以下に添付図面を参照し、本開示の実施の形態に係る交流電動機の駆動装置、圧縮機駆動装置及び冷凍サイクル装置について詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る交流電動機の駆動装置101の構成を示すブロック図である。図1に示す実施の形態1に係る駆動装置101は、交流電動機2の回転子2aの角速度である角速度ωrを推定し、推定した角速度である推定角速度ω^
rと角速度指令ω*
rとが一致するように交流電動機2を駆動する駆動装置である。
駆動装置101は、適応観測部1と、速度制御部3と、トルク制御部4と、振動抑制制御部5と、位相進み量演算部6と、を備える。
適応観測部1は、交流電動機2の角速度を適応的に推定する構成部である。具体的に、適応観測部1は、適応オブザーバの原理に基づいて、交流電動機2に印加される電圧ベクトルと、交流電動機2に流れる電流ベクトルとを用いて、交流電動機2の角速度ωrを推定する。交流電動機2は、不図示の機械装置の動力源である。機械装置は、交流電動機2に対して交流電動機2の回転に同期した周期的な負荷トルク脈動を与えるものとする。
適応観測部1は、モデル偏差演算部11と、角速度推定部12とを備える。モデル偏差演算部11は、電圧ベクトル、電流ベクトル及び推定角速度ω^
rに基づいて、モデル偏差εを計算する。モデル偏差εは、適応観測部1の内部量である。角速度推定部12は、モデル偏差εに基づいて推定角速度ω^
rを計算する。
モデル偏差演算部11の内部では、交流電動機2の状態方程式に基づいて、交流電動機2の状態量を推定する演算処理が行われる。状態量の例は、電流及び磁束である。なお、本稿において、交流電動機2は、一般的な埋込磁石型同期電動機であると仮定するが、これに限定されない。モデル偏差演算部11において、下述する状態方程式と同様な状態方程式が立式できるものであれば、他の交流電動機であってもよい。他の交流電動機としては、表面磁石型同期電動機、誘導電動機などを例示できる。また、本稿では、説明の都合上、各電動機は三相モータであるとして説明するが、これに限定されない。各電動機は、二相モータ、五相モータといった他の相数の電動機であっても構わない。
埋込磁石型同期電動機をセンサレス駆動する場合、適応観測部1で用いられる状態方程式は、以下の(1)式のように表される。また、適応観測部1で用いられる出力方程式は、以下の(2)式のように表される。
上記(1)、(2)式において、Ld、Lqはd軸及びq軸のインダクタンスを表し、Raは電機子抵抗を表している。ωrは交流電動機2の電気角速度を表し、ω1は一次角周波数を表している。vdはd軸電圧を表し、vqはq軸電圧を表している。idはd軸電流を表し、iqはq軸電流を表している。φdsはd軸固定子磁束を表し、φqsはq軸固定子磁束を表し、φdrはd軸回転子磁束を表している。h11~h32は、オブザーバゲインを表している。記号「^」は、推定値を表している。
また、上記(1)式に表れる一次角周波数ω1は、以下の(3)式のように与えられる。
上記(3)式において、h41及びh42は、前述のh11~h32と同様に、オブザーバゲインを表している。
なお、上記(1)式では、状態量として、固定子のdq軸磁束と、回転子のdq軸磁束とを選んだ場合の例を示したが、状態量として、他の物理量を選択してもよい。例えば、上記(1)式に変形を加えて、固定子磁束の代わりに電流を使用して計算してもよい。また、回転子磁束の代わりに、拡張誘起電圧を使用して計算してもよい。また、座標系として、dq座標系の代わりに、他の座標系を採用してもよい。例えば、dq座標系の代わりに、静止αβ座標系を採用してもよい。
上記(1)式には推定角速度ω^
rが含まれるため、推定角速度ω^
rと実際の角速度ωrとが一致していない場合、電流推定に誤差が生じる。ここでは、モデル偏差εを以下の(4)式のように定義する。適応観測部1は、モデル偏差εが零になるように、角速度推定部12を用いて推定角速度ω^
rの値を調整する。
角速度推定部12の具体的な構成例としては、比例積分(Proportional Integral:PI)制御器を用いた事例、及びPI制御器と積分器とを直列接続した事例が公知である。また、特許文献1にも記載されているように、図1の角速度推定部12と並列に第二の角速度推定部を設けた事例も公知である。一方、本開示に係る駆動装置101は、特許文献1の課題である信頼性評価における作業工数の増大を解決するものであり、特許文献1に開示された手法、即ち角速度推定部を並列に設ける構成は採用しない。
適応観測部1は、上記(3)式に従い、推定磁束ベクトル、推定電流ベクトル及び推定角速度ω^
rに基づいて一次角周波数を計算する。また、適応観測部1は、一次角周波数を積分することにより回転子位置である磁極位置を推定する。
交流電動機2における角速度及び回転子位置を推定する上述の手法は、一般的に「適応オブザーバ」と呼ばれている。特に、上記(1)式の状態量が磁束である場合、適応オブザーバは、「適応磁束オブザーバ」と呼ばれる。適応磁束オブザーバは、鎖交磁束数の変動にロバストであり、定常的な速度推定誤差が発生しない点で優れている。このため、適応磁束オブザーバは、当業者には、高性能な速度推定法として認知されている。
適応観測部1では、オブザーバゲインh11~h42と、角速度推定部12の制御ゲインとを調整することにより、磁束推定及び速度推定の応答の速さを任意の値に指定することが可能である。このことは、オブザーバ理論における最も重要な性質の1つである。詳細は後述するが、本開示に係る交流電動機の駆動装置では、この性質を使用して振動抑制制御を行う。
次に、速度制御部3及びトルク制御部4の動作について説明する。速度制御部3は、角速度指令ω*
rと、推定角速度ω^
rを基に、第一のトルク指令τ*
1を計算する。具体的に、速度制御部3は、角速度指令ω*
rと推定角速度ω^
rの平均値とが一致するような第一のトルク指令τ*
1を決定する。
第一のトルク指令τ*
1の演算には、一般的な比例積分微分(Proportional Integral Differential:PID)制御器による速度制御を適用することができる。但し、所望の制御性能が得られるものであれば、PID制御器以外の他種の制御器を用いてもよい。また、PID制御器と、他種の制御器とを併用してもよい。例えば、PID制御器と並列にフィードフォワード制御器を接続し、2自由度の制御系を構成してもよい。
トルク制御部4は、不図示のdq軸電流制御部と、不図示の座標変換部と、図1では不図示の電圧印加部とを内包している。トルク制御部4は、第一のトルク指令τ*
1と、第二のトルク指令τ*
2とに基づいて、dq軸電流指令を決定する。具体的には、交流電動機2の出力トルクが、第一のトルク指令τ*
1と第二のトルク指令τ*
2との総和と一致するように制御を実施する。なお、第二のトルク指令τ*
2の決定方法は後述する。不図示のdq軸電流制御部は、dq軸電流指令とdq軸電流とが一致するように電圧ベクトルを調整し、不図示の電圧印加部によって交流電動機2に電圧ベクトルを印加する。交流電動機2の電圧及び電流は、交流信号であるため、不図示の座標変換部によって、適宜dq座標上の直流的な信号に変換されて制御が行われる。
交流電動機2のトルクを所望の値に制御するためには、dq軸電流の制御を行うのが好適であることは公知である。但し、言うまでもなく、dq座標以外の他の座標系で制御を行っても構わない。一般的な埋込磁石型同期電動機の場合、モータトルクτmは、以下の(5)式により決定される。
上記(5)式において、Pmは交流電動機2の極対数を表し、φaはdq軸における磁束鎖交数を表している。
所望のトルクを出力するためには、上記(5)式に基づいてdq軸電流を決定すればよい。ここで、上記(5)式の右辺第二項は、リラクタンストルクを表す項である。従って、リラクタンストルクが無視できる場合、モータトルクτmとq軸電流iqとは比例関係にある。このため、トルク指令に応じてq軸電流iqを増減させれば所望のトルクを出力することができる。
dq軸電流の制御には、一般的なPI制御器を利用することができる。但し、dq軸間の干渉をキャンセルするため、非干渉化制御器を併用するのが一般的である。従って、非干渉化制御器を含む制御器を用いて、dq軸電流指令とdq軸電流とが一致するような電圧ベクトルを決定することが好ましい実施の形態となる。
電圧印加部は、dq軸電流制御の結果を基に、交流電動機2に電圧を印加し、交流電動機2を駆動する。電圧印加部は、一般的な2レベルインバータを想定するが、これに限定されない。所望の電圧が印加できるものであれば、どのような回路構成でも構わない。電圧印加部は、例えばマルチレベルインバータ、マトリクスコンバータであっても構わない。
次に、本開示に係る駆動装置101の要部である振動抑制制御部5及び位相進み量演算部6について説明する。なお、本開示における振動抑制制御を説明する前に、一般的な振動抑制制御の技術について説明する。
前述したように、交流電動機2は、何らかの機械装置の動力源である。機械装置の中には、交流電動機2の回転に同期した周期的な負荷トルク脈動を有し、当該負荷トルク脈動を交流電動機2に対して加えるものが多い。負荷トルク脈動によって、交流電動機2には、速度脈動が生じる。このため、振動又は騒音の問題が生じるケースがある。
また、交流電動機2に発生するトルクリップルも、振動又は騒音の原因となることがある。このトルクリップルは、制御器の側から見ると、交流電動機2に加えられる負荷トルク脈動と同種の外乱である。従って、交流電動機2に発生するトルクリップルによって速度脈動が引き起こされるケースがある。交流電動機2に発生する周期的なトルクリップルは、磁石磁束の高調波歪み、電流センサのゲインアンバランスといったが様々な要因が考えられる。
速度脈動の周波数に対して速度制御部3の制御応答及び外乱抑制応答が十分に高ければ、速度脈動はさほど大きくならない。その一方で、一般に速度制御部3の制御応答及び外乱抑制応答には、上限が存在する。高周波の速度脈動を速度制御部3だけで抑え込むには制御ゲインを非常に大きく設定する必要があるが、制御ゲインを大きくしすぎると制御系が不安定化する。
こういった背景から、高周波の速度脈動を的確に抑制するために、様々な振動抑制制御手法が古くから研究されてきた。例えば、上記特許文献2などに記載されているようなフーリエ級数展開及び積分制御を利用した手法が有名である。
位置センサを使用でき、且つ外乱周波数が既知の場合、振動抑制制御の実施はさほど困難ではない。一方、位置センサレス制御の場合、振動抑制制御の実施はかなり困難になる。なぜならば、一般的な位置センサレス制御系における速度推定応答は、前述したように、高々数百[rad/s]程度が上限であり、高周波の速度脈動を正確に推定することは困難だからである。この問題を解決するために開示されたのが特許文献1に記載の技術である。特許文献1では、角速度推定部に対して改良を加え、高周波の速度脈動を正確に推定することに成功している。しかしながら、特許文献1に記載の技術を適用することが困難なケースが存在する。
一般に、駆動装置の内部で行われる演算処理を変更した場合、その変更によって駆動装置に何らかの不具合が生じないか、詳しく調べる必要がある。しかしながら、交流電動機の位置センサレス制御において、角速度推定部の変更は性能に大きな変化を及ぼすため、その変更が及ぼす影響範囲が極めて大きくなる可能性がある。特許文献1の手法を既存機能に対する拡張機能として追加する場合、駆動装置の市場実績が豊富であればあるほど、拡張機能の追加に伴う信頼性評価のための作業工数は飛躍的に増大する。このようなケースでは、特許文献1の技術を実施するのは、極めて困難である。
実際のところ、特許文献1に記載の従来技術によって、位置センサレス制御における高周波の速度脈動を抑制することはできるものの、拡張機能の追加に伴う信頼性評価の作業工数の増加を充分に抑制することはできなかった。拡張機能の追加に伴う信頼性評価の作業工数を小さく抑えるためには、角速度推定部である適応観測部1の構成を変更しないことが肝要である。
本開示に係る駆動装置101は、上記の事情から案出されたものであり、一般的な構成の適応観測部1を用いて高周波の振動抑制制御を実現するものである。具体的に、本開示の駆動装置101において、振動抑制制御部5は、適応観測部1のモデル偏差と、位相進み量演算部6が出力する位相進み量という2つの情報に基づいて、交流電動機2の速度脈動を抑制するような第二のトルク指令τ*
2を決定する。また、位相進み量演算部6は、外乱周波数fdに基づいて位相進み量を計算する。位相進み量演算部6は、本開示の駆動装置101における要点であり、この後の説明で更に詳述する。
実施の形態1において、外乱周波数fdは既知として扱う。外乱周波数fdは、どのような手法を用いて求めてもよい。例えば、決まった周波数の外乱が生じるような系において、外乱周波数fdは、定数として事前に与えておくことができる。また、回転周波数に応じた外乱が生じる圧縮機のようなアプリケーションにおいては、回転周波数を外乱周波数fdとして用いることができる。ここで言う回転周波数は、回転位置センサ又は速度センサにより取得することができる。また、本稿の各実施の形態に共通する位置センサレス制御の場合は、推定角速度ω^
rにより回転周波数を求めることができる。また、トルク脈動の周波数を、トルクメータ、加速度センサ、又は振動センサにより、検出又は推定して外乱周波数fdとして用いることもできる。
位置、速度、加速度、トルクといった脈動の情報をどのように取得するかは、文献によって異なる。上記特許文献1及び特許文献2に代表される従来の振動抑制制御技術の多くでは、これらの脈動の情報が位相遅れ無く取得可能であることが暗黙の前提条件とされている。一方、本稿においては、取得したデータに何らかの位相遅れが含まれるケースについて考える。もしも、位相遅れが何度であるか予め分かっているのであれば、取得したデータの位相をその分だけ進めれば、位相遅れの影響を回避可能である。これに対し、本開示における位相進み量演算部6は、取得したデータの位相をどの程度進めればよいか、計算するものである。
次に、実施の形態1に係る駆動装置101における要部の構成及び動作について、図2から図6の図面を参照して説明する。図2は、図1に示す駆動装置101におけるモデル偏差εと速度推定誤差Δωとの関係を示すブロック図である。図3は、図1に示す駆動装置101における真の角速度ωrからモデル偏差εまでの伝達関数Gε(s)のボード線図の一例を示す図である。図4は、図1に示す駆動装置101において位相進み量の必要性を説明するためのベクトル図である。図5は、実施の形態1に係る駆動装置101の動作説明に使用する第一の図である。図6は、実施の形態1に係る駆動装置101の動作波説明に使用する第二の図である。
ここではまず、位置センサレス制御で取得可能な脈動データにどのような位相遅れが含まれるかについて説明する。前述の通り、適応観測部1は、電圧ベクトルと電流ベクトルとに基づいて、交流電動機2の角速度ωrを推定するものである。しかしながら、推定応答に上限がある都合上、推定角速度ω^
rからは高周波の速度脈動の情報は失われている。一方、高周波の速度脈動の情報を適応観測部1の内部データから得るには、モデル偏差εに着目すればよい。但し、モデル偏差εは交流電動機2の真の角速度ωrと比較して位相遅れがある。モデル偏差εと速度推定誤差Δω=ωr-ω^
rとの関係については、上記の非特許文献1などで公知である。
図2には、モデル偏差εと速度推定誤差Δωとの関係がブロック図で示されている。図2において、Gω(s)は、角速度推定部12の伝達関数を表している。前述したように、角速度推定部12の具体的な構成例としては、PI制御器を用いた事例、及びPI制御器と積分器とを直列接続した事例が公知である。また、図2において、Giq(s)は、d軸回転子磁束φdrと、速度推定誤差Δωとの積であるφdr・Δωから、q軸電流推定誤差Δiqを推定するための伝達関数を表している。ここで、伝達関数Giq(s)は、オブザーバゲインh11~h42を適切に決定することによって、以下の(6)式のような、1次のローパスフィルタとして表せることが公知である。
上記(6)式において、Axはローパスフィルタのゲイン係数を表し、Txはローパスフィルタの時定数を表し、sはラプラス変換の演算子を表している。なお、時定数Txは、オブザーバゲインh11~h42を適切に調整することによって、変更可能である。
図2において、真の角速度ωrからモデル偏差εまでの伝達関数Gε(s)は、以下の(7)式で表される。
ここで、伝達関数Giq(s),Gω(s)は、制御設計者によって既知である。このため、伝達関数Gε(s)の特性は、計算可能である。図3には、前述した伝達関数Gε(s)の特性を表すボード線図の一例が示されている。図3の横軸に示されるωacは、オブザーバの速度推定応答である。速度推定応答とは、真の角速度ωrがステップ変化したときの推定角速度ω^
rの追従の速さを数値化したものである。具体的には、ステップ応答に対する時定数の逆数である。速度推定応答を表す数値が大きい程、即ち速度推定応答が速い程、位置センサレス制御系の制御性能は良くなる。しかしながら、前述したように、速度推定応答は高々数百[rad/s」程度が限界である。
図3の例によると、伝達関数Gε(s)のゲインは速度推定応答ωac付近までは、40[dB/decade]程度で増加し、速度推定応答ωacを少し超えた付近で頂点を迎え、それ以後は-20[dB/decade]程度で減少している。一方、伝達関数Gε(s)の位相特性は、周波数最小のポイントと周波数最大のポイントとを比較すると270度程度の位相変化がある。特に、速度推定応答ωac付近の1[decade]では、位相の変化が著しく、周波数が10倍になると位相が135度以上変化している。
振動抑制制御の入力として、真の角速度ωrの代わりに、モデル偏差εを用いようとした場合、上述の位相変化は、振動抑制制御の成否に関わる大きな問題となる。なぜならば、一般に、振動抑制制御はモータトルクτmと負荷トルクτLとの間の位相差が±60度を超えると逆効果になるためである。
振動情報の位相を正確に捉えなければ、振動抑制制御が失敗することは容易に想像できる。このため、実施の形態1に係る駆動装置101では、位相進み量演算部6が設けられている。位相進み量演算部6は、外乱周波数fdに基づいて、伝達関数Gε(s)の位相進み量を計算する。具体的に、位相進み量演算部6は、外乱周波数fdから位相進み量を計算し、伝達関数Gε(s)での位相変化を補正して、振動抑制制御を行うように構成されている。
次に、位相進み量演算部6が必要な理由について説明する。まず、負荷トルクτLは、以下の(8)式で示されるような三角関数で表せるものとする。
上記(8)式において、fdは外乱周波数を表し、tは時刻を表している。ALは負荷トルク脈動の余弦成分の振幅を表し、BLは負荷トルク脈動の正弦成分の振幅を表している。
同様に、モータトルクτmも、以下の(9)式で示されるような三角関数で表せるものとする。
上記(9)式において、Amはモータトルク脈動の余弦成分の振幅を表し、Bmはモータトルク脈動の正弦成分の振幅を表している。
負荷トルクτL及びモータトルクτmを上記のように定義すると、図4に示すように、それぞれの余弦成分及び正弦成分によって、2軸のグラフを描くことができる。
振動抑制制御では、負荷トルクτLとモータトルクτmとをできる限り一致させることが実行される。ここでは、負荷トルクτLの振幅の絶対値と、モータトルクτmの振幅の絶対値とが等しい場合、即ち、以下の(10)式の関係が成立するケースについて考える。
上記(10)式の関係が成立し、且つ、モータトルクτmと負荷トルクτLとの間の位相差が60度である場合、負荷トルクτLと、モータトルクτmと、2つのトルクの差分であるトルク差分τm-τLとの関係は、図4に示すような正三角形となる。即ち、トルク差分τm-τLの絶対値は、負荷トルクτLの振幅の絶対値に等しくなる。従って、モータトルクτmと負荷トルクτLとの間の位相差が60度を超えた場合、トルク差分τm-τLの絶対値は、負荷トルクτLの振幅の絶対値よりも大きくなる。このことは、図4のベクトル図が正三角形であることから自明である。
また、振動抑制制御を行ってモータトルクτmを脈動させても、トルク差分τm-τLの絶対値を小さくできないのであれば、振動抑制制御を実施しないほうが電力効率の面では良い。従って、モータトルクτmと負荷トルクτLとの間の位相差が±60度を超えてしまった場合は、振動抑制制御に失敗したと言うことができる。
以上の説明から理解できるように、振動抑制制御においては、モータトルクτmと負荷トルクτLとの間の位相差は、極めて重要な要素である。
モデル偏差εは、外乱周波数fdによってその位相が大きく変化する。このため、振動抑制制御の入力として、真の角速度ωrの代わりにモデル偏差εを用いる場合において、位相の変化を考慮しなかった場合には、振動抑制制御に成功する外乱周波数fdの範囲は極めて狭くなる。
そこで、実施の形態1における位相進み量演算部6は、外乱周波数fdを入力とし、図3のボード線図に示したような、伝達関数Gε(s)の位相変化を計算する。伝達関数Gε(s)の位相を∠Gε(jωd)と表現した場合、∠Gε(jωd)は遅れ方向の位相を意味する。なお、jは虚数単位を表し、ωdは外乱角周波数を表している。また、ωd=2πfdである。
モデル偏差εから見ると、真の角速度ωrは位相が進んでいるように見える。このため、本稿では、∠Gε(jωd)を「位相遅れ量」と呼び、∠Gε(jωd)を符号反転させた-∠Gε(jωd)を「位相進み量」と呼ぶ。
位相進み量-∠Gε(jωd)が分かっていれば、モデル偏差εの位相をその分だけ進ませれば、広い外乱周波数範囲で振動抑制制御が可能となる。なお、振動抑制制御部5の構成はどのようなものであってもよい。ここでは一例として、上記特許文献2に記載された技術を改良した手法について説明する。
図1に戻り、振動抑制制御部5は、速度脈動演算器51と、積分(Integral:I)制御器52,53と、交流復元器54とを備える。
速度脈動演算器51は、フーリエ級数展開の原理に基づき、モデル偏差εに含まれる特定周波数成分を直流化して抽出する。特定周波数とは、前述の外乱周波数fdのことであるが、本稿では、更に拡張した定義とする。一般に負荷トルク脈動は幾つかの周波数成分を持っている。それらのうちの何れかの周波数のことを、本稿では特定周波数成分と呼ぶ。速度脈動演算器51からは、余弦係数Ecと、正弦係数Esとが出力されるが、これらの係数が直流化した特定周波数成分を表している。
このとき、モデル偏差εの余弦係数Ec、及びモデル偏差εの正弦係数Esは、モデル偏差ε、外乱周波数fd及び位相進み量-∠Gε(jωd)に基づいて、以下の(11)、(12)式によって計算される。
上記(11)、(12)式において、tは時間を表す。また、Tdは外乱の周期を表しており、外乱の周期Tdは外乱周波数fdの逆数である。つまり、Td=1/fdである。
上記(11)、(12)式では、モデル偏差εの位相を進めるのではなく、フーリエ級数展開の検波信号の位相を変化させることで、伝達関数Gε(s)における位相変化を考慮している。勿論、検波信号の位相を変化させる代わりに、フーリエ級数展開の前段階でモデル偏差εの位相を直接操作する演算を行ってもよい。但し、モデル偏差εの位相を直接操作する手法よりも、検波信号の位相を変化させる手法の方が計算が簡単である。
I制御器52は、モデル偏差εの余弦係数Ecを積分し、モータトルクの脈動成分τcを以下の(13)式のように計算する。また、I制御器53は、モデル偏差εの正弦係数Esを積分し、モータトルクの脈動成分τsを以下の(14)式のように計算する。
上記ここで、KIは積分ゲインを表している。積分ゲインKIは、図3のボード線図におけるゲイン値、メカ系の運動方程式などを考慮して決定される数値である。なお、制御ゲインの設計は複雑になるが、I制御器52,53の代わりにPI制御器又はPID制御器を使用してもよい。
余弦係数Ec及び正弦係数Esは直流量であるから、モータトルクτmの脈動成分τc,τsも直流量である。振動を抑制するには、モータトルクτmを脈動させる必要がある。このため、モータトルクτmの脈動成分τc,τsを交流に復元する必要がある。
交流復元器54は、モータトルクτmの脈動成分τc,τsと、外乱周波数fdとに基づいて、以下の(15)式のように第二のトルク指令τ*
2を計算する。
トルク脈動と速度脈動とは90度位相が異なる。このため、上記(15)式では、正弦波及び余弦波を90度ずらして脈動成分τc,τsにそれぞれ掛け合わせている。
上記(15)式による交流復元では、位相進み量-∠Gε(jωd)は使用していない。このため、検波信号と、復元信号の三角関数との間にその分の位相差が生じている。この位相差成分により、伝達関数Gε(s)の位相変化が考慮され、外乱周波数fdが変化しても、適切に振動を抑制可能な第二のトルク指令τ*
2を決定することが可能となる。また、第二のトルク指令τ*
2に基づいてモータトルクτmを脈動させることにより、位置センサレス制御であっても、広い周波数範囲での振動抑制制御が可能となる。
図5には、実施の形態1に係る駆動装置101における動作波形例が示されている。また、図6には、実施の形態1に係る駆動装置101における図5とは異なる動作波形例が示されている。図5及び図6において、横軸は時間を表し、上段部の波形の縦軸は角速度ωrの大きさを表し、下段部の波形の縦軸はトルクの大きさを表している。図5及び図6の各下段部において、実線は負荷トルクτLを表し、破線はモータトルクτmを表している。また、図5及び図6における上下段部の各横軸は、全て同じスケールで記載している。
図5は、高速回転時の動作波形例である。図5の例は、負荷トルク脈動の外乱周波数fdが角速度ωrに比例して増加するケースである。
図5(a)は、振動抑制制御を行っていない場合の動作結果の例である。この例では、交流電動機2を一定の角速度で駆動しようとしているが、負荷トルクτLに非正弦波状の周期的な脈動が存在する。前述の速度制御部3は、角速度ωrを角速度指令ω*
rに追従させる役割を有しているが、負荷トルクτLの周波数が速度制御応答よりも遥かに高い。このため、モータトルクτmには僅かな脈動が見られるだけで、負荷トルクτLとモータトルクτmとの振幅差は、非常に大きい。このことから、図5(a)では負荷トルク脈動の影響によって角速度ωrに大きな脈動が生じている。
図5(b)は比較のために示すものであり、位相進み量演算を行わずに振動抑制制御を行った場合の動作結果である。また、図5(c)は、位相進み量演算を併用する実施の形態1の振動抑制制御を行った場合の動作結果である。図5(b)及び図5(c)の両方において、振動抑制制御に成功し、角速度ωrの脈動が図5(a)に比べて小さくなっている。このときのモータトルクτmは、おおよそ負荷トルク脈動の基本波成分とよく一致している。
なお、図5の例では、負荷トルク波形の最も主要な周波数成分をターゲットに振動抑制制御を実施している。また、振動抑制制御の入力は、真の角速度ωr又は推定角速度ω^
rではなく、モデル偏差εとしている。
図5(b)及び図5(c)の両方で振動抑制制御に成功したのは、このときの外乱周波数条件では、位相進み量が極めて小さかったためである。位相進み量が極めて小さい場合、位相進み量を演算せずとも振動抑制に成功するが、これは狭い周波数範囲だけの事象である。
一方、図6は、低速回転時の動作波形例である。説明の都合上、図6の上段部の波形の縦軸のスケールは、図5のものと多少異なっている。なお、下段部の波形の縦軸のスケールは、図5のものと同一である。
図6(a)は、振動抑制制御を行っていない場合の動作結果の例である。この例では、交流電動機2を一定の角速度で駆動しようとしているが、負荷トルク脈動の影響によって角速度ωrに大きな脈動が見られる。この現象は、図5(a)の場合と同様である。なお、図6(a)では、図5(a)と異なり、モータトルクτmも脈動しているが、これは、負荷トルク脈動の周波数が低いためである。図6(a)において、負荷トルクτLの位相と、モータトルクτmの位相とはずれており、振動を的確に抑制できているわけではない。
図6(b)は比較のために示すものであり、位相進み量演算を行わずに振動抑制制御を行った場合の動作結果である。また、図6(c)は、位相進み量演算を併用する実施の形態1の振動抑制制御を行った場合の動作結果である。図5(b)とは異なり、図6(b)では振動抑制制御に失敗している。特筆すべきところは、角速度ωrの脈動が図6(a)よりも大きくなっている点である。図6(b)では、モータトルクτmと負荷トルクτLとにおいて、振幅及び位相の両方がどちらも大きくずれており、振動抑制制御が暴走してしまっている。一方、位相進み量演算を行った図6(c)では、振動抑制制御に成功し、角速度ωrの脈動を図6(a)よりも小さくできている。
このように、適応観測部1のモデル偏差εを用いて振動抑制制御を実施する場合、位相進み量を考慮することで、広い周波数範囲の振動抑制が可能となることが図5及び図6の動作結果から明らかである。
次に、実施の形態1に係る手法と先行技術文献との相違点について説明する。まず、実施の形態1に係る手法と特許文献2に記載の手法とにおいて、上述した速度脈動演算器51、I制御器52,53及び交流復元器54に相当する構成部を備えている点は、共通点である。一方、実施の形態1に係る手法では、以下の2つの点が特許文献2に記載の手法との大きな相違点である。
上記(11)、(12)式による演算処理において、
・真の角速度ωrの代わりにモデル偏差εが用いられる。
・フーリエ級数展開の検波信号である正弦波及び余弦波の位相が位相進み量-∠Gε(jωd)の分だけ変化している。
位置センサレス制御では、真の角速度ωrは不可観測である。また、真の角速度ωrの代わりに、推定角速度ω^
rを使うのでは、速度推定応答の上限により高周波の振動抑制が不可能である。かと言って、真の角速度ωrの代わりにモデル偏差εを振動抑制制御の入力として使用した場合、前述の位相進み量-∠Gε(jωd)の補正がなければ、外乱周波数fdの変化に対応できない。
次に、実施の形態1に係る手法と特許文献1に記載の手法との相違点について説明する。実施の形態1と特許文献1と比較すると、明らかに違うポイントは、角速度推定部12である。特許文献1に記載の手法は、角速度推定部12が既存の方式と大きく異なっている。既存の交流電動機の駆動装置において、角速度推定部12を大きく変更した場合、その変更によって駆動装置に何らかの不具合が生じないか、詳しく調べる必要がある。特許文献1の手法を既存機能に対する拡張機能として追加する場合、駆動装置の市場実績が豊富であればあるほど、機能追加に伴う信頼性評価の作業工数が飛躍的に増大する。従って、特許文献1の技術を実施するのが困難なケースが多々あった。これに対し、実施の形態1では、角速度推定部12に変更を加えること無く、適応観測部1の内部処理で生成されるモデル偏差εに基づいて振動抑制制御を行う手法を提案した。本手法により、市場実績が豊富な駆動装置に対して、位置センサレスでの高性能な振動抑制制御を拡張機能として追加することが容易になった。
また、副次的な効果として、実施の形態1に係る手法は、特許文献1に記載の手法と比較すると、振動抑制制御の計算量が減少している。特許文献1の記載の制御器は、加速度の高精度推定を行ってから振動抑制制御を行う構成である。このため、特許文献1では、PI制御器が4つ必要であった。これに対し、実施の形態1では、I制御器が2つだけになっており、構成が簡単化されている。位相進み量補償の演算は増えるものの、三角関数の演算の回数は減少しており、より実装しやすい技術になったと言える。
なお、当業者であれば自明のことであるが、本稿で説明した数式又はブロック図は、適宜の変形が可能である。例えば、図7のように構成することができる。図7は、図1に示す実施の形態1の構成の第一の変形例を示すブロック図である。図7では、図1に示す構成において、振動抑制制御部5が振動抑制制御部5aに置き替えられている。振動抑制制御部5aでは、速度脈動演算器51が速度脈動演算器51aに置き替えられ、I制御器52,53がI制御器52a,53aにそれぞれ置き替えられ、交流復元器54が交流復元器54aに置き替えられている。
図1に示す速度脈動演算器51は、上記(11)、(12)式を用いて、モデル偏差εの余弦係数Ec及び正弦係数Esを計算していた。一方、図7に示す速度脈動演算器51aは、以下の(16)、(17)式を用いて、モデル偏差εの余弦係数Ec’及び正弦係数Es’を計算する。
また、図1に示すI制御器52,53は、それぞれ上記(13)、(14)式を用いて、モータトルクτmの脈動成分τc,τsを計算していた。一方、図7に示すI制御器52a,53aは、それぞれ以下の(18)、(19)式を用いて、モータトルクτmの脈動成分τ'c,τ'sを計算する。
また、図1に示す交流復元器54は、上記(15)式を用いて、第二のトルク指令τ*
2を計算していた。一方、図7に示す交流復元器54aは、以下の(20)式を用いて、第二のトルク指令τ*
2を計算する。
以上の説明のように、図1に示す振動抑制制御部5は、位相進み量を使った計算を速度脈動演算器51で実施しているが、図7に示す第一の変形例の振動抑制制御部5aは、位相進み量を使った計算を交流復元器54aで実施する。
また、図8は、図1に示す実施の形態1の構成の第二の変形例を示すブロック図である。図8では、図1に示す構成において、振動抑制制御部5が振動抑制制御部5bに置き替えられている。振動抑制制御部5bでは、速度脈動演算器51が速度脈動演算器51bに置き替えられ、I制御器52,53がI制御器52b,53bにそれぞれ置き替えられ、交流復元器54が交流復元器54bに置き替えられている。
図1に示す速度脈動演算器51は、上記(11)、(12)式を用いて、モデル偏差εの余弦係数Ec及び正弦係数Esを計算していた。一方、図8に示す速度脈動演算器51bは、以下の(21)、(22)式を用いて、モデル偏差εの余弦係数Ec''及び正弦係数Es''を計算する。
なお、上記(21)、(22)式におけるKは、0以上1以下の任意の実数である。
また、図1に示すI制御器52,53は、それぞれ上記(13)、(14)式を用いて、モータトルクτmの脈動成分τc,τsを計算していた。一方、図8に示すI制御器52b,53bは、それぞれ以下の(23)、(24)式を用いて、モータトルクτmの脈動成分τ''c,τ''sを計算する。
また、図1に示す交流復元器54は、上記(15)式を用いて、第二のトルク指令τ*
2を計算していた。一方、図8に示す交流復元器54bは、以下の(25)式を用いて、第二のトルク指令τ*
2を計算する。
以上の説明のように、図1に示す振動抑制制御部5は、位相進み量を使った計算を速度脈動演算器51のみで実施し、図7に示す第一の変形例の振動抑制制御部5aは、位相進み量を使った計算を交流復元器54aのみで実施している。これに対し、図8に示す第二の変形例の振動抑制制御部5bは、位相進み量を使った計算を速度脈動演算器51b及び交流復元器54bの両方で分割して実施する。
なお、詳細な説明は割愛するが、第一及び第二の変形例で示したブロック図及び数式は、図1及び(11)~(15)式の等価変形である。よって、(16)~(20)式の計算を行った場合でも、(21)~(25)式の計算を行った場合でも、振動抑制制御の性能は(11)~(15)式の計算を行った場合と同じである。
図9は、実施の形態1に係る駆動装置101のハードウェア構成図である。図1及び図7および図8では記載を省略したが、図9には、電圧印加部801と電流検出部802とが示されている。電圧印加部801は、交流電動機2に電圧を印加する電圧印加手段である。電圧印加手段の一例は、三相PWMインバータなどの電力変換器である。電圧印加部801は電圧指令ベクトルに従って動作し、交流電動機2に電圧を印加する。本稿では、電圧印加部801によって印加される印加電圧をベクトル表現したものを電圧ベクトルと呼んでいる。電圧印加部801が電力変換器である場合、電力変換器はスイッチングを伴う。このため、電圧指令ベクトルと電圧ベクトルとの間には瞬間的な差異は常にあるが、平均値で見ればほぼ等価である。
駆動装置101は、プロセッサ901を備える。駆動装置101には、電圧ベクトルが入力される。電圧ベクトルは速度推定演算に利用されるが、電圧ベクトルの代わりにプロセッサ901の内部で計算される電圧指令ベクトルを速度推定演算に利用しても構わない。また、電流ベクトルは、電流検出部802により生成されて駆動装置101に入力される。電流ベクトルは、交流電動機2に流れる交流電流に関するベクトル情報である。電流ベクトルの一例は、電流検出部802によって検出された交流電流をdq座標軸上の値に変換したdq軸電流の検出値である。
駆動装置101は、メモリ902を備える。メモリ902は、ランダムアクセスメモリに代表される不図示の揮発性記憶装置と、フラッシュメモリを代表とする不図示の不揮発性の補助記憶装置とを備える。なお、メモリ902は、揮発性記憶装置と不揮発性の補助記憶装置との代わりに、ハードディスクの補助記憶装置を具備してもよい。プロセッサ901は、メモリ902から入力されたプログラムを実行する。メモリ902が補助記憶装置と揮発性記憶装置とを具備するため、プロセッサ901に、補助記憶装置から揮発性記憶装置を介してプログラムが入力される。またプロセッサ901は、演算結果のデータをメモリ902の揮発性記憶装置に出力してもよいし、揮発性記憶装置を介して補助記憶装置に当該データを保存してもよい。
電圧印加部801及び電流検出部802に関しては、様々な方式が検討されているが、基本的にはどの方式を用いても構わない。電圧印加部801及び電流検出部802は、駆動装置101の内部に設けてもよい。また、駆動装置101は、電圧印加部801が出力する電圧ベクトルを検出する電圧検出手段を有していてもよい。この場合、電圧印加部801は電圧ベクトルの指令値をプロセッサ901へ送信し、電圧検出手段によって検出された電圧に関する数値がプロセッサ901へ送信されるように構成してもよい。電流検出部802も同様に検出した数値をプロセッサ901へ送信するように構成してもよい。
プロセッサ901は、交流電動機2の電流ベクトルと電圧ベクトルとに基づいて、前述のモデル偏差演算部11によりモデル偏差εを計算する。プロセッサ901がモデル偏差εに基づいて前述した位相進み量演算部6の演算及び振動抑制制御部5の演算を行うことにより、電圧指令ベクトルを決定する。このように制御演算を行うことで、周期外乱による速度脈動を広い周波数範囲で的確に抑制できる。
以上説明したように、実施の形態1に係る交流電動機の駆動装置によれば、適応観測部は、周期的な負荷トルク脈動を有する機械装置を駆動する交流電動機の回転子の角速度を適応的に推定する。速度制御部は、角速度指令と推定角速度の平均値とが一致するような第一のトルク指令を決定する。位相進み量演算部は、外乱周波数に基づいて、真の角速度から適応観測部の内部量であるモデル偏差までの伝達関数の位相進み量を計算する。振動抑制制御部は、負荷トルク脈動の周波数、モデル偏差及び位相進み量に基づいて、交流電動機の速度脈動を抑制するような第二のトルク指令を決定する。トルク制御部は、第一及び第二のトルク指令に基づいて、交流電動機のトルクを制御する。これにより、汎用的な駆動装置に対して、制御のコア部分である適応観測器に手を加えずに振動抑制制御を実施することが可能となる。このため、既存機能に追加する拡張機能の実装が容易になるという効果が得られる。また、周波数に依らずに交流電動機の速度脈動を的確に抑制することが可能になる。
また、実施の形態1に係る交流電動機の駆動装置は、従来の速度推定手法をそのまま使用することができる。このため、特許文献1の手法で課題とされた「速度推定手法の変更に伴う影響調査の飛躍的な工数増大」を未然に防止することが可能になる。
実施の形態1における振動抑制制御部は、速度脈動演算器、積分制御器及び交流復元部という3つの部に区分して構成することができる。速度脈動演算器は、モデル偏差に含まれる特定周波数成分を余弦成分と正弦成分に分けて抽出する。2つの積分制御器は、余弦成分及び正弦成分のそれぞれが零になるように積分制御を行う。交流復元部は、積分制御器の出力を交流信号に復元する。これらの処理を行う際に、速度脈動演算器及び交流復元部のうちの少なくとも一つが位相進み量を考慮した演算を行うように構成されていればよい。
実施の形態2.
図10は、実施の形態2に係る交流電動機の駆動装置101aの構成を示すブロック図である。図10において、実施の形態2に係る駆動装置101aでは、図1に示す実施の形態1に係る駆動装置101の構成において、トルク制御部4がトルク制御部4aに置き替えられている。また、振動抑制制御部5が第一の振動抑制制御部5dに置き替えられ、位相進み量演算部6が第一の位相進み量演算部6dに置き替えられている。更に、実施の形態2に係る駆動装置101aは、第二の振動抑制制御部5e~第Nの振動抑制制御部5fを有すると共に、第二の位相進み量演算部6e~第Nの位相進み量演算部6fを有している。ここで、Nは2以上の整数である。即ち、実施の形態1は振動抑制制御部及び位相進み量演算部を1つずつ有する構成であったが、実施の形態2は振動抑制制御部及び位相進み量演算部のそれぞれを複数個有する構成である。なお、その他の構成については、図1と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
一般的に、交流電動機は、適用されるアプリケーションによって、又は接続する負荷装置によって、交流電動機の角速度に含まれる角速度脈動の特徴は変化する。そこで、接続する負荷装置が周期的なトルク変動を有している場合について、ロータリー圧縮機を例として考える。
図11は、実施の形態2の負荷装置の一例であるロータリー圧縮機の負荷トルクの波形の一例を示す図である。横軸は回転角度を表し、縦軸は負荷トルクを表している。ここでは、ロータリー圧縮機の圧縮室の数をkと置く。回転角度の0~360度は、機械角の1周期、即ち機械角周期である。
まず、圧縮室が1つしかない場合、即ちk=1の場合、図11に実線で示すように、負荷トルクは、機械角周期で大きく振動している。二次、三次の高調波も負荷トルク波形には含まれるが、一次の振動が最も大きい。このため、実施の形態1の構成を適用する場合、外乱周波数fdを機械角周波数の一次周波数とすれば、最も大きい一次の角速度脈動を抑制することができる。
実施の形態2では、振動抑制制御部が並列で複数個設けられている。このため、負荷トルク特性に含まれる二次及び三次のトルク変動による速度脈動も、同時に抑制することができる。図10の例では、第一の振動抑制制御部5dと第一の位相進み量演算部6dとに入力される第一の外乱周波数fd1を機械角周波数の一次周波数とする。そして、第二の振動抑制制御部5eと第二の位相進み量演算部6eとに入力される第二の外乱周波数fd2を機械角周波数の二次周波数とする。更に、第Nの振動抑制制御部5fと第Nの位相進み量演算部6fとに入力される第Nの外乱周波数fdNを機械角周波数の三次周波数とする。個々の振動抑制制御部及び位相進み量演算部で行われる演算は、実施の形態1で述べたものと同じである。トルク制御部4aは、速度制御部3から出力される第一のトルク指令τ*
1と、第一の振動抑制制御部5d~第Nの振動抑制制御部5fのそれぞれから出力される第二~第N+1のトルク指令(τ*
2,τ*
3,…,τ*
N+1)に基づいて、交流電動機2を駆動する。具体的には、第一~第N+1のトルク指令(τ*
1,τ*
2,τ*
3,…,τ*
N+1)の総和が交流電動機2の出力トルクと一致するように制御を実施する。これにより、一次、二次及び三次の速度脈動を全て抑制することが可能となる。
圧縮室の数が2又は3の場合、即ちk=2又はk=3の場合についても同様に考えることができる。圧縮室の数を増やすほど構造的には複雑になり高コスト化するが、図11に示されるように脈動の小さい波形となっている。具体的に、k=2の場合は機械角周波数の二次高調波成分が大きくなり、k=3の場合は三次高調波成分が大きくなっている。
例えばk=2の場合、図11に示されるように、機械角周期の二次の振動が支配的である。このため、第一の振動抑制制御部5dと第一の位相進み量演算部6dに入力される外乱周波数fd1は、機械角周波数の二次の周波数成分として設定する。そして、更に抑制したい二次を超える周波数成分の振動があれば、それらを第二の外乱周波数fd2として、第二の振動抑制制御部5e及び第二の位相進み量演算部6eのそれぞれに入力すればよい。
また、例えばk=3の場合、図11に示されるように、機械角周期の三次の振動が支配的である。このため、第一の振動抑制制御部5dと第一の位相進み量演算部6dに入力される外乱周波数fd1は、機械角周波数の三次の周波数成分として設定する。そして、更に抑制したい三次を超える周波数成分の振動があれば、それらを第二の外乱周波数fd2として、第二の振動抑制制御部5e及び第二の位相進み量演算部6eにそれぞれ入力すればよい。
以上説明したように、実施の形態2に係る交流電動機の駆動装置によれば、振動抑制制御部及び位相進み量演算部は複数であり、位相進み量演算部は、振動抑制制御部の個数に対応して設けられる。そして、複数の振動抑制制御部は、それぞれが異なる特定高周波成分に基づいてトルク指令を計算し、トルク制御部は、複数の振動抑制制御部のそれぞれから出力されるトルク指令に基づいて動作するように構成される。これにより、複数の次数の振動を同時に抑制することができる。その結果、交流電動機の角速度に含まれる角速度脈動をより小さく抑えることが可能となる。
実施の形態3.
図12は、実施の形態3に係る交流電動機の駆動装置101bの構成を示すブロック図である。図12において、実施の形態3に係る駆動装置101bでは、図1に示す実施の形態1に係る駆動装置101の構成において、振動抑制制御部5が振動抑制制御部5gに置き替えられ、位相進み量演算部6が位相進み量演算部6gに置き替えられている。更に、実施の形態3に係る駆動装置101bでは、ゲイン演算部7が設けられている。なお、図12では、実施の形態1に係る駆動装置101を適用した構成としているが、これに限定されない。実施の形態2で説明した駆動装置101aを用いて駆動装置101bが構成されていてもよい。また、駆動装置101,101aの構成及び機能については前述した通りであり、ここでの説明は省略する。
図12において、ゲイン演算部7は、前述の(13)、(14)式などで示した振動抑制制御の積分ゲインKIを外乱周波数fdに応じて動的に変動させる機能を有する。ゲイン演算部7により、振動抑制制御が開始されてから振動が収束するまでの所要時間を任意の値に指定することが可能となる。
真の角速度ωrからモデル偏差εまでの伝達関数Gε(s)のゲイン特性は、前述の図3で示したように、外乱周波数fdによって大きく変化する。これを考慮せずに振動抑制制御の積分ゲインKIを決定した場合、振動抑制制御が開始されてから振動が収束するまでの時定数が外乱周波数fdによって大きく変化してしまい、制御調整が煩雑化する場合がある。一方、ゲイン演算部7を用いることにより、制御調整を容易化することが可能である。なお、この時定数の逆数のことを一般に「制御応答」と呼ぶ。
次に、埋込磁石型同期電動機を例にとり、ゲイン演算の方法を説明する。埋込磁石型同期電動機において、d軸電流によるリラクタンストルクを無視した場合、q軸電流iqから電気角速度である角速度ωrまでの伝達関数は、以下の(26)式によって表される。振動抑制制御の積分ゲインKIを決定する際には、まず(26)式を考慮する必要がある。
上記(26)式において、Pmは極対数を表し、Jは慣性モーメントを表し、φaはdq軸における磁束鎖交数を表している。
上記(26)式は積分特性1/sを持つため、同じ振幅の速度脈動を抑える場合でも、外乱周波数fdが高い方がより大きなトルクが必要となる。そのため、振動抑制制御の制御応答を一定にしようとした場合、振動抑制制御の積分ゲインKIは外乱角周波数ωd(=2πfd)に比例させなければならない。
更に、真の角速度ωrからモデル偏差εまでの伝達関数Gε(s)のゲイン特性を同時に考慮しなければ、振動抑制制御の制御応答を指定することはできない。周波数伝達関数Gε(jωd)のゲイン特性は、図3に示した通り、低周波域と高周波域とで減衰する特性である。よって、振動抑制制御の積分ゲインKIは、低周波域と高周波域とで上昇するように設定する。なお、制御設計者にとって周波数伝達関数Gε(jωd)の絶対値|Gε(jωd)|は既知であるから、その逆数を積分ゲインKIに乗じるようにすればよい。
これらのことを考慮すると、振動抑制制御の制御応答を任意の値に指定するためには、以下の(27)式で振動抑制制御の積分ゲインKIを計算すればよいことがわかる。
ゲイン演算部7は、積分ゲインKIを上記(27)式で計算し、振動抑制制御部5gに与える。振動抑制制御部5gは、ゲイン演算部7から与えられた積分ゲインKIと、位相進み量演算部6gから与えられた位相進み量-∠Gε(jωd)とを用いて、振動抑制制御を実施する。
以上説明したように、実施の形態3に係る交流電動機の駆動装置は、伝達関数のゲイン特性を計算するゲイン演算部を備え、積分制御器はゲイン特性を考慮して制御演算を行う。これにより、振動抑制制御の積分ゲインを外乱角周波数の関数で変化させることができ、振動が収束するまでの時定数を所望の値に指定することができる。その結果、制御調整作業を容易化することが可能となる。
実施の形態4.
図13は、実施の形態4に係る交流電動機の駆動装置101cの構成を示すブロック図である。図13では、図1に示す交流電動機2が、交流電動機2を備えた冷媒圧縮機20に置き替えられている。実施の形態4に係る駆動装置101cは、冷媒圧縮機20の速度脈動を軽減するため、実施の形態1に係る駆動装置101を用いて圧縮機駆動装置として構成したものである。なお、図12では、実施の形態1に係る駆動装置101を適用した構成としているが、これに限定されない。実施の形態2で説明した駆動装置101a又は実施の形態3で説明した駆動装置101bを用いて駆動装置101cが構成されていてもよい。なお、駆動装置101、101a、101bの構成及び機能については前述した通りであり、ここでの説明は省略する。
次に、冷媒圧縮機20の構造及び冷媒圧縮機20における負荷トルクについて、図14及び図15を参照して詳細に説明する。図14は、図13に駆動対象として示した冷媒圧縮機20の内部の概略構造を示す断面図である。また、図15は、図14に示す冷媒圧縮機20の圧縮部202の内部の構造を示す断面図である。なお、ここでは、ロータリー圧縮機のローリングピストン式と呼ばれる冷媒圧縮機について説明するが、これに限定されない。冷媒圧縮機は、スクロール圧縮機といった他の種類の圧縮機であってもよい。
冷媒圧縮機20は、密閉容器211と、密閉容器211に内蔵される交流電動機2と、交流電動機2を構成するロータ2-1に一端が貫通するシャフト201と、シャフト201の他端が貫通し密閉容器211の内側に固定される圧縮部202と、密閉容器211に設けられた吸入パイプ203と、密閉容器211に設けられた吐出パイプ204とを備える。
交流電動機2のステータ2-2は、密閉容器211に焼嵌め、冷嵌め、又は溶接により取り付けられ保持されている。ステータ2-2のコイル2-3には不図示の電線を介して電力が供給される。ロータ2-1は、ステータ2-2の内側に隙間2-4を介して配置され、ロータ2-1の中心部のシャフト201を介して、不図示の軸受により回転自在な状態で保持されている。
このように構成された冷媒圧縮機20において、交流電動機2が駆動することにより、吸入パイプ203を介して圧縮部202内に吸入された冷媒が圧縮され、圧縮された冷媒が吐出パイプ204から吐出される。冷媒圧縮機20では、交流電動機2が冷媒に浸かる構造を取る場合が多く、温度変化が激しいことから交流電動機2に位置センサを取り付けることは難しい。そのため冷媒圧縮機20では、交流電動機2を位置センサレス駆動しなければならない。
また、圧縮部202は、図15に示されるように、環状のシリンダ212と、シャフト201と一体で回転自在に形成されてシリンダ212の内側に配置されるピストン205と、シリンダ212の内周部に設けられた圧縮室213とを有する。
シリンダ212は、図13に示す吸入パイプ203と連通する吸入口206と、圧縮された冷媒を吐き出す吐出口207とを備える。吸入口206及び吐出口207は圧縮室213と連通している。またシリンダ212は、圧縮室213を吸入パイプ203に通じる低圧室と吐出口207に通じる高圧室とに区画するベーン210と、ベーン210を付勢するバネ209とを備える。
シャフト201は交流電動機2とピストン205とを相互に接続するものである。ピストン205は偏心しており、回転角度によって、吐出側と吸入側の容積が変化するようになっている。吸入口206から吸入された冷媒は、ピストン205によって圧縮され、圧縮室213の圧力が高まると、吐出弁208が開き、吐出口207から冷媒が吐出される。冷媒が吐出されると同時に吸入側には冷媒が流れ込む。交流電動機2を回し続けると、ピストン205の機械角1回転につき1度、冷媒が吐出される。
冷媒圧縮機20の負荷トルク脈動は、交流電動機2に対しては周期外乱となるため、速度脈動の要因となる。冷媒圧縮機20では、速度脈動が大きいと、騒音及び振動が大きくなることが一般に知られている。
但し、負荷トルク脈動及び速度脈動の周波数は、冷媒圧縮機20の構造によって決まるため、既知である。実施の形態3に係る冷媒圧縮機20は、そのことを利用して図12に示す制御系を構築する。冷媒圧縮機20は、振動抑制制御部5および位相進み量演算部6により速度脈動の特定周波数成分を抑制するような第二のトルク指令τ*
2を計算する。
冷媒圧縮機20の負荷トルクの脈動パターンは、冷媒圧縮機の機械的構造によって決定される。ある種の振動抑制制御では、負荷トルクの脈動パターンを事前に詳しく調査し、調査したデータを用いてフィードフォワード型の振動抑制制御を行うといったものがある。しかしながら、フィードフォワード型の振動抑制制御では事前の調査や制御調整が極めて煩雑である。
汎用的な交流電動機の駆動装置では、冷媒圧縮機を含め、様々な種類の機械装置を駆動することが求められる。事前調整が煩雑なフィードフォワード型の振動抑制制御は、汎用的な駆動装置に適さない。そのため、実施の形態4に係る駆動装置101cでは、事前調査を行わずとも振動を抑制できるようにフィードバック型の振動抑制制御を用いて構成している。また、汎用的な駆動装置は、使用される用途が多岐に渡るため、特許文献1に記載の技術のように適応観測部の構成を大幅に変更することは難しい。なぜならば、適応観測部の構成を大きく変更した場合、その変更によって何らかの不具合やバグが生じるおそれがあるが、汎用的な駆動装置ではその影響調査の作業工数が莫大な量になるからである。
実施の形態4に係る駆動装置101cは、こういった背景から案出されたものである。実施の形態4に係る駆動装置101c適応観測部の構成を変更せずに、汎用的な駆動装置に対して振動抑制制御の機能を付与することができるので、非常に有用である。
実施の形態5.
図16は、実施の形態5に係る冷凍サイクル装置300の構成を示す図である。図16に示される冷凍サイクル装置300は、交流電動機の駆動装置101cと、冷媒圧縮機20と、冷媒圧縮機20に配管305を介して接続される凝縮器301と、凝縮器301に配管305を介して接続される受液器302と、受液器302に配管305を介して接続される膨張弁303と、膨張弁303に配管305を介して接続される蒸発器304とを備える。蒸発器304は吸入パイプ203に接続される。
冷媒圧縮機20、凝縮器301、受液器302、膨張弁303、蒸発器304及び吸入パイプ203が配管305で接続されることにより、冷媒圧縮機20、凝縮器301、受液器302、膨張弁303、蒸発器304及び吸入パイプ203は、冷媒が循環する冷凍サイクル回路306を構成する。冷凍サイクル回路306では、冷媒の蒸発、圧縮、凝縮及び膨張という工程が繰り返され、冷媒が液体から気体へ、又は気体から液体へと変化を繰り返しながら、熱の移動が行われる。
冷凍サイクル装置300を構成する各機器の機能を説明する。蒸発器304は、低圧の状態で冷媒液を蒸発させ、周囲より熱を奪い、冷却作用を有するものである。冷媒圧縮機20は、冷媒を凝縮させるために冷媒ガスを圧縮して高圧のガスにするものである。冷媒圧縮機20は、実施の形態4に係る駆動装置101cによって駆動される。凝縮器301は、熱を放出して高圧の冷媒ガスを凝縮して、冷媒液にするものである。膨張弁303は、冷媒を蒸発させるために、冷媒液を絞り膨張して低圧の液体にするものである。受液器302は、循環する冷媒量の調節のために設けられるもので、小型の装置では省略してもよい。
一般的に冷凍サイクル装置には、静音性の向上とコストの低減とが要求される。例えば、家庭用の冷凍サイクル装置では、特に低コスト化の要求が高く、シングルロータリー圧縮機が使用されることが多い。シングルロータリー圧縮機とは、図14及び図15で説明したロータリー圧縮機であり、圧縮室213を1つのみ備えるタイプの圧縮機である。ロータリー圧縮機は、負荷トルク脈動が非常に大きいため、振動及び騒音が大きくなりがちである。一方、従来のフィードフォワード制御方式では、振動及び騒音を抑制するために煩雑な制御調整が必要であった。
実施の形態5に係る冷凍サイクル装置300は、駆動装置101cが速度脈動を自動的に零にするようにフィードバック制御をする。様々な用途で使用される汎用的な駆動装置に対して、このようなフィードバック型の振動抑制制御はとても有用である。様々な冷媒圧縮機の振動を事前調整なしで抑制できるからである。
前述の通り、特許文献1に記載の技術は、汎用的な駆動装置に対して適用が困難であったが、本開示の手法は、汎用的な駆動装置への振動抑制制御の機能追加が極めて容易であり、非常に有用である。また、実施の形態5によれば、フィードバック制御で速度脈動を抑えこむことにより、製造時のバラつき、モータの定数変動、及び圧縮機の負荷条件の変化にも柔軟に対応できるようになる。これにより、耐環境性の高い冷凍サイクル装置300を実現することができる。
なお、以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。