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JP7044320B2 - 疾患特異的な組織因子経路インヒビター2の糖鎖構造の利用 - Google Patents
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JP7044320B2 - 疾患特異的な組織因子経路インヒビター2の糖鎖構造の利用 - Google Patents

疾患特異的な組織因子経路インヒビター2の糖鎖構造の利用 Download PDF

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Description

本発明は、疾患特異的な組織因子経路インヒビター2の糖鎖構造の利用に関し、より詳細には、明細胞癌特異的な糖鎖構造を有する組織因子経路インヒビター2(Tissue Factor Pathway Inhibitor 2、TFPI2)を診断マーカーおよび創薬ターゲットとして使用する技術に関する。
卵巣癌には様々な組織型が存在し、その中でも、明細胞癌は、他の組織型と比べて抗癌剤が効きにくく予後不良例が多い。日本における明細胞癌の発生頻度は欧米に比べて高く(欧米:5%、日本:25%)、本邦では明細胞癌の早期診断法や治療法の改善が求められている。
現行の卵巣癌マーカーCA125は、卵巣癌全般の検出には優れるものの、(1)組織型を鑑別できない、(2) 明細胞癌の陽性率が低い、(3)良性の子宮内膜症でも高値となる、といった問題がある。特に、明細胞癌は子宮内膜症を母地として発生する例が多いことから、この2つの疾患を識別することは臨床的に重要である。しかし、これらを鑑別できるマーカーは存在せず、誤診による対応の遅れや擬陽性判定による患者への負担が、臨床現場では問題となっている。
本発明者らは、これまでに胎盤特異的セリンプロテアーゼインヒビターであるTFPI2が明細胞癌特異的に発現上昇することを見出し、血清診断マーカーとしての臨床的有用性を評価することで、複数の特許出願を行ってきた(特許文献1及び2)。
TFPI2は2カ所のN-型糖鎖結合サイトを有しているが、結合糖鎖の構造についての報告はなく、胎盤由来のTFPI2と明細胞癌由来TFPI2の糖鎖構造が同じなのかどうかについては当然に不明であった。
特許第5224309号 特開2013-061321
胎盤タンパク質(placental protein)5としても知られるTFPI2は、妊婦血中においても増加することから、TFPI2測定系は妊婦における卵巣癌の組織型の鑑別には使用できないという問題があった。よって、本発明は、胎盤型TFPI2と区別して、明細胞癌型TFPI2を検出できる方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、胎盤絨毛栄養膜細胞由来のTFPI2(胎盤型TFPI2)と卵巣明細胞癌細胞株由来のTFPI2(明細胞癌型TFPI2)を各細胞培養上清から免疫沈降法により精製し、トリプシン消化後、質量分析装置に供した。TFPI2が持つ2カ所のN型糖鎖結合部位(Asn116およびAsn170)に対応する糖ペプチドイオンの精密質量と質量間隔、プロダクトイオンスペクトルより糖鎖構造を解析した。その結果、胎盤型TFPI2は、LacNAc(ガラクトース-N-アセチルグルコサミン、Galβ1-4GlcNAc)を骨格に持つバイアンテナ型、あるいはトリアンテナ型の複合型糖鎖を有するが、明細胞癌型TFPI2は、LacdiNAc構造(N-アセチルガラクトサミン-N-アセチルグルコサミン、GalNAcβ1-4GlcNAc)を有するバイアンテナ型糖鎖が主要な結合糖鎖であり、胎盤型と明細胞癌型とでは異なる糖鎖を有することがわかった。
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)明細胞癌を評価及び/又は鑑別するために、生体試料におけるLacdiNAc(N-アセチルガラクトサミン-N-アセチルグルコサミン)を有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を測定する方法。
(2)生体試料が、被験者から得た細胞、組織又は体液である(1)記載の方法。
(3)体液が血液、腹腔液又は腹腔洗浄液である(2)記載の方法。
(4)血液が、全血、血清、血漿又は血漿交換外液である(3)記載の方法。
(5)生体試料における、LacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の存在が確認された場合には、明細胞癌に罹患している、あるいは癌の組織型が明細胞癌であると評価する(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)LacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の存在を質量分析法により確認する(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)組織因子経路インヒビター2又はそのペプチド断片をMS/MS測定する際に観測される糖ペプチドイオンの中に、366.14Daに加えて、407.17Da、553.22 Da および/または698.27 Daのシグナルが含まれていれば、明細胞癌に罹患している、あるいは癌の組織型が明細胞癌であると評価する(6)記載の方法。
(8)明細胞癌の治療効果又は再発の判定検査のために、生体試料におけるLacdiNAc(N-アセチルガラクトサミン-N-アセチルグルコサミン)を有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を測定する方法。
(9)明細胞癌の治療及び/又は予防に効果のある物質を同定する方法であって、以下の工程:
(a)被験物質を明細胞癌細胞に接触させる工程、
(b)工程(a)で被験物質に接触させた明細胞癌細胞を所定時間培養する工程、
(c)工程(b)で培養したv細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を測定する工程、及び
(d)工程(c)で測定した明細胞癌細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を被験物質に接触させなかった対照細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現と比較することにより、明細胞癌細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現に対する被験物質の効果を評価する工程
を含む前記方法。
(10)さらに、明細胞癌細胞増殖に対する被験物質の効果を調べる工程を含む(9)記載の方法。
(11)明細胞癌の抗癌剤耐性を低下させる物質を同定する方法であって、以下の工程:
(a)被験物質を明細胞癌細胞に接触させる工程、
(b)工程(a)で被験物質に接触させた明細胞癌細胞を所定時間培養する工程、
(c) 工程(b)で培養した明細胞癌細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を測定する工程、及び
(d)工程(c)で測定した明細胞癌細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を被験物質に接触させなかった対照細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現と比較することにより、明細胞癌細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現に対する被験物質の効果を評価する工程
を含む前記方法。
(12)さらに、明細胞癌細胞の抗癌剤耐性に対する被験物質の効果を調べる工程を含む(11)記載の方法。
TFPI2の糖鎖構造を調べることで、胎盤型TFPI2と明細胞癌型TFPI2を区別することができ、明細胞癌型であるLacdiNAc-TFPI2を測定することにより、妊婦の明細胞癌診断が可能になる。
胎盤型TFPI2と明細胞癌型TFPI2の糖鎖構造。 各細胞から検出されるTFPI2糖鎖修飾体。(A)ヘパリン処理により遊離したTFPI2を免疫沈降後、ウエスタンブロットにより検出した。(B)各バンドの糖鎖修飾状態の違い。各バンドをゲル抽出し、トリプシン消化後、質量分析装置にて明らかになった糖鎖修飾の有無を菱形のシンボルで示した。(C)各種バンドにおける未修飾ペプチドおよび糖ペプチドの検出結果。 TFPI2糖ペプチドの代表的なプロダクトイオンスペクトル。HVT (A), OVISE (B), OVMANA (C) 由来のTFPI2αバンドから検出されたKD3-pepの糖鎖修飾体のプロダクトイオンスペクトルの代表例を示す。KD3-pep+GlcNAcイオン、および糖鎖診断イオンからKD3-pep糖ペプチドであることを確認し、さらにプレカーサーイオンの質量、および特徴的なフラグメントイオンの検出状況から、図示した構造に帰属した。 各細胞から検出されたKD3-pep糖鎖修飾類縁体のMSスペクトル比較。各細胞のTFPI2αバンドの測定結果に対して、m/z 1040-m/z 1240の範囲でMSクロマトグラムを抽出した。「C」は卵巣明細胞癌由来細胞株、「P」はHVT細胞で特徴的なシグナルを示す。 HVTおよび卵巣明細胞癌細胞株から検出される糖鎖構造の分類。m/z 407.17等の情報から、[1]Hex5 HexNAc4を有する構造、アンテナの両方にLNを持つバイアンテナ型の複合型糖鎖(Bi-LN)[2]Hex6 HexNAc5を有する構造、すべてのアンテナにLNを持つトリアンテナ型の複合型糖鎖(Tri-LN)[3]Hex3 HexNAc6を有する構造、アンテナの両方にLDNを持つバイアンテナ型の複合型糖鎖(LN/LDN mixed)[4]Hex4 HexNAc5を有する構造、アンテナの一方にLDN、もう一方にLNを持つバイアンテナ型の複合型糖鎖(Bi-LDN)に分類した。 KD3の結合糖鎖プロファイル。ゲル内消化したTFPI2のαおよびβバンドから検出されたKD3-pepの各種糖鎖修飾体のうち、構造が推定できた糖鎖について、結合糖鎖の種類とシグナル強度(モノアイソトープイオンのピークエリア値)のプロファイルを示した。 KD2の結合糖鎖プロファイル。ゲル内消化したTFPI2のαおよびβバンドから検出されたKD2-pepの各種糖鎖修飾体のうち、構造が推定できた糖鎖について、結合糖鎖の種類とシグナル強度(モノアイソトープイオンのピークエリア値)のプロファイルを示した。 細胞培養上清と妊婦血清中のTFPI2の結合糖鎖プロファイル。培養細胞および妊婦血清中のTFPI2のKD2およびKD3における結合糖鎖プロファイルを示す。 胎盤および卵巣組織における糖転移酵素遺伝子の発現プロファイル。縦軸は相対発現量を示す。 各種培養細胞株における糖転移酵素遺伝子の発現プロファイル。縦軸は相対発現量を示す。
以下、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
本発明は、明細胞癌を評価及び/又は鑑別するために、生体試料におけるLacdiNAc(N-アセチルガラクトサミン-N-アセチルグルコサミン)を有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を測定する方法を提供する。
明細胞癌は特異な組織型を有する腫瘍で、明細胞を主体とする組織癌は、卵巣をはじめ、腎臓にも多く発生する他、子宮や肺においても発生することが知られている。
組織因子経路インヒビター2(Tissue factor pathway inhibitor 2)は、分子量26,934であり、トリプシン、プラスミン、VIIa因子/組織因子などのプロテアーゼに対して阻害活性を示し、マトリクスリモデリングに関与していると考えられている。胎盤に高い発現がみられ、細胞外に分泌される。UniProtKB/Swiss-Prot 登録番P48307 (TFPI2_HUMAN)。
本発明において、生体試料は、被験者に由来する試料であればよく、被験者から得た細胞、組織、体液など、具体的には、被験者の卵巣から採取又は切除した組織、被験者の血液(例えば、全血、血清、血漿、血漿交換外液など)、腹腔液、腹腔洗浄液などを例示することができる。通常の血液検査(臨床検査)で得られる全血、血清あるいは血漿を血液サンプルとして使用するとよい。
生体試料における、LacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の存在が確認された場合には、明細胞癌に罹患している、あるいは癌の組織型が明細胞癌であると評価することができる。
生体試料におけるLacdiNAc(N-アセチルガラクトサミン-N-アセチルグルコサミン)を有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を測定するには、糖タンパク質を検出できるいかなる公知の方法を用いてもよく、例えば、質量分析法を用いることができる。組織因子経路インヒビター2又はそのペプチド断片、あるいはその糖鎖をMS/MS測定する際に観測される糖ペプチドイオンの中に、366.14Daに加えて、407.17Da、553.22 Da および/または698.27 Daのシグナルが含まれていれば、明細胞癌に罹患している、あるいは癌の組織型が明細胞癌であると評価することができる。組織因子経路インヒビター2のペプチド断片としては、組織因子経路インヒビター2が持つ2か所のN型糖鎖結合部位(Asn116及びAsn170)の一方又は両方を含む部分ペプチドであるとよく、部分ペプチドのアミノ酸数は、4~15であるとよく、脱糖鎖反応により遊離する糖鎖そのものでも良い。本糖鎖は、ヘキソース(Hex)とN-アセチルヘキソサミン(HexNAc)の組成が、Hex4 HexNAc5、もしくはHex3 HexNAc6からなるバイアンテナ型複合型糖鎖を有することを特徴とする。このような部分ペプチドは、生体試料から組織因子経路インヒビター2を免疫沈降法などにより精製した後、トリプシンで消化することにより得られる。Asn116を含む部分ペプチドの一例としては、組織因子経路インヒビター2の113-124の部位からなるペプチド(113 YFFNLSSMTCEK 124)(配列番号1)を挙げることができ、Asn170を含む部分ペプチドの一例としては、組織因子経路インヒビター2の163-173の部位からなるペプチド(163 DEGLCSANVTR 173)(配列番号2)を挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。組織因子経路インヒビター2又はそのペプチド断片をMS/MS測定する際に観測される糖ペプチドイオンの中で、407.17DaのシグナルはLacdiNAc由来のシグナルであり、553.22Daと698.27DaはLacdiNAcの異型のフコシルLacdiNAcとシアリルLacdiNAc由来のシグナルで、明細胞がんの組織因子経路インヒビター2で特徴的に検出される。366.14Daのシグナルは、N型糖鎖すべての構造に共通するオキソニウムイオンである。また、胎盤型TFPI2に特徴的に検出されるシグナル(例えば、シアリルLacNAc由来の657.23 Daのシグナル)の情報を補助的に利用してもよい。
質量分析法の他、糖タンパク質の糖構造を認識するレクチンとタンパク質構造を認識する抗体を組み合わせて、LacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を測定してもよい。また、2つの抗体を用いたサンドイッチアッセイ測定法により、LacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を測定してもよい。この時、糖タンパク質の糖又は等を含むタンパク質を認識する抗体と、糖タンパク質のタンパク質を認識する抗体を組み合わせて用いることができる。
被験者は、明細胞癌(特に、卵巣明細胞癌)への罹患が疑われる患者であるが、発病危険性が考えられるすべてのヒトを対象としてもよい。
上記の測定により、明細胞癌に罹患している、あるいは癌の組織型が明細胞癌であると評価された被験者に対しては、治療を開始するとよい。明細胞癌に対する主な治療法としては、手術療法、化学療法があり、化学療法には、イリノテカン、白金製剤(シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチンなど)、タキサン製剤(パクリタキセル、ドセタキセルなど)、それらの組合せ(併用療法)などが用いられている。ただし、明細胞癌は抗がん剤抵抗性が高く、最適な化学療法は今のところなく、リンパ節郭清を含めた完全切除の術式を取ることが重要となる。
明細胞癌の治療効果又は再発の判定検査のために、生体試料におけるLacdiNAc(N-アセチルガラクトサミン-N-アセチルグルコサミン)を有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を測定してもよい。
生体試料における、LacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の存在が確認された場合には、明細胞癌の治療効果があった、あるいは明細胞癌が再発したと判定することができる。
本発明は、明細胞癌の治療及び/又は予防に効果のある物質を同定する方法も提供する。この方法は、以下の工程:
(a)被験物質を明細胞癌細胞に接触させる工程、
(b)工程(a)で被験物質に接触させた明細胞癌細胞を所定時間培養する工程、
(c)工程(b)で培養した明細胞癌細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を測定する工程、及び
(d)工程(c)で測定した明細胞癌細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を被験物質に接触させなかった対照細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現と比較することにより、明細胞癌細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現に対する被験物質の効果を評価する工程
を含む。
被験物質は、いかなる物質であってもよく、タンパク質(抗体も含む)、ペプチド、ビタミン、ホルモン、多糖、オリゴ糖、単糖、低分子化合物、核酸(DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、モノヌクレオチド等)、脂質、上記以外の天然化合物、合成化合物、植物抽出物、植物抽出物の分画物、それらの混合物などを挙げることができる。
本発明の同定方法に用いられる明細胞癌細胞は、LacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現が観察されるものであれば、いかなる生物に由来するものであってもよく、ヒト、ブタ、サル、チンパンジー、イヌ、ウシ、ウサギ、ラット、マウスなどの哺乳動物などに由来するものを挙げることができるが、ヒト由来の明細胞癌細胞(特に、株化されている細胞、具体的には、OVTOKO、OVISE、OVMANA、OVSAYO、RMG-I、RMG-II(JCRBから入手可能))を使用することが好ましい。
被験物質と明細胞癌細胞との接触は、いかなる方法によってもよく、例えば、被験物質を明細胞癌細胞に添加する方法などを挙げることができる。また、ヒト以外の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ブタなど)などの生体に明細胞癌細胞を移植してから、被験物質を投与してもよい。
被験物質と接触後の明細胞癌細胞の培養時間は特に限定されず、明細胞癌細胞における上記タンパク質の発現に対する被験物質の効果の有無が確認できる程度の時間であればよい。
比較の対照となる被験物質に接触させなかった対照細胞は、被験物質を接触させる前の明細胞癌細胞であってもよいし、被験物質を接触させないこと以外は同様の処理を行った明細胞癌細胞であってもよい。
本発明の一つの例として、被験物質を接触させた明細胞癌細胞において、LacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現量が対照細胞と比較して減少しており、被験物質が上記タンパク質の発現を減少させる効果があると評価できた場合には、この被験物質は、明細胞癌の治療及び/又は予防に効果がある物質と同定することができる。
さらに、明細胞癌細胞増殖に対する被験物質の効果を調べる工程を含んでもよい。明細胞癌細胞増殖に対する被験物質の効果は、例えば、明細胞癌細胞に被験物質を接触させ、所定時間培養した後に生細胞数を測定することにより調べることができる。
本発明の一つの例として、被験物質を接触させた明細胞癌細胞において、明細胞癌細胞の増殖が対照細胞と比較して阻害されている場合には、この被験物質が明細胞癌の治療及び/又は予防に効果がある確実性が増すと考えられる。
明細胞癌は抗癌剤耐性が高いので、上記の方法で同定された、明細胞癌の治療及び/又は予防に効果のある物質は抗癌剤耐性を低下させる物質である可能性が高い。よって、本発明は、明細胞癌の抗癌剤耐性を低下させる物質を同定する方法も提供する。この方法は、以下の工程:
(a)被験物質を明細胞癌細胞に接触させる工程、
(b)工程(a)で被験物質に接触させた明細胞癌細胞を所定時間培養する工程、
(c) 工程(b)で培養した明細胞癌細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を測定する工程、及び
(d)工程(c)で測定した明細胞癌細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を被験物質に接触させなかった対照細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現と比較することにより、明細胞癌細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現に対する被験物質の効果を評価する工程
を含む。
被験物質は、いかなる物質であってもよく、タンパク質(抗体も含む)、ペプチド、ビタミン、ホルモン、多糖、オリゴ糖、単糖、低分子化合物、核酸(DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、モノヌクレオチド等)、脂質、上記以外の天然化合物、合成化合物、植物抽出物、植物抽出物の分画物、それらの混合物などを挙げることができる。
本発明の同定方法に用いられる明細胞癌細胞は、LacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現が観察されるものであれば、いかなる生物に由来するものであってもよく、ヒト、ブタ、サル、チンパンジー、イヌ、ウシ、ウサギ、ラット、マウスなどの哺乳動物などに由来するものを挙げることができるが、ヒト由来の明細胞癌細胞(特に、株化されている細胞、具体的には、OVTOKO、OVISE、OVMANA、OVSAYO、RMG-I、RMG-II(JCRBから入手可能))を使用することが好ましい。
被験物質と明細胞癌細胞との接触は、いかなる方法によってもよく、例えば、被験物質を明細胞癌細胞に添加する方法などを挙げることができる。また、ヒト以外の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ブタなど)などの生体に明細胞癌細胞を移植してから、被験物質を投与してもよい。
被験物質と接触後の明細胞癌細胞の培養時間は特に限定されず、明細胞癌細胞における上記タンパク質の発現に対する被験物質の効果の有無が確認できる程度の時間であればよい。
比較の対照となる被験物質に接触させなかった対照細胞は、被験物質を接触させる前の明細胞癌細胞であってもよいし、被験物質を接触させないこと以外は同様の処理を行った明細胞癌細胞であってもよい。
本発明の一つの例として、被験物質を接触させた明細胞癌細胞において、LacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現量が対照細胞と比較して減少しており、被験物質が上記タンパク質の発現を減少させる効果があると評価できた場合には、この被験物質は、明細胞癌の抗癌剤耐性を低下させる物質と同定することができる。
さらに、明細胞癌細胞の抗癌剤耐性に対する被験物質の効果を調べる工程を含んでもよい。明細胞癌細胞の抗癌剤耐性に対する被験物質の効果は、例えば、明細胞癌細胞を被験物質と接触させる前、後又は同時に、抗癌剤を添加し、適当な時間培養した後に生細胞数を測定することにより調べることができる。被験物質を接触させた明細胞癌細胞の生細胞数が、対照細胞の生細胞数と比較して、少なければ、明細胞癌細胞の抗癌剤耐性が低下していると看做すことができる。
本発明の一つの例として、被験物質を接触させた明細胞癌細胞において、明細胞癌細胞の抗癌剤耐性が対照細胞と比較して低下している場合には、この被験物質が明細胞癌の抗癌剤耐性を低下させる確実性が増すと考えられる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
1.サンプル調製
明細胞癌および胎盤のTFPI2の糖鎖構造を解析するために、強いTFPI2発現が認められる卵巣明細胞癌細胞株4種(OVISE, OVMANA, OVASAYO, RMG- II)、およびヒト胎盤絨毛栄養膜(Human Villous Trophoblast、HVT)を用いた。これらの細胞の培養は推奨されている方法に従った。各細胞の細胞外マトリクスに結合しているTFPI2を遊離させるために、90%密度に達した各細胞をPBSで3回洗浄し、10%FBS含有培地にヘパリンナトリウム150 μg/mLを添加し、37℃で300分間処理を行った。処理後、培養上清の回収を行った。
得られた培養上清を、抗ヒトTFPI2マウスモノクローナル抗体TS-TF04とダイナビーズM-280活性化トシルビーズ(Life Science社)を結合した抗体ビーズを用いて免疫沈降反応を行った。培養上清と抗体ビーズを1.5 mLのマイクロチューブ内で3時間ボルテックスミキサーにて撹拌しながら反応させた。抗体ビーズを集磁、 0.1%Tweenを含むPBSで3回洗浄後に、0.1 M HCl 30 μLを加え5分間静置させることでTFPI2を溶出した。溶出後、即座に回収し、1 Mトリス塩酸を3 μL添加して中和した。
2.ウェスタンブロッティング
IP後の溶出サンプルをポリアクリルアミドゲルSuperSepTMAce12.5%, 13wellを使って分離した。SDS-PAGE終了後、常法に従い、PVDF膜へタンパク質の転写を行った。転写後のPVDF膜を脱イオン水とメタノールで洗浄後、Bullet Blocking One for Western Blotting(ナカライテスク社)で10分 25℃で振盪させ、ブロッキング処理を行った。その後、PVDF膜にBlocking One(ナカライテスク)で3000倍希釈した抗TFPI2抗体28Aaを25℃で18時間反応させた。一次抗体反応後、PVDF膜をPBS-T[0.05% Tween]で5回洗浄し、Blocking Oneで10000倍希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体と1時間反応させた。反応後、PVDF膜をPBS-T[0.05% Tween]で5回洗浄し、ECL Select試薬(GEヘルスケア)を用いて検出した。
図2Aは、HVT細胞、および4種類の卵巣明細胞癌由来細胞株から得られたTFPI2を、IP-ウエスタンブロットにて比較解析した結果である。いずれの細胞においても、TFPI2はサイズの異なるα、β、γのトリプレットバンドとして検出された。
3.培養細胞由来TFPI2の糖鎖解析
α、β、γバンドの糖鎖構造を調べるために、SDS-PAGE終了後のゲルを脱イオン水で5分間 3回洗浄し、SimplyBlueTM SafeStain染色試薬(Thermo社)を用いて、染色した。検出されたゲル切片(α,β,γ)を抽出し、25 mM 重炭酸アンモニウム緩衝液(ABB)/50% アセトニトリル(ACN)中で15分間振盪後、50 mM ABB 100 μLへバッファー交換し、さらに5分間振盪した。その後、100% ACNを添加し、15分間振盪後、溶液を捨て遠心エバポレーターにて乾燥させた。ゲル乾燥後、10 mM DTT/25 mM ABB/0.2 M グアニジン塩酸にて、56℃で45分間還元反応を行い、96 mM モノヨード酢酸 in 25 mM ABBに交換し、25℃で30分間 暗所に静置させることでアルキル化した。25 mM ABB/50% ACN 200 μLを用いて洗浄後、100% ACN 100 μLにて脱水、遠心エバポレーターにて乾燥させた。トリプシン溶液を添加し、37℃で18時間後、溶液を回収した。回収した溶液は遠心エバポレーターにて乾燥させた後、Solution A (0.1% (v/v) ギ酸/水)で再溶解した。
4. LC/MS/MS測定
トリプシン消化ペプチドは、Pierce(登録商標)C18 Spin Columns(Thermo社)を用いて脱塩処理を行い、EASY-nLC 1000ナノLCシステムを連結したQ ExactiveTM質量分析装置(Thermo Scientific社)にて分析した。EASY-nLC 1000による分離条件は以下のように設定した。Solution A (0.1% (v/v) ギ酸/水)、Solution B (0.1% (v/v) ギ酸/ACN)、流速300nL/min、Gradient (solution B,0-40 min:0-35%、40-43min: 35-100%)、Q ExactiveTMの分析条件は、Run time: 50min、positive 2 kV、MS1 Resolution: 70,000、scan charge: 350-2000m/z、MS2 Resolution: 17,500、NCE: 27とした。
5. 糖ペプチド解析
ヒトTFPI2にはKD2(Asn116)とKD3(Asn170)にN型糖鎖結合配列(NXS/T)が存在し、げっ歯類を除く哺乳類に共通して保存されている。そこで、当該結合部位を含むトリプシン消化ペプチド、113YFFNLSSMTCEK124(KD2-pep)および163DEGLCSANVTR173(KD3-pep)に着目し、これらのペプチドにGlcNAcが結合したイオンの値を用いて、MSクロマトグラムを抽出することで、糖ペプチドのMS/MSスペクトルを探索した。診断イオンの検出、主要フラグメントイオン同士の間隔が単糖の質量間隔に一致しているかどうかを確認することにより、糖ペプチド由来のMS/MSスペクトルであるかどうかを判断した。
図3は、αバンドから検出されたKD3-pepの代表的なプロダクトイオンスペクトルである。HVT、OVISE、OVMANAからは、m/z 値が1192.13、1219.48、1122.79として観測される特徴的な3価の糖ペプチドが検出された。これらはいずれも、MS/MS上で、 KD3-pep(m/z = 1221.53)にGlcNAcイオンが付加したシグナル(m/z 1425.621-)が、明瞭に検出されること、隣接する主要なフラグメントイオン同士が単糖の質量間隔と一致していること、糖鎖診断イオンであるm/z値 366.141-のシグナル、およびm/z 値528.191-のシグナルが検出されていることから、これらはKD3-pepの糖ペプチドであると判断した。他のバンドについても同様にして解析を行い、各バンドにおけるKD3-pepおよびKD2-pepの糖鎖修飾状態と各糖ペプチドの検出状況を図2BおよびCにまとめた。いずれの細胞においても、αバンドからはKD3-pepおよびKD2-pepの糖鎖修飾体が検出されるが、未修飾体は検出されなかった。一方で、βバンドからは糖鎖修飾体と未修飾体の両方が検出されたが、γバンドから検出されるのが未修飾体のみだった。以上の結果から、αバンドはKD3およびKD2の両方の糖鎖修飾体であり、βバンドにはKD3あるいはKD2のいずれか一方の糖鎖修飾体が混在しており、γバンドは未糖鎖修飾体であることが分かった。
6. TFPI2の糖鎖構造解析
検出された代表的なKD3-pep糖鎖修飾体の質量に基づいて、まずGlycoMod toolとCPGデータベースを用いて糖鎖の組成計算および構造予測を行った。HVTから代表的に検出された糖ペプチド(計算値:3572.346 Da)の結合糖鎖の質量は2350.82 Daと算出され、GlycoMod tool(http://web.expasy.org/glycomod/)にて糖鎖組成を算出した結果、これはHex5 HexNAc4 dHex1 NeuAc2(理論値:2350.83 Da)の質量に一致した。この組成をCPGデータベース(http://www.functionalglycomics.org/glycomics/molecule/jsp/carbohydrate/searchByComposition.jsp)に照合した結果、その構造はNeuAc-Gal-GlcNAc-Man-( NeuAc-Gal-GlcNAc-Man-)-Man-GlcNAc-(Fuc-)GlcNAcと、LacNAc(LN)と呼ばれるGal-GlcNAc構造を有した典型的なバイアンテナ型の複合型糖鎖であると予想された。これに対して、OVISE(計算値:3654.426 Da)、およびOVMANA(計算値:3364.326 Da)の代表的糖ペプチドの結合糖鎖は、2432.90 Daおよび2142.80 Daと算出され、それぞれHex3 HexNAc6 dHex1 NeuAc2(理論値:2432.88 Da)、Hex3 HexNAc6 dHex3(理論値:2142.81 Da)の組成と一致し、予想される糖鎖構造はそれぞれ、NeuAc-GalNAc-GlcNAc-Man-( NeuAc-GalNAc-GlcNAc-Man-)Man-GlcNAc-(Fuc-)GlcNAc、GalNAc-(Fuc-)GlcNAc-Man-( GalNAc-(Fuc-)GlcNAc-Man-)Man-GalNAv-(Fuc-)GalNAcであり、両方ともLacdiNAc(LDN)と呼ばれるGalNAc-GlcNAc配列をアンテナに有する構造が推測された。この推測された構造を支持するかたちで、図3のプロダクトイオンスペクトルには、LDN基(GalNAc-GlcNAc+H)の質量に一致するm/z 407.171-のシグナルがOVISEとOVMANAに共通して見られることに対し、HVT細胞では見られなかった。したがって、m/z 407.171-のシグナルは、N型糖鎖に共通する最深部のキトビオースコア(GlcNAc-GlcNAc)に由来するシグナルではなく、LDN基に由来するシグナルに帰属できると考えた。さらに、LDNの異型であるシアリル化体やフコシル化体であるシアリルLDN基(LDNS基、NeuAc-Gal-GlcNAc)や、フコシルLDN基(LDNF基、GalNAc-(Fuc-)GlcNAc)に相当するシグナルとして、m/z 値657.231-やm/z 値553.221-のシグナルが、それぞれ対応する糖ペプチドに特徴的に検出されており(図3)、推定された構造がMS/MSパターンにより正しく帰属できることを確認した。
すべての細胞のTFPI2のαバンドおよびβバンドについても、一連の解析を行った結果、卵巣明細胞癌細胞株のTFPI2のαバンド、およびβバンドから優先的に検出されるKD3-pepおよびKD2-pepの糖鎖修飾体のほとんどから、m/z 値407.171-のシグナルが必ず検出され、また、m/z 値657.231-のシグナルや553.221-のシグナルが検出されるものもあり、該当する糖鎖組成から、アンテナの両方もしくは片方のアンテナにLDN配列を有するバイアンテナ型糖鎖に帰属できたことより、明細胞癌由来TFPI2はLDN構造を高い割合で有していることがわかった(表1)。
表1.卵巣明細胞癌細胞およびHVT細胞から検出された代表的なTFPI2の結合糖鎖の種類と特徴的なフラグメントイオン
Figure 0007044320000001
7.TFPI2の結合糖鎖の種類とその分布の比較
各細胞のαバンドおよびβバンドから検出されるすべてのTFPI2の結合糖鎖とその分布を明らかにするために、構造決定した糖ペプチドのプリカーサーイオンのm/z 値でクロマトグラムを抽出し、精密質量と質量間隔から糖ペプチドのプリカーサーイオンの価数と同じ価数のグリコフォームを探索した。図4は各細胞の構造決定したKD3-pepの糖鎖修飾体m/z値 1040-1240の範囲で抽出したマスクロマトグラムを示す。各細胞から様々な質量のプレカーサーイオンが検出され、相互の質量間隔からKD3-pepの異なる糖鎖修飾体であることが推測できた。実際、対応するプロダクトイオンスペクトルから推測した構造に帰属できる糖鎖を持つことを確認した。本研究において、検出されたすべての糖鎖修飾体は、HexとHexNAcの組成からTFPI2に結合する主要な糖鎖を以下の4種の構造に分類することができた(図4)。
Figure 0007044320000002
図6および7は、TFPI2のαおよびβバンドから検出されたKD2-、およびKD3-pepの結合糖鎖の種類とシグナル強度(モノアイソトープイオンのピークエリア値)に基づいて作成した糖鎖プロファイルである。KD3-pep(図6)およびKD2-pep(図7)の結合糖鎖プロファイルは、同一の細胞であれば、αバンドとβバンドで、きわめてよく似たパターンを示した。
Figure 0007044320000003

Figure 0007044320000004
8.ヒト血清検体を用いた検証
培養細胞で検出された組織特異的なTFPI2糖鎖修飾体が、生体内でも発現しているのか検証するために、妊婦血清中のTFPI2の糖鎖構造解析を行った。妊婦血清は、ProMedDx社から購入した8検体を使用した。いずれの検体もインフォームドコンセント承諾済と記載された欧米検体である。表2に示すように、あらかじめTFPI2測定試薬(固相または酵素標識された2種類の抗TFPI2モノクローナル抗体を用いたサンドイッチ法による免疫測定試薬)にて定量したTFPI2濃度に基づいて、最終TFPI2濃度が同程度になるように3群に分け、100 μLずつプール混合したものを糖ペプチドの解析に使用した。また、比較のために、培地交換せずに7日間培養したHVT、OVISE、およびOVMANA細胞の培養上清も解析に使用した。
表2. 解析に用いた妊婦血清検体
Figure 0007044320000005
本解析のために調製したサンプルのTFPI2濃度は、ヘパリン処理により得られるサンプルよりも少ないため、本解析では、免疫沈降後のTFPI2は、ゲル電気泳動は介さずに、直接トリプシン消化を行い、アセトン沈殿にて濃縮した糖ペプチドの糖鎖構造解析を行った。免疫沈降にて精製したTFPI2にDTT、モノヨード酢酸を用いて、還元アルキル化、トリプシン消化を行った。トリプシン消化後、サンプルの5倍量の氷冷アセトンを添加し、攪拌後、-25℃で18時間アセトン沈殿を行った。アセトン沈殿後、12,000×g 25℃で10分間遠心を行い、上清を捨て沈殿物をSolution Aで溶解し、糖ペプチドの解析を行った。
図8に示すように、HVT、OVISE、OVMANAの培養上清中のTFPI2の結合糖鎖プロファイルは、KD2およびKD3ともに、ヘパリン処理にて得られる結果ときわめて良く似ており、HVTはLN構造を持つバイアンテナやトリアンテナ型である複合型糖鎖、OVISEとOVMANAからはLDN構造を持つバイアンテナ型糖鎖を有するペプチドが優先的に検出された。
妊婦血清中については、KD2の結合糖鎖として強く検出された構造は2種類存在し、2種類ともフルシアル化したLNを有するバイアンテナ型複合型糖鎖とであり、一つは最深部のGlcNAcにコアフコースが結合した糖鎖、もう一つは結コアフコースを持たない糖鎖として帰属された。KD3にも強く検出された構造が2種類存在し、こちらも、フルシアル化したLNを有するバイアンテナ、およびトリアンテナ型の複合型糖鎖として帰属され、これらは2種類ともコアフコースを有する糖鎖であった。この妊婦血清の糖鎖構造分布パターンは、3群のプール検体間では著しく高い相似性を示したが、HVT細胞の培養上清から検出される部分的にシアル化された糖鎖構造は検出されなかった。しかし、LNを骨格に持つバイアンテナあるいはトリアンテナ型の糖鎖が主であるという点で、HVT細胞と一致しており、卵巣明細胞癌細胞に特徴的なLDN構造を有する糖鎖は検出されなかった。
9.糖転移酵素遺伝子の発現解析
LacdiNAc(LDN)糖鎖合成に関わる糖転移酵素であるβ1,4-N-acetylgalactosaminyltransferase3と4をコードする遺伝子、B4GALNT3とB4GALNT4、およびLacNAc(LN)糖鎖合成に関わる糖転移酵素β-galactoside α-2,6-sialyltransferase 1および2の遺伝子、ST6GAL1およびST6GAL2について、組織並びに各種癌細胞株中の発現量を定量RT-PCR法にて調べた。One Step PrimeScript RT-PCR Kit(タカラバイオ社)を用いて組織並びに各種癌細胞株から全RNAの抽出とcDNAを合成し、表3のPCRプライマーを用いて遺伝子発現量を定量RT-PCRにより比較した。
図9は、ヒト正常胎盤および正常卵巣組織における各種糖転移酵素の遺伝子発現を比較定量した結果である。4種の糖転移酵素の中で、LDN糖鎖合成の責任糖転移酵素遺伝子であるB4GALNT3とB4GALNT4は、胎盤よりも卵巣において発現量が高いが、ST6GAL1とST6GAL2においては、顕著な発現量差は見られなかった。
図10は、胎盤絨毛栄養膜細胞(HVT)、卵巣明細胞癌細胞株(OVISE、OVMANA、OVSAYO、RMG-2、ES-2)、卵巣漿液性癌細胞株(OVSAHO、OVKATE)、卵巣粘液性癌細胞株(RMUG-S、MCAS)、前立腺癌細胞株(LnCap)における各種糖転移酵素の遺伝子発現を比較定量した結果である。4種の糖転移酵素遺伝子の中で、B4GALNT3は、ES-2を除く卵巣明細胞癌細胞株に高い発現特異性が認められた。本結果より、卵巣明細胞癌におけるTFPI2のLDN糖鎖の付加は、B4GALNTの組織型特異的な発現によって生じている可能性が示された。
表3. 糖転移酵素遺伝子の発現解析に使用したPCRプライマー
Figure 0007044320000006
本発明の明細胞癌評価及び/又は鑑別方法は、明細胞癌の診断に利用できる。また、本発明の物質同定方法は、明細胞癌の治療薬の探索に利用できる。
<配列番号1>
配列番号1は、組織因子経路インヒビター2の部分ペプチドKD2-glycopeptide(Asn116)のアミノ酸配列を示す。
<配列番号2>
配列番号2は、組織因子経路インヒビター2の部分ペプチドKD3-glycopeptide(Asn170)のアミノ酸配列を示す。
<配列番号3~10>
配列番号3~10は、それぞれ、糖転移酵素遺伝子の発現解析に使用したPCRプライマー(B4GALNT3-F、B4GALNT3-R、B4GALNT4-F、B4GALNT4-R、ST6GAL1-F、ST6GAL1-R、ST6GAL2-F及びST6GAL2-R)のヌクレオチド配列を示す。

Claims (10)

  1. 明細胞癌を評価及び/又は鑑別するために、生体試料におけるLacdiNAc(N-アセチルガラクトサミン-N-アセチルグルコサミン)を有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を測定する方法であって、組織因子経路インヒビター2又はそのペプチド断片をMS/MS測定する際に観測される糖ペプチドイオンの中に、366.14Daに加えて、407.17Daのシグナルが含まれていれば、明細胞癌に罹患している、あるいは癌の組織型が明細胞癌であることが示される前記方法
  2. 組織因子経路インヒビター2又はそのペプチド断片をMS/MS測定する際に観測される糖ペプチドイオンの中に、さらに、553.22 Da、698.27 Daおよび495.18Daからなる群より選択される少なくとも1つのシグナルが含まれていれば、明細胞癌に罹患している、あるいは癌の組織型が明細胞癌であることが示される請求項1記載の方法
  3. 生体試料が、被験者から得た細胞、組織又は体液である請求項1又は2に記載の方法。
  4. 体液が血液、腹腔液又は腹腔洗浄液である請求項記載の方法。
  5. 血液が、全血、血清、血漿又は血漿交換外液である請求項記載の方法。
  6. 明細胞癌の治療効果又は再発の判定検査のために、生体試料におけるLacdiNAc(N-アセチルガラクトサミン-N-アセチルグルコサミン)を有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を測定する方法であって、組織因子経路インヒビター2又はそのペプチド断片をMS/MS測定する際に観測される糖ペプチドイオンの中に、366.14Daに加えて、407.17Daのシグナルが含まれており、それらのシグナル強度が治療前に比べて変化しない、あるいは増加する場合は、明細胞癌の治療効果がなかった、あるいは明細胞癌が再発したことが示される前記方法
  7. 明細胞癌の治療及び/又は予防に効果のある物質を同定する方法であって、以下の工程:
    (a)被験物質を明細胞癌細胞に接触させる工程、
    (b)工程(a)で被験物質に接触させた明細胞癌細胞を所定時間培養する工程、
    (c)工程(b)で培養した明細胞癌細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を測定する工程であって、組織因子経路インヒビター2又はそのペプチド断片をMS/MS測定する際に観測される糖ペプチドイオンの中に、366.14Daに加えて、407.17Daのシグナルが含まれていれば、LacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現が示される前記工程、及び
    (d)工程(c)で測定した明細胞癌細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を被験物質に接触させなかった対照細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現と比較することにより、明細胞癌細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現に対する被験物質の効果を評価する工程
    を含む前記方法。
  8. さらに、明細胞癌細胞増殖に対する被験物質の効果を調べる工程を含む請求項記載の方法。
  9. 明細胞癌の抗癌剤耐性を低下させる物質を同定する方法であって、以下の工程:
    (a)被験物質を明細胞癌細胞に接触させる工程、
    (b)工程(a)で被験物質に接触させた明細胞癌細胞を所定時間培養する工程、
    (c) 工程(b)で培養した明細胞癌細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を測定する工程であって、組織因子経路インヒビター2又はそのペプチド断片をMS/MS測定する際に観測される糖ペプチドイオンの中に、366.14Daに加えて、407.17Daのシグナルが含まれていれば、LacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現が示される前記工程、及び
    (d)工程(c)で測定した明細胞癌細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現を被験物質に接触させなかった対照細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現と比較することにより、明細胞癌細胞におけるLacdiNAcを有する糖鎖構造を持つ組織因子経路インヒビター2の発現に対する被験物質の効果を評価する工程
    を含む前記方法。
  10. さらに、明細胞癌細胞の抗癌剤耐性に対する被験物質の効果を調べる工程を含む請求項記載の方法。
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