以下、本発明の実施形態について説明するが、まず、中性点電位に発生するオフセットについて説明しておく。
図1は、PWM波形および中性点電位波形の一例を示す。三相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*と三角波キャリアを比較して、PWMパルス波形PVu,PVv,PVwを発生させている。三相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*は、正弦波状の波形となるが、低速駆動時には三角波キャリアに比べて十分低い周波数とみなすことができるため、ある瞬間を捉えれば、実質的に図1のように直流とみなすことができる。
PWMパルス波であるPVu,PVv,PVwは、それぞれ異なるタイミングでオン・オフを繰り返す。図中の電圧ベクトルは、V(0,0,1)のような名称が付いているが、それらの添え字(0,0,1)は、それぞれU,V,W相のスイッチ状態を示す。すなわち、V(0,0,1)は、U相はPVu=0、V相はPVv=0、W相はPVw=1を示す。ここで、V(0,0,0)、ならびにV(1,1,1)は、モータへの印加電圧が零となる零ベクトルである。
これらの波形に示すように、通常のPWM波は、第1の零ベクトルV(0,0,0)と第2の零ベクトルV(1,1,1)の間において、2種類の電圧ベクトルV(0,0,1)とV(1,0,1)を発生させている。すなわち、電圧ベクトル推移のパターン「V(0,0,0)→V(0,0,1)→V(1,0,1)→V(1,1,1)→V(1,0,1)→V(0,0,1)→V(0,0,0)」を一つの周期として、このパターンが繰り返される。零ベクトルの間で使用される電圧ベクトルは、三相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*の大小関係が変わらない期間は、同じものが用いられる。
図3は、インバータ出力電圧のスイッチング状態と検出される中性点電位を示す。中性点電位は、8つの電圧ベクトル、V(0,0,0),V(1,1,1),V(1,0,0),V(1,0,1),V(0,0,1),V(0,1,1),V(0,1,0)、V(1,1,0)のうち、零ベクトルであるV(0,0,0),V(1,1,1)以外の6つの電圧ベクトルに対して検出される。以下では、6つの電圧ベクトル、V(1,0,0),V(1,0,1),V(0,0,1),V(0,1,1),V(0,1,0),V(1,1,0)に対して検出される中性点電位を、図示のように、それぞれ、VnA,VnB,VnC,VnD,VnE,VnFとする。
これらの零ベクトル以外の電圧ベクトルが印加される時の中性点電位は、回転子位置に応じて変化する。これを利用して、回転子位置を推定できる。ここで、回転子位置に依存した中性点電位の変化が小さい場合、増幅アンプを用いて電位変化を増幅する。
増幅アンプを使用した場合、増幅アンプに使用されるオペアンプや抵抗、キャパシタの個体特性ばらつきに起因して、オフセット誤差が発生する。これに対し、前述の特許文献4の技術では、電気角1周期に応じてオフセット誤差をメモリに蓄積し、蓄積されたオフセット誤差を検出された中性点電位から減算している。
しかし、零速や極低速での中性点電位を用いた回転位置センサレス制御を、1つの永久磁石同期モータを2つ以上のインバータで駆動するモータ制御装置に対して適用する場合、実用上の問題がある。一例として、1つの永久磁石同期モータを2つのインバータで駆動する場合について述べる。
図2は、複数の系統を持つ永久磁石同期モータの一例およびこのモータの巻線とインバータの接続を示す。本モータは、極数が8、スロット数が12である、8極12スロットモータである。積層された電磁鋼板からなる固定子コアに設けられる溝である、永久磁石同期モータ4のスロットには、U相、V相、W相の巻線が電磁鋼板に巻かれている。系統1においては、インバータ1と三相巻線41(U1,U2,V1,V2,W1,W2)が接続され、系統2においては、インバータ2と三相巻線42(U3,U4,V3,V4,W3,W4)が接続されている。系統1の中性点電位Vn-mと系統2の中性点電位Vn-sを用いて回転位置センサレス制御を行う。
このとき、系統1の三相巻線41と系統2の三相巻線42が同一のステータの電磁鋼板に巻かれているので、系統1の相間、系統2の相間、並びに系統1および系統2の間は、磁気的に結合しているとみなすことができる。このため、系統1における各相の巻線間、系統2の各相の巻線間、並びに系統1の巻線と系統2の巻線の間には、相互インダクタンス成分が存在する。
本発明者の検討によれば、このような相互インダクタンスによって、次に説明するように、中性点電位のオフセットが発生する。
図4は、系統1のインバータ31によってモータを駆動した時の系統1の中性点電位Vn-mの変動を電磁界解析した結果を示す。縦軸は、中性点電位の変動を、電源電圧の大きさに対する中性点電位の変動の大きさの割合(但し、「%」)によって表わしている。横軸は、回転子位相を電気角により示す。
図4に示すように、零ベクトル以外の6つの電圧ベクトルに対して検出される中性点電位(図3)、VnA,VnB,VnC,VnD,VnE,VnFにオフセットが発生する。電圧ベクトルによっては、オフセットの大きさが異なり、例えば、VnAでは、電源電圧に対して1.93%という比較的大きなオフセットが発生している。
本発明者の検討によれば、中性点電位のオフセットは、電源電圧や、磁気的な非対称性および複数のインバータ駆動に起因する、各相のインダクダンスの違いや各相間の相互インダクタンスの違いによって変動する。このようなオフセット誤差を含んだ中性点電位から回転子位置を推定すると、位置推定誤差が発生する。このため、電動機の回転ムラやトルク脈動が生じ、振動・騒音が発生する。
以下で説明する各実施形態は、上述のような中性点電位のオフセットの影響を除去して、中性点電位に基づく回転子位置の推定精度を向上する。
次に、本発明の実施形態1~6について、図面を用いて説明する。なお、各図において、参照番号が同一のものは同一の構成要件あるいは類似の機能を備えた構成要件を示している。
(実施形態1)
図5は、本発明の実施形態1である、三相同期電動機の制御装置(以下、「モータ制御装置」と記す)の構成を示すブロック図である。
モータ制御装置3は、三相同期電動機として、永久磁石同期モータ4を駆動制御する。このモータ制御装置3は、直流電源5、インバータ主回路311やワンシャント電流検出器312を含む系統1のインバータ31、インバータ主回路321やワンシャント電流検出器322を含む系統2のインバータ32、および駆動対象である永久磁石同期モータ4を備えている。
インバータ31およびインバータ32は、半導体スイッチング素子をオン・オフ制御することにより、直流電源5から供給される直流電力を三相交流電力に変換して出力する。そして、インバータ31およびインバータ32から出力される三相交流電力によって、永久磁石同期モータ4が駆動される。
本実施形態1においては、インバータ主回路311,321を構成する半導体スイッチング素子として、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)が適用される。また、インバータ31,32は電圧形であり、一般に、半導体スイッチング素子には逆並列に環流ダイオードが接続される。本実施形態1においては、環流ダイオードとして、MOSFETの内蔵ダイオードを用いているので、図5では、環流ダイオードの図示を省略している。なお、MOSFETに代えて、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などを適用しても良い。また、環流ダイオードを外付けしても良い。
永久磁石同期モータ4は、多巻線(本実施形態1では二巻線)モータであり、同一のステータに設けられる三相巻線41および三相巻線42を備えている。本実施形態1では、前述の図2に示すように、一つのステータにおいて、系統1の三相巻線41(U1,U2,V1,V2,W1,W2)が設けられる領域と、系統2の三相の三相巻線42(U3,U4,V3,V4,W3,W4))が設けられる領域とが分割されている。すなわち、回転軸に垂直な円形断面において、特定の直径を境に、一方の半円部に系統1の三相巻線41が設けられ、他方の半円部に系統2の三相巻線42が設けられる。この特定の直径を、図2の断面において、横方向(もしくは縦方向)にそろえて見れば、三相巻線41が設けられる領域と三相巻線42が設けられる領域とが上下(もしくは左右)に分かれている。そこで、このような構造を、以下、「上下(もしくは左右)分離構造」と呼ぶこととする。
なお、極数とスロット数の組み合わせは、図2に示したような8極12スロットである。なお、同じステータに複数系統の三相巻線を備え、三相巻線毎にインバータが接続されているならば、極数とスロット数の組み合わせは、所望のモータ性能に応じて、適宜設定して良い。
系統1のインバータ31は、インバータ主回路311やワンシャント電流検出器312のほかに、出力プリドライバ313を含む。
インバータ主回路311は、6個の半導体スイッチング素子Sup1~Swn1で構成される三相フルブリッジ回路である。
ワンシャント電流検出器312は、系統1のインバータ主回路311への供給電流I0-m(直流母線電流)を検出する。
出力プリドライバ313は、インバータ主回路311の半導体スイッチング素子Sup1~Swn1を直接駆動するドライバ回路である。
系統2のインバータ32は、インバータ主回路321やワンシャント電流検出器322のほかに、出力プリドライバ323を含む。
インバータ主回路321は、6個のスイッチング素子Sup2~Swn2で構成される三相フルブリッジ回路である。
ワンシャント電流検出器322は、系統2のインバータ主回路321への供給電流I0-s(直流母線電流)を検出する。
出力プリドライバ323は、インバータ主回路321の半導体スイッチング素子Sup2~Swn2を直接駆動するドライバである。
なお、ワンシャント電流検出器312によって検出される直流母線電流I0-mに基づいて、いわゆるワンシャント方式によって、三相巻線41に流れる三相電流が計測される。また、ワンシャント電流検出器322によって検出される直流母線電流I0-sに基づいて、同様に、三相巻線42に流れる三相電流が計測される。なお、ワンシャント方式については、公知技術であるため、詳細な説明は省略する。
直流電源5は、系統1のインバータ31および系統2のインバータ32に直流電力を供給する。なお、インバータ31とインバータ32に別々の直流電源で直流電力を供給してもよい。
系統1の制御部61は、三相巻線41の中性点電位Vn-mに基づき回転子位置(θd-m)を推定演算し、推定演算される回転子位置に基づいて、出力プリドライバ313に与えるゲート指令信号を作成する。
作成する。
系統2の制御部62は、三相巻線42の中性点電位Vn-sに基づき回転子位置(θd-s)を推定演算し、推定演算される回転子位置に基づいて、出力プリドライバ323に与えるゲート指令信号を作成する。
図6は、系統1の制御部61のブロック図を示す。制御部61においては、いわゆるベクトル制御が適用される。なお、系統2の制御部62の構成については、制御部61と同様であるため、説明は省略する。
図6に示すように、系統1の制御部61は、q軸電流指令発生手段(Iq*発生手段)611、d軸電流指令発生手段(Id*発生手段)612、減算手段613a、減算手段613b、d軸電流制御手段(IdACR)614a、q軸電流制御手段(IqACR)614b、dq逆変換手段615、PWM発生手段616、電流再現手段617、dq変換手段618、サンプル/ホールド手段(S/H回路)619、速度演算手段620、パルスシフト手段621、中性点電位検出部622、回転位置推定部623から構成される。本構成により、制御部61は、q軸電流指令Iq*およびd軸電流指令Iq*に応じたトルクを永久磁石同期モータ4が発生するように動作する。
Iq*発生手段611は、電動機のトルク相当のq軸電流指令Iq*を発生する。Iq*発生手段611は、通常、実速度ω1を観測しながら、永久磁石同期モータ4の回転数が所定値になるように、q軸電流指令Iq*を発生する。Iq*発生手段611の出力であるq軸電流指令Iq*は減算手段613bに出力される。
Id*発生手段612は、永久磁石同期モータ4の励磁電流に相当するd軸電流指令Id*を発生する。Id*発生手段612の出力であるd軸電流指令Id*は減算手段613aに出力される。
減算手段613aは、Id*発生手段612の出力であるd軸電流指令Id*と、dq変換手段618の出力するd軸電流Id、すなわち三相巻線41に流れる三相電流(Iuc,Ivc,Iwc)をdq変換して得られるd軸電流Idとの偏差を求める。
減算手段613bは、Iq*発生手段611の出力であるq軸電流指令Iq*と、dq変換手段618の出力するq軸電流Iq、すなわち三相巻線41に流れる三相電流(Iuc,Ivc,Iwc)をdq変換して得られるq軸電流Iqとの偏差を求める。
IdACR614aは、減算手段613aによって演算されるd軸電流偏差が零になるように、dq座標軸上のd軸電圧指令Vd*を演算する。また、IqACR614bは、減算手段613bによって演算されるq軸電流偏差が零になるように、dq座標軸上のq軸電圧指令Vq*を演算する。IdACR614aの出力であるd軸電圧指令Vd*およびIqACR614bの出力であるq軸電圧指令Vq*は、dq逆変換手段615に出力される。
dq逆変換手段615は、dq座標(磁束軸―磁束軸直交軸)系の電圧指令Vd*,Vq*を三相交流座標上の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に変換する。dq逆変換手段615は、電圧指令Vd*,Vq*および系統1の回転位置推定部623(図6)が出力する回転子位置θd-mに基づき、三相交流座標系の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を演算する。dq逆変換手段615は、演算したVu*,Vv*,Vw*をPWM発生手段616に出力する。
PWM発生手段616は、系統1のインバータ主回路311の電力変換動作を制御するためのPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)信号を出力する。PWM発生手段616は、三相交流電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に基づき、これら三相交流電圧指令とキャリア信号(例えば、三角波)とを比較することによりPWM信号(後述する図9,10,14におけるPVu,PVv,PVw)を発生する。PWM発生手段616から出力されるPWM信号は、後述するパルスシフト手段621を介して、ゲート指令信号として出力プリドライバ313(図4)に入力されると共に、サンプル/ホールド手段619に入力される。
電流再現手段617は、インバータ主回路311からワンシャント電流検出器312へ出力される直流母線電流I0-mから、三相巻線41に流れる三相電流(Iuc,Ivc,Iwc)を再現する。再現された三相電流(Iuc,Ivc,Iwc)は、電流再現手段617からdq変換手段618に出力される。
dq変換手段618は、三相電流(Iuc,Ivc,Iwc)を、回転座標軸であるdq座標上のId,Iqに変換する。変換されたIdおよびIqは、それぞれ、減算手段613aおよび613bにて電流指令との偏差の演算に用いられる。
サンプル/ホールド手段619は、パルスシフト手段621を介して入力するPWM信号に基づき、相電流情報を取得するタイミング、すなわちPWMパルスが切り替わるタイミングで、直流母線電流I0-mの値をサンプリングして、サンプリングした値を保持しながら電流再現手段617へ出力する。具体的なサンプリングタイミングについては、公知技術であるため、詳細な説明は省略する。
速度演算手段620は、回転位置推定部623の推定値である回転子位置θd-mから、永久磁石同期モータの回転速度ω1を計算する。この演算された回転速度ω1は、Iq*発生手段611に出力され、磁束軸(d軸)に直交する軸(q軸)における電流制御に用いられる。
パルスシフト手段621は、サンプル/ホールド手段619によって正確な相電流情報が得られるように直流母線電流にパルス状に流れる相電流の通流時間をサンプリングタイミングにおいて長くするために、PWM発生手段616からのPWM信号の位相をシフトして、サンプル/ホールド手段619および中性点電位検出部622に出力する。なお、パルスシフトは公知技術であるため、詳細な説明は省略する。
中性点電位検出部622は、スター結線される三相巻線の中性点電位Vn-mを検出し、後述するように、Vn-mの検出値からオフセットを除去し、オフセットが除去された中性点電位値Vn-m’を出力する。
回転位置推定部623は、中性点電位検出部622から入力するオフセットが除去された中性点電位値Vn-m’に基づき、三相巻線41について回転子位置θd-mを推定演算する。前述のように、零ベクトル以外の電圧ベクトルが印加される時の中性点電位は、回転子位置に応じて変化する。これを利用して、回転子位置を推定する。なお、中性点電位から回転子位置を推定する具体的な手段については、公知技術であるため(例えば、前述の特許文献3および特許文献4参照)、詳細な説明は省略する。
なお、本実施形態1において、系統1の制御部61は、一個のマイクロコンピュータによって構成される。また、系統2の制御部62は、別の一個のマイクロコンピュータによって構成される。三相巻線41の中性点および三相巻線42の中性点は、それぞれ、系統1における制御用のマイクロコンピュータおよび系統2における制御用のマイクロコンピュータに、配線などによって電気的に接続される。これにより、中性点電位検出部(図6の622)は、三相巻線の中性点電位を検出する。もしくは、後述するように(図8)、仮想中性点回路を用いて中性点電位を検出しても良い。
さらに、インバータ主回路311、出力プリドライバ313、インバータ主回路321、出力プリドライバ323の各々を、集積回路装置により構成しても良い。また、インバータ31およびインバータ32の各々を集積回路装置により構成しても良い。これらにより、モータ制御装置を大幅に小型化できる。また、各種電動装置へのモータ制御装置の実装が容易になったり、各種電動装置を小型化されたりする。
次に、このモータ駆動システムの基本動作について説明する。
本実施形態1においては、同期電動機のトルクを線形化する制御手段として一般的に知られているベクトル制御が適用される。
ベクトル制御技術の原理は、モータの回転子位置を基準とした回転座標軸(dq座標軸)上にて、トルクに寄与する電流Iqと、磁束に寄与する電流Idとを独立に制御する手法である。図6におけるd軸電流制御手段614a、q軸電流制御手段614b、dq逆変換手段615、dq変換手段618などは、このベクトル制御技術実現のための主要部分である。
図6の系統1の制御部61においては、Iq*発生手段611にて、トルク電流に相当する電流指令Iq*が演算され、電流指令Iq*と永久磁石同期モータ4の実際のトルク電流Iqが一致するように電流制御が行われる。
電流指令Id*は、非突極型の永久磁石同期モータであれば、通常「零」が与えられる。一方、突極構造の永久磁石同期モータや、界磁弱め制御においては、電流指令Id*と
して負の指令を与える場合もある。
なお、永久磁石同期モータの三相電流は、CT(Current Transformer)などの電流セ
ンサによって直接検出したり、本実施形態1のように、直流母線電流に基づいて制御器内部にて再現演算したりする。本実施形態1においては、系統1の直流母線電流I0-mや系統2の直流母線電流I0-sから、三相電流を再現演算する。例えば、図6に示す制御部61においては、パルスシフト手段621によって位相シフトされたPWM信号に応じたタイミングでS/H手段619を動作させて直流母線電流I0-mの電流値をサンプリングしてホールドすることにより、三相電流に関する情報を含む直流母線電流I0-mの電流値を取得する。そして、取得された電流値から、電流再現手段617によって三相電流(Iuc,Ivc,Iwc)が再現演算される。なお、再現演算の具体的手段については、公知技術であるため、詳細な説明は省略する。
本実施形態1において、回転座標系における基準となる回転子位置は、三相巻線の中性点電位に基づいて、回転位置推定部によって推定される。例えば、系統1の制御部61において、回転位置推定部623は、中性点電位検出部622で検出される、オフセットが除去された中性点電位Vn-m’に基づき、三相巻線41について回転子位置θd-mを推定する。なお、系統2においても、同様に、三相巻線42について回転子位置が推定される。
以下、本実施形態1における、中性点電位から回転子位置を推定する手段について、系統1を代表として、説明する。
まず、中性点電位の変動について説明する。
インバータ31の各相の出力電位は、インバータ主回路311の上側半導体スイッチング素子(Sup1,Svp1,Swp1)もしくは下側半導体スイッチング素子(Sun1,Svn1,Swn1)のオン/オフ状態によって設定される。これらの半導体スイッチング素子は、各相において、上側および下側の一方がオン状態であれば、他方はオフ状態である。すなわち、各相において、上側および下側半導体スイッチング素子は相補的にオン・オフされる。したがって、インバータ31の出力電圧は、全部で8通りのスイッチングパターンを有する。
図7は、インバータ出力電圧のスイッチングパターンを表すベクトル図(左図)並びに回転子位置(位相)θdと電圧ベクトルの関係を示すベクトル図(右図)である。
各ベクトルにはV(1,0,0)のように名称をつけている。このベクトル表記において、上側半導体スイッチング素子がオンの状態を「1」で表し、下側半導体スイッチング素子がオンの状態を「0」で表している。また、括弧内の数字の並びは「U相、V相、W相」の順番にスイッチング状態を表している。インバータ出力電圧は、二つの零ベクトル(V(0,0,0),V(1,1,1))を含む八つの電圧ベクトルを用いて表現できる。これら八つの電圧ベクトルを組み合わせることによって、正弦波状の電流を永久磁石同期モータ4に供給する。
図7(右図)が示すように、永久磁石同期モータ4の回転子位置の基準をU相方向として、回転子位置(位相)θdを定義する。回転座標におけるdq座標軸は、磁石磁束Φmの方向をd軸方向としており、反時計回りに回転する。なお、q軸方向は、d軸方向に直交する方向である。
ここで、θd=0度付近である場合、誘起電圧ベクトルEmは、その方向がq軸方向であるから、電圧ベクトルV(1,0,1)およびV(0,0,1)の近くに位置している。この場合、主に電圧ベクトルV(1,0,1)およびV(0,0,1)を用いて永久磁石同期モータ4は駆動される。なお、電圧ベクトルV(0,0,0)およびV(1,1,1)も用いられるが、これらは零ベクトルである。
図8は、電圧ベクトルが印加された状態における永久磁石同期モータ4と仮想中性点回路34との関係を示す。ここで、Lu,LvおよびLwは、それぞれ、U相巻線のインダクタンス、V相巻線のインダクタンスおよびW相巻線のインダクタンスである。なお、印加される電圧ベクトルは、上述の電圧ベクトルV(1,0,1)(左図)およびV(0,0,1)(右図)である。
図8に示す中性点電位Vn0は、次のように演算することができる。なお、仮想中性点回路の中性点電位を基準電位としている。
電圧ベクトルV(1,0,1)の印加時は、式(1)により演算される。
電圧ベクトルV(0,0,1)の印加時は、式(2)により演算される。
ここで、「//」という表記は、二つのインダクタンスの並列回路の総合インダクタンス値であり、例えば、「Lu//Lw」は、式(3)で表される。
三相の巻線インダクタンスLu,Lv,Lwの大きさが全て等しければ、式(1),(2)より、中性点電位Vn0は零である。しかし、実際には、回転子の永久磁石磁束分布の影響を受け、少なからずインダクタンスの大きさに差異が生じる。すなわち、インダクタンスLu,LvおよびLwの大きさは回転子の位置によって変化し、Lu,LvおよびLwの大きさに差異が生じる。このため、回転子位置に応じて、中性点電位Vn0の大きさが変化する。
前述の図1には、三角波キャリアを用いたパルス幅変調の様子と、そのときの電圧ベクトル、並びに中性点電位の変化の様子が示されている。ここで、三角波キャリアとは、三相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*の大きさをパルス幅に変換するための基準となる信号であり、この三角波キャリアと三相電圧指令Vu*,Vv*,Vw*の大小関係を比較することで、PWMパルスが作成される。図1に示すように、各電圧指令Vu*,Vv*,Vw*と三角波キャリアの大小関係が変化する時点にて、PWMパルスの立ち上がり/立下りが変化している。また、同時点において、零ではない中性点電位Vn0が検出されている。
図1に示すように、PWMパルスの立ち上がり/立下りの時点以外では、中性点電位Vn0はほとんど変動していない。これは、回転子位置に応じて生じる三相の巻線インダクタンスLu,Lv,Lwの大きさの差異が小さいことを示している。これに対し、PWMパルスの立ち上がり/立下りの時点、すなわち零ベクトル以外の電圧ベクトル(図1では、V(1,0,1)およびV(0,0,1))が印加されている時、モータ電流の変化率が大きくなるので、インダクタンスの大きさの差異が小さくても、比較的大きな中性点電位Vn0の変動が検出される。従って、PWMパルス信号PVu,PVv,PWwに同期して中性点電位を観測すれば、感度よく中性点電位の変動を検出することができる。
次に、検出された中性点電位から回転子位置を推定する手段について説明する。
中性点電位Vn0は、回転子位置に応じて周期的に変化するので(例えば、上述の特許文献3および特許文献4参照)、予め回転子位置と中性点電位Vn0との関係を実測あるいはシミュレーションして、回転子位置と中性点電位Vn0の関係を示すマップデータ、テーブルデータあるいは関数を求めておく。このようなマップデータ、テーブルデータあるいは関数を用いて、検出された中性点電位から回転子位置を推定する。
また、2種類の電圧ベクトル(図1では、V(1,0,1)およびV(0,0,1))について検出される中性点電位を三相交流量(の二相分)とみなして、座標変換(三相二相変換)を用いて位相量を演算し、この位相量を回転子位置の推定値とする。なお、本手段は、公知技術によるものであるため(例えば、上述の特許文献4参照)、詳細な説明は省略する。
系統1の回転位置推定部623(図6)は、上述のような推定手段によって、中性点電位検出部622(図6)が出力する中性点電位Vn-m’に基づいて、回転子位置θd-mを推定する。これらの推定手段は、所望の位置検出精度や、制御用のマイクロコンピュータの性能に応じて、適宜選択される。なお、系統2についても同様である。
以下では、本実施形態1における中性点電位検出部622(図6)について説明する。
系統1の中性点電位検出部622は、三相巻線41の中性点電位Vn-mを検出し、Vn-mの検出値からオフセットを除去し、オフセットが除去された中性点電位値Vn-m’を出力する。なお、系統2においても、中性点電位検出部が設けられるが、系統1と同様であるため、説明は省略する。
系統1の中性点電位検出部622について説明する。
図9は、系統1の中性点電位検出部622の構成を示すブロック図である。
図9に示すように、中性点電位検出部622は、中性点電位オフセット演算手段624と電位検出手段625で構成される。
中性点電位オフセット演算手段624は、パルスシフト手段621(図6)の出力であるゲート指令信号と直流電源5(図5)の出力である電源電圧Eから中性点電位オフセットを演算する。
次に、中性点電位オフセット演算手段624の機能について、具体的に説明する。
前述の図2の永久磁石同期モータ4は、ステータの三相巻線が上下(もしくは左右)分離構造を有する。なお、三相巻線41は、図2中で反時計回りに、W1→U1→V1→W2→U2→V2の順番で、ステータの各ティースに巻線が集中的に巻かれている。そのため、三相巻線41において、UV相間の相互インダクタンスMuv1、VW相間の相互インダクタンスMvw1、WU相間の相互インダクタンスMwu1に違いが生じる。このため、中性点電位のオフセットが発生する。さらに、中性点電位のオフセットは、インバータ31のスイッチングパターンや電源電圧Eによっても変動する。
前述の図4に示すように、中性点電位の内、例えば、V(1,0,0)が出力されるときに検出されるVnAは、正方向に1.93%の電圧オフセットを有し、V(0,1,1)が出力されるときに検出されるVnDは負方向に1.93%の電圧オフセットを有する。図4に示すように、電圧オフセットは、電圧ベクトル毎に、その方向および大きさが異なり、複雑なパターンを呈する。そこで、本実施形態1では、このような中性点電位のオフセットを、次のように、演算により求める。
オフセットを演算するために、式(4)のような、モータの三相電圧方程式が用いられる。
ここで、Vun1,Vvn1,Vwn1は、それぞれ、UN間の相電圧、VN間の相電圧、WN間の相電圧である。Lu,Lv,Lw,Muv,Mvw,Mwuは、それぞれ、U相の自己インダクタンス、V相の自己インダクタンス、W相の自己インダクタンス、UV相間の相互インダクタンス、VW相間の相互インダクタンス、WU相間の相互インダクタンスである。Iu1,Iv1,Iw1は、それぞれ、U相電流、V相電流、W相電流である。eu,ev,ewは、それぞれ、U相起電圧、V相起電圧、W相起電圧である。Rは巻線抵抗である。pは微分演算子(d/dt)である。
図10は、電圧ベクトルV(1,0,0)が出力されるときの系統1の三相巻線41における電流・電圧を示す。なお、図中の「E」は、インバータ主回路311(図5)を介して三相巻線41に印加される直流電源5からの電源電圧を示す。
図10の場合、インバータ主回路311のU相上アームがオン、V相およびW相下アームがオンとなっており、検出される中性点電位はVnAとなる。なお、図10における中性点電位は、仮想中性点回路(図8参照)を用いて、基準電位を接地電位(直流電源5(図5参照)の低電位側)として表している。図10から、相電圧Vun1,Vvn1,Vwn1と中性点電位VnAとの関係を示す式(5)が得られる。
式(1)と式(5)、並びに三相平衡電流に関する公知の関係式「Iu1+Iv1+Iw1=0」より、電圧ベクトルV(1,0,0)が出力されるときの中性点電位VnAが算出できる。ただし、三相巻線41に流れる電流が小さく、かつ、モータが停止しているか、もしくは極低速で回転しているとし、式(4)の右辺の第1項および第3項は無視する。
他の電圧ベクトルが出力されるときの中性点電位VnB,VnC,VnD,VnE,VnF(図3参照)についても、VnAに関する式(5)と同様の関係式を求め、求めた関係式と式(1)とから、各中性点電位を算出できる。
上述のように算出される中性点電位VnA,VnB,VnC,VnD,VnE,VnFは式(6)で表される。ただし、各相の自己インダクタンス(Lu,Lv,Lw)の大きさは等しく、Lであるとする。
式(6)において、相互インダクタンスが零であると、図8について前述したように、算出される中性点電位は零になる。また、前述のように、PWMパルスの立ち上がり/立下りの時点、すなわち零ベクトル以外の電圧ベクトル(図1では、V(1,0,1)およびV(0,0,1))が印加されている時、モータ電流の変化率が大きくなるので、中性点電位が検出される。従って、この場合は、オフセットなしで中性点電位が検出される。
これに対し、相互インダクタンスが存在すると、式(6)で表されるような中性点電位が算出される。そして、PWMパルスの立ち上がり/立下りの時点において、モータ電流の変化率が大きくなると、中性点電位は、式(6)で表される中性点電位から変動する。すなわち、式(6)で表される中性点電位は、検出される中性点電位に含まれる電圧オフセットに相当する。
なお、本実施形態の三相巻線41の構成(図2参照)では、MvwとMwuの大きさは異なるため、零ベクトル以外の6個の電圧ベクトルの各々に対して、零ではないオフセットが算出される(図4参照)。
このように式(6)は、各電圧ベクトルが出力されるときの、中性点電位のオフセットを表している。そして、式(6)が示すように、中性点電位のオフセットは、電源電圧、巻線の自己インダクタンスおよび相互インダクタンスに依存する。
図9に示す中性点電位オフセット演算手段624は、式(6)に基づいて、電圧ベクトルすなわちスイッチングパターンに応じてオフセットを演算する。中性点電位オフセット演算手段624は、ゲート指令信号に基づいて、スイッチングパターンがいずれの電圧ベクトルに相当するか、すなわち式(6)中のVnA~VnFの内のいずれを演算するのかを判定する。
式(6)で用いられる電源電圧Eは、直流電源5側から情報を取り込んだり、インバータ主回路311の直流側で入力電圧を検出して取得されたりする。なお、電源電圧Eは、直接AD変換して取り出してもよいし、分圧してからAD変換して取り出してもよい。また、ディジタルやアナログのフィルタや平均値処理を使用してもよい。
式(6)における相互インダクタンスおよび自己インダクタンスの値は、実測や電磁界解析などによって求められる。従って、中性点電位検出部622に設定される式(6)において、相互インダクタンスおよび自己インダクタンスは予めそれらの定数値が与えられており、電源電圧Eすなわちインバータの直流電圧が変数となる。すなわち、中性点電位検出部622は、直流電圧に基づいて、式(6)を用いて、中性点電位Vn-mを補正する。
図9に示すように、中性点電位検出部622において、中性点電位オフセット演算手段624によって演算されたオフセットが、三相巻線41において検出された中性点電位Vn-mから減算される。そして、電位検出手段625は、このようにしてVn-mからオフセットが除去された電圧値を、中性点電圧検出値Vn-m’として出力する。
図11は、前述の図4に示す中性点電位に対し、上述のような手段によりオフセットが補正された中性点電位を示す。図11に示すように、中性点電位VnA~VnAのいずれにおいても、図4におけるオフセット(最大1.93%)が除去されている。
上述のように、中性点電位検出部622は、三相巻線における相互インダクタンスおよび自己インダクタンス、電源電圧、並びにゲート指令信号に基づいて、三相巻線において検出される中性点電位(Vn-m)を、オフセットが除去されるように補正する。このようにオフセットが除去された中性点電位値に基づいて回転子の位置を推定することにより、回転子位置の推定精度が向上する。
なお、本実施形態1において、中性点電位検出部622は、中性点電位オフセット演算手段624を用いて、中性点電位のオフセットを、常時各スイッチングパターンに応じて補正する。これにより、中性点電位に基づく回転子位置の推定におけるオフセットの影響が常時補償されるので、高精度の回転子位置推定が可能になる。
本実施形態1においては、三相巻線41内における相間の相互インダクタンスがオフセットの補正に用いられるが、さらに三相巻線41と三相巻線42との間における相互インダクタンスを用いても良い。これにより、ステータにおける三相巻線の構成に応じて三相巻線41と三相巻線42の磁気的干渉が大きくなる場合などにおいて、回転子位置の推定精度が向上する。なお、この場合は、三相巻線41と三相巻線42との間における相互インダクタンスも考慮した三相電圧方程式が用いられる。
上述の式(6)では、インダクタンスの電流依存性は特段考慮されていない。これに対し、インダクタンスの電流依存性を考慮して、dq変換手段618(図6)が出力するdq軸電流(Id,Iq)に基づき、自己インダンタンスおよび相互インダクタンスを算出しても良い。
上述のように、本実施形態1によれば、三相巻線の中性点電位に基づいて回転子位置を推定する場合に、電源電圧すなわちインバータの直流電圧に基づいて、三相巻線において検出される中性点電位を、三相巻線における相互インダクタンスに依存するオフセットが除去されるように補正するので、中性点電位がオフセットを有していても回転子位置の推定精度を向上することができる。オフセットは制御部の演算機能によって除去されるので、モータ制御装置の部品点数を増やすことなく、回転子位置の推定精度を向上することができる。
また、本実施形態1によれば、各相の相互インダクタンスの大きさが異なり中性点電位のオフセットが大きな三相同期電動機を用いるモータ駆動システムにおいて、極低速度での位置センサレス駆動を実現できる。
また、本実施形態1によれば、三相同期電動機を中性点電位に基づいて制御する場合、三相同期電動機として図2に示すような巻線間の渡りの少ない構造、すなわち比較的大きなオフセットが発生し得る永久磁石同期モータを採用できる。このようなモータは、中性点電位の結線長さを短くでき、組立が容易であるため、モータコストを低減することができる。
なお、上述のような中性点電位のオフセットの補正は、一つのステータに設けられる二つの三相巻線が二つのインバータで駆動される場合に限らず、一つのステータに設けられる一つの三相巻線が一つのインバータで駆動される場合や、一つのステータに設けられる三つ以上の三相巻線が同数のインバータで駆動される場合にも適用でき、同様な効果を得ることができる。
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2について、図12から図14を用いて説明する。なお、主に、実施形態1と異なる点について説明する。
図12は、実施形態2における、複数の系統を持つ永久磁石同期モータの一例およびこのモータの巻線とインバータの接続を示す。
図12に示すように、本実施形態2における永久磁石同期モータ4は、実施形態1の場合(図2)と同様に多巻線(二巻線)モータであり、同一のステータに二組の三相巻線(三相巻線41aおよび42a)を備えている。系統1の三相巻線41aは、U相巻線U1およびU2、V相巻線V2およびV3、W相巻線W1およびW4からなる。また、系統2の三相巻線42aは、U相巻線U3およびU4、V相巻線V1およびV4、W相巻線W2およびW3からなる。三相巻線41aと三相巻線42aは、各系統の二つの相巻線を一組とし、ステータの回転軸方向に垂直な円形断面の周方向において交互に設けられる。すなわち、本実施形態2における永久磁石同期モータ4においては、実施形態1とは異なり、系統1の三相巻線41aが設けられる領域と系統2の三相巻線42aが設けられる領域が互いに入り組んでいる。そこで、このような構造を、以下、「星型構造」と呼ぶこととする。
図12のような星型構造の三相巻線の場合、各相の対称性のため、同じ系統内では各相間の相互インダクタンスの大きさがほぼ等しくなる。従って、前述の式(6)においてMvw=Mwuとすれば判るように、一つの系統における相互インダクタンスだけを考慮するならば、中性点電位のオフセットは発生しないと考えられる。
しかし、本実施形態2においては、三相巻線の星型構造により、系統1の三相巻線41aと系統2の三相巻線42aとの間における磁気的結合が強くなるため、系統1の三相巻線41aと系統2の三相巻線42aとの間における相互インダクタンスが増加する。このため、中性点電位にオフセットが発生する。すなわち、三相巻線41aに接続されるインバータが出力するスイッチングパターンに応じて三相巻線42aの中性点電位にオフセットが発生し、三相巻線42aに接続されるインバータが出力するスイッチングパターンに応じて三相巻線41aの三相巻線の中性点電位にオフセットが発生する。
図13は、本発明の実施形態2である、三相同期電動機の制御装置(以下、「モータ制御装置」と記す)の構成を示すブロック図である。
図13に示すように、本実施形態2のモータ制御装置は、系統1の制御部61aと系統2の制御部62a間の通信を制御する制御部通信部63を備える。制御部61aおよび制御部62aは、実施形態1における制御部(図5の61,62)と同様の機能を有するとともに、さらに、制御部通信部63を介して互いに通信し、自系統における情報を他系統へ送ることができるとともに、他系統に関する情報を取得することができる。これにより、制御部61aは、制御部62aが出力プリドライバ323へ出力するゲート信号、すなわち系統2のインバータ32が出力するスイッチングパターンを示す情報を取得する。また、制御部62aも同様に、系統1のインバータ31が出力するスイッチングパターンを示す情報を取得する。
図14は、本実施形態2における系統1の制御部61aが備える中性点電位検出部における中性点電位オフセット演算手段624aを示す(実施形態1(図9)における中性点電位オフセット演算手段624に対応)。なお、系統2の制御部62aの構成は制御部61aの構成と同様であるため、制御部62aについては説明を省略する。
図14に示すように、中性点電位オフセット演算手段624aは、系統1のゲート指令信号と、制御部通信部63によって制御部62aから取得される系統2のゲート指令信号と、電源電圧Eとに基づいて、系統1のインバータ31のスイッチングパターンおよび系統2のインバータ32のスイッチングパターンに応じて、系統1の三相巻線41aの中性点電位に発生するオフセットを演算する。なお、本実施形態2の中性点電位検出部(実施形態1(図9)における中性点電位検出部622に対応)の他の構成は実施形態1(図9)と同様である。
本実施形態2において、オフセットは、実施形態1と同様に、モータの三相電圧方程式(前述の式(3)に対応)と、各スイッチングパターンにおける相電圧とオフセットとの関係(前述の式(4)に対応)と、三相平衡電流の関係式とから、求める。ただし、自系統の三相電圧方程式においては、自系統の自己インダクタンスおよび相互インダクタンスに加えて、自系統の巻線と他系統の巻線との間の相互インダクタンスが考慮される。したがって、三相電圧方程式は、自系統の相電流に加えて、他系統の電流を含む。また、自系統および他系統のスイッチングパターンに応じて、自系統および他系統に関する三相電圧方程式、相電圧とオフセットとの関係、および三相平衡電流の関係式から、オフセットが求められる。なお、求められるオフセットには、前述の式(6)と同様に、電源電圧Eがパラメータとして含まれる。
中性点電位オフセット演算手段624aには、系統1のスイッチンクパターンと系統2のスイッチングパターンの組み合わせと、上述のようにして求められる系統1の三相巻線41aの中性点電位のオフセットとの対応を示す式あるいはデータが予め設定されている。中性点電位オフセット演算手段624aは、このような式あるいはデータを用いて、入力する系統1および系統2のゲート指令信号が示す系統1および系統2のスイッチングパターンの組み合わせと、入力する電源電圧Eとに基づいて、系統1の三相巻線41aの中性点電位のオフセットを演算する。
上述のように、本実施形態2によれば、二系統の三相巻線を備える永久磁石同期モータを二系統のインバータで駆動し、三相巻線の中性点電位に基づいて回転子位置を推定する場合に、自系統における三相巻線の自己インダクタンスおよび相互インダクタンス、自系統と他系統の間の相互インダクタンスおよび電源電圧に基づいて、三相巻線において検出される中性点電位を、オフセットが除去されるように補正するので、中性点電位がオフセットを有していても回転子位置の推定精度を向上することができる。オフセットは制御部の演算機能によって除去されるので、モータ制御装置の部品点数を増やすことなく、回転子位置の推定精度を向上することができる。
また、本実施形態2によれば、二系統の三相巻線を備える永久磁石同期モータを二系統のインバータで駆動するモータ駆動システムにおいて、極低速度での位置センサレス駆動を実現できる。
なお、制御部61aおよび制御部62aを同一のマイクロコンピュータで構成すれば、制御部通信部63を省略しても、同様にオフセットを補正することができる。
また、本実施形態2におけるオフセット補正手段は、図12に示すような一つの系統内では相互インダクタンスが等しい永久磁石同期モータに限らず、一つの系統内で相互インダクタンス差があり、かつ系統間に相互インダクタンスが存在するようなる永久磁石同期モータに対しても適用できる。
(実施形態3)
本実施形態3では、上述のような中性点電位による回転子位置推定と、回転位置検出器(例えば、ホールIC、レゾルバ、エンコーダ、GMRセンサ)による回転位置検知を併用する。通常は、回転位置検出器によって検知される回転子位置に基づいてモータ制御が実行される。また、中性点電位による回転推定位置に基づいて、回転位置検出器の異常が判定される。回転位置検出器が異常と判定されると、中性点電位による回転推定位置に基づいてモータ制御が実行される。これにより、回転位置検出器に故障や信号異常などの不具合が生じても、回転子推定位置によりモータ制御を継続できるので、モータ制御装置の信頼性が向上する。
以下、本発明の実施形態3について、図15から図17を用いて説明する。なお、主に、実施形態1と異なる点について説明する。
図15は、本発明の実施形態3である、三相同期電動機の制御装置(以下、「モータ制御装置」と記す)の構成を示すブロック図である。
図15に示すように、実施形態1(図5)の構成に加えて、系統1に回転位置検出器411および412が設けられ、系統2に回転位置検出器421,422が設けられる。本実施形態4においては、各系統において複数の回転位置検出器を冗長に設けることにより、回転位置検出器による回転位置検出の信頼性が向上する。なお、後述するように、回転位置検出器421,422の異常の有無を判定して、正常な回転位置検出器が出力する回転子位置を用いることにより、高精度のモータ制御を維持できる。
さらに、系統1において、回転位置検出器411,412によって検知される回転子位置θd-11,θd-12が制御部61bに入力される。制御部61bは、回転子位置θd-11,θd-12および、実施形態1と同様に補正される中性点電位に基づいて推定される回転子位置の内、正しい回転子位置を判定する。そして、制御部61bは、正しいと判定された回転子位置を用いて、系統1のインバータ31の出力プリドライバ313に与えるゲート指令信号を作成する。
また、系統2において、回転位置検出器421,422によって検知される回転子位置θd-21,θd-22が制御部62bに入力される。制御部62bは、回転子位置θd-21,θd-22および、実施形態1と同様に補正される中性点電位に基づいて推定される回転子位置の内、正しい回転子位置を判定する。そして、制御部62bは、正しいと判定された回転子位置を用いて、系統2のインバータ32の出力プリドライバ323に与えるゲート指令信号を作成する。
図16は、系統1の制御部61bのブロック図を示す。制御部61bにおいては、実施形態1(図6)と同様に、いわゆるベクトル制御が適用される。なお、系統2の制御部62bの構成については、制御部61bと同様であるため、説明は省略する。
図16が示すように、制御部61bは、実施形態1(図6)の制御部61の構成に加えて、検出位置判定手段626を備える。
検出位置判定手段626は、回転位置検出器411および回転位置検出器412の故障などの異常の有無を、回転子位置θd-21,θd-22、並びにオフセットが補正された中性点電位検出値Vn-m’に基づいて回転位置推定部623によって推定される回転子位置θd-mに基づいて判定する。そして、異常が無い回転位置検出器から出力される回転子位置を、モータ制御に用いる回転位置θd-31として出力する。なお、回転位置検出器411および回転位置検出器412の両方とも異常有と判定される場合、検出位置判定手段626は、回転位置推定部623によって推定される回転子位置θd-mをモータ制御に用いる回転位置θd-31として出力する。
図17は、系統1における検出位置判定手段626が実行する判定処理を示すフロー図である。なお、系統2における検出位置判定手段が実行する判定処理も同様である。
まず、ステップS11において、検出位置判定手段626は、回転位置検出器411の出力であるθd-11と回転位置検出器412の出力であるθd-12とが略一致しているかを判定する。例えば、θd-11とθd-12の差分の大きさが、予め設定される値以下である場合、略一致していると判定される。θd-11とθd-12が略一致している場合(ステップS11のYes)、ステップS12に進み、θd-11とθd-12が不一致の場合、ステップS13に進む(ステップS11のNo)。
ステップS12において、検出位置判定手段626は、θd-11を、正しい回転子位置θd-31として出力する。すなわち、制御部61bにおいて、θd-11がモータ制御に用いられる。なお、本ステップS12において、検出位置判定手段626は、θd-11に代えてθd-12を、θd-31として出力してもよい。
ここで、θd-11とθd-12が不一致の場合、回転位置検出器411または回転位置検出器412のいずれか一方が異常であると判断することができる。そこで、ステップS13およびステップS15により、回転位置推定部623が出力する回転子推定位置θd-mを用いて、回転位置検出器411および回転位置検出器412のうちいずれの回転位置検出器が異常であるかが判定される。
ステップS13において、検出位置判定手段626は、θd-11とθd-mが略一致しているかを判定する。例えば、θd-11とθd-mの差分の大きさが、予め設定される値以下である場合、略一致していると判定される。θd-11とθd-mが略一致している場合(ステップS13のYes)、回転位置検出器411は正常であると判断され、ステップS14に進み、θd-11とθd-mが不一致の場合、回転位置検出器411は異常であると判断され、ステップS15に進む(ステップS13のNo)。
ステップS14において、検出位置判定手段626は、θd-11を、正しい回転子位置θd-31として出力する。すなわち、制御部61bにおいて、θd-11がモータ制御に用いられる。
ステップS15において、検出位置判定手段626は、θd-12とθd-mが略一致しているかを判定する。例えば、θd-12とθd-mの差分の大きさが、予め設定される値以下である場合、略一致していると判定される。θd-12とθd-mが略一致している場合(ステップS15のYes)、回転位置検出器412は正常であると判断され、ステップS16に進み、θd-12とθd-mが不一致の場合、回転位置検出器412は異常であると判断され(ステップS15のNo)、ステップS17に進む。
ステップS16において、検出位置判定手段626は、θd-12を、正しい回転子位置θd-31として出力する。すなわち、制御部61bにおいて、θd-12がモータ制御に用いられる。
ステップS17では、ステップS13およびステップS15よって回転位置検出器411,412がともに異常であると判定されているので、検出位置判定手段626は、θd-mを、正しい回転子位置θd-31として出力する。すなわち、制御部61bにおいて、θd-mがモータ制御に用いられる。
なお、θd-11、θd-12およびθd-mの各回転子位置が、同じタイミングでの位置であることが好ましい。例えば、回転位置検出器の検出タイミングを補正したり、各位置データを補間などにより補正したりすることで、3つの位置を同一タイミングで比較できる。これにより、回転位置検出器の異常の判定精度が向上する。
上述のように、本実施形態3によれば、回転子推定位置により、冗長に設けられる複数の回転位置検出器のうちいずれが異常であるかを判定することができる。これにより、複数の回転位置検出器のいずれかが異常である場合であっても、正常な回転位置検出器を選択して、正常時(故障していない時)と同様にモータ制御が実行されて所望のモータトルクを出力し続けることができる。さらに、複数の回転位置検出器が共に異常である場合であっても、回転子推定位置を使用してモータ制御が実行できるので、モータ駆動を維持することができる。
なお、本実施形態3における検出位置推定手段および回転位置推定部は、制御系を構成するマイクロコンピュータの機能であり、ハードを追加することなく実現することができる。このため、本実施形態3によれば、モータ制御装置のコストを増大させることなく、モータ制御装置の信頼性を向上することができる。
上述の実施形態3と同様に、複数の回転位置検出器と、中性点電位に基づく回転子位置の推定とを併用する場合、次のような変形例がある。
本変形例においては、系統1が備える複数の回転位置検出器(例えば図15中の411,412)が共に異常と判定された後、系統1の制御部(61b)が中性点電位Vn-mに基づいて推定する回転子位置と系統2の制御部(62b)が中性点電位Vn-sに基づいて推定する回転子位置とに基づいて、異常と判定された回転位置検出器を除く残りの回転位置検出器の異常の有無が判定される。これにより、残りの回転位置検出器の異常の有無の判定精度が向上する。
(実施形態4)
以下、本発明の実施形態4について、図18を用いて説明する。なお、主に、実施形態1と異なる点について説明する。
図18は、本発明の実施形態4であるモータ制御装置における系統1の制御部61cの構成を示すブロック図である。なお、系統2の制御部も同様の構成を有する。このため、系統2の制御部については、図示および説明を省略する。
図18に示すように、本実施形態4では、制御部61cが、実施形態1の制御部61の構成(図6)に加えて、中高速位置推定器627と推定位置切り替えスイッチ628を備える。
中高速位置推定器627は、dq軸電圧指令Vd*,Vq*ならびにdq軸電流検出値Id,Iqに基づいて、永久磁石同期モータ4の定数(インダクタンスや巻線抵抗)から、回転子位置θdc2を推定演算する。これは、誘起電圧に基づく公知の回転子位置推定手段であり、具体的な演算方法については説明を省略する。なお、誘起電圧に基づく回転子位置推定手段として、種々の手段が公知であり、詳細な説明は省略するが、いずれの手段を適用しても良い。
推定位置切り替えスイッチ628は、中高速位置推定器627が出力するθdc2と、回転位置推定部623が補正された中性点電位検出値Vn-m’に基づいて推定するθd-mとを、モータ速度(回転速度)に応じて選択し、制御に用いる回転子位置θdc3として出力する。すなわち、モータ速度に応じて、回転子の位置推定アルゴリズムが変更される。例えば、所定値以上の速度を中高速、同所定値より小さな速度を低速とすると、推定位置切り替えスイッチ628によって、中高速ではθdc2が選択され、低速ではθd-mが選択される。なお、本実施形態4においては、モータ速度ω1は、θdc3に基づいて速度演算手段620によって演算される。
なお、θdc2とθd-mの切り替えに代えて、θd-mとθdc2に、低速域ではθd-mが支配的になるように、かつ中高速域ではθdc2が支配的になるように重み付けをして、回転子位置θdc3を演算しても良い。この場合、中性点電位に基づく制御と誘起電圧に基づく制御が徐々に切り替えられるので、低速域と高速域の切り替え時に制御の安定性が向上する。また、θd-mとθdc2を切り替える回転速度にヒステリシスを持たせても良い。これにより、切り替え時におけるハンチングを防止できる。
本実施形態4では、速度演算手段620で演算されるモータ速度に応じて、θdc2とθd-mが切り替えられるが、これに限らず、回転位置センサ(磁極位置センサ、舵角センサなど)により検出されるモータ速度に応じて、θdc2とθd-mを切り替えてもよい。
上述のように、本実施形態4によれば、低速域から中高速域までの広い速度範囲で、モータ制御に用いる回転子位置の精度が向上するので、同期電動機の速度制御の精度や安定性、もしくは信頼性が向上する。
また、速度増加に伴って中性点電位に大きな高調波成分が発生するモータ構造であっても、高速域に限って、速度誘起電圧を用いて回転子位置を推定することにより、高精度の位置センサレス駆動を実現できる。
なお、図18における中高速位置推定器627および推定位置切り替えスイッチ628は、前述の実施形態1~3に適用しても良い。
(実施形態5)
以下、本発明の実施形態5について、図19を用いて説明する。なお、主に、実施形態1と異なる点について説明する。
図19は、本発明の実施形態5である、三相同期電動機の制御装置(以下、「モータ制御装置」と記す)の構成を示すブロック図である。
図19が示すように、本実施形態5においては、系統1の制御部61dに、自系統の三相巻線41の中性点電位Vn-mに加えて、他系統である系統2の三相巻線42の中性点電位Vn-sが入力される。また、系統2の制御部62dにも、同様に、自系統の中性点電位Vn-mに加えて、他系統(系統1)の中性点電位が入力される。
制御部61dおよび62dは、実施形態1における制御部61および62の機能を有するとともに、さらに次のような機能を備える。なお、以下では、制御部61dについて説明し、制御部62dについては、同様であるため、説明を省略する。
本実施形態5において、系統1の制御部61dは、系統2の三相巻線42の中性点電位Vn-sに基づいて、三相巻線41と三相巻線42との間の磁気的干渉の影響を受けない場合の三相巻線41の中性点電位Vn-m、もしくは磁気的干渉の影響が除去された三相巻線41の中性点電位Vn-mを用いて回転子位置を推定する。
まず、磁気的干渉の影響を受けない場合の三相巻線41の中性点電位Vn-mについて説明する。
三相巻線42に電圧が印加されると、磁気的干渉のため三相巻線41の中性点電位Vn-mが変動する。従って、三相巻線42に電圧が印加されていない時に検知される三相巻線41の中性点電位Vn-mは、磁気的干渉の影響を受けていない。三相巻線42に電圧が印加されない場合、インバータ32が出力する電圧ベクトルは零ベクトル、すなわちV(0,0,0)およびV(1,1,1)のいずれかである。
V(0,0,0)の場合、インバータ主回路321の上側半導体スイッチング素子(Sup2,Svp2,Swp2)がOFFであり、かつ下側半導体スイッチング素子(Sun2,Svn2,Swn2)がONであるから、三相巻線42の中性点電位Vn-sは直流電源5の低電位側の電位、本実施形態5では接地電位(以下、零とする)となる。
また、V(1,1,1)の場合、インバータ主回路321の上側半導体スイッチング素子(Sup2,Svp2,Swp2)がONであり、かつ下側半導体スイッチング素子(Sun2,Svn2,Swn2)がOFFであるから、三相巻線42の中性点電位Vn-sは直流電源5の高電位側の電位(以下、Eとする)となる。
そこで、制御部61は、三相巻線42の中性点電位Vn-sが零またはEであるかを判定する。すなわち、制御部61は、三相巻線42の中性点電位Vn-sに基づいて、三相巻線42に電圧が印加されているか否かを判定する。制御部61は、三相巻線42の中性点電位Vn-sが零またはEであると判定すると、すなわち三相巻線42に電圧が印加されていないと判定すると、その時に検知される三相巻線41の中性点電位Vn-mに基づいて、実施形態1と同様に、回転子位置を推定する。
なお、系統1における制御部61dと系統2における制御部62dとで、PWM用の三角波キャリアの位相を所定量ずらした構成とすることで、他系統がV(0,0,0)かV(1,1,1)になるタイミングで自系統における中性点電位を確実に検出することができる。好ましくは、位相を90度ずらすことにより、確実に、他系統が零ベクトルとなるタイミングで、自系統における中性点電位を検出できる。
次に、巻線41と三相巻線42の間の磁気的干渉の影響が除去された巻線41の中性点電位Vn-mについて説明する。
系統2の出力する各電圧ベクトルに対して、巻線41と三相巻線42の間の磁気的干渉の影響による巻線41の中性点電位Vn-mの変動を予め実測し、実測値と電圧ベクトルの関係を表すデータ(例えば、テーブルデータ)を作成して、制御部61dに設定しておく。
制御部61dは、三相巻線42の中性点電位Vn-sに基づき、インバータ32が三相巻線42へ出力する電圧ベクトルがV(0,0,0),V(1,1,1),V(1,0,0),V(0,1,0),V(0,0,1),V(1,1,0),V(1,0,1)のいずれであるかを判定する。制御部61dは、前述のデータから、判定された電圧ベクトルに対応する中性点電位Vn-mの変動の値を読み出し、この値を用いて中性点電位Vn-mを補正する。そして、制御部61dは、補正された中性点電位に基づいて、実施形態1と同様に回転子位置を推定する。
上述のように、本実施形態5によれば、制御部が自系統の三相巻線の中性点電位と他系統の三相巻線の中性点電位とに基づき回転位置を推定するので、自系統の中性点電位に基づく回転子位置推定において、他系統のインバータによる電圧印加に伴う磁気的干渉の影響を除去できる。これにより、回転子位置の推定精度が向上する。このため、1つの永久磁石同期モータを二つのインバータで駆動するモータ駆動システムにおいて、極低速度での位置センサレス駆動が可能になる。
(実施形態6)
図20は、本発明の実施形態6である電動パワーステアリング装置の構成を示す。
図20に示すように、電動パワーステアリング装置8において、ステアリングホイール81の回転トルクをトルクセンサ82によって検知し、検知された回転トルクに応じて、モータ制御装置3におけるインバータ31(系統1),32(系統2)が永久磁石同期モータ(三相巻線41(系統1)、三相巻線42(系統2))を駆動制御する。これによって、永久磁石同期モータが発生するモータトルクは、ステアリングアシスト機構83を介してステアリング機構84へ伝達される。これにより、運転者によってステアリングホイール81が操作されると、電動パワーステアリング装置8がステアリングホイール81への操作入力に応じて操舵力をアシストしながら、ステアリング機構84によってタイヤ85が転舵される。
本実施形態6におけるモータ制御装置3は、実施形態3(図15,16)のモータ制御装置が適用される。従って、一個の永久磁石同期モータが2台のインバータ31,32によって駆動される。インバータ31,32は、冗長に設けられる複数の回転位置検出器によって検知される回転子位置と、中性点電位に基づいて推定される回転子位置とに基づいて制御される。
本実施形態6によれば、実施形態3と同様に、回転子推定位置により、複数の回転位置検出器のうちいずれが故障しているかを判定することができるので、複数の回転位置検出器のいずれかが故障した場合であっても、正常な回転位置検出器を選択して、正常時(故障していない時)と同様にモータ制御が実行されて所望のモータトルクを出力し続けることができる。このため、電動パワーステアリング装置は、正常に、アシスト動作を継続することができる。
さらに、複数の回転位置検出器が共に故障した場合であっても、回転子推定位置を使用してモータ制御を継続できるので、電動パワーステアリング装置は、アシスト動作を継続することができる。例えば、車両のタイヤが段差に乗り上げたような場合などでも、電動パワーステアリング装置が、継続して操舵力をアシストできる。
また、複数の回転位置検出器が共に故障した場合に、回転子推定位置を使用してモータ制御を継続できる。これにより、故障であることを運転者に報知すると共に、永久磁石モータの出力を漸減させて、急激にアシスト停止に陥ることが防止できる。これにより、電動パワーステアリング装置が備える複数の回転位置検出器がともに故障したり、異常が発生したりする場合、運転者は安全に自車を停止させることができる。
また、回転位置推定手段は、ハードを追加することなく実現することができる。このため、本実施形態6によれば、コストを増大させることなく、電動パワーステアリング装置の信頼性を向上することができる。
なお、本実施形態6においては、モータ制御装置3として、実施形態3に限らず、実施
形態1,2,4を適用しても良い。
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置き換えをすることが可能である。
例えば、一つの永久磁石同期モータを駆動するインバータは、二台に限らず、任意の複数台でも良い。また、三相同期電動機は、永久磁石同期モータに限らず、巻線界磁型同期モータでもよい。また、自系統の回転子位置を推定に用いられる他系統のインバータの駆動状態を示す情報として、インバータの出力電圧あるいはモータ端子電圧の検出値を用いても良い。