以下、本発明の一実施形態にかかる溶解判定補助装置および溶解判定補助方法について、図面を参照しながら説明する。
本発明の一実施形態にかかる溶解判定補助装置1は、アーク炉5における金属材料Mの溶解状態の判定を補助するものである。図1に、溶解判定補助装置1による補助の対象とするアーク炉5の一例を示す。また、図2に、溶解判定補助装置1の構成を、アーク炉5と協働する判定・記憶装置6と合わせて示す。溶解判定補助装置1は、アーク炉5および併設される判定・記憶装置6において、炉内発生音や一次側電流または電圧の情報に基づいて、金属材料Mの溶解状態を判定する際に用いられる閾値の妥当性を検証し、さらに適切な閾値を決定するのを、補助するものである。また、本発明の一実施形態にかかる溶解判定補助方法は、そのような溶解判定補助装置1を用いて、アーク炉5における金属材料Mの溶解状態の判定を補助する方法である。
[1]アーク炉および判定・記憶装置
溶解判定補助装置1について説明する前に、アーク炉5および併設される判定・記憶装置6の構成、また、アーク炉5および判定・記憶装置6による金属材料Mの溶解および溶解状態判定の方法について、簡単に説明する。
[アーク炉の構成]
アーク炉5においては、炉体50に金属スクラップ等の金属材料Mを収容して、蓋51に取り付けられた電極52と金属材料Mの間で、アーク放電を行うことで、金属材料Mを溶解する。電極52は、図示しない昇降装置に保持され、高さ位置を変更可能となっている。
アーク炉5に電力を供給する電源回路には、タップチェンジャを備えた炉用変圧器53が設けられており、炉用変圧器53の一次側回路54が商用電源に接続されている。一次側回路54においては、炉用変圧器53と商用電源の間に、真空遮断器(VCB)56が設けられている。炉用変圧器53の二次側回路55は、電極52に至っており、電極52に電源を供給する。電極52には、三相交流が供給される。図示は省略するが、二次側回路55には、計器用変流器と計器用変圧器が設けられており、それらを介して計測された二次側回路55の電流値および電圧値に基づくフィードバック制御により、電極52の高さ位置が調整され、炉用変圧器53の出力が調整される。なお、図示した形態では、3本の電極52に三相交流が供給されるが、電極52を2本とした単相交流、あるいは商用電源の交流を変換して得た直流が供給される形態としてもよい。
さらに、一次側回路54には、計器用変流器57が設けられている。計器用変流器57は、一次側回路54を流れる電流値に対応する電気信号を、判定・記憶装置6の電気周波数分析手段61に入力する。
また、炉体50の近傍には、騒音計58が設置されている。騒音計58は、アーク炉5の炉内発生音を検出し、検出された音の強度に応じた電気信号を、判定・記憶装置6の音周波数分析手段62に入力する。なお、騒音計58は、炉体50の近傍に設置されることから、耐熱対策および防塵対策として、図示しない筐体に収容されている。
炉用変圧器53の一次側回路54に設けられた真空遮断器56は、ON/OFF制御により、炉用変圧器53への電源の供給/遮断を切り替えることができる。電極52に電源を供給し、金属材料Mの溶解を行う間は、真空遮断器56はON状態とされる。一方、後述するように、判定・記憶装置6において、金属材料Mの溶解が完了したと判定されると、真空遮断器56がOFF状態に切り替えられ、炉用変圧器53を介した電極52への電源の供給が遮断される。真空遮断器56のON/OFFの切り替えは、判定・記憶装置6による判定結果に基づいて、作業者が手動で行うようにしても、判定・記憶装置6からの制御信号を介して、自動的に行うように構成してもよい。
[判定・記憶装置の構成]
次に、アーク炉5に備えられる判定・記憶装置6の構成について説明する。判定・記憶装置6は、コンピュータよりなり、アーク炉5の周辺に設置されている。判定・記憶装置6は、情報処理機能として、電気周波数分析手段61と、音周波数分析手段62と、判定手段63と、通知手段64とを有している。判定・記憶装置6はさらに、情報記憶機能として、記憶手段65を有している。記憶手段65は、コンピュータに取り付けられた、揮発性、または不揮発性のメモリとして、構成することができる。判定・記憶装置6は、アーク炉5において、二次側回路55の電流値および電圧値に基づいて、炉用変圧器53の出力および電極52の高さ位置を制御する制御装置を兼ねるものとしてもよい。
音周波数分析手段62は、騒音計58によって検出された炉内発生音の強度に対応する信号を入力され、その信号に対して、フーリエ変換やラプラス変換等による周波数分析を行う。そして、周波数ごとの強度分布を示す音周波数データを、評価データとして、判定手段63および記憶手段65に入力する。
電気周波数分析手段61は、計器用変流器57から一次側回路54の電流値に対応する信号を入力され、その信号に対して、音周波数分析手段62と同様に、周波数分析を行う。そして、周波数分析の結果から、基本周波数(商用電源の電源周波数)の偶数倍の周波数を有する高調波成分の強度変化を抽出して、その強度の時間変化を記録したものを、電気高調波データとする。そして、生成した電気高調波データを、評価データとして、判定手段63および記憶手段65に入力する。ここで、アーク炉5の一次側回路54に、計器用変流器57の代わりに計器用変圧器を設置し、計器用変圧器により検出された一次側回路54の電圧値に対応する信号を、電気周波数分析手段61に入力し、同様に、電気高調波データを生成するようにしてもよい。また、一次側回路54に計器用変流器57(または計器用変圧器)を設置する代わりに、一次側回路54の電流(または電圧)における高調波成分の強度を計測する高調波計を設けてもよい。この場合には、判定・記憶装置6は、電気周波数分析手段61を備える必要がなく、高調波計によって検出された高調波成分の強度に対応する電気信号を、直接、判定手段63および記憶手段65に入力するように構成すればよい。
判定手段63は、入力された評価データ、つまり音周波数分析手段62より入力された音周波数データ、および電気周波数分析手段61より入力された電気高調波データから、アーク炉5の中の金属材料Mの溶解状態を判定する。具体的には、音周波数データにおいて、基本周波数の偶数倍の周波数を含んだピークの高さを、所定の音閾値と比較することにより、また、電気高調波データにおいて、高調波成分の強度を、所定の電気閾値と比較することにより、金属材料Mの溶解が完了しているか否かを判定する。これら音周波数データおよび電気高調波データを利用した溶解完了に関する判定の方法については、後に詳しく説明するが、それらの判定に用いる閾値の妥当性を検証し、さらに適切な閾値を決定するのに、溶解判定補助装置1を利用する。
通知手段64は、判定手段63による金属材料Mの溶解状態に関する判定の結果を、判定・記憶装置1の外部に通知する。例えば、通知手段64は、判定・記憶装置6に付属された表示画面に、画像や文字によって、判定の結果を出力し、作業者に、金属材料Mの溶解が完了しているか否かを通知することができる。さらに、通知手段64は、判定手段63によって溶解が完了したと判定された際に、アーク炉5の一次側回路54に設けられた真空遮断器56に、通知として制御信号を出力し、ON状態にあった真空遮断器56をOFF状態として、電極52への電源供給を停止するように構成してもよい。
記憶手段65は、評価データ、つまり音周波数分析手段62から入力された音周波数データおよび電気周波数分析手段61から入力された電気高調波データを、蓄積して記憶する。記憶手段65が蓄積して記憶する情報は、評価データに加え、その評価データが取得され、判定手段63における判定の対象とされた際に、判定に用いられた閾値(音閾値および電気閾値)や、操業条件(アーク炉5における各種の設定パラメータや、金属材料Mの種類および量等)等、評価データに対応付けられる他の情報を含む、組データの形であってもよい。
[金属材料の溶解方法]
以上のような構成を有するアーク炉5および判定・記憶装置6を用いて、金属スクラップ等の金属材料Mを溶解する方法の一例について、簡単に説明する。溶解を開始する前に、判定・記憶装置の判定手段63に、音周波数データと電気高調波データのうち、金属材料Mの溶解完了を判定するための評価データとして用いるデータ種と、そのデータ種に対して溶解完了の判定に用いる閾値を入力しておく。
溶解を開始する際に、まず、アーク炉5に対して、作業者が、金属材料Mの初装を行う。そして、電極52に電源を供給して金属材料Mの溶解を進める。この間、判定・記憶装置6は、評価データを取得する。つまり、評価データとして音周波数データが選択されている場合には、騒音計58から取り込んだ信号を音周波数分析手段62で周波数分析して、音周波数データとして判定手段63に入力する。また、評価データとして電気高調波データが選択されていている場合には、計器用変流器57から取り込んだ信号に対して、電気周波数分析手段61で周波数分析と高周波成分の抽出を行い、電気高調波データとして判定手段63に入力する。判定手段63は、入力された評価データを、予め入力されていた閾値と比較して、アーク炉5の中の金属材料Mの溶解が完了しているかどうかを判定する。取得された評価データは、判定手段63に入力されて判定に使用されるのに並行して、記憶手段65に蓄積される。判定手段63における判定の内容については、後述する。
評価データの取得および判定手段63による溶解完了に関する判定は、溶解工程を通して、繰り返し行われる。その間に、判定手段63によって、初装された金属材料Mが十分に溶解し、追装が可能であると判定されると、通知手段64が、そのことを通知する。そして、通知手段64からの通知を受けて、作業者による手動操作によって、あるいは制御信号によって自動的に、アーク炉5の真空遮断器56がOFF状態とされ、電極52への電源供給が中断される。
次に、作業者が、金属材料Mの追装を行う。その後、初装時と同様に、金属材料Mの溶解と、評価データの取得、判定手段63による溶解完了に関する判定を行う。追装と溶解は、複数回(例えば3回)繰り返すことができ、金属材料Mの溶解が完了し、さらなる追装が可能な状態にあると判定手段63が判定し、電極52への電源供給を中断した後に、次の追装を行うようにすればよい。
最後に追装した金属材料Mを溶解させる際には、判定手段63が、溶落が起こり、酸化精錬等、次の工程に移行できる状態に達したと判定すると、通知手段64によって、次工程に移行できることが通知される。そして、アーク炉5の真空遮断器56がOFF状態とされ、電極52への電源供給が終了される。
[金属材料の溶解完了に関する判定]
上記のように、判定・記憶装置6の判定手段63においては、音周波数データおよび電気高調波データの一方、または両方を用いて、金属材料Mの溶解が完了しているか否かを判定する。その判定の内容について説明する。
(1)音周波数データを用いた判定
アーク炉5の中で金属材料Mの溶解が進行するのに伴って、炉内発生音が変化することが知られている。溶解があまり進行していないうちは、不均一に堆積した金属材料Mに対して離散的にアーク放電が起こることに対応して、雷鳴のような間欠的な音が発生するのに対して、溶解が進行すると、連続的な音に変化することが知られている。このような音の変化は、炉内発生音を周波数分析した音周波数データによく反映される。
図3(a)に示すように、溶解の初期には、基本周波数の偶数倍(例えば4倍;200Hz)を含む領域において、信号強度に明確な周波数依存性が見られず、広い周波数領域の音が同程度の強度で観測されている。これに対し、図3(b)に示すように、溶解の終期には、基本周波数の偶数倍の周波数を中心とした一部の周波数領域で信号強度が強くなる一方、その周囲の周波数の信号強度が弱くなり、基本周波数の偶数倍の周波数を中心とした明確なピーク構造が観測されるようになる。
そこで、基本周波数の偶数倍の周波数を含んだピーク(高調波ピーク)の高さを、判定手段63による溶解完了に関する判定の指標として用いればよい。例えば、高調波ピークの高さに閾値(図3中のT)を設け、実際に観測される高調波ピークの高さがその閾値T以上となる状態が、所定の音判定時間以上持続した場合に、金属材料Mの溶解が完了したと判定することができる。高調波ピークの高さの評価においては、高調波ピークの高さを音周波数データから読み取り、その高さが閾値T以上となる状態が所定の音判定時間以上持続した場合に、溶解完了と判定すればよい。高調波ピークの高さは、例えば、高調波ピークの頂点の強度と、高調波ピークの低周波側および高周波側の領域(図3中の領域IIおよび領域IIIに相当する周波数領域)の信号強度の平均値との差として、読み取ることができる。例えば、溶解初期の図3(a)では、高調波ピークの高さは10dB以下であり、溶解終期の図3(b)では、約40dBである。
あるいは、高調波ピークの高さを読み取って閾値と比較する代わりに、複数の閾値を用いて設定した複数の領域に、各周波数の信号成分が入っているかどうかを判定してもよい。例えば、図3においては、領域I,II,IIIの3つの領域を設定している。領域Iは、基本周波数の偶数倍の周波数を含む周波数領域に設定されている。図3では、基本周波数の偶数倍の周波数を中心として、閾値T1の上側の領域として、領域Iが設定されている。領域II,IIは、それぞれ領域Iよりも低周波側および高周波側の周波数領域として設定されている。図3では、領域Iよりも低周波側に、閾値T2の下側の領域として、領域IIが設定され、領域Iよりも高周波側に、閾値T3の下側の領域として、領域IIIが設定されている。3つの閾値の関係は、T2,T3≦T1であり、図示した形態では、T2<T1,T3=T1となっている。
音周波数信号において、少なくとも一部の信号成分が、領域Iに入って閾値T1以上となり、かつ、領域IIと領域IIIに、当該周波数の信号成分が全て入り、それぞれ閾値T2以下、T3以下となった状態が、所定の音判定時間以上継続した場合に、溶解が完了したと判定すればよい。溶解初期の図3(a)では、信号が領域Iに全く入っておらず、また、一部が領域IIに収まっていない。一方、溶解終期の図3(b)では、信号成分の一部が領域Iに入っており、また、当該周波数領域の信号成分が全て領域II,IIIに収まっている。
音周波数データにおける高調波ピークの成長は、次に説明する電気高調波データにおける高調波成分の強度低下よりも、金属材料Mの溶解が比較的よく進行してから観測される。そこで、次に追装する予定の金属材料Mの嵩が大きい場合等、溶解が完全に終了するまで、あるいはその直前まで溶解を進めてから、溶解完了の判定を行いたい場合には、音周波数データにおける高調波ピークの成長を、判定に利用すればよい。
(2)電気高調波データを用いた判定
アーク炉5の中で金属材料Mの溶解が進行するのに伴って、アーク炉5から発生する高調波が減少することが知られている。アーク炉5から発生する高調波は、電極52に電源を供給する電源回路の一次側回路54の電流および電圧に、高調波成分として現れる。よって、一次側回路54の電流および電圧において、基本周波数の偶数倍(例えば2倍)に相当する高調波の強度の時間変化を観察することで、アーク炉5の中の金属材料Mの溶解が完了しているか否かを判定することができる。
図4に、計器用変流器57で計測される一次側回路54の電圧における各次数の高調波成分の強度の時間変化を示す。図では、次数(周波数が基本周波数の何倍であるか)が異なる複数の偶数次の高調波成分について、測定結果を示している。図4によると、初装時および2回の追装時のそれぞれの溶解工程において、溶解の終期に近づくまでは、高調波成分の強度が大きくは変化していない。しかし、溶解の終期において、高調波成分の強度が、徐々に低下している。
そこで、高調波成分の強度を、判定手段63による溶解完了に関する判定に用いればよい。例えば、ある次数の高調波成分の強度に閾値を設定し、実際に観測されるその次数の高調波成分の強度が、設定した閾値以下となる状態が、所定の電気判定時間以上持続した場合に、金属材料Mの溶解が完了したと判定することができる。図4の例において、初装時の溶解について、2次高調波に対する閾値T4を0.15kVに設定すると、溶解の初期においては、2次高調波成分の強度がその閾値T4を上回っているが、溶解の終期近くに2次高調波の強度が徐々に低下し、閾値T4を下回るようになっている。その後も2次高調波の強度は低下を続けるが、その強度が閾値T4以下となった状態が所定の電気判定時間以上持続した時点で、初装時の溶解が完了し、追装可となったと判定することができる。
電気高調波データにおける高調波成分の強度の低下は、上記の音周波数データにおける高調波ピークの成長よりも、金属材料Mの溶解が終期にあることを比較的早い時期に反映する。そこで、次に追装する予定の金属材料Mの嵩が小さい場合等、溶解が終期に差しかかっていることを比較的早く検知したい場合には、電気高調波データにおける高調波成分の強度低下を、判定に利用すればよい。
上記のように、溶解完了に関する判定には、音周波数データと電気高調波データの両方を用いても、いずれか一方を用いてもよい。つまり、音周波数データにおいて、高調波ピークの高さが、音閾値以上となる状態が音判定時間にわたって継続する状態、および、電気高調波データにおいて、高調波成分の強度が、電気閾値以下となる状態が所定の電気判定時間にわたって継続する状態の少なくとも一方が発生した際に、金属材料Mの溶解が完了したと判定すればよい。
[2]溶解判定補助装置
ここで、本発明の一実施形態にかかる溶解判定補助装置(以下単に、補助装置と称する場合がある)1の構成と動作について説明する。
[溶解判定補助装置の構成]
本溶解判定補助装置1は、上記のように、取得済みの評価データを対象としたシミュレーションを行うものである。シミュレーションによって、金属材料Mの溶解完了に関する判定に用いる音閾値(閾値T1,T2,T3)および電気閾値(閾値T4)の妥当性を検証し、さらには、検証結果に基づいて、音周波数データと電気高調波データのいずれのデータ種に基づく判定を採用すべきか、また採用したデータ種に対する判定に用いるべき具体的な閾値を決定することができる。
補助装置1は、入力された情報に基づいて、金属材料Mの溶解完了に関する判定のシミュレーション等、演算を行う演算部20と、演算部20に対する情報の出入力および確認において、作業者を支援する支援部10と、を有している。補助装置1は、コンピュータとして構成することができ、情報処理機能として、支援部10を構成するデータ採取手段11、出力選択手段12、出力手段13、データ入力手段14、パラメータ入力手段15を備え、また、演算部20を構成するシミュレーション手段21を備えている。補助装置1は、判定・記憶装置6と共通の装置として構成しても、別の装置として構成してもよい。別の装置として構成する場合には、判定・記憶装置6とは異なり、補助装置1は、アーク炉5の近傍に設置する必要はない。
支援部10は、上記のように、データ採取手段11、出力選択手段12、出力手段13、データ入力手段14、パラメータ入力手段15を備えている。これらのうち、出力選択手段12と出力手段13は、作業者が、解析対象のデータや解析結果の確認を行うのを支援する、解析支援部10aを構成している。そして、データ入力手段14とパラメータ入力手段15が、作業者が、シミュレーションに用いるデータやパラメータの選択等、シミュレーションに必要な設定を行うのを支援する、設定支援部10bを構成している。
データ採取手段11は、判定・記憶装置6の記憶手段65に蓄積された評価データ(あるいは組データ)を採取する。データ採取手段11は、多数回の操業において取得された評価データを、一括して採取することができる。データ採取手段11は、採取したデータを、必要に応じて、シミュレーション手段21における演算処理、および出力手段13による出力が可能な形態に、変換する。データ採取手段11によるデータ採取の具体的な形態は特に限定されないが、例えば、判定・記憶装置6と補助装置1の間をネットワーク接続して相互に通信可能としておき、ネットワークを介してデータを採取するように構成することができる。あるいは、記憶手段65が、判定・記憶装置6から取り外し可能なメモリよりなる場合や、記憶手段65の記憶内容をメディアディスクに保存可能である場合には、記憶手段65またはメディアディスクを判定・記憶装置6から補助装置1に移動させて、蓄積されたデータを読み出すようにしてもよい。
データ採取手段11は、採取した評価データ(あるいは組データ)を、データ入力手段14に入力する。データ採取手段11は、その評価データを、出力選択手段12へも入力する。
解析支援部10aに含まれる出力選択手段12は、データ採取手段11から入力された評価データのうち、次に説明する出力手段13を介して、補助装置1に付属されたディスプレイ装置31等に表示するものを、作業者に選択させる。その選択は、補助装置1に付属するキーボード32やマウス等を用いて行うことができ、例えば、各評価データに割り付けられた番号やファイル名によって、選択する評価データを指定できるように、構成すればよい。そして、出力選択手段12は、作業者によって表示することが選択された評価データを、出力手段13へと入力する。
出力選択手段12を用いることで、例えば、多数の評価データが、データ採取手段11によって一括して採取された際に、代表となる評価データを作業者が選択し、その評価データに対して、内容の確認や解析等、作業者が所望する作業を行うことが可能となる。しかし、評価データの数がそれほど多くない場合等には、出力選択手段12を省略し、データ採取手段11から出力手段13に、各評価データを直接入力するようにしてもよい。
解析支援部10aに含まれる出力手段13は、データ採取手段11によって採取され、適宜、出力選択手段12を経て入力された評価データを、作業者に認識可能な形態で、出力する。具体的には、表およびグラフの少なくとも一方として出力する。例えば、ディスプレイ装置31に、グラフや表を表示することができる。なお、音周波数データに関しては、出力手段13は、各時刻において取得された音周波数データのみならず、ある周波数における信号強度の時間変化も表示することが好ましい(図6(b)~(d)参照)
さらに、出力手段13は、データ採取手段11によって採取された評価データのみならず、シミュレーション手段21によるシミュレーションの結果も、作業者に認識可能な形態で出力することができる。後述するように、シミュレーション手段21は、ある評価データに対してある閾値を適用した際に、金属材料Mの溶解が完了したと判定されるか否か、また完了したと判定される場合に、溶解開始から溶解が完了したと判定されるまでの評価データ上の経過時間を、シミュレーション結果として出力する。出力手段13は、そのシミュレーション結果を、例えばディスプレイ装置31に表示する。合わせて、出力手段13は、シミュレーションに用いられた評価データと閾値との関係性を、作業者に認識可能な形態で出力する。具体的には、表およびグラフの少なくとも一方として出力する。例えば、ディスプレイ装置31に、グラフや表を表示することができる。この際、評価データと閾値の関係を、作業者に直感的に分かりやすいように表示することが好ましく、評価データをグラフ表示し、そこに、閾値を示すラインを重畳して表示する形態を例示することができる。出力手段13において、データ採取手段11から入力されたデータを表示する状態と、シミュレーション手段21でのシミュレーションの結果として得られるデータを出力手段13によって表示する状態とは、例えば、溶解判定補助装置1の状態や作業者による指定に応じて、切り替えることができる。
設定支援部10bに含まれるデータ入力手段14は、データ採取手段11によって採取され、適宜、出力選択手段12を経て入力された評価データのそれぞれについて、シミュレーションによる解析の対象とするかどうかを、作業者に選択させる。この際、作業者は、出力手段13によって表やグラフとして出力された評価データを、参照することができる。そして、データ入力手段14が、ディスプレイ装置31に、その評価データをシミュレーションによる検討の対象とするか否かの選択肢を表示し、作業者がマウス操作等を行うことで、その評価データをシミュレーションの対象とするか否かを選択することができる。さらに、データ入力手段14は、作業者によって、シミュレーションによる検討の対象とすることが選択された評価データを、演算部20のシミュレーション手段21に入力する。
設定支援部10bに含まれるパラメータ入力手段15は、シミュレーション手段21におけるシミュレーションに用いるパラメータを、作業者に入力させ、作業者が入力したパラメータを、シミュレーション手段21に伝達するものである。例えば、パラメータ入力手段15が、作業者が入力すべきパラメータの項目名を、ディスプレイ装置31に表示し、それを見た作業者が、キーボード32やマウス等を用いて、パラメータ値を入力する。そして、作業者によって入力されたパラメータ値を、シミュレーション手段21が処理可能な形態で、シミュレーション手段21へと伝達する。作業者に入力させるパラメータとしては、シミュレーションの対象とするデータ種(音周波数データか電気高調波データか)や、シミュレーションに適用する閾値の値を挙げることができる。シミュレーションに適用する閾値としては、シミュレーションの対象とする評価データが取得された際に、溶解状態の判定に実際に適用された閾値と同じ値(実績閾値)とすることも、作業者が任意に指定する、実績閾値とは異なる値(指定閾値)とすることもできる。
演算部20を構成するシミュレーション手段21は、データ入力手段14から入力された評価データに対して、金属材料Mの溶解完了に関するシミュレーションを行う。つまり、入力された評価データが、リアルタイムで取得されたとして、判定・記憶装置6の判定手段63で行われているのと同様に、閾値を用いて、金属材料Mの溶解が完了しているか否かを、模擬的に判定する。そして、金属材料Mの溶解が完了したと判定されたかどうか、また完了したと判定された場合に、金属材料Mの溶解開始から、溶解が完了したと判定されるまでの音周波数データ上の経過時間を、シミュレーション結果として、そのシミュレーションに用いた評価データおよび閾値とともに、出力手段13に伝達する。上記のように、出力手段13は、シミュレーション結果に加え、評価データと閾値との関係を、作業者に認識できるように出力する。
シミュレーション手段21におけるシミュレーションの詳細については次に説明するが、シミュレーションに適用する閾値としては、パラメータ入力手段15を介して、作業者が指定した閾値(実績閾値または指定閾値)を、用いることができる。なお、データ採取手段11およびデータ入力手段14を介してシミュレーション手段21に入力される情報が、実績閾値を含む組データである場合には、パラメータ入力手段15を介して作業者から入力される閾値の代わりに、その組データに含まれる実績閾値を、シミュレーションに利用するように構成してもよい。
[溶解完了のシミュレーションと閾値の妥当性の検証]
次に、シミュレーション手段21におけるシミュレーションの詳細と、そのシミュレーションの結果に基づく閾値の妥当性の検証について説明する。
上記のように、シミュレーション手段21においては、判定・記憶装置6において既に取得、蓄積され、データ採取手段11およびデータ入力手段14を介して入力された評価データに対して、金属材料Mの溶解完了に関するシミュレーションを行う。シミュレーションにおける溶解完了の判定は、判定・記憶装置6において、リアルタイムで取得されている評価データに対して行われるのと同様の方法で、模擬的に行われる。以下、シミュレーションの一例について説明する。
評価データが音周波数データを含んでいる場合には、データ入力手段14からシミュレーション手段21に、図3(a),(b)のような音周波数データが、溶解工程の時系列に沿って複数入力される。シミュレーション手段21は、パラメータ入力手段15を介して作業者に指定された実績閾値または指定閾値としての音閾値(ここでは閾値T1,T2、T3)の値を用いて、領域I,II,IIIを設定する。領域I,II,IIIのそれぞれを規定する周波数の値、また、所定の状態の継続を判定するための音判定時間は、固定された値としてあらかじめシミュレーション手段21に入力しておいても、パラメータ入力手段15を介して作業者が指定可能なパラメータとして、シミュレーション手段21に入力するようにしてもよい。
シミュレーション手段21は、入力された一連の音周波数データのそれぞれに対して、領域I,II,IIIを当てはめ、各音周波数データが取得された時点において、金属材料Mの溶解が完了していると判定できるかどうかを、評価する。つまり、図3(b)のように、少なくとも一部の信号成分が、領域Iに入って閾値T1以上となった状態(第一の状態)と、領域IIと領域IIIに、当該周波数領域の信号成分が全て入り、それぞれ閾値T2以下、T3以下となった状態(第二の状態)との両方が、音判定時間以上継続した時点で、溶解が完了したと判定する。
そして、データ入力手段14から入力された一連の音周波数データの時系列の中で、いずれかの時点において溶解が完了したと判定されれば、溶解が完了したと判定されたという事実と、溶解工程の開始時から、溶解が完了したと判定された時点までの評価データ上での経過時間とを、シミュレーション結果として、出力手段13に出力する。一方、データ入力手段14から入力された一連の音周波数データの時系列の中で、溶解が完了したと判定されなかった場合には、溶解が完了したと判定されなかったという事実を、シミュレーション結果として、出力手段13に出力する。
一方、評価データが電気高調波データを含んでいる場合には、データ入力手段14からシミュレーション手段21に、図4に示したいずれかの次数のデータのような、高調波成分の強度の時間変化のデータが、入力される。シミュレーション手段21は、パラメータ入力手段15を介して作業者に指定された実績閾値または指定閾値としての電気閾値(ここでは閾値T4)を、電気高調波データに重畳する。所定の状態の持続を判定するための電気判定時間は、固定された値としてあらかじめシミュレーション手段21に入力しておいても、パラメータ入力手段15を介して作業者が指定可能なパラメータとして、シミュレーション手段21に入力するようにしてもよい。
シミュレーション手段21は、入力された電気高調波データに対して、閾値T4との関係を評価する。つまり、データ上の各時点の高調波成分の強度を、閾値T4と比較し、高調波成分の強度が閾値T4以下となった状態が、電気判定時間以上持続した時点で、溶解が完了したと判定する。
そして、データ入力手段14から入力された電気高調波データの時間範囲の中で、溶解が完了したと判定されれば、溶解が完了したと判定されたという事実と、溶解工程の開始時から、溶解が完了したと判定された時点までの電気高調波データ上の経過時間を、シミュレーション結果として、出力手段13に出力する。一方、データ入力手段14から入力された電気高調波データの時間範囲の中で、溶解が完了したと判定されなかった場合には、溶解が完了したと判定されなかったという事実を、シミュレーション結果として、出力手段13に出力する。
作業者は、出力手段13によってディスプレイ装置31に出力されるシミュレーション結果を確認することで、閾値(閾値T1~T4)として特定の値を適用した場合に、金属材料Mの溶解完了に関する判定が正確に、また所望の通りに行われているかどうかを評価し、その閾値の妥当性を検証することができる。出力されたシミュレーション結果が、溶解が完了したと判定されなかった、というものである場合には、そのシミュレーションに適用された閾値では、溶解の完了を正しく判定できなかったということであり、その閾値が妥当でなかったと評価することができる。この場合には、適用する閾値を再検討する必要があると言える。再検討に際して、シミュレーション結果とともに、グラフや表として出力されている評価データと閾値との関係性を参照して、原因や対策について考察することができる。あるいは、アーク炉5における金属材料Mの溶解自体、あるいは騒音計58や計器用変流器57を介した評価データの取得自体が正常に行えなかった可能性があれば、それらの装置の状態を確認することができる。
一方、出力されたシミュレーション結果が、溶解が完了したと判定された、というものである場合には、シミュレーションに適用された閾値は、少なくとも、溶解完了に関する判定が可能なものであったと評価することができる。さらに、この場合には、その閾値を適用した際に、溶解工程の開始から溶解が完了したと判定された時点までの経過時間が出力されるので、その経過時間の情報に基づき、また必要に応じて、評価データと閾値との関係性の出力結果を参照しながら、閾値の妥当性について、詳細に検討することができる。例えば、溶解完了に関する判定が、アーク炉5における金属材料Mの実際の溶解の進行と比較して、また、判定完了の通知を所望する時期と比較して、適切であったか否かを評価することができる。さらに、適切でなかった場合には、早すぎるか、または遅すぎるかを、評価することができる。ここで、アーク炉5における金属材料Mの実際の溶解の進行との比較は、例えば、実際にアーク炉5の内部を試験的に確認した結果に基づいて行えばよい。また、判定完了の通知を所望する時期との比較としては、例えば、溶解が終期に差しかかっていることを比較的早く検知したいか、あるいは溶解がほぼ完全に終了するまで溶解を進めてから溶解完了と判定したいのか、という時期との比較を行えばよい。
このような閾値の妥当性の検証は、複数の異なる閾値を設定した場合の判定結果の比較としても、行うことができる。例えば、複数の閾値のうち、いずれを用いた場合の判定結果が優れているかを、評価することができる。
対象とする評価データが取得された際に、溶解完了に関する判定に実際に使用された実績閾値を用いて、シミュレーション手段21でのシミュレーションを行う場合には、判定・記憶装置6の判定手段63において、評価データを取得しながらリアルタイムで行われた判定を、そのまま模擬的に再現することになる。そして、既に行われた判定が適切であったか、判定に適用された閾値が妥当であったかを、事後的に検証することになる。判定が適切に行われたと評価される場合には、その実績閾値を、同条件での溶解に、継続して使用すればよい。判定が適切に行われなかったと評価される場合には、閾値の変更を検討すればよい。
一方、パラメータ入力手段15を介して作業者が任意に指定した、実績閾値とは異なる指定閾値を適用して、シミュレーション手段21でのシミュレーションを行う場合には、既に取得された評価データに対して、任意の閾値を適用して、いかなる判定結果が得られるのかを、仮想的に評価することができる。例えば、上記のように、実績閾値によって、判定が適切に行えなかった場合に、実績閾値とは別の値である指定閾値を適用した場合と、判定結果を比較することで、閾値の変更によって、判定をより適切に行える可能性があるかどうかを、判断することができる。あるいは、複数の指定閾値を用いた評価結果を相互に比較し、いずれの指定閾値を用いれば、判定を最も適切に行うことができるのかを、検討することができる。このように、任意の指定閾値を用いたシミュレーションを行うことで、実際のアーク炉5での金属材料Mの溶解完了に関する判定に用いるべき評価データの種別(音周波数データを用いるか、電気高調波データを用いるか)や、適用すべき閾値の値を、決定することができる。その決定方法については、後に詳しく説明する。
本実施形態にかかる補助装置1において、閾値の妥当性の判断を行うためには、最初に、データ採取手段11によって、判定・記憶装置6の記憶手段65から、評価データを採取する。この際、同一の操業条件で行われた複数回の溶解工程において取得された、複数の評価データを、一括して採取することが好ましい。データ採取手段11は、採取した各評価データを、適宜、出力選択手段12を介して、出力手段13に入力する。出力手段13は、入力された評価データの内容を、作業者が認識できる形で出力する。
そして、データ入力手段14が、出力手段13によって出力される各評価データを、シミュレーション手段21によるシミュレーションの対象とするかについて、作業者に選択させる。作業者はこの際、例えば、アーク炉5や判定・記憶装置6の構成部材の不具合等により、内容に不備がある評価データや、判定結果の適否が明白であり、検証を行う必要がない評価データ等を、シミュレーションの対象から除外すればよい。データ入力手段14は、シミュレーションの対象とすることが選択された評価データを、シミュレーション手段21に入力する。なお、データ採取手段11によって採取された評価データに対して、作業者が確認や選択を行うことを必要としない場合には、データ採取手段11からデータ入力手段14および出力選択手段12、出力手段13に評価データを入力する過程を省略し、データ採取手段11からシミュレーション手段21へと、評価データを直接入力するように構成してもよい。
さらに、パラメータ入力手段15が、シミュレーション手段21でのシミュレーションに用いる閾値を、作業者に入力させる。この際、作業者は、閾値として、判定・記憶装置6において、対応する評価データが取得された際に実際に適用された実績閾値、あるいは、実績閾値とは異なる仮想的な指定閾値を入力することができる。パラメータ入力手段15は、作業者が入力した閾値を、シミュレーション手段21に伝達する。
シミュレーション手段21は、データ入力手段14から入力された評価データと、パラメータ入力手段15から入力された閾値を用いて、上記で説明したように、溶解判定のシミュレーションを行う。そして、出力手段13に、シミュレーション結果を伝達する。出力手段13は、そのシミュレーション結果を、評価データと閾値との関係性と合わせて、作業者に認識可能な形態で出力する。
作業者は、出力結果を確認して、閾値が妥当であるか否かを検証することができる。閾値が妥当でなかった場合、あるいは、妥当であったが、さらに優れた閾値が存在すると考えられる場合には、作業者は、パラメータ入力手段15を介して、別の閾値を入力すればよい。すると、シミュレーション手段21は、既に入力されている評価データに対して、新しく入力された閾値を適用して、再度シミュレーションを行い、出力手段13を介して、シミュレーション結果を出力する。
図2に太線で示した、パラメータ入力手段15による閾値の設定と、その閾値を用いたシミュレーション手段21によるシミュレーション、出力手段13によるシミュレーション結果および評価データ、閾値の出力のループは、同一の評価データに対して、閾値を変えながら、何度も繰り返すことができる。これにより、作業者は、その評価データに対して用いるべき適切な閾値を、探索することができる。さらに、同一の操業条件で取得された複数の評価データに対して、同様に、閾値の検討を行うことで、操業状態の揺らぎ等、偶発的な事象の影響を低減して、閾値の探索の精度を高めることができる。探索の結果、適切な閾値を発見することができれば、その閾値を、判定・記憶装置6の判定手段63に入力し、実際の金属材料Mの溶解における溶解完了の判定に用いることができる。
以上のように、本実施形態にかかる補助装置1においては、アーク炉5における金属材料Mの溶解完了に関する判定を、音周波数データや電気高調波データよりなる評価データと閾値との比較によって行うに際し、金属材料Mの溶解を繰り返さなくても、既に取得した評価データに対して、シミュレーションを行うことで、その閾値によって溶解完了に関する判定が適切に行えるかを、検証することができる。その検証は、実際に判定に適用した閾値(実績閾値)のみならず、作業者によって想定される任意の閾値(指定閾値)を用いて行うことができる。特に、ある評価データに対して、閾値を変化させながらシミュレーションを繰り返すことで、異なる閾値を用いた場合の判定結果の比較を通して、より良い閾値を探索することができる。このように、閾値の妥当性を、事後的に検証することで、適切な閾値を用いて、以後の操業における溶解完了の判定を行えるようになり、アーク炉5における溶解状態の判定が、効果的に補助される。金属材料Mの溶解を繰り返さずに、閾値の妥当性を検証できることで、検証を定量的に行うことができるとともに、検証のために作業者が要する時間および労力を低減することができる。閾値の妥当性に関する検証を、短期間、低労力で、かつ定量的に行えることで、その検証結果を、実際の操業に敏速に反映させることができ、操業条件が頻繁に変更されるような場合でも、それぞれの操業条件に応じて適切な閾値を設定し、溶解完了の判定を行うことが可能となる。
本実施形態にかかる補助装置1は、シミュレーション手段21を備えた演算部20に加え、各種情報処理手段を備えた支援部10を有することで、シミュレーション手段21に対するデータの出入力、およびシミュレーションの結果の確認において、作業者を支援し、作業者の負担を軽減することができる。まず、データ採取手段11が、判定・記憶装置6に蓄積された多数の評価データを、採取し、シミュレーション手段21によるシミュレーションが可能な形態に変換するとともに、出力選択手段12および出力手段13を介して作業者が認識および選択可能な形態で出力すること、また、データ入力手段14が、作業者に選択された評価データをシミュレーション手段21に入力することにより、評価データの採取および形式変換、また取捨選択に要する、作業者の労力と時間が軽減される。さらに、出力手段13が、シミュレーション結果および評価データと閾値との関係性を、グラフや表として出力することで、シミュレーション結果の評価に要する作業者の労力を軽減するとともに、シミュレーション結果の直感的な理解および評価を助ける。そして、パラメータ入力手段15により、シミュレーションに適用するパラメータを作業者が指定できることにより、多様なパラメータでのシミュレーションを、容易に実行することが可能となっている。
本実施形態においては、同一の評価データに複数の閾値を適用してシミュレーションを行う際、また複数の評価データに対して閾値の検証を行う際に、シミュレーションごとに判定の結果の良否を評価する工程や、それらの評価結果を俯瞰して最適な閾値を決定する工程を、作業者によるシミュレーション結果の目視確認と判断によって行う形態を、主に想定している。しかし、シミュレーションに適用する閾値を段階的に変化させ、それらの閾値を用いた判定結果を相互に比較する工程を、補助装置1の情報処理機能を利用して、自動的、または半自動的に行わせるように構成してもよい。
また、以上では、音周波数データと電気高調波データの両方を、評価データとして溶解完了に関する判定に用いることを想定し、両方のデータについて、また音閾値と電気閾値の両方の閾値について、補助装置1を構成する各情報処理手段における処理を行っている。しかし、音周波数データと電気高調波データのいずれか少なくとも一方を評価データとして採用すればよく、採用された方に適用される閾値について、各情報処理手段における処理を行えばよい。つまり、評価データのうち、アーク炉5における判定に用いられたデータとともに、2種の閾値のうち、判定に用いられた方の閾値を、データ採取手段11によって評価データとして採取して、データ入力手段14によってシミュレーション手段21に入力する。そして、シミュレーション手段21が、その入力された評価データおよび閾値を用いてシミュレーションを行い、出力手段13が、シミュレーションに用いられた評価データと閾値との関係性を、シミュレーション結果とともに出力する。さらに、パラメータ入力手段15を用いて、2種の閾値のうち少なくとも一方の値を変化させながら、シミュレーションを繰り返し行うことができる。
[データ種の選択と閾値の決定]
最後に、本実施形態にかかる溶解判定補助装置1を用いて、溶解完了に関する判定に使用するデータ種の選択と、選択したデータ種に適用すべき閾値の決定を行う方法の具体例について、説明する。
図5に、データ種と閾値の決定にかかる各工程を、フロー図として示す。ここで示されている各ステップは、ステップS1~S10のデータ種決定工程と、ステップS11~S13の閾値決定工程よりなる。ここでは、評価データとして、音周波数データと電気高調波データの両方が、データ採取手段11によって採取された評価データに含まれているとする。
ステップS0において、補助装置1のデータ採取手段11によって採取されたある評価データが、出力手段13によって、ディスプレイ装置31に表示された状態から、データ種決定工程が開始される。この際、ディスプレイ装置31には、音周波数データとして、図6(a)のように、代表的な周波数解析グラフを表示するとともに、それぞれ図6(b)~(d)のように、領域I~IIIにおける信号強度(領域内の最大値)の時間変化が表示されるようにしておく。
そして、ステップS1において、作業者が、音周波数データを、金属材料Mの溶解完了に関する判定に利用するかどうかを決定する。決定に際し作業者は、例えば、ステップS0でディスプレイ装置31に表示された図6(a)のようなデータを見て、音周波数データが判定に堪えるものであるかを、決定の根拠とすることができる。あるいは、上記のように、音周波数データにおける高調波ピークの成長は、金属材料Mの溶解が比較的よく進行してから観測されるため、溶解完了に関する判定を溶解工程の比較的後期に行いたい場合には、音周波数データを利用すると決定し、比較的早期に行いたい場合には、音周波数データを利用しないと決定すればよい。
音周波数データを判定に利用すると決定した場合には(ステップS1においてYes)、次に、ステップS2~S4で、作業者が、音周波数データが実際に判定に利用可能であるかどうかを検査する。まず、ステップS2で、領域Iの挙動が、判定に利用可能なものとなっているかを、検査する。図6(b)に示すように、領域Iの信号強度が、溶解工程における全時間領域において、レベルaを上回る挙動が得られているかを確認する。ここで、レベルaは、後述するように、領域IIおよび領域IIIで強度低下後の信号強度を示すレベルcおよびレベルeよりも、高い信号強度に設定される。発明者らの経験より、金属材料Mの溶解工程の初期から終盤まで、領域Iの信号強度は、高い水準を維持する場合が多いが、アーク炉5の具体的な構成等により、領域Iの信号強度が、溶解の初期には低く、溶解が進行すると高くなる、という挙動が見られる場合には、ステップS2における判定基準を、溶解工程の途中でレベルaを上回る挙動が得られているかどうか、としてもよい。なお、領域Iの信号強度が、金属材料Mの状態によらず、高いレベルを維持する場合も多く、その場合には、ステップS2の判定結果がNoとはなることは稀であるので、ステップS2を省略して、ステップS1の後に直接ステップS3を実行することが好ましい。
ステップS2で、領域Iにおいて、溶解工程における全時間領域で、信号強度がレベルaを上回る挙動(あるいは溶解工程の途中でレベルaを上回る挙動)が確認された場合には(ステップS2でYes)、ステップS3に遷移し、領域IIにおける信号強度の挙動を検査する。具体的には、図6(c)に示すように、溶解の初期には、高い音信号レベル(レベルb)を維持した後、ある段階で、信号強度が低い音信号レベル(レベルc)に低下する、という挙動が見られるかどうかを確認する。そのような挙動が見られる場合には(ステップS3でYes)、ステップS4に遷移する。
ステップS4では、ステップS3で領域IIに対して行ったのと同様に、領域IIIにおける信号強度の挙動を検査する。具体的には、図6(d)に示すように、溶解の初期には、高い音信号レベル(レベルd)を維持した後、ある段階で、信号強度が低い音信号レベル(レベルe)に低下する、という挙動が見られるかどうかを確認する。そのような挙動が見られる場合には(ステップS4でYes)、ステップS5に遷移する。ここで、領域IIIの検査に利用するレベルd,eの値は、ステップS4で領域IIの検査に利用されたレベルb,cの値と、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
図5のフローにおいて、ステップS5に到達したということは、音周波数データにおいて、溶解工程の後期に高周波ピークが成長するという挙動が明瞭に現れていることを意味しており、この場合には、音周波数データを、金属材料Mの溶解完了に関する判定に好適に用いうると判定できる。例えば、音周波数データがアーク炉5において取得された際に、電極52の周囲の溶鋼の量が多い、あるいは次に装入すべき金属材料Mの嵩が大きい等の理由により、溶解工程の終期近くまで、溶解と音周波数データの取得が継続された場合には、明瞭なピークの成長が観測される段階まで継続して、音周波数データが取得されており、同条件での溶解工程において、音周波数データを好適に溶解完了の判定に利用することができると、判断できる。そのように、音周波数データを判定に利用することが決定された場合には、ステップS5で、電気高調波データを溶解完了に関する判定に併用するかどうかを、決定する。
ステップS5では、まず、作業者が、電気高調波データを金属材料Mの溶解完了に関する判定に利用するかどうかを判断する。上記のように、電気高調波データは、金属材料Mの溶解が終期にあることを比較的早い時期に反映するものであり、そのような早期の判定の必要性があるかどうか等に基づいて、電気高調波データを判定に用いるかどうかを、判断すればよい。
さらに、作業者が電気高調波データを判定に用いると判断した場合には、ディスプレイ装置31に表示された電気高調波データに対して、実際に電気高調波データを判定に利用可能かどうかの検査を行う。具体的には、図7に示すように、溶解の初期には、高い電気信号レベル(レベルf)を維持した後、ある段階で、信号強度が低い電気信号レベル(レベルg)に低下する、という挙動が見られるかどうかを確認する。そのような挙動が見られる場合には(ステップS5でYes)、電気高調波データを判定に利用可能であると判断し、ステップS8に遷移する。
ステップS8まで到達した場合には、溶解完了に関する判定に、音周波数データと電気高調波データがともに用いられることが、決定されたことになる。この場合には、ステップS12に進み、閾値決定工程として、音周波数データに適用する音閾値T1~T3と、電気高調波データに適用する電気閾値T4の値を決定する。
具体的には、音周波数データにおいて、領域Iを規定する閾値T1は、ステップS2での検査に用いたレベルa以下の値として、決定すればよい。なお、ステップS2での判定基準として、全時間領域においてレベルaを上回る挙動が得られているか否かではなく、溶解工程の途中でレベルaを上回る挙動が得られているか否かを採用した場合には、閾値T1は、初期の低い信号強度のレベルと、レベルaとの間に、閾値T1を設定すればよい。また、閾値T1は、領域II,IIIに適用されるレベルc,eを上回る値とすることが好ましい。領域IIを規定する閾値T2は、ステップS3での検査に用いたレベルbとレベルcとの間に、設定すればよい。同様に、領域IIIを規定する閾値T3は、ステップS4での検査に用いたレベルdとレベルeとの間に、設定すればよい。電気閾値T4は、ステップS5での検査に用いたレベルfとレベルgとの間に、設定すればよい。
各閾値T1~T4を、レベルa~gのそれぞれによって規定される範囲の中で、具体的にいかなる数値として決定するかは、所望の時期に、適切な溶解完了の判定を行えるように、作業者が選択すればよい。例えば、図2で太線で示した、パラメータ入力手段15を介した作業者による閾値の入力と、シミュレーション手段21によるその閾値を用いた判定のシミュレーション、出力手段13によるシミュレーション結果の出力および出力結果の作業者による確認とを繰り返しながら、最適な閾値を探索すればよい。また、同じ操業条件で金属材料Mの溶解を複数回行って取得した評価データに対して、同様の閾値の探索を繰り返し、それら複数の評価データに対して共通して適用可能な閾値を決定すればよい。
ステップS5で、電気高調波データを、溶解完了に関する判定に利用しない、あるいは溶解完了に関する判定に利用することができないと判定された場合には(ステップS5でNo)、ステップS7に進み、溶解完了に関する判定に、音周波数データのみを利用すると決定する。そして、ステップS11で、閾値決定工程を実施し、音周波数データに適用する音閾値T1~T3の値を決定する。閾値T1~T3の決定は、ステップS12について説明したのと同様の方法で行えばよい。
なお、電気高調波データにおける信号強度の低下の方が、音周波数データにおけるピークの成長よりも早期に起こることから、音周波数データが溶解完了に関する判定に利用できる場合に(ステップS2~S4でYes)、電気高調波データにも、溶解完了を示す信号強度低下の挙動が現れる場合が大半である。そのため、電気高調波データを溶解完了の判定に用いないことを積極的に選択する可能性が想定されない場合等には、ステップS5における電気高調波信号の利用の要否および可否に関する判定を省略し、電気高調波データは常に判定に利用するとして、ステップS4から直接ステップS8に遷移し、ステップS12で音閾値T1~T3および電気閾値T4を決定するフローとしてもよい。この場合には、ステップS7,S11は、フロー図から除外される。
ステップS1で、音周波数データを溶解完了の判定に用いない、あるいは用いることができないと判定した場合には、ステップS6に進む。また、ステップS2~S4のいずれかで、Noと判定された場合、つまり、音周波数データの領域I~IIIにおける挙動を検査した際に、いずれかの領域で、所定の挙動が得られなかった場合にも、ステップS6に進む。ステップS6では、電気高調波信号を、溶解完了に関する判定に用いることができるかを、判定する。例えば、音周波数データがアーク炉5において取得された際に、電極52の周囲の溶鋼の量が少ない、あるいは次に装入すべき金属材料Mの嵩が小さい等の理由により、溶解工程が比較的早期に終了された場合には、明瞭な高調波ピークの成長が観測されるまで音周波数データの取得が継続されておらず、同条件での溶解工程において、音周波数データを好適に溶解完了に関する判定に利用することができず、ステップS2~S4のいずれかで、Noと判定されている可能性が高い。
ステップS6においては、ステップS5と同様に、電気高調波データにおいて、溶解の初期には、高い電気信号レベル(レベルf)を維持した後、ある段階で、信号強度が低い電気信号レベル(レベルg)に低下する、という挙動が見られるかどうかを確認する。そのような挙動が見られる場合には(ステップS6でYes)、電気高調波データを判定に利用可能であると判断し、ステップS9に遷移する。
ステップS9まで進んだことにより、溶解完了に関する判定に、電気高調波データのみを利用することが、決定されたことになる。そして、ステップS13に進んで、閾値決定工程を実施し、電気高調波データに適用する電気閾値T4の値を決定する。閾値T4は、ステップS12について説明したのと同様の方法で、レベルfとレベルgの間に設定すればよい。
ステップS6で、電気高調波データに所定の挙動が見られなかった場合には(ステップS6でNo)、音周波数データも電気高調波データも、溶解完了に関する判定に使用できないことになるので、ステップS10で、金属材料Mの溶解完了に関する判定を行うことが不可能であると判定する。この場合には、ステップS10に至るまでの各判定ステップを見直し、音周波数データまたは電気高調波データを溶解完了に関する判定に用いることができる余地がないかを、検討すればよい。例えば、ステップS1で音周波数データを判定に用いないと判断している場合に、再度、音周波数データを判定に利用する余地がないかを、検討することができる。あるいは、アーク炉5や判定・記憶装置6の構成部材に何らかの不具合が存在しないかを、点検すればよい。
なお、図5に示したフロー図では、音周波数データについて、ステップS2~S4において、領域I~IIIのいずれか1つでも所定の挙動を満たしていないと、音周波数データを溶解完了に関する判定に利用できないと判断して、ステップS6に進むようにしているが、いずれか1つの領域、あるいは2つの領域について、所定の挙動を満たしていれば、音周波数データを溶解完了に関する判定に利できると判断して、ステップS5に進むようにしてもよい。例えば、ステップS3の領域IIに対する検査と、ステップS4の領域IIIに対する検査で、いずれか一方でも、所定の挙動が満たされていれば、音周波数データを溶解完了に関する判定に利用できると判断して、ステップS5に進む形態が考えられる。この場合には、領域II,IIIのうち、所定の挙動が満たされた方についてのみ、ステップS11またはステップS12で閾値を設定し、判定・記憶装置6の判定手段63において、閾値との比較による判定の対象とすればよい。
以上の各ステップを実行することで、アーク炉5において、音周波数データと電気高調波データのいずれのデータ種を、金属材料Mの溶解の判定に利用すべきかが、選択される。また、選択されたデータ種に対して、判定に適用すべき具体的な閾値が設定される。その後、選択したデータ種と、設定した閾値の情報を、判定・記憶装置6の判定手段63に入力し、以降、同じ操業条件で金属材料Mの溶解を行う際の溶解完了に関する判定を、そのデータ種に対して、またその閾値に基づいて、行えばよい。上では説明を省略したが、閾値と評価データの比較を行うための音判定時間および電気判定時間も、閾値と同様に、適切に溶解完了の判定が行えるように、補助装置1を用いた検証を通じて設定してもよい。
ここで説明したデータ種決定工程および閾値決定工程においては、補助装置1のシミュレーション手段21による判定のシミュレーションを利用しながら、また出力手段13による判定結果等の出力を参照しながら、作業者が、各ステップを実行している。しかし、補助装置1が、作業者による各ステップの実行を補助することもできる。例えば、ディスプレイ装置31に図5のようなフロー図を表示し、判断が必要なステップでの判断結果を作業者が入力することで、次に実行すべきステップを、ハイライト表示等により、作業者に案内するように構成してもよい。あるいは、各ステップにおける判断自体、例えば、ステップS2~S6における各レベルa~gの設定および信号強度との比較や、ステップS11~S13における閾値の設定を、補助手段の情報処理機能によって、自動的、または半自動的に実行するように構成してもよい。さらに、閾値を段階的に変化させながら、最適な閾値を探索する工程を、補助装置1によって自動的に行いうることは、上記で説明したとおりである。
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。