JP7062529B2 - 窒化鉄材の製造方法 - Google Patents
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Description
また、ガス窒化による方法以外にも、分子線エピタキシー法によって鉄の窒化物層を形成する方法(例えば、非特許文献2参照)や、スパッタリング法によって鉄の窒化物層を形成する方法(例えば、非特許文献3参照)なども知られている。
他には、めっき法による方法も知られており、例えば、特許文献1には窒化物イオンを含む溶融塩の電解浴中で鋼材を作用極として溶融塩電解を行ない、窒化物層を形成する方法が開示されている。
また、NH3ガスを用いたガス窒化処理は、窒素を鋼材に浸透拡散させる処理であるため、窒化物として、Fe2Nやε-Fe3Nが生成することを回避することは困難であった。
溶融塩中に窒化物イオン(N3-)を溶解させた電解液中に設けた、カソード及び鉄基材からなるアノードを用いて溶融塩電解を行なうことにより上記アノードの表面にγ’-Fe4Nを電析させる電解工程、を有し、
上記電解工程において、上記電解液の温度は240℃以上であり、かつ上記アノードに印加する電位はLi+/Li基準で0.6Vを超え、1.5V以下である、窒化鉄材の製造方法に関する。
上記第1の製造方法によって、表面にγ’-Fe4Nを含む第1窒化物層を有する第1窒化鉄材を製造する工程と、
上記第1窒化鉄材を600℃以上の温度で加熱し、上記鉄基材の表面にγ相を生成する第1加熱工程と、
表面に上記γ相が生成された鉄基材を急冷し、上記鉄基材の表面にα’相を生成する急冷工程と、
表面に上記α’相が生成された鉄基材を200℃以下の温度で加熱し、上記鉄基材の表面にα’’-Fe16N2を析出させる第2加熱工程と、
を有する、窒化鉄材の製造方法に関する。
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本発明の一実施形態に係る窒化鉄材の製造方法(第1の製造方法)は、
鉄基材の表面に、γ’-Fe4Nを含む第1窒化物層を有する窒化鉄材を製造する方法であって、
溶融塩中に窒化物イオン(N3-)を溶解させた電解液中に設けた、カソード及び鉄基材からなるアノードを用いて溶融塩電解を行なうことにより上記アノードの表面にγ’-Fe4Nを電析させる電解工程、を有し、
上記電解工程において、上記電解液の温度は240℃以上であり、かつ上記アノードに印加する電位はLi+/Li基準で0.6Vを超え、1.5V以下である、窒化鉄材の製造方法である。
なお、本発明では、γ’相が均一に生成しているとは、第1窒化物層内において、γ’相が均一に分散していることを意味する。また、γ’-Fe4Nの単相とは、γ’-Fe4N以外の鉄と窒素の金属間化合物を含まないことをいう。
そして、本態様で製造されたγ’-Fe4Nを含む第1窒化物層を有する窒化鉄材は、後述する(17)に記載の製造方法において、α’’-Fe16N2を含む第2窒化物層を有する窒化鉄材を製造するための材料として好適に使用することができる。
このように鉄基材中の不純物量を低減し、上記鉄基材の純度を99重量%以上とすることで、γ’-Fe4N以外の異相の生成を抑制することができる。また、後述する(17)に記載の製造方法における急冷工程において、急冷時のα’相の生成しやすさを維持することができる。
鉄基材として、炭素を含有する鉄基材を使用した場合であっても、γ’-Fe4Nを生成することができる。なお、ガス窒化処理の場合は、炭素を含有する鉄基材の表面にγ’-Fe4Nを生成することは容易ではない。
この場合、上記鉄基材の表面にγ’-Fe4Nを効率良く生成することができる。
一方、電解液の温度が350℃未満では、鉄基材の表面にγ’-Fe4Nが生成しにくくなることがあり、上記温度が450℃を超えると、上記鉄基材の変形量が大きくなってしまうことがある。また、供給エネルギー量が増大してしまう。
この場合、上記鉄基材の表面にγ’-Fe4Nの単相を生成するのにより適している。
この場合、酸素成分の少ない窒化物層を有する窒化鉄材を製造するのに適している。
(8)上記(7)に記載の窒化鉄材の製造方法において、上記アルカリ金属のハロゲン化物は、アルカリ金属の臭化物、アルカリ金属のヨウ化物、又は、アルカリ金属の臭化物とアルカリ金属のヨウ化物との混合物である、ことが好ましい。
(9)上記(7)に記載の窒化鉄材の製造方法において、上記アルカリ土類金属のハロゲン化物は、アルカリ土類金属の臭化物、アルカリ土類金属のヨウ化物、又は、アルカリ土類金属の臭化物とアルカリ土類金属のヨウ化物との混合物である、ことが好ましい。
(10)上記(7)又は(8)に記載の窒化鉄材の製造方法において、上記アルカリ金属は、Li、K及びCsからなる群より選択される1種以上である、ことが好ましい。
(11)上記(7)又は(9)に記載の窒化鉄材の製造方法において、上記アルカリ土類金属は、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群より選択される1種以上である、ことが好ましい。
(12)上記(7)に記載の窒化鉄材の製造方法において、上記溶融塩は、LiBr-KBr-CsBr又はLiI-KI-CsIである、ことが好ましい。
(13)上記(1)~(12)のいずれかに記載の窒化鉄材の製造方法において、上記溶融塩はLi+、K+及びCs+を含有し、Li+の含有率が40mol%以上、80mol%以下、K+の含有率が5mol%以上、30mol%以下、Cs+の含有率が10mol%以上、40mol%以下である、ことが好ましい。
上記(7)から上記(13)のいずれかに記載の発明の態様によれば、溶融塩を、低融点で、かつ比較的入手が容易で、更には取扱も容易な材料種によって形成することができる。
特に、上記(10)から上記(13)のいずれかに記載の発明の態様とすることにより、更に低融点の溶融塩とするのに適している。
この場合、容易に窒化物イオン(N3-)を溶融塩中に溶解させることができる。
この場合、窒化物イオン(N3-)を連続的に溶融塩中に供給することができる。
この場合、後述する(17)~(20)のいずれかに記載の窒化鉄材の製造方法において、α’’-Fe16N2を含む第2窒化物層した際に、Fe2Nやε-Fe3Nを含有しない第2窒化物層を好適に製造することができる。
そして、α’’-Fe16N2を含み、Fe2Nやε-Fe3Nを含有しない第2窒化物層は、性能の安定した磁性材料として好適である。
上記(1)~(16)のいずれかに記載の窒化鉄材の製造方法によって、表面に、γ’-Fe4Nを含む第1窒化物層を有する第1窒化鉄材を製造する工程と、
上記第1窒化鉄材を600℃以上の温度で加熱し、上記鉄基材の表面にγ相を生成する第1加熱工程と、
表面に上記γ相が生成された鉄基材を急冷し、上記鉄基材の表面にα’相を生成する急冷工程と、
表面に上記α’相が生成された鉄基材を200℃以下の温度で加熱し、上記鉄基材の表面にα’’-Fe16N2を析出させる第2加熱工程と、
を有する。
そして、本態様の製造方法では、上記γ相が生成した鉄基材を急冷し、更に時効処理を行う。そのため、Fe2Nやε-Fe3Nの含有を回避しつつ、α’’-Fe16N2を均一に生成した第2窒化物層を有する窒化鉄材を製造することができる。
ここで、α’’-Fe16N2が均一に生成しているとは、第2窒化物層内において、α’’-Fe16N2が均一に分散していることを意味する。
このような条件が、α’相をα’’-Fe16N2に変化させるのに適している。
この場合、製造された窒化鉄材において、上記の工程で形成された防食層により、上記第2窒化物層の外部環境との接触を妨げられるため、当該第2窒化物層は大気等の雰囲気の影響を受け難く、劣化され難い窒化鉄材を提供することができる。
この場合、上記第2窒化物層を外部環境から保護するのに好適である。
本発明の実施形態の具体例を、適宜図面を参照しつつ以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
従って、以下における本発明の実施形態に係る製造方法の説明では、上記第2の製造方法全体を工程順に説明することによって第1の製造方法も併せて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る第2の製造方法における必須工程を模式的に示す図である。
上記第2の製造方法では、鉄基材11の表面に溶融塩電解窒化S1によりγ’-Fe4Nを含む第1窒化物層12を形成する。この工程が上記第1の製造方法に相当する。
次に、表面にγ’-Fe4Nを含む第1窒化物層12が形成された鉄基材11に第1加熱処理S2を行い、鉄基材11の表面にγ相を含む窒化物層13を形成する。ここで、γ相は、γ’-Fe4Nとα-Feとの相変態によって生成することができる。
次に、表面にγ相を含む窒化物層13が形成された鉄基材11を急冷S3し、鉄基材11の表面にγ相とα’-Fe8Nとを含む窒化物層14を形成する。
その後、表面にγ相とα’相とを含む窒化物層14が形成された鉄基材11に第2加熱処理(時効処理)S4を行い、鉄基材11の表面にγ相とα’’-Fe16N2とを含む第2窒化物層15を形成する。
上記第2の製造方法では、このような工程を経て、α’’-Fe16N2を含む第2窒化物層15を有する窒化鉄材を製造する。
第1の製造方法では、γ’-Fe4Nを含む第1窒化物層12を鉄基材11の表面に形成する。
上記第1の製造方法は、例えば、前処理工程、電解工程、及び、防食層形成工程をこの順で行う。ここで、電解工程は必須工程であり、前処理工程及び防食層形成工程は、必要に応じて行う任意工程である。
図2は、本発明の実施形態に係る第1の製造方法が有する電解工程の一例の概略を表す図である。
この工程は、電解工程の前に行う工程であり、例えば、アノードに用いる鉄基材の表面に形成されている酸化物層を除去する工程である。
鉄基材の表面に形成されている酸化物層を除去する方法としては特に限定されず、例えば、電解によりアノード溶解させて除去する方法や、薬品によって除去する方法等が挙げられる。
上記酸化物層をアノード溶解によって除去するには、例えば、後述する電解工程と同様に、電解液中にカソードと、鉄基材からなるアノードとを設け、Li+/Li基準で2.0V以上の電位をアノードに印加することでアノード表面の酸化物層を溶解させて除去することができる。なお、酸化物層を除去した後には、電位をLi+/Li基準で0.6Vを超え、1.5V以下にすることで後述する電解工程を行なうことができる。
上記酸化物層の除去は、酸系の薬品で酸化物層を溶解させることによって行なうこともができる。上記酸系の薬品としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸等を用いることができる。
本工程では、溶融塩中に窒化物イオン(N3-)を溶解させた電解液を用いる。
-溶融塩-
溶融塩は、本電解工程を行う温度で溶融して液体になるものであれば良い。例えば、電解工程を350~450℃で行う場合には、300℃以下で溶融して液体となるものを選択するのが好ましい。
溶融温度が比較的低く、かつ、比較的入手が容易な溶融塩としては、例えば、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物又はこれらの混合物が好ましい。一般に、溶融塩は一成分の塩を用いるよりも多成分の塩を用いる方が低融点となるため、複数種の塩を混合して用いることが好ましい。
また、アルカリ金属のハロゲン化物は臭化物、ヨウ化物又は臭化物とヨウ化物の混合物であることが好ましい。同様に、アルカリ土類金属のハロゲン化物も臭化物、ヨウ化物又は臭化物とヨウ化物の混合物であることが好ましい。ヨウ化物や臭化物の塩は比較的低い温度で溶融させることができ、また、取扱も容易であるため好ましい。
上記溶融塩におけるLi+の含有率は、45mol%以上、75mol%以下であることがより好ましく、50mol%以上、70mol%以下であることが更に好ましい。
上記溶融塩におけるK+の含有率は、7mol%以上、25mol%以下であることがより好ましく、9mol%以上、20mol%以下であることが更に好ましい。
上記溶融塩におけるCs+の含有率は、15mol%以上、35mol%以下であることがより好ましく、20mol%以上、30mol%以下であることが更に好ましい。
窒化物イオン(N3-)を溶融塩に溶解させる方法は特に限定されるものではない。例えば、溶融塩中にLi3Nを添加して溶解させることで溶融塩中に窒化物イオンを生成させることができる。窒化物イオンの添加量は、例えば、Li3Nの濃度が0.1mol%以上、10mol%以下となるようにLi3Nを溶融塩に添加すれば良い。Li3Nの濃度が0.1mol%以上となるようにすることで、溶融塩電解によってγ’-Fe4Nを電析させるのに十分な量の窒化物イオンを溶融塩中に生成することができる。また、Li3Nの濃度が10mol%以下となるようにすることで、溶融塩の融点の上昇を抑制することができる。
これらの観点から、Li3Nの添加量は、Li3Nの濃度が0.2mol%以上、5mol%以下となるようにすることがより好ましく、0.5mol%以上、3mol%以下となるようにすることが更に好ましい。
なお、後述する電解工程においてγ’-Fe4Nが電析し始めると電解液中の窒化物イオンが消費されるため、γ’-Fe4Nを含有する窒化物層を大量に生成させる場合には、電解工程においても適宜溶融塩中にLi3Nを添加しても良い。
多孔質部材43は一方の面と他方の面との間において連通する連通孔を多数有するものであれば良い。多孔質部材43は上記連通孔を有するため、ガス電極の内部空間に供給されたガスをガス電極の外部に排出することができる。また、上記連通孔は、例えば、多孔質部材43の一方の面から他方の面に向かって直進する孔であっても良いし、三次元網目状構造のように複雑な構造によって形成されている孔であっても良い。
多孔質部材43を内部空間の先端部に備えるガス電極を溶融塩中に配置すると、連通孔の内部は溶融塩で満たされる。
図4に示すガス電極を用いる場合は、筒状電極部材42をリード線41を介して電源の陰極側に接続し、対極を電源の陽極側に接続して電位をアノードに印加すれば良い。多孔質部材43は導電性であるから、ガス電極の内部空間に窒素ガスを含むガスを供給することで、多孔質部材43の連通孔の表面において窒素ガスが還元される。これにより窒化物イオン(N3-)を溶融塩中に溶解させることができる。
筒状電極部材42及び多孔質部材43は同じ材料からなるものであっても良いし、異なる材料からなるものであっても良い。
筒状部材52は、窒素ガスを含むガスの流路となる内部空間を有しており、電極部材53は筒状部材52の内部空間に配置されていれば良い。
図5に示すガス電極を用いる場合は、電極部材53をリード線51を介して電源の陰極側に接続し、対極を陽極側に接続して電位をアノードに印加すれば良い。このとき、窒素ガスを含むガスを筒状部材52の内部空間に供給することで、電極部材53の表面において窒素ガスを還元し、溶融塩中に窒化物イオン(N3-)として溶解させることができる。
一方、電極部材53及び多孔体63は導電性であって、溶融塩中において不活性な材料からなることが望ましい。上記不活性な材料としては、例えば、白金、金、これらの合金、グラッシーカーボン、グラファイト、ステンレス、ニッケル、又はニッケル系合金等が挙げられる。また、多孔体63としては、例えば、三次元網目状構造の骨格を有するニッケル多孔体等が挙げられる。
上記ガス電極は、窒素ガス、溶融塩、及び、ガス電極の通電部、の三相界面を形成する部分が多いほど高効率である。このため、通電部に多孔質の部材を用いた図4及び図6に示すガス電極は、より効果的に融塩中に窒化物イオン(N3-)を溶解させることができる。
ガス電極に供給するガスは、窒素ガスのみに限定されず、溶融塩に影響を与えないガスと窒素ガスとの混合ガスであっても良い。上記窒素ガスに混合させるガスとしては、例えば、アルゴン(Ar)ガスが好ましい。
また、窒素ガスと他のガスとの混合ガスをガス電極に供給する場合、電極表面での反応効率を考慮すれば窒素ガスの濃度が高いガスが好ましい。すなわち、使用するガス電極で反応が可能な最大量の窒素ガスを供給するような濃度に調整するのが望ましい。
また、窒素ガスを含むガスを供給する場合、ガス電極から排出される未反応のガスを回収して、ガス電極に再度供給するように循環させても良い。
本電解工程では、図2に示すように、アノード21とカソード22を電解液23中に設け、アノード21を電源24の陽極側に、カソード22を電源24の陰極側に接続する。そして電位をアノード21に印加することでアノード21の表面にγ’-Fe4Nを生成することができる。
ここで、電源24は電位を制御することができるものであれば良く、例えば、ポテンショ・ガルバノスタット等を用いることができる。
電解液23としては、上述の電解液を用いる。
電解液23の温度は、240℃以上とする。電解液23の温度が、240℃未満では、γ’-Fe4Nの生成(電析)が困難となる。
電解液23の温度は、350℃以上、450℃以下が好ましい。この場合、アノード21の表面にγ’-Fe4Nを効率良く生成することができる。
アノード21としては鉄基材を用いる。
上記鉄基材としては、純度が99質量%以上の鉄基材が好ましい。この場合、γ’-Fe4N相以外の異相の生成を抑制することができる。
上記鉄基材は、炭素量が0.02質量%以上、2.14質量%以下であることも好ましい。本電解工程によれば、鉄基材として炭素を含有する鉄基材を使用した場合であっても、γ’-Fe4Nを生成することができる。
上記鉄基材は、更に、Ti、V、Cr、Mn、ランタノイド、Al、Si等を含有していても良い。これらは1種のみ含有していても良いし、2種以上を含有しても良い。
アノード21の形状は、通電可能な形状であれば特に限定されるものではなく、平板状等、目的に応じて適宜選択すれば良い。また、アノード21は、鉄粒子を板状等に成形したものであっても良い。このとき、成型体は多孔質であっても良いし、緻密質であっても良い。
カソード22としては、導電性であって、電解液中で安定なものを用いれば良い。
カソード22としては、例えば、白金、金、これらの合金、グラッシーカーボン、グラファイト、ステンレス、アルミナ、ニッケル、ニッケル系合金等からなるものを好ましく用いることができる。
カソード22としては、上記窒化物イオンの生成で説明したガス電極と同様の構成のガス電極を用いることもできる。上記ガス電極を用いることで溶融塩電解時に窒化物イオンを連続的に電解液に供給することができる。
溶融塩電解時にアノード21に印加する電位は、Li+/Li基準で0.6Vを超え、1.5V以下程度とすれば良い。上記電位を0.6V(vs.Li+/Li)を超えるものとすることで、アノード21として用いる鉄基材の表面に良好にγ’-Fe4Nを生成することができる。
一方、上記電位を1.5V(vs.Li+/Li)以下とすることで、アノード21の鉄を溶解させずにγ’-Fe4Nを形成することができる。
アノード21に印加する電位は、γ’-Fe4Nの単相を生成するのに好適であるとの観点から、Li+/Li基準で0.6Vを超え、0.9V以下とすることが好ましく、0.6Vを超え、0.8V以下とすることがより好ましい。
更に、電解液が350℃以上、450℃以下の場合には、アノード21に印加する電位は、0.65V以上、0.75V以下とすることが特に好ましい。
このような工程(第1の製造方法)を行うことにより、γ’-Fe4Nを含む第1窒化物層を鉄基材の表面に形成することができる。
上記第1の製造方法で得られた表面にγ’-Fe4Nを含む第1窒化物層が形成された鉄基材は、続いて、α’’-Fe16N2を含む第2窒化物層を鉄基材の表面に形成するために使用される。
本工程では、上記第1の製造方法で製造された、表面にγ’-Fe4Nを含む第1窒化物層が形成された鉄基材(以下、第1窒化物層含有鉄基材ともいう)を600℃以上に加熱し、γ’-Fe4Nとα-Feとの相変態によって、γ-Feを生成させる。
この第1加熱処理における加熱温度は600℃以上であれば良いが、その上限は、850℃が好ましい。その理由は、上記加熱温度が850℃を超えると、窒化物の熱分解が進行するからである。
上記加熱温度は、650~800℃が好ましい。
本工程では、上記第1の製造方法で製造された第1窒化物層含有鉄基材を用いているため上述した条件で加熱処理を施した際に、ε相が生じにくく、窒化物層において、γ-Feは均一に分布しやすい。
本工程では、上記第1加熱処理で得られた、γ-Feが表面に生成させた鉄基材を急冷し、γ-Feをα’相(α’-Fe8N)に変態させ、鉄基材の表面にα’-Fe8Nを生成する。
ここで、急冷条件としては、例えば、-50~10℃の油中に1~20秒間投入する等の条件を採用すれば良い。
本工程では、鉄基材の表面に生成したα’-Fe8Nを時効処理によりα’’-Fe16N2に変化させる。これにより、鉄基材の表面には、α’’-Fe16N2が析出する。
上記時効処理の条件としては、例えば、100℃以上200℃以下の温度に、1時間以上、240時間以下保持する条件等を採用することができる。
上記時効処理の条件において、上記温度は120℃以上180℃以下が好ましく、上記時間は2時間以上120時間以下が好ましい。
また、上記時効処理は、アルゴンガス雰囲気下等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
また、第1窒化物層含有鉄基材において、第1窒化物相がγ’-Fe4Nの単相である場合には、上記容体化及び上記時効処理を経ることによって、α’’-Fe16N2を含有し、Fe2N及びε-Fe3N等の混入が極めて少ない第2窒化物層を有する窒化鉄材を製造することができる。
防食層形成工程は、上記時効処理の後に行なう工程であり、上記時効処理を経て形成されたα’’-Fe16N2を含有する第2窒化物層の表面に防食層を形成する工程である。
上記防食層は、炭化鉄又は酸化鉄からなることが好ましい。
上記防食層として炭化鉄からなる層を形成する場合、当該炭素鉄の層を形成する方法としては、例えば、上記時効処理後、炭化材(液状炭化水素等)を塗布して不活性雰囲気炉で焼く方法、CO雰囲気中で熱処理をする方法等を採用することができる。
また、防食層として酸化鉄からなる層を形成する場合には、例えば、α’’-Fe16N2を含有する第2窒化物層が形成された窒化鉄材を緩やかな条件で酸化処理すれば良い。
当該緩やかな酸化処理の条件としては、例えば、100℃程度の熱処理でFe3O4を形成する方法等を採用することができる。
上記防食層として、Crイオンを反応させて形成した窒化クロム層や、SiO2やAl2O3等からなる層であっても良い。
また、本発明の実施形態に係る製造方法は、Fe2Nやε-Fe3Nの生成を回避しつつ、α’’-Fe16N2を均一に(特に、窒化物層の厚さ方向において均一に分布するように)生成することができる点で、ガス窒化処理を用いた窒化物層の形成方法に比べて顕著に優れる。
下記試験例1~4の条件で溶融塩電解窒化を行った。生成した窒化物層を分析した。
(試験例1)
-電解工程-
まず、下記の方法で電解液を作製した。
LiBr、KBr及びCsBrを、混合比率がモル比で56.1:18.9:25.0となるように混合して250℃に加熱し、溶融塩を作製した。この溶融塩に濃度が1.0mol%となるようにLi3Nを添加し、電解液を作製した。
溶融塩電解窒化は、Arフロー雰囲気のグローブボックス内で行なった。
アノードとしては5mm×5mm×1mmtのFe板を、カソードとしてはグラッシーカーボン棒を用いた。また、参照極としてはAl-Li合金を用いた。これらは電解液中に配置した。
電解液の温度は450℃とした。
本工程では、アノード及びカソードを、電位を制御できる電源としてのポテンショ・ガルバノスタットに接続してLi+/Li基準で0.7Vの電位をアノードに印加し、定電位で溶融塩電解を3時間行うことで窒化物層を有する窒化鉄材を製造した。
ここでは、アノードであるFe板の表面に窒化物層が生成した。
試験例1において電解液の温度を350℃とした以外は実施例1と同様にして窒化物層を有する窒化鉄材を製造した。
試験例1において電解液の温度を350℃とし、アノードに印加する電位をLi+/Li基準で0.8Vとした以外は実施例1と同様にして窒化物層を有する窒化鉄材を製造した。
試験例1において電解液の温度を350℃とし、アノードに印加する電位をLi+/Li基準で1.0Vとした以外は実施例1と同様にして窒化物層を有する窒化鉄材を製造した。
(生成相の分析)
試験例1~4のすべての条件において、アノードとしてのFe板の表面に窒化物層の生成が認められた。
そこで、得られた窒化物層の生成相をX線回折装置により分析した。結果を表1に示した。なお、表1には電解条件を併記した。
ここで、X線回折装置としては、XRD;リガク社製、Ultima IV、Cu-Kα line、λ=1.5418Å、40kV、40mAを用いた。
次に、上記試験例1で製造したFe4Nからなる窒化物層を有する窒化鉄材を用いて下記の実施例1を行った。
(実施例1)
-溶体化処理(第1加熱処理及び急冷)-
電解処理を施した上記試験例1のFe板に下記の条件で熱処理を行った。
不活性雰囲気中で740℃に昇温し、60秒保持した。その後、加熱された上記Fe板を-5℃に保った油に投入し、油冷した。
上記の熱処理後のFe板に対して、X線回折によってFe板の表面に存在している結晶相を分析した。その結果、Fe(α相)とFe(γ相)が認められた。
また、Fe(α相)の(110)ピークの高角側には肩が認められた。この肩のピーク位置には該当する窒化鉄結晶相は見られないので、この肩のピークは、格子が歪んで格子定数にずれが生じたFe(α相)によるものと考えられた。また、Feの格子のずれは、過飽和にNを取り込んで歪んだことが要因と推定され、過飽和α相(α’)の存在を示している。
図7A及び図7Bには、実施例1において、急冷後に測定したX線回折装置による測定結果を示した。図中、(ii)のスペクトルが急冷後の測定結果である。
上記熱処理によって、α’相(α’-Fe8N)が生成された実施例1のFe板を、不活性雰囲気中で150℃、84時間保持した。
上記の時効処理後のFe板に対して、X線回折によってFe板の表面に存在している結晶相の分析を行った。その結果、Fe(α相)及びFe(γ相)と併せて、Fe16N2のピークの兆候が認められた。具体的には、42.7°に位置するα”-Fe16N2の202回折線付近に、新たにブロードなショルダーが観測された。
図7A及び図7Bには、実施例1における時効処理中及び時効処理後に測定したX線回折装置による測定結果を示した。図中、(iii)のスペクトルが時効処理中(24時間保持後)の測定結果であり、(iv)のスペクトルが時効処理後(84時間保持後)の測定結果である。
図8は、実施例1でFe板の表面に生成した結晶相(窒化物層)のメスバウアー分光分析の測定結果(メスバウアー分光スペクトル)を示す図である。図9は、図8に示したメスバウアー分光スペクトルの解析結果を示す表である。
上記メスバウアー分光分析の詳細は以下の通りである。
上記メスバウアー分光分析は、Rhマトリックス中に拡散させたCo-57とHe-1%(CH3)3CHガスフロー比例カウンタを用いて行った。なお、測定温度は室温とし、速度較正はα-Feを用いて行った。
図8の分光スペクトルは、フィッティング結果であり、α-Feとγ-Feのそれぞれ1つのFeサイトに加え、I、II、IIIと示したα”-Fe16N2及びγ’-Fe4Nのそれぞれ3つのFeサイトのスペクトルに分離された。また、0mms-1付近にそれらでは説明出来ないスペクトルが見られているが、これは、γ-Feにおいて、窒素原子が近接格子間を占有した超微細構造(γ-Fe’と表記する)中の57Fe核から得られるスペクトルとしてフィッティングしたものである。
図9に示すように、上記窒化物層の各相に対応するサブスペクトルの積分強度比は、α-Fe:(γ-Fe+γ-Fe’):α”-Fe16N2:γ’-Fe4N=39.0:36.1:12.9:12.0となり、メスバウアー分光の分析範囲である表面100nm程度の領域において、上記窒化物層に含まれるFe16N2の含有率は約13%であった。
また、上記窒化物層からは、Fe2Nや、Fe3Nは検出されなかった。
12、13、14、15 窒化物層
21 アノード
22 カソード
23 電解液
24 電源
31、41、51、61 リード線
32、42 筒状電極部材
43 多孔質部材
52、62 筒状部材
53 電極部材
63 多孔体
S1 溶融塩電解窒化
S2 第1加熱処理
S3 急冷
S4 第2加熱処理
Claims (18)
- 鉄基材の表面に、α’’-Fe 16 N 2 を含む第2窒化物層を有する窒化鉄材を製造する方法であって、
表面にγ’-Fe 4 Nを含む第1窒化物層を有する第1窒化鉄材を製造する工程と、
前記第1窒化鉄材を600℃以上の温度で加熱し、前記鉄基材の表面にγ相を生成する第1加熱工程と、
表面に前記γ相が生成された鉄基材を急冷し、前記鉄基材の表面にα’相を生成する急冷工程と、
表面に前記α’相が生成された鉄基材を200℃以下の温度で加熱し、前記鉄基材の表面にα’’-Fe 16 N 2 を析出させる第2加熱工程と、
を有し、
前記第1窒化鉄材を製造する工程は、
溶融塩中に窒化物イオン(N3-)を溶解させた電解液中に設けた、カソード及び鉄基材からなるアノードを用いて溶融塩電解を行なうことにより前記アノードの表面にγ’-Fe4Nを電析させる電解工程、を有し、
前記電解工程において、前記電解液の温度は350℃以上、450℃以下であり、かつ前記アノードに印加する電位はLi+/Li基準で0.6Vを超え、1.5V以下である、窒化鉄材の製造方法。 - 前記鉄基材は、純度が99質量%以上である、請求項1に記載の窒化鉄材の製造方法。
- 前記鉄基材は、炭素量が0.02質量%以上、2.14質量%以下である、請求項1に記載の窒化鉄材の製造方法。
- 前記電解工程において、前記アノードに印加する電位はLi+/Li基準で0.6Vを超え、0.9V以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の窒化鉄材の製造方法。
- 前記電解工程の前に、前記アノードに用いる前記鉄基材の表面に形成されている酸化物層を除去する前処理工程を有する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の窒化鉄材の製造方法。
- 前記溶融塩は、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物又はこれらの混合物である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の窒化鉄材の製造方法。
- 前記アルカリ金属のハロゲン化物は、アルカリ金属の臭化物、アルカリ金属のヨウ化物、又は、アルカリ金属の臭化物とアルカリ金属のヨウ化物との混合物である、請求項6に記載の窒化鉄材の製造方法。
- 前記アルカリ土類金属のハロゲン化物は、アルカリ土類金属の臭化物、アルカリ土類金属のヨウ化物、又は、アルカリ土類金属の臭化物とアルカリ土類金属のヨウ化物との混合物である、請求項6に記載の窒化鉄材の製造方法。
- 前記アルカリ金属は、Li、K及びCsからなる群より選択される1種以上である、請求項6又は請求項7に記載の窒化鉄材の製造方法。
- 前記アルカリ土類金属は、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群より選択される1種以上である、請求項6又は請求項8に記載の窒化鉄材の製造方法。
- 前記溶融塩は、LiBr-KBr-CsBr又はLiI-KI-CsIである、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の窒化鉄材の製造方法。
- 前記溶融塩はLi+、K+及びCs+を含有し、Li+の含有率が40mol%以上、80mol%以下、K+の含有率が5mol%以上、30mol%以下、Cs+の含有率が10mol%以上、40mol%以下である、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の窒化鉄材の製造方法。
- 電解工程は、前記溶融塩にLi3Nを添加して窒化物イオン(N3-)が溶解した電解液を形成する、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の窒化鉄材の製造方法。
- 電解工程は、前記溶融塩に窒素ガス還元電極を設け、前記窒化ガス還元電極に窒素ガスを供給して電気化学的に還元することにより窒化物イオン(N3-)が溶解した電解液を形成する、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の窒化鉄材の製造方法。
- 前記第1窒化物層は、γ’-Fe4Nの単相である請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の窒化鉄材の製造方法。
- 前記第2加熱工程は、表面に前記α’相が生成された鉄基材を100℃以上、200℃以下に加熱し、この加熱状態で、1時間以上、240時間以下保持する請求項1から請求項15のいずれかに記載の窒化鉄材の製造方法。
- 前記第2加熱工程の後に、前記第2窒化物層の表面に防食層を形成する防食層形成工程を有する、請求項1から請求項16のいずれかに記載の窒化鉄材の製造方法。
- 前記防食層は、炭化鉄又は酸化鉄からなる、請求項17に記載の窒化鉄材の製造方法。
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| Electrochemical formation of iron nitride film in a molten LiCl-KCl-Li3N system,Electrochimica Acta,1999年11月03日,45,3367-3373 |
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