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JP7706687B2 - 「文脈ベース」、文関連装置 - Google Patents
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Description

本発明は、文書や発言内容などの文章の文脈に関する。
文書や発言などの意味内容を検査する場合、「文脈により意味が異なる」とはよく言われる。特許文献1では、任意の語句Aの周辺に分散する複数の語句のベクトルを測り(「ベクトル群A」と呼ぶこととする。)、他方、文章の他の箇所にあるAと文字らの異なる語句Bに関しても、周辺のベクトル群Bを測り、もし、ベクトル群Aとベクトル群Bが近似であるならば、語句Aと語句Bは文字らが異なるが、同じ意味ではないかと同義語の判定を行う。他方、文字らが同じ語句Cが他の文章の複数箇所に存在した場合、語句Cの周辺のベクトル群Cを複数箇所で取り(群C1、群C2、、、群Cn。)、群Ciが近似していないなら、文字らは同じでも語句Cの意味は、それぞれ違うのではないかとする。このような多義語の判定の仕方が考えられる。
この方法は、語句の用法の適切さに関して、「周辺文脈」を比較するものである。一定の効果が期待できる。
特開2023-15565
しかしながら、周辺文脈の方法では、整合性を要する文書が全体を通して、真に整合的であるのかを示すことは難しい。周辺文脈の範囲は、一般に任意の単語の前後数語とされ、範囲に限界があるからである。例えば、ある本で(交通安全の教本とする。)、冒頭に、信号が青なら渡れ、とあり、本の末尾に、信号が赤なら渡れ、とあったなら、われわれは戸惑う。矛盾していると思う。
文書全体、あるいは、発言全体を通して文章が整合的であるかが、本発明の主要課題である。文章が整合的かとは、文章を構成する文や語句に矛盾や曖昧さがないかを指す。
このような課題に対して、先の周辺文脈比較法を用いれば、信号青と信号赤に対する周辺の語句は、いずれも「渡れ」でベクトルは同じとなる。また両者とも渡らせる信号であるから、両者の周辺には、信号を待つとか、歩道とか、自動車とか、同じような語句が存在すると想像される。すると、周辺のこれらの語句のベクトルはほぼ同じであろうから、信号青と信号赤は、同義語と判断されそうである。しかし、そもそも青と赤の文の記述箇所は、文書のなかで遠く離れているので、比較するに足るのか、という疑問もわく。文脈が異なる場合は、意味の比較は有効ではないからである。
われわれの戸惑いに対して、交通安全を教える教官は、2つの話、つまり信号の青と赤の話は、矛盾していないという。冒頭と末尾の話は、教本に書いてあることを1つの話の筋として読んで行けば分かるという。確かに、教本には色の識別ができない動物の話が書いてある。また、人間の色弱のことや、信号の色の決定の経緯のことも書いてある。そして、最後が、赤でも渡れる安全社会の実現という訓話めいた話となっている。
教習の参加者は、赤が渡れ、なら、青は停止かなどと、赤と青の逆転に釈然としない思いを漏らす。教官は、青であれ、赤であれ、規則の必要性を強調したいようである。聞けば、教習の参加者はみな交通違反者で再教育のために招集されたとのこと。また、教本は半ば手製で、この訓話めいた部分は、優良運転手には無いともいう。
教習の聴き手が特定の集団で、また、教本が手製の特別なもの、というのが気にかかる。教官の話は、文書のように、章、節、項のように分類されていれば、理解されていたかもしれない。領域が明確に分けられているからである。のちに述べる本発明の立場では、「領域」が異なることは「文脈」が異なることと説明される。教本は、実際は違反者向けの7、8ページからなる冊子だった。教官らの思いが入ったものだったようである。
とはいえ、文書が章、節、項のように分類されているからといって、すなわち、相互の項目が独立しているから、項目の相互の関係を問う必要はない、ということではない。事実は逆である。単純に、章、節、項の単位で文書を検査するのではなく、これら章、節、項の関係を踏まえ、文書全体として、文が相互に矛盾がないか、整合的であるかを検査する必要がある。夥しい文書が発行される現今では文書の意味検査の労力は夥しい。
文書の章、節、項の踏まえ、文書全体に渡って検査するには、「文脈」が有効な手段である。「文脈をたどる、なぞる、切り分ける」などは、言い古された文書査読の方法である。この言い古された方法を、本発明では、文書全体にわたる「全域文脈」の方法によって実現する。「周辺文脈」の限界を超えるものである。
「文脈」の利用を基本的な手段として選ばざるを得ない挿話がある。意味不明な文を、文脈を変えることで、意味が理解できるようにすることができる。
この文脈の働きを理解する目的で、文章例1をあげる。文章例1は意味不明な文である。これは、"Syntactic Structures" (p.15, Author: Noam Chomsky, Publisher: Mouton, 1973)を出典とする。
[文章例1]
色の無い緑色の考えたちは怒り狂って眠る。(原文:Colorless green ideas sleep furiously.)
この文は理解に苦しむ。色が無いといいながら、色は緑という。さらに、その緑色は考えたち(複数)に付き、考えたちは緑色だという。そもそも考えに色があるとは、どういうことだろうとわれわれは考えてしまう。不可思議な形容である。
しかし、この形容は、なにかの象徴か、あるいは、譬えかと思えば、それもそうかな、とも思う。ただし、何の象徴か、あるいは、何かを譬えているかと思っても、その譬えの対象を容易には思いつかない。考えが複数であるのは、様々な考えがある、ということであろうか。多分、そうであろう。しかし、考えが眠るというのもおかしい。考えは眠ったり起きたりはしない。が、これも何かを表現しようとしているのかと思えば、そうかなと半ば首肯する。しかし、圧巻は、眠りが怒り狂っているとある。怒っているのでは、目が覚めているのであり、したがって、眠っていない。語句の1つ1つが、相互に、特にとなりの語句と内容的に相容れない。
しかし、翻ると、上の解釈の中には、意味不明な文に対して、われわれ読者は、意味を理解しようとしていることに気づく。その読者をいまここでは解釈者Aとしよう。解釈者Aは、何らかの象徴や譬えを置いてみたり、また視点を変えてみたりして、新たな解釈をしようとしている。つまり、原文の意味不明な、つまり、語句どうしが意味としてまったく無関係であり、むしろ相反する語句に対して、解釈者Aは、原作者の意図までも想像し、原作者は、それぞれの語句にかくかくの意味を持たせようとしていたのではないか、そう解釈者Aは考えさえもする。
このことは、人間の行う意味理解という行為において、文脈を作るという行為が強く関係していることを示す。文脈をそれらしく補えば、「色の無い緑色の考えたちは怒り狂って眠る」という原文は、むしろ意味豊かなものに見えてくる。そして、この場合の文脈の構造は、「~とは」という対象を説明する場合の形式を持っている。すなわち、“色の無い”「とは」これこれで(文脈1)、“考えたちが緑色”「とは」こういうことで(文脈2)、“考えたちが怒り狂っている”「とは」こういうことで(文脈3)、“考えたちが眠ったり”、また“眠りが怒り狂っている”「とは」こういうことで(文脈4、5)、である。この文脈1~5の文脈の作成行為に成功すれば、文章例1は有意味なものになるだろう。このように、意味の補完は、文脈により可能である、と一般化できそうである。
「~とは」という文の構造形式に関して付言する。「~とは」は、任意の語句や事柄を定義や説明するためにもちいられる文の構造形式である。二歳までの幼児のコトバの発達を日々観察した言語学者の報告によれば、次のように書かれてある。この報告でいう「関係」とは定義の原型に思える。
「幼児が「マンマ」というとき、それは「ママ僕に食べるものをちょうだい」とか「あそこに食べ物があるよ」などの、、、一語で、意味の上からは文と言うような、いわゆる一語文を使う。一歳半頃になると、、、一つの語だけでは不十分になってくるのだろう。、、、こうして二つ以上の語を並べ、その関係もだんだんハッキリしてきて、大人の言葉にと徐々に発展して行く。」(相沢佳子著、『言語生活』223号(1970,4月)、筑摩書房)。
さらに、本発明者が思うに、子どもは、3歳にでもなれば、「なぜ、どうして」を盛んに発するようになる。そして、大人の言葉でいえば、「理屈」に合わないコトガラを受け入れない。理屈に合うことをコトガラとして受け入れて行く。コトガラの表現手段であるコトバが豊かになって行く。
本発明者は、このような幼児による、コトガラの受容構造が、本発明でいう「文脈」の原型かと考える。理由や原因を問う知識獲得構造が、長じれば、「こういう場合は、こうなる」というような文の条件構造に転じ、これは本発明でいう「文脈」と称する構造形式である。文脈は文からなる。文は構造形式を持つ。文の構造形式は、語句の関係づけ、文どうしの関係づけ、を担う。本発明では、このような「文脈」の構造形式を装置化し、それを文章に応用することで、文章の集合である文書全体の語や文の意味を、構造形式の側面から、部分的ではなく全体を通じて、整合的に検査する。
ところで、上の主要課題は文章の整合性を得ることにある。が、われわれは文章の整合性に意を注ぐあまり、意識が知識の正確性に縛られ、あれこれ思考をめぐらす楽しみを忘れてはいまいか。これが、上の主要課題に付随する関連課題である。この課題は、間違えることが恥ずかしいとか、さらに他者と異なることを言うのが怖いということにもつながろう。このような知識に対する態度は、知識の正解さに重きを置き、他方、知識獲得の過程には重きを置かない教育の姿勢に因があろうかとも思われる。が、幼児の「なぜ、どうして?」を、大人たちも大いに行うことを社会の気風にできないものか。以降では、この課題を論じることはない。しかし、本発明の「文脈」の方法は、新たに文脈を作っても、文章や発言の整合性を支援するものである。したがって、この支援を得れば、われわれが多様にものごとを問い、発想しても、不整合や間違いを、案じることはない。われわれは、安心して、大いにいろいろな考えを述べることができる。本発明が、人々の発想を闊達にする支援にならないか、そのような期待を本発明者は抱く。
また、別の課題もある。文書にどのような主張が書かれてあるかを調べることは厄介である。特に長い大きな文書であれば、なおのことである。夥しい時間が費やされる。語句の検索では、主張の真偽や是非の判断はできない。主張の真偽や是非の判断は文に対してなされなければならない。情報のあふれるこんにちの大きな問題である。
前記主要課題は、文の検査は同じ文脈上で行うことで解決される。もっとも、この場合、文脈とは何か、文脈が同じとは何か、という問いが生まれる。また、そもそもの課題である整合性に関しても定義が要る。文の意味の整合性が、なぜ同じ文脈において行わなければならないのかは、[発明を実施するための形態]の項でのちほど述べる。用語の定義や詳しい説明もここで行う。以下の手段に関する事項は、この前提、すなわち文の検査などは、同じ文脈において行わなければならない、という前提に立って述べる。
本発明の単位文脈の抽出と作成の装置は、任意の文章から単位文と接続関係語句を抽出する。この抽出を最初に行う。ここで文章は自然文である。自然文とは自然言語からなる文をいう。自然言語はわれわれが普段使う言語である。いわゆる、母国語である。次に、単位文と接続関係語句を結び、単位文関係体を作る。接続関係語句とは、例えば、「文pかつ文q」や「pならばq」の文にある「かつ」や「ならば」の、論理推論でいう連言や含意である。この接続関係語句を用いて、単位文を論理推論の関係で結ぶ。単位文とは、通常の国語文法でいう単文から、主語や目的語などの主部、また動詞や副詞などからなる述部を取り出した文である。もっともこれは理解を容易にするための説明である。のちに詳しく述べる。ここではとりあえず、主部を対象語句、述部を属性語句とする。
このようにすることによって、文pは「<対象語句>{属性語句}」からなる。接続関係語句「ならば」を記号で「⇒」と書き、また「#p」を「文pにおける」の意味とすれば、「pならばq」は、「<対象語句#p>{属性語句#p}⇒<対象語句#q>{属性語句#q}」と表現できる。このようにする利点は、同じ文脈上に並ぶ多数の対象語句どうしと属性語句どうしを容易に比較できることにある。
「同じ文脈」とは、文(単位文)が連言で結ばれている文の列を指す。また、含意で結ばれている2つの文(前件と後件)も同じ文脈にあるとする。さらに、連言と含意が連言で結ばれている場合も、同じ文脈にあるとする。いま連言の文の列を「U1∧、、∧Un」で表すとし、また「前件⇒後件」を「文A⇒文C」と表すとすれば、連言と含意で結ばれる列は、次のような「同じ文脈」を形成する。「(U1∧、、∧Un)∧(A⇒C)」。
ところで、接続関係語句「もし、、、ならば」は、反対の条件である「そうでないならば」という接続関係語句を常に持つこととする。これは、本発明の持つ仕組み(装置)である。そうすると、抽出の対象にした任意の文章(これを「元の文章」と呼ぶ。)に、この反対の条件に相当する表現がない場合には、この反対の条件を常に作ることになるので、元の文章には無い文が、この単位文関係体からなる文章には存在することになる。
また、反対の条件による文も含意の形式を持つ。「そうでない「ならば」○○である」、という「ならば」の形式を持つからである。含意の前件の文は、「そうでない」という文である。後件は「○○である」という文である。すると、この反対条件からなる含意も、任意の連言の列と連言で結ばれるとき、「(U1∧、、∧Un)∧(¬A⇒C2)」と表現される。ここで、「¬」は否定で、「¬A」は、先の前件Aに対して、「そうでない」という否定の文である。また、「C2」は、「¬A」の後件である。元の文章にC2に相当する文がない場合には、それは新たに人為的に書き足しがなされた文である。
上の「C2」の付加に見られるように、単位文関係体に対してあらたに単位文を、人為的に付け加えた文章の全体を「単位文構造体」と呼ぶ。人為的に単位文を付け加えたとは、人間が意味内容を検討して文を追加したということである。しかし、意味まで明確に考慮したものを単位文構造体とすることとする。
後に述べるように、意味は文脈と深く関わる。単位文構造体は意味に関する構造体であるので、文脈を様々に持つ構造体といえる。よって、単位文構造体は「単位文文脈構造体」と呼ぶ方が適切である。ただし、構造体に文脈が含まれるとして、「文脈」を省略し、略式で「単位文構造体」と呼ぶこととする。
なお、単位文構造体は、元の文章と比較して、語句も文も追加修正のないものもある。単位文構造体は、人為で意味を検討し確認した点が、単位文関係体とは異なる点である。
なお、上記の「単位文文脈構造体」に関連する事項は、のちに[実施例1]の項で、詳しく手段を述べる必要があるので、そこでも触れる。ここ[課題を解決するための手段]の項では手段の輪郭を述べるにとどめる。
以上のような文に関する仕組み(装置)を作り、それを文章の検査などに利用する。元の文章を検査する場合には、元の文章と同じ文を単位文構造体として作り、同じ文脈をたどることで、単位文や単位文の中の語句を比較する。例えば、対象語句を「O」とし、属性語句を「A」とした場合、単位文が同じ文脈上に「<O>{A}∧、、、∧<O>{¬A}∧、、、」とあったならば、両文が文章上のどんなに遠くに存在していたとしても、属性語句が{A}と「¬A」(反A)であり、したがって、矛盾である。検査は、このように文書全体に渡って行い得るようにする。また、コンピューター処理が可能な仕組みを提供する。
大きな文書の主張や見解の判断に、多大な時間が費やされなないためには、調査対象となる文書が、単位文構造体であることが、都合がよい。文で表現される主張、すなわち、「AはBである」という主張を表す文が、単位文構造体には、単位文として存在する。しかも、連言をなした「文脈」として存在する。したがって、検査すべき主張文は、どのような文脈で主張されているかまで明らかになる。
以上が本発明の手段の基本概念である。
1.大きな文書の検査、作成への寄与
本発明は、コンピューターによるシステム化が期待される。ここで、システム化とは、本発明を装置、方法、またプログラムとして開発することを指す。システム化で開発されたものをシステムと呼ぶこととする。
すると、当システムにより、大きな文書であっても、文書の先頭から最後まで、すべての文脈を、すべて自動でとは行かないが、半自動的に抽出できる。文書の検査に応用すれば、当システムは文脈ごとに、文や語句の意味の検査をできる。検査の時間を大幅にでき、検査の品質を大きく上げることができる。文書の作成にも応用できる。書き手は自然文を書き進める途中で、文の検査ができる。その中で、当システムから条件の不足などの指摘があった場合には、新たに文を付加、作成して行くことができる。文書を文脈の観点からみる方法を「文脈ベース」と呼ぶこととする。
1.1.大きな文書への文による検索
当システムにより、文書が単位文構造体として構成された場合、文書に対する文による検索が可能になる。語句ではなく、文による検索なので、主張の検索となる。つまり、検索の文が、文書内においてが、どのような文脈で主張されているのかが分かる。任意の主張が文脈に依存するという性質を、本発明は目に見えて示す。よって、検索の文は複数を連言や選言で行うことを可能とする。このような検索を、大きな文書に対して実行する。しかも、多数の文書に対して行うなら、その効果は大きい。主張の判定に関して、調査の時間が節約され、調査ミスも減少する。主張の類似性に関しては、ベクトルなどの数理処理を用いればよい。
2.生成AIへの「知識リスク」対策
産業上の効果に関していえば、本発明は、「文脈ベース」によって、生成AIに対する、いわば「知識リスク」への対策を提供する。生成AIは、文法の整った文を提供する。いうまでもなく、文法の整った文が、真なる知識を提供するとは限らない。
知識の真偽の判断は、語彙の間違い、文どうしの関係から来る間違い、また、真とも偽とも判断しかねることも含む。そして、このような真偽の判断は、生成AIの提供する知識であろうが、ふだん何気なく獲得した知識であろうが、その真偽判断は、最終的には人為による。
ここで数理に関する知識を、ことさら今の真偽判断の議論に入れるのは、必ずしも適切ではない。しかし、知識の真偽判断という性質を認識するために、敢えていえば、人為に依らず真とされる数学的定理も、確かに多くの人々の判断に依存するものではないが、しかし、少なくとも一人の、多くは天才といわれる、誰かの「人為」の判断に依存する知識である。
本発明は、知識の真偽の判断を「文脈ベース」で、すなわち、文脈に照らして個々の文の真偽判断をする。この判断は、数理的判断の対極ともいわれる、経験的判断である。経験的判断を行う場合、文脈に沿って行うことは、混乱や錯綜した文による知識の真偽判断のよき支援となる。生成AIにより、容易に悪意に満ちた、混乱した、また錯綜した文を作ることは可能であるからである。
本発明の「文脈ベース」は、その防御手段をもたらす。文脈の明示、また、単位文の精査などを本発明は可能とする。これらが、「人為」に対して、知識の真偽の判断を支援する。
2.1.自説の同一性認証
生成AIによるリスクとして、自説の同一性の認証が侵される危険があげられる。生成AIは諸説を容易に作り得るからである。自説を本発明の「文脈ベース」で、連言などからなる文脈の集合として構成することにより、論理的に、よって明確に、自説の同一性の認証を所持できる。このような「文脈ベース」で構成された自説は、他の説とは、文による比較となり、その差異がはっきりとする。このような自説を、例えば、ブロックチェーンなどの技術を利用することで、自説の作成時間や履歴などの属性も信頼できるものとなる。
3.国際規格への対応
製品の輸出は、すでに「よいものさえ作れば売れる」から、国際規格を満たすことも前提となっている。よいものを作っても、なぜ日本企業は負けるのか、という問題意識からなる戦略論もある(『国際規格を作ることで、世界市場で勝つルールメイキング戦略 技術で勝る日本企業がなぜ負けるのか』(著作者、多摩大学ルール形成戦略研究所。出版、朝日新聞出版))。国際規格を作ることとマーケット戦略は同じくらいに考えるべきとする見解である。もっともと思われる。が、しかし、なぜ国際規格を作る発想を日本人は持ちがたいのかを少し問うべきであろう。
ドイツは自動車の安全走行に関する国際規格などでISO(国際標準化機構)に強い影響力を持っている。古い話だが、ドイツからの、明治初期の、いわゆる「おかかえ」学者のベルツは、日本の学問の仕方は、基本を問わないと苦言を呈した(『ベルツの日記』、出版:岩波文庫)。日本人は、すぐ効用を求め、そこで学問への問いは終わりがちと、ベルツはいう。明治初期の日本が富国をめざした時代の教育であるから、日本の学者や、また学生たちは、すぐに役に立つことを求めざるを得なかったのであろう。
しかし、残念な調査がこんにちもあるようである。現在日本の大学院生の工学系は40%で、欧米は10%前後という(『科学とはなにか』、著者:佐倉統、出版:講談社))。日本は学問において、いまだ効用第一に考えている、といわれても仕方のない数字かもしれない。
自動車ばかりではなく、自律移動機の安全走行には、国際規格に基づく安全論証が求められる。自律移動機の増強は、人口減、高齢化、人手不足の中で大きく期待される分野である。しかし、AIを搭載し、機器が高度化すればするほど、安全もまた強く保証が求められる。安全を実証こそすれ、論証することは日本の工学部のカリキュラムには求められていない。本発明の「文脈ベース」の論理主義が奏功する点である。
4.合理的社会への対応
そもそも「論理」の起源はなにか。経済学者シュンペーターは、イノベーション理論の嚆矢として著名である。その彼が、人間はなぜ合理的にものを考えるかを内省している。日々の経済的必要性が人間の合理的態度の源泉という(Joseph A. Schumpeter (著)の書『Capitalism, Socialism, and Democracy』の「The civilization of Capitalism」の項)。そして、どの論理も経済的意思決定のパターンに由来すると言い切る。
論理の起こりが、日々の経済的行動にあるという言説の賛否はおくとして、合理的精神と論理を同類とみても大きな間違いはなかろう。論理主義は合理的精神と不可分である。本発明の「文脈ベース」は合理的考え方を支援する。
産業の発展にとって厄介な障害は国際間の政治的対立である。政治的言説の対立を文章に著し、それを「文脈ベース」で解析したなら、文脈の亀裂を目視できる。亀裂する箇所に、新たな文脈を繕い、亀裂を補う。政治の安全にいくばくか寄与できまいか。政治的対立は文章に映してみれば、先の文章例1のチョムスキーの文章例ほどは意味不明ではない。のちに文章例1は、文章例1-1として理解可能な文章に解釈される。亀裂を無くしたと譬えることはできまいか。
昨今の国際政治の対立は、平和こそ産業活動の基礎といわざるをえない。本発明者は、「文脈ベース」の応用が、政治の世界にも広く展開され、もって産業に資すると期待する。
5.教育への応用
詩人石川啄木は、国語の文法を嫌ったという。天才詩人には文法は発想の邪魔になるということでもあろうか。言語学者チョムスキーは人間には言語を理解するための生得的な構造があるといった。言語に関する生得的な構造があると同様、文脈を理解する構造も生得的にありはすまいか。なぜならば、チョムスキーの無意味な文を理解可能にしたのは、先のように「文脈」だからである。このような生得的な構造が啄木の嫌った文法を指すとも思えないが、といって、無関係ともいえまい。せめて、本発明のいう単位文とその連続、また分かれ目などからなる「文脈ベース」を理解してもらうことで、長い論理的な文章を書くことの基本にしてはくれまいか。この程度のことであれば、詩人の発想を抑制はすまい。
国語教育を、幼児らの「なぜ、どうして?」という問いを膨らませ、かつ、それをしっかりと表現できる時間にしなければならない。「文脈ベース」が効果的である。また、論理は民族固有の文化を超え、人類共通の意味伝達手段である。国際化は共通の伝達手段を求めている。論理に強い人材を産業界は必要とする。
文脈ベース文書検査装置(文書検査プログラム装置全体の構成図) 文書地図作成部(サブプログラム。文書地図作成部の構成図) 文書検査部(サブプログラム。文書検査部の構成図) 文脈ベース文書検索装置(文書検索のプログラム装置構成図) 自然言語の係り受け解析の説明図 単位文構造体からの単位文脈の経路図 文書全体の構成図(目次、見出し、文章) 文書の目次の実例 文書全体の構成の図(文章部の記号表現) 文書作成規範の例
1.本発明の出発点と中心的諸概念
「必要は発明の母」ということわざを借りれば、本発明の出発点は困りにある。困りは、他者の文書をチェックする場合に不明点が多々あることである。本発案者は、このような困りの原因をひも解きつつ、そこに一般的な応用があることに気づいた。以下、文書に関する困りをあらためて取り上げつつ、これらの困りを解決するために中心的な役割を演じる諸概念を開発する。これを実施例1とする。
1.1.本発明の出発点:着想
1.1.1.「文脈」の力:意味不明な文も文脈次第
先の文章例1の意味のよく分からない文は、文脈を加えることで、次のように理解可能になる。
[文章例1-1]
そこは色の無い世界であったが、その世界は以前色を持っていた。その結果、いまはコトバだけが残っている。例えば、緑は、豊かな実りという意味である。したがって、「色の無い緑色の考えたち」というとき、その考えは、色の無い世界では、「豊かな考えたち」という意味である。しかし、その考えたちも「眠る」とすれば、それは、生かす場が無く、死んだような状態という意味である。しかも、その眠りが、「怒り狂っている」、となると、それは、その考えたちを持つ人は、眠りの静寂とはまったく逆の状態であって、目を閉じて一見眠っているように見えるが、実際には全く怒り覚醒している状態を指している。
以上が、「色の無い緑色の考えたちは怒り狂って眠る」(文章例1)の解釈である。解釈する上で、文脈が機能している。まったく意味不明だった文が、文脈を加えることで理解可能になったからである。
1.1.2.首をかしげる語も文脈次第で解消
文章例1ほど不明ではないが、首をかしげてしまう文章がときに見られる。観光パンフの例である。パンフの絵を見れば、意味が分かるが、文字だけではわからない。
[文章例2]
太陽は朝に顔を出し、夜には去ってしまいます。でも、祭りの日だけは、太陽がたくさん現われ、夜を徹して踊り歌います。
分からないのは、太陽の様子がいろいろ変わるからである。そこで、太陽を<>で囲み、太陽の様子を{}で囲む。すると、次の4つの太陽の状態となる。文章に、01、02などと番号を振った。
[文章例2-1]
01 <太陽>は{朝に顔を出し}、
02 <太陽>は{夜には去ってしまいます}
03 <太陽>が{たくさん現われ}、
04 <太陽>が{夜を徹して踊り歌います}
どの太陽も擬人的である。しかし、観光パンフを見た人は疑問を抱かない。海に面したその海外の町は朝日も夕陽もきれいであり、祭りと思しきシーンでは多くの踊り子たちが情熱的に踊っている。そうパンフには映っている。4つの太陽は、実は後半の2つは、踊り子である。文字だけではわからない。
が、文字だけの文章例2の中に、「でも、祭りの日だけは」という一文がある。この1文により、前の2つの太陽と後の2つの太陽とは異なるかもしれない。そのような想像ができる。そこで、あらためて「でも、祭りの日だけは」を行間に入れて、文章を整えてみると、次のようになる。
[文章例2-2]
01 <太陽>は{朝に顔を出し}、
02 <太陽>は{夜には去ってしまいます}
03 でも、祭りの日だけは、
04 <太陽>が{たくさん現われ}、
05 <太陽>が{夜を徹して踊り歌います}
03行目の「でも、祭りの日だけは」という文で、自然の太陽と踊り子の太陽が分かれる。03行目は文脈の境界を表すといえる。そして、この境界により、上の2行は同じ文脈に属し、下の2行は上とは別の文脈に属する。そのような見方が可能となる。境界を作る行(当例では03行目)を「新たな文脈を作る行」、あるいは、簡単に「新たな文脈」と呼ぶこととする。
この小さな例をもって一般化をするのはややはばかる。しかし、この例の新たな文脈が示すように、文脈によっては、2つの語句が同じ文字からなる場合であっても、それら2つの語句は意味が異なる場合がある。
この例における、意味が異なることを詳しくひもとけば、文章例2-1の、複数の「太陽」を比較すると、<太陽>は{夜には去ってしまう}太陽があり、他方{夜を徹して踊り歌う}太陽がある。両<太陽>が成り立つとすれば、それは矛盾である。
しかし、この矛盾は、すでにみたように2つの語句に、自然の太陽と、踊り子を割り当てることで解決する。一語が複数の意味を持つ「同語異義」で、通常「多義語」といわれてきたものである。そして、文章例2-2の03行目が示すように、文脈が多義語を作るといえる。あるいは、成り立たせている、といえる。
他方、2つの同じ文字からなる語句が同じ文脈に属する場合には、それら2つの語句は同じ意味を持っている。このことは、文章例2-2の03行目の行を境にした、語句の所属の違いが示している。
1.2.本発明の中心的概念
のちの議論のために、あらためて1つの概念を導入する。この概念は、本発明の中心的役割を演じる。本概念を活用することで、本発明の請求項が成り立つ。
本概念とは、あらためていえば、形式的なことを指す。形式的なことを活用することも含む。例えば、先の小さな例で、文章の順番を確認した。このようなことを「カタチ」を整えることとみなす。「カタチを整えること」を「形式化」と呼ぶこととする。カタチを整えるという行為ででき上がった成果物を「形式物」、その集まりを「形式体」と呼ぶこととする。
また、「形式化」とは、文章の中から、文脈を明確に表に現わすことを指す。すなわち、自然言語の表現の中で、はっきりしない、あるいは、隠れている文脈を顕在化することである。また、文をいくつかの語句に分けることなども形式化の行為である。さらに、文脈を付け加えることも、形式化を進めるという意味で「形式化」に含まれるとする。
1.2.1.文章を構成する基本概念
本発明の諸概念をさらに説明する。そのために文章を構成すると考えられるいくつかの基本概念を述べる。文章例をあげ、文章を構成するカタチ、すなわち、基本要素を取り出す。その基本要素の1つが、次の「単位文」というものである。本発明による固有の語句である。この語句の説明には、先の文章例2-2を用いる。
1.2.1.1.単位文、対象語句、属性語句
先の文章例2-2の01行目の「<太陽>は{朝に顔を出し}」のように、<>と{}からなる文を単位文と命名する。<>で囲まれた語句を「対象語句」と命名する。{}で囲まれた語句を「属性語句」と命名する。単位文は、助詞を除くことができる、とする。
なお、文章例2で書かれたような、母国語で書かれた文は、自然言語で書かれた文といわれる。本発明では簡便に「自然文」と呼ぶこととする。よって、単位文は自然文から人工的に、あるいは、人為的に構成される、また抽出される、ともいえる。
単位文は、単文をヒントとしている。「太陽は朝に顔を出し」は、通常の母国語文法で単文といわれる。単文は主語と述語からなる。本発明では、この主語を対象語句とし、述語を属性語句とし、対象語句と属性語句で再構成したものを単位文と呼んでいる。本発明では、対象とその属性からなるものを文の基本単位とみなす。よって、「太陽は朝に顔を出し」は、単位文として「<太陽>は{朝に顔を出し}」と構成される。
対象語句は、1単語のみを指すのではない。複数の対象をまとめたものを指す場合もある。また、対象がいくつかの語句で修飾された状態のものも対象語句であるこのように語がたくさんある場合も含むので、対象を指すために「語句」という表現を用いる。そして、まとまったものを対象とするので、対象は1つとみなす。例えば、対象O1とO2の2つが、「O1とO2」と表現されていれば、これを1つの対象とみなす。また、表現「O1またはO2」も、これを1つの対象とみなす。
属性語句も1つの述語を指すのではない。述語部ともいうべき、複数の単語が連なる語句も属性語句とする。1つのまとまりとみなすからである。先の{朝に顔を出し}は「朝に」や「顔を」が「出し」を係っている関係にある。複数の単語からなるが1つの属性とみなす。また、属性語句を構成する動詞などの連用形は、属性語句どうしを比較する場合は、終止形で比較することとする。
1.2.1.2.条件関係語句と条件関係記号
文章例2-2の03行目「でも、祭りの日だけは」と、前の文と後の文との違い、あるいは、境界を示すために、「だけは」と条件を付けている。このような表現を「条件関係語句」と命名する。「もし、、、ならば」は、典型的な条件関係語句である。
形式化を推し進めるために、条件を、よくあるように「if」で表すとする。また「if」の反対の条件を表すために「else」を導入する。そして、「if」、「else」のセット(対)の終わりとして、「endif」を導入するとする。これらは記号である。よって、「条件関係記号」と命名する。
日本語表記「もし」、「そうでないならば」、「おわり」も、本発明では条件関係語句である。これらは語句として、日本語の文章から抽出される語句であるので、日本語の文章の中で使われている場合には、接続関係「句」である。他方、これらが、単位文での表現の一環として、「if」や「else」の代用として使われる場合には、条件関係記号である。
なお、「そうでないならば」は、日本語文章では「でないとき」などと表現されている場合がある。他の条件関係語句に関しても、表現上の多少の違いがある。多少の違いを含む条件関係語句を1つの表現に統一する場合に、条件関係「記号」を用いる。
「if」が常に「else」をペアに持つかという疑問がある。例えば、文章例2-2の03行の「でも、祭りの日だけは」の反対の条件は、祭りの日ではないから、普段の日ということになる。普段の日のことが書かれていないかと問えば、普段の日の事柄は、すでに、01、02行目に書かれてある。すると、この場合には、01行目の前に行を設定し、00行目とすれば、00行目に「普段の日ならば」という条件が暗黙の裡に隠されている、といえる。そうなると、03行目の「でも、祭りの日だけは」は「else」となる。このように、暗黙の条件をおもてに抽出することは可能であるので、「if」、「else」は常にペアに存在する、という構造形式を作ることに無理はなさそうである。
本発明の立場では、本システムは、形式上「if」があったら「else」を自動的に生成する。そのあとで、意味を人間があらためて考えることになる。そして、あらためて考える際に、「else」という条件が、実際には後件を持たない場合があるなどの、意味内容の検討をする。
1.2.1.3.連言関係語句と連言関係記号
文を結ぶ表現がある。「文A、かつ、文B」である。ところで、文章例2-2の01と02行目の間にはどんな語句も無い。しかし、2つの行の文は論理推論によれば、連言でつながっている。語句で表現すれば、「かつ」である。「そして」、「さらに」なども、「かつ」と同じく文を結ぶ働きをする。このような文を結ぶ表現を「連言関係語句」と呼ぶこととする。記号で表せば、「∧」である。これを「連言関係記号」と呼ぶこととする。「かつ」も記号としても扱う場合がある。この扱い方は、「もし」などの場合と同じである。
1.2.1.4.接続関係語句と接続関係記号
ここで、「接続関係語句」という概念を導入する。本発明では、条件関係語句と連言関係語句、また文の否定である否定関係語句の3つを要素的な接続関係語句とする。文を接続する語句と定義する。そして、「if」や「∧」、また否定記号「¬」は「接続関係記号」である。
1.2.1.4.1.選言関係語句の扱い
接続関係語句として、当然ながら、「または」という表現が存在する。これは、文のいずれかを選択する、という働きをする。論理推論において、選言といわれるものである。選言には両立的選言と排他的選言がある。これらの選言は、条件関係語句の「もし、、、ならば」を、論理推論の含意とすれば、含意、連言、否定により表現できる。そこで、選言を本発明の基本概念として用いない。
しかし、このことは、選言を接続関係語句として利用しないということではない。自然文から単位文を抽出する場合に選言的接続関係語句を用いる。なぜなら、自然文には、「文A、あるいは、文B」とか、「文A、あるいは、文B、もしくは両方」とか、「文A、もしくは、文Bのいずれか一方」などという表現があるからである。
このような表現が自然文の中に登場した場合には、例えば、選言記号「∨」などを用い、選言の種類に応じて単位文を接続する。ただし、のちに述べる文章検査の工程では、選言は3つの要素からなる接続関係語句に還元され、検査される。それゆえ、本発明では、選言の種類に応じた、選言関係語句の記号は、特に定義しない。
1.2.1.5.単位文文脈構造体
文章例2-2の全体は、単位文と接続関係語句からなる構造物といえる。ここで、接続関係語句は条件関係語句と連言関係語句からなる。構造物は、柱と壁からなる、あたかも建築物(アーキテクチャー)に譬えうる。もっとも、条件関係語句は柱のように上に垂直に伸びているわけではない。条件関係語句は文章中にあちこちで現われ、文の流れを制御する。条件関係語句は多数の支流を持つ大河や運河であり、水脈、山脈、あるいは、血脈と似る。また連言関係語句はこれら様々の「脈」の、条件関係語句の枝分かれと異なり、まっすぐなつなぎである。しかし、これら接続関係語句は、建築物の内部のような幾何学的構造をなしていないので、広く「構造体」と呼ぶこととする。すると、文章の全体は、文の「脈」からなる、すなわち、文脈からなる構造体である。そして、文脈は単位文からなることから、文章の全体は「単位文文脈構造体」と呼ぶことができる。
1.2.1.6.単位文関係体
上の「単位文文脈構造体」と紛らわしいが、「構造体」ではない「単位文関係体」という概念を導入する。形式的構造はどちらも同じといってよい。ただし、生成工程からいえば、「単位文関係体」は「単位文文脈構造体」の前の工程に属する。「単位文関係体」は、与えられた元の文章を、忠実に単位文と接続関係語句で再構成したものである。他方、「単位文文脈構造体」は「単位文関係体」に人間が恣意的に手を入れて作ったものである。「単位文関係体」は元の文章と等価である。「等価」とは、ここでは元の文章の単文と単位文関係体の単位文とは、1対1で対応し、かつ、真理値が相互に等しいことを指す。
なお、以下においては、「単位文文脈構造体」を、簡便さのために、「文脈」を省略し、「単位文構造体」と呼ぶ。すでに、「単位文関係体」において、用語「体」を用いている。構造体は、形式と意味内容を含む。他方、関係体は意味内容を含まず、形式のみを含む。このことは他でも触れている。なお、「単位文構造体」は先に[課題を解決するための手段]の項でも触れた。
以上の道具立てにより、単位文関係体と単位文構造体を作る。元の文章として、文章例3を用いる。(『ダラエ・ヌールへの道』(中村哲著)からの引用。)
[文章例3]
人は必ず死ぬ。当然だが、生命体として逃れられぬ掟である。いかに多くの所有を誇ろうと、いかに名声を得ようと、それをあの世に持ち去ることはできない。その時、我々の生きた軌跡が何かの暖かさを残して、人としての温もりと真実を伝えることの方が大切なのだ。
下記の文章例3-1は、単位文関係体である。文章例3-1の空欄の<>や{}は元の文章の中には語句が書かれていないことを示す。
[文章例3-1(単位文関係体)]
01 <人>は{必ず死ぬ}。
02 <>{当然}だが、
03 <>{生命体として逃れられぬ掟}である。
04 if<多くの所有>を{いかに誇ろう}と、
05 if<名声>を{いかに得よう}と、
06 <それ>を{あの世に持ち去ることはできない}。
07 else
08 <>{}
09 endif
10 <何かの暖かさ>を{その時、我々の生きた軌跡が残し}て、
11 <人としての温もりと真実を伝えることの方>が{大切}なのだ。
12 else
13 <>{}
14 endif
しかし、実際には、文章例3-1はここでは人為でつくられている。というのも、10行、11行の2つの文は、本発明の書き手が、文章例3を解釈し、その書き手により、そこの行に置かれたものだからである。しかし、恣意性はその場所のみである。
とはいえ、先の単位文関係体の定義からいえば、文章例3-1は単位文関係体とはいえない。人為による恣意性が加わっているからである。その点からは、単位文構造体というべきである。
単位文関係体と単位文構造体の区別は強くこだわる必要のあるものではない。最終的には、単位文構造体が、単位文からなる文章として正式に承認されるものだからである。
にもかかわらず、2つを区別する理由は、単位文関係体の場合は、コンピューターによる自動処理を導入できる点にある。のち述べる文書の検査において、単位文を人手で逐一作るのでは非生産的である。生産性の向上のためには、単位文関係体の作成をできるだけ自動的に行う必要がある。
文章例3-1の10行、11行の2つの文は、書き手の恣意と述べた。が、本発明者は、この程度は、コンピューターでの自動処理を期待するという願望を込めて、文章例3-1に対して、単位文関係体というラベルを付加したという訳である。
なお、自動に関しては、[実施例2]にて述べる(図5、参照)。ただし、この自動の処理は、本発明に固有のものではない。既存の言語解析のツールを使うからである。固有であるのは、言語解析を利用して作る単位文や単位文構造体等の形式、いわば装置である。これらは、特許としての請求事項である。
文章例3-1の空欄を人為で補う。本発明者の恣意で、文章3-2としている。これにより、単位文関係体が、単位文構造体になったとみなす。
[文章例3-2(単位文構造体)]
01 <人>は{必ず死ぬ}。
02 <死>は{当然}だが、
03 <死>は{生命体として逃れられぬ掟}である。
04 if <多くの所有>を{いかに誇ろう}と、
05 if <名声>を{いかに得よう}と、
06 <所有のすべて>を{あの世に持ち去ることはできない}。
07 else(注:<名声>を{一切得ようとしない}ケースである)
08 <所有のすべて>を{名を伏せて、社会に還元する}。
09 endif
10 <何かの暖かさ>を{その時、我々の生きた軌跡が残し}て、
11 <人としての温もりと真実を伝えることの方>が{大切}なのだ。
12 else(注:「多くの所有を誇ることを一切しない」ケースである)
13 <所有のすべて>を{ひっそりと保持することも許されるかもしれない}。
14 endif
単位文構造体をさらにカタチ化(構造形式化)する。文章例3-2の単位文構造体は、単位文として、記号(U1やA、Bなど)を代用し、カタチ(構造形式)のみで表現できる。その結果が文章例3-3である。なお、文章例3-3の中の、条件関係語句「if」に対して、論理推論の「含意」を適用する。記号として「⇒」を用いる。これも、条件関係記号に加える。次の文章例3-3の単位文構造体は記号で表記しているので、「記号的単位文構造体」と呼べる。
[文章例3-3(記号的単位文構造体)]
01 U1
02 U2
03 U3
04 if A
05 if S
06 ⇒ T
07 else
08 ⇒ U
09 endif
10 B
11 B2
12 else
13 ⇒ C
14 endif
1.2.2.構造形式
上の文章例3-3はすべて記号からなる。たとえば、01~03行目(U1~U3)の単位文は、推論規則でいえば、連言(記号「∧」)でつながっている。この構造は「U1∧U2∧U3」と表現される。語句「記号的単位文構造体」を、「記号」という「形式」に重きを置き、「構造形式体」と呼ぶこととする。
「構造体」を「形式」に重きを置く理由は、次の通りである。表現「記号的単位文構造体」は、「記号」に重きが置かれる表現である。実際、文章例3-3は、記号のみからなる。他方、「単位文」は、単位文の対象語句と属性語句は実際の語句であるので、本来は意味を持つ。しかし、記号は意味を含まないので、「記号」と「単位文」は相反する点を持つ。そこで、「記号的単位文」を「記号」に力点を置き、「形式」と置き替え、かつ、構造体としては、形式に力点が置かれるという意味で、「構造形式体」とした。
また、文の関係やつながりに重きを置く場合、「構造形式」という語句を用いる。「構造形式体」から、「体」を取り除いた語句である。「体」は、先にも述べたように、成果物の集まりを指す。成果物を構成する要素間の関係に力点がある場合は、「体」を除き、「構造形式」のみとする。ここで、「要素」とは、本発明では、単位文、および単位文の要素である対象語句、属性語句である。以下、「構造形式」をもって「文脈」を説明する。
文脈に関していえば、文章例3-3では、条件関係記号を持つ04行目(A)と05行目(S)が、連言の条件となり、新たな文脈の先頭となる。後件も含めた、文脈の構造形式は、「A∧S⇒T」である。他に04と07行目(05行目の否定)、12行目(04行目の否定)も、連言の条件となり、新たな文脈の先頭となる。それぞれ構造形式は「A∧¬S⇒T」と「¬A⇒C」である。「¬」は文の否定を表す。
09行目に文の終わりを指す「endif」がある。その次の10行目に新たな文がある。そして、11行目へと続き、先の01~03行目と同じく連言をなす。「B∧B2」である。ただし、この10行目と11行目の文は、01行目からの「U1∧U2∧U3」と異なり、04行目の条件関係記号の文脈の下にある。
01行目からの「U1∧U2∧U3」は、どの条件関係記号の下にもなく、独立している。その意味で、「単独文」(単独単位文)といえる。
他方、10行目と11行目は「従属文」(従属単位文)である。従属させる、いわば主人(条件関係記号)は、04行目である。主人は、09行目のendifで終りになるので、従属文はその上の06行目と08行目にそれぞれつながることになる。記号で表せば、06行目のたどりは、04と05行目を経て、構造形式「A∧S⇒T∧(B∧B2)」となる。また、08行目のたどりは、04行目と07行目を経て、構造形式「A∧¬S⇒T∧(B∧B2)」となる。
なお、(B∧B2)の括弧「( )」は無くてもよい。記号の結合規則を一般の論理推論規則と同じとするからである。つまり、結合記号「∧」と「⇒」は、この順に結合力が強いとする。
1.2.2.1.文脈のたどりと単位文脈
上に述べた構造形式を、文をたどる経路と見なすことができる。上の記述順に列挙すると、下記となる。下記の文章例3-4は、「構造形式」と注記されている。
[文章例3-4(構造形式)]
(a)U1∧U2∧U3
(b)A∧S⇒T
(c)A∧¬S⇒U
(d)¬A⇒C
(e)B∧B2
(f)A∧S⇒T∧B∧B2
(g)A∧¬S⇒U∧B∧B2
上のすべて、すなわち(a)~(g)の各経路を「文脈」と換言できる。また、(a)~(e)の上から5つまでは各々最小のまとまりということで「要素文脈」と呼ぶことができる。この場合、要素文脈とは、まずは簡単に、適度な切れ目による単位文の集まり、と理解する。適度な切れ目とは、単独文の最後の単位文と、含意文の先頭の単位文との境を指す。文章例3-4でみるとおり、(a)の最後の単位文「U3」と(b)や(c)の先頭の単位文「A」との間の区切りである。また、(d)の先頭の「¬A」も(a)の最後の「U3」と区切りをなす。
含意文の後件も切れ目である。(b)の後件「T」(単位文)も(c)の後件「U」も区切りをなす。ただし、この区切りには続きがある。「T」と「U」の終わり(09行目のendif)にもう一つ上位の条件関係語句(if、else)がある。すると、「T」と「U」は09行目のendifを出たとしても、1つ上位のendifまでたどりつかないと終りにはならない。もし、1つ上位のendifまでたどりつく前に、何らかの単位文が存在したならば、文のたどり手は、それらをたどって出口(endif)を出なければならない。
実際、文章例3-4の構造形式の母体となる文章例3-3の構造体には、10行目、11行目に単位文「B」、「B2」がある。よって、「T」と「U」のいずれも、「B」と「B2」をたどり、12行目がelse(「たどりはここで終り、次行には行かない」という指示)のため、13行目を飛び越えて出口(14行目のendif)に至る。
文章例3-4には、この経緯を(f)と(g)で表している。つまり(b)と(c)は、09行目のendifを出た後に(e)の「B∧B2」をたどるが、その経路が、(f)と(g)である。
われわれは(f)と(g)を一連の単位文の連なりを、あらためて「単位文脈」と呼ぶこととする。このとき、先にも述べたが、単位文脈が含意をなしている場合には、先頭があり、(f)の場合は、文脈の先頭は、前件「A∧S」であり、(g)の場合には、文脈の先頭は「A∧¬S」である。
単位文脈の連なりも単位文脈と呼ぶこととする。本発明では、「単位文脈」を、文脈に関する共通の基本的な用語とする。のちに、「全域文脈」という語を導入する。この全域文脈を単位文脈で定義する
また、連なりは、文の読み手から見れば、単位文の連続的なたどりである。「連なり」」や「たどり」は接続関係語句によるものである。(接続関係語句は、連言関係語句か、条件関係語句か、否定関係句である。)そして、単位文脈の複数の連続的なたどり(接続)を、(a)~(g)のように、記号や、また名前などで、識別することができる。
1.2.2.2.文書検査の原則
ところで、文章の検査は、文章全体、いわば「全域」に対して行う必要がある。文章の一部だけでは不十分である。
1.2.2.2.1.すべての経路
図6は、文の経路のすべてを示している。上の、記号的単位文構造体である文章例3-3と構造形式である文章例3-4説明を図に示したものである。経路のすべてをたどることで、文章の全域がカバーされる。
図6を説明する。図6の描線は、文章例3-3の構造形式の経路をたどり、先頭行から、最終行までの経路をたどったものである。線の中の点「・」が単位文を表す。たどった経路の結果が、文章例3-5である。
[文章例3-5(構造形式の経路)]
(α)U1∧U2∧U3∧A∧S⇒T∧B∧B2
(β)U1∧U2∧U3∧A∧¬S⇒U∧B∧B2
(γ)U1∧U2∧U3∧¬A⇒∧C
経路を単位文と結合記号で表すと、それぞれ(α)、(β)、(γ)である。(α)、(β)、(γ)のいずれも、任意の要素文脈が、正反の条件関係語句により2分岐された要素文脈とつながっている。論理推論の観点から要約的に述べれば、経路のすべては、単位文の連言からなる要素文脈と、正反に2分岐を起こす含意からなる要素文脈との連言からなる。二分岐の組み合わせにより、多くの枝分かれができる。これらが文脈となる。
多数の文からなる文章、つまり大きな文書は、連言の文脈と、含意の文脈が、含意の正反による組み合わせにより、多くの文脈により構成される。よって、文章の先頭から文末までたどる場合、二分木配列の根から末端の葉に至り、末端からひとつ前の分岐点まで戻り、再度末端に向かうたどり方をする。一般に「深さ優先探索」と呼ばれる。図6は、経路の数は少ないが、この深さ優先探索法を用いている。図6では、この探索法を用い、一度末端の葉までたどり着いたものを1つの文脈としている。そして、「末端から一つ前まで戻った」場合、その戻った部分(P)を別なたどりとして、あらたに経路を独立させる。その際、戻った部分Pから再度先頭まで戻り(B)、あらためて先頭から末端への経路をたどり、最後の末端の葉までたどる。このときの経路には、先頭まで戻った経路Bとひとつ前の分岐点までのPが含まれる。ちなみに、B、Pを構成する単位文の順は、戻りの順ではなく、先頭からの順である。
1.2.2.2.2.全域文脈
深さ優先探索で行われる、文章の文頭から文末までの単位文のたどりは、文章全体に渡って行われる。文章全体に渡ってたどられた単位文の順序集合を「全域文脈」と称することとする。
全域文脈は、先頭が共通の単位文であっても、途中から枝分かれする。いくつもの全域文脈ができる。これらの文脈は、個別にたどられて作られる。このような文脈を「個別全域文脈」と呼ぶこととする。
全域文脈の単位文の集合は、先述の通り、要素文脈であったり、要素文脈の連言である単位文脈であったりする。要素文脈も単位文脈に含まれるので、全域文脈は文章の文頭から文末までの単位文脈からなるといえる。
例である(α)、(β)、(γ)の経路は、極めて短い文からなるものではあるが、このようにして得られた、個別全域文脈である。(α)、(β)、(γ)の経路は、異なる経路であり、どれも文頭から文末までを表す。
1.2.2.2.3.全域文脈の構成要素
全域文脈の構成要素を確認する。図6には、要素文脈(a)、(b)、(d)、(e)も図示している。(ただし、(c)、(f)、(g)はうまく図示できなかったので割愛させていただく。)すると、
(α)は、「(a)、(b)、(e)」、または、「(a)、(f)」から構成される。
(β)は、「(a)、(c)、(e)」、または、「(a)、(g)」から構成される。
(γ)は、「(a)、(d)」から構成される。
1.2.2.2.4.実際の検査
検査は、全域文脈に対して行う。例でいえば、文章例3-5の(α)、(β)、(γ)は全域文脈を構成する1つである。これら個別全域文脈のすべてに対して検査を行うとき、文章全体に対して検査を行うといえる。個別全域文脈のすべて、すなわち全域文脈が、文章の全経路を網羅しているからである。大きな文書の場合には、文書の章、節、項を超えて横断的な検査となる。ここでの例のような小さな文章とは異なる。すべての個別全域文脈が検査の対象となる。
1.2.3.意味の評価
意味の評価は、構造形式の検査を経てから行う。構造形式の検査工程は、意味評価の前工程として、構造形式を整え、意味評価を効果的に行うためのものである。評価は、認知し、思考し、判断するので、これらの認識行為を「人為的」と形容できる。
検査工程を例で示せば、文章例3-5は、文章例3のすべての経路を構造形式として示したものである。意味の評価は、この構造形式を基に、文や語を認知し、思考し、判断して行う。
評価はこのように人為的であるため、評価は評価者により異なる可能性がある。しかし、そのアプローチ法は形式を整えて、という一定の方法をとる。これにより、評価の大きな差異や、また評価の根拠を明確にできる。そう期待できる。
1.2.3.1.意味評価用の文の作成
文章例3-5の3つの単位文脈に対して、意味内容を評価する。そのために、文章例3-5(α)、(β)、(γ)に従い、評価用の文を作った。それらに対応するのが、下記の文章例3-6の(A)、(B)、(C)である。
[文章例3-6]
(A)人は必ず死ぬ。当然だが、生命体として逃れられぬ掟である。いかに多くの所有を誇ろうと、いかに名声を得ようと、それをあの世に持ち去ることはできない。その時、我々の生きた軌跡が何かの暖かさを残して、人としての温もりと真実を伝えることの方が大切なのだ。
(B)人は必ず死ぬ。当然だが、生命体として逃れられぬ掟である。いかに多くの所有を誇ろうと、もし名声を得ようと一切しないならば、そのすべてを、名を伏せて、社会に還元する。その時、我々の生きた軌跡が何かの暖かさを残して、人としての温もりと真実を伝えることの方が大切なのだ。
(C)人は必ず死ぬ。当然だが、生命体として逃れられぬ掟である。しかし、多くの所有を誇ることを一切しないならば、財産のすべてをひっそりと保持することも許されるかもしれない。
1.2.3.2.意味評価の一例
(A)は最初の原文(文章例3)のままである。文章例3-2の01~06行と10、11行目の単位文を(A)に反映している。文の続き方は、単位文構造体を経ても、原文に戻っており、問題はない。したがって、意味内容も原文と等しく問題はない。
(B)には、文章例3-2の01~03行が(A)と同じく、(B)の先頭部を占め、文章全体を規制している。この先頭部に続き、04行目、07行目、08行目、11,12行目と続く。これは、図3の(β)を示し、これらの文の続き方は正しい。
他方、意味に関しては、05行目の「<名声>を{いかに得よう}」の否定である7行目は「名声を一切得ようとしない」ケースである。「いかに得よう」を「いかにたくさん得る」と解釈し、その否定を「一切得ようとしない」にしている。そして、次の08行目は「<所有のすべて>を{名を伏せて、社会に還元する}」となっている。(なお、「一切」などの語句は、論理推論の量化の規則に従っている。)
文章例3-2の解釈を続けると、7行目が「<名声>を{一切得ようとしない}」ならば、「名声と無縁である」と解釈され、したがって、08行目は、多大な財産を社会に還元することなく、「私欲のために、名を伏せず、これ見よがしに使う」こともありうる。しかし、もし、そう解釈すると、その後に続く、10、11行目の<何かの暖かさ>や<人としての温もりと真実を伝えることの方>を大事とすることとは意味的に不整合である。
そして、もし、文章例3-2の08行目がこのように私利私欲(「私欲のために、名を伏せず、これ見よがしに使う」)となる場合には、文章例3-2の10、11行目は、06行目の後に移動、挿入されるべき、ということになる。単位文構造体が変更されることとなる。文の続きの変更、すなわち、文脈の変更となる。
変更の結果を文章例3-2-1に示す。行番号はそのまま前のものを残している。桁ズレも以前のままにしている。
[文章例3-2-1(単位文構造体)]
01 <人>は{必ず死ぬ}。
02 <死>は{当然}だが、
03 <死>は{生命体として逃れられぬ掟}である。
04 if <多くの所有>を{いかに誇ろう}と、
05 if <名声>を{いかに得よう}と、
06 <それをあの世に持ち去ること>は{できない}。
10 <何かの暖かさ>を{その時、我々の生きた軌跡が残し}て、
11 <人としての温もりと真実を伝えることの方>が{大切}なのだ。
07 else(注:<名声>を{一切得ようとしない}ケースである)
08 <そのすべて>を{名を伏せて、社会に還元する}。
09 endif
12 else(注:「多くの所有を誇ることを一切しない」ケースである)
13 <財産のすべてをひっそりと保持すること>も{許されるかもしれない}。
14 endif
1.2.3.3.意味評価の異論と構造形式の規則性
意味評価に異論が出ることは、単位文構造体の、単位文の語句の空欄や、また空の行に、恣意的に語句や文を盛り込むことからもあり得ることである。このことは、先に文章例3-2で行った。意味には、異論が出るが、他方、文の続き方、すなわち構造形式は変わらない。
この形式性の存在は、単位文構造体から単位文の続きを抽出する過程に、規則性があるか、ないか、もし、あるとすれば、コンピューターによる処理の可能なことを示唆する。しかし、意味に関しては、人間の解釈を要するから、コンピューターの適用は容易ではない。ただし、いま文脈の変更で見たように、文脈に沿って、すなわち、形式に従い、意味を斟酌することで、個人の恣意性に依存し、無秩序になりがちな意味検査を支援しそうである。例えば、単位文が対象語句と属性語句からなるゆえ、同じ文脈で、対象語句どうしを比較すると、文脈を未整理のままに、意味を比較する無駄を回避できる。よって、コンピューターの活用も期待できる。
1.2.3.3.1.文脈未整理による無駄に対する文脈整理の効果
文章の検査における文脈の働きの件に戻る。果たして、本当に「文脈を未整理のままに、意味を比較する無駄」を文脈の働きで回避できているか。これが次の議論である。
先の文章例3-6の(C)は、前半は(A)、(B)と同じである。他方、(C)の後半は「しかし、多くの所有を誇ることを一切しないならば、財産のすべてをひっそりと保持することも許されるかもしれない。」となり、10、11行を経由しない。04行目の「if<多くの所有>を{いかに誇ろう}と」を経由せず、その否定の12行目を経由するからである。
しかし、著者中村哲氏の本来の趣旨からいって、死して墓場に財産を持って行くことが許されるであろうか。おそらく、というより、確実に、死して財産を残すことは、中村氏からの主張では許されない。したがって、10,11行は、本来の解釈としては、文章例3-2の最終行の次に来るべきものである。そのくらい、01~03行の主張は、他の文に対して強制的である。加えて、04と05行目は、「いかに」という強調表現(以下、「強調語句」)を用いて、他の文脈が発生すること、すなわち、他の条件が有効に働くことを防いでいる。そういえる。ということは、著者中村氏の本来の主張からいえば、(B)、(C)の文脈は存在の根拠は薄い、あるいは、強くいえば、あってはならない、ということになる。
このことは、別の言い方をすれば、単位文構造体には、構造形式は存在するが、固定的な意味内容は必ずしも存在しない、ということをわれわれは確認したということを意味する。中村氏の事例では、われわれは構造形式を確認したうえで、あるいくつかの意味解釈は採用しなかった。構造形式を確認し、いくつかの文脈(経路)には、かくたる理由で進まなかったと記録することができる。後刻、余分な解釈の入り込む余地を防ぐことになる。すなわち、文脈を整理することで、無駄が回避される。
他方、このことは、新たに構造形式を付加することで、別の有効な解釈を加えることがあることも示す。文章例3-2-2は、文章例3-2-1の12行目の「多くの所有を誇ることを一切しない」ケースを受けて、その場合には、「死しても子孫に財産を残し、その子孫が無私無欲の救済活動を支援する」ことを想定したものである。
[文章例3-2-2(単位文構造体)]
01 <人>は{必ず死ぬ}。
02 <死>は{当然}だが、
03 <死>は{生命体として逃れられぬ掟}である。
04 if <多くの所有>を{いかに誇ろう}と、
05 if <名声>を{いかに得よう}と、
06 <それをあの世に持ち去ること>は{できない}。
10 <何かの暖かさ>を{その時、我々の生きた軌跡が残し}て、
11 <人としての温もりと真実を伝えることの方>が{大切}なのだ。
07 else(注:<名声>を{一切得ようとしない}ケースである)
08 <そのすべて>を{名を伏せ社会に還元する}。
09 endif
12 else(注:「多くの所有を誇ることを一切しない」ケースである)
12a if <人>は{子孫に財産を残し}
12b if <子孫>は{無私無欲の救済活動を支援する}
12c <中村氏>は{半ばそのような財産の使い方を肯定する}
12d else(注:<子孫>は{無私無欲の救済活動を支援しない}ケースである)
12e <中村氏>は{¬半ばそのような財産の使い方を肯定する}
12f endif
12g else(注:<人>は{子孫に財産を残さない}ケースである)
13 <財産のすべてをひっそりと保持すること>も{許されるかもしれない}。
13a endif
14 endif
12a~12c行目は、著者中村氏が許すかもしれない文脈を作っている。しかし、この文脈に対しても、子孫が果たしてそうする保証はどこにあるのか、という反論もでよう。反論の「文脈」である。このように、「条件」という表現ではなく、「文脈」という表現を用いながら、議論を進めることができる。すると、「12g行目から13行目に至る'文脈'は、再考すべき'文脈'である」と表現できる。
1.2.3.3.2.文脈作成の限りなさと全体の意味の整合性
以下は、文章例3-2-2のように構造形式を記述することなく、議論を続ける。子孫の継承の保証に関し、反論が出たとしたなら、12b行目に、救済活動の社会制度化をするという構造形式の文脈を作る。死して後の私的財産の使用をその方向で使う、というのであれば、中村氏も大いに賛同するに相違ない。賛同と推量される理由は、中村氏は、様々の社会状況によって貧しさに追いやられる人々の救済を、氏自らの行動規範の最上位に置いている、そう本発明者は推量するからである。
しかし、主張を最上位に置いたからといって、反論が出ないわけではない。むしろ、構造形式は、どんな主張に対しても、主張を反対方向に相対化する方向も、また、最上位の主張に従って主張をサポートして行く方向も、可能にする。この例でいえば、反対的な相対化は、凡庸な人生をそこそこによしとすることかもしれないし、また、他者との関わりを極少にして行く人生の態度かもしれない。他方、後者の、主張をサポートする方向は、既述のように、中村氏の偉業を、人々がその財産を後世に託すために何らかの社会制度化を推進することなどかもしれない。
このように、どんな最上位の文脈に対しても、他の文脈を作り得ることは、文脈が正反の構造形式を常に作り得ることから来る。しかしながら、この構造形式から作る得る文脈が、意味を盛り込んだとき、説得的であるか、否かは保証の限りではない。意味が空虚、あるいは有効でない場合があるからである。あるいは、文脈が有効な意味を持っていたとしても、文脈が錯綜していては意味も分かりにくい。また、述べられた全体をあらためて仔細にたどるとき、文脈として分岐して行ったはずのものが、はるか向こうの文脈で他の箇所の主張と矛盾しているかもしれない。文脈を形式的には限りなく追加できる分だけ、全体の意味の整合性の検査が要る。
1.2.3.3.3.錯綜する文脈の整理
全体の意味の整合性を取ることは、よき効果が様々にある。効果は、端的には、思考の無駄や時間の節約にある。意味の整合性を取るためには、構造形式を明確にする必要がある。このことを例証するために、文脈が錯綜する事例を再度取り上げる。その事例は、文章例1-1である。果たして、構造形式の明確化、すなわち、文脈の整理が意味解釈を整合的にさせたか。文章例1-1を構造形式化したものを、例証として、次に文章例1-2として示す。
[文章例1-2(単位文構造体)]
if <その世界>は{色の無い世界}である。しかし、
if <その世界>は{以前は色を持った世界}であった。そして、
if <その世界>は{色に関するコトバを残していた}。その世界では、
if <その語>が{「緑」}であったなら
・<緑の語>は{豊かであることを指し}、よって、
・<「色の無い緑色の考えたち」という表現>は
{色の無い世界では豊かな考えたち}という意味となる。さらに、
if <その語>が{「考えたち」}であり
if <「考えたち」>が{「怒り狂う」に対して使われている}ならば、
・<「考えたちが怒り狂っている」という表現>は
{考えがまったく定まらない状態である}という意味である。また、
else
if <「考えたち」>が{「眠る」に対して使われている}ならば、
・<「考えが眠る」という表現>は
{考えが死んだ状態である}という意味となる。よって、、、
else
・--(注:未検討。思考余地ありの意。)
endif
endif
・<「考えたちが怒り狂って眠る」という表現>は
{考えがまったく定まらない状態で死んだ状態である}という意味である。
else
・--
endif
・<「色の無い緑色の考えたちが怒り狂って眠る」という表現>は
{色の無い世界では、豊かな考えは、まったく定まらない状態で死んだも同然である}
という意味である
(注:対象語句は、「色の無い緑色の考えたち」と「考えが怒り狂って眠る」の合成と、
属性語句は、「色の無い世界では豊かな考えたち」と
「考えたちがまったく定まらない状態で死んだ状態である」の合成である。
ただし、「死んだ状態」を「死んだも同然」と意訳した。)
else
・--
endif
else
・--
endif
else
・--
endif
else
・--
endif
文章例1-2にみるように、構造形式により文脈を作ることによって、意味の無い文章例1「色の無い緑色の考えたちは怒り狂って眠る(原文:Colorless green ideas sleep furiously.)」は「色の無い世界では豊かな考えは、まったく定まらない状態であり、死んだも同然である」と一通り解釈できた。条件文(「if」)の新たな設定は、やや強引ではある。しかし、この設定は、被解釈文(所与の文:文章例1)が少し理解可能となるための、人工的な文脈による、一種の通路づくりである。このことは意味をなさない文も、その文に適合する通路や水路のようなメカニカルな装置を作ることで、停滞した人の通りも新たな通路を通る、あるいは、水も新たな水路を流れることに似る。つまり、新たな文脈は、錯綜して停滞していた意味を通した、と譬えることができる。文脈の構造形式からなる単位文構造体が、一定の意味解釈をもたらす、といえる。このことは、時間を計測したわけではないが、本発明の主張に同意する人の多いことも例証といえる。
文脈によって意味が変わるという、一般的な常識を、本発明では、文章の構造形式に焦点を当てることで、基礎づけ、また補強する。これにより、多数の文の秩序を持った集合である文書全体の意味判断を装置化、方法化、プログラム化し、文書検査の効率を高め、また文書作成の支援をすることを提案する。
1.2.3.4.接続関係語句による「文脈揺らし」
ところで、中村氏の先の引用例において、意味を解釈するにあたり、else条件の形式は、ifの構造形式と同じであるにもかかわらず、else条件を、実質成立させていないということを見た。これは、意味解釈において、「いかに」という強調語句が、この意味の強さにより、他の条件、つまり他の文脈を実質成立させなかったからと解釈できる。すなわち、文章例3-2-1の04、05行目の「いかに」という表現が強く、07行目や12行目の条件の成立、すなわち文脈の成立を、完全には否定していないが、成立の根拠を薄めている。
このことを、接続関係語句による「文脈揺らし」と命名する。構造形式としては存在しうる文脈を他の文脈を強調するあまり、その存在を無視するからである。自然文を単位文構造体に変換するとき、この文脈揺らしに相当する接続関係語句に注意を向け、その働きを把握し、また理解する必要がある。本発明者は、任意の文脈全体(構造体)を制御する、いわば「メタ存在者」を想定する必要を感じる。例えば、メタ存在者は、文脈の間にプライオリティを付けるなどをする。しかし、このメタ存在者の役割の詳細は、本発明の外の課題となる。
1.2.3.4.1.類例:強調語句「優先」
類例がある。「常に優先して、、、」などの、これも強調語句といえる表現が、他の条件を見えにくくし、他の条件を成立させないために、矛盾を犯す場合がある。その事例を以下に示す。強調語句による、本当は必要な文脈に対する「無力化」、とでもいえる。本発明の構造形式による方法が、文章の文脈構造をひも解き、この無力化の原因を明らかにする。
文章例4は、ソフトウェアの要求事項の例である。ソフトウェアの要求事項とは、ソフトウェアの開発にあたり、開発すべき事項を、開発の依頼者が開発者へ要求として示す事柄である。意味の粒度は、概要的であったり、詳細であったり、また伝達法は、そのときの状況に依存し、文書ばかりではなく、口頭だったりもする。文書化した場合には、「要求仕様書」といい、その文書の中の要求事項を「要求仕様」という場合もある。ただし、明確に分けられているわけではない。本例の出典は、"Integration of Two Kinds of Syntax for Requirements Description and Its Future Development" (Authors: Norihiro Urushibara; Chiharu Sasaki, Publisher: IEEE, 2018, https://ieeexplore.ieee.org/document/8501291)による。
[文章例4(要求仕様)]
要求1:水位がアラートレベル(40cm)を超えると、5秒間排出弁を開き、同時に15秒間(含む、5秒間)は新たな排出弁の開指示を受け付けない。
要求2:運転員の指示で、上記と同じ排出弁の開閉操作を行う。
要求3:運転員の指示は、常に優先する。(15秒間の禁止区間でも受け付け、自分自身の過去の指示に対しても優先する。)
文章例4から、単位文構造体を作る。そのために、3つの要求ごとに、単位文構造体を作り、それらをまとめて1つにする。文章例4-1がそれである。「-?」は、当該の条件の場合に、どうすべきかが未検討であることを示す。
文章例4-1を説明する。文章例4-1では、要求1~3の順に、単位文構造体を作っている。要求1、2は、要求文の字面通りに、単位文構造体に置き替えている。要求3は、「優先する」ケースを考慮し、しかし、これも要求3の括弧( )の中にある文言を素直に条件化している。最後の(4)の「上記3要求の単純な組み合わせ」は3つの要求の条件を単純に組み合わせたものである。
[文章例4-1(単位文構造体)]
(1)要求1(単位文構造体):
if <水位>が{アラートレベル(40cm)を越える}ならば
<排出弁>を{5秒間開}とせよ
<新たな開指示>を{同時に15秒間(含む5秒間)は受け付けない}とせよ
else
-?
endif

(2)要求2(単位文構造体):
if <運転員の指示>が{なされた}
<排出弁>を{5秒間開}とせよ
<新たな開指示>を{同時に15秒間(含む5秒間)は受け付けない}とせよ
else
-?
endif

(3)要求3(単位文構造体):
if <運転員の指示>が{常に優先}であるとき
if <新たな開指示>を{¬同時に15秒間(含む5秒間)は受け付けない}ならば、
(注釈)この条件文(2行目のif文)は、要求3の「常に優先」という指示に従い、「受け付ける」と、要求分析者は解釈していることになる。(注:否定記号「¬」の付いた属性語句は2重否定で、「受け付ける」となる。)
else
-?
endif
else
-?
endif

(4)上記3要求の組み合わせ(単位文構造体):
01 if <水位>が{アラートレベル(40cm)を越える}ならば
02 <排出弁>を{5秒間開}とせよ
03 <新たな開指示>を{同時に15秒間(含む5秒間)は受け付けない}とせよ
04 if <運転員の指示>が{なされた}
05 <排出弁>を{5秒間開}とせよ
06 <新たな開指示>を{同時に15秒間(含む5秒間)は受け付けない}とせよ
07 if <運転員の指示>が{常に優先}であるとき
08 if <新たな開指示>を{¬同時に15秒間(含む5秒間)は受け付けない}ならば、
09 (注)この08行目の条件文(if文)の属性語句は、2行上(06行目)の属性語句と矛盾する。
10 ・よって「常に優先」の場合の対応が不適切である。
11 else
12 endif
13 else
14 endif
15 else
16 endif
17 else
18 endif
文章例4-1の(4)の単位文構造体には行番を振った。またelse行に続く「-?」は割愛した。(4)では、06行目と08行目が矛盾している。両者は同じ対象語句を持つが、属性語句が矛盾する。属性語句{同時に15秒間(含む5秒間)は受け付けない}」と否定記号を持つ{¬同時に15秒間(含む5秒間)は受け付けない}」とは矛盾する。文の並び、すなわち文脈としてみても、06行目を文Pとすれば、08行目は¬Pで、同じ文脈上に、Pと¬Pが、「、、、∧P∧、∧¬P⇒、、、」と、連言の関係で並んでいる。
結論からいえば、矛盾となった原因は、文章例4(要求仕様)の中の要求3に「常に優先」とあり、その範囲が明確ではなかったからである。文脈の及ぶ範囲を課題とする本発明の立場でいえば、優先がどの文脈まで及ぶのか、要求仕様としてはっきりしていなかった。要求分析者は、「常に優先」を単純に最優先した。ここに原因がある。
要求分析者は、オリジナル要求仕様の要求3を受けて、その分析結果を単位文構造体の要求3に表した。そして、単位文構造体の要求3の2行目に、要求3の1行目が「常に優先」のケースであるから、どんな新たな開指示も受け付けるとしたのであった。表記では、否定記号「¬」を用い、「受け付け」なくはない、としている。オリジナルの要求仕様の要求3に、「自分自身の以前の指示に対しても今回の指示を優先させる」と、優先の表現が強調されていては、条件に応じた場面の切り分けをせずに、要求分析者が、字義通りに、単位文構造体を作ってしまったとしてもやむをえまい。
この事例は、語の意味に惑わされ、条件が新たな文脈を作る場合に、新たな文脈に気づかないまま場合、矛盾などの、いわば意味領域の侵犯を犯すことである。事例では、Pと¬Pを「、、、∧P、∧¬P⇒、、、」と同じ文脈上に置いてみた。この文脈上に「⇒」があり、「¬P」は含意の前件であることが分かる。前件は、新たな文脈の開始を示す。前件に矛盾がある。よって、矛盾しない、新たな文脈を作るべきことを、矛盾の前件は示している。新たな矛盾しない前件を作ることで、矛盾しない意味の領域を作るべきである。
実際、優先すべき運転員の指示は、前の指示と、後の指示とでは異なるのである。よって、前者または後者の指示を優先するなどと区別しなければならなかった。それを、常にどんな指示にも優先すると、大きく括ってしまった。細やかな文脈がまだあったのである。このケースでは、前件としての「カタチ」が意味を超え、形式的な矛盾を示し、よって意味を再考すべきことを示している。
1.2.3.4.2.接続関係語句の候補表現
「常に優先する」、あるいは、単に「優先する」という表現も、これらは条件関係語句の表現ではない。しかし、このような、優劣の選択を促す表現も、この例は、条件を新たに作る表現と見なすべきことを示す。それにより、語句のままに解釈したのでは陥るかもしれない矛盾の危険を防ぐことができる。条件を比較的簡単に設定できる形式的な方法が、意味矛盾のない文脈を作ることに寄与する。
表現の強調以外にも、非条件的表現ながら、条件関係語句の働きをする表現がある。先の文章例2の「、、でも、祭りの日だけは、、」とあり、条件関係語句が「もし、、、ならば」のような表現のように、明示的ではない。他にも非条件的表現ながら条件関係語句にすべき表現があると想像できる。このような表現を「条件関係語句候補表現」と命名する。を収集し、条件関係語句への換言精度を高めて行くことができる。のちにコンピューター処理の説明でも述べるが、条件関係語句候補表現を集めたデータベース作り、コンピューター処理に応用できる。
接続関係語句には、含意を表す条件ばかりではなく、連言、否定、また、選言もある。よって、これらの接続関係を指す表現に関しても、候補表現として収集する必要がある。
2.「文脈ベース文書検査装置」の例
本発明においては、既出の文章例にみるように、語や文の意味が文脈に応じて変わり得る特性をとらえることを特徴とする。この特性に基づいて、装置、方法、プログラム、すなわち、システムを作り、例えば、文書全体の検査に利用できる。本発明の特徴を、文脈を基礎にした(Context based)、すなわち、「文脈ベース」の考えと呼ぶことができる。例えば、この考えを文書検査に応用した場合には、「文脈ベース文書検査装置」と呼ぶことができる。また、検査ではなく、いろいろな文脈を重ね合わせることで、アイデア作りに応用する場合には、「文脈ベース発想システム」と呼ぶことができる。以下では、文書検査の例を取り上げる。
図1にあるように、当該「文脈ベース文書検査装置」(000)の構造は、文書読込部(100)と文書地図作成部(200)、文書検査部(300)からなる。文書地図作成部(200)では、文書読込部(100)で読み込んだ文(テキストデータ)を番地化する。個々の文がどこに在るか特定するためである。番地は、検査などで文を参照する際に、当該の文がどこにあるかを区別するうえで役立つ。文書地図作成部の地図という命名は、このような番地化を譬えた。
2.1.文書地図作成部(200)
図2にあるように、文書地図作成部(200)は、単位文構成部(210)と単位文構造体構成部(220)からなる。
2.1.1.単位文構成部(210)
単位文構成部(210)は、言語解析部(211)で、文を、例えば、形態素解析、係り受け解析で言語解析をし、単位文要素抽出部(212)で、単文から対象語句、属性語句を抽出し、対象語句と属性語句からなる単位文を作り、さらに接続関係語句抽出部(213)で、文を結ぶ接続関係語句を抽出し、次に単位文関係構成部(214)で、単位文どうしを、接続関係語句の種類に応じた接続関係記号で結ぶ。接続された単位文らが、先に命名した「単位文関係体」である。
2.1.1.1.言語解析部(211)
言語解析部(211)では言語解析を行う。言語解析では、図5に示すような、文章を形態素・係り受け解析する方法を用いる。図5では、下記の文章例5を入力文(テキストデータ)としている。図5の解析例5(文章例5の解析)では、入力文を形態素解析し、解析された各々の形態素に関して、文法上の属性(例えば、連体詞や名詞などの品詞名)を特定している。そして、形態素の出現順(0(ゼロ)オリジン)や、この形態素が何番目の形態素に係るかなどの係り受け関係が、「0 1D、、、」などと示されている。
なお、これらの形態素や係り受けの言語解析ツールはp既存のものが利用可能である。また、文章例5は、特許文献特開2018-30495の
からの引用である。ただし、一部手直しをしている。
[文章例5]
この縦位置の誤差が大きいと、自動車が直線路からカーブ路に進入した場合、車両の速度が大きすぎるときでも、もし速度制御が適切であるならば、自動車はうまく曲がり切れ、カーブ路の走行車線内の走行を自動でできる。
2.1.1.2.単位文要素抽出部(212)
単位文要素抽出部(212)では、単文抽出や単位文抽出を行う。単文抽出では、文章例5-1で示すように単文を「 」で囲んでいる。ここで、単文とは、通常の文法では、主語と述語からなる文をいう。単文は、図5の解析例5のデータを参照して特定する。
[文章例5-1]
「この縦位置の誤差が大きい」と、「自動車が直線路からカーブ路に進入した」場合、「車両の速度が大きすぎる」ときでも、もし「速度制御が適切である」ならば、「自動車はうまく曲がり切れ」、「カーブ路の走行車線内の走行を自動でできる」。
単位文は、単文から対象語句、属性語句を抽出し、構成する。これも、図5の解析例5のデータを参照して行う。文章例5-2がそれである。(対象語句などについては、既述。)
[文章例5-2]
<この縦位置の誤差>が{大きい}と、<自動車>が{直線路からカーブ路に進入した}場合、<車両の速度>が{大きすぎる}ときでも、もし<速度制御>が{適切である}ならば、<自動車>は{うまく曲がり切れ}、<カーブ路の走行車線内の走行>を{自動でできる}。
2.1.1.3.接続関係語句抽出部(213)
接続関係語句抽出部(213)では、単位文を結びつける接続関係語句を抽出する。文章例5-2には、「場合」、「ときでも」、「もし、、、ならば」などの、文を接続する語句がある。これらが接続関係語句である。当例の場合は、条件であるので接続関係語句の中でも条件関係語句といえる。接続関係語句の中の連言関係語句である「そして」、「かつ」なども抽出する。下記の文章例5-3がその結果である。
[文章例5-3]
もし<この縦位置の誤差>が{大きい}と、
もし<自動車>が{直線路からカーブ路に進入した}場合、
もし<車両の速度>が{大きすぎる}ときでも、
もし<速度制御>が{適切である}ならば、
そのときには<自動車>は{うまく曲がり切れ}、
かつ <カーブ路の走行車線内の走行>を{自動でできる}。
文章例5-3は、文ごとに1行を使い、条件関係語句のたびに1桁ずつ右にずらしている。この桁ズレによる表現の結果、残りがまだ半分あるような感じで文が終わっている。
2.1.1.4.単位文関係体構成部(214)
そこで、単位文関係体構成部(214)で、半分を補う。半分を補うために、「もし」の反対の「でないとき」を用い、さらに「もし」と「でないとき」のセットの終りを示すために語句「おわり」を用いる。また、左端に行番号を入れる。その結果が、文章例5-4である。
[文章例5-4]
01 もし<この縦位置の誤差>が{大きい}と、
02 もし<自動車>が{直線路からカーブ路に進入した}場合、
03 もし<車両の速度>が{大きすぎる}ときでも、
04 もし<速度制御>が{適切である}ならば、
05 そのときには<自動車>は{うまく曲がり切れ}、
06 かつ <カーブ路の走行車線内の走行>を{自動でできる}
07 でないとき
08 おわり
09 でないとき
10 おわり
11 でないとき
12 おわり
13 でないとき
14 おわり
文章例5-4は、文の残りの半分を充足した。しかし、それはカタチの上だけで、内容のある文が07行以降にはない。このような状態の文、すなわち、行に内容的有効な文(単位文)は無いが、文の接続関係が満たされている状態の文が、先に述べた単位文関係体である。単位文を接続関係記号で結んでいる。
2.1.2.単位文構造体構成部(220)
そこで、単位文構造体構成部(220)では、単位文関係体に対して、その行間に有効な単位文を挿入する。ただし、これは人為による作業である。この作業の結果を最初に示せば、文章例5-5となる。反対の条件表現「でないとき」の次行にどの場合も、文(単位文)が挿入されている。
[文章例5-5]
01 もし<この縦位置の誤差>が{大きい}と、
02 もし<自動車>が{直線路からカーブ路に進入した}場合、
03 もし<車両の速度>が{大きすぎる}ときでも、
04 もし<速度制御>が{適切である}ならば、
05 そのときには<自動車>は{うまく曲がり切れ}、
06 かつ <カーブ路の走行車線内の走行>を{自動でできる}
07 でないとき
08 そのときには<自動車>は{¬うまく曲がり切れる}、
09 かつ <カーブ路の走行車線内の走行>を{¬自動でできる}
10 おわり
11 でないとき
12 そのときには<自動車>は{うまく曲がり切れ}、
13 かつ <カーブ路の走行車線内の走行>を{自動でできる}
14 おわり
15 でないとき
16 そのときには<直線路の走行車線内の走行>を{自動でできる}
17 おわり
18 でないとき
19 もし<自動車>が{直線路からカーブ路に進入した}場合、
20 もし<車両の速度>が{大きすぎる}ときでも、
21 もし<速度制御>が{適切である}ならば、
22 そのときには<自動車>は{うまく曲がり切れ}、
23 かつ <カーブ路の走行車線内の走行>を{自動でできる}
24 でないとき
25 そのときには<自動車>は{¬うまく曲がり切れ}、
26 かつ <カーブ路の走行車線内の走行>を{¬自動でできる}
27 おわり
28 でないとき
29 そのときには<自動車>は{うまく曲がり切れ}、
30 かつ <カーブ路の走行車線内の走行>を{自動でできる}
31 おわり
32 でないとき
33 そのときには <直線路の走行車線内の走行>を{自動でできる}
34 おわり
35 おわり
2.1.2.1.単位文番地化部(221)
単位文構造体構成部(220)では、単位文番地化部(221)で、上の文章例5-5でみるとおり、単位文に対して、行を採番している。これは、単位文をユニークに特定するためのものである。なお、単位文をユニークに特定できるのであれば、他の方法でもよい。
単位文の行番号と、元の文章の文番号(文の出現順の番号)とを関係づける。後者を「元文(もとぶん)番号」と称し、単位文番号と元文番号を対応付ける。単位文が、元の文章のどこにあるかを特定できるためである。
例えば、コンピューターが元の文章のテキストを読み込んだとすれば、文頭から最初の句点「。」や「.」が現われるまでが、元の文章の、1番目の「元文番号」である。もちろん、文の終りはスペースのときもある。いずれ、文の終点の記号を定め、その文が何番目であるかをカウントできる。また、別途、単文を元の文章から抽出し、その単文の出現順を元文番号とすることもできる。
2.1.2.2.単位文構造体編集部(222)
単位文構造体編集部(222)では、ユーザーによる単位文関係体の修正を行う。先に文章例3-1と3-2で単位文の対象語句への語句の補充、else文への補充と同じようなことを行った。これと同じようなことを単位文構造体編集部(222)で行う。
このようにしてでき上がったものが、文章例5-5の単位文構造体である。単位文構造体は単位文関係体と形式的構造は同じである。違いは、人為による編集を加えた点である。特に、空行に文を補ったか否かの違いが大きい。また、語句の補充に関しては、自動化の方法があろうかと思う。先の「周辺文脈」の方法を応用することで、語句の自動選択ができるかもしれない。この場合、周辺文脈は、本発明が主張する全域文脈と相互補完の役割をなす。ただし、この相補性は、本発明の主張点ではない。
なお、本発明は、文を挿入すべき位置(行)を明示するという効果を持つ。文の挿入を待つ、文章例3-1を借りれば、挿入すべき箇所は空行として示されている。そして、文章例3-2は挿入した結果を示す。ただし、挿入は、文章例3を読んだ人間が、文章の意図に則して作る文でなければならない。つまり、空行という構造形式を、適切な意味の語句を結合させた文(単位文)で埋める。さらに、文章例3-2-1と文章例3-2-2では、意味をさらにあれこれ考え、中には条件を追加し、意味を精緻にしている。
このような意味の精緻化を支援する仕組みは、構造形式と称して、本発明が提供する仕組みである。例えば、「単位文」がそれである。単位文は、文脈を構成する構造形式の1つである。単位文は、対象語句と属性語句の2つの要素を持つ。任意の語句が両者のうちのどちらに属するかで、われわれの考えの働きが異なる。「富士山」という語が、対象語句として「<富士山>{}」とあった場合と、「<>{富士山}」とあった場合とでは、意識の方向が異なる。「<富士山>{}」とあれば、富士山はどうしたかと、富士山の属性に目が向く。初冠雪かもしれないし、噴火の予兆のことかもしれない。他方、「<>{富士山}」とあれば、「<彼>は{富士山}」などと、背の高い対象や、秀でた能力の人や何らかの対象を探すように意識は動く。
これは意味を考える上での仕組みである。さらに、本発明は、単位文を結び付ける構造上の形式に関しても、「接続関係語句」を考案し、この関係を要素として、自然文全体の文や語の関係を、文脈の関係として、結びつける、とする。
これらは、語の意味の精緻化、また文の意味の関係化とでもいうべき仕組みである。仕組みに依存した、自動化の方向が考えられる。仕組みは、文章上の文脈を構造形式として構成する装置、方法、プログラムである。
2.1.2.3.単位文脈抽出部(223)
単位文脈抽出部(223)においては、単位文構造体から単位文脈を抽出することが行われる。単位文構造体の先頭から末尾まで連続的にたどるとき、たどられた単位文らは、個別全域文脈となる。
ここで抽出された個別全域文脈は、単位文構造体と元の文書が等価であるとき、どの個別単位文脈も元の文書の個別全域文脈とみなすことができる。「等価」に関して、補足する。単位文構造体の編集において、else(「でないとき」)文に相当する文が、元の文章にはない場合が多い。例えば、文章例3-1の「<>{}」の行、文章例4-1の「-?」の行に相当する文は、元の文章にはない。このような場合、括弧の欄(<>{})に対象語句と属性語句が埋められ、新たな単位文ができた場合、同じ内容の自然文を元の文章に追加することで、単位文構造体は元の文章と等価になって行く。
等価の例として、文章例3-2があげられる。文章例3-2は、元の文章である文章例3に、単位文を追加したものである。ただし、この例は、本発明者が恣意で作ったものである。原作者の元の文章とは異なる。このような場合は、文章例3-2を元に、自然文を作り、あらたな「元の文章」を作ることとなる。
単位文構造体から、単位文脈を抽出した例が、文章例3-5である。文章例3-5には、文章の先頭から最後までの全領域にわたる、個別全域文脈が示されている。文章例3-5の元となる、文章例3は短い文章である。しかし、同じ考えを、多数の文章からなる文書全体に対しても適用できる。このような全域文脈の抽出を単位文脈抽出部(223)で行う。なお、念のため注記すれば、検査は記号の文に対してではなく、対象語句や属性語句の語句を持つ単位文に対して行う。検査では、最後は、意味を問うからである。
2.2.文書検査部(300)
文書検査部(300)において、文書の検査を行う。検査は、単位文構造体に対して行う。検査は、元の文章は単位文構造体と等値であると想定している。検査は、単位文脈ごとに行う。本発明では、同じ文脈には矛盾があってはならない、という、語や文に関する、いわば「規律」に基づく。この規律に従えば、例えば、同じ文字からなる語句は、同じ文脈であれば、同じ意味に使われていなければならない、となる。そして、同じ文字からなる語句が異なる意味で使われているならば、これらの語句が、同じ文脈の中に存在してはならない、となる。つまり、同語句で異義の「多義語」は異なる文脈ならOKである。
この「文脈」の用法は通常のものと思われる。しかし、「文脈」の意味は広義である。例えば、「この文脈では、、、と考えられ」とか、「別の文脈では、、、と解釈され」などと使われる。この場合の「文脈」は、聴き手に1種の「場面」を想起させる。劇や小説の物語の展開にも似る。劇中の1つの事件が場面では歓喜となり、別の場面では同じ事件が悲劇として語られる。あるいは、罪や罰、また愛憎だったりする。これらの場面はさらに細かな「場面」に分けられ、物語が様々の「襞」をもって展開する。
本発明の「文脈」は一見、これらの文脈の広義性とは異なるようにみえる。しかし、ある場面で主人公が最初はAといい、その後Not-Aといったなら、われわれはその矛盾に、なぜ、とか、おかしいなどと反応したり、他方、主人公の背後にある意図を理解し、納得したりする。
本発明でいう「文脈」は、これらの構造の共通さに着目し、これらに対して同じ「構造形式」を当てはめる。これにより、場面なども文脈となり、そこに流れる意味を、単位文等で、形式化し、その上で意味を検査する。
以上より、本発明では、文書の検査は、文脈に基づくことが特徴であることを示す。その文書検査部(300)は、検査選択部(310)と文脈検査部(320)からなる。検査選択部(310)では、文書の検査の領域と検査課題を選ぶ。文脈検査部(320)では、文書を文脈に基づいて検査する。
2.2.1.検査選択部(310)
検査選択部(310)は、検査領域選択部(311)と検査科目選択部(312)からなる。検査領域選択部(311)では、検査対象となる文書の章や節、あるいは、任意の文脈を検査領域として選ぶ。検査科目選択部(312)では、同じ文字からなる語句が同じ意味に使われているかどうか、または、文の間に矛盾がないかどうか、などを検査する検査科目を選ぶ。
2.2.1.1.検査領域選択部(311)
検査領域選択部(311)では、文書のどの領域を検査するかを選ぶ。図7は、文書の一般的な構成を示す。表題に続いて、まえがき、各章、各節、各項、あとがきの項目がある。項目の後には、文章が続く。図8は実例の目次である。この実例の目次には、章と節しか書かれていないが、本文には項に相当する項目の見出しと文章がある。目次上の有無とは関係なく本文にも、項などの項目がある。項以下の項目も可能である。以上みるように、章、節などの項目には階層性がある、あるいは、目次は項目が階層的に並べられているということができる。なお、項目の見出しの後の数字はページ番号である。
図8の目次は、『コンピューティング-原理とその展開-』(萩谷昌己著、一般財団法人 放送大学教育振興会、2019年)からの引用である。
検査の場合には、目次の項目から検査項目を個別に選ぶことができる。他方、項目を個別に選ぶのではなく、文書全体を選ぶ場合もある。
文書全体を選ぶ場合の領域の考え方を以下に示す。図9では、図7の文章を「Δ」(デルタ)記号で表し、各文章(Δ)に対して、章、節、項の各項に固有の番号を採番することで、各文章がユニークであることを示している。「まえがき」、「あとがき」のΔはそれぞれ、「Δp」、「Δa」として、ユニークであることを示す。
なお、ここでは文章を自然文ではなく、自然文を単位文構造体に変換したものを指すとする。よって、Δは単位文構造体をなしている。また、Δは項目ごとの文章を指す。ここで項目とは、章、節、項など指す。項のみを指すのではない。よって、項目ごとの単位文構造体を、「項目別単位文構造体」
下記の文章例6は、図9の文章の関係を記述している。
[文章例6(文書全体の単位文構造体)]
A. (Δp)∧(Δ1)∧(Δ11)∧Δ111
B. 同上 ∧Δ112
C. 同上 ∧Δ113
D. (Δp)∧(Δ1)∧(Δ12)∧Δ121
E. 同上 ∧Δ122
F. (Δp)∧(Δ1)∧(Δ13)
G. (Δp)∧(Δ2)∧(Δ21)∧Δ211
H. 同上 ∧Δ212
I. 同上 ∧Δ213
J. (Δp)∧(Δ2)∧(Δ22)
K. (Δp)∧(Δ3)∧(Δ31)∧Δ311
L. 同上 ∧Δ312
M. (Δp)∧(Δ3)∧(Δ32)∧Δ321
N. 同上 ∧Δ322
O. 同上 ∧Δ323
P. A∧B∧C∧、、、、、∧N∧O∧Δa
以下、説明する。文章例6のA~Oは、各行の識別記号である。Pは、A~Oの連言である。Pについては、下記の文章例6-1を用いて述べる。
A~Oの各行は、最下位の項目の文章に対して、上位の項目の文章が係る(かかる)ことを示している。最下位の項目とは、図9における、章、節、項の、最後の項目である、項を指している。例えば、最下位の項目である、項の文章には、項の上位である、節の文章が、節の文章には節の上位である、章の文章が係ることを示す。係りは、論理推論における連言を適用できる。そこで、連言関係記号「∧」で表現している。
「まえがき」(Δp)は実際には、下位の文章を拘束するような意味が書かれることは、まれであろう。しかし、「まえがき」が、文書全体の結論である場合もある。文章例6は、そのような場合を想定している。AからPのどの行も「まえがき」以降、上位の項目がすべての下位に係るとしている。
また、「あとがき」が文書全体の結論である場合もないわけではない。この場合には、行記号Pの行が示すように、上位の行記号A~Oの連言と、「あとがき」の文章(Δa)が連言でつながる。文章例6は、以上のような文書全体の係りを表わしている。
文が連言で重複する場合には、1つを除き、同じ文を取り除くことができる。文の場合と同じく、重複する単位文構造体を取り除くことができる。重複する単位文構造体を取り除き、最終の行記号Pは、文章例6-1となる。
[文章例6-1]
P. (Δp)∧(Δ1)∧(Δ11)∧Δ111∧Δ112∧Δ113∧(Δ12)∧Δ121∧Δ122(Δ13)∧(Δ2)∧(Δ21)∧Δ211∧Δ212∧Δ213∧(Δ22)∧(Δ3)∧(Δ31)∧Δ311∧Δ312∧(Δ32)∧Δ321∧Δ322∧Δ323∧Δa
文章例6-1は、文書全体を検査する場合には、文書の全文章を、記述の順番に、すべて検査すればよいことを示している。例えば、章単位に同じことを検査する必要のないことを示す。同じこととは、文章例6でいえば、「同上」と記している文(単位文構造体)である。
他方、任意の章や節、項を検査したい場合には、当該の項目を指定するだけでよい。検査は、指定された項目の連言関係をたどり、実行される。
検査の対象は単位文構造体である。先に触れたが、元の文章と単位文構造体とは1対1ではない。元の文章にはないが、単位文構造体の中には存在する文がある。例えば、先の文章例5-5には、元の文章である文章例5には無い単位文が存在する。
文章例5は1つの句点「。」のみからなる文である。つまり、句点までを1つの文とすると、文章例5は文の数が1つとなる。そこで、元の文章(文章例5)を単文に構成したものと比較する。単文に構成したものは、文章例5-1である。文章例5-1では、単文が6つである。文章例5-4の単位文関係体であれば、単文の数と単位文の数は一致する。しかし、単位文関係体を手直しして得られる単位文構造体は文の数は多くなる。文章例5-5の7行目以降の文は、文章例5-1には存在しない。
検査結果は、元の文章に対して下される。元の文章には存在しない、という言及も含めて、単位文構造体の検査の結果を報告する必要がある。この報告を受けて、今度は元の文章に手を入れて、元の文章を単位文構造体と整合的、すなわち等値にして行くことも考えられる。
検査領域の選択に戻ると、なお、検査はそもそも意味に関するものである。したがって、任意の文書において、各章がお互いに意味的に独立していることを承知しているのであれば、文書の全領域を検査の対象とする必要はない。この場合であると、章ごとに検査を行えばよい。
章、節、項などの項目を各々独立した文脈とする考えもある。上の文章例6は、文書全体として扱う際に、章、節、項などの項目の文脈としての独立性を認めていない。文脈、すなわち、そこに条件関係語句を設定した場合、他の項目とどう関係するのかを明示するために、項目の条件関係語句を整備しなければならない。文章例6の各項目は、単純な連言ではなくなる。ただし、項目どうしの意味の関係を知っているのであれば、経路を作ることができる。しかし項目どうしの意味関係を知らずとも、検査結果で、項目間の矛盾が構造形式として分かるのであれば、項目どうしの意味もお互いに不整合である、ということは分かる。この点からいえば、項目を独立した文脈と見なさない、上の文章例6-1の検査で十分といえる。
2.2.1.2.検査科目選択部(312)
検査科目選択部(312)では、検査の科目を選択する。検査の科目とは、いわば検査のメニューである。検査は意味の検査をすることには間違いない。ただ、検査において「意味」という場合、語句に関する「意味」が正しいか、適切か、などの、問いがある。また、この場合、「意味」が正しいか、適切かという問いよりも、「表現」が正しいか、適切かと問うた方がよいかもしれない。「意味」は多様である。
また文に関する「意味」という場合も、例えば、意味として矛盾を取り上げた場合、形式的な矛盾と経験的な矛盾がある。「形式的な矛盾」は、意味を問うまでもなく、カタチの上で、矛盾することを指す。すなわち、2つの単位文を比較する場合、2つの文の間において、対象語句が同じで、かつ、属性語句Aにおいて、正反の関係、すなわち{A}と{¬A}であるならば、対象語句や属性語句の意味を問うまでもなく、形式的に、つまりカタチの上で、即矛盾する。
他方、経験的矛盾は、属性語句が異なっていて、一見意味の上では両立するが、事実としては両立しないという場合である。大雨が降り、その大雨が川の減水をもたらしたとすれば、納得が行かない。説明が要る。2つの事柄が、日常の経験世界では矛盾する。このような経験上の矛盾を経験矛盾という。
しかし、大雨と減水の関係を、矛盾なく説明することは可能である。山では大雨であったが、下流では河川工事と、例えば、河川の水門の自動制御が奏功し、むしろ減水の感であった、などという説明も可能である。この説明は、状況、あるいは、場面の違いをもってするものである。言語表現の観点からは、異なる文脈による説明といえる。このことは先に、劇中などの様々の場面の話として述べた。そして、文章例1-1(チョムスキー事例)にも似る。
2.2.2.文脈検査部(320)
文脈検査部(320)では、検査は文脈に対して行う。文脈検査部に至る前には、文脈をそろえるための処理がなされている。
検査の対象がなぜ文脈であるかは、本発明の根幹に関わる。本発明の背景では、同じ文字からなる語句でも文脈の異同により、語句の意味が変わり得ること、その場合、限られた範囲の語句らをベクトルとして比較しても限界があり(参照、「周辺文脈」。)、よって、語句や文の意味を検査するためには、検査は文書の全域にわたることが求められる。これが、本発明の主張である。本発明の主張に基づいて、文書の検査のための装置、方法、プログラムの開発を行う。
文脈検査部(320)は、検査実行部(321)と)検査支援データベース(DB)セット(322)を持つ。
2.2.2.1.検査実行部(321)
検査実行部(321)では、選択された検査科目に従って検査を実行する。検査科目の1例が図10の表にある。また、検査の実行にあたり、検査支援データベースセット(322)を参照する。
2.2.2.2.検査支援データベース(DB)セット(322)
検査支援データベース(DB)セット(322)は、語句や文に関するDBである。DBは、実際の検査をサポートする役割を持つ。DBの詳細に関しては、次項の「文書検査の実施例」にて述べる。
3.文書検査の実施例
文書の作成規則の事例を1つ取り上げ、本発明の考えと比較する。このことをもって、本発明の実施例とする。
3.1.文書作成規則の例
図10の表は、ソフトウェアの開発指示文書を記述する場合の順守事項の例である。ソフトウェアの開発指示文書は、一般に、「要求仕様書」と呼ばれる。特定分野の文書ではあるが、厳密さを要する文書には通じる点も多い。そこで、この順守事項を検査メニュー(科目)と考えて、本発明の提案が、この検査メニューに耐えうるか検証する。また、これを文脈検査部(320)の実現性の検証とする。
表は、第1行目に「文の属性」というカテゴリーを設け、属性は自然文としている。本発明も、自然文を対象としている。ただし、ここで自然言語は日本語である。
表の2行目の「文の関係」では、曖昧さも、「2つの文どうしにおいて」の場合と、「1つの文において」の場合があることを示している。3行目には、「語句か文」のカテゴリーである。上の2行目の「2つの文どうしにおいて(の曖昧さ)」が、「語句による」ものか、「文による」ものかを分類している。また、上の2行目が「1つの文において(の曖昧さ)」は、「語句による」ものであることを示している。
これら曖昧さの全体を分類すると以下となる。課題を課題記号「Q」を設け、Qの番号と課題名で示す。
[曖昧さの分類]
(1)2つの文どうしにおいて(の曖昧さ)
(1.1)語句による(曖昧さ)
Q1:「一語一意」
Q2:「形式矛盾」
Q3:「経験矛盾」
(1.2)文による(曖昧さ)
Q4:「条件網羅性」
(1.2.1)文の前件・後件の関係(による曖昧さ)
Q5:「前件矛盾」
Q6:「後件矛盾」
Q7:「両件注意」
Q8:「事象順注意」
(2)1つの文において(の曖昧さ)
(2.1)語句による(曖昧さ)
Q9:「領域固有語」
Q10:「範囲境界語」
3.1.1.2つの文どうしにおいての曖昧さ
2つの文どうしにおいて起こる曖昧さは、語句による場合と、文による場合がある。
3.1.1.1.語句による曖昧さ
曖昧さが2つの文どうしにおいて起こる際、語句が起因する場合がある。
Q1:「一語一意」
課題番号Q1の課題名「一語一意」は、図10の表に書かれている曖昧さの「原因」が、「同語異義」、または、「異語同義」によるというものである。これは、2つの文において、同じ語句がそれぞれの文で異なる意味に使われること、または、異なる語句が2つの文で同じ意味に使われることを指す。それらの結果、2つの文の表現を曖昧にするというものである。そして、表による「解決」策では、同じ文書の中では、同じ語句は同じ意味に使え、という順守策を取れ、ということになっている。つまり、同語異義や異語同義が、2つの文において使われているならば、紛らわしく、意味を誤解する、というものである。
しかし、2つの文どうしを単に比較するのでは、語句が文脈に応じて意味を変えるという事実に対応するものではない。よって、表のQ1においては、文脈に応じて文を比較するという、本発明の提案を受け入れる必要がある。
なお、文脈が変化しても変わってはならない語句がある。専門用語などの領域固有の語句が、たとえ文脈が異なるからといって、異なる意味で用いられるというのは、混乱の原因となる。領域固有語に関する順守すべき事項は、表のQ9でなされている。
このQ1での指摘は、一般的な語句に関するものである。一般的な語句も、文脈が異なっても常に同じ表現でなければならないというのは、書き手には窮屈である。本発明の提案は、このような書き手の事実にも柔軟に対応するものである。Q1の解決策にまさる。
Q2:「形式矛盾」
「形式矛盾」は、2つの文において起こる。しかし、これも同じ文脈上で起こることである。表のQ2の解決策も単に2つの文どうしではなく、2つの文どうしが同じ文脈にあって、とあらためなくてはならない。本発明の方が明確である。
Q3:「経験矛盾」
「経験矛盾」は、両事態が経験的事実として成り立たないことを示す。そして、その原因が、同じ対象が複数の属性を持つことにある、としている。先の文章例3の太陽の例がそれにあたる。そこでは、<太陽>は{朝に顔を出した}り、{夜を徹して踊り歌った}りした。
図10の表の解決策は、視点によって属性が異なることを確認せよ、とある。これは、視点を変えることによって、属性が{朝に顔を出した}り、{夜を徹して踊り歌った}りする、ことの矛盾が解消することを指すようである。「視点が変われば」は、われわれが曖昧さを指摘し、意味を整合化する場合の、いわば常套句である。しかし、ここでも、解決策は、単に視点を変えよ、というのではなく、2つの文の所属する文脈を別にするか、あるいは、属性語句を変えるかせよ、と指摘することである。なぜなら、同じ文脈上に、実際上相容れない属性を指す語句が存在したならば矛盾するからである。
3.1.1.2.文による曖昧さ
2つの文どうしで起こる曖昧さが、語句ではなく文に原因がある場合がある。
Q4:「条件網羅性」
「条件網羅性」は、条件を書く場合、条件漏れの発生を危惧するものである。そこで、図10の表では、解決策として、条件の漏れがないように、逆の条件を問え、ということになっている。
ただ、条件性に気づきやすい表現とそうでない表現がある。例えば、データが100件を超えたなら、そのデータを1つの束にしてまとめよ、という指示内容と、データを100件ごとに束にしてまとめよ、という指示内容であったなら、前者は表現が「、、たなら」とあり、条件性に気づきやすい。よって、反条件も書きやすい。他方、後者は、語句の文字に条件が直に書かれているわけではないので、内容を推し量り、そこから条件性を抽出しなければならない。
このような表現法の違いは、「業務文化」とでもいうべきものに依存しそうである。「、、たなら」や「ならば」などの条件的表現を明示的に記述せよ、という規範があるとすれば、それは、図10のような表を必要とするソフトウェアの開発の業務のような場合であろう。ソフトウェアの開発では、様々の条件が入り組むので、条件性を明確に記述せよ、という規範があるかもしれない。他方、このような業務の文書でない場合には、「データを100件ごとに束にしてまとめよ」という表現の方が簡潔で、事務業務の部門などでは高い評価を得よう。
以上は、条件の網羅性の懸念を、反条件を出しやすい表現か否かの議論に進ませた。本来の指摘に戻ると、指摘は、記述した条件のみではなく、反条件も吟味せよ、である。反条件を自動的に発生させる機能が、コンピューターなどであるとよい。本発明では、すでにみたように反条件的記号を活用し、まずは反対の条件を構造形式として生成する。反対条件は必要か否かの、実際の意味を問うのは、その構造形式に沿いながら、である。先の文章例3-1と文章例3-2では構造形式に沿い、意味の検討を行っている。
なお、最初の議論に戻ると、任意の表現が反対条件を出しやすいか否かという疑問は、その表現に条件性があるかという問いである。条件性に気づきにくい、先の「データを100件ごとに束にしてまとめよ」という表現は、「ごとに、、まとめ、、」のあたりに条件性が潜む。
先に強調的表現に条件への変更や再考を迫る場合があることを述べた。今回の表現は、条件が隠れているというものである。この議論に関連する事項に触れる。検査支援データベースセット(322)である。この検査支援データベースセット(DB)については、のちにも触れるが、このDBのなかに「D1:接続関係語句候補表現DB」がある。このD1は条件に関わる強調的表現や、今回の条件性の隠れた表現、またその他を、接続関係語句候補表現として参照し、条件など文脈の構成に構造形式化をもたらす支援として活用するものである。
3.1.1.2.1.文の前件・後件の関係による曖昧さ
2つの文どうしで起こる曖昧さが、文の中でも、文の前件や後件の関係に起因する場合がある。
Q5:「前件矛盾」
「前件矛盾」は、図10の表の「原因」の項によれば、条件文の前件に矛盾がある場合を指す。そして、「解決策」では、前件の矛盾は、前件が形式矛盾か、経験矛盾か、を正すとある。
論理推論に関する意味規則では、前件が偽である文全体は、後件の真偽に関わらず、真であるとしている。しかし、表では、前件の矛盾を正すとあるので、文書の中に前件矛盾があることは認めないということになる。本発明の考えも同じである。
含意の前件は常に真であるとすることから、前件Aと後件Bの含意「A⇒B」は、「A∧B」と等価である。これを「含意と連言の条件付き等価」方式と呼ぶ。略して「CEIC」方式とも呼ぶこととする。CEICは、「Conditional Equivalence of Implication and Conjunction」の略である。
このCEIC方式は、2つの含意が連言で結ばれている場合など、文の経路をたどる際に簡明さを提供する。例えば、「(A⇒C)∧(A1⇒C1)」は、「A∧C∧A1∧C1」と等価である。当然ながら、CEIC方式を前提にした場合である。あるいは、これは複雑なものをふるいにかける簡潔化「装置」とも譬えることができる。「(A⇒C)∧(A1⇒C1)」の論理式を解くと、前件、後件の組み合わせが複雑になる。しかし、通常、人が文を書く場合は、前件も後件も真という前提で書くのが当然であるから、文の経路は、あるいは筋道は、譬えれば、「まっすぐに」、また「単純に」進むはずである。前件を真とみなすCEIC方式は、文書を書く際の前提に合っている。この方式を採用するゆえんである。
自然文において条件が重なっている場合、すなわち、自然文において含意文が入り組んでいる場合は、自然文の中から矛盾を探すことがやや困難である。単位文構造体であるならば容易である。条件の重なる文章例5は、自然文である。文章例5-4は単位文関係体である。ここでは条件の連なりが明らかになっている。そして、文章例5-5は単位文構造体で、文を行単位に編集できる。前件の矛盾はここで正すことができる。
文章例5-5を用いて、前件が形式矛盾となる形式を例示する。文章例5-5の03行目に02行目の文の否定が挿入された場合、前件全体が矛盾となる。これを文章例5-6とする。挿入行を02αとする。「¬」は属性語句の否定となるので、02行と02α行は形式矛盾となる。これが、端的な形式矛盾のカタチである。形式矛盾を含む01行目から04行目までの前件全体も形式矛盾となる。
[文章例5-6]
01 もし<この縦位置の誤差>が{大きい}と、
02 もし<自動車>が{直線路からカーブ路に進入した}場合、
02α もし<自動車>が{¬直線路からカーブ路に進入した}場合、
03 もし<車両の速度>が{大きすぎる}ときでも、
04 もし<速度制御>が{適切である}ならば、
05 そのときには<自動車>は{うまく曲がり切れ}、
この02α行が、自然文からなる文章例5にもあったとする。それが文章例5-7である。
[文章例5-7]
この縦位置の誤差が大きいと、自動車が直線路からカーブ路に進入した場合、また、もし自動車が直線路からカーブ路に進入しなかった場合、車両の速度が大きすぎるならば、自動車が曲がり切れなくなり、カーブ路の走行車線内の走行を自動でできなくなる。
文章例5-7では、「また、もし」という表現が、次の表現の前触れとして用いられ、「自動車が直線路からカーブ路に進入しなかった場合」が、前の行(文章例5-6の02行)と矛盾するにも関わらず、いわば、さりげなく(?)潜り込んでいる。この文章例5-7を単位文構造体にすることで、文章例5-6のようになり、矛盾が明白となる。よって、単位文構造体を作る方法は、前件の形式矛盾の防止に有効である。矛盾防止の解決策になりうる。
前件が経験矛盾の場合には、検査は、形式的な検査のみではなく、意味内容の検査も行わなければならない。02行目の「<自動車>が{直線路からカーブ路に進入した}場合」に対する経験矛盾が何であるかが難しい。仮にそこに(カーブ路に)人が立っていたとしよう。すると、単位文構造体は文章例5-8となる。
[文章例5-8]
01 もし<この縦位置の誤差>が{大きい}と、
02 もし<自動車>が{直線路からカーブ路に進入した}場合、
02β もし<人>が{カーブ路に立っていた}場合、
03 もし<車両の速度>が{大きすぎる}ときでも、
04 もし<速度制御>が{適切である}ならば、
05 そのときには<自動車>は{うまく曲がり切れ}、
ある場所(カーブ路)に自動車が進入し、その場に人がいたとしたなら、たいがいは事故となろう。経験矛盾の意味は多様だが、物理的な意味で成り立たない事象どうしや、あるいは、この事故の場合のようにあってはならないことも指すであろうし、また法に抵触するなどのことも指すであろう。
このような事態は、形式矛盾とは異なる。形式矛盾の場合は、事象は起こるか起こらないかの、いずれか一方のみである。他方、経験世界で起こる経験矛盾は、記述されたいずれの事象も起こる。文章例5-8でいえば、02行目のことも、02β行目のことも起こる。表のQ5の解決策は、単に「正す」としかない。経験矛盾の場合には、02行目と02β行目が、同時に成立する事態を想定し、何等かの対策を講じる必要がある。
対策を講じた結果の記述は、単位文構造体の構造形式を編集するという作業となる。02βが発生する以前の4つの条件群は1つの文脈を作っていた。02β行が挿入されたことで、それでも事故が起こらない方策を講じなければならない。単位文構造体の編集という観点からは、事故とならない、つまり経験矛盾しない方策を考え、02β行の次の行に、経験矛盾を回避できる方策を、文として挿入する必要がある。つまり、矛盾する文脈を整合的になるように編集しなければならない。
しかし、この整合的になる編集を文章例5のような自然文のままで、その中から文脈をたどり、整理するのは難しい。そこで、表のQ5の解決策として、単位文構造体による方法を導入すべきである。加えて、単位文構造体においては、含意はCEIC方式を用いて、簡潔化できる。
Q6:「後件矛盾」
「後件矛盾」は、図10の表の「原因」の項によれば、後件に矛盾がある場合を指す。そして、「解決策」では、後件の矛盾は、後件が形式矛盾か、経験矛盾か、を正すとある。
解決策の要領は、Q5の前件矛盾の場合と同様である。単位文構造体を活用する。まずは、自然文が、文章例5-9としてあったとする。
[文章例5-9]
この縦位置の誤差が大きいと、自動車が直線路からカーブ路に進入した場合、車両の速度が大きすぎるときでも、もし速度制御が適切であるならば、自動車はうまく曲がり切れ、しかし、うまく曲がり切れず、自動車はカーブ路の走行車線内の走行を自動でできる。
単位文構造体を活用すると文章例5-10となる。05行目の次に、05行目と反対の文が、05α行にある。後件の形式矛盾である。
[文章例5-10]
01 もし<この縦位置の誤差>が{大きい}と、
02 もし<自動車>が{直線路からカーブ路に進入した}場合、
03 もし<車両の速度>が{大きすぎる}ときでも、
04 もし<速度制御>が{適切である}ならば、
05 そのときには<自動車>は{うまく曲がり切れ}、
05α しかし、<自動車>は{¬うまく曲がり切れ}、
06 かつ <カーブ路の走行車線内の走行>を{自動でできる}
07 でないとき
08 おわり
09 でないとき
10 おわり
11 でないとき
12 おわり
13 でないとき
14 おわり
この後件の形式矛盾に関しては、明確に形式矛盾となる表現とする必要があるので、先の文章例5-7と異なり、表現も自然さが欠ける。しかし、接続詞に「しかし」ではなく、「ときに」でも使い、「ときに、うまく曲がり切れず」などと、前の文の「自動車はうまく曲がり切れ(る)」と真正面から矛盾する表現をさければ、自然文は案外、矛盾に気づかれないかもしれない。むろん、次に続く、「自動車はカーブ路の走行車線内の走行を自動でできる」も、「おおむね、自動でできる」、とでも表現を変えれば、読み手にはスムーズに映るであろう。
しかし、このような表現こそ、単位文構造体を介して、文脈が明確になる。「ときに」うまく曲がり切れたりそうでなかったりは、細かく言えばどんな条件でか、「おおむね」とは、どんな頻度や条件でか、となる。
そして、このような問いが出てくるのは、「ときに」とか、「おおむね」とかの表現が、そのままでは経験矛盾になってしまう状況を回避している働きをしていることの証拠といえる。すなわち、「ときに」の状況や「おおむね」の中身を細かく条件化することで、矛盾しない文脈がいくつも出てくる。
この場合、文章例5-10の05α行の「しかし」は条件に代わる。そして、この条件は、04行目の反対の行である07行目に相当するということになり、07行目の次には<自動車>は{¬うまく曲がり切れ}が入ることになる。これは単位文構造体の構造形式を編集する作業である。実際、先の文章例5-5の08行目には、そのような文が挿入されている。
経験矛盾は表面的には矛盾に映る場合があっても、しかし、仔細に条件を分析することで、矛盾と見える事態が、実は現実に成立することがあることを、単位文構造体の方法は示した。単位文構造体の構造形式を生成し、また編集する方法は、明確に示す。表のQ6の解決策にも、単位文構造体の方法を導入すべきである。
Q7:「両件注意」
「両件注意」は、図10の表の「原因」の項によれば、2つの文の間で、前件が同じで、後件が異なる場合、また、前件が異なるのに、後件が同じである場合には、注意せよ、というものである。
2つの文の間で、前件が同じで、後件が異なる場合とは、「P⇒Q」と「P⇒R」の場合である。「大雨ならば川が増水する」(P⇒Q)、「大雨ならば在宅勤務である」(P⇒R)は、同じ状況で通常に起こる事象である。つまり、文の構造形式に則していえば、同じ文脈上に成立しうる。ところが、「大雨ならば出勤である」(P⇒S)は、様子が異なる。しかし、大雨と減水の件は、先にみたように文脈の挿入により、すなわち、文脈を別々にすることで解決した。別の文脈を挿入できない場合が、要注意ということになる。
次に、2つの文の間で、前件が異なり、後件が同じ場合とは、「P⇒Q」と「R⇒Q」の場合である。例えば、「日本は大きな面積を持つ国である(P)ならば、農産物は豊富に生産される(Q)」(文A)などという文があり、またその箇所で、「しかし、日本の国土は狭い(R)ので、「いろいろ工夫すると」農産物は豊富に生産される(Q)」(文B)とあったなら、やや注意が必要である。もし、文Bに「いろいろ工夫すると」という表現が無かったなら、同じ文脈で文Aと文Bは、異なる前件(PとR)で同じ後件を述べている。あるいは、前件どうしは単に異なるだけではなく、矛盾する前件で(P(大きな面積)とR(狭い面積)は内容的に矛盾する。)、同じ後件を述べていることになる。
しかし、文Bには、「いろいろ工夫すると」とあり、文Aと文Bが同じ文脈にあることを避け得る可能性がある。Bは、「いろいろ工夫するならば」と、Aとは異なる経路を作ることが可能だからである。よって、文Bは矛盾とはならない。
文脈を別々に立てることで矛盾を回避することは先にも見た。ここでも、文の比較は文脈の異同を念頭に置きながら行うべきことが明らかである。よって、単位文構造体の方法を生かすことができる。
Q8:「事象順注意」
「事象順注意」は、図10の表の「原因」の項によれば、記述が事象の発生順ではない文があるので、記述を事象の発生順に変えると「解決」するとある。
Q8は、例えば、「目的Aを達成するためには、手段Bを取らなければならない」という文でいえば、「手段Bを実行するならば、目的Aが実現する」と、事象の時間順に書くとよいという推奨である。これにより、曖昧さが無くなるというすすめである。
しかし、この推奨は、まず目的があり、次に手段を、と考える人、あるいは、結論ありき、次に手段を、と考えることが通常の方法であるとする人にとっては、なじみにくい表現法である。が、例えば、コンピューターで事象を時系列に自動的に並びなおしてくれるのであれば、受入れは多少可能となろう。
ただし、事象の並べ替えを可能とする接続関係語句は「ために」の1つではない。「目的を達成したいならば、手段はこれこれである」における「ならば」も、この時間順の接続句の対象である。また、時間順の交換が不要な、手段と目的を関係づける「ならば」もある。「この手段を用いるならば、目的が達成される」の「ならば」である。このようなことから、事象順これら接続句の働きの違いを整理する必要がある。整理は人手にも依存する。
表のQ8の考えは有効ではないかと考える。本発明は、その考えを補う。本発明では、事象を時間順とする単位文構造体と想定し、検査を行う。
3.1.1.2.1つの文においての曖昧さ
曖昧さが1つの文のみで起こる場合である。
3.1.1.2.1.語句による曖昧さ
1つの文のみで起こる曖昧さは、語句による。Q9の「領域固有語」とQ10の「範囲語限定」は、いずれも、1つの文において、その語句に起因する曖昧さである。2つ以上の文の関係から生じる課題ではない。以下、Q9の「領域固有語」とQ10の「範囲語限定」をみる。
Q9:「領域固有語」
「領域固有語」は、図10の表の「原因」の項によれば、「原因」は専門領域固有の語句が未定義とあり、「解決」は領域固有語をよく定義せよ、とある。この文書作成規則は、専門外の人たちへの理解の向上を狙ったものと思われる。ときに、理解不足は「曖昧」と評されるからである。
本件は語句の問題であり、文脈とは関わりないように思われる。どの文脈においても専門用語は不変でなければならないはずだからである。
だが、例えば、法律の文書においては、文言は不変だが、解釈が法律制定の当初とは異なるなどは案外散見される。本発明の立場では、背後にある文脈が変わっていること、とその事象を指摘できる。
また、時間の経過ではなく、専門分野の違いで、同じ語句が意味の異なることがよくある。例えば、図8の目次を例に取るとき、14章は、「生物に触発された計算モデル」とある。この章には、脳科学者や数学者や生物学者、医学者、そしてコンピューター科学者が関係しそうである。仮に彼らが相手の知識世界を知らなかったとしたなら、自分の分野の語句が他の分野では異なった意味に聞こえる。「遺伝」をコンピューターで扱うとしたなら、生物学と同じというわけには行かない。用語の定義を行う際には、相互の専門領域を念頭において、理解可能な定義をする必要がある。15章の自然現象に関しても、同じ文字からなる語句が分野別に異なる意味で使われている。
それぞれの専門領域を、それぞれの「文脈」と呼ぶことは可能である。われわれは、専門分野ごとに異なる語句を豊富に持っているわけではない。それゆえ、ある分野の学問の用語が、新たな学問分野に転用される。そして、転用先で元々の語句は、転用先の固有の意味を盛り込んで、転用先になじんで行く。このような語句のなじみ先を、われわれは、ときに「文脈」にたとえる。例えば、「その語句があらたな「文脈」になじんだ」などともいう。「アーキテクチャ」という建築学の語句が、現今のコンピューターの世界で用いられるごとくである。語句の出自をひもとけば、「アーキテクチャ」は建築学が最初の出自かと思いきや、「基礎」が原義で、この語句が建築学に転用されているといわれる。
このような語句の異なる分野への転用を語るうえで、「文脈」という語句は大変便利である。語句にからむ説明的用語であるともいえる。そして、これに限らず、「文脈」という語句は、多様な意味で使われる。
しかし、本発明では、語句の出自に関わる側面や、他の多様な意味に関する議論は、範囲外である。本発明では、「文脈」を文の連言などの形式的側面からとらえることで、「文脈」の中核的部分を明らかにし、意味を明らかにする現実の装置として活用しようとするものである。
Q10:「範囲境界語」
「範囲境界語」に関しては、図10の表の「原因」の項によれば、「原因」は範囲を表現する語句が、境界の記述を明示していないことにあり、その「解決」も範囲を示す境界を明示的に表現せよ、とある。
例えば、範囲を示す語句の境界がどこまでかは、案外問題になる。「以上」、「未満」は書き手も読み手も間違えると常識外とされるが、次はどうか。「何々より以上」と「何々より上」である。前者は「以上」があるので、何々が数値であれば、その数値を含む。しかし、「より上」は案外困る。「34度より上」となると、34度を含むのか否かが怪しくなる。
そこで、例えば、読み手は書き手に問う(問いが可能であれば)。そうでなければ、同文書の他の箇所に同じような表現がないかを探す。同じ書き手なら同じように範囲を示す語句を使っているに違いないと考えるからである。
このような、他者に問うこと、また他にも類例がないかをさがすことは、自ら新たに文脈を設定することと解釈しうる。「もし、、、ならば」と問うことと同じだからである。これは先に、文章例1(チョムスキー例)で意味不明な文を理解しようとするために、個々の語句に合わせて様々な場面を設定したことと類似である。
一般に範囲を示す語句は、ひとによる予断を許さないように、範囲の境界を明示的に示すのが、間違いを防ぐ。その点では、表のQ10の規範は、厳密な理解を要する文書では有効である。
しかし、他方、厳密さを要しない、むしろ厳密さが無粋ともいえる文書では、「以上」、「以下」なども、その働きを変える。とある小説は「おんなは30以上にも以下にも見えた」と表現するが、「おんなは30以上にも未満にも見えた」とは表現しない。
このように範囲を示す語句も、文脈によって異なる働きが求められる。ここでも「広い意味」での文脈がある。書き手は「以上」「以下」という表現を、境界を明示する語句として使っているわけではない。われわれは、無意識のうちに、「広い意味」での文脈を選択し、語句を使い分け、また理解していそうである。しかし、このことは本発明の課題ではない。
3.2.文書作成の順守事項の例に関する評価
以上の議論から、図10の表の順守事項を評価する。当該の表は特定の分野(ソフトウェア開発の指示文書)で順守すべき事項が指摘されている。しかし、Q1~Q10の各事項で言及したように、どの事項でも、文や語句の曖昧さや正確性は、文脈に依存し判断すべきであることが、明らかになった。本発明の文脈ベースの考えが検証されたといえる。当然ながら、文書の検査も、文脈ベースの視点が必要とされる。
3.3.文書検査のサポート用データベース
図10の文書作成の順守事項の評価は、文脈ベースで、という視点が強調された。よって、検査において用いられるデータベースにおいても、文脈ベースを支援する機能が必要である。文脈ベースは本発明の特徴点である。以下、文脈ベースの観点を含め、データベースの機能を説明する。
D1:「接続関係語句候補表現DB」
「接続関係語句候補表現DB」とは、代表的なものは、条件の接続関係を指す表現である。「ならば」は表記上明らかな条件の表現を示すが、それ以外の表現でも条件関係語句になる表現もある。それらは、条件関係語句の候補となる表現である。条件以外にも、連言、否定、選言の接続関係語句を示す表現がある。これらの表現を接続関係の候補として蓄え、自然文の中に類似の表現があった場合には、人手により任意の接続関係語句に相当するか判断する。
例えば、先にみた強調的表現や条件性の隠れた表現などが対象である。このような表現を最初から蓄積することはせず、検査などの過程で見つけ出し、経験的に増やすという方法を取る。機械学習なども組み込むことができる。文書検査における文脈の正確さを徐々に高めて行くことができる。「接続関係語句候補表現DB」とは、そのようなDBを指す。
D2:「語・文組み合せ適合DB」
「語・文組み合せ適合DB」とは、語の組み合わせと文の組み合わせに関するものである。語の組み合わせとは単位文の要素である対象語句と属性語句の組み合わせを指す。文の組み合わせとは、単位文どうしの組み合わせを指す。適合とは、語どうし、または、文どうしの組み合わせが適合的か不適合かを指す。
例えば、先の文章例2-2では、どの対象語句<太陽>もその属性語句と適合している。また、文に関していえば、01行目と02行目の「<太陽>は{朝に顔を出し}」と「<太陽>は{夜には去ってしまいます}」も相反することなく両立している。しかし、02行目と05行目は、先の文章例2-2の最初の掲示箇所でも見たように「<太陽>は{夜には去ってしまいます}」と「<太陽>が{夜を徹して踊り歌います}」では相容れない。先に述べたように、一方は、夜には不在で他方は夜には存在するからである。よって、この2つの文はお互いに不適合ということになる。経験的に矛盾である。ただし、両者の不適合は、異なる文脈にあるにも関わらず、文脈のことを傍らに置いて比較するからである。文章例2-2の03行目に文脈が存在する。同じ領域に属する文(単位文)は、01行目と02行目、また04行目と05行目は、それぞれ矛盾なく存在している。
以上の組み合わせの適不適は、文脈に依存している。それゆえ、適不適が文脈によるのかのデータも、DBの組み合わせデータの中に入れる必要がある。
なお、単位文の属性語句は文法的には終止形で管理する。文字の比較のためである。属性語句の終止形での管理は、他のDBも同様である。
D3:「文矛盾DB」
「文矛盾DB」とは、矛盾する文のDBである。文は単位文である。ただし、対象語句が異なる、事象どうしの矛盾が、本DBの主な文である。先の「大雨が減水をもたらす」を矛盾として登録する場合には、一般化し、対象語句をxと置き「<x>が{大雨}である」と「<x>が{減水をもたらす}」という2つの文が、何らかの関係R(例えば、因果の関係)にあるとき、矛盾であるというようなDBのデータ構成となる。
ここでも文脈が必要となる。何らかの関係Rがあるときとは、条件、すなわち文脈の設定に他ならないからである。
D4:「語のカテゴリーDB」
「語のカテゴリーDB」は、任意の属性語句が、その属性の属するカテゴリー上の特性から、他の属性と相容れないことを収録したDBである。例えば「重く」て「軽い」は成り立たない。しかし、「重く」て「速い」とか「遅い」なら成り立つ。「重い軽い」のカテゴリーは「重さ」であるし、「速い遅い」のカテゴリーは「速さ」である。このように、同じカテゴリーに属する属性語句どうしは、両立しない。
よって、同じ対象語句を持ち、異なる属性語句を持つ、2つの単位文があり、このとき2つの属性語句が、同じカテゴリーに属し、かつ、同じ文脈上に並んでいたら、両単位文は成り立たない可能性がある。この検査を逐一目視で行わなくても済むように、属性語句のカテゴリーを登録しておくとよい。
また、文脈の目視検査を支援できる。同一文脈上の対象語句のみを一覧で表示し、対象語句の属すべきカテゴリーなどを目視検査することで文の正確さを高めることができる。属性語句に関しても同様である。本発明が文を対象語句と属性語句に要素化している効果である。
この「語のカテゴリーDB」を作るためには、一例としては、国立国語研究所の『分類語彙表』を参考にできる。例えば、「軽重」は、「1.体の類、1.1 抽象的関係、1.193 角度・軽重・寒暖など」の分類の中にある。ただし、任意の対象は「軽い」ので「○○度の角度」で上昇したなどの表現もできるので、このカテゴリーをそのまま適用できるというわけではない。しかし、「角度・軽重・寒暖」をさらに細分化することで利用可能である。
D5:「領域固有語DB」
「領域固有語DB」は、専門分野の特別な語を、どの分野の人にも分かるように説明する辞書的なDBである。この語は、文脈によって可変という語ではない。文書全体で不変であることが原則である。検査においては、領域固有語の類似性(語句の文字が少し異なる)の検査も有効である。
なお、任意の専門用語が、専門分野ごとに意味が異なることに関しては先に述べた。任意の専門用語は、医学では、物理学ではという分野別、すなわち、「広い意味」での文脈別にあってよい。実際には、分野別はもっと細かくないと実用性が高くないかもしれない。
D6:「範囲境界語DB」
「範囲語DB」は、「以上」、「より」、「未満」など範囲を表す語句が登録されているDBである。検査では、文書中に存在する範囲語を(コンピューターが)ユーザーに知らせる。ユーザーはその知らせに応じて、文書が範囲を明確に表現しているかを目視チェックする。領域固有語と同じく、文書全体に適用される語である。
なお、範囲語に関しては、先に範囲の境界の有無、範囲語でありながら境界を問わない広い意味での文脈のあることを述べた。このように理解したうえで、任意の範囲語が、この場合には文書全体に適用されると認識することが重要である。
実用性の観点から範囲語のDBとしての扱いに関して述べる。範囲語は300個ぐらいのようである。日本語の場合である。そこで、DBに事前に登録しておくことは容易である。
その際に、範囲語に応じて、関連語句を登録することで、文脈に関する是非の判断に寄与する。例えば、範囲語が「以上」、「未満」の場合、長さや面積などのカテゴリー(先述)に応じて、「メートル」や「平方キロメートル」などと具体的な語句を記す。すると、文の検査時に同じ文脈上に、範囲語とその具体的な語句があったならば、当該の文脈上に現れる、例えば、対象語句のみを一覧表示する。これにより、長さや面積に関する文脈であるはずなのに、重さに関係する対象語句がある、などの検査ができる。目視検査の時間を節約する。このことは、先にのべた「語のカテゴリーDB」の項と関係する。
なお、このような作業から得る語句のデータ群を学習させ、当DBに反映させることなどは十分にありうる。そして、DB群にも文脈という構造形式を生かしていることが、本発明の特徴点である。また、語句の経験データをAIにより学習させるなどは、本発明を用いる実施例を新たに作る場合、可能である。ただし、このようなAIに関する事項は、本発明の範囲外である。
4.「文脈ベース文書検索装置」の例
本発明においては、被検索文書が、既述の単位文構造体となっていることを前提に、被検索文書に対して、文による検索を行うこととする。すでにみたように、単位文構造体は、単位文の連言からなる文脈の集合となっている。したがって、被検索文書は、連言での検索が可能な構造となっている。以下では、文書検索のシステムを述べる。
図4のシステムは、被検索文書は、単位文構造体文書(432)であることを示す。システムの全体を、「文脈ベース文書検索装置」と命名する。「文脈」を基本とすることが特長である。検索のための入力データは文章である(410)。検索準備部(420)の単位文構成部(421)にて、入力文章を単位文の連言に構成する。含意の文や選言の文も、連言に再構成する。検索に不適切な文章の場合には、再入力を促す。検索科目選択部(422)では、検索の対象や、検索領域などを選ぶ。検索の対象は、単位文構造体文書(432)に複数の文書があった場合には、複数の文書を選び、また検索の順番も指定できるなどする。また検索領域は、章、節、項などを自由に選べるようにする。文書検索部(430)では、検索実行部(431)にて、単位文構造体文書(432)に対して、検索科目選択部(422)にて指定された検索メニューに従い、検索を実行し、かつ、検索科目選択部(422)にて指定された検索メニューに従い、検索結果を出力する。
なお、検索がフィットしたという場合、フィットした文脈上には、連言を構成する単位文が、離れて存在していてもよい。また、単位文の順序も、検索した単位文の順序と文脈側の順序とは異なっていてもよい。ただし、単位文が離れて存在した場合、また単位文の順序が異なる場合には、人手による意味の確認が要る。

Claims (4)

  1. 自然言語からなる文章を入力データとして、
    前記入力データに対して、形態素解析を行い、解析された形態素から、形態素の係り受け解析を含む、言語解析機能と、
    前記言語解析機能を用いて、
    前記文章から、単文に相当する表現である単位文を抽出し、
    さらに、前記単位文の中から、単位文の要素である、
    ものごとの対象を指す表現である対象語句、および、
    前記対象語句の指す対象の属性を表現する属性語句と、を抽出する、単位文と単位文要素抽出機能と、
    および、前記単文どうしを接続する表現である接続関係語句を抽出する、接続関係語句抽出機能と、
    さらに、前記単位文どうしを前記接続関係語句の指す論理結合属性により関係づけを行う、単位文関係体構成機能と、において、
    前記言語解析機能、および、前記単位文と要素抽出機能、および、前記接続関係語句抽出機能、および、前記単位文関係体構成機能と、を含む、単位文構成手段と、
    前記単位文を、1行ごとに1単位文として配置し、かつ、配置の際に、前記単位文と後続の単位文とを関係づけるために、前記接続関係語句の持つ論理結合属性を含む情報を、前記単位文または前記後続の単位文に持たせ、配置された前記単位文の複数を単位文構造体と呼び、
    また、前記入力データの文章を、元の文章と呼び、
    そして、前記元の文章の前記単文と、前記単位文構造体の前記単位文とを、前記単文の出現順と、前記単位文の配置された行の順とを、1対1の対応関係を持たせる、単位文番地化機能と、
    また、前記単位文構造体に対して、ユーザーが前記単位文や前記接続関係語句の修正や追加を行い、また、前記元の文章に対しても、ユーザーが修正や追加を行うことを含む、単位文構造体編集機能と、
    単位文の配置された、前記単位文構造体の先頭行から最終行にわたって各行の単位文を上の行から下の行へとたどり、同じ経路の単位文の論理結合をつくり、これを単位文脈と呼び、
    さらに、前記単位文脈の経路をつくる方法は、
    (1.1)単位文の論理結合属性が含意の場合において、
    (注:本請求項の各文に階層的条項番号を挿入することで、各文の概念の階層関係を示すこととする。)
    (1.1.1)P、Qを単位文とし、PとQが含意文「PならばQ」と含意の結合関係をもって配置されていたとき、
    (1.1.1.1)該「PならばQ」以降に配置された行に、当該含意の前件Pの否定¬Pが配置されているとき(¬は否定記号で「Pでない」、を意味する。)、
    (1.1.1.1.1)かつ、該¬Pが含意の前件をなすならば、
    (1.1.1.1.1α)該¬Pを含意の前件となしている含意を、前件Pを持つ該「PならばQ」の「反対の含意」と呼び、
    (注:「α」などのギリシャ文字の付く文は、補足的事項の記述を示し、同じ条項番号の文どうしは概念の階層が同じであることを示す。)
    (1.1.1.1.1.1)該「反対の含意」が現れた行の該¬Pを分岐点として、分岐前の単位文脈とは異なる経路の単位文脈をつくり、
    (1.2)他方、単位文の接続関係属性が含意以外の場合には、
    (1.2.1)該単位文は前の行の単位文と連言で結ばれ、単位文脈をなし、
    (1.2.2)ただし、単位文の接続関係属性が選言のときには、
    (1.2.2.1)該単位文は前の行の単位文と、論理式による連言で結ばれ、単位文をなし、
    (1.3)以上の含意による分岐の結合と、連言による結合を繰り返し、前記単位文構造体の最終行まで行い、1つの、同じ経路の単位文脈をつくり、
    (1.3.1)前記同じ経路の単位文脈は、前記単位文構造体の先頭行から最終行まであるので、これは1つの全域文脈が抽出されたといえ、
    (1.3.1α)「1つの」ゆえ、個別全域文脈と呼び、
    (1.3.2)次に、もう一度先頭行にもどり、たどり残した前記分岐点における単位文を先頭に持つ単位文脈、または、たどり残した連言による単位文脈を、深さ優先探索で、たどり直し、また1つの、同じ経路からなる個別全域文脈を抽出し、
    (1.3.2.1)この繰り返しをたどり残しが無くなるまで行う、
    以上(1.1)~(1.3.2.1)の、前記単位文構造体の全域にわたる、単位文脈抽出処理と、
    および、文書内に存在する含意の前件である単位文の真理値を真と見做し、すると含意と連言の真理値は等価となるので、全域文脈を抽出する際に、含意を連言に置換し、単位文脈を連言のみで結合する、含意の連言化処理と、において、
    前記単位文脈抽出処理、および、前記含意の連言化処理と、を含む、単位文脈全域抽出機能と、において、
    前記単位文番地化機能、および、前記単位文構造体編集機能、および、前記単位文脈全域抽出機能と、を含む、単位文構造体構成手段と、において、
    前記単位文構成手段、および、前記単位文構造体構成手段と、を含む、文脈に基礎を置く、いわば「文脈ベース」の、文関連装置。
  2. 前記全域文脈のすべての個別全域文脈に対して、単位文の連言からなる前記個別全域文脈を、前記個別全域文脈ごとに、前記単位文どうしの比較、関連して単位文の要素である前記対象語句、および、前記属性語句を比較することで、検査し、
    (2.1)もし、前記単位文の連言の中に、対象語句Oが属性語句Aを持つ単位文と、同じ対象語句Oが属性語句¬A(¬は否定記号で属性語句にも適用し、「Aでない」を意味する。)を持つ単位文が存在することを検知したなら、対象語句Oと属性語句Aを単位文P、また対象語句Oと属性語句¬Aを単位文¬Pと置き、検査した連言の列「、、、P、、、¬P、、、」の中に相互に背反する単位文Pと¬Pが連言として存在すると検知し、Pと¬Pとが矛盾する、と自動的に判断する、同一文脈矛盾判断処理と、
    (2.2)また、他方、一見矛盾する単位文Pと、単位文¬Pが、異なる個別全域文脈に属しているのであれば、Pと¬Pの存在する単位文脈は異なると検知し、Pと¬Pは矛盾してはいない、と自動的に判断する、異文脈無矛盾判断処理と、
    (2.3)また、同じ個別全域文脈上で、同じ対象語句Oを持つ単位文どうしが、それぞれ異なる属性語句AとBを持っている場合に、
    (2.3.1)もし、AとBの属する語のカテゴリーが同じであるならば、AとBは両立できない属性語句の場合があることから、
    (2.3.1α)もし、AとBが、同一の語のカテゴリーに属し、かつ相互に両立しえない属性であることが、ユーザーが収集した情報として、事前にデータベースに登録されていたならば、
    (2.3.1.1)前記データベースを参照し、AとBは両立しえない属性語句であると自動的に判断する、同一文脈語のカテゴリー矛盾判断処理と、において、
    前記同一文脈矛盾判断処理、および、前記異文脈無矛盾判断処理、および、前記同一文脈語のカテゴリー矛盾判断処理と、を含む、文脈依存個別全域文脈検査機能と、
    また、前記同一文脈矛盾判断処理は、前記単位文と前記元の文章の前記単文とは、その存在場所が、前記単位文番地化機能により、1対1で対応することから、前記単位文の判断箇所と、前記元の文章の前記単文との対応箇所を特定できる、矛盾発生箇所特定機能と、において
    前記文脈依存個別全域文脈検査機能、および、前記矛盾発生箇所特定機能と、を含む、
    以上の本請求項2に記載の事項を含む、請求項1に記載の該装置。
  3. 新規文書の作成において、文脈の明確さを念頭に該文書を記述することを用途として含み、
    前記元の文章とは無関係に、
    前記単位文構造体編集機能の処理として、単位文構造体に対して単位文を新規に追加する、単位文新規追加処理を含み、
    あらたに単独の単位文構造体をつくる、単位文構造体単独作成手段を含む、
    以上の本請求項3に記載の事項を含む、請求項1または請求項2に記載の該装置。
  4. 任意の文書の内容が任意の主張に適合しているかの検査を用途として含み、
    主張などの長い文章を、単位文に構成する前記単位文構成手段と、
    さらに、前記単位文関係体構成機能により構成された単位文の含意を連言に換える、前記含意の連言化を含む、前記長い文章を検索用入力データとしてつくる、検索用入力データ作成手段と、
    前記任意の文書を前記全域文脈につくる、前記単位文構成手段、および、前記単位文構造体構成手段と、
    前記全域文脈のすべての個別全域文脈に対して、
    前記検索用入力データにより、検索を実行し、
    前記個別全域文脈の中に、前記検索用入力データと等価の単位文の連言があるか否かを検索する、全域文脈検索手段と、を含む、
    以上の本請求項4に記載の事項を含む、請求項1または請求項2または請求項3に記載の該装置。
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