以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面において、同一又は同等の要素には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、一実施形態に係る産業車両の制動制御装置が適用された産業車両の概略構成図である。図1に示される産業車両1は、例えば電動トーイングトラクタであり、空港、工場内、港湾等で貨物を搭載したコンテナを牽引するために用いられる。
産業車両1は、自動運転制御を実行可能に構成されている。自動運転とは、例えば運行管理システム等からの搬送司令に従って自動で産業車両1を走行させる車両制御を実行する運転状態である。運行管理システムは、産業車両1に対し、搬送司令、運行の監視、及び車両状態の監視等を行ういわゆる管制システムである。自動運転では、作業者が運転操作を行う必要が無く、自動で車両が走行する。
ここでの自動運転は、例えば空港における滑走路、離着陸区域、誘導路、エプロン、管制塔、格納庫、荷捌き場、充電場等を含む所定のエリアにおいて実施される。産業車両1は、所定のエリア内で、走行ルートを予め定めた自動運転が可能である。本実施形態では、予め定められた走行ルートにおいて、所定の目標停止位置で産業車両1を停止させることを含む走行計画が生成される。なお、産業車両1の走行ルートは、固定されておらず、予め定めたものから変更可能である。固定されていない走行ルートとは、例えば路面上に設置された磁気テープに沿って走行する無人搬送車(AGV:Automated Guided Vehicle)のように一旦設定されると変更されにくい走行ルートではなく、地図情報等に基づいて生成される走行計画を変更することにより変更可能な走行ルートを意味する。
[産業車両1の走行及び制動に係る構成]
産業車両1は、車体の前部に配置されたFLタイヤ2及びFRタイヤ3と、車体の後部に配置されたRLタイヤ4及びRRタイヤ5と、を備えている。産業車両1は、走行モータとして、RLタイヤ4を駆動する左走行モータ6と、RRタイヤ5を駆動する右走行モータ7とを備えている。走行モータは、回生制動力を生じる制動部8としても機能する。
左走行モータ6及び右走行モータ7は、発電機としても機能する交流モータである。左走行モータ6とRLタイヤ4との間には、減速機である左ドライブユニット6aが介在している。右走行モータ7とRRタイヤ5との間には、減速機である右ドライブユニット7aが介在している。
左走行モータ6は、左モータドライバ6bを介してコンタクタ9と電気的に接続されている。右走行モータ7は、右モータドライバ7bを介してコンタクタ9と電気的に接続されている。左モータドライバ6b及び右モータドライバ7bは、例えばインバータを有しており、コントローラ10と電気的に接続されている。左モータドライバ6b及び右モータドライバ7bでは、左走行モータ6及び右走行モータ7の力行及び回生がコントローラ10によって制御される。左モータドライバ6b及び右モータドライバ7bは、左走行モータ6及び右走行モータ7の回生電流をそれぞれ検出してもよい。
コンタクタ9は、バッテリBと電気的に接続されている。また、コンタクタ9は、コントローラ10と電気的に接続されている。コンタクタ9では、非常停止を含むバッテリBの電力供給がコントローラ10によって制御される。
バッテリBは、左走行モータ6及び右走行モータ7に対する電力供給源である。バッテリBは、例えば鉛蓄電池で構成され、左走行モータ6及び右走行モータ7の回生制動により生成される回生電力を蓄電可能な蓄電池である。
左走行モータ6を回転駆動させると、左走行モータ6の駆動力が左ドライブユニット6aを介してRLタイヤ4に伝わり、RLタイヤ4が回転する。また、左走行モータ6は、発電機としても機能する。具体的には、産業車両1の制動時には、RLタイヤ4の回転によって左走行モータ6が発電機として動作する。つまり、左走行モータ6の回生制動が行われ、左走行モータ6から回生電力が発生すると共に、RLタイヤ4は回生制動力で制動される。
右走行モータ7を回転駆動させると、右走行モータ7の駆動力が右ドライブユニット7aを介してRRタイヤ5に伝わり、RRタイヤ5が回転する。また、右走行モータ7は、発電機としても機能する。具体的には、産業車両1の制動時には、RRタイヤ5の回転によって右走行モータ7が発電機として動作する。つまり、右走行モータ7の回生制動が行われ、右走行モータ7から回生電力が発生すると共に、RRタイヤ5は回生制動力で制動される。
産業車両1は、制動部8のうち、油圧(流体圧)により作動する機械ブレーキとして、車体の前部に配置され、FLタイヤ2及びFRタイヤ3のそれぞれを制動可能に取り付けられたFLディスクブレーキ8a及びFRディスクブレーキ8bを備えている。産業車両1は、車体の後部に配置され、RLタイヤ4及びRRタイヤ5のそれぞれを制動可能に取り付けられたRLドラムブレーキ8c及びRRドラムブレーキ8dを備えている。
産業車両1は、マスターシリンダ31と、ESCユニット32とを備えている。マスターシリンダ31は、ブレーキフルードを貯留するリザーバタンクを有する。マスターシリンダ31は、油圧を発生する機能を有していてもよいが、ここではリザーバタンクの機能のみが利用される。リザーバタンクは、ESCユニット32と油圧回路で接続されている。なお、マスターシリンダ31に代えて、油圧を発生する機能を有しないリザーバタンクが設けられていてもよい。
ESCユニット32は、例えば、プロセッサ、モータ、ポンプ、及びバルブが一体となった油圧制御ユニットである。プロセッサは、例えばCPU[Central Processing Unit]等の演算器である。プロセッサは、例えば、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、及び通信インターフェイスを統括的に制御する。
ESCユニット32は、コントローラ10と電気的に接続されている。ESCユニット32は、例えば電動ポンプを内蔵しており、コントローラ10からの油圧指示の信号に応じて油圧を増減することができる。ESCユニット32には油圧センサが内蔵されており、油圧センサによって検出された油圧情報は、コントローラ10に送信される。ESCユニット32は、例えば油圧情報に基づくコントローラ10からの制御信号に応じてコントローラ10によって制御される。
ESCユニット32は、FLディスクブレーキ8a及びFRディスクブレーキ8bと前輪制動用の油圧回路33で接続されている。ESCユニット32は、RLドラムブレーキ8c及びRRドラムブレーキ8dと後輪制動用の油圧回路34で接続されている。
ESCユニット32がコントローラ10からの油圧指示の信号に応じて油圧を増減すると、作動油は、油圧回路33及び油圧回路34のそれぞれに独立して供給される。これにより、FLディスクブレーキ8a及びFRディスクブレーキ8bに作動油が供給され、FLディスクブレーキ8a及びFRディスクブレーキ8bが作動して、FLタイヤ2及びFRタイヤ3が機械制動力で制動される。また、前輪の制動とは独立して、RLドラムブレーキ8c及びRRドラムブレーキ8dに作動油が供給され、RLドラムブレーキ8c及びRRドラムブレーキ8dが作動して、RLタイヤ4及びRRタイヤ5が機械制動力で制動される。
産業車両1は、左走行モータ6及び右走行モータ7のそれぞれを制動可能に取り付けられた左電磁ブレーキ6c及び右電磁ブレーキ7cを備えている。左電磁ブレーキ6c及び右電磁ブレーキ7cは、コントローラ10と電気的に接続されており、産業車両1の駐車時のパーキングブレーキとして用いられる。
[産業車両1の自動運転制御及び制動制御に係る構成]
図2は、図1の産業車両の制動制御装置の機能構成を示すブロック図である。産業車両の制動制御装置100は、産業車両1の制動制御と自動運転制御とを統括するコントローラ10を有している。コントローラ10は、CPU、ROM、RAM等を有する電子制御ユニットである。コントローラ10では、例えば、ROMに記録されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。なお、コントローラ10は、複数の電子ユニットから構成されていてもよい。
コントローラ10は、GNSS受信機21、周辺状況センサ22、走行情報センサ23、及び地図データベース24と接続されている。
GNSS受信機21は、3個以上のGNSS衛星から信号を受信することにより、産業車両1の地図上の位置(例えば産業車両1の緯度及び経度)を測定する。GNSS受信機21は、測定した産業車両1の位置情報をコントローラ10へ送信する。
周辺状況センサ22は、車両の周辺の状況を検出する車載の検出器である。周辺状況センサ22は、カメラ及びライダー[LiDAR:Light Detection And Ranging]を含む。カメラの撮像情報は、例えば、路面パターン認識及びマッチングのために用いられる。ライダーで検出した障害物情報は、例えば、産業車両1の危険回避のために用いられる。周辺状況センサ22は、産業車両1の周辺状況に関する情報をコントローラ10へ送信する。
走行情報センサ23は、産業車両1の走行状態を検出する検出器である。走行情報センサ23は、車速センサ、加速度センサ、及びヨーレートセンサ(ジャイロセンサ)を含む。車速センサは、産業車両1の速度を検出する検出器である。車速センサとしては、例えば、左走行モータ6及び右走行モータ7のそれぞれに設けられ、左走行モータ6の回転速度及び右走行モータ7の回転速度を検出するスピードセンサが用いられる。走行情報センサ23は、検出した走行情報をコントローラ10に送信する。
地図データベース24は、地図情報を記憶するデータベースである。地図データベース24は、例えば、産業車両1に搭載された記憶装置(例えばHDD[Hard Disk Drive]等)内に形成されている。地図情報には、例えば空港における滑走路、離着陸区域、誘導路、エプロン、管制塔、格納庫、荷捌き場、充電場等を含む所定のエリアにおける情報として、道路の位置情報、道路形状の情報(例えばカーブ、直線部の種別、カーブの曲率等)、交差点及び分岐点の位置情報、及び構造物の位置情報等が含まれる。地図情報には、産業車両1の位置認識に用いる路面パターンの位置情報が含まれる。なお、地図データベース24は、産業車両1と通信可能なサーバに形成されていてもよい。
地図情報には、所定の目標停止位置の情報が含まれる。目標停止位置は、自動運転で産業車両1を停止させる目標となる予め設定された地図上の位置である。目標停止位置は、例えば、格納庫、荷捌き場、充電場、交差点の入口、通行帯の停止線等に設定されてもよい。通行帯の停止線とは、産業車両1が走行する経路上の通行帯の途中(交差点ではない位置)に設けられた停止線を意味する。
次に、コントローラ10の機能的構成について説明する。コントローラ10は、地図情報取得部11、位置情報取得部12、走行情報取得部(車速情報取得部)13、及び、自動運転制御部14を有している。なお、以下に説明するコントローラ10の機能の一部は、車両と通信可能なサーバにおいて実行される態様であってもよい。
地図情報取得部11は、地図データベース24に記憶された地図情報を取得する。地図情報取得部11は、例えば、産業車両1の位置認識に用いる路面パターンの位置情報、及び、目標停止位置の情報等を取得する。
位置情報取得部12は、GNSS受信機21の受信結果に基づいて、産業車両1の位置情報を取得する。位置情報取得部12は、周辺状況センサ22の検出結果と地図データベース24の地図情報とに基づいて、産業車両1の位置情報を取得してもよい。位置情報取得部12は、地図情報に含まれる路面パターンの位置情報と周辺状況センサ22で検出した産業車両1に対する路面パターンの相対位置情報とに基づいて、産業車両1の自己位置を取得してもよい。なお、位置情報取得部12は、例えばSLAM[Simultaneous Localization And Mapping]手法を用いて、産業車両1の自己位置を推定してもよい。
走行情報取得部13は、走行情報センサ23の検出結果に基づいて、産業車両1の走行情報を取得する。ここでの走行情報取得部13は、左走行モータ6及び右走行モータ7のそれぞれに設けられたスピードセンサの検出結果に基づいて、産業車両1の車速情報を取得する。走行情報取得部13は、ジャイロセンサの検出結果に基づいて、産業車両1の向きを取得してもよい。
自動運転制御部14は、位置情報と走行情報と地図情報とに基づいて、産業車両1の自動運転制御を実行する。自動運転制御部14は、GNSS受信機21で測定した産業車両1の位置情報、地図データベース24の地図情報、周辺状況センサ22の検出結果から認識された産業車両1の周辺状況(障害物の位置等)、及び走行情報センサ23の検出結果から認識された走行状態(車速、ヨーレート等)に基づいて、目標ルートに沿った走行計画を生成する。目標ルートは、運行管理システムの搬送司令等に応じて設定される。
自動運転制御部14は、走行計画に沿って自動運転を実行する。走行計画には、例えば、目標速度、要求加速度、及び要求減速度が含まれる。走行計画には、目標操舵角が含まれていてもよい。ここでの自動運転制御部14は、左ドライブユニット6a、右ドライブユニット7a、及びESCユニット32に制御信号を送信することで、目標速度、要求加速度、及び要求減速度が実現されるように自動運転制御及び制動制御を実行する。
自動運転制御部14は、産業車両1の車速情報と位置情報とに基づいて、停止前制動と停止制動とを実行する。停止前制動は、産業車両1が目標停止位置の手前で所定の徐行状態になる程度に産業車両1を減速させる自動運転での制動の処理を意味する。停止前制動は、停止制動に先立って実行される。
停止前制動は、所定の徐行状態になるように産業車両1を減速させるための制動の処理を含む。所定の徐行状態とは、産業車両1が目標停止位置に達した際に機械制動力を増加させることで産業車両1を目標停止位置に停止させることができる産業車両1の走行状態を意味する。本実施形態での徐行状態は、例えば産業車両1の車速が停止前車速となっている状態である。停止前車速は、例えば、0.3km/h~1.5km/h程度の所定の車速であってもよい。
自動運転制御部14は、産業車両1が目標停止位置の手前で上述の徐行状態になるように、産業車両1を減速させる。自動運転制御部14は、例えば、停止前制動において産業車両1の車速が停止前車速を超えている場合に左走行モータ6及び右走行モータ7の回生制動力を主体とする回生優先制動を行う。回生優先制動は、原則として機械ブレーキを作動させずに、回生制動力を優先的に用いる制動の態様である。一般的に、産業車両1を回生制動する際、例えば、産業車両1の積み荷の量、及び、産業車両1の走路が平坦であるか又は降坂であるかに応じて、更に機械ブレーキを作動させずに済むか否かが左右される。例えば、産業車両1の積み荷の量が一定以上であり要求減速度で減速するために機械制動力を要する場合、又は、産業車両1の走路が降坂であり要求減速度で減速するために機械制動力を要する場合など、必ずしも回生優先制動が行われないことがある。そのような場合を除いて(要求減速度で減速するために機械制動力を要しない場合には)、自動運転制御部14は、停止前制動において産業車両1の車速が停止前車速を超えている場合において、機械ブレーキを作動させずに回生制動力で産業車両1を位置P2まで制動させることができる。
停止前制動は、産業車両1が徐行状態になってから目標停止位置の手前までに行う制動であって機械ブレーキの摺動部材間の隙間詰めを伴う制動の処理を含む。機械ブレーキの摺動部材とは、例えば、ディスクブレーキにあってはディスク及びブレーキパッド、ドラムブレーキにあってはドラム及びシュー、などのことである。機械ブレーキの摺動部材間の隙間詰め(以下、単に「隙間詰め」ともいう)では、産業車両1が目標停止位置に到達する前に機械制動力の応答性を高めるために、機械ブレーキが作動される。つまり、隙間詰めとは、摺動部材同士を互いに接触させた状態、或いは、直ちに摺動部材同士を互いに接触させることが可能な状態とするように、摺動部材同士のクリアランスを小さくすることをいう。本実施形態では、隙間詰めが行われると共に、産業車両1の車速が目標車速となるように機械ブレーキの作動を継続させると共に左走行モータ6及び右走行モータ7を力行させ、徐行状態で走行させる。ちなみに、本実施形態の徐行状態は、ブレーキペダル操作に応じて機械制動力が発生する非自動運転車両であってトルクコンバータ付きのエンジン搭載車両の場合で例えれば、クリープ走行中に軽くブレーキペダルを踏むことで摺動部材同士を引き摺った状態で走行している状態に類似した走行状態といえる。
自動運転制御部14は、停止前制動に引き続き、停止制動を実行する。停止制動は、停止前制動によって徐行状態となった産業車両1を目標停止位置に停止させる自動運転での制動の処理を意味する。停止制動では、機械ブレーキの摺動部材は、車両を停止させるだけの機械制動力に相当する摩擦を発生させる。ちなみに、停止制動の状態について、ブレーキペダル操作に応じて機械制動力が発生する非自動運転車両の場合で例えると、運転者がブレーキペダルを踏み込むことで徐行中の車両を停止させるときの制動に類似した走行状態といえる。
自動運転制御部14は、一例として、停止前制動及び停止制動を実行するための走行計画を生成してもよい。図3は、産業車両の制動制御装置の動作例を示すタイミングチャートである。図3(a)には、産業車両1が目標停止位置P3に達するまでの車速が示されている。図3(a)に示されるように、自動運転制御部14は、例えば、目標停止位置P3への停止に向けて産業車両1が減速するように、走行計画を生成する。ここでの走行計画は、一例として、位置P1から位置P2まで所定の減速度となるように回生制動を行い、産業車両1を減速させる。また、位置P2から目標停止位置P3まで所定の停止前車速で産業車両1を走行させる。
図3の例では、停止前車速は、一例として、位置P2~P3における目標車速であり、車速閾値でもあるとする。車速閾値は、隙間詰めを行うか否かを判定するための車速の閾値である。車速閾値は、特に限定されないが、例えば0.3km/h~1.5km/h程度の車速とすることができる。
自動運転制御部14は、停止制動の一例として、生成した走行計画に従って、産業車両1を減速又は目標停止位置P3に停止させるための要求減速度と減速開始位置とを算出し、産業車両1の減速度が要求減速度となるように制動部8を制御する。自動運転制御部14は、生成した走行計画に従って、産業車両1の車速が目標車速となるように、制動部8による制動に併せて左走行モータ6及び右走行モータ7の力行を制御してもよい。
自動運転制御部14は、走行計画に従って算出された要求減速度に基づいて、回生制動力と機械制動力指示値とで制動部8を制御する。回生制動力は、例えば、左走行モータ6及び右走行モータ7の回転数と回転減速度を指示値としたときにモータが発する制動トルクとすることができる。機械制動力指示値は、油圧指示の信号に相当し、例えば、ESCユニット32が油圧回路33及び油圧回路34に与える油圧値の指令値とすることができる。
図3(b)には、産業車両1が目標停止位置P3に達するまでの回生制動力が示されている。図3(c)には、産業車両1が目標停止位置P3に達するまでの機械制動力指示値が示されている。図3(b)及び図3(c)に示されるように、産業車両1が位置P1に達すると、所定の減速度となるような回生制動力で回生制動が開始され、機械ブレーキを作動させずに減速が開始される。つまり、自動運転制御部14は、一例として、停止前制動において産業車両1の車速が停止前車速を超えている場合に左走行モータ6及び右走行モータ7の回生制動力を主体とする回生優先制動を行う。
位置P1は、目標停止位置P3と、隙間詰めを開始する位置とに基づいて、回生優先制動による減速を開始する減速開始位置として、走行計画に含められる。目標停止位置P3は、地図情報に基づいて取得される。隙間詰めを開始する位置とは、位置P2である。位置P2は、産業車両1の進行方向において目標停止位置P3のどれだけ手前の位置で回生優先制動を終了するかに応じて予め設定されている。隙間詰めを開始する位置は、例えば、産業車両1の進行方向において目標停止位置P3から所定距離だけ手前の位置、あるいは、産業車両1の進行方向において目標停止位置P3から所定速度(例えば停止前車速)で所定時間分だけ手前の位置、として設定されてもよい。
なお、自動運転制御部14は、位置P1,P2に基づいて、停止前制動において産業車両1の車速が停止前車速を超えている場合の産業車両1の要求減速度を、第1減速度として算出してもよい。第1減速度は、回生優先制動における減速度である。自動運転制御部14は、例えば、目標停止位置P3、隙間詰めを開始する位置、減速を開始する位置、車速、停止前車速などに基づいて、第1減速度を算出することができる。
続いて、回生優先制動によって産業車両1が減速されると、位置P2において、産業車両1の車速が所定の停止前車速に達し、上述の徐行状態となる。すなわち、産業車両1の車速が所定の停止前車速以下となる。
自動運転制御部14は、停止前制動において産業車両1の車速が所定の停止前車速以下となった場合に機械ブレーキを作動させて、隙間詰めを行う。本実施形態では、隙間詰めの一例として、図3(b)及び図3(c)に示されるように、位置P2で回生制動力が0とされると共に、機械制動力指示値が第1圧力とされる。第1圧力は、隙間詰めのために機械ブレーキを作動させる流体圧(ここでは油圧)の値である。第1圧力は、目標停止位置P3に達した産業車両1を停止させるために機械ブレーキを作動させる第2圧力よりも小さい。
また、図3(a)の産業車両1の車速の傾き(加速度)に示されるように、回生優先制動での減速度よりも、隙間詰めでの減速度の方が小さい。すなわち、停止前制動において産業車両1の車速が停止前車速以下となった場合の産業車両1の減速度は、当該停止前制動において産業車両1の車速が停止前車速よりも大きい場合の減速度よりも小さい。自動運転制御部14は、停止前制動において産業車両1の車速が停止前車速以下となった場合の産業車両1の要求減速度を、第2減速度として算出してもよい。第2減速度は、隙間詰め中の要求減速度である。第2減速度は、例えば予め設定されており、コントローラ10に記憶されていてもよい。自動運転制御部14は、例えば、隙間詰めとして、産業車両1の減速度が第2減速度となるように、少なくとも機械ブレーキを作動させる。
なお、ここでは、産業車両1の位置が目標停止位置P3に達するまで、産業車両1の車速が停止前車速(一定値)を目標値としてフィードバック制御されているため、第2減速度は0である。産業車両1の車速は、隙間詰めのための機械制動力或いは隙間詰めを兼ねた機械制動力と、左走行モータ6及び右走行モータ7の力行との双方を相殺させることで、目標値である停止前車速に近づくように制御される。すなわち、自動運転制御部14は、停止前制動において産業車両1の車速が停止前車速以下となった場合、産業車両1の位置が目標停止位置P3に達するまで、産業車両1の車速が目標車速となるように機械ブレーキを作動させると共に左走行モータ6及び右走行モータ7を力行させる。
その後、産業車両1が目標停止位置P3に達すると、停止前制動から停止制動に移行し、左走行モータ6及び右走行モータ7の力行が終了されると共に、機械制動力指示値が第2圧力とされる。つまり、本実施形態では、停止制動の一例として、機械制動力指示値が第2圧力とされる。これにより、応答遅れの低減された機械制動力で、産業車両1が目標停止位置P3に停止させられる。自動運転制御部14は、産業車両1が目標停止位置P3に到達した場合の産業車両1の要求減速度を、第3減速度として算出してもよい。第3減速度は、目標停止位置P3に到達した産業車両1を、目標停止位置P3で停止させるための停止制動の要求減速度である。第3減速度は、例えば予め設定されており、コントローラ10に記憶されていてもよい。
[コントローラ10による演算処理の一例]
次に、コントローラ10による演算処理の一例について説明する。図4は、停止前制動の処理の一例を示すフローチャートである。図4に示される処理は、例えば自動運転中の産業車両1が目標停止位置に向かって走行する場合に実行される。
図4に示されるように、コントローラ10は、S01において、走行情報取得部13により、産業車両1の車速情報の取得を行う。走行情報取得部13は、例えば、走行情報センサ23の検出結果に基づいて、産業車両1の車速情報を取得する。
コントローラ10は、S02において、位置情報取得部12により、車両位置の取得を行う。位置情報取得部12は、例えば、GNSS受信機21の受信結果に基づいて、産業車両1の位置情報を取得する。
コントローラ10は、S03において、自動運転制御部14により、制動部8の制御及び走行モータの力行の制御を行う。自動運転制御部14は、例えば、自動運転制御部14で生成した走行計画に基づいて、制動部8の制御及び走行モータの力行を制御する。コントローラ10は、S03の処理として、具体的には図5に例示される処理を行う。
図5は、制動部の制御及び走行モータの力行の制御処理の一例を示すフローチャートである。図5に示されるように、コントローラ10は、S11において、自動運転制御部14により、産業車両1の車速が車速閾値を超えているか否かの判定を行う。自動運転制御部14は、例えば、走行情報取得部13の取得結果と予め記憶された車速閾値とに基づいて、産業車両1の車速が車速閾値を超えているか否かを判定する。
コントローラ10は、産業車両1の車速が車速閾値を超えていると自動運転制御部14により判定された場合(S11:YES)、S12において、自動運転制御部14により、要求減速度を第1減速度として算出する。コントローラ10は、S12において、減速開始位置を算出してもよい。コントローラ10は、S13において、自動運転制御部14により、回生優先制動を行う。自動運転制御部14は、例えば、産業車両1の減速度が第1減速度となるように、左走行モータ6及び右走行モータ7の回生制動力を主体とする回生優先制動を行う。その後、コントローラ10は、図5の処理を終了すると共に図4の処理を終了し、所定演算周期後に図4の処理を繰り返す。
一方、コントローラ10は、産業車両1の車速が車速閾値を超えていない(車速が車速閾値以下である)と自動運転制御部14により判定された場合(S11:NO)、S14において、自動運転制御部14により、産業車両1が目標停止位置に未達であるか否かの判定を行う。自動運転制御部14は、例えば、位置情報取得部12の取得結果と目標停止位置とに基づいて、産業車両1が目標停止位置に未達であるか否かを判定する。
コントローラ10は、産業車両1が目標停止位置に未達であると自動運転制御部14により判定された場合(S14:YES)、S15において、自動運転制御部14により、要求減速度を第2減速度として算出する。コントローラ10は、S16において、自動運転制御部14により、隙間詰めを行う。自動運転制御部14は、隙間詰めとして、産業車両1の車速が目標車速となるように、第1圧力で機械ブレーキを作動させると共に左走行モータ6及び右走行モータ7を力行させる。あるいは、自動運転制御部14は、隙間詰めとして、産業車両1の減速度が第2減速度となるように第1圧力で機械ブレーキを作動させてもよい。これにより、産業車両1は、所定の徐行状態で走行することとなる。その後、コントローラ10は、図5の処理を終了すると共に図4の処理を終了し、所定演算周期後に図4の処理を繰り返す。
他方、コントローラ10は、産業車両1が目標停止位置に未達ではない(産業車両1が目標停止位置に到達した)と自動運転制御部14により判定された場合(S14:NO)、停止前制動から停止制動への移行として、S17において、自動運転制御部14により、要求減速度を第3減速度として算出する。コントローラ10は、S18において、自動運転制御部14により、停止制動を行い、産業車両1を停止させる。自動運転制御部14は、例えば、停止制動として、産業車両1の減速度が第3減速度となるように、第2圧力で機械ブレーキを作動させる。なお、産業車両1は、第2圧力が維持されることによる機械制動力で、位置P3にて停止し続ける。その後、コントローラ10は、図5の処理を終了すると共に図4の処理を終了し、所定演算周期後に図4の処理を繰り返す。
[作用及び効果]
以上、本実施形態に係る産業車両の制動制御装置100では、停止前制動において産業車両1の車速が所定の車速閾値以下となった場合に機械ブレーキが作動する。これにより、機械ブレーキでは、機械制動力の応答遅れを引き起こす物理的な隙間が低減される。その結果、機械ブレーキを作動させていない場合と比べて、機械ブレーキは、機械制動力の応答遅れが低減された状態となる。したがって、産業車両の制動制御装置100によれば、油圧により作動する機械ブレーキで産業車両1を目標停止位置に停止させる場合の機械制動力の応答遅れを低減させることが可能となる。
産業車両の制動制御装置100では、停止前制動において産業車両1の車速が車速閾値以下となった場合の産業車両1の減速度は、当該停止前制動において産業車両1の車速が車速閾値よりも大きい場合の減速度よりも小さい。これにより、車速が車速閾値を超えている場合と比べて、車速閾値以下の車速で産業車両1が目標停止位置に近づく際の速度変化が緩やかとなるため、産業車両1を目標停止位置により適切に停止させ易くなる。
産業車両の制動制御装置100では、自動運転制御部14は、停止前制動において産業車両1の車速が車速閾値以下となった場合、産業車両1の位置が目標停止位置に達するまで、産業車両1の車速が目標車速となるように機械ブレーキを作動させると共に左走行モータ6及び右走行モータ7を力行させる。これにより、産業車両1を目標車速で走行させて目標停止位置に近づけることで、目標停止位置に対する産業車両1の停止位置精度の安定化を図ることができる。なお、停止位置精度とは、産業車両1の停止位置が、目標停止位置に対してどの程度の誤差を持つかを表す指標のことである。
産業車両の制動制御装置100では、自動運転制御部14は、停止前制動において産業車両1の車速が車速閾値を超えている場合に左走行モータ6及び右走行モータ7の回生制動力を主体とする回生優先制動を行う。この場合、回生優先制動の際、上述の物理的な隙間に起因して、機械ブレーキは、機械制動力の応答遅れを伴う状態になり易い。よって、上述の隙間詰めによる機械制動力の応答遅れの低減効果が顕著なものとなる。
産業車両の制動制御装置100では、自動運転制御部14は、停止前制動において産業車両1の車速が車速閾値以下となった場合に、機械ブレーキの油圧を第1圧力とすることで機械ブレーキを作動させ、産業車両1の位置が目標停止位置に達した場合に、機械ブレーキの油圧を第1圧力より大きい第2圧力とすることで停止制動を行う。これにより、機械ブレーキの油圧を第1圧力又は第2圧力とするというシンプルな構成で停止制動と停止前制動とを実行することができる。
なお、産業車両1において機械ブレーキとして例えばドラムブレーキが採用されている場合、産業車両の制動制御装置100による隙間詰めによって、産業車両1が目標停止位置に到達する前に、予めシュークリアランスを低減しておくことができる。その結果、上記特許文献1に記載の従来技術のように、仮に産業車両1が目標停止位置に到達してから機械ブレーキを作動させてシュークリアランスの低減速度を上げる手法と比べて、より一層高応答な機械制動力で目標停止位置に到達した産業車両1を停止させることができる。予めシュークリアランスを低減できるため、シュークリアランスの低減速度を上げるために例えば油圧を高めるためにESCユニット32のモータ及びポンプ等の性能を上げることを要することなく、機械制動力の応答性を改善することができる。さらに、予めシュークリアランスを低減できるため、例えばブレーキシューの交換後などシュークリアランスが変化した場合でも、上記従来技術の油圧上昇代などの隙間詰めのための制御パラメータを調整する必要がない。
[変形例]
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限られるものではない。
上記実施形態では、自動運転制御部14は、停止前制動において産業車両1の車速が車速閾値を超えている場合に左走行モータ6及び右走行モータ7の回生制動力を主体とする回生優先制動を行ったが、これに限定されない。例えば、停止前制動において産業車両1の車速が車速閾値を超えている場合であっても、一時的に機械ブレーキを作動させてもよい。この場合であっても、例えば産業車両1の車速が車速閾値に近づいたときに機械ブレーキが作動されていなければ、機械ブレーキの摺動部材同士のクリアランスが再拡大する可能性があるため、上述の隙間詰めによる機械制動力の応答遅れの低減効果が有効に奏される。
上記実施形態では、自動運転制御部14は、停止前制動において産業車両1の車速が車速閾値以下となった場合、産業車両1の位置が目標停止位置に達するまで、産業車両1の車速が目標車速となるように機械ブレーキを作動させると共に左走行モータ6及び右走行モータ7を力行させたが、少なくとも機械ブレーキを作動させればよい。例えば、自動運転制御部14は、停止前制動において産業車両1の車速が車速閾値以下となった場合、産業車両1の位置が目標停止位置に達するまで、左走行モータ6及び右走行モータ7を力行させずに、例えば一定の第1圧力で機械ブレーキの作動を継続してもよい。なお、機械ブレーキを作動させる油圧が変化してもよい。
上記実施形態では、停止前制動において産業車両1の車速が車速閾値以下となった場合の産業車両1の減速度は、当該停止前制動において産業車両1の車速が車速閾値よりも大きい場合の減速度よりも小さくされたが、これに限定されない。例えば、両者の減速度が互いに等しくてもよい。あるいは、停止前制動において産業車両1の車速が車速閾値以下となった場合の産業車両1の減速度は、当該停止前制動において産業車両1の車速が車速閾値よりも大きい場合の減速度よりも大きくされてもよい。
上記実施形態では、産業車両1にブレーキペダル及びマスターシリンダが設けられていなかったが、例えば自動運転では用いられない保守用などとしてのブレーキペダル及びマスターシリンダが設けられていてもよい。
上記実施形態では、図1のような電動トーイングトラクタを産業車両1として例示したが、これに限定されず、産業車両1は、例えば電動フォークリフトであってもよいし、ハイブリッド式の産業車両であってもよい。要は、回生制動力を生じる走行モータと、流体圧により作動して機械制動力を生じる機械ブレーキと、を制動部として備え、産業車両を所定の目標停止位置に自動運転で停止させるための停止前制動を実行可能な産業車両であればよい。
産業車両1の自動運転のための構成は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、周辺状況センサ22にてライダーを用いていたが、別のセンサで代用してもよい。
上記実施形態では、流体圧として油圧により作動する機械ブレーキを例示したが、流体圧として空圧により作動する機械ブレーキであってもよい。
上記実施形態では、目標停止位置の手前で産業車両1の車速が車速閾値以下となった場合に隙間詰めを行ったが、例えば、位置情報取得部12により取得した産業車両1の位置情報と周辺状況センサ22の検出結果と地図データベース24の地図情報とに基づいて、産業車両1が目標停止位置まで所定範囲(例えば所定距離)の位置に達した場合に、隙間詰めを行うようにしてもよい。
以上に記載された実施形態及び種々の変形例の少なくとも一部が任意に組み合わせられてもよい。