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JP7696938B2 - 乳酸菌の発酵促進剤 - Google Patents
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Description

関連出願の参照
本特許出願は、2019年12月27日に出願された日本国特許出願2019-239455号に基づく優先権の主張を伴うものであり、かかる先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。
本発明は、新規な乳酸菌の発酵促進剤に関する。
微生物による発酵物や代謝物を工業的に生産するにあたり、発酵時間の短縮は、製造コストの削減や衛生管理の上で重要である。乳酸菌の発酵を促進して発酵時間を短縮する技術として、核酸の原料となる物質が、乳酸菌の発酵を促進することが報告されている(特許文献1)。また、特許文献2には、アブラナ科植物種子の有機酸抽出物等を有効成分とする微生物生産性向上剤が記載されている。しかしながら、発酵乳を工業的スケールで効率的に生産する観点からは、乳酸菌の代謝や発酵作用を簡便に促進する新たな技術的手段が依然として必要とされている。
一方で、近年の健康志向の高まりに伴い、食品添加物の使用量を低減させて味わいのよい発酵乳を製造することが求められている。特に、コハク酸は、うま味物質でありながら、体重増加抑制作用や耐糖能改善作用、癌増殖抑制作用といった有用な生理機能も有することから、食品添加物としてしばしば使用される。消費者の需要を喚起する観点からは、コハク酸についても食品添加物を使用せず、発酵乳内で産生することが好ましい。
近年、コハク酸の産生機構に関し、嫌気的条件ではピルビン酸またはフォスフォエノールピルビン酸から炭酸固定を介してオキザロ酢酸が生成し、TCAサイクルの逆ルートでコハク酸が生産する場合があることが報告されている(非特許文献1)。しかしながら、乳酸菌がTCAサイクルの逆ルートを利用しうることについては、何ら報告はされていない。
星野達雄、Microbiol. Cult. Coll., 2011, 27(2), p. 83-88
特開2017-221157号公報 特開平04-141083号公報
本発明は、乳酸菌の発酵を促進するための新たな技術的手段を提供する。また、本発明は、発酵乳における乳酸菌のコハク酸の産生を促進するための新たな技術的手段を提供する。
本発明者らは、今般、リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸が乳酸菌の発酵を促進しうることを見出した。さらに、本発明者らは、上記有機酸が発酵乳における乳酸菌のコハク酸の産生を促進しうることを見出した。本発明は、かかる知見に基づくものである。
本発明によれば、以下の発明が包含される。
[1]リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸を含んでなる、乳酸菌の発酵促進剤。
[2]核酸原料と併用するための、[1]に記載の発酵促進剤。
[3]上記核酸原料が、ギ酸および2位の炭素原子に水素原子が結合したプリン骨格を有する化合物からなる群から選択される少なくとも一つのものである、[2]に記載の発酵促進剤。
[4]上記乳酸菌がラクトバチルス属菌を含んでなる、[1]~[3]のいずれか一つに記載の発酵促進剤。
[5]ラクトバチルス属菌が、ラクトバチルス・デルブルッキー、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・サリバリウスおよびラクトバチルス・ペントサスからなる群から選択される少なくとも一つである、[4]に記載の発酵促進剤。
[6]乳酸菌と、リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸とを含んでなる、乳酸菌スターター。
[7]核酸原料をさらに含んでなる、[6]に記載の乳酸菌スターター。
[8]リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸の存在下で乳酸菌発酵させることを含んでなる、発酵乳を製造する方法。
[9]上記有機酸と核酸原料の共存下で乳酸菌発酵させることを含んでなる、[8]に記載の方法。
[10]上記核酸原料が、ギ酸および2位の炭素原子に水素原子が結合したプリン骨格を有する化合物から選択される少なくとも一つのものである、[9]に記載の方法。
[11]上記発酵乳がコハク酸を含んでなる、[8]~[10]のいずれか一つに記載の方法。
[12]上記コハク酸が、上記乳酸菌により産生される内因性の有機酸である、[11]に記載の方法。
[13][8]~[12]のいずれか一つに記載の方法により得られる発酵乳であって、
上記発酵乳が、乳酸菌とコハク酸とを含んでなる、発酵乳。
[14]上記コハク酸が、前記乳酸菌により産生される内因性の有機酸である、[13]に記載の発酵乳。
[15]上記コハク酸の含有量が、発酵乳全量に対して0.15mM以上である、[14]に記載の発酵乳。
[16]リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸をさらに含んでなる、[13]~[15]のいずれかに記載の発酵乳。
[17]リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸の存在下で乳酸菌発酵させることを含んでなる、乳酸菌の発酵促進方法。
[18]核酸原料をさらに含んでなる、[17]に記載の乳酸菌の発酵促進方法。
[19]上記核酸原料が、ギ酸および2位の炭素原子に水素原子が結合したプリン骨格を有する化合物から選択される少なくとも一つのものである、[18]に記載の乳酸菌の発酵促進方法。
[20]リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸の存在下で乳酸菌を培養させることを含んでなる、乳酸菌スターターを製造する方法。
[21]上記有機酸と核酸原料の共存下で乳酸菌を培養させることを含んでなる、[20]に記載の方法。
[22]上記乳酸菌スターターが、乳酸菌と、リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸とを含んでなる、[20]または[21]に記載の方法。
[23]上記乳酸菌スターターがコハク酸をさらに含んでなる、[22]に記載の方法。
[24]上記コハク酸が、前記乳酸菌により産生される内因性の有機酸である、[23]に記載の方法。
[25]コハク酸の含有量が、発酵乳全量に対して0.15mM以上である発酵乳。
[26]リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸をさらに含んでなる、[25]に記載の発酵乳。
[27]上記コハク酸が、前記乳酸菌により産生される内因性の有機酸である、[25]または[26]に記載の発酵乳。
[28]リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸の存在下で乳酸菌発酵させることを含んでなる、乳酸菌発酵代謝物の産生方法。
[29]乳酸菌発酵代謝物が細胞外多糖(EPS)である、[28]に記載の産生方法。
[30]リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸の存在下で乳酸菌発酵させることを含んでなる、乳酸菌発酵代謝物の産生を促進する方法(以下、「産生促進方法」とも記載する)。
[31]乳酸菌発酵代謝物が細胞外多糖(EPS)である、[30]に記載の方法。
本発明によれば、乳酸菌の発酵を促進させることができる。また、本発明によれば、発酵乳におけるコハク酸の産生量を増加させることができる。本発明は、乳酸菌の発酵や代謝を促進し、細胞外多糖(EPS)やペプチド等の発酵代謝物を短時間で産生する上で有利に利用することができる。また、本発明は、乳酸菌のコハク酸の産生量を増加させ、コハク酸の食品添加物としての添加量を低減させる上で有利に利用することができる。
図1は、試験例9の培養時間に対するEPS濃度推移を示すチャートである。
発明の具体的説明
発酵促進剤
本発明の乳酸菌の発酵促進剤は、リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸を含んでなることを一つの特徴としている。
発酵促進剤において、リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸の含有量は、特に限定されず、例えば、0.1~100質量%であり、好ましくは50~100質量%であり、より好ましくは80~100質量%である。
発酵促進剤における有機酸の原料は、食品添加物としての市販品を使用してもよいし、合成品や有機酸を含む製剤等を使用してもよい。
発酵促進剤は、リンゴ酸、フマル酸のいずれか一方の有機酸を含んでいてもよく、両者を含んでいてもよい。リンゴ酸とフマル酸との質量比(リンゴ酸/フマル酸)は、特に限定されないが、例えば、0.1~10であり、好ましくは0.2~5であり、より好ましくは0.5~2であり、より一層好ましくは0.6~1.5である。
リンゴ酸
発酵促進剤におけるリンゴ酸の形態は、本発明の効果を妨げない限り、特に限定されず、遊離酸または塩のいずれの形態で剤中に含有させてもよい。かかる塩としては、カリウムやナトリウム等のアルカリ金属塩またはカルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属塩を挙げることができる。培養に使用されるリンゴ酸は光学異性体の別を問わないが、好ましくはL-リンゴ酸である。
リンゴ酸またはその塩は、培地または原料乳全量に対して、例えば、0.001~75mMの範囲となる量、好ましくは、0.01~50mM、より好ましくは0.1~10mM、より一層好ましくは0.5~10mMとなる量で添加することができる。したがって、リンゴ酸は発酵促進剤に上記量となるように含まれることが好ましい。ここで、培地または原料乳全量とは、培養に用いられる菌以外の全ての成分の合計量であって、例えば、培地または原料乳、リンゴ酸および/またはフマル酸、ならびに核酸原料の合計量をいう。本発明の培養系におけるリンゴ酸の含有量は、高速液体クロマトグラフ(HPLC)法により測定される。このような測定は、市販のHPLC装置(例えば島津製作所(株)製)およびカラム(例えば、ICSep ICE-ORH-801(TRANSGENOMIC社))を用いることにより実施することができる。より具体的には、上記測定は、以下の条件により行うことができる。分析装置:島津製作所(株)製LC20 system、カラム:ICSep ICE-ORH-801、6.5mm I.D. × 300mm、2本連結して使用、移動相:7.5mM p-トルエンスルホン酸、反応液:7.5mM p-トルエンスルホン酸・150μM EDTA(2NA)・30mM Bis Tris、流速:0.5ml/min、注入量:10μl、オーブン温度:55℃、検出:電気伝導度検出器。
フマル酸
発酵促進剤におけるフマル酸の形態は、本発明の効果を妨げない限り、特に限定されず、遊離酸または塩のいずれの形態で剤中に含有させてもよい。かかる塩としては、カリウムやナトリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等を挙げることができる。
また、フマル酸は、培地または原料乳全量に対し、フマル酸またはその塩の含有量が、例えば、0.001~10mMの範囲となる量、好ましくは0.01~7.5mM、より好ましくは0.1~5mM、より一層好ましくは0.1~2.5mMとなる量で添加することができる。したがって、フマル酸は本発明の発酵促進剤に上記量となるように含まれることが好ましい。本発明の培養系におけるフマル酸の含有量は、リンゴ酸と同様の方法で測定することができる。
核酸原料
本発明の発酵促進剤は、乳酸菌の発酵をより効果的に促進する観点から、核酸原料と併用することが好ましい。核酸原料は発酵促進剤の構成成分として含まれていても別体として用いられてもよい。かかる核酸原料としては、本発明の効果を妨げない限り、特に限定されず、好適な例としては、ギ酸、2位の炭素原子に水素原子が結合したプリン骨格を有する化合物が挙げられる。
ギ酸は、核酸のプリン骨格を構成する原料として知られている。ギ酸の形態は、本発明の効果を妨げない限り、特に限定されず、遊離酸または塩のいずれの形態で剤中に含有させてもよい。かかる塩としては、カリウムやナトリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等を挙げることができる。本発明の培養系におけるギ酸の含有量は、リンゴ酸と同様の方法で測定することができる。
プリン骨格を有する化合物とは、以下の構造(プリン骨格):
Figure 0007696938000001
[式(I)中の数字は炭素原子または窒素原子の位置番号を表す]
を基本骨格として有する物質を示す。プリン骨格を有する化合物は、一般にプリン体とも総称される。プリン骨格を有する化合物としては、典型的には、プリン塩基、プリンヌクレオシド、プリンヌクレオチド、またはそれらの塩が挙げられる。
本発明の核酸原料として用いるプリン骨格を有する化合物は、プリン骨格の2位の炭素原子(上記式(I)中、2で表す炭素原子)に水素原子が結合したプリン骨格を有する。そのような化合物としては、アデニンおよびヒポキサンチン(プリン塩基)、アデニンおよびヒポキサンチンを構成要素として含むプリンヌクレオシド、アデニンまたはヒポキサンチンを構成要素として含むプリンヌクレオチド、並びにそれらの塩が挙げられる。
プリンヌクレオシドは、プリン塩基と糖(リボース、またはデオキシリボース等)が結合した物質であり、リボヌクレオシドであってもデオキシリボヌクレオシドであってもよい。アデニンまたはヒポキサンチンを構成要素として含むプリンヌクレオシドとしては、例えば、アデノシンおよびイノシン(リボヌクレオシド)、ならびにデオキシアデノシンおよびデオキシイノシン(デオキシリボヌクレオシド)が挙げられる。
プリンヌクレオチドは、プリンヌクレオシドに1つ以上のリン酸基が結合した物質であり、リボヌクレオチドであってもデオキシリボヌクレオチドであってもよい。プリンヌクレオチドは、ヌクレオシド一リン酸(ヌクレオシドモノリン酸)、ヌクレオシド二リン酸、またはヌクレオシド三リン酸であってよい。アデニンまたはヒポキサンチンを構成要素として含むプリンヌクレオチドとしては、例えば、アデニル酸(アデノシン一リン酸またはアデノシンモノリン酸;AMP)、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン三リン酸(ATP)、デオキシアデノシン一リン酸(dAMP)、デオキシアデノシン二リン酸(dADP)、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)、イノシン酸(イノシン一リン酸またはイノシンモノリン酸;IMP)、イノシン二リン酸(IDP)、イノシン三リン酸(ITP)、デオキシイノシン一リン酸(dIMP)、デオキシイノシン二リン酸(dIDP)、およびデオキシイノシン三リン酸(dITP)が挙げられる。
2位の炭素原子に水素原子が結合したプリン骨格を有する化合物は、プリン塩基、プリンヌクレオシド、またはプリンヌクレオチドの誘導体も包含する。本発明において「誘導体」とは、プリン塩基、プリンヌクレオシドもしくはプリンヌクレオチドのプリン塩基部分、糖残基部分、および/またはリン酸基部分を化学修飾した、あるいは置換基を導入した化合物をいう。
2位の炭素原子に水素原子が結合したプリン骨格を有する化合物は、塩、例えば、アデニン、ヒポキサンチン、またはアデニンもしくはヒポキサンチンを構成要素として含むプリンヌクレオシドもしくはプリンヌクレオチドの塩であってよい。本発明において、好ましい塩はアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)であり、例えばアデニル酸ナトリウムおよびイノシン酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
2位の炭素原子に水素原子が結合したプリン骨格を有する化合物は、例えば、アデニン、ヒポキサンチン、アデノシン、イノシン、デオキシアデノシン、デオキシイノシン、アデニル酸、イノシン酸、およびそれらの塩からなる群から選択されるものであり、好ましくはイノシン酸である。なお、本発明の培養系におけるイノシン酸の含有量は、蛍光法によるキット、Inosine Assay Kit、CELL BIOLABS社を用いて測定することができる。
本発明の発酵促進剤は、上記の2位の炭素原子に水素原子が結合したプリン骨格を有する化合物を少なくとも1種、好ましくは1~4種、例えば1~3種または1~2種併用してもよい。
核酸原料を有機酸と併用する場合、有機酸と核酸原料との質量比(有機酸/核酸原料)は、特に限定されず、例えば、0.005~500であり、好ましくは0.05~200であり、より好ましくは0.1~100である。
また、核酸原料は、培地または原料乳全量に対し、核酸原料の含有量が、例えば、0.001~75mMの範囲となる量、好ましくは0.01~50mM、より好ましくは0.1~10mM、より一層好ましくは0.5~2mMとなる量で添加することができる。
また、本発明の剤は、上記成分と共に、所望により食品衛生上または薬学的に許容可能な添加剤を配合した剤として提供することができる。食品衛生上または薬学的に許容可能な添加剤として、水等の水性媒体、溶剤、溶解補助剤、滑沢剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、界面活性剤、調整剤、キレート剤、pH調整剤、緩衝剤、賦形剤、増粘剤、着色剤、芳香剤または香料等が挙げられる。
本発明の剤は、液体、粉末、顆粒、ゲル、固体、カプセル封入体等の任意の形態であってよい。
発酵促進剤は、リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸と、核酸をはじめとするその他の任意成分を適宜混合して製造することができる、得られる混合物は、さらに溶媒への溶解、粉末化、顆粒化、ゲル化、固体化、カプセル封入等は公知の製剤技術に従って処理することができる。
本発明の発酵促進作用は、発酵促進剤を添加した原料乳において乳酸菌を培養し発酵させて、その発酵状態の進行を示す指標を調べ、その結果、対照(本発明の発酵促進剤を添加しない群)と比較して発酵がより速く進行していることにより確認することができる。発酵状態の進行を示す指標としては、特に限定されるものではないが、例えば、乳酸菌の発酵により生成する乳酸量の増加に伴う発酵乳のpH値の低下を指標として用いることができる。かかるpHとして例えばpH4.6である。ここで、pH4.6は、通常の発酵乳の製造において十分に発酵が行われ、発酵を終了するpHとして設定しうる。対照と比較して、pH4.6に到達するまでの時間が短縮された場合には、発酵促進剤が乳酸菌に対する発酵促進作用を有すると判断することができる。pHは市販のpH計を用いて測定することができる。
乳酸菌
本発明において、発酵に用いる乳酸菌は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、動物由来のものであっても植物由来のものであってもよい。
本発明の好ましい乳酸菌としては、ラクトバチルス(Lactobacillus)属菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属菌、ラクトコッカス(Lactococcus)属菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属菌、ロイコノストック(Leuconostoc)属菌、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、ラクトバチルス属菌を含む乳酸菌が好ましい。ラクトバチルス属菌を含む乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス属菌、ラクトバチルス属菌とストレプトコッカス属菌との組み合わせ、ラクトバチルス属菌とラクトコッカス属菌との組み合わせ等が挙げられる。これら乳酸菌は、例えば、ATCC等の保管機関等から入手するか、市販されているものを適宜使用することができる。
ラクトバチルス属菌としては、例えば、ラクトバチルス・デルブルッキー(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・ペントサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス(Lactobacillus kefiranofaciens)、ラクトバチルス・ヘルベティクス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorous)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、およびラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)等が挙げられる。好ましいラクトバチルス属菌は、ラクトバチルス・デルブルッキー、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・サリバリウス、ラクトバチルス・ペントサス等である。ここで、好ましいラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・サリバリウスおよびラクトバチルス・ペントサスとしては、それぞれラクトバチルス・アシドフィルス JCM 1132T株、ラクトバチルス・ガセリ JCM 1131T株、ラクトバチルス・ラムノーサス JCM 1136T株、ラクトバチルス・ロイテリ JCM 1112T株、ラクトバチルス・サリバリウス JCM 1231T株、およびラクトバチルス・ペントサス JCM 1558T株等が挙げられる。
また、ラクトバチルス・デルブルッキーとしては、例えば、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus(ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス;ラクトバチルス・ブルガリクス)、Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis(ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス)、Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii(ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・デルブルッキー)、Lactobacillus delbrueckii subsp. indicus(ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・インディクス)等が挙げられる。好ましいラクトバチルス・デルブルッキーは、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス等であり、より好ましくは、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス(2038株、OLL 1073R-1株、P1902901株、OLL1171株、OLL1255株、OLL1247株、OLL205013株)等である。ラクトバチルス・ケフィラノファシエンスとしては、例えば、Lactobacillus kefiranofaciens subsp. kefirgranum(ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス・サブスピーシーズ・ケフィアグラナム)等が挙げられ、好ましくはラクトバチルス・ケフィラノファシエンス・サブスピーシーズ・ケフィアグラナム JCM 8572T等である。
また、ラクトバチルス・アシドフィルス JCM 1132T株、ラクトバチルス・ガセリ JCM 1131T株、ラクトバチルス・ラムノーサス JCM 1136T株、ラクトバチルス・ロイテリ JCM 1112T株、ラクトバチルス・サリバリウス JCM 1231T株、ラクトバチルス・ペントサス JCM 1558T株、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス・サブスピーシーズ・ケフィアグラナム JCM 8572T株は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター(RIKEN BRC)微生物材料開発室(Japan Collection of Microorganisms)(RIKEN BRC-JCM、日本)から、それぞれ受託番号JCM 1132T、JCM 1131T、JCM 1136T、JCM 1112T、JCM 1231T、JCM 1558T、JCM 8572Tの下で入手することができる。
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス2038株は、「明治ブルガリアヨーグルト」(登録商標)から、市販のラクトバチルス属用の選択培地にて単離することができ、株式会社明治(〒192-0919 日本国東京都八王子市七国1-29-1 明治イノベーションセンター)により保管されている。
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスOLL 1073R-1株は、1999年2月22日付で独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託され、その後、国際寄託に移管され受託番号FERM BP-10741が付与されている。なお、Budapest Notification No. 282(http://www.wipo.int/treaties/en/notifications/budapest/treaty_budapest_282.html)に記載されるとおり、独立行政法人製品評価技術基盤機構(IPOD、NITE)が独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(IPOD、AIST)から特許微生物寄託業務を承継したため、現在は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(IPOD、NITE)に受託番号FERM BP-10741のもとで寄託されている。
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスP1902901株は、株式会社明治(〒192-0919 日本国東京都八王子市七国1-29-1 明治イノベーションセンター)により保管されている。
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスOLL1171株は、ブタベスト条約の規定に基づく国際寄託当局である独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、2013年3月13日付でNITE BP-01569として国際寄託されている。
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスOLL1255株は、ブタベスト条約の規定に基づく国際寄託当局である独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、2005年2月10日付でNITE BP-76として国際寄託されている。
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスOLL1247株は、ブタベスト条約の規定に基づく国際寄託当局である独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、2014年3月6日付でNITE BP-01814として国際寄託されている。
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスOLL205013株は、ブタベスト条約の規定に基づく国際寄託当局である独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、2017年2月3日付でNITE BP-02411として国際寄託されている。
ストレプトコッカス属菌としては、例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)等が挙げられる。
ラクトコッカス属菌としては、例えば、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・プランタラム(Lactococcus plantarum)、ラクトコッカス・ラフィノラクティス(Lactococcus raffinolactis)等が挙げられる。
ラクトバチルス属菌とストレプトコッカス属菌との組み合わせとしては、好ましくは、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスおよびストレプトコッカス・サーモフィルスが挙げられる。
乳酸菌と、リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸や、核酸原料との混合割合は、乳酸菌や培地、原料乳の種類や性質、温度条件その他の発酵条件に応じて適宜設定してもよい。
乳酸菌と、リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸との質量比(乳酸菌/有機酸)は、例えば、0.001~500000であり、好ましくは0.01~5000であり、より好ましくは0.1~500である。
乳酸菌と、上記核酸原料との質量比(乳酸菌/核酸原料)は、例えば、0.1~11000であり、好ましくは1~11000であり、より好ましくは10~1100であり、さらに好ましくは50~550である。
乳酸菌は、培地または原料乳全量に対し、例えば、0.001質量%~5質量%、好ましくは0.01質量%~2.5質量%、より好ましくは0.01質量%~2質量%、より一層好ましくは0.1質量%~1質量%となる量で添加することができる。
乳酸菌スターター
上述のようなリンゴ酸およびフマル酸から選択される有機酸は、乳酸菌を共に使用して乳酸菌スターターとして使用することができる。したがって、本発明の好ましい実施態様によれば、乳酸菌と、リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸とを含んでなる、乳酸菌スターターが提供される。
乳酸菌スターターは、乳酸菌を培地(例えば、賦活培地)で培養し、中間発酵を経て調製されたものを含む。乳酸菌スターターは、乳酸菌とそれを培養した培地とを構成要素として含むことが好ましい。したがって、乳酸菌スターターはコハク酸をさらに含んでいてもよい。ここで、上記コハク酸は、上記乳酸菌により産生される内因性の有機酸であることが好ましい。また、乳酸菌スターターには、発酵乳の元となる原料乳に直接接種するものの他に、この乳酸菌スターターを別の培地に接種して、乳酸菌をさらに増殖(スケールアップ)させた次世代以降のものが含まれる。
乳酸菌スターターは、基本的に、原料乳を発酵させて発酵乳を得るのに使用される。なお、乳酸菌スターターの使用には、本発明によって得られた乳酸菌スターターを原料乳に直接接種することの他に、本発明によって得られた乳酸菌スターターを培地でさらに1回以上培養して、その培養後の次世代以降の乳酸菌スターターを原料乳に接種することをも含む。
乳酸菌スターターは、核酸原料と共に併用してもよい。したがって、本発明の別の態様によれば、核酸原料との併用のための、乳酸菌と、リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸とを含んでなる乳酸菌スターターが提供される。上記乳酸菌スターターは核酸原料と併用することが好ましく、上記併用においては、核酸原料を上記乳酸菌スターターと共に別体として培地または原料乳に添加してもよく、上記乳酸菌スターターに核酸原料を構成成分として混合して一体的に使用してもよい。乳酸菌スターターと核酸原料とを併用することにより、より効果的に乳酸菌の発酵を促進することができる。したがって、一つの態様によれば、上記乳酸菌スターターは核酸原料を含んでいてもよい。乳酸菌スターターにおけるリンゴ酸、フマル酸、核酸原料、乳酸菌の各態様はいずれも、本発明の発酵促進剤に関する記載と同様とすることができる。
乳酸菌スターターにおける乳酸菌の生菌数は、特に限定されないが、例えば、1.0×10~1.0×1013cfu/gであり、好ましくは1.0×10~1.0×1012cfu/gであり、より好ましくは1.0×10~1.0×1011cfu/gである。
乳酸菌スターターにおける乳酸菌と有機酸との質量比、乳酸菌と核酸原料との質量比、有機酸と核酸原料との質量比、有機酸におけるリンゴ酸およびフマル酸の質量比は、上記発酵促進剤における質量比と同様とすることができる。
乳酸菌スターターは、乳酸菌と、上記有機酸や、核酸原料や培地成分をはじめとする任意成分とから製造することができる。以下、乳酸菌スターターの好適な製造方法の詳細について説明する。
乳酸菌スターターの好ましい製造方法は、培地調製工程、培地殺菌工程、乳酸菌接種工程、培養工程(培地発酵工程)、および有機酸等添加工程を含む。
培地調製工程は、乳酸菌を接種する培地(例えば、賦活培地)を調製する工程である。培地は、本発明の効果を妨げない限り、特に限定されないが、乳成分を含む培地が挙げられ、例えば、脱脂乳、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳(還元脱脂乳)、およびこれら脱脂乳成分のタンパク質分解物、ホエイ、ホエイ濃縮物、ホエイ粉(還元ホエイ)、およびこれらホエイ成分のタンパク質分解物、生乳、殺菌乳(全脂乳)、全脂濃縮乳、全脂粉乳(還元全脂乳)、およびこれら全脂乳成分のタンパク質分解物等を含む培地が好ましく、脱脂乳、脱脂粉乳、およびこれら脱脂乳成分のタンパク質分解物、ホエイ、ホエイ濃縮物、ホエイ粉、およびこれらホエイ成分のタンパク質分解物を含む培地がより好ましく、脱脂乳、脱脂粉乳、ホエイ、ホエイ粉等を含む培地がさらに好ましい。また、上記培地は後述の原料乳と同一であっても良い。上記培地は酵母エキスをさらに含むことが好ましい。上記培地は、上記の各成分を混合、溶解、分散、懸濁する等の公知の手法により、調製することができる。
培地殺菌工程は、培地調製工程で調製された培地を、例えば加熱によって殺菌する工程である。殺菌工程では、培地の雑菌を殺菌できる程度に、加熱温度および加熱時間を調整して加熱処理すればよい。本発明においては、培地を80℃以上、90℃以上、95℃以上、または100℃以上に加熱することが好ましい。加熱殺菌には、公知の方法を用いることができる。例えば、加熱殺菌では、プレート式熱交換器、チューブ式熱交換器、スチームインジェクション式加熱装置、スチームインフュージョン式加熱装置、通電式加熱装置、オートクレーブ装置等によって加熱処理を行えばよく、ジャケット付のタンクによって加熱処理を行ってもよい。なお、培地の殺菌は加熱に限られず、例えば紫外線照射等公知の方法によって行うこともできる。
乳酸菌添加(接種)工程は、殺菌後の培地に、乳酸菌を添加(接種)する工程である。培地に添加する乳酸菌としては、凍結菌(例えば、凍結濃縮菌、凍結ペレット、凍結乾燥粉末等)を用いることができる。乳酸菌添加工程においては、乳酸菌を、培地に対して、0.05質量%以上で添加することが好ましく、0.05~10質量%で添加することがより好ましく、0.1~5質量%で添加することがさらに好ましい。
培養工程は、乳酸菌を培地で培養し、乳酸菌を増殖させ、乳酸スターターを得る工程である。乳酸菌の培養時間は、特に限定されないが、例えば、3~36時間が挙げられ、好ましくは5~30時間、より好ましくは10~24時間である。なお、乳酸菌スターターを複数回培養して得る場合には、上記培養時間は1回の培養時間をいう。
また、培養工程において、培地の温度は、30℃以上の発酵温度域に保持されていることが好ましい。特に、培地の温度は、30~50℃で保持されていることが好ましく、35~50℃で保持されていることがより好ましい。また、培養工程においては、培地を撹拌せずに静置しておくことが好ましい。ここで、「静置」とは、培地を攪拌しないことを意味するものであり、例えば培地を収容した容器を移動するような場合であっても、培地内が撹拌されないのであれば「静置」に該当する。このように、培養工程の間は培地を静置することで乳酸菌の増殖を促進し、培養終了までの時間を短縮することができる。
有機酸等添加工程は、リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸ならびに所望により核酸原料を添加する工程である。有機酸等添加工程は、培養工程前、培養工程中、培養工程後のいずれの時期に実施してもよいが、培養時間を短縮する観点からは、培養工程前または培養工程中に実施することが好ましい。有機酸等添加工程は、例えば、培養工程後において、乳酸菌またはその乳酸菌含有培地を所定量採取し、かかる乳酸菌またはその乳酸菌含有培地に有機酸および所望により核酸原料を添加することにより実施することができる。また、有機酸等添加工程は、例えば、培養工程前または培養工程中に培地に有機酸および所望により核酸原料を添加することにより実施してもよい。ここで、培養工程前としては、特に限定されず、培地殺菌工程の前、培地殺菌工程の後、乳酸菌添加工程の前、乳酸菌添加工程の後、乳酸菌の添加と同時のいずれの時期であってもよい。添加する有機酸は水に溶解しpHを6.0~7.0に調整することが好ましい。
発酵乳
本発明によれば、上記発酵促進剤または乳酸菌スターターを使用して、発酵乳を効率的に製造することができる。ここで、「発酵乳」とは、乳および乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)で定義される「発酵乳」、「乳製品乳酸菌飲料」、および「乳酸菌飲料」を包含し、ヨーグルト等も含まれる。例えば、発酵乳は、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳および加工乳等の乳またはこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を、乳酸菌または酵母で発酵させ、糊状または液状にしたものまたはこれらを凍結したものをいい、これらにはハードヨーグルト、ソフトヨーグルト(糊状発酵乳)またはドリンクヨーグルト(液状発酵乳)が含まれる。
一般的に、プレーンヨーグルト等のハードヨーグルトは、容器に原料を充填させ、その後に発酵させること(後発酵)により製造される(「セットヨーグルト」とも称される)。一方、ソフトヨーグルトやドリンクヨーグルトは、発酵させた発酵乳(前発酵)を微粒化処理や均質化処理した後に、容器に充填させることにより製造される(「撹拌ヨーグルト」とも称される)。
本発明によれば、リンゴ酸やフマル酸、さらには所望により核酸原料の存在下で乳酸菌発酵させることにより、食品添加剤を使用しなくても、発酵乳中に高含有量でコハク酸を含有させることができる。したがって、本発明の好ましい態様によれば、乳酸菌とコハク酸とを含んでなる発酵乳であって、上記コハク酸が、上記乳酸菌により産生される内因性の有機酸である発酵乳が提供される。
発酵乳中のコハク酸含有量は、例えば、発酵乳全量に対して0.15mM以上、好ましくは0.2mM以上、より好ましくは0.7mM以上、より一層好ましくは1mM以上、さらに好ましくは3mM以上とされる。本発明の発酵乳におけるコハク酸含有量の好ましい下限値は、0.15mM、好ましくは1mM、より好ましくは3mMであり、好ましい上限値は50mM、より好ましくは20mM、より一層好ましくは15mMである。本発明の好ましい態様によれば、乳酸菌としてラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスを用いた場合は、発酵乳中のコハク酸含有量は、例えば、発酵乳全量に対して1mM以上、好ましくは1.5mM以上、より好ましくは3mM以上とされる。また、乳酸菌としてラクトバチルス・ラムノーサスを用いた場合は、発酵乳中のコハク酸含有量は、例えば、発酵乳全量に対して0.5mM以上、好ましくは1mM以上とされる。また、乳酸菌としてラクトバチルス・サリバリウスを用いた場合は、発酵乳中のコハク酸含有量は、例えば、発酵乳全量に対して0.15mM以上、好ましくは0.2mM以上とされる。本発明の発酵乳におけるコハク酸の含有量は、高速液体クロマトグラフ(HPLC)法により測定される。このような測定は、市販のHPLC装置(例えば島津製作所(株)製)およびカラム(例えば、ICSep ICE-ORH-801(TRANSGENOMIC社))を用いることにより、簡便に行うことができる。上記測定としては、例えば、以下の条件により行うことができる。分析装置:島津製作所(株)製LC20 system、カラム:ICSep ICE-ORH-801、6.5mm I.D. × 300mm、2本連結して使用、移動相:7.5mM p-トルエンスルホン酸、反応液:7.5mM p-トルエンスルホン酸・150μM EDTA(2NA)・30mM Bis Tris、流速:0.5ml/min、注入量:10μl、オーブン温度:55℃、検出:電気伝導度検出器。
発酵乳は、リンゴ酸やフマル酸等の有機酸、さらには所望により核酸原料の存在下で好適に製造されることから、リンゴ酸、フマル酸、核酸原料を含有していてもよい。
発酵乳におけるリンゴ酸の含有量は、例えば、0.1~50mMであり、好ましくは0.1~45mMであり、さらに好ましくは0.5~45mMである。
発酵乳におけるフマル酸の含有量は、例えば、0.1~10mMであり、好ましくは0.1~5mMであり、さらに好ましくは0.5~1mMである。
発酵乳における核酸原料の含有量は、例えば、0.0001~5質量%であり、好ましくは0.0001~1.5質量%である。
本発明の発酵乳は、製造時にリンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸を添加していない発酵乳に比べて、コハク酸を2倍以上含むことが挙げられ、好ましくは2.5倍以上、より好ましくは5倍以上含む。上限値は30倍が挙げられ、好ましくは20倍である。
本発明によれば、発酵乳は、上記発酵促進剤または乳酸菌スターターを使用して、リンゴ酸やフマル酸等の有機酸や、核酸原料の存在下で製造することができる。したがって、リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸の存在下で原料乳を乳酸菌により発酵させることを含んでなる、発酵乳を製造する方法が提供される。また、好ましい態様によれば、発酵乳を製造する方法は、上記有機酸と核酸原料の共存下で乳酸菌発酵させるものである。
より具体的には、発酵乳を製造する方法は、原料乳調製工程、原料乳殺菌工程、乳酸菌スターター接種工程および発酵工程を含むことが好ましい。
原料乳調製工程は、乳酸菌スターターを接種する原料乳を調製する工程である。「原料乳」は、ヨーグルト等の発酵乳の原料となるもので、ヨーグルトミックスや発酵乳ミックス等ともよばれる。本発明では、公知の原料乳を適宜用いることができる。原料乳には、殺菌前のものも、殺菌後のものも含まれる。
原料乳の具体的な原料には、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、バターミルク、バター、クリーム、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質単離物(WPI)、α(アルファ)-ラクトアルブミン(La)、β(ベータ)-ラクトグロブリン(Lg)等が含まれてもよい。あらかじめ温めたゼラチン等を適宜添加してもよい。原料乳は、公知であり、公知の方法に従って調製することができる。
好ましい原料乳として、生乳、脱脂乳、脱脂粉乳、クリームが含まれるが、これらに限定されるものではない。より好ましい原料乳としては脱脂乳、脱脂粉乳を挙げることができる。本発明において使用される原料乳中の無脂乳固形分の含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、好ましくは6~11質量%、より好ましくは7~10質量%である。また、原料乳中の脂肪分の含有量としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.05~5質量%、さらに好ましくは0.1~3質量%を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
原料乳殺菌工程は、原料乳調製工程で調製された原料乳を、例えば加熱によって殺菌する工程である。原料乳は、殺菌されることが好ましい。かかる殺菌としては、例えば加熱による殺菌が挙げられる。殺菌としては、原料乳の雑菌を殺菌できる程度に、加熱温度および加熱時間を調整して加熱処理することができる。例えば、原料乳を80℃以上、好ましくは90℃以上に達温殺菌することが好ましい。加熱処理には、公知の方法を用いることができる。
乳酸菌スターター接種工程は、上記原料乳に、乳酸菌スターターを接種(添加)する工程である。上記乳酸菌スターターとしては、上記乳酸菌スターターの製造方法を経て得られた乳酸菌スターターまたは通常の方法により調製され凍結された乳酸菌スターターや、凍結後に乾燥された乳酸菌スターターを用いることができる。
ここで、リンゴ酸、フマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸と、任意成分の核酸原料は、乳酸菌スターター中の構成成分として原料乳に添加されることが好ましいが、乳酸菌スターターとは別に、添加物としてまたは内因成分として原料乳中に含有させてもよい。原料乳における乳酸菌、有機酸、核酸原料の各成分の添加量は、上記発酵促進剤において記載した量と同様とすることができる。
発酵工程は、乳酸菌スターターによって原料乳を発酵させる工程である。発酵工程では、例えば、乳酸菌スターターが接種された原料乳を発酵温度域に維持しながら発酵させて発酵乳を得る。本発明において、発酵工程には、公知の方法を用いることができる。発酵温度等の発酵条件は、原料乳や乳酸菌(乳酸菌スターター)の種類や、調製する発酵乳の種類や風味等を考慮して適宜調整することができる。具体的な例として、発酵温度として30~50℃程度が挙げられる。この範囲の温度であれば、一般的に乳酸菌が活動しやすいので、効果的に発酵を進めることができる。このときの発酵温度として、好ましくは30~45℃程度、より好ましくは35~43℃程度である。
発酵時間は、使用する乳酸菌(乳酸菌スターター)や発酵温度等に応じて適宜調整すればよい。例えば、発酵乳中のpHが4.6になることを指標として発酵時間を調整することができる。かかる発酵時間としては、制限はされないが、例えば、2時間~36時間が挙げられ、好ましくは2.5時間~24時間であり、より好ましくは4時間~24時間であってもよい。pHは市販のpH計を用いて測定することができる。
なお、発酵乳を製造するための装置、および製造条件は、公知のものを用いることができる。例えば、発酵乳を製造する装置として、後発酵製品には、充填後に発酵を行う発酵室、前発酵商品には、発酵を行う発酵タンクおよび発酵乳カードを破砕するためのラインフィルターや均質機等を使用でき、製造条件として、脱酸素装置等を適宜採用することができる。
発酵乳に含まれるコハク酸は、上述の通り、うま味物質であり、かつ、体重増加抑制作用や耐糖能改善作用、癌増殖抑制作用といった有用な生理機能を有する有機酸である。したがって、1つの態様によれば、本発明の発酵乳は、うま味を向上するための、体重増加を抑制するための、耐糖能を改善するための、または、癌の増殖を抑制するための組成物として提供される。
その他の態様
本発明によれば、上述の通り、リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸を所望により核酸原料と組み合わせて、乳酸菌の発酵を促進することができる。したがって、本発明の別の態様によれば、リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸の存在下で、培地(例えば、乳成分を含む培地)または原料乳等を乳酸菌により発酵させることを含んでなる、乳酸菌の発酵促進方法が提供される。また、好ましい別の態様によれば、上記乳酸菌の発酵促進方法は、上記有機酸と核酸原料の共存下で乳酸菌発酵させることを含んでなる。
本発明によれば、上述のように、乳酸菌の発酵や代謝を促進し、発酵代謝物を短時間で産生することができる。したがって、本発明のさらに別の態様によれば、リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸の存在下で、培地(例えば、乳成分を含む培地)または原料乳等を乳酸菌発酵させることを含んでなる、乳酸菌発酵代謝物の産生方法または産生促進方法が提供される。また、好ましい別の態様によれば、上記方法は、上記有機酸と核酸原料の共存下で乳酸菌発酵させることを含んでなる。上記発酵代謝物として、好ましくは、コハク酸、細胞外多糖(EPS)、ペプチド等が挙げられ、より好ましくは、細胞外多糖(EPS)である。
また、本発明のさらに別の態様によれば、乳酸菌の発酵を促進するための、リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸が提供される。また、好ましいさらに別の態様によれば、上記有機酸は、核酸原料の共存下で乳酸菌発酵させる。
また、本発明のさらに別の態様によれば、乳酸菌の発酵促進剤の製造における、リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸の使用が提供される。また、好ましいさらに別の態様によれば、上記有機酸は、核酸原料と併用される。
また、本発明のさらに別の態様によれば、乳酸菌スターターの製造における、リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸の使用が提供される。また、好ましいさらに別の態様によれば、上記有機酸は、核酸原料と併用される。
また、本発明のさらに別の態様によれば、発酵乳の製造における、リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸の使用であって、該有機酸の存在下で乳酸菌発酵させることを含んでなる使用が提供される。また、好ましいさらに別の態様によれば、上記有機酸は、核酸原料と併用される。より好ましいさらに別の態様によれば、上記発酵乳がコハク酸を含んでなり、該コハク酸は乳酸菌により産生される内因性の有機酸であってもよい。
上述の、乳酸菌の発酵促進方法、有機酸、および使用の各態様は、本発明の発酵促進剤、乳酸菌スターター、発酵乳の製造方法に関する記載に準じて実施することができる。
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術範囲は、これらの例示に限定されるものではない。なお、特に記載しない限り、本発明で用いられる全ての比率は質量による。また、特に記載しない限り、本明細書に記載の単位および測定方法はJIS規格による。
試験例1:リンゴ酸またはフマル酸のLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus(以下、「L.bulgaricus」ともいう)に対する発酵促進効果の検討
まず、下記のラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 菌株の凍結菌を用意した。
(1)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 2038(以下、「2038」ともいう)
(2)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1(以下、「OLL 1073R-1」ともいう)
(3)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus P1902901(以下、「P1902901」ともいう)
(4)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1171(以下、「OLL1171」ともいう)
(5)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1255(以下、「OLL1255」ともいう)
(6)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1247(以下、「OLL1247」ともいう)
(7)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL205013(以下、「OLL205013」ともいう)
賦活培地にて、上記の菌株を賦活してから使用した。賦活培地としては、0.1質量%酵母エキスを含む10質量%還元脱脂乳培地を121℃、7分殺菌したものを用いた。ここで、10質量%還元脱脂乳培地は、脱脂粉乳(脂肪分1質量%、タンパク質34質量%、乳糖54質量%、灰分8質量%、無脂乳固形分96質量%)(株式会社明治製)の10質量%水溶液である(上記培地中、乳糖含量5.4質量%、無脂乳固形分9.6質量%)。上記賦活培地に凍結菌を(賦活培地量に対して)0.1質量%添加し、37℃16時間静置培養し、賦活液を得た。得られた賦活液0.1質量%(賦活培地量に対して)を別の賦活培地に添加し、37℃で16時間静置培養し、乳酸菌スターターを得た。
その後、原料乳として発酵培地を用いて発酵を行った。発酵培地としては、ギ酸を終濃度1mMとなるよう添加した10質量%還元脱脂乳培地を95℃達温殺菌したものを用いた。また、上記発酵培地には、殺菌前にNaOHでpH約6.5に調整したフマル酸水溶液またはリンゴ酸水溶液を、終濃度1mMとなるよう添加した。上記発酵培地のpHは約6.4であった。上記で得られた各菌株の乳酸菌スターターを上記発酵培地に(発酵培地量に対して)0.5質量%接種し、40℃で静置培養し、発酵を行った。発酵時間は、pH4.6に到達するまでに要した時間とした。pHは市販のpH計を用いて測定した。得られた結果を表1に示す。表1より、リンゴ酸またはフマル酸の添加により、L. bulgaricus 7株全ての発酵が促進されたことがわかる。L. bulgaricusに対するリンゴ酸とフマル酸の発酵促進効果はほぼ同等であった。発酵短縮時間は株によって異なり、40分~12時間15分であった。
Figure 0007696938000002
試験例2-1:L. bulgaricus 2038株に対して発酵促進効果を示すリンゴ酸、フマル酸の濃度の検討
発酵培地(原料乳)を用いて発酵を行った。発酵培地としては、ギ酸を終濃度1mMとなるよう添加した10%還元脱脂乳培地を95℃達温殺菌したものを用いた。また、上記発酵培地には、殺菌前にNaOHでpH約6.5に調整したフマル酸水溶液またはリンゴ酸水溶液を、表3、4に記載の終濃度となるよう添加した。上記発酵培地にL. bulgaricus 2038株の乳酸菌スターターを(発酵培地量に対して)0.5%接種し、40℃で静置培養し、発酵を行った。発酵時間は、pH4.6に到達するまでに要した時間とした。
発酵終了後の有機酸濃度の測定は以下の様に行った。得られた発酵物(発酵乳)0.4gを純水で2倍希釈し、カレッツ試薬I(53.5%(w/v)硫酸亜鉛)を20μL添加してボルテックスし、カレッツ試薬II(17.2%(w/v)フェロシアン化カリウム)を20μl添加してボルテックスした。4℃、20620g、10分遠心分離し、上清を0.22μmフィルターでろ過したものを表2の条件で分析した。
Figure 0007696938000003
得られた結果を表3~5に示す。表3、4より、L. bulgaricus 2038株は0.01~2.5mMのフマル酸、0.01~50mMのリンゴ酸において発酵促進効果が確認された。また、リンゴ酸、フマル酸ともに、0.01mMという低濃度でも発酵促進効果を示した。発酵後の有機酸濃度を測定した結果、添加したリンゴ酸やフマル酸の濃度が低下し、コハク酸の濃度が上昇していた(表5)。すなわち、添加したリンゴ酸やフマル酸は、還元的TCA回路により、リンゴ酸→フマル酸→コハク酸の向きに代謝されていることが示唆された。
Figure 0007696938000004
Figure 0007696938000005
Figure 0007696938000006
試験例2-2:L. delbrueckii subsp. bulgaricusにおける、リンゴ酸、フマル酸添加時のコハク酸産生量
賦活培地にて、表6および7に示す菌株を賦活してから使用した。賦活培地としては、0.1質量%酵母エキスを含む10質量%還元脱脂乳培地を121℃、7分殺菌したものを用いた。ここで、10質量%還元脱脂乳培地は、脱脂粉乳(脂肪分1質量%、タンパク質34質量%、乳糖54質量%、灰分8質量%、無脂乳固形分96質量%)(株式会社明治製)の10質量%水溶液である(上記培地中、乳糖含量5.4質量%、無脂乳固形分9.6質量%)。上記賦活培地に凍結菌を(賦活培地量に対して)0.1質量%添加し、37℃で16時間静置培養し、賦活液を得た。得られた賦活液0.1質量%(賦活培地量に対して)を別の賦活培地に添加し、37℃で16時間静置培養し、乳酸菌スターターを得た。
その後、原料乳として発酵培地を用いて発酵を行った。発酵培地としては、ギ酸を終濃度1mMとなるよう添加した10質量%還元脱脂乳培地を95℃達温殺菌したものを用いた。また、上記発酵培地には、殺菌前にNaOHでpH約6.5に調整したフマル酸水溶液またはリンゴ酸水溶液を、終濃度1mMとなるよう添加した。上記発酵培地のpHは約6.4であった。上記で得られた各菌株の乳酸菌スターターを上記発酵培地に(発酵培地量に対して)2.5質量%接種し、40℃で静置培養し、発酵を行った。発酵時間は、pH4.6に到達するまでに要した時間とした。pHは市販のpH計を用いて測定した。得られた結果を表6および7に示す。表6より、いずれのL. delbrueckii subsp. bulgaricus 株においても、リンゴ酸、フマル酸の添加により、コハク酸の濃度が上昇していた。また、表7より、試験例1と同様に、リンゴ酸またはフマル酸の添加により、L. bulgaricus 7株全ての発酵が促進された。
Figure 0007696938000007
Figure 0007696938000008
試験例3:L. delbrueckii subsp. bulgaricus以外の乳酸菌種に対するフマル酸の発酵促進効果の検討
まず、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス以外の以下の菌種の基準株を用意した。
(8)Lactobacillus acidophilus JCM 1132T
(9)Lactobacillus gasseri JCM 1131T
(10)Lactobacillus rhamnosus JCM 1136T
(11)Lactobacillus reuteri JCM 1112T
(12)Lactobacillus salivarius JCM 1231T
(13)Lactobacillus pentosus JCM 1558T
賦活培地にて、上記の菌株を賦活してから使用した。賦活培地としては、0.1%酵母エキスを含む10%還元脱脂乳培地を121℃、7分殺菌したものを用いた。上記賦活培地に凍結菌を(賦活培地量に対して)1%添加し、37℃で24時間静置培養し、賦活液を得た。得られた賦活液1%(賦活培地量に対して)を別の賦活培地に添加し、37℃で24時間静置培養し、乳酸菌スターターを得た。
その後、発酵培地(原料乳)を用いて発酵を行った。発酵培地としては、ギ酸を終濃度1mMとなるよう添加した10%還元脱脂乳培地を95℃達温殺菌したものを用いた。また、上記発酵培地には、殺菌前にNaOHでpH約6.5に調整したフマル酸水溶液を、終濃度1mMとなるよう添加した。上記発酵培地に上記で賦活した各菌株の乳酸菌スターターを(発酵培地量に対して)1%接種し、37℃で静置培養し、発酵を行った。発酵時間は、pH4.6に到達するまでに要した時間とした。得られた結果を表8に示す。フマル酸の添加により、L. acidophilus、L. gasseri、L. rhamnosus、L. reuteri、L. salivarius、およびL. pentosusで発酵が促進された。
Figure 0007696938000009
試験例4:L. delbrueckii subsp. bulgaricus以外の乳酸菌種に対するリンゴ酸の発酵促進効果の検討
まず、以下の菌種の基準株を用意した。
(12)Lactobacillus salivarius JCM 1231T
(13)Lactobacillus pentosus JCM 1558T
(14)Lactobacillus kefiranofaciens subsp. kefirgranum JCM 8572T
フマル酸の代わりにリンゴ酸を添加する以外は試験例3と同様に行った。得られた結果を表9に示す。リンゴ酸の添加により、L. salivarius、L. pentosusおよびLactobacillus kefiranofaciens subsp. kefirgranumで発酵が促進された。
Figure 0007696938000010
試験例5:L. rhamnosus、L. salivariusにおけるリンゴ酸、フマル酸およびコハク酸の濃度の測定
試験例3または4における、L. rhamnosus、L. salivariusの発酵終了後の有機酸濃度の測定を試験例2-1と同様に行った。得られた結果を表10に示す。リンゴ酸やフマル酸の添加により、L. rhamnosus、L. salivariusにおいてコハク酸の産生が促進された。
Figure 0007696938000011
試験例6:イノシン酸添加時のフマル酸のLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusに対する発酵促進効果の検討
下記のラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 菌株の凍結菌を用意した。
(1)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 2038
(2)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1
(3)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus P1902901
(4)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1171
(5)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1255
(6)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1247
(7)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL205013
賦活培地にて、上記の菌株を賦活してから使用した。賦活培地としては、0.1%酵母エキスを含む10%還元脱脂乳培地を121℃、7分殺菌したものを用いた。上記賦活培地に凍結菌を(賦活培地量に対して)1%添加し、37℃で24時間静置培養し、賦活液を得た。得られた賦活液1%(賦活培地量に対して)を別の賦活培地に添加し、37℃で24時間静置培養し、乳酸菌スターターを得た。
その後、発酵培地(原料乳)を用いて発酵を行った。発酵培地としては、イノシン酸を終濃度1mMとなるよう添加した10%還元脱脂乳培地を95℃達温殺菌したものを用いた。また、上記発酵培地には、殺菌前にNaOHでpH約6.5に調整したフマル酸水溶液を、終濃度1mMとなるよう添加した。上記発酵培地に上記で賦活した各菌株の乳酸菌スターターを(発酵培地量に対して)1%接種し、37℃で静置培養し、発酵を行った。発酵時間は、pH4.6に到達するまでに要した時間とした。pHはpH計を用いて測定した。得られた結果を表11に示す。表11より、フマル酸の添加により、L. bulgaricus 7株全ての発酵が促進された。
Figure 0007696938000012
試験例7:イノシン酸添加時のリンゴ酸のL. delbrueckii subsp. bulgaricusに対する発酵促進効果の検討
下記のラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 菌株の凍結菌を用意した。
(1)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 2038
(2)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1
(3)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus P1902901
(4)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1171
(5)Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1247
フマル酸の代わりにリンゴ酸を添加する以外は試験例6と同様に行った。得られた結果を表12に示す。リンゴ酸の添加により、L.bulgaricus 2038株、OLL1073R-1株、P1902901株、OLL1171株、およびOLL1247株で発酵が促進された。
Figure 0007696938000013
試験例8:イノシン酸添加時において、リンゴ酸またはフマル酸がL. delbrueckii subsp. bulgaricusのコハク酸産生に与える影響
賦活培地にて、表13および14に示す菌株を賦活してから使用した。賦活培地としては、0.1質量%酵母エキスを含む10質量%還元脱脂乳培地を121℃、7分殺菌したものを用いた。ここで、10質量%還元脱脂乳培地は、脱脂粉乳(脂肪分1質量%、タンパク質34質量%、乳糖54質量%、灰分8質量%、無脂乳固形分96質量%)(株式会社明治製)の10質量%水溶液である(上記培地中、乳糖含量5.4質量%、無脂乳固形分9.6質量%)。上記賦活培地に凍結菌を(賦活培地量に対して)0.1質量%添加し、37℃で16時間静置培養し、賦活液を得た。得られた賦活液0.1質量%(賦活培地量に対して)を別の賦活培地に添加し、37℃で16時間静置培養し、乳酸菌スターターを得た。
その後、原料乳として発酵培地を用いて発酵を行った。発酵培地としては、イノシン酸を終濃度1mMとなるよう添加した10質量%還元脱脂乳培地を95℃達温殺菌したものを用いた。また、上記発酵培地には、殺菌前にNaOHでpH約6.5に調整したフマル酸水溶液またはリンゴ酸水溶液を、終濃度1mMとなるよう添加した。上記発酵培地のpHは約6.4であった。上記で得られた各菌株の乳酸菌スターターを上記発酵培地に(発酵培地量に対して)2.5質量%接種し、40℃で静置培養し、発酵を行った。発酵時間は、pH4.6に到達するまでに要した時間とした。pHは市販のpH計を用いて測定した。得られた結果を表13および14に示す。表13より、イノシン酸入りの培地において、いずれのL. delbrueckii subsp. bulgaricus 株においても、リンゴ酸、フマル酸の添加により、コハク酸の濃度が上昇していた。したがって、ギ酸添加培地のみならず、イノシン酸添加培地においても、リンゴ酸、フマル酸の添加により、L. delbrueckii subsp. bulgaricusのコハク酸産生量が増加することが示された。また、表14より、試験例6と同様に、リンゴ酸またはフマル酸の添加により、L. bulgaricus 7株全ての発酵が促進された。
Figure 0007696938000014
Figure 0007696938000015
試験例9:リンゴ酸またはフマル酸がL. delbrueckii subsp. bulgaricusの増殖性と代謝物生産に与える影響
Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1菌株の凍結菌を用意した。
培地の組成は下表15に従った。無水結晶ぶどう糖以外の原料成分をElix水に溶解し、水酸化ナトリウムを用いてpH6.65に調整した後、培地仕込み量の7割の重量にメスアップした。無水結晶ぶどう糖はElix水に溶解し、培地仕込み量の3割の重量にメスアップした。リンゴ酸またはフマル酸を添加する場合、無水結晶ぶどう糖以外の原料成分とともにElix水に終濃度4mMとなるよう溶解して添加した。
なお、糖液、糖以外の原料成分は、それぞれ110℃、1分間のオートクレーブ処理にて加熱殺菌した後、無菌的に混合して使用した。
Figure 0007696938000016
6N炭酸カリウムを用いて上記培地1.5kgをpH5.4に調整し、凍結菌を(培地量に対して)0.30質量%接種し、0.5L/minの流量で窒素上面通気をしつつ、150rpmの条件で撹拌しながら37℃で培養した。
培養時間に対するEPS濃度推移を図1に示す。
図1に示す通り、リンゴ酸またはフマル酸を添加した場合では、コントロールと比較してEPS濃度が高まることを確認した。このことから、リンゴ酸、フマル酸添加によりL. delbrueckii subsp. bulgaricusの代謝産物であるEPSの産生を促進することができることが分かった。また、リンゴ酸またはフマル酸を添加した場合では、コントロールと比較して短時間でEPS濃度が高まることから、リンゴ酸またはフマル酸は、L. delbrueckii subsp. bulgaricusの発酵を促進することが再確認できた。
EPS濃度の測定は、下記の条件で行った。
培養液を1.5g計りこみ、MilliQ水を添加して10gとした。100%トリクロロ酢酸を加えてよく混合し、遠心(4℃、13400g、10min)した後に上清を回収した。沈殿に10%トリクロロ酢酸溶液を5ml加えて懸濁した後、再度遠心して上清を回収した。冷却した99.5%エタノールを上清の2倍量添加し、転倒混和した後1晩-20℃で静置した。
遠心(4℃、13400g、20min)して上清を除き、冷却した66%エタノールを20ml加えて沈殿を懸濁した。遠心(4℃、13400g、20min)して上清を除き、風乾してエタノールを除去した後にMilliQ水を加えて10mlに定容したものを分析サンプルとした。分析サンプルのEPS濃度はフェノール硫酸法にて測定した。

Claims (9)

  1. リンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸の存在下で乳酸菌発酵させることを含む、乳酸菌とコハク酸を含む発酵乳の製造方法であって、
    前記乳酸菌が、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス 2038株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1073R-1株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1171株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1255株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1247株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL205013株、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス・サブスピーシーズ・ケフィアグラナム、ラクトバチルス・アシドフィルス JCM 1132T株、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・サリバリウスおよびラクトバチルス・ペントサスからなる群から選択される少なくとも一種である、製造方法。
  2. 前記乳酸菌が、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス 2038株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1073R-1株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1171株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1255株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1247株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL205013株、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス・サブスピーシーズ・ケフィアグラナム、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・サリバリウスおよびラクトバチルス・ペントサスからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記乳酸菌が、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス 2038株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1073R-1株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1171株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1255株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1247株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL205013株、ラクトバチルス・アシドフィルス JCM 1132T株、ラクトバチルス・ガセリ JCM 1131T株、ラクトバチルス・ラムノーサス JCM 1136T株、ラクトバチルス・サリバリウス JCM 1231T株、ラクトバチルス・ペントサス JCM 1558T株、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス・サブスピーシーズ・ケフィアグラナム JCM 8572Tからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
  4. 前記乳酸菌が、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス 2038株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1073R-1株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1171株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1255株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1247株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL205013株、ラクトバチルス・ガセリ JCM 1131T株、ラクトバチルス・ラムノーサス JCM 1136T株、ラクトバチルス・サリバリウス JCM 1231T株、ラクトバチルス・ペントサス JCM 1558T株、ラクトバチルス・ケフィラノファシエンス・サブスピーシーズ・ケフィアグラナム JCM 8572Tからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
  5. 前記乳酸菌が、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス 2038株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1073R-1株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1171株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1255株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1247株、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL205013株からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
  6. 前記乳酸菌が、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1073R-1株である、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
  7. 前記コハク酸が、前記乳酸菌により産生される内因性の有機酸である、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
  8. 前記発酵乳がリンゴ酸およびフマル酸から選択される少なくとも1つの有機酸をさらに含んでなる、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
  9. 前記発酵乳がストレプトコッカス・サーモフィルスを含んでなる、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
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