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JP7576922B2 - 塗工ロール - Google Patents
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本発明は、フィルムなどの基材への塗液の塗布に用いる塗工ロールに関する。
スマートフォンや有機ELディスプレイ等の光学系機器には、様々な機能を有した機能性フィルム(以下「フィルム」という)が使用されている。
これらのフィルムは、ベースとなるPETフィルムやTACフィルムに、目的に応じた機能を有する樹脂系や金属系の微粒子(フィラー)を含有した塗液を塗布(コーティング)して製造される。フィルムへの塗液の塗布には塗工ロール(例えば、特許文献1)が用いられる。
特開2004-344759号公報
ところで、塗工ロールは、フィラーや相手材であるフィルム、ロール表面の余分な塗液を掻き落とす金属ブレードに絶えず接していることから、高硬度性や耐摩耗性、耐溶剤性、高い破壊靭性が求められる。
近年では、製造されるフィルムの高品質や高機能化に伴い、塗工液中に含有するフィラーに二酸化ケイ素(SiO)やジルコニア(ZrO)等の硬質な微粒子が使用されるようになり、ロール表面を著しく摩耗させているため、塗工ロールには耐摩耗性と高い破壊靭性が必要不可欠である。
また、前記微粒子は凝集して粗大化しやすく、粗大化した硬質微粒子がブレードと塗工ロールの間に介在すると、その硬質微粒子によって塗工ロールの表面に図8に示すような局所的なスクラッチ痕が発生することがある。
これらの対策として、ロール表面には硬質クロムメッキ(HCrめっき)やDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜等の900HV以上の硬度を有する皮膜処理が施されているものの、これらの皮膜はベースとなる基材本体の硬度に大きく依存するため、十分な効果が得られているとはいい難い。
特にDLC膜においては膜厚が数μm程度であるため、基材の硬度に大きく依存する。ロールの基材の材質にはSTKM13Aに代表される炭素鋼やSUS304やSUS440C等のステンレス鋼が使用されているが、これらの材質の硬度は、1100HV以上の硬度を有するSiOやZrOの五分の一以下の200HV以下であり、極めて軟質である。
このような軟質な基材の表面に硬質な皮膜を形成しても、図9(a)(b)のように下地となる基材Xが塑性変形して皮膜Yが損傷してしまうため、この不都合を解消するためには、基材Xの表面の高硬度化が必要不可欠である。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、硬質微粒子の介在にも耐え得る高い耐摩耗性と破壊靭性を有する高強度の塗工ロールを提供することにある。
本発明の塗工ロールは、硬度250HV以下のロール基材の表面又は内部から表面に、当該ロール基材を硬質化(改質)するための炭化ケイ素層(SiC層)が形成されたものである。ロール基材には炭素鋼、ステンレス鋼又はアルミ合金を用いることができる。ロール基材には直径4mm以上のものを用いることができる。SiC層は注入深度5nm~5000nmとすることができる。本発明の塗工ロールは、SiC層の表面にDLC膜を備えたものであってもよい。
本発明の塗工ロールは、ロール基材の表面にロール基材を硬質化するためのSiC層が設けられている(改質されている)ため、ブレードと塗工ロールの間に粗大化した硬質微粒子が介在してもロール基材に傷がつきにくい。
(a)は本発明の塗工ロールの一例を示す正面図、(b)は(a)の塗工ロールの表面構造の概略説明図。 (a)は本発明の塗工ロールの他例を示す正面図、(b)は(a)の塗工ロールの表面構造の概略説明図。 集束イオンビーム(FIB)加工後の試料と分散型X線分析装置(EDS)による分析箇所の説明画像。 SiC含有量の分布を示すライン分析画像。 フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)による分析画像。 本発明の塗工ロールの製造方法の一例を示すフローチャート。 本発明の塗工ロールの製造装置の一例を示すもの。 硬質微粒子によってスクラッチ痕が発生した塗工ロールの写真。 (a)(b)は硬質微粒子によって基材が塑性変形して皮膜が損傷することの説明図。
(実施形態)
本発明の塗工ロールの実施形態の一例を、図面を参照して説明する。一例として図1(a)(b)に示す塗工ロールは溶剤塗工用のロールであって、ロール基材1の表面又は内部から表面にSiC層2が形成(注入)されたものである。図1(a)では、ロール基材1が軸3の外周に装備された場合を一例としているが、ロール基材1はフランジに取り付けられたベアリングを介して装備することもできる。
前記ロール基材1は塗工ロールのベースとなるロール状の管部材である。ロール基材1には、ビッカース硬度計での測定で硬度250HV以下のもの(例えば、硬度200HV以下のもの)、具体的には炭素鋼やステンレス鋼を用いることができる。ロール基材1にはアルミ合金製のものを用いることもできる。そのほか、ロール基材1にはWC溶射やCo溶射による溶射皮膜を備えたものを用いることもできる。いずれの場合も、ロール基材1は直径4mm以上のものが好ましい。
なお、前記炭素鋼としては、例えば、S25CやS45C、S50C等に代表される炭素鋼、STKM13AやSTKM17C、STK400等に代表される機械構造用炭素鋼鋼管等、SS400等の機械構造材を用いることができる。
また、前記ステンレス鋼としては、例えば、SUS303やSUS304、SUS316等に代表されるオーステナイト系ステンレスのほか、SUS329J1等に代表される二相系ステンレス、SUS420やSUS431、SUS440C等に代表されるマルテンサイト系ステンレス、SUS430等に代表されるフェライト系ステンレス、SUS630やSUS631等に代表される析出硬化系、SUS2507、SUS2545MO等に代表されるスーパーステンレス等を用いることができる。
図示は省略しているが、ロール基材1の表面には、斜線状や格子状、ピラミッド状といった各種形状の凹凸(セル)が形成されている。このセルの深さやピッチは、数μm~数千μm程度である。セルの形状や深さ、ピッチは一例であり、これら以外であってもよい。セルはロール基材1の全面に設けることも一部に設けることもできる。
前記SiC層2は、ロール基材1の表面を改質して硬質化するための層である。図1(b)に示すように、SiC層2はロール基材1の表層に注入されている。SiC層2は、好ましくは、注入深度5nm~5000nm程度、好ましくは、10nm~1200nm、より好ましくは、10n~1000nm程度とすることができる。
なお、本願において注入深度とは、図1(b)に示すように、ロール基材1の表面からの深さDを意味する。ロール基材1にSiC層2を形成する場合、ロール基材1の表面に注入される部分(注入部)2aのほかロール基材1の表面よりも外側に出る部分(露出部)2bが存在するが、本願の注入深度には露出部2bの厚さは含まない。
この実施形態のSiC層2は炭素(C)とケイ素(Si)からなる層であるが、SiC層2は、主体となるCとSiのほか、水素(H)等の第三元素を含んだものとすることもできる。
SiC層2のソースガスには、Si系ガス、例えば、テトラメチルシラン(TMS)やヘキサメチルジシラザン(HMDS)等の有機シランを用いることができる。SiC層2は、例えば、プラズマプロセスを用いて形成することができる。
SiC層2の表面の硬さは、ビッカース硬度計(ナノインデンテーション試験にて試験荷重を用い、試験荷重:300mgf)での測定で、硬度1000HV以上、好ましくは1100HV以上、さらに好ましくは1200HV以上とする。SiC層2の表面の硬さが1000HVよりも低いと、ロール基材1自体が塑性変形してしまうおそれがある。一方、SiC層2の表面の硬さが1000HVよりも高い場合、ロール基材1自体が塑性変形してしまうおそれは少ない。
図2(a)(b)に示すように、本発明の塗工ロールは、SiC層2の表面にDLC膜4を備えたものとすることもできる。DLCはダイヤモンドとグラファイトの中間的な結晶構造を持つ非晶質であり、高硬度、低摩擦係数、耐摩耗性、電気絶縁性、耐薬品性、抗菌性、親水性、撥水性、耐紫外線性、ガスバリア性といった特性を有する。DLC膜4を形成する場合、SiC層2とDLC膜4の重なり部分に図2(b)に示すようなSi傾斜層2cが形成される。Si傾斜層2cとは、露出部2bとDLC膜4の密着した範囲をいう。
DLC膜4は、プラズマCVD法やPVD法といった各種の方法で生成することができる。プラズマCVD法を用いる場合、DLC膜4はSiC層2と同様の方法で形成することができる。DLC膜4中にはSiを30atm%程度まで含有してもよい。
本件出願人は、試料(基材)を用いてSiC層2の注入深度の分析を行った。具体的には、集束イオンビーム(FIB)を用いて試料表層の断面加工(分析の準備)を行い、得られた断面についてエネルギ分散型X線分析装置(EDS)による分析(元素のライン分析)を行った。図3にFIBで断面加工を行った試料とEDSによる分析箇所の説明画像を、図4にSiC含有量の分布を示すライン分析画像を示す。図3のうち、丸枠で囲った部分が分析箇所である。図4からSiの注入深度が試料表面から0.6μm(600nm)程度であることがわかる。
本件出願人は、SiC層2の形成後に、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)による分析を行った。この分析結果を図5に示す。図5に示すように、800cm-1付近にSi-C結合のピークが認められることから、基材表面から内部にかけてSiCの構造体が形成されていることがわかる。
(塗工ロールの製造方法)
次に、塗工ロールの製造方法を、プラズマプロセスを用いる場合を一例として説明する。プラズマプロセスを用いる場合、塗工ロールは、例えば、図6に示すように、クリーニング工程S1と、SiC層形成工程S2を経て製造することができる。これらの製造工程は、図7に示すような装置を用いて実施することができる。
図7において、5は真空チャンバー、6はRF高周波電源、7はRF電極、8は高電圧パルス電源、9はガス注入口である。RF高周波電源6とRF電極7に変えて、ICPプラズマ源(ICP電源)を用いることもできる。
前記クリーニング工程S1は、ロール基材1の洗浄や付着力向上を目的として行う工程である。この工程では、ロール基材1を真空チャンバー5のRF電極7内にセットし、真空チャンバー5内を真空状態にする。この状態で、ロール基材1の表面をアルゴン(Ar)によりエッチング処理してクリーニングする。エッチング処理は従来と同様の方法で行うことができる。クリーニング工程S1は必要に応じて行えばよく、不要な場合には省略することができる。また、クリーニング工程S1では、Arの他にHイオンを用いることで基材表面の酸化層を還元しても良い。
ロール基材1のクリーニングは、例えば次の条件で行うことができる。
使用ガス :Ar、H
負パルス電圧:-0.5~-15kV
RF出力 :50~1500W
前記SiC層形成工程S2は、ロール基材1の表面にCとSiを主原料とするSiC層2を形成する工程である。この工程では、ロール基材1がセットされた真空チャンバー5内を常温(望ましくは20℃~50℃程度)且つ真空状態にする。ただし、SiC層2は常温下でなくても、400℃以下、例えば、200℃くらいの温度下でも形成することができる。
この状態で、RF高周波電源6により高周波電圧を印加して、ロール基材1の周辺(具体的には、真空チャンバー5内のRF電極7の周辺)にプラズマを発生させ、高電圧パルス電源8によりロール基材1に負の高電圧パルスを印加する。
その後、ガス注入口9からソースガス(例えば、CとSi)を真空チャンバー5内に注入し、そのソースガスを真空チャンバー5内で反応させ、ロール基材1表面にSiCを堆積させることによって、ロール基材1にSiC層2を形成する。SiC層2はロール基材1に注入されながら堆積して形成される。
SiC層2は、CとSiのほか、H等の第三元素を含んだ層とすることもできる。SiC層2のソースガスには、TMSやHMDS等の有機シランを用いることができる。
なお、図2(a)(b)に示すようなSiC層2の表面にDLC膜4を備えた塗工ロールを製造する場合、SiC層2の形成後にDLC膜形成工程S3を追加してもよい。DLC膜4はSiC層2と同様の方法で形成することができる。DLC膜4のソースガスには、CH(メタン)やトルエン(C)、アセチレン(C)、C(ベンゼン)などの炭化水素系のガスを用いることができる。内部応力の緩和にSiや酸素(O)、ホウ素(B)、窒素(N)、クロム(Cr)、チタン(Ti)などの第三元素を含有してもよい。
SiC層2の形成は、例えば次の条件で行うことができる。
使用ガス :TMS、HMDS、H、C
負パルス電圧:-1~-20kV
RF出力 :50~2500W
本発明の塗工ロールは、基材に塗液を塗布する際、より具体的には、PETフィルムやTACフィルムなどのフィルムに、目的に応じた機能を有する樹脂系や金属系の微粒子(フィラー)を含有した塗液を塗布する際に、特に好適に用いることができる。
1 ロール基材
2 SiC層
2a 注入部
2b 露出部
2c Si傾斜層
3 軸
4 DLC膜
5 真空チャンバー
6 RF高周波電源
7 RF電極
8 高電圧パルス電源
9 ガス注入口
X 基材
Y 皮膜

Claims (5)

  1. 基材への塗液の塗布に用いる塗工ロールにおいて、
    硬度250HV以下のロール基材の表面よりも内側を含む表層に、当該ロール基材を硬質化するためのSiC層が注入された、
    ことを特徴とする塗工ロール。
  2. 請求項1記載の塗工ロールにおいて、
    SiC層の注入深度が5nm~5000nmである、
    ことを特徴とする塗工ロール。
  3. 請求項1又は請求項2記載の塗工ロールにおいて、
    ロール基材が炭素鋼、ステンレス鋼又はアルミ合金である、
    ことを特徴とする塗工ロール。
  4. 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の塗工ロールにおいて、
    ロール基材は直径4mm以上である、
    ことを特徴とする塗工ロール。
  5. 請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の塗工ロールにおいて、
    SiC層の表面にDLC膜を備えた、
    ことを特徴とする塗工ロール。
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