本願で開示する電波吸収部材用成形材料は、周波数が20GHzから300GHzの電波によって磁気共鳴する磁性酸化鉄と、有機材料のバインダーとを含み、所定の形状に成形される電波吸収部材用成形材料であって、前記磁性酸化鉄が六方晶フェライトであり、ヒステリシス曲線において、+10kOe以上+15k以下の正の磁界を印加して磁化された点をA点、A点から印加磁界強度を減少させて-10kOe以上-15kOe以下の負の磁界を印加して磁化された点をB点としたとき、前記A点から前記B点までのヒステリシス曲線を2回微分して得られる印加磁界が0から-10kOeまでの範囲の曲線における、正の方向の最大のピークの頂点をP1、次に正の方向の極値を有するピークの頂点をP2としたとき、P2/P1の値が0.15以下である。
このようにすることで、本願で開示する電波吸収部材用成形材料は、成形加工の前後での電波吸収特性の変化を所定の範囲内に抑えることができる。このため、使用される周波数の範囲が規制されている特定の分野に使用される機器からの不所望な電波を好適に吸収する電波吸収体を作製することができる。
なお、本願で開示する電波吸収部材用成形材料において、前記磁性酸化鉄が、ストロンチウムフェライトであることが好ましい。
また、本願で開示する電波吸収部材用成形材料として、前記磁性酸化鉄のFeサイトの一部が3価の金属原子で置換されているものを使用することができる。
さらに、本願で開示する電波吸収部材用成形材料として、前記バインダーが、熱硬化性ゴム、熱可塑性エラストマー、および、熱可塑性樹脂のいずれかを使用することができる。
また、本願で開示する電波吸収体は、本願で開示するいずれかの電波吸収部材用成形材料を成形することにより作製されたされたものである。
本願で開示する電波吸収部材用成形材料を用いて作製されることで、成形加工の前後での電波吸収特性の変化を所定の範囲内に抑えることができるため、成形後の電波吸収体の電波吸収特性を成形材料の段階で十分にコントロールできる。このため、設計吸収周波数と、加工後の成型体の吸収周波数に大きな差がなくなり、使用される周波数の範囲が規制されているような特定の分野の電子装置に採用して、不所望な電波の放出や電子装置に不所望な電波が入射することを防止することができる電波吸収体を、容易に作製することができる。
以下、本願で開示する電波吸収部材用成形材料と、この成形材料を成形することで作製された電波吸収体について図面を参照して説明する。
(実施の形態)
[電波吸収体]
まず、本願で開示する電波吸収体の一実施形態として、粒子状の磁性酸化鉄と有機材料のバインダーを含んだ電波吸収層によって構成された、電波吸収体である電波吸収シートについて説明する。
図1は、本実施形態で説明する電波吸収体である電波吸収シートの構成を示す断面図である。
図1では、電磁波吸収性組成物を基材としての樹脂シート2上に塗布、乾燥を行って電磁波吸収シート1を形成した状態を示している。
なお、図1は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を理解しやすくするために記載された図であり、図中に示された部材の大きさや厚みについて現実に即して表されたものではない。
本実施形態で例示する電磁波吸収シート1は、磁性酸化鉄粉としてのストロンチウムフェライトの粉体1aと、樹脂製のバインダー1bとを含んだ電磁波吸収層として形成されている。
図1では、本願で開示する電波吸収体として電波吸収シートを例示したが、本願で開示する電波吸収体としては、電波吸収部材用成形材料を所定の型(金型)を用いて射出成型、または押し出し成型することによって、ブロック状や配置される場所の形状に対応した任意の形状の電波吸収体を作製することができる。
本実施形態で例示する電波吸収シート1は、有機材料のバインダー1b内に、20GHzから300GHzの電波によって磁気共鳴する磁性酸化鉄としてストロンチウムフェライト磁性酸化鉄1aを含んでいる。
[磁性酸化鉄]
本実施形態にかかる電波吸収シート1では、粒子状の磁性酸化鉄1aとして、ストロンチウムフェライトを用いている。
ストロンチウムフェライトは、SrFe12O19にAlを添加した系とすることで共鳴周波数を60GHz~80GHzとすることができ、60GHz帯の無線LANに対応した電波吸収体を作製することができる。なお、Alを添加することによって、電波吸収を示す周波数が高周波側にシフトするが、これは、異方性磁界(HA)の値の増加に対応していると考えられる。
また、本願で開示する電波吸収シートに使用される六方晶フェライト磁性粉としては、バリウムフェライト磁性粉を用いることができる。バリウムフェライトを含むM型(マグネトプランバイト型)フェライトでは、電波吸収に関係する複素透磁率の虚部(μr’’)が磁性体を高周波で磁化した際に共鳴を起こす周波数において高くなることから磁気共鳴周波数fは材料の持つ異方性磁界(HA)と比例関係にあるため、異方性磁界(HA)の高い材料ほど磁気共鳴周波数fの値は高くなる。M型フェライトであるBaFe12O19の磁気共鳴周波数fは、そのHAの値が、1.35MA/mから48GHzと計算され、高いGHz帯域の電波を吸収することができる。また、Fe3+の一部を(TiMn)3+やAl3+などで置換することで、異方性磁界(HA)の値を制御することで磁気共鳴周波数fを5GHz~150GHzの範囲で制御することができる。
[バインダー]
本実施形態にかかる電波吸収シート1は、磁性酸化鉄の粒子1aが有機材料のバインダー1b内に分散されていることで、全体として可撓性を備える。
電波吸収シート1を作製する電波吸収部材用成型材料に用いられる有機材料のバインダー1bとして、熱硬化性プラスチック、熱可塑性プラスチック、エラストマーを用いることができる。
熱硬化性プラスチックとして、フェノール樹脂(PF)、ユリア樹脂(UF)、メラミン樹脂(MF)、不飽和ポリエステル(UP)、エポキシ樹脂(EP)、シリコン樹脂(SI)、ポリウレタン(PUR)を用いることができる。
熱可塑性プラスチックには汎用プラスチック、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックが含まれる。汎用プラスチックとして、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、アクリロニトリル・スチレン(AS)、ポリメチルメタアクリル(PMMA)、ポリビニールアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いることができる。
エンジニアリングプラスチックとして、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリフィレンエーテル(PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、超高分子量ポリエチレン(U-EP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いることができる。
スーパーエンジニアリングプラスチックとして、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン (PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることができる。
またエラストマーには熱硬化性ゴム(加硫ゴム)、熱可塑性エラストマーが含まれる。熱硬化性ゴム(加硫ゴム)として、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロブレンゴム(CR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンゴム(IR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(Q)を用いることができる。
熱可塑性エラストマーとして、軟化ポリ塩化ビニル、耐熱ポリ塩化ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレンプロピレンラバー(EPR)、スチレン系TPE(TPS)、オレフィン系TPE(TPO)、ウレタン系TPE(TPU)、ポリエステル系(TPPE)、塩素化ポリエチレンなどを用いることができる。
なお、環境に配慮する観点から、バインダーとして用いられる有機材料としては、ハロゲンを含まないハロゲンフリーのものを用いることが好ましい。これらの樹脂材料は、樹脂シートのバインダー材料として一般的なものであるため容易に入手することができる。
ここで、本明細書において可撓性を有するとは、電波吸収シート1が、一定程度湾曲させることができる状態、すなわち、電波吸収シート1を湾曲させた後に元に戻したときに破断などの塑性変形が生じずに元の形状に復帰する状態を示している。また、電波吸収体がシート状ではなく一定以上の厚さを有するブロック体の場合にも、例えば電波吸収体の両端を保持した状態で外力を加えた場合に、電波吸収体が湾曲するとともに、この外力を開放した際には、電波吸収が元の形状に容易に復帰できることを示す。
電波吸収体10を形成するための電波吸収性部材用成形材料としては、有機材料からなるバインダー内に磁性酸化鉄粉を良好に分散させることが重要となる。このため、バインダー2内に分散剤として、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸ジクロリド等のアリールスルホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、プロピルホスホン酸などのアルキルホスホン酸、あるいは、ヒドロキシエタンジホスホン酸、ニトロトリスメチレンホスホン酸などの多官能ホスホン酸などを含むことができる。これらのリン酸化合物は、難燃性を有するとともに、磁性酸化鉄粉の分散剤として機能するため、バインダー内の磁性酸化鉄を良好に分散させることができる。
より具体的に、分散剤としては、和光純薬工業株式会社製、または、日産化学工業株式会社製のフェニルホスホン酸(PPA)、城北化学工業株式会社製の酸化リン酸エステル「JP-502」(製品名)などを使用することができる。
なお、電波吸収部材用成形材料の組成としては、一例として、磁性酸化鉄粉100部に対して、有機材料のバインダーが2~50部、リン酸化合物の含有量が0.1~15部とすることができる。有機材料のバインダーが2部より少ないと、磁性酸化鉄を良好に分散させることができない。また電波吸収体としての所定の形状を維持できなくなる。50部より多いと、電波吸収体の中での磁性酸化鉄の体積含率が小さくなり、透磁率が低くなるため電波吸収の効果が小さくなる。
リン酸化合物の含有量が0.1部より少ないと、樹脂製バインダーを用いて磁性酸化鉄を良好に分散させることができない。15部より多いと、磁性酸化鉄を良好に分散させる効果が飽和する。電波吸収層の中で磁性酸化鉄の体積含率が小さくなり、透磁率が低くなるため電波吸収の効果が小さくなる。
[電波吸収体の製造方法]
ここで、本実施形態にかかる電波吸収体の製造方法の一例について説明する。
本実施形態にかかる電波吸収部材用成形材料は、磁性酸化鉄粉とゴム製などの有機材料製のバインダーと適宜フィラーなどを含んだ磁性コンパウンドとして作製される。磁性コンパウンドは、磁性酸化鉄粉とバインダーとを混練し、得られた混練物に架橋剤を混合して粘度を調整して得ることができる。
図1に示したように、電波吸収体としての電波吸収シート1は、磁性コンパウンドを所定の厚さで塗布し、乾燥させた後にカレンダ処理することによって作製することができる。
電波吸収シート1を作製する場合には、図1に示したように、樹脂製のシート2の上に上記作製した磁性コンパウンドを塗布する。樹脂シート2としては、一例として、シリコンコートによって表面に剥離処理をされた、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)のシートを用いることができる。この樹脂シート2の上に、テーブルコータ法やバーコータ法などの塗布方法を用いて、磁性コンパウンドを塗布する。その後、wet状態の磁性コンパウンドを乾燥し、さらにカレンダ処理を行う。電波吸収シート1の厚さは、塗布厚やカレンダ処理の条件等によって制御することができる。カレンダ処理が行われた後の電波吸収シート1を樹脂シート2から剥離させて、所望の厚さの電磁波吸収シート1を得る。なお、カレンダ処理は必要に応じて行えばよく、磁性コンパウンドを乾燥させた状態で磁性酸化鉄粉の体積含率が所定の範囲内となっている場合には、カレンダ処理を行わなくても構わない。
なお、形成した電波吸収シート1の厚みが薄く電波吸収シート1として求められる所定の強度が得られない場合には、機材として使用した樹脂シート2をベースフィルムとして使用して、電波吸収シート1を樹脂製のベースフィルム2に積層したものとすることができる。樹脂製のシート2をベースフィルムとして使用する場合には、上述したPETフィルムなどの各種の樹脂製フィルムの他に、ゴム、和紙などの紙部材を用いることができる。ベースフィルムの材料や厚みは、電波吸収シート1における電波吸収特性には影響を与えないため、電波吸収シートの強度や取り扱いの容易性などの実用的な観点から、適切な材料で、かつ、適切な厚みを有するベースフィルムを選択することができる。
次に、電波吸収体として、所望の形状のものを作製する場合について説明する。
一例としてゴム製バインダーを用いる場合、磁性酸化鉄粉として、ストロンチウムフェライト80重量部、ゴム製バインターとして、シリコーンゴムKE-510-U(商品名:信越化学株式会社製)18重量部を加圧式の回分式ニーダで混練する。この混練物に、架橋剤として、2.5ジメチル-2.5ビスヘキサンC-8A(商品名:信越化学株式会社製)を2重量部混合する。
このようにして得られた電波吸収部材用成形材料を、プレス成型機を用いて加硫成型して、シート、Oリング(パッキン)等の所望の形状に成型する。本願で開示する電波吸収体は、上述のように、シリコーンゴムをベースとしているため、全体として湾曲したり、ある程度の凹凸を吸収したりする変形性を有しており、例えば回路基板上に搭載されてノイズ源となる特定の回路部品を覆うように配置することで、ノイズ源の電子部品の周囲を隙間無く包み込んで不所望な漏洩電波のシールド製を高めることができる。
なお、例えば直方体などのブロック形状の電波吸収体を作製する場合には、電波吸収部材用成形材料である磁性コンパウンドを、一例として例えば油圧プレス機を用いて温度150度でシート状に架橋・成型する。その後、恒温槽内において、例えば温度170度で2次架橋処置を施し、所定形状の電波吸収体とすることができる。このように、ゴム系材料のバインダーを用いる場合には、プレスによる熱加硫をする直接成型によって作製することができる。
また、バインダーとして、熱可塑性樹脂を用いた場合には、磁性酸化鉄粉として、ストロンチウムフェライト80重量部、熱可塑性樹脂として、ナイロン6 1013B(商品名:宇部興産株式会社製)20重量部を加圧式の回分式ニーダで混練する。
このようにして得られた電波吸収部材用成形材料を、射出成型機を用いて射出成型して、ブラケット、カバー等の所望の形状に成型する。本願で開示する電波吸収体は、上述のように、ナイロン6をベースとしているため、全体として靭性かつ強固なものとなる。このため、例えば振動が伴う車載用衝突防止ミリ波レーダに配置する電波吸収体として好適に用いられ、レーダから照射された電波の内、乱反射する不要電波を吸収・抑制することができる。
[接着層]
図1では図示を省略したが、本実施形態にかかる電波吸収体を所定の位置に容易に固着することができるように、電波吸収体の少なくとも一部の表面に接着層を形成することができる。特に、厚さが薄いブロック形状の電波吸収体の場合には、その主面の少なくとも一つの面に接着層を設けることで、電波吸収体を、電気回路を収納する筐体の内面や、電気機器の内面または外面の所望の位置に容易に貼着することができる。特に、本実施形態の電波吸収体はゴム製バインダーを用いることで弾性を有しているため、接着層2によって湾曲した曲面上にも容易に貼着することができ、電波吸収体の取り扱い容易性が向上する。
接着層としては、粘着テープなどの接着層として利用される公知の材料、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコン系粘着剤等を用いることができる。また被着体に対する粘着力の調節、糊残りの低減のために、粘着付与剤や架橋剤を用いることもできる。被着体に対する粘着力は5N/10mm~12N/10mmが好ましい。粘着力が5N/10mmより小さいと、電波吸収体が被着体から容易に剥がれてしまったり、ずれてしまったりすることがある。また、粘着力が12N/10mmより大きいと、電波吸収体を被着体から剥離しにくくなる。
接着層の厚さも、電波吸収体が容易に剥がれ落ちることがないように所定の厚さ、一例として20μm~1mm程度以上とすることが好ましい。なお、電波吸収体を適宜張り直したりする場合には、被着体から剥離する際に被着体を傷つけてしまったり、電波吸収体が破損してしまったり糊残りが生じたりしないように、接着層の接着力や厚さを考慮することが必要である。
また、電波吸収体を所定の面に貼着するにあたって、電波吸収体が接着層を備えていなくても、電波吸収体が配置される部材の側の表面に接着性を備えさせて電波吸収体を貼り付けるようにすることができる。また、両面テープや接着剤を用いることで、所定の部位に電波吸収体を貼着することができる。この点において、接着層は、本実施形態に示す電波吸収体における必須の構成要件でないことは明らかである。
[電波吸収特性]
以下、本願で開示する電波吸収部材用成形材料として規定される磁気特性について、具体的に説明する。
なお、磁気特性の測定に当たっては、所定の磁性酸化鉄を含む電波吸収体を切断して、直径が8mmφ、厚さが0.1mm以上10mm以下の円板状の試料を作成し、東英工業株式会社製の振動試料型磁力計VSM-P7型(製品名)を用いて、印加磁界を-15kOeから+15kOeの範囲で測定した。なお、測定の時定数Tcは、0.03secとし、描画ステップは40ビット、ウエイトタイムを0.2Secとした。
また磁性酸化鉄の平均粒子径は次のようにして測定した。
日立製作所製の走査型電子顕微鏡(SEM)“S-4800(商品名)”を用い、加速電圧:2kV、倍率:10000倍、観察条件:U-LA100で撮影した写真より、1視野中の酸化鉄粉末の粒子100個の最大径を測定、として、測定された粒子径の単純平均値を平均粒子径とした。
図2は、本実施形態にかかる第1の電波吸収部材用成形材料についての磁化曲線を示す図である。
第1の電波吸収部材用成形材料(以下、適宜「実施例1の成形材料」と称する。)は、磁性酸化鉄粉としてストロンチウムフェライト79重量部、また、バインダーとしてナイロン6(宇部興産株式会社製1013B(商品名))17重量部、さらに、低揮発性カルボン酸誘導体を分散剤として4重量部を用いた。なお、ストロンチウムフェライトの平均粒子径は3.6μmであった。
この磁性酸化鉄粉とバインダー材料、分散剤をタンブラーで攪拌処理した後、2軸押出機(15nmφ、L/D=45)を温度235℃~270℃、スクリュ回転数100rpmで連続混練を行った。ノズルから押し出されたストランド上の混練物は水冷し、ペレタイザにて長さ3mmに裁断して成形材料とし、射出成形機により120mm□、厚み2mmの成形体を作製した。
この成形体から直径が8mmφ、厚さが1mmの実施例1の円板状試料を作製した。
図2に示すように、外部から強さが変化する磁界を印加していった際の磁性酸化鉄に残留する磁化の強さを示す磁化曲線は、いわゆるヒステリシス曲線を描く。
異方性磁界(HA)の値と、磁性体の磁気共鳴周波数frとの間には、下記式(1)のような関係が成り立つ。
fr=ν/2π*HA (1)
ここで、νはジャイロ磁気定数で、磁性体の種類によって定まる値である。
このように、ジャイロ磁気共鳴型の磁性体では、異方性磁界(HA)の値と磁気共鳴周波数frとの間に比例関係が成り立つ。
例えば、磁性体中に異なる異方性磁界(HA)の値を有する磁性材料が含まれている場合には、異なる周波数で磁気共鳴を起こして当該周波数の電波を熱に変換して減衰させる。結果として、所定の異なる周波数の電波を吸収することができる。また、磁性酸化鉄の異方性磁界(HA)の大きさは、その粒径によって変化することが知られている。このため、磁性酸化鉄のヒステリシス曲線を解析することで、試料に含まれている磁性酸化鉄の粒度分布を把握することができる。
図3は、図2に示す実施例1の成形材料のヒステリシス曲線のうち、印加される磁界が+15kOeであるA点から、印加される磁界が-15kOeであるB点までを微分して得られた曲線(SFD:Switching Field Distribution)を示す図である。なお、図3では、印加磁界が0kOeから-10kOeまでのSFD曲線を示している。
より具体的には、本実施形態で説明する測定装置では、図2に示したヒステリシス曲線のA点からB点までは637のデータによって描かれていることから、11点目から627点までの測定点について前後10点、合計で21点の範囲において線形最小二乗近似を行い、得られた近似式の傾きをその測定点での微分値(1回微分により得られた数値)とした。
図4は、図2に示す実施例1の成形材料のヒステリシス曲線のうち、印加される磁界が+15kOeであるA点から、印加される磁界が-15kOeであるB点までを2回微分して得られた曲線を示す図である。図4においても、印加磁界が0kOeから-10kOeまでの2回微分曲線を示している。
具体的には、図2に示したヒステリシス曲線の11点目から627点目までの各測定点での微分値を21点目から617点目までの測定点と、各測定点の前後10点ずつの併せて21点の測定点での微分値を、再び最小二乗近似することで直線の傾きを求めて、この値を当該測定点でのヒステリシス曲線を2回微分値(2回微分した数値)とした。
本実施形態の実施例1の成形材料では、図4に示すように、印加磁界が-4000kOe近傍に第1の正のピークP1(3.12×10-6)が、また、印加磁界が-9500kOe近傍に第2の正のピークP2(4.33×10-7)が現れている。このP1とP2から、P2/P1を求めると0.14であることがわかる。
図5に、実施例1の成形材料の電波吸収特性と、実施例1の成形材料を射出成型して得られた第1の電波吸収体の電波吸収特性とを示す。
なお、電波吸収特性としては、フリースペース法を用いて電波吸収量(電波減衰量)を測定した。具体的には、アンリツ株式会社製のミリ波ネットワークアナライザーME7838A(製品名)を用いて、送信アンテナから誘電体レンズを介して試料1または試料1から作製された電波吸収体のそれぞれに所定周波数の入力波(ミリ波)を照射し、背面側に配置された受信アンテナで透過する電波を計測した。照射される電波の強度と透過した電波の強度とをそれぞれ電圧値として把握し、その強度差から電波減衰量をdBで求めた。
図5に示すように、実施例1の成形材料の電波吸収特性(符号5a)と実施例1の成形材料を用いて成型された電波吸収体の電波吸収特性(符号5b)とにおける吸収ピーク周波数のズレは0.1GHzと小さく、2つの電波吸収特性を示す曲線がほぼ重なっていて、成型加工の前後での電波吸収特性の変化かが小さかったことが確認できる。
次に、磁性酸化鉄として同じくストロンチウムフェライトを用いた実施例2の電波吸収部材用成形材料を、また、磁性酸化鉄として同じくストロンチウムフェライトを用いた実施例3の電波吸収部材用成形材料を、それぞれ作製した。
さらに、磁性酸化鉄としてバリウムフェライトを用いた実施例4の電波吸収部材用成形材料と、同様に磁性酸化鉄としてバリウムフェライトを用いた実施例5の電波吸収部材用成形材料を作製した。実施例2から実施例5の成形材の詳細は、以下の通りである。
[実施例2]
磁性酸化鉄粉として、平均粒子径が4.1μmのストロンチウムフェライトを用いた以外は実施例1と同様とした。
[実施例3]
磁性酸化鉄粉として、平均粒子径が2.3μmのストロンチウムフェライトを用いた以外は実施例1と同様とした。
[実施例4]
磁性酸化鉄粉として、平均粒子径が4.8μmのバリウムフェライトを用いた以外は実施例1と同様とした。
[実施例5]
磁性酸化鉄粉として、平均粒子径が5.0μmのバリウムフェライトを用いた以外は実施例1と同様とした。
さらに比較例として、磁性酸化鉄としてストロンチウムフェライトを用いた電波吸収部材用成形材料である比較例1、および、比較例2を、また、磁性酸化鉄としてバリウムフェライトを用いた比較例3の電波吸収部材用成形材料を作製した。比較例1、比較例2、比較例3の電波吸収部材用成形材料の詳細は以下の通りである。
[比較例1]
磁性酸化鉄粉として平均粒子径が4.1μmのストロンチウムフェライトを用い、磁性酸化鉄粉を82重量部、ナイロン6を18重量部とし、低揮発性カルボン酸誘導体を用いなかった。これら以外は実施例1と同様とした。
[比較例2]
磁性酸化鉄粉として、平均粒子径が49.4μmのストロンチウムフェライトを用いた以外は実施例1と同様とした。
[比較例3]
磁性酸化鉄粉として、平均粒子径が5.5μmのバリウムフェライトを用いた以外は実施例1と同様とした。
これら実施例2および実施例4の成形材料、さらに、比較例1および比較例2の成形材料について、上述した実施例1の成形材料の場合と同様に、電波吸収部材用成形材料としての磁気特性を測定し、得られたヒステリシス曲線のA点からB点までについて2回微分した。
図6は、実施例2の成形材料のヒステリシス曲線を2回微分した結果の曲線を示す。
図7は、実施例2の成形材料について、電波吸収部材用成形材料としての状態の電波吸収特性と、成形材料を射出成型した電波吸収体の電波吸収特性とを示す図である。
図6に示すように、ヒステリシス曲線を2回微分して得られた曲線には、印加磁界が-4000kOe近傍に第1の正のピークP1(3.99×10-6)が、また、印加磁界が-9500kOe近傍に第2の正のピークP2(6.02×10-7)が現れている。このP1とP2から、P2/P1を求めると0.15であることがわかる。
また、図7に示す実施例2の成形部材の電波吸収特性(符号7a)と実施例2の成形部材を用いて成型された電波吸収体の電波吸収特性(符号7b)とを比較すると、成型して電波吸収体とすることで、成型前と比較して吸収曲線が低周波数側にずれていることが確認できる。しかし、それぞれのピーク吸収周波数は、77GHzと76GHzであり、吸収ピーク周波数のズレ量は0.9GHzに留まっている。また、吸収能力を示す透過減衰量については、両者とも約14.5dBとほぼ同じ吸収特性が得られていることが確認できる。
図8は、実施例4の成形部材のヒステリシス曲線を示す図面である。
実施例4の成形部材は、磁性酸化鉄がバリウムフェライトであるため、図2に示した磁性酸化鉄としてストロンチウムフェライトを用いた実施例1の電波吸収部材用成形材料の場合と比較して、ヒステリシス曲線の形状が異なっていることがわかる。
この場合も、図8に示すように、印加される磁界が+15kOeであるA点から、印加される磁界が-15kOeであるB点までを2回微分して曲線を得る。
図9は、実施例4の成形部材のヒステリシス曲線のA点からB点までを2回微分して得られた曲線を示す図である。なお、図9においても、図4や図6と同様に、印加磁界が0kOeから-10kOeまでの2回微分曲線を示している。
図9に示すように、ヒステリシス曲線を2回微分して得られた曲線には、印加磁界が-1000kOe近傍に第1の正のピークP1(1.33×10-5)が、また、印加磁界が-9000kOe近傍に第2の正のピークP2(5.84×10-7)が現れている。このP1とP2から、P2/P1を求めると0.04であることがわかる。
また、図10に示す実施例4の成形部材の電波吸収特性(符号10a)と実施例4の成形部材を用いて成型された電波吸収体の電波吸収特性(符号10b)とを比較すると、成型の前後における吸収ピーク周波数のズレ量は、ほぼ0GHzであり、電波吸収特性がほとんど変化していないことがわかる。
次に、比較例の電波吸収部材用成形材料の場合について検討する。
図11は、比較例として作成された試料である電波吸収部材用成形材料である比較例1の成形材料のヒステリシス曲線を示している。
図12は、比較例1の成形材料のヒステリシス曲線のA点からB点までを2回微分して得られた曲線を示す図である。なお、図12においても、図4、図6、図9と同様に、印加磁界が0kOeから-10kOeまでの2回微分曲線を示している。
図12に示すように、比較例2の成形材料のヒステリシス曲線を2回微分して得られた曲線には、印加磁界が-4000kOe近傍に第1の正のピークP1(3.54×10-6)が、また、印加磁界が-9500kOe近傍に第2の正のピークP2(6.14×10-7)が現れている。このP1とP2から、P2/P1を求めると0.17であることがわかる。
図13は、比較例1の成形部材について、電波吸収部材用成形材料としての状態の電波吸収特性と、射出成型した後の電波吸収体の電波吸収特性とを示す図である。
図13に示す比較例1の成形材料の電波吸収特性(符号13a)と成型された後の電波吸収体としての電波吸収特性(符号13b)とを比較すると、成型して電波吸収体とすることで、成型前と比較して吸収特性が低周波数側にずれていることが確認できる。図13に示されているとおり、比較例1の成形部材としての電波吸収特性(符号13a)での吸収のピーク周波数が約77.3GHzであるのに対し、比較例1の成形部材を用いて成型された電波吸収体の電波吸収特性(符号13b)での吸収のピーク周波数は約76.1GHzと、約1.2GHz吸収のピーク周波数のズレが生じたことがわかる。
図14は、比較例2の成形材料のヒステリシス曲線のA点からB点までを2回微分して得られた曲線を示す図である。なお、図14においても、図4、図6、図9、図12と同様に、印加磁界が0kOeから-10kOeまでの2回微分曲線を示している。
図14に示すように、ヒステリシス曲線を2回微分して得られた曲線には、印加磁界が-4000kOe近傍に第1の正のピークP1(3.44×10-6)が、また、印加磁界が-9500kOe近傍に第2の正のピークP2(11.16×10-6)が現れている。このP1とP2から、P2/P1を求めると0.34であることがわかる。
図15は、比較例2の成形材料について、電波吸収部材用成形材料としての状態の電波吸収特性と、射出成型した後の電波吸収体の電波吸収特性とを示す図である。
図15に示す比較例2成形材料の電波吸収特性(符号15a)と比較例2を用いて成型された後の電波吸収体の電波吸収特性(符号15b)とを比較すると、成型して電波吸収体とすることで、成形材料としての電波吸収特性(符号15a)での吸収のピーク周波数が約77.5GHzであるのに対し、比較例2を用いて成型された電波吸収体の電波吸収特性(符号15b)での吸収のピーク周波数は約75.6GHzと、約1.9GHzの吸収のピーク周波数のズレが生じたことがわかる。
以上の測定結果と、さらに、実施例3の成形部材、実施例5の成形部材、比較例3の成形部材について、P1、P2、P2/P1の値と、ピーク周波数のズレ量の測定結果を以下の表1にまとめて示す。
なお、比較例3の成形材料で、同じく磁性酸化鉄としてバリウムフェライト磁性粉を用いた実施例4、実施例5の成形材料を用いた場合と比較して吸収のピーク周波数のズレ量が大きくなったのは、上述した比較例2の成形材料と同様に、バリウムフェライト磁性粉の平均粒子径が大きかったために射出成形工程において粒子に加わった剪断力によって粒子径が変化し、射出成形の前後での実質的な平均粒子径に差が生じた結果、磁性酸化鉄の異方性磁界(HA)が変化したことが原因と考えられる。
例えば、車載用レーダなどでは76.5GHz±0.5GHzというように、使用目的によって電波の周波数が規定されている。このため、比較例1の成形部材や比較例2の成形部材のように、電波吸収部材用成形材料の段階で把握されていたピーク吸収周波数が、成型加工後の電波吸収体の状態で大きくシフトしてしまうと、当初目的の技術分野に利用される電波吸収体としての性能が大幅に低下してしまうこととなる。
このため、電波吸収部材用成形材料の段階で、成型加工の前後における吸収電波のピーク周波数のシフト量が少ないことが判明していれば、設計吸収周波数と、加工後の成型体の吸収周波数に大きな差がなくなって、安心して電波吸収体を作製できるとともに、シフト量が大きくなる材料を用いないことで電波吸収体の歩留まりを向上させて、コストの低減を図ることができる。
そこで、本願で開示する電波吸収部材用成形材料は、ヒステリシス曲線において、+10kOe以上+15k以下の正の磁界を印加して磁化された点をA点、A点から印加磁界強度を減少させて-10kOe以上-15kOe以下の負の磁界を印加して磁化された点をB点としたとき、A点からB点までのヒステリシス曲線を2回微分して得られる印加磁界が0から-10kOeまでの範囲の曲線における、正の方向の最大のピークの頂点をP1、次に正の方向の極値を有するピークの頂点をP2としたとき、P2/P1の値が0.15以下と規定する。このように規定することで、本願で開示する電波吸収部材用成形材料は、電波吸収体への成形前後の電波吸収特性の変化を抑えて、所定の周波数の電波を良好に吸収する電波吸収体を実現することができる。
なお、上記の測定では、射出成形前後の吸収ピーク周波数のズレ量を測定したが、磁性酸化鉄粉を樹脂製のバインダーに混練して電波吸収性ペーストを作製し、これを用いてシート状の電波吸収シートを作製した場合も、射出成型を行った場合と同様に、P2/P1の値が0.15以下であれば、成形材料の状態での吸収ピーク周波数と、シート状に成形した後の吸収ピーク周波数のズレ量が、1GHz以下に抑えられることが確認できた。
また、上記実施形態で例示したストロンチウムフェライト、バリウムフェライト以外にも例えば、Pbフェライトなどの他の六方晶フェライトも同様の電波吸収特性を示すと考えられるが、Pbフェライトは鉛を含んでいることから実用には適さない。
さらに、上記実施形態では、六方晶フェライトのFeサイトの一部がAlで置換されたものを用いて吸収周波数のピークをシフトできることを説明したが、置換される金属としては、アルミニウム以外にガリウム、Ti-Cu-Zn、ロジウムなどを用いることができる。
以上説明したように、本願で開示する電波吸収部材用成形材料、および、これを成形することで得られた電波吸収体は、成形材料におけるヒステリシス曲線を2回微分した曲線の2つのピーク値P1とP2とが、P2/P1の値が0.15以下であることによって、成形加工の前後における電波吸収特性の、とくに吸収ピーク周波数のシフト量を一定の範囲(1GHz程度)に抑えることができる。
なお、ヒステリシス曲線を測定するための外部磁界の強さを、15kOeから-15kOeとしているのは、少なくともこの範囲の外部磁界を印加することにより、良好なヒステリシス曲線が得られることを意味している。このため、印加される外部磁界の大きさを、その絶対値が15kOeよりも大きくしても問題が無く、外部磁界の大きさが15kOeから-15kOeの範囲でのヒステリシス曲線を測定し、その2回微分曲線からP1とP2の値を求めれば良い。