JP7414224B2 - 細胞培養用ハイドロゲル、ゲルキット、細胞培養物の製造方法、及び細胞培養用ハイドロゲルの製造方法 - Google Patents
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Description
弾性率が、0.1~500kPaであり、
親水性高分子の放射線架橋構造を有する、細胞培養用ハイドロゲル。
親水性高分子を、0.1~70質量%含む水溶液に対し、
線量1~1000kGyの放射線を照射する照射工程を含み、
前記照射後のハイドロゲルは、細胞増殖活性が線維芽細胞増殖因子-1活性換算で100pg/mL以下であり、
前記照射後のハイドロゲルの弾性率は、0.1~500kPaであり、
前記照射後のハイドロゲルは、親水性高分子の放射線架橋構造を有する、細胞培養用ハイドロゲルの製造方法。
本発明の細胞培養用ハイドロゲル(細胞培養足場用ハイドロゲル)は、細胞増殖活性が、線維芽細胞増殖因子-1活性換算で100pg/mL以下であるとともに、弾性率が、0.1~500kPaであり、親水性高分子の放射線架橋構造を有する細胞培養用ハイドロゲルである。
以下、本発明の細胞培養用ハイドロゲルを単に「本発明のハイドロゲル」ともいう。
かかる放射線架橋構造を有することで、細胞培養条件下に放置した場合であってもハイドロゲル状態を保持することができる。
放射線架橋とは、特に限定するものではないが、放射線照射によって、高分子鎖上に活性点が生じ、そこを起点としての高分子鎖がX型或いはT型に結合することで、3次元的な網目構造(ネットワーク構造)を形成する。架橋剤などの添加剤を用いることなしに、室温或いはそれ以下の温度でも進行するのが、放射線架橋の特徴であり、材料のゲル化、耐熱性の向上、形状記憶性の付与などに応用される。
なお、上記天然物由来の親水性高分子は、単一のサブタイプのみをハイドロゲルの原料として用いてもよいし、複数の異なるサブタイプを組み合わせてハイドロゲルの原料としてもよい。例えばコラーゲンはI型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、V型コラーゲンといったサブタイプが知られている。したがって、これらのサブタイプのうち1つ又は2つ以上のサブタイプのコラーゲンを組み合わせて用いることができる。I型コラーゲンは生体内に最も大量に存在することから、比較的安価に入手し得る点で好ましい。また、IV型コラーゲンは皮膚の基底膜に存在するコラーゲンであり、比較的簡便に入手できる点で好ましい。
ここで、上記タンパク質とは、複数のアミノ酸がペプチド結合により結合されてなる高分子を意味し、当該タンパク質を構成するアミノ酸の数により限定されるものではない。例えば、2個又は3個以上のアミノ酸からなるペプチドを包含する。なお、本明細書中で特に「ペプチド」という場合には、2個以上2,000個以下のアミノ酸からなる高分子をいう。
例えば、上記細胞培養足場用ハイドロゲル上で培養した細胞を生体内へ移植する場合、移植用の細胞集団中に足場用ハイドロゲルが混入する可能性を考慮し、生体適合性の親水性高分子を選択することが好ましい。かかる生体適合性の親水性高分子として、例えば上記生体由来高分子が挙げられる。ゼラチン、コラーゲンに例示されるタンパク質を主体とする高分子は、移植先(ドナー)のコラゲナーゼやプロテアーゼなどの酵素により分解、吸収され得るため、移植用細胞を培養するための足場用ハイドロゲルの原料として好ましい。
弾性率(以降、便宜的に硬さということがある)は、JIS K 6272などに準じた公知の応力-歪(Stress-Strain)曲線の測定方法によって定義されるものであり、例えば圧縮弾性率によって測定される。すなわち、本発明のハイドロゲルは、圧縮弾性率0.1~500kPaであるハイドロゲルを含むものである。哺乳動物の細胞を対象とした細胞培養足場用ハイドロゲルであれば、圧縮弾性率が好ましくは1kPa~200kPa、より好ましくは3kPa~60kPaの範囲のハイドロゲルを好適に使用し得る。
また、本発明の細胞培養足場用ハイドロゲルは、安定な細胞培養結果が得られるよう、天然高分子基材(以降、タンパク質で例示することがある)に含まれる成長因子の影響を低減したものである。成長因子の影響は、線維芽細胞増殖因子-1(FGF1)を評価用の成長因子として用いることで、定量的に定義できる。
具体的には、本発明のハイドロゲルは、細胞増殖活性が、FGF1活性換算で100pg/mL以下であり、好ましくは50pg/mL以下、より好ましくは10pg/mL以下である。
また、親水性高分子を酸性(又はアルカリ性)の環境下に晒す、高温条件で加熱するといった失活処理を施すことで、混入可能性のある成長因子の活性を失活させた高分子を用いることもできる。例えば、酸処理によって抽出された牛真皮由来I型コラーゲン(ニッピ株式会社製のTri-D)は当該酸処理によって成長因子の活性が失活していることが知られているため、Tri-Dコラーゲンをリファレンス用の足場として採用し得る。
上記増殖活性は細胞増殖測定試薬(例えばCell Counting Kit-8、株式会社同仁化学研究所製)を用いて測定してもよいし、市販のセルカウンターを用いて培養前後の細胞数を測定・比較する、或いは血球計算計を用いて顕微鏡下で培養前後の細胞数を測定・比較してもよい。
また、上記増殖活性を評価するための細胞培養時間は特に限定されないが、例えば28時間の培養(24時間のインキュベートの後に4時間の呈色反応を行う)で評価すればよい。
ここで、同様な方法による、成長因子を含まない純度の高い天然高分子で作成したゲル(例えば、酸処理によって抽出された牛真皮由来I型コラーゲンゲル)をリファランスサンプルとし、この450nmにおける吸光度と比較する。細胞が増殖すると、吸光度が増加することを利用し、合計28時間インキュベートしたサンプルにおける吸光度を、レファランスサンプルの吸光度により除し、百分率(%)で表現することで増殖活性を定義できる。本発明の細胞培養足場用ハイドロゲルは、このような評価方法によって定義されるものであり、28時間インキュベートにおいて、105%未満の増殖活性を有するものである。
すなわち、本発明の細胞培養足場用ハイドロゲルの好適な一実施態様は、NIH-3T3細胞のCell Counting Kit-8を用いた28時間インキュベートにおける増殖活性が、酸処理によって抽出された牛真皮由来I型コラーゲンゲルに比し、105%未満である。
或いはまた、培養液中にFGF1を添加して培養した際の細胞増殖率を検量線として比較することで、目的の細胞培養足場用ハイドロゲル中に混入した成長因子の活性をFGF1量に換算して評価してもよい。
特に親水性高分子として天然物由来(典型的には生体由来)の親水性高分子であるタンパク質を用いる場合には、タンパク質に含まれる生体由来の生理活性因子(成長因子)が培養結果に影響を及ぼしがちであるが、本発明のハイドロゲルは、親水性高分子として上記タンパク質を用いた場合であっても、生体由来の生理活性因子(成長因子)の影響を低減したものである。
以下、本発明において好ましい態様について説明する。
ここで、平行溝を構成する溝は、直線であっても、点線であってもよい。平行溝の間隔は任意であるが、0.5~1000μmを好適に用いることができる。平行溝の間隔は、一定であっても可変であってもよい。平行溝凹部の深さは任意であるが、0.5~500μmを好適に用いることができる。
上記凹部は任意の形状とすればよく、例えばドット状であってよい。例えば直径10μm~1000μmの略円形状(典型的には円)とし得る。このような凹部によると、複数の細胞(例えば細胞集団、コロニー、受精卵)を凹部に補足して、培養することができる。
また、例えば直径10~100μmの凹部を形成してもよい。凹部の直径をこの範囲とすることにより、この凹部に補足可能な細胞数を制限し得る。例えば直径20~30μmの凹部を形成してもよい。
このような凹部を有する培養用足場は、凹部1個当たり平均1~10個程度(典型的には平均1~3個、好ましくは平均1個)の細胞を隔離、保持して培養する目的に対し、好適に用いることができる。
或いは、弾性率が水平方向に不均一となるように設定してもよい。例えば、周囲と弾性率が異なる部位を設けてもよいし、特定方向に徐々に弾性率が低くなるように設定したグラジエントゲルとしてもよい。このように水平方向に弾性率が不均一となるように設定することで、例えば、所定の弾性率の足場を好む細胞を分離する方法に利用することができる。
上記濃度は、一般的な中和コラーゲンや市販の生体抽出物由来のハイドロゲル(マトリゲルなど)に含まれる濃度よりも高い。本発明によれば、放射線照射によって、このような高濃度の高分子を含むハイドロゲルが得られる。
上記濃度の高分子を含むハイドロゲルは、適宜濃度を調整した各高分子の溶液を、必要に応じて空気飽和させた後、放射線照射することで得られる。ハイドロゲルの製造方法の条件は、下記[(4)細胞培養用ハイドロゲルの製造方法]で挙げるものを採用できる。
本発明のハイドロゲルに、該ハイドロゲルとは別体の生理活性因子を添加(後添加)することで、添加された成分に応じた所望の作用を、選択的に、且つ、所望の程度で、ハイドロゲルに付与することができる。したがって、本発明は、ハイドロゲルとは別体の生理活性因子を後添加するための、ハイドロゲルも包含する。なお、ハイドロゲルに後添加される生理活性因子としては、細胞増殖因子、分化誘導因子、接着因子、走化因子、細胞外マトリックスなどが例示され、これらから選択される1以上が添加され得る。
本発明のハイドロゲルに、該ハイドロゲルとは別体の生理活性因子(例えば細胞増殖因子及び/又は細胞外マトリックス)を添加(後添加)することで、添加された成分に応じた所望の作用を、選択的に、且つ、所望の程度で、ハイドロゲルに付与することができる。したがって、本発明は、本発明のハイドロゲルと、該ハイドロゲルとは別体の生理活性因子(例えば細胞増殖因子及び/又は細胞外マトリックス)と、を含むゲルキットも包含する。これらゲルキットに含まれる生理活性因子は、細胞増殖因子、分化誘導因子、接着因子、走化因子、細胞外マトリックスなどが例示され、これらから選択される1以上であり得る。
本発明の細胞培養物の製造方法は、本発明のハイドロゲルを足場として、培養しようとする細胞を接触させることにより、細胞を培養する方法である。特に、ハイドロゲルとして、所望の遺伝子発現や分化状態に対応する弾性率及び/又は表面形状を有するハイドロゲルを選択して用いることが好ましい。該遺伝子発現は、細胞の分化にかかわる遺伝子の発現、又は細胞の成長にかかわる遺伝子発現であり得る。
例えば、発現する遺伝子がメラミン遺伝子である場合について、遺伝子発現のために用いる細胞に応じた好ましいゲルの弾性率及び表面形状は以下のとおりである。
マウス悪性黒色腫由来のB16F10細胞を用いる場合:ハイドロゲルの弾性率は5~48kPaであることが好ましく、表面形状は平坦であることが好ましい。
ヒト由来子宮頸癌由来のHeLa細胞を用いる場合-1:HeLa細胞スフェロイドを形成するためには、ハイドロゲルの弾性率は1kPa~30kPa(より好ましくはおよそ5kPa)が好ましく、表面形状は平坦であることが好ましい。
ヒト由来子宮頸癌由来のHeLa細胞を用いる場合-2:HeLa細胞が2次元形態をとるためには、ハイドロゲルの弾性率が30kPa~500kPa程度(より好ましくはおよそ48kPa)であることが好ましく、表面形状は平坦であることが好ましい。あるいは、ハイドロゲルの弾性率が5kPa~500kPa以上程度(より好ましくは5kPa~48kPa)であることが好ましく、表面形状は平行溝(好ましくは、溝の幅が1μm~10μmのライン状凹凸、より好ましくは溝の幅が5μmのライン状凹凸)を有することが好ましい。
また、例えば、ヒト由来子宮頸癌由来のHeLa細胞の培養については、1~16kPa前後の弾性率を有するハイドロゲルを足場として用いることにより、三次元的に細胞が増殖し、細胞塊(スフェロイド、スフィア)を製造することができる。
培養された細胞培養物は、上記足場から、公知の方法で分取することができる。
本発明の細胞培養足場用ハイドロゲルの前駆体は、親水性高分子、例えばタンパク質を0.1~70質量%含む水溶液である。
なお、上記前駆体中の親水性高分子の濃度は特に限定されないが、高濃度の前駆体に放射線を照射することで単位体積当たりに生じる放射線架橋の割合が増大するため、弾性率の高いハイドロゲルは、含水率が低下しがちとなる。したがって求められる弾性率と含水率とから、前駆体中の親水性高分子の濃度を定めることができる。
したがって、基材としては、成長因子の少ない、言い換えれば純度の高い高分子(例えばタンパク質)であることが好ましい。一方で、高純度のタンパク質を多量に精製することには、多大なコストがかかるという生産上の課題もある。
また、放射線線量の増加は、許容し得る成長因子の量を増加させることができる。したがって、線量5kGy超の放射線照射を前提とする場合においては、前駆体には、線維芽細胞成長因子に換算したときに、1000ng/mL超の線維芽細胞成長因子と同程度の増殖活性を有する成長因子を含むことができる。
本発明の細胞培養用ハイドロゲル(細胞培養足場用ハイドロゲル)の製造方法は、上述した前駆体に対し、線量1~1000kGyの放射線を照射する工程を含む細胞培養足場用ハイドロゲルの製造方法である。該製造方法により、本発明のハイドロゲルを好ましく製造できる。
ここで、放射線とは、紫外線より波長の短い電磁波と、電子線、イオンビームを含む概念であり、電磁波は、X線、ガンマ線を含む。放射線照射装置は、公知のこれら放射線の発生装置を用いることができる。
放射線照射工程では、前駆体に対し、連続的に、又は間欠的に、放射線照射装置を用いて、線量1~1000kGyの放射線を照射する。線量の下限は、2kGy以上、5kGy以上、10kGy以上、100kGy以上、500kGy以上であってよく、線量の上限は、500kGy以下、300kGy以下、200kGy以下、100kGy以下であってよい。一実施態様において、線量5~200kGyの放射線照射を好ましく用いることができる。
ここで、線量とは、放射線の時間当たりの照射量を、時間積分したものであり、各々の放射線ごとに販売されている線量計によって、測定することができる。なお、放射線照射装置において、照射エネルギーは100keVから10MeV程度に設定することが望ましい。
前駆体への放射線照射によって、親水性高分子(例えばタンパク質)が部分的に開裂してラジカルを発生するとともに、架橋反応が生じることにより、水を内包するようにゲルが生成する(ハイドロゲルの生成)。放射線の照射が終了すると、ただちに架橋反応も停止する。反応の際の架橋密度は、照射する放射線の線量に依存し、その結果、ゲルの弾性率も放射線の線量に依存することになる。
また、親水性高分子の架橋密度が高いほど、含水率が低くなる(ハイドロゲル中の親水性高分子の含有率が高くなる)。よって、ハイドロゲル中の親水性高分子の含有率も、照射する放射線の線量に依存することになる。
上記放射線照射時の環境温度は、親水性高分子の性質に応じて適宜設定すればよい。例えばコラーゲンを用いる場合であれば4~25℃程度の低温で放射線を照射することで効率よく放射線架橋することができ、ゼラチンを用いる場合であれば10~30℃の温度環境下で放射線を照射することで効率よく放射線架橋することができる。
また、放射線照射における前駆体の溶存酸素は、ラジカルを捕捉する効果がある。換言すると、前駆体中の溶存酸素濃度を高濃度とすることで、架橋密度が低くなり、結果としてハイドロゲルの弾性率を低くすることができる。具体的な手法としては、例えば、酸素濃度が高い環境で放射線を照射する、高酸素濃度下に上記前駆体を放置する、上記前駆体に酸素をバブリングする、といった方法により、上記前駆体中の溶存酸素濃度を増大させることができる。
また、前駆体中の溶存酸素濃度を低濃度とすることで、架橋密度が高くなり、結果としてハイドロゲルの弾性率を高くすることができる。具体的な手法としては、窒素環境下で放射線を照射する、上記前駆体に窒素をバブリングするといった方法により、上記前駆体中の溶存酸素濃度を低減することができる。
細胞培養足場用ハイドロゲルの製造方法は、生理活性因子(例えば成長因子)の活性を低減する処理をさらに含んでもよい。
例えば、放射線照射により架橋したハイドロゲルに対して、pHの調整処理を行う(pH調整工程)ことで、当該ハイドロゲル中の生理活性因子(例えば成長因子)の活性を低減することができる。放射線照射後に、塩基性の溶液や緩衝溶液を用いて、pH=6~8にpH調整することによって、生理活性因子の活性が低減された細胞培養の足場として用いることができるようになる。
例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、イーグル最小必須培地(MEM)、イーグル最小必須培地α改変型(α-MEM)、グラスゴー最小必須培地(GMEM)、Iイスコフ改変ダルベッコ培地、栄養混合物F-12ハム(Ham’s F-12)、RPMI-1640などを用いることができる。
例えば、親水性高分子としてゼラチンを選択する場合であれば、前駆体を加熱処理する方法を好適に採用することができる。この方法を採用することで、水溶液中にゼラチンを溶解させる処理と、生理活性因子の活性低減処理とを、同時に実現することができ、細胞培養足場用ハイドロゲルを簡便に製造することができる。
また、例えば、親水性高分子としてコラーゲンを選択する場合であれば、放射線照射して得たハイドロゲルを、pH調整処理することが好ましい。典型的に、コラーゲンを高温環境下に晒すと変性しがちであり、放射線照射による架橋が困難となりがちである。このため、放射線照射前の前駆体の加熱処理よりも、放射線照射後の成長因子の活性低減処理(例えばpH調整処理、加熱処理)を選択することが好ましい。
また、生理活性因子の活性低減処理によってのみでは、成長因子の活性を所望のレベルまで減少させることが困難な場合がある。
したがって、放射線照射工程と、生理活性因子の活性低減工程の両工程を有することにより、成長因子の活性を効果的に減少させつつ、所望の細胞の培養に必要な弾性率の確保とを、同時に獲得しやすくなる。さらに、上記生理活性因子の活性低減工程として、上記pH調整は、細胞培養用足場材のpHを細胞培養に最適なpHとすることができる点で好ましい。
なお、上記生理活性因子の活性低減処理は、1種のみを採用してもよいし、2種以上の処理を組み合わせて実施してもよい。
平行溝を構成する溝は、直線であっても、点線であってもよい。平行溝の間隔は任意であるが、0.5~1000μmを好適に用いることができる。平行溝の間隔は、一定であっても可変であってもよい。平行溝の深さは任意であるが、0.5~500μmを好適に用いることができる。
また、例えば直径10μm~100μmの凸部を転写して、直径10~100μmの凹部を形成してもよい。凹部の大きさをこの範囲とすることで、当該凹部に補足可能な細胞数を制限し得る。例えば直径20~30μmの凸部を転写して、直径20~30μmの凹部を形成してもよい。
このような凹部を有する培養用足場は、凹部1個当たり平均1~10個程度(典型的には平均1~3個、好ましくは平均1個)の細胞を隔離、保持して培養する目的に対し、好適に用いることができる。
親水性高分子(コラーゲン)の分子量:600,000以下(例えば、200,000~600,000、好ましくは400,000~500,000)
親水性高分子(コラーゲン)溶液の濃度:0.1~5.0質量%
溶存酸素濃度:0~8mg/L
ガンマ線線量:1~100kGy(好ましくは2~50kGy)、
ガンマ線照射時の溶液温度が4~37℃(好ましくは4~25℃)、
pH調整処理:DMEM培地、37℃で10~180分。
親水性高分子(ゼラチン)の分子量:200,000以下(例えば、100,000~170,000)
親水性高分子(ゼラチン)溶液の濃度:0.1~70質量%
溶存酸素濃度:0~8mg/L
ガンマ線線量:1~300kGy(好ましくは2~200kGy)
ガンマ線照射時の溶液温度が4~37℃(好ましくは10~30℃)。
pH調整処理:DMEM培地、50℃で10~180分。
したがって、放射線照射工程後に生理活性因子を添加する工程を行ってもよい。
添加される生理活性因子(例えば細胞増殖因子及び細胞外マトリックス)の詳細は上記[本発明のハイドロゲルを含むゲルキット]で説明したものと同様である。
以下の2種類のハイドロゲルを作製し、ハイドロゲル中の成長因子の存在量を抗体染色の蛍光強度から評価した。なお、ゲル2が本発明のハイドロゲルに相当する。
(ゲル1-1)成長因子を含むタンパク質にガンマ線を照射したもの
(ゲル1-2)成長因子を含むタンパク質にガンマ線を照射した後にpH調整処理(照射後pH調整処理)したもの
高純度の牛真皮由来I型コラーゲン溶液(株式会社ニッピ製コラーゲンゲル細胞培養キットTri-D、以下同様。)に対し、成長因子である線維芽細胞増殖因子-1(FGF1、R&D Systems社、232-FA-025/CF)を0、30、300、3000ng/mLの各濃度で添加したDMEM培地を加えた。混合比は、コラーゲン溶液:DMEM=2:1とした。次いで、得られた混合物をガラスベースディッシュに100μLずつ入れ、すみやかにCO2インキュベーター内で37℃に昇温してコラーゲンを繊維化した。
上記の操作により、成長因子を含むタンパク質として、FGF1を0、10、100、1000ng/mL含む中和コラーゲンゲルを得た。
各中和コラーゲンゲルをFGF1抗体(Santa Cruz Biotechnology社、sc-55520)及び二次抗体(Invitrogen社、A32723)で染色し、同一条件下で蛍光観察することによって、FGF1含有量の異なる中和コラーゲンゲルと蛍光強度の関係、すなわち検量線を得た。
そして、FGF1を1000ng/mL含む中和コラーゲンゲルにガンマ線を1kGy照射したもの(ゲル1-1に相当する。)、及び、FGF1を1000ng/mL含む中和コラーゲンゲルにガンマ線を1kGy照射後にPBSにより37℃以上でpH7.4となるように調整したもの(ゲル1-2に相当する。)をそれぞれ得た。これらのゲルに対して、上記同様に免疫染色を行って蛍光強度を計測した。
免疫染色後の蛍光強度の計測結果を図9に示す。なお、図9中、蛍光強度の値が高いほど、ゲル中のFGF1濃度が高いことを意味する。
図9に示すように、いずれのゲルにおいてもFGF1濃度は低減されていた。さらに、ゲル1-2の蛍光強度はゲル1-1よりも低く、検出限界(200ng/mL)よりも低かった。これらのことから、放射線照射後にpH調整することでFGF1濃度をより低減でき、原料中に1000ng/mLもの高濃度でFGF1が含まれていたとしても、その量を検出限界以下にまで低減できることがわかった。
成長因子を含むタンパク質をpH調整処理した後、昇温によりハイドロゲル足場とし、足場上でマウス胎児皮膚由来の線維芽細胞である3T3細胞を培養し、増殖活性を評価した。
高純度のコラーゲン溶液として、高純度の牛真皮由来I型コラーゲン溶液を用意し、これにFGF1を0、10、100ng/mLの各濃度で添加した。これを96wellマイクロプレートに10μL入れ、5μLの無色DMEM培地を加え、CO2インキュベーター内で37℃に昇温し、pH=7.1~7.5にpH調整処理した。これにより、コラーゲン溶液中のコラーゲンが繊維化し、中和コラーゲンゲルが得られた。該中和コラーゲンゲルは、成長因子を含むタンパク質を中和pH調整処理したものに相当する。
この中和コラーゲンゲルを足場として、3T3細胞を5,000cells/wellの濃度で90μL播種し、24時間培養してCell Counting Kit-8(株式会社同仁化学研究所製)を10μL/wellずつ添加した。その後インキュベーター内で4時間呈色反応を行い、マイクロプレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。
図2に、FGF1の濃度による吸光度の変化、すなわち増殖活性の変化を、FGF1無添加の場合を100%として示す。FGF1の濃度上昇に応じ、増殖活性が上昇しており、3T3細胞が成長因子の影響を受けていることがわかる。
本結果は、既知又は未詳の成長因子を1つ以上含む生体由来のタンパク質材料を培養基材として用いる場合、細胞培養が成長因子の影響を受けることを示している。
また、成長因子の抑制は、5μLのDMEM培地によるpH調整処理では不充分であることを示している。
成長因子を含むタンパク質を前駆体として、ガンマ線を照射し、マウス胎児皮膚由来の線維芽細胞である3T3細胞を培養し、増殖活性を評価した。
10%の牛胎児血清(FBS)を含む無色DMEM溶液に線維芽細胞増殖因子(FGF1)を0、1、10ng/mLの濃度で添加し、ガンマ線を5kGy照射してから、96wellマイクロプレートに10μLずつ入れ、さらに3T3細胞を5,000cells/wellの濃度で90μL播種した。24時間培養してCell Counting Kit-8を10μL/wellずつ添加し、その後インキュベーター内で4時間呈色反応を行い、マイクロプレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。
図3に、FGF1の濃度による吸光度の変化、すなわち増殖活性の変化を、FGF1無添加の場合を100%として示す。FGF1の濃度上昇に応じ、増殖活性が上昇しており、3T3細胞が成長因子の影響を受けていることがわかる。
本結果は、既知又は未詳の成長因子を1つ以上含む生体由来材料にガンマ線を照射したものを培養基材に用いても、細胞が基材由来の成長因子の影響を受け、培養結果が安定しないことを示している。
また、成長因子の抑制は、5kGyのガンマ線照射処理では不充分であることを示している。
成長因子を含むタンパク質を前駆体として、ガンマ線を照射し、ハイドロゲルを製造し、37℃以上でpH調整処理したものを足場として、マウス胎児皮膚由来の線維芽細胞である3T3細胞を培養し、増殖活性を評価した。
高純度の牛真皮由来I型コラーゲン溶液に、FGF1を0、10、100ng/mLの濃度で添加し、96wellマイクロプレートに10μLずつ入れ、ガンマ線を5kGy照射してから、無色DMEM培地を加えて37℃でpH7.1~7.5となるようにpH調整処理(照射後pH調整処理)を行った。pH調整処理に用いた無色DMEM培地を除いてから、3T3細胞を5,000cells/wellの濃度で90μL播種し、24時間培養して、Cell Counting Kit-8を10μL/wellずつ添加した。その後インキュベーター内で4時間呈色反応を行い、マイクロプレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。
図4に、FGF1の濃度による吸光度の変化、すなわち増殖活性の変化を、FGF1無添加の場合を100%として示す。増殖活性はFGF1の濃度にかかわらず105%未満であり、3T3細胞が成長因子の影響を受けていないことがわかる。
本結果は、既知又は未詳の成長因子を1つ以上含む生体由来材料に対し、ガンマ線を照射し、37℃以上でpH調整処理を行ったのち培養に用いる場合、すなわち本発明により得られるハイドロゲルを培養基材に用いた場合、培養細胞が基材中に含まれていた成長因子の影響を受けず、培養結果が安定することを示している。
また、本結果及び上記(参考例1)は、成長因子を含むタンパク質を原料に用いても、放射線照射処理及びpH調整処理(照射後pH調整処理)によって、細胞培養結果に影響を与えないレベルにまで成長因子を不活化できることを示している。
ハイドロゲル足場に播種・培養したマウス腹腔由来の食細胞の増殖を光学顕微鏡により直接観測した。得られた画像より食細胞の増殖の様子を観測した。
蒸留水1Lに豚ゼラチン10wt%を加え、50℃において充分に攪拌してゼラチン水溶液を得た。さらに、この溶液を35mmディッシュに移し、温度20℃で物理ゲル化・空気飽和したのちに、ガンマ線を温度25℃、線量率10kGy/h、線量20kGy照射した。得られたハイドロゲルであるゼラチン架橋体は、圧縮試験による応力―ひずみ曲線から、弾性率が16kPaであることを確認した。
得られたハイドロゲルにRPMI-10%FCS培地及び1,000,000のマウス腹腔食細胞集団を投入し、5%CO2下、37℃で培養して、定期的に生育状態を位相差顕微鏡で観察した。
なお、マウス腹腔食細胞集団は、チオグリコレート培地をマウス腹腔内に投与し、4日後にマウスから採取した腹腔滲出細胞を、ポリスチレンシャーレ内の10%FCSを含むRPMI培地中で1日培養して、シャーレに付着した細胞を分取し、さらに7日間培養したのちに、シャーレからトリプシンで剥がして調製したものである。
図5に得られた顕微鏡像を示す。通常の培養実験で用いられるポリスチレンディッシュを使用すると、食細胞集団中のほとんどの細胞は分化してディッシュ表面に広がって強固に付着して増殖能力を失い、生体に移植してもすぐに活動能力を失う。広がった細胞の表面に散在した球形細胞は増殖能の高い低分化細胞であり、移植に適しているものの、得られる数は少ない(図5(a))。
一方、弾性率16kPaのゼラチン架橋体上で食細胞集団を培養すると、ごく一部の細胞が表面に付着して細長く伸び(図5(b)、細長い線状の細胞)、その表面に房のように、大多数の細胞をその球形を維持させたまま付着させている。さらに培養を進め、球形細胞の数は増殖を続けて数を増し(図5(c))、移植可能な増殖能力のある球状の低分化細胞を多量に調製することもできる。
本発明のハイドロゲルは、低分化又は未分化の細胞集団を増殖可能であることを示しており、再生医療における細胞ソースの調製に、密接に関連するものである。
ハイドロゲル足場上に播種・培養したメラノーマ細胞の増殖、及びメラニン産生による着色を、光学顕微鏡により直接観測した。さらにメラニン産生量を吸光度により測定した。
蒸留水1Lに豚ゼラチン10wt%を加え、50℃において充分に攪拌してゼラチン水溶液を得た。さらに、この溶液を35mmディッシュに移し、温度20℃で物理ゲル化・空気飽和したのちに、ガンマ線を温度25℃、線量率10kGy/h、線量10、20、40kGyで照射した。得られたハイドロゲルであるゼラチン架橋体は、圧縮試験による応力―ひずみ曲線から、弾性率がそれぞれ約5、約16、約48kGyであることを確認した。得られたゼラチン架橋体上と通常の培養実験で用いられるプラスチックディッシュ上で、マウス悪性黒色腫由来のB16F10細胞をそれぞれ培養し、その後経時的に光学顕微鏡で観察並びにメラニン産生量の定量を行った。メラニン産生量は、回収した細胞をPBSで洗浄後、1%TritonX100存在下での可用性タンパク質量と、1N NaOHで、85℃、30分処理した際に可溶化したメラニン量により算出した。
図6に得られた顕微鏡像を示す。観察された像よりプラスチックディッシュ上で2D培養した細胞には明確なメラニン産生が認められない(図6(a))が、ゼラチン架橋体上で培養した細胞は、弾性率5~48kPaのいずれでも、細胞塊(spheroids)を形成し、細胞塊によっては高密度のメラニンを産生していることが認められる(図6(b)~(d))。
また、定量的解析の結果から、メラニンは2D培養条件下ではほとんど産生されないが、ゼラチン架橋体上での培養では経時的に顕著に産生されることを示している。またこの産生量にゼラチン架橋体の硬さが影響していることも認められている。
本結果は、ハイドロゲルの弾性率によって、生体内同様に、細胞の遺伝子発現を変調できることを示しており、創薬やがん治療研究に密接に関連するものである。
平滑、及び5μmのライン状凹凸(平行溝)の微細構造を付与した表面を有するハイドロゲル足場上に、播種・培養したヒト由来の子宮頸癌由来がん細胞であるHeLa細胞の形態を、光学顕微鏡により直接観測した。得られた画像より、細胞のサイズ(接着面積)、縦横比、回転を計測した。
蒸留水1Lに、豚ゼラチン10wt%を加え、50℃において充分に攪拌して、ゼラチン水溶液を得た。さらに、この溶液を35mmディッシュに移し、温度20℃で物理ゲル化・空気飽和したのちに、ガンマ線を温度25℃、線量率10kGy/h、線量を10kGy及び40kGy照射した。得られたゼラチン架橋体は、圧縮試験による応力―ひずみ曲線から、弾性率がそれぞれ5kPaと48kPaであることを確認した。
また、水溶液上に5μmのライン状凹凸(平行溝)を有するモールドを押圧し、上記と同様に放射線を照射し、同じ弾性率(それぞれ5kPaと48kPa)であり、表面に5μmのライン状凹凸を有するハイドロゲル足場を作製した。
得られた4種類のハイドロゲル足場表面上と、通常の培養実験で用いられるポリスチレンディッシュ表面上で、それぞれHeLa細胞を培養し、光学顕微鏡で観察した。
図7に得られた顕微鏡像を示す。観察された像より、上皮系細胞のHeLaが硬さ5kPaの平滑なハイドロゲル上では、3次元的に細胞塊を作ることがわかる(図7(a))。その一方、硬さ48kPaの平滑なハイドロゲル上では2次元的に伸展し、且つ、間葉系様の形態を示すことがわかる(図7(b))。
また、5kPaの弾性率であっても、5μmのライン状凹凸があると、その形状に応答して、形態が変化することがわかる(図7(d))。5μmのライン状凹凸を有する弾性率48kPaの場合も、5kPa弾性率の場合と同様に形態が変化する(図7(e))。
一方、ハイドロゲル足場を用いず、ポリスチレンディッシュ上にて培養した場合、2次元的に伸展し、且つ敷石状の上皮系様形態を示す(図7(c))。
これらの結果は、ハイドロゲルの弾性率と、表面形状(表面の微細構造)の両方が、細胞の遺伝子発現に影響を及ぼすことが示している。
本結果は、細胞の遺伝子発現や分化状態が、ハイドロゲルの弾性率や表面形状によって制御できることを示しており、再生医療における細胞ソースの調製に密接に関連する。
実施例4と同じ条件で作製したゼラチン水溶液を、空気雰囲気で、温度25℃で、2MeVの電子線を、線量率10kGy/回で1~20回、トータル線量で10~200kGy照射した。得られたタンパク質架橋体上に子宮頸癌由来がん細胞を播種したところ、実施例4と同様の、弾性率による形態変化が観測された。
本結果は、電子線照射でも、ガンマ線照射と同様に、線量によるハイドロゲルの弾性率の調整が可能であり、遺伝子発現の制御が可能であることを示している。すなわちガンマ線のような電磁波に限らず、本発明が放射線全般に拡張可能であることを示すものである。
以下の条件のハイドロゲル足場上で、各種細胞の培養試験を行い、遺伝子発現能を調べた。結果を表1に示す。
分子量150,000の豚ゼラチン10質量%に蒸留水90質量%を加え、25℃において空気雰囲気で(酸素含有量約21%、大気圧)、10分間攪拌して溶存酸素濃度8mg/Lのゼラチン水溶液を得た。
この水溶液に対し、空気雰囲気で、温度25℃で、Co60照射施設においてガンマ線を線量率10kGy/h、線量60kGyで照射し、放射線架橋ゼラチンゲルを得た。
また、上記ゼラチン水溶液に、化学架橋剤であるグルタルアルデヒドの水溶液(0.48重要%)を等量加え40℃で12時間反応させたのち、100mMのグリシン水溶液で50℃1時間洗浄し化学架橋ゼラチンゲルを得た。
それぞれの手法で得られた架橋ゼラチンゲルを30℃で24時間真空乾燥し、約1mgを1.5mLの小型バイアルに採取した。窒素飽和条件下、110℃で塩酸により24時間加水分解した。
リファレンスとして未架橋のゼラチンも同様に加水分解した。その後、水酸化ナトリウムで中和し、各アミノ酸を4-Fluoro-7-nitrobenzofurazanにより蛍光標識し、HPLCにより定性、定量測定した。
例えば本発明の細胞培養用ハイドロゲルを、細胞培養器(細胞培養容器)に内蔵する足場として用いてもよい。
また、本発明の細胞培養物の製造方法において培養する細胞は、移植などの治療用の細胞の培養に用いるものであってよく、また、薬理試験用(例えば薬物のスクリーニング用)の細胞の培養に用いるものであってもよい。また、これら細胞培養物を、治療(例えば再生医療)、細胞培養物を用いた薬理試験方法(例えばスクリーニング方法)に用いることもできる。
また、細胞培養用ハイドロゲルの製造方法において、平行溝の形成は、上述の溝形成工程によってのみ形成し得るものではない。放射線照射工程において、放射線がビーム状であり、スキャンのできる放射線照射装置であれば、放射線照射の有無によって作成することもできる。例えば2次元平面のラスタースキャンを行い、奇数ラインを放射線照射し、偶数ラインを放射線照射しない、を繰り返すことによって、平行溝を有するハイドロゲル足場を形成することができる。この製造方法による溝形成を行う場合には、モールドを用いる溝形成は不要とすることができる。
以下の2種類のハイドロゲルを作製し、これらを足場として3T3細胞を培養し、細胞増殖活性を比較することで、細胞増殖因子の含有量を評価した。なお、ゲル22-2が本発明に係る製造方法から得られたハイドロゲルに相当する。
(ゲル22-1)規定量の成長因子を含むタンパク質
(ゲル22-2)規定量の成長因子を含むタンパク質を原料として放射線照射処理及びpH調整処理(照射後pH調整処理)したもの
高純度の牛真皮由来I型コラーゲン溶液に対し、FGF1を0、0.015、0.3、1.5、3、30ng/mLの各濃度で添加したDMEM培地を加えた。混合比は、コラーゲン溶液:DMEM=2:1とした。得られた混合物を96wellマイクロプレートに40μLずつ入れ、すみやかにCO2インキュベーター内で37℃に昇温し、コラーゲンを繊維化した。
上記の操作により、成長因子を含むタンパク質として、FGF1を0、0.005、0.1、0.5、1、10ng/mL含む中和コラーゲンゲルを得た。該中和コラーゲンゲルは、ゲル22-1に相当する。
また、種々の濃度のFGF1を含む中和コラーゲンゲルにガンマ線を1kGy照射してから、DMEM培地を加えて37℃でpH7.1~7.5となるように調整したハイドロゲルを得た。該ハイドロゲルはゲル22-2に相当する。
ゲル22-1及びゲル22-2に、それぞれ3T3細胞を5,000cells/wellの濃度で60μL播種し、48時間培養して、Cell Counting Kit-8を10μL/wellずつ添加した。その後インキュベーター内で1時間呈色反応を行い、マイクロプレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。
図10に、中和コラーゲンゲル中のFGF1濃度に応じた吸光度の変化、すなわち細胞増殖活性の変化を示す。なお、図10中、吸光度の値が高いほど、ゲルの細胞増殖活性が高いことを意味する。
図10のとおり、ゲル22-1はゲル22-2よりもゲルの細胞増殖活性が顕著に高かった。
また、ゲル22-2においては、原料として配合したFGF1濃度にかかわらず、増殖活性に増加傾向が見られず、ゲル22-1から得られる検量線と比較するとゲル中のFGF1が100pg/mL以下相当だった。すなわち、ゲル22-2は、細胞増殖活性がFGF1活性換算で100pg/mL以下であり、この量は、市販の生体抽出物由来のハイドロゲル(マトリゲルなど)中の細胞増殖因子量よりも顕著に少ない。
高濃度のタンパク質(コラーゲン、ゼラチン、又はコラーゲンペプチド)を配合した溶液から、放射線照射によってハイドロゲルを作製し、該ゲル中の高分子濃度を評価した。
以下の3種の溶液を調製した。
(1)コラーゲン溶液
豚真皮由来I型コラーゲン溶液(新田ゼラチン製Collagen BM、639-30861)を濃度5wt%に調製してコラーゲン水溶液を得た。
(2)ゼラチン溶液
蒸留水1Lに、豚ゼラチン10wt%を加え、50℃で充分に攪拌してゼラチン水溶液を得た。
(3)コラーゲンペプチド溶液
蒸留水1Lに豚コラーゲンペプチド10wt%を加え、50℃で充分に攪拌してコラーゲンペプチド水溶液を得た。
得られたハイドロゲルの乾燥前後の重量から、ハイドロゲル中の高分子濃度を評価した。
図11に放射線照射量に対するハイドロゲル中の高分子濃度を示す。図11に示されるとおり、放射線照射量が増えるほど、ハイドロゲル中の高分子濃度が増加した。この結果は、ハイドロゲルの原料であるコラーゲン、ゼラチン、又はコラーゲンペプチドが、放射線照射によってゲル化し、高分子を形成したことを意味する。上記方法で得られたハイドロゲル中の高分子濃度は、一般的な中和コラーゲンゲルや生体抽出物由来のハイドロゲル(マトリゲルなど)中の高分子濃度(一般的に1%以下)よりも高かった。この結果から、ハイドロゲル中の高分子濃度を放射線照射量によって調整できることがわかった。
上記のとおり、本発明によれば、原料に含まれる成長因子量を低減させたハイドロゲルが得られる。本例では、このように得られたハイドロゲルへ所定成分を添加した場合に、該成分がハイドロゲル上で機能するかを検討した。具体的には、ハイドロゲルへ、細胞外マトリックスであるラミニン(細胞の接着、増殖、分化に関与するタンパク質)を添加し、ゲルにラミニンが含まれるかを評価した。
蒸留水1Lに豚ゼラチン10wt%を加え、50℃で充分に攪拌してゼラチン水溶液を得た。さらに、この溶液を35mmディッシュに移し、温度20℃で物理ゲル化及び空気飽和させたのちに、ガンマ線を温度25℃、線量率10kGy/h、線量20kGy照射し、ハイドロゲル(ラミニンコーティングされていないハイドロゲル)を得た。
得られたハイドロゲルに、超純水に溶解した0.1mg/mLのラミニン(Invitrogen 23017-015)を1mL添加し、4℃で一晩保管し、ラミニンコーティングされたハイドロゲルを得た。
次いで、ラミニンコーティングされていないゲル、及び、ラミニンコーティングされたゲルのそれぞれで、ラット海馬神経細胞を5%CO2下、37℃で培養して、定期的に生育状態を観察した。その後、ラミニン抗体(Abcam ab11575)及び二次抗体(Invitrogen A32731)で染色し、蛍光観察によってラミニンがハイドロゲルに含まれるかどうかを確認した。
図12に蛍光観察の結果を示す。図12中、(A)はラミニンコーティングされていないゲルの観察結果であり、(B)はラミニンコーティングされたゲルの観察結果である。ラミニンコーティングが機能していれば(つまり、ゲルにラミニンが含まれていれば)、海馬神経細胞がゲルに接着する。
(A)に示されるとおり、未コーティングのゲル上では神経細胞は接着しなかった。これに対し、(B)に示された、ラミニンコーティングされたゲル上では海馬神経細胞が接着し、突起を伸ばしていた。
なお、図12(C)は、ラミニンコーティングされたゲルにおいて、ラミニンが実際にコーティングされていることを蛍光染色で確認した結果である。
以上の結果から、本発明のハイドロゲルに対して所定成分(成長因子など)を添加しても、該成分がハイドロゲル上で機能することがわかった。
100~200μm角の凹形状を付与したハイドロゲルを足場として用い、凹部へメラノーマ細胞を播種してその様子を光学顕微鏡により経時的に観測した。
蒸留水1Lに豚ゼラチン10wt%を加え、50℃で充分に攪拌してゼラチン水溶液を得た。さらに、この溶液をディッシュに移し、100~200μm角、高さ100μmの凸構造を有するモールドを押圧し、温度20℃で物理ゲル化及び空気飽和したのちに、ガンマ線を温度15℃、線量率5kGy/h、線量20kGy照射し、表面に凹形状を有するハイドロゲルを作製した。
得られたハイドロゲルの凹部にマウス悪性黒色腫由来のB16F10メラノーマ細胞を播種した後、経時的に光学顕微鏡で観察した。
図13は、100μm角の凹形状を付与したハイドロゲルを用いた培養結果であり、細胞播種直後の状態である。図13に示すように、メラノーマ細胞は1細胞ずつ凹形状のくぼみに補足された。
この結果から、本発明のハイドロゲルによって、1細胞の捕捉とその培養が可能であることがわかった。なお、データは示していないが、ハイドロゲルに付与する凹部の形状は四角形に限られず、任意の形状であっても培養が可能であった。
この結果から、本発明のハイドロゲルによって、細胞を1つずつ個別にハイドロゲル足場上で培養し、異なる遺伝子発現を持つ細胞塊を作製できることがわかった。
Claims (29)
- 細胞増殖活性が、線維芽細胞増殖因子-1活性換算で100pg/mL以下であり、
弾性率が、0.1~500kPaであり、
親水性高分子の放射線架橋構造を有し、
前記親水性高分子が、ゼラチン、及び人工タンパク質からなる群から選択される1以上の成分を含む、
細胞培養用ハイドロゲル。 - 前記細胞増殖活性が、NIH-3T3細胞のCell Counting Kit-8を用いた28時間インキュベートにおける増殖活性として、失活処理された牛真皮由来I型コラーゲンゲルに比し、105%未満である請求項1に記載の細胞培養用ハイドロゲル。
- 前記親水性高分子を、前記ハイドロゲルに対して、1質量%以上30質量%以下含む、請求項1又は2のいずれかに記載のハイドロゲル。
- 前記ハイドロゲルに対して、10質量%以上30質量%以下の前記ゼラチンを含む、請求項1から3のいずれかに記載のハイドロゲル。
- 凹部及び/又は平行溝を表面に有する請求項1から4のいずれかに記載のハイドロゲル。
- 接着細胞を培養するために用いられる、請求項1から5のいずれかに記載のハイドロゲル。
- 前記ハイドロゲルとは別体である生理活性因子を後添加するための、請求項1から6のいずれかに記載のハイドロゲル。
- 分化誘導因子、接着因子、走化因子及び細胞外マトリックスからなる群から選択される1以上の因子が配合された、請求項1から7のいずれかに記載のハイドロゲル。
- 前記ゼラチンの含有量が、前記ハイドロゲルに対して、0.1~70質量%である、請求項1に記載のハイドロゲル。
- 請求項1から9のいずれかに記載のハイドロゲルと、前記ハイドロゲルとは別体の生理活性因子と、を含む、ゲルキット。
- 請求項1から9のいずれかに記載のハイドロゲルに、細胞を接触させることにより、細胞を培養する細胞培養物の製造方法。
- 前記ハイドロゲルとして、所望の遺伝子発現に対応する弾性率及び/又は表面形状を有するハイドロゲルを選択して用いる、請求項11に記載の製造方法。
- 前記遺伝子発現が、細胞の分化にかかわる遺伝子の発現、又は細胞の成長にかかわる遺伝子発現である、請求項12に記載の製造方法。
- 前記細胞培養物が、メラニン産生細胞であり、前記ハイドロゲルの弾性率が5~48kPaである請求項11から13のいずれかに記載の細胞培養物の製造方法。
- 前記細胞培養物が、腹腔由来の未分化食細胞であり、前記ハイドロゲルの弾性率が13~19kPaである請求項11から13のいずれかに記載の細胞培養物の製造方法。
- 前記細胞培養物が、心筋細胞であり、前記ハイドロゲルの弾性率が16~67kPaである請求項11から13のいずれかに記載の細胞培養物の製造方法。
- 前記細胞培養物が、乳がん細胞であり、前記ハイドロゲルの弾性率が5、又は48kPaである請求項11から13のいずれかに記載の細胞培養物の製造方法。
- 前記細胞培養物が、子宮がん細胞から形成されたスフェロイドであり、前記ハイドロゲルの弾性率が1~30kPaである請求項11から13のいずれかに記載の細胞培養物の製造方法。
- 前記細胞培養物が、2次元形態の子宮がん細胞であり、前記ハイドロゲルの弾性率が30~500kPaである請求項11から13のいずれかに記載の細胞培養物の製造方法。
- 前記細胞培養物が、細胞塊であり、前記ハイドロゲルの弾性率が1~16kPaである請求項11から19のいずれかに記載の細胞培養物の製造方法。
- 細胞培養用ハイドロゲルの製造方法であって、
親水性高分子を、0.1~70質量%含む水溶液、又は物理ゲルに対し、
線量1~1000kGyの放射線を照射する照射工程を含み、
前記照射後のハイドロゲルは、細胞増殖活性が線維芽細胞増殖因子-1活性換算で100pg/mL以下であり、
前記照射後のハイドロゲルの弾性率は、0.1~500kPaであり、
前記照射後のハイドロゲルは、親水性高分子の放射線架橋構造を有し、
前記親水性高分子が、ゼラチン、及び人工タンパク質からなる群から選択される1以上の成分である、
細胞培養用ハイドロゲルの製造方法。 - 前記照射工程における水溶液中の前記親水性高分子の含有量が、3~70質量%である、
請求項21に記載の細胞培養用ハイドロゲルの製造方法。 - 前記照射後のハイドロゲルは、前記細胞増殖活性が、NIH-3T3細胞のCell Counting Kit-8を用いた28時間インキュベートにおける増殖活性として、失活処理された牛真皮由来I型コラーゲンゲルに比し、105%未満である請求項21又は22に記載の細胞培養用ハイドロゲルの製造方法。
- 前記親水性高分子を含む水溶液が、細胞増殖因子を、0以上1000ng/mL以下で含む、請求項21から23のいずれかに記載の製造方法。
- 所定の間隔の平行溝を表面に有するモールドを押圧する表面加工工程をさらに含む請求項21から24のいずれかに記載の製造方法。
- 前記照射後のハイドロゲルが、前記親水性高分子を、該ハイドロゲルに対して、1質量%以上30質量%以下含む、請求項21から25のいずれかに記載の製造方法。
- 前記照射後に、生理活性因子を添加する工程をさらに含む、請求項21から26のいずれかに記載の製造方法。
- 接着細胞培養用ハイドロゲルの製造方法である、請求項21から27のいずれかに記載の製造方法。
- 細胞培養用ハイドロゲルの製造方法であって、
親水性高分子を、0.1~70質量%含む水溶液、又は物理ゲルに対し、
線量1~1000kGyの放射線を照射する照射工程と、
前記照射工程の前に、又は前記照射工程と同時に、前記親水性高分子を含む水溶液、又は物理ゲルを50℃以上で1分以上加熱する加熱工程と、を含み、
前記照射後のハイドロゲルは、細胞増殖活性が線維芽細胞増殖因子-1活性換算で100pg/mL以下であり、
前記照射後のハイドロゲルの弾性率は、0.1~500kPaであり、
前記照射後のハイドロゲルは、親水性高分子の放射線架橋構造を有し、
前記親水性高分子が、ゼラチン、及び、人工タンパク質からなる群から選択される1以上の成分である、
細胞培養用ハイドロゲルの製造方法。
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