以下、添付の図面を参照しながら、ハンドヘルド記録装置、制御方法、およびプログラムの実施形態の一例を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を限定するものではなく、また、実施形態で説明されている特徴の組み合わせのすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。また、実施形態に記載されている構成の相対位置、形状などはあくまで例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定するものではない。
以下の説明では、「記録」とは、文字、図形など有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。さらに人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かも問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン、構造物などを形成する、または、媒体の加工を行う場合も含む。「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、布、プラスチックフィルム、金属板、ガラス、セラミックス、樹脂、木材、皮革など、インクを受容可能なものを含む。
(記録装置の構成)
まず、実施形態によるハンドヘルド記録装置の構成について説明する。なお、ハンドヘルド記録装置は、一般に、ハンディプリンタ、ポータブルプリンタなどとも称される。また、以下の説明では、「ハンドヘルド記録装置」を、単に「記録装置」とも称する。図1は、実施形態による記録装置の斜視構成図であり、(a)は上方から見た図であり、(b)は下方から見た図である。
図1の記録装置10は、載置された記録媒体上において、ユーザが手動で走査(移動)させて記録を行う手動走査式のハンドヘルド記録装置である。記録装置10は、記録するための各種の構成を備えた下部ユニット12と、制御構成が収納される上部ユニット14とを備えている(図1(a)参照)。
上部ユニット14は、記録装置10をノズル列(後述する)の延在する+Y方向に移動させる際にユーザが操作する改行ハンドル16を備えている。また、上部ユニット14は、記録装置10の上面10aに相当する面に、エラーなどをユーザに通知するためのLEDランプを有するボタン18を備えている。ボタン18は、長押しされることで記録装置10の電源のON/OFFの切り替えを行うとともに、短押しされることで記録開始や記録停止などを行う。ボタン18のLEDランプについては、その点灯パターンや点灯色などにより、各種の通知が可能となっている。本実施形態では、ボタン18を、LEDランプを有する構成としたが、これに限定されるものではなく、記録装置10では、ボタン18とLEDランプとを別構成として備えるようにしてもよい。
下部ユニット12は、記録時に、記録装置10の底面10bと対向する記録媒体に対してインクを吐出する記録ヘッド20を備えている。記録ヘッド20には、インクを吐出する複数のノズルがY方向に沿って配列されたノズル列20aが形成されている。また、下部ユニット12は、記録装置10の移動を、Y方向と交差(本実施形態では直交)するX方向でガイドするガイドローラ22を備えている。さらに、下部ユニット12は、+Y方向下流側に設けられた下流側位置検出センサ24と、+Y方向上流側に設けられた上流側位置検出センサ26とを備えている。記録ヘッド20は、Y方向において、下流側位置検出センサ24と上流側位置検出センサ26との間に位置している。さらにまた、下部ユニット12は、改行ハンドル16の操作に応じて、下部ユニット12内に収容された収容位置と、底面10bから-Z方向に突出した突出位置との間で変位可能な改行脚28を備えっている。詳細は後述するが、記録装置10は、ガイドローラ22が接地した状態から、改行ハンドル16の操作による改行脚28の変位によって、+Y方向に移動可能な構成となっている。
(記録装置による記録および各構成の動作)
次に、記録装置10による記録媒体に対する記録方法について説明しながら、記録装置10の各構成について、より詳細に説明する。図2は、記録装置10により画像を記録する手順を説明する図である。図2(a)は、記録装置が記録媒体上の記録開始位置に載置された状態を示す図である。図2(b)は、第1回目の走査中の状態を示す図である。図2(c)は、第1回目の走査が完了し、第2回目の走査における走査開始位置への移動中の状態を示す図である。図2(d)は、第2回目の走査中の状態を示す図である。図3(a)~(h)は、記録の際の各タイミングにおける各構成の位置を示す図である。
記録装置10は、記録媒体上で、+X方向(または-X方向)に移動しながらノズル列20aを構成する各ノズルからインクを吐出して記録を行う記録動作が行われる。そして、この記録動作後に、記録装置10を+Y方向へ所定量だけ移動する改行動作が行われる。その後、移動後の位置から、前回の走査方向と逆方向の-X方向(または+X方向)に移動しながらノズルからインクを吐出して、前回の走査で記録された記録領域に隣接する領域に記録する記録動作が行われる。このように、記録装置10では、記録を伴うX方向の走査を行う記録動作と、記録後に、所定量だけ+Y方向への移動を行う改行動作とを交互に行って、複数回の記録動作による走査によって記録媒体上に、所定の画像を記録することとなる。なお、本明細書では、ある走査からその次の走査へ移行することを改行とも称する。
より詳細には、まず、記録媒体Mにおいて記録を開始する記録開始位置に記録装置10を載置する(図2(a)参照)。記録開始位置としては、記録媒体Mにおける画像を記録する領域の、例えば、左上に載置する。なお、記録装置10は、X方向に往復移動しながら記録可能であるため、右上に載置してもよい。本実施形態では、記録装置10の走査において、奇数走査目を左から右に向かって走査するものとし、偶数走査目を右から左に向かって走査するものとして説明する。
記録開始位置では、図3(a)のように、記録装置10は、ガイドローラ22および下流側位置検出センサ24が記録媒体Mと当接している。図3(a)は、記録開始位置に載置された記録装置のA矢視図である。図3(a)~(h)では、内部構造を示すために、記録装置10の筐体の側面を破断して示している。
記録装置10の底面10bと記録媒体Mとの間隔はガイドローラ22により定まっている。これにより、記録ヘッド20におけるノズルと記録媒体Mとの間隔は、記録に適した距離となるように設計されている。ガイドローラ22は、記録ヘッド20に対して+X方向上流側に設けられたローラ部22aと、+X方向下流側に設けられたローラ部22bとを備えている(図1(b)参照)。ローラ部22a、22bはそれぞれ、一対のローラ23を備えており、対をなすローラ23は、回転中心が一致するように軸25により連結されている。軸25は、下部ユニット12において、Y方向に沿って延在するように回動可能に支持されるとともに、Y方向のガタが小さくなるように支持されている。また、ローラ23は、例えば、記録媒体Mとの摩擦係数が高くなるように、記録媒体Mと当接する円筒面に小径の砥粒を固着させるなどの加工を施し、X方向への直進性を向上させるためにローラ23の直径はほぼ等しくなっている。さらに、ローラ部22a、22bは、例えば、平行度が小さくなるように支持され、直進性を向上させるようにしてもよい。こうした構成により、ユーザが手動により記録媒体M上を走査する際に、ガイドローラ22は空転せずに、記録装置10の移動に応じて回転するとともに、その直進性が向上する。
下流側位置検出センサ24は、-Z方向、つまり、記録媒体Mに当接する方向に常時押圧されており、記録装置10の移動量を測定可能となっている。下流側位置検出センサ24は、光学的に記録媒体Mの表面を読み取り可能なセンサ部24cを収納するケース24aを備えており、ケース24aにおいて-Z方向に突出する一対のスライダ24bが形成されている。下流側位置検出センサ24は、スライダ24bが記録媒体Mと当接している。これにより、センサ部24cと記録媒体Mとの距離を一定に保っている。
記録開始位置に載置された記録装置10では、改行ハンドル16が、バネ(不図示)により-Y方向に付勢されており、図3(a)のように、初期位置に位置している。また、上流側位置検出センサ26が、改行機構駆動ギア列32(後述する)に連動して、下部ユニット12内に収容された退避位置に退避し、記録媒体Mから離間している。さらに、改行脚28は、下部ユニット12内に収納されて記録媒体Mから離間している収容位置に位置している。
記録装置10を記録開始位置に載置すると、次に、ユーザは、記録装置10を記録媒体Mに当接した状態を維持しながら、手動で+X方向に移動させて、記録装置10において記録動作を実行する(図2(b)参照)。記録開始位置から記録装置10の+X方向への走査(移動)が開始されると、下流側位置検出センサ24による移動量の検出を開始する。移動量の検出については、移動中は継続して実行される。下流側位置検出センサ24では、センサ部24cが走査開始位置からの移動量を検知して、その移動量を積分することで、記録装置10の現在位置を計算する。記録装置10の現在位置の算出については、上部ユニット14に収納された制御部400(後述する)で実行するようにしてもよい。記録動作中では、各部材の位置関係は、記録開始位置と同様である(図3(a)参照)。
下流側位置検出センサ24では、移動量を高精度に検知可能なセンサが用いられる。このためセンサ部24cと記録媒体Mとの間隔は、例えば、2.4mmとし、その公差範囲は±0.3mm内に保つ必要がある。このような下流側位置検出センサ24により記録装置10と記録媒体Mとの相対的な移動量を高精度に検出している。このため、記録装置10では、下流側位置検出センサ24の検出結果に基づく移動量に応じたタイミングで記録ヘッド20からインクを吐出して記録することができる。なお、下流側位置検出センサ24における位置検出方式については、記録装置10と記録媒体Mとの相対位置を検出可能な公知の各種の技術を用いることができる。
記録ヘッド20は、ノズル列20aを構成する各ノズルから、インクジェット方式によりインクを吐出する。従って、各ノズルでは、下流側位置検出センサ24の検出結果に応じた制御部400の制御によってインクが吐出される。具体的には、検出結果に応じてRAM412(後述する)より記録データを読み出し、CPU402(後述する)によりタイミングとその位置におけるインクの吐出、非吐出を判定し、記録ヘッド20の各ノズルから適宜にインクを吐出することで画像形成を行う。なお、記録装置10は、ユーザが手動で走査するため、移動速度が一定となる保証はなく、移動速度に変化が生じることがある。こうした移動速度の変動があったとしても、制御部400は、適切に記録媒体M上に画像を記録するように、記録ヘッド20の各ノズルからのインクの吐出を制御することとなる。その後、1つ目の走査において、記録データに基づく記録が完了すると、ユーザは、記録部分の目視や、ボタン18に設けられたLEDランプの点灯状態の確認によって、記録装置10の+X方向への走査を停止する。
記録装置10のX方向への走査を停止すると、次に、ユーザは、記録装置10を記録媒体Mに当接した状態を維持しながら、改行ハンドル16を操作して+Y方向に移動させて、記録装置10において改行動作を実行する(図2(c)参照)。なお、この改行動作とは、シリアルスキャン方式の記録装置における走査による記録動作後の、記録媒体を走査方向と交差する方向に搬送する搬送動作に対応する。即ち、記録装置10における改行動作とは、X方向への走査による記録動作により記録された記録領域PA1の記録媒体Mにおける位置に応じて、次の走査による記録動作を行う位置まで記録装置10を+Y方向に移動させる動作である。
この改行動作は、ユーザが改行ハンドル16を、操作して矢印B方向に動かすことにより実行される。記録装置10では、この改行ハンドル16の操作に連動して改行脚28が作動して、+Y方向に所定量だけ移動する。なお、所定量については、移動量Dとして後述する。改行動作中には、下流側位置検出センサ24に加えて、上流側位置検出センサ26も記録媒体Mに当接する。これにより、記録装置10では、Y方向の異なる位置にある2つの位置検出センサによって改行動作による移動状態を検出することとなる。具体的には、記録装置10の移動量にばらつきが生じたり、改行動作前後に矢印R方向(図2(c)参照)への回転による傾きが生じたりした場合に、その量を2つの位置検出センサによって検知することができる。上流側位置検出センサ26は、+Y方向への所定量の移動が完了すると、記録媒体Mから離間する。
改行動作中の各部材の位置関係の変化を図3(a)~(h)を参照しながら説明する。X方向への走査を停止した状態では、図3(a)のように、ガイドローラ22および下流側位置検出センサ24が記録媒体Mと当接した状態となっている。記録装置10は、図3の各図に示すように、改行ハンドル16に連動して動作する改行レバー30と、改行レバー30の動作に応じて駆動されて改行脚28を動作させる改行機構駆動ギア列32とを備えている。また、記録装置10は、改行機構駆動ギア列32を初期状態(図3(a)に示す状態)に戻すためのリセットレバー34と、当該初期状態に戻す動作の後半で作用するリセットサブレバー36とを備えている。さらに、記録装置10は、リセットレバー34およびリセットサブレバー36から力を受けるリセットカム38を備えている。
走査を停止した位置において、ユーザによって改行ハンドル16が矢印B方向に動かされると、図3(b)のように、改行ハンドル16により改行レバー30が回動する。なお、改行ハンドル16は、バネの付勢力により-Y方向に付勢されており、ユーザはこの付勢力に抗して改行ハンドル16を+Y方向に押し込むこととなる。
改行ハンドル16の操作によって改行レバー30が回動すると、記録媒体Mと当接しないように上流側位置検出センサ26を退避させていたロックが下降して、上流側位置検出センサ26の昇降が可能になる。これにより、上流側位置検出センサ26は、押圧バネ(不図示)による押圧力によって下降して、記録媒体Mと当接する。上流側位置検出センサ26は、下流側位置検出センサ24と同様に、光学的に記録媒体Mの表面を読み取り可能なセンサ部26cを収納するケース26aを備えており、ケース26aにおいて-Z方向に突出する一対のスライダ26bが形成されている。上流側位置検出センサ26は、スライダ26bにおいて記録媒体Mと当接することにより、センサ部26cと記録媒体Mとの距離を一定に保っている。
そして、改行ハンドル16がさらに+Y方向に押し込まれて、改行レバー30がさらに回動すると、図3(c)のように、改行機構駆動ギア列32が作動し、改行脚28が下降して記録媒体Mに当接する。また、改行ハンドル16がさらに+Y方向に押し込まれて、改行レバー30がさらに回動すると、改行機構駆動ギア列32のさらなる作動によって改行脚28が記録媒体Mを押圧するようになり、その結果、図3(d)のように、記録装置10が持ち上がり始める。改行脚28は、改行機構駆動ギア列32のギアと連動して回動軌跡を持つ平行移動を行う構成となっている。また、改行脚28は、記録媒体Mと当接する先端部分が、記録媒体Mに対して滑りにくい材質で形成されている。このため、改行脚28が改行機構駆動ギア列32により下降させられ、下降量が一定量を超えると、記録装置10を、回動軌跡を持つ平行移動をするように押し上げることとなる。
具体的には、記録装置10は、改行脚28により押し上げられて矢印C方向に移動する。なお、図3(d)では、改行動作時の移動量の半分程度まで移動したときの状態を示しており、このときには、改行動作開始前の位置(図中の白三角)から距離L1だけ+Y方向に移動している。また、図3(d)では、記録装置10の底面10bと、記録媒体Mとの間隔が、間隔G1(図3(c)参照)から間隔G2に広がっており、記録装置10が持ち上げられていることがわかる。記録装置10が持ち上げられることで、ガイドローラ22は記録媒体Pから離間する。このため、記録装置10は、X方向以外の方向に容易に移動することができる。なお、改行脚28により記録装置10が押し上げられていても、下流側位置検出センサ24は記録媒体Mと当接した状態を維持する構成となっており、上流側位置検出センサ26は押圧バネによる押圧力によって記録媒体Mと当接した状態を維持している。
その後、改行ハンドル16がさらに+Y方向に押し込まれて、改行レバー30がさらに回動すると、改行機構駆動ギア列32の作動によって、図3(e)のように、記録装置10は、回動軌跡を持つ平行移動して、+Y方向に移動しながら下降する。具体的には、記録装置10は、改行機構駆動ギア列32の作動によって、改行脚28が上昇し始める。この改行脚28の上昇によって、記録装置10は+Y方向に移動しながら自重により下降して、矢印D方向に移動する。これにより記録装置10は、ガイドローラ22が記録媒体Mと当接して、+Y方向への移動が終了する。この結果、記録装置10は、距離L2だけ+Y方向に移動することとなる。この動作中も下流側位置検出センサ24および上流側位置検出センサ26は記録媒体Mと当接した状態を維持している。
次に、ユーザは、改行ハンドル16から指を離して、図3(f)のように、改行ハンドル16を初期位置まで戻す。改行ハンドル16は、バネにより-Y方向に付勢されているため、ユーザが指を離すだけで初期位置まで戻る。この改行ハンドル16の移動に応じて、改行レバー30についてもその位置が初期位置(図3(a)参照)に戻る。改行レバー30と改行機構駆動ギア列32とはワンウェイクラッチを介して連結されている。このため、改行レバー30の位置に関わりなく改行機構駆動ギア列32は次の動作に移行する。
改行機構駆動ギア列32のリセットカム38は、バネ付勢されたリセットレバー34およびリセットサブレバー36の力が掛かる角度位相になっている。そして、この力によって、リセットカム38には、図中の反時計回りの回転力が作用する。この回転力が作用し続ける範囲で改行機構駆動ギア列32は作動し続ける。また、上流側位置検出センサ26は、ロックが上昇することで上方の退避位置に移動を開始し、記録媒体Mから離間し始める。
そして、図3(g)のように、改行機構駆動ギア列32によるリセット動作中に改行脚28が最も高い位置まで移動しているときには、上流側位置検出センサ26は記録媒体Mから完全に離間している。その後、図3(h)のように、リセットレバー34およびリセットサブレバー36の力がリセットカム38に作用しなくなって、改行機構駆動ギア列32の作動が停止して、改行機構駆動ギア列32は初期位置に戻る。なお、この段階で、記録装置10は、+Y方向に距離L2だけ移動しつつ、上流側位置検出センサ26および改行脚28は、図3(a)と同じ位置に戻っている。
このようにして、改行動作が実行されるが、この改行動作では、図3(c)から図3(e)の間で記録装置10が移動していることがわかる。改行動作中では、記録装置10の底面10bと記録媒体Mとの間隔がG1からG2に広がっているにもかかわらず、下流側位置検出センサ24および上流側位置検出センサ26は、常に記録媒体Mに当接している。このため、改行動作中において移動した移動量を、これら2つのセンサによって検出することができる。
改行動作が終了すると、次に、ユーザは、改行動作によって移動した位置から、記録装置10を記録媒体Mに当接した状態を維持しながら、手動で-X方向に移動させて、記録装置10において記録動作を実行する(図2(d)参照)。まず、1回目の記録動作と同様にして記録データを準備し、改行動作時に生じた移動量のばらつきや傾きが生じた場合には、その分の補正を含めて2回目の記録動作の準備を行う。基本的な走査は1回目の走査と同様であるが、改行動作中に上記の補正などがなされた記録データが準備されるため、ユーザは改行動作終了後に、直ちに2回目の走査を開始することができる。
2回目の走査では、1回目の走査と同様に、下流側位置検出センサ24によりX方向での移動量を検出しながら、その位置に応じて、記録ヘッド20のノズルからインクを吐出して記録を行う。適正な補正が実施されていれば、1回目の走査により記録された記録領域PA1と、2回目の走査により記録される記録領域PA2とは、互いに重なりや離間が生じずに、連続した画像が形成される。
(記録装置の制御系の構成)
記録装置10は、上部ユニット14に、記録装置10の全体の動作を制御するための制御部400を備えている。図4は、制御部400のブロック構成図である。制御部400は、データ演算処理を行う中央処理装置(CPU)402と、画像処理演算に特化し、CPU402と協働して画像データ処理を行う画像処理アクセラレータ404とを備えている。さらに、制御部400は、記録装置10と接続されるパーソナルコンピュータ(PC)、スマートフォンなどの携帯端末などの外部装置406に対してデータの送受信を行うデータ転送インターフェース(I/F)408を備えている。
また、制御部400は、CPU402および画像処理アクセラレータ404が演算する際に用いる一時記憶領域であるRAM410と、CPU402および画像処理アクセラレータ404が演算する際に用いるパラメータなどを保持するROM412とを備えている。なお、ROM412から読み出されたパラメータもRAM410に展開されることがある。さらにまた、制御部400は、記録ヘッド20からのインクの吐出を制御するヘッドコントローラ414を備えている。上記各構成については、バス416により接続されている。
制御部400は、ボタン18に接続されており、ユーザによるボタン18の操作に応じて、電源のON/OFFの切り替え、記録開始および記録中止の記録制御などを行う。また、制御部400は、ボタン18におけるLEDランプの点灯状態を制御する。制御部400は、電源状態、記録状態、エラーの種類などに応じてLEDランプの点灯パターン、点灯色などを異ならせる。記録開始可能な状態でボタン18を操作されて記録の開始が指示されると、制御部400は、記録装置10を、記録動作を開始可能な状態とする。そして、制御部400は、手動でX方向への走査が行われると、走査開始位置(記録開始位置)を原点として、下流側位置検出センサ24からの出力に基づいて、CPU402において連続的に記録装置10の位置情報を取得する。
(画像処理に関する制御部400の機能的構成)
次に、制御部400における画像処理に関する機能的構成について説明する。図5は、制御部における画像処理に関する機能的構成を示すブロック図である。制御部400は、例えば、CPU402と画像処理アクセラレータ404とにより、画像データから、各画素に対する記録および非記録を示す記録データを生成する画像処理が実行される。こうした画像処理については、CPU402、画像処理アクセラレータ404のどちらか一方で実行する構成としてもよい。
制御部400は、画像データが入力される入力部502と、入力部502から出力された画像データを、ユーザが指定したサイズに基づいて変倍する変倍部504とを備えている。入力部502には、データ転送I/F408を介して外部装置406から画像データが入力される。変倍部504で変倍するユーザ指定のサイズとは、記録媒体M上に形成される画像のサイズである。
制御部400は、変倍部504で変倍された画像データを、記録装置10の色再現域に対応した画像データに変換する色補正部506を備えている。また、制御部400は、色補正部506によって変換された画像データの色信号値を、記録装置10で用いるインクに対応した色信号値に変換する色分解部508を備えている。さらに、制御部400は、色分解部508で変換したインク色信号値を有する画像データに対して、インク色ごとに、記録されるインクドットの数を調整する出力階調補正部510を備えている。さらにまた、制御部400は、出力階調補正部510で得られた色信号値を有する画像データに対して、量子化処理を行う量子化処理部512と、量子化処理により得られた2値データ(記録データ)をRAM410に出力する出力部514とを備えている。
上記各構成による画像処理によって得られた記録データに基づいて、制御部400は、記録ヘッド20を制御する制御信号を出力し、記録ヘッド20の各ノズルから適宜にインクを吐出することで、記録媒体Mに記録を行うこととなる。本実施形態では、詳細は後述するが、画像データ全体に対して画像処理を実施した後に、1回の走査に必要なデータを切り取った記録データを使用することとなる。なお、画像処理の方法については、これに限定されるものではなく、入力部502に入力される画像データを、Y方向のサイズが1回の走査でインクを吐出可能なノズル列の長さに分解したものとし、こうした画像データごとに画像処理を実行するようにしてもよい。
本実施形態では、画像処理を記録装置10で実行するようにしているが、これに限定されるものではない。画像処理の一部の処理を外部装置406で実行し、画像処理の残りの処理を記録装置10で実行するようにしてもよい。あるいは、画像処理を外部装置406で実行するようにしてもよい。さらに、画像処理については、公知の種々の技術を用いることができ、公知の各種の補正処理などを行うようにしてもよい。この場合、制御部400の画像処理に関する機能的構成として、上記補正処理を実行する補正部を追加することとなる。
(記録処理)
次に、制御部400の制御により、ユーザによる操作によって、記録装置10において記録動作および改行動作を交互に実行して記録媒体Mに対して記録を行う記録処理について説明する。
<公知技術による記録処理>
ここで、2回の走査により、記録媒体M上に画像を形成する場合について考える。図6は、記録ヘッドにおけるすべてのノズルを用いて2回の走査で記録媒体上に画像を記録したときの、1走査目で記録された記録領域と、2走査目で記録された記録領域とを示す図ある。図6(a)は、1走査目の第1記録領域Pa1に対して2走査目の第2記録領域Pa2が平行に形成されている図である。図6(b)は、第1記録領域Pa1に対して第2記録領域Pa2が第1記録領域Pa1に向かう方向に傾いて形成されている図である。図6(c)は、第1記録領域Pa1に対して第2記録領域Pa2が第1記録領域Pa1から離れる方向に傾いて形成されている図である。
なお、図6では、形成される画像は、各画素の値が単一の固定値である画像データに基づいて記録された画像(つまり、一色で塗りつぶされる画像)であり、図中では各走査の記録領域は分けて示している。本明細書では、記録領域とは、記録装置の1回の走査により、記録データに基づいて記録媒体M上に記録される領域である。そして、記録装置10は、ノズル列20aの配列方向と交差(本実施形態では直交)する方向に走査することで、1走査分の記録領域を形成する。また、図6では、ユーザがノズル列20aの配列方向、より詳細には、+Y方向に、当該ノズル列20aの長さdだけ移動させることで次走査に移動する。つまり、ノズル列20aがY方向に対して傾いて走査した次の走査への移動は、当該傾いた方向に沿って、+Y方向側へ移動することとなる。なお、以下の説明では、理解を容易にするために、1つ目の走査ではノズル列20aがY方向に平行であり、2つ目の走査においてノズル列20aが傾くものとして説明する。さらに、図6では、ノズル列20aは12個のノズルにより形成しており、すべてのノズルは塗りつぶされており、これは、インクを吐出することを示している。
図6(a)では、第1記録領域Pa1に対して、平行に、かつ、隣接して第2記録領域Pa2が形成されており、各記録領域が適正に記録されている。このため、記録結果には白スジや黒スジが発生していない。図6(b)では、第2記録領域Pa2が第1記録領域Pa1に向かう方向に傾いている。つまり、1走査目から2走査目への改行動作によって生じた記録装置10の傾きによって、ノズル列20aが、1走査目のときのノズル列20aに対して-θ0だけ傾き、ノズル列20aが-θ0だけ傾いた状態で2走査目を行っている。図6(c)では、第2記録領域Pa2が第1記録領域Pa1から離れる方向に傾いている。つまり、1走査目から2走査目への改行動作によって生じた記録装置10の傾きによって、ノズル列が、1走査目のときのノズル列20aに対して+θ0だけ傾き、ノズル列20aが+θ0だけ傾いた状態で2走査目を行っている。
なお、本明細書では、傾きの向きを「+」「-」で示す。「-」は、これから形成する記録領域が既に形成された記録領域に向かう方向に傾くようなノズル列20aの傾きを表す。「+」は、これから形成する記録領域が既に形成された記録領域から離間する方向に傾くようなノズル列20aの傾きを表す。
そして、前走査から本走査へ移動したときのノズル列の傾き、つまり、前走査時のノズル列に対する本走査時のノズル列の傾きの程度をΔθとする。また、基準とする所定の走査(以下、単に「基準」とも称する。)に対する本走査のノズル列の傾きの程度をθとする。所定の走査を1走査目、本走査を2走査目とすると、2走査目では、前走査に対するノズル列の傾き(傾きの程度と傾きの方向とを含む)と、基準となる所定の走査に対するノズル列の傾きは一致する。また、走査間の傾きが0°とは、走査間でノズル列の傾きがない状態のことを示し、基準との傾きが0°とは、所定の走査と本走査との間でノズル列の傾きがない状態のことを示す。図6(a)では、走査間の傾きが0°、かつ、基準との傾きが0°となっている。
記録装置10が傾くことによってノズル列20aにも傾きが生じる。改行動作によりノズル列20aに傾きが生じた場合には、2走査目は1走査目の走査方向に対して、Δθだけ傾いた方向に走査することになる。このため、図6(b)では、ノズル列20aに傾きが生じていない場合(図6(a)参照)と比較して、2走査目の走査終了時に、-Y方向に1.0ピッチ、つまり、-1.0ピッチの位置すれが生じている。なお、1.0ピッチは、ノズル列における隣接するノズル間の間隔である。また、図6(c)では、ノズル列20aに傾きが生じていない場合と比較して、2走査目の走査終了時に、+Y方向に1.0ピッチ、つまり、+1.0ピッチの位置ずれが生じている。
この結果、図6(b)では、各走査での記録領域が重なることとなり、重なり部分に黒スジ602が生じている。また、図6(c)では、各走査での記録領域が互いに離間することとなり、離間部分に白スジ604が生じている。このように、改行動作による記録装置10の傾きによってノズル列20aに傾きが生じると、白スジや黒スジが発生して記録品位が低下する。
<記録処理>
そこで、本実施形態では、記録装置10の傾きに応じて、インクを吐出可能なノズルをずらすことが可能なように、ノズル列の端部においてインクを吐出しないノズルである予備ノズルを設けるようにした。そして、前走査の+Y方向の記録端部の位置情報と、下流側位置検出センサ24および上流側位置検出センサ26で取得される位置情報に基づく、前走査時のノズル列に対する本走査時のノズル列の傾きに関する情報を取得するようにした。その後、取得した情報に基づいて、本走査において、走査方向(X方向)の位置に応じて使用するノズルの位置を変更するようにした。これにより、走査間でノズル列20aの傾きが生じても、記録領域間で連続した画像を形成することができるようになる。
また、こうして予備ノズルを用い、走査時に使用するノズル位置を変更しても、使用するノズルがなくなり、白スジなどが生じる場合がある。そこで本実施形態では、こうした白スジが発生する場合についても対応するようにした。
=予備ノズルを設けた記録=
まず、予備ノズルを設けた記録について説明する。図7は、予備ノズルを設けた記録方法を説明する図である。図7(a)は、連続する2つの走査間で記録装置10に傾きが生じなかったときの、各走査における走査開始時および走査終了時で使用するノズルを示す図である。図7(b)は、改行動作により1走査目に対して、2走査目では記録装置10の傾きによりノズル列20aが「-」側に傾いたときの、各走査における走査開始時および走査終了時で使用するノズルを示す図である。図7(c)は、改行動作により1走査目に対して、2走査目では記録装置10の傾きによりノズル列20aが「+」側に傾いたときの、各走査における走査開始時および走査終了時で使用するノズルを示す図である。
なお、図7では、図6に対応するように、ノズル列を12個のノズルにより構成し、1走査目および2走査目は共に走査範囲Wで走査している。また、ノズル列20aの両端のノズルを予備ノズルとしている。なお、詳細は後述するが、記録装置10に生じた傾き、つまり、ノズル列20aの傾きは、下流側位置検出センサ24および上流側位置検出センサ26の検出結果に基づいて取得される。また、図中のノズル列20aを構成するノズルについては、該当する走査においてインクを吐出させないノズルを白丸で示し、該当する走査においてインクを吐出可能とするノズルを黒丸で示す。なお、以下の他の図面も同様とする。
連続する2つの走査間でノズル列20aに傾きが生じていない場合、図7(a)のように、各走査では、ノズル列20aの両端のノズルを除く10個のノズルを用いて記録を行う。そして、1走査目から2走査目への改行動作では、ノズル列20aにおけるノズル10個分の長さeだけ移動する。長さeは、e=d×10/12となる。なお、dは、ノズルの配列方向でのノズル列20aの全長である。この場合、1走査目に対して2走査目においてノズル列20aに傾きが生じていないため、1走査目および2走査目は共に、ノズル列20aの両端のノズルを除く10個のノズルを使用して記録を行う。
1走査目に対して2走査目においてノズル列20aに「-」側への傾きが生じた場合、図7(b)のように、2走査目ではノズル列20aにおいて使用するノズルの位置をシフトする。具体的には、1走査目の+Y方向の記録端部の位置702を取得し、2走査目の走査時に取得するX方向における位置情報に基づき、ノズル列20aの傾きに応じて記録に使用するノズルの位置を+Y方向側へシフトする。この結果、走査間で記録領域が重なることなく連続した画像を形成することができ、図6(b)で生じたような黒スジは発生しない。
1走査目に対して2走査目においてノズル列20aに「+」側への傾きが生じた場合、図7(c)のように、2走査目ではノズル列20aにおいて使用するノズルの位置をシフトする。具体的には、1走査目の+Y方向の記録端部の位置702を取得し、2走査目の走査時に取得するX方向における位置情報に基づき、ノズル列20aの傾きに応じて記録に使用するノズルの位置を-Y方向側へシフトする。この結果、走査間で記録領域が離間することなく連続した画像を形成することができ、図6(c)で生じたような白スジは発生しない。
なお、図7(b)(c)では、図6(b)(c)と同様に、1走査目の走査方向は+X方向であるが、2走査目の走査方向は、傾いたノズル列20aに直交する方向となる。また、改行動作における2走査目から3走査目へ改行方向は、2走査目でのノズル列20aの配列方向となる。つまり、2走査目でのノズル列20aの傾きが、例えば、-θである場合には、改行方向は+Y方向から-θだけ傾いた方向となる。
図7では、記録装置10を走査範囲Wで走査させた場合について説明した。ユーザが手動で走査する記録装置10では、ユーザが、想定された走査範囲を超えて記録装置10を走査させてしまうことがある。そこで、次に、記録装置10を想定された走査範囲よりも長く走査させた場合について説明する。図8は、想定された走査範囲内外で改行動作を実行した場合の各走査での記録領域を示す図である。図8(a)は、記録装置10を想定された走査範囲で走査して記録した際の各走査での記録領域を示す図であり、図8(b)は、記録装置10を想定された走査範囲外まで走査して記録した際の各走査での記録領域を示す図である。なお、図8では、改行動作によってノズル列20aが「+」側に傾いた場合を示している。また、想定された走査範囲とは、予備ノズルを用いて、記録品位の低下を招来することなく記録することができるノズル列の傾きの上限値に対応した値となっている。
図8(a)では、図7(c)と比較して、走査方向での記録領域が小さくなっている。図8(a)のように、記録領域が走査方向において、想定する走査範囲よりも小さい場合でも、ノズル列20aの位置ずれに応じて記録可能なノズルの位置をシフトして変更することで、走査間で連続した画像を形成することができる。これに対して、図8(b)では、図7(c)と比較して、記録領域の大きさは同じであるが、実際に走査させた走査距離が、想定する走査距離である走査範囲の2倍となっている。図8(b)のように、想定する走査範囲を超えて走査させた位置で改行動作を行った場合、走査間で連続した画像を形成することができないことがある。これは、ノズル列20aの傾きが想定範囲内であっても、2走査目の走査距離が長くなるために、2走査目の走査終了時のノズル列20aの位置が、1走査目の記録領域から+Y方向に離間してしまう。このため、1走査目の記録領域と2走査目の記録領域との間に空白が生じてしまい、走査間で連続した画像を形成することができない。
図7(c)では、想定する走査範囲で走査終了時に記録領域に発生する+Y方向の+1.0ピッチ(1ノズル分)の位置ずれに対応して、ノズル列20aの両端のノズルを予備ノズルとしている。これにより、2走査目で記録可能なノズルをシフトすることで、走査間で連続する画像を記録できるようにしている。これに対して、図8(b)では、1走査目の走査距離が、想定する走査範囲の2倍になっている。このため、図8(b)では、走査終了時に記録領域に+2.0ピッチ(2ノズル分)の位置ずれが生じることとなり、予備ノズルの数が足りなくなっている。従って、記録可能なノズルを十分にシフトすることができずに、走査間で記録されない領域802が生じて白スジが発生する。このように、記録装置10では、ユーザが手動で走査することで記録を行うため、ユーザが予期せずに、走査距離が長くなってしまい白スジや黒スジが発生することがある。
=本実施形態による記録処理=
このように、改行動作時に生じるノズル列20aの傾きに応じて記録可能なノズルをシフトするだけでは、白スジや黒スジが発生することがある。このため、本実施形態では、さらに、想定される走査範囲に対する実際の走査距離について監視するようにした。以下、本実施形態で実行される記録処理について、図9および図10を参照しながら、詳細に説明する。
図9は、実施形態による記録装置で実行される記録処理の詳細な処理ルーチンを示すフローチャートである。図10は、記録処理により画像を2回の走査で記録する場合の、各走査での開始時および終了時で使用可能なノズル位置およびノズル数と、各走査時の記録領域および走査範囲とを示す図である。図9のフローチャートで示される一連の処理は、CPU402が、ROM412に記憶されているプログラムコードをRAM410に展開して実行されることにより行われる。あるいはまた、図9におけるステップの一部または全部の機能をASICまたは電気回路などのハードウェアで実行してもよい。なお、各処理の説明における符号Sは、当該フローチャートにおけるステップであることを意味する。
本実施形態では、予備ノズルは、少なくとも、想定する走査範囲内の傾き誤差を補正することが可能なノズル数とする。なお、傾き誤差とは、ノズル列の傾きに起因した記録領域の改行方向の位置ずれを意味するものとする。本実施形態におけるノズルピッチを600dpiとすると、ノズル間の距離は約42μmとなる。本実施形態では、前走査のノズル列20aに対する本走査のノズル列20aの傾きについて、「+」側への傾きの上限値をθmb、「-」側への傾きの上限値をθmtとする。そして、前走査のノズル列に対して、本走査のノズル列がθmbまたはθmtだけ傾いているときの、本走査終了時の記録領域の位置ずれの大きさは、±1.0ピッチ(84μm)とする。傾きの上限値θmb、θmtについては、本実施形態での処理の実行により白スジおよび黒スジの発生を抑制して適正に記録するために許容される傾きの上限値である。
また、以下の説明では、詳細は後述するが、ノズル列20aは、改行動作での移動量分の領域を記録可能な10個のノズルと、改行動作後の走査において生じる傾き誤差に対応する1個のノズルとの計11個のノズルにより構成される。図10では、2走査目でのノズル列20aの傾きは、θmb、つまり、「+」側に、想定する最大の傾きとなっている場合について説明する。なお、以下で説明する記録処理では、上記したノズル列20aの傾きは、θmb、θmtよりも小さい値でも実施可能である。
さらに、本実施形態では、ノズル列20aの長さ(N)は、改行動作時の移動量(D)と、ノズル列20aの想定する傾きの上限値θmbだけ傾いて走査範囲(W)を走査したときの傾き誤差から、下記の(1)式を満たす必要がある。なお、本実施形態では、ノズル列20aの長さNは、11個のノズル長さである504μmとなる。
N≧W×tanθmb+D ・・・ (1)
本明細書では、これから実行する走査、および、説明の対象となる走査を本走査、本走査の直前に実行された走査を前走査、本走査の直後に実行される走査を次走査と称することとする。
記録処理が開始すると、まず、CPU402は、前走査終了時のノズル下流端位置情報および本走査の基準との傾きに関する情報を取得する(S902)。前走査終了時のノズル下流端位置情報とは、前記走査終了時の、改行方向下流側の記録端、つまり、ノズル列20aにおいて記録可能とした改行方向最下端のノズルの位置に関する情報である。また、本走査の基準との傾きとは、前走査に対する本走査の傾きが改行方向にθmbだけ傾いたときの本走査の、基準となる所定の走査(本実施形態では1走査目)に対する傾きに関する情報である。本走査では、前走査の記録端部の位置から連続して記録する。このため、S902では、前走査終了時のノズル下流端位置情報を用いて、本走査において改行方向の上流側のノズル端から何番目のノズルから使用するかを設定する。
前走査終了時のノズル下流端位置情報および本走査の基準との傾きに関する情報については、後述する904において取得され、制御部400の記憶領域に記憶されている。なお、これから実行する本走査が1走査目のときは、前走査が存在しないため、S902では、ノズル下流端位置情報は、1走査目のノズル列20a上端の予備ノズルの位置に相当する位置1002とし(図10参照)、基準との傾きに関する情報は、0°とする。そして、S902では、取得した情報から、本走査の記録領域の改行方向上流側の記録端部(端辺)を取得する。1走査目では、本走査における基準との傾きが0°であるから、端部1012が特定される。
次に、CPU402は、本走査で形成する記録領域の改行方向下流側の記録端部を取得する(S904)。S904では、まず、本走査終了時の改行方向下流側の記録端となるノズル位置に関する情報である本走査終了時のノズル下流端位置情報を取得する。また、本走査に対する次走査の傾きがθmbだけ傾いたときの次走査の、基準となる所定の走査に対する傾きに関する情報(θ)である次走査の基準との傾きに関する情報を取得する。取得したこれらの情報は、記憶されて次走査の記録を行う際にS902の処理で用いられる。そして、本走査終了時のノズル下流端位置情報と、次走査の基準との傾きに関する情報とを用いて、本走査で形成する記録領域の改行方向下流側の記録端部の位置情報を取得する。
これから実行する本走査では、次走査への改行動作時に、走査間でノズル列20aの傾きがθmbだけ傾いたときの次走査で記録可能な領域に隣接する領域までを少なくとも記録する。このため、本走査の走査終了時の改行方向下流側の記録端であるノズル位置は、走査終了時の改行方向上流側の記録端であるノズル位置から改行方向下流側に移動量Dだけずれた位置となる。
本走査が1走査目のとき、S904では、本走査終了時のノズル下流端位置情報は、1走査目のノズル列20aの下端から2番目のノズルの位置に相当する位置1004となる(図10参照)。また、次走査の基準との傾きに関する情報は、1走査目に対する2走査目の傾きがθmbだけ傾いたときの2走査目の所定の走査(1走査目)に対する傾きであるθmbとなる。また、これらの情報から、S904では、1走査目の記録領域の改行方向下流側の端部1006を取得する。
その後、CPU402は、本走査に対応する記録データを取得する(S906)。S906では、S902での情報と、S904での情報とを用いて、本走査開始時と本走査終了時のノズル列の使用可能なノズルの上端および下端の位置を取得する。そして、取得した本走査開始時と本走査終了時のノズル列20aの上端および下端の位置から、画像データ全体に対する記録データから本走査で使用する記録データを切り出す。例えば、本走査が1走査目であれば、走査開始時のノズル列20aの、上端の位置は位置1002であり、下端の位置は位置1008となる。また、走査終了時のノズル列20aの、上端の位置は位置1002であり、下端の位置は位置1004となる。こうして取得した位置情報から、1走査目に対応する記録データとして、改行方向の長さが位置1002から位置1008までの矩形の記録データを、画像データ全体に対応する記録データから切り出す。
そして、CPU402は、主走査における走査範囲(走査距離)を取得する(S908)。走査範囲としては、想定するノズル列20aの傾きの上限値に対応可能な範囲とする。即ち、走査範囲は、当該上限値によって決定される。1走査目では、当該上限値はθmbであり、その傾きにより走査終了時に想定する傾き誤差を1.0ピッチとして、傾き誤差に対応する予備ノズルを1つ用意している。従って、傾き誤差1.0ピッチに対応可能な走査範囲として走査範囲1010を取得する。走査範囲1010の走査距離はWtとなる。つまり、S908では、ノズル列の傾きの上限値(θmb)により生じる傾き誤差を、予備ノズルを用いることで、当該傾き誤差を解消可能な走査距離を備えた範囲を走査範囲として取得することとなる。
こうして、本走査の記録データおよび走査範囲を取得すると、CPU402は、取得した記録データおよび走査範囲に基づいて記録を行う(S910)。S910では、S906で取得した本走査の記録データを各ノズルに対応させて、下流側位置検出センサ24により取得される走査方向における位置情報に応じてインクを吐出する。記録データとノズルの対応は、S902で取得したノズル下流端位置情報および基準との傾きに関する情報と、S904で取得した記録端部の位置情報に基づいて、記録データをノズルに対応させて記録する。また、CPU402は、記録が開始されると、記録状況に応じてLEDランプの点灯パターンや発光色などの制御を開始する。
ここで、1走査目に対するS902からS910までの処理について、具体的に説明する。S902では、前走査終了時のノズル下流端位置情報として、位置1002を取得する。また、本走査における基準との傾き情報0°を取得する。取得したこれらの情報から、1走査目の走査開始時に使用する改行方向上流側端部のノズルの位置は、ノズル列20aの改行方向の上流側のノズル端から2番目のノズルとなる。また、本走査における基準との傾き情報0°から、1走査目における記録領域の改行方向上流側の記録端部として端部1012が特定される。つまり、端部1012は、S906で取得される1走査目の記録データの改行方向上流側の端辺となる。
S904では、1走査目終了時のノズル下流端位置情報として、位置1004を取得する。また、2走査目の基準(1走査目)との傾きに関する情報として、θmbが取得される。取得したこれらの情報から、2走査目の走査開始時に使用する改行方向下流側端部のノズルの位置は、改良方向下流側のノズル端から1番目のノズルとなる。また、2走査目の基準との傾きに関する情報がθmbであることから、1走査目における記録領域の改行方向下流側の記録端部として端部1006が特定される。つまり、端部1006は、S906で取得される1走査目の記録データの改行方向下流側の端辺となる。
S906では、全体の記録データに対して、S902、S904での情報から記録データを取得する。つまり、1走査目の走査開始時および走査終了時のノズル列における使用可能なノズルの上端および下端に基づいて記録データを取得する。そして、取得した記録データに対して、2走査目で記録される部分を「0」にマスクして1走査目で記録される部分のみが切り取られる。これにより、記録開始時の1走査目の走査開始時に使用する改行方向両端のノズル位置と、1走査目で記録する記録データとが生成される。S910では、本走査の基準との傾きと下流側位置検出センサ24からの出力に基づく走査方向における位置に応じて、ノズルに対応する記録データをずらして記録を行う。なお、1走査目は基準となる所定の走査であるため、1走査目では基準との傾きは0°となる。このため、1走査目では、ノズルの位置をずらして変更することなく、つまり、ノズルに対応する記録データをずらすことなく記録を行う。
本走査の記録が開始されると、CPU402は、次走査があるか否かを判定する(S912)。S912では、記録データのうち、未だ記録していない記録データがあるか否かを判定する。S912では、未だ記録していない記録データがあると判定されると、次走査があると判定され、当該記録データがないと判定されると、次走査がないと判定される。
S912において、次走査がないと判定されると、CPU402は、本走査による記録データに基づく記録が終了したか否かを判定する(S914)。S914において、本走査による記録データに基づく記録が終了していないと判定されると、S914に戻る。また、S914において、本走査による記録データに基づく記録が終了したと判定されると、CPU402は、記録が終了した旨を通知し(S916)、記録処理を終了する。S916では、記録が終了した旨を、ボタン18に設けられたLEDランプにより通知する。
また、S912において、次走査があると判定されると、CPU402は、次走査への移動が可能か否かを判定する(S918)。S918では、下流側位置検出センサ24による走査方向の位置情報と、ステップ908で取得した走査範囲の情報とを用いる。走査間で連続した画像を記録するためには、改行動作を開始する位置は、傾き誤差1.0ピッチに対応可能な走査範囲内であり、かつ、本走査での記録が終了している位置である必要である。従って、1走査目のときは、S918では、走査範囲1010の範囲内であり、かつ、本走査での記録が終了しているか否かを判定することとなる。
即ち、S918では、S908で取得した走査範囲内であり、かつ、本走査での記録が終了していると、次走査への移動が可能であると判定される。また、S918では、S908で取得した走査範囲を超えていること、および本走査での記録が終了していないことの少なくとも一方を満たしていると、次走査への移動が不可能であると判定される。つまり、S918では、本走査での記録開始後、S908で取得した走査範囲内での走査においては、記録データに基づく記録が終了するまでは、次走査への移動が不可能であると判定する。さらに、S918では、本走査において記録データに基づく記録が終了した後に、S908で取得した走査範囲を超えて走査されると、次走査への記録が不可能であると判定される。なお、CPU402は、記録データに基づく記録が終了すると、走査方向における記録終了側の記録端部からの走査距離を測定しておく。
S918において、次走査への移動が不可能であると判定されると、次走査への移動を規制し(S920)、S918に戻る。S920では、ボタン18のLEDランプにより、次走査への移動ができない状態であることを通知するとともに、物理的に次走査への移動ができない状態とする。具体的には、次走査への移動ができない状態であることの通知については、例えば、LEDランプの発光色の変更、より詳細には、次走査への移動が可能であることを示す緑色から、次走査への移動が不可能な状態であることを示す赤色に変更する。また、物理的に次走査への移動ができない状態については、例えば、改行機構駆動ギア列32をアクチュエータとして制御するよう変更し、ギアをロックすることで次走査への移動をできない状態である。次走査への移動ができない状態であることの通知および次走査への移動ができない状態とする具体的な内容については、上記に限定されるものではない。
本実施形態では、記録装置10は、複数の部材から構成される改行機構によって次走査へ移動するが、ユーザによって、あるいは、記録装置10を改行するための補助部材などを用いて次走査への移動する構成であってもよい。従って、S920では、次走査への移動ができない状態であることを通知するだけでもよい。つまり、本実施形態では、S920において、次走査への移動を規制する処理として、次走査への移動ができない状態であることを通知すること、および物理的に次走査への移動をできない状態とすることの少なくとも一方を実行すればよい。
また、S918において、次走査への移動が可能であると判定されると、CPU402は、次走査への移動が可能な状態とし(S922)、次走査への移動が開始されたか否かを判定する(S924)。S922では、次走査への移動を許容する処理として、次走査への移動が可能な状態であることを通知するとともに、物理的に次走査への移動が可能な状態とする。具体的には、次走査への移動が可能な状態であることを通知については、例えば、LEDランプの発光色を変更、より詳細には、次走査への移動が不可能な状態であることを示す赤色から、次走査への移動が可能な状態であることを示す緑色に変更する。また、物理的に次走査への移動が可能な状態については、改行機構駆動ギア列32においてギアロックを解除して次走査への移動を可能な状態である。なお、S922では、S920に応じて、次走査への移動が可能な状態との通知すること、機構的に次走査への移動が可能な状態とすることの少なくとも一方を実行する。
S924では、例えば、改行ハンドル16が操作されたか否かを判定する。つまり、改行ハンドル16が所定量以上押し込まれると、次走査への移動が開始されたと判定する。なお、次走査への移動が開始されたか否かの判定については、改行ハンドル16が操作されたか否かを判定することに限定されるものではない。改行機構がない場合などには、下流側位置検出センサ24、上流側位置検出センサ26などを用いて判定してもよい。
S924において、次走査への移動が開始されていないと判定されるとS918に戻る。また、S924において、次走査への移動が開始されたと判定されると、次走査への移動を行う(S926)。S926では、改行ハンドル16の操作による改行機構の作動によって改行動作が行われ、記録装置10が改行方向に移動量Dだけ移動する。これにより、記録ヘッド20におけるノズル列20aは、次走査の走査開始位置に移動する。本実施形態では、1走査目において2走査目に改行する位置は、走査範囲1010内の位置1014とする。
本実施形態では、移動量Dは、上述したように、予備ノズル1個分を除くノズル列20aの長さ、つまり、ノズル10個分に相当する長さeである。移動量Dは、走査範囲Wをθmtだけ傾いて走査終了したときの傾き誤差から下記の(2)式および(3)式の条件を満たす。移動量Dは、走査範囲Wをθmtだけ傾いて走査終了したときの傾き誤差より大きいことで、改行方向と逆方向に傾き誤差を補正可能となる。改行方向と逆方向の傾き誤差は、使用するノズルの数を減らすことで対応可能である。
D≧W×tanθmt ・・・ (2)
D≧1 ・・・ (3)
次に、CPU402は、改行動作により生じた傾き情報を取得する(S928)。S928では、具体的には、改行動作により移動した際のノズル列20aの傾きΔθ(以下、単に「傾きΔθ」とも称する。)と、基準となる所定の走査に対する本走査でのノズル列20aの傾きθ(以下、単に「傾きθ」とも称する。)とを算出する。つまり、Δθは、改行動作前後の走査間でのノズル列20aの傾きを表す。本実施形態では、基準となる所定の走査は1走査目とする。
図11は、傾きΔθおよび傾きθの算出するための算出方法を説明する図である。図11では、理解を容易にするために、改行動作前の走査の走査終了時の記録装置10、つまり、ノズル列20aの傾きを図の上部に、改行動作後の走査の走査開始時の記録装置10、つまり、ノズル列20aの傾きを下部に示している。なお、基準となる所定の走査では、ノズル列20aは、Y方向と平行となっている。
記録装置10には、ノズル列20aの延在方向において、下流側位置検出センサ24と上流側位置検出センサ26とが、ノズル列20aが設けられた記録ヘッド20を挟むように、配置されている。下流側位置検出センサ24と上流側位置検出センサ26との間の距離をLとする。また、改行動作前の走査の走査終了時の下流側位置検出センサ24および上流側位置検出センサ26で検出される位置情報は、それぞれ(Xb、Yb)、(Xa、Ya)とする。さらに、改行動作後の走査の走査開始時の下流側位置検出センサ24および上流側位置検出センサ26で検出される位置情報は、それぞれ(Xb´、Yb´)、(Xa´、Ya´)とする。改行動作前後の走査間の傾きΔθは、下記の(4)式から求めることができる。
Δθ=tan-1{(ΔXb-ΔXa)/(L-ΔYa+ΔYb)} ・・・ (4)
なお、(4)式の、ΔXaはXaとXa´と、ΔXbはXbとXb´と、ΔYはYaとYa´と、ΔYbはYbとYb´との差分である。
本実施形態では、所定の走査が1走査目であるので、1走査目と2走査目の走査間の傾きΔθは、基準である1走査目に対する2走査目の傾きを表す基準との傾きθと一致する。3走査目以降がある場合には、改行動作前の走査で算出したθに、改行動作前後の走査間の傾きΔθを加算することで、改行動作後の走査の基準との傾きθを算出可能である。なお、本実施形態では、下流側位置検出センサ24および上流側位置検出センサ26によりノズル列20aの傾きを取得するようにしたが、これに限定されるものではない。例えば、記録装置10にジャイロセンサを搭載し、ジャイロセンサにより検出された角速度から、改行動作前後の走査間のノズル列20aの傾きを取得するようにしてもよい。
S928で傾き情報を取得すると、CPU402は、S902に戻り、以降の処理を実行する。本実施形態では、2走査目の記録を行うこととなる。具体的には、S902で取得する1走査目終了時のノズル下流端位置情報は、1走査目の記録前の準備としてのステップS904で取得された位置1004となる。また、S902で取得する、1走査目と2走査目の走査間の傾きがθmbだけ傾いたときの2走査目における基準との傾きに関する情報は、傾きθmbとなる。これらの情報から、2走査目の記録領域の改行方向上流側の記録端部は、端部1006となる(図10参照)。
1走査目では、記録終了後の、設定された走査範囲内の位置から改行動作を行い、当該位置から移動量D(本実施形態では長さe)だけ移動する。このため、2走査目において基準となる1走査目に対してノズル列20aに傾きθmbが生じても、2走査目の走査開始時に使用するノズルの位置は、図10のように、改行方向上流側のノズル端から1番目のノズルとなる。
厳密には、改行動作時に、基準となる所定の走査に対してθだけ傾くため、改行方向においてインクの着弾位置にずれが生じるが、これは、ノズルピッチに対して非常に小さい値であるため、記録可能なノズルの位置への影響はないものと考える。また、所定の走査に対してθだけ傾くことにより、ノズル間の走査方向の位置ずれが生じるが、これも同様に、ノズルピッチに対して非常に小さい値であるため、記録可能なノズルの位置への影響はないものと考える。なお、ノズル列20aの長さNが非常に長い場合には、記録可能なノズルの位置への影響が生じる。この場合、各ノズルの吐出タイミングをノズル間の走査方向の位置ずれに応じて変えることで補正を行う。この補正によって、傾きにより生じた走査方向における位置ずれを低減することができる。また、前走査が、記録領域の端部からさらに記録領域内において距離Tだけ多く走査した後に、改行動作を行って本走査に移動する場合には、本走査開始時から記録データに基づく記録が開始されるまでは、T×tanθだけ走査してから記録が開始される。距離Tについては、S918で取得している。
そして、S904において、2走査目の記録領域の改行方向下流側の記録端部を取得する。具体的には、まず、2走査目の走査終了時のノズル下流端位置情報として位置1016を取得する(図10参照)。次に、2走査目の3走査目の傾きがθmbだけ傾いたときの3走査目の基準との傾き情報θは、0°となる。これは、本実施形態では、2回の走査で1つの画像を記録するため、3走査目が存在しないためである。その結果、2走査目の記録領域の改行方向下流側の記録端部として、端部1018が取得される。
さらに、S906において、2走査目で使用する記録データとして、記録データ全体から、改行方向において位置1004から位置1016までの記録データを切り取る。この際、1走査目で記録されている領域を「0」にマスクして2走査目で記録される部分のみを切り取る。そして、S908において、2走査目の走査範囲として、走査範囲1020を取得する。1走査目では、走査開始位置から+X方向を走査方向として、走査距離Wtの範囲が走査範囲となっていた。2走査目では、走査開始位置となる位置1014から、図中左斜め下方向(ノズル列20aの傾きθmtの応じた方向)に向かう方向を走査方向として、走査距離Wt/cosθmtの範囲が走査範囲1020となる。
その後、S910において、取得した記録データを各ノズルに対応させて、下流側位置検出センサ24から取得される走査方向での位置情報に応じてインクを吐出して記録を行う。つまり、S902で取得した基準との傾きと、下流側位置検出センサ24に基づく走査方向における位置情報とに応じて、ノズルに対応する記録データをずらして記録を行う。具体的には、本実施形態では、2走査目の基準との傾きはθmbである。このため走査方向は傾きθmbに基づく。走査方向に対して1.0ピッチ分だけノズルの位置がずれる距離である1/tanθだけ走査したら、ノズル位置に対応する記録データを更新する。2走査目では画像がY方向に傾いているので、走査が進むにつれて対応する記録データは、ノズル列に対して改行方向とは逆方向(-Y方向側)にずれることとなる。図10のように、2走査目では、改行方向の下流側のノズル端から1番目のノズルが対応する記録データは、走査開始時と走査終了時を比較すると、Y方向に1.0ピッチ分ずれることになる。本実施形態では、2回の走査で1つの画像を形成するため、S912では、次走査がないと判定され、S914で記録が終了したと判定されると、S916で記録終了を通知して、記録よりを終了することとなる。
以上において説明したように、本実施形態による記録装置10では、想定するノズル列20aの傾きの上限値に対応可能な走査範囲を設定するようにした。そして、走査中の記録装置10が、設定された走査範囲を超えて走査されていること、および記録データに基づく記録が終了していないこと、の少なくとも一方を満たしているときには、次走査への移動を規制するようにした。次走査への移動の規制としては、次走査への移動ができない状態であることを通知すること、物理的に次走査への移動ができない状態とすることの少なくとも一方を実行するようにした。これにより、ノズル列の傾きの上限値に対応した走査範囲を超えて移動することで、変更するノズルがなくなって白スジが生じてしまうような場合には、改行動作が実行されなくなる。このため、記録品位が低下するような記録結果を生成することが抑制される。
(他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下の(1)乃至(9)に示すように変形してもよい。
(1)上記実施形態では特に記載しなかったが、記録処理において、S928で取得する傾き情報について、傾きΔθおよび傾きθの少なくとも一方が対応する閾値を超えるとき、傾きが大きすぎて予備ノズルが不足すると判定し、記録動作を規制してもよい。記録動作の規制としては、記録ができない状態であることを通知すること、記録機構やガイドローラ22などの走査機構を制御して物理的に記録ができない状態とすることの少なくとも一方を実行する。なお、この場合、傾きΔθおよび傾きθの少なくとも一方が、対応する閾値以下である場合には、記録動作を許容する。また、上記実施形態では特に記載しなかったが、所定の走査に対する本走査の傾きの方向が「+」側に大きく傾くほど、走査時の記録領域が大きくなり、使用するノズル数は多くなる。一方、当該傾きの方向が「-」側に大きく傾くほど、走査時の記録領域が小さくなり、使用するノズル数は少なくなる。
(2)上記実施形態では特に記載しなかったが、ボタン18のLEDランプは、点灯パターンや発光色の変化でユーザへの通知を行うが、その一例としては、以下のようになる。記録動作完了時に緑色の点滅、次走査への移動可能なときに緑色の点灯、次走査への移動不可なときに赤色の点灯とする。あるいは、走査範囲外では赤色の点灯、走査範囲内での移動では緑色の点灯とする。また、LEDランプを単色発光としてもよい。この場合、例えば、記録動作完了時、走査範囲内での移動、次走査への移動可能なときなどにはLEDランプを点灯し、走査範囲外での移動、次走査への移動不可なときなどにはLEDランプを点滅するようにする。
(3)上記実施形態では、ボタン18のLEDランプを用いて種々の通知を行うようにしたが、これに限定されるものではない。例えば、文字や記号が表示可能なディスプレイにより、文字や記号などにより通知を行ってもよい。あるいは、スピーカーにより、音の種類によって通知を行ってもよいし、音声ガイダンスにより通知を行ってもよい。さらに、振動子による振動により通知を行ってもよい。さらにまた、データ転送I/F408を介して外部装置406などにより通知を行ってもよい。なお、上記した複数の手法を組み合わせて各種の通知を実行するようにしてもよい。
(4)上記実施形態では特に記載しなかったが、改行動作時に生じるノズル列20aが想定する傾きθmbだけ傾いたときの次走査で記録可能な領域に隣接する領域まで記録すれば、走査間で生じる白スジを抑制することができる。従って、記録装置10では、当該傾きθmbだけ傾いたときの次走査で記録可能な領域に隣接する領域まで少なくとも印刷すれば良き、上記実施形態で説明した領域以上の領域を記録することも可能である。具体的には、例えば、1走査目で記録される記録領域は、1走査目においてノズル列の改行方向下流側端部で記録可能な位置1008(図10参照)まで記録してもよい。なお、1層目では、改行方向において、位置1004から位置1008の間であればその位置まで、どのような形状で印刷してもよい。このようにしても、傾き誤差を補正して走査間で連続した画像を形成可能であり、次走査への移動時に突発的な傾き誤差が発生しても白スジの発生を抑制することができるようになる。
(5)上記実施形態では、各走査で形成される記録領域は、台形や平行四辺形となるようにしたが、これに限定されるものではなく、矩形としてもよい。台形や平行四辺形の記録領域では、走査間のつなぎ目が斜めになるため、X方向に位置ずれが生じ易く、位置ずれが発生した場合につなぎ目が濃くなりスジが発生し易くなる。記録領域を矩形にすることで、こうしたスジの発生が抑制される。
(6)上記実施形態では、記録装置10は、ノズル列と直交する直交方向に走査する構成としたが、これに限定されるものではない。例えば、人間の視覚特性上、直交方向に対してその傾きが近くできないものであれば問題はない。また、近くできるほど直交方向からずれる場合には、例えば、ノズル列20aを備えた記録ヘッド20が傾いて記録装置10に取り付けられていることが考えられる。この場合、上記実施形態のように記録領域を形成するように、ノズル列における各ノズルの吐出タイミングをずらすなどの補正を実施すればよい。また、ノズル列の傾きに応じて、ノズルの配列方向への固定の移動量を調整し、ノズル位置と数を算出するためのノズル間の距離を変更することで、上記実施形態で示した走査間の記録領域を連続して記録することができるようになる。
(7)上記実施形態では、ユーザが手動で走査させて記録を行う記録装置10を例として説明したが、実施形態については、これに限定されるものではない。例えば、シリアルスキャン方式の記録装置にも適用可能である。この場合、記録ヘッドに形成されたノズル列に対する、搬送機構の記録媒体の搬送により生じる記録媒体の傾きに応じて、記録可能なノズル位置を変更して記録領域を形成することとなる。
(8)上記実施形態では、制御部400において、次走査への移動が可能か否かを判定し、当該判定結果に応じて、次走査への移動を規制または許容するようにしたが、これに限定するものではない。例えば、下流側位置検出センサ24による検出結果と、取得した走査範囲の情報とを、データ転送I/F408を介して外部装置406に出力し、外部装置406において、入力された情報に基づいて、次走査への移動が可能な否かを判定するようにしてもよい。この場合、当該判定結果に応じて、次走査への移動を規制または許容する指示を記録装置10に出力する。さらに、上記実施形態で説明した記録処理の各処理については、外部装置406において、実行して記録装置10を制御するようにしてもよい。さらにまた、上記実施形態で説明した記録処理については、その一部の処理を制御部400で行い、残りの処理を外部装置406で実行するようにしてもよい。
(9)上記実施形態および(1)乃至(8)に示す各種の形態は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し事項する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。