JP7688377B2 - 物品、物品を製造する方法、複合体、及び複合体を製造する方法 - Google Patents
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Description
[1] 改質ポリ乳酸部分を表面に含む物品であって、
前記改質ポリ乳酸部分は、下記(a)~(c)を全て満たす、物品。
(a)水に対する接触角が50°以上75°以下であること
(b)元素分析により得られる、酸素原子数(O)に対する炭素原子数(C)の比(C/O)が2以上4以下であること
(c)元素分析により得られる、C-C結合数又はC-H結合数(C-C又はC-H)に対するC=C結合数(C=C)の比((C=C)/(C-C又はC-H))が0.1以上2以下であること
[2] 前記改質ポリ乳酸部分は、厚さが800nm未満である、[1]記載の物品。
[3] ポリ乳酸を含み、且つ、前記(a)~(c)の少なくとも何れかを満たさない部分をさらに含む、[1]又は[2]記載の物品。
ポリ乳酸を主成分とする被改質部分に下記(1)~(3)を全て満たす条件でイオンビームを照射することにより前記改質ポリ乳酸部分を作製することを含む、方法。
(1)イオンビームが飛跡に沿って物質に与える線エネルギー付与(LET)について、前記被改質部分の表面において、電子的LET(LETe)が核的LET(LETn)よりも大きく、且つ、電子的LET(LETe)が110eV/nm超であること
(2)前記被改質部分の表面から厚さ方向のイオンビームの飛程が100nm以上800nm未満であること
(3)単位面積当たりの照射イオン数(フルエンス;F[単位:ions/cm2])が2.9×1013 < F < 2.9×1014を満たすこと
[5] 前記イオンビームは、N+イオンビームである、[4]記載の方法。
[6] 前記物品は、前記改質ポリ乳酸部分の表面上に細胞集合体を形成するために用いられる、[4]又は[5]記載の方法。
[7] 前記改質ポリ乳酸部分上に形成された前記細胞集合体が前記物品から前記改質ポリ乳酸部分を剥離することで、前記細胞集合体が前記改質ポリ乳酸部分を包み込んでなる部分及び/又は前記改質ポリ乳酸部分が前記細胞集合体を包み込んでなる部分が形成される、[6]記載の方法。
[9] [4]~[7]の何れか1項記載の方法により製造される、[1]~[3]の何れか1項記載の物品。
前記薄膜は、[1]~[3]、[8]、[9]の何れか1項記載の物品における改質ポリ乳酸部分である、複合体。
[11] 前記薄膜は、前記物品から前記改質ポリ乳酸部分が剥離されたものである、[10]記載の複合体。
[12] 前記細胞集合体が前記薄膜を包み込んでなる部分及び/又は前記薄膜が前記細胞集合体を包み込んでなる部分を有する、[10]又は[11]記載の複合体。
[13] 再生医療、創薬用スクリーニング、検査用キット、及びバイオデバイスからなる群より選択される少なくとも1つに用いられる、[10]~[12]の何れか1項記載の複合体。
改質ポリ乳酸部分を表面に含む物品における前記改質ポリ乳酸部分の表面上に細胞を播種する細胞播種工程、及び
前記改質ポリ乳酸部分の表面上において、播種された前記細胞を増殖して前記細胞集合体を形成する細胞増殖工程を含み、
前記改質ポリ乳酸部分上に形成された前記細胞集合体が前記物品から前記改質ポリ乳酸部分を薄膜として剥離することで、前記細胞集合体が前記薄膜を包み込んでなる部分が形成される、方法。
[15] 改質ポリ乳酸を主成分とする薄膜と、前記薄膜上の細胞集合体とを含む複合体を製造する方法であって、
改質ポリ乳酸部分を表面に含む物品における前記改質ポリ乳酸部分の表面上に細胞を播種する細胞播種工程、及び
前記改質ポリ乳酸部分の表面上において、播種された前記細胞を増殖して前記細胞集合体を形成する細胞増殖工程を含み、
前記物品は、[1]~[3]、[8]、[9]の何れか1項記載の物品であり、前記薄膜は、前記物品における改質ポリ乳酸部分である、方法。
[16] 前記改質ポリ乳酸部分上に形成された前記細胞集合体が前記物品から前記改質ポリ乳酸部分を薄膜として剥離する、[15]記載の方法。
[17] 前記改質ポリ乳酸部分上に形成された前記細胞集合体が前記物品から前記改質ポリ乳酸部分を薄膜として剥離することで、前記細胞集合体が前記薄膜を包み込んでなる部分及び/又は前記薄膜が前記細胞集合体を包み込んでなる部分が形成される、[15]記載の複合体。
[18] 改質ポリ乳酸部分を表面に含む物品を作製する物品作製工程を前記細胞播種工程の前にさらに含む、[14]~[17]の何れか1項記載の方法であって、
前記物品の作製は、前記薄膜に相当する改質ポリ乳酸部分を表面に含む物品を製造する[4]~[7]の何れか1項記載の方法により行う、方法。
本発明の物品は、改質ポリ乳酸部分を表面に含む物品である。
本明細書において、「改質ポリ乳酸部分」は、改質ポリ乳酸を主成分とする部分である。「改質ポリ乳酸部分」は、ポリ乳酸を主成分とする被改質部分が改質されたものであってよい。本明細書において、改質ポリ乳酸とは異なるポリ乳酸、例えば、市販のポリ乳酸のように通常のないし一般的なポリ乳酸、又は、改質前、未改質ないし被改質のポリ乳酸を単に「ポリ乳酸」又は「被改質ポリ乳酸」ともいう。
ポリ乳酸の密度は、特に限定されないが、通常、1.2~1.35g/cm3であり、好ましくは1.23~1.3g/cm3であり、より好ましくは1.26g/cm3である。
物品(母材)から剥離した、改質ポリ乳酸部分を含む薄膜(ないし改質ポリ乳酸部分を主成分とする薄膜)と、その表面上に付着した細胞集合体とを含む複合体としては、例えば、細胞集合体が改質ポリ乳酸部分を包み込んでなる部分及び/又は改質ポリ乳酸部分が細胞集合体を包み込んでなる部分を含むことができる。かかる複合体については後述する。
特性(a)は、「水に対する接触角が50°以上75°以下であること」である。
改質ポリ乳酸部分の水に対する接触角がかかる範囲内である場合、適度な親水性が得られ、改質ポリ乳酸部分の表面上に細胞を播種し、インキュベートないし増殖する場合に細胞接着性に優れ、好ましくはさらに、その表面上における細胞増殖性にも優れ、より好ましくはさらに、改質ポリ乳酸部分が薄膜として物品(母材)から剥離する際及び剥離後において当該改質ポリ乳酸部分上の細胞集合体との付着性にも優れる。尚、被改質ポリ乳酸、具体的には未改質のポリ乳酸の水に対する接触角は、78°程度である。
特性(b)は、「元素分析により得られる、酸素原子数(O)に対する炭素原子数(C)の比(C/O)が2以上4以下であること」である。本明細書において、かかる「元素分析により得られる、酸素原子数(O)に対する炭素原子数(C)の比(C/O)」を「C/O値」と略記する場合がある。
特性(c)は、「元素分析により得られる、C-C結合数又はC-H結合数(C-C又はC-H)に対するC=C結合数(C=C)の比((C=C)/(C-C又はC-H))が0.1以上2以下であること」である。本明細書において、かかる「元素分析により得られる、C-C結合数又はC-H結合数(C-C又はC-H)に対するC=C結合数(C=C)の比((C=C)/(C-C又はC-H))」を「(C=C)/(C-C又はC-H)値」と略記する場合がある。
改質ポリ乳酸部分は、好ましくは厚さが800nm未満である。改質ポリ乳酸部分の厚さがかかる範囲内である場合、改質ポリ乳酸部分の表面上に細胞を播種してインキュベートないし細胞増殖を行う場合、細胞集合体の形成につれ、改質ポリ乳酸部分は、細胞を接着した状態で薄膜として物品(母材)から自ずと剥離しやすく、好ましくはさらに、細胞集合体とともに安定した複合体を形成しやすい。
非改質ポリ乳酸部分は、好ましくは、被改質ポリ乳酸、例えば未改質のポリ乳酸部分であってもよいし、特性(a)~(c)の少なくとも何れかを満たさないが被改質ポリ乳酸(未改質のポリ乳酸等)とは異なる性質を有する準改質ポリ乳酸部分であってもよく、より好ましくは、被改質ポリ乳酸(例えば未改質のポリ乳酸部分)と準改質ポリ乳酸部分とを両方含む。
未改質のポリ乳酸部分の厚さは特に限定されないが、物品中の改質ポリ乳酸部分の表面上に細胞を播種してインキュベートないし細胞増殖を行う場合における改質ポリ乳酸部分の剥離性の観点で、例えば、100nm以上であり、好ましくは150nm以上、より好ましくは200nm以上、さらに好ましくは300nm以上であり、また、上限値は、例えば、5mm以下であり、好ましくは1mm以下、より好ましくは500μm以下、さらにより好ましくは1000μm以下であり、500μm以下や1000nm以下であってもよい。
上述の改質ポリ乳酸部分を表面に含む物品は、ポリ乳酸を主成分とする被改質部分に上述の(1)~(3)を全て満たす条件でイオンビームを照射することにより改質ポリ乳酸部分を作製することを含む方法により、製造することができる。本明細書において、上述の(1)~(3)をそれぞれ「イオンビーム照射条件(1)」、「イオンビーム照射条件(2)」、「イオンビーム照射条件(3)」ともいう。
イオンビーム照射条件(1)は、「イオンビームが飛跡に沿って物質に与える線エネルギー付与(LET)について、被改質部分の表面において、電子的LET(LETe)が核的LET(LETn)よりも大きく、且つ、電子的LET(LETe)が110eV/nm超であること」である。
被改質部分の表面において電子的LET(LETe)が核的LET(LETn)よりも大きいことにより、ポリ乳酸の改質の程度を適度に行うことができる。また、被改質部分の表面において電子的LET(LETe)が110eV/nm超であることにより、ポリ乳酸の改質の程度を適度に行うことができ、また、下記イオンビーム照射条件(2)を容易に充足しやすい。
イオンビーム照射条件(2)は、「被改質部分の表面から厚さ方向のイオンビームの飛程が100nm以上800nm未満であること」である。
イオンビームの飛程がかかる範囲内である場合、適切な厚さの改質ポリ乳酸部分を得ることができる。
本明細書において、イオンビームの飛程は、SRIMコードを用いて計算される値である。
イオンビーム照射条件(3)は、「単位面積当たりの照射イオン数(フルエンス;F[単位:ions/cm2])が2.9×1013 < F < 2.9×1014を満たすこと」である。
単位面積当たりの照射イオン数がかかる範囲内である場合、ポリ乳酸の改質の程度を適度に行うことができる。
単位面積当たりの照射イオン数は、イオンビーム照射に際し、イオンビーム照射装置で設定できる。
イオンビーム照射条件(1)~(3)を全て満たすイオンビームは、N+イオンビームの他にも例えば、36~220keVのC+イオンビーム、34~265keVのO+イオンビーム等を用いることができる。
50keVのAr+イオンビーム(1.0×1014~1.0×1015 ions/cm2)
50keVのH+イオンビーム(1.0×1013~1.0×1015 ions/cm2)
150keVのH+イオンビーム(1.0×1013~1.0×1015 ions/cm2)
50~150keVのHe+イオンビーム(1.0×1014~1.0×1015 ions/cm2)
50~150keVのKr+イオンビーム(1.0×1013~1.0×1015 ions/cm2)
50keVのN2 +イオンビーム(1.0×1013~1.0×1015 ions/cm2)
250keVのN+イオンビーム(1×1014 ions/cm2)
改質ポリ乳酸を主成分とする薄膜と、当該薄膜上の細胞集合体とを含む複合体であって、当該薄膜は、上述の物品における改質ポリ乳酸部分である、複合体もまた、本発明の一つである。
かかる複合体は、好ましくは、当該複合体に含まれる上記薄膜が上述の物品(母材)から改質ポリ乳酸部分が剥離されたものであり(従って、当該薄膜や上記複合体は、好ましくは、上述の非改質ポリ乳酸部分(準改質ポリ乳酸部分、被改質ポリ乳酸(例えば未改質のポリ乳酸部分))を含まない。)、かかる剥離は当該薄膜上の細胞集合体の細胞の牽引力によると考えられる。
改質ポリ乳酸を主成分とする薄膜と、薄膜上の細胞集合体とを含む複合体を製造する方法もまた、本発明の一つである。この複合体としては、好ましくは上述の複合体である。
複合体の製造方法は、改質ポリ乳酸部分を表面に含む物品における当該改質ポリ乳酸部分の表面上に細胞を播種する細胞播種工程、及び、当該改質ポリ乳酸部分の表面上において、播種された上記細胞を増殖して細胞集合体を形成する細胞増殖工程を含む。
細胞としては上述の細胞を用いることができる。
かかる物品は、好ましくは、上述の物品の製造方法により製造される物品、又は、上述の特性(a)~(c)を全て満たす物品であり、当該物品における改質ポリ乳酸部分が薄膜に相当(該当)する。その場合、複合体の製造方法は、細胞播種工程の前において、細胞を播種する対象である物品を細胞播種とは非連続的及び/又は別の場所等で調製する等により、物品を提供ないし用意する工程をさらに含んでもよいし、又は、改質ポリ乳酸部分を表面に含む物品を作製する物品作製工程をさらに含んでもよい。後者の物品作製工程ないし物品の作製は、薄膜に相当する改質ポリ乳酸部分を表面に含む物品を製造する上述の物品の製造方法により行うことができる。
SRIMコードを用いて計算した、ポリ乳酸試料(C3H4O2、密度1.26g/cm3)に照射した場合の50keVのN+イオンビームのLETを図1に示す。
ポリ乳酸(C3H4O2、密度1.26g/cm3)と、50keVのN+イオンビームを1×1014 ions/cm2照射して得られた改質ポリ乳酸部分との特性を以下のように評価した。結果を表1に示す。
(1)水に対する接触角
水に対する接触角は、評価対象の表面に対して超純水液滴(2.0μL)を滴下して、着滴直後における接触角を接触角計(協和界面科学製、製品名「FACE CA-V」)を用いて測定した。
(2)X線光電子分光分析(XPS分析)
XPS分析により、酸素原子数(O)に対する炭素原子数(C)の比(炭素原子数/酸素原子数;C/O)、及び、C-C結合数又はC-H結合数(C-C又はC-H)に対するC=C結合数(C=C)の比((C=C)/(C-C又はC-H))を測定した。
(3)細胞接着率
細胞接着率は、未照射のポリ乳酸、又は改質ポリ乳酸部分の各表面上に3000細胞/cm2となるように細胞播種し、37℃で1時間インキュベートした後、基材をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、洗浄前後の細胞数から算出した。細胞数は染色し蛍光画像よりカウントした。用いた細胞はMDCK(イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来)、3T3(マウスの胎児皮膚線維芽細胞由来)、HeLa(ヒト子宮頸がん由来)の3種である。
ポリ乳酸(C3H4O2、密度1.26g/cm3)に対し、イオンビーム照射時に金属マスクを用いて照射部と非照射部のパターニングを行うこと以外は実施例2と同じ照射条件でイオンビームを照射した後、得られた基材のパターン全体(未照射部分と照射部分とを含む)の表面上に50000細胞/cm2となるようにMDCK細胞を播種し、37℃で2時間インキュベートした後、基材をPBSで洗浄し、顕微鏡により細胞の接着の程度を観察した。顕微鏡写真を図2に示す。図2には、比較のため細胞播種前の顕微鏡写真も示す。
実施例2と同じ照射条件でイオンビームを照射して得られた改質ポリ乳酸部分の表面上に2000細胞/cm2となるようにHeLa細胞を播種し、37℃で2時間インキュベートした後、顕微鏡で観察した。顕微鏡写真を図3に示す。
図3から、細胞周囲の薄膜(改質ポリ乳酸部分)が変形し、皺が観察されることがわかった。この薄膜の変形ないし皺の形成は、細胞の牽引力によると考えられる。
実施例3と同じ照射条件でイオンビームを照射しパターニングして得られた改質ポリ乳酸部分の表面上に20000細胞/cm2となるようにMDCK細胞を播種し、37℃でインキュベートし、播種後1時間、3時間及び6時間のそれぞれの細胞を顕微鏡で観察した。顕微鏡写真を図4に示す。
図4から、時間の経過とともに、細胞が薄膜を変形させ、徐々に改質領域の端から剥がしていく様子が分かる。
実施例3と同じ照射条件でイオンビームを照射しパターニングして得られた改質ポリ乳酸部分の表面上に20000細胞/cm2となるようにMDCK細胞を播種し、37℃で3日間インキュベートし、細胞を顕微鏡で観察した。顕微鏡写真を図5に示す。
図5から、MDCK細胞播種後3日間で形成したサブミリ~センチメートルの巨大な細胞集合体((a)及び(b))が形成されたことがわかる。
細胞播種の1日後に固定して染色した、基材中心付近のパターン部に形成した細胞集合体のXY断面の顕微鏡像を、染色により細胞核、アクチン及び薄膜のそれぞれに分けたものと、これらを合わせた全体像(Merge)として図6に、細胞播種の3日後に同様に染色した細胞集合体の断面の顕微鏡像を図7に示す。図7(a)はXY断面、図7(b)はXZ断面である。図6及び図7から、細胞(アクチンと細胞核)が薄膜をつまむようにして折り畳み、ひだ状や突起状の立体構造を作り上げていることが分かる。
図8から、図6及び図7とは表裏が逆となり、薄膜が細胞(アクチンと細胞核)を包み込むようにして筒状の立体構造を作り上げていることが分かる。
比較例1 線エネルギー付与(LET)の検証(2)
SRIMコードを用いて計算した、ポリ乳酸試料(C3H4O2、密度1.26g/cm3)に下記照射条件(a)~(d)で照射した場合のLETを図9(a)~(d)に示す。図9(a)は下記照射条件(a)の場合、図9(b)は下記照射条件(b)の場合、図9(c)は下記照射条件(c)の場合、図9(d)は下記照射条件(d)の場合である。
(a)50keVのH+イオンビーム
(b)50keVのHe+イオンビーム
(c)150keVのKr+イオンビーム
(d)50keVのAr+イオンビーム
図9(b)から、上記照射条件(b)の場合、イオンが試料表面から約560nmまで侵入し、試料(被改質部分)の表面において、電子的LET(LETe)が核的LET(LETn)よりも大きいが、LETeが約110eV/nmと低すぎることがわかる。
図9(d)から、上記照射条件(d)の場合、試料(被改質部分)の表面において電子的LET(LETe)が約200eV/nmであるが、イオンが試料表面から約80nmしか侵入せず、また、試料の表面において核的LET(LETn)がLETeよりも大きいことがわかる。
SRIMコードを用いて計算した、ポリ乳酸試料(C3H4O2、密度1.26g/cm3)に照射した250keVのN+イオンビームのLETを図10に示す。また、このイオンビームを照射した表面(改質ポリ乳酸部分)にMDCK細胞を20000細胞/cm2となるように播種して37℃で3日間インキュベートした後の細胞の顕微鏡写真を図11に示す。
図11から、細胞はよく接着しているが、薄膜が剥離せず、細胞周囲に皺も見られないことがわかる。
SRIMコードを用いて計算した、ポリ乳酸試料(C3H4O2、密度1.26g/cm3)に下記照射条件(a)又は(b)で照射した場合のLETを図12(a)、(b)に示す。図12(a)は下記照射条件(a)の場合であり、図12(b)は下記照射条件(b)の場合である。
(a)100keVのHe+イオンビーム
(b)50keVのN2 +イオンビーム
ポリ乳酸(C3H4O2、密度1.26g/cm3)に対し、単位面積当たりの照射イオン数(照射量)が7.1×1013 ions/cm2又は1.4×1014 ions/cm2となる条件で50keVのN+イオンビームを照射して得られた改質ポリ乳酸部分の表面上に3000細胞/cm2となるようにHeLa細胞を播種し、37℃でインキュベートしたところ、2日以内に細胞の牽引力による皺の形成や薄膜の剥離が確認され、その膜厚は約165nmであった。1.4×1014 ions/cm2で照射した場合のインキュベート開始2日後の細胞の顕微鏡写真を図13に示す。
単位面積当たりの照射イオン数(照射量)を下記(a)又は(b)に代えること以外は実施例7と同様にして、ポリ乳酸(C3H4O2、密度1.26g/cm3)に50keVのN+イオンビームを照射し、HeLa細胞を播種しインキュベートした。インキュベート開始2日後の細胞の顕微鏡写真を図14(a)、(b)に示す。図14(a)は下記照射条件(a)の場合であり、図14(b)は下記照射条件(b)の場合である。
(a)2.9×1013 ions/cm2
(b)2.9×1014 ions/cm2
この結果は、単位面積当たりの照射イオン数(照射量)が2.9×1013 ions/cm2以下である場合のように、単位体積あたりのイオン化数が少ない場合は、ポリ乳酸の架橋が不十分で、単位面積当たりの照射イオン数(照射量)が2.9×1014 ions/cm2以上である場合のように、単位体積あたりのイオン化数が多すぎる場合は、ポリ乳酸の架橋や炭化が進行しすぎて硬化するためと考えられ、細胞の牽引力により薄膜を剥離させるためには適切なエネルギー付与量(阻止能(LET)及び照射量)があることを示している。
単位面積当たりの照射イオン数(照射量)を下記(c)又は(d)に代えること以外は実施例7と同様にして、ポリ乳酸(C3H4O2、密度1.26g/cm3)に50keVのN+イオンビームを照射した。
(c)比較例5:7.1×1011 ions/cm2
(d)実施例8:7.1×1013 ions/cm2
得られた改質ポリ乳酸部分の酸素原子数(O)と炭素原子数(C)とを合わせて100%とした場合の元素比をX線光電子分光分析(XPS分析)により評価した。結果を表2に示す。対照として、上記イオンビーム未照射のポリ乳酸についての結果も併記する。
単位面積当たりの照射イオン数(照射量)を下記(e)~(g)に代えること以外は実施例7と同様にして、ポリ乳酸(C3H4O2、密度1.26g/cm3)に50keVのN+イオンビームを照射した。
(e)比較例6:1×1012 ions/cm2
(f)比較例7:1×1013 ions/cm2
(g)実施例9:1×1014 ions/cm2
得られた改質ポリ乳酸部分の表面の水に対する接触角を実施例2と同様にして評価した。結果を図15に示す。対照として、上記イオンビーム未照射のポリ乳酸についての結果も併記する。
Claims (16)
- 改質ポリ乳酸部分を表面に含む物品であって、
前記改質ポリ乳酸部分は、下記(a)~(c)を全て満たす、物品。
(a)水に対する接触角が50°以上75°以下であること
(b)元素分析により得られる、酸素原子数(O)に対する炭素原子数(C)の比(C/O)が2以上4以下であること
(c)元素分析により得られる、C-C結合数又はC-H結合数(C-C又はC-H)に対するC=C結合数(C=C)の比((C=C)/(C-C又はC-H))が0.1以上2以下であること - 前記改質ポリ乳酸部分は、厚さが800nm未満である、請求項1記載の物品。
- ポリ乳酸を含み、且つ、前記(a)~(c)の少なくとも何れかを満たさない部分をさらに含む、請求項1又は2記載の物品。
- 改質ポリ乳酸部分を表面に含む物品を製造する方法であって、
ポリ乳酸を主成分とする被改質部分に下記(1)~(3)を全て満たす条件でイオンビームを照射することにより前記改質ポリ乳酸部分を作製することを含む、方法。
(1)イオンビームが飛跡に沿って物質に与える線エネルギー付与(LET)について、前記被改質部分の表面において、電子的LET(LETe)が核的LET(LETn)よりも大きく、且つ、電子的LET(LETe)が110eV/nm超であること
(2)前記被改質部分の表面から厚さ方向のイオンビームの飛程が100nm以上800nm未満であること
(3)単位面積当たりの照射イオン数(フルエンス;F[単位:ions/cm2])が2.9×1013 < F < 2.9×1014を満たすこと - 前記イオンビームは、N+イオンビームである、請求項4記載の方法。
- 前記改質ポリ乳酸部分の表面上に細胞集合体を形成する、請求項4又は5記載の方法。
- 前記改質ポリ乳酸部分上に形成された前記細胞集合体が前記物品から前記改質ポリ乳酸部分を剥離することで、前記細胞集合体が前記改質ポリ乳酸部分を包み込んでなる部分及び/又は前記改質ポリ乳酸部分が前記細胞集合体を包み込んでなる部分を形成する、請求項6記載の方法。
- 請求項4~6の何れか1項記載の方法により製造される、請求項1~3の何れか1項記載の物品。
- 改質ポリ乳酸を主成分とする薄膜と、前記薄膜上の細胞集合体とを含む複合体であって、
前記薄膜は、前記物品から前記改質ポリ乳酸部分が剥離されたものであり、
前記薄膜は、請求項1~3、8の何れか1項記載の物品における改質ポリ乳酸部分である、複合体。 - 前記細胞集合体が前記薄膜を包み込んでなる部分及び/又は前記薄膜が前記細胞集合体を包み込んでなる部分を有する、請求項9記載の複合体。
- 再生医療、創薬用スクリーニング、検査用キット、及びバイオデバイスからなる群より選択される少なくとも1つに用いられる、請求項9又は10記載の複合体。
- 改質ポリ乳酸を主成分とする薄膜と、前記薄膜上の細胞集合体とを含む複合体を製造する方法であって、
改質ポリ乳酸部分を表面に含む物品における前記改質ポリ乳酸部分の表面上に細胞を播種する細胞播種工程、及び
前記改質ポリ乳酸部分の表面上において、播種された前記細胞を増殖して前記細胞集合体を形成する細胞増殖工程を含み、
前記改質ポリ乳酸部分上に形成された前記細胞集合体が前記物品から前記改質ポリ乳酸部分を薄膜として剥離することで、前記細胞集合体が前記薄膜を包み込んでなる部分が形成され、
前記改質ポリ乳酸部分は、下記(a)~(c)を全て満たす、方法。
(a)水に対する接触角が50°以上75°以下であること
(b)元素分析により得られる、酸素原子数(O)に対する炭素原子数(C)の比(C/O)が2以上4以下であること
(c)元素分析により得られる、C-C結合数又はC-H結合数(C-C又はC-H)に対するC=C結合数(C=C)の比((C=C)/(C-C又はC-H))が0.1以上2以下であること - 改質ポリ乳酸を主成分とする薄膜と、前記薄膜上の細胞集合体とを含む複合体を製造する方法であって、
改質ポリ乳酸部分を表面に含む物品における前記改質ポリ乳酸部分の表面上に細胞を播種する細胞播種工程、及び
前記改質ポリ乳酸部分の表面上において、播種された前記細胞を増殖して前記細胞集合体を形成する細胞増殖工程を含み、
前記物品は、請求項1~3、8の何れか1項記載の物品であり、前記薄膜は、前記物品における改質ポリ乳酸部分である、方法。 - 前記改質ポリ乳酸部分上に形成された前記細胞集合体が前記物品から前記改質ポリ乳酸部分を薄膜として剥離する、請求項13記載の方法。
- 前記改質ポリ乳酸部分上に形成された前記細胞集合体が前記物品から前記改質ポリ乳酸部分を薄膜として剥離することで、前記細胞集合体が前記薄膜を包み込んでなる部分及び/又は前記薄膜が前記細胞集合体を包み込んでなる部分が形成される、請求項13記載の方法。
- 改質ポリ乳酸部分を表面に含む物品を作製する物品作製工程を前記細胞播種工程の前にさらに含む、請求項12~15の何れか1項記載の方法であって、
前記物品の作製は、前記薄膜に相当する改質ポリ乳酸部分を表面に含む物品を製造する請求項4~6の何れか1項記載の方法により行う、方法。
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