図1に示すように、電動車両100は、バッテリ1、モータコントローラ2、インバータ3、電動モータ4、減速機5、回転センサ6、電流センサ7、ドライブシャフト8、並びに、駆動輪9a及び駆動輪9b等を備える。なお、電動車両とは、電動モータを動力源とする車両をいう。電動モータを車両の駆動源または制動源の一部または全部として使用し得る車両は電動車両である。すなわち、電動車両には電気自動車の他、ハイブリッド自動車や燃料電池自動車等も含まれる。本実施形態の電動車両100は電動モータ4を動力源とする電気自動車である。
バッテリ1は、インバータ3を介して電動モータ4に接続しており、放電することによって電動モータ4に駆動電力を供給する。また、バッテリ1は、電動モータ4から回生電力の供給を受けることによって充電できる。
モータコントローラ2は、例えば、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び、入出力インタフェース(I/Oインタフェース)等から構成されるコンピュータである。モータコントローラ2は、電動車両100の車両情報に基づいて電動モータ4を直接的または間接的に制御するための制御信号を生成する。モータコントローラ2は電動モータ4を制御することにより、電動車両100の動作を統括的に制御する。
車両情報とは、電動車両100の全体または電動車両100を構成する各部の動作状態または制御状態を示す情報であり、いわゆる車両変数である。車両情報は、検出、計測、生成、算出、または推定等により得ることができる。例えば、電動車両100の前後方向の加速度(以下、車両前後加速度という)Ac[m/s2]、車速V[km/h]、アクセル開度θ[%]、電動モータ4の回転子位相α[rad]、電動モータ4の電流iu,iv,iw[A]、及び、バッテリ1の直流電圧値Vdc[V]等が電動車両100の車両情報である。モータコントローラ2は、例えばデジタル信号として入力されるこれらの車両情報を用いて電動モータ4を制御する。
電動モータ4を制御するための制御信号は、例えば、電動モータ4の電流を制御するPWM信号(Pulse Width Modulation signal)である。また、モータコントローラ2は、PWM信号に応じてインバータ3の駆動信号を生成する。インバータ3の駆動信号も電動モータ4を制御するための制御信号である。
インバータ3は、例えば、各相に対応して2個のスイッチング素子(例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOS-FET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)等のパワー半導体素子)を備える。インバータ3は、モータコントローラ2が生成する駆動信号に応じてスイッチング素子をオン/オフすることにより、バッテリ1から供給される直流電流を交流電流に変換し、電動モータ4に供給する電流を調節する。また、インバータ3は、回生制動力によって電動モータ4が発生する交流電流を直流電流に逆変換し、バッテリ1に供給する電流を調節する。
電動モータ4は、例えば三相交流モータであり、インバータ3から供給される交流電流により駆動力を発生する。電動モータ4が発生した駆動力は、減速機5及びドライブシャフト8を介して、左右一対の駆動輪9a及び駆動輪9bに伝達する。また、電動モータ4は、駆動輪9a及び駆動輪9bに連れ回されて回転する場合に、回生制動力を発生し、電動車両100の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する。
減速機5は、例えば複数の歯車から構成される。減速機5は、電動モータ4の回転速度を減じてドライブシャフト8に伝達することにより、減速比に比例した駆動トルクまたは制動トルク(以下、単にトルクという)を発生する。
回転センサ6は、電動モータ4の回転子位相αを検出し、モータコントローラ2に出力する。回転センサ6は、例えばレゾルバやエンコーダである。
電流センサ7は、電動モータ4に流れる電流を検出し、モータコントローラ2に出力する。本実施形態においては、電流センサ7は、電動モータ4の3相の交流の電流iu,iv,iwをそれぞれ検出する。なお、電流センサ7を用いて、任意の2相の電流を検出し、残りの1相の電流は演算によって求めてもよい。
なお、車両情報の1つである車両前後加速度Acは、図示しない加速度センサまたは他のコントローラ等を用いることにより、任意のタイミングで検出等できる。アクセル開度θは、図示しないアクセル開度センサまたは他のコントローラ等を用いて検出等できる。また、車速V及びバッテリ1の直流電圧値Vdc等の他の車両情報も同様であり、これら各種の車両情報は、図示しないセンサまたは他のコントローラを用いて、任意のタイミングで検出等できる。
図2に示すように、モータコントローラ2は、入力処理(ステップS201)、トルク目標値算出処理(ステップS202)、外乱トルク推定処理(ステップS203)、制振制御処理(ステップS204)、電流目標値算出処理(ステップS205)、及び、電流制御処理(ステップS206)を、この順に所定の演算周期ごとに実行する。
ステップS201の入力処理は、モータコントローラ2が、車両情報の入力を受け、必要に応じてステップS202以降の処理に用いる各種パラメータを算出等する処理である。本実施形態においては、モータコントローラ2は、各種センサから車両前後加速度Ac、アクセル開度θ、回転子位相α、電動モータ4の電流iu,iv,iw、及び、バッテリ1の直流電圧値Vdcを取得する。
また、モータコントローラ2は、これらの直接取得する車両情報のうち一部または全部を用いて、電動モータ4の電気角速度であるモータ電気角速度ωe[rad/s]、電動モータ4の機械的な角速度であるモータ回転速度ωm[rad/s]、単位変換をした電動モータ4のモータ回転数Nm[rpm]、及び、駆動輪9a,9bの角速度ωw[rad/s]、及び、車速V等を算出する。
具体的には、モータコントローラ2は、回転子位相αを時間微分することにより、モータ電気角速度ωeを算出する。その後、モータコントローラ2は、モータ電気角速度ωeを電動モータ4の極対数で除算することにより、モータ回転速度ωmを算出する。さらに、モータコントローラ2は、モータ回転速度ωmに単位変換係数(60/2π)を乗じることで、モータ回転数Nmを算出する。
また、モータコントローラ2は、モータ回転速度ωmまたはモータ回転数Nmを減速機5のファイナルギヤのギヤ比で除算することにより、駆動輪9a,9bの角速度ωwを算出する。そして、モータコントローラ2は、角速度ωwに駆動輪9a,9bの荷重半径r[m]を乗算し、これに単位変換係数(3600/1000)を乗算することにより、車速Vを算出する。
なお、車速Vは、上記のように算出する代わりに、メータやブレーキコントローラ等の他のコントローラとの通信することにより、直接に取得してもよい。また、複数の駆動輪9a,9bにそれぞれ車輪速センサを設けている場合には、各車輪速センサ値の平均値は車速Vとして使用できる。この他、車速Vは、GPS(Global Positioning System)等のセンサから取得した値を使用し、車輪速センサ等から選択した値を使用し、または、前後加速度センサ等を用いて算出する車速推定値(特開2002-127881号公報等参照)を使用してよい。
ステップS202のトルク目標値設定処理は、駆動トルクの目標値である駆動トルク目標値Tmを設定する処理である。モータコントローラ2は、例えば図3に示すアクセル開度-トルクテーブルを参照することにより、アクセル開度θ及びモータ回転速度ωmに基づいて駆動トルク目標値Tmを設定する。すなわち、ステップS202は、電動車両100の車両情報に基づいて、駆動トルク目標値Tmを設定する駆動トルク目標値設定ステップである。
ステップS203の外乱トルク推定処理は、外乱トルク推定値Td^を算出する処理である。外乱トルクとは、電動車両100に対する外乱に起因して増減したトルクの増加分または減少分の量である。外乱トルク推定値Td^は、外乱トルクの有無及びその量を表す推定値である。電動車両100に対する外乱とは、電動車両100の走行抵抗を増加または減少する外的要因である。電動車両100に対する外乱は、具体的に、空気抵抗、乗員数や積載量に応じた車両重量の変動によるモデル化誤差、駆動輪9a,9bの転がり抵抗、路面の勾配抵抗、及び、駆動輪9a,9bの路面への沈み込み等である。モータコントローラ2は、モータ回転速度ωmと、ステップS204で算出する最終トルク指令値Tmfの前回値と、を用いて外乱トルク推定値Td^を算出する。外乱トルク推定処理の詳細は後述する。
ステップS204の制振制御処理は、車両駆動系の共振を抑制する最終トルク指令値Tmfを算出する処理である。モータコントローラ2は、駆動トルク目標値Tmとモータ回転速度ωmを用いて、ドライブシャフト8のトルク応答を犠牲にすることなく、最終トルク指令値Tmfを算出する。車両駆動系の共振とは、典型的には、ドライブシャフト8等のねじり振動に起因した電動車両100の前後方向への回転振動(以下、前後振動という)である。この他、車両駆動系の共振には、駆動輪9a,9bの路面への沈み込み起因した電動車両100の上下方向への振動(以下、上下振動という)がある。本実施形態の最終トルク指令値Tmfにしたがった電動車両100の駆動制御は、電動車両100の前後振動及び上下振動の両方を抑制する。制振制御処理の詳細は後述する。
ステップS205の電流目標値算出処理は、電動モータ4のd軸電流idの目標値であるd軸電流目標値id*及びq軸電流iqの目標値であるq軸電流目標値iq*を算出する処理である。モータコントローラ2は、最終トルク指令値Tmf、モータ回転速度ωm、及び、直流電圧値Vdcと、d軸電流目標値id*及びq軸電流目標値iq*と、を対応付けるdq軸電流目標値テーブル(図示しない)を予め保有する。したがって、モータコントローラ2は、このdq軸電流目標値テーブルを参照することにより、最終トルク指令値Tmf、モータ回転速度ωm、及び、直流電圧値Vdcに対応するd軸電流目標値id*及びq軸電流目標値iq*を算出する。
ステップS206の電流制御処理は、電動モータ4の電流を制御することにより、電動車両100を駆動または制動するトルクを発生する処理である。電流制御処理では、モータコントローラ2は、まず、電動モータ4の電流iu,iv,iwと、回転子位相αと、に基づいてd軸電流id及びq軸電流iqを算出する。次に、モータコントローラ2は、d軸電流目標値id*及びq軸電流目標値iq*と、d軸電流id及びq軸電流iqと、の偏差に基づいて、d軸電圧指令値vd及びq軸電圧指令値vqを算出する。さらに、モータコントローラ2は、d軸電圧指令値vd及びq軸電圧指令値vqと、回転子位相αと、に基づいて、三相の電圧指令値vu,vv,vwを算出する。そして、モータコントローラ2は、三相の電圧指令値vu,vv,vw及び直流電圧値Vdcに基づいて、各相に入力するPWM信号のデューティ比tu,tv,tw[%]を算出する。
モータコントローラ2は、このように求めたPWM信号にしたがってインバータ3のスイッチング素子を開閉することにより電動モータ4を制御する。その結果、モータコントローラ2は、最終トルク指令値Tmfで指定する所望のトルクで、電動車両100を駆動または制動する。
<外乱トルク推定処理>
モータコントローラ2は、外乱トルク推定処理において、駆動トルク目標値Tmからモータ回転速度ωmまでの伝達特性Gp(s)を使用する。伝達特性Gp(s)は、図4に示す電動車両100の力学的モデルから導かれる運動方程式を用いて算出される。図4の電動車両100の力学的モデル及び/または運動方程式における各記号は次の通りである。
Jm :電動モータのイナーシャ
Jw :駆動輪のイナーシャ
M :車両の質量
KD :車両駆動系のねじり剛性
Kt :駆動輪と路面の摩擦に関する係数
N :オーバーオールギヤ比
r :駆動輪の荷重半径
ωm :モータ回転速度
Tm :駆動トルク目標値
TD :駆動輪のトルク
F :車両に加わる力
V :車両の速度(車速)
ωw :駆動輪の角速度
図4に示す電動車両100の力学的モデルから、以下の運動方程式を導くことができる。なお、式(1)ないし式(3)における記号「*」は時間微分を表す。
上記の運動方程式(1)~(5)に基づいて、伝達特性Gp(s)を求めると、式(6)で表すことができる。また、式(6)における係数a1~a4及び係数b0~b3は、式(7)~(14)で表される。
上記式(6)に示す伝達特性Gp(s)の極と零点を調べると、1つの極と1つの零点は極めて近い値を示す。これは、下記の式(15)におけるαとβが極めて近い値を示すことを意味する。
したがって、式(15)においてα=βと近似する極零相殺を行うことにより、下記の式(16)のように、(2次)/(3次)形式の伝達特性Gp(s)を得ることができる。
また、式(16)の分母において使用する係数a1´と係数a3´を用いて、固有振動角速度ωpを下記の式(17)で表すことができる。さらに、固有振動角速度ωpは、下記の式(18)によって共振周波数(固有振動周波数)fpに変換することができる。
本実施形態では、モータコントローラ2は、外乱トルク推定処理において式(16)の伝達特性Gp(s)を使用するが、式(16)の伝達特性Gp(s)の代わりに、下記の式(19)で表す伝達特性Gp(s)を用いてもよい。式(19)の伝達特性Gp(s)で用いる等価質量Mvは、式(20)に示すように車両の質量M、電動モータ4のイナーシャJm、及び、駆動輪9a,9bのイナーシャJwから求まる。また、式(19)の伝達特性Gp(s)で用いる係数KMは、式(21)で表される。
図5に示すように、外乱トルク推定処理は、第1のモータトルク推定値算出ステップと、第2のモータトルク推定値算出ステップと、トルク推定偏差算出ステップと、勾配抵抗推定値算出ステップと、勾配抵抗減算ステップと、を含む。
第1のモータトルク推定値算出ステップでは、第1のモータトルク推定フィルタ501を用いてモータ回転速度ωmをフィルタリング処理することにより、第1のモータトルク推定値T1^が算出される。第1のモータトルク推定フィルタ501は、時定数τvを用いて下記の式(22)で表されるローパスフィルタH1(s)と、伝達特性Gp(s)と、を用いて構成され、H1(s)/Gp(s)なる特性を有する。
第2のモータトルク推定値算出ステップでは、第2のモータトルク推定フィルタ502を用いて最終トルク指令値Tmfをフィルタリング処理することにより、第2のモータトルク推定値T2^が算出される。第2のモータトルク推定フィルタ502は、例えば、第1のモータトルク推定フィルタ501を構成するものと同じローパスフィルタH1(s)である。
トルク推定偏差算出ステップでは、減算器503を用いて、第2のモータトルク推定値T2^から第1のモータトルク推定値T1^を減算することにより、トルク推定偏差Tδ^が算出される。
勾配抵抗推定値算出ステップでは、乗算器504を用いて、車両前後加速度Acと係数Kgを用いて勾配抵抗推定値Tg^が算出される。勾配抵抗は路面の勾配に起因する走行抵抗である。図6に示すように、傾斜ψに対して下記の式(23)で表される係数Kgを乗算することで、電動車両100が勾配で釣り合うために必要な勾配抵抗推定値Tg^が算出できる。記号「r」は駆動輪9a,9bの荷重半径であり、記号「M」は車両の質量であり、記号「g」は重力加速度であり、かつ、記号「N」はオーバーオールギヤ比である。
勾配抵抗減算ステップでは、減算器505を用いて、トルク推定偏差Tδ^から勾配抵抗推定値Tg^を減算することにより、外乱トルク推定値Td^が算出される。
上記の算出方法から分かるとおり、外乱トルク推定値Td^は、あらゆる外乱に起因した外乱トルクを統括的に推定するトルク推定偏差Tδ^から、勾配抵抗推定値Tg^を減算することにより、勾配抵抗の影響を低減または除外している。このため、外乱要因は運転条件によって異なるが、外乱トルク推定処理では、勾配抵抗を除く他の外乱トルクを一括して推定することができる。この勾配抵抗を除く他の外乱トルクには、駆動輪9a,9bの路面への沈み込みによって増加する走行抵抗(以下、路面の走行抵抗という)の増加分が含まれる。また、複数ある外乱要因の中でも路面の勾配と路面への駆動輪9a,9bの沈み込みは、走行抵抗を特に大きく変動させる要因である。しかし、外乱トルク推定値Td^は、勾配抵抗の寄与を低減または除外している。このため、砂地路面、深雪路面または泥濘路面等の駆動輪9a,9bが路面に沈み込む路面(以下、軟路面という)を走行する場合、外乱トルク推定値Td^は、実質的に、路面が軟路面であること、軟路面に駆動輪9a,9bの沈み込みがあること、及び、軟路面であることによる路面の走行抵抗の増加を表す。一方、駆動輪9a,9bが路面にほぼ沈み込まない通常の路面(以下、硬路面という)を走行する場合、外乱トルク推定値Td^に大きな変動が生じない。この事実は、実質的に、路面が硬路面であること、駆動輪9a,9bの沈み込みがないこと、及び、路面の走行抵抗の増加がないことを表す。すなわち、外乱トルク推定値Td^の大局的な変動は、路面の走行抵抗の変動を表す。したがって、上記の外乱トルク推定処理(ステップS203)は、外乱トルク推定値Td^を算出することによって、電動車両100が走行する路面の走行抵抗を検出する走行抵抗検出ステップとして機能する。
<制振制御処理>
図7に示すように、制振制御処理は、モータ回転速度ωmに基づいて駆動トルク目標値Tmを補正することにより、車両駆動系の共振を抑制する最終トルク指令値Tmfを算出する最終トルク指令値算出ステップを含む。本実施形態においては、最終トルク指令値算出ステップは、第1のトルク目標値算出ステップと、第2のトルク目標値算出ステップと、加算ステップと、を含む。
第1のトルク目標値算出ステップでは、制振フィルタ701を用いて第1のトルク目標値Tm1が算出される。制振フィルタ701は、フィードフォワード補償器であり、駆動トルク目標値Tmをフィルタリング処理することにより、第1のトルク目標値Tm1を出力する。制振フィルタ701は、理想伝達特性Gm(s)と、伝達特性Gp(s)と、を用いて構成され、Gm(s)/Gp(s)なる特性を有する。理想伝達特性Gm(s)は、駆動トルク目標値Tmからモータ回転速度ωmの伝達特性の理想モデルである。一方、伝達特性Gp(s)は、前述の通り、車両駆動系のねじり振動を考慮した実際的な伝達特性のモデルである。したがって、第1のトルク目標値Tm1は、車両駆動系のねじり振動を発生させる要因を低減したトルク目標値である。
第2のトルク目標値算出ステップでは、外乱抑制フィルタ702を用いて第2のトルク目標値Tm2が算出される。外乱抑制フィルタ702は、フィードバック補償器であり、最終トルク指令値Tmfの前回値、モータ回転速度ωm、及び、外乱トルク推定値Td^の入力を受け、第2のトルク目標値Tm2を出力する。
より具体的には、第2のトルク目標値算出ステップは、モータ回転速度推定値算出ステップと、偏差算出ステップと、推定外乱算出ステップと、ゲイン乗算ステップと、を含む。
モータ回転速度推定値算出ステップでは、電動車両100の車両モデル711を用いて最終トルク指令値Tmfの前回値からモータ回転速度推定値ωm^が算出される。車両モデル711は、電動車両100の現実的なモデルである伝達特性Gp(s)である。
偏差算出ステップでは、減算器712を用いて、モータ回転速度ωmとモータ回転速度推定値ωm^の偏差Δが算出される。本実施形態においては、減算器712はモータ回転速度推定値ωm^からモータ回転速度ωmを減算することにより、偏差Δを算出する。
推定外乱算出ステップでは、外乱推定フィルタ713を用いて偏差Δから所定周波数帯域の成分である外乱成分を抽出することにより、推定外乱d^が算出される。外乱推定フィルタ713は、伝達特性H2(s)と伝達特性Gp(s)を用いて構成され、H2(s)/Gp(s)なる特性を有する。
伝達特性H2(s)は、分母次数と分子次数の差分が、伝達特性Gp(s)の分母次数と分子次数の差分以上となるように設定されている。また、伝達特性H2(s)は、例えばバンドパスフィルタで構成することができる。伝達特性H2(s)をバンドパスフィルタとする場合、外乱抑制フィルタ702は電動車両100に発生する車両駆動系の共振を選択的に低減するフィードバック要素となる。
図8(A)に示すように、伝達特性H2(s)は、原則として、ローパス側及びハイパス側の減衰特性がほぼ一致し、かつ、車両駆動系のねじり振動の共振周波数fpが対数軸(logスケール)上で通過帯域の中央値近傍となるように設定する。この場合、外乱抑制フィルタ702は、車両駆動系のねじり振動の共振に対して最も大きな振動抑制効果を奏するからである。
なお、ローパス側の減衰特性とは、伝達特性H2(s)の低周波側のカットオフ周波数fLCの近傍における通過特性の変化態様をいう。また、ハイパス側の減衰特性とは、伝達特性H2(s)の高周波側のカットオフ周波数fHCの近傍における通過特性の変化態様をいう。そして、ローパス側及びハイパス側の減衰特性について「一致」とは、カットオフ周波数fLCとカットオフ周波数fHCの対数軸上における中央値に対して、ローパス側の減衰特性とハイパス側の減衰特性が対称であることをいう。また、「近傍」とは、電動車両100の現実的な駆動において実質的な差異がない程度に具体的な値の変動を許容し得ることを意味する。
伝達特性H2(s)を1次のハイパスフィルタと1次のローパスフィルタで構成する場合、伝達特性H2(s)は、ハイパスフィルタの時定数τHとローパスフィルタの時定数τLを用いて、下記の式(24)で表す構成とすることができる。また、時定数τH,τL及びカットオフ周波数fHC,fLCは、車両駆動系のねじり振動に起因した前後振動の共振周波数fp、所定の周波数fq、及び、所定の係数kを用いて、下記の式(25)~(27)で表される。前後振動の共振周波数fpは前述のように電動車両100の車両モデルによって予め定まる定数である。また、係数kは、具体的な電動車両100に応じて実験またはシミュレーション等により、外乱抑制フィルタ702が機能するように設定する。
さらに、伝達特性H2(s)は、ローパスフィルタのカットオフ周波数fLCを決定する周波数fq(式(28)参照)を、外乱トルク推定値Td^に応じて切り替え可能な変数とする。外乱トルク推定値Td^が所定値C0未満である場合、fq=fpに設定する。この場合、ハイパスフィルタとローパスフィルタの各カットオフ周波数fHC,fLCの中心周波数は、車両駆動系のねじり振動に起因した前後振動の共振周波数fpになる。一方、外乱トルク推定値Td^が所定値C0以上である場合、変数である周波数fqを、駆動輪9a,9bの路面への沈み込みに起因した上下振動の共振周波数fp1を用いて、fq=fp1に設定する。その結果、図8(B)に示すように、伝達特性H2(s)の低周波側のカットオフ周波数fLCは、低周波側に切り替わり、通過帯域は上下振動の共振周波数fp1を含むようになる。
上下振動の共振周波数fp1は、電動車両100が走行する路面が、砂地路面、深雪路面、泥濘路面等のどの種類の軟路面であるか、及び/または、これらへの実際的な駆動輪9a,9bの沈み込みの程度によって異なる場合がある。しかし、上下振動の共振周波数fp1は、具体的な軟路面の種類及び実際的な駆動輪9a,9bの沈み込みの程度によらず、少なくとも前後振動の共振周波数fpと比較して低周波数である。また、前後振動の共振周波数fpと上下振動の共振周波数fp1のギャップと比較して、軟路面の種類や駆動輪9a,9bの沈み込みの程度による上下振動の共振周波数fp1の変動は小さい。したがって、上下振動の共振周波数fp1は、電動車両100の車両モデルに基づいて予め設定しておくことができる。
低周波側のカットオフ周波数fLCの切り替えに用いる所定値C0は、外乱トルク推定値Td^が、前後振動による成分に加えて、上下振動による成分を含むか否かを判断する基準である。また、路面の走行抵抗によって上下振動が発生する場合、外乱トルク推定値Td^の増大は顕著である。このため、所定値C0は、上下振動の発生の有無を判断できる範囲内において、外乱トルク推定値Td^に対して任意にかつ予め設定しておくことができる。このように所定値C0が設定されていることにより、外乱トルク推定値Td^が所定値C0以上の場合、モータコントローラ2は、電動車両100が走行する路面が走行抵抗の高い軟路面であると判断できる。そして、モータコントローラ2は、変数である周波数fqを、上下振動を考慮した低い周波数に変更する。
ゲイン乗算ステップでは、乗算器714を用いて、上記のように算出した推定外乱d^にフィードバックゲインKfbを乗じることで、第2のトルク目標値Tm2が算出される。図9に示すように、フィードバックゲインKfbは、外乱トルク推定値Td^に応じて可変である。また、フィードバックゲインKfbは、外乱トルク推定値Td^に応じて大きく設定する。例えば、フィードバックゲインKfbは、外乱トルク推定値Td^に応じて単調に増加するように設定する。
加算ステップでは、加算器703を用いて、第1のトルク目標値Tm1と第2のトルク目標値Tm2を加算することにより、最終トルク指令値Tmfが算出される。すなわち、最終トルク指令値算出ステップでは、理想伝達特性Gm(s)からずれに基づいて駆動トルク目標値Tmを補正するフィードフォワード補正と、推定外乱d^に基づいて駆動トルク目標値Tmの値を補正するフィードバック補正と、の2つの補正処理を行うことで最終トルク指令値Tmfが算出される。なお、推定外乱d^はモータ回転速度ωmに基づいて算出するものであるから、上記フィードバック補正によって、最終トルク指令値Tmfはモータ回転速度ωmに基づいて算出されるといえる。
モータコントローラ2は、この最終トルク指令値Tmfにしたがって電動車両100を駆動する。ただし、電動車両100が実際に走行する場合、電動車両100には外乱が加わるので、電動車両100のモータ回転速度ωmとモータ回転速度推定値ωm^には外乱に起因したずれがある。このため、偏差Δは常にはゼロとはならないので、偏差Δが実質的にゼロになるまでの間、外乱抑制フィルタ702を用いたフィードバック補正が制振効果を発揮する。
上記制振制御処理に加えて、本発明の電動車両100の制御方法は、さらに補正量変更ステップを含む。補正量変更ステップでは、路面の走行抵抗に基づいて駆動トルク目標値Tmの補正量が変更される。上記の通り、駆動トルク目標値Tmの補正には、制振フィルタ701を用いたフィードフォワード補正と、外乱抑制フィルタ702を用いたフィードバック補正と、の2種類があるが、補正量変更ステップでは、外乱抑制フィルタ702を用いたフィードバック補正の補正量を変更する。また、外乱トルク推定値Td^が路面の走行抵抗を表すので、補正量変更ステップでは、外乱トルク推定値Td^を用いることで、路面の走行抵抗に基づいた補正量の変更を行う。
補正量変更ステップは、ゲイン変更ステップ、及び/または、周波数帯域変更ステップで構成することができる。本実施形態では、補正量変更ステップは、ゲイン変更ステップと周波数帯域変更ステップの両方を含む。
ゲイン変更ステップは、路面の走行抵抗を表す外乱トルク推定値Td^に基づいて、推定外乱d^に乗じるフィードバックゲインKfbの値を変更する。また、ゲイン変更ステップでは、外乱トルク推定値Td^が大きいほど、フィードバックゲインKfbの値を大きく設定する。
周波数帯域変更ステップでは、路面の走行抵抗を表す外乱トルク推定値Td^に基づいて、外乱推定フィルタ713の通過帯域である所定周波数帯域が変更される。そして、この所定周波数帯域の変更は、所定周波数帯域の下限値、すなわち外乱推定フィルタ713のカットオフ周波数fLCを変更することによって行う。また、この所定周波数帯域の変更は、カットオフ周波数fLCを低周波側に変更することにより、所定周波数帯域を拡大するものである。
上記のように、電動車両100の制御方法の一態様は、電動モータ4を動力源とする電動車両100の制御方法であって、電動車両100の車両情報に基づいて、駆動トルク目標値Tmを設定する駆動トルク目標値設定ステップと、電動モータ4の回転速度であるモータ回転速度ωmに基づいて駆動トルク目標値Tmを補正することにより、車両駆動系の共振を抑制する最終トルク指令値Tmfを算出する最終トルク指令値算出ステップと、電動車両100が走行する路面の走行抵抗を検出する走行抵抗検出ステップと、走行抵抗に基づいて駆動トルク目標値Tmの補正量を変更する補正量変更ステップと、を含む。このため、軟路面への駆動輪9a,9bの沈み込みによって走行抵抗が変化する場合においても、前後振動の共振点の周波数成分と上下振動の共振点の周波数成分の両方を駆動トルク目標値Tmから低減または除去した最終トルク指令値Tmfを設定できる。したがって、砂地路面等の軟路面で、停止状態または減速状態からアクセルを踏み込んだ場合等においても、前後振動と上下振動の両方について的確かつ十分な制振効果を得ることができる。その結果、砂地路面等においても滑らかに電動車両100を加速することができる。
例えば、比較例の電動車両は、モータ回転速度ωmに基づいて駆動トルク目標値Tmをフィードバック補正することにより、車両駆動系のねじり振動を抑制する最終トルク指令値Tmfを算出する。ただし、比較例の電動車両は、走行抵抗検出ステップと補正量変更ステップを行わないものとする。この場合、図10(A)に示すように、比較例の電動車両を、時刻t0から時刻t1まで停止している状態から、時刻t1において一定量のアクセルを踏み込んで発進すると、アクセルの踏み込みに応じて駆動トルク目標値Tmは一定値になる。また、駆動輪9a,9bが回り始めることで砂地路面に沈み込むので前進方向への走行抵抗が大きくなり、外乱トルク推定値Td^は正の一定値となる。また、外乱トルク推定値Td^は路面の走行抵抗の増加によって硬路面の場合よりも大きい値であるが、比較例の電動車両ではこれを検出等せず一定の制御を行う。一方、比較例の電動車両は、モータ回転速度ωmに基づいたフィードバック制御によって駆動トルク目標値Tmを補正するので、アクセルの踏み込みに応じて最終トルク指令値Tmfは段階的に上昇を始めると、車両駆動系のねじり振動に起因した前後振動を抑制する一定のフィードバック補正が働き、その後、最終トルク指令値Tmfは振動的に変化する。
この結果、図10(B)に示すようにモータ回転数Nmも振動的に変化するので、図10(C)に示すように駆動輪の沈み込みも振動的に変化する。その結果、図10(D)に示すように、比較例の電動車両には駆動輪の沈み込みによる上下振動が発生する。また、この上下振動は比較例の電動車両で行う制振制御処理によってはほとんど減衰せず、長時間にわたって継続してしまう。
これに対し、電動車両100では、モータ回転速度ωmに基づいた駆動トルク目標値Tmのフィードバック補正制御に加えて、走行抵抗検出ステップと補正量変更ステップが行われる。この電動車両100を、砂地路面で時刻t0から時刻t1まで停止している状態から、時刻t1において一定量のアクセルを踏み込んで発進する場合、図11(A)に示すように、アクセルの踏み込みに応じて駆動トルク目標値Tmは一定値になることは比較例の電動車両と同様である。また、駆動輪9a,9bが回り始めることで駆動輪9a,9bが砂地路面に沈み込むので前進方向への走行抵抗が大きくなり、外乱トルク推定値Td^が正の一定値となるのも比較例の電動車両と同様である。
しかし、電動車両100では、外乱トルク推定値Td^により路面の走行抵抗が検出される。そして、外乱トルク推定値Td^を所定値C0と比較することで、走行抵抗が高い軟路面を走行していると判断されると、外乱トルク推定値Td^に応じてフィードバックゲインKfbを変更する。また、外乱トルク推定値Td^に応じて外乱推定フィルタ713の所定周波数帯域が拡張され、前後振動の共振周波数fpに加えて、上下振動の共振周波数fp1を抽出して、最終トルク指令値Tmfにフィードバックされる。
これにより、最終トルク指令値Tmfは、アクセルの踏み込みを開始した時刻t1からごく初期の時刻t2前後まで最終トルク指令値Tmfは振動的に変化する。しかし、この最終トルク指令値Tmfの振動は早期に減衰し、時刻t3から時刻t5及びこれ以降については一定値に収束する。その結果、図11(B)に示すように、モータ回転数Nmの振動も抑制されるので、図11(C)に示すように、駆動輪9a,9bの沈み込み量も収束する。したがって、電動車両100では比較例の電動車両と同様に車両駆動系のねじり振動による前後振動が抑制されるうえに、図11(D)に示すように、比較例の電動車両と比較して、電動車両100には駆動輪9a,9bの沈み込みによる上下振動がほとんど発生しない。また、電動車両100ではわずかに発生する上下振動も早期に減衰する。また、電動車両100は、比較例の電動車両に対して駆動輪9a,9bの沈み込み量が小さい。さらに、電動車両100では、駆動輪9a,9bの沈み込み量は早期にほぼ一定の値に安定する。このため、電動車両100は、砂地路面においても走行抵抗の増加を最小限に抑え、比較例の電動車両よりも早く高い加速度を得ることができる。
上記の他、電動車両100の制御方法の一態様は、電動車両100のモデルである伝達特性Gp(s)に基づいて、電動モータ4の回転速度の推定値であるモータ回転速度推定値ωm^を算出するモータ回転速度推定値算出ステップと、電動モータ4の実際の回転速度であるモータ回転速度ωmと、モータ回転速度推定値ωm^と、の偏差Δに基づいて、電動車両100に加わる外乱の推定値である推定外乱d^を算出する推定外乱算出ステップと、を含み、最終トルク指令値算出ステップでは、推定外乱d^に基づいて駆動トルク目標値Tmを補正する。この推定外乱d^は、車両駆動系の前後振動の共振周波数fpだけでなく、上下振動が発生した場合には、上下振動の共振周波数fp1をも含むものである。したがって、上記制御方法によれば、電動車両100の前後振動だけでなく、上下振動も的確かつ十分に抑制し得る、より具体的かつ特に効果的な制御ロジックが実現される。
また、電動車両100の制御方法の一態様は、推定外乱d^にフィードバックゲインKfbを乗じるゲイン乗算ステップを有し、補正量変更ステップは、走行抵抗に基づいてフィードバックゲインKfbの値を変更するゲイン変更ステップを含む。これにより、電動車両100の前後振動及び上下振動に対する特に的確かつ十分な制振効果が得られやすい。
特に、電動車両100の制御方法の一態様は、ゲイン変更ステップにおいて、走行抵抗が大きいほどフィードバックゲインKfbの値を大きく設定する。これにより、電動車両100は、路面の走行抵抗に応じた音振抑制性能を発揮できる。例えば、外乱トルク推定値Td^によらず、一律に従来の電動車両よりも大きなフィードバックゲインKfbを乗じることもできる。しかし、外乱トルク推定値Td^等によらず全域でフィードバックゲインKfbを大きく設定すると、車速V等によっては可聴域の高周波ノイズを含む音振が発生し、ドライバに違和感を与える場合がある。このため、上記のように上下振動が発生する走行抵抗が大きい走行シーンを判断する。そして、少なくとも硬路面で軟路面用の高いフィードバックゲインKfbを使用しないように切り替えることで、適切な音振抑制性能を維持しつつ、上下振動に対する的確かつ十分な制振効果を得ることができる。
電動車両100の制御方法の一態様は、推定外乱算出ステップでは、モータ回転速度ωmとモータ回転速度推定値ωm^と偏差Δから所定周波数帯域の成分を抽出することによって推定外乱d^を算出し、補正量変更ステップは、走行抵抗に基づいて所定周波数帯域を変更する周波数帯域変更ステップを含む。これにより、上下振動が発生した場合、推定外乱d^には確実に上下振動の共振周波数fp1の成分が含まれるようになるので、上下振動に対する的確かつ十分な制振効果を特に得やすい。
また、電動車両100の制御方法の一態様は、周波数帯域変更ステップでは、走行抵抗に基づいて所定周波数帯域の下限値を変更する。通常は、前後振動の共振周波数fpと比較して、上下振動の共振周波数fp1は低周波数であるから、所定周波数帯域の上限値である高周波側のカットオフ周波数fHCでなく、下限値である低周波側のカットオフ周波数fLCを調整すれば足りる。したがって、所定周波数帯域の下限値を変更すれば、僅かな調整で的確かつ十分な上限振動の抑制効果を得ることができる。
さらに、電動車両100の制御方法の一態様は、周波数帯域変更ステップでは、走行抵抗に基づいて所定周波数帯域の下限値を低周波側に変更することにより、所定周波数帯域を拡大する。このように所定周波数帯域の下限値を低周波側に変更し、外乱推定フィルタ713の低周波側の感度(ゲイン)を上げることで、必要最小限の調整で推定外乱d^に上下振動の共振周波数fp1を含ませることができる。その結果、特に的確かつ十分に上下振動の制振効果を得ることができる。
電動車両100の制御方法の一態様は、走行抵抗検出ステップでは、モータ回転速度ωmを用いて推定する第1のモータトルク推定値T1^と、電動車両100に入力する最終トルク指令値Tmfを用いて推定する第2のモータトルク推定値T2^と、の偏差であるトルク推定偏差Tδ^に基づいて走行抵抗を表す外乱トルク推定値Td^を演算する。これにより、砂地、深雪、または泥濘等の走行抵抗を的確に推定することができる。そして、この外乱トルク推定値Td^に応じて、駆動トルク目標値Tmのフィードバック補正の補正量を変更するので、特に的確かつ十分な上下振動の抑制効果を得ることができる。
また、電動車両100の制御方法の一態様では、走行抵抗検出ステップは、電動車両100の前後方向の加速度である車両前後加速度Acに基づいて勾配抵抗推定値Tg^を算出する勾配抵抗推定値算出ステップと、第1のモータトルク推定値T1^と第2のモータトルク推定値T2^との偏差であるトルク推定偏差Tδ^から勾配抵抗推定値Tg^を減算して走行抵抗を演算する勾配抵抗減算ステップと、を含む。すなわち、走行抵抗を表す外乱トルク推定値Td^の算出において、勾配抵抗推定値Tg^が減算される。これにより、路面の走行抵抗は、路面の勾配の影響を低減または除去して評価される。したがって、勾配抵抗の影響を低減等した外乱トルク推定値Td^に応じて、駆動トルク目標値Tmのフィードバック補正の補正量を変更するので、特に的確かつ十分な上下振動の抑制効果を得ることができる。
上記実施形態は、電動モータ4を動力源とする電動車両100の制御装置であって、電動車両100の車両情報に基づいて、駆動トルク目標値Tmを設定する駆動トルク目標値設定部と、電動モータ4の回転速度であるモータ回転速度ωmに基づいて駆動トルク目標値Tmを補正することにより、車両駆動系の共振を抑制する最終トルク指令値Tmfを算出する最終トルク指令値算出部と、電動車両100が走行する路面の走行抵抗を検出する走行抵抗検出部と、走行抵抗に基づいて駆動トルク目標値Tmの補正量を変更する補正量変更部と、を備える電動車両の制御装置を含む。モータコントローラ2は、駆動トルク目標値設定部、走行抵抗検出部、最終トルク指令値算出部、及び、補正量変更部として機能する。
なお、上記実施形態の電動車両100の制御方法は、砂地路面等における的確かつ十分な制振効果が得られる範囲内で、一部の構成を変更または省略し、または、新たな構成を付加してよい。例えば、上記実施形態においては、補正量変更ステップがゲイン変更ステップと周波数帯域変更ステップの両方を含んでいるが、ゲイン変更ステップまたは周波数帯域変更ステップのいずれか一方のみで補正量変更ステップを構成してもよい。ゲイン変更ステップまたは周波数帯域変更ステップのいずれか一方のみを実施する場合でも、砂地路面等の軟路面において、電動車両100の前後振動だけでなく、上下振動を抑制する効果が得られるからである。ただし、上記実施形態のように、ゲイン変更ステップと周波数帯域変更ステップの両方を実施する場合、電動車両100は、特に的確かつ十分な上下振動の抑制効果を得やすい。
また、上記実施形態では、周波数帯域変更ステップにおいて、外乱推定フィルタ713の低周波側のカットオフ周波数fLCを定める周波数fqを、前後振動の共振周波数fpと上下振動の共振周波数fp1で切り替えているが、周波数fqは、連続的または段階的に変更することができる。例えば、上記実施形態においては、上下振動の共振周波数fp1をほぼ一定のものとしているが、厳密にいえば、軟路面であってもその路面の種類及び路面の状態によって発生する共振周波数fp1は異なる。また、路面の種類及び路面の状態によっては、共振周波数が異なる複数の上下振動が発生する場合がある。したがって、路面の種類及び路面の状態に基づいて、周波数fqは、共振周波数fp及び共振周波数fp1の2値に限らず、連続的または段階的に変更すれば、さらに的確に上下振動を抑制できる場合がある。このような路面の種類及び路面の状態の取得において、モータコントローラ2は、上記実施形態における外乱トルク推定値Td^の他に、地図情報、位置情報、及び/または天候に関する情報等を併用できる。
また、上記実施形態では、周波数帯域変更ステップにおいて、モータコントローラ2は、外乱推定フィルタ713の低周波側のカットオフ周波数fLCを変更しているが、低周波側のカットオフ周波数fLCを変更する代わりに、または、低周波側のカットオフ周波数fLCの変更に加えて、高周波側のカットオフ周波数fHCを変更してよい。多くの場合、上下振動の共振周波数fp1は前後振動の共振周波数fpよりも低周波数であるが、軟路面の具体的な特性等によっては、前後振動の共振周波数fpよりも高周波数の上下振動が発生する場合がある。また、軟路面の具体的な特性等によっては、前後振動の共振周波数fpよりも低周波数の上下振動とともに、前後振動の共振周波数fpよりも高周波数の上下振動が発生する場合がある。このような場合に、周波数帯域変更ステップにおいて、モータコントローラ2が高周波側のカットオフ周波数fHCを変更すれば、高周波数の上下振動を的確かつ十分に抑制できる。なお、モータコントローラ2が高周波側のカットオフ周波数fHCを変更可能とするには、上記実施形態の低周波側のカットオフ周波数fLCの切り替えと同様に、式(26)において共振周波数fpの部分を変数にし、発生する高周波数の上下振動の共振周波数を考慮し、外乱トルク推定値Td^の値に応じてこれを切り替えればよい。
また、上記実施形態では、周波数帯域変更ステップにおいて、上下振動が発生する場合に、カットオフ周波数fLCをさらに低周波側に切り替える。これは、fq=fpとする場合に上下振動の共振周波数fp1よりもカットオフ周波数fLCの方が大きいからである。ただし、周波数帯域変更ステップにおいて、モータコントローラ2が、カットオフ周波数fLCを低周波側に切り替えるか、高周波側に切り替えるかは任意である。すなわち、周波数帯域変更ステップにおいては、カットオフ周波数fLCを高周波側に切り替えることができる。例えば、fq=fpとする場合に上下振動の共振周波数fp1よりもカットオフ周波数fLCの方が小さい外乱推定フィルタを使用するのであれば、上記実施形態とは逆に、上下振動が発生しないことを判断して、カットオフ周波数fLCを高周波側に切り替えることにより、上下振動の共振周波数fp1を除くことができる。このような制御は、上下振動を的確かつ十分に抑制しつつ、かつ、路面の走行抵抗に応じた音振抑制性能を確保するものである。高周波側のカットオフ周波数fHCを可変にする場合も上記と同様である。
上記実施形態の電動車両100の制御方法は、外乱トルク推定値Td^の算出により、路面の走行抵抗を検出しているが、路面の走行抵抗を適切に把握できれば、上記実施形態における外乱トルク推定値Td^の算出以外の方法で路面の走行抵抗を検出してよい。また、勾配抵抗の推定等についても同様であり、勾配抵抗の推定等は上記実施形態の方法以外の方法で推定等してよい。
なお、上記実施形態においては、1つの電動モータ4を用いて左右一対の駆動輪9a,9bを駆動する2輪駆動(2WD)の電動車両100を用いて説明したが、本発明は4輪駆動(4WD)の電動車両1200にも好適である。図12に示すように、4WDの電動車両1200は、例えば、フロント駆動システム1201fと、リア駆動システム1201rと、フロント駆動システム1201f及びリア駆動システム1201rに共通のバッテリ1210及びモータコントローラ1220と、を備える。
フロント駆動システム1201fは、フロントインバータ3f、フロント駆動モータ4f、フロント減速機5f、フロント回転センサ6f、フロント電流センサ7f、フロントドライブシャフト8f、及び、一対のフロント駆動輪9af,9bfを備える。また、リア駆動システム1201rは、リアインバータ3r、リア駆動モータ4r、リア減速機5r、リア回転センサ6r、リア電流センサ7r、リアドライブシャフト8r、及び、一対のリア駆動輪9ar,9brを備える。
フロントインバータ3f及びリアインバータ3rは、電動車両100のインバータ3に対応する。フロント駆動モータ4f及びリア駆動モータ4rは、電動車両100の電動モータ4に対応する。フロント減速機5f及びリア減速機5rは、電動車両100の減速機5に対応する。フロント回転センサ6f及びリア回転センサ6rは、電動車両100の回転センサ6に対応し、フロント回転子位相αfとリア回転子位相αrをそれぞれモータコントローラ1220に入力する。フロント電流センサ7f及びリア電流センサ7rは、電動車両100の電流センサ7に対応し、フロント電流iuf,ivf,iwfとリア電流iur,ivr,iwrをそれぞれモータコントローラ1220に入力する。フロントドライブシャフト8f及びリアドライブシャフト8rは、電動車両100のドライブシャフト8に対応する。フロント駆動輪9af,9bf及びリア駆動輪9ar,9brは、電動車両100の駆動輪9a,9bに対応する。
バッテリ1210は、電動車両100のバッテリ1に対応する1または複数のバッテリである。バッテリ1210は、フロントインバータ3f及びリアインバータ3rを介してフロント駆動モータ4f及びリア駆動モータ4rにそれぞれ電力を供給し、または回生電力の入力を受ける。
モータコントローラ1220は、電動車両100のモータコントローラ2に対応し、電動車両100のモータコントローラ2と同様に、フロント駆動システム1201f及びリア駆動システム1201rを制御する。ただし、モータコントローラ1220は、フロント駆動システム1201fまたはリア駆動システム1201rのいずれかにおいて電動車両100と同様に路面の走行抵抗を検出すればよい。また、モータコントローラ1220は、検出した路面の走行抵抗に基づいて、フロント駆動システム1201fまたはリア駆動システム1201rのいずれかの駆動トルク目標値Tmの補正量を変更することにより、砂地路面等における上下振動を抑制できる。また、フロント駆動システム1201f及びリア駆動システム1201rの両方において路面の走行抵抗に基づいた駆動トルク目標値Tmの補正量を変更する場合、モータコントローラ1220は、フロント駆動システム1201fとリア駆動システム1201rで独立に駆動トルク目標値Tmの補正量を変更できる。もちろん、モータコントローラ1220は、フロント駆動システム1201f及びリア駆動システム1201rで共通に駆動トルク目標値Tmの補正量を変更してもよい。