図1は本発明に係る画像処理方法の実行主体として好適な画像処理装置の構成例を示す図である。この画像処理装置1は、液体中に担持された試料、例えば培養液中で培養された胚(受精卵)を断層撮像し、得られた断層画像を画像処理して、試料の一の断面の構造を示す断面画像を作成する。また、複数の断面画像から試料の立体像を作成する。以下の各図における方向を統一的に示すために、図1に示すようにXYZ直交座標軸を設定する。ここでXY平面が水平面を表す。また、Z軸が鉛直軸を表し、より詳しくは(-Z)方向が鉛直下向き方向を表している。
画像処理装置1は保持部10を備えている。保持部10は、撮像対象物となる試料Sを収容する試料容器11を水平姿勢に保持する。試料容器11は例えばディッシュと称される平底で浅皿形状の容器である。あるいは例えば、試料容器11は板状部材の上面に液体を担持可能な窪部(ウェル)Wが多数形成されたウェルプレートである。試料容器11には培養液などの培地Mが注入されており、その内部に試料Sが担持される。
保持部10に保持された試料容器11の下方に、撮像部20が配置される。撮像部20には、被撮像物の断層画像を非接触、非破壊(非侵襲)で撮像することが可能な光干渉断層撮像(Optical Coherence Tomography;OCT)装置が用いられる。詳しくは後述するが、OCT装置である撮像部20は、被撮像物への照明光を発生する光源21と、光ファイバカプラ22と、物体光学系23と、参照光学系24と、分光器25と、光検出器26とを備えている。
撮像部20はさらに、光学顕微鏡撮像を行うための顕微鏡撮像ユニット28を備えている。より具体的には、顕微鏡撮像ユニット28は、撮像光学系281と、撮像素子282とを備えている。撮像光学系281は、焦点が試料容器11内の試料Sに合わせられる対物レンズを含む。また撮像素子282としては、例えばCCD撮像素子、CMOSセンサー等を用いることができる。顕微鏡撮像ユニット28としては、明視野撮像または位相差撮像が可能なものが好適である。物体光学系23と顕微鏡撮像ユニット28とは、水平方向に移動可能な支持部材(図示省略)により支持されており、水平方向における位置を変更可能となっている。
画像処理装置1はさらに、装置の動作を制御する制御ユニット30と、撮像ユニット20の可動部を駆動する駆動部40とを備えている。制御ユニット30は、CPU(Central Processing Unit)31、A/Dコンバータ32、信号処理部33、撮像制御部34、インターフェース(IF)部35、画像メモリ36およびメモリ37を備えている。
CPU31は、所定の制御プログラムを実行することで装置全体の動作を司り、CPU31が実行する制御プログラムや処理中に生成したデータはメモリ37に保存される。A/Dコンバータ32は、撮像ユニット20の光検出器26および撮像素子282から受光光量に応じて出力される信号をデジタルデータに変換する。信号処理部33は、A/Dコンバータ32から出力されるデジタルデータに基づき後述する信号処理を行って、被撮像物の画像を作成する。こうして作成された画像データは、画像メモリ36により適宜記憶保存される。
撮像制御部34は、撮像部20の各部を制御して撮像処理を実行させる。具体的には、撮像制御部34は、OCT撮像用の物体光学系23と光学顕微鏡撮像用の顕微鏡撮像ユニット28とを選択的に、撮像試料Sを撮像視野に収める所定の撮像位置に位置決めする。物体光学系23が撮像位置に位置決めされると、撮像制御部34は、撮像部20に後述するOCT撮像処理を実行させて、試料Sの立体構造を表す三次元画像データを取得させる。一方、顕微鏡撮像ユニット28を撮像位置に位置決めしたときには、撮像制御部34は、撮像光学系281により撮像素子282の受光面に結像される試料Sの平面像を表す二次元画像データを、光学撮像ユニット28に取得させる。
インターフェース部35は画像処理装置1と外部との通信を担う。具体的には、インターフェース部35は、外部機器と通信を行うための通信機能と、ユーザからの操作入力を受け付け、また各種の情報をユーザに報知するためのユーザインターフェース機能とを有する。この目的のために、インターフェース部35には、装置の機能選択や動作条件設定などに関する操作入力を受け付け可能な例えばキーボード、マウス、タッチパネルなどの入力デバイス351と、信号処理部33により作成された断層画像や3D復元部34により作成された立体像など各種の処理結果を表示する例えば液晶ディスプレイからなる表示部352とが接続されている。
撮像部20では、例えば発光ダイオードまたはスーパールミネッセントダイオード(SLD)などの発光素子を有する光源21から、広帯域の波長成分を含む低コヒーレンス光ビームが出射される。細胞等の試料を撮像する目的においては、入射光を試料の内部まで到達させるために、例えば近赤外線が用いられることが好ましい。
光源21は光ファイバカプラ22を構成する光ファイバの1つである光ファイバ221に接続されており、光源21から出射される低コヒーレンス光は、光ファイバカプラ22により2つの光ファイバ222,224への光に分岐される。光ファイバ222は物体系光路を構成する。より具体的には、光ファイバ222の端部から出射される光は物体光学系23に入射する。
物体光学系23は、コリメータレンズ231と対物レンズ232とを備えている。光ファイバ222の端部から出射される光はコリメータレンズ231を介して対物レンズ232に入射する。対物レンズ232は、光源21からの光(観察光)を試料に収束させる機能と、試料から出射される反射光を集光して光ファイバカプラ22に向かわせる機能とを有する。図では単一の対物レンズ232が記載されているが、複数の光学素子が組み合わされていてもよい。被撮像物からの反射光は対物レンズ232、コリメータレンズ231を介し信号光として光ファイバ222に入射する。対物レンズ232の光軸は試料容器11の底面に直交しており、この例では光軸方向は鉛直軸方向と一致している。
CPU31が撮像制御部34に制御指令を与え、これに応じて撮像制御部34は撮像部20に所定方向への移動を行わせる。より具体的には、撮像制御部34は、撮像部20を水平方向(XY方向)および鉛直方向(Z方向)に移動させる。撮像部20の水平方向の移動により、撮像範囲が水平方向に変化する。また、撮像部20の鉛直方向の移動により、対物レンズ232の光軸方向における焦点位置が、被撮像物である試料Sに対して変化する。
光源21から光ファイバカプラ22に入射した光の一部は光ファイバ224を介して参照光学系24に入射する。参照光学系24は、コリメータレンズ241および参照ミラー243を備えており、これらが光ファイバ224とともに参照系光路を構成する。具体的には、光ファイバ224の端部から出射される光がコリメータレンズ241を介して参照ミラー243に入射する。参照ミラー243により反射された光は参照光として光ファイバ224に入射する。
参照ミラー243は、撮像制御部34からの制御指令によって作動する進退部材(図示省略)により支持されて、Y方向に進退移動可能である。参照ミラー243がY方向、つまりコリメータレンズ241に対し接近および離間方向に移動することで、参照ミラー243により反射される参照光の光路長が調整される。
試料の表面もしくは内部の反射面で反射された反射光(信号光)と、参照ミラー243で反射された参照光とは光ファイバカプラ22で混合され光ファイバ226を介して光検出器26に入射する。このとき、信号光と参照光との間で位相差に起因する干渉が生じるが、干渉光の分光スペクトルは反射面の深さにより異なる。つまり、干渉光の分光スペクトルは被撮像物の深さ方向の情報を有している。したがって、干渉光を波長ごとに分光して光量を検出し、検出された干渉信号をフーリエ変換することにより、被撮像物の深さ方向における反射光強度分布を求めることができる。このような原理に基づくOCT撮像技術は、フーリエドメイン(Fourier Domain)OCT(FD-OCT)と称される。
この実施形態の撮像部20は、光ファイバ226から光検出器26に至る干渉光の光路上に分光器25が設けられている。分光器25としては、例えばプリズムを利用したもの、回折格子を利用したもの等を用いることができる。干渉光は分光器25により波長成分ごとに分光されて光検出器26に受光される。
光検出器26が検出した干渉光に応じて光検出器26から出力される干渉信号をフーリエ変換することで、試料のうち、照明光の入射位置における深さ方向、つまりZ方向の反射光強度分布が求められる。試料容器11に入射する光ビームをX方向に走査することで、XZ平面と平行な平面における反射光強度分布が求められ、その結果から当該平面を断面とする試料の断層画像を作成することができる。その原理は周知であるため、詳細な説明は省略する。
また、Y方向におけるビーム入射位置を多段階に変更しながら、その都度断層画像の撮像を行うことで、試料をXZ平面と平行な断面で断層撮像した多数の断層画像を得ることができる。Y方向の走査ピッチを小さくすれば、試料の立体構造を把握するのに十分な分解能の画像データを得ることができる。これらの断層画像データから、試料の立体像に対応する三次元画像データ(いわゆるボクセルデータ)を作成することができる。
このように、この画像処理装置1は、試料容器11に培地Mとともに担持された試料Sの画像を取得する機能を有する。画像としては、光学顕微鏡撮像により得られる二次元画像データと、OCT撮像により得られる断層画像データおよびそれに基づく三次元画像データとを取得可能である。
以下、上記のように構成された画像処理装置1を用いて実行可能な、本発明に係る画像処理方法の一実施形態について説明する。この実施形態における画像処理は、試料Sとして胚盤胞期の受精卵(以下、単に「胚」という)を撮像し、その画像から、当該胚を構成する主たる構造体である透明帯、栄養外胚葉および内細胞塊に対応する領域を個別に抽出する、という内容を有するものである。
これにより得られたデータに基づき、ユーザ(具体的には医師または胚培養士)による胚の評価作業を効果的に支援することが可能となる。例えば不妊治療を目的とする胚の培養において、培養が良好に進行しているか否かを判断するための知見を得ることを目的として、本実施形態の画像処理方法を適用することができる。
図2は本実施形態において試料となる胚の構造を模式的に示す図である。既に知られているように、卵子が受精すると卵割が開始され、桑実胚と呼ばれる状態を経て胚盤胞が形成される。図2は胚盤胞期における胚の内部構造を模式的に示すものである。胚盤胞期においては、胚Eは内部に胞胚腔Bとよばれる空洞を有している。より具体的には、卵割の進んだ細胞が胚の表面に薄い層として並び栄養外胚葉Tを形成し、栄養外胚葉Tで囲まれる内部空間が胞胚腔Bを形成する。また、内部空間の一部に、多数の細胞が密集した内細胞塊Iが形成される。
さらに、栄養外胚葉Tの外側表面を覆うように透明帯ZPが形成される。透明帯ZPは糖タンパク質を主体とする略均一な厚みを有する膜である。一方、多数の細胞が集まって形成される栄養外胚葉Tは、位置により様々な厚みを有し、透明帯ZPの内側表面全体に貼り付くように分布している。なお、図2においては、栄養外胚葉Tの厚さのばらつきが実際よりも強調されている。
胚Eを構成するこれらの構造体、すなわち透明帯ZP、栄養外胚葉Tおよび内細胞塊Iは、胚の評価における着目領域として重要な意味を有するものである。このため、撮像された画像からこれらの構造体に対応する領域を自動的に抽出する技術は、ユーザによる胚の評価作業を支援する上で大きな意義を有するものとなる。しかしながら、OCT撮像により得られる断層画像あるいは三次元画像では、これらの構造体の間で輝度情報にほとんど差異がない。このため、単純な輝度の違いによる分離では、これらの構造体を精度よく分離することが困難である。
このように、OCT画像から透明帯ZP、栄養外胚葉Tおよび内細胞塊Iを自動的に分離する技術は、これまで確立されていなかった。本願出願人が先に開示した特許文献2は、このような問題に鑑み、OCT画像から栄養外胚葉と内細胞塊とに対応する領域を分離することができるようにしたものである。ただし、この技術においても、透明帯と栄養外胚葉とが明確に分離されているとは言えなかった。具体的には、この技術により栄養外胚葉として抽出される領域が、透明帯に対応する領域まで包含している可能性がある。
本実施形態における画像処理は、光学顕微鏡撮像により得られた二次元画像から得られる情報を利用してOCT画像を解析することにより、透明帯と栄養外胚葉とを分離しようとするものである。まず、その原理について説明し、次いで具体的な処理内容について説明する。
光学顕微鏡撮像により得られる明視野画像または位相差画像においては、その輝度およびテクスチャの違いから透明帯と栄養外胚葉とを区別することは比較的容易である。そして、良好に培養された胚盤胞期の胚では、透明帯は概ね均一な厚みを有している。言い換えれば、胚のうち、その表面から一定の深さまでの領域は透明帯が占めていると考えることができる。これらのことから、光学顕微鏡撮像により得られた二次元画像データから透明帯ZPの厚さを特定し、OCT撮像により得られた三次元画像データから、胚Eの表面から見て透明帯ZPの厚さに相当する深さまでの領域を特定することで、透明帯ZPに対応する領域を栄養外胚葉Tとは分離して抽出することが可能である。
図3は本実施形態における画像処理を示すフローチャートである。この処理は、CPU31が予め用意された制御プログラムを実行し、装置各部に所定の動作を行わせることにより実現される。評価対象となる胚が収容された試料容器11が保持部10にセットされると(ステップS101)、当該胚を撮像対象物として、撮像部20による光学顕微鏡撮像およびOCT撮像が実行される。
図3において、ステップS102ないしS105は、光学顕微鏡撮像およびこれにより得られる二次元画像データを用いたデータ処理を表す。一方、ステップS111およびS112は、OCT撮像およびこれにより得られる三次元画像データを用いた画像処理を表す。これら2つの処理は、時系列的に前後して行われてもよく、この場合いずれの処理を先に行うかは任意である。また、これらの処理を併行して行うことで処理時間の短縮が図られてもよい。
まずステップS102ないしS105の処理の概要について説明する。この処理では、胚を光学顕微鏡撮像することで胚の二次元画像データを取得し、画像データに基づき透明帯の厚さを算出する。具体的には、顕微鏡撮像ユニット28が撮像位置に位置決めされ、焦点位置が深さ方向(Z方向)に多段階に変更設定されるとともにその都度撮像が行われる。これにより、焦点深さを互いに異ならせた複数の画像セット、いわゆるZスタック画像が取得される(ステップS102)。
これらの画像の各々から、透明帯ZPに対応する領域が抽出される(ステップS103)。そして、複数の画像のうち、透明帯ZPに最もよく合焦した1枚が選出され(ステップS104)、選出された画像に基づき、透明帯ZPの厚さが算出される(ステップS105)。これらの処理、すなわち透明帯ZPに対応する領域を抽出する処理(ステップS103)、最も合焦した画像を選出する処理(ステップS104)および透明帯ZPの厚さを算出する処理(ステップS105)の詳細については後述する。ここまでの処理により、評価対象の胚Eにおける透明帯ZPの厚さが既知となっている。
一方、ステップS111では、物体光学系23が撮像位置に位置決めされ、撮像位置を走査させながら胚Eが断層撮像されることにより、胚Eの三次元画像データが取得される。三次元画像データで示される各部の輝度が所定の閾値で二値化されることにより、胚Eの三次元像は、比較的高密度な何らかの構造体で占められて高輝度となる領域(以下、「構造領域」と称する)と、これより低密度で低輝度の領域とに分離される。例えば培地MはOCT画像において低輝度である。
構造領域を占める構造体としては、前述の通り、透明帯ZP、栄養外胚葉Tおよび内細胞塊Iを含み得る。ステップS113、S114ではこれらが相互に分離される。具体的には、ステップS113において、透明帯ZPに対応する領域が他の構造領域とは分離される。そして、ステップS114において、栄養外胚葉Tと内細胞塊Iとが分離される。
以下では、上記処理の各工程(ステップS103~S105、S111)を実行するための各要素技術について順に分説する。なお、ステップS102のZスタック画像を取得するための処理は周知であるため、説明を省略する。また、ステップS114の処理についても、特許文献2に記載された技術を適用可能であるため説明を省略する。
ステップS103では、胚Eを光学顕微鏡撮像して得られた二次元画像データから、透明帯ZPに対応する領域が抽出される。この処理は適宜の画像処理技術を用いて実行することが可能である。例えば、画像内から特定の特徴を有する領域を抽出するパターン認識技術を適用することができる。具体的には、予め取得された透明帯の画像を教師画像とする教師付き学習により分類モデルを構築し、これを用いて評価対象の胚Eの光学顕微鏡画像を領域分割することにより、画像から透明帯ZPに対応する領域を抽出することができる。
この実施形態では、領域分割処理の一例として公知のセマンティックセグメンテーション法を用いる。セマンティックセグメンテーション法は、ディープラーニングアルゴリズムにより予め構築された分類モデルを用いて、画像内の各画素にラベル付けを行う技術である。本実施形態では、次のようにしてこの方法を利用することができる。
まず、透明帯が良好な画像品質で撮像された胚の光学顕微鏡画像を用意し、当該画像中の透明帯に対応する領域の各画素に、その旨を表すラベル付けを行う。そして、元の顕微鏡画像を入力データ、ラベル画像を正解データとしてディープラーニングを実行することで、分類モデルが構築される。こうして予め構築された分類モデルに未知の画像を入力データとして与えることで、当該画像のうち透明帯に対応する領域にその旨のラベルが付された出力画像を得ることができる。このような領域を出力画像から抽出することで、結果的に透明帯を抽出することが可能である。
図4は分類モデルを構築するための具体的手法の一例を示すフローチャートである。この処理は、画像を表示する機能およびユーザからの操作入力を受け付ける機能を有する各種のコンピュータ装置により実行可能である。例えば画像処理装置1、あるいはパーソナルコンピュータ等の汎用コンピュータ装置によって実行することが可能である。
最初に、透明帯に合焦した(ピントが合った)状態で予め撮像された、胚の光学顕微鏡画像を表示する(ステップS201)。画像処理装置1では、表示部352に当該画像を表示させることができる。こうして表示された画像に対し、ピントの合った透明帯に相当する領域を指定するためのユーザからの教示入力を受け付ける(ステップS202)。この場合のユーザは、胚の画像に対する十分な知見を有する熟練者であることが望ましい。また、画像処理装置1が用いられる場合、入力デバイス351を介して教示入力を受け付けることができる。
透明帯として指定された領域にはその旨を示すラベルが付与される(ステップS203)。こうしてラベル付けされた画像を正解データとし、元の画像を入力データとしてディープラーニングを実行することで、画像から透明帯を抽出するための分類モデルが構築される(ステップS204)。必要に応じ、透明帯以外のラベルが用いられてもよい。
この分類モデルは、透明帯にピントの合った画像を入力画像として構築されたものである。そのため、これを未知のテスト画像に適用してセマンティックセグメンテーション法を実行すると、テスト画像から透明帯としての特徴を強く有する領域が抽出されることになる。こうして透明帯が抽出されると、その厚さを求めることが可能となる。厚さを精度よく求めるためには、画像内のできるだけ広い領域で、透明帯に合焦していることが望ましい。すなわち、透明帯の厚さの算出は、セマンティックセグメンテーション法で抽出される領域の面積ができるだけ広い画像に基づき行われることが望ましいと言える。なお面積については画素数によって表すことが可能である。
一方、評価対象の胚Eは立体的構造を有しているため、焦点深さを適宜に定めて撮像した画像では、透明帯ZPへの合焦状態が必ずしも良好でない場合があり得る。そこで、深さ方向(Z方向)に焦点位置を異ならせて取得されたZスタック画像から、透明帯ZPに相当するものとして抽出される領域の面積が最も大きい1つの画像を選出し、この画像を透明帯ZPの厚さ算出に用いる。
ステップS104では、Zスタック画像から透明帯ZPに最も合焦した画像が選出される。この実施形態におけるセマンティックセグメンテーション法では、画像からピントが合った透明帯の領域が抽出されるから、この領域の面積が最大である画像が、透明帯ZPに最も合焦した画像である蓋然性が高いと言える。そのような条件に該当する画像を選出すればよい。
図5は焦点深さと抽出される透明帯の面積との関係を示す図である。図5(a)の上部には、深さ方向における種々の焦点位置で撮像される光学顕微鏡画像(Zスタック画像)と、それらの画像からセマンティックセグメンテーション法により抽出される領域(透明帯ZPに相当する領域)との関係が模式的に示されている。また、図5(a)の下部のグラフは、撮像時の焦点位置と抽出された領域の面積(画素数)との関係が例示されている。これらに示されるように、Zスタック画像のうち最もよく合焦し透明帯ZPが鮮明である画像Iaにおいて、抽出される領域の面積が最大になる。言い換えれば、Zスタック画像のうち抽出された面積が最大である画像に対応する焦点位置を合焦位置とみなすことができる。したがって、この画像Iaを、透明帯ZPの厚さ算出の基となる画像として選出すればよい。
ただし、例えば撮像時の振動等に起因して、画像にブレが生じ、結果として透明帯の見かけ上の面積が実際より大きく画像に現れる場合があり得る。図5(b)はこのような状況を表したものである。例えば画像Ibにおいて、振動に起因する画像のブレが生じているとする。そうすると、透明帯に相当するとして抽出される面積は見かけ上大きくなり、この位置が合焦位置と誤判定されるおそれがある。
この実施形態では、抽出された領域の周縁部を挟む画素の間の輝度差を用いることで、この問題の解消が図られている。すなわち、よく合焦した画像では、透明帯に対応する領域とその周囲領域との境界が明りょうであり、したがってそれらの領域の輝度の間にも明確なコントラストがあると考えられる。一方、合焦していない画像では、これらの領域間の境界が明確でなく、したがってコントラストも鮮明でない。
このことから、単に抽出された領域の面積(画素数)の大小だけで評価するのに代えて、当該領域のエッジ部分における輝度変化の大きさ、すなわちシャープネスも反映させた評価値を導入することで、上記のような誤判定を低減することができると考えられる。このようなエッジ変化量を定量化する方法としては種々のものがあり、それらを適宜選択して適用可能である。
この実施形態ではその一例として、抽出された領域の面積に、エッジ部分における輝度変化の大きさを反映した係数を乗じた値を評価値とする。この係数としては、例えばエッジを挟んだ画素間における輝度の差を二乗した値を用いることができる。より具体的には、抽出された領域のうちエッジに隣接する全ての画素の輝度の平均値と、当該エッジの外側でエッジに隣接する全ての画素の起動の平均値との差を求め、それを二乗することで上記係数が求められる。
このようにすると、図5(b)下部のグラフに示されるように、画像Ibにおけるズレの影響による抽出面積の増大が合焦位置の誤判定の原因となるリスクを低減させることができる。なお、ここでは係数を正の値とするために輝度差を二乗しているが、これに代えて輝度差の絶対値を係数として用いてもよい。
図6は透明帯に合焦した画像を選出するための処理を示すフローチャートであり、この処理内容は、図3のステップS104に相当するものである。Zスタック画像を構成する各画像に対しては、ステップS103において透明帯に相当する領域が抽出されている。こうして抽出された領域の面積を求めるため、当該領域に属する画素の数を画像ごとに計数する(ステップS301)。そして、抽出された領域のエッジの内外においてそれぞれ隣接する画素の平均輝度を求め、その差を算出する(ステップS302)。これらの値に基づき、各画像の合焦度合いを示す評価値を算出する(ステップS303)。具体的には、抽出領域の画素数に、エッジ内外での輝度差の二乗で表される係数を乗じることで、評価値を算出する。こうして求められる評価値が最大の画像が、透明帯に最も合焦した画像として選出される。
次に、Zスタック画像から選出された1つの光学顕微鏡画像から透明帯ZPの厚さを算出する、ステップS105の処理内容について説明する。選出された画像については、ステップS103において透明帯ZPに相当する領域の抽出が行われる。良好に培養された胚Eにおいては、概ね一定の幅を有する円環状の領域が、透明帯ZPに相当する領域として抽出されていると考えられる。透明帯ZPに合焦した画像では、この円環の幅、つまり円環の内側のエッジと外側のエッジとの距離が、透明帯ZPの厚さに対応している。
円環の幅を求める方法としては種々のものが考えられるが、簡便なものとしては、OpenCV(Open Source Computer Vision)ライブラリに装備されているDistance Transform関数を利用した方法がある。円環の内側エッジ上の1つの画素を注目画素としてDistance Transform関数を適用することで、当該画素から最も近い、円環の外側エッジ上の画素までの距離を特定することができる。この距離が当該位置における円環の幅、つまり透明帯ZPの厚さを表す。これとは逆に、円環の外側エッジ上の画素を注目画素とし、これから内側エッジまでの最短距離を求めても等価である。こうして円環上の各位置で求められる幅の平均値を、透明帯ZPの厚さの平均値とすることができる。以下ではこの厚さの平均値を符号Taにより表すこととする。
以上、ステップS103~S105の詳細な処理内容について説明した。次に、ステップS113における、透明帯の分離処理について説明する。ここでは、OCT撮像により得られた胚Eの三次元像のうち、表面から深さTaまでの範囲を透明帯ZPとみなす。したがって、三次元像からこの範囲のみを抽出することで、透明帯ZPに対応する構造体のみを取り出すことができる。一方、この範囲の構造体を消去することで、透明帯ZP以外の構造体、すなわち栄養外胚葉Tと内細胞塊Iとを取り出すことができる。
透明帯ZPに相当する領域が消去された三次元像に対しては、特許文献2に記載されているように、残された構造体に対し例えばLocal Thickness演算を利用した領域分割処理を実行することで、栄養外胚葉Tに相当する領域と、内細胞塊Iに相当する領域とを分離することができる。このようにして、胚Eの三次元像から、透明帯ZP、栄養外胚葉Tおよび内細胞塊Iがそれぞれ占める領域を個別に抽出することができる。
図7は本実施形態における領域分割の様子を模式的に示す図である。ここでは理解を容易にするために胚Eを二次元像として表現しているが、実際にはOCT撮像で得られる三次元像に対する処理である。図7(a)に示すように、胚Eの像の表面Esから厚さTaの範囲に含まれる領域が、透明帯ZPに相当する領域として扱われる。
また、図7(b)に示すように、胚Eの三次元像から透明帯ZPに相当する領域を消去したものに対しLocal Thickness演算を実行したとき、比較的小さな球体の集合体として表される領域が栄養外胚葉T、より大きな球体の集合体として表される領域が内細胞塊Iとして扱われる。この区別は、例えばLocal Thickness演算により生成される内接球の半径に対して適宜の閾値を設定し、閾値より小さな半径を有する球で表される領域を栄養外胚葉T、閾値より大きな半径を有する球で表される領域を内細胞塊Iとすることにより実現可能である。
このようにして分離された各領域をさらに細分化する必要があるときには、特許文献2に記載されたように、分離後の各領域に対し、例えばWatershed法による領域分割を実行するようにしてもよい。
以上のように、この実施形態では、胚盤胞期の胚(受精卵)をOCT撮像して得られる三次元画像データから、胚を構成する構造体のうち透明帯を他の構造体、特にOCT画像では透明帯との輝度の差が生じにくい栄養外胚葉から分離するために、同じ胚を光学顕微鏡撮像して得られる二次元画像データから得られる情報を利用している。具体的には、透明帯と栄養外胚葉との間でテクスチャの差が現れやすい光学顕微鏡画像から透明帯の平均厚さを算出し、三次元像における構造体のうちその表面から平均厚さの範囲内の領域を、透明帯が占める領域とみなす。透明帯の厚さは概ね一様であることを利用し、光学顕微鏡画像から求められた透明帯の厚さの情報を三次元像に反映させて領域の分割が行われる。こうすることで、透明帯と栄養外胚葉とを精度よく分離することができる。
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態の画像処理装置1は、試料SをOCT撮像および光学顕微鏡撮像する機能、ならびに撮像データから出力画像を作成し出力する機能を有するものである。しかしながら、本発明の画像処理方法は、自身は撮像機能を持たず、撮像機能を有する他の装置での撮像により得られた撮像データを取得したコンピュータ装置によって実行することも可能である。これを可能とするために、図3の各処理ステップのうちステップS101以外をコンピュータ装置に実行させるためのソフトウェアプログラムとして、本発明が実施されてもよい。
このようなプログラムの配布は、例えばインターネット等の電気通信回線を介してダウンロードする形式によって行うことが可能であり、また当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を配布することによっても可能である。また、既存のOCT撮像装置にインターフェースを介してこのプログラムを読み込ませることで、当該装置により本発明を実施することも可能となる。
また例えば、上記実施形態では、胚Eの三次元像から透明帯を分離した後、残った構造体をさらに栄養外胚葉と内細胞塊とに分離しているが、本発明の趣旨においては、透明帯を他の構造体と分離することができれば足り、それ以上の分離は必須ではない。また、これらの領域に分離された画像がさらに加工されてもよい。
また例えば、上記実施形態では、OCT撮像により得られた三次元像を二値化することで、比較的高密度な構造体が存在する構造領域とそれ以外の領域とを分離している。このようにすることで、画像中の構造体の位置およびそれが占める範囲を明確化することで、例えば胚の表面の位置を、表面の微細な構造や画像ノイズ等の影響を受けることなく明確に特定することができるという利点がある。しかしながら、このような二値化を行わずに透明帯の分離を実行することも可能である。
また、上記実施形態は、OCT撮像により得られる三次元像から透明帯が占める領域を他の領域とは区別して示すことで、ユーザによる評価作業に有用な情報を提示するものである。ユーザへの情報提示としてはこれに限定されず、三次元像の解析より得られる種々の定量的情報と組み合わせてユーザに提示する態様であってもよい。
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係る画像処理方法においては、透明帯に対応する領域の抽出は、光学顕微鏡撮像された透明帯の画像を教師画像として予め機械学習された分類アルゴリズムを用いて行われてもよい。このような構成によれば、適宜の分類アルゴリズムを用いることで、光学顕微鏡撮像画像から透明帯の形態的特徴を強く有する領域を高い精度で抽出することが可能である。
例えば、分類アルゴリズムとして、セマンティックセグメンテーション法を用いることができる。この方法によれば、画像をその特徴に応じて画素単位で分割することが可能である。このため、顕微鏡画像から透明帯の領域を精度よく抽出し、その厚さを適正に評価することができる。
また例えば、受精卵の光学顕微鏡撮像は焦点深さを異ならせて複数回実行され、それらの画像のうち、透明帯に対応する領域の面積が最大のものから、透明帯の平均厚さが求められてもよい。広い範囲で透明帯が抽出される画像は、透明帯に最も合焦した、つまり透明帯が明りょうな状態で撮像された画像である蓋然性が高い。このような画像を用いることで、透明帯の厚さを精度よく求めることが可能である。
この場合、例えば、分類アルゴリズムを用いて抽出された領域の面積に、当該領域の内部と外部との境界における輝度変化の大きさに基づき定めた係数を乗じた値を、透明帯に対応する領域の面積を指標する値としてもよい。例えば、境界の内部と外部とにおける輝度値の差分の二乗を係数とすることができる。このような構成によれば、撮像時のブレ等によって見かけ上の透明帯の面積が大きくなっている画像を合焦画像と誤判定するリスクを低減させることができる。
また例えば、構造領域のうち、外縁から平均厚さの範囲にある領域を透明帯とみなすようにしてもよい。適切に培養された受精卵では、その表面を覆う透明帯の厚さは概ね均一である。したがって、三次元像における受精卵の外縁から見れば、顕微鏡画像から求められた平均厚さに対応する深さまでの領域が透明帯の占める領域であると言える。
この場合さらに、構造領域のうち透明帯以外の領域を、内細胞塊および栄養外胚葉の領域とみなしてもよい。適切に培養された胚盤胞期の受精卵を構成する主要な構造体は、透明帯、栄養外胚葉および内細胞塊である。したがって、構造領域のうち透明帯以外の領域については、栄養外胚葉および内細胞塊が占めていると考えることができる。
また例えば、三次元画像データから、所定値以上の輝度値を有する画素が占める領域を抽出し、当該領域を構造領域とみなしてもよい。OCT画像では、比較的高密度の構造体において輝度が高く、その周囲の低密度領域は低輝度となる。したがって、ある程度の輝度を有する領域を抽出すれば、その領域は高密度の構造体が占める構造領域である蓋然性が高い。