以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態の高分子材料のシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)は、高分子材料の破壊特性が評価される。
図1は、本発明の高分子材料のシミュレーション方法を実行するコンピュータの一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。また、記憶装置には、本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
本実施形態の高分子材料には、ポリマーとフィラーとが含まれている。なお、高分子材料は、ポリマーのみが含まれるものでもよい。さらに、本実施形態の高分子材料には、ポリマーとフィラーとを結合させるためのカップリング剤が含まれている。
ポリマー、フィラー及びカップリング剤としては、例えば、上記の特許文献1に記載さられたものが適宜採用されうる。本実施形態において、ポリマーとしては、cis-1,4ポリイソプレン(以下、単に「ポリイソプレン」ということがある。)が例示される。フィラーとしては、シリカである場合が例示される。カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤(TESPD)である場合が例示される。
図2は、高分子材料のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、高分子材料に基づいて、数値計算用の高分子材料モデルが、コンピュータ1に入力される(モデル設定工程S1)。図3は、モデル設定工程S1の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態のモデル設定工程S1では、先ず、高分子材料の一部に対応する仮想空間であるセルが、コンピュータ1に定義される(工程S11)。図4は、フィラーモデル6、ポリマーモデル7、及び、カップリング剤モデル8が配置されたセル4の一例を示す概念図である。図4では、ポリマーモデル7及びカップリング剤モデル8が、それぞれ一つのみ表示されている。
セル4は、少なくとも互いに向き合う一対の面5、5、本実施形態では、互いに向き合う三対の面5、5を有しており、直方体又は立方体(本実施形態では、立方体)として定義されている。各面5、5には、周期境界条件が定義されている。セル4の一辺の各長さL1は、例えば、上記の特許文献1の記載に基づいて、適宜設定されうる。セル4は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のモデル設定工程S1では、フィラーをモデリングしたフィラーモデル6が定義される(工程S12)。本実施形態のフィラーモデル6は、上記の特許文献1と同様に、セル4の内部で凝集した複数のフィラー粒子モデル11によって定義されている。本実施形態では、実際の高分子材料の電子線透過画像のフィラーの一次粒子の位置に基づいて、フィラー粒子モデル11が配置されている。これにより、フィラーモデル6は、実際のフィラーの形状を精度よく表現することができる。
図5は、フィラー粒子モデル11の拡大図である。各フィラー粒子モデル11は、複数の小粒子12を含んで構成されている。フィラー粒子モデル11には、隣接する小粒子12、12間の相対位置を固定する拘束条件が定義されてもよいし、隣接する小粒子12、12間を拘束する結合鎖モデル(図示省略)が定義されても良い。小粒子12、12間を拘束する結合鎖モデル(図示省略)は、上記の特許文献1の記載に基づいて、適宜定義されうる。また、フィラー粒子モデル11の外面を構成する小粒子12には、例えば、官能基をモデル化した官能基モデル(図示省略)が設けられてもよい。フィラーモデル6は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のモデル設定工程S1では、図4に示されるように、ポリマーをモデリングしたポリマーモデル7が定義される(工程S13)。本実施形態では、セル4の内部において、フィラーモデル6が配置されてない領域に、少なくとも一つ(例えば、10個~1,000,000個)のポリマーモデル7が配置される。
図6は、ポリマーモデル7の一例を示す概念図である。本実施形態のポリマーモデル7は、ポリマーの分子構造に基づいて、ポリマーを構成する原子の数よりも少ない複数の粗視化粒子15でモデリングしたものである。したがって、ポリマーモデル7は、粗視化分子モデル(本例では、Kremer-Grestモデル)として表現されている。なお、ポリマーモデル7は、Kremer-Grestモデルよりも粗視化度合いが大きいDPD(散逸粒子動力学法)に基づくモデルであってもよい。また、ポリマーモデル7は、ポリマーの実際の構造に基づいた全原子モデル(図示省略)や、ユナイテッドアトムモデル(図示省略)であってもよい。
本実施形態の粗視化粒子15は、ポリマーのモノマー又はモノマーの一部分をなす構造単位を置換したものである。このような粗視化粒子15は、例えば、上記特許文献1の記載に基づいて、適宜設定されうる。隣接する粗視化粒子15、15の間は、結合鎖モデル16で連結されている。
図7は、フィラーモデル6、ポリマーモデル7及びカップリング剤モデル8のポテンシャルの一例を説明する概念図である。結合鎖モデル16は、粗視化粒子15、15間に、伸びきり長が設定されたポテンシャルP1によって定義される。ポテンシャルP1については、適宜定義することができ、例えば、上記の特許文献1の記載に基づいて、LJ(Lennard-Jones)ポテンシャルとFENEポテンシャルとの和で定義されうる。ポリマーモデル7は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のモデル設定工程S1では、図4に示されるように、カップリング剤をモデリングしたカップリング剤モデル8が定義される(工程S14)。本実施形態では、セル4の内部において、フィラーモデル6及びポリマーモデル7が配置されてない領域に、少なくとも一つ(例えば、10個~1000個)のカップリング剤モデル8が配置される。
図7に示されるように、カップリング剤モデル8は、カップリング剤の分子構造に基づいて、カップリング剤を構成する原子の数よりも少ない複数の粗視化粒子19でモデリングしたものである。したがって、カップリング剤モデル8は、粗視化分子モデル(本例では、Kremer-Grestモデル)として表現されている。なお、カップリング剤モデル8は、DPD(散逸粒子動力学法)に基づくモデルであってもよいし、全原子モデル(図示省略)や、ユナイテッドアトムモデル(図示省略)であってもよい。
各粗視化粒子19は、例えば、特許文献1の記載に基づいて、適宜設定することができる。隣接する粗視化粒子19、19の間は、結合鎖モデル20で連結されている。結合鎖モデル20は、粗視化粒子19、19間に伸びきり長が設定されたポテンシャルP2によって定義される。ポテンシャルP2については、適宜定義することができる。ポテンシャルP2は、適宜定義することができ、例えば、上記の特許文献1の記載に基づいて、LJポテンシャルとFENEポテンシャルとの和で定義されうる。カップリング剤モデル8は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のモデル設定工程S1では、隣接するフィラーモデル6、ポリマーモデル7及びカップリング剤モデル8に、ポテンシャルが定義される(工程S15)。本実施形態の工程S15では、図7に示されるように、フィラーモデル6の小粒子12、ポリマーモデル7の粗視化粒子15、及び、カップリング剤モデル8の粗視化粒子19に、下記のポテンシャルP3~P8が定義される。これらのポテンシャルP3~P8は、上記の特許文献1の記載に基づいて、LJポテンシャルで定義されうる。ポテンシャルP3~P8は、コンピュータ1に記憶される。
ポテンシャルP3:フィラーモデル6の小粒子12と
フィラーモデル6の小粒子12との間
ポテンシャルP4:ポリマーモデル7の粗視化粒子15と
ポリマーモデル7の粗視化粒子15との間
ポテンシャルP5:カップリング剤モデル8の粗視化粒子19と
カップリング剤モデル8の粗視化粒子19との間
ポテンシャルP6:フィラーモデル6の小粒子12と
ポリマーモデル7の粗視化粒子15との間
ポテンシャルP7:フィラーモデル6の小粒子12と
カップリング剤モデル8の粗視化粒子19との間
ポテンシャルP8:ポリマーモデル7の粗視化粒子15と
カップリング剤モデル8の粗視化粒子19との間
次に、本実施形態のモデル設定工程S1は、コンピュータ1が、分子動力学計算に基づいて、図4に示したセル4の構造緩和を計算する(工程S16)。本実施形態の分子動力学計算は、例えば、セル4について所定の時間、フィラーモデル6、ポリマーモデル7及びカップリング剤モデル8が古典力学に従うものとして、ニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻でのフィラーモデル6、ポリマーモデル7、及び、カップリング剤モデル8の動きが、シミュレーションの単位時間毎に追跡される。このような分子動力学計算は、上記の特許文献1の記載に基づいて、適宜実施される。
次に、本実施形態のモデル設定工程S1では、コンピュータ1が、カップリング剤モデル8を介して、フィラーモデル6とポリマーモデル7とを連結する(工程S17)。図8は、フィラーモデル6とポリマーモデル7とを連結したカップリング剤モデル8、及び、架橋モデル17で連結された一対のポリマーモデル7、7の一例を示す概念図である。図8では、1つの粗視化粒子19で構成されたカップリング剤モデル8が例示されている。
工程S18では、上記の特許文献1の記載に基づいて、カップリング剤モデル8の粗視化粒子19とフィラーモデル6の小粒子12との間、及び、カップリング剤モデル8の粗視化粒子19とポリマーモデル7の粗視化粒子15との間が連結されている。これらの粒子を結合させる結合鎖モデル23は、伸びきり長が設定されたポテンシャルP9によって定義される。このポテンシャルP9は、例えば、LJポテンシャルとFENEポテンシャルとの和で定義される。
次に、本実施形態のモデル設定工程S1では、隣接するポリマーモデル7を連結する架橋モデル17が定義される(工程S18)。架橋モデル17は、ポリマーモデル7の粗視化粒子15、15間を連結するためのものである。ポテンシャルP10には、例えば、従来と同様に、LJポテンシャルとFENEポテンシャルとの和で定義することができる。
次に、本実施形態のモデル設定工程S1では、コンピュータ1が、分子動力学計算に基づいて、セル4(図5に示す)の構造緩和を再計算する(工程S19)。構造緩和の再計算は、工程S16と同一の処理手順で実施され、カップリング剤モデル8を介して連結されたフィラーモデル6及びポリマーモデル7、並びに、架橋モデル17で連結されたポリマーモデル7が十分に緩和できるまで計算される。これにより、本実施形態のシミュレーション方法では、カップリング反応後、かつ、架橋された高分子材料を再現した高分子材料モデル10を定義することができる。高分子材料モデル10は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、高分子材料モデル10の内部の少なくとも一部に空孔が形成されるように、予め定められた条件に基づいて、高分子材料モデル10の変形を計算する(工程S2)。本実施形態の工程S2では、図4に示されるように、高分子材料モデル10を、予め定められた方向に引っ張る単軸引張試験が計算される。高分子材料モデル10を引っ張る方向については、適宜選択することができ、本例では、z軸方向に引っ張っている。
高分子材料モデル10の変形計算は、例えば、上記の特許文献1及び特許文献(特開2016-81297号公報)に記載された内容の手順に従って行われうる。即ち、本実施形態では、z軸方向において、高分子材料モデル10の一端(図4に示したセル4の一方側の面5a)、及び、高分子材料モデル10の他端(図4に示したセル4の他方側の面5b)が互いに離間するように、高分子材料モデル10の伸長が計算される。
図9(a)は、変形計算前の高分子材料モデル10の一部を示す概念図である。図9(b)は、変形計算後の高分子材料モデル10の一部を示す概念図である。図9(b)では、空孔21が二点鎖線で示されている。
図9(a)に示されるように、変形計算前の高分子材料モデル10には、上述した構造緩和計算(図3に示した工程S16及び工程S19)によって、図9(b)に二点鎖線で示した空孔(ボイド)21が形成されていない。ここで、空孔21とは、高分子材料モデル10のセル4において、フィラーモデル6、ポリマーモデル7及びカップリング剤モデル8が存在しない領域である。
空孔21は、フィラーモデル6、ポリマーモデル7、及び、カップリング剤モデル8の大きさに基づいて適宜定義されうる。本実施形態の空孔21は、フィラーモデル6、ポリマーモデル7、及び、カップリング剤モデル8が存在しない領域のうち、その領域の直径(楕円の場合には、短軸の長さ)L1が、ポリマーモデル7の粗視化粒子15の直径L3以上(即ち、直径L1が直径L3の1倍以上)の領域として定義される。
工程S2では、高分子材料モデル10の伸長計算により、フィラーモデル6、ポリマーモデル7及びカップリング剤モデル8の熱運動が計算される。このような熱運動は、高分子材料モデル10に与えられた歪み、図7及び図8に示した上記ポテンシャルP1~P10、及び、運動方程式に基づいて計算される。これにより、図9(b)に示されるように、セル4には、フィラーモデル6、ポリマーモデル7、及び、カップリング剤モデル8が何も存在しない上述の空孔(ボイド)21が形成される。このような空孔21により、高分子材料モデル10において、高分子材料の破壊が再現される。変形させるための条件としては、高分子材料モデル10の内部に、空孔21を形成することができれば、例えば、上記の特許文献1の記載に基づいて、適宜設定することができる。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、図2に示されるように、コンピュータ1が、空孔21が形成された高分子材料モデル10の内部に、複数の空孔粒子モデルを配置する(工程S3)。図10は、空孔粒子モデル22が配置された高分子材料モデル10の一部分を示す概念図である。図10では、空孔粒子モデル22を区別しやすいように、空孔粒子モデル22が色付けされている。
空孔粒子モデル22は、空孔21を特定するためのものである。したがって、空孔粒子モデル22は、フィラーモデル6、ポリマーモデル7及びカップリング剤モデル8とは異なり、高分子材料に含まれる成分(本例では、ポリマー、フィラー及びカップリング剤等)に基づくものではない。
空孔粒子モデル22については、適宜設定することができる。本実施形態の空孔粒子モデル22は、分子動力学計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。即ち、空孔粒子モデル22は、粗視化粒子15と同様に、例えば、直径、質量、電荷又は初期座標などのパラメータが定義される。
空孔粒子モデル22の直径L2については、上記した空孔21として定義される直径L1(図9(b)に示す)以下であれば、適宜設定することができる。本実施形態の空孔粒子モデル22の直径L2は、ポリマーモデル7の粗視化粒子15の直径L3と同一に設定されている。また、空孔粒子モデル22の質量は、適宜設定することができ、例えば、ポリマーモデル7の粗視化粒子15の質量と同一に設定されている。
空孔粒子モデル22は、ポリマーモデル7とは異なり、他の空孔粒子モデル22と結合鎖モデル等で結合されていない。本実施形態の空孔粒子モデル22には、ポリマーモデル7及びカップリング剤モデル8との重なりが許容される条件が定義されている。工程S3では、高分子材料モデル10の内部において、フィラーモデル6が配置されていない領域に、空孔粒子モデル22がランダムに配置される。このように、フィラーモデルが配置されていない領域に空孔粒子モデル22を配置する理由としては、強固なフィラーモデル6の内部に空孔21が形成されないためである。
空孔粒子モデル22の個数については、適宜設定することができる。本実施形態の空孔粒子モデル22の個数は、空孔21の合計体積を、1つの空孔粒子モデル22の体積で除した値に設定されている。これにより、空孔粒子モデル22の合計体積と、空孔21の合計体積とを同一にすることができる。また、空孔21の合計体積は、図9(b)に示した変形後の高分子材料モデル10(セル4)の体積から、図9(a)に示した変形前の高分子材料モデル10(セル4)の体積を減じることで求められる。空孔粒子モデル22は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、図2及び図10に示されるように、コンピュータ1が、空孔粒子モデル22が空孔21内に集まるような相互作用を、空孔粒子モデル22と高分子材料モデル10との間に定義する(工程S4)。
相互作用については、後述の構造緩和を計算する工程S5において、空孔粒子モデル22が空孔21内に集まることができれば、適宜設定されうる。本実施形態の相互作用には、第1ポテンシャルP11が含まれる。
第1ポテンシャルP11は、一対の空孔粒子モデル22、22間に引力を作用させるためのものである。本実施形態の第1ポテンシャルP11は、LJポテンシャルで定義される。このような第1ポテンシャルP11は、後述の構造緩和の計算において、互いに近づいた空孔粒子モデル22、22に引力を作用させて、空孔粒子モデル22のクラスター(集団)を、空孔21内で形成するのに役立つ。
第1ポテンシャル(LJポテンシャル)P11に定義される各定数は、例えば、論文1( Kurt Kremer & Gary S. Grest 著、「Dynamics of entangled linear polymer melts: A molecular-dynamics simulation」、J. Chem Phys. vol.92, No.8, 15 April 1990、p5057-5086)の記載に基づいて、適宜設定されうる。第1ポテンシャルP11は、コンピュータ1に記憶される。
さらに、本実施形態の相互作用には、第2ポテンシャルP12が含まれる。第2ポテンシャルP12は、空孔粒子モデル22とポリマーモデル7との間に斥力を作用させるためのものである。本実施形態の第2ポテンシャルP12は、空孔粒子モデル22と、ポリマーモデル7の粗視化粒子15との間に設定されている。さらに、本実施形態の第2ポテンシャルP12は、空孔粒子モデル22と、カップリング剤モデル8の粗視化粒子19との間に設定されている。
本実施形態の第2ポテンシャルP12としては、下記式(1)のソフトコアポテンシャルUsoftが定義される。
ここで、定数及び変数は、次のとおりである。
A:斥力の高さ(強度)に対応する定数
r
ij:粗視化粒子間の距離
r
c:カットオフ距離
なお、粗視化粒子間の距離r
ij及びカットオフ距離r
cは、粒子(粒子モデル)の中心間の距離として定義される。
ソフトコアポテンシャルUsoftは、散逸粒子動力学法(DPD)に基づくものである。ソフトコアポテンシャルUsoftでは、距離rijがカットオフ距離rc以上となる場合に、斥力が0となる。一方、距離rijがカットオフ距離rc未満となる場合には、斥力が大きくなる。さらに、距離rijが0に収束しても、斥力は有限値となる。したがって、ソフトコアポテンシャルUsoftは、粒子間の距離が小さくなるほど無限に大きくなるポテンシャルとは異なり、無限大に発散することがない。
上記式(1)の定数Aは、ポテンシャルの高さ(強さ)を調整するためのものである。本実施形態の第2ポテンシャルP12では、上記式(1)の定数Aが、第3ポテンシャルP13に比べて小さく設定されている。これにより、第2ポテンシャルP12は、距離rijが0に収束したときの斥力を小さくすることができ、空孔粒子モデル22とポリマーモデル7(及びカップリング剤モデル8)との重なりが許容されうる。定数Aについては、空孔粒子モデル22とポリマーモデル7(及びカップリング剤モデル8)との重なりが許容されれば、適宜設定されうる。定数Aは、0.5~2.0に設定されるのが望ましい。
第2ポテンシャルP12において、上記式(1)の他の定数及び変数の値は、適宜設定されうる。本実施形態の値は、論文2(Robert D. Groot and Patrick B. Warren 著「Dissipative particle dynamics: Bridging the gap between atomistic and mesoscopic simulation」、J. Chem Phys. vol.107, No.11, 15 September 1997)に基づいて適宜設定される。第2ポテンシャルP12は、コンピュータ1に記憶される。
さらに、本実施形態の相互作用には、第3ポテンシャルP13が含まれる。第3ポテンシャルP13は、空孔粒子モデル22とフィラーモデル6との間に斥力を作用させるためのものである。本実施形態の第3ポテンシャルP13は、空孔粒子モデル22と、フィラーモデル6(フィラー粒子モデル11)の小粒子12との間に設定されている。本実施形態の第3ポテンシャルP13としては、第2ポテンシャルP12と同様に、上記式(1)のソフトコアポテンシャルUsoftが定義される。
本実施形態の第3ポテンシャルP13の上記式(1)の定数Aは、第2ポテンシャルP12の定数Aに比べて大きく設定されている。これにより、第3ポテンシャルP13は、距離rijが0に収束したときの斥力を大きくすることができ、空孔粒子モデル22とフィラーモデル6との重なりを防ぐことができる。したがって、後述の構造緩和を計算する工程S5において、空孔21が形成されないフィラーモデル6の内部に、空孔粒子モデル22が配されるの防ぐことができる。
なお、定数Aについては、空孔粒子モデル22とフィラーモデル6との重なりを防ぐことができれば、適宜設定されうる。定数Aは、50~150に設定されるのが望ましい。第3ポテンシャルP13において、上記式(1)の他の定数及び変数の値は、上記の論文2に基づいて適宜設定されうる。第3ポテンシャルP13は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、相互作用に基づいて、空孔21が形成された高分子材料モデル10と空孔粒子モデル22との構造緩和を計算する(工程S5)。工程S5では、工程S4で定義された相互作用(本例では、第1ポテンシャルP11~第3ポテンシャルP13)に基づいて、分子動力学計算に基づく構造緩和が計算される。分子動力学計算は、上記の特許文献1の記載に基づいて、適宜実施される。図11は、構造緩和計算後の高分子材料モデル10及び空孔粒子モデル22の一例を示す概念図である。
工程S5では、第2ポテンシャルP12(図10に示す)によって、空孔粒子モデル22とポリマーモデル7(及びカップリング剤モデル8)との間に、斥力が作用する。このような斥力により、工程S5では、空孔粒子モデル22を、ポリマーモデル7(カップリング剤モデル8)が配されていない空孔21に移動させることができる。さらに、工程S5では、第3ポテンシャルP13(図10に示す)による空孔粒子モデル22とフィラーモデル6との間に斥力により、空孔粒子モデル22を、フィラーモデル6が配されていない空孔21に移動させることができる。これにより、工程S5では、高分子材料モデル10の空孔21に、空孔粒子モデル22を配置することができる。
工程S5では、高分子材料モデル10の内部でのポリマーモデル7の位置が固定された状態で、構造緩和が計算されるのが望ましい。さらに、工程S5では、高分子材料モデル10の内部でのフィラーモデル6の位置を固定した状態で、構造緩和が計算されるのが望ましい。これにより、工程S5では、工程S2で形成された空孔21の形状を維持しつつ、それらの空孔21に空孔粒子モデル22を配置することができる。
工程S5では、一対の空孔粒子モデル22、22間に定義された第1ポテンシャルP11(図10に示す)による引力により、空孔21に配置された空孔粒子モデル22のクラスター(集団)25が形成される。これにより、工程S5では、空孔21内に配置された空孔粒子モデル22が、空孔21の外に配置されるのを防ぎつつ、空孔粒子モデル22を空孔21内に集合させることができる。高分子材料モデル10と空孔粒子モデル22との構造緩和の計算結果は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、構造緩和後の空孔粒子モデル22の位置情報を取得する(工程S6)。位置情報は、空孔粒子モデル22との構造緩和後の高分子材料モデル10(セル4)において、そのセル4の内部での空孔粒子モデル22の座標値が取得される。
上述したように、空孔粒子モデル22は、空孔21内に配されている。このため、工程S6では、空孔粒子モデル22の位置情報(座標値)によって、高分子材料モデル10(セル4)に形成された空孔21の位置を特定することが可能となる。さらに、空孔粒子モデル22の密度の大きさによって、空孔21の大きさを特定することが可能となる。
このように、本実施形態のシミュレーション方法では、空孔粒子モデル22の位置情報から、高分子材料モデル10の内部に形成された空孔21を特定することができる。したがって、本実施形態のシミュレーション方法では、高分子材料において、破壊(空孔)が発生しやすい箇所や、破壊(空孔)の発生因子等を特定することが可能になり、耐破壊性に優れる高分子材料の開発に役立たせることができる。
さらに、本実施形態では、図10に示されるように、空孔粒子モデル22の大きさ(直径L2)が、ポリマーモデル7の粗視化粒子15の大きさ(直径L3)と同一に設定されている。このため、空孔粒子モデル22の位置情報が特定されることにより、高分子材料モデル10の内部に形成された空孔21を、粗視化粒子15と同じ尺度で、定量的に特定することができる。
工程S6では、空孔粒子モデル22の位置情報として、空孔粒子モデル22の動径分布関数が取得されるのが望ましい。本実施形態の動径分布関数は、各カップリング剤モデル8の粗視化粒子19からの距離r(図示省略)において、空孔粒子モデル22が存在する確率密度を表す関数である。動径分布関数の計算は、例えば、特許文献(特開2015-56002号公報)の記載に基づいて適宜行われる。図12は、空孔粒子モデル22の動径分布関数の一例を示すグラフである。
一般に、カップリング剤は、ポリマーとフィラーとを結合させて、高分子材料の強度を向上させるためのものである。このため、高分子材料モデル10において、カップリング剤モデル8による補強効果が高い場合には、カップリング剤モデル8の粗視化粒子19の付近に、空孔21は形成され難くなる。この場合、図12に示したグラフにおいて、距離rが小さいほど、そこに空孔粒子モデル22が存在する確率が低くなり、動径分布が小さくなる。
このように、工程S6では、空孔粒子モデル22の動径分布関数が取得されることにより、空孔21を定量的に解析することが可能となる。空孔粒子モデル22の位置情報は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、高分子材料モデル10の空孔21の大きさが、予め定められた閾値よりも小さいか否かを判断する(工程S7)。本実施形態の工程S7では、空孔21の大きさが、空孔粒子モデル22の位置情報(本例では、動径分布関数)に基づいて取得される。また、閾値は、高分子材料に求められる強度や、カップリング剤に求められる補強強化等に基づいて適宜設定される。
工程S7において、空孔21の大きさが閾値よりも小さい場合(工程S7で、「Y」)、高分子材料モデル10が、所望の耐破壊性を有していると評価されうる。このため、本実施形態のシミュレーション方法では、高分子材料モデル10に設定された諸条件に基づいて、高分子材料が製造される(工程S8)。
一方、工程S7において、空孔21の大きさが閾値以上である場合(工程S7で、「N」)、高分子材料モデル10が所望の耐破壊性を有していないと評価することができる。このため、本実施形態のシミュレーション方法では、高分子材料の諸条件(例えば、カップリング剤の分子構造や架橋剤の分子構造)が変更され(工程S9)、モデル設定工程S1~工程S7が再度実施される。これにより、本実施形態のシミュレーション方法は、耐破壊性、及び、耐摩耗性に優れる高分子材料を製造することができる。
これまでの実施形態の高分子材料モデル10は、フィラーモデル6、ポリマーモデル7及びカップリング剤モデル8が含まれたが、このような態様に限定されない。高分子材料モデル10は、例えば、解析対象の高分子材料の成分に基づいて、フィラーモデル6や、カップリング剤モデル8が省略されてもよいし、他の成分をモデリングしたものが含まれてもよい。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
図3に示した処理手順に基づいて、カップリング剤モデルの個数が異なる2つの高分子材料モデル(以下、それぞれ「高分子材料モデルa」、「高分子材料モデルb」という。)が、コンピュータに入力された(実施例)。高分子材料モデルbは、高分子材料モデルaに比べて、カップリング剤モデルの個数が多く入力された。そして、実施例では、図2に示した処理手順に基づいて、高分子材料モデルa及びbの一部に空孔が形成されるように、これらの高分子材料モデルa及びbの変形が計算された。図13は、変形計算後の高分子材料モデルbを示す概念図である。
実施例では、空孔が形成された高分子材料モデルa及びbの内部に、複数の空孔粒子モデルがそれぞれ配置された。空孔粒子モデルと高分子材料モデル(ポリマーモデルの粗視化粒子、フィラーモデルの小粒子及びカップリング剤モデルの粗視化粒子)との間に、空孔粒子モデルが空孔内に集まるような相互作用が定義された。相互作用としては、一対の空孔粒子モデル間の第1ポテンシャル、空孔粒子モデルとポリマーモデルとの間の第2ポテンシャル、及び、空孔粒子モデルとフィラーモデルとの間の第3ポテンシャルが定義された。
そして、実施例では、相互作用に基づいて、空孔が形成された高分子材料モデルa及びbと空孔粒子モデルとの構造緩和が計算された。この構造緩和の計算では、高分子材料モデルa及びbの内部でのフィラーモデルの位置、及び、ポリマーモデルの位置が固定された状態で行われた。
図14は、構造緩和計算後の高分子材料モデルb及び空孔粒子モデルの一例を示す概念図である。実施例では、高分子材料モデルの内部に形成された空孔21に、空孔粒子モデルのクラスター(集団)25が形成された。そして、実施例では、構造緩和後の空孔粒子モデルの位置情報が取得された。共通仕様等は、次のとおりである。
セル:
一辺の長さL1:350σ
フィラーモデル:
フィラー粒子モデル:
半径:12σ
(σ:粗視化MDシミュレーションの長さの単位)
個数:4個
1つのフィラー粒子モデルの小粒子:16、589個
ポリマーモデル:
個数:500本
1つのポリマーモデルを構成する粗視化粒子:200個
架橋点:714点
カップリング剤モデルの粗視化粒子の数:
高分子材料モデルa:114個
高分子材料モデルb:700個
変形計算:
ポアソン比:0
ひずみ速度:50%/600τ
(τ:粗視化MDシミュレーションの時間の単位)
空孔粒子モデル:
個数:17412個
第1ポテンシャル(LJポテンシャル)
ε:1
rc:21/6
第2ポテンシャル(ソフトコアポテンシャル):
A:15.0
rc:21/6
第3ポテンシャル(ソフトコアポテンシャル):
A:100.0
rc:21/6
図13に示されるように、変形計算後の高分子材料モデルでは、空孔が形成されていることが確認できるが、空孔では位置情報が取得できないため、空孔を定量的に解析することができない。しかしながら、実施例では、図14に示されるように、高分子材料モデルの空孔に、空孔粒子モデルを集めることができたため、空孔粒子モデルの位置情報に基づいて、空孔を定量的に解析することができた。
図15は、空孔粒子モデルの動径分布関数の一例を示すグラフである。図15では、高分子材料モデルaが実線で示されており、高分子材料モデルbが破線で示されている。図15に示されるように、高分子材料モデルbは、高分子材料モデルaに比べて、距離rが小さい部分において、空孔粒子モデルが存在する確率(動径分布関数g(r))が低くなっており、補強効果が高いことが示されている。したがって、実施例は、カップリング剤が大きいほど、高分子材料の強度が高いことを、定量的に示すことができた。