以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をよりよく理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものでは無い。また、本出願において、「A~B」とは、A以上B以下であることを示している。本出願における各図面に記載した構成の形状および寸法は、実際の形状および寸法を必ずしも反映させたものではなく、図面の明瞭化および簡略化のために適宜変更している。
(用語の定義)
本明細書において、溶融めっき浴を構成する各種の溶融された金属(溶融金属)を「溶融めっき浴金属」と称することがある。また、本明細書において、溶融めっき浴を用いて溶融めっきを施される対象としての鋼材の材質および形状は、格別の記載が無い限り特に限定されない。また、「鋼板」は、不都合の無い限り「鋼帯」と読み替えてもよい。
なお、一般に溶融めっき方法において「めっき性」とは、金属材料と溶融めっき浴とのめっき濡れ性、および、金属材料と金属材料の表面に形成されためっき層との間のめっき密着性の両方を指してめっき性と呼ぶことがある。本明細書においても、従来と同様の意味で、「めっき性」、「めっき濡れ性」、「めっき密着性」を用いる。
<発明の知見の概略的な説明>
一般に、(i)還元処理を行っていない鋼板(鋼帯)を溶融めっき浴に進入させる、または(ii)スナウトを用いずに大気(酸素濃度の高い)雰囲気下にて鋼板を溶融めっき浴に進入させると、鋼板と溶融めっき浴金属との反応が阻害され、良好なめっき性が得られない。この理由について、図13を用いて詳細に説明すれば、以下のとおりである。図13の(a)は、大気雰囲気下にて鋼板を溶融めっき浴に進入させる様子を示す模式図である。図13の(b)は、(a)に示した図の領域(A1)について拡大して模式的に示した部分拡大図である。
図13の(a)に示すように、大気雰囲気下にて、還元処理を行っていない鋼板100を溶融めっき浴110に進入させる。鋼板100の表面には酸化皮膜(酸化膜)が形成されている。また、溶融めっき浴110の内部の溶融めっき浴金属111と、溶融めっき浴110の外部の雰囲気(大気)と、の境界(すなわち溶融めっき浴110の表面)には、浴面酸化物112が存在する。
図13の(b)に示すように、鋼板100は、(i)浴面酸化物112を巻き込むとともに、(ii)溶融めっき浴110表面の雰囲気ガス(空気)により形成される空気巻き込み層120を巻き込むようにして、溶融めっき浴110に進入する。その結果、溶融めっき浴110の内部において、溶融めっき浴金属111と鋼板100の酸化膜101との間に反応阻害部130が形成される。この反応阻害部130は、浴面酸化物112および空気巻き込み層120により複合的に形成される。酸化膜101および反応阻害部130によって鋼板100と溶融めっき浴金属111との反応が阻害されることにより、溶融めっき浴110から引き上げた後のめっき品の表面にはめっき欠陥(ピンホールまたは不めっき等)が容易に生じる。
それゆえ、従来技術における溶融めっき方法では、前述のように、加熱炉を用いて鋼板表面の酸化膜を還元した鋼板を、還元雰囲気に保持されたスナウト内を通じて溶融めっき浴に進入させている(例えば、特許文献1、2を参照)。この場合、溶融めっき浴に鋼板が進入すると、鋼板と溶融めっき浴金属との反応が迅速に進行する。
本発明者らは、上記のような従来技術とは異なる新たな方法によって、エネルギー消費量の低減を図ることができる溶融めっき方法について鋭意検討を行った。その結果、鋼材を溶融めっき浴に進入させる際に、該溶融めっき浴に特定条件の振動を付与することにより生じる振動活性化効果によって、鋼材と溶融めっき浴金属との反応性を高めることができるという新規な知見を見出した。この知見によれば、常温の鋼材を大気雰囲気下で溶融めっき浴に進入させた場合であっても、鋼材のめっき濡れ性を高めることができる。このようなことは、従来の溶融めっき設備では溶融めっき部の前段階に還元加熱炉が配置された構成であったことからもわかるように、従来技術では全く予想されていなかった現象である。
本発明者らが見出した知見と従来技術との相違点について、より詳しく説明すれば以下のとおりである。すなわち、従来、大出力(例えば数百W級)の超音波振動子を用いて高い音圧の振動を溶融めっき浴に付与する技術が提案されており、この場合、例えば図14に示すような音響スペクトル(特徴的なピークがほとんど見られないホワイトノイズ様のスペクトル)が観察される。図14は、380Wの出力の超音波振動子を用いて溶融めっき浴に振動を付与した場合に観察される音響スペクトルである。この種の技術では、溶融めっき浴への大出力の超音波照射によるキャビテーション効果を利用して、鋼板表面に存在する酸化膜(または還元処理後の鋼板表面に残存する酸化膜)を物理的に破壊することにより、鋼板のめっき性を向上させていた。
これに対して、本発明者らは、小出力の超音波振動子を用いた場合であっても、本発明の振動活性化効果が認められ、鋼板のめっき濡れ性が効果的に向上することを見出した。この場合、具体的には後述するが、音響スペクトルに特徴的なピークが観測される。本発明者らは、従来技術とは異なる、低い音圧においても発現する上記振動活性化効果について、以下のように考えている。
具体的には、まだ明らかではないが、溶融めっき浴に低い音圧を付与する場合においても、溶融状態にある溶融めっき金属が音波により圧力振動し、この圧力振動に起因してめっき浴中に気泡が発生する。そして、発生した気泡が圧力振動に伴って圧壊するときに気泡の周囲に向かって衝撃波が発生すると考えられる。また、圧力振動が原因となって、気泡が膨張収縮を繰返すと考えられ、この膨張収縮によって、気泡の周囲に溶融めっき金属の局所流れが発生することも考えられる。音響エネルギーに基づく上記衝撃波および上記局所流れ等の作用によって、鋼材とめっき浴との界面において物質移動が促進され、境界層の厚みが小さくなる、または物質移動速度が大きくなる等の効果をもたらす。これにより、鋼材と溶融めっき浴との間のめっき濡れ性が確保されるという機構が考えられる。
なお、従来技術(高い音圧の振動を溶融めっき浴に付与する場合)においても、鋼材と溶融めっき浴との界面における物質移動の促進という現象は生じると考えられる。しかし、本発明の知見によれば、高い音圧の振動を溶融めっき浴に付与する必要はなく、振動のエネルギーは鋼材と溶融めっき浴との間のめっき濡れ性を確保できる振動活性化効果が生じる程度であればよいことがわかった。また、高い音圧の振動をめっき浴に付与するという従来技術には、以下のような点から不利益がある。
すなわち、高い音圧の振動を溶融めっき浴に付与する場合には、衝撃波および局所流れと同時に起こるキャビテーション効果により、鋼材が溶融めっき浴中に迅速に溶解してしまい、いわゆるエロージョンと呼ばれる腐食現象が起こりやすくなるという不都合が発生する。これは、鋼材が鋼板である場合、溶融めっき後における鋼板の板厚が溶融めっき浴に進入させる前よりも小さくなることを意味し、溶融めっき鋼板の製品板厚を保証することが難しくなるという懸念がある。また、鋼材が溶融めっき浴中に溶解する反応は、溶融めっき浴中における鉄(Fe)をはじめとする鋼材の成分の濃度が上昇することであり、その結果、ドロスの発生につながりやすくなるという懸念もある。さらに、高い音圧の振動を溶融めっき浴に付与するために浴中へ浸漬される部材(超音波ホーン)等のエロージョンも起こりやすくなり、それら部材の維持管理が煩雑になる。
本発明者らが見出した知見に基づく本発明の一実施形態における溶融めっき方法(以下、単に本溶融めっき方法と称することがある)について、概略的に説明すれば以下のとおりである。すなわち、(i)鋼材に対して超音波振動を与える、または(ii)例えば振動板を用いて溶融めっき浴中に超音波振動を与える、ことにより、溶融めっき浴中に低い音圧の振動を付与する。そして、溶融めっき浴中に浸漬した音響測定器を用いて音響スペクトルを測定する。本溶融めっき方法では、該音響スペクトルが所定の条件を満たすように、上記超音波振動を溶融めっき浴に付与する。鋼材または振動板に対して付与した超音波振動によって溶融めっき浴中には振動活性化効果が生じる。上記所定の条件は、一定以上の振動活性化効果が生じるように、振動活性化効果の強さの程度を溶融めっき浴内の音響スペクトルを用いて間接的に特定するために規定される。
そして、本発明者らは、更なる検討の結果、以下の知見を得た。すなわち、上記したことと同様に所定の条件を満たすように、溶融Al系めっき浴中に超音波振動を付与しつつ溶融めっきを行う。これにより、溶融Al系めっきを施した後の鋼材は、その表面におけるめっき密着性が向上することを見出した。
上記のような溶融めっき方法によってめっき密着性を向上させることができる原理について詳細は明らかではないが、図15を用いて説明すれば以下のとおりである。図15の(a)、(b)は、本発明例における、鋼板について溶融Al系めっきを施す様子を示す模式図である。
図15の(a)、(b)に示すように、厚さの比較的厚い酸化膜6が形成されている本発明例1の鋼板2に対して、超音波振動を付与しつつ溶融Al系めっきを施す場合、超音波振動によって溶融Al系めっき浴中に振動活性化効果が生じる。すなわち、溶融状態にある溶融めっき浴金属21(この場合、溶融したAl系合金)が音波により圧力振動し、この圧力振動に起因して溶融Al系めっき浴中に気泡が発生する。そして、発生した気泡が圧力振動に伴って圧壊するときに気泡の周囲に向かって衝撃波が発生すると考えられる。また、圧力振動が原因となって、気泡が膨張収縮を繰返すと考えられ、この膨張収縮によって、気泡の周囲に溶融めっき浴金属21の局所流れが発生することも考えられる。音響エネルギーに基づく上記衝撃波および上記局所流れ等の作用によって、鋼材と溶融Al系めっき浴との界面において物質移動が促進され、境界層の厚みが小さくなる、または物質移動速度が大きくなる等の効果をもたらすと考えられる。そして、溶融めっき浴金属21に生じた振動活性化領域23から酸化膜6にエネルギーが与えられる。溶融めっき後の鋼板2の表面には、酸化膜6、鋼板2、溶融めっき浴金属21の間における相互の原子拡散の結果、反応層7が形成される。この反応層7は、鋼板2の成分と、溶融めっき浴金属21と、を含む合金層である。反応層7によって、鋼板2とめっき層8とは、互いに比較的強固に結合される。その結果、溶融めっきを施した後の鋼板2の表面におけるめっき密着性が向上すると考えられる。
上記のことは、図15の(b)に示す、厚さの比較的薄い酸化膜6が形成されている本発明例2の鋼板2に対して、超音波振動を付与しつつ溶融Al系めっきを施す場合においても同様と考えられる。
本溶融めっき方法においては、酸化膜6の厚さは特に限定されない。少なくとも、鋼板2の表面に一般的な厚さの酸化膜6が形成されている場合、酸化膜6の厚さが、めっき後の鋼板2におけるめっき密着性に及ぼす影響は小さい。詳細な機構は明らかではないが、溶融Al系めっき浴を用いる場合、めっき浴の温度が比較的高い、Alの反応性が高い、等の要因によって、鋼板2とめっき層8との間に反応層7が比較的生成し易いものと考えられる。
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本実施形態では、金属材料のうち板形状の鋼材(鋼板)を用いて、溶融Al系めっき浴に該鋼板を浸漬した後に引き上げることにより、該鋼板に溶融Al系めっきを施す溶融めっき方法(いわゆるどぶ漬けめっき)について説明する。また、本実施形態における溶融めっき方法では、上記どぶ漬けめっきを大気雰囲気下で行う。なお、本発明の一態様における溶融めっき方法は、必ずしもこれに限定されない。本溶融めっき方法は、例えば、一般に溶融めっきを施す対象となる、各種の金属材料に適用することができる。また、本溶融めっき方法は、鋼材として鋼帯を用いて、該鋼帯に連続的に溶融めっきを施す連続式溶融めっき方法に適用することができる。また、本溶融めっき方法は、鋼材として鋼線を用いて、該鋼線にどぶ漬けめっきまたは連続式溶融めっきを施す場合に適用することもできる。
(鋼板)
本実施形態の溶融めっき方法に用いられる鋼板は、公知の各種鋼板の中から用途に応じて適宜選択されてよく、鋼板を構成する鋼種としては、例えば、炭素鋼(普通鋼、高強度鋼(高Si・高Mn鋼))、ステンレス鋼、等が挙げられる。上記鋼板の板厚は、特に限定されないが、例えば0.2mm~6.0mmであってもよい。また、上記鋼板の形状は特に限定されるものではないが、例えば長方形であってもよい。一般に溶融Al系めっきに用いられる鋼板を、本実施形態の溶融めっき方法に用いることができる。
上記鋼板は、溶融Al系めっき処理の前に還元加熱処理等を行うことが不要である。そのため、溶融Al系めっき浴に投入される時点において、上記鋼板は、その表面に酸化膜を有していてもよい。酸化膜の厚さは、鋼板を構成する鋼種にもよるが、例えば冷延鋼板では、未処理の状態で、例えば数10nm~数100nm程度である。本実施形態の溶融めっき方法では、溶融めっき浴に投入される時点において、鋼板の酸化膜の厚さは特に限定されない。
また、本実施形態の溶融めっき方法では、溶融Al系めっき浴に進入させる前の上記鋼板の温度は常温であってもよい。換言すれば、鋼板の温度は、例えば、常温~700℃であってもよい。
そして、本実施形態の溶融めっき方法では、上記鋼板は、溶融Al系めっき処理の前にフラックス処理等を行うことが不要である。ただし、上記鋼板は、溶融Al系めっき処理の前に、必要に応じて、加熱処理、還元処理、フラックス処理等が行われていても構わない。
(溶融めっき浴)
本実施形態における溶融Al系めっき浴としては、公知の各種溶融Al系めっき浴を用いることができる。溶融Al系めっき浴としては、例えば、Al系めっき浴、Al-Si系めっき浴、等が挙げられる。
本溶融めっき方法における溶融Al系めっき浴の温度は、公知の溶融めっき方法において用いられる溶融Al系めっき浴の温度と同様であってよい。
例えば、本発明の一実施形態における溶融Al系めっき浴は、アルミニウムを主成分とし、例えば、Al濃度が85質量%以上である。
溶融Al系めっき浴は、Siを0.1質量%以上12質量%以下、およびFeを1.0質量%以上3.0質量%以下含んでいてもよい。溶融Al系めっき浴は、残部がAlおよび不可避的不純物からなっていてもよい。
(溶融めっき装置)
本実施形態における溶融めっき方法を実施する溶融めっき装置1について、図1および図2を用いて説明する。なお、溶融めっき装置1は一例であって、本溶融めっき方法を実施する装置は、特に限定されるものではない。図1は、本実施の形態における溶融めっき方法を実施する溶融めっき装置1を示す概略図である。
図1に示すように、溶融めっき装置1は、超音波ホーン(振動発生装置)10と、超音波電源装置D1と、溶融Al系めっき浴20と、測定装置30とを備えている。超音波ホーン10には、超音波振動子11が設けられている。超音波ホーン10の先端に、鋼板2がボルト12によって固定されている。
超音波電源装置D1は、発振器13、電力増幅器14、および電力計15を含む。発振器13は任意周波数の交流信号を発生し、電力増幅器14は当該交流信号を増幅して超音波信号を生成する。超音波ホーン10は、電力計15を経由して供給される上記超音波信号を受信する。これにより、超音波振動子11は超音波振動する。超音波振動子11の振動によって、超音波ホーン10と接続された鋼板2が振動する。
鋼板2の振動によって、溶融Al系めっき浴20中に振動活性化効果が生じ、溶融Al系めっき浴20の内部における鋼板2の近傍に振動活性化領域23が生成する。溶融Al系めっき浴20は、ポット24内に貯留されており、溶融めっき浴金属21と浴面酸化物22とを含む。振動活性化領域23は、溶融Al系めっき浴20における溶融めっき浴金属21および浴面酸化物22の両方に生じる。
溶融Al系めっき浴20には、導波棒31が挿入されている。導波棒31の一端は溶融めっき浴金属21の振動の周波数を取得可能なように溶融Al系めっき浴20の内部の適切な位置に配置されており、他端は振動センサ32と接続されている。振動センサ32は圧電素子を用いて導波棒31の振動を電気信号に変換する機器である。振動センサ32から送信された電気信号は、アンプ33を介して増幅された後、スペクトラムアナライザ34に伝達される。スペクトラムアナライザ34は表示部34aを備えている。本実施形態では、スペクトラムアナライザ34が表示部34aを備える場合について説明するが、表示部34aは、スペクトラムアナライザ34に接続された外部機器にて代替されてもよい。
例えば、超音波振動子11の周波数を20kHzに設定し、超音波振動子11の出力を小さくして低い音圧の振動を溶融Al系めっき浴20中に付与した状態にて、鋼板2に対してどぶ漬けめっきを行った場合、典型的には、図2に示すような音響スペクトルが表示部34aに表示される。なお、ここでは、導波棒31と鋼板2との距離L1を10mm、導波棒31の先端の深さ(先端から溶融Al系めっき浴20の浴面までの距離)D1を30mmとした。図2は、溶融めっき装置1が備えるスペクトラムアナライザ34にて測定される音響スペクトルの一例を示すグラフである。図2のグラフにおいて、横軸は周波数であり、縦軸はスペクトラムアナライザ34にて測定された電力値である。この電力値の単位dBm(より正確にはdBmW:デジベルミリワット)は、1mWを基準として電力をデシベルの値で表したものである。このような電力値は、音響スペクトルの強度を表す指標として用いることができる。また、音響スペクトルにおける強度(図2の縦軸)の値の大きさは、溶融Al系めっき浴20中の音圧の大きさに対応する。そのため、音響スペクトルにおける強度のピークは、音圧のピークに対応する。
図2に示すように、音響スペクトルには、溶融Al系めっき浴20に付与した上記振動に対応する基音(周波数:20kHz)を示すピークと、倍音(基音の整数倍の周波数)を示すピークとが主に表れている。ここで、上記基音の周波数を基本周波数fとし、音響スペクトルを測定した周波数の範囲(幅)を測定周波数帯域とする。また、基本周波数fおよび複数の倍音周波数(整数倍音:2f、3f、4f、5f)のそれぞれの中間周波数(具体的には3/2f、5/2f、7/2f、9/2f)から所定の幅の範囲を倍音間帯域(特定周波数帯域)とする。なお、本明細書では、説明の便宜上、基本周波数fと2倍音周波数2fとの中間周波数から所定の幅の範囲についても倍音間帯域と称する。
本実施形態では、倍音間帯域の所定の幅について、中間周波数を中心として1/3fの範囲とする。但し、この所定の幅は必ずしもこれに限定されず、音響スペクトルにおける主たる複数のピーク(基本周波数におけるピークおよび倍音周波数における複数のピーク)のうち隣り合うピーク間の周波数帯域となるように適切に設定すればよい。
低い音圧(例えば10Wの出力)の振動を溶融Al系めっき浴20中に付与した場合、図2に示すように、音響スペクトルにおいて、上記倍音間帯域(例えば基音の3/2倍の周波数(ここでは30kHz)を中心として1/3fの範囲の領域)にもピークが表れる。そして、超音波振動子11の出力を高くするに従い、上記倍音間帯域の強度も上昇する(後述の図3参照)。このような強度の上昇が生じる理由については明らかでは無いが、例えば、溶融Al系めっき浴20中における振動に伴う気泡の生成および消滅に起因し得ると考えられる。
ところで、超音波ホーン10を用いて鋼板2に振動を与えたとしても、その振動によって、溶融めっき浴金属21にどのような振動が生じているか、換言すれば鋼板2の近傍にどの程度活性な振動活性化領域23が形成されているか、ということを評価することは容易では無い。これは、例えば、溶融Al系めっき浴20の成分組成および温度等に応じて、溶融めっき浴金属21の例えば粘度、蒸気圧、密度、振動の伝播速度、音響インピーダンス等が変化するためである。つまり、溶融めっき浴金属21への鋼板2の振動の伝わり方は様々な条件の影響を受けるため、超音波振動子11の出力のみに基づいて振動活性化領域23の範囲、活性度等を評価および制御することは難しい。
そこで、本発明者らは、音響スペクトルにおける上記倍音間帯域のスペクトル強度と、音響スペクトルの全体のスペクトル強度との比に着目した。このことについて、図3を参照して以下に説明する。図3は、超音波出力を変化させた場合に、溶融めっき装置1が備えるスペクトラムアナライザにて測定される音響スペクトルの一例を示すグラフである。図3では、横軸に周波数(Hz)、縦軸に強度(dBm)を示している。また、ここでは、基本周波数を20kHzとし、超音波出力を0.1W~30Wに変化させた結果について示している。
図3に示すように、超音波振動子11の出力を0.1W~30Wに変化させた場合、出力が高いほど、音響スペクトルの強度が周波数全域において全体的に増大した。また、溶融Al系めっき浴20に振動を付与していない場合(超音波振動子11の出力が0W)に、スペクトラムアナライザにて測定される音響スペクトルの強度はノイズと見なすことができる。この測定系では超音波振動を付与しない場合のレベル(ノイズレベル)は、-100dBmであった。
いずれの出力においても、スペクトラムアナライザにて測定される音響スペクトルには、基本周波数(20kHz)におけるピークと倍音周波数におけるピークとが顕著に現れるとともに、これらのピークの間(倍音間帯域)においても強度の増大および減少がみられる。倍音間帯域では、強度が相対的に小さい幾つかのピークが存在しており、これらのピークは出力に応じてピーク周波数が様々に変動した。本発明者らはこの倍音間帯域における強度(強度の増大および減少)と、溶融Al系めっき浴20中に浸漬した鋼板のめっき性との間に関係があることを見出した。具体的には、以下のとおりである。なお、本明細書において、上記倍音間帯域における強度の平均値を倍音間平均強度と称することがある。
図4の(a)は、音響スペクトルにおける測定周波数帯域全体の平均強度と、倍音間平均強度と、におよぼす超音波出力の影響について示すグラフである。図4の(a)では、横軸に超音波出力、縦軸に平均強度を示している。図4の(a)に示すように、超音波出力が10W以下では、測定周波数帯域全体における平均強度よりも倍音間平均強度が小さい。一方で、超音波出力が20W以上になると、測定周波数帯域全体における平均強度と倍音間平均強度とは互いに同等レベルになる。
上記測定周波数帯域全体の平均強度および倍音間平均強度について、より正確に評価するために、上記ノイズレベルを基準となるように評価した。すなわち、上記測定周波数帯域全体の平均強度および倍音間平均強度を、ノイズレベルに対する信号強度比として評価するようにした。その上で、それら平均強度の比と、出力との関係について整理した。その結果について、図4の(b)を用いて以下に説明する。
図4の(b)は、音響スペクトルにおける測定周波数帯域全体の平均強度(ノイズ基準)に対する、倍音間平均強度(ノイズ基準)の強度比、におよぼす超音波出力の影響について示すグラフである。図4の(b)では、横軸に超音波出力、縦軸に上記強度比を示している。本明細書では、上記強度比(後述の式(1))について、特徴的強度比と称することがある。
図4の(b)に示すように、超音波出力が0.1Wから20Wまで増大するにつれて、上記特徴的強度比は大きくなった。超音波出力が20W以上に大きくなると、特徴的強度比は約1となり略一定となった。
本発明者らは、溶融めっき装置1を用いて、超音波出力を様々に変化させて、鋼板2の溶融めっきを行った。その結果、上記特徴的強度比が0.2よりも大きくなる条件にて溶融めっきを行うと、鋼板2のめっき濡れ性が向上することを見出した。つまり、溶融Al系めっき浴20内に上記の条件となるような振動を付与することによって、鋼板2の表面と溶融めっき浴金属21との反応性を向上させることができる。具体的には、溶融めっき後のめっき品の表面における不めっき率を10%未満とすることができる。
また、本発明者らは、鋼板2を溶融Al系めっき浴20に進入させて、上記の式(1)の関係を満たすように溶融Al系めっき浴20中に振動を付与しながら溶融めっきを行うと、鋼板2のめっき密着性が向上することを見出した。具体的には、溶融めっき後のめっき品について曲げ加工を行い、めっき剥離試験(後述の実施例1の説明を参照)を行ったときのめっき剥離率を10%未満とすることができる。条件によっては、めっき剥離率を5%未満とすることができ、めっき剥離率を0%とすることもできる。溶融Al系めっき浴20としては、Alを85質量%以上含有する溶融Al系めっき浴を用いることが好ましい。
上記のことは以下のように整理することができる。
すなわち、本発明の一態様における溶融めっき方法は、アルミニウムを主成分とする溶融Al系めっき浴中に鋼材(金属材料)を進入させて、溶融Al系の溶融金属に上記金属材料が接触している間に上記溶融Al系めっき浴中に振動を付与しつつ上記鋼材に上記溶融金属を被覆させるめっき工程を含む。上記溶融Al系めっき浴に付与する上記振動の周波数を基本周波数とする。上記めっき工程では、上記溶融Al系めっき浴中にて測定される音響スペクトルが下記式(1)の関係を満たすように、上記振動を付与する:
(IB-NB)/(IA-NA)>0.2 ・・・(1)
ここで、
IA:測定周波数帯域全体における音圧の平均値
IB:(i)上記基本周波数における音圧のピークと2倍音周波数における音圧のピークとの間、並びに(ii)複数の整数倍音周波数(2以上の整数)における音圧のピークのうち隣り合うピーク間、の特定周波数帯域における音圧の平均値
NA:上記測定周波数帯域全体における、上記振動を付与していない場合の音圧の平均値
NB:上記IBに関して規定される上記特定周波数帯域における、上記振動を付与していない場合の音圧の平均値
である)。
(振動周波数・出力)
上記の例では、超音波ホーン10は、超音波振動子11が振動することによって、20kHzの周波数の振動を鋼板2に付与していた。しかし、これに限定されず、超音波ホーン10は、例えば、15kHz~150kHzの周波数の振動を鋼板2に付与してもよい。また、超音波ホーン10によって鋼板2に付与する振動の強度(超音波振動子11の出力)は、上記式(1)の関係を満たす音響スペクトルが溶融Al系めっき浴中に生じるように設定されればよい。例えば、超音波振動子11がどの程度の出力であれば、上記式(1)の関係を満たす音響スペクトルが溶融Al系めっき浴中に生じるかを、鋼板および溶融Al系めっき浴20等の各種の条件毎に予め調べておけばよい。
(有利な効果)
以上のように、本発明の一態様における溶融めっき方法によれば、鋼板2と溶融Al系めっき浴20とが接触している間に、所定条件となる(上記式(1)の関係を満たす)ような振動を鋼板2に付与する。これにより、溶融Al系めっき浴20内に巻き込んだ浴面酸化物22および大気が浴中で分散される。すなわち、反応阻害部が浴中で分散される。また、鋼板2と溶融Al系めっき浴20との界面において物質移動が促進され、境界層の厚みが小さくなる、または物質移動速度が大きくなる等の効果をもたらす。これにより、鋼板2と溶融Al系めっき浴20との間のめっき濡れ性が確保される。そのため、溶融めっき浴金属21と鋼板2との反応がスムーズに進行する。その結果、予め加熱処理(還元処理)を行っていない鋼板2を用いた場合であっても、鋼板2のめっき濡れ性を良好なものとすることができる。したがって、溶融めっき浴金属21と鋼板2とのめっき濡れ性が良好であるとともに、従来よりもエネルギー消費量の低減を図ることができる溶融めっき方法を提供することができる。
また、本発明の一態様における溶融めっき方法によれば、フラックス処理を行うことが不要である。そのため、ランニングコストを低減することができるとともに、作業環境を改善することができる。
そして、本発明の一態様における溶融めっき方法によれば、溶融めっき設備を新規に導入する場合に、加熱炉を設置するための費用および材料が不要となり、導入コストを低減することができる。また、加熱炉は炉長が長いことから、加熱炉を設置不要であることによって溶融めっき設備の全長を短くすることもできる。
さらに、本発明の一態様における溶融めっき方法によれば、溶融めっき後における鋼板2の表面に反応層7を好適に形成させることができ、反応層7を介して鋼板2と溶融Al系めっき層とが比較的強固に結合する。その結果、予め加熱処理(還元処理)を行っていない鋼板2を用いた場合であっても、鋼板2のめっき密着性を良好なものとすることができる。したがって、溶融めっき後の鋼板2におけるめっき密着性が良好であるとともに、従来よりもエネルギー消費量の低減を図ることができる溶融めっき方法を提供することができる。
(前処理)
本実施形態の溶融めっき方法では、溶融めっき処理(めっき工程)前の加熱処理および還元処理のいずれかを省略してもよく、それらの両方を省略してもよい。また、本実施形態の溶融めっき方法では、めっき工程の前に、鋼板2に対して、従来よりも軽度の加熱処理および還元処理を行ってもよく、この場合、それらの両方の処理におけるエネルギー消費量を低減することができる。
なお、上記鋼板2は、溶融めっき処理の前に各種の前処理が行われていてもよい。例えば、めっき工程の前処理として還元処理が行われていても別段構わない。また、必要に応じて、鋼板2に脱脂処理または酸洗処理が実施されていてもよく、それらの両方が実施されていてもよい。本溶融めっき方法では、めっき工程の前処理として、鋼板2に対する脱脂処理および酸洗処理を行ってもよく、少なくとも脱脂処理を行うことが特に好ましい。脱脂処理に続いて酸洗処理を行ってもよい。
また、本発明の一態様における溶融めっき方法では、めっき工程に先立って、鋼板2の表面に形成された酸化膜の厚さを低減する前処理を施す膜厚調整工程を含んでいてもよい。膜厚調整工程では、例えば鋼板2に対して酸洗処理を施すことにより、鋼板2の表面に形成された酸化膜の厚さを低減する。
(その他の構成)
本発明の一態様における溶融めっき方法では、上記測定周波数帯域は、上記基本周波数を含むとともに上記基本周波数の4倍以上の周波数幅であってもよい。例えば、上記測定周波数帯域は、10kHz以上90kHz以下であってもよい。
また、上記特定周波数帯域における各ピークの間は、上記基本周波数をfとし、(n+(1/2))fの周波数(nは自然数)を中心として(1/3)fの周波数幅であってもよい。
上記めっき工程では、振動発生装置(超音波ホーン10)を用いて上記めっき浴中に上記振動を付与するとともに、上記振動発生装置の出力が0.5W以上であってもよい。本溶融めっき方法では、上記振動発生装置の出力が0.5W以上30W以下であり、かつ鋼板2を介して溶融Al系めっき浴20に付与される振動の周波数が15kHz以上150kHz以下であってもよい。また、振動発生装置は、15kHz以上150kHz以下の周波数の振動を溶融Al系めっき浴20に付与するとともに、出力が1W以上30W以下であってもよく、5W以上30W以下であってもよい。
また、上記めっき工程では、振動発生装置を用いて上記溶融Al系めっき浴中に上記振動を付与する時間は2秒以上90秒以下であってよい。そして、上記めっき工程において、鋼板2は、溶融Al系めっき浴20中に浸漬する直前の温度(インレット温度)が、室温であってもよく、例えば100℃以下であってもよく、50℃以下であってもよい。
上記めっき工程では、振動検知装置(例えば振動センサ32、アンプ33、スペクトラムアナライザ34)を用いて上記溶融Al系めっき浴中の上記音響スペクトルを測定する。上記溶融Al系めっき浴中における上記振動の検知箇所と鋼板2との距離が1mm以上10mm以下であってもよい。上記距離は、超音波ホーン10の振動を開始させる前の、溶融Al系めっき浴20中に鋼板2を浸漬した状態において測定される。
〔実施例1〕
本発明の実施形態1における溶融めっき方法の一実施例について以下に説明する。
本実施例では、本発明の実施形態1における溶融めっき方法を実施する装置として、図5に示す溶融めっき装置を用いた。図5は、本発明の一態様における溶融めっき方法を大気雰囲気下でのどぶ漬けめっきに適用した場合に用いられる溶融めっき装置の一例を示す概略図である。
図5に示すように、溶融めっき装置40は、ルツボ炉41の内部にカーボンルツボ42が収容されており、加熱帯43に抵抗加熱を生じさせることによって、カーボンルツボ42を加熱する。カーボンルツボ42内には溶融めっき浴金属21が貯留されており、溶融めっき浴金属21の表面に浴面酸化物22が生成している。溶融めっき装置40では、溶融めっき浴金属21の表面は大気雰囲気となっている。
前述した溶融めっき装置1(図1を参照)と同様に、溶融めっき装置40は、超音波ホーン10を備えており、超音波ホーン10の先端に鋼板2が固定されている。超音波ホーン10の超音波振動子11は、超音波電源装置D1(発振器13、電力増幅器14、および電力計15を含む)から供給される超音波信号を受信して、超音波電源装置D1によって設定された出力にて鋼板2に振動を付与する。
超音波振動子11としては市販のボルト締めランジュバン型振動子を用いることができる。また、超音波ホーン10としては、アルミニウム製、チタン製、セラミックス製などの超音波ホーンを用いることができる。
また、溶融めっき装置40は、音響スペクトルを測定する測定装置50(図1の測定装置30に対応)として、導波棒51、アコースティックエミッションセンサ(以下、AEセンサと称することがある)52、および計測部53を備えている。計測部53は、スペクトルアナライザおよびアンプを含む。溶融めっき浴金属21中に導波棒51の一端が浸漬し、他端がAEセンサ52に接続している。
本実施例における溶融めっき装置40に用いた各種機器は、具体的には以下のとおりである。
(超音波振動供給系統)
・超音波振動子11:本多電子製、ボルト締めランジュバン型振動子
・超音波ホーン10:材質<アルミ合金A2024A>
・発振器13:アジレント・テクノロジー(株)社製、33220A
・電力増幅器14:(株)メステック社製、M-2141
・電力計15:日置電機(株)社製、PW-3335
(超音波振動測定系統)
・導波棒51:材質<SUS430>、φ6mm×300mm
・AEセンサ52:(株)エヌエフ回路設計ブロック社製、AE-900M
・アンプ:(株)エヌエフ回路設計ブロック社製、AE9922
・スペクトラムアナライザ:アジレント・テクノロジー(株)社製、E4408B。
また、本実施例では鋼板2(めっき母材)として、下表1に示す炭素鋼(鋼種Aおよび鋼種B)または下表2に示すステンレス鋼(鋼種C~鋼種F)を用いた。鋼種A~Fは、いずれも焼鈍材である。
なお、表2中の記載における「-」は成分分析を行っていないことを、「tr.」は分析の検出限界未満であったことを示す。
(めっき濡れ性試験方法)
どぶ漬けめっき後の試料を供試材として、めっき濡れ性の評価を以下のように行った。図6は、めっき後の供試材3の様子について示す側面図である。図6に示すように、めっき後の供試材3には、溶融Al系めっきが施されためっき領域3aが形成される。また、めっき領域3aの一部には、溶融Al系めっきが施されていない不めっき部4が存在し得る。
例えば、供試材3のうち、溶融Al系めっき浴に浸漬した部分の深さをL11とし、供試材3の幅の長さをL12とする。この場合、図6に示す板面(両面)において、L11×L12×2が理想的なめっき領域の面積αとなる。また、公知の面積測定手段を用いて、不めっき部4の面積βを測定する。不めっき部4の面積βは、供試材3の両方のめっき面(両方の板面)について測定した面積である。そして、(β/α)×100を計算することにより不めっき率を算出した。以下の基準で供試材3のめっき性を評価し、△評価以上を合格とした。
◎:不めっき率が0%
○:不めっき率が0%より大きく1%未満
△:不めっき率が1%以上10%未満
×:不めっき率が10%以上80%未満
××:不めっき率が80%以上。
(めっき密着性試験方法)
図16はめっき密着性試験について説明するための模式図である。図16の(a)に示すように、溶融Al系めっき後の鋼板を供試材200として、先ず供試材200に0T密着曲げ加工(180°曲げ加工)を施した。そして、曲げ加工部201にセロハンテープ210を貼り付けて密着させた後、セロハンテープ210を引き剥がした。
次いで、図16の(b)に示すように、剥がしたセロハンテープ210をゼロックス用紙に貼り付けた。そして、セロハンテープ210を貼り付けたゼロックス用紙を撮像した画像に対して、白黒の二値化処理を行った。二値化処理後の画像から、セロハンテープ210における曲げ加工部201に密着していた部分211の面積Aを算出するとともに、セロハンテープ210に付着している曲げ加工部201から剥離しためっき層230の面積Bを算出した。そして、(B/A)×100の計算により求まる値を、めっき剥離率として算出した。以下の基準で供試材200のめっき密着性を評価し、△評価以上を合格とした。
◎:めっき剥離率が0%
○:めっき剥離率が0%より大きく5%未満
△:めっき剥離率が5%以上10%未満
×:めっき剥離率が10%以上80%未満
××:めっき剥離率が80%以上。
(めっき濡れ性およびめっき密着性の評価)
表1および表2に示す上記鋼板A~Fについて、それぞれ前処理としてアルカリ脱脂および10%塩酸を用いて酸洗処理を行った。前処理後の鋼板をそれぞれ超音波ホーン10の先端に取り付け、溶融Al系めっき浴内に60mmの深さ(換言すれば、めっき浴の深さ方向における浴中に浸漬している鋼板の長さ)まで浸漬し、浸漬時間を100秒として、どぶ漬けめっきを行った。鋼板に振動を付与する場合、超音波ホーン10の先端に取り付けた鋼板を溶融Al系めっき浴中へ浸漬開始してから10秒後に振動の付与を開始し、90秒間振動を付与した。
めっき浴として、3種類の溶融Al系めっき浴を準備した。各溶融Al系めっき浴の組成を以下の表3に示す。溶融Al系めっき浴の温度は630℃~700℃とし、溶融Al系めっき浴中へ振動を付与する場合、基本周波数および超音波振動子11の出力を変化させた。また、比較例として、溶融Al系めっき浴中へ振動を付与することなく、どぶ漬けめっきを行った。
上述しためっき濡れ性試験およびめっき密着性試験の結果をまとめ、表4に示す。表4において、めっき母材は鋼板であり、めっき母材の加熱有無とは、溶融Al系めっきの前段階における鋼板の加熱の有無を意味している。また、インレット温度とは、溶融Al系めっき浴への投入時点の鋼板の温度を意味している。表中の音響強度(ノイズ基準)はIA-NAにより求められ、整数倍音間の平均強度(すなわちノイズ基準の倍音間平均強度)はIB-NBにより求められ、音響強度に対する整数倍音間の平均強度の比(特徴的強度比)が(IB-NB)/(IA-NA)により求められる(これらの記号については前述の数式(1)を参照)。上記のことは、本明細書において以下同様である。
まず、めっき濡れ性の評価結果について説明する。表4のNo.1~13に示すように、溶融Al系めっき浴中において本発明の範囲内の音響スペクトルが計測されるような条件にて溶融Al系めっき浴中に振動を付与しつつ、鋼板にどぶ漬けめっきを施した場合、鋼板のめっき濡れ性が向上し、めっき品の不めっき率が10%未満となった。また、出力を5W~20WとしたNo.3~13に示す例では、めっき品の不めっき率は0%であった。
これに対し、溶融Al系めっき浴中に付与した振動が弱すぎる(音圧が低すぎる)場合、溶融Al系めっき浴中において本発明の範囲内の音響スペクトルが計測されず、表4のNo.14~16に示すように、めっき品の不めっき率は10%以上となった。また、溶融Al系めっき浴中に振動を付与することなく溶融Al系めっきを行った場合、表4のNo.17~24に示すように、めっき品の不めっき率は80%以上であった。
次に、めっき密着性の評価結果について説明する。めっき濡れ性を評価したNo.1~24のどぶ漬けめっき後の試料を供試材として、上述のようにめっき密着性の評価を行った。
表4のNo.1~13に示すように、溶融Al系めっき浴中において本発明の範囲内の音響スペクトルが計測されるような条件にて溶融Al系めっき浴中に振動を付与しつつ、鋼板にどぶ漬けめっきを施した場合、鋼板のめっき密着性が向上し、めっき品に対してめっき密着性試験を行った結果のめっき剥離率が0%であった。
これに対し、溶融Al系めっき浴中に付与した振動が弱すぎる(音圧が低すぎる)場合、溶融Al系めっき浴中において本発明の範囲内の音響スペクトルが計測されず、表4のNo.14~16に示すように、めっき品に対してめっき密着性試験を行った結果のめっき剥離率が10%以上となった。また、溶融Al系めっき浴中に振動を付与することなく溶融めっきを行った場合、表4のNo.17~24に示すように、めっき密着性試験を行った結果のめっき剥離率が80%以上となった。
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
前記実施形態1における溶融めっき装置1(図1参照)では、溶融Al系めっき浴20内における導波棒31の先端と鋼板2の表面との距離L1を10mmに固定して、音響スペクトルを測定した。本発明者の更なる検討によれば、音響スペクトルを測定する位置の変化に伴って、音響スペクトルにおける上記特徴的強度比は変化し得ることがわかった。
そこで、上記距離L1を1mm~80mmと変化させるとともに、超音波振動子11の出力を0.1W~20Wに変化させて音響スペクトルを測定した。その結果を図7の(a)~(e)に示す。図7の(a)~(e)は、各距離L1において超音波振動子11の出力を変化させて測定した音響スペクトルを示すグラフであり、(a)は距離L1が1mm、(b)は距離L1が5mm、(c)は距離L1が10mm、(d)は距離L1が30mm、(e)は距離L1が80mmの場合をそれぞれ示している。
図8は、上記距離L1と上記特徴的強度比との関係を示すグラフである。図8に示すように、距離L1が遠くなるほど、特徴的強度比は低下する傾向にあり、特に、出力の弱い(具体的には0.1W、0.5W)場合にはその傾向が顕著である。このことから、例えば出力が0.1Wまたは0.5Wの場合、音響スペクトルを検知するためには、距離L1を10mm以下とすることが好ましいといえる。
また、図7の(a)~(e)に示すように、距離L1が大きすぎると、音響スペクトルの信号強度が小さくなり、ノイズレベルを下回ることにより信号を検出し難いことがある。そのため、溶融Al系めっき浴20内の振動状態を正確に評価し難いことがある。よって、本溶融めっき方法では、出力が0.5W以上であるとともに、距離L1は10mm以下であることが好ましい。
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
前記実施形態1および実施形態2では、超音波ホーン10の先端に鋼板2を取り付けた状態において、超音波ホーン10を用いて鋼板2に振動を付与していた。これに対して、本実施形態では、超音波ホーン10の先端に振動板を取り付けた状態において、超音波ホーン10を用いて振動板に振動を付与し、溶融Al系めっき浴20を介して、鋼板2に間接的に振動を与える点が異なっている。
(溶融めっき装置)
本実施形態における溶融めっき方法を実施する溶融めっき装置60について、図9を用いて説明する。なお、溶融めっき装置60は一例であって、本溶融めっき方法を実施する装置は、特に限定されるものではない。図9は、本実施の形態における溶融めっき方法を実施する溶融めっき装置60を示す概略図である。
図9に示すように、溶融めっき装置60は、ガス還元加熱帯61と、溶融めっき部62と、超音波ホーン10と、音響スペクトルを測定する測定装置50と、を備えている。ガス還元加熱帯61は、雰囲気ガス導入部61aおよび加熱部61bを備え、鋼板2に対して所望の雰囲気にて加熱処理を行うことが可能となっている。
溶融めっき部62では、ルツボ炉41の上方の空間が、ポートフランジ64およびOリング65によって大気から遮断されている。また、ポートフランジ64の一部には雰囲気ガス導入部66が設けられており、溶融めっき部62における雰囲気を制御することができるようになっている。
ガス還元加熱帯61と溶融めっき部62との間にはゲートバルブ63が設けられている。ガス還元加熱帯61にて処理された鋼板2は、ゲートバルブ63を開いて、大気に晒されることなく溶融めっき部62に移送される。鋼板2は、ゲートバルブ63よりも上のガス還元加熱帯61において、雰囲気制御および加熱処理といった前処理を受けたのちに、溶融めっき浴金属21の中に進入する。
また、本実施形態の溶融めっき装置60では、超音波ホーン10の先端に鋼板2ではなく振動板70が固定されている。この振動板70は、ここでは、材質が普通鋼(表1の鋼板Aと同じ鋼種)であって、長さ150mm×幅50mm×厚さ0.8mmの板を用いた。振動板70の振動によって、溶融めっき浴金属21に振動を付与する。これにより、溶融めっき浴金属21を介して、鋼板2に振動が与えられる。すなわち、溶融めっき装置60は、鋼板2に間接的に振動を付与するようになっている。なお、振動板70としては、上記の材質に限定されない。振動板70は、溶融Al系めっき浴中に浸漬された場合に耐侵食性が強く、溶融Al系めっき浴に対する濡れ性が良くない材質のものが好ましく、例えばセラミックスを用いることができる。
その他の測定装置50等の構成は、前述の溶融めっき装置40(図5参照)と同様であるため、詳しい説明を省略する。
上記のような溶融めっき装置60は、連続式溶融めっき方法へと適用することが可能である。つまり、連続式溶融めっき方法では、鋼板に直接的に振動を付与することは難しいが、溶融めっき装置60のように鋼板2に間接的に振動を付与することができる。よって、上記のような溶融めっき装置60を用いて実証された結果は、連続式溶融めっき方法に適用することができる。連続式溶融めっき方法への適用例について、具体的には後述する。
〔実施形態4〕
本発明の溶融めっき方法により製造された溶融Al系めっき鋼板は、Al系めっき層の表面に、耐食性および皮膜密着性を向上させる下地化成処理皮膜が形成されていてもよい。下地化成処理皮膜としては、無機系皮膜が好ましく、さらに具体的には、バルブメタルの酸化物または水酸化物と、バルブメタルのフッ化物とを含有するものが好ましい。ここで「バルブメタル」とは、その酸化物が高い絶縁抵抗を示す金属をいう。バルブメタル元素としては、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、MoおよびWから選ばれる1種または2種以上の元素が好ましい。また、下地化成処理皮膜は、可溶性または難溶性の金属リン酸塩または複合リン酸塩を含んでいてもよい。さらに、下地化成処理皮膜は、フッ素系、ポリエチレン系、スチレン系などの有機ワックス、または、シリカ、二硫化モリブデン、タルクなどの無機質潤滑剤などを含んでいてもよい。下地化成処理皮膜は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、オレフィン樹脂、ポリステル樹脂などをベースとする有機系皮膜であってもよい。
また、本発明の溶融めっき方法により製造された溶融Al系めっき鋼板は、Al系めっき層の表面に、ポリエステル系、アクリル樹脂系、フッ素樹脂系、塩化ビニル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系等の樹脂系塗料を、ロール塗装、スプレー塗装、カーテンフロー塗装、ディップ塗装等の方法により塗装することができる。あるいはアクリル樹脂フィルム等のプラスチックフィルムを積層する際のフィルムラミネートの基材として用いることもできる。
〔実施形態5〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
本実施形態における溶融めっき方法では、超音波ホーンの一部を溶融Al系めっき浴中に浸漬させて、超音波ホーンの先端から溶融Al系めっき浴に振動を付与する。これにより、超音波ホーンの先端から、溶融Al系めっき浴を介して間接的に鋼板へ振動を伝達させて、鋼板にどぶ漬けめっきを施す。
(溶融めっき装置)
本実施形態における溶融めっき方法を実施する溶融めっき装置80について、図10を用いて説明する。なお、溶融めっき装置80は一例であって、本溶融めっき方法を実施する装置は、特に限定されるものではない。図10は、本実施の形態における溶融めっき方法を実施する溶融めっき装置80を示す概略図である。
図10に示すように、溶融めっき装置80は、昇降装置81と、超音波ホーン10Aと、音響スペクトルを測定する測定装置50と、溶融めっき浴金属21が貯留されたカーボンルツボ42と、を備えている。溶融めっき装置80では、大気中で、かつ、鋼板2を加熱することなく、鋼板2が溶融Al系めっき浴20中に浸漬される。
昇降装置81は、鋼板2を保持した状態にて、鋼板2を溶融Al系めっき浴20中に浸漬させること、および、鋼板2を溶融Al系めっき浴20から引き上げることを可能とする装置である。昇降装置81としては、公知の装置を用いればよく、詳細な説明は省略する。
超音波ホーン10Aは、超音波振動子11と、先端部17と、超音波振動子11および先端部17を接続する接続部16と、を備えている。超音波振動子11は、振動子固定ステージ19によって固定されている。接続部16は、超音波振動子11にて発生した振動の周波数に対応して共振し易い長さを有している。接続部16は、単なるアダプタであってもよく、超音波振動子11にて発生した振幅を増幅して先端部17に伝達するブースターであってもよい。
超音波ホーン10Aにおける先端部17の少なくとも一部が溶融Al系めっき浴20に浸漬された状態で、超音波振動子11が、超音波電源装置D1から送信された超音波信号を受信して超音波振動する。この超音波振動が接続部16を介して先端部17に伝達し、先端部17によって溶融Al系めっき浴20中に振動が付与される。
昇降装置81によって鋼板2を溶融Al系めっき浴20中に浸漬させる場合、先端部17の前面に鋼板2が配置される。先端部17の、長手方向における接続部16から遠い方の端部には、当該端部の断面形状が二等辺三角形状となるように振動面17Aが形成されており、振動面17Aは、溶融Al系めっき浴20中に浸漬された鋼板2の表面と対向する。
先端部17は、セラミック製であることが好ましい。これは、溶融Al系めっき浴20中において先端部17が超音波振動することによって発生し得る先端部17の劣化を低減するためである。
なお、溶融めっき装置80は、超音波ホーン10Aの代わりに、一体型である超音波ホーンを用いてもよい。この場合、超音波ホーンの先端部をセラミックス製とすればよい。
先端部17の振動面17Aと鋼板2の表面との距離L2は、0mmであってもよく、0mmより大きく50mm以下であってもよい。距離L2が0mmとは、超音波ホーン10Aが超音波振動する前の時点(すなわちセッティングの時点)において、振動面17Aと鋼板2の表面とが互いに接していることを意味する。例えば昇降装置81が鋼板2を水平方向に移動させることが可能となっており、距離L2は、昇降装置81を用いて鋼板2を水平方向に移動させることにより調整することができる。距離L2は、好ましくは0mmより大きく5mm以下である。
溶融めっき装置80において、超音波ホーン10Aを用いて溶融Al系めっき浴20中に付与される振動の周波数、出力等については、前記実施形態1にて説明したことと同様である。
〔実施例2〕
本発明の実施形態5における溶融めっき方法の実施例について以下に説明する。本実施例では、上述の図10に示す溶融めっき装置80を用いた。
本実施例における溶融めっき装置80に用いた各種機器は、具体的には以下のとおりである。
(超音波振動供給系統)
・超音波振動子11:hielscher社製、20kHz振動子
・接続部16(ブースター):材質<Ti>、増幅率2.2倍、1/2波長型、長さ126mm
・先端部17:材質<Ti>、1/2波長型、長さ250mm
・超音波電源装置D1:hielscher社製、20kHz、2kW電源
(超音波振動測定系統)
・導波棒51:材質<SUS430>、φ6mm×300mm
・AEセンサ52:(株)エヌエフ回路設計ブロック社製、AE-900M
・計測部53
アンプ:(株)エヌエフ回路設計ブロック社製、AE9922
スペクトラムアナライザ:アジレント・テクノロジー(株)社製、E4408B。
前記実施例1における表1および表2に示した鋼板A~Fについて、前記実施例1における表3に示した溶融Al系めっき浴を用いて、各種の条件にてどぶ漬けめっきを行った。
超音波ホーン10Aを用いて溶融Al系めっき浴中へ振動を付与する場合、距離L2は0mm~50mmとし、基本周波数は20kHzとした。
超音波ホーン10Aを用いて溶融Al系めっき浴中へ振動を付与する場合、鋼板2を溶融Al系めっき浴中へ浸漬開始してから10秒後に振動の付与を開始し、2秒間~60秒間振動を付与した。
超音波振動子11には、超音波振動子11の振幅をモニタするための振幅センサが内蔵されている。表示装置を用いて、上記振幅センサからの出力を受信し、フルスケールを5Vとして当該出力を表示させた。表示装置によって表示された出力には超音波振動子11の振幅の大小が反映されることから、以下では、フルスケールの5Vを出力100%とし、超音波振動子11の振幅の大小を表す指標として「出力%」を用いた。
ここで、鋼板を直接振動させる方法(直接法)では、超音波電源にとっての負荷は鋼板そのものと考えられる。一方で、溶融Al系めっき浴を介して間接的に鋼板を振動させる方法(間接法)の場合、超音波電源にとっての負荷は、鋼板および溶融Al系めっき浴となる。そのため、超音波電源からの出力(W)そのものではなく、共振しているときの超音波振動子の振幅を表す指標となる「出力%」を用いて、振動付与条件を表している。
また、比較例として、溶融Al系めっき浴中へ振動を付与することなく、溶融めっき装置80を用いて各供試材にどぶ漬けめっきを行った。試験の結果をまとめ、表5に示す。
まず、めっき濡れ性の評価結果について説明する。溶融Al系めっき浴中において本発明の範囲内の音響スペクトルが計測されるような条件にて溶融Al系めっき浴中に振動を付与しつつ、鋼板にどぶ漬けめっきを施した場合、以下の結果が得られた。表5のNo.25~28、35~41に示すように、超音波ホーン10Aと鋼板との板間距離L2が2mm以下の場合、めっき濡れ性が大きく向上し、めっき品の不めっき率が0%であった。また、超音波ホーン10Aと鋼板との板間距離L2を5mmとしたNo.29、33、34に示す例では、めっき品の不めっき率が1%未満であった。めっき後の試料におけるめっき濡れ性に少し変動があることについては、試験誤差、または板間距離L2が少し大きいことによる影響、といった要因が考えられる。
また、表5のNo.30~32に示すように、板間距離L2を10mm~50mmとした場合、めっき品の不めっき率は10%未満であった。板間距離L2が大きいほど、めっき濡れ性が低減するような傾向が示唆された。
これに対し、溶融Al系めっき浴中に振動を付与することなく溶融Al系めっきを行った場合、表5のNo.42~49に示すように、めっき品の不めっき率は80%以上であった。
次に、めっき密着性の評価結果について説明する。めっき濡れ性を評価したNo.25~49のどぶ漬けめっき後の試料を供試材として、実施例1において前述したようにめっき密着性の評価を行った。
表5のNo.25~41に示すように、溶融Al系めっき浴中において本発明の範囲内の音響スペクトルが計測されるような条件にて溶融Al系めっき浴中に振動を付与しつつ、鋼板にどぶ漬けめっきを施した場合、鋼板のめっき密着性が向上し、めっき品に対してめっき密着性試験を行った結果のめっき剥離率が0%となった。
これに対し、溶融Al系めっき浴中に振動を付与することなく鋼板にどぶ漬けめっきを施した場合は、表5のNo.42~49に示すようにめっき品にめっき層が十分に形成されず、めっき密着性について試験不可であった。
〔実施形態6〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
本実施形態における溶融めっき方法では、鋼帯を溶融Al系めっき浴中に連続的に通板させる連続式溶融めっき設備を用いるとともに、超音波ホーンの一部を溶融Al系めっき浴中に浸漬させて鋼帯の近傍に超音波ホーンの先端を配置する。超音波ホーンの先端から溶融Al系めっき浴または鋼帯に振動を付与しつつ、鋼帯に対して連続的に溶融Al系めっきを施す。
(溶融めっき設備)
本実施形態における溶融めっき方法を実施する溶融めっき設備90Aについて、図11を用いて説明する。なお、溶融めっき装置90Aは一例であって、本溶融めっき方法を実施する装置は、特に限定されるものではない。図11は、本実施の形態における溶融めっき方法を実施する溶融めっき設備90Aの一例を示す概略図である。
図11に示すように、溶融めっき設備90Aは、一般的な連続式溶融めっき設備に超音波ホーン10Bおよび測定装置50を加えた構成である。鋼帯2Aは、スナウト91を通じて溶融Al系めっき浴20に浸漬される。鋼帯2Aは、ガイドロール92およびサポートロール93によって、溶融Al系めっき浴20中を通板した後、引き上げられて、ガス吹付け等によりめっき付着量を調整される。
鋼帯2Aには、めっき工程の前処理として、酸洗処理等によって、鋼帯2A表面の鉄酸化物層の除去が行われていてもよい。また、溶融めっき設備90Aは、スナウト91の前段に設けられた図示しない加熱装置によって、鋼帯2Aを溶融めっきに適した温度に加熱するようになっていてもよい。
ここで、溶融めっき設備90Aは、一般的な連続式溶融めっき設備とは異なり、スナウト91の前段に還元加熱装置は設けられていなくてもよい。溶融めっき設備90Aでは、超音波ホーン10Bを用いて溶融Al系めっき浴20中に超音波振動を付与することによって、鋼帯2Aの表面に還元処理を施していなくても、鋼帯2Aのめっき濡れ性およびめっき密着性を高めることができる。
本実施形態では、超音波ホーン10Bは、前記実施形態5にて説明した超音波ホーン10Aにおける超音波振動子11、先端部17、接続部16を含む、一体型に構成された装置である。なお、溶融めっき設備90Aは、超音波ホーン10Bの代わりに超音波ホーン10Aを用いてもよい。
溶融めっき設備90Aは、超音波ホーン10Bの先端が、溶融Al系めっき浴20中に浸漬しているとともにスナウト91の出口付近における鋼帯2Aの近傍に位置するように、超音波ホーン10Bが配置されている。
超音波ホーン10Bは、長手方向における鋼帯2Aに近い方の端部が面取りされて振動面17Aが形成されていることが好ましい。振動面17Aは、溶融Al系めっき浴20中を通板する鋼帯2Aの表面と対向する。これにより、通板方向に合わせて振動面17Aと鋼帯2Aの表面との距離を一定として、超音波ホーン10Bから鋼帯2Aに効率良く振動を伝えることができる。
また、溶融めっき設備90Aでは、溶融Al系めっき浴20中における、振動面17Aと対向している鋼帯2Aの第1の表面とは反対側の、鋼帯2Aの第2の表面の近傍に、導波棒51の先端が配置されている。導波棒51は、鋼帯2Aの通板方向に沿うように配置されていることが好ましい。また、導波棒51には、音響スペクトルにおけるノイズ等を低減するために、溶融Al系めっき浴20中における先端以外の部分を覆う保護管等が設けられていてもよい。
振動面17Aと鋼帯2Aの表面との距離L3は、0mmであってもよく、0mmより大きく50mm以下であってもよい。距離L3が0mmとは、超音波ホーン10Bが超音波振動する前の時点(すなわちセッティングの時点)において、振動面17Aと鋼帯2Aの表面とが互いに接していることを意味する。
超音波ホーン10Bから鋼帯2Aの片面に対して超音波振動を付与しているにも関わらず、上記距離L3が十分に近ければ、鋼帯2Aを超音波ホーン10Bと同じ基本周波数にて振動させることが可能である。その結果、鋼帯2Aにおける上記第1の表面だけでなく上記第2の表面においても、めっき濡れ性およびめっき密着性を高めることができる。
溶融めっき設備90Aにおいて、超音波ホーン10Bを用いて溶融Al系めっき浴20中に付与される振動の周波数、出力等については、前記実施形態1にて説明したことと同様である。
(溶融めっき設備の変形例)
図12は、一変形例の溶融めっき設備90Bおよび溶融めっき設備90Cを示す概略図である。
溶融めっき設備90Bおよび溶融めっき設備90Cは、上述の溶融めっき設備90Aに対して、超音波ホーン10Bがサポートロール93の付近に配置されている点で異なっている。溶融めっき設備90Bおよび溶融めっき設備90Cでは、鋼帯2Aが溶融Al系めっき浴20中を通板されてサポートロール93を通過した後の位置に、超音波ホーン10Bが配置されている。このように超音波ホーン10Bが配置された場合においても、超音波ホーン10Bから溶融Al系めっき浴20または鋼帯2Aに超音波振動を付与することによって、鋼帯2Aのめっき濡れ性およびめっき密着性を高めることができる。
なお、溶融めっき設備90A~90Cにおける超音波ホーン10Bの配置を組み合わせて、複数の超音波ホーン10Bを用いて溶融Al系めっき浴20または鋼帯2Aに超音波振動を付与するようになっていてもよい。鋼帯2Aのめっき濡れ性およびめっき密着性が良好となるような構成を適宜選択すればよい。
また、溶融めっき設備90A~90Cにおいては、鋼帯2Aに対する超音波振動の付与時間を具体的に特定する代わりに、鋼帯2Aのめっき濡れ性およびめっき密着性が良好となるように、鋼帯2Aの通板速度を適宜調整すればよい。
〔実施例3〕
本発明の実施形態6における溶融めっき方法の実施例について以下に説明する。本実施例では、上述の図11に示す溶融めっき設備90Aを用いた。
本実施例における溶融めっき設備90Aに用いた各種機器は、具体的には以下のとおりである。
(超音波振動供給系統)
・超音波振動子11:hielscher社製、20kHz振動子
・接続部16(ブースター):材質<Ti>、1/2波長型、長さ126mm
・先端部17:材質<スーパーサイアロン>、2波長型、長さ500mm
・超音波電源装置D1:hielscher社製、20kHz、2kW電源
(超音波振動測定系統)
・導波棒51:材質<SUS430>、φ6mm×300mm
・AEセンサ52:(株)エヌエフ回路設計ブロック社製、AE-900M
・計測部53
アンプ:(株)エヌエフ回路設計ブロック社製、AE9922
スペクトラムアナライザ:アジレント・テクノロジー(株)社製、E4408B。
前記実施例1における表1および表2に示した鋼板A~Fについて、前記実施例1における表3に示した溶融Al系めっき浴を用いて、各種の条件にて連続式溶融めっきを行った。
スナウト中の雰囲気を大気雰囲気、窒素雰囲気、3%水素-窒素雰囲気、または30%水素-窒素雰囲気に変化させた。また、スナウトの前段における加熱処理を行う場合、スナウトの前段において、鋼帯に対して、大気雰囲気、窒素雰囲気、3%水素-窒素雰囲気、または30%水素-窒素雰囲気にて加熱処理を行った。
超音波ホーン10Bを用いて溶融Al系めっき浴中へ振動を付与する場合、距離L3は0mmとし、基本周波数は20kHzとした。溶融Al系めっき浴中の鋼帯の通板速度は、スナウトの前段における加熱処理有りの例では20m/minとし、加熱処理無しの例では3m/minとした。
また、比較例として、溶融Al系めっき浴中へ振動を付与することなく、溶融めっき設備90Aを用いて鋼帯2Aに連続式溶融めっきを施した。試験の結果をまとめ、表6および表7に示す。表6が、スナウトの前段における加熱処理なしの場合についての結果であり、表7が加熱処理ありの場合についての結果である。
表6のNo.50~81および表7のNo.90~113に示すように、溶融Al系めっき浴中において本発明の範囲内の音響スペクトルが計測されるような条件にて溶融Al系めっき浴中に振動を付与しつつ、連続めっき設備を用いて鋼帯に溶融めっきを施した場合、以下のような結果であった。すなわち、大気雰囲気または非酸化性雰囲気にて鋼帯を加熱したか否かに関わらず、また、スナウト中の雰囲気(めっき浴雰囲気)に関わらず、鋼帯のめっき濡れ性およびめっき密着性が向上した。具体的には、めっき品の不めっき率は0%であり、かつ、めっき品に対してめっき密着性試験を行った結果のめっき剥離率が0%であった。
これに対して、表6のNo.82~89および表7のNo.114~122に示すように、溶融めっき浴中に振動を付与することなく、連続めっき設備を用いて鋼帯に溶融めっきを行った場合、以下のような結果であった。すなわち、大気雰囲気または非酸化性雰囲気にて鋼帯を加熱したか否かに関わらず、また、スナウト中の雰囲気(めっき浴雰囲気)に関わらず、めっき品にめっき層が十分に形成されなかった。具体的には、めっき品の不めっき率は80%以上であり、めっき密着性について試験不可であった。
〔附記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。