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JP7019281B2 - トリアシルグリセロールの分析方法 - Google Patents
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Description

本開示は、トリアシルグリセロールの分析方法、特に、油脂のトリアシルグリセロール組成の分析方法に関する。
油脂の構成成分であるトリアシルグリセロールは、グリセロールと脂肪酸のトリエステルである。トリアシルグリセロールの組成は、油脂の物性や栄養に影響すると考えられる。したがって、油脂のトリアシルグリセロール組成を知ることは、油脂を含む食品の開発、製造、品質管理に役立つ。一般的にトリアシルグリセロールの組成分析には、ガスクロマトグラフィーあるいは液体クロマトグラフィーが用いられてきた。しかし、従来のガスクロマトグラフィーあるいは液体クロマトグラフィーの方法では、構成脂肪酸の総炭素数が同じでも互いに異なった脂肪酸で構成される複数のトリアシルグリセロールの分離が困難であった。
また、超臨界流体クロマトグラフィーは、超臨界流体が有する低粘度かつ高拡散性という特長により、分離(他の物質のピークと明確に分けられる)および検出(鋭いピークにより高い感度が得られる)の能力が、従来の高速液体クロマトグラフィーより良くなるとされている。例えば、特表平6-500783号公報には、超臨界流体クロマトグラフィーを用いたポリオールポリエステルの分析が開示される。
特表平6-500783号公報
しかし、超臨界流体クロマトグラフィーを適用しても、処理時間が短く、精度はよくなるものの、未だ、総炭素数が同じで互いに異なる構成脂肪酸を有する複数のトリアシルグリセロールを効果的には分離できなかった。
本開示は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、本開示の目的は、構成脂肪酸の総炭素数が同じでも異なった脂肪酸で構成される複数のトリアシルグリセロール組成物の分析方法を提供することである。また、本開示の目的は、油脂のトリアシルグリセロール組成の分析方法を提供することである。
本開示者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、脂肪酸残基の総数(総炭素数)が互いに同じである2つ以上の異なるトリアシルグリセロールを含む組成物の各トリアシルグリセロールを、ジアシルグリセロールと脂肪酸とに分解する第1段階の質量分析と、第1段階で得られた各ジアシルグリセロールを、脂肪酸に分解する第2段階の質量分析と、を組み合わせることにより、トリアシルグリセロールの組成分析が可能であることを見出した。すなわち、本開示は以下の態様であり得る。
[1]脂肪酸残基の総数(総炭素数)が互いに同じである2つ以上の異なるトリアシルグリセロールを含む組成物のトリアシルグリセロール組成を分析するための方法であって、
以下のステップ(a)および(b)を含む方法。
(a)質量分析により、各トリアシルグリセロールを、対応するジアシルグリセロールおよび脂肪酸のフラグメントに分解する。
(b)質量分析により、ステップ(a)で検出された各ジアシルグリセロールを、対応する脂肪酸のフラグメントに分解する。
[2]前記ステップ(a)および(b)により、ステップ(b)の各脂肪酸フラグメントが帰属するトリアシルグリセロールが決定され、前記脂肪酸残基の総数が互いに同じである2つ以上の異なるトリアシルグリセロールを含む組成物のトリアシルグリセロール組成が、各トリアシルグリセロールに属する脂肪酸フラグメントの検出強度に基づいて計算される、[1]の方法。
[3]脂肪酸残基の総数が互いに同じである2つ以上の異なるトリアシルグリセロールの組成物が、クロマトグラフィーにより、油脂を総炭素数に基づいて分離することによって得られる、[1]または[2]の方法。
[4]油脂のトリアシルグリセロール組成を分析するための方法であって、
[1]または[2]の方法が、クロマトグラフィーにより、油脂を総炭素数に基づいて分離することによって得られる2つ以上のピークのそれぞれに適用される、方法。
[5]前記油脂を構成する全ての脂肪酸の中で、炭素原子数が最も大きい脂肪酸と炭素原子数が最も小さい脂肪酸との鎖長差(炭素数の差)が6以上である。[3]または[4]の方法。
[6]前記油脂を構成する脂肪酸の全量に占める炭素原子数が14以下の脂肪酸の含有量が10質量%以上である、[3]または[4]の方法。
[7]前記油脂が、ラウリン系油脂、乳由来油脂、原料油脂としてラウリン系油脂および/または乳由来油脂を含む加工油脂(分別油脂、エステル交換油脂、水素添加油脂、それら加工の組合せ油脂)から選択される1つ以上の油脂を含む、[3]または[4]の方法。
本開示によると、構成脂肪酸の総炭素数は同じでも異なる脂肪酸から構成される複数のトリアシルグリセロール組成物の、構成脂肪酸の種類の違いによる組成分析方法を提供することができる。また、これを応用し、油脂を構成するトリアシルグリセロールを、構成脂肪酸の種類の違いにより、組成分析する方法を提供することができる。
TAG-CN36のマススペクトルチャートである。 TAG-CN36とマススペクトルにより生じるDGおよびFA前駆体イオンの関係を示す説明図である。 TAG-CN36とマススペクトルにより生じるDGおよびFA前駆体イオンの関係を示す説明図である。 TAG-CN36とマススペクトルにより生じるDGおよびFA前駆体イオンの関係を示す説明図である。 TAG-CN36とマススペクトルにより生じるDGおよびFA前駆体イオンの関係を示す説明図である。 ランダムエステル交換油脂のTAG組成計算手順の模式図である。 油脂のTAG組成分析方法の分析フローである。 GC-FIDによるランダムエステル交換パーム核油脂のクロマトチャートである。 GC-FIDと理論値とのマッチングの説明図である。 抽出イオンクロマトにおける各FA、DG前駆体イオンの対応m/z値を示す図表である。 質量分析により各TAG-CNピークから生じる各FA前駆体イオンのクロマトの重ね書き図である。 質量分析により各TAG-CNピークから生じる各DG前駆体イオンのクロマトの重ね書き図である。
以下、本開示について詳細に説明する。
「トリアシルグリセロール(TAG)」は、グリセロールと脂肪酸のトリエステルである。脂肪酸は、炭素数4~24の直鎖あるいは分岐の脂肪酸であってもよい。また、飽和脂肪酸あるいは不飽和脂肪酸のどちらでもよい。好ましくは、炭素数6~22の直鎖飽和脂肪酸および/または直鎖不飽和脂肪酸である。これらの脂肪酸としては、例えば、酪酸(FA4)、カプロン酸(FA6)、カプリル酸(FA8)、カプリン酸(FA10)、ラウリン酸(FA12)、ミリスチン酸(FA14)、パルミチン酸(FA16)、ステアリン酸(FA18)、アラキン酸(FA20)、ベヘン酸(FA22)、パルミトレイン酸(FA16:1)、オレイン酸(FA18:1)、リノール酸(FA18:2)、リノレン酸(FA18:3)、エルカ酸(FA22:1)、アラキドン酸(FA20:4)、EPA(FA20:5)、DHA(FA22:6)、などが挙げられる。
本開示は、脂肪酸残基の総数(総炭素数)が互いに同じである2つ以上の異なるトリアシルグリセロールを含む組成物のトリアシルグリセロール組成(構成比率)を分析する方法である。脂肪酸残基の総数(総炭素数)が互いに同じである2つ以上の異なるトリアシルグリセロールについて、構成脂肪酸の総炭素数が36であるトリアシルグリセロールを例にとる(以後、トリアシルグリセロールを、構成脂肪酸の総炭素数により、TAG-CN36(総炭素数36のTAG)のように表すことがある)。例えば、TAG12/12/12、TAG10/12/14、TAG10/10/16、TAG8/14/14、TAG8/12/16、TAG8/10/18、TAG6/14/16、TAG6/12/18、TAG8/10/18:1、TAG6/12/18:1、TAG8/10/18:2、TAG6/12/18:2、などの組合せであるトリアシルグリセロールが、脂肪酸残基の総数が互いに36で同じであり、かつ、異なる構成脂肪酸を有する、トリアシルグリセロール(TAG-CN36)に該当する。ここで、例えば、TAG10/12/14は、構成脂肪酸が、カプリン酸(FA10)、ラウリン酸(FA12)およびミリスチン酸(FA14)であるトリアシルグリセロールを表し、カプリン酸、ラウリン酸およびミリスチン酸の、グリセロール骨格上での結合位置は区別されない。すなわち、本開示の方法によれば、同じ構成脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの位置異性体・光学異性体までは区別されない。なお、TAG10/12/14は10/12/14と表すことがある。
本開示の方法によれば、脂肪酸残基の総数(総炭素数)が互いに同じである2つ以上の異なるトリアシルグリセロールを含む組成物は、質量分析により、各トリアシルグリセロールを、対応するジアシルグリセロール(DG)および脂肪酸(FA)のフラグメント(断片、前駆体イオン)に分解する(ステップ(a))。質量分析の原理により、分解されたジアシルグリセロールと脂肪酸の、イオンの相対質量(m)をイオンの電荷数(z)で割って得られるm/z値は分子量の小さい順であり、相対強度(ピーク面積)は分子数×分子量の大きさに比例する。例えば、カプリン酸(FA10)、ラウリン酸(FA12)、ミリスチン酸(FA14)であれば、m/z値は、FA10(155)<FA12(183)<FA14(211)、の順となり、測定条件により固有の値(()内の値)を示すので、脂肪酸の同定が可能である。また、同様に、例えば、FA10+12、FA12+12、FA10+14、FA12+14、のジアシルグリセロールであれば、m/z値は、FA10+12(411)<FA12+12=FA10+14(439)<FA12+14(467)、の順となり、測定条件により固有の値(()内の値)を示すので、ジアシルグリセロールの同定が可能である。ここで、例えば、FA10+14は、構成脂肪酸が、カプリン酸(FA10)とミリスチン酸(FA14)であるジアシルグリセロールを表し、カプリン酸とミリスチン酸の、グリセロール骨格上の結合位置は区別されない。また、以後、ジアシルグリセロール(DG)を、構成脂肪酸の総炭素数により、DG24(総炭素数24のDG)のように表すことがある。例えば、FA10+FA14は、DG24に含まれる。
本開示の方法によれば、例えば、脂肪酸残基の総数(総炭素数)が互いに同じである2つ以上の異なるトリアシルグリセロールを含む組成物が、TAG12/12/12とTAG10/12/14の混合物(TAG-CN36の1例、TAG-CN36-1とする)である場合、ステップ(a)で、TAG12/12/12は、質量分析により、FA12+12とFA12に分解、イオン化されて検出される。また、TAG10/12/14は、質量分析により、FA10+12とFA14、FA10+14とFA12、FA12+14とFA10、の何れかのパターンに分解、イオン化されて検出される。すなわち、ジアシルグリセロールとして、FA10+12(411)、FA12+12=FA10+14(439)、FA12+14(467)の、3つのm/z値(()内の値)にピークが検出され、脂肪酸としてFA10(155)、FA12(183)、FA14(211)の、3つのm/z値(()内の値)にピークが検出される(図1参照)。ここで、m/z値439のピークには、FA12+12とFA10+14の構成脂肪酸が異なる2種類のジアシルグリセロールが含まれる(図2参照)。
次に、ステップ(b)において、ステップ(a)で検出された各ジアシルグリセロール(FA10+12(411)、FA12+12=FA10+14(439)、FA12+14(467))が、2段目の質量分析により、FAに分解、イオン化されて検出される。TAG12/12/12由来のDGはFA12+12(439)のみであり、m/z値439に含まれるFA12+12は、FA12(183)に分解、イオン化されて検出される。一方で、m/z値439に含まれるFA10+14は、FA10(155)とFA14(211)に分解、イオン化されて検出されるので、m/z値439のDGが分解イオン化されて検出されるFA12(183)のピーク強度(面積)のみが、TAG-CN36-1に占めるTAG12/12/12含有量の強度を表す。また、TAG10/12/14に由来する、FA10+12(411)、FA10+14(439)およびFA12+14(467)については、FA10+12(411)はFA10(155)とFA12(183)に分解、FA10+14(439)はFA10(155)とFA14(211)に分解、FA12+14(467)はFA12(183)とFA14(211)に分解、イオン化されて検出される。したがって、m/z値411のDGが分解イオン化されて検出されるm/z値155と183のピーク強度、m/z値439のDGが分解イオン化されて検出されるm/z値155と211のピーク強度、m/z値467のDGが分解イオン化されて検出されるm/z値183と211のピーク強度を合算した値が、TAG-CN36-1に占めるTAG10/12/14含有量の強度を表す。そして、TAG12/12/12とTAG10/12/14のそれぞれに由来するFAフラグメントのピーク強度合計の比から、TAG-CN36-1にしめる、TAG12/12/12とTAG10/12/14の含有量が算出できる(図2~5参照)。本開示の方法には、上記ステップ(a)とステップ(b)を連続して処理できるトリプル四重極質量分析計が適している。
本開示の方法によれば、上記の様に、構成脂肪酸の総炭素数が同じトリアシルグリセロールの組成物(例えば、TAG-CN36組成物)においては、構成脂肪酸の平均分子量(≒質量)は等しいので(例えば、TAG-CN36組成物に含まれるTAGであれば構成脂肪酸の平均分子量はFA12の分子量に等しい)、構成脂肪酸の総炭素数が同じトリアシルグリセロールは、質量分析により分解されて、確率的に平均分子量が等しいジアシルグリセロールを生成すると仮定できる。この仮定に基づくと、1種類のトリアシルグリセロール(例えば、FA10-12-14)から、2段階の質量分析を経て同定される当該トリアシルグリセロール由来のFAピーク強度の合算値(例えば、m/z値411のDGが分解イオン化されて検出されるm/z値155と183のピーク強度、m/z値439のDGが分解イオン化されて検出されるm/z値155と211のピーク強度、m/z値467のDGが分解イオン化されて検出されるm/z値183と211のピーク強度を合算した値)が、当該トリアシルグリセロールの、当該TAG-CN36組成物に占める含有量の強度を表すといえる。このように本開示の方法は、質量分析の原理に基づいた仮定を前提としている。本開示の方法は、質量分析での定量に必要とされる標準物質が不要であるため、TAG組成解析が非常に簡易に行える。以下に本開示の一態様である油脂のTAG組成分析について述べるが、一連の分析および解析が2時間程度でできる。
本開示の一態様によれば、本開示の方法の信頼性は、TAG組成が脂肪酸組成から計算により特定できる構成脂肪酸がランダム分布したトリアシルグリセロール組成物または油脂のTAG組成を基準として、本開示の方法により得られるTAG組成の、基準値からの解離の程度により検証できる。構成脂肪酸がランダム分布したトリアシルグリセロール組成物または油脂のTAG組成の計算方法は、公知であり、例えば、R.J.VANDER WALの総説(Journal of American Oil Chemists’ Society 40, 242-247 (1963))などを参照できる。また、その計算手順を図6に示した。
本開示の一態様によれば、上記方法を、油脂をクロマトグラフィーによりアシルグリセロールの構成脂肪酸の総炭素数に基づいて分離したトリアシルグリセロールのピーク(トリアシルグリセロール組成物)の、トリアシルグリセロール組成の分析に適用できる。また、本開示の一態様によれば、上記方法を、油脂を構成脂肪酸の総炭素数に基づいて分離した2以上のピークに適用できる。また、上記方法をTAG組成が不明である全てのピークに適用することにより、油脂のトリアシルグリセロール組成が分析できる。すなわち、本開示の一態様によれば、油脂のトリアシルグリセロール組成の分析方法が提供される。油脂は、アシルグリセロールを主成分(例えば、トリアシルグリセロール含有量が70質量%以上)とすれば特に限定されない。天然油脂、合成油脂の何れでもよく、植物性油脂、動物性油脂、微生物由来油脂の何れでもよい。
本開示の一態様によれば、油脂をアシルグリセロールの構成脂肪酸の総炭素数に基づいて分離する方法は、構成脂肪酸の総炭素数別にトリアシルグリセロールが分離され、分離されたピーク相当物に質量分析が適用できる限り、いずれの分離方法であってもよい。しかし、分離方法は、好ましくはガスクロマトグラフィーまたは液体クロマトグラフィーであり、より好ましくはガスクロマトグラフィーである。
本開示の一態様によれば、まず検出器としてFIDを備えるガスクロマトグラフィー(GC-FID)により、油脂を構成脂肪酸の総炭素数が同じ各トリアシルグリセロール組成物(各ピーク)に分離し、各ピーク強度の全体に対する割合を求める。検出器がFIDであるガスクロマトグラフィーは、トリアシルグリセロールの種類による感度の差がほとんどないので、ピーク強度(ピーク面積)が、油脂に占める特定の総炭素数を有するトリアシルグリセロール組成物の含有量に比例する。また、極性が付与された分離相(カラム)を用いることにより、構成脂肪酸の総炭素数が同じトリアシルグリセロール組成物をさらに複数のピークに分離できる。近年では、当該構成脂肪酸の総炭素数が同じトリアシルグリセロール組成物がさらに分離されたピークについて、それに属するトリアシルグリセロールの種類が特定されつつある。基本的には、構成脂肪酸の総炭素数が同じトリアシルグリセロールであれば、構成脂肪酸の鎖長の差が大きいほど、および、構成脂肪酸に含まれる二重結合の数が増えるほど、該当するトリアシルグリセロールの保持時間(リテンションタイム)は、長くなる。それらの情報を活用すれば、本開示の方法の適用による1つのピークに含まれるTAG組成の解析がより容易になる。
並行して、ガスクロマトグラフィーにより分離した構成脂肪酸の総炭素数が同じトリアシルグリセロール組成物からなる各ピークについて、ステップ(a)およびステップ(b)を含む上記方法を適用する。すなわち、ガスクロマトグラフィー(GC)→質量分析(MS)→質量分析(MS)の一連のフロー(GC-MSMS)を適用することにより各ピークに含まれるTAGの組成比を解析する。つまり、本開示のTAG組成分析方法は、油脂をGC-FIDにより分離した構成脂肪酸の総炭素数が同じトリアシルグリセロール組成物からなる各ピーク面積の油脂全体(の面積)に対する割合(質量%)に、GC-MSMSにより得られる各ピークに含まれるTAGの組成比を適用することにより、油脂全体のTAG組成を得る方法である(図7参照)。上記GC-MSMSの一連フローには、ガスクロマトグラフィーと連結したトリプル四重極質量分析計を適用できる。そのような分析装置としては、例えば、島津製作所製のGCMS-TQ8050NXが挙げられる。
本開示の一態様によれば、上記油脂のTAG組成分析は、油脂を構成する脂肪酸の鎖長差(炭素数の差)が大きい場合に、従来方法に比べて大変簡易的に分析できる。すなわち、上記油脂のTAG組成分析は、油脂を構成する脂肪酸における、炭素原子数が最も大きい脂肪酸と炭素原子数が最も小さい脂肪酸との鎖長差(炭素数の差)が、好ましくは6以上、より好ましくは8~14、さらに好ましくは10~12である油脂の分析に、好適に適用できる。
本開示の一態様によれば、上記油脂のTAG組成分析は、油脂を構成する脂肪酸の全量に占める炭素原子数が14以下の脂肪酸の含有量が、このましくは10質量%以上、より好ましくは10~95質量%、さらに好ましくは20~90質量%、ことさらに好ましくは30~85質量%である場合に、従来方法に比べて大変簡易的に分析できる。
本開示の一態様によれば、上記油脂のTAG組成分析は、油脂が、ラウリン系油脂、乳由来油脂、原料油脂としてラウリン系油脂および/または乳由来油脂を含む加工油脂(分別油脂、エステル交換油脂、水素添加油脂、それら加工の組合せ油脂)から選択される1つ以上の油脂を含む場合に、従来方法に比べて大変簡易的に分析できる。ここで、ラウリン系油脂は、構成脂肪酸の全量に占めるラウリン酸の含有量が30質量%以上の油脂である。また、乳由来油脂は、乳(人乳、牛乳、ヤギ乳、馬乳など)から得られる油脂である。ラウリン系油脂としては、ヤシ油、パーム核油、ババス油などが挙げられる。
本開示の一態様によれば、上記油脂のTAG組成分析は、油脂の品質管理に適用できる。例えば、エステル交換油脂や分別油脂の製造工程管理、出荷基準管理などに適用できる。また、本開示の一態様によれば、上記油脂のTAG組成分析は、母乳代替油脂、乳脂代替油脂、ラウリン系チョコレート油脂(CBS)などの開発のTAG組成の設計に活用できる。また、本開示の一態様によれば、上記油脂のTAG組成分析は、油脂物性(固体脂含有量、粘度、乳化安定性など)の解析に活用できる。また、本開示の一態様によれば、上記油脂のTAG組成分析は、中鎖脂肪酸トリグリセリド、乳脂肪などの栄養学的特性の解析に適用できる。
以下、実施例により本開示を更に詳細に説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。
<標準サンプルの作成>
ランダムエステル交換パーム核油(PKO-CIE)を標準サンプルとして準備した。すなわち、RBDパーム核油(マレーシア、Intercontinental Specialty fats社製)を、常法にしたがって、ナトリウムメチラートを触媒としてランダムエステル交換した。
次にランダムエステル交換パーム核油の脂肪酸組成(質量%ベース)を、AOCS Ce 1h-05にしたがって分析した。得られた脂肪酸組成(質量%ベース)を、脂肪酸の炭素数または分子量に基づいてモル%ベースの脂肪酸組成に換算した。得られた脂肪酸組成(モル%ベース)に基づいて、パーム核油の構成脂肪酸がグリセロール骨格上にランダムに再配置した場合のトリアシルグリセロール組成を計算した。例えば、脂肪酸A(aモル%)、B(bモル%)、C(cモル%)からなり、A、B、Cのグリセロール骨格上の位置は問わないトリアシルグリセロールABC(TGABC)は、ABC、ACB、BAC、BCA、CAB、CBAが存在し、ランダムエステル交換により、確率的にa×b×c/10000×6(モル%)生成すると計算できる。9種類の構成脂肪酸(カプロン酸(FA6)、カプリル酸(FA8)、カプリン酸(FA10)、ラウリン酸(FA12)、ミリスチン酸(FA14)、パルミチン酸(FA16)、ステアリン酸(FA18)、オレイン酸(FA18:1)、リノール酸(FA18:2))を有するパーム核油の場合、ランダムエステル交換後のトリアシルグリセロールの種類は、構成脂肪酸のグリセロール骨格上の結合位置による異性体は区別しないとすると、×2+=165となり、それぞれのトリアシルグリセロールの含有量(モル%)が計算できる。そして、計算により得られたモル%ベースのTAG組成を、各TAGの分子量に基づいて質量ベースに換算することにより、ランダムエステル交換パーム核油のTAG組成(質量%ベース)が得られる。これを、TAG組成解析の標準サンプルとした。計算により得られた標準サンプルのTG組成を表1に示した。なお、表1中、RPKO_CIEはランダムエステル交換パーム核油、CNはトリアシルグリセロールの構成脂肪酸の総炭素数、TAGはトリアシルグリセロール、FA1~FA3は、トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸(ただし、グリセロール骨格の結合位置は区別されない)、Simulationは上記計算により得られた各トリアシルグリセロールの含有量、を表す。











































Figure 0007019281000001















<標準サンプルのガスクロマトグラフィー分析>
上記で作成したPKO-CIEを、FID(水素炎イオン化検出器)を備えたガスクロマトグラフィー(GC-FID)で、強極性カラムを用いて、構成脂肪酸の総炭素数に基づく組成分析を行った。分析条件は以下のとおりである(分析条件は機器の特性に応じて適宜微調整してもよい)。

カラム:Rtx(R)-65TG(ジーエルサイエンス株式会社製) 長さ15m、内径0.25mm、膜厚0.1μm
GC条件:注入側 スプリット仕様、温度365℃ FID検出器側 温度365℃
キャリアガス ヘリウム(流量 1ml/分)
昇温条件 230℃(3分間保持) → 3℃/分 → 365℃(4分間保持)

上記ガスクロマトグラフィーで得られたチャートを図8に示した。GCチャートに示されるように、RPKO-CIEは、構成脂肪酸の総炭素数によりトリアシルグリセロールが分離されるとともに、構成脂肪酸の総炭素数が同じトリアシルグリセロールにおいても、トリアシルグリセロールが有する僅かな極性の差によって、複数のピーク(TAG組成物)に分離される。構成脂肪酸の総炭素数が同じトリアシルグリセロールにおける分離の傾向は確認されており、先に構成脂肪酸が飽和脂肪酸のみからなるTAGが溶出され、構成脂肪酸が飽和脂肪酸のみからなるTAGの中では、鎖長差が小さいほど早く溶出される。次に、構成脂肪酸に二重結合を有するTAGが溶出され、構成脂肪酸に含まれる二重結合の数が増えるほど、該当TAGの溶出は遅く(保持時間が長く)なる。GCチャートの各ピークには、従来の知見に基づいてピークに含まれる主なTAGの種類を記入している。しかし、複数のTAGが含まれるピーク(TAG組成物)において、それぞれのTAGの含有割合は、GC分析からは不明である。以後は説明のため、構成脂肪酸の総炭素数が36である複数のピーク(ピーク群)を取り上げる。図9は、図8のGC-FIDチャートから、構成脂肪酸の総炭素数が36であるピーク群を抜き出して拡大した図である。構成脂肪酸の総炭素数が36であるTAGは、5つのピークに分離され、従来知見および上記理論計算値より、例えば、最初に溶出するピーク1には、TAG12/12/12とTAG10/12/14の2種類のTAGが含まれると想定されるが、各TAGの含有割合(ピーク面積に占める割合)はGCチャートからは不明である。図9中の表には、参考のため、計算により求められたRPKO-CIE(TAG全量)に占める各TAGの含有量を記入している。
<質量分析による、各ピーク(TAG組成物)のTAG組成分析>
(各ピーク(TAG組成物)から得られるフラグメント(断片、前駆体イオン)の特定)
上記GC-FID分析で得られる各ピーク(構成脂肪酸の総炭素数が同じTAG組成物)相当画分を、GC-MSMS分析に供するにあたり、前もって飛行時間型質量分析(GC-TOFMS)により、TAGから得られるフラグメント(前駆体イオン)の特定を行った。図10は、質量分析によりTAGから生成する前駆体イオンの、各FA、各DGに相当するm/z値(イオンの相対質量(m)をイオンの電荷数(z)で割って得られる値)である。
次に、各ピーク(構成脂肪酸の総炭素数が同じTAG組成物)から生成する前駆体イオンの特定を行う。図11は、各ピークから検出される、構成脂肪酸のフラグメント(前駆体イオン)を示す。例えば、構成脂肪酸の総炭素数が36であるピーク(TAG-CN36組成物)からは、脂肪酸フラグメントとして、FA8、FA10、FA12、FA14、FA16が検出され、僅かにFA6、FA18、FA18:1が検出される。すなわち、TAG-CN36組成物は、FA6、FA8、FA10、FA12、FA14、FA16、FA18、FA18:1を構成脂肪酸とすることが分かる。そして、図12は、各ピーク(構成脂肪酸の総炭素数が同じTAG組成物)から生成される、ジアシルグリセロールのフラグメント(前駆体イオン)を示す。例えば、構成脂肪酸の総炭素数が36であるピーク(TAG-CN36組成物)からは、DG断片として、DG18、DG20、DG22、DG24が検出され、僅かにDG26、DG28が検出される。すなわち、TAG-CN36組成物を構成するTAGは、DG18、DG20、DG22、DG24、DG26、DG28に、さらに脂肪酸(FA6、FA8、FA10、FA12、FA14、FA16、FA18、FA18:1の何れか)が1つ結合した構造であることが分かる。なお、GC-TOFMSによる、各FA、各DGフラグメントに相当するm/z値の特定(確認)、および、各ピーク(構成脂肪酸の総炭素数が同じTAG組成物)から生成するDG、FAフラグメントの特定は、任意の工程であり、すでに特定されている場合は、省略できる。
質量分析に供する前に、GCカラムで油脂を構成脂肪酸の総炭素数が同じ各TAG組成物(各ピーク)に分離する必要がある。そのために、以下の条件を採用した(分析条件は機器の特性に応じて適宜微調整してもよい)。しかし、上記GC-FIDと各ピークの溶出パターンが変わることはない。

カラム:Rtx(R)-65TG(ジーエルサイエンス株式会社製) 長さ15m、内径0.25mm、膜厚0.1μm
GC条件:注入側 スプリット仕様、温度370℃
キャリアガス ヘリウム(流量 2.4ml/分)
昇温条件 150℃(1分間保持) → 5℃/分 → 350℃(20分間保持)

そして、質量分析(MS分析)装置の条件は以下に設定した。
インターフェース温度: 350℃
イオン源:
- 温度: 330℃
- 電子エネルギー: 70 eV
- 衝突エネルギー(MRMモード): 10 eV
(GC-MSMSによるTAG組成物(各ピーク)の詳細解析)
次にGC-MSMSにより、GCカラムにより分離される各ピークから得られるトリプル四重極質量分析計のマススペクトルを解析した。ここでは、GCカラムにより分離された、構成脂肪酸の総炭素数が36であるトリアシルグリセロール(TAG-CN36組成物)の5つのピーク群の最初に溶出するピーク(TAG-CN36_1st)を例にとる。TAG-CN36_1stには、TAG12/12/12とTAG10/12/14の2種類のトリアシルグリセロール(ただし、位置異性体および光学異性体は区別されない)が含まれることが従来知見によりすでに特定されている。しかし、その含有量比は不明である。そして、TAG-CN36_1stに含まれるTAG12/12/12とTAG10/12/14の割合を、トリプル四重極質量分析計を用いた2段階の質量分析(本開示のステップ(a)とステップ(b))によって得られるマススペクトルから解析する手法は、すでに上記の0013~0016段落でTAG-CN36-1について詳述したとおりである。
解析の結果、本開示のGC-MSMS分析から得られたTAG12/12/12とTAG10/12/14の組成比(質量比)は、TAG12/12/12:TAG10/12/14=85.2:14.8であり、上記0027段落で脂肪酸組成より計算した標準サンプルのTAG12/12/12とTAG10/12/14の組成比(質量比)が、TAG12/12/12:TAG10/12/14=87.9:12.1であることから、実用上使用可能な精度であると言える。また、GC-FIDにより得られているTAG-CN36_1stの含有量(ピーク全体の面積に対するTAG-CN36_1stの面積含有率)13.65質量%にTAG12/12/12とTAG10/12/14の組成比(質量比)85.2:14.8を適用することにより、油脂に占める、TAG12/12/12の含有量11.6質量%とTAG10/12/14の含有量2.0質量%が得られる。
表2に、GCカラムにより分離される全てのピークに対して2段階の質量分析により得られたマススペクトルを解析した結果を示した。なお、表2中、RPKO_CIEはランダムエステル交換パーム核油、CNはトリアシルグリセロールの構成脂肪酸の総炭素数、TAGはトリアシルグリセロール、FA1~FA3は、トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸(ただし、グリセロール骨格の結合位置は区別されない)、Analysisは本開示のGC-FID分析とGC-MSMS分析の掛け合わせにより得られた各トリアシルグリセロールの含有量、を表す。標準計算値である表1の結果と比較しても、ほぼ同様の結果が得られている。















































Figure 0007019281000002















上記と同様にして得られた、パーム核油(炭素原子数が最も大きい構成脂肪酸と炭素原子数が最も小さい構成脂肪酸との鎖長差は12(=18-6)、炭素数14以下の構成脂肪酸の含有量70.6質量%)およびヤシ油(炭素原子数が最も大きい構成脂肪酸と炭素原子数が最も小さい構成脂肪酸との鎖長差は12(=18-6))、炭素数14以下の構成脂肪酸の含有量83.7質量%)の分析結果を、表3、4に示す。ただし、表3中、RPKOはパーム核油、CNはトリアシルグリセロールの構成脂肪酸の総炭素数、TAGはトリアシルグリセロール、FA1~FA3は、トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸(ただし、グリセロール骨格の結合位置は区別されない)、Analysisは本開示のGC-FID分析とGC-MSMS分析の掛け合わせにより得られた各トリアシルグリセロールの含有量、を表し、また、表4中、CNOはヤシ油、CNはトリアシルグリセロールの構成脂肪酸の総炭素数、TAGはトリアシルグリセロール、FA1~FA3は、トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸(ただし、グリセロール骨格の結合位置は区別されない)、Analysisは本開示のGC-FID分析とGC-MSMS分析の掛け合わせにより得られた各トリアシルグリセロールの含有量、を表す。



































Figure 0007019281000003















Figure 0007019281000004

Claims (7)

  1. 脂肪酸残基の総数(総炭素数)が互いに同じである2つ以上の異なるトリアシルグリセロールを含む組成物のトリアシルグリセロール組成を分析するための方法であって、
    以下のステップ(a)および(b)を含む方法。
    (a)質量分析により、各トリアシルグリセロールを、対応するジアシルグリセロールおよび脂肪酸のフラグメントに分解する。
    (b)質量分析により、ステップ(a)で検出された各ジアシルグリセロールを、対応する脂肪酸のフラグメントに分解する。
  2. 前記ステップ(a)および(b)により、ステップ(b)の各脂肪酸フラグメントが帰属するトリアシルグリセロールが決定され、前記脂肪酸残基の総数が互いに同じである2つ以上の異なるトリアシルグリセロールを含む組成物のトリアシルグリセロール組成が、各トリアシルグリセロールに属する脂肪酸フラグメントの検出強度に基づいて計算される、請求項1に記載の方法。
  3. 脂肪酸残基の総数が互いに同じである2つ以上の異なるトリアシルグリセロールの組成物が、クロマトグラフィーにより、油脂を総炭素数に基づいて分離することによって得られる、請求項1または2に記載の方法。
  4. 油脂のトリアシルグリセロール組成を分析するための方法であって
    クロマトグラフィーにより、油脂を総炭素数に基づいて分離することによって得られる2つ以上の、脂肪酸残基の総数(総炭素数)が互いに同じである2つ以上の異なるトリアシルグリセロールを含むピークのそれぞれに対して、以下のステップ(a)、(b)、(c)を適用する、方法。
    (a)質量分析により、ピークに含まれる各トリアシルグリセロールを、対応するジアシルグリセロールおよび脂肪酸のフラグメントに分解する。
    (b)質量分析により、ステップ(a)で検出された各ジアシルグリセロールを、対応する脂肪酸のフラグメントに分解する。
    (c)前記ステップ(a)および(b)により、ステップ(b)の各脂肪酸フラグメントが帰属するトリアシルグリセロールを決定し、前記脂肪酸残基の総数が互いに同じである2つ以上の異なるトリアシルグリセロールを含むピークのトリアシルグリセロール組成を、各トリアシルグリセロールに属する脂肪酸フラグメントの検出強度に基づいて計算する。
  5. 前記油脂を構成する全ての脂肪酸の中で、炭素原子数が最も大きい脂肪酸と炭素原子数が最も小さい脂肪酸との鎖長差(炭素数の差)が6以上である請求項に記載の方法。
  6. 前記油脂を構成する脂肪酸の全量に占める炭素原子数が14以下の脂肪酸の含有量が10質量%以上である、請求項に記載の方法。
  7. 前記油脂が、ラウリン系油脂、乳由来油脂、原料油脂としてラウリン系油脂および/または乳由来油脂を含む加工油脂(分別油脂、エステル交換油脂、水素添加油脂、それら加工の組合せ油脂)から選択される1つ以上の油脂を含む、請求項に記載の方法。
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