以下、本発明の一実施形態に係る溶接構造及び溶接方法について詳細に説明する。まず、本発明の一実施形態に係る溶接構造について詳細に説明する。次に、本発明の一実施形態に係る溶接方法について詳細に説明する。しかる後、溶接構造及び溶接方法の一例について図面を参照しながら詳細に説明する。
<1>溶接構造
本実施形態の溶接構造は、鋳鉄からなる鋳鉄部材と、炭素鋼又は合金鋼からなる鋼部材と、鋳鉄部材及び鋼部材を接合する溶接部とを有する。そして、溶接部は、溶接部の幅方向の大きさが3.0mm以下である。また、溶接部は、ニッケル及びケイ素を含む。さらに、溶接部は、溶接部の中央線上の任意部位におけるケイ素濃度が0.9質量%以上である。
ここで、鋳鉄部材における鋳鉄としては、特に限定されるものではないが、例えば、日本工業規格に規定されたFCD450、FCD600、FCD700、FCD800などを挙げることができる。なお、特に限定されるものではないが、FCD450を適用することが好適である。
また、鋼部材における炭素鋼又は合金鋼としては、鋳鉄よりもケイ素含有量が少なければ特に限定されるものではないが、例えば、日本工業規格に規定されたSCr417H、SCr420H、SCM420H、SCM418H、SNCM420Hなどを挙げることができる。なお、特に限定されるものではないが、SCM420Hを適用することが好適である。
そして、「溶接部の幅方向」とは、「溶接部の長さ方向」及び「溶接部の深さ方向」に直交する方向を意味する。
また、「溶接部の幅方向の大きさ」とは、鋳鉄部材のレーザービーム照射側端面と鋼部材のレーザービーム照射側端面とで形成される端面における溶接部の幅方向の長さを意味する。なお、例えば、図5におけるXは溶接部の幅方向の大きさを示す。ここで、このような面を想定する場合、溶接部表面の微細凹凸は無視してよい。なお、鋳鉄部材のレーザービーム照射側端面と鋼部材のレーザービーム照射側端面とで形成される端面を、「溶接構造の表面」ということがある。
さらに、「溶接部の中央線」とは、溶接構造の表面から溶接部の最深位置までの距離を2等分する溶接部の2等分線を規定した際、この2等分線の長さを2等分するような溶接部の深さ方向に平行な線を意味する。
なお、ケイ素濃度は、例えば、蛍光X線分析装置や、電子線マイクロアナライザ(EPMA)によって測定することができる。また、後述するニッケル濃度や炭素濃度も、上記同様に測定することができる。
特に限定されるものではないが、ケイ素濃度やニッケル濃度は、蛍光X線分析装置(測定条件は、例えば、電圧:50kV、電流:200μA、ライブタイム:100secである。)によって測定することが好ましい。また、特に限定されるものではないが、炭素濃度は、電子線マイクロアナライザ(EPMA)(測定条件は、例えば、電圧:10kV、電流:70nA、スポット分析領域:φ0.05~0.5μmである。)によって測定することが好ましい。
蛍光X線分析装置としては、例えば、微小領域マイクロX線蛍光分析装置(Bruker社製、M4 TRANDO)を利用することができる。また、電子線マイクロアナライザ(EPMA)としては、例えば、電子線マイクロアナライザ(EPMA)(株式会社島津製作所製、EPMA-1600)を利用することができる。
上述のように、本実施形態の溶接構造は、鋳鉄からなる鋳鉄部材と、炭素鋼又は合金鋼からなる鋼部材と、鋳鉄部材及び鋼部材を接合する所定の溶接部とを有する。所定の溶接部は、溶接部の幅方向の大きさが3.0mm以下であり、かつ、ニッケル及びケイ素を含み、溶接部の中央線上の任意部位におけるケイ素濃度が0.9質量%以上である。そのため、溶接構造の溶接に起因する歪みの発生を抑制ないし防止するとともに、溶接部での割れの発生及び溶接部の低強度化を抑制ないし防止することができる。
溶接部の幅方向の大きさが3.0mm超である場合には、溶接構造の溶接に起因する歪みが生じやすい。溶接構造の溶接に起因する歪みの発生を抑制ないし防止するという観点からは、溶接部の幅方向の大きさは小さければ小さいほど好ましい。特に限定されるものではないが、溶接部の幅方向の大きさは2.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以下であることがより好ましく、0.5mm以下であることが更に好ましい。
一方、溶接部での割れの発生や溶接部の低強度化を抑制ないし防止することができれば、特に限定されるものではないが、溶接部の幅方向の大きさは0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましく、0.3mm以上であることが更に好ましい。
なお、溶接部の幅方向の大きさの下限値は、例えば、要求性能に応じて設定される溶接部の幅方向の大きさに応じて適宜設定できるが、これに限定されるものではない。溶接部の幅方向の大きさの下限値は、例えば、詳しくは後述する溶接方法において突き合わせ部から鋳鉄部材側にずれた位置にファイバーレーザービームを照射する際に、突き合わせ部からファイバーレーザービームを照射する位置までの距離(溶接点オフセット量)などに応じて適宜設定できる。特に限定されるものではないが、溶接部の幅方向の大きさを0.1mmに設定する場合には、突き合わせ部からファイバーレーザービームを照射する位置までの距離(溶接点オフセット量)は50μm以下とすることが好ましい。
また、ニッケル及びケイ素が含まれない場合には、溶接部での割れの発生や溶接部の低強度化が生じやすい。
さらに、溶接部の中央線上の任意部位におけるケイ素濃度が0.9質量%未満である場合には、溶接部での割れの発生や溶接部の低強度化が生じやすい。溶接部での割れの発生や溶接部の低強度化を抑制ないし防止するという観点からは、溶接部の中央線上の任意部位におけるケイ素濃度は高ければ高いほど好ましい。特に限定されるものではないが、溶接部の中央線上の任意部位におけるケイ素濃度は1.1質量%以上であることが好ましい。
一方、溶接部での割れの発生や溶接部の低強度化を抑制ないし防止することができれば、特に限定されるものではないが、溶接部の中央線上の任意部位におけるケイ素濃度は4.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以下であることが更に好ましい。
なお、溶接部の中央線上の任意部位におけるケイ素濃度の上限値は、例えば、用いる鋳鉄部材に応じて適宜設定できるが、これに限定されるものではない。溶接部の中央線上の任意部位におけるケイ素濃度の上限値は、例えば、詳しくは後述する溶接方法において突き合わせ部から鋳鉄部材側にずれた位置にファイバーレーザービームを照射する際に、突き合わせ部からファイバーレーザービームを照射する位置までの距離(溶接点オフセット量)などに応じて適宜設定できる。
現時点においては、以下のような理由により、上述の効果が得られていると考えている。
鋳鉄からなる鋳鉄部材と、炭素鋼又は合金鋼からなる鋼部材とを溶接する際に、鋳鉄部材と鋼部材とを突き合わせた突き合わせ部に、ニッケル含有溶接用金属材料を供給する。そして、ニッケル含有溶接用金属材料の供給とともに、突き合わせ部から鋳鉄部材側にずれた位置にファイバーレーザービームを照射すると、形成される溶接部の幅方向の大きさを3.0mm以下にすることができる。その結果、溶接構造の溶接に起因する歪みの発生を抑制ないし防止することができる。
また、鋳鉄からなる鋳鉄部材と、炭素鋼又は合金鋼からなる鋼部材とを溶接する際に、鋳鉄部材と鋼部材とを突き合わせた突き合わせ部に、ニッケル含有溶接用金属材料を供給する。そして、ニッケル含有溶接用金属材料の供給とともに、突き合わせ部から鋳鉄部材側にずれた位置にファイバーレーザービームを照射すると、突き合わせ部に供給されたニッケル含有溶接用金属材料の成分に、鋳鉄部材からケイ素成分が溶け込む。
一般的に、鋳鉄部材のケイ素含有量(質量%)は、鋼部材のケイ素含有量(質量%)よりも多い。そのため、鋼部材側にずれた位置にファイバービームを照射する場合と比較して、鋳鉄部材側にずれた位置にファイバーレーザービームを照射する場合は、ニッケル含有溶接用金属材料の成分に多くのケイ素成分を効果的に溶け込ませることができる。
これにより、ニッケル含有溶接用金属材料の溶融成分の粘性や表面張力が低下し、形成される溶接部の深さ方向においてニッケル含有溶接用金属材料の溶融成分の撹拌が促進されて、ニッケル含有溶接用金属材料の成分が溶接部の深部まで供給される。その結果、溶接部での割れの発生や溶接部の低強度化を抑制ないし防止することができる。
また、ニッケル含有溶接用金属材料の溶融成分の粘性や表面張力が低下し、形成される溶接部の深さ方向においてニッケル含有溶接用金属材料の溶融成分の撹拌が促進される。これによって、溶接部において脆性組織であるマルテンサイトの形成が抑制されるとともに延性組織であるオーステナイトの形成が促進される。その結果、溶接部での割れの発生や溶接部の低強度化が抑制ないし防止されたとも考えることができる。なお、溶接部の炭素量とオーステナイトとの相関関係は、シェフラー状態図から予測される。
ただし、上記の理由以外の理由により上述のような効果が得られていたとしても、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
そして、特に限定されるものではないが、溶接部は、溶接部の中央線上の任意部位におけるケイ素濃度が1.1質量%以上であり、かつ、溶接部の中央線上のケイ素濃度の平均値(平均ケイ素濃度)が1.5質量%以上であることが好ましい。
ここで、溶接部の中央線上のケイ素濃度の平均値は、溶接部の中央線の長さを10以上の均等長さに分割するような分割領域を規定し、各分割領域のケイ素濃度を測定し、測定した各分割領域のケイ素濃度を用いて平均値を算出する。溶接部の中央線を均等長さに分割する際には、妥当な平均値を算出することができれば、特に限定されるものではないが、10以上に分割することが好ましく、15以上に分割することがより好ましい。なお、溶接部の中央線を均等長さに分割する際には、妥当な平均値を算出することができれば、分割数の上限については特に限定されるものではなく、例えば、30以下に分割することが好ましく、25以下に分割することがより好ましい。特に、20分割することが好ましい。
上述のように、溶接部の中央線上の任意部位におけるケイ素濃度が1.1質量%以上であり、かつ、溶接部の中央線上のケイ素濃度の平均値(平均ケイ素濃度)が1.5質量%以上である溶接部を有する溶接構造とすることにより、溶接部での割れの発生や溶接部の低強度化をより抑制ないし防止することができる。
また、特に限定されるものではないが、溶接部は、溶接部の中央線上の任意部位におけるニッケル濃度が0.5質量%以上40質量%以下であることが好ましい。特に限定されるものではないが、低廉化の観点からは、溶接部の中央線上の任意部位におけるニッケル濃度が30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。ニッケル含有量が10質量%程度である低廉なニッケル含有溶接用金属材料を適用した場合、ファイバーレーザービームを照射する位置を制御することによって、最大ニッケル濃度を5質量%以下とすることが可能である。また、そのとき、最小ニッケル濃度を0.50質量%とすることも可能である。
ニッケル含有溶接用金属材料の成分に鋳鉄部材からケイ素成分を溶け込ませて、ニッケル含有溶接用金属材料の粘性や表面張力が低下する溶接方法においては、ニッケル含有量が10質量%程度である低廉なニッケル含有溶接用金属材料を適用しても、所望の効果を得ることができるという利点がある。
なお、溶接部におけるニッケルは、通常、ニッケル含有溶接用金属材料に由来するものであるが、これに限定されるものではなく、鋳鉄部材や鋼部材に由来するものであってもよい。また、ニッケル濃度の上限値は、通常はファイバーレーザービームを照射する位置(溶接点)で測定され、ニッケル濃度の下限値は、通常は溶接部の最深位置で測定される。
上述のように、溶接部の中央線上の任意部位におけるニッケル濃度が0.5質量%以上40質量%以下である溶接部を有する溶接構造とすることにより、溶接構造の溶接に起因する歪みの発生を抑制ないし防止するとともに、溶接部での割れの発生及び溶接部の低強度化を抑制ないし防止することができる。
さらに、特に限定されるものではないが、溶接部は、溶接部の中央線の長さを10以上の均等長さに分割するような分割領域を規定した際、中央線上のニッケル濃度のうちの最大ニッケル濃度の分割領域に対する最小ニッケル濃度の分割領域のニッケル濃度比が0.1以上であることが好ましい。
上述のように、溶接部の中央線の長さを10以上の均等長さに分割するような分割領域を規定した際、中央線上のニッケル濃度のうちの最大ニッケル濃度の分割領域に対する最小ニッケル濃度の分割領域のニッケル濃度比が0.1以上である溶接部を有する接合構造とすることにより、溶接部での割れの発生及び溶接部の低強度化をより抑制ないし防止することができる。
また、最大ニッケル濃度の分割領域に対する最小ニッケル濃度の分割領域のニッケル濃度比は、ニッケル含有溶接用金属材料に由来するニッケル成分が溶接部の深部まで供給され、局所集中が抑制されていることを示す指標である。これにより、ニッケル含有溶接用金属材料が有効に活用されていることが分かる。
なお、最大ニッケル濃度の分割領域に対する最小ニッケル濃度の分割領域のニッケル濃度比の上限値は、理論的には最大ニッケル濃度と最小ニッケル濃度とが同じときに1である。また、最大ニッケル濃度は、通常はファイバーレーザービームを照射する位置(溶接点)で測定され、最小ニッケル濃度は、通常は溶接部の最深位置で測定される。
そして、特に限定されるものではないが、溶接部は、溶接部の中央線の長さを10以上の均等長さに分割するような分割領域を規定した際、各分割領域の炭素濃度を測定し、測定した各分割領域の炭素濃度を用いて算出した平均値(平均炭素濃度)が1.0質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることが更に好ましく、2.4質量%以上であることが特に好ましい。
一方、溶接部での割れの発生及び溶接部の低強度化を抑制ないし防止することができれば、特に限定されるものではないが、炭素濃度の平均値(平均炭素濃度)は4.0質量%以下であることが好ましく、3.6質量%以下であることがより好ましく、3.2質量%以下であることが更に好ましい。
上述のように、溶接部の中央線の長さを10以上の均等長さに分割するような分割領域を規定した際、各分割領域の炭素濃度を測定し、測定した各分割領域の炭素濃度を用いて算出した平均値(平均炭素濃度)が1.0質量%以上である溶接部を有する溶接構造とすることにより、溶接部での割れの発生及び溶接部の低強度化を抑制ないし防止することができる。
また、特に限定されるものではないが、溶接部は、溶接部の幅方向の大きさに対する溶接部の深さ方向の大きさの比(アスペクト比(Y/X))が4以上であることが好ましい。なお、図5におけるXは溶接部の幅方向の大きさを示し、図5におけるYは溶接部の深さ方向の大きさを示す。溶接構造の溶接に起因する歪みの発生を抑制ないし防止するとともに、溶接部での割れの発生及び溶接部の低強度化を抑制ないし防止するという観点からは、溶接部の幅方向の大きさに対する溶接部の深さ方向の大きさの比(アスペクト比(Y/X))は大きければ大きいほど好ましい。特に限定されるものではないが、溶接部の幅方向の大きさに対する溶接部の深さ方向の大きさの比(アスペクト比(Y/X))は8以上であることがより好ましく、12以上であることが更に好ましい。なお、現時点における溶接部の幅方向の大きさに対する溶接部の深さ方向の大きさの比(アスペクト比(Y/X))の上限値は16程度である。
上述のように、溶接部の幅方向の大きさに対する溶接部の深さ方向の大きさの比が4以上である溶接部を有する溶接構造とすることにより、溶接に起因する歪みをより抑制ないし防止するとともに、溶接部での割れの発生をより抑制ないし防止し、かつ、溶接部の低強度化をより抑制ないし防止することができる。
さらに、特に限定されるものではないが、溶接部は、鋳鉄部材に由来する成分及び鋼部材に由来する成分の合計に対する鋳鉄部材に由来する成分の比が0.50超であることが好ましく、0.60以上であることがより好ましく、0.75以上であることが更に好ましい。なお、溶接部の確実な形成という観点からは、鋳鉄部材に由来する成分及び鋼部材に由来する成分の合計に対する鋳鉄部材に由来する成分の比の上限値は0.99以下であることが好ましい。
ここで、「鋳鉄部材に由来する成分及び鋼部材に由来する成分の合計に対する鋳鉄部材に由来する成分の比」は、溶接後においても鋳鉄部材と鋼部材との突き合わせ部が観察できる場合には、突き合わせ部と溶接部の中央線とのずれに基づいて算出することができる。また、溶接後において鋳鉄部材と鋼部材との突き合わせ部が観察できない場合には、上記比は、鋳鉄部材、鋼部材及び溶接部の成分を分析し、それらの配合割合から算出することができる。
上述のように、鋳鉄部材に由来する成分及び鋼部材に由来する成分の合計に対する鋳鉄部剤に由来する成分の比が好ましくは0.5超であり、より好ましくは0.6以上であり、更に好ましくは0.75以上である溶接部を有する溶接構造とすることにより、溶接部におけるケイ素濃度及び炭素濃度を増加させることができる。これにより、ニッケル含有溶接用金属材料の溶融成分の粘性や表面張力が低下し、形成される溶接部の深さ方向においてニッケル含有溶接用金属材料の溶融成分の撹拌が促進されて、ニッケル含有溶接用金属材料の成分が溶接部の深部まで供給される。また、溶接部において脆性組織であるマルテンサイトの形成が抑制されるとともに、延性組織であるオーステナイトの形成が促進される。その結果、溶接部での割れの発生や溶接部の低強度化を抑制ないし防止することができる。
そして、特に限定されるものではないが、鋳鉄部材がデフケースであり、鋼部材がリングギヤであることが好ましい。
鋳鉄部材で形成されたデフケースと鋼部材で形成されたリングギヤと上述した溶接部とを有する溶接構造とすることにより、溶接構造の溶接に起因する歪みの発生を抑制ないし防止するとともに、溶接部での割れの発生及び溶接部の低強度化を抑制ないし防止することができる。また、デフケースとリングギヤとを溶接によって接合するため、ボルトを用いて接合する必要がなく、デフケースにフランジを形成する必要がなく、リングギヤを薄肉化することが可能であるため、デフケースとリングギヤとが溶接された溶接構造の軽量化を実現することができる。
<2>溶接方法
本実施形態の溶接方法は、本発明の溶接構造を形成する溶接方法の一形態である。この溶接方法は、鋳鉄からなる鋳鉄部材と、炭素鋼又は合金鋼からなる鋼部材とを突き合わせた突き合わせ部に、ニッケル含有溶接用金属材料を供給するとともに、突き合わせ部から鋳鉄部材側にずれた位置にファイバーレーザービームを照射する工程を有する。
ここで、鋳鉄からなる鋳鉄部材と、炭素鋼又は合金鋼からなる鋼部材とは、上記の実施形態において説明したものと同等のものである。
また、ニッケル含有溶接用金属材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、ニッケル含有溶接ワイヤを挙げることができる。ニッケル含有溶接ワイヤは、低廉化の観点からは、ニッケル含有量が少なければ少ないほど好ましい。例えば、ニッケル含有量が10質量%以下であるニッケル含有溶接ワイヤは、材料費が抑えられ、製造コストを抑制できるという観点からは好適である。しかしながら、これに限定されるものではなく、例えば、ニッケル含有量が10質量%超97質量%以下であるものを適用することもできる。ニッケル含有溶接ワイヤとしては、特に限定されるものではないが、例えば、日本工業規格に規定されたY308、Y310などを挙げることができる。なお、特に限定されるものではないが、Y308を適用することが好適である。
さらに、ファイバーレーザービームを照射するファイバーレーザー溶接機としては、上述した溶接部を形成することができれば特に限定されるものではなく、従来公知のファイバーレーザー溶接機を利用することができる。
上述のように、本実施形態の溶接方法は、鋳鉄からなる鋳鉄部材と、炭素鋼又は合金鋼からなる鋼部材とを突き合わせた突き合わせ部に、ニッケル含有溶接用金属材料を供給するとともに、突き合わせ部から鋳鉄部材側にずれた位置にファイバーレーザービームを照射する工程を有するので、溶接構造の溶接に起因する歪みの発生が抑制ないし防止され、溶接部での割れの発生及び溶接部の低強度化が抑制ないし防止された溶接構造を形成することができる。
なお、特に限定されるものではないが、本実施形態の溶接方法では、ファイバーレーザービームの照射位置をケイ素含有量(質量%)が多い鋳鉄部材側にずらして、ケイ素成分をニッケル含有溶接用金属材料の成分に積極的に溶け込ませている。これにより、ニッケル含有溶接用金属材料の粘性や表面張力を低下させるため、ニッケル含有溶接用金属材料におけるニッケル含有量が少なくても溶接部においてオーステナイトの形成が促進される。その結果、製造コストを抑制しつつ、溶接部の割れを効果的に抑制ないし防止できる。
そして、特に限定されるものではないが、ファイバーレーザービームを照射する位置を、突き合わせ部から鋳鉄部材側に50μm以上ずれた位置にすることが好ましい。
上述のように、ファイバーレーザービームを照射する際に、ファイバーレーザービームを照射する位置を、突き合わせ部から鋳鉄部材側に50μm以上ずれた位置にすることにより、溶接構造の溶接に起因する歪みの発生が抑制ないし防止され、溶接部での割れの発生及び溶接部の低強度化が抑制ないし防止された溶接構造を形成することができる。
また、溶接部での割れの発生及び溶接部の低強度化が抑制ないし防止された溶接構造を形成するという観点からは、突き合わせ部からファイバーレーザービームを照射する位置までの距離(溶接点オフセット量)は大きければ大きいほど好ましい。例えば、突き合わせ部からファイバーレーザービームを照射する位置までの距離(溶接点オフセット量)は100μm以上であることがより好ましく、150μm以上であることが更に好ましい。一方、溶接構造の溶接に起因する歪みの発生が抑制ないし防止されれば特に限定されるものではないが、突き合わせ部からファイバーレーザービームを照射する位置までの距離(溶接点オフセット量)は、1.5mm以下であることが好ましく、1.0mm以下であることがより好ましく、500μm以下であることが更に好ましく、200μm以下であることが特に好ましい。
<3>以下、溶接構造及び溶接方法について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、デフケースとリングギヤとを溶接する場合を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではない。また、以下で引用する図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
図1は、溶接構造及び溶接方法を説明するための溶接構造の概略構成図である。図1に示すように、溶接構造10は、デフケース12と、リングギヤ14とを有する。なお、詳しくは後述する溶接後において、デフケース12とリングギヤ14とを突き合わせた突き合わせ部Aに、デフケース12、リングギヤ14及びニッケル含有溶接ワイヤWに由来する溶接部が形成される。つまり、溶接後において、溶接構造10は、デフケース12と、リングギヤ14と、デフケース12及びリングギヤ14を接合する溶接部とを有する。
ここで、デフケース12は、上述したように鋳鉄からなる鋳鉄部材で形成されており、リングギヤ14は、上述したように炭素鋼又は合金鋼からなる鋼部材で形成されている。
デフケース12とリングギヤ14との突き合わせ部Aに、ニッケル含有溶接ワイヤWが供給されるとともに、ファイバーレーザービームBが照射されることによって、デフケース12とリングギヤ14との接合する溶接部が形成され、デフケース12とリングギヤ14とが溶接される。突き合わせ部Aは、デフケース12及びリングギヤ14に備えられた同軸的に配置される円周部121,141を突き合わせて形成される。
ファイバーレーザービームBは、突き合わせ部Aに近接して配置されたノズルNから出射される。ノズルNは、図示しないガスの流路を備え、アルゴン(Ar)や窒素(N2)等のシールドガスを吹き出してもよい。
ここで、図2は、溶接前の図1に示すa-a線に沿った断面図である。そして、図3は、図1に示す矢印b方向からの矢視図である。また、図4は、図3に示すd-d線に沿った断面図である。さらに、図5は、溶接後の図1に示すa-a線に沿った断面図である。なお、図5におけるXは溶接部の幅方向の大きさを示し、図5におけるYは溶接部の深さ方向の大きさを示す。また、同一の構成については、同一の符号を付すことにより重複する説明を省略する。
図2に示すように、デフケース12は、回転軸に沿う方向に突出した突部123を有する。リングギヤ14は、突部123が嵌合する孔143を有する。デフケース12及びリングギヤ14は、突部123及び孔143を嵌合させて接続する。デフケース12は、モータ等を備える回転駆動装置に接続される。リングギヤ14は、デフケース12とともに一体的に回転する。ノズルNは固定されている。
溶接の際、ファイバーレーザービームBの出射位置及び出射方向は固定されたまま、図3(及び図1)に示すように、デフケース12及びリングギヤ14が矢印cで示す周方向に回転する。ファイバーレーザービームBの照射位置が、円周部121,141の周方向に相対的に移動しつつ、デフケース12及びリングギヤ14は溶接される。デフケース12及びリングギヤ14は円周部121,141の全周で溶接される。
ニッケル含有溶接ワイヤWは、ニッケル含有溶接ワイヤWが巻回されたワイヤリールからニッケル含有溶接ワイヤWを送り出すワイヤ送給機構によって供給される。ニッケル含有溶接ワイヤWは、デフケース12及びリングギヤ14の回転に合わせて順次供給される。
ファイバーレーザービームBの照射位置及びその近傍は、CCDカメラ等の撮影装置Cによって撮影される。溶接の際、作業者は、撮影装置Cによって撮影された画像を液晶ディスプレイ等の表示装置で確認する。デフケース12及びリングギヤ14は、ファイバーレーザービームBの照射位置が監視されつつ溶接される。
図4に示すように、ファイバーレーザービームBの照射位置は、突き合わせ部Aから鋳鉄部材であるデフケース12及び鋼部材であるリングギヤ14のうちの相対的にケイ素含有量(質量%)が多い鋳鉄部材であるデフケース12側にずれている。このため、図5に示すように、ファイバーレーザービームBの照射によって、デフケース12、リングギヤ14及びニッケル含有溶接ワイヤWが溶融して形成される溶接部16は、突き合わせ部Aからデフケース12側にずれて位置する。
ファイバーレーザービームBの照射位置を監視しつつ溶接することによって、照射位置がリングギヤ側に逸れることなく、ファイバーレーザービームBはデフケース12側にずれた位置に確実に照射される。このため、回転軸まわりに形成される環状の溶接部16の全体で溶接部16はケイ素含有量(質量%)が多い鋳鉄部材であるデフケース12側にずれて形成される。これにより、溶接部16の全体で割れが効果的に抑制されて部材同士が確実に接合される。
上述した溶接方法と異なり、デフケース12及びリングギヤ14を回転することなく固定し、ファイバーレーザービームBの出射位置及び出射方向、並びにニッケル含有溶接ワイヤWの供給位置を変化させつつ周方向に溶接する場合、ノズルN及びニッケル含有溶接ワイヤW等を移動させる駆動装置並びにこれらを制御する制御装置が必要である。そのため、溶接装置が複雑になるおそれがある。一方、上述した溶接方法では、ファイバーレーザービームBの出射位置及び出射方法を固定したままデフケース12及びリングギヤ14を周方向に回転させることによって溶接するため、ファイバーレーザービームBを移動させて溶接する場合のような大掛かりな装置が必要なく、簡便な溶接装置を利用することができる。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1~実施例4、比較例1~比較例5)
図6は、実施例の溶接構造の図2及び図5に対応した要部を拡大して示す断面図である。図6に示すように、互いに突き合わされたとき回転軸まわりに環状の隙間221,241が部材間で形成されるデフケース22とリングギヤ24とを実際に溶接して溶接構造20を形成した。実施例において、隙間221,241以外の構成要素は、上述した実施形態と略同様である。
ここで、デフケース22は、球状黒鉛鋳鉄として日本工業規格に規定されたFCD450で形成した。なお、デフケース22において、突き合わせ部Aを形成する溶接面における浸炭層を除去して、図4に示すような溝を形成した。
また、リングギヤ24は、肌焼き鋼として日本工業規格に規定されたSCM420Hで形成した。なお、リングギヤは浸炭してある。
さらに、ニッケル含有溶接ワイヤWとしては、日本工業規格に規定されたY308によって形成されたニッケル含有溶接ワイヤを用いた。なお、ニッケル含有溶接ワイヤは、ニッケル含有量が10質量%であり、径がφ0.6mmである。また、溶接の際、ニッケル含有溶接ワイヤを供給速度7m/min供給した。
デフケース22及びリングギヤ24の回転軸に沿って位置をずらして設定した複数の照射位置(突き合わせ部Aを0、鋳鉄部材側を(+)、鋼部材側を(-)とし、-200μm~+200μmで設定した。)のそれぞれで、シールドガスとしての窒素(N2)を吹き出しながら、溶接速度5m/minでファイバーレーザービームB(出力:3800~4200W、スポット径:φ0.2mm、デフォーカス:-2mm(但し、材料の内部方向が(-)である。))を照射し、溶接部26を形成して、デフケース22及びリングギヤ24を接合した。つまり、ファイバーレーザービームBの所定の照射によってデフケース22と、リングギヤ24と、デフケース22、リングギヤ24及びニッケル含有溶接ワイヤWが溶融して形成される所定の溶接部26とを有する溶接構造を形成した。
各例の仕様の一部を表1に示す。
なお、表1中の「ビーム照射位置」は、デフケース22とリングギヤ24との突き合わせ部Aからの回転軸に沿った方向の離隔距離である。ビーム照射位置が正(+)の場合、ビームの照射位置は突き合わせ部Aよりもデフケース22側に位置する。例えば、ビーム照射位置が+200μmの場合、突き合わせ部Aから回転軸に沿った方向に200μmデフケース22側にずれた位置にファイバーレーザービームBを照射したことを意味する。一方、ビーム照射位置が負(-)の場合、ビームの照射位置は突き合わせ部Aよりもリングギヤ24側に位置する。例えば、ビーム照射位置が-200μmの場合、突き合わせ部Aから回転軸に沿った方向に200μmリングギヤ24側にずれた位置にファイバーレーザービームBを照射したことを意味する。
また、表1中の「溶接部の幅方向の大きさ(X)」は、溶接部の長さ方向に直交し、溶接部の深さ方向に平行な溶接部の断面において、溶接構造の表面での溶接部の幅方向に沿った溶接部の長さである。なお、図5におけるXは溶接部の幅方向の大きさを示す。
さらに、表1中の「溶接部の深さ方向の大きさ(Y)」は、溶接部の長さ方向に直交し、溶接部の深さ方向に平行な溶接部の断面において、溶接構造の表面から溶接部の最深位置までの溶接部の深さ方向の長さである。なお、図5におけるYは溶接部の深さ方向の大きさを示す。
また、表1中の「アスペクト比(Y/X)」は、溶接部の幅方向の大きさに対する溶接部の深さ方向の大きさの比である。
さらに、表1中の「平均炭素濃度」は、溶接部の中央線の長さを20の均等長さに分割するような分割領域を規定し、その分割領域ごとの中央線上の炭素濃度を電子線マイクロアナライザ(EPMA)(株式会社島津製作所製、EPMA-1600)(測定条件は、電圧:10kV、電流:70nA、スポット分析領域:φ0.05~0.5μmである。)によって測定し、各炭素濃度から得られた算術平均値である。
また、表1中の「最小ケイ素濃度」は、溶接部の中央線の長さを20の均等長さに分割するような分割領域を規定し、その分割領域ごとの中央線上のケイ素濃度を微小領域マイクロX線蛍光分析装置(Bruker社製、M4 TRANDO)(測定条件は、電圧:50kV、電流:200μA、ライブタイム:100secである。)によって測定して得られた各ケイ素濃度のうちの最小値である。
さらに、表1中の「平均ケイ素濃度」は、溶接部の中央線の長さを20の均等長さに分割するような分割領域を規定し、その分割領域ごとの中央線上のケイ素濃度を微小領域マイクロX線蛍光分析装置(Bruker社製、M4 TRANDO)(測定条件は、電圧:50kV、電流:200μA、ライブタイム:100secである。)によって測定し、各ケイ素濃度から得られた算術平均値である。
また、表1中の「最大ニッケル濃度」及び「最小ニッケル濃度」は、溶接部の中央線の長さを20の均等長さに分割するような分割領域を規定し、その分割領域ごとの中央線上のニッケル濃度を微小領域マイクロX線蛍光分析装置(Bruker社製、M4 TRANDO)(測定条件は、電圧:50kV、電流:200μA、ライブタイム:100secである。)によって測定して得られた各ニッケル濃度のうちの最大値及び最小値である。
さらに、表1中の「ニッケル濃度比」は、最大ニッケル濃度に対する最小ニッケル濃度の比である。
また、表1中の「鋳鉄部材由来成分比」は、突き合わせ部と溶接部の中央線とのずれに基づいて算出した。例えば、突き合わせ部と溶接部の中央線とにずれがない場合には、鋳鉄部材由来成分比は0.5であり、突き合わせ部に対して溶接部の中央線が鋳鉄部材側にずれている場合には、鋳鉄部材由来成分比は0.5超であるといった要領である。なお、鋼部材由来成分比は、1-(鋳鉄部材由来成分比)で算出できる。
[性能評価]
上記各例の溶接構造について、溶接部の割れ、溶接部の平均硬さ、及び溶接部の強度を下記の要領で観察、測定して、評価した。得られた結果を表2に示す。
(溶接部の割れ)
各例の溶接構造の溶接部の断面を光学顕微鏡(Leica社製、DMI5000M、倍率:100~500倍)を用いて観察し、割れの有無等を評価した。なお、表2中の「溶接部の割れ」の項目における「無」は、割れが観察されなかったことを意味し、「有」は、割れが観察されたことを意味し、「有(微小)」は、割れが観察されたが、観察された割れが微小サイズであったことを意味する。
(溶接部の平均硬さ)
各例の溶接構造の溶接部の平均硬さを測定して、評価した。なお、溶接部の平均硬さは、各例の溶接構造の溶接部の断面において、溶接部の中央線の長さを20の均等長さに分割するような分割領域を規定し、その分割領域ごとの中央線上のビッカース硬さを日本工業規格におけるビッカース硬さ試験-試験方法(JIS Z 2244-2009)に準拠し、試験荷重を300gfとして測定し、各ビッカース硬さから得られた算術平均値である。
(溶接部の強度)
各例の溶接構造を精密万能試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフAG-X)を用いて4点曲げ試験(試験条件は、下支点間距離:55mm、上支点間距離:10mm、押込み速度:2mm/minである。)をしたときの破断状態を観察し、強度を評価した。なお、表2中の「溶接部の強度」の項目における「×」は、鋳鉄部材、鋼部材などの母材が破断する母材破断が生じることなく、溶接部が破断したことを意味し、「○」は、溶接部が破断するよりも先に母材破断が生じた頻度が高いことを意味し、「◎」は、溶接部が破断することなく、母材破断(鋳鉄部材側)が生じたことを意味する。
表1及び表2より、本発明の範囲に属する実施例1~4は、本発明外の比較例1~5と比較して、溶接部での割れの発生及び溶接部の低強度化が抑制ないし防止できることが分かる。また、実施例1~4は、外観観察の結果、溶接構造の溶接に起因する歪みの発生が抑制ないし防止されていた。
この理由は、鋳鉄からなる鋳鉄部材及び炭素鋼又は合金鋼のうちケイ素含有量が相対的に多い鋳鉄からなる鋳鉄部材で形成されたデフケース側に照射位置をずらしてファイバーレーザービームを照射したことによって、以下の(1)~(3)の特徴を有する溶接部が形成されたためであると考えられる。
(1)溶接部は、溶接部の幅方向の大きさが3.0mm以下である。
(2)溶接部は、ニッケル及びケイ素を含む。
(3)溶接部は、溶接部の中央線上の任意部位におけるケイ素濃度が0.9質量%以上である。
そして、実施例1や比較例1~5と比較して、実施例2~4が溶接部での割れの発生及び溶接部の低強度化を抑制ないし防止できる理由は、上記同様にデフケース側にファイバーレーザービームを照射したことによって、上記(1)~(3)の特徴に加えて、以下の(4)の特徴を有する溶接部が形成されたためであるとも考えられる。
(4)溶接部は、溶接部の中央線上の任意部位におけるケイ素濃度が1.1質量%以上であり、かつ、溶接部の中央線上のケイ素濃度の平均値(平均ケイ素濃度)が1.5質量%以上である。
なお、溶接部は、平均ケイ素濃度が1.5質量%以上であることから、鋳鉄部材で形成されたデフケース側からケイ素成分が効果的に溶け込んでいることが分かる。
また、比較例1~5と比較して、実施例1~4が溶接部での割れの発生及び溶接部の低強度化を抑制ないし防止できる理由は、上記同様にデフケース側にファイバーレーザービームを照射したことによって、上記(1)~(3)又は(1)~(4)の特徴に加えて、以下の(5)の特徴を有する溶接部が形成されたためとも考えられる。
(5)溶接部は、溶接部の中央線上の任意部位におけるニッケル濃度が0.5質量%以上40質量%以下である。
さらに、実施例1や比較例1~5と比較して、実施例2~4が溶接部での割れの発生及び溶接部の低強度化を抑制ないし防止できる理由は、上記同様にデフケース側にファイバーレーザービームを照射したことによって、上記(1)~(3)、(1)~(4)又は(1)~(5)のいずれかの特徴に加えて、以下の(6)の特徴を有する溶接部が形成されたためとも考えられる。
(6)溶接部は、溶接部の中央線の長さを20の均等長さに分割するような分割領域を規定した際、中央線上のニッケル濃度のうちの最大ニッケル濃度の分割領域に対する最小ニッケル濃度の分割領域のニッケル濃度比が0.1以上である。
なお、ニッケル濃度比が0.1以上であることから、ニッケル含有溶接ワイヤの成分にケイ素成分が溶け込み、ニッケル含有溶接ワイヤの溶融成分の粘性や表面張力が低下して、形成される溶接部の深さ方向においてニッケル含有溶接ワイヤの溶融成分の撹拌が促進されていることが分かる。
そして、比較例1~5と比較して、実施例1~4が溶接部での割れの発生及び溶接部の低強度化を抑制ないし防止できる理由は、上記同様にデフケース側にファイバーレーザービームを照射したことによって、上記(1)~(3)、(1)~(4)、(1)~(5)又は(1)~(6)のいずれかの特徴に加えて、以下の(7)の特徴を有する溶接部が形成されたためとも考えられる。
(7)溶接部は、溶接部の幅方向の大きさに対する溶接部の深さ方向の大きさの比が4以上である。
また、比較例1~5と比較して、実施例1~4が溶接部での割れの発生及び溶接部の低強度化を抑制ないし防止できる理由は、上記同様にデフケース側にファイバーレーザービームを照射したことによって、上記(1)~(3)、(1)~(4)、(1)~(5)、(1)~(6)又は(1)~(7)のいずれかの特徴に加えて、以下の(8)又は(9)の特徴を有する溶接部が形成されたためとも考えられる。
(8)溶接部は、鋳鉄部材に由来する成分及び鋼部材に由来する成分の合計に対する鋳鉄部材に由来する成分の比が0.50超である。
(9)溶接部は、鋳鉄部材に由来する成分及び鋼部材に由来する成分の合計に対する鋳鉄部材に由来する成分の比が0.60以上である。
なお、比較例1~5と比較して、実施例1~4、特に実施例2~4が溶接部での割れの発生及び溶接部の低強度化を抑制ないし防止できる理由は、上記同様にデフケース側にファイバーレーザービームを照射したことによって、上記(1)~(3)、(1)~(4)、(1)~(5)、(1)~(6)、(1)~(7)又は(1)~(7)、(8)若しくは(9)のいずれかの特徴に加えて、以下の(10)の特徴を有する溶接部が形成されたためとも考えられる。
(10)溶接部は、溶接部の中央線の長さを20の均等長さに分割するような分割領域を規定した際、各分割領域の炭素濃度を測定し、測定した各分割領域の炭素濃度を用いて算出した平均値(平均炭素濃度)が好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、更に好ましくは2.0質量%以上、特に好ましくは2.4質量%以上である。
また、実施例1や比較例1~5と比較して、実施例2~4が溶接部での割れの発生及び溶接部の低強度化を抑制ないし防止できる理由は、溶接部に含まれるオーステナイトが増加したためとも考えられる。
つまり、溶接部の平均硬さが600HV以上の場合、溶接部は延性組織であるオーステナイトよりも脆性組織マルテンサイトを多く含む。一方、溶接部の平均硬さが600HV未満の場合、溶接部は延性組織であるオーステナイトを脆性組織であるマルテンサイトよりも多く含む。したがって、溶射部に含まれるオーステナイトが増加したため、溶接部の割れが効果的に防止されているとも考えられる。
さらに、比較例1~5と比較して、実施例1~4、特に実施例2~4が溶接部での割れの発生及び溶接部の低強度化を抑制ないし防止できる理由は、鋳鉄からなる鋳鉄部材及び炭素鋼又は合金鋼のうちケイ素含有量が相対的に多い鋳鉄からなる鋳鉄部材で形成されたデフケース側に50μm以上、好ましくは100μm以上照射位置をずらしてファイバーレーザービームを照射したことによって、上記(1)~(3)の特徴を有する溶接部が形成されたためであるとも考えられる。
このように、実施例2~4と実施例1とを比較すると、ファイバーレーザービームを照射して溶接する場合には、炭素鋼又は合金鋼からなる鋼部材で形成されたリングギヤ側より鋳鉄からなる鋳鉄部材で形成されたデフケース側に100μm以上ビーム照射位置をずらすことがより好ましいことが分かる。
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々の変形が可能である。