日間共存培養した。その後、培養切片を、1 mg/Lゼアチン、100 mg/Lカナマイシンを添加した選抜MS培地に移して2週間毎に培地を交換しながら培養し、続いて、伸びたシュートを50 mg/Lカナマイシンを添加した発根MS培地に移し、根を形成させた。
発根MS培地で根を形成した再分化個体の葉から、実施例4に記載した方法に従ってゲノムDNAを抽出した。このゲノムDNAを鋳型にして、PCRによりベクター導入の有無を確認した。使用したプライマーは、SlIAA9-R-1(5'-ACAAACTCCAATATCAAACGG-3'; 配列番号16)及びNOST-R-1(5'-CAAGACCGGCAACAGGATT-3'; 配列番号19)である。PCR反応は総量50 μlで行った。その反応液組成は、各プライマー(10μM)1μl、ゲノムDNA 1 μl、10x PCRバッファー5 μl、2.5mM dNTPs 4.0 μl、ポリメラーゼ酵素Ex-Taq(5U/μl)0.4 μl、及び滅菌水38.6μlとした(10x PCRバッファー、dNTPs、ポリメラーゼ酵素はTAKARA Taq Hot Start Versionのものを使用)。PCR反応は、95℃で3分の熱変性の後、94℃で30秒の変性、60℃で30秒のアニーリング、72℃で1分の伸長を1サイクルとして35サイクル、最後に72℃で5分の伸長行う熱サイクル条件で実施した。得られたPCR産物10 μlを1.0%アガロースゲルで電気泳動し、増幅産物を確認し、ベクターの増幅が確認された再分化個体を形質転換(トランスジェニック)植物として選抜した。それぞれの核酸構築物について40系統以上の形質転換植物を得た。さらに、NPTIIプロープを用いたサザンブロッティング解析により、核酸構築物(上記SlIAA9発現抑制用ベクター由来のT-DNA)が1コピー導入された系統を選抜した。DNAプローブはDIG DNA Labeling Kit(Roche、Switzerland)とNTPII増幅用プライマーセット(配列番号20及び配列番号21のプライマー)を用いたPCR増幅により合成した。
得られたこれら1コピー系統を自家交配(自殖)し、ホモ系統(T2世代)を獲得した。
ホモ系統(T2世代)において、定量的RT-PCR法を用いてSlIAA9の発現抑制を確認した。まず、実施例2と同様の方法を用いて、形質転換体(4-17系統、4-23系統、4-25系統、6-10系統、6-18系統)の開花日、開花2日後、4日後の子房からtotal RNAを抽出した。また、野生型及びSolyc03g007780由来プロモーター系統(4-17系統、4-23系統、4-25系統)の開花2日後の胚珠からtotal RNAを抽出した。なお、胚珠は実体顕微鏡下でピンセットを用いて単離した。抽出したtotal RNAをDNase処理後、常法によりcDNA合成した。具体的には、PrimeScript II 1st strand cDNA Synthesis Kit(Takara bio, Japan)を用いて、逆転写反応によりファーストストランドcDNAを作製した。
作製したファーストストランドcDNAを用い、形質転換体におけるSlIAA9遺伝子の発現抑制を確認した。使用したプライマーは、SlIAA9-F-2(5'-CTCAGGCTCGGTCTACCTG-3';配列番号17)及びSlIAA9-R-2(5'-CCTCTGAGAATCCATCCATAGC-3'; 配列番号18)である。内在性コントロールとしてSAND遺伝子を用いた。SAND遺伝子に対するプライマーはSAND-F-1(5'-TTGCTTGGAGGAACAGACG-3'; 配列番号3)及びSAND-F-1(5'-GCAAACAGAACCCCTGAATC-3'; 配列番号4)である。PCR反応は総量25μlで行った。その反応液組成は、各プライマー(10μM)1μl、cDNA 3 μl、12.5μl SYBR Premix Ex Taq II mix、及び滅菌水7.5μlとした。PCR反応は、94℃で30秒の熱変性の後、95℃で5秒の変性、60℃で30秒のアニーリング及び伸長を1サイクルとして40サイクル行う熱サイクル条件で実施した。
発現解析の結果、Solyc03g007780由来プロモーター2系統(4-23系統、4-25系統)及びSolyc02g0677602系統(6-10系統、6-18系統)では野生型と比較して、子房におけるSlIAA9発現の抑制傾向が確認された(図12)。また、4-17系統についてもSlIAA9による着果制御に重要とされる胚珠での発現抑制が確認された(図13)。
[実施例7]形質転換植物の生育、単為結果性、及び果実品質の調査
実施例6で作製した形質転換ホモ系統(T2世代)について、生育調査を行った。形質転換ホモ系統(T2世代)としては、Solyc03g007780由来のプロモーターを用いた形質転換系統(4-17, 4-23及び4-25系統)、並びにSolyc02g067760のプロモーターを用いた形質転換系統(6-10及び6-18系統)を用いた。
対照として、野生型マイクロトム(WT)、及びiaa9-3変異系統についても同様に生育調査を行った。iaa9-3変異系統は、EMS突然変異誘発により作製された、内在性IAA9遺伝子において237番目の塩基TがAに置換する単一変異を有しているマイクロトム変異体系統であり、その変異によりIAA9遺伝子に終止コドンが生じ、79アミノ酸のみのタンパク質を産生するようになった結果、IAA9遺伝子の機能を欠損している(Saito et al., Plant Cell Physiol. (2011) 52(2): 283-296)。iaa9-3変異系統や他のIAA9ダウンレギュレーション系統は、葉や葉柄の融合の他、単為結果などを示す(Wang et al., The Plant Cell, Vol.17, p.2676-2692; Saito et al., Plant Cell Physiol. (2011) 52(2): p.283-296)。またトマト形質転換法自体が遺伝子発現や植物表現型に及ぼす影響を排除するための比較例として、Azygous系統(AZ)を使用した。このAZ系統は形質転換体の自殖後に導入遺伝子が抜けた系統である。さらに、IAA9をターゲットとするDNA断片を、構成的発現を誘導する35Sプロモーターの制御下に組み込んだSlIAA9発現抑制用ベクターを作製し、実施例6と同様の方法でアグロバクテリウム法により導入したマイクロトム形質転換系統についても、同様に調査を行った。
これらの植物を以下の条件で栽培した。まず、ろ紙を敷いたシャーレ上に植物の種子を播種し、25℃で1週間生育させた後、実生を75 x 75 x 65 mmサイズのロックウール(Grodan、The Netherlands)へ移植した。移植した植物は、大塚ハウス1号及び大塚ハウス2号(OTSUKA, Japan)を混合した液肥を施用し、電気伝導率(EC)1.8 dS/m以下、16時間/8時間(明期/暗期)、光強度300 μmol m-2 s-1、25℃の条件下で栽培した。
それぞれの植物を人工授精により自家交配し、得られた果実を調べた。生育調査の結果、形質転換系統はいずれも、自殖により、野生型(非形質転換植物)と同様の着果率(授粉した花の数に対する、果実を形成した花の数の割合)及び結実率(形成された果実数に対する、有種子果、すなわち種子の入った果実の数の割合)を示した(表2)。一方、IAA9の機能を欠損しているiaa9-3変異系統では、授粉後の着果率と結実率が、野生型や形質転換系統に比べてかなり低い値となった。
一方、形質転換系統及びiaa9-3変異系統の開花1日前の花を選び除雄を行い、人工授粉せずに、48日後に得られた果実(単為結果果実)を収穫し、果実品質の分析に供試した。対照として、野生型については除雄のみ(WT)、又は人工授粉及び除雄(WT pol)を行い、同様に果実を分析した。
Solyc03g007780由来プロモーターを用いた形質転換系統と、Solyc02g067760由来プロモーターを用いた形質転換系統は、いずれも、iaa9-3変異系統と同様に単為結果性を示した(図6)。野生型は人工授粉により有種子果を形成した。図6に示すとおり、形質転換系統の果実は野生型の果実と同様の形態を示した。
また、Solyc03g007780由来プロモーターを用いた形質転換系統4-17、4-23及び4-25系統は、iaa9-3変異系統と同程度の高い単為結果率を示した(表3)。一方、Solyc02g067760由来プロモーターを用いた形質転換系統6-10及び6-18系統の単為結果率は、iaa9-3変異系統と比較して低かったが、なお40%程度であった(表3)。単為結果率は、人工授粉せず除雄処理を行った花の数に対する、果実を形成した花の数の割合(%)として算出した。
さらに植物体の形態比較を行った。Solyc03g007780由来プロモーター又はSolyc02g067760由来プロモーターを用いたいずれの形質転換系統も、野生型と同様の草型(図7)と葉型(図8)を示した。一方、iaa9-3変異系統と、35Sプロモーターを使用した形質転換系統(p35S-IAA9 RNAi;図8右端)は、やや徒長した草型(図7)とジャガイモ型の葉型(図8)を示した。ジャガイモ型の葉型とは、具体的には、葉身が分かれておらず、単葉になっている葉のことである。
またいずれの形質転換系統も、野生型と同様の葉の枚数及び花房数を示した(図9)。一方、iaa9-3変異系統は形質転換系統や野生型に比べて葉枚数や花房数が有意に減少した(図9)。これらの結果から、上記プロモーターを利用することで、草型、葉型、葉枚数、花房数などの形質には影響をほぼ及ぼすことなく、単為結果を誘導できることが示された。
また、果実収量を比較した結果を表4に示す。Solyc03g007780由来プロモーターを用いた形質転換系統(4-17、4-23及び4-25系統)は、野生型と比較すると20%程度低い収量性を示したが、iaa9-3変異系統とは同程度の収量性を示した。収穫果実数は、Solyc03g007780由来プロモーターを用いた形質転換系統(4-17、4-23及び4-25系統)では野生型より多かった。Solyc02g067760由来のプロモーターを用いた形質転換系統(6-10及び6-18系統)の果実数は野生型と比較して少なかったが、iaa9-3変異系統よりも多かった。果実の大きさは、両形質転換系統とも小型化し、一方でiaa9-3変異体は果実が大型化した。
果実の発達への影響を調べるため、子房のサイズを経時的に測定した。図10に、開花日2日前(-2 DAA)、開花日1日前(-1 DAA)、開花日(0 DAA)、開花2日後(2 DAA)、開花4日後(4 DAA)、開花6日後(6 DAA)、及び開花12日後(12 DAA)の子房又は果実の写真を示す。図11は、各系統の子房(果実)の直径の経時的変化を示す。いずれの形質転換系統も子房(果実)のサイズの経時的増加を示したが、Solyc02g067760由来プロモーターを用いた形質転換系統は、Solyc03g007780由来プロモーターを用いた形質転換系統やiaa9-3変異系統と比較すると、初期段階の増加速度が遅かった。
収穫した果実について、品質評価を行うため、糖度、酸度、βカロテン含有量、及びリコペン含有量を測定し、比較を行った(表5)。糖度(ここでは、Total Soluble Solids; TSS))は、-80℃で凍結保存していた果実サンプルを乳鉢ですりつぶし、屈折糖度計(PAL-J、アタゴ)を用いて測定した。
酸度(滴定酸度; TA)は、DALAL (1965)の方法に従い測定した。具体的には、-80℃で凍結保存していた果実サンプルを乳鉢ですりつぶし、すりつぶしたサンプル1gを10mlの蒸留水に溶かし、pH8.1まで0.1N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定を行った。なお、標準液にはシュウ酸水溶液を用いた。
βカロテン及びリコペンは、Nagata & Yamashita (1992)の方法に従い測定した。具体的には、-80℃で凍結保存していた果実サンプルを乳鉢ですりつぶし、すりつぶしたサンプル300mgからアセトン-ヘキサン(4:6,v/v)抽出溶媒3mlを用いてβカロテン及びリコペンを抽出した。サンプルを静置後、上澄み1mlを分取し、分光光度計(Beckman Coulter DU 640 Spectrophotometer)を用いて663nm、645nm、505nm、453nmの4種類の波長で吸光度を測定した。それぞれの波長の測定値を、以下の式へ代入しβカロテン及びリコペン量を算出した。
βカロテン (mg/100ml) = 0.216A663 - 1.22A645 - 0.304A505 + 0.452A453
リコペン (mg/100ml) = -0.0458A663 + 0.204A645 + 0.372A505 - 0.0806A453
なおA663、A645、A505及びA453は、それぞれ波長663nm、645nm、505nm及び453nmでの吸光度を指す。
その結果、iaa9-3変異系統、及びいずれの形質転換系統も、野生型に比べて有意に高い糖度を示した。具体的には、野生型 < iaa9-3変異体 < Solyc03g007780由来プロモーター使用形質転換系統 < Solyc02g067760由来プロモーター使用形質転換系統、の順番で高い値となった。酸度についても同様の傾向が見られた。一方、βカロテン及びリコペン含有量については、野生型、形質転換系統、iaa9-3変異系統間で有意な差異は認められなかった。これらの結果から、形質転換系統果実では、糖度及び酸度とも上昇しており、食味が向上していると判断された。
以上の実施例より、Solyc03g007780及びSolyc02g067760由来プロモーターは、生殖器官、特に雌蕊(子房など)及びその近傍器官において組織及び時期特異的な遺伝子発現を誘導できること、さらに、このプロモーターを用いてIAA9遺伝子の発現を当該時期において生殖器官、特に雌蕊(子房など)及びその近傍器官特異的に抑制することにより、他の栄養器官の発達には影響の少ない状態で単為結果性を誘導できること、また糖度及び酸度の双方が野生型に比べて高い、高品質な単為結果果実を生産できることが示された。