JP7525855B2 - Big3-phb2相互作用阻害phb2由来ペプチドを含む乳がん治療薬 - Google Patents
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Description
これらの知見に基づき、BIG3-PHB2相互作用の阻害によりBIG3との複合体からPHB2を遊離させ、PHB2の腫瘍抑制活性を発揮させるという戦略は、乳がんの新規療法となりうる。この戦略に基づき、本発明者らは、以前、BIG3-PHB2相互作用を特異的に阻害するBIG3のドミナントネガティブペプチドを開発した(特許文献1)。このペプチドは、PHB2の腫瘍抑制活性を再活性化することにより、乳がん増殖をもたらすERαシグナルパスウェイを阻害し、乳がん増殖を抑制することが確認されている(特許文献1)。
[2]配列番号28(PHB2ポリペプチド全長)のアミノ酸配列における11~21番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列の全部または一部、76~88番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列の全部または一部、および44~57番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列の全部または一部のうちのいずれか1つまたは組み合わせを含む、[1]に記載のペプチド。
[3]以下の(a)~(f)からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、PHB2ポリペプチドとBIG3ポリペプチドとの結合を阻害するペプチド:
(a)配列番号1および36~41(PHB2配列由来ペプチドNo.1、36~41)からなる群より選択されるアミノ酸配列;
(b)配列番号1および36~41(PHB2配列由来ペプチドNo.1、36~41)からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して、1個、2個、または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列;
(c)配列番号5および47~53(PHB2配列由来ペプチドNo.5、47~53)からなる群より選択されるアミノ酸配列;
(d)配列番号5および47~53(PHB2配列由来ペプチドNo.5、47~53)からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して、1個、2個、または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列;
(e)配列番号82~83(PHB2配列由来ペプチドNo.82~83)からなる群より選択されるアミノ酸配列;ならびに
(f)配列番号82~83(PHB2配列由来ペプチドNo.82~83)からなる群より選択されるアミノ酸配列に対して、1個、2個、または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列。
[4]以下の(a')~(b')からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、[3]に記載のペプチド:
(a')配列番号1および36~41(PHB2配列由来ペプチドNo.1、36~41)からなる群より選択されるアミノ酸配列において、配列番号28(PHB2ポリペプチド全長)のアミノ酸配列における15番目のグリシン(Gly/G)及び18番目のグリシンに対応する位置以外の1個、2個、または数個のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列;ならびに
(b')配列番号5および47~53(PHB2配列由来ペプチドNo.5、47~53)からなる群より選択されるアミノ酸配列において、配列番号28(PHB2ポリペプチド全長)のアミノ酸配列における82番目のアスパラギン酸(Asp/D)に対応する位置以外の1個、2個、または数個のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列。
[5]80残基以下のアミノ酸残基からなる、[1]~[4]のいずれかに記載のペプチド。
[6]25残基以下のアミノ酸残基からなる、[1]~[5]のいずれかに記載のペプチド。
[7]配列番号1、5、36~41、47~53、および82~83(PHB2配列由来ペプチドNo.1、5、36~41、47~53、82~83)からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる、[1]~[6]のいずれかに記載のペプチド。
[8]細胞膜透過性物質により修飾されている、[1]~[7]のいずれかに記載のペプチド。
[9]環状型である、[1]~[8]のいずれかに記載のペプチド。
[10]架橋型である、[1]~[9]のいずれかに記載のペプチド。
[11]以下の(i)及び(ii)のいずれか一方又は両方の性質を有する、[1]~[10]のいずれかに記載のペプチド:
(i)BIG3陽性細胞の細胞増殖を抑制する;及び
(ii)BIG3陽性細胞において、PHB2ポリペプチドのセリン残基のリン酸化を促進する。
[12][1]~[11]のいずれかに記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド。
[13][1]~[11]のいずれかに記載の1種もしくは複数種のペプチド、該ペプチドをコードするポリヌクレオチド、および該ペプチドの薬学的に許容される塩からなる群より選択される少なくとも1つの成分、ならびに薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
[14]配列番号28(PHB2ポリペプチド全長)のアミノ酸配列における11~21番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列の全部または一部を含むペプチド、配列番号28(PHB2ポリペプチド全長)のアミノ酸配列における44~57番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列の全部または一部を含むペプチド、ならびに配列番号28(PHB2ポリペプチド全長)のアミノ酸配列における76~88番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列の全部または一部を含むペプチドのうちのいずれか1つまたは組み合わせを含む、[13]に記載の医薬組成物。
[15]がん細胞の増殖を抑制するため、又はがんを治療及び/若しくは予防するための、[13]又は[14]に記載の医薬組成物。
[16]がんがBIG3陽性のがんである、[15]に記載の医薬組成物。
[17]がんが乳がんである、[15]又は[16]に記載の医薬組成物。
[18]がんがエストロゲン受容体陽性のがんである、[15]~[17]のいずれかに記載の医薬組成物。
[19][1]~[11]のいずれかに記載の1種もしくは複数種のペプチド、該ペプチドをコードするポリヌクレオチド、および該ペプチドの薬学的に許容される塩からなる群より選択される少なくとも1つを対象に投与する工程を含む、がんの治療及び予防のいずれか又は両方のための方法。
[20]配列番号28(PHB2ポリペプチド全長)のアミノ酸配列における11~21番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列の全部または一部を含むペプチド、配列番号28(PHB2ポリペプチド全長)のアミノ酸配列における44~57番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列の全部または一部を含むペプチド、ならびに配列番号28(PHB2ポリペプチド全長)のアミノ酸配列における76~88番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列の全部または一部を含むペプチドのうちのいずれか1つまたは組み合わせを投与する工程を含む、[19]に記載の方法。
[21]薬物療法抵抗性の乳がん患者(例えば、トリプルネガティブの乳がん患者)を選択する工程と、[1]~[11]のいずれかに記載の1種もしくは複数種のペプチド、該ペプチドをコードするポリヌクレオチド、および該ペプチドの薬学的に許容される塩からなる群より選択される少なくとも1つを対象に投与する工程とを含む、薬物療法抵抗性の乳がん(例えば、トリプルネガティブの乳がん)の治療及び予防のいずれか又は両方のための方法。
また、本発明のペプチドは、エストロゲン依存性乳がん細胞のみならず、トリプルネガティブ乳がん細胞に対する増殖抑制効果も示す。これまで、トリプルネガティブ乳がんには、有効な分子標的治療薬がなく、既存の副作用の強い抗がん剤による治療しか選択肢がなかった。一方、本発明のペプチドによる細胞増殖抑制効果は、BIG3の発現が認められない正常乳腺上皮細胞においては認められなかった。これらのことから、本発明のペプチドは、ホルモンの依存性の有無にかかわらず、BIG3陽性のがんの治療薬として有用であることが示唆された。
本明細書で使用する「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という単語は、特に明記しない限り「少なくとも1つの」を意味する。
本明細書において、細胞又はがんに関して使用される「エストロゲン受容体陽性」という用語は、細胞又はがんを構成するがん細胞が、エストロゲン受容体を発現していることを意味する。エストロゲン受容体陽性か否かはELISA法や免疫組織化学染色法等の公知の方法により確認することができる。また、本明細書において、細胞又はがんに関して使用される「エストロゲン受容体陰性」という用語は、細胞又はがんを構成するがん細胞が、エストロゲン受容体を発現していないことを意味する。
本発明は、PHB2ポリペプチドにおけるBIG3ポリペプチドとの結合部位を含み、PHB2ポリペプチドとBIG3ポリペプチドとの結合を阻害するペプチドを提供する。本発明のペプチドは、本明細書において、「PHB2ペプチド」、「PHB2由来ペプチド」または「PHB2配列由来ペプチド」とも記載される。
本発明のペプチドは、PHB2ポリペプチドにおけるBIG3ポリペプチドとの結合部位を含むことによりBIG3ポリペプチドと結合する能力を有する。その結果、PHB2ポリペプチドのBIG3ポリペプチドへの結合を競合的に阻害する。本発明におけるPHB2ペプチドは、PHB2ポリペプチドとBIG3ポリペプチド間の結合を阻害する作用を有する限り、塩であることもできる。例えば、酸(無機酸、有機酸など)又は塩基(アルカリ金属、アルカリ土類金属、アミンなど)との塩であることができる。酸との塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸、酢酸など)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メグルミン酸など)との塩などが挙げられる。塩基との塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウムとの塩などが挙げられる。本発明のペプチドの塩の好ましい例としては、例えば、酢酸塩、塩酸塩、メグルミン酸塩、及びアンモニウム塩などが挙げられる。
(a)配列番号1および36~41(PHB2配列由来ペプチドNo.1、36~41)からなる群より選択されるアミノ酸配列;
(b)配列番号5および47~53(PHB2配列由来ペプチドNo.5、47~53)からなる群より選択されるアミノ酸配列;及び
(c)配列番号82~83(PHB2配列由来ペプチドNo.82~83)からなる群より選択されるアミノ酸配列。
しかしながら、本発明のペプチドは、これらに限定されず、PHB2ポリペプチドにおけるBIG3ポリペプチドとの結合部位を含み、PHB2ポリペプチドとBIG3ポリペプチドとの結合を阻害する活性を有していれば、ペプチドを構成するアミノ酸配列は特に限定されない。
(a')配列番号1および36~41(PHB2配列由来ペプチドNo.1、36~41)からなる群より選択されるアミノ酸配列において、配列番号28(PHB2ポリペプチド全長)のアミノ酸配列における15番目のグリシン及び18番目のグリシンに対応する位置以外の1個、2個又は数個のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列;ならびに
(b')配列番号5および47~53(PHB2配列由来ペプチドNo.5、47~53)からなる群より選択されるアミノ酸配列において、配列番号28(PHB2ポリペプチド全長)のアミノ酸配列における82番目のアスパラギン酸に対応する位置以外の1個、2個又は数個のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列。
機能的に類似したアミノ酸を示す保存的置換の表は、当技術分野において周知である。保存することが望ましいアミノ酸側鎖の特性の例には、例えば、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、並びに以下の官能基又は特徴を共通して有する側鎖が含まれる:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);並びに芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)。加えて、以下の8群はそれぞれ、相互に保存的置換であるとして当技術分野で認められるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins 1984を参照されたい)。
本発明のペプチドは、PHB2ポリペプチドとBIG3ポリペプチドとの結合を阻害する活性が維持される限り、PHB2ポリペプチドにおけるBIG3ポリペプチドとの結合部位以外のアミノ酸残基を含み得る。例えば、PHB2ポリペプチドにおけるBIG3ポリペプチドとの結合部位を含むPHB2ポリペプチドの断片は、本発明のペプチドとして好適である。したがって、配列番号28(PHB2ポリペプチド全長)のアミノ酸配列における15番目のグリシン及び18番目のグリシン及びその周辺配列を含むPHB2ポリペプチド(配列番号1および36~41(PHB2配列由来ペプチドNo.1、36~41))ならびに配列番号28(PHB2ポリペプチド全長)のアミノ酸配列における82番目のアスパラギン酸及びその周辺配列を含むPHB2ポリペプチド(配列番号5および47~53(PHB2配列由来ペプチドNo.5、47~53))は、本発明のペプチドの好ましい例として挙げられる。本発明のペプチドの別の好ましい例として、配列番号28(PHB2ポリペプチド全長)のアミノ酸配列における44~57番目のアミノ酸及びその周辺配列を含むPHB2ポリペプチド(配列番号82~83(PHB2配列由来ペプチドNo.82~83)も挙げられる。
(i)BIG3ポリペプチドを発現しているエストロゲン受容体陽性細胞において、PHB2ポリペプチドの核内移行を促進する;及び
(ii)BIG3ポリペプチドを発現しているエストロゲン受容体陽性細胞において、核内及び/又は細胞膜に存在するエストロゲン受容体とPHB2ポリペプチドとの結合を促進する。
上記(i)及び(ii)のいずれか又は両方の性質を有することにより、本発明のペプチドは、BIG3発現細胞において、エストロゲン受容体の活性化を抑制し、その結果としてエストロゲン受容体陽性細胞の細胞増殖の抑制を導く。PHB2ペプチドの前記性質(i)および(ii)は、いずれも、当業者に公知の方法に従って評価することができる。
Tat/RKKRRQRRR(配列番号90)(Frankel et al., Cell 55(6),1189-93(1988)., Green & Loewenstein Cell 55, 1179-88(1988));
Penetratin/RQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号103)(Derossi et al., J. Biol. Chem. 269(14), 10444-50 (1994));
Buforin II/TRSSRAGLQFPVGRVHRLLRK(配列番号91)(Park et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA 97(15), 8245-50(2000));
Transportan/GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL(配列番号92)(Pooga et al., FASEB J. 12(1), 67-77(1998));
MAP (Model Amphipathic Peptide)/KLALKLALKALKAALKLA(配列番号93)(Oehlke et al., Biochim. Biophys. Acta. 1414(1-2), 127-39(1998));
K-FGF/AAVALLPAVLLALLAP(配列番号94)(Lin et al., J. Biol. Chem. 270(24), 14255-8 (1995));
Ku70/VPMLK(配列番号95)(Sawada et al., Nature Cell Biol. 5(4), 352-7(2003));
Ku70/PMLKE(配列番号96)(Sawada et al., Nature Cell Biol. 5(4), 352-7(2003));
Prion/MANLGYWLLALFVTMWTDVGLCKKRPKP(配列番号97)(Lundberg et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 299(1), 85-90(2002));
pVEC/LLIILRRRIRKQAHAHSK(配列番号98)(Elmquist et al., Exp. Cell Res. 269(2), 237-44(2001));
Pep-1/KETWWETWWTEWSQPKKKRKV(配列番号99)(Morris et al., Nature Biotechnol. 19(2), 1173-6(2001));
SynB1/RGGRLSYSRRRFSTSTGR(配列番号100)(Rousselle et al., Mol. Pharmacol. 57(4), 679-86(2000));
Pep-7/SDLWEMMMVSLACQY(配列番号101)(Gao et al., Bioorg. Med. Chem. 10(12), 4057-65(2002));及び
HN-1/TSPLNIHNGQKL(配列番号102);(Hong & Clayman Cancer Res. 60(23), 6551-6(2000))。
また、本発明は、PHB2ポリペプチドにおけるBIG3ポリペプチドとの結合部位を含み、PHB2ポリペプチドとBIG3ポリペプチドとの結合を阻害するペプチドであって、少なくとも1つのアミド結合がその等価体(例えば、エステル、スルホンアミド、およびアルケンイソスター)に置き換えられたペプチドも提供する。
特定の態様において、本発明のペプチドは環化されていてもよく、環化によって本発明のペプチドの安定性が向上しうる。本発明のペプチドに環構造を導入する方法は周知であり、例えば、直鎖型ペプチドのN末端及びC末端にシステインを付加し、これらのシステインにジスルフィド結合を形成させることによってペプチドを環化することができる。本明細書において、このようにペプチドを構成するアミノ酸配列中2つ(1対)のアミノ酸残基の側鎖が架橋(ステープル化)されている構造を「ステープリング構造」と呼ぶことができ、1つまたは複数のステープリング構造が導入されている架橋型ペプチドは「ステープル化ペプチド」とも表記される。このような分子内架橋を形成するアミノ酸残基の位置は、元の直鎖型ペプチドのN末端及びC末端に限定されず、元の直鎖型ペプチド内に存在するアミノ酸残基が分子内架橋を形成してもよいし、元の直鎖型ペプチドに(例えば、置換、付加、又は挿入により)導入されたアミノ酸残基が分子内架橋を形成してもよい。分子内架橋を形成するアミノ酸残基は天然アミノ酸に限定されず、上記のようなアミノ酸模倣体又は非天然アミノ酸であってもよい。また、ペプチドを架橋する方法は、ジスルフィド結合の形成に限定されず、(例えば、ヘキサフルオロベンゼンまたはデカフルオロビフェニルを用いることによる)フルオロベンゼンを介したシステイン残基間の架橋、チオエーテル結合の形成、エステル結合の形成、及び閉環オレフィンメタセシス等の炭化水素ステープリング技術(例えばWO2017/126461に記載)等も挙げられる。
したがって、本発明は、PHB2ポリペプチドにおけるBIG3ポリペプチドとの結合部位を含み、PHB2ポリペプチドとBIG3ポリペプチドとの結合を阻害する環状ペプチドであって、少なくとも1つの分子内結合によって環化されている、環状ペプチドを提供する。当該分子内結合の例としては、ジスルフィド結合、(例えば、ヘキサフルオロベンゼンまたはデカフルオロビフェニルを用いることによる)フルオロベンゼンを介したシステイン残基間の架橋、チオエーテル結合、エステル結合、チオエステル結合、炭化水素鎖(例えば、オレフィン、アリール等)による結合、複素環(例えば、トリアゾール、オキサゾール、チアゾール等)による結合、アミド結合、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。
(a) PHB2ポリペプチドにおけるBIG3ポリペプチドとの結合部位を含み、PHB2ポリペプチドとBIG3ポリペプチドとの結合を阻害する直鎖型ペプチドを提供する工程;ならびに
(b) 前記直鎖型ペプチドにおいて、少なくとも1つの分子内結合を形成させる工程であって、それによって前記直鎖型ペプチドが環化される、工程。
前記分子内結合は、任意で、ジスルフィド結合、(例えば、ヘキサフルオロベンゼンまたはデカフルオロビフェニルを用いることによる)フルオロベンゼンを介したシステイン残基間の架橋、チオエーテル結合、エステル結合、チオエステル結合、炭化水素鎖(例えば、オレフィン、アリール等)による結合、複素環(例えば、トリアゾール、オキサゾール、チアゾール等)による結合、アミド結合、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される。
前記方法は、任意で、システイン残基、アミノ酸模倣体又は非天然アミノ酸、及び連続する複数のアルギニン残基からなる群より選択される少なくとも1つを前記直鎖型ペプチドに(例えば、置換、付加、又は挿入により)導入する工程を含む。
上記のような方法のいずれかにより、「PHB2ポリペプチドとBIG3ポリペプチドとの結合を阻害する活性」が確認されたペプチドは、「PHB2ポリペプチドとBIG3ポリペプチドとの結合を阻害する活性」を有するペプチドであると判定される。
(i)BIG3ポリペプチドを発現しているエストロゲン受容体陽性細胞において、PHB2ポリペプチドの核内移行を促進する;及び
(ii)BIG3ポリペプチドを発現しているエストロゲン受容体陽性細胞において、核内及び/又は細胞膜に存在するエストロゲン受容体とPHB2ポリペプチドとの結合を促進する。
(i)Peptide Synthesis, Interscience, New York, 1966;
(ii)The Proteins, Vol. 2, Academic Press, New York, 1976;
(iii)ペプチド合成,丸善, 1975;
(iv)ペプチド合成の基礎と実験, 丸善, 1985;
(v)医薬品の開発 続第14巻(ペプチド合成), 広川書店, 1991;
(vi)WO99/67288;及び
(vii)Barany G. & Merrifield R.B., Peptides Vol. 2, 「Solid Phase Peptide Synthesis」, Academic Press, New York, 1980, 100-118。
FLAG(Hopp et al., Bio/Technology 6, 1204-10(1988));
ヒスチジン(His)残基からなる6xHis又は10xHis;
インフルエンザ血球凝集素(HA);
ヒトc-myc断片、VSV-GP断片;p18 HIV断片;
T7タグ; HSVタグ;
Eタグ;SV40T抗原断片;
lckタグ;
α-チューブリン断片;
Bタグ;
プロテインC断片;
GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ);
HA(インフルエンザ血球凝集素);
免疫グロブリン定常領域;
β-ガラクトシダーゼ;及び;
MBP(マルトース-結合タンパク質)。
本発明はまた、本発明のペプチドをコードするポリヌクレチドも提供する。また、本発明は、該ポリヌクレチドを含むベクター、及び該ベクターを含む宿主細胞も提供する。該ポリヌクレチド、該ベクター、及び該宿主細胞は、本発明のペプチドを製造するために使用することができる。
本発明はまた、本発明のペプチド若しくはその塩又は本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを薬学的に許容される担体とともに含む医薬組成物を提供する。
本発明のペプチドは、PHB2ポリペプチドとBIG3ポリペプチドとの結合を阻害することにより、PHB2ポリペプチドによるエストロゲン受容体の活性化抑制を誘導し、その結果として、エストロゲン受容体陽性細胞における細胞増殖の抑制を導く。したがって、本発明の医薬組成物は、エストロゲン受容体の活性化に起因する細胞増殖性疾患の治療及び予防のいずれか又は両方に有用である。そのような細胞増殖性疾患としては、例えば、がんが挙げられる。
すなわち本発明は、本発明のペプチドを含む医薬組成物であって、薬物療法抵抗性の乳がん患者に投与するための医薬組成物を提供する。また本発明は、薬物療法抵抗性の乳がん患者の治療及び予防のいずれか又は両方において使用するための、本発明のペプチドに関する。更に本発明は、本発明のペプチドの、薬物療法抵抗性の乳がん患者の治療及び予防のいずれか又は両方のための医薬組成物の製造における使用に関する。あるいは本発明は、薬物療法抵抗性の乳がん患者を選択する工程と、選択された患者に本発明のペプチドを投与する工程を含む、乳がんの治療及び予防のいずれか又は両方のための方法をも提供する。
薬物療法抵抗性の乳がん患者は、一般的な薬物療法の後に、その治療成績を観察することで特定することができる。具体的には、治療によって、病巣の縮退が明確に観察されない場合に、治療抵抗性であることを知ることができる。なお病巣の拡大が阻止された状態は、病巣の縮退に含まれる。前述のトリプルネガティブの乳がん患者も薬物療法に抵抗性を持つとされている。トリプルネガティブとは、HER2に加えて、エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体の発現を欠くことによって特徴付けられる乳がんである。これらの薬物療法抵抗性のマーカーは、免疫染色や遺伝子発現解析によって定量的に評価することができる。たとえば、陰性対照と同程度の発現レベルに有る場合には、ネガティブと判断される。陰性対照には、これらのマーカーの発現を欠いた治療抵抗性のがん細胞株を用いることができる。
本発明のペプチドまたはその塩の用量の例としては、例えば、0.001~1000mg/kg/日、0.005~500mg/kg/日、0.01~250mg/kg/日等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(a)がんの治療及び予防のいずれか又は両方のための医薬組成物の製造における、本発明のペプチド若しくはその塩または該ペプチドをコードするポリヌクレオチドの使用;
(b)がんの治療及び予防のいずれか又は両方において用いるための本発明のペプチド若しくはその塩または該ペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(c)がんの治療及び予防のいずれか又は両方のための医薬組成物を製造するための方法またはプロセスであって、本発明のペプチド若しくはその塩または該ペプチドをコードするポリヌクレオチドと、薬学的に許容される担体とを製剤化する段階を含む方法またはプロセス;
(d)がんの治療及び予防のいずれか又は両方のための医薬組成物を製造するための方法またはプロセスであって、本発明のペプチド若しくはその塩または該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを薬学的に許容される担体と混合する段階を含む方法またはプロセス;および
(e)本発明のペプチド若しくはその塩または該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを対象に投与することを含む、がんの治療及び予防のいずれか又は両方のための方法。
上記の使用および方法等において、がんは好ましくはBIG3陽性のがんであり、エストロゲン受容体陽性のがんであってもエストロゲン受容体陰性のがん(例えば、トリプルネガティブの乳がん)であってもよい。このようながんの好適な例として乳がんが挙げられる。
1.材料と方法
細胞株および培養条件
ヒト乳がん細胞株MCF-7 はJCRB細胞バンク(大阪、日本)から購入し、10% FBS(ニチレイバイオサイエンス、東京、日本)、1% Antibiotic/Antimycotic solution (Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)、0.1mM NEAA(Thermo Fisher Scientific)、1mM ピルビン酸ナトリウム(Thermo Fisher Scientific)および10μg/mLインスリン(Sigma, St. Louis, MO, USA)を補充したMEM (Thermo Fisher Scientific)で、5% CO2、37℃で維持した。
正常乳腺上皮細胞株MCF-10AはAmerican Type Culture Collection(ATCC, Manassas, VA, USA)から購入し、SingleQuotsキット(BPE、ヒドロコルチゾン、hEGF、インスリン、ゲンタマイシン/アンホテリシンB)(Lonza, Walkersville, MD, USA)および100ng/mLコレラトキシンを補充したMEBM(Lonza)で、5% CO2、37℃で維持した。
MCF-7の増殖アッセイは、48ウェルプレート(2×104細胞/200μL)に播種して行った。まず、翌日に10% FBS、1% Antibiotic/Antimycotic solution、0.1mM NEAA、1mM ピルビン酸ナトリウムおよび10μg/mLインスリンを補充したフェノールレッドフリーのDMEM/F12(Thermo Fisher Scientific)に培地を変更し、24時間後に10nM 17β-エストラジオール(エストロゲン、Sigma)のみ、または10nMエストロゲンとPHB2配列由来ペプチドで細胞を処理した。MCF-10Aの増殖アッセイは、48ウェルプレート(2×104細胞/200μL)に播種して、24時間後にPHB2配列由来ペプチドを添加した。増殖アッセイは、Cell Counting Kit-8(CCK-8、同仁堂、熊本、日本)を用いて行い、データは3つの独立した実験の平均±標準偏差で示した。
イムノブロット解析は、SDS-PAGE後にタンパク質をブロットしたメンブレンを4%ブロックエース溶液(大日本製薬、大阪、日本)で3時間ブロッキングした後、BIG3(1:1,000)、PHB2(1:1,000、Abcam, Cambridge, UK)、およびリン酸化PHB2(Ser39、Scrum、東京、日本)に対する抗体と12時間反応させた。その後、HRP標識二次抗体(BIG3は抗ラットIgG-HRP, 1:5,000、PHB2とリン酸化PHB2は抗ウサギIgG-HRP, 1:1,000、Santa Cruz Biotechnology, Dallas, TX, USA)と1時間反応させ、ブロットを増強化学発光(ECL)システム(GE Healthcare, Buckinghamshire, UK)で展開し、Image Reader LAS-3000 mini(富士フィルム、東京、日本)を用いてスキャンした。
免疫沈降はMCF-7を10cmディッシュ(2×106細胞/10mL)に播種して、細胞増殖アッセイと同様に、MCF-7を10nMエストロゲンのみ、または10nMエストロゲンとPHB2配列由来ペプチドで処理した。免疫沈降解析は、細胞溶解緩衝液(50mM Tris-HCl; pH 8.0, 150 mM NaCl, 0.1% NP-40, and 0.5% CHAPS、0.1% protease inhibitor cocktail III)で溶解した細胞溶解物をラットIgG抗体とrec-Protein Gセファロース4B(Thermo Fisher Scientific)を用いて、4℃で3時間プレクリアした。その後、上清をBIG3に対する抗体5μgと4℃で12時間反応させた。次に、抗原抗体複合体をrec-Protein Gセファロース4B用いて4℃で1時間沈降した。免疫沈降されたタンパク質複合体を細胞溶解緩衝液で4回洗浄して、SDS-PAGEおよびイムノブロット解析を行った。
すべてのペプチドはFmoc型固相合成法により合成した。樹脂はNovaSyn TGR樹脂(0.25mmol アミン/g)もしくはRink Amide AM樹脂(0.62mmol アミン/g)を用い、手動のFmoc固相合成法を利用した。Fmoc基の除去は、20%(v/v)ピペリジン/DMF溶液を室温で10分間作用させ、樹脂をDMFで5~10回洗浄したあと、Fmocアミノ酸3当量をDMF溶媒中、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCDI、3.0当量)と1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(HOBt・H2O、3.3当量)あるいは N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、3.0当量)とN,N,N,N-テトラメチル-O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU、2.9当量)を用いて、室温で90分間カップリングさせた。DMF、メタノール、エタノールで洗浄乾燥後、保護ペプチド樹脂100mgに対して、TFA:チオアニソール:m-クレソール:1,2-エタンジチオール:水(80:5:5:5:5)のカクテル5mLを、室温で90分間作用させた。TFAを窒素気流により濃縮後、残渣にエーテルを加え沈殿化させ、エーテルで沈殿物を洗浄後、適当な水性溶媒に溶解後、HPLCで分取精製した。
PHB2配列由来ペプチドのスクリーニング
図1Aに示す20種類のPHB2タンパク質配列由来ペプチドを用いて、MCF-7のエストロゲン(E2)依存性増殖に対する抑制効果を検討した(各ペプチド10μM、24時間処理)。その結果、MCF-7はE2刺激により有意に増殖促進したのに対して、PHB2由来ペプチドNo.1(11-22aa:配列番号1)とNo.5(76-90aa:配列番号5)の処理にて、約50%の有意なE2依存性増殖の抑制効果を示した(No.1:58%、No.5:49%の抑制率)。これらは、ともにin silico解析によるBIG3との結合予測領域(太字のアミノ酸)とほぼ一致していた。また、No.2(42-50aa:配列番号2)とNo.3(38-50aa:配列番号3)のペプチドにおいても、22%、23%のE2依存性増殖の抑制効果を示した。しかしながら、各PHB2配列由来ペプチドはERAPと比較すると、E2依存性増殖抑制効果は低いことから、PHB2側のBIG3結合領域は複数存在する可能性が示唆された。
次に、No.1(11-22aa)およびNo.5(76-90aa)を中心としたPHB2配列由来のペプチドを新たに合成して(図1B, C)、各10μMで24時間処理したときのE2依存性増殖に及ぼす影響を検討した。その結果、No.1(11-22aa)の近辺ではPHB2(11-22aa)ペプチドの抑制率がもっとも高く(63%の抑制率)、そこを中心に抑制効果は減弱していった(図1B)。一方、No.5(76-90aa)近辺でもPHB2(76-90aa)ペプチドが高い抑制率を示し(51%の抑制率)、No.50(75-89aa)もほぼ同じ抑制効果を有していたが、上記と同様に、これらのペプチドを中心に抑制率は減弱していた(図1C)。これらのデータで共通していることは、in silico解析でBIG3との結合予測部位で高いスコアを示した11-21aaおよび76-88aaの各アミノ酸を含んでいることであり、PHB2にはBIG3の結合部位が二つ存在することを示唆するものであった。
そこで、No.1(11-22aa)とNo.5(76-90aa)を中心としたペプチド、およびNo.5(76-90aa)とNo.1(11-22aa)を中心としたペプチドを併用したときのMCF-7のE2依存性増殖抑制効果を検討した。その結果、E2依存性の増殖に対してNo.1(11-22aa)ペプチドの単独処理は65%の抑制率とほぼ再現され、これにNo.5(76-90aa)を中心としたPHB2ペプチドを併用したとき、No.5(76-90aa)およびNo.50(75-89aa)との併用が各100%、97%とほぼ完全な抑制効果を示した(図1D)。同様に、No.5(76-90aa)の単独処理は55%の抑制率を示し、No.1(11-22aa)を中心としたPHB2ペプチドとの併用はNo.1(11-22aa)のときほぼ完全に抑制し、5~26aaの領域からなるペプチド(No.36, 37, 38, 39, 40)と併用すると90%以上の抑制率になり(図1E)、No.1(11-22aa)およびNo.5(76-90aa)PHB2領域がBIG3との結合に重要であり、これらの領域を考慮したドミナントネガティブペプチドの開発が必要であると考えられた。
続いて、MCF-7のE2依存性増殖を抑制できるPHB2配列由来ペプチド2種類(No.1、No.5)を併用したときのMCF-7のE2依存性増殖抑制効果を検討した。その結果、No.1とNo.5の各単独処理に比して、両ペプチド併用では効果が亢進され、88%の増殖抑制効果を示した(図2A)。また、単独処理では抑制効果を示さなかったNo.6(86-100aa、約10%の抑制率)とNo.5を併用投与しても抑制効果の亢進は認められなかったことから、PHB2の11-22aaと76-90aa のそれぞれに、BIG3結合領域が存在する可能性が示唆された。
次に、No.1とNo.5の20μMと50μM処理における、BIG3とPHB2の結合阻害について、BIG3抗体を用いた免疫沈降法により検討した。その結果、No.1とNo.5ともに濃度依存的にBIG3とPHB2の結合を阻害したが、No.1は50μMで64%、No.5は50μMで80%の阻害率であった(図2B)。また、両ペプチドの50μMの併用では87%の阻害率が得られた(図2B)。続いて、各ペプチド(No.1、No.5、No.6)のPHB2のSer39のリン酸化への影響を検討した。ポジティブ・コントロールであるERAP処理によるPHB2のSer39のリン酸化に比して、No.1とNo.5の単独処理はそれぞれ、各40%、20%のリン酸化バンド強度しか認めず(図2C)、また、両ペプチドの併用でも70%のリン酸化強度であった(図2C)。一方、No.6はPHB2のリン酸化を10%のバンド強度で有り、ほとんど誘導できなかった(図2C)。また、No.5とNo.6の併用でも、20%のバンド強度であったことから、PHB2とBIG3の結合はNo.1とNo.5の領域に複数にわたることが示唆された。
PHB2配列由来ペプチド(No.1とNo.5)はE2依存性増殖の抑制およびPHB2のSer39リン酸化の誘導を50%しかできないので、この2つの領域を含む11-90aaのPHB2ペプチドを新たに合成して、MCF-7のE2依存性増殖に及ぼす影響を検討した。その結果、11-90aaのPHB2ペプチドは24時間のE2刺激により2倍に増殖したMCF-7を濃度依存的に抑制していたが、50μMでも57%の抑制率しかなく(図3A)、No.1およびNo.5のペプチドとほぼ同じ抑制率であった。
そこで、11-90aaペプチドがBIG3とPHB2の結合阻害およびPHB2リン酸化の誘導をできるかどうかを評価した。その結果、11-90aaのPHB2ペプチドはBIG3とPHB2の結合を未処理より阻害していたが、十分な結合阻害効果は得られなかった(図3B)。また、PHB2のSer39のリン酸化は11-90aaのPHB2ペプチドの濃度依存的に誘導されていたが、ERAP処理により得られたリン酸化の30%と十分なリン酸化を誘導することができなかった(図3C)。これは、アミノ酸数が80個と多いために、BIG3のαへリックス構造との結合が不十分だった可能性も考えられる。
PHB2配列由来ペプチド11-22aaと76-90aaの併用がエストロゲン依存性増殖を88%の抑制率まで亢進したことから(図2A)、両方の配列を直鎖上に合成したペプチド(直鎖結合型、図4A)と分岐させて合成したペプチド(分岐結合型、図4B)、および構造の安定化と膜透過性の向上を目的に各配列を環状型に合成したペプチド(環状型、図4C)を新たに作成し、各ペプチドの増殖抑制効果の亢進を検討した(各ペプチド10μM、24時間処理)。その結果、PEG(ポリエチレングリコール)配列を介して両配列を結合させた直鎖結合型および分岐結合型PHB2ペプチドの抑制率は各71%、57%となり、その抑制率は単独の直鎖型ペプチドの投与より亢進していたが、その併用投与より劣っていた(図5A)。また、11-21aaおよび76-88aaの環状型PHB2ペプチドは非環状型ペプチドと比較して、その抑制率は亢進していた(図5A)。さらに、環状型ペプチドの併用はほぼ完全な抑制効果を獲得したが(96%の抑制率、図5A)、細胞が浮いてくるようなアポトーシス様の現象は確認できなかった。
次に、環状型ペプチドがERαおよびBIG3を発現しない正常乳腺上皮細胞MCF-10Aの増殖に及ぼす影響を検討した(各ペプチド10μM、24時間処理)。その結果、直鎖結合型と環状結合型PHB2ペプチドで僅かな抑制効果が観察されたが(図5B、直鎖結合型:10%の阻害率、環状型11-21aa:14%の阻害率、環状型76-88aa:15%の阻害率)、ほとんどのPHB2ペプチドはMCF-10Aの増殖にほとんど影響をせずに、E2依存性増殖を特異的に抑制していることが示唆された。
次に、これらのPHB2ペプチドがBIG3とPHB2の相互作用を阻害することができるかどうか検討した。その結果、未処理およびE2刺激したときBIG3とPHB2は強く結合していたのに対して(図5C)、各PHB2ペプチドの単独処理はBIG3とPHB2の相互作用をほとんど阻害することができなかったが(図5C)、直鎖型PHB2ペプチドおよび環状型PHB2ペプチドのそれぞれの併用投与は顕著に阻害することが可能であり(図5C、直鎖型併用:67%の阻害率、環状型併用:81%の阻害率)、BIG3に対するPHB2の結合領域が二つあることを示唆していた。一方、直鎖結合型ならびに分岐結合型のPHB2ペプチドはPHB2上の二つのBIG3結合領域をカバーすることはできないと判断された。
環状型PHB2ペプチドが膜透過性亢進および構造固定化により、低濃度かつ長期安定性を獲得する可能性が考えられるため、10μMの環状型PHB2ペプチドを単独処理したときの96時間までの長期安定性を検討した。その結果、直鎖型のPHB2ペプチド11-22aaと76-90aaは24時間処理で40%と61%の抑制率であったが、96時間後では31%、24%に顕著に抑制していたのに対して(図6A)、環状型ペプチドは96時間後でも環状型11-21aaは67%(24時間処理は53%)、環状型76-88aaは72%(24時間処理は58%)の抑制率を示し(図6A)、その抑制効果は96時間まで安定的に持続していた。これらのデータは、環状型が架橋型と同様に立体構造が安定的に固定化されたことで、長期的な抑制効果が持続できていると考えられた。
次に、環状型PHB2ペプチドがその抑制効果を96時間まで持続することができたので、各環状型PHB2ペプチドの1および10μMの96時間までの処理がERαおよびBIG3を発現しないMCF-10Aの増殖に及ぼす影響を検討した。その結果、PHB2配列11-21aaと76-88aaの各環状型ペプチドは、1μMではほとんど影響なかったが(ともに5~7%の抑制率)、10μMでは10~15%の抑制率を示し(図6B)、僅かな非特異的な阻害効果を有していると示唆されたが、環状型PHB2ペプチドによるMCF-7のE2依存的増殖の抑制はおもにBIG3とPHB2の結合阻害によるものであると考えられた。
環状型PHB2ペプチドがE2依存性MCF-7の増殖に対する50%阻害濃度(IC50)を算出して、そのIC50による相乗的な抑制効果を検討した。その結果、各環状PHB2ペプチドはE2依存性増殖に対して濃度依存的に抑制し、環状型11-21aaは4.06μM、環状型76-88aaは2.11μMのIC50を示した(図7A)。そこで、4μMの環状型11-21aaと2μMの環状型76-88aaを用いて、長期的な併用効果を検討したところ、24時間の併用投与で82%の相乗的な抑制効果を示し、その抑制効果は96時間まで持続していた(図7B、併用投与:88%の抑制率、環状型11-21aa:41%の抑制率、環状型76-88aa:59%の抑制率)。さらに、これらの濃度はMCF-10Aの増殖にほとんど影響を及ぼさなかった(図7C)。
PHB2由来ペプチドNo.1(11-22aa:配列番号1)とNo.5(76-90aa:配列番号5)が、E2依存性増殖に対して約50%の抑制効果を有していたことから、No.1とNo.5のペプチド配列中の各アミノ酸をアラニンに変異させたペプチドを作製して(図8A)、増殖抑制に重要なアミノ酸の同定を試みた。実験は、MCF-7を播種して48時間後に10μMの各PHB2ペプチドおよび10nMのエストロゲンを添加し、さらに24時間後の細胞数をモニターした。まず、PHB2配列11~22aaのアミノ酸を評価したところ、No.1(11-22aa)はエストロゲン依存性の細胞増殖を65%まで抑制したのに対して、No.59とNo.62のアラニン変異ペプチド(配列番号59、62)のみが19%と8%の抑制率に減弱していた(図8B)。一方、そのほかのアラニン変異ペプチドはNo.1の抑制率とほぼ同じであったことから(図8B)、15番目と18番目のグリシンがBIG3との結合に重要であると考えられ、この部位をD-アミノ酸の異性体型に変換することで、抑制活性が向上する可能性を示唆するものである。
次に、PHB2配列76~90aaのアミノ酸を評価したところ、No.5(76-90aa)のエストロゲン依存性増殖に対する抑制率は54%とほぼ再現されたが(図8C)、No.71~No.73のアラニン変異ペプチド(配列番号71~73)の抑制率がNo.5(76-90aa)より減弱し、各38%、37%、13%であり(図8C)、特に82番目のアスパラギン酸がBIG3とPHB2の結合に必要であると考えられた。
さらに、No.1(11-22aa)とNo.5(76-90aa)のペプチド以外に抑制効果を示したNo.2(42-50aa:配列番号2)とNo.3(38-50aa:配列番号3)に(図1A)、in silico解析でBIG3とPHB2の相互作用に関与することが予測された53-57aa(図1A)を含む51-57aaを付加したペプチドを用いて((図8D)、No.82とNo.83:配列番号82、83)、エストロゲン依存性の細胞増殖に及ぼす影響を検討した。その結果、No.2とNo.3の抑制率は各20%、17%であったのに対して、57番目までのアミノ酸を付加したNo.82とNo.83のペプチドでは、その抑制率が59%、61%に向上し(図8E)、44番目のグルタミン酸から57番目のグリシンまでのアミノ酸を有することで、No.1とNo.5の抑制率に匹敵するPHB2ペプチドになり得ることが示唆された。
1.材料と方法
細胞株および培養条件
ヒト乳がん細胞株MDA-MB-231は、American Type Culture Collection(ATCC, Manassas, VA, USA)から購入し、10% FBS(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)、1%抗生物質-抗真菌剤溶液(和光純薬, 大阪, 日本 )を補充したLeibovitz's L-15 培地(Thermo Fisher Scientific)を用いて、CO2濃度調節なし、37℃で培養した。
MDA-MB-231細胞を48ウェルプレートに1×104細胞/200 μL in wellの細胞密度で播種し、48時間後に各ウェルの培地をPHB2ペプチド11-22aaまたは76-90aaを加えた培地(それぞれ20 μMから3倍の希釈系列を作製)と交換し、さらに96時間培養後、Cell Counting Kit-8(同仁堂、熊本、日本)を用いて細胞増殖レベルを測定した。データは3つの独立した実験より取得し、グラフ作成・データ解析ソフトウェアSigmaPlot (Systat Software, San Jose, CA, USA)を用いてグラフ作成(平均±標準偏差)および細胞増殖に対するペプチドの50%阻害濃度(IC50)の算出を行った。
MDA-MB-231細胞を48ウェルプレートに1×104細胞/200 μL in wellの細胞密度で播種し、48時間後に各ウェルの培地をPHB2ペプチド11-22aa(添加濃度IC50値)、PHB2ペプチド76-90aa(添加濃度IC50値)、両ペプチドの混合液(添加濃度はそれぞれのIC50値)をそれぞれ加えた培地、および陰性対照としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を加えた培地と交換し、さらに96時間培養後、Cell Counting Kit-8(同仁堂、熊本、日本)を用いて細胞増殖レベルを測定した。得られたデータは、PBS添加時の増殖レベルを基準に相対値を算出し、グラフを作成した。
PHB2ペプチドによる乳がん細胞株の増殖抑制効果
乳がん細胞株MDA-MB-231に対するPHB2ペプチド11-22aaおよび76-90aaの細胞増殖抑制効果を調べるため、ペプチドの段階希釈系列を準備し、細胞添加96時間後に増殖レベルを測定した。その結果、図9AとBに示すように両ペプチドともに濃度依存的な細胞増殖抑制効果が観察された。50%阻害濃度(IC50)は、ペプチド11-22aaでは0.462μM、ペプチド76-90aaでは0.273 μMとなり、ペプチド76-90aaの方が高い増殖抑制効果を示した。
細胞増殖抑制におけるPHB2ペプチド11-22aaと76-90aaの併用効果を検討するため、乳がん細胞株MDA-MB-231を用いて、両ペプチドを各IC50値で混合添加した場合と各ペプチドをIC50値で単独添加した場合の細胞増殖レベルを比較した。その結果、図9Cに示すように、各ペプチド単独では陰性対照のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)添加時と比較して約50%の増殖抑制であったが、併用により約62%まで抑制効果が増強された。
1.材料と方法
細胞株および培養条件
ヒト乳がん細胞株MCF-7 はJCRB細胞バンク(大阪、日本)から購入し、10% FBS(ニチレイバイオサイエンス、東京、日本)、1% Antibiotic/Antimycotic solution(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)、0.1 mM NEAA(Thermo Fisher Scientific)、1 mM ピルビン酸ナトリウム(Thermo Fisher Scientific)および10μg/mLインスリン(Sigma, St. Louis, MO, USA)を補充したMEM(Thermo Fisher Scientific)で、5% CO2、37℃で維持した。
正常乳腺上皮細胞株MCF-10AはAmerican Type Culture Collection(ATCC, Manassas, VA, USA)から購入し、SingleQuotsキット(BPE、ヒドロコルチゾン、hEGF、インスリン、ゲンタマイシン/アンホテリシンB)(Lonza, Walkersville, MD, USA)および100 ng/mLコレラトキシンを補充したMEBM(Lonza)で、5% CO2、37℃で維持した。
MCF-7の増殖アッセイは、48ウェルプレート(2×104細胞/200μL)に播種して行った。まず、翌日に10% FBS、1% Antibiotic/Antimycotic solution、0.1mM NEAA、1mM ピルビン酸ナトリウムおよび10μg/mLインスリンを補充したフェノールレッドフリーのDMEM/F12(Thermo Fisher Scientific)に培地を変更し、24時間後に10nM 17β-エストラジオール(エストロゲン、Sigma)のみ、または10nMエストロゲンとPHB2配列由来ペプチドで細胞を処理した。MCF-10Aの増殖アッセイは、48ウェルプレート(2×104細胞/200μL)に播種して、24時間後にPHB2配列由来ペプチドを添加した。増殖アッセイは、Cell Counting Kit-8(CCK-8、同仁堂、熊本、日本)を用いて行い、データは3つの独立した実験の平均±標準偏差で示した。
エストロゲン依存性増殖に対する架橋型PHB2ペプチドの抑制効果
PHB2ペプチド11-21aaおよび76-88aaを3種類の架橋法(図10A:ヘキサフルオロベンゼン架橋、デカフルオロビフェニル架橋、ジスルフィド架橋)により架橋して架橋型PHB2ペプチド(ステープル化PHB2ペプチド)を作製し(図10B)、エストロゲン依存性増殖に対するこれらのペプチドの抑制効果を検討した。実験は、乳癌細胞MCF-7を播種して48時間後に10μMの各PHB2ペプチドおよび10nMエストロゲンを添加し、さらに24時間後の細胞数をMTT assayで評価した。
11-22aaおよび76-88aaの各架橋型PHB2ペプチドは、エストロゲン依存性増殖に対する抑制効果を非架橋型PHB2ペプチド(配列番号109、113、114、118、122)より約1.5倍に改善した(ポリアルギニン付加:図10C左、ポリアルギニンなし:図10C右)。なお、架橋法(ステープル化法)の違いによる改善効果は認められなかった。また、C末端にポリアルギニンを有さない架橋型PHB2ペプチド(配列番号115、116、117、119、120、121)がポリアルギニン付加ペプチドより抑制率が僅かに高く(ポリアルギニンあり:約60%の抑制率、ポリアルギニンなし:約70%の抑制率)、ポリアルギニンが架橋構造の機能を妨害する可能性を示唆した。
環状型PHB2ペプチド(図4C、配列番号25と26)の細胞膜透過性と構造安定性の向上を目的に、架橋形態を変化させて、エストロゲン依存性増殖に対する抑制効果を検討した。これまでのジスルフィド架橋(配列番号25と26)に加えて、ヘキサフルオロベンゼン架橋(図11A:配列番号123と126)とデカフルオロビフェニル架橋(図11A:配列番号124と127)を評価した。その結果、フルオロベンゼンを用いて架橋した環状型PHB2ペプチド(図11A:配列番号123、124、126、127)は、ジスルフィド架橋より僅かな増殖抑制効果の改善を示し(図11B)、環状型PHB2ペプチド11-21aaで約70%、環状型PHB2ペプチド76-88aaで約80%に亢進した。なお、フルオロベンゼン架橋はシングル架橋(ヘキサフルオロベンゼン架橋)とダブル架橋(デカフルオロビフェニル架橋)の間に相違はなかった。
PHB2ペプチド11-22aaについて、配列番号28(PHB2ポリペプチド全長)に記載のアミノ酸配列における15番目と18番目のグリシンがBIG3との結合に重要であると考えられたことから(図8)、この位置をD型アラニンおよびD型ロイシンに置換したとき(図12A)、その抑制活性が亢進するかどうか検討した。その結果、15番目と18番目のグリシンをD型ロイシンに置換したPHB2ペプチド(配列番号134)は約65%の抑制率を示した一方で(図12B)、D型アラニンへの置換(配列番号133)はまったく抑制効果を示さなかった(図12B)。しかしながら、PHB2ペプチド11-22aa(配列番号1、図8B)の抑制率が約65%であったことから、D型ロイシンに置換しても抑制効果の改善はほとんど認められなかった。
架橋型および環状型のPHB2ペプチドがERαおよびBIG3を発現しない正常乳腺上皮細胞MCF-10Aの増殖に及ぼす影響を検討した(各PHB2ペプチドは10μMで24時間処理)。その結果、評価したすべてのPHB2ペプチドはMCF-10Aの増殖にまったく影響しなかった(図13)。
Claims (12)
- PHB2ポリペプチドにおけるBIG3ポリペプチドとの結合部位を含み、PHB2ポリペプチドとBIG3ポリペプチドとの結合を阻害するペプチドであって、以下の(a)~(b)からなる群より選択されるアミノ酸配列からなるペプチド:
(a)配列番号25、123、124、125、1、106~109および114~118からなる群より選択されるアミノ酸配列;および
(b)配列番号25、123、124、125、1、106~109および114~118からなる群より選択されるアミノ酸配列において、配列番号28のアミノ酸配列における15番目のグリシン及び18番目のグリシンに対応する位置以外の1個のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列。 - 配列番号25、123、124、125、1、106~109、および114~118からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる、請求項1に記載のペプチド。
- 細胞膜透過性物質により修飾されている、請求項1に記載のペプチド。
- 環状型である、請求項1に記載のペプチド。
- 架橋型である、請求項1に記載のペプチド。
- 以下の(i)及び(ii)のいずれか一方又は両方の性質を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のペプチド:
(i)BIG3陽性細胞の細胞増殖を抑制する;及び
(ii)BIG3陽性細胞において、PHB2ポリペプチドのセリン残基のリン酸化を促進する。 - 請求項1~6のいずれか一項に記載のペプチドをコードするポリヌクレオチド。
- 請求項1~6のいずれか一項に記載のペプチド、該ペプチドをコードするポリヌクレオチド、および該ペプチドの薬学的に許容される塩からなる群より選択される少なくとも1つの成分、ならびに薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
- 乳がん細胞の増殖を抑制するため、又は乳がんを治療及び/若しくは予防するための、請求項8に記載の医薬組成物。
- 乳がんがBIG3陽性の乳がんである、請求項9に記載の医薬組成物。
- 乳がんがエストロゲン受容体陽性の乳がんである、請求項9~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
- 請求項1~6のいずれか一項に記載のペプチド、該ペプチドをコードするポリヌクレオチド、および該ペプチドの薬学的に許容される塩からなる群より選択される成分の、乳がんの治療及び予防のいずれか又は両方のための医薬組成物の製造における使用。
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