本発明の各実施形態に係る周波数変調型の可変エネルギー加速器が、各図面を参照しながら以下に説明される。複数の図面に示された同一の事項については同一の符号が付されており、説明の重複が避けられている。
本発明の第1実施形態に係る可変エネルギー加速器1が図1から図12を参照しながら以下に説明される。可変エネルギー加速器1は時間的に一定な磁場を主磁場として持ち、主磁場中を周回する陽子を高周波電場によって加速する円形加速器である。
図1には可変エネルギー加速器1の外観を模式的に示した斜視図が示されている。可変エネルギー加速器1は、略円柱形状の容器10を有している。容器10内は、図示を省略した真空ポンプによって真空引きされている。容器10は上下に分割可能となっており、容器10の上側部分および下側部分のそれぞれに電磁石11が形成されている。電磁石11は、加速および周回中のイオンビームを通過させる容器10内のビーム通過領域に磁場を励起する。
容器10の上側部分の中心からずれた位置には、水素イオンを容器10内に供給するイオン源12が設置されており、ビーム入射用貫通口115および入射部130を通してイオンが容器10の内部に入射される。入射部130に設けられた引き出し電極には、ビーム入射用貫通口115を通じて外部からビーム通過領域へイオンを取り込むために必要な電力が供給されている。
容器10には、外部とビーム通過領域とを接続する複数の貫通口が、上下の分割接続面上に設けられている。本実施形態では、ビーム取り出し貫通口111、コイル導体用貫通口112、および高周波電力入力用貫通口114が設けられている。ビーム取り出し貫通口111は、加速されたイオンビームが取り出される貫通口である。コイル導体用貫通口112は、容器10内に配置されたコイル導体を外部に引き出すための貫通口である。
図2には容器10を上下に分割した面を上から見たときの様子が示されている。容器10には、高周波電力入力用貫通口114を通じて、加速電極としての高周波加速空胴21が設置されている。高周波加速空胴21は、イオンを加速してイオンビームとするための高周波電場を発生する。後述するように、高周波加速空胴21は、加速用のディー電極221と高周波電場の周波数を変調するための回転式可変容量キャパシタ212(図1)とを備えている。
図3には、図2に示されたAA線における断面が示されている。可変エネルギー加速器1の内部構造が、図2および図3を参照して以下に説明される。容器10の上側部分および下側部分のそれぞれは、円筒状のリターンヨーク121および天板122を有している。上下の天板122の内面には、円板状あるいは円柱状の磁極123が設けられている。磁極123の厚みは一様でなくてよい。容器10内において上下に対向した磁極123によって挟まれる略円柱状の空間内に、上述のビーム通過領域20がある。上下の磁極123における互いに対向している面は磁極面と定義される。また、上下の磁極面に挟まれ、上下の磁極面から等距離にあり、上下の磁極面に対向する仮想的な面は軌道面と定義される。
磁極123の外周面とリターンヨーク121の内面との間に形成される凹部には、円環状のコイル13が磁極123の外周側の壁に沿って設置されている。コイル13に電流を流すことによって上下に対向する磁極123が磁化し、所定の分布でビーム通過領域20に磁場が励起される。
図4には、高周波加速空胴21および接地電極222の構造が模式的に示されている。高周波加速空胴21は、略扇形の空胴上壁22Aおよび空胴下壁22Bを対向させ、空胴上壁22Aの外周と空胴下壁22Bの外周との間が空胴側壁22Cによって接続された構造を有している。ただし、空胴側壁22Cの中央部には開口が設けられており、この開口に、空胴上壁22Aおよび空胴下壁22Bから離れる方向に伸びる筒状の導波路22Dが形成されている。
空胴上壁22A、空胴下壁22Bおよび空胴側壁22Cは、ディー電極221を構成する。接地電極222は、空胴上壁22A、空胴下壁22Bおよび空胴側壁22Cによって形成されるディー電極開口22Eと対向する領域を囲む環状の導体によって形成されている。空胴上壁22A、空胴下壁22Bおよび空胴側壁22Cと、接地電極222との間には、加速ギャップ223が形成されている。ビーム入射用貫通口115の下端は、接地電極222の折れ曲がった部位とディー電極221との間の上方に位置し、ビーム入射用貫通口115の下端からビーム通過領域にイオンが取り込まれる。
このように、高周波加速空胴21は、ビーム入射用貫通口115が設けられた位置から異なる2方向に向けて、容器10の側壁の内面に向かって広がるディー電極開口22Eを有している。また、高周波加速空胴21は、ディー電極開口22Eの上辺および下辺から、ビーム取り出し貫通口111がある側とは反対側に、容器10の側壁の内面に向かって広がり対向する空胴上壁22Aおよび空胴下壁22Bを有している。さらに、高周波加速空胴21は、空胴上壁22Aの外周と当該空胴下壁22Bの外周との間を繋ぐ空胴側壁22Cを有している。
入射部130から接地電極222とディー電極221との間に入射したイオンは、空胴上壁22Aと空胴下壁22Bとの間に挟まれた空間を弧を描いて通過し、左側の加速ギャップ223を通って、接地電極222の左側をくぐり抜ける。イオンは、さらに、接地電極222よりも手前側を弧を描いて通過し、接地電極222の右側をくぐり抜け、右側の加速ギャップ223を通って空胴上壁22Aと空胴下壁22Bとの間に挟まれた空間に戻る。イオンは、このような軌道を軌道半径を大きくしながら周回し、後述する電場および磁場の作用によって外側に反れて、ビーム取り出し貫通口111から可変エネルギー加速器1の外側に至る。
再び図2および図3が参照される。高周波加速空胴21は、4分の1波長型の共振モードによって加速ギャップ223にイオンを加速するための高周波電場を励起する。高周波加速空胴21の導波路22Dは高周波電力入力用貫通口114を通じて、容器10の外側に至っている。
イオンは、加速ギャップ223に励起される高周波電場によって加速される。イオンビームの周回周波数に同期するために、高周波電場の周波数はイオンビームの周回周波数の整数倍となる。本実施形態では、高周波電場の周波数はビームの周回周波数の1倍とされている。
磁極123には磁場の微調整用のトリムコイル33が複数系統設けられている。トリムコイル33はコイル導体用貫通口112を通じて外部の電源装置に接続されている。各系統個別に励磁電流を調整することで、磁場の分布が後述の磁場分布に近付けられ、安定なベータトロン振動を実現するように運転前にトリムコイル電流が調整される。
イオン源12で生成されたイオンは入射部130における引き出し電極に印加された電圧によって低エネルギーのイオンの状態でビーム通過領域20に引き出される。入射されたイオンは高周波加速空胴21に励起される高周波電場によって加速ギャップ223を通過する毎に加速され、イオンビームとなる。
また、四極磁場や六極以上の多極磁場を励磁する2か所のキック磁場発生用シム311、および高周波電圧が印加される擾乱用電極313が、上下の磁極123から電気的に絶縁された状態で設置されている。磁極面の端部の1か所に取り出し用セプタム電磁石312の入射部が設置されている。キック磁場発生用シム311、擾乱用電極313および取り出し用セプタム電磁石312は、イオンビームを可変エネルギー加速器1外に取り出すために用いられる。
擾乱用電極313は、入射部130と容器10の側壁との間の距離が最も小さい位置に配置されている。キック磁場発生用シム311は、上側の磁極123の外周部と、下側の磁極123の外周部との間に位置し、上下の磁極123の外周に沿った線状の磁性体によって形成されている。2つのキック磁場発生用シム311は、接地電極222から見て高周波加速空胴21から離れる側の領域における、擾乱用電極313を挟む位置に配置されている。取り出し用セプタム電磁石312は、擾乱用電極313の近傍に配置されている。
図5には、擾乱用電極313の構造が模式的に示されている。擾乱用電極313は内側電極片70Aおよび外側電極片70Bから構成される電極対70と、内側電極片72Aおよび外側電極片72Bから構成される電極対72とを備えている。電極対70における内側電極片70Aおよび外側電極片70Bは、所定の距離を隔てて、容器10の側壁の内面に沿って方向を揃えて配置されている。内側電極片70Aは外側電極片70Bよりも容器10における内側に位置する。
電極対72における内側電極片72Aおよび外側電極片72Bは、それぞれ、内側電極片70Aおよび外側電極片70Bの下方に位置している。すなわち、内側電極片72Aおよび外側電極片72Bは、所定の距離を隔てて、容器10の側壁の内面に沿って方向を揃えて配置されている。内側電極片72Aは外側電極片72Bよりも容器10における内側に位置する。
内側電極片70Aと外側電極片70Bとの間に高周波電圧が印加されることで、内側電極片70Aから外側電極片70Bに向かう方向、あるいは、外側電極片70Bから内側電極片70Aに向かう方向の電場が発生する。同様に、内側電極片72Aと外側電極片72Bとの間に高周波電圧が印加されることで、内側電極片72Aから外側電極片72Bに向かう方向、あるいは、外側電極片72Bから内側電極片72Aに向かう方向の電場が発生する。
再び図2および図3が参照される。擾乱用電極313に高周波電圧が印加されることで、擾乱用電極313からは擾乱用電場が発せられる。擾乱用電場は、周回中のイオンを軌道面に沿う方向にキックし、設計軌道からイオンを外れさせる。その軌道が設計軌道から外れたイオンはキック磁場発生用シム311の近くを通過する。キック磁場発生用シム311による磁場は、ビーム通過領域20中を周回するイオンに対して安定領域を制限し、安定領域外に出たイオンを取り出し用セプタム電磁石312に導入する。
各キック磁場発生用シム311は、磁極123が形成する磁場に対して逆極性の磁場を重畳励磁する。擾乱用電極313に適切な周波数の高周波電圧を印加することで発生した擾乱用電場がイオンビームに擾乱を与える。後に述べる原理により、擾乱用電極313に印加される高周波電圧のオンオフに同期して取り出されるイオンビームのオンオフの制御が行われる。
上下の磁極123、コイル13、トリムコイル33、キック磁場発生用シム311、取り出し用セプタム電磁石312、擾乱用電極313等の形状または配置は、軌道面において磁場の面内成分が抑制され、あるいは0となるように設計されている。
上下の磁極123、コイル13、トリムコイル33、キック磁場発生用シム311、取り出し用セプタム電磁石312、および擾乱用電極313の形状と配置は軌道面に対して面対称であってよい。また、磁極123、ディー電極221、コイル13、トリムコイル33、および擾乱用電極313の形状は、図2に示されているように、可変エネルギー加速器1を上面側から見たときに、高周波電力入力用貫通口114の中心部とコイル導体用貫通口112の中心部を結ぶ線分に対して左右対称の形状であってよい。
可変エネルギー加速器1中を周回するイオンビームの軌道および運動についての説明が以下に示される。イオンビームはビーム通過領域20中を周回しながら加速される。本実施形態に係る可変エネルギー加速器1における取り出し可能なイオンビームの運動エネルギーは、最小70MeV、最大235MeVである。運動エネルギーが大きいほどイオンビームの周回周波数は小さくなる。
入射直後の運動エネルギーを有するイオンビームは76MHzでビーム通過領域20中を周回し、235MeVに達したイオンビームは59MHzでビーム通過領域20中を周回する。図6には、これらの運動エネルギーと周回周波数との関係が示されている。横軸は運動エネルギーEm[MeV/u]を示し、縦軸は周回周波数F[MHz]を示す。
図7には、各運動エネルギーに対応するイオンビームの軌道が示されている。X軸は、図2における横方向の座標値を示し、Y軸は、図2における縦方向の位置を示す。図7中、最も外側に最大エネルギー252MeVの軌道に対応した半径0.497mの円軌道が存在し、そこから、0MeVまで磁気剛性率で51分割した都合51本の円軌道が図示されている。点線は各軌道の同一の周回位相を結んだ線であり、等周回位相線と称される。
図7に示されているように、本実施形態に係る可変エネルギー加速器1では、イオンビームの加速に従ってイオンビームの軌道中心(設計軌道)が軌道面内で一方向に移動する。設計軌道が移動する結果、異なる運動エネルギーの軌道が互いに近接している領域(すなわち、設計軌道が集約する領域)と互いに遠隔している領域(すなわち、設計軌道が離散する領域)が存在する。このように、可変エネルギー加速器1では、イオンビームの設計軌道が偏心している。
各設計軌道における、最も設計軌道同士が近接している点を結ぶ線は、各設計軌道に直交する線分となる。また、最も設計軌道同士が遠隔している設計軌道の点を結ぶ線は、各設計軌道に直交する線分となる。これら2本の線分は同一直線上に存在する。この直線を対称軸と定義すると、設計軌道の形状は、対称軸を通り軌道面に垂直な面に対して面対称となる。
図7に示される等周回位相線は、集約領域から周回位相π/20ごとにプロットされている。ディー電極221と接地電極222との間に形成される加速ギャップ223は、集約点から見て位相換算で±90度周回した等周回位相線に沿って設置されている。図7から明らかなように、加速ギャップ223よりもY軸負方向側では、Y軸正方向側よりも複数の設計軌道の間隔が密である。さらに、イオンビームの軌道中心よりもY軸負方向側の領域では、複数の設計軌道の間隔が他の領域に比べて密である。
また、加速ギャップ223よりもY軸負方向側には、加速電極としての高周波加速空胴21が配置され、イオンビームの軌道中心よりもY軸負方向側の領域には、擾乱用電極313が配置されている。したがって、擾乱用電極313を通過するイオンビームについての複数の周回軌道の間隔は、高周波加速空胴21を通過するイオンビームについての複数の周回軌道の間隔よりも密となる。
本実施形態に係る可変エネルギー加速器1内の磁場の分布では、設計軌道の偏向半径方向外側に行くにつれ磁場の大きさが小さくなる。また、設計軌道に沿って磁場は一定である。これによって、設計軌道は円形となり、イオンビームの運動エネルギーが高まるにつれてその軌道半径および周回時間が増加する。
このような体系では、設計軌道から半径方向に微小にずれたイオンは、設計軌道に戻る方向に復元力を受ける。さらに、軌道面に対して鉛直な方向にずれたイオンも軌道面に戻る方向に磁場から復元力を受ける。すなわち、イオンビームの運動エネルギーに対して適切に磁場が小さくなることで、設計軌道からずれたイオンには設計軌道に戻る方向に適切な復元力が働き、イオンは設計軌道の近傍を振動する。これにより、安定にイオンが周回および加速する。この設計軌道を中心とする振動はベータトロン振動と称される。このように、本実施形態に係る可変エネルギー加速器1内の磁場の分布によって、上記のような周回軌道が実現され、周回軌道周辺でのイオンの振動が安定となる。
図8には、各運動エネルギーを有するイオンビームに対する磁場の値が示されている。横軸は運動エネルギーEm[MeV/u]を示し、縦軸は磁場B[T]を示す。形成される磁場Bはイオンビームの軌道に沿って一様、かつ運動エネルギーEmが高くなるにつれ磁場Bが低下していくように分布する。つまり、径方向外側の磁場が低下するような磁場が形成される。このような磁場下においては、イオンビームの軌道面内の動径方向と軌道面に対して垂直な方向のそれぞれに対して、イオンは安定にベータトロン振動する。磁場は入射部130で最大の5Tとなり、最外周では4.91Tまで低下する。
上述の磁場は、コイル13とそれを補助するトリムコイル33に所定の励磁電流を流すことによって磁極123が磁化されることで励起される。イオンの入射部130から外周に向かって磁場が小さくなる分布によって、磁極123が対向する距離(ギャップ)は、入射部130から外周に向かって大きくなる。このギャップは、入射部130において最も小さくてよい。さらに、本実施形態では、磁極123の形状はギャップ中心を通る平面(軌道面)に対して面対称の形状であり、理想的には軌道面上においては軌道面に垂直な方向の磁場成分のみを持つ。さらに、磁場分布の微調整が、磁極面に設置されたトリムコイル33に流れる電流を調整することで行われ、所定の分布を有する磁場が励起されてよい。
上述のように、高周波加速空胴21は加速ギャップ223に高周波電場を励起する。後述の高周波発生装置から入力カプラを通じて高周波電力が導入され、ディー電極221と接地電極222との間の加速ギャップ223に高周波電場が励起される。一般に、ディー電極が励起する電磁場は、電極形状によって定まる特定の共振周波数および空間分布の電磁場となる。特定の周波数と空間分布を持つ電磁場は固有モードと称される。固有モードには複数の種類があり、イオンの加速のために励起するモードは基本モードと称される。
図9には、基本モードの電磁場分布と表面電流分布が示されている。図9には、高周波加速空胴21が形成する共振器の外形と共に、太矢印(E)で電場の分布、点線矢印で磁場の分布(B)、実線矢印で共振器表面の電流分布(j)の概形が太線で示されている。基本モードでは同時刻にディー電極221から接地電極222に対して同じ向きの電場が生じる。
一方で、より周波数の高いモードも存在し、例えば、図10に示されるような加速ギャップ223に励起される電場の向きが場所によって異なるモードも存在する。このようなモードは基本モードよりも周波数が高く高調波モードと称される。高調波モードの電磁場は周回中のイオンの運動に擾乱を与える。
本実施形態に係る可変エネルギー加速器1では、イオンビームの周回に同期させて高周波電場を励起するため、周回中のイオンビームの運動エネルギーに対応して高周波電場の周波数が変調される。これに応じて高周波加速空胴21の共振周波数が変更され、高周波電場の周波数に高周波加速空胴21が同調する。その制御は高周波加速空胴21の端部に設置された回転式可変容量キャパシタ212の静電容量を変化させることで行われる。
回転式可変容量キャパシタ212は、回転軸213に直接接続された導体板と外部導体との間に生じる静電容量を回転軸213の回転角によって制御するものである。イオンビームの加速に伴い回転軸213を回転することで、回転式可変容量キャパシタ212の静電容量が周期的に変化する。
次いで、本実施形態に係る可変エネルギー加速器1のビーム入射から取り出しまでのビームの挙動が図1および図2を参照して述べられる。まず、イオン源12から低エネルギーのイオンが出力され、ビーム入射用貫通口115および入射部130を介してビーム通過領域20にイオンビームが導かれる。
ビーム通過領域20に入射されたイオンビームは高周波電場によって加速し、その運動エネルギーが増加する。これと共に、イオンビームの回転半径が増加する。その後、イオンビームは高周波電場による進行方向安定性を確保しながら加速される。
すなわち、高周波電場が最大となる時刻にイオンが加速ギャップ223を通過するのではなく、高周波電場が減少している時間帯にイオンが加速ギャップ223を通過する。これによって、高周波電場の周波数とイオンビームの周回周波数が整数倍の比で同期する。そのため、所定の高周波電場の位相で加速されたイオンは、前後の周回で、ほぼ同じ位相で加速を受ける。
一方、加速位相より早い位相で加速されたイオンは、加速位相で加速されたイオンよりもその加速量が大きい。したがって、次の周回では、イオンは、先の周回よりも遅れた位相で加速を受ける。また、逆にある時に加速位相より遅い位相で加速されたイオンは加速位相で加速されたイオンよりもその加速量が小さい。そのため、次の周回では、イオンは、先の周回よりも進んだ位相で加速を受ける。
このように、所定の加速位相からずれたタイミングで周回するイオンは加速位相に戻る方向に動く。この作用によって、運動量および位相が直交する2軸で表された位相平面(進行方向)内において、イオンは安定に振動する。この振動はシンクロトロン振動と称される。すなわち、加速中のイオンはシンクロトロン振動をしながら、徐々に加速され、イオンの運動エネルギーは、取り出される所定の目標エネルギーに達する。
イオンビームを目標エネルギーで取り出すために、高周波加速空胴21に励起される高周波電場は次のように制御される。すなわち、高周波加速空胴21に励起される高周波電場は徐々に小さくされ、イオンビームの運動エネルギーが目標エネルギーに達したところで高周波電場は0とされる。これにより、イオンビームは目標エネルギーにて安定に周回する。
そして、擾乱用電極313に高周波電圧が印加され、擾乱用電極313から擾乱用電場が発せられる。擾乱用電場の周波数はイオンビームのベータトロン振動の周波数に一致させており、イオンビームは進行方向の位置、すなわち擾乱用電極313を通過する時刻に依存する擾乱を受ける。特定のイオンに着目すると擾乱用電場と周回のベータトロン振動の周波数が一致しているため、両者は共鳴し、あるイオンのベータトロン振動振幅が増大する。
ベータトロン振動振幅が増大し続けると、イオンは設計軌道の外側に設置されたキック磁場発生用シム311が励起するキック磁場の作用を受ける。これによってベータトロン振動が発散し、設計軌道から見て外側にイオンビームが変位する。その結果、取り出し用セプタム電磁石312にイオンビームが導入される。この安定領域と不安定領域の境界はセパラトリクスと称される。
上記目標エネルギーに達してから取り出されるまでの間、イオンビームを構成する個々のイオンは、キック磁場発生用シム311由来の四極磁場および六極以上の多極磁場によって、次のように周回する。すなわち、個々のイオンは、イオンビームの水平方向の位置と傾きで定まる位相空間上において安定に周回できる領域と、不安定に軌道ずれが増大し続ける領域とに分けられた状態で周回する。
可変エネルギー加速器1では、セパラトリクスの内側に存在するイオンは安定にベータトロン振動を続ける。一方、セパラトリクスの外に存在するイオンは、キック磁場発生用シム311によるキック作用を周回ごとに受け、設計軌道に対して水平方向に大きな変位を生じる。水平方向に大きな変位を生じたイオンは、後述される擾乱用電極313による擾乱用電場と、取り出し軌道322上の取り出し用セプタム電磁石312による磁場とによって取り出し軌道322上を通り、可変エネルギー加速器1外に取り出される。
また、擾乱用電極313に印加される高周波電圧が遮断されると、イオンビームのベータトロン振動振幅の増大が停止する。これによって、安定領域内でイオンビームが周回し、ビームの取り出しが停止される。
セパラトリクス内側(安定領域)の面積は、イオンビームの運動エネルギーと、キック磁場発生用シム311が作る磁場と設計軌道の距離によって定まる。およそ70MeVのビーム対し、安定領域の面積は500πmm・mradである。
上述のような原理によってイオンビームを加速し、可変エネルギー加速器1外にイオンビームを取り出すための制御システムの構成が図11に示されている。制御システム4は、高周波加速空胴21に付随する回転式可変容量キャパシタ212、回転式可変容量キャパシタ212の回転軸213に接続されるサーボモータ214、およびサーボモータ214を制御するモータ制御装置41を備えている。
制御システム4は、さらに、高周波加速空胴21に高周波電力を入力するための入力カプラ211と、高周波電力を生成し高周波加速空胴21に供給する高周波発生装置42およびアンプ43を備えている。制御システム4は、さらに、高調波モードの電磁場を発生するための構成要素として、高調波モード発生装置44およびアンプ45を備えている。制御システム4は、さらに、制御システム4の全体的な制御を行う全体制御装置40、治療計画を示す治療計画情報が記憶された治療計画データベース60を備えている。
全体制御装置40は、治療計画データベース60に記憶された治療計画情報に従って、モータ制御装置41を制御する。モータ制御装置41は、全体制御装置40による制御に従って、サーボモータ214を制御する。回転式可変容量キャパシタ212では、モータ制御装置41の制御に従ってサーボモータ214が回転することで回転軸213が回転する。回転軸213の回転角が時間的に変化することで静電容量が時間的に変調され、基本モードの共振周波数が変化する。
高周波発生装置42は、全体制御装置40による制御に従って、高周波信号を発生する。高周波発生装置42が発生した高周波信号は、アンプ43によって増幅され、高周波加速空胴21に入力される。高周波発生装置42が発生する高周波信号の周波数は前記の基本モードの共振周波数である。高周波発生装置42が発生する高周波信号の振幅は、治療計画データベース60によって定められており、全体制御装置40より指示される。
高調波モード発生装置44は、全体制御装置40による制御に従って、高周波信号を発生する。高調波モード発生装置44が発生した高周波信号は、アンプ45によって増幅され、高周波加速空胴21に入力される。高調波モード発生装置44が発生する高周波信号の周波数は高調波モードの共振周波数である。高調波モード発生装置44が発生する高周波信号の振幅は、治療計画データベース60によって定められており、全体制御装置40より指示される。
制御システム4は、イオンビームを可変エネルギー加速器1外に取り出すための擾乱発生装置48として、擾乱用電極313に高周波電圧を印加する擾乱用電源46と、この擾乱用電源46を制御する擾乱制御装置47を備えている。
擾乱制御装置47は、全体制御装置40による制御に従って擾乱用電源46を制御する。擾乱用電源46は、擾乱制御装置47の制御に従って、擾乱用電極313に高周波電圧を出力する。擾乱用電源46から擾乱用電極313に出力される高周波電圧は擾乱制御装置47によって制御される。高周波電圧の指定値は、取り出しビームエネルギーと取り出しビームの出力電流(単位時間当たりの粒子数)から定まる値として治療計画データベース60によって定められ、全体制御装置40から擾乱制御装置47に指示される。
図12(a)~図12(i)には、制御システム4が備える各機器の動作のタイミングチャートが示されている。各タイミングチャートの横軸は時間tを示す。
図12(a)には、回転式可変容量キャパシタ212の回転軸213の回転角が示されている。回転角は一定の時間変化率で時間経過と共に増加する。回転式可変容量キャパシタ212では、回転軸213の回転角の増加に対し、周期的にその静電容量が変化する。
図12(b)には、高周波加速空胴21の共振周波数が示されている。回転式可変容量キャパシタ212の静電容量の変化に伴って、高周波加速空胴21の共振周波数が変化する。すなわち、回転式可変容量キャパシタ212の回転軸213の回転角によって、回転式可変容量キャパシタ212の静電容量が周期的に変化し、高周波加速空胴21の共振周波数も周期的に変化する。
図12(c)には、高周波発生装置42が出力する高周波信号の周波数が示されている。高周波発生装置42は、高周波加速空胴21にアンプ43を介して出力する高周波信号の周波数を、高周波加速空胴21の共振周波数に同期するように変化させる。ここで、共振周波数が最大となる時刻から次に最大となる時刻までの期間は、運転周期と定義される。
図12(d)には、加速ギャップ223における高周波電場の振幅が示されている。また、図12(e)には、イオン源12が出力するイオンビームの電流波形(単位時間当たりに流れる電荷量)が示されている。運転周期の開始時に、イオン源12はイオンビームを可変エネルギー加速器1に入射する。イオンビームが可変エネルギー加速器1に入射すると共に、高周波発生装置42はアンプ43を介して高周波加速空胴21に高周波信号を出力する。これによって、加速ギャップ223には高周波電場が発生する。
安定なシンクロトロン振動が可能な領域に入射されたイオンビームは高周波電場によって加速する。これに対し、シンクロトロン振動が安定しないイオンビームは、加速できずに可変エネルギー加速器1内部の構造物に衝突し、失われる。高周波加速空胴21の共振周波数が低下するにつれてイオンビームは加速し、イオンビームの運動エネルギーは、所定の目標エネルギーに達する。
高周波発生装置42が高周波信号を出力してから所定時間τが経過するまでの間は、高周波発生装置42は高周波信号の大きさを一定とする。高周波発生装置42は、高周波信号を出力してから所定時間τが経過後に、高周波信号の大きさを時間経過と共に小さくする。図12(d)に示されているように、加速ギャップ223における高周波電場の振幅は、イオンビーム入射時(t=t1)から所定時間τが経過するまでの間は一定である。イオンビーム入射時から所定時間τが経過した後は、高周波電場の振幅は時間経過と共に小さくなり、最終的に0となる(t=t3)。
高周波発生装置42が高周波信号の大きさの低下を開始するタイミングは、イオンビームの運動エネルギーが目標エネルギーに達する前の所定のタイミングである。例えば、加速ギャップ223に生じる高周波電場が低下し0になったときに、運動エネルギーが目標エネルギーに到達すると見込まれるタイミングで、高周波発生装置42は、自らが出力する高周波信号の大きさを低下させ始める。
図12(f)には、高調波モードの電磁場の振幅が示されている。高周波発生装置42が高周波信号の大きさを低下させると共に、高調波モード発生装置44は、アンプ45を介して高周波加速空胴21に高周波信号を出力する。これによって、加速ギャップ223に高調波モードの電磁場が生じ、イオンビームの水平方向のエミッタンスが増加する。
ここで、イオンビームのエミッタンスは、例えば、次のように定義される。イオンビームの進行方向を正とする軸をs軸、s軸に対して垂直な軸をr軸、イオンの運動量の方向がs軸に対してなす角度をθとしたときに、イオンの存在確率が所定の基準値となるθ-r位相空間での範囲(面積等)をいう。この基準値は、例えば、正規分布の確率変数が-σ以上、+σ以下である範囲(95%)の確率である。ただし、σは標準偏差である。一般にエミッタンスは、イオンビームのθ-r位相空間での範囲の他、実空間でのイオンビームの広がりを表す。
エミッタンスは、θ-r位相空間の他、イオンの位置ベクトルおよび運動量ベクトルによって定まる一般的な位相空間で定義されてもよい。この場合、エミッタンスは、イオンの存在確率が所定の基準値となる位相空間での範囲として定義される。
図12(f)には、高周波電場の振幅の低下が開始した時刻t=t2に、高調波モード発生装置44が高周波信号の出力を開始し、高周波電場の振幅が0となった時刻t=t3に、高調波モード発生装置44が高周波信号の出力を停止する例が示されている。高調波モード発生装置44は、高周波電場の振幅が0となった時刻t=t3より後に高周波信号の出力を停止してもよい。また、高調波モード発生装置44は、高周波電場の振幅が0となった時刻t=t3以降に高周波信号の出力を開始し、次に高周波電場が発生するまでの間に高周波信号の出力を停止してもよい。
図12(g)には、擾乱用電源46が出力する高周波電圧(擾乱用高周波電圧)が示されている。高周波発生装置42が高周波信号の大きさを低下させると共に、擾乱制御装置47は擾乱用電源46をオンにし、擾乱用電源46に高周波電圧を出力させる。擾乱用電源46は、擾乱用電極313に高周波電圧を出力する。これによって、擾乱用電極313からは擾乱用電場が発せられる。イオンビームは擾乱用電場によって擾乱を受け、イオンビームの水平方向のエミッタンスが増加し、イオンビームの軌道が変化する。
図12(g)には、高周波電場の振幅の低下が開始した時刻t=t2に、擾乱用電源46が高周波電圧の出力を開始し、高周波電場の振幅が0となった時刻t=t3以降は、次に高周波電場が発生するまでの間におけるビーム取り出し時間帯(t=t3からt=t4まで、t=t5からt=t6まで)に、擾乱用電源46が高周波電圧を出力する例が示されている。
高周波電場の振幅が十分小さくなったときには、イオンビームの運動エネルギーは所定の目標エネルギーに達している。さらに、イオンビームの水平方向のエミッタンスは、高調波モードの電磁場からの作用によって増加する。イオンビームは、キック磁場発生用シム311の作用等によって定まるセパラトリクス内を周回する。
次いで、高周波電場の振幅が0になった後におけるビーム取り出し時間帯(t=t3からt=t4まで、t=t5からt=t6まで)において、擾乱制御装置47は擾乱用電源46をオンにして、擾乱用電源46に高周波電圧を出力させる。擾乱用電源46は、擾乱制御装置47の制御に従って擾乱用電極313に高周波電圧を出力する。これによって、ビーム取り出し時間帯では、擾乱用電極313から擾乱用電場が発せられる。イオンビームの軌道は擾乱用電場によって変化し、イオンビームはセパラトリクス外に至り、イオンビームが可変エネルギー加速器1から取り出される。
ビーム取り出し時間帯はユーザの操作に応じた時間帯であってよい。ユーザの操作に応じて、周回中のイオンが総て取り出されるか、所定の照射線量が照射されるまでイオンビームが取り出される。
ビーム取り出し時間帯では、高周波加速空胴21に付随のサーボモータ214は回転を続けてよい。この場合、高周波加速空胴21の共振周波数は変動を続けるが、高周波加速空胴21には高周波電場が励起されていないため、イオンビームに対する影響は小さいかほとんど生じない。したがって、イオンビームは一定のエネルギーで周回しながら、擾乱用電極313から発せられる擾乱用電場によって順次取り出される。擾乱用電場の強度によっては、運転周期よりも長い期間に亘ってイオンビームを取り出すことも可能である。
図12(h)には、イオンビームの水平方向のエミッタンスが示されている。加速ギャップ223に高調波モードの電磁場が生じているとき、および擾乱用電極313から擾乱用電場が発せられているときは、イオンビームの水平方向のエミッタンスが増加する。
このような制御によって、イオンビームのエネルギーが目標エネルギーに達した後は、擾乱用電源46のオンオフ、すなわち、擾乱用電極313に印加される高周波電圧のオンオフによって、イオンビームの取り出し(オン)および取り出し停止(オフ)の切り換えが可能である。図12(i)には、可変エネルギー加速器1から取り出されたイオンビームの出力電流が示されている。この図では、ビーム取り出し時間帯ta(t=t3からt=t4まで)、ビーム取り出し時間帯tb(t=t5からt=t6まで)、およびビーム取り出し時間帯tc(t=t7からt=t8まで)において、イオンビームが取り出されることが示されている。
可変エネルギー加速器1から取り出されるイオンビームの運動エネルギーは、加速ギャップ223に高周波電場が発生する時間、あるいは、加速ギャップ223に発生する高周波電場の大きさを変化させることで調整され得る。可変エネルギー加速器1から取り出されるイオンの粒子数は、擾乱用電場の大きさ、あるいは、ビーム取り出し時間帯の長さを変化させることで調整され得る。
このように、高周波発生装置42は、イオンが可変エネルギー加速器1に注入されると共に高周波電場の発生を開始する。高周波発生装置42は、イオンの運動エネルギーが目標エネルギーに達する前に高周波電場の大きさを低下させ、イオンの運動エネルギーが目標エネルギーとなるタイミングで高周波電場の発生を停止する。
高調波モード発生装置44は、イオンを可変エネルギー加速器1から取り出す際に、加速電極としての高周波加速空胴21に高調波モードの電磁場を発生させ、擾乱発生装置48は、イオンを可変エネルギー加速器1から取り出す際に、擾乱用電極313に擾乱用電場を発生させる。
擾乱発生装置48は、高周波電場の発生が停止される停止タイミングに基づくタイミングで、擾乱用電場の発生を開始してよい。具体的には、擾乱発生装置48は、停止タイミング以降におけるビーム取り出し時間帯に擾乱用電場を発生させてよい。高調波モード発生装置44は、高周波発生装置42が高周波電場の発生を開始してから停止タイミングに至るまでの間に、高調波モードの電磁場の発生を開始してよい。その後、高調波モード発生装置44は、停止タイミングで、または、停止タイミングより後に、高調波モードの電磁場の発生を停止してよい。あるいは、高調波モード発生装置44は、停止タイミング以降に高調波モードの電磁場を発生させてよい。
高周波発生装置42は、可変エネルギー加速器1から取り出されるイオンに対する目標エネルギーに応じて、高周波電場の大きさ(振幅)、または、高周波電場を発生する時間長を制御してよい。擾乱発生装置48は、可変エネルギー加速器1から取り出されるイオンに対する粒子数目標値に応じて、擾乱用電場の大きさ(振幅)、または、擾乱用電場を発生する時間長を制御してよい。目標エネルギーおよび粒子数目標値は、例えば、治療計画によって定められる。
本実施形態による効果が以下に説明される。本発明の第1実施形態に係る可変エネルギー加速器1では、高周波電場の振幅を調整し、あるいは高周波電場を発生させる時間を調整することで任意の運動エネルギーのイオンビームが取り出される。また、可変エネルギー加速器1では、異なる運動エネルギーについての複数の設計軌道がビーム取り出し貫通口111側に偏心しており、複数の設計軌道が密となっている。
すなわち、擾乱用電極313を通過するイオンビームについての複数の周回軌道の間隔は、高周波加速空胴21を通過するイオンビームについての複数の周回軌道の間隔よりも密となっている。その上で、キック磁場発生用シム311によるキック作用がイオンビームに及ぼされ、加速ギャップ223における高周波電場が低下し始めた後に発生する擾乱用電場および高調波モードの電磁場によって、ビームの水平エミッタンスが増加する。
これによって、セパラトリクスいっぱいにイオンビームが拡散され、異なる運動エネルギーについての複数の設計軌道に一様にイオンビームが存在する状態が実現される。したがって、擾乱用電場の発生および遮断によって、イオンビームを所定の量だけ可変エネルギー加速器1から取り出すことが容易になる。すなわち、高周波電場の振幅を調整し、あるいは高周波電場を発生させる時間を調整すると共に、擾乱用電場の大きさや、ビーム取り出し時間帯の長さを調整することで、所望の運動エネルギーのイオンビームが所望の量だけ取り出される。
また、可変エネルギー加速器1では、イオンビームのエネルギーが目標エネルギーに達する前の所定のタイミングから高周波電場が低下するように、高周波発生装置42が制御される。そのため、必要以上にイオンビームが加速することが抑制され、より短時間でイオンビームの運動エネルギーが所定のエネルギーに達する。これによって、放射線治療における照射時間が従来の加速器を用いた場合に比べて短くなると共に、高周波電場を発生させるための電力の低減が図られる。
さらに、高周波電場が遮断された後に擾乱用電場をイオンに対して作用させるように擾乱制御装置47が制御される。これによって、イオンビームが所定の目標エネルギーに達している状態でイオンビームの取り出しが開始されることから、運動エネルギーが安定したイオンビームが取り出される。
また、シンクロトロンのように、軌道半径を一定に保ちながらイオンを周回させる環状の設備が必要でないため、可変エネルギー加速器1は、シンクロトロンよりも小型である。
なお、上記では、ビームの水平エミッタンスを増加させる手段として擾乱用電場や高調波モードの電磁場が示されたが、これらの手段に限らずエミッタンスを増加させる効果を持つならば、その他のモードの高周波の磁場、エネルギー分散を増加させる進行方向電場、エネルギー吸収体等が用いられてよい。
本発明の第2実施形態に係る可変エネルギー加速器、およびその運転方法が以下に説明される。第1実施形態に係る可変エネルギー加速器1では、加速核種が水素イオンであるのに対し、第2実施形態に係る可変エネルギー加速器では、加速核種が炭素イオンである。本実施形態に係る可変エネルギー加速器では、核子当りの運動エネルギーが140MeV~430MeVである範囲で、炭素イオンが取り出される。第2実施形態に係る可変エネルギー加速器の構造および動作原理は第1実施形態に係る可変エネルギー加速器1と同様である。
第2実施形態が第1実施形態と異なる点は、軌道半径の大きさと磁場とエネルギーとの関係、および、周回周波数と運動エネルギーとの関係である。これらの関係は、第1実施形態に係る可変エネルギー加速器1に基づいて、イオンビームの磁気剛性率の比に、軌道半径と磁場の積が比例するという関係の下で決定される。本発明の第2実施形態に係る可変エネルギー加速器においても、第1実施形態に係る可変エネルギー加速器1と同様の効果が得られる。
本発明の応用実施形態に係る粒子線治療システムが、図13を参照して説明される。粒子線治療システム1000は、第1実施形態または第2実施形態に係る可変エネルギー加速器7が用いられたシステムである。
図13に示されているように、粒子線治療システム1000は、陽子線、炭素線等のイオンビームの運動エネルギーを、患部の体表からの深さに応じて適切な値にして患者6に照射する装置である。粒子線治療システム1000は、可変エネルギー加速器7、ビーム輸送装置2、照射装置3、全体制御装置40、照射制御装置50、治療計画装置80、および治療計画データベース60を備えている。
可変エネルギー加速器7は、イオンビームを加速する。ビーム輸送装置2は、可変エネルギー加速器7で加速されたイオンビームを照射装置3に輸送する。照射装置3は、ビーム輸送装置2によって輸送されたイオンビームを治療台5に固定された患者6内の患部に照射する。全体制御装置40および照射制御装置50は、可変エネルギー加速器7、ビーム輸送装置2および照射装置3を制御する。治療計画装置80は、患部に対するイオンビームの照射計画を作成する。治療計画データベース60は、治療計画装置80によって作成された治療計画を記憶する。
放射線治療に際しては、治療計画装置80によって治療計画が作成され、データベース60に記憶される。粒子線治療システム1000では、照射する粒子線のエネルギーと照射量が、治療計画データベース60に記憶された治療計画によって定められる。治療計画によって定められた粒子線のエネルギーと照射量は、全体制御装置40から照射制御装置50に入力される。全体制御装置40による制御によって、適切な照射量が照射された時点で、エネルギーが変更され、再度粒子線を照射する手順によって粒子線治療システム1000が動作する。
本実施形態に係る粒子線治療システム1000によれば、上記の第1実施形態または第2実施形態に係る可変エネルギー加速器7の効果によって、照射時間の短いシステムが提供される。
なお、粒子線治療システム1000のビーム輸送装置2は、図13に示すような固定されたものに限られない。ビーム輸送装置2は、回転ガントリと呼ばれる照射装置3ごと患者6の周りを回転可能とした輸送系であってもよい。また、照射装置3は1つに限られず、複数設けられてもよい。さらには、粒子線治療システム1000の形態は、ビーム輸送装置2が設けられず、可変エネルギー加速器7から直接照射装置3に対してイオンビームを輸送する形態であってもよい。
なお、本発明は、上記の各実施形態に限定されるものではなく、本発明には様々な変形例が含まれる。上記の各実施形態は、本発明を分かりやすく説明するための便宜上のものであり、本発明は、各実施形態に限定されるものではない。