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JP7253165B2 - 直播栽培用の植物種子のコーティング処理法、直播栽培用のコーティング処理済み植物種子および植物種子の直播栽培方法 - Google Patents
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JP7253165B2 - 直播栽培用の植物種子のコーティング処理法、直播栽培用のコーティング処理済み植物種子および植物種子の直播栽培方法 - Google Patents

直播栽培用の植物種子のコーティング処理法、直播栽培用のコーティング処理済み植物種子および植物種子の直播栽培方法 Download PDF

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Description

本発明は、直播栽培用の植物種子のコーティング処理法、直播栽培用のコーティング処理済み植物種子および植物種子の直播栽培方法に関するものである。
現在、わが国の農業現場では、担い手の減少、高齢化が進行しており、このような状況に対応するために、省力・低コスト化・大規模化を実現する新しい農業技術の開発が求められている。
特に、主要作物の水稲については、主産地である北日本をはじめとする積雪地帯での担い手の減少、高齢化が顕著かつ深刻であり、しかも農業従事者1人あたりの作付面積が広大であるため、温暖な地域と比較して省力・低コスト化・大規模化は喫緊の課題となっている。
従来、水稲栽培は、図1(A)に示したように、初春にビニルハウス内で一定程度の大きさまで育てた苗を湛水した水田に移植する「移植栽培」により行われてきた。しかしながら、育苗と移植に要する時間が稲作の春作業における労働時間の大きな部分を占めるため、他の作物の栽培における春作業と競合するという問題があった。
そこで、近年は、春季における農作業負担を軽減するために、水田に直接種籾を播くことで上記の育苗および移植作業を省略可能とする「直播栽培」が有望な栽培技術として注目されている。直播栽培は、水を入れる前の乾田に播種する「乾田直播」と、水を張った水田に播種する「湛水直播」とに大別することができる。播種は、「湛水直播」と「乾田直播」いずれの場合においても、図1(B)に示したように、雪融け後の春(春播き)に行われ、「乾田直播」では播種後1.5~2.5葉期頃まで乾田で種籾を発芽、生育させて、その後湛水することを特徴としている。一方、「湛水直播」では、あらかじめ水を張った水田に播種するが、水田の表土と種籾とを接触させる必要がある。通常、種籾は比重が小さいため水面に浮かんでしまい、水田の表土に定着しないばかりか鳥などに食害されるおそれがある。そこで、種籾の比重を大きくすることを目的として、鉄粉を表面に被覆する「鉄コーティング」を施した種籾を播種する方法が普及している(例えば、非特許文献1および特許文献1参照)。
非特許文献1に記載された鉄コーティング湛水直播の方法は、水稲の種籾を15~20℃の水中に3~4日間浸種して吸水させた後、鉄粉と焼石膏(硫酸カルシウム・0.5水和物、CaSO・1/2HO)の混合物で種籾の表面を被覆し、鉄の酸化反応によって発生した熱を放冷した後、さらに仕上げ用の焼石膏で被覆することを特徴としている。この方法では、種籾の最外層が焼石膏の薄層により被覆されているため、播種機による機械的衝撃を受けてもコーティングが壊れにくいとされている。また、鉄の酸化反応によって発生した熱が、浸種により吸水している種籾を乾燥させるため、コーティング処理済みの種籾を長期保存することも可能とされている。
特許文献1に記載された鉄粉被覆稲種子の製造法は、水稲の種籾に、鉄粉、並びに鉄粉に対する質量比で0.5~2%の硫酸塩(但し、硫酸カルシウムは除く)及び/又は塩化物を加え、さらに水を添加して造粒し、水と酸素を供給して金属鉄粉の酸化反応によって生成した錆により、鉄粉を水稲の種籾に付着、固化させた後、乾燥させることを特徴としている。この方法では、硫酸塩、塩化物またはそれらの混合物を用いることにより、焼石膏などの結合剤を用いることなく、金属鉄粉を種籾に効果的かつ経済的にコーティングすることができるとされている。また、少量の鉄粉で種籾をコーティングすることができ、かつ種籾表面で固化した鉄粉は機械的衝撃によっても崩壊しにくいとされている。
特許第4441645号
鉄コーティング湛水直播マニュアル2010(独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センター 2010年3月) 寒冷地における水稲の初冬播き乾田直播栽培が生育・収量に及ぼす影響 下野ら(2012年)、日本作物学会紀事 81(1):93-98
雪融けが遅い積雪地帯では、水稲直播きの春期の播種可能期間が短く、しかも、雪融け直後の3月頃には圃場の表土が過湿状態にあるため、重量のある大型の農業機械を圃場に入れることが難しく、可能な農作業が制約されてしまい、春の直播きだけでは作業の競合や農作業負担の軽減には不十分であった。
非特許文献1および特許文献1に記載の方法では、いずれの場合においても、播種は雪融け後の春の時期(春播き)に限られており、上記の問題を解決することは困難であった。
また、非特許文献1および特許文献1に記載の方法では、鉄コーティングは種籾の比重を高め、湛水直播時に種籾が水面に浮かばないようにし、さらに水田の表土に接触させることを目的としているに過ぎず、やはり上記の問題を解決することは困難であった。
そこで、本発明者らは、図1(C)に示したように、農閑期である収穫前年の晩秋から初冬の時期に種籾を乾田直播して(初冬播き)積雪下で種籾を越冬させ、翌年雪融け後の4月から5月にかけて出芽させる作型について鋭意試験、研究を進めてきた。その中で、無処理の乾燥種籾を収穫前年の晩秋から初冬の時期に乾田播種した場合、翌年の雪融け後における種籾の出芽率は約5%程度と実用に耐えうるレベルではないことが明らかになった(非特許文献2)。
このような著しく低い植物種子の出芽率を向上させるためには、直播した植物種子が、冬の間に積雪下において吸水せずに休眠状態を維持し、春になり雪融け後に吸水を開始して休眠状態を打破し、出芽するという出芽コントロールが求められるが、これまでのところ、そのような出芽コントロールの方法は見出されていなかった。
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、従来春先の出芽率が著しく低く、実用に耐え得るものではなかった、収穫前年の初冬播きによる植物種子の直播栽培において、出芽率を向上させることができ、しかも雪融け後の農作業の競合を解消し、生産者の労働負担を軽減することができる、直播栽培用の植物種子のコーティング処理法、コーティング処理済みの植物種子およびコーティング処理済みの植物種子の直播栽培方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、前記課題に対応するための検討を鋭意進めたところ、植物種子、特に水稲の種籾にあらかじめ吸水させず、該種籾の表面に鉄コーティングしたコーティング処理済みの種籾を、収穫前年の晩秋から初冬の時期、具体的には、降雪前の10~12月頃に、水を抜いた乾田に直接播種して越冬させた場合、従来の非コーティング種籾と比較して、出芽率が約4~30倍程度に向上することを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されている。すなわち、
(1)本発明の直播栽培用の植物種子のコーティング処理法は、乾燥状態の植物種子を催芽処理することなく、該植物種子の表面をコーティング材により被覆することを特徴とする。
(2)本発明の直播栽培用の植物種子のコーティング処理法では、前記コーティング材が鉄を含有することが好ましく考慮される。
(3)本発明の直播栽培用の植物種子のコーティング処理法では、少なくとも、前記鉄として前記植物種子の乾燥重の0.5~1.9倍量の鉄粉を含み、かつ該鉄粉重の0.1~0.15倍量の焼石膏を含む前記コーティング材により前記植物種子の表面を被覆し、前記鉄粉重の0.025~0.075倍量の焼石膏により前記コーティング材の層の表面をさらに被覆し、前記鉄粉を酸化させることが好ましく考慮される。
(4)また、本発明の直播栽培用の植物種子のコーティング処理法では、前記植物種子がイネ科穀類、野菜類および花き類からなる群より選択される少なくとも一種の植物の種子であることが好ましく考慮される。
(5)本発明の直播栽培用のコーティング処理済み植物種子は、催芽処理されることなく、表面をコーティング材により被覆されている乾燥状態の植物種子であることを特徴とする。
(6)また、本発明の直播栽培用のコーティング処理済み植物種子では、前記コーティング材が、少なくとも、前記植物種子の乾燥重の0.5~1.9倍量の鉄粉および該鉄粉重の0.1~0.15倍量の焼石膏を含んでおり、前記コーティング材の層の表面に付着した、前記鉄粉重の0.025~0.075倍量の焼石膏により前記鉄粉が酸化していることを特徴とする請求項5に記載の直播栽培用のコーティング処理済み植物種子。
(7)本発明の植物種子の直播栽培方法は、コーティング処理済みの植物種子を、収穫前年の積雪前の圃場に播種することを特徴とする。
(8)本発明の植物種子の直播栽培方法では、(7)に記載の植物種子の直播栽培方法において、前記圃場への播種の後、土壌表面を圧縮し、前記植物種子を前記土壌表面下に埋没させることが好ましく考慮される。
本発明の直播栽培用の植物種子のコーティング処理法、直播栽培用のコーティング処理済み植物種子および植物種子の直播栽培方法によれば、従来春先の出芽率が著しく低く、実用に耐え得るものではなかった、収穫前年の初冬播きによる植物種子の直播栽培において、出芽率を向上させることができ、しかも雪融け後の農作業の競合を解消し、生産者の労働負担を軽減することが可能となる。
(A)従来の水稲の移植栽培における作業時期を示した模式図である。(B)従来の水稲の直播栽培における作業時期を示した模式図である。(C)本発明の植物種子の直播栽培における作業時期を示した模式図である。 (a)2016/17シーズンにおけるコーティング処理済みの植物種子および未処理の種子の初冬播きによる栽培試験期間の岩手県滝沢市の圃場の気温、地温および最深降雪量を示したグラフである。破線に○のマーカーのグラフは気温を示し、実線に△のマーカーのグラフは地温を示している。また、マーカーの付されていない実線のグラフは、最深降雪量を示している。(b)2017/18シーズンにおける鉄コーティング処理済みの植物種子および未処理の種子の初冬播きによる栽培試験期間の岩手県滝沢市の圃場の気温、地温および最深降雪量を示したグラフである。 収穫前年の初冬(積雪前)に、乾田播種した実施例1および比較例1の水稲種籾の越冬後の出芽率を示したグラフである。供試品種は岩手県滝沢産「ひとめぼれ」とした。 (a)2016/17シーズンにおける鉄コーティング処理済みの植物種子および未処理の種子の初冬播き後に行った掘り取り種子の発芽率を示したグラフである。(b)2017/18シーズンにおける鉄コーティング処理済みの植物種子および未処理の種子の初冬播き後に行った掘り取り種子の発芽率を示したグラフである。(c)2016/17シーズンにおける鉄コーティング処理済みの植物種子および未処理の種子の初冬播き後に行った掘り取り種子の発芽勢を示したグラフである。(d)2017/18シーズンにおける鉄コーティング処理済みの植物種子および未処理の種子の初冬播き後に行った掘り取り種子の発芽勢を示したグラフである。 2017/18シーズンにおける鉄コーティング処理済みの植物種子および未処理の種子の初冬播きによる栽培試験期間の各地の圃場の気温、地温および最深降雪量を示したグラフである。(a)は岩手県滝沢市、(b)は青森県黒石市、(c)は北海道札幌市、(d)は秋田県大仙市、(e)は三重県津市の気象データをそれぞれ示している。 (a)2017/18シーズンにおける5地点での鉄コーティング処理済みの植物種子および未処理の種子の初冬播き後(播種後1カ月目)に行った掘り取り種子の発芽率を示したグラフである。(b)2017/18シーズンにおける5地点での鉄コーティング処理済みの植物種子および未処理の種子の初冬播き後(播種後1カ月目)に行った掘り取り種子の発芽勢を示したグラフである。(c)2017/18シーズンにおける5地点での鉄コーティング処理済みの植物種子および未処理の種子の初冬播き後(播種後4カ月目)に行った掘り取り種子の発芽率を示したグラフである。(d)2017/18シーズンにおける5地点での鉄コーティング処理済みの植物種子および未処理の種子の初冬播き後(播種後4カ月目)に行った掘り取り種子の発芽勢を示したグラフである。
以下に本発明の直播栽培用の植物種子のコーティング処理法、この処理法による直播栽培用のコーティング処理済み植物種子、このコーティング処理済み植物種子を用いた植物種子の直播栽培方法について詳細に説明する。
なお、本明細書中において、「初冬播き」の用語は、生産地の地理的条件や気象条件により多少の前後はあるが、収穫前年の10月~翌1月頃までのいわゆる晩秋から初冬の期間であって、かつ降雪前の期間に圃場に植物種子を直播することを意味する。すなわち、「初冬播き」の期間は、一般的な作物の種子の秋播きの期間を包含し、かつ、それよりも長期に渡る期間を含んでいる。
また、本明細書中において、「出芽率」の用語は、植物種子の全播種数に対し植物の芽が土から出てきた割合を示す数値を意味しており、「発芽率」の用語は、土の有無にかかわらず、植物種子の全播種数に対し植物種子から芽が発芽した割合を示す数値を意味している。そのため、植物種子本来の発芽率を評価することを目的とした発芽試験の結果や、一旦圃場に播種した植物種子を掘り取り、屋内の実験室にて発芽試験を行った場合には、「発芽率」の用語を使用している。
本発明の直播栽培用の植物種子のコーティング処理法は、乾燥状態の植物種子を、催芽処理することなく、該植物種子の表面をコーティング材により被覆することを特徴としている。
植物種子には、通常、栽培品種として用いられる品種の種子であれば、一年生の草本植物、多年生の草本植物および木本植物のいずれの種子も特に制限されることなく使用可能である。本発明の直播栽培用の植物種子のコーティング処理法では、前記植物種子がイネ科穀類、野菜類および花き類からなる群より選択される少なくとも一種の植物の種子であることが好ましく考慮される。このような植物としては、例えば、イネ科、アブラナ科、ナス科、マメ科、セリ科、ネギ科、ユリ科、キク科、バラ科、ヒルガオ科、アヤメ科などが例示される。
本発明の直播栽培用の植物種子のコーティング処理法においては、乾燥状態の植物種子に催芽処理しないことを特徴の一つとしている。
一般に、植物種子を播種する前に、あらかじめ人為的に発芽させる処理を催芽処理と呼ぶ。催芽処理を行うことにより、植物の発芽状態を斉一化したり、鳥などの食害を防いだり、対象植物を競合する雑草よりも早く生育させることにより雑草を駆逐することができる。
このような催芽処理は、植物種子の種類により好適な処理がそれぞれ異なっており、例えば、硬い種子への水の浸透で芽を出しやすくするために行う機械的破壊などの物理的な方法や、アセチレン、エーテル、水素ガスなどのガス処理、植物ホルモンの一種であるオーキシンやジベレリン処理などの化学的な方法などが例示される。また、木本植物の場合、例えば、ムラサキハシドイ(ライラック)の休眠芽に対しては低温処理により催芽できることや、サクラやレンギョウの芽については、温浴処理により催芽できることが知られている。
一方、我が国における主要作物の一つである水稲については、種籾に十分吸水させることで催芽することができる。具体的には、種籾を数日間水に浸して発芽に必要な水分を吸水させた後、これを発芽最適温度である30~32℃で一昼夜置くことで催芽させる方法などが普及している。
本発明においては、上記のとおり例示した物理的な方法、化学的な方法、低温処理、温浴処理および吸水処理を行わない点が重要である。すなわち、本発明では、このような催芽処理により、播種後早期に植物種子の休眠が打破されて発芽してしまい、積雪下において低温に耐えられず死滅することを未然に防止することを技術的特徴の一つとしている。
本発明においては、発芽率の高い植物種子を用いることが好ましい。発芽率の高い植物種子の選別方法としては、通常の播種前に行われている様々な方法を適用することができる。例えば、あらかじめ発芽試験を行って発芽率を算出する方法や、塩水選などの方法が例示される。このようにして植物種子を選別し、発芽率の高い種子にコーティング処理することが好ましい。なお、発芽率が高いと判断する基準の一つとしては、例えば、発芽試験における発芽率が75~95%程度であることが例示される。このような発芽率の高い植物種子をコーティング処理することにより、越冬後の植物種子の発芽率も向上させることができる。
本発明において、植物種子の表面を被覆するコーティング材としては、植物種子への水分供給を妨げる働きを発揮し、雑菌の侵入予防が可能であれば従来種子コーティングに使用されている各種のコーティング材を特に制限されることなく適用可能である。例えば、鉄粉、鉄粉と焼石膏の混合物、シリコーン剤、澱粉などを含む食品添加用素材等が例示される。これらのコーティング材は、1種単独または2種以上を併用してマルチコーティング材として用いることが考慮される。
なお、上記のような食品添加用素材やシリコーン剤等を主成分とするコーティング材は、スプレー噴霧等の従来公知の方法により、植物種子の表面に塗布することができる。
本発明の直播栽培用の植物種子のコーティング処理法では、コーティング材が鉄を含有することが好ましく考慮される。また、直播栽培用の植物種子のコーティング処理法では、少なくとも、鉄として植物種子の乾燥重の0.5~1.9倍量の鉄粉を含み、かつ該鉄粉重の0.1~0.15倍量の焼石膏を含む前記コーティング材により前記植物種子の表面を被覆し、前記鉄粉重の0.025~0.075倍量の焼石膏により前記コーティング材の層の表面をさらに被覆し、前記鉄粉を酸化させることが好ましく考慮される。なお、本発明において鉄コーティングは、非特許文献1や特許文献1に記載された方法のように、植物種子の比重を高めることを目的とはしておらず、前記のとおり越冬中の植物種子への水分供給を妨げる働きおよび雑菌の侵入予防を目的とするものである。
鉄を含有するコーティング材としては、例えば、鉄粉のみを使用するもの、鉄粉と焼石膏の混合物を使用するもの、植物種子の表面を澱粉で被覆した後、澱粉層の表面を鉄粉と焼石膏の混合物でさらに被覆したものなどが例示される。中でも、機械的衝撃に強く、雪融け後まで植物種子への水分供給を妨げる働きおよび雑菌の侵入予防効果を発揮することから、鉄粉と焼石膏との混合物を用いることが好ましく考慮される。鉄粉と焼石膏との混合物においては、焼き石膏は結合剤あるいは接着剤としての役割を果たすと考えられる。なお、鉄粉と焼石膏との混合物については、あらかじめ鉄粉と焼石膏が混合された市販のプレミックス混合物を用いることも考慮される。
このように鉄を含有するコーティング材に水分を供給することにより、鉄の酸化反応が進行し、発熱する。鉄の酸化反応では、蓄熱により、種子の温度が100℃に達することがあるが、その場合、植物種子は死滅してしまうので、作業全体としては、植物種子の温度が40℃以下となるように温度管理することが望ましい。なお、植物種子が一時的に50℃程度の熱にさらされることは許容される。
鉄粉としては、例えば、還元鉄粉やアトマイズ鉄粉などの金属鉄粉や、酸化鉄の鉄粉、ショットブラスト工程などから産業廃棄物として産出される金属鉄粉と酸化鉄の鉄粉の混合物、農業用鉄粉などが例示される。金属鉄粉と酸化鉄の鉄粉の混合物については、反応性の観点から、金属鉄粉の割合を高めることが好ましく考慮される。発熱の程度は、鉄粉の種類によってそれぞれ異なるが、植物種子の温度が40℃以上にならないように鉄粉の種類、組成、配合割合などを調節する必要がある。
これらの鉄粉の中でも、製造コスト面や収穫物を食品として摂取することを考慮すると、農業用鉄粉が好適に用いられる。これらの鉄粉の粒度分布、粒子の形状や断面組織などについては、特に制限されることないが、鉄粉の粒度が小さければ表面積が増大するため、酸化速度が速くなる。また、植物種子の表面に鉄粉が付着しやすく、しかも後述の造粒機を用いたコーティング作業を短時間で完了することができるため好ましい。
コーティング材における鉄粉と焼石膏との配合割合としては、例えば、前記のとおり、植物種子の乾燥重に対し、鉄粉が0.5~1.9倍量であり、焼石膏が鉄粉重の0.1~0.15倍量の範囲が例示される。また、鉄粉重の0.025~0.075倍量の焼石膏により、鉄粉と焼石膏を含むコーティング材の層の表面を、さらに仕上げ石膏によって被覆する態様も好ましく考慮される。このようにして、植物種子を鉄粉と焼石膏を含むコーティング材により被覆することで、コーティング材中の鉄粉を酸化させることができ、酸化鉄による、植物種子の吸水や病原菌の感染を防止、予防することができる。
具体例としては、例えば、植物種子10kgに対し、鉄粉5kg、焼石膏(仕上げ石膏含む)0.75kg程度とすることが好ましく例示される。鉄粉と焼石膏との配合割合が上記範囲内であれば、得られるコーティング処理済みの植物種子は、機械的衝撃に強く、しかも雪融け後まで植物種子への水分供給を妨げる働きを発揮し、雑菌の侵入予防が可能である。
コーティング材により形成されるコーティング層は、一層以上であることが好ましく、二層以上の多層構造あってもよい。前記コーティング層が多層構造である場合、コーティング材の組成や種類は、全ての層において同一であってもよく、層ごとに異なる組成、種類のコーティング材を用いてもよい。
コーティング材には、植物種子のコーティングを目的とする前記の成分以外に、肥料および殺虫剤、殺菌剤などの農薬を配合することも好ましく考慮される。肥料としては、例えば、窒素肥料である硫安、尿素や被覆尿素肥料等が例示される。農薬としては、例えば、殺菌剤であるチウラム剤、ベンレート剤等が例示される。このように、コーティング材に、あらかじめ肥料や農薬を配合することにより、肥料や農薬を確実に植物種子近傍に施用することができるため、肥料や農薬の使用量を抑制可能であり、しかも播種後の環境負荷も小さくすることができる。なお、肥料や農薬は、コーティング材に配合して用いてもよいし、肥料や農薬のみからなる層を形成し、該層の表面をコーティング材により被覆するようにしてもよい。
このようなコーティング材を用いて植物種子を被覆する際の作業工程について、以下に詳細に説明する。
(1)種子の準備工程
乾燥済みの植物種子を種子消毒する。本発明においては、植物種子に吸水させることを避けねばならないので、例えば、植物種子の表面に、使用濃度に調製した消毒剤を直接塗布し、直ちに乾燥させる方法等が例示される。消毒剤としては、種子消毒に通常使用されている薬剤であれば、特に制限されることなく使用することができる。
消毒済みの乾燥状態の植物種子を1~2秒程度水に浸漬した後、水から引き上げ、ただちに脱水機で脱水する。
なお、市販品の消毒済みの植物種子を購入した場合等は、前記種子消毒の工程を省略することが可能である。
(2)コーティング工程
工程(1)で脱水機にかけて表面のみが僅かに湿り気を帯びた植物種子と、コーティング材を造粒機に投入し、少量の水をスプレーする。その際、コーティング材の投入量は、調製した全量の1/3程度とすることが好ましい。植物種子の表面にコーティング材が付着したことを確認した後、コーティング材を追加し、再度少量の水をスプレーして、コーティング材により形成されたコーティング層が後述の所期の厚みに達するまで植物種子の表面にコーティング材を付着させる作業を繰り返す。
このとき、コーティング材が造粒機の回転盤に付着する場合は、ヘラなどを用いてコーティング材を削ぎ落とすことが望ましい。コーティング材を削ぎ落とすことができない場合には、種子が吸水しないように、回転盤に付着したコーティング材にごく少量の水をスプレーし、柔らかくすることが考慮される。
造粒機としては、通常植物種子へのコーティング処理に使用される装置であれば特に制限されることなく使用できるが、コーティング材として鉄を含むものを用いた場合、水と鉄の酸化反応により発熱が生じるため、放熱を目的として大気に開放した皿型回転造粒機、ポットミキサー、ベビーミキサーや攪拌羽を撤去したコンクリートミキサー等を用いることが好ましく考慮される。すなわち、酸化反応に伴う発熱はあるものの、前記造粒機内で植物種子や鉄を含むコーティング材などの内容物が回転混合されることにより放熱が大きくなるので、植物種子への蓄熱はほとんど認められない。そのため、植物種子の温度が40℃以上となることはなく、熱による植物種子の劣化、死滅などはほとんど起こらないと考えられる。
植物種子に、調製したコーティング材を全量付着させた後、種子同士が結着して塊状になったり、造粒機の内壁に種子が付着してしまわないように、ごく少量の水をスプレーする。このとき、造粒機の回転盤へのスプレー時と同様に、種子が吸水しない程度に調節することが望ましい。
また、調製したコーティング材により形成されたコーティング層の剥離を防ぐため、該コーティング層の表面を、仕上げ用の焼石膏で被覆することが好ましいが、必ずしも該コーティング層の表面を、仕上げ用の焼石膏で被覆する工程を必須の工程とはしていない。
前記コーティング層の表面を仕上げ用の焼石膏により被覆する場合には、例えば、調製したコーティング材を全量付着させた植物種子を造粒機から取り出さず、仕上げ用の焼石膏を造粒機に投入し、数分間回転させることが例示される。その際に、水分が少なく、調製したコーティング材で被覆された植物種子の表面に、仕上げ用の焼石膏が付着しにくい場合や、上記植物種子の表面が粉っぽい場合、水をスプレーすることが考慮される。この場合、植物種子の表面は、既に調製したコーティング材で被覆されているため、種子の吸水のおそれはほとんどないと考えられる。このように、前記コーティング層の表面を仕上げ用の焼石膏により被覆することにより、播種機を用いて播種する際に、機械的衝撃によりコーティング層が崩壊することを抑制可能である。また、越冬時に、植物種子への水分供給を妨げる働きおよび雑菌の侵入予防効果を高めることができる。
植物種子の表面全体が、コーティング材により十分に被覆されていることを確認次第、造粒機の回転を停止させて、直ちに植物種子を取り出し、放冷する。なお、コーティング材により形成されたコーティング層の厚みとしては、播種機を用いて播種する際に、機械的衝撃によりコーティング層が崩壊しなければ特に制限されることはない。
(3)冷却・乾燥工程
コーティング材として鉄を含むものを用いた場合、水と鉄の酸化反応により高熱を発する。そこで、蓄熱による高熱を避けるため、工程(2)によって得られた植物種子については、塊状にして放置したり、すぐに袋詰めなどせずに、底の広い箱の中などに薄く広げて置くことが望ましい。このような底の広い箱としては、例えば、水稲の育苗用苗箱などを好適に用いることができる。また、苗箱などを積み重ねる際には、箱間に角材を挟んだり、育苗棚や苗運搬用のコンテナなどを用いて、箱間に空気の通り道を確保し、熱がこもらないようにして冷却・乾燥することが考慮される。植物種子を、塊状にして放置する、すぐに袋詰めする、あるいは苗箱などに広げた後に箱間に隙間なく積み重ねた場合には、蓄熱により、種子の温度が100℃に達することがある。このような場合、植物種子は死滅してしまうので、一時的に50℃程度の熱に植物種子がさらされることは許容されるものの、作業全体を通じて植物種子の温度が40℃以下となるように温度管理することが望ましい。
鉄を含むコーティング材を用いた場合、酸化反応に伴う発熱により乾燥が進行するに連れて、水分含量が低下するため反応が緩やかになり、発熱も小さくなる。間隔を空けて積み重ねた箱間に、送風機などを用いて送風することにより、短時間で植物種子の冷却・乾燥を完了することができる。植物種子は、少なくとも一晩程度冷却することが望ましい。
一晩おいた植物種子においては、コーティング層が乾燥し、茶色のまだら模様~薄い茶色に変色する。このことは、コーティング中に含まれる鉄が、ある程度酸化鉄に変化したことを示している。酸化鉄の被膜は比較的強固であり、このまま播種機を用いて播種することも可能である。ただ、播種機によっては、その機械的衝撃によりコーティングが破損、剥離する場合もあるので、さらにコーティングの酸化を促進することが好ましい。
具体的には、少なくとも一晩おいた植物種子を、苗箱などに入れたまま水をスプレーする。このとき、植物種子を、造粒機に入れたまま水をスプレーすると、急激に発熱し、植物種子が死滅するおそれがある。そのため、冷却時と同様に底の広い箱の中などに薄く広げて置く必要がある。
スプレーする水の量の目安としては、苗箱などの中に水が溜まらない程度とすることが望ましい。水が多すぎると、植物種子が吸水してしまい、催芽されて越冬できないことがある。
このように水をスプレーした植物種子を苗箱などに広げたまま、箱間に角材を挟んだり、育苗棚や苗運搬用のコンテナなどを用いて、箱間に空気の通り道を確保し、熱がこもらないようにして再度冷却・乾燥する。少なくとも一晩程度冷却・乾燥することにより、コーティング処理済みの植物種子は全面茶色の錆色に変色するが、変色後一週間程度放置して、コーティング処理済みの植物種子を完全に乾燥させることが望ましい。これにより、コーティング中の鉄粉は完全に酸化鉄に変化する。コーティング処理済みの植物種子が完全に乾燥したことを確認したら、苗箱などを直接積み重ねたり、袋詰めすることができる。コーティング処理済みの植物種子は、通常の植物種子と同様に播種まで保存することができる。
このようにして得られた、本発明の直播栽培用のコーティング処理済み植物種子は、催芽処理されることなく、表面をコーティング材により被覆されている乾燥状態の植物種子であることを特徴としている。
このコーティング処理済み植物種子は、前記のとおり、催芽処理されておらず、しかも植物種子がほとんど吸水しておらず乾燥状態を維持しているため、直ちに出芽することはなく、長期保存が可能である。また、本発明のコーティング処理済み植物種子では、播種機を用いて播種する際に、機械的衝撃によるコーティング層の崩壊が抑制されている。さらにまた、越冬時に、植物種子への水分供給を妨げる働きおよび雑菌の侵入予防効果を発揮する。
なお、コーティング処理済みの種子は、播種前に必ず発芽テストに供する。発芽テストは、通常の植物種子の発芽テストと同様の方法により行うことができる。例えば、直径9cmのプラスチックシャーレに、コーティング処理済み植物種子を100粒ほど入れ、20mL程度の水を注ぐ。これを、25℃~30℃に制御された恒温室内に1週間静置し、発芽した種子と発芽しなかった種子をカウントし、発芽率を算出する方法が例示される。発芽テストの結果が良好なコーティング処理済み植物種子を実際の圃場に播種することにより、結果的に作物の生育や収穫量を増大させることができる。
このようなコーティング処理済みの植物種子の直播栽培方法について、以下に詳細に説明する。
本発明の植物種子の直播栽培方法は、コーティング処理済みの植物種子を、収穫前年の積雪前の圃場に播種することを特徴とする。
従来、植物種子、特に水稲の種籾を直播栽培する際には、コーティング処理されていない種籾を「乾田播種」するか、特許文献1および非特許文献1に記載のとおり、催芽処理した種籾を鉄コーティング処理した後、水を張った水田に鉄コーティング処理済みの種籾を播種する「湛水播種」が行われている。しかしながら、上記のとおり従来の直播栽培方法は、いずれも雪融け後の春播きの作型を前提とするものであった。そして、コーティング処理されていない種籾を収穫前年の積雪前に播種した場合と、種籾に十分吸水させて催芽処理した後、鉄コーティング処理した種籾を収穫前年の積雪前に播種した場合のいずれにおいても、雪融け後の出芽率は約5%であり、実用に耐え得るレベルには達していなかった。
本発明の植物種子の直播栽培方法では、前記のとおり、催芽処理されておらず、しかもほとんど吸水していない乾燥状態の植物種子にコーティング処理したものを、収穫前年の積雪前の圃場に播種することにより、従来の方法と比較して雪融け後の出芽率が約4~30倍に向上するという顕著な効果を奏している。このようなコーティング種子を用いた水稲初冬播きの作型は、これまで全く検討されておらず、本発明者らにより見出された全く新規の植物の栽培方法である。
「収穫前年の積雪前」の用語は、具体的には、10月~12月頃を意味している。ただ、地域や気候次第では、収穫年の1月頃に播種してもよい。上記のいずれの時期であっても、圃場の表土が非凍結状態であり、積雪前であれば、直接播種したコーティング処理済みの植物種子は、雪融け後の出芽率が向上する。
一方、上記の期間内であっても、圃場に雪が積もっており、かつ積雪の上にコーティング処理済みの植物種子を播種した場合には、雪融け後の出芽率が低く、実用に耐え得るレベルに達しない。また、圃場における表土が完全に凍結している場合も、雪融け後の出芽率が低く、実用に耐え得るレベルに達しない。
このような場合であっても、圃場の表土を耕起して、該表土が非凍結状態となった場合には、直接播種したコーティング処理済みの植物種子は、雪融け後の出芽率が向上する。
また、表土の上に稲わら等の植物残滓が存在している場合、播種時に稲わらの上に種籾が落ち、土壌中に埋没できず凍結・融解を繰り返すことで出芽能力が低下することから、雪融け後の出芽率が低く、実用に耐え得るレベルに達しない。なお、稲わらを土壌中にすき込んだ場合には、種籾が土壌中に埋没し、安定した地温によって凍結・融解のダメージをあまり受けることがないため、出芽率が改善される。
コーティング処理済みの植物種子を播種する際には、人手による播種のほか、動力散布機、ラジコンヘリ、専用直播機、多目的田植機、田植機の側条施肥機などの通常直播栽培に用いられる各種播種機などを適宜使用することができる。
本発明の植物種子の直播栽培方法では、前述の植物種子の直播栽培方法において、圃場への播種の後、土壌表面を圧縮し、コーティング処理済みの植物種子を土壌表面下に埋没させることが好ましく考慮される。植物種子を埋没させる深さとしては、当該地域の気温や積雪深度に応じて適宜変更することができるが、例えば、2~3cm程度の範囲が例示される。深さが上記の範囲内であれば、コーティング処理済みの植物種子の出芽率を向上させることができる。また、圃場に播種されたコーティング処理済みの植物種子を表面に培土を覆土することにより、植物種子を土壌表面下に埋没させることも好ましく考慮される。
コーティング処理済みの植物種子を圃場に直播する際には、あらかじめ圃場に溝をつけ、条播とすることが好ましい。
コーティング処理済みの植物種子を土壌表面下に埋没させる際には、作業者が土を踏んで埋没させてもよいし、トラクターでの踏みつけや、平滑ローラー、スパイラルローラーおよびパッカーローラー等の鎮圧する作業機等を用いて植物種子の表面に土をかぶせてもよい。実際には、人手によってコーティング処理済みの植物種子を土壌中に埋没させるよりも、作業機を用いる方が効率的であり好ましい。
植物種子が水稲の種籾の場合には、上記のとおり圃場に直播したコーティング処理済みの植物種子(種籾)が出芽し、3葉期程度まで成長した後、圃場に水を張り、湛水条件とすることが望ましい。湛水後の水稲の栽培方法については、移植栽培の場合と同様の方法を適用可能である。
コーティング処理済みの植物種子の播種量については、特に制限されることはないが、例えば、コーティング処理を施さずに春播きで圃場に直播する際の播種量の2~5倍程度の範囲が例示される。より具体的には、例えば、植物種子が水稲の種籾である場合、12kg/10a~30kg/10a程度播種することが好ましく考慮される。播種量が上記の範囲内であれば、既存の移植栽培や春に圃場に直播した栽培と同程度の収量を期待できる。
以下に実施例を示すが、本発明の直播栽培用の植物種子のコーティング処理法、コーティング処理済みの植物種子およびコーティング処理済みの植物種子の直播栽培方法は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
<A.岩手県におけるコーティング処理済みの植物種子の直播栽培試験>
(実施例1)
(1)種子の準備工程
2016年に収穫し、脱穀した籾摺り前の岩手県・滝沢産ひとめぼれの乾燥種籾を1~2秒程度水に浸漬した後、水から引き上げ、ただちに脱水機で脱水した。
(2)鉄コーティング工程
乾燥種籾10kgに対し、市販の農業用鉄粉(DOWA IPクリエイション株式会社、岡山)5kgと焼石膏(睦化学工業、三重)0.5kgの割合でよく混合し、鉄粉混合物を調製した。この鉄粉混合物を全体の1/3程度はかりとり、工程(1)で脱水機にかけて表面のみが僅かに湿り気を帯びた種籾とともに、ベビーミキサー(光洋機械産業株式会社、大阪)に投入し、霧吹きを用いて少量の水をスプレーした。種籾の表面に鉄粉混合物が付着したことを確認した後、鉄粉混合物を追加し、再度霧吹きを用いて少量の水をスプレーし、種籾の表面に鉄粉混合物を付着させる作業を繰り返した。
このとき、鉄粉混合物がベビーミキサーの回転盤に付着する場合は、ヘラなどを用いて削ぎ落とした。また、鉄粉混合物を削ぎ落とすことができない場合には、種子が吸水しないように、回転盤に付着した鉄粉混合物にごく少量の水をスプレーし、柔らかくしてから削ぎ落とした。
種籾に、調製した鉄粉混合物を全量付着させた後、種籾同士が結着して塊状になったり、ベビーミキサーの内壁に付着してしまわないように、種子が吸水しない程度のごく少量の水をスプレーした。
仕上げ用の焼石膏をベビーミキサーに投入し、少量の水をスプレーし、数分間回転させて、鉄粉混合物によるコーティング層の表面に焼石膏の層を形成した。投入した仕上げ用の焼石膏が全て種籾の表面に付着したことを確認次第、ベビーミキサーの回転を停止させて、直ちに種籾を取り出して放冷した。なお、取り出した種籾の表面に形成されたコーティング層の厚みは、合計約3mmであることを確認した。
(3)冷却・乾燥工程
工程(2)によって得られた、鉄粉混合物で被覆された種籾を水稲の育苗用苗箱に広げ、複数個の苗箱の箱間に角材を挟んで空気の通り道を確保した上で積み重ね、熱がこもらないようにして一晩冷却・乾燥した。なお、必要に応じて、間隔を空けて積み重ねた苗箱の箱間に、送風機などを用いて送風した。
一晩おいた種籾の表面では、コーティング層が乾燥し、茶色のまだら模様~薄い茶色に変色していることを確認し、さらにコーティングの酸化を促進することを目的として、一晩おいた種籾を苗箱に入れたまま水をスプレーした。水をスプレーした種籾が広げられた苗箱を育苗棚の各棚に収容し、熱がこもらないように箱間に空気の通り道を確保して再度冷却・乾燥した。一晩冷却・乾燥することにより、鉄コーティング処理済みの種籾が、全面茶色の錆色に変色することを確認し、鉄コーティング処理済みの種籾を、そのまま一週間程度放置して、完全に乾燥させた。鉄コーティング処理済みの種籾が完全に乾燥したことを確認したら、苗箱を直接積み重ね、直射日光を避け、多湿にならない場所で播種まで保存した。
(4)コーティング処理済みの種籾の圃場への直播工程
寒冷地における初冬播きとコーティング処理が種籾の発芽率に及ぼす影響を明らかにするため、工程(3)によって得られた鉄コーティング処理済みの種籾を岩手県滝沢市にある岩手大学附属滝沢農場の実験用水田(39°46′N、141°7′E)にて栽培した。
播種は、前作の水稲を2016年10月10日に収穫後、ロータリーで深さ15cmに耕起し、パディーハローにより整地を行った圃場に深さ2cmの溝(幅2cm)をつけ、条播とし(畦間30cm、長さ30cm)、鉄コーティング処理済みの種籾30粒を2016年11月25日に播種し、培土(無肥料培土、(株)アイケイ社製、秋田)で覆土した。2017年6月13日以降に湛水条件とした。
なお、後述の抜き取り種子の発芽試験により越冬中の種子の生存率を調査するため、鉄コーティング処理済みの種籾の播種は、ポリエチレン製の水切りネット(ネットタイプ水切りネット、(株)DCMホールディングス)に種子30粒を入れ、前記溝に播種し、無肥料培土で2~3cm覆土した。
(5)気象データの測定
栽培試験期間における気象データのうち、地温については、試験区内において、種子と同一の深さ2~5cmの地点に温度センサー(TR52S、T&D Corporation製)を設置し、30分間隔で記録し、日平均地温を算出した。日平均気温および日降雪量データは、気象庁ホームページより取得した。積雪日数および積算降雪量は、各試験地の播種日から積雪・降雪終了日までを対象として算出した。積雪日数は、積雪を観測した日数の合計とした。岩手大学附属滝沢農場の気象データについては、最寄りの市町村の観測所である、盛岡気象台(岩手県)のデータを用いた。
図2(a)に示したように、2016年11月25日から2017年6月13日の間の岩手県滝沢市の圃場における最低気温は、-6.8℃(2017年1月14日)であり、最低地温は、0℃であった。また、2016年11月25日から2017年6月13日の間の岩手県滝沢市の圃場における最深降雪量は、24cm(2017年2月20日)であった。
(実施例2)
2017年に収穫し、脱穀した籾摺り前の岩手県・滝沢産「ひとめぼれ」の乾燥種籾を用いたこと以外は、実施例1と同様にして鉄コーティング処理済みの種籾を製造し、岩手県滝沢市の圃場に播種し、すべての条件を実施例と同様にして栽培を行った。
2017年の初冬播きについては、2017年12月6日に播種し、培土で覆土した。2018年6月20日以降に湛水条件とした。
図2(b)に示したように、2017年12月6日から2018年6月20日の間の岩手県滝沢市の圃場における最低気温は、-7.2℃(2018年1月24日)であり、最低地温は、0℃付近であった。また、2017年12月6日から2018年6月20日の間の岩手県滝沢市の圃場における最深降雪量は、47cm(2018年2月14日)であった。
(実施例3)
乾燥種籾として、青森県・弘前産「まっしぐら」を用いたこと以外は、実施例2と同様にして鉄コーティング処理済みの種籾を製造し、岩手県滝沢市の圃場に播種し、すべての条件を実施例と同様にして栽培を行った。
(実施例4)
乾燥種籾として、岩手県・滝沢産「あきたこまち」を用いたこと以外は、実施例2と同様にして鉄コーティング処理済みの種籾を製造し、岩手県滝沢市の圃場に播種し、すべての条件を実施例と同様にして栽培を行った。
(実施例5)
乾燥種籾として、岩手県・滝沢産「萌えみのり」を用いたこと以外は、実施例2と同様にして鉄コーティング処理済みの種籾を製造し、岩手県滝沢市の圃場に播種し、すべての条件を実施例と同様にして栽培を行った。
(比較例1)
2016年に収穫し、脱穀した籾摺り前の岩手県・滝沢産「ひとめぼれ」の乾燥種籾に鉄コーティング処理を施さなかったこと以外は、すべての条件を実施例1と同様にして栽培を行った。
(比較例2)
鉄コーティング処理の代わりに、カルパー処理を施したこと以外は、すべての条件を実施例1と同様にして栽培を行った。
なお、カルパー処理は、以下の工程にしたがっておこなった。すなわち、鉄コーティング処理における種子の準備工程と同様、乾燥種籾を1~2秒程度水に浸漬した後、水から引き上げ、ただちに脱水機で脱水した。脱水した種籾10kgに対し、同量のカルパー粉粒剤((株)三井化学アグロ製)を秤量し、脱水した種籾とともにベビーミキサーに投入し、霧吹きを用いて少量の水をスプレーし、種籾の表面をカルパー粉粒剤によりコーティングした。
(比較例3)
鉄コーティング処理の代わりに、デンプン資材であるイナゲル処理を施したこと以外は、すべての条件を実施例1と同様にして栽培を行った。
なお、イナゲル処理は、以下の工程にしたがっておこなった。すなわち、鉄コーティング処理における種子の準備工程と同様、乾燥種籾を1~2秒程度水に浸漬した後、水から引き上げ、ただちに脱水機で脱水した。脱水した種籾10kgに対し、その2.3倍量のイナゲル(イナゲル アラビアガムA顆粒、(株)伊那食品工業製)を秤量し、30%(w/w)溶液となるよう蒸留水に溶解させた。脱水した種籾をビニル袋に入れ、霧吹きを用いて前記イナゲル水溶液をスプレーし、種籾の表面をイナゲル水溶液によりコーティングした後、風乾した。
(比較例4)
2016年に収穫し、脱穀した籾摺り前の青森県・弘前産「まっしぐら」の乾燥種籾に、鉄コーティング処理を施さなかったこと以外は、すべての条件を実施例1と同様にして栽培を行った。
(比較例5)
2017収穫し、脱穀した籾摺り前の岩手県・滝沢産「ひとめぼれ」の乾燥種籾に鉄コーティング処理を施さなかったこと以外は、すべての条件を実施例2と同様にして栽培を行った。
(比較例6)
2017年に収穫し、脱穀した籾摺り前の青森県・弘前産「まっしぐら」の乾燥種籾に、鉄コーティング処理を施さなかったこと以外は、すべての条件を実施例2と同様にして栽培を行った。
(比較例7)
2017収穫し、脱穀した籾摺り前の岩手県・滝沢産「あきたこまち」の乾燥種籾に鉄コーティング処理を施さなかったこと以外は、すべての条件を実施例2と同様にして栽培を行った。
(比較例8)
2017収穫し、脱穀した籾摺り前の岩手県・滝沢産「萌えみのり」の乾燥種籾に鉄コーティング処理を施さなかったこと以外は、すべての条件を実施例2と同様にして栽培を行った。
実施例および比較例の種子について、以下の方法により、出芽率の調査、および掘り取り種子の発芽試験を行った。
(6)出芽率の調査
2016/17シーズンにおける出芽率の調査は、出芽の推移を比較するために5月19日~6月9日の期間に計7回行った。2017/18シーズンにおける出芽率の調査は、初冬播き栽培で5月25日~6月28日の期間に計7回行った。出芽率は、播種した種子数に対する出芽した種子の比率とした。出芽始めと出芽揃いは、出芽率がそれぞれ20%と80%に達した日とし、出芽日数は出芽始めと出芽揃いの期間とした。
(7)掘り取り種子の発芽試験
播種後約1カ月おきに種子を掘り取って発芽試験を最大5時期に行った。掘り取った種子は、水切りネットから取り出して付着した土を取り除き、湿った濾紙を敷いたシャーレ内に入れ、25℃・暗条件となる恒温器(IC402、ヤマト科学株式会社)に置床した。置床後4日目、7日目、14日目に発芽率を調査した。発芽能力は、25℃に設定した恒温機で培養した全種子数に対する発芽した種子数の比率とした。また、発芽勢の指標として、横軸を置床後の日数、縦軸を発芽率とする関係から、発芽率が最終的な発芽率の50%に達するまでの日数をD50として線形回帰式により求めた。D50が小さいほど発芽勢が強く、大きいほど発芽勢が弱いことを示す。
(8)統計解析
出芽率の調査結果および掘り取り種子の発芽試験の結果について、それぞれ以下の方法により統計解析を行った。すなわち、出芽率に対するコーティング処理の効果については、統計解析ソフト(Excel統計 Bellcurve for Excel 2.15)を用いて、t検定を行った。また、多地点掘り取り調査における発芽率とD50に対するコーティング処理の影響については、前記統計解析ソフトを用いて、Fisherの最小有意差法による統計解析を行った。
(結果)
図3のグラフに示したように、鉄コーティング処理を施さなかった比較例1の出芽率は約2%であり、実用に耐え得るレベルに達していなかった。一方、実施例1の鉄コーティング処理済みの「ひとめぼれ」種籾では出芽率が約25%と、比較例1に比べて10倍以上に向上することが確認された。
Figure 0007253165000001
また、表1に示したように、鉄以外のコーティング用農業資材である、比較例2のカルパー処理や比較例3のイナゲルを用いたコーティング処理では、「ひとめぼれ」種籾の出芽率の向上は認められなかった。
さらにまた、「ひとめぼれ」以外の水稲品種における鉄コーティング処理の結果、「あきたこまち」では、実施例4と比較例7との対比から最低でも出芽率が4倍に向上することが確認された。「まっしぐら」では、実施例3と比較例6との対比から最大で出芽率が約20倍に向上することが確認された。
なお、岩手県において慣行法である春播き栽培での無処理種子の出芽率は「ひとめぼれ」は57~77%、「まっしぐら」で59~67%、「あきたこまち」で71%、「萌えみのり」で61%程度あり、栽培試験に用いた種籾自体の出芽率には何ら問題がないことが確認された。
なお、2016/17シーズンにおいて、青森県で初冬播き栽培を行ったところ、鉄コーティング処理を施さなかった種子の出芽率は、岩手県での初冬播き栽培の結果よりも高かったが、鉄コーティング処理区では、さらに出芽率が高かった。したがって、栽培地点や年次の気象条件等の環境要因により植物種子そのものの出芽率は変動するものの、本発明の鉄コーティング処理により、環境要因とは無関係に出芽率を高められることが確認された。
Figure 0007253165000002
表2に示したように、出芽始めは、春播き栽培では、5月20~22日であるのに対して、初冬播き栽培では無処理で5月21~22日と1日程度遅かった。出芽始めから出芽揃いの日数は、初冬播き栽培では数日長く、具体的には、春播きでは4~8日で出芽が完了したのに対して、初冬播き栽培では7~9日を要した。出芽始めおよび出芽始めから出芽揃いの日数については、鉄コーティングの効果をみると、2016/17シーズンでは有意な違いがみられなかったが、2017/18シーズンでは、鉄コーティングにより、出芽始めが3~5日早く、出芽揃いも4~10日早く、結果として、出芽日数が3~9日短縮されることが確認された。
図4(a)(b)(c)(d)は、掘り取り種子の発芽率および掘り取り発芽勢について示したグラフである。初冬播き栽培で播種した種子を定期的に圃場から掘り取り、25℃の培養条件で発芽率を発芽能力として評価した。
まず、無処理の比較例1についてみると、図4(a)に示したように、2016/17シーズンでは、播種後1カ月で発芽率が40%以下に低下し、その後、積雪下では比較的安定していたものの、融雪後にさらに低下し、播種後4カ月目で12%まで低下した。積雪の早かった2017/18シーズンにおいて、無処理の比較例7では、図4(c)に示したように、播種後1カ月目でも74%と高い発芽率を示した。しかしながら、播種後2カ月目以降に急激に発芽率が低下し、播種後5カ月目には6%まで低下した。このような発芽率の低下は、図4(a)の実施例1および図4(c)の実施例3に示したように、鉄コーティング処理を施すことで、両シーズンともに初期の低下が軽減され、播種後5カ月目以降も30%以上の発芽率を維持していた。
一方、発芽勢の指標としてのD50は、図4(b)(d)に示したように、2016/17シーズンでは2日程度であり、2017/18シーズンは2~6日と変動があるものの、鉄のコーティングによる影響はみられなかった。
<B.鉄コーティング処理済みの植物種子の多地域における直播栽培試験>
2017/18シーズンにおいては、国内5地点において、鉄コーティング処理済みの植物種子の直播栽培試験を行い、その結果を比較した。
具体的には、岩手県滝沢市のほか、北海道札幌市(北海道大学農学部、43.1°N、141.3°E)、青森県黒石市(青森県産業技術センター農林総合研究所、40.7°N、140.6°E)、秋田県大仙市(東北農業研究センター大仙拠点、39.5°N、140.5°E)、三重県津市(三重大学生物資源学部FSC附帯農場、34.7°N、136.5°E)にて栽培試験を行った。
(実施例6)
乾燥種籾として、2017年に収穫し、脱穀した籾摺り前の岩手県・滝沢産「あきたこまち」を用いたこと以外は、実施例2と同様にして鉄コーティング処理済みの種籾を製造し、北海道札幌市の圃場に播種し、すべての条件を実施例2と同様にして初冬播き栽培を行った。なお、札幌市においては2017年11月28日を播種日とした。
(実施例7)
乾燥種籾として、2017年に収穫し、脱穀した籾摺り前の岩手県・滝沢産「あきたこまち」を用いたこと以外は、実施例2と同様にして鉄コーティング処理済みの種籾を製造し、青森県黒石市の圃場に播種し、すべての条件を実施例2と同様にして初冬播き栽培を行った。なお、黒石市においては2017年11月30日を播種日とした。
(実施例8)
乾燥種籾として、2017年に収穫し、脱穀した籾摺り前の岩手県・滝沢産「あきたこまち」を用いたこと以外は、実施例2と同様にして鉄コーティング処理済みの種籾を製造し、秋田県大仙市の圃場に播種し、すべての条件を実施例2と同様にして初冬播き栽培を行った。なお、大仙市においては2017年12月1日を播種日とした。
(実施例9)
乾燥種籾として、2017年に収穫し、脱穀した籾摺り前の岩手県・滝沢産「あきたこまち」を用いたこと以外は、実施例2と同様にして鉄コーティング処理済みの種籾を製造し、三重県津市の圃場に播種し、すべての条件を実施例2と同様にして初冬播き栽培を行った。なお、津市においては2017年11月28日を播種日とした。
(1)気象データの測定
栽培試験期間における気象データのうち、地温については、試験区内において、種子と同一の深さ2~5cmの地点に温度センサーを設置し、30分間隔で記録し、日平均地温を算出した。日平均気温および日降雪量データは、気象庁ホームページより取得した。積雪日数および積算降雪量は、各試験地の播種日から積雪・降雪終了日までを対象として算出した。積雪日数は、積雪を観測した日数の合計とした。各試験地のデータ取得地は、試験地が所在する市町村の観測所または最寄りの市町村の観測所である、札幌気象台(北海道)、弘前アメダス(青森県)、角館アメダス(秋田県)、津気象台(三重県)のデータを用いた。結果を図5に示す。
(2)掘り取り種子の発芽試験
北海道、青森県、秋田県および三重県では、2時期(播種後1カ月目と4カ月目)に初冬播きした種籾を掘り取り、掘り取った種籾は各地点から冷蔵便で岩手大学の実験室に輸送・保管後(4℃・暗条件)、全地点の種子について同時に発芽試験を行った。結果を図6に示す。
(3)統計解析
多地点掘り取り調査における発芽率とD50に対するコーティング処理と栽培地点の影響については、前記統計解析ソフトを用いて、Fisherの最小有意差法による統計解析を行った。
(結果)
図5(a)(b)(c)(d)(e)は、それぞれ2017/18シーズンにおける岩手県、青森県、北海道、秋田県および三重県の気温、地温および降雪量を示したグラフである。
播種から出芽までの気象の気温、地温および降雪量の推移をみると、図5(a)に示したように、積雪がある岩手県においては、播種時期である11月下旬~12月上旬の地温は、10~12℃であったが、その後、1月には、ほぼ直線的に0℃まで低下し、積雪下では0℃付近で安定した。融雪後に地温は上昇した。
種子の環境に直接影響する地温の点からみると、(1)播種から積雪までの期間、(2)安定した積雪期間、(3)融雪後から出芽までの期間の3つの期間に分けることができる。期間(1)および(3)については、地温の変動は気温から多くを説明できたが、積雪期間中の期間(2)については、気温が大きく変動したこととは対照的に地温は安定していた。この傾向は、図5(a)(b)(c)(d)に示したように、積雪のある北海道、青森県、秋田県で共通していた。
期間(2)の日数については、地域により異なり、積雪期間が長い北海道、秋田県、青森県が岩手県より長かった。なお、積雪日数は、北海道119日間、青森県109日間、岩手県86日間、秋田県117日間であった。また、積算積雪量は、北海道403cm、青森県484cm、岩手県205cm、秋田県649cmであった。一方、図5(e)に示したように、積雪のない三重県では、上記の4道県のような寒冷地において地温の変動の小さかった期間(2)に相当する12~2月にも地温に大きな変動がみられた。
2017/18シーズンに、岩手県に加えて、北海道、青森県、秋田県および三重県の計5地点で、鉄コーティング処理済みの種籾の初冬播き栽培を行い、播種後1カ月目と4カ月目の2時期に掘り取り試験を行った。播種後1カ月目について、実施例の鉄コーティング処理済み種子と比較例の無処理種子で比較すると、図6(a)に示したように、岩手県の実施例である実施例3の発芽率74%と北海道の実施例である実施例6の発芽率64%が高く、青森県の実施例である実施例7、秋田県の実施例である実施例8および三重県の実施例である実施例9が発芽率46~56%とそれに続いた。
播種後4カ月目には、図6(c)に示したように、いずれの地点も発芽率が低下したが地域間差がみられた。青森県の実施例である実施例7の発芽率は、約55%と極めて高い水準を維持していたが、秋田県の実施例である実施例8の発芽率は約25%程度であった。一方、未処理の種子については、青森県の比較例の種子の発芽率が22%と最も高く、他の地点における比較例の発芽率は、2~12%まで低下していることが確認された。
したがって、図6(a)(c)の結果より、鉄コーティング処理は、播種後1カ月目と4カ月目の両時期において、また、いずれの地点においても発芽率について有意なプラスの効果をもたらすことが認められた。その効果を平均すると、鉄コーティング処理は、初冬播きで栽培した植物種子の発芽率を約26%高めると考えられた。一方、出芽勢の指標であるD50は、図6(b)(d)に示したように、秋田県の鉄コーティング処理の実施例である実施例8を除いて明瞭な地域間差、時期間差および処理間差がみとめられなかった。

Claims (3)

  1. 初冬播きにおけるイネ科穀類の種子の出芽率を向上させる直播栽培方法であって、
    乾燥状態のイネ科穀類の種子を、催芽処理することなく、かつ、表面を、鉄粉、鉄粉と焼石膏の混合物のうちのいずれかを含むコーティング材により被覆したコーティング処理済み植物種子を、
    収穫前年の晩秋から初冬の期間に圃場に播種することを特徴とする植物種子の直播栽培方法。
  2. 前記コーティング材は、鉄粉と焼石膏の混合物を含み、
    少なくとも、前記植物種子の乾燥重の0.5~1.9倍量の鉄粉を含み、かつ該鉄粉重の0.1~0.15倍量の焼石膏を含む前記コーティング材により前記植物種子の表面を被覆し、前記鉄粉重の0.025~0.075倍量の焼石膏により前記コーティング材の層の表面をさらに被覆し、前記鉄粉を酸化させることを特徴とする請求項1に記載の直播栽培方法。
  3. 前記圃場への播種の後、土壌表面を圧縮し、前記植物種子を前記土壌表面下に埋没させることを特徴とする請求項1または2に記載の直播栽培方法。
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